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まごめじゅん

糖質栄養学

まごめじゅん · 2021年6月11日 ·

甘いものについつい手が伸びてしまう、そんなことはありませんか?それはもしかすると、”嗜好”ではなく”症状”かもしれません。

糖は効率的かつクリーンなエネルギー源です。1個のグルコースから38個のATPが作られますが、それには解糖系、TCA回路、電子伝達系といった代謝経路が滞りなく回っていなければなりません。しかしながら、貧血や肝機能の低下、栄養不足などによって代謝が滞ってしまうと、必要以上に糖分を欲してしまうのです。糖代謝を改善しエネルギーリッチな体になると、様々な不調から解放されます。ぜひこのブログを読んで、今日からの食生活改善にお役立てください。

1. 糖の基礎知識

1-1. 糖はクリーンエネルギー

グルコース(ブドウ糖)は、炭素(C)と酸素(O)と水素(H)からできています。水酸基(ヒドロキシル基, -OH)を多く持つため、水に溶けやすい性質を持っています。

最終的に無毒な二酸化炭素と水に分解されるので、糖はとてもクリーンなエネルギー源です。タンパク質もエネルギーになりますが、アミノ基(-NH3)を持つため有毒物質であるアンモニアを発生させてしまいます。

また、3大栄養素の中で最もエネルギーになりやすい栄養素でもあります。脂質もC、O、Hからできていますが、代謝が複雑でエネルギーになるまでに時間がかかります。

1-2. 糖代謝の流れ

糖からエネルギーが作られる代謝経路を見てみましょう。大きく分けて、解糖系、TCA回路、電子伝達系の3つの代謝を経てエネルギーが生まれます。

糖が細胞に入るとグルコースからピルビン酸になり、2個のATP(アデノシン三リン酸)が生成されます。ピルビン酸はミトコンドリアの中に入り、アセチルCoAになります。さらに、TCA回路で2ATP、電子伝達系で34ATPが作られ、合計すると1個のグルコースから38個のATPが作られます。

2. 解糖系

2-1. 解糖系とは?

炭水化物を摂取すると、分解されてグルコースとなり小腸で吸収されます。吸収されたグルコースは血管を通って肝臓に運ばれ、肝臓から全身の細胞に分配されます。細胞膜にはインスリン受容体があり、そこにインスリンが結合することでグルコース専用の玄関が開きます。

グルコースからピルビン酸になるまでには7つのステップがあり、この一連の流れを解糖系と呼びます。これらは酸素を必要としない反応です。ピルビン酸まで代謝されると、エネルギー工場であるミトコンドリアの中に入ることができます。

解糖系では初期段階で2ATPを消費しますが、後半のステップで4ATP産生するので、差し引き2ATP作られることになります。マグネシウムが不足すると、後半のステップが滞り、初期段階でATPを消耗するだけになってしまう可能性もあります。

2-2. 解糖系とマグネシウム

ポイントは、解糖系の反応にマグネシウムを要求するものが多いということです。例えば、このグルコース→グルコース 6-リン酸の反応で働くヘキソキナーゼは、マグネシウム存在下で働きます。他にも、ホスホフルクトキナーゼ、ホスホグリセリン酸キナーゼ、エネラーゼといった酵素もマグネシウムを必要とします。糖をたくさん食べると、それをエネルギー変換するためにマグネシウムの必要量も増えるということです。

2-3. NADは電子を運ぶ器

エネルギー代謝において、もう1つ重要な栄養素がNAD(ニコチンアミドアデニンジヌクレオチド)です。グリセルアルデヒド 3-リン酸から1,3-ジホスホグリセリン酸に代謝される時に働きます。NADはナイアシン(ニコチン酸)の特殊な形態で、電子を運ぶ器の役割を担っています。酸化型(NAD+)と還元型(NADH)があります。

2-4. 解糖系のまとめ

解糖系でおさえておきたいポイントは次の4つです。

  • 酸素がいらない反応である
  • ATPが2個つくられる
  • マグネシウムが必要
  • ナイアシンが必要

3. コリ回路

3-1. コリ回路とは?

激しい運動をすると、酸素の供給が不足するためミトコンドリアが稼働しません。すると、解糖系で生成されたピルビン酸は、乳酸になって筋肉に溜まります。溜まりすぎると筋肉痛や肩こりを起こすので、乳酸は疲労物質と言われたりします。

筋肉中の乳酸は血液を通って肝臓に運ばれ、またピルビン酸に戻ります。このピルビン酸はグリコーゲンとして貯蓄されたり、糖新生に使われたりします。これはノーベル生理学・医学賞を受賞したコリ夫妻が発見した回路で、コリ回路と言います。

ここでのポイントは、乳酸からピルビン酸に戻るときにLDH(乳酸脱水素酵素)が働くということです。

3-2. LDH低下はナイアシン不足

LDHは、肝臓、心臓、赤血球、胎盤、腎臓、肺、脾臓、骨格筋に含まれる酵素です。赤血球に含まれているので、溶血があるとLDHの値が上昇します。また、骨格筋に含まれるので、ハードな運動をした後にも上昇することがあります。妊娠中後期や産後も上昇します。基準値は120~240 IU/Lですが、大体180IU/Lを目安にします。乳酸⇄ピルビン酸の反応の際にNAD+が働くので、基準値よりも低いとナイアシン不足を疑います。

3-3. エネルギーとしての乳酸

乳酸はエネルギー源としての役割があるので、酸素が充足していてもコリ回路が働き乳酸が作られます。1分子のグルコースから2分子の乳酸が生成します。乳酸代謝(乳酸→ピルビン酸)を促進させるのが運動です。トレーニングしたグループでは、しないグループと比較して、乳酸代謝(乳酸クリアランス率)が34%高くなるということがわかっています。ちなみに、乳酸菌による乳酸発酵も同じ反応です。ぬか漬けをかき混ぜずに放っておくと酸っぱくなるのは、乳酸が生成しているからです。

4. ミトコンドリア内での糖代謝

ピルビン酸から先の代謝を見てみましょう。緑の点線の中がミトコンドリアでの反応です。

4-1. アセチルCoAの生成

ピルビン酸がミトコンドリア内に入ると、ピルビン酸脱水素酵素が働きアセチルCoAが生成します。その際、補酵素として働くのがビタミンB1です。糖代謝にビタミンB1が大切と言われるのは、この反応が滞ると先に進まないからです。ここでは、NAD+が電子を受け取ってNADHになります。その他にも、TCA回路に入る前段階では、ビタミンB2、ナイアシン、パントテン酸といったビタミンB群が必要です。

4-2. TCA回路に必要な栄養素

アセチルCoAはTCA回路に入っていきます。TCA回路は山手線のようにぐるぐると回っています。この回路が遅延なく回るために必要な栄養素は、ビタミンB群、マグネシウム、鉄です。

4-3. TCA回路の役割

TCA回路でのポイントは、NADとFAD(フラビン・アデニン・ジヌクレオチド)が電子を受け取り、NADHとFADH2ができるということです。TCA回路で生み出されるATPは2個と小さいですが、電子伝達系に運ぶ電子を作るという重要な働きを担っています。

イソクエン酸からαケトグルタル酸になる時に、NADは電子をもらってNADHに変わり、電子伝達系に運ばれます。α-ケトグルタル酸からスクシニルCoA、リンゴ酸からオキサロ酢酸ができる際にも同じ反応が起こります。

さらに、FADも電子を受け取ってFADH2になり、TCA回路が1回転する度に1個のFADH2ができます。FADはビタミンB2(リボフラビン)から誘導され、NADと同じく電子を運ぶ器の役割があります。酸化型(FAD)と還元型(FADH2)があります。

4-4. ミトコンドリアの構造

ミトコンドリア膜の中にうねうねとした形の内膜があり、TCA回路は内膜の内側のマトリックスと呼ばれる場所で起こります。ミトコンドリア膜の内側の空間を膜間スペースと呼びます。

余談ですが、赤血球は成熟の過程でミトコンドリアを捨ててしまうので、TCA回路や電子伝達系がありません。つまり、糖を唯一の栄養源とし、解糖系のみでエネルギーを供給しています。もっと詳しく知りたい方は、ぜひこちらのブログもご覧ください。

4-5. 電子伝達系 4つのステップ

ミトコンドリア膜は脂質二重層と言って、細胞膜と同じ構造をしています。トランス脂肪酸をたくさん摂取している人は、細胞膜だけでなくミトコンドリアの膜まで固くなってしまうので要注意です。図の下側はマトリックス、上側は膜間スペースを表しています。電子伝達系には、Ⅰ、Ⅱ、Ⅲ、Ⅳ、4つのステップがあります。

まず、ⅠのステップでNADHが、ⅡのステップでFADH2が電子(プロトン, H+)を手放します。ⅡとⅢのステップにQとあるのはCoQ10です。CoQ10が受け取った電子を膜間スペースに放出します。

ⅢとⅣの間では、シトクロムcオキシダーゼ(cyt c)と呼ばれる酵素が働きます。この酵素はヘム鉄がないと働きません。鉄欠乏の人がエネルギー不足に陥るのは、ミトコンドリアへの酸素の供給不足の他に、シトクロムcオキシダーゼの働きが悪くなることも原因として挙げられます。

NADHとFADH2によって電子が運ばれ、シトクロムcオキシダーゼやCoQ10の作用で電子が膜間スペースに放出されます。プロトンがたくさん溜まってパンパンになると、今度は一気にマトリックス側に流れ込みます。その時のエネルギーを利用してATPが作られます。水車と同じような仕組みでエネルギーを作り出しているのです。

4-6. 電子伝達系のまとめ

電子伝達系を理解するにはとても時間がかかると思います。何回も聞いているうちに知識がつながる瞬間があるので、ぜひ反復して学習してみてください。

  • TCA回路でプロトン(電子; H+)をNADH、FADH2に集める
  • NADH、FADH2がプロトンを膜間へ
  • 膜間にプロトンが溜まるとエネルギーが溜まる
  • 溜まったエネルギーがATP合成酵素を動かす
  • 電子伝達系で重要な栄養素

電子伝達系では、次の4つの栄養素が重要になります。欠乏するとエネルギー切れを起こし、慢性疲労やだるさ、メンタルにも影響が出始めます。

  • ビタミンB2
  • ナイアシン(ビタミンB3)
  • CoQ10(ユビキノン)
  • 鉄

ビタミンB3はチーズなどに含まれるトリプトファンを原料に体内合成されます。ビタミンB2は卵に豊富に含まれます。CoQ10はイワシやアジ、サバといった青魚に、鉄はレバーに多く含まれます。

4-7. NADの体内合成

NADの体内合成について詳しくみていきましょう。トリプトファンはセロトニンやメラトニンの原料になるアミノ酸です。メラトニンは睡眠の質に影響します。

この経路とは別に、NADを合成するキヌレニン経路があります。トリプトファンからキヌレニンが合成され、キノリン酸を経てNADになります。

体に何らかの炎症があると、トリプトファンから5HTPへの代謝が止まり、睡眠の質が低下します。炎症によりトリプシンはキヌレニン経路に回りますが、ここでビタミンB6が欠乏していると、キノリン酸が溜まってしまいます。キノリン酸には興奮作用があるため、睡眠の質がさらに悪化してしまいます。これをキヌレニン仮説と呼びます。

ナイアシンサプリメントを飲むと、リラックスできたり痛みが取れたりといった効果があると言われています。それは、ナイアシンの在庫が十分だと体が認識し、トリプシンをメラトニン回路の方に回してくれるからです。

5. その他の糖代謝

5-1. ペントース・リン酸経路

糖は、解糖系の途中でペントース・リン酸経路にも回されます。この経路は、DNAやRNAを構成する核酸の原料となるヌクレオチドを供給するために働きます。

ヌクレオチドの五員環の部分はブドウ糖から供給されています。つまり、細胞分裂が活発な人ほど糖をしっかり供給する必要があるということです。

5-2. 子供に糖質制限は必要?

糖を最も要求するのは成長期の子どもでしょう。糖質制限が流行った頃に、成長期のお子さんにも糖質制限をされているお母さんがいらっしゃいましたが、これは少し危険です。DNAやRNAの原料となるヌクレオチドを作るために、適度な糖を補給してペントース・リン酸経路を回してあげる必要があるからです。

また、脂質をエネルギーに変換する際に必要なカルニチンの合成量は年齢依存と言われており、15歳ぐらいでようやく大人と同じ量を合成できるようになります。つまり、子どもは脂質をエネルギーに変換しにくいので、糖を主なエネルギー源にしているということです。さらに、肝臓や筋肉が未発達で、肝グリコーゲンや筋グリコーゲンも不足しがちです。以上のことから、成長期の子どもに糖質制限は不要で、むしろこまめな糖分摂取が大切になるでしょう。

5-3. グルクロン酸経路

糖にはさらにもう一つ代謝経路があります。それがグルクロン酸経路です。

グルクロン酸は肝臓の解毒に使われる重要な成分で、ブドウ糖のように水酸基をたくさん持っているので水に溶けやすい性質を有しています。毒素がグルクロン酸で抱合されると水溶性になり、血液を介して毒素を排出することができます。

6. エネルギーとしての糖

6-1. エネルギーが使われる順番

エネルギーには使われる順番があります。1番目は食事由来の糖で、1~2時間程度で消費されます。2番目に、肝臓に蓄えられている肝グリコーゲンと筋肉に蓄えられている筋グリコーゲンが使われます。これらもなくなると、3番目に糖新生が起こります。主にタンパク質がエネルギー源として使われる反応です。さらに、4番目には脂肪の分解が起こります。脂肪酸からケトン体が生成し、エネルギーに変換されます。

  1. 食事由来の糖
  2. 肝&筋グリコーゲン
  3. 糖新生
  4. 脂肪酸、ケトン体

例えるなら、食事由来の糖はすぐに使えるポケットマネー、肝グリコーゲンや筋グリコーゲンはタンス貯金、糖新生に使われるタンパク質は普通預金で、脂肪酸やケトン体は定期預金といったところです。

6-2. グリコーゲンの役割

糖は筋肉や肝臓でグリコーゲンの形で備蓄されています。体内で合成され、でんぷんとそっくりな分子式をしています。ブドウ糖が数珠繋ぎになっており、糖が足りなくなるとアミラーゼやジアステーゼによって切り出され、血中に取り込まれます。

筋グリコーゲンは1200kcal、肝グリコーゲンは600kcal分蓄えられています。肝グリコーゲンは血糖値の維持や脳、赤血球のエネルギーとして使われ、筋グリコーゲンは運動するときに使われます。

6-3. 糖新生とは?

血液中の糖がなくなると、アミノ酸から糖を作り出す糖新生が行われます。先述の乳酸も糖新生に使われますが、メインの栄養源はアミノ酸です。

アミノ酸からピルビン酸が作られると、ミトコンドリアでオキサロ酢酸に変換されます。再びミトコンドリアの外に出て解糖系を逆に進み、グルコースを生成します。この一連の反応は肝臓で行われます。

このような回りくどい経路を辿るのは、ホスホエノールピルビン酸からピルビン酸になる反応が不可逆的なためです。ミトコンドリア内でオキサロ酢酸に変換されることでミトコンドリアの外に出られるというわけです。

6-4. アミノ酸サプリメントの効果

アミノ酸サプリメントを飲むと血糖値が安定し、疲れにくくなるケースがあります。小腸から吸収された後、すぐに糖新生に使われるからです。タンパク質と違って消化酵素を必要としないため、タンパク質代謝が低下している人でも効率よく糖新生が促されるのでおすすめです。ドラッグストアで手に入りやすいものもありますが、私は人工甘味料無添加のものを使っています。

一つ注意したいのは、アミノ酸サプリメントが効かない人もいるということです。特に低血糖症状を抱えている人に多いのですが、ミトコンドリア機能が低下していると、糖新生の反応そのものが滞ってしまうため、糖新生の原料をどれだけ入れてもうまくいかないのです。

6-5. ケト原性アミノ酸と糖原性アミノ酸

リシンとロイシンは糖新生には使われず、脂質代謝経路を経由してケトン体や脂肪酸合成に利用されます。これらのアミノ酸をケト原性アミノ酸と呼びます。

ケト原性アミノ酸
・リシン
・ロイシン

アセチルCoAからケトン体や脂肪酸合成に利用される

それに対して、糖新生に利用されるアミノ酸を糖原性アミノ酸と呼びます。中には、糖原性アミノ酸とケト原性アミノ酸の両方の性質を持ち合わせたアミノ酸もあります。

糖原性アミノ酸
・アラニン
・グリシン
・セリン
・トレオニン
・システイン
・メチオニン
・バリン
・アスパラギン酸
・アルギニン
・グルタミン酸
・ヒスチジン
・プロリン
・チロシン

両方の性質を持つアミノ酸
・トリプトファン
・イソロイシン
・フェニルアラニン
・チロシン

糖原性アミノ酸の中でも、栄養療法でよく出てくるアラニンについて詳しくみていきましょう。

6-6. アラニン回路とアミノ基転移酵素

筋肉中でピルビン酸がアラニンになり、肝臓でまたピルビン酸に戻る、この回路をアラニン回路と言います。乳酸代謝のコリ回路に似ており、可逆的な反応になります。この時働くのが、血液データでよく目にするALT(アラニンアミノ基転移酵素)です。

アラニン回路をまとめると次のようになります。

  • 肝臓から筋肉にグルコースを供給する代謝回路
  • 肝臓ではアラニンからピルビン酸に変換され糖新生によってグルコースが作られる
  • 筋肉ではグルコースが解糖系によってピルビン酸に分解されアラニンが作られる
  • グルコースとアラニンの両物質は血液を介して循環している

ASTとALTは肝機能を調べるための項目ですが、栄養療法的には、エネルギー代謝や糖新生を推測するマーカーとして使います。ALTとASTを介する反応に、ピルビン酸やアラニン、TCA回路で生成されるα-ケトグルタル酸やオキサロ酢酸といった物質が含まれるからです。ALTやASTが低いと、エネルギー代謝の低下を疑います。

7. 糖代謝と血糖値

7-1. 血糖値の基礎知識

糖代謝が栄養療法の全てと言っていいぐらい、ここにアプローチすることで、鬱などの精神症状、体の慢性疲労、アレルギー、癌など、様々な不調が改善します。まずは、ここまで説明してきた糖代謝において、どこが滞っているのかを推測することから始めましょう。その一つの手がかりとなるのが血糖値です。血糖値の基礎知識をリストアップしました。

  • 空腹時血糖値は90mg/dL
  • 健康診断・検査項目の表示(血糖・Glu・BS・FBS)
  • 正常な血糖値は140mg/dLを超えることはない
  • 空腹時血糖値の80%以下になることはない
  • 血糖値が70mg/dL以下「低血糖」
  • 血糖値は食後30~60分でピークに達し、5時間後に空腹時血糖値に戻る
  • 血糖値の日内変動は、午前4時が最高、午後4時が最低
  • インスリン(ホルモン)によって糖が細胞内に入る

7-2. 血糖値とメンタルの関係

こちらは、健康診断の結果がA判定の2人の男性の5時間糖負荷検査のグラフです。さて、思考力や判断力が安定している男性はどちらでしょうか?

