遺伝子検査はあなただけの健康の設計図
今回は、遺伝子検査についてのお話です。
ご自身で遺伝子検査をされたことはありますか?ほとんどの方がまだ検査を受けていないと思います。
遺伝子検査は、一度受けると基本的に一生変わらないため、受けた方がお得です。特に、このブログを読んでいらっしゃる皆さんにはぜひ受けていただきたいと思います。得られる情報が非常に多いです。ただし、もちろん遺伝子だけで全てが決まるわけではなく、環境要因にも左右されます。
例えば、Googleが提供している『23&Me』※という遺伝子検査サービスは、199ドルで利用可能です。一度受けると遺伝子プロファイルやメチレーションプロファイル、デトックスプロファイルなどが確認できます。また、祖先の情報も知ることができ、どの世代の祖先がどの地域に住んでいたかがわかります。アルツハイマーのリスクやお酒に強いのか、弱いかも判別でき、様々な情報が取得可能です。
※23&Meは現在日本からの購入ができません
まだ受けていない方は、今日のお話を参考にしてぜひ検討してみてください。
栄養療法において、デトックスプロファイルやメチレーションプロファイルの情報は特に重要です。遺伝子はデトックスやメチレーションに大きく関わるため、両方のプロファイルを確認することが多いです。デトックスプロファイルは比較的簡単で、この酵素の遺伝子が変異しているとアルコールに弱い、またはタバコに弱い、特定の薬が代謝しにくい、などがわかります。
一方、メチレーションの方がより複雑です。今回は、このメチレーションに関連する遺伝子検査の読み解き方を通じて、どのようにメチレーション回路を活用するかについて皆さんと一緒に考えていきたいと思います。
メチレーションとは
メチレーションとは、何度もお話に出てきましたが、メチル基が様々な物質に結合したり、離れたりする反応のことです。
メチレーションは、物質にメチル基を付加する反応のことで、これにより物質の構造が変化し、活性化または不活性化します。メチル基を提供する物質を『メチル基供与体』または『メチルドナー』と呼び、メチル基を受け取る物質を『メチル基受容体』または『メチルレセプター』といいます。代表的なメチルドナーにはSAME(S-アデノシルメチオニン)やナイアシンが挙げられます。SAMEは、メチオニンの構造中にメチル基が含まれているため、そのメチル基を他の物質に提供できます。人間の体内では、ATPに次いで多く働いているのがSAMEであり、メチレーションの主要な役割を担っています。
統合失調症の治療では、メチレーションが過剰になっている場合にナイアシンがよく使用されます。では、なぜメチレーション回路を回す必要があるのか、メチレーション回路が回ると何が起きるのかについて説明します。
メチレーション回路の必要性
グルタチオンが体内で生成されるのは、メチレーション回路の働きによるものです。グルタチオンやセレンは、体内で重要な抗酸化および解毒作用を果たしており、これらの物質の合成はメチレーション回路内の硫酸経路で行われます。また、メチレーション回路はメチル基を供給し、DNAやRNAの材料となります。メチレーション回路が回らないと、細胞分裂が正常に行われず、不完全な細胞が生成されてしまいます。
さらに、メチレーションはドーパミンやセロトニン、ノルアドレナリンといった神経伝達物質の代謝にも深く関わっています。メチレーション回路が正常に働かないと、ドーパミンが生成されず、やる気が出なくなることがあります。また、メチレーションはホモシステインの代謝にも関わっています。
ホモシステインは、動脈硬化の危険因子です。ホモシステインのレベルが高すぎると、新たな血栓が形成されやすくなりますが、逆に少なすぎても困ります。ホモシステインはメチオニンなどの材料になっているため、適正なバランスが必要です。過剰だと動脈硬化のリスクが上がり、不足すると体内の様々な代謝が円滑に行われなくなります。
また、メチレーションにはDNAサイレンシングという役割もあります。これは、特定の遺伝子が暴走しないようにメチル基で制御するものです。メチレーションが不足すると、この制御がうまくいかなくなり、遺伝子が過剰に活性化する可能性があります。メチレーション回路が正常に回らないと、体に不調が現れることがあります。自覚症状がない場合もありますが、原因を突き詰めてみるとメチレーションの問題かもしれません。
メチレーション回路を回す目的
- 解毒(グルタチオン合成)
- メチル基の供給
- DNA、RNAの合成
- ドーパミン合成
- 動脈硬化の予防(ホモシステイン)
- がんの予防(DNAサイレシング)
- 免疫調整
以下の図は硫酸経路とメチレーション経路を別の視点から見たものです。硫酸経路は葉酸を活性化する経路で、活性化した葉酸がDNAの生成に関わります。葉酸はテトラヒドロ葉酸という形になって初めて体内での反応に利用できる状態になります。
テトラヒドロ葉酸がまず5,10-メチレンテトラヒドロ葉酸に変換されます。そして、この5,10-メチレンテトラヒドロ葉酸を還元して5-メチルテトラヒドロ葉酸に変換します。このプロセスで初めてメチル基が生成され、ホモシステインに受け渡されます。ホモシステインがメチル基を受け取ることでメチオニンに変換されます。
次に、このメチオニンはMAT(メチオニンアデノシルトランスフェラーゼ)という酵素の働きでアデノシンが結合し、S-アデノシルメチオニン(SAMe)になります。S-アデノシルメチオニンは、メチル基を他の物質に提供し、その後にS-アデノシルホモシステインとなり、さらにホモシステインに戻ります。このサイクルは、1秒間に数千回も繰り返されているとされ、メチル基が次々と手渡されることでさまざまな物質が活性化し、連鎖的に反応が進んでいきます。
これらの反応は、ビタミンやミネラルを必要とする酵素によって媒介されています。例えば、MATという酵素にはマグネシウムが不可欠です。十分なビタミンやミネラルが供給されていれば、この回路は円滑に進みます。しかし、酵素が不足していたり、酵素に遺伝子多型(SNPs)があったり、補酵素が欠けていると、この反応が滞ることがあります。メチレーション回路も、他の体内の反応と同様にさまざまな要素が関与しています。
メチレーション回路が低下する要因
では、メチレーションが上手く回らなくなる要因を見ていきましょう。
- タンパク質の不足
- 酵素のSNPs(遺伝子多型、MTHFR)
- 酵素の補酵素不足
- 重金属
- 感染、炎症
1.タンパク質不足
例えば、アミノ酸のメチオニンが不足すると、メチレーションがスムーズに進まなくなります。メチオニンはホモシステインからも生成されますが、食事からも摂取可能で、特にお肉に多く含まれています。タンパク質摂取が不足するとメチオニンが不足し、メチレーションが低下します。低メチレーションの人は、肉を多く摂ることでメチレーションが進みやすくなります。一方、オーバーメチレーションの人は菜食中心の食事に切り替えることで過剰なメチレーションを抑えることができます。
2.遺伝子多型(SNPs)
メチレーションを妨げる要因として酵素の遺伝子多型(SNPs)もあります。例えば、MTHFRという酵素は5,10-メチレンテトラヒドロ葉酸を5-メチルテトラヒドロ葉酸に変換する酵素ですが、この酵素の677番目の遺伝子が異なる場合、遺伝子多型とされます。遺伝子に変異があると、そのタンパク質(酵素)の機能が低下することがあります。
このタイプのヘテロ型遺伝子変異がある場合、MTHFR酵素の能力が約30%低下することがわかっています。また、酵素の補酵素不足も影響します。例えば、GOTやGPTにおけるビタミンBと同様に、MTHFRにはビタミンB2が補酵素として必要です。ビタミンB2の活性は甲状腺機能を通じて影響を受け、甲状腺ホルモンT4がビタミンB2を活性化させます。つまり、甲状腺機能が低下しているとMTHFRの活性も低下するということです。
※遺伝子多型とは遺伝子上の一つの塩基が違うこと
3.重金属の蓄積・炎症
重金属の蓄積や感染症、炎症もメチレーション回路の障害要因です。特に炎症があるとメチレーション回路がほとんど回らなくなります。そのため、メチレーションを正常に回したい場合には、まず炎症の問題を解決することが重要です。炎症はMTRやCBSといった酵素も抑制し、回路全体が停滞してしまう原因になります。
MTHFRと遺伝子多型
MTHFRは遺伝子としても酵素としても同じ名前が使われるため、混同しやすいですが、ここでは酵素のMTHFR(メチレンテトラヒドロ葉酸還元酵素、リダクターゼ)のことを指します。この酵素は、5,10-メチレンテトラヒドロ葉酸を5-メチルテトラヒドロ葉酸に変換します。MTHFRは遺伝子によって生成されており、これも遺伝子多型(SNPs)によって機能が影響を受ける場合があります。
MTHFR遺伝子多型は日本人を含むアジア人に多く、変異が1つある人が35%、両方に変異がある人が11%、合計46%の人に見られます。46%が1%以上なので、これは突然変異ではなくSNPとされています。変異が1つの場合は機能が約30%低下し、2つの変異がある場合は約70%の機能低下が見られます。
メチレーション回路と自閉症
メチレーションが最も機能していないのが自閉症の人たちであり、彼らの低メチレーション率は98%と非常に高いです。メチレーション回路を回すことが自閉症の治療において重要視され、研究が進んでいます。メチレーション回路を活性化できれば、多くの疾患や健康増進にも役立つと考えられています。
複雑に見える回路ですが、すべてを一度に理解するのは難しいため、3つの歯車に加え、硫酸経路の4つに集中して見ていけば、残りは後から理解が追いつくでしょう。重要なのは、これらが歯車のように噛み合っているため、1つでも回らないと全体が止まってしまう点です。全体のバランスを保つことが重要で、メチレーション回路を回すには葉酸経路も同時に回していく必要があります。
・葉酸経路
・メチル化経路
・硫黄代謝経路
・神経伝達物質の産生(BH4)
メチレーションを回す準備
- 炎症を取り除く
- ミトコンドリア機能を改善する
実際にメチレーション経路を回すためにはどうするかというと、まずは準備として炎症を抑える必要があります。さらに、ミトコンドリア機能をできる限り改善することも重要です。この2つの準備が整ったら、メチル化経路の弱点を一つ一つ見つけて調整していくと良いでしょう。
炎症の軽減については、特に腸や脳、そして上皮組織の炎症を抑えることが基本です。腸や脳の炎症はグルテンやカゼインフリーの食事が効果的で、特にリーキーガット症候群を抱える人は迷走神経によって脳と腸が繋がっているため、BBB(血液脳関門)が破られて脳に炎症が生じることもあります。したがって、腸の炎症と併せて脳の炎症も抑えることが重要です。特に自閉症のお子さんはグルタミン酸に対する感受性が高いため、グルタミン酸とGABAのバランスを整えることが必須となります。
今回の遺伝子検査の解説に関連して、SHMT酵素(セリンヒドロキシメチルトランスフェラーゼ)が炎症に関与していることも覚えておいてください。SHMTはフェリチンが高いと活性化され、メチレーションが抑制されるため、過剰な鉄分は炎症を引き起こす要因となり得ます。
神経の興奮と炎症をケアする
具体的にどうするかという話に移りますが、グルタミン酸とGABAのバランスが重要です。グルタミン酸神経が過剰に興奮している場合、神経の炎症が生じていることが多く、以下の図のように、神経の受容体にグルタミン酸が結合すると、カルシウムが細胞外から大量に流入して興奮が引き起こされます。しかし、このカルシウムの流入が過剰になると、細胞死を招き、慢性の炎症が引き起こされます。その結果、目を合わせない、イライラする、自己刺激行動(スティムス)が現れるなどの症状が出てきます。
この過剰な興奮を抑えるために重要なのは、マグネシウムです。また、亜鉛やリチウムもグルタミン酸受容体の過活動を抑える効果があるため、これらのミネラルを適切に摂取することが推奨されます。毛髪検査などで確認するのが良いでしょう。また、アミノ酸検査でグルタミンとグルタミン酸のバランスを確認することも有効です。
さらに、グリシンや低血糖もグルタミン酸受容体を異常に興奮させるため、これらにも注意が必要です。アミノ酸検査でグルタミンが低く、グルタミン酸が高くなっている場合は、バランスが崩れている可能性が高いです。治療には、神経毒素を除去することが重要で、グルテンフリーの食事も効果的です。これは、グルテンの43%がグルタミン酸であるためです。
このように、グルタミン酸神経を活性化させる要因は多岐にわたります。それぞれの要因が過剰にならないように制限することが重要です。
食事が整ったら、次はミネラルバランスを調整します。カルシウムが過剰な場合は骨の脱灰が進行している可能性があるため、マグネシウムを補充したりアルカリ性の食品を摂取するのが良いと思います。
グルタミン酸からGABAへの変換にはGAD(グルタミン酸脱炭酸酵素)が関わっています。これがうまく働かない人は、炎症、水銀、ウイルス感染の影響が考えられます。特に、お子さんの場合、DPTワクチンや麻疹ワクチンによって抗体が生成され、GAD抗体ができることでGAD酵素が破壊されることがあります。これは1型糖尿病の原因にもなります。
また、GABA不足も問題です。GABAは音と言葉を区別し、不安を軽減する役割があります。グルタミン酸からGABAへの変換がうまくいかない場合、GABAをサプリメントとして補うことも選択肢です。特に腸の働きが弱い人や不安が強い人には初期からGABAを摂取してもらうことが多いです。GABAサプリは食前に摂取するのが良く、食道では効果が薄いので注意が必要です。また、GABAとグルタチオンは食前に摂取することで効果が高まります。
ミトコンドリア機能を改善する
グルタミン酸とGABAの問題が一通り解決したら、ミトコンドリアの機能も考えてください。ミトコンドリアの活性化については前回詳しくお話ししましたが、今回は遺伝子変異に関係しており、ACATという酵素に変異があるとミトコンドリアの機能が低下することも覚えておいてください。
ACATとはアセチルCoAをクエン酸回路に組み込む役割を果たす酵素です。このACATは、遺伝子多型や短鎖脂肪酸の不足によって酵素活性が低下するため、機能が十分に発揮できなくなります。乳酸値が高い人の中にも、この酵素の活性が低下しているケースがあるかもしれません。
ミトコンドリア機能に関しては、αケトグルタル酸がアンモニアの排出に関わり、グルタミン酸からグルタミンを生成する経路として消費されてしまうため、TCAサイクルの回転が阻害される原因となります。アンモニアや乳酸のレベルが高い場合は、有機酸検査で確認するのが良いでしょう。これらの数値が高い場合、ミトコンドリア機能障害が残っている可能性があるため、短鎖脂肪酸を補充したり、便秘の改善も効果的かもしれません。
ACATの酵素活性は短鎖脂肪酸の不足で低下しやすく、短鎖脂肪酸が不足するとATPの生成が低下し、TCAサイクルのクエン酸がミトコンドリア内に取り込まれなくなります。クエン酸が高くなる原因としては、ミトコンドリア機能の低下や食事が関係しています。また、短鎖脂肪酸が不足すると脂溶性ビタミンの吸収が悪くなり、これがGAD(グルタミン酸脱炭酸酵素)の補酵素として必要なビタミンKの不足にもつながります。結果として、GADが正常に働かず、グルタミン酸が蓄積する可能性があり、さらにMAT(メチオニンアデノシルトランスフェラーゼ)酵素の活性も低下することで、全体的な代謝に影響を及ぼします。このように、1つの問題が連鎖的に他の機能に影響を与えることになります。
ちなみに、ACATの遺伝子変異があるのは私自身であり、私は短鎖脂肪酸のサプリメントを摂取しています。ここまででミトコンドリアやGABAの問題が解決したら、次はメチレーション回路の各要素を見ていきます。
葉酸経路を回す
葉酸経路を回すための要素はいくつかあり、具体的にはSHMTやMTHFRといった酵素です。MTRは、葉酸経路内でビタミンB12の活性化に関わっており、SHMT(セリンヒドロキシメチルトランスフェラーゼ)は、セリンからメチレンテトラヒドロ葉酸を生成する重要な酵素です。
SHMT酵素は、セリンをグリシンに変える、もしくはグリシンをセリンに変換する役割を持つ酵素です。重要なのは、この反応が右方向に進むと葉酸の活性化が促進され、左方向に進むとDNA合成が進むという点です。つまり、この酵素がどちらの方向に作用するかで、葉酸の活性化とDNA合成のどちらかしか行えないのです。
例えば、フェリチン値が上がったり炎症があったり、SHMT酵素にSNP(遺伝子多型)がある場合、反応は左方向に偏り、DNA合成に向かいます。これは、体が炎症に対する防御反応としてDNA合成を優先しているからです。その結果、葉酸の活性化が抑制されてしまうため、炎症を避けることが重要です。SHMT酵素がDNA合成に偏ることで、葉酸活性化に回らなくなります。
この酵素を適切に働かせるためには、鉄分の過剰摂取を避けること、腸内環境の改善、腸や上皮組織、歯の炎症を抑えることが対策となります。また、フォリン酸(5-ホルミル葉酸)のサプリメントを摂取することでも、理論上反応を右方向に促進できます。炎症を抑えることでSHMT酵素を活性化させることが可能であることも覚えておいてください。
メチレーション経路とホモシステインの代謝
次に、メチレーション経路について説明します。この経路では、ホモシステインがメチオニンに変換され、循環しています。ホモシステインは、3つの経路で再利用される可能性があります。1つ目はMTR酵素を通じてメチオニンに変換される経路で、ここではビタミンB12からメチル基を受け取ります。2つ目はベタイントリメチルグリシンからメチル基を受け取り、メチオニンに変換される経路です。どちらの経路を通っても、メチル基を受け取ることでメチオニンが生成されます。
また、ホモシステインからシステインを生成する経路もあり、システインはグルタチオンやアンモニアの生成にも関与しています。しかし、CBS酵素の活性が過剰になると、すべてがこの経路に偏り、他の経路がうまく回らなくなってしまいます。
CBS(シスタチオニン-β-シンターゼ)酵素の活性が過剰になると、問題が生じます。一方で、CBSが全く働かないと、ホモシステインが過剰に蓄積し、ホモシステイン中毒状態(ホモシスチン尿症)を引き起こすこともあります。このホモシスチン尿症は、マススクリーニングで検出され、CBS酵素の欠損が原因です。ホモシステインが高まることで、若年性の心筋梗塞を発症することもありますが、これは非常に特殊なケースです。
一方で、CBS酵素が過剰に働いているケースが圧倒的に多く、ここでの変異があると代謝が10倍以上促進され、システインがグルタチオンの生成や他の代謝経路に回らなくなります。これが低メチレーションの典型的なパターンです。
CBS酵素を活性化させる要因としては、硫黄負荷やビタミンB6(CBSの補酵素)の不足、重金属負荷、ストレス、炎症、さらにはSHMTの遺伝子変異などがあります。
一見すると、CBSが活性化しすぎてグルタチオンが増えると体に良いように思えますが、実は過剰なグルタチオンも体にとっては負担です。グルタチオンはシステイン、グルタミン酸、グリシンから構成されています。サプリメントでグルタチオンを摂取するとデトックスには有効ですが、ネガティブフィードバックがかかり、体が過剰反応する場合もあるため注意が必要です。
ホモシステインがシステインに変換された後、グルタチオンを生成するか、タウリンや硫酸として排泄されるかは、細胞内のシステイン濃度によって決まります。硫酸化経路は体内で過剰になった硫黄を排泄する役割を持っており、硫黄が多すぎると排泄の方向に流れやすくなります。
一方で、システインが不足している場合、体はシステインを貯蔵しようとし、反応はグルタチオンの生成方向に進みます。そのため、体内でグルタチオンを適切に生成するためには、CBS酵素が適度に活性化されていることが重要です。
バランスを取ることは非常に難しいです。グルタチオンは非常に強力な抗酸化物質で、体内で生成できれば非常に有益ですが、実際には多くの人がうまく生成できていません。CBSを適度に活性化させることが、デトックス体質の鍵なのです。
ちなみに、私の場合はCBSの遺伝子にA360変異があり、これだけでCBS酵素の活性が非常に高くなっています。この状態で肉を毎日摂取していると、この代謝経路が過剰に活性化し、アンモニアが増え、逆にグルタチオンが不足することがあります。このようにCBSが過剰に活性化している人は硫黄感受性が高い場合があるので注意が必要です。
硫黄感受性の高い人は、卵、ブロッコリー、キャベツ、玉ねぎなどの硫黄含有食品を食べると不調を感じることがあります。具体的には、頭痛や胃酸の逆流、胃食道逆流症状などが出ることがあり、これらの食品を摂取する際は注意が必要です。そのような場合の対処として有効なのがモリブデンです。モリブデンは硫黄の代謝を助ける補酵素で、ビタミンB12も併用すると効果的です。
BHMT経路経路を回す
次に、BHMT酵素について考えます。BHMT(ベタイン-ホモシステインメチルトランスフェラーゼ)は、葉酸とビタミンB12が活性化されると正常に回り始めます。この回路が正常に回れば特に問題はありませんが、中心部には抜け道のような代替経路が存在します。この経路は脳には存在せず、DNAや神経伝達物質の合成には直接関与しないため、一見重要ではなさそうですが、ホモシステインを適度に逃がす役割があります。
MTR酵素は水銀や炎症などで簡単に阻害されるため、代替的な経路が必要となります。ビタミンB12の補給でこの問題が解決できるかもしれませんが、BHMTもCBS酵素の負担を軽減する役割があるため、メインエンジンが安定するまでの補助的な働きを持っています。
CBS酵素が過剰に活性化すると、他の経路に負担がかかり、悪循環が生じます。CBSの変異が進行すると、MAT(メチオニンアデノシルトランスフェラーゼ)も機能不全に陥り、メチオニンからSAMeを生成する過程が阻害されます。そのため、ホモシステインを適度に逃がし、補助的に回路を回して負荷を軽減させることで、メインエンジン(BHMT経路)が正常に稼働できるようになるのです。
BHMTの酵素活性は、1番、2番、4番の変異で低下し、8番の変異で上昇することがわかっています。また、ストレスによっても活性が上昇し、回路が過剰に回り続ける可能性があります。この回路が過剰に回ると、本来目指すべきDNAや神経伝達物質の合成が妨げられるため、メインエンジンが回り始めたら、代替的な回路を停止させ、優先的にメインエンジンが機能するようにするのが最終目標です。
神経の治療には、神経伝達物質の生成と代謝が重要です。ドーパミンやノルエピネフリン(ノルアドレナリン)はフェニルアラニンからチロシン、チロシンからドーパミンという流れで生成されます。また、グルタミン酸や5HTPからセロトニンが生成される経路もあります。ビタミンB6が多く関わっていますが、今回注目するのは遺伝子関連のBH4(テトラヒドロビオプテリン)です。これは葉酸経路で生成され、フェニルアラニンからチロシン、チロシンからドーパミン、トリプトファンから5HTPの全ての経路に関与しています。BH4が不足すると、ドーパミンやセロトニンの生成がスムーズにいきません。
フェニルアラニンからチロシン、チロシンからL-ドーパ、トリプトファンから5HTPと、それぞれ異なる酵素によって代謝が進みますが、これらの酵素に共通して必要なのがBH4です。このBH4の生成を妨げる要因には、アルミニウム、アンモニア、そしてMTHFRの1298遺伝子変異が含まれます。ドーパミンの生成にはビタミンB12と葉酸、ビタミンDも関係します。ビタミンDはドーパミンの生成に重要で、VDR(ビタミンD受容体)の遺伝子に変異があると効果が低下します。また、ビタミンB12の生成もMTRやMTRR酵素の変異に影響され、特にMTR A11変異がある人はメチレーションに苦労しない可能性が高いです。
ドーパミンの代謝にはCOMTが関わり、ビタミンB6が必要です。遺伝子変異によってドーパミンが過剰に生成されたり、逆に生成が不足したりします。ドーパミンが過剰な場合は、ビタミンB12やビタミンDの摂取量を調整するのが良いでしょう。
また、COMTの働きを活性化する要因にはリチウムやビタミンB6があり、逆にコーヒーやチョコレート、ケルセチン、カテキンなどがCOMTの働きを抑制します。これによりドーパミンが増加した感覚が得られます。遺伝子検査の結果により、ドーパミンが体内で溜まりやすいかどうかを確認し、これらの食品やサプリメントで調整が可能です。
メチレーションでのサプリの使い分け
ビタミンB12の代謝にはCOMTとビタミンD受容体(VDR)の変異、特にTaq1の変異の有無によってメチル基の許容量が異なります。ヒドロキシビタミンB12は非活性型のビタミンB12で、このパターンの人はドーパミンが体内に溜まりやすいため、メチルビタミンB12をあまり使用しないほうがよいです。この場合は、活性型のビタミンB12を使い、穏やかに対応するのが適切です。
逆に、ドーパミンを作るのが難しいタイプ、つまりビタミンDがうまく機能せず、生成したドーパミンがすぐに流れてしまうタイプでは、どの種類のビタミンB12でも利用可能です。メチルビタミンB12やアデノシルメチオニンを利用することができますが、ヒドロキシビタミンB12はどのタイプにも適しているため、私自身もヒドロキシビタミンB12を摂取しています。
ドーパミンをいかに体内で生成させるかは特に自閉症の治療において重要で、神経伝達ネットワークを構築するために必要です。MTHFR、SHMT、CBS、BHMTなどの経路がすべて回り始めたら、BHMTを止めてホモシステインが神経伝達物質の生成に集中できるようにします。BHMTを止めるためには、ジメチルグリシン(DMG)を摂取し、トリメチルグリシン(TMG)がDMGに変換されてメチル基が放出されることで、この経路が抑制されます。
ビタミンB12はメチレーションを促進するのに役立ちますが、リチウムも重要です。ビタミンB12を摂取し続けるとリチウムが枯渇する場合があるため注意が必要です。私のモハ検査結果でも、リチウムが不足していることが確認されており、リチウムが不足するとビタミンB12の効果が低下します。
MCV(平均赤血球容積)がなかなか下がらない人には、ビタミンB12と共にリチウムを試すと良い結果が得られることがあります。リチウムは少量、5mg程度で十分です。ちなみに、私の場合は問題ありませんが、ビタミンB12がきちんと利用されるようになると、コバルトが代謝で使われるようになります。毛髪と尿中のコバルト濃度も確認してみてください。尿中コバルト濃度は、ビタミンB12の量ではなく、ビタミンB12が実際に代謝で使われているかどうかの目安になります。
単にグルタチオン、ビタミンB12、葉酸、亜鉛などのサプリを使うだけでうまくいく人もいますが、うまくいかない場合はメチレーション回路を考慮することが重要です。MTHFR酵素がうまく機能しない人には、活性化された5-MTHFを使うことで酵素異常を回避できますが、5-MTHFを使う場合には『葉酸トラップ』に注意してください。
葉酸トラップとは、5-MTHFを過剰に摂取することでグルタミン酸が蓄積し、副作用を引き起こすことを指します。5-MTHF(5メチル葉酸)を使った場合にのみ現れる副作用で、1つ手前のフォリン酸(葉酸の形態)では発生しません。そのため、5-MTHFで副作用が出る場合はフォリン酸を使用するのが良いでしょう。
メチルビタミンB12は、遺伝子検査の結果(COMTやビタミンDの受容体の変異)に基づいて選ぶことで、適切な量を予測することが可能です。メチルビタミンB12を過剰に使用すると、ドーパミン過剰の症状が出ることがありますが、遺伝子検査により適切なビタミンB12の形態や投与量が予測でき、注射などの強い方法を避けることができる場合もあります。こうした観点から、遺伝子検査は非常に有用です。
サプリメントは、副作用が報告されることが多いものもあるため、使用には注意が必要です。私も使用していますが、特にグルタチオンについては、硫黄に対する不耐性がある人にとっては利用が難しいことがあります。体内でグルタチオンをうまく生成できる体質にすることが最も望ましいため、目的に応じて適切な使い分けが重要だと考えています。
メチレーションサプリの副作用
- 5MTHF(MTHFRを回避)→葉酸トラップ
- メチルB12(MTR、MTRR)→ドーパミン過剰
- SAMe(MATを回避)→副作用が多いサプリメント
- グルタチオン→硫黄負荷によりメチレーション低下の反動
これで、一通りのメチレーション回路についての説明が終了しました。この情報をもとに、自分の遺伝子の特徴や弱点を把握し、どのサプリメントや栄養素を摂取すべきか、または避けるべきかを判断する指針になると思います。
さらに、遺伝子検査に興味がある方もいらっしゃるかと思います。検査方法は複数あります。検査を希望される方は、個別に京橋ウェルネスクリニックまでご相談ください。