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世間を席巻するグルテンフリー
分子栄養学実践講座をやっていて、食事の質問を非常に多く頂きます。
特に最近多いのは、「グルテン」についてです。
食物アレルギー検査で、グルテンは反応が出なかったし、セリアック病の検査をしたけど、異常なかったそれでも、グルテン・フリーにした方がよいですか?
このような、感じです。
女性誌などでも最近特集されていることが多い「グルテン・フリー」は、小麦に含まれるタンパク成分のグルテンを抜く食事療法のことです。
欧米ではグルテン・フリーが大ブームです。
ドミノ・ピザのメニューにもグルテン・フリーメニューが登場しているし、フィンランドのマクドナルドのバンズにも採用されています。
美と健康にこだわるセレブもグルテンフリーに夢中です。
グルテン・フリーが流行っている理由のひとつは、ダイエットに効果的だからのようです。
「普通に食べていてもグルテンを止めるだけでやせていく!」という内容の記事を多く目にします。
多くの雑誌では、グルテンの問題点として
・腸内で消化不良、炎症を起こす可能性があること、
・麻薬のような中毒性があり、食欲がさらに刺激されること
が挙げられています。
だから、グルテンフリーで無理なく痩せられ、みんな快調!!
素晴らしい話ですが、なんかおかしいです。ちょっと前までは健康にいいとか言って、みんなが喜んでパスタを食べてたような?
パンもパスタもビールも大好きな私としては、なんか納得がいかないのです。
もちろん、グルテン・アレルギーというのもありますが、それだけでは説明しきれません。
そこで、今回は、このグルテンについて、分子栄養学的に考えてみます。
はたして、グルテンを食べてもいいのか、悪いのか?典型的なグルテン不耐症であるセリアック病を通して考察しました。
1.セリアック病、3つの因子
セリアック病は小麦に含まれるグルテンに対する免疫反応が引き金になって起こる自己免疫疾患です。
この患者さんがグルテンを食べ続けると、腸のじゅう毛組織に炎症が生じて、破壊されます。症状としては、激しい腹痛、下痢をおこし、体が痩せ細っていきます。
セリアック病の歴史は大きく3ステップに分けられます。
それぞれのステップがこの病を引き起こす要因を構成しています。
それぞれをご紹介します。
①セリアックの原因がパンと特定された
この病気の原因発見のきっかけは戦争でした。
第二次大戦中にオランダが穀物不足に陥ったときにセリアック病の子供の死亡率が劇的に下がりました。
それでパンがセリアック病の原因と特定されたのです。
その後、小麦に含まれるタンパク質のグルテンに焦点が絞られるようになりました。
②抗体、遺伝子が発見された
セリアック病の患者さんには、抗トランスグルタミナーゼ抗体ができやすく、HLAの遺伝子異常があることがわかりました。
この2つがあると、免疫異常をおこして自分を攻撃するリンパ球を作りやすくなります。
抗体と遺伝子の発見により、セリアック病は血液検査で診断できるようになりました。それを使った大規模な検査が行われた結果、セリアック病の有病率は世界的に130人に1人ということがわかったのです。
また、全員が激しい下痢をするのではなく、腸の吸収不良が起きて貧血や骨粗鬆症のような症状が出ている人が多いことがわかりました。
え?そんなに少ないんだと思った方もいらっしゃるでしょう。
しかし実際、私の周囲では、グルテン・フリーにした人の3人に1人は調子がよくなっています。
これはどういうことなのでしょうか。
おそらく、セリアック病の3番目の原因が関係しているのではないかと考えられます。
③タイトジャンクションを開くタンパクが発見された
腸の粘膜上皮の細胞と細胞の間はタイトジャンクションという強固なたんぱく質が隙間を埋めており、これが不必要な有害菌、抗原となるタンパク質などが体内に入るのを防いでいます。
しかし、メリーランド大学のファサーノ教授らが、このタイトジャンクションを開いて、腸粘膜細胞の間を物がすり抜けられるようにしてしまうタンパク質を発見しました。
これを「ゾヌリン」といいます。

セリアック病では遺伝的にグルテンが「ゾヌリン」タンパクの分泌を促すことがわかっています。
現在、セリアック病は、①食事 ②炎症を起こしやすい遺伝子 ③腸の粘膜透過性の3つがそろって初めて発症するとされています。
2.他の自己免疫疾患も同様の機序がある
セリアック病は、グルテンによって自己の免疫が活性化され、腸の粘膜を破壊してしまう病気です。
このような自己の免疫が自分を攻撃する病気を自己免疫疾患といいます。
セリアック病の研究が進むにつれ、ほかの自己免疫疾患にも重大な発見がありました。
それは、「1型糖尿病」も「多発性硬化症」も「関節リウマチ」も「クローン病」も腸管粘膜透過性亢進が見られるという共通点があったのです。
つまり、セリアック病同様、「ゾヌリン」たんぱくの濃度が上昇していたのです。
さらに、一部の疾患(1型糖尿病、橋本病患者など)に対してグルテンフリーダイエット治療に対する反応性がよいことも報告されています。Curr Allergy Asthma Rep (2013) 13:347–353
つまり、これらを総合してみると、
「グルテン ⇒ ゾヌリン ⇒ 腸のバリア破壊」は、セリアックに限らない多くの自己免疫疾患に共通したメカニズムである可能性があります。
3.グルテンの重要性
セリアック病のは病態の発生に関して、グルテンが「タイト・ジャンクションを開く」「免疫を活性化する」という2つの異なる役割を果たしています。
1で出てきた、1食事 2炎症を起こしやすい遺伝子 3腸の粘膜透過性のうち、1と3にかかわっています。
だから、セリアック病かどうかにかかわらず、自己免疫の要素がある人は、グルテンを止めることで大きな効果を得ることができるのです。
やはり、グルテン・フリーは王道なのでしょうか。
4.セリアック病の疑問
ここで、一つ疑問があります。
食物と遺伝的要因、体質が原因だとしたら、なぜ、子供の時からパンを食べていても発病せず、大人になってからセリアック病を発病する人がいるのか?
どうやら、腸内細菌が発病を抑えているのではないかというのが、前出のファサーノ教授の考えです。
腸内細菌バランスが、遺伝子の活性化のタイミングに影響を及ぼしている可能性があります。
腸内環境が変わることによって免疫関連遺伝子が活性化し、ある時期からグルテンに過敏反応を示すようになるのかもしれません。
5.腸内細菌の重要性
腸内細菌は遺伝子を左右し、腸のタイト・ジャンクションを保護します。
腸内細菌は、3つの要因(1食事 2炎症を起こしやすい遺伝子 3腸の粘膜透過性)のうち、1と3にかかわっています。
3つの要因のどれか一つでもなくなれば発症を抑制できるなら、グルテンをなくすか、腸内細菌を変えるかの2つの選択肢がありそうです。
グルテンを完全に除去できる人は問題ないですが、私の周囲の人を見ているとそうでもないような気がします。
個人的には、腸内環境検査を行い、その状況に応じてケアを行うことで、食べられるものの自由度を上げたいところです。
さらに言えば、これは、自己免疫疾患を診断された人だけにはとどまりません。
ストレスや、環境ホルモン、重金属や農薬をはじめとする化学物質で、免疫がかく乱され、免疫過剰反応状態にある人が非常に増えています。
これが、多くの人がグルテン・フリーにすると調子が良い原因だと思われます。
これらに対処するには、単に食物を制限するだけでなく、免疫過剰状態、腸内環境の悪化の根本原因をさぐり、それに対してのアプローチがかかせません。