答えは左の男性です。右は様々な不定愁訴が出やすいパターンです。食後の血糖値が200mg/dLまで急激に上がり、その反動で180分後には44mg/dLまで下がっています。棒グラフはインスリン量を表していますが、左に比べ右はインスリンの初動が悪いことが見てとれます。インスリンが分泌されないと糖が細胞に取り込まれないため、血液中にブドウ糖が溜まり、200mg/dLまでスパイクしてしまうのです。そして高くなりすぎた血糖値に反応してインスリンを大量に出すので、血糖値が一気に下がってしまいます。典型的な低血糖症のケースです。

7-3. 第1相・第2相インスリン分泌

グルコース摂取後10分以内の分泌を第1相インスリン分泌と呼びます。血糖レベルの維持に重要で、Ⅱ型糖尿病では第1相分泌が低下します。一方、グルコース摂取後60~180分までの分泌を第2相インスリン分泌と呼びます。第2相分泌はATPに依存するため、ミトコンドリア機能を反映します。つまり、第2相分泌が乱れている人は、ミトコンドリア機能が低下していると推測できます。

7-4. 血糖コントロールが乱れている人の症状

血糖コントロールがうまくいっていないと、様々な症状が出ます。

  • 自律神経失調症、精神疾患、副腎疲労
  • 食後の耐えがたい眠気(特に昼食後)
  • 冷や汗、動悸、不安感
  • 興奮しやすい
  • 論理的思考力の低下

夏目漱石は数々の素晴らしい作品を残した一方、ひどいメンタル症状があったと言われています。無類の甘い物好きで、当時高級品だったジャムをひと瓶ペロッと食べてしまうほどだったそうです。おそらく重度の低血糖症状で常に糖分を欲していたのでしょう。この話は小池雅美先生の講座で詳しく解説されているので、ぜひご覧ください。

7-5. 低血糖を推測できる血液データ

5時間糖負荷検査は少し特殊な検査ですが、血糖値やヘモグロビンA1c(HbA1c)などの値を見て、血糖の状態をある程度推測することができます。下の症例の方は血糖値は90mg/dLありますが、HbA1cが5.0%と低いので、低血糖を起こしている可能性があります。食後低血糖は1.5AGの値に現れます。この方は11μg/mLまで下がっており、日常的に食後低血糖を起こしていると推測できます。

血糖値が食後に急激に上がると尿から糖を排出します。その成分の1つが1.5AG です。先述の5時間糖負荷検査の右側の男性のように、高血糖から低血糖になるパターンでは、1.5AGが排出されるので値が低くなるのです。大体14μg/mL以下で食後低血糖を疑います。

血液データの他にポイントとなるのが、食事内容と主訴です。糖分をそこそこ食べているにも関わらず、HbA1cが低めの場合は、昼間の眠気やメンタル症状などをヒアリングします。主訴とデータを繋ぎ合わせると、その人の血糖の状態を読み解くことができます。

7-6. 低血糖症チェックリスト

低血糖症と副腎疲労はセットで起こるので、低血糖の有無を把握するのに副腎疲労チェックシートが使えます。

  • 朝起きるのがつらい
  • 熟睡できず、朝目が覚めても疲れがとれていない
  • 甘いものや塩分が濃いもの(しょっぱいもの)が好き
  • エネルギーが不足している感じがする。元気が出ず、だるい
  • 今までで来ていた日常的なことをやるのに一苦労する
  • 性への興味が低下している。性欲がない
  • ストレスにうまく対処できない。小さなことでもイライラし人に八つ当たりしてしまう
  • 風邪や呼吸器の感染症に罹りやすい。罹ってもなかなか治らない。ぶつけた傷も治りにくい
  • 気持ちが落ち込む。うつっぽい感じがする
  • 人生に何の意味も見いだせない。楽しいことがない
  • PMS(月経前症候群)が悪化している。月経の始まる数日前から、腹痛・頭痛・肩こり・むくみ・便 秘・下痢・眠気・気分の落ち込みなどが激しくなる。これらの症状は月経がはじまると軽快する
  • コーヒーやコーラなどのカフェインの入った飲み物やチョコレートを口にしないとやる気が出ない
  • ボーっとすることが多い。集中力が低下した
  • 物忘れをすることが多くなった。昼食に何を食べたか思い出せないほど記憶力が落ちた気がする。
  • 食事をスキップするとぐったりしてしまう
  • 甘いものを食べると元気になるが、その後だるくなる
  • 我慢が出来なくなり、急にきれてしまう。
  • 夕食後の午後6時以降になると少しずつ元気になってくる

「塩分の濃いものが好き」というのは、副腎疲労の初期症状で、ナトリウム/カリウムのバランスが悪くなることが原因で起こります。風邪にかかりやすいのは、コルチゾールの消耗が激しく免疫が下がっているからです。

7-7. 抗インスリンホルモンの影響

低血糖症で様々なメンタル症状が出てくるのは、血糖値を上げる抗インスリンホルモンの影響があります。カテコラミンと呼ばれるアドレナリンやノルアドレナリンが出過ぎるために、イライラや不安感などが出てくるのです。

血糖値を上げるホルモン
・コルチゾール:ストレスホルモン、炎症
・グルカゴン:胃腸の働きを抑制
・カテコールアミン:興奮、不安感

7-8. 低血糖症の外見的特徴

低血糖症の方は、胸鎖乳突筋が張っている場合が多いです。怖い!と感じると首をすくめますよね。カテコラミンレベルの高い人は、常に恐怖感や緊張感を持っているので、必然的に首や肩が凝ってしまうのです。

寝てる間も、歯軋りや食いしばりをするので、咬筋が張って顔が四角くなってきます。歯軋りや食いしばりは自覚症状がない場合が多いですが、歯が臼状に削れていたり、骨が隆起していると要注意です。寝ている間は絶食状態なので、低血糖症状を起こす確率が非常に高くなります。

7-9. 低血糖症の血液データ

低血糖症の特徴として、中性脂肪が低いことが挙げられます。

この症例の方は36mg/dLとかなり低い値です。一方、尿素窒素(BUN)が29mg/dLととても高くなっています。低血糖状態でエネルギー不足に陥っているので、脂肪酸を分解してエネルギーを得ようとし、中性脂肪が下がります。それでも足りず、今度は筋肉中のタンパク質を分解してエネルギーを作るので、タンパク質の残りカスである尿素窒素が高くなります。

この方の5時間糖負荷検査の結果がこちらです。maxで237mg/dLまで上がっており、その後45mg/dLまで下がっています。寝落ちをしてしまう、感情の起伏が激しいなどの主訴があり、食いしばりや胸鎖乳突筋の張りなどの所見もありました。

7-10. 食事内容を問診する

血糖の状態を把握するために、食事内容の問診は必須です。まずは糖が多いパターンです。

朝はコーヒーとパン、昼にラーメンライス、夜はピザとアルコール…。明らかに炭水化物に偏っています。アルコールは体内では毒物と認識されるので、解毒が優先され、糖代謝が後回しになります。したがって、低血糖症状を起こしやすくなります。

上はしっかり食べていないパターンです。朝食はヨーグルトとバナナ、昼食はおにぎり1個と即席味噌汁とサラダ、夜はスープとパンだけ。1人暮らしの女性にありがちな食事内容ですが、これでは完全にエネルギーが枯渇してしまいます。

8. 糖代謝と肝機能

糖代謝を推測するには、低血糖の症状や主訴の他に、筋肉と肝臓の状態が手がかりになります。特に、グリコーゲンの利用、糖新生、脂肪酸の代謝、これらは全て肝臓で行われるため、ALTやγ-GTPの値がマーカーになります。

8-1. 非アルコール性脂肪肝

アルコールをほとんど飲まないのに、AST<ALTになっているケースを非アルコール性脂肪肝と言います。γ-GTPはBUNと同じくらいの値が理想的ですが、γ-GTPが高い場合は脂肪肝を疑います。甘いお菓子や清涼飲料水などの甘い飲み物を好む人に多くみられます。

8-2. 脂肪肝がよくないワケ

脂肪肝が良くないのは、エネルギー代謝において肝臓が非常に重要な働きをもつ臓器だからです。肝機能はしっかりと把握しておくべきでしょう。

  • 肝臓の役割
  • 糖の代謝
  • 糖の貯金(グリコーゲン)
  • 糖新生
  • ケトン体代謝

9. 炭水化物の選び方

9-1. 糖の分類

さて、ここからは実践編です。まずは糖の分類を頭に入れておきましょう。

最近は、人工甘味料や糖アルコールも増えてきたので、現代版の分類はこのようになります。

9-2. お米

炭水化物源として最もおすすめなのがお米です。複合炭水化物と言って、炭水化物以外にもミネラルやビタミン、食物繊維などがたくさん入っています。白米は血糖が上がりやすいので、玄米、分づき米、雑穀米、麦飯などを選ぶと良いでしょう。

胚芽の部分を少し残してある金芽米と呼ばれるお米が売れているそうです。食味が白米に近いので、慣れていない方には良いと思います。混ぜるタイプの雑穀も使いやすいです。分づき米もお勧めですが、油分を含むので酸化しやすい点は注意が必要です。真空パックのものや、購入単位で精米してくれるお店を選ぶと良いですね。

今の流行りは秋田こまちやコシヒカリなどの高アミロペクチン米ですが、消化に負担がかかり血糖値を上昇させやすいというデメリットがあります。アミラーゼやジアスターゼなどの消化酵素は、分子の末端から作用するので、グルコースが一気に増えるためです。

血糖値が上がりにくいのは高アミロース米です。ササニシキやヒトメボレ、朝日、ジャスミンライス、バスマティラスなど、原種に近いほどアミロースが高くなり、あっさりとした食味になります。

9-3. みりん

みりんに含まれる糖質は、グルコース、イソマルトース、オリゴ糖などです。また、みりんは、グルタミン酸やロイシン、アスパラギン酸といったアミノ酸も含みます。私が愛用している「母の味」は、みりんと同じ製法で作られていますが、食塩を加えてあるので、発酵調味料に分類されます。右は本みりんです。本物のみりんは本当に美味しく、砂糖なしで味が決まるのでとても重宝します。

スーパーでよく目にするみりん風調味料はコクを出すために水あめなどの糖類を足しているのでお勧めしません。調味料は毎日使うものだから、ぜひ本物を使ってほしいと思います。

9-4. 砂糖

砂糖(スクロース, ショ糖)はブドウ糖と果糖が1分子ずつ結合した二糖類で、サトウキビが原料です。黒砂糖はサトウキビの絞り汁をそのまま煮詰めたものなので、ミネラルなど様々な栄養成分が入っています。

粗糖や海外でよく売られているブラウンシュガーは、サトウキビの絞り汁に石灰を加えて不純物を沈澱させ、上澄み液を煮詰めたものです。黒砂糖よりは不純物が少なくなります。黒砂糖ほどクセがないので、私は普段使いには粗糖を使っています。煮魚などを作るときは、少し黒砂糖入れてコクを出します。精製された白砂糖はミネラル等の栄養素がないので使っていません。

9-5. てんさい糖

マクロビオティックなどでよく使われるのがてんさい糖です。テンサイ(サトウダイコン)が原料です。サトウダイコンといっても、形状が大根に似ているだけで別物です。成分はスクロースがほとんどで、少量のオリゴ糖を含みます。テンサイは北の地方で育つため、陰陽思想から身体を冷やさないと言われますが、根拠は不明です。はちみつのようなコクがあり、砂糖の代わりとして使えます。

9-6. 羅漢果(ラカンカ)

羅漢果は、甘味成分のテルペングルコシド配糖体が小腸で吸収されずに排泄されるため、インスリンに影響せず、血糖値も上げません。要はカロリーゼロということです。糖尿病の方は活用されると良いでしょう。ただし、砂糖とは質の異なる甘味なので、多少使いづらさがあるかもしれません。

羅漢果を原料にした製品が市販されていますが、ほとんどはエリスリトールが添加されたものです。

9-7. 糖アルコール

糖アルコールは自然界に存在する糖です。代表的なものに、エリスリトールやキシリトールがあります。エリスリトールは果実の発酵で発生する希少糖で、インスリンに影響せず、血糖値も上げません。非う触性で虫歯になりにくいとされています。

問題は、流通している糖アルコールのほとんどが、遺伝子組換えトウモロコシから作られているということです。カーギル社のTruviaというエリスリトールをハエに与えたところ1週間で死滅した、という論文もあります。ただし、そのメカニズムはよくわかっていません。スクロースやコーンシロップ、アスパルテームなどでは、同じ現象は起きなかったそうです。

Published: June 4, 2014
Erythritol, a Non-Nutritive Sugar Alcohol Sweetener and the Main Component of Truvia®, Is a Palatable Ingested Insecticide
https://journals.plos.org/plosone/article?id=10.1371/journal.pone.0098949

人体への影響はまだわからない部分も多くあるので、エリスリトールを使う場合は、iHerbなどでNon-GMOエリスリトールを入手すると良いと思います。

キシリトールも天然成分で、カバノキから発見された希少糖です。虫歯の原因となるミュータンス菌の代謝を阻害するので、虫歯予防のガムなどに良く使われています。これも遺伝子組換えトウモロコシが原料であることがほとんどです。

9-8. トレハロース

ライ麦から発見された二糖類で、トレハロースという糖があります。エビやキノコ類など、様々な生物に含まれる天然成分です。他の希少糖と同じく、インスリン分泌に影響せず、血糖値も上がりにくい糖です。

Nutr J. 2017 Feb 6;16(1):9.
Glycemic, insulinemic and incretin responses after oral trehalose ingestion in healthy subjects.
https://nutritionj.biomedcentral.com/articles/10.1186/s12937-017-0233-x

コンビニのおにぎりや冷凍食品、菓子類などにもよく使われています。商品としてのトレハロースは、遺伝子組換えトウモロコシやジャガイモなどから合成されています。甘味は砂糖の半分くらいで、品質保持や保湿剤、防臭、防腐剤として利用されています。かなり安全性高いとされていましたが、最近になって腸内細菌に悪影響を及ぼすという報告も出てきました。クロストリジウム・ディフィシルの増加などが懸念されています。

Nature. 2018 Jan 18;553(7688):291-294. doi: 10.1038/nature25178. Epub 2018 Jan 3.
Dietary trehalose enhances virulence of epidemic Clostridium difficile
https://www.nature.com/articles/nature25178

9-9. ステビア

キク科のステビア属の多年草から抽出される天然成分です。これも血糖値を上げない、カロリーゼロの糖です。砂糖の300倍の甘味度があるので、ダイエット飲料によく使われます。かつてペルーやパラグアイの先住民がステビア茶を避妊薬として飲んでいた歴史があり、不妊症との関連が取り沙汰されています。論文などでは決定的なものはありませんが、そういった側面があることは知っておきましょう。

9-10. HFCS(high-fructose corn syrup)

果糖ブドウ糖液糖、コーンシロップ、高果糖液糖などの異性化糖をHFCSと呼びます。遺伝子組換えトウモロコシなどを加水分解してブドウ糖を作り、その一部を酵素で果糖に異性化したものです。過剰摂取により、心臓病やインスリン抵抗性、高血圧、脂質異常症、肥満、交感神経の促進、高尿酸のリスクがあることがわかっています。清涼飲料水やドレッシングによく使われます。飲み物は咀嚼をしないため、血糖値がスパイクしやすいので注意が必要です。

9-11. 人工甘味料

「人工」と付くことからわかるように、自然界に元々存在しない甘味料で、アスパルテーム、アセスルファムK、スクラロース、サッカリン、ネオテームなどがあります。残念ながらネガティブな報告が多く存在します。

  • 視床下部の摂取行動をコントロールする神経細胞に影響する
  • レプチン(食欲を抑えるホルモン)を一時的に中断させる
  • 腸内細菌叢に悪影響を与え、インスリン抵抗性を生じ肥満を誘導する
  • 活性酸素の発生源
  • 内分泌かく乱作用の疑い

エビデンスに乏しいものもありますが、確実にわかってるのは、腸内細菌叢に悪影響を与えるということです。腸内細菌叢を撹乱させるので、インスリン抵抗性が生じ肥満を誘導します。

Nature volume 514, pages 181–186 (09 October 2014)
Artificial sweeteners induce glucose intolerance by altering the gut microbiota
https://www.nature.com/articles/nature13793

人工甘味料がよく使われる理由は、その安さにあります。砂糖1kgと同じ甘さを出すには、例えばスクラロースの場合、約7分の1のコストで済みます。カロリーゼロを謳える上にコストメリットもあるので、企業側としては使い勝手の良い原料かもしれませんが、様々なリスクを抱えていることは事実です。

下は糖類ゼロと謳った商品の原材料です。「糖質ゼロ」とは違い、「糖類ゼロ」は人工甘味料の他に、還元水あめなども含んで良いことになっています。表示に惑わされないようにしましょう。

9-12. 加工でんぷん

最近原材料表示でよく目にするのが加工でんぷんです。これはでんぷんに物理的、化学的、あるいは酵素的処理を加えて作った食品添加物です。乳化剤や安定剤、増粘剤として使われます。「加工でんぷん」と表示されますが、中身は、アセチル化アジピン酸架橋デンプンやアセチル化酸化デンプン、ヒドロキシプロピルデンプン、ヒドロキシプロピル化リン酸架橋デンプンなどです。

ヒドロキシプロピル化リン酸架橋デンプンとリン酸架橋デンプンには発癌性があるため、ヨーロッパでは幼児食品への使用が禁止されています。また、ヒドロキシプロピルデンプンは鉄や亜鉛の吸収を阻害することがわかっています。

The Journal of Nutrition, Volume 131, Issue 2, February 2001, Pages 294–300
Hydroxypropyl-Distarch Phosphate from Tapioca Starch Reduces Zinc and Iron Absorption, but not Calcium and Magnesium Absorption, in Rats
https://doi.org/10.1093/jn/131.2.294

加工でんぷんも様々な加工食品に添加されています。こちらは最近流行りのタピオカですが、こちらの商品の中身は全て食品添加物でできていました。

最後に、私のセミナーでは、栄養療法初心者の方向けにこんなお話をすることがあります。

これらの食品の中で糖質が一番少ないものはロールパンですよね。カロリーが一番少ないものはヤクルトです。では、一番良質な糖はどれでしょう?

そう、じゃがいもです。

現代は様々な糖で溢れていますが、糖質やカロリーだけで判断せず、良質な糖を意識して選ぶことがとても大切なのです。

10. まとめ

いかがでしたか?今回は糖代謝について詳しく解説しました。解糖系、TCA回路、電子伝達系を経て、1個のグルコースから38個のATPが作られます。他にもコリ回路、ペントース・リン酸経路、グルクロン酸経路といった代謝に糖が使われ、DNA・RNAの合成や解毒の材料になります。糖は体にとって重要な栄養素で、糖代謝が滞ると様々な不調を抱えてしまうことになるのです。

糖代謝の状態を推測するには、血糖値や肝機能を表す血液データが手がかりとなります。空腹時血糖は正常でも、インスリンの分泌が悪く、食後低血糖を起こしている人も少なくありません。低血糖状態が続くと、イライラや不安感などメンタルに影響します。また、糖代謝において最も重要な臓器は肝臓です。特に脂肪肝がある人は、食生活の見直しが必要でしょう。

様々な糖が溢れている現代においては、良質なものを選ぶ意識がとても大切です。日本人の主食であるお米は、最もおすすめの炭水化物です。ぜひ皆さんも、普段何気なく摂っている糖を見直し、エネルギーリッチな体づくりを実践してみてください。

鉄と赤血球

まごめじゅん · 2021年5月18日 ·

疲れがとれない、朝からだるいといった症状に悩んでいませんか?それはもしかしたら「鉄不足」が原因かもしれません。鉄不足は体の代謝全体に影響を及ぼすため、疲労感、冷え性、イライラ、立ちくらみ、肩こりなど、症状は多岐にわたります。

日本人女性の約7割は潜在性鉄欠乏と言われています。鉄は生命維持に不可欠なミネラルである一方、活性酸素の原因になったり、細菌が増殖しやすくなるので、足りないからと安易に鉄サプリメントを飲むと症状が悪化することがあります。今回は、鉄代謝や赤血球の基礎知識、鉄不足の根本原因を探る方法などを詳しく解説します。

鉄の基礎知識

多量ミネラルと微量ミネラル

体に必要なミネラルには2種類あります。1日の必要量がおよそ100mg以上の多量ミネラルとおよそ100mg以下の微量ミネラルです。微量ミネラルには、鉄、亜鉛、銅、マンガン、ヨウ素、セレン、クロム、モリブデンがありますが、その中で最も体内に多く存在するのが鉄です。

多量ミネラル
1日の摂取量が100mg以上

ナトリウム
カリウム
マグネシウム
リン
塩素
硫黄

微量ミネラル
1日の摂取量が100mg以下

鉄
亜鉛
マンガン
ヨウ素
セレン
クロム
モリブデン

機能鉄と貯蔵鉄

体内には3000~4000mgの鉄が存在しており、そのうち7割は赤血球と結合しています(機能鉄)。残り3割は、肝臓や脾臓、骨髄、小腸の粘膜に貯蔵されています(貯蔵鉄)。代表的な貯蔵鉄がフェリチンです。

鉄の重要性

栄養療法で鉄が重要視されるのは、エネルギー産生に関わるからです。他にも、 スーパーオキシドディスムターゼ(SOD) の構成要素として抗酸化に必要であったり、コラーゲンなどのタンパク質産生にも関わっています。

  • 酵素を運ぶ赤血球の主な構成要素
  • 電子の輸送とエネルギー代謝で必要
  • SODの構成要素として抗酸化力に必要
  • コラーゲンなどタンパク質の産生に必要

エネルギー産生と鉄

タンパク質、糖質、脂質、これらの3大栄養素からエネルギーが産生される過程のうち、酸素の運搬、TCA回路、電子伝達系、この3箇所で鉄が必要になります。

TCA回路では、アセチルCoAからクエン酸、コハク酸からフマル酸が生成される際に鉄が必要です。

電子伝達系では、ミトコンドリアの内膜と外膜の電位差によりエネルギーが作られますが、その際に働くチトクロムCオキシダーゼという酵素に鉄が含まれます。

スーパーオキシドディスムターゼ(SOD)

ストレスや毒物によって活性酸素が発生したとき、一番最初に戦ってくれるのがSODと呼ばれる酵素です。この活性中心にも鉄があります。他にも、銅や亜鉛、マンガンなどのミネラルを含むSODもあります。

鉄欠乏の症状

鉄は全身の代謝に影響しているため、鉄不足の症状は多岐にわたります。

  • 疲れやすい
  • 寝起きが悪い
  • 風邪を引きやすい
  • 浮腫み
  • 便秘・下痢
  • 食欲不振
  • 吐き気
  • 動悸・息切れ
  • 胸が痛む
  • 頭痛・頭重
  • 冷え性
  • 月経の異常
  • 神経過敏
  • 注意力低下・イライラ
  • 洗髪時に髪が抜けやすい
  • アザができる
  • 湿疹ができやすい
  • 顔色が悪い
  • 喉の不快感
  • 立ちくらみ・めまい・耳鳴り
  • 歯茎の出血
  • 肩こり・腰痛
  • 背中の痛み

日本女性の鉄不足は深刻です。特に消化管の機能が弱まっている人は、動物性タンパク質を好まないので、より一層鉄不足に陥りやすくなります。

20〜29歳女子の食事摂取基準と比較した栄養素摂取量
『厚生労働省 平成25年度 国民栄養調査』より

鉄欠乏の所見

鉄が欠乏すると爪や舌に変化が見られます。爪はスプーンネイルと言って反り返ったように変形します。ここまでいかなくとも、平たい爪や柔らかい爪、薄く脆い爪は貧血のサインです。舌はピカピカ光った感じになることがあります。また、舌の裏側に太い血管が走っていますが、どす黒く見える場合は鉄欠乏を疑います。漢方の分野で瘀血と言われる症状です。

鉄の代謝

鉄の代謝は閉鎖的

体内には3000~4000mgの鉄が存在しますが、体内でリサイクルされるため、体外への排出量は1日あたり1mgとわずかです。ただし有経女性の場合、1回の月経で30mg程度失うため、圧倒的に鉄欠乏が起こりやすいといえます。

鉄のリサイクル

体内に存在している鉄の約7割は赤血球に結合している機能鉄で、残りの400~1000mgは貯蔵鉄として蓄えられています。赤血球をつくるために必要な鉄は20mg/日、古くなった赤血球から回収される量も20mg/日です。そして、消化管粘膜細胞から剥がれ落ちて体外に排出される量が1mg/日ですから、その分は食べ物から補給しないとどんどん鉄の貯金が減ってしまいます。

鉄は吸収率が悪く、ヘム鉄で25%、非ヘム鉄で5~10%程度しか吸収されません。そうすると、1日に10mgくらいは摂取する必要があるということになります。

鉄のリサイクル(有経女性の場合)

有経女性は、男性の倍のスピードで鉄を消費してしまいます。貯蔵鉄が1000mgあった場合、男性は1000日持ちますが、女性は500日しか持たないということです。有経女性であれば、1日12mgくらいは摂取したほうが良いでしょう。食事としてはステーキをもう1枚増やすイメージです。

マクロファージの働き

マクロファージはとても大きな免疫細胞で、細菌やがん細胞を食べて殺菌する働きを持ち、これを貪食と言います。120日の寿命を終えた赤血球も、マクロファージによって貪食されます。その際に鉄を分離して骨髄に提供します。しかし、マクロファージからの供給が不安定なため、足りない時は貯蔵鉄であるフェリチンを使います。

血液の工場は骨髄

血液は骨髄でつくられます。ボーンブロスなどを作るときに骨の断面を観察すると、赤いものと白いものがあることがわかります。これは、造血している骨髄は赤く、休眠している骨髄は脂肪化して白くなるためです。

鉄の吸収

鉄の種類

食品中の鉄には二価の鉄(ヘム鉄・Fe2+)と三価の鉄(非ヘム鉄・Fe3+)があります。ヘム鉄は赤身肉などに多く含まれ、非ヘム鉄は野菜などに含まれます。鉄は回腸上部の十二指腸で吸収されます。後で詳しく解説しますが、鉄はあらゆる細菌にとって必要なエネルギーです。したがって、十二指腸よりも先に進むと、腸内細菌に鉄を奪われてしまう恐れがあるため、無菌状態である回腸上部で吸収される仕組みになっていると考えられます。

鉄吸収を阻害するもの

鉄の吸収を阻害するものには、フィチン酸やシュウ酸があります。フィチン酸は、玄米やとうもろこし、胡麻に含まれる物質です。シュウ酸は緑茶やコーヒー、ほうれん草などに含まれる苦味成分です。緑茶やコーヒーと一緒に鉄剤を飲むと、吸収率が落ちると言われています。

ヘム鉄と非ヘム鉄の吸収

ヘム鉄はHCP1という入り口から小腸粘膜に取り込まれ、フェリチンの形でストックされます。体で必要が生じると、トランスフェリンという鉄を運ぶトラックに乗って必要なところに運ばれます。

非ヘム鉄の吸収

非ヘム鉄は三価から二価の鉄に変わらないと小腸粘膜から吸収されません。この時必要なのが胃酸とビタミンCです。胃酸は食材から鉄を分離するのに必要です。ビタミンCは、鉄を還元して小腸の細胞が吸収しやすい形にしてくれます。動物実験で、ビタミンC75mg存在下で鉄の吸収率が4倍になるという報告もあります。また、三価の鉄から二価の鉄になる際は、DcytBという鉄還元酵素が働きます。この酵素が働いてくれると、非ヘム鉄の吸収がよくなります。

亜鉛や銅といったミネラルも同じ入り口を使うので、治療で1日100mgくらいの亜鉛を摂取していると鉄の吸収が落ちてしまいます。逆に鉄サプリを飲み過ぎると亜鉛不足になります。自然の食べ物で競合することはほとんどありませんが、サプリメントを摂る場合は、朝に鉄サプリを飲んで亜鉛は夜に飲むなど、飲み方の工夫が必要です。

ヘム鉄サプリが良いと言われるのは、胃酸やビタミンCを考慮しなくても良いことや、ヘム鉄専用の入り口があるので吸収されやすいことが理由です。

赤血球の基礎知識

ヘモグロビン

赤血球はヘモグロビンを含みます。柔らかくて真ん中が凹んだビーズクッションを破ると、中に小さいつぶつぶがいっぱい入ってます。その1粒1粒がヘモグロビンといったイメージです。ヘモグロビンはヘムとグロビンでできています。グロビンはタンパク質、ヘムはポルフィリンの中に鉄を含んだものです。

ヘムはポルフィリン環と呼ばれる環状構造になっており、中心に鉄を含みます。ポイントは、ポルフィリン環で鉄が厳重に包装されているということです。

グロビンは複雑な四次構造をしています。4つのパートがあり、黄色い丸がヘムです。肺で受け取られた酸素はヘム鉄に緩く結びつき、全身の血流に乗って細胞に届けられます。

血液データ

赤血球数(RBC)の理想値は450μLです。ヘモグロビン(Hgb)は、女性13、男性15g/dLを目安にします。ヘマトクリット(Hmt)は血液100mL中に占める赤血球の割合を示し、40%くらいが目安です。RBC、Hgb、Hmtがわかると、あとは計算で算出できます。

  • MCV:[ヘマトクリット値÷赤血球数]×10
  • MCH:[ヘモグロビン÷赤血球数]×10
  • MCHC:[ヘモグロビン÷ヘマトクリット値]×100

MCVは赤血球の大きさを示す値で90fLが理想値です。90fL未満で鉄欠乏が疑われます。MCHは赤血球内のへモグロビン量、MCHCは赤血球内のヘモグロビン率で、両方とも31くらいです。MCHとMCHCは赤血球の質を表します。鉄欠乏のひどい人ほどMCHとMCHCが下がります。

  • RBC:450 μL
  • Hgb:13(女性)、15(男性)g/dL
  • MCV:90 fL
  • MCH:31 pg
  • MCHC:31 %

血液の分画

「全血」や「血清」といった言葉をよく耳にすると思います。それぞれ何を指しているのか整理しておきましょう。採血したての血液が全血です。全血を遠心分離すると、血漿と血球成分に別れます。血球成分には、赤血球や白血球、血小板などが含まれます。さらに放置しておくと血漿内のフィブリノーゲンが沈澱します。この状態の上澄みを血清と言います。

赤血球の成長過程

赤血球の工場は骨髄にあります。骨髄中の造血幹細胞から、白血球や血小板など、様々な細胞に分化します。赤血球は、前駆細胞、前赤芽球、赤芽球、網赤血球、赤血球というように成長していきます。

赤芽球には核がありますが、網赤血球になる時に核を捨てます(脱核)。その後、中身がきれいに掃除され、真ん中が凹んだような形になって成熟したものが赤血球です。赤血球の成長過程で重要なポイントは脱核です。赤血球には核がない、つまりタンパク質の設計図を持っていないということです。

網(状)赤血球

細胞核が抜け落ち、リボソームやミトコンドリアなどの残骸が網のように見える赤血球を網赤血球と呼びます。

erythroid cells
引用:http://www.ft-patho.net

網赤血球は生まれたばかりの赤血球です。数値が低い場合は骨髄での造血能力に何らかの異常があり、逆に高い場合は溶血によりたくさん造血しなければいけない状況にあることが示唆されます。

赤血球と栄養素

赤血球が成熟していく段階で必要な栄養素がそれぞれ異なります。造血幹細胞から分化する際にはビタミンAとビタミンD、脱核の際はビタミンB12と葉酸が必要です。網赤血球には鉄が必要で、赤血球の形を保つためにコレステロールとビタミンEも重要になってきます。

赤血球とコレステロール

通常の細胞では、コレステロールは細胞内で合成され、細胞膜の脂質二重層にコレステロールが入り込み、柔軟性と保形性を維持しています。しかし、赤血球はコレステロールを合成できないため、血液中のコレステロールを取り込んで細胞膜を形成します。したがって、食べた栄養素の影響を受けやすいと言えます。

赤血球の変形能と糖

赤血球にはミトコンドリアもないので、唯一のエネルギー源は糖です。したがって、低血糖の場合、赤血球の機能は著しく低下します。

赤血球は毛細血管の幅より大きいため、自身の体を折り畳んで毛細血管の中に入っていきます。これを赤血球の変形能といいます。この変形能を維持するためにエネルギーとして糖を使います。赤血球の変形能をキープするための1日に必要な糖の量は20gです。ストイックに糖質制限をする場合、1日に最低限必要な糖の量は20gと言われていますが、それはここからきています。

赤血球の真ん中がくぼんだ形をしているのは、表面積を大きくして酸素をたくさん取り込むためと、折り畳んで毛細血管に入るためです。血管の9割は毛細血管で、全てを繋ぐと10万kmにも及ぶと言われています。

美容本などでゴースト血管という言葉を目にしますが、これは血液が通っていない毛細血管を指します。血が通わないので徐々に萎縮してくるのですが、足首の内側に小さな赤いミミズのような模様が確認できたら、それがゴースト血管です。健康な体を維持するためには、その血管の隅々まで酸素を送り届けることがポイントで、それには運動が欠かせません。

貧血とその種類

鉄を運ぶトランスフェリン

鉄はトランスフェリンに乗って運ばれます。鉄は活性酸素の発生源で、かつ細菌に奪われやすいので、専用のトラックに乗せられて慎重に運ばれるのです。検査結果に血清鉄という項目がありますが、これは鉄を乗せたトランスフェリンの数を示しています。

トランスフェリンは鉄欠乏の重要なマーカーになります。TIBC(総鉄結合能)はトランスフェリンの総数を表します。鉄を乗せているトランスフェリンは血清鉄ですから、TIBCから血清鉄を引くと鉄を乗せていないトランスフェリンの量がわかります。これがUIBC(不飽和鉄結合能)です。TIBCとUIBCは混同しやすいですが、TotalのT、Unsaturated(不飽和)のUを覚えておくとわかりやすいですね。

TIBCやUIBC、血清鉄の値で、貧血状態や炎症の有無を推測することができます。TIBC300、血清鉄100、UIBC200を目安に、それより多いか少ないかで判断します。

溶血性貧血の場合、赤血球が壊れるので、鉄を回収するために血清鉄の値が上昇します。また、鉄欠乏性貧血の場合は、血清鉄が下がりUIBCが増えます。体が鉄を要求しているので、空のトラックをたくさん用意して待機しているのです。一方、細菌感染などで炎症が起こると、体は鉄を横取りされまいとして鉄吸収を止めます。その時はUIBCとTIBC、共に減少します。このように、TIBCとUIBCのバランスを見て、体内で何が起こっているのかある程度推測することができます。

血液データで見る鉄

こちらは比較的健康だと自覚のある方々のデータです。

上から2番目の女性は、フェリチン125、血清鉄106、UIBC218と、とても健康的な結果です。一方、1番上の女性は、最低30はほしいフェリチンの値が3.9と、貯蔵鉄がほとんど空っぽの状態です。体が鉄を要求しているので、UIBCは357と高い数値を示しています。

鉄欠乏性貧血

鉄欠乏性貧血の場合はこのようなデータになります。

赤血球数が400万を下回り、ヘモグロビンが11.2と低い数値になっています。網赤血球が1ケタということは、血を作る元気すらないというイメージができます。

データで判断する鉄欠乏性貧血
☑️ RBC↓
☑️ Hgb↓
☑️ ヘマトクリット↓
☑️ MCV↓
☑️ MCH、MCHC↓

溶血

物理的、化学的、または生物学的要因によって赤血球の細胞膜が損傷を受け、寿命の120日を迎えずに死んでしまう現象を溶血といいます。溶血すると赤血球の内容物が飛び出してくるので、各データの数値が上がります。間接ビリルビンの理想値は0.5~0.6ですが、0.6以上になると溶血を疑います。

データで判断する溶血
☑️ 血清鉄↑
☑️ 間接ビリルビン↑
☑️ 網赤血球↑
☑️ カリウム↑
☑️ LDLコレステロール

スポーツ性貧血

ランニングや着地の衝撃で溶血が起こり、貧血になることもあります。スポーツ選手に多いパターンです。また、激しい運動により活性酸素が発生するため、赤血球の細胞膜がダメージを受けやすくなります。溶血で失った分を取り戻すために体は一生懸命造血しようとするので、赤血球の赤ちゃんである網赤血球の値が上昇します。

2018年に、駅伝出場選手が鉄剤注射をしており、不適切な鉄剤注射の防止に関するガイドラインが発表されたというニュースが出て、SNSなどで拡散されました。駅伝の女子選手の静脈注射経験者は15%以上だったそうです。

溶血の症例を見てみましょう。この方はランニングが習慣です。間接ビリルビンが高く、血清鉄が168と高めです。逆にUIBCが低くなっています。溶血の原因は生活習慣と照らし合わせて判断する必要があります。

アルコールと溶血

下の症例の方は体格のいい健康な男性のデータです。数値だけで判断すると、赤血球数が379と低めで、MCVが111と高いので、巨赤芽球性貧血で胃酸不足かなと推測してしまうのですが、それはちょっと早とちりです。

話を聞くと、前日にお酒を飲んでいることがわかりました。飲酒によっても溶血するので、データはズレてしまいます。目の前の人間像と全く違うデータが出ることもあるので、前日の睡眠不足や飲酒の有無などは確認が必要です。

巨赤芽球性貧血

ビタミンB12と葉酸が不足すると脱核がうまくいかず、サイズが大きく寿命の短い赤血球ができてしまいます。脱核が不十分な赤血球は鉄を運ぶことができないため、貧血を招いてしまいます。これを巨赤芽球性貧血と言います。巨赤芽球性貧血の原因はDNA合成障害です。ビタミンB12と葉酸はDNA合成に関わります。ビタミンB12にはコバラミンとメチルコバラミンが、葉酸には5メチルテトラヒドラ葉酸とテトラヒドラ葉酸があります。メチル基がくっついたり離れてたりする反応でDNAが合成されていきます。

MCVが80~100では4人に1人、115~129では2人に1人、130以上で全ての人が巨赤芽球性貧血と言われています。ビタミンB12と葉酸は幹細胞から分化するタイミングで必要な栄養素なので、それらが欠乏しているということは、白血球や血小板など、他の血液成分も低くなっている可能性があります。

腎性貧血

腎臓からエリスロポエチンというホルモンが分泌されると赤血球が作られます。腎臓機能低下によりホルモンが分泌されないと、造血能力が低下します。これを腎性貧血と言います。稀なケースではありますが、基礎知識として覚えておきましょう。

鉄と細菌

地球上のあらゆる生命体が鉄を栄養源としていると言っても過言ではありません。私が栄養療法を始めた頃、貧血改善のために半年ほどヘム鉄サプリを50~60mm飲んでいました。満を持して採血したところ、なんと良くなるどころか悪化していたのです。この結果を自身のSNSで発信したところ、名前も知らない男性から、論文が送られてきました。

Front. Cell. Infect. Microbiol., 19 November 2013
Shared and distinct mechanisms of iron acquisition by bacteria and  fungal pathogens of  humans 
https://www.frontiersin.org/articles/10.3389/fcimb.2013.00080/full

ここには、菌も鉄を必要としているから、鉄サプリを飲み過ぎると悪い細菌が増殖するという内容が書かれていました。とても衝撃を受けた記憶があります。

シデロフォア

この論文にシデロフォアという物質が出てきます。細菌や植物などが分泌する鉄キレート剤で、細菌が人間の体に住み着くと、このシデロフォアを使ってトランスフェリンから鉄を奪い取ろうとするそうです。細菌内の鉄分濃度は一定濃度に維持できないと死滅してしまいます。だから必死になって鉄を奪おうとしてきます。

エンテロバクチン
e.coli(大腸菌)のシデロフォア

ヘプシジンとフェロポルチン

細菌感染で鉄を奪われまいと、人間の体内ではヘプシジンというホルモンを出して対抗します。ヘプシジンは生体内唯一の鉄輸送タンパクであるフェロポルチンをコントロールすることで、鉄の代謝を抑制します。鉄が小腸粘膜から血液に移行する際に、フェロポルチンというゲートを通るのですが、そこを制御しているのがヘプシジンです。細菌感染があると、ヘプシジンの命令でフェロポルチンのゲートが閉まるという仕組みになっています。

腸管の鉄代謝の他に、マクロファージの貪食によりリサイクルされる鉄もヘプシジンが制御しています。

  • 腸管からの鉄吸収を抑制する
  • マクロファージからの鉄の放出を抑制する
    → 鉄が体内に入らないようにする
    → 鉄がリサイクルされないようにする

ヘプシジン投与によりフェロポルチンが一気に減るという報告もあります。鉄が過剰なとき、炎症があるときはヘプシジンが鉄代謝を止めます。自然の食べ物から摂取する分にはあまり問題ありませんが、鉄サプリメントを摂る時は、感染や炎症は必ず考慮する必要があります。

Pulmonary arterial hypertension: scientific advances
S36 Ferroportin Is Expressed In Human Pulmonary Artery Smooth Muscle Cells: Implications For Pulmonary Arterial Hypertension 
https://thorax.bmj.com/content/69/Suppl_2/A21.1

ヘプシジンとシデロフォア

シデロフォアは細菌が持っている武器で、それに対抗するために人間の体はヘプシジンを作っているということです。炭疽菌や結核菌、腸炎ビブリオ、エンテロバクターなど、ほぼ全ての病原菌は増殖に鉄を必要とします。人間の体内でポルフィリン環で厳重に包まれて輸送されているのも納得がいきますね。

鉄と慢性炎症

貧血の原因として、摂取量が少ないことも一因ではありますが、炎症で体が鉄の代謝を止めている可能性も疑わなければいけません。

  • 歯周病
  • 歯根感染
  • 肥満
  • ピロリ菌感染
  • 副鼻腔炎
  • リーキーガット
  • 消化管の慢性炎症
  • アトピー

肥満と炎症はあまりピンとこないかもしれませんが、内臓脂肪が多いと脂肪細胞自体が炎症性の物質を出すことがわかっています。副鼻腔炎やリーキーガットも慢性炎症です。20150年の論文で、アフリカやアジアの子どもに鉄剤投与したところ、マラリアや呼吸器感染症が増えたという報告があります。

Sci. Rep. 2015; 5: 16670.
Oral iron acutely elevates bacterial growth in human serum
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC4655407/

カンジダと鉄

カビの一種であるカンジダ菌は、真核生物なので核やミトコンドリアを持っています。つまり、酸素要求性が高く、鉄が大好物ということです。

引用:井上重治/微生物と香りーミクロ世界のアロマの力

カンジダ菌は常在菌ですが、過剰に増殖すると痒みが出たりリーキーガットを起こしたりします。特に女性は、膣カンジダ感染している人が多く、1度でもカンジダ菌の既往がある人は繰り返しやすいので注意が必要です。また、腸カンジダがある人はSIBOやSIFOにも気を付ける必要があります。症状としては、腹部膨満感やガス腹、逆流性食道炎、カンジダ膣炎などが挙げられます。腹部膨満感は、カンジダ菌が二酸化炭素を発生することによって起こります。鉄サプリメントを摂る前にカンジダが増殖していないことを必ず確認しなければいけません。

Killing., doi.org/10.1371/journal.ppat.1001322(2011)
Host Iron Withholding Demands Siderophore Utilization for Candida glabrata to Survive Macrophage Killing
https://journals.plos.org/plospathogens/article?id=10.1371/journal.ppat.1001322

Front Cell infect Microbiol. 2018; 8: 185.
Iron at the Centre of Candida albicans Interactions.
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC5996042/

カンジダ対策サプリメント

繰り返しカンジダ感染を起こしている場合は、カンジダ対策サプリメントを検討してもよいかもしれません。カンジダサポートというサプリメントの中身はオレガノとカプリル酸です。カプリル酸はココナッツオイルの主成分で、非常に強い殺菌力があります。特にカンジダ菌に対して強い抗菌作用を発揮すると言われています。カンデックスは、細胞壁を壊す消化酵素が含まれています。空腹時に多めの水と一緒に飲むと、カンジダ菌のバイオフィルムを破壊し消化管の掃除をしてくれます。

食材であれば、ココナッツオイルやりんご酢、ニンニクなどがカンジダに対する抗菌作用が強いと言われています。普段の食事でも積極的に取り入れたい食材です。

便秘対策

カンジダ対策で最も重要なことは、便秘を治しておくことです。除菌した菌が排出されずに腸に残り、腸管から吸収されることで症状が悪化してしまう場合があります(ダイオフ)。ダイオフを起こさないためには、何よりも便秘対策が最優先です。カンジダ対策で私が愛用しているのはロイテリです。

他にはビオスリーもカンジダに効果があるという報告があります。

Jpn J Antibiot. 1998 Dec;51(12):759-63.
Ecological treatment of bacterial vaginosis and vaginitis with Bio-three
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/10077774/

ラクトフェリン

細菌感染がある時の鉄補給として、ラクトフェリンが使われることもあります。ラクトフェリンは、鉄イオンと結合する乳タンパクです。母乳に多く含まれる成分で、免疫強化にも役立ちます。著しく熱に弱いので食品からの摂取は難しく、サプリメントから摂取することができます。フェリチン値を上げる手段として有効と言われています。

フェリチン

貯蔵鉄であるフェリチンは肝臓、脾臓、骨髄、小腸粘膜にあります。脾臓はマクロファージが赤血球を貪食する場所です。前述のように、マクロファージからの鉄供給は不安定なので、フェリチンとして常にストックされています。

フェリチンは鉄に結合するタンパクの一種で、鉄をタンパク質で覆うことにより鉄を無毒化しています。血中フェリチン量=体内の貯蔵鉄量と考えて良いでしょう。フェリチン1ng/mLが貯蔵鉄8mgに値します。貯蔵鉄1000mgで、フェリチン値は125ng/mLです。私の経験上、炎症がなく100ng/mLを超えている女性はあまり見かけませんが、30ng/mL以下は明らかに少ないです。1回妊娠すると30~40ng/mL失われると言われており、フェリチンが枯渇すると産後うつを発症しやすくなります。

潜在性鉄欠乏

フェリチン30ng/mL以下は潜在性鉄欠乏と呼ばれ、日本人女性の7割は潜在性鉄欠乏と言われています。潤沢に鉄が供給されるには50~60ng/mLは欲しいところです。

「潜在性」という言い方をするのは、ヘモグロビンが基準値内で一見鉄が足りているように見えるからです。すぐに使えるお財布の現金は足りているけど、貯金が少ない状態です。貯蔵鉄を優先的に使うため、ヘモグロビンの値は見かけ上は減らないのです。

子供のフェリチン

新生児には母乳から供給されるので、110ng/mLと高フェリチンになります。しかし、生後6ヶ月~1年でそれを使い切ってしまい、生後2ヶ月~2歳は5ng/mLくらいまで下がり貧血傾向になります。さらに成長すると、食事から鉄を摂取できるようになるので、また20ng/mLまで回復します。

しかし女性の場合は、生理が始まる頃から低フェリチン状態が続くと、鉄不足の人生しか歩んでいないので、本当に健康な状態を知らないという人も多いはずです。

人種的な相違

日本人は鉄欠乏が多く、逆に西洋人は鉄過剰が多いと言われています。鉄過剰の疾患をヘモクロマトーシスと言います。「迷惑な進化」という本に書いてありますが、14世紀半ばにペストが大流行し、当時のヨーロッパ人口の1/3~1/4にあたる2500万人以上が死亡しました。その時ペスト菌で死亡した人が低フェリチンだったと言われています。ヘモクロマトーシスの遺伝子を持つ人は高フェリチンで、マクロファージ中の鉄が少なく、結果的にペスト病原体に抵抗力があったと考えられています。

フェリチンと炎症

炎症があるとフェリチンが上昇します。重度の歯周病、アトピー、脂肪肝などの他に、肥満の人も要注意です。フェリチンは低酸素ストレスで増加するため、無呼吸症候群の方は高フェリチンになります。

炎症によりフェリチンが上昇する理由

フェリチンが上昇する理由は2つあります。

  • 炎症を起こしている組織が破壊
    血中へ流れ出た組織がフェリチンとしてカウントされる
  • ヘプシジンによるもの
    骨髄における赤血球産生(ヘモグロビン合成)を抑制
    → 待機中の鉄(フェリチン)が上昇する

症例 ①

症例を見てみましょう。この方はアトピーに悩んでいました。AST>ALTでやや脂肪肝気味で好酸球(Eosino)も高いので、フェリチンの67という数値はマスキングがかかっており、実際はもっと低いと推察できます。

症例 ②

次の症例は少し特殊です。2017年の検査ではAST17、ALT12と普通の女性らしい数値だったのに、2018年にはASTが33、ALTが52まで上昇しています。この女性は2017年の検査以降にメガビタミン療法を始め、自己流でビタミンB群サプリやプロテインを大量に飲んでいました。フェリチンが18から237まで上がってしまっています。サプリメントの飲み過ぎで肝臓が炎症を起こしているケースが最近増えています。

TIBCは2017年時点では357で少し高めでやや鉄欠乏性貧血でしたが、2018年には282と下がっています。本人はフェリチンが上がったと喜んでいましたが、TIBCが下がっているということは、炎症が起きていることを示すので、フェリチン上昇も炎症によるマスキングと読み取れます。

MCVと胃酸

下の症例のように、MCVが100と高めなのに他の数値は正常というケースはよくみられます。

これは胃酸分泌の低下を表しています。MCVが高い=ビタミンB12・葉酸不足ですが、ビタミンB12は胃酸が出ないと吸収されません。MCVが高い→ビタミンB12不足→胃酸分泌低下という推測が成り立ちます。胃酸分泌の状態はペプシノーゲン検査でわかります。

MCVを見るときの注意点は、鉄欠乏があると赤血球が小粒になるため、マスキングが起こる可能性があるということです。MCVはあくまでも平均値なので、脱核ができてない大きな赤血球と鉄欠乏の小さい赤血球があると、結果的に真ん中ぐらいの数値を弾き出してしまうことがあります。

巨赤芽球性貧血と甲状腺機能

私の経験から言うと、巨赤芽球性貧血は、胃酸不足や動物性タンパク質の摂取不足よりも、甲状腺機能低下の影響が大きいと感じています。

症例(甲状腺機能低下)

この症例の方は40代の女性で、線維筋痛症や慢性疲労、耳鳴りがある方でした。月に何万円ものお金をかけて、高タンパク食とサプリメントのメガドーズを始めたにもかかわらず、半年経ってもほとんど改善しなかったそうです。MCVが高い状態が続いていたので、自己判断でビタミンB12注射もしたそうです。

  • Hgb 12.5
  • MCV 102
  • 網赤血球 10
    (2012年1月)
  • Hgb 12.8
  • MCV 104
  • 網赤血球 22
    (2012年7月)

その後、甲状腺の問題ではないかと考えて治療をしたら、症状が改善したそうです。ずっと高止まりだったMCVも92.5まで下がっています。

甲状腺と鉄

女性の方が圧倒的に甲状腺機能低下症は多いのですが、これには鉄が関係しています。甲状腺ホルモンが作られる時に働く甲状腺ペルオキシターゼという酵素の活性中心にヘムが含まれます。つまり、甲状腺ホルモンの分泌には鉄が必要ということです。

The Journal of Nutrition, Volume 132, Issue 7, July 2002, Pages 1951–1955
Iron Deficiency Anemia Reduces Thyroid Peroxidase Activity in Rats
https://academic.oup.com/jn/article/132/7/1951/4687383

甲状腺機能低下で治療薬のチラージンが処方されることがありますが、チラージンは鉄サプリと競合すると言われています。したがって、朝にチラージンを飲んだら鉄は夜に飲むなど、腸管を通るタイミングを別々にする必要があります。

症例(LowT3症候群)

この症例の方は、MCVが101と高く、FT3が2.2とかなり低い値になっています。FT3が低い場合、それに反比例してTSHが高くなっているはずなのに、2.01と低いままです。これがLowT3症候群と言われる症状です。

  • MCV 101
  • TSH 2.01
  • FT3 2.2
  • FT4 1.4

甲状腺機能低下症の場合、漢方を利用すると症状が改善するケースもあります。当帰芍薬散は鉄欠乏の女性にはよく使われる漢方です。

鉄サプリメントの種類

フェロミア(クエン酸第一鉄)

クエン酸でキレートされた鉄剤で、医療機関で処方される鉄剤が大体これです。フェロミアは胃痛や吐き気を起こす人がとても多いです。胃で溶けて活性酸素の発生源になりやすいためです。

フェロケル鉄

フェロケルはアミノ酸(グリシン酸)でキレートされているので、胃にやさしく、吸収率が良いという特徴があります。またフェロケル鉄服用により、ヘモグロビンより先にフェリチンが上昇することがあります。

小腸の粘膜の断面の赤くなっているところがフェリチンです。フェロケル鉄の場合、フェリチンとして貯蔵され、必要な分だけ体内に取り込まれるため、フェリチンが先に上昇すると考えられています。

H. Dewayne Ashmead (Author), Darrell J. Graff / Intestinal Absorption of Metal Ions and Chelates

コハク酸鉄タンパク(IPS)

コハク酸とコエンザイムAが結合したスクシニルCoAと一緒になっている鉄です。胃ですぐに溶けず、十二指腸で溶解され、アルカリ・中性環境下で急速に吸収されるという特徴があります。胃腸への刺激や副作用が少ないというメリットがあります。ただし、スクニシル酸鉄を作る時にカゼインを使うため、アレルギーがある方は注意が必要です。

ヘム鉄

2価鉄とポルフィリン環の有機化合物です。ポルフィリン環で包まれているため、胃腸にダメージを与えません。ヘム鉄専用の入り口から入ってくるので、他のミネラルと競合することもありません。コストが高いというデメリットはありますが、非常に優れたサプリメントと言えます。動物実験や宗教的な問題から、海外ではほとんど売っていません。

鉄を豊富に含む食材

ヘム鉄を多く含む食材

ヘム鉄といえばやはり赤身肉です。牛ヒレステーキ200gで5.3mgくらい摂取できます。吸収率25%で換算すると、1.3mgになります。1日に体外に排出される分の鉄は補える量です。

  • 牛ヒレステーキ(200g)5.3mg
    → 吸収率25%として、1.3mg

ヘム鉄の吸収には、強酸(胃酸)でペプシンが活性化されていること、膵液(トリプシン)が分泌されていること、この2点がポイントです。

非ヘム鉄を多く含む食材

非ヘム鉄は、おひたしと納豆、がんもどきの煮物を合わせると4.8mgくらいになります。吸収率5%で換算すると、0.24mg摂取できます。

  • 小松菜のおひたし(50g)1.5mg
  • 納豆1パック(40g)1.5mg
  • がんもどき煮物(50g)1.8mg
    → 非ヘム鉄 摂取量合計4.8mg
    → 吸収率5%として、0.24mg

近江の名産の赤こんにゃくは鉄分が豊富なことで有名です。100gに78.5mgも含まれているそうです。

非ヘム鉄の吸収には、強酸(胃酸)で可溶化されること、鉄還元酵素(Dcytb)が働いていること、ビタミンCが十分量あること、これら3つがポイントになります。

調理器具からの移行

普段から少しずつ鉄分をとるために、鉄鍋をおすすめします。鉄は熱伝導性が良く、昔はほとんど鉄製鍋が使われていました。鉄鍋から食品に鉄分が移行するため、良い鉄補給になります。

昔からひじきといえば鉄を多く含むイメージがありましたが、実はほとんど鉄が含まれていなかった、という事実が判明しました。食品成分表を改訂する際に、それまで鉄鍋で煮ていたのをステンレス鍋に変更したことで判明したそうです。つまり、鉄鍋由来の鉄分を計測していたということです。逆にいうと、鍋から移行する鉄もある程度見込めるということです。

現代はステンレスやアルミニウムが多用されるようになってきましたが、鉄製のフライパンや中華鍋、天ぷら鍋などはぜひ活用していただきたいです。1人暮らしの方にはスキレットをおすすめしています。鉄鍋のデメリットとしては、錆止めに油を塗って保管する必要がある点です。あと火傷には要注意です。

外食

鉄分豊富な食材といえばなんといってもレバーです。仕事で疲れて料理する気力が湧かない時は、チェーン店でもいいからレバニラでも食べくださいとお伝えすることもあります。外食でも意識的に鉄分を摂取すると良いと思います。

まとめ

いかがでしたか?今回は鉄と赤血球について詳しく解説しました。鉄は生命維持にとって欠かせない栄養素でありながら、活性酸素を発生させたり細菌などに奪われやすい栄養素でもあるため、体内で厳重に管理されています。

赤血球は成長の過程で脱核します。その際に必要な栄養素がビタミンB12と葉酸です。胃酸分泌が低下しているとB12の吸収も低下し、脱核が滞りMCVが上がると言われています。また、赤血球は糖を唯一のエネルギー源とします。赤血球の直径よりも狭い毛細血管に入るためには、赤血球の変形能が重要になってきますが、形を変えるにもエネルギーを使います。したがって、血糖の安定性が赤血球の変形能に影響するといえます。

貧血にはいくつか種類があり、UIBCや血清鉄の数値を見てある程度予測することができます。細菌感染によって鉄が奪われて貧血になるケースもあり、安易に鉄サプリに頼らず、まずは貧血の根本原因を探ることが大切です。慢性炎症や細菌感染は鉄不足を引き起こすため、特に注意が必要です。

鉄にはヘム鉄と非ヘム鉄があり、それぞれ吸収機構が異なります。ヘム鉄は赤身肉などに、非ヘム鉄は野菜などに含まれます。鉄鍋も食品への移行が期待できるのでおすすめです。日本人は鉄欠乏を起こしやすいので、日頃から鉄分を意識して摂るようにしましょう。

睡眠改善

まごめじゅん · 2021年5月16日 ·

最近よく眠れていますか?忙しい現代社会では、なかなか寝付けなかったり、夜中や早朝に目が覚めてしまう人も多いのではないでしょうか?睡眠障害にはストレスや栄養状態、ライフスタイルなど、様々な要因が関係しています。

睡眠障害は自覚がないケースも多く、放っておくとQOLの低下にも繋がります。睡眠障害の原因の一つに夜間低血糖があります。成長ホルモンやコルチゾールの働きが悪く、血糖値が下がってしまうのです。血糖値を安定化させることは睡眠の質向上につながります。今回は、睡眠障害の原因と具体的な対処法について詳しく解説します。

1. 不眠の原因(5つのP)

不眠には、生理的、心理的、身体的、精神医学的、薬理学的、5つの原因があります(5つのP)。

生理的(Physiolosic)

交代勤務やシフト制で昼夜逆転した生活を送ったり、海外の行き来で生じる時差が原因で不眠になることがあります。暑くて寝苦しいなど、寝室環境の問題や、夜間にスマホやパソコンのブルーライトを浴びることも生理的原因に含まれます。

心理的(Phychological)

ストレスや悩み、緊張、人生上の大きな変化など、心理的な原因で不眠になることもあります。

身体的(Physical)

痛みや痒み、下痢、尿意、咳、発熱など、体に炎症があると睡眠が妨げられます。風邪を引くと悪い夢を見るのは、眠りが浅くなっているサインです。

精神医学的(Phychiatric)

うつ病、統合失調症、アルコール依存症など、精神医学的な原因でも不眠になります。

薬理学的(Pharmacologic)

中枢神経、降圧剤、抗がん剤、ステロイド、カフェインなどの薬理学的原因でも眠りの質が下がります。特に、カフェインは常飲している人が多いので注意が必要です。後ほど詳しく解説します。

2. 睡眠障害の種類

睡眠障害は4種類に分けられます。

  • 入眠困難
  • 中途覚醒
  • 早朝覚醒
  • 熟睡障害

上3つはわかりやすいのですが、熟睡障害は本人に自覚がないケースが多いので、次のような症状から推察します。

睡眠障害の自覚がないケース
・ 寝汗
・ 寝違え
・ 夢を見る
・ 朝から疲れている
・ 食いしばり・歯ぎしり
・ 朝ごはんが食べられない
・ お通じ・排便が困難

カウンセリングで、「寝汗がひどい」という方がいらっしゃったので、睡眠についてヒアリングしたところ、「よく眠れています」という答えが返ってきました。その方のCSA検査結果を見ると、腸に強い炎症がありました。本人は眠れているつもりであっても、体に炎症があると睡眠の質は低下し、様々な不調の原因になってしまいます。

寝違えは体が緊張しているために起こります。子供がたくさん寝返りを打つのは、リラックスしている証拠です。緊張状態のまま眠りにつくと、うまく寝返りが打てず、寝違えを起こしてしまうのです。また、夢の内容を覚えているのもあまり良いことではありません。夢見が悪かったり夢をよく見たりするのは、脳が覚醒しているサインです。

食いしばりや歯ぎしりがある人は、朝起きた時に口内を見ると、頬の内側や舌に歯形がついています。長期間続くと歯が削れたり歯茎が下がったり、知覚過敏になりやすくなるので対処が必要です。日本人は虫歯がないと歯医者に行かない人が多いですが、健康維持に定期的なメインテナンスは欠かせません。

3. 睡眠と血糖値

血糖値の日内変動

熟睡障害を抱えている人は、夜間の血糖値の安定性に問題があります。まずは1日の血糖値の挙動を見てみましょう。血糖値の正常範囲は、下90mg/dL、上140mg/dLです。食事の度に、緩やかに上昇し緩やかに下降します。

昼食後から夕食前までの血糖値の変化を抜き出してみます。食事を摂ると、炭水化物が消化されてブドウ糖になり、腸から吸収されます。消化に時間がかかるので、食事と血糖値が上昇するタイミングには2~3時間のタイムラグが発生します。食物繊維や脂質を一緒に摂ると、血糖値の上昇はさらに緩やかになります。

食事由来の糖が枯渇すると、次は肝臓や筋肉に蓄えられたグリコーゲンが切り崩されてエネルギーが作られます。安静時は肝グリコーゲンが、動いている時は筋グリコーゲンが使われます。グリコーゲンが枯渇すると、今度は糖新生によりアミノ酸からエネルギーが作られます。

4. 血糖値とホルモン

コルチゾールの働き

グリコーゲンの分解や糖新生を促すスイッチの役割を担うのがコルチゾールです。副腎疲労でコルチゾールが枯渇している人は、血糖値を維持することができません。副腎疲労の人が低血糖を起こしやすい理由はここにあります。

  • グリコーゲンを分解する
  • 糖新生を促す

糖新生

糖新生はアミノ酸から糖を作る代謝経路です。他にも乳酸から糖を作るコリ回路がありますが、ここではタンパク質からアミノ酸を経て糖になる経路を見ていきましょう。

糖新生には、食事由来のタンパク質や筋肉に蓄えられているタンパク質が使われます。タンパク質がアミノ酸に分解され、細胞内でピルビン酸になります。ピルビン酸は一旦ミトコンドリアに入ってアセチルCoAになりますが、その後ミトコンドリアの外でピルビン酸になり、最終的にブドウ糖に代謝されます。

このように、糖新生にはミトコンドリアが関与するため、ミトコンドリア機能が低下している人は糖新生がうまくいきません。ミトコンドリアは肝臓に多く含まれるため、肝機能を表すデータ(ALT、γ-GTPなど)を確認することで、その人のミトコンドリア機能や糖新生の能力を推測することができます。

血糖値が下がった時の症状

グリコーゲン分解や糖新生が行われないと、じりじりと血糖値が下がってしまいます。症状としては、だるさや眠気、集中力の低下などがみられます。ちょうど夕方頃にコーヒーや甘いものを欲してしまうのは、血糖値が下がっているからです。甘いものがやめられないのは、嗜好ではなく症状なのです。

血糖値が下がり続けると、体は生命の危機と認識し、何とかして血糖値を上げようとします。その時分泌されるのがノルアドレナリンやアドレナリン、グルカゴンです。これらのホルモンが過剰に出ると、様々なメンタル症状が出ます。身体的な反応としては発汗や心拍の上昇、メンタル的にはイライラしたり怒りっぽくなります。

グルカゴンの働き

グルカゴンは膵臓にあるランゲルハンス島から分泌されます。グルカゴンには糖新生を促進し、血糖値を上げる作用があります。また、脂肪燃焼のスイッチとしての役割もあるので、ダイエット本などでもよく取り上げられます。

  • 膵ランゲルハンス島から分泌
  • 血糖値を上げる
  • 糖新生を促す
  • 肝グリコーゲンの分解を促す
  • 脂肪細胞から脂肪を分解する
  • インスリンと逆の動きをする

グルカゴンには、胃カメラを飲むときの鎮痙薬に使われるくらい、消化液の分泌抑制作用があります。例えば、糖質制限をしていると、糖が入ってこないのでグルカゴンが分泌されやすくなります。そうすると、お腹の動きを止めてしまい、栄養吸収が悪化してしまいます。私が消化力の弱い人に糖質制限をお勧めしない理由はここにあります。健康のためにやっていたことが逆効果になることもあります。糖質制限をやっていいのは消化力のある人だけです。

抗インスリンホルモン

血糖値を下げるホルモンはインスリンただ一つですが、血糖値を上げるホルモンは複数あります。代表的なものは、コルチゾール、グルカゴン、カテコラミン、成長ホルモンです。今でこそ飽食の時代と言われるようになりましたが、長い歴史を振り返ると、人類は飢えていた時代の方がうんと長いですよね。したがって、飢餓に耐える手段として、血糖を上げるホルモンが複数用意されているのです。

血糖値を下げる
・インスリン

血糖値を上げる
・コルチゾール
・グルカゴン
・カテコラミン
・成長ホルモン

ペプチドホルモンと脂溶性ホルモン

ここで少し豆知識。インスリンやグルカゴン、カテコラミンは、タンパク質からできているペプチドホルモンです。ペプチドホルモンは、細胞膜にある受容体から選択的に細胞内に取り込まれます。一方、脂溶性ホルモン(性ホルモン、ステロイドホルモン)は、細胞の核内に受容体があるので細胞膜をそのまま通り抜けることができます。ホルモンによって性質が異なることを覚えておきましょう。

ホルモンの日内変動

ホルモンは、1日を通して高くなったり低くなったりを規則的に繰り返してます。眠りホルモンと呼ばれるメラトニンは、夕方あたりから徐々に増えていき、夜にピークを迎えた後、朝にかけて低くなります。

血糖値を安定化させる成長ホルモンは、入眠後1~2時間ぐらいで一気に分泌されます。

血糖値の安定化に重要なもう1つのホルモンがコルチゾールです。明け方にかけて徐々に上がり、朝にピークを迎えます。

コルチゾールと成長ホルモン、血糖値の曲線を重ねてみましょう。

夜間に何も食べなくても血糖値が安定しているのは、成長ホルモンとコルチゾールの働きによるものです。

これはリブレによる血糖値測定結果です。グレーの枠は下80、上140mg/dLで設定してあります。このデータは夜間を通して90mg/dL前後で安定しています。熟睡している時の血糖値はこのような挙動を示します。

5. 夜間低血糖

血糖値の推移

寝る前に布団の中でスマホを見たり、ゲームをやったりしてブルーライトをたくさん浴びると、成長ホルモンが出にくくなります。さらに、副腎疲労を抱えているとコルチゾールの分泌も低下し、夜間に血糖を維持できなくなります。

血糖値が下がってきたときに分泌されるのが、カテコラミンやグルカゴンです。ノルアドレナリンは過剰に出ると不安感が強くなり、夜中に考え事が止まらず眠れなくなったりします。アドレナリンが出過ぎると緊張感が高まります。体が硬直するので、寝違えや肩こり、食いしばり、歯ぎしりの原因になります。グルカゴンが分泌されるとお腹の動きを止めるので、朝から食欲が湧きません。睡眠中は腸の蠕動運動が活発になる時間帯なのに、動きが止まってしまうのです。

血糖値が維持できない人のリブレ測定結果はこのようになります。この方は2児の母で、寝汗や寝違えが頻繁にあり、朝子供のお弁当を作り終えるとソファで横にならないと夕方までもたないとおっしゃっていました。副腎疲労でコルチゾールが十分に出ていないので、夜間を通して血糖値が低下しています。

この方の血液データです。注目すべきは中性脂肪で、39mg/dLとかなり低い値を示しています。低血糖を起こしている人は中性脂肪が低い傾向が見られます。

糖が欠乏すると血糖を上げるために中性脂肪から脂肪酸を切り出してエネルギーとして使います。しかし、低血糖を起こしているということは、ミトコンドリア機能も低下しているので、切り出した遊離脂肪酸もうまく使えないケースが多いのです。

身体的特徴

食いしばりや歯ぎしりのある人は、咬筋が張っています。グッと噛むとピクッと動く筋肉が咬筋です。また、歯が削れてたり、骨隆起が見られる場合もあります。

引用:https://www.otsuka-biyo.co.jp

他にも、緊張すると肩に力が入るので胸鎖乳突筋が張ります。この筋肉が凝り固まると呼吸も浅くなり、喉を締め付けるような喋り方になります。このような身体的所見からも夜間低血糖を推測することができます。

睡眠とアルコール

アップルウォッチで測定した私の心拍のデータです。左は熟睡できた時のデータで、最小51、最大55拍/分です。眠りが深いのでゆっくりとした心拍になっています。一方、右は寝る前にお酒を飲んだ時のデータです。入眠も起床時間も同じですが、明け方の4~5時の心拍は最小61、最大71拍/分になっています。

飲酒は低血糖を引き起こします。体にとってアルコールは毒物なので、肝臓はアルコールの解毒を優先して、糖代謝を後回しにしてしまいます。忘年会シーズンになると終電で酔って寝ている人をよく見かけますが、あれは低血糖症状で気絶しているような状態になっているのです。睡眠自体は浅いので、明け方に中途覚醒してしまいます。

6. 自律神経と睡眠

交感神経と副交感神経

睡眠には自律神経のバランスが深く関わっています。交感神経が優位になっているときは、血管が収縮して血圧が上がります。心拍が速くなり、筋肉は緊張し、汗をかきやすくなり、腸の蠕動運動が抑制されます。副交感神経には逆の作用があり、血管が拡張し、血圧は下がります。心拍はゆっくりになり、筋肉は緩み、発汗も抑制されます。そして、腸の蠕動運動が促進されます。

好中球とリンパ球

交感神経と副交感神経は、どちらが優勢だからいいというわけではなく、大切なのはバランスです。交感神経が優位になると、好中球が増えます。逆に副交感神経が強くなると好中球が減り、相対的にリンパ球が上がります。

左の症例の好中球(Neutro)は48.2、リンパ球(Lympho)は42.2です。好中球:リンパ球=60:30が目安なので、明らかに副交感神経が優位な状態と読み取れます。逆に右の症例は、好中球が72.9、リンパ球が17.8なので、交感神経が優位になっています。目安値から10以上乖離していると、自律神経の乱れを疑います。

自律神経と天気

自律神経は天気にも左右されます。曇や雨の日はなんとなくお布団から出られなかったりしますよね。そんな時は好中球が下がっています。逆に快晴でスッと起き上がれる日は、好中球が上がっています。大昔、狩りをしていた時代から、人間の生体システムはそれほど進化していません。天気が良い日は狩りの時に怪我をするリスクが高まるので、細菌感染を防ぐ好中球を増やして怪我に備えようとするプログラムが働きます。

一方、天気の悪い日は狩りに出られないので、体はお休みモードに入ります。このような時は好中球はあまり増えず、相対的にリンパ球が増えます。

自律神経の代償機構

食いしばりがありそうな顎の張り方をしていて、胸鎖乳突筋も張っていて、早口で…と見るからに副腎疲労を抱えていそうな人でも、リンパ球の数値が高い場合があります。これは代償機構と言って、交感神経優位な状態が続いたために、バランスを取ろうとして副交感神経が強くなってしまう現象です。過緊張状態なのに、朝起きられない起立性障害のあるお子さんがいらっしゃいますが、それも代償機構が働いた結果と考えられます。

この症例の方は、声を喉から絞り出すように話す人で、少し大きめのサプリメントも喉を通りにくいとおっしゃっていました。アトピーがひどく、極度の鉄欠乏で、食事にはかなり神経質になっていました。一見、リンパ球が高く副交感神経が優位な状態に見えますが、主訴やその人の状態を総合的に見ると、過緊張でバランスを取ろうとして副交感神経が強くなっているパターンだと推測できます。

睡眠中の大蠕動運動

腸の蠕動運動は自律神経の支配下にあります。本来、夜間は副交感神経がオンになり、ぐっすり眠れるはずです。しかし、夜間低血糖が起こってしまうと、カテコラミンやグルカゴンが働いて、蠕動運動を止めてしまいます。

睡眠中は大蠕動運動と呼ばれる腸の大きな動きがあります。直腸に便を押し出す動きで、チューブから内容物をごっそり絞り出すイメージです。

蠕動運動は、24時間いつでも起こっていますが、大蠕動運動は睡眠中に起こります。蠕動運動に比べ、便を押し出す速さが200倍と言われています。

旅先で便秘になりがちなのは、慣れない場所で寝ることで交感神経優位になり、夜間の大蠕動運動が起こりにくくなることが原因です。朝起きてからすぐ、または朝食後すぐの排便が理想的です。カウンセリングの際は、朝食を美味しく食べられているか、朝に排便があるか、この2つは必ず確認します。

7. 夜間低血糖の予防

熟睡障害でまず改善すべきは夜間低血糖です。予防方法として私がアドバイスしていることをリストアップしました。

昼間の…
☑️ 食事はタンパク質・良質な糖質
☑️ 血糖値の安定(補食・運動)
☑️ コーヒー(カフェイン)をやめる
就寝時間の…
☑️ スマホ・パソコン・ゲーム・テレビを避ける
就寝前の...
☑️ アミノ酸
☑️ 生薬・漢方(甘草系)
☑️ ココナッツオイル

まずはバランスの良い食事は大前提です。特に、タンパク質や良質な糖質をしっかり摂りましょう。次に、補食や運動で血糖値を安定化させることです。当然のことながらカフェインは禁忌です。そして、就寝前にはブルーライトを浴びないこと。低血糖症状がひどければ、アミノ酸や甘草系の漢方を使ったり、ココナッツオイルを使います。中鎖脂肪酸はエネルギー変換されやすいので、血糖が安定化しやすくなります。

メラトニン合成に必要な栄養素

睡眠にとって重要な栄養素であるセロトニンやメラトニンは、アミノ酸の1つであるトリプトファンが原料になります。トリプトファンが5-HTP(5-Hydroxytryptophan)を経てセロトニンになり、メラトニンに代謝されます。トリプトファン→5HTPにはナイアシンや葉酸、鉄、5HTP→セロトニンの反応にはビタミンB6、セロトニン→メラトニンの反応にはSAMeとマグネシウムが必要です。

キヌレニン仮説

トリプトファンからの代謝経路がもう一つあり、それをキヌレニン経路と呼びます。トリプトファンの2%がメラトニン側に、8%がキヌレニン経路、残り90%がタンパク質合成に使われます。

体に炎症があると5-HTPへの代謝が止まり、キヌレニン経路に回ってしまうので、メラトニンが産生されず不眠の症状が出ます。さらに、ビタミンB6やマグネシウムが欠乏していると、キノリン酸からNADになる代謝が止まり、中間代謝産物であるキノリン酸が溜まります。キノリン酸は神経毒なので、さらに睡眠の質が悪化してしまいます(キヌレニン仮説)。

炎症があると、トリプトファンからキヌレニンに代謝される時に働くトリプトファン分解酵素は、炎症性サイトカインやコルチゾールの作用により発現し、活性化されます。つまり、炎症があるとこの酵素が活性化しキヌレニンが増えるということです。

炎症の有無

このように、炎症があると睡眠の質が確実に下がるので、まずは炎症の有無を確認し、炎症があれば改善しましょう。睡眠の質向上のためには欠かせないステップです。特に、歯周病や歯根の腫れ、副鼻腔炎、腸の炎症は自覚症状に乏しいので注意が必要です。また、内臓脂肪が多いと炎症性物質が産生されやすいため、炎症体質になります。

気づきにくい炎症
・歯
・喉
・腸
・内臓脂肪

血液データではCRPがマーカーになります。ただ、歯や喉、腸など、局所的な炎症の場合はCRPに反映されないことがあります。逆に、BMIが24以上のぽっちゃり体型の人はCRPが高くなっている場合が多く見られます。

上の症例の方は口腔がんの治療中で、CRPは3.73でした。理想値は0.1以下なのでかなり高い数値と言えます。

こちらの症例の方はCRP1.06とやや高めですが、たまたま採血日が風邪の治りかけの時だったそうです。そのような場合でもCRPは上昇します。

補食のススメ

血糖値の安定化にこまめな補食は必須です。私も資料作りで長時間パソコンに向かう時は、ゴルフボールくらいの玄米おにぎりをいくつか用意しておいて、2~3時間おきに食べるようにしています。

実践講座でも紹介されていた、Soup・Soupというペプチドタイプのスープに葛粉を加えて飲むのも良いでしょう。本葛は良質な糖質です。私はだし&栄養スープをよく飲んでいます。副腎疲労気味の時ほど美味しく感じられるので、体が欲しているのかもしれませんね。

  • 食後2〜3時間後からこまめに補食
  • 副腎ホルモン(カテコラミン・コルチゾール)の無駄使い予防
  • 空腹時間を長くしない

こまめな補食はブドウ糖点滴を口から入れているような効果があり、血糖値を維持し、カテコラミンやコルチゾールの無駄遣いを防いでくれます。空腹時間は長い方が良いという情報の方が圧倒的に多いですが、低血糖や副腎疲労の人がそれを鵜呑みにして実行すると症状が悪化してしまいます。

運動のススメ

問題なく動ける人にはとにかく運動をお勧めします。食後の運動は、筋肉と肝臓のグリコーゲンを増やします。運動といっても大袈裟なものではなく、ランチで外に出たときにオフィスがある階まで階段を使うなど、そんなレベルで大丈夫です。

通常、インスリンが細胞膜の受容体(GLUT)に結合すると、糖が取り込まれる仕組みになっています。しかし、運動で反応する筋肉は、インスリン非関与のGLUTから糖を取り込むので、インスリンの分泌が悪い人でも血糖値を下げられることがわかっています。運動は食後高血糖予防にも効果があります。サプリメントでなんとかしようというのは限界があるので、根本的に治す場合はやはり運動は不可欠です。

  • 良質の炭水化物を摂ったあとの運動が効果的
  • インスリンがグリコーゲンを増やす
  • 食後高血糖予防になる

コーヒーと睡眠障害

繰り返しになりますが、副腎疲労の人にカフェインは禁忌です。コーヒーに含まれるクロロゲン酸というポリフェノールの健康効果などが謳われていますが、それを享受できるのは副腎疲労がない健康な人です。カフェインはドーパミンの分泌を促進するので、交感神経優位になり、元気になった錯覚を起こします。

さらに、カフェインはコルチゾールのリサイクルを妨げます。コルチゾールは11β-HSD2という酵素の作用で不活性型コルチゾール(コルチゾン)になり、尿として排出されます。同時に排泄前のコルチゾンからコルチゾールにリサイクルされる経路もあり、その時に働く11βHSD-1をカフェインが阻害してしまうのです。

コーヒーがどうしても飲みたいという人には、インスタントコーヒーはやめて本当に美味しい本物のコーヒーしか飲まないと決めてください、とアドバイスします。カフェイン中毒の人は、自分が中毒になっていることを認めたがらない傾向がありますので、アドバイスするときはちょっとした工夫が必要です。

コルチゾールのリサイクル率を高める漢方

補中益気湯は、副腎疲労の初期段階でよく処方される漢方薬で、11β-HSD2の働きを阻害し、コルチゾンとして排泄されるのを防ぐ作用があります。実は私もほぼ毎日飲んでいます。補中益気湯は補剤と呼ばれ、不足している力を補ってくれる漢方です。

甘麦大棗湯という漢方には、小麦(ショウバク)と大棗(タイソウ)と甘草(カンゾウ)、3種類の生薬が入っています。子供の夜泣きやひきつけ、女性のヒステリーなどに効果があると言われていますが、実は低血糖予防に対する効果についてもデータが示されています。つまり、夜泣きやひきつけ、ヒステリーの原因が低血糖にあるということですね。

引用:http://www.nagano-matsushiro.or.jp/_pdf/feature/kampo/magazine/2.pdf

一つ注意したいのが、甘草を含む漢方薬の副作用として低カリウム血症があるということです。偽アルドステロン症と呼ばれることもあります。血液データで、カリウムの数値が4.0より低い人には、甘草を含む漢方は積極的には勧めません。

ブルーライト

ブルーライトが睡眠にとって良くないことは明らかです。ブルーライトはメラトニン分泌を抑制します。また、白目にタンパク質変性を起こします。黄斑変性といい、進行すると失明することもあります。美容にも大敵です。紫外線に近いということは、活性酸素の発生源になるということです。スマホは目との距離が近いので、パソコン以上にダメージは大きくなります。

波長で表すと、ブルーライトは可視光線の中でも紫外線に近い位置にあります。波長が短ければ短いほど体への影響が大きくなります。スマホやパソコン、LEDライトもブルーライトです。ついつい寝室にスマホを持っていってしまいますが、成長ホルモンの分泌を妨げるので注意が必要です。

アミノ酸サプリメント

日中の低血糖症状がひどい時には、アミノ酸サプリメントを摂っても良いでしょう。アミノ酸は糖新生に使われるので、エネルギー維持に役立ちます。アミノ酸であれば消化力が低下していても吸収がスムーズです。私もセミナーをやる前などにアミノ酸を飲むことがあります。血糖が安定するので、手汗をかいたり、妙に早口になったりするのを防いでくれます。

注意したいのは、アミノ酸には覚醒作用があるということです。脳は非常に重要な臓器なので、血液から必要なものだけを選択的に取り込むために血液脳関門(Blood Brain Barrier, BBB)と呼ばれるフィルターのようなものがあります。BBBを通る際、トリプトファンやBCAA(バリン、ロイシン、イソロイシン)はアミノ酸トランスポーターを介して取り込まれます。トリプトファンが取り込まれると、脳内でセロトニンになります。血液中のBCAAの濃度が高くなると、トリプトファンが取り込まれにくくなるので、脳のセロトニンレベルが下がります。

BCAAは脳の疲労に効くと言われています。これは、血中BCAAが増えることによりセロトニンが脳内で増えすぎるのを阻害するので、頭がスッキリする感覚になるのです。逆に言うと、寝る前にBCAAを飲んでしまうと寝付きが悪くなる可能性があります。

筋肉の成長にはインスリンが関わっています。インスリンが分泌されると、BCAAが筋肉に優先的に入ってきます。一方、脳内ではアミノ酸トランスポーターがトリプトファンの方に多く使われるので、セロトニンが増えます。インスリンが分泌されるには糖が必要ですから、適度に良質な糖を摂取することは、筋肉増強やセロトニンを増やす意味でも大切です。

メラトニンサプリメント

入眠困難がひどい時にはメラトニンを使うのも手です。メラトニンは経口投与でも脳内に取り込まれることがわかっています。心部体温を下げ、副交感神経をオンにし、熟睡を促すのがメラトニンの作用です。メラトニンサプリメントは比較的安価で売られています。時差ボケ予防に使われることが多いですが、翌日に大事な仕事を抱えていて高揚感で眠れない時などにも使えます。

加齢に伴いメラトニンの分泌量は低下します。特に、女性は更年期以降にメラトニンの低下が見られます。高齢者の睡眠時間が短時間化する理由の一つでもあるでしょう。メラトニンには抗酸化作用もあり、ビタミンEの2倍、グルタチオンの5倍と言われています。抗癌作用もあり、特に乳がんに関してはポジティブな報告が多くあります。

引用:. BMC Med. 2018 Feb 5;16(1):18. doi: 10.1186/s12916-017-1000-8.
Melatonin and health: An umbrella review of health outcomes and biological mechanisms of action
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/29397794/

下のサプリメントには、メラトニンの他に、GABAやタウリン、グリシン、カモミール、レモンバームなど、リラックス効果のあるものが配合されています。一見良さそうに見えるのですが、カモミールはキク科なので、アレルギーを持っている人は飲むと不調の原因になります。サプリメントを選ぶ時は、配合されているものについて必ず確認が必要です。

タイムリリース型(徐放性)のメラトニンもあります。有効成分の放出を遅くする加工がされており、血中の有効成分濃度を一定に長時間保つ作用や副作用が和らぐ効果があります。

メラトニンの副作用

多量に飲まない限りネガティブな評価は少なく、1日75gでも問題ないとされています。過剰に飲むと一時的なめまいや、軽い頭痛がありますが、クリティカルなものはほとんどありません。耐性の懸念もないと言われています。

☑️ 1日75gでも問題ない
☑️ 一時的なめまい、軽い頭痛
BMC Med. 2018 Feb 5;16(1):18. doi: 10.1186/s12916-017-1000-8.
Melatonin and health: an umbrella review of health outcomes and biological mechanisms of action
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/29397794/
☑️ 耐性の懸念なし
BMC Med. 2010 Aug 16;8:51. doi: 10.1186/1741-7015-8-51.
Nightly treatment of primary insomnia with prolonged release melatonin for 6 months: a randomized placebo controlled trial on age and endogenous melatonin as predictors of efficacy and safety
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/20712869/
☑️ 0.5mgから効果が認められる
Drugs Aging. 2014 Jun;31(6):441-51. doi: 10.1007/s40266-014-0178-0.
Optimal dosages for melatonin supplementation therapy in older adults: a systematic review of current literature
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/24802882/

寝る時の靴下

妊活中や冷え性で、靴下を履いて寝るという方がいらっしゃいますが、これは熟睡を妨げてしまうので逆効果です。手先や足先を使って深部体温を下げることで深い睡眠が促されます。締め付けによる血行不良の問題もあるので、手足が冷たくて眠れない場合は、湯たんぽや布団乾燥機で寝る前に布団を温めておくと良いでしょう。

8. おなかと自律神経

質の良い睡眠を得るためには自律神経のバランスが肝心なのですが、乱れたバランスをどうやって取り戻すかというお話です。

交感神経が優位になると熟睡障害が起こり、お腹の動きも悪くなります。夜間低血糖が起きると、カテコラミンやグルカゴンなど、お腹の緊張を強くするホルモンばかり分泌されるためです。

腸もみ

マッサージで物理的に腸に力を加えて動かしてあげるだけで、副交感神経がオンになりバランスが整いやすくなります。腸もみや腸セラピーと言われる方法です。慢性的な頭痛や生理痛、更年期障害の緩和や予防、アレルギーや花粉症、不眠症、めまいなどにも効果があると言われています。実際に体験してみたところ、施術前後で副交感神経が優位になっていました。

脳と腹部を繋いでいる神経を迷走神経と言います。迷走神経のほとんどが副交感神経です。胃腸や消化管に刺激を与えると迷走神経刺激が起こり、副交感神経が活性化するのです。

呼吸

腸もみと同じ効果をもたらすのが腹式呼吸です。過緊張がある人は肩で浅く呼吸していることが多く、深呼吸してくださいと言っても肩が上がってしまいます。慢性的な肩こりや首こりに悩まされている人がほとんどです。そんな人は、1日たった5分でいいので、マインドフルネスや瞑想で呼吸を整えてあげましょう。腹式呼吸のお手本は寝ている赤ちゃんの呼吸です。お腹を膨らませたりへこませたりする、あれが本来のリラックスした呼吸です。

実践講座で出てくる根本原因ピラミッドを見てみましょう。下から順に治療していくことが鉄則ですが、このピラミッドは低血糖の海にぷかぷか浮かんでいて、低血糖を治さない限りいつまでもぐらついてしまうことを表しています。睡眠改善も、まずは低血糖対策から始められると良いと思います。

9. まとめ

睡眠の質向上には、血糖値の安定化を図ることが大切です。血糖値の維持には成長ホルモンとコルチゾールの分泌が欠かせません。夜間にブルーライトを浴びたり緊張状態のまま眠りにつくと成長ホルモンの分泌が阻害されます。また、炎症があったり副腎疲労を抱えていたりするとコルチゾールが枯渇してしまいます。

質の良い眠りのためには、まずは炎症を取り除くことが必要です。そして1日を通して血糖値を安定化させるためにこまめに補食を摂ること、適度な運動を行うこと、ブルーライトを浴びないこと、カフェインを避けることなどが大切です。必要に応じて、アミノ酸やメラトニンサプリメントを使うのも良いでしょう。

また、自律神経のバランスを整えることは不可欠で、腸を動かして副交感神経を活性化する方法を紹介しました。ぜひ一度、ご自分の睡眠状態を振り返ってみてはいかがでしょうか。

消化の仕組み 基礎と実践

まごめじゅん · 2021年5月16日 ·

揚げ物を食べると胃がもたれることはありませんか?

ストレスで胃がキリキリするから胃薬が欠かせないという方も多いと思います。でもその胃薬、あなたにとって本当に必要なものなのでしょうか。

消化には多くのエネルギーが必要です。エネルギー代謝が低下している人は消化機能も低下します。消化機能が低下すると栄養の吸収も悪くなるという悪循環を招いてしまいます。そのようなケースでは、消化機能を改善することで、胃腸だけでなく体全体の調子も上がりやすくなります。今回は消化の仕組みの基礎知識と、消化機能を向上させる具体的な方法について解説します。

1. 消化とは?

機械的消化と化学的消化

消化には、機械的消化と化学的消化の2種類があります。機械的消化は、すり鉢ですり潰すように物理的に細かくする作業です。機械的消化で最も大きな役割を担っているのが咀嚼です。また、腸の蠕動運動も機械的消化の一つです。蠕動運動はミミズがうごめくという意味で、腸がグニグニ動くことで食べ物を移送します。細胞の主なエネルギー源は糖ですが、小腸はグルタミンを、大腸は酪酸を主なエネルギー源としています。

機械的消化
・咀嚼
・蠕動運動

化学的消化
・消化酵素
・胃液
・胆汁

化学的消化は、薬品を使ってドロドロにするようなイメージです。その薬品に当たるのが体内で合成される胃液や消化酵素、胆汁です。

肝・胆・膵の位置関係

肝臓・胆嚢・膵臓(肝・胆・膵)、これら3つは消化に重要な臓器で、消化管に近い位置にあります。肝臓は胃の右側に隣接しています。その肝臓の下にある小さな臓器が胆嚢です。膵臓は胃の裏側に位置しています。それぞれの臓器の役割を見てみましょう。

肝臓

肝臓は臓器の中で最も大きく、1.5kgほどあります。栄養素の代謝、解毒、そして胆汁の産生など、実に多くの役割を担っています。肝臓は1日に500~1000mLもの胆汁を作っています。分泌された胆汁は、小腸の先の方で回収され再利用されます(腸肝循環)。約5%は重金属などの不要なものと一緒に排泄されます。解毒という観点からも、肝臓が産生する胆汁は重要な役割を担っています。

  1. 栄養の代謝(分解・合成・貯蔵)
  2. 解毒作用
  3. 胆汁の産生

胆汁は脂質消化に必須であるため、栄養療法の分野ではかなり重要視されています。LDLコレステロールは、肝臓で産生されて様々な栄養素になりますが、約8割は胆汁の原料になると言われています。脂質の消化については後半で詳しく説明します。

胆管・胆嚢

胆管は胆汁の通り道、胆嚢は胆汁を貯蔵・濃縮する袋です。食べ物が入ってくると、胆嚢に溜められた胆汁が、胆管を通って少しずつ十二指腸で分泌されます。鶏レバーなどを調理したとき、緑色の汁が出てくるのを見たことはありませんか?あれが胆嚢が破れて出てきた胆汁です。

膵臓

膵臓には外分泌機能と内分泌機能という2つの機能があります。外分泌機能は、様々な消化酵素を含む膵液の産生を表します。膵液に含まれる消化酵素には、アミラーゼ、リパーゼ、トリプシンなどがあります。この小さな臓器で1日に1~2Lもの膵液が作られています。内分泌機能は、インスリンという血糖値を下げるホルモンを産生し、血中に分泌する働きを指します。

  1. 外分泌機能:アミラーゼ・リパーゼ・トリプシンなどの消化酵素を含む膵液を産生する(1000〜2000mL/日)
  2. 内分泌機能:インスリンという血糖値を下げるホルモンを産生し、血糖値を調節する

膵臓の細胞では、たくさんのエネルギー(ATP)を使いながら消化酵素が作られています。膵液の量は個人差が大きいと言われていますが、副腎疲労でエネルギーが枯渇している人は、消化酵素も十分に作られていない可能性があります。その結果、いくら栄養素を摂っても消化不良を起こしてしまいます。

肝・胆・膵の疾患

腹痛を起こしたとき、胃や腸を労っても、肝・胆・膵を心配する人は少ないと思います。胃腸科で処方された胃薬を飲んでいたけど、ある日突然激痛が走り、救急車で運ばれたら実は胆石だった…というのはよくある話です。また、有名女優が胆管癌で亡くなったというニュースがありましたが、肝臓と胆嚢を繋いでいる胆管にガンができたそうです。肝・胆・膵は、胃と近い位置にあるので痛みがあっても見逃されやすいので注意が必要です。

  • 消化器内科=胃腸科と考える人が多い
  • 肝・胆・膵の疾患は見逃されやすい

2. 糖質の消化

糖質の主な消化酵素はアミラーゼで、唾液に多く含まれます。ほとんどの消化酵素サプリメントにはアミラーゼが入っています。食材では大根おろしに豊富に含まれています。

でんぷんの分子構造は、ブドウ糖(グルコース)が300~600個繋がってできたものです。これが二糖類になるまで、唾液中のアミラーゼで分解されます。タンパクと脂質は咀嚼で小さくなりますが、化学的な作用は受けません。

  • 唾液中のアミラーゼは、でんぷん(多糖類)の分子を短く切断し、マルトース(二糖類)まで分解する
  • タンパク質・脂質は機械的消化を受けるが、化学的消化は受けない

アミラーゼ

アミラーゼは細胞の中の小胞体で作られます。図の水色の玉がタンパク質です。耳下腺にはブドウの房のような形をした細胞があり、この1つ1つの細胞でアミラーゼが作られています。

出典:福岡伸一/生物と無生物のあいだ (講談社現代新書)

血液データに血清アミラーゼという項目があります。理想値は90くらいですが、極端に低くなければ異常ではありません。血清アミラーゼが高値の場合は、アミラーゼを作る臓器、すなわち膵臓か唾液腺に異常があると推測できます。

この症例の方はアミラーゼが126U/Lと高めに出ています。このような場合は分画を見てみるとよいでしょう。異常があれば、膵臓か唾液腺、片方の数値が跳ね上がっているはずです。

症例の方は唾液腺からも膵臓からも適度に分泌されており異常はありません。このようなケースは経過を見るのが一番だと思います。じわじわ上がっていればどこかに異常があるでしょうし、上げ止まっているならば、遺伝的な体質と考えて良いと思います。

唾液

唾液を分泌する腺は、耳下腺、顎下腺、舌下腺の3箇所あります。さらに、唾液はサラサラした唾液とネバネバした唾液、2種類があります。副交感神経優位なときは、アミラーゼがたくさん含まれたサラサラ唾液が耳下腺から分泌されます。逆に過緊張があるとサラサラ唾液が出にくくなります。耳下腺のところをマッサージするとじわっと唾液が出てきますが、過緊張気味の人はこの部分が凝り固まっていることがあります。

  1. 耳下腺:サラサラ(副交感神経→消化酵素)
  2. 顎下腺:サラサラ+ネバネバ
  3. 舌下腺:ネバネバ(交感神経→免疫、IgA抗体)

交感神経優位なときは、顎下腺と舌下腺からネバネバ唾液が出ます。ネバネバ唾液には細菌をトラップする働きがあります。ストレスが強くて食いしばりのある人は耳下腺あたりが緊張しがちなのでサラサラ唾液が出にくく、口の中が粘着き、口臭が強くなります。そんな症状からもその人のストレス状態がわかるのです。

出典:日本大百科全書(小学館)

1日に分泌される唾液は1~1.5L。すごい量ですよね。唾液にはIgA抗体が含まれます。全身の粘膜に存在し、細菌から体を守っています。よく噛んで唾液を出すという行為は、異物から防御する方法の一つと言えます。

3. タンパク質の消化

胃の働き

タンパク質の消化で重要な臓器は胃です。胃の働きは大きく分けて4つあります。

  1. 胃酸によって細菌を死滅させる→SIBOの予防
  2. ペプシン(胃酸によって活性化)によってタンパク質を分解する
  3. ビタミンB12などの吸収を促進させる
  4. 数時間程度の食品の貯蔵庫

胃酸の成分は塩酸(HCl)で、pH1~2の強酸性です。したがって、口から入ってくるほとんどの細菌は胃酸で殺菌されます。胃酸が出にくい人は、肺炎や感染症リスクが高まります。食中毒も症状に個体差がありますが、お年寄りや小さい子供ほど症状が重くなるのは、胃酸の分泌が少ないためです。胃で十分に殺菌されず、小腸で悪玉菌が増殖する症状をSIBOと呼びます。

タンパク質の消化酵素(ペプシン)は、タンパク質の大きな塊をチョキチョキ切って、ポリペプチドに分解します。ペプシンはタンパク質を消化する酵素ですが、体自体が消化されないのは、活性化していない前駆体の形で産生されるからです。胃粘膜から分泌されたペプシノーゲンは胃酸によって活性化し、ペプシンに生まれ変わります。

胃粘膜は粘液で保護されているので、pH1~2という強酸に常に晒されていても胃が傷つくことはありません。しかし、粘液が正常に分泌されていないと胃が荒れてしまいます。胃酸抑制剤を飲む前に、胃酸で胃が荒れている理由を考えなければ根本解決にはなりません。

タンパク質消化のフロー

胃酸によりペプシノーゲンがペプシンに活性化され、タンパク質がポリペプチドに分解されます。ポリペプチドが十二指腸に運ばれると、膵臓が分泌するトリプシンやキモトリプシンにより、オリゴペプチドに分解されます。さらに小腸でペプチターゼ(ジペプチターゼやアミノペプチターゼなどの総称)の作用でアミノ酸になり、小腸上皮細胞から吸収されます。

アミノ酸まで分解されると、食べ物由来のタンパク質が持っている情報(DNA)が完全にデリートされます。ここまで分解されて初めて、自分の体のタンパク質の原料として使えるようになるのです。

タンパク質代謝が低下している場合

タンパク質代謝が低下している場合は、胃酸低下や胃の機能低下、消化酵素不足を疑います。お肉はもたれるからあまり食べられないという方は、消化酵素を十分に作れていない可能性があります。タンパク質の摂取量が足りていないという単純な原因ではないということです。

消化酵素不足でタンパク質が未消化になると、大腸で有毒アミンやアンモニアが生じ、便が臭くなります。悪玉菌の餌になりやすいので、腸内環境も悪化します。タンパク質を増やして、お腹が張ったり便が臭くなるという症状が出る場合は、本人の消化能力を超えてる場合があります。

CSA検査

膵エラスターゼは膵臓から分泌されるタンパク質の消化酵素で、消化管内でほとんど分解されずに便と一緒に排出されます。したがって、膵エラスターゼ濃度を測定することで、消化能力を推測することができます。

検査基準は200μg/mLがカットオフ値とされていますが、本当に健康な人は500μg以上あるそうです。ですから、500μg/mL以下であれば十分な消化酵素が分泌されていない可能性があるとみてよいでしょう。消化に問題のある方は、ぜひこのCSA検査を受けてみてください。腸の炎症の有無も確認できます。

脂質の消化

膵液と胆汁酸

膵液と胆汁酸、これら2つがタッグを組んで脂質を消化します。消化は胆汁酸が分泌される十二指腸から先で行われます。食べ物由来の脂質はほとんどが中性脂肪の形をしており、次のようなフローで分解、吸収されます。

  1. 十二指腸で胆汁によって乳化される
  2. 消化酵素リパーゼ(膵臓)によって、モノグリセリド、脂肪酸、グリセロールに分解される
  3. グリセロール(水溶性)はそのまま小腸上皮細胞から吸収される
  4. モノグリセリド、脂肪酸は、腸内で分泌された胆汁酸によりミセル化(水溶性のミクロ分子)され腸管から吸収

脂質は水に溶けないため、そのままでは腸管から吸収されません。消化酵素の働きにより分解され、胆汁酸によって形成されたミセルと呼ばれる水溶性のミクロ分子に取り込まれて吸収されます。

栄養学的に重要なことは、ミセル化の時に脂溶性ビタミンが一緒に入ってくるということです。脂質の消化吸収が悪い人は、脂溶性ビタミン不足の症状が出やすいのです。

脂質の消化吸収が悪い場合の症状

  • ドライアイ
  • ドライマウス
  • 腸の炎症
  • 生理不順
  • 不妊
  • 肌荒れ
  • 風邪を引きやすい(喉かぜ)
  • 溶血性貧血
  • 肌のシミやくすみ、ざらざら感
  • 接触性皮膚炎、湿疹
  • 肩こり
  • 冷え

脂溶性ビタミン(A, D, E, K)を運ぶためには、胆汁酸によってミセルが形成されていることが大前提になります。ビタミンEが欠乏すると、月経不順や溶血性貧血などが起こります。ビタミンK不足では骨粗鬆症、ビタミンAは粘膜に必要な栄養素なので、欠乏するとドライアイやドライマウスなどの症状が出ます。このような症状がある場合は栄養補給の前に消化吸収のサポートを考える必要があります。

LDLコレステロールを原料とするもの

  1. 胆汁酸
  2. 細胞膜
  3. ホルモン
  4. ビタミンD
  5. CoQ10

胆汁酸の原料はLDLコレステロールです。LDLコレステロールからは様々な栄養素が合成されるので、血液データとして100mg/dL以上はほしいところです。経験上、アトピーなど皮膚に問題のある人は、LDLコレステロール値が低い傾向にあります。LDLコレステロール値が低い=胆汁酸が十分量作れていない=脂溶性ビタミンを使えていないということです。風邪を引いた時、体力のある人は割とパッと熱が出るのですが、体力のない人は喉の痛みがずっと続いたりします。粘膜が弱い→ビタミンAが足りていない→脂溶性ビタミンが使えていない→胆汁酸が作れていないというように、推測を繋げていくことができます。

消化酵素のまとめ

部位分泌液消化酵素消化する栄養素分泌量(1日)
口唾液アミラーゼ炭水化物1〜1.5L
胃胃液ペプシンタンパク質2L
小腸腸液マルターゼなど炭水化物2〜3L
ペプチターゼタンパク質
膵臓膵液アミラーゼ炭水化物1〜2L
トリプシンタンパク質
キモトリプシンタンパク質
リパーゼ脂質
肝臓胆汁ー脂質0.5〜0.8mL

この表を見れば、1日でいかに多くの消化酵素が作られているかがわかります。消化酵素はタンパク質でできているので、タンパク質代謝がうまく回っていないと消化力も低下するというのは納得がいくと思います。

4. 胃の不調

胃内pHと萎縮

血液データのペプシノーゲン値は胃の萎縮を調べるのに有効です。ピロリ菌感染により胃の萎縮が起こるケースが非常に多く、逆流性食道炎などの症状が出ます。胃には入口(噴門)と出口(幽門)があって、胃酸が出るとキュッと閉まります。寝ている間に胃酸が上がってくるので枕を高くして寝ています、なんて言う方がいらっしゃいますが、それは噴門が閉まらず胃酸が逆流しているからです。胃酸抑制剤を飲むと噴門が閉まりにくくなるので、逆流性食道炎は慢性化したり再発リスクが高くなりがちです。

出典:広島国際大学 島谷研究所 http://www.hirokoku-u.ac.jp/

食事をすると胃内がアルカリ側に傾きますが、健康な人は胃酸の働きでpH1~2に戻ります。一方、胃粘膜萎縮がある人は胃酸分泌が少ないため、睡眠中にpHがじわじわと高くなってしまいます。

胃酸の量と年齢の関係

胃酸は年齢によって分泌量が大きく変化します。このグラフは栄養療法の分野では有名な書籍からの抜粋ですが、ここでも胃酸がなぜ体にとって重要かということが詳しく書かれています。

出典:Jonathan Wright, MD and Lane Lenard PhD/Why Stomach Acid Is Good for You

年齢を重ねると胃酸の分泌が減り、必然的にタンパク質代謝が低下します。そうすると、傷の治りが遅くなったり、薬が効きにくくなったり、副作用が出たりと、様々な不具合が起きやすくなります。病気に対して抵抗力をつけるという意味でも、タンパク質代謝を意識することはとても大事です。胃酸をサポートする食事法については後半で解説します。

ピロリ菌検査・ペプシノーゲン検査

日本人のピロリ菌感染率は非常に高いので、この検査も1回はやっておくといいと思います。血液中にピロリ菌がいると、免疫システムが働き抗体ができます。その抗体の量でピロリ菌の感染有無が推測できます。

この症例の方は明らかにピロリ菌陽性ですが、自覚症状が全くありませんでした。食事内容を聞くと、麺類ばかり食べていました。逆流性食道炎やピロリ菌陽性の方の特徴ですが、お蕎麦など食べやすい麺類を好む傾向があります。消化力が落ちていので、そういったメニューを選んでしまいがちになるのでしょう。食習慣はその人の嗜好ではなく、栄養状態の結果なのです。1日分の食事内容を問診すると、その人の栄養状態が大体わかります。

ピロリ菌陽性の場合、ペプシノーゲンⅠの値が高くなることがあります。これは胃酸が出ているのではなく、炎症が起こっている結果です。萎縮を判断するのはペプシノーゲンⅠとⅡの比率で、通常は7~8、5以下で胃の萎縮があると判断します。3以下になると胃がんの検診を勧められます。

データを見る上で注意したいのが、副腎疲労で抗体を作る元気もないような人は、抗体の数値すら上がってこないこともあるということです。ピロリ菌陰性だと思っていたのに、栄養療法を実践してタンパク質代謝が上がると突然陽性になった、というケースもあります。

ピロリ菌感染の原因

日本では井戸水を飲むからピロリ菌になりやすい、と聞いたことはありませんか?しかし、同じ井戸水を飲んでいても感染する人としない人がいます。その違いは、空腹時の胃酸の量に関係していると考えられます。空腹時に胃酸が出すぎるとピロリ菌の活性が高まるという報告があります。ストレスで胃酸過多になるので、ストレス状態でピロリ菌感染リスクが変わると言えます。

World J Gastroenterol. 2008 Mar 14; 14(10): 1539–1543
Gastric juice for the diagnosis of H pylori infection in patients on proton pump inhibitors
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/18330944/

胃酸分泌は副交感神経支配下にあるのに、ストレスで交感神経優位になっている時になぜ胃酸過多になるのでしょうか?

ストレスで交感神経優位になり続けると、それに反応して副交感神経が過剰に働き、空腹時に胃酸が出過ぎてしまうのです。結果的に胃の粘膜が傷ついて、ピロリ菌が増えるリスクが高まります。問題は井戸水ではなく、自律神経のバランスなのです。

ストレス
→ 視床下部
→ 副腎皮質が刺激
→ ガストリン、アセチルコリン(ホルモン)
→ 胃液分泌↑、胃粘膜防御↓
→ ピロリ菌増殖

下痢型の過敏性腸症候群になると、医療機関では腸のセロトニン分泌を止める薬を処方されます。副交感神経の働きでセロトニンが過剰に分泌され、腸が蠕動運動をしすぎて下痢になるからです。このように、胃酸過多も過敏性腸炎も、自律神経のバランスの乱れで起こると考えられます。

胃薬の種類

胃薬は大まかに4種類に分けられます。

  1. 胃酸の分泌を抑制するもの(PPI; オメプラゾールなど)
  2. 胃酸を中和するもの(市販薬に多い)
  3. 消化管運動機能を改善するもの(ガスモチンなど)
  4. 胃粘膜を保護するもの(レバミピドなど)

PPI(プロトポンプ阻害剤)

胃粘膜の細胞には、プロトンポンプと呼ばれる胃酸を出すポンプがあります。プロトンとは水素イオンのことです。水を汲み出すポンプをイメージしてください。汲み出すときにはエネルギーが必要です。エネルギー(ATP)を十分量作れる人は、プロトンをちゃんと汲み出せるので胃酸も分泌できます。

PPIには、このプロトンポンプを止める働きがあります。つまり胃酸を止めるお薬です。よく効くので、特に高齢者に処方されている場合が多いですが、長期的に使用すると様々な弊害が出てくることがわかっています。肺炎になるリスクが約1.5倍、骨折リスクが1.25倍、腎機能低下リスクが1.3倍に増加するなどといった報告があります。当前ですが、胃酸の分泌を止めるということは、タンパク質の消化も止めるということになります。

PLoS ONE (2015) 10: e0128004.
Risk of Community-Acquired Pneumonia with Outpatient Proton-Pump Inhibitor Therapy: A Systematic Review and Meta-Analysis.
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC4456166/

Arch Intern Med. (2010) 3:765-771.
Proton Pump Inhibitor Use, Hip Fracture and Change in Bone Density In Postmenopausal Women Results from the Women’s Health Initiative.
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC4240017/

J Am Soc Nephrol. 2016 Oct; 27(10): 3153–3163.
Proton Pump Inhibitors and Risk of Incident CKD and Progression to ESRD.
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC5042677/

ケイ酸アルミニウム・メタケイ酸アルミン酸

胃酸を中和する物質です。あまりにも胃酸過多がひどくて対処療法的に飲むのは仕方ありませんが、胃酸のpHを上げるので長期的に服用すると様々な不調を起こします。漢方薬などに添加物として含まれていることもあり、気が付かないうちに摂取している可能性があるので注意が必要です。

5. 消化をサポートする工夫

視覚・嗅覚など脳を刺激する

さて、ここからは実践編です。栄養療法を学んでいると、食事がタスク化してしまう時があります。真面目にやればやるほど、食べることに対して疲弊してしまいます。でも、食事をする上で一番大切なのは「美味しそう!楽しそう!」と感じることです。副交感神経が優位になり、消化酵素の分泌が高まり、胃腸の蠕動運動が正常化します。

食材の細胞壁を壊す

消化酵素は、生野菜や果物で補強することができます。消化酵素は細胞の中に含まれているので、細胞壁を壊すことで活性化します。大根おろしや山芋とろろ、玉ねぎのすりおろしが消化に良い理由はここにあります。豚肉に玉ねぎのすりおろしを大さじ2杯くらいを調味料と一緒に揉み込むだけでタンパク質が少し分解されます。複雑なタンパク質の四次構造を解きほぐしてくれるんですね。こうすることで、食べた時に消化酵素が働きやすくなり消化が楽になります。

生野菜を咀嚼したり、フルーツを生食するのも同じことです。咀嚼により細胞壁が壊れ、酵素がいっぱい出てきます。グリーンスムージーも、野菜やフルーツを砕くので酵素をたくさん出す効果があります。酢豚にパイナップルを入れるとか、メロンを生ハムで巻くのも、理にかなった組み合わせです。

ピロリ菌とブロッコリースプラウト

ブロッコリースプラウトを1日2パック、2週間食べ続けるとピロリ菌が陰性になったという報告があります。ブロッコリースプラウトはそれぐらい抗菌作用が強い食材です。SIBOの症状を抱えている人にも良い食材です。

Dig Dis Sci. 2004 Aug;49(7-8):1088-90.
Oral broccoli sprouts for the treatment of Helicobacter pylori infection: a preliminary report
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/15387326/

スプラウトの良い点は、汚染が少ないこと。生育期間が長くなればなるほど、いろんな汚染を抱え込みやすくなります。ブロッコリースプラウトは数日でできるので、汚染リスクが極めて少ない食材です。ブロッコリースプラウトに豊富に含まれるスルフォラファンは、抗癌作用や解毒作用もあるのでかなりオススメです。

スルフォラファン
・解毒
・抗酸化
・抗腫瘍
・抗菌

胃炎とキャベツ

昔からキャベツは胃に良いと言われてきました。キャベジンというお薬には、キャベツから発見されたビタミンU(S-メチルメチオニン)が配合されています。ビタミンUは胃の粘膜の保護・修復に働きます。そのほかにもキャベツに含まれるLPA(リゾフォスファチジン酸)が粘膜や胃の細胞の修復に働くそうです。グラフのPAとPCはLPAの前駆体です。

東洋食品研究所 研究報告書 29, 145-153(2013)
抗胃腸障害機能の強化を目的としたキャベツの効果的な調理および食べ合わせに関する研究
https://www.shokuken.or.jp/report/docs/029_019.pdf

とんかつと千切りキャベツも良い組み合わせです。千切りにすることで細胞壁が壊れ、酵素が活性化します。病弱でサプリを飲むのもしんどい方には、微塵切りしたキャベツを塩揉みして漬物風にしたり、昆布茶に入れたりすると消化のサポートになります。キャベツとフルーツを組み合わせたスムージーも良いでしょう。レモンを少量入れると胃酸のサポートにもなります。

ビタミンU(S-メチルメチオニン):
胃粘膜の保護・修復

LPA(リゾフォスファチジン酸):
胃粘膜細胞の修復・新生促進

消化とパセリ

消化に良い食材で外せないのがパセリです。添え物のイメージがありますが、抗菌作用や胃潰瘍の抑制効果があることがわかっています。唯一の欠点は苦いということですが、フリッターを作るときにみじん切りにして衣に混ぜ込むと食べやすくなります。葉酸も鉄も取れるのでとても良い食材です。

  • 食欲増進・胃酸分泌・消化促進(アピオール、ピネン)
  • 抗菌、腸内環境の改善
  • 胃潰瘍の発生を抑制

Journal of Food Protection, Vol.60, No.1, 1997, Pages 72-77
Isolation and Identification of Antimicrobial Furocoumarins from Parsley
https://meridian.allenpress.com/jfp/article/60/1/72/168523/Isolation-and-Identification-of-Antimicrobial

Am J Chin Med. 2003;31(5):699-711.
Prevention of experimentally-induced gastric ulcers in rats by an ethanolic extract of “Parsley” Petroselinum crispum
https://www.researchgate.net/publication/8940609_Prevention_of_Experimentally-induced_Gastric_Ulcers_in_Rats_by_an_Ethanolic_Extract_of_Parsley_Petroselinum_crispum

生姜の健胃整腸作用

生姜は消化促進作用に優れており、アーユルヴェーダなどでよく使われています。生の時と加熱した時とで、成分が異なるのが特徴です。生の生姜はジンゲロールという高い殺菌効果がある成分を含みます。栄養学的に見てもお寿司にガリは欠かせません。加熱によって発生するショウガオールやジンゲロンは、身体を温めたり代謝を活性化する作用があります。炒め物に使ったり、生姜湯として飲んだりすることで健胃効果が期待できます。

  • 消化促進
  • 胃酸の分泌促進
  • 健胃
  • 殺菌
  1. ジンゲロール(生):殺菌効果
  2. ショウガオール(加熱):抗がん・抗酸化・身体を温める
  3. ジンゲロン(加熱):代謝の活性

塩酸ベタイン

私自身、サプリメントをどれだけ飲んでも一向に改善しなかった時期があったのですが、消化酵素と塩酸ベタインを飲み始めてから血液データに変化が現れました。単純にサプリメントで栄養素を補えばいいという話ではなく、まずは栄養素がしっかり消化・吸収されることが大事なんだと体感しました。

これは塩酸ベタインです。塩酸を直接カプセル化することはできないので、アミノ酸の一種であるベタインと結合させています。プロテアーゼが補助的に入っています。最近のお気に入りはTHORNE社のBio-Gest。原材料にオックスバイルとありますが、これは牛の胆汁酸のことです。タンパク質と脂質の消化酵素、胆汁酸、塩酸ベタイン、そして胃粘膜のエネルギー源であるグルタミンが配合されています。

動物用の消化酵素

私が消化酵素を飲み始めた当時、検索するとほとんどがペット用の消化酵素がヒットしました。ビオペアは家畜向けの胃酸補助剤です。これにも塩酸ベタインが含まれていますね。栄養療法の分野で文献を調べていると、獣医向けの論文に行き当たることがよくあります。かなり参考になりますよ。

消化酵素

保険適用で出してもらえる消化酵素にタフマックがあります。糖質、脂質、タンパク質、3大栄養素の消化酵素がタブレットになっています。

これはメタジェニックス社のスペクトラザイムという消化酵素です。栄養療法をやっている医療機関での取扱いが多い商品です。特徴は消化酵素の種類が多いことです。消化酵素によって分解するアミノ酸の結合部位が決まっているので、消化酵素は種類が多いほど細かく分解される、つまり消化の負担が軽減するということになります。

消化酵素の実験

お湯のみ(左)、お湯+塩酸ベタイン(中央)、お湯+消化酵素(右)の液を準備し、そこへ豚肉の薄切りを入れて半日置いてみました。その結果、お湯のみでは変化はなく、塩酸ベタインを入れたものはボロボロに崩れました。消化酵素を入れたものも、塩酸ベタインほどではありませんが崩れています。塩酸ベタインの方は油が浮いていますが、消化酵素は脂質も分解しています。それぞれの特徴がよくわかりますね。

DPP-4

グルテンに多く含まれるプロリンのペプチド結合を分解する酵素です。グルテンには人間が消化できない部分があるので、腸内環境が悪化したり、腸粘膜に炎症が起きたりします。そのグルテンの消化をサポートしてくれるのがこのDPP-4(Dipeptidyl Peptidase-4)です。小麦粉を主食とする国では、セリアック病を患っている人が大勢います。腸内のDPP-4濃度が減少しているため、DPP-4投与により下痢などの症状が改善することがわかっています。

このTriEnzaは、一般的な消化酵素にDPP-4がプラスされたサプリメントです。他にもDPP-4を主原料とするグルテン専用の消化酵素もあります。これさえあればパスタやラーメンをたくさん食べていいというわけではありませんが、外食すると小麦の摂取は避けられないので、事前に飲んでおくとグルテン消化のサポートになります。

DPP-4阻害剤

医療関係者であれば、DPP-4と聞いて思い浮かべるのは糖尿病の薬です。膵臓にインスリンを出すよう命令するホルモンをインクレチンと言います。このインクレチンを分解するのがDPP-4です。このDPP-4の働きをブロックするとインスリンがたくさん出るので、DPP-4阻害剤が糖尿病の薬として使われています。もうお分かりだと思いますが、DPP-4阻害剤を飲みながら小麦粉を摂取すると、グルテン消化まで阻害されてしまうということです。

ちなみに、DPP-4サプリメントを飲んでもインクレチン分解は促進されません。インクレチンの反応は内分泌、消化酵素は外分泌なので、作用する部位が異なります。

胆汁(ウルソデオキシコール酸)

脂質消化に必要な胆汁は、ウルソデオキシコール酸(ウルソ)という名で製剤になっています。歴史の長いお薬で、肝機能保護や栄養素吸収、利胆作用促進、消化不良改善などの効果があります。

熊胆

漢方薬の一つで、熊の胆汁を使ったものを熊胆と言います。現在は他の動物由来の胆汁も多く出回っています。ガロールという商品にも胆汁末が配合されています。iHerbでは、オックスバイル(牛の胆汁)などが販売されています。

六君子湯

サプリメントは体に足りない栄養素を外から補うという思想ですが、生薬は自分がすでに持ってる物を効率よく使えるようにしてくれるという働きがあります。胃腸に不調がありながら、内視鏡でみても原因が見つからない状態を、機能性ディスペプシアと言います。こうした症状を抱えている人は本当にたくさんいます。そのような人には、食欲改善効果がある六君子湯が効いたりします。

  • 胃排泄能・蠕動運動改善
  • 食欲改善効果グレリン(食欲に関するホルモン)の感受性を高める

他にも、副腎疲労の時によく使われる漢方で補中益気湯があります。漢方で「中」はお腹を指す言葉で、胃腸の力を補うという意味があります。痩せすぎで太れない人など、胃の機能が低下している場合は、補中益気湯や安中散などを使うと良いと思います。

自律神経と消化機能

自律神経と胃腸機能は密接に関係してます。緊張が強かったりストレスがあるとお腹は動きません。単純に消化酵素や胃酸を補填するだけで改善すれば良いですが、現実はそう簡単にいきません。根本原因が精神的ストレスだった場合、交感神経が優位になり、胃液や膵液が減少し、消化管の運動も抑制されます。ベッドが変わると、朝の排便がないという経験はありませんか?それは寝ている間に大蠕動運動が起きていない証拠です。本当にリラックスしていないと、腸管の内容物を一気に押し出す大蠕動運動が起きにくいと言われています。

神経・器官交感神経の作用副交感神経の作用
瞳孔拡大
(散瞳)
縮小
(縮瞳)
唾液腺ネバネバ唾液サラサラ唾液
末梢血管収縮拡張
気道拡張収縮
血圧上昇下降
心拍促進緩徐
肝臓グリコーゲンの分解
(血糖上昇)
グリコーゲンの合成
(血糖低下)
消化分泌液
(胃・腸・膵液)
減少増加
消化管運動抑制促進
皮膚
(立毛筋)
収縮
(鳥肌)
ー
汗腺分泌活動増加ー
膀胱弛緩
(尿閉)
収縮
(排尿)

心を表す慣用句によく「腹」が使われますよね。おなかは心を映します。自己評価の低い人は栄養状態が悪くなりやすