前回は「ステップ1_治療方針を決める」ということをお話ししました。
さて、大まかな治療方針が決まったら、次はそれを達成するために必要な治療とその順番を決めていきます。
私は栄養療法や分子生物学、栄養学のテキストを30冊以上持っていますが、そのうちほとんどは「病気を診ずに人を診よ」などの信念的な事と、95%の人が読み飛ばすビタミン代謝の化学式などに多くのページを割いています。
これらは本当はすごく重要なのかもしれませんが、ここを読んでいるあなたはそれを求めていないでしょう。求めているのはもっと実用的ですぐつかえる知識に違いありません。私も「まずは自分に向き合う」といった抽象論は好きではありません。
ですから、図やチャートを用いて、理論に沿って治療方針の決定をする方法をご紹介することにしました。この方法のよいところは再現性です。理論通りに進めれば、だれがやっても同じ治療法にたどり着けるはずです。
これは私が普段の治療に用いている治療ピラミッドです。過去の経験から、治療内容と治療の順序を大きく5つにわけました。
一番上は脳機能の治療。神経伝達物質の調整や、脳の細胞膜の抗酸化治療が含まれます。2番目のエネルギーというのはミトコンドリア機能改善です。3番目はホルモンバランス調整です。同じホルモンの中でも優先順位があり、下の副腎からアプローチしていきます。4番目は解毒(デトックス)治療で、臓器としては特に肝臓をケアしていきます。一番下は腸内環境および体内の炎症を抑える治療になります。
ポイントは、上の段の要素は下の段の要素の影響を受けやすい事です。だから、原則的にこれら5つの治療は下の段から行っていきます。
ピラミッドのように下から積み上げていく感じです。下の段の治療がうまくいっていないのに上の段の治療だけをやると、崩れてしまいます。
疲労疾患に必要な治療とその順番
例えば、疲労疾患の治療方針は、ミトコンドリア機能改善でした。しかし、ミトコンドリア機能だけに目を向けると失敗します。上から2段目のエネルギー(ミトコンドリア機能)には、3段目の副腎や甲状腺ホルモンが影響しています。
また、エネルギーを生み出す体内の回路は、4段目の要素「重金属」(特に水銀やヒ素、鉛)などによって容易に機能低下を起こします。だからもし重金属が貯まっているなら、ミトコンドリア機能を改善するために重金属のデトックス(解毒)治療が必要になります。
ミトコンドリア内でエネルギーを生み出すクエン酸回路は、ヒ素、水銀、アルミニウムが体内に貯まると簡単に止まってしまいます。
さらに、5段目の要素「腸内環境」が悪いとミトコンドリアを動かすのに必要なミネラル類の消化吸収がうまくいきません。
このように、2段目のミトコンドリア改善のためには、2,3,4,5段目の全てにアプローチしなくてはならない可能性があります。
免疫系疾患に必要な治療とその順番
免疫系疾患に必要な治療は、免疫の正常化と副腎疲労の改善です。
これだけ多くの人が花粉症になっている事実は多くの日本人の免疫機構が大変なことになっている、と言うことを示しています。特に問題なのは腸内環境です。
腸には抹消の免疫の60%が集中していますので、食生活が悪かったり、腸が炎症を起していれば当然のように免疫異常を起こします。腸内環境改善は免疫を正常化させるのに絶対必要な治療です。
ちなみに、2番目に免疫が集中している場所はどこでしょうか?
それは、咽頭です。扁桃腺は巨大な組織ですが、それは鼻と口、両方から入ってくる異物を見分け、せき止める関所の役割を担っているからです。
咽頭部の炎症を抑えるのは免疫系疾患の治療に欠かせないファクターです。
このように、体内の隠れた炎症を見つけ出し治療するのは治療計画の中でも優先的に行われるべきで、治療ピラミッドの第5段目にあたります。
次に免疫系疾患治療に必要なのは副腎アプローチです。
治療ピラミッドの法則にしたがうと、3段目の副腎疲労改善のためには、4段目、5段目の治療が必要になります。重金属解毒にはかなりの副腎に負担がかかるし、体内に隠れた炎症がある場合、これも副腎からコルチゾールが24時間出っ放しになります。
精神系疾患に必要な治療とその順番
精神系疾患の治療方針は脳神経伝達物質のバランス調整です。
ウイリアム・ウォルシュ博士は20年、2800人のうつ病患者の分析から、うつ病患者の脳内の状態を大きく5種類に分けました。
彼は脳内の生化学状態を調べる事で、5つの分類のどこに当てはまるのか、そしてどのような治療をするのかを明確にしました。
これは大変重要な事ですが、その前にやらなくてはならないことがあります。
ここまで読み進めていたら、もうお分かりだと思いますが脳の治療ピラミッドは最上部の第1段目にあります。つまり、脳はミトコンドリア、副腎、甲状腺、デトックス、腸内環境など全ての影響を強く受けます。
ミトコンドリアの働きが低下することが原因でおこる病気をミトコンドリア病と呼んでいて、 多くは生まれながらにしてミトコンドリアの働きを低下させるような遺伝子の変化を持っている方が発症します。
物事を見聞きしたり、理解する能力など「脳」の機能と、心不全、運動障害など「筋肉」の機能が主に障害を受けます。ミトコンドリアは特に脳と筋肉に多いため、ミトコンドリア機能の低下は脳と筋肉に症状が出やすいです。(昔ミトコンドリア病は「ミトコンドリア脳筋症」と呼ばれていました)
また、ホルモンとの関係も大きいです。脳は視床下部-下垂体-副腎軸によって副腎と強く結びついていますし、甲状腺機能低下症でうつ症状が出るのは有名です。
そして重金属やその他の毒素に脳はとても弱いです。マグロに多く含まれるメチル水銀は、体が必要なアミノ酸メチオニンと勘違いして、腸から容易に取り込まれ、脳神経や脂肪細胞に貯まっていきます。
さらに、腸内環境と脳機能が相関している事はもう半ば常識的に語られるようになりました。腸内細菌は迷走神経を通して脳に信号を送っています。また、グルテンが腸粘膜に働きかける事で起こるリーキーガット症候群は、同時にリーキーブレイン(脳血液関門の破たんのこと)をも引き起こすことが明らかになってきました。
つまり、精神系疾患の治療をするためには、神経伝達物質の調整治療(第1段目)の他に、炎症を抑え、腸を治して(第5段目)、デトックスをして(第4段目)、副腎ケアを行い(第3段目)、ミトコンドリア機能を改善させる (第2段目) ことが必要なのです。
アルツハイマー病の栄養による根本治療で一躍脚光を浴びたデール・プレデセン博士の治療法を記した「アルツハイマー病真実と終焉」は脳機能改善を栄養で行うすべての人にとっての必読書です。
プレデセン博士はアルツハイマー病を3種類に分類しました。炎症による1型タイプ、栄養、ホルモン不足による2型タイプ、水銀やカビ毒が脳に蓄積して起こる3型タイプです。
アルツハイマー病やその前段階の初期認知症が疑われる場合、まず最初にすることは3型のうちどのタイプなのかを見抜く事です。タイプがわかれば、治療法と順番が見えてきます。
アルツハイマー病の場合は、ピラミッドの2段目~5段目を順序良く治療する事で、第1段目に効果があらわれてくるのです。
ちなみに、この治療法はアルツハイマーだけでなく、全ての脳疾患の人に応用できます。脳機能をあげるため、受験生にも推奨できる治療です。
このようにして、治療方針が決まり、治療の順番のめどがついたら、実際にその治療を行うべき原因が本当に存在するのか、検査をして確かめていきます。
次のステップ3は実際の検査についてです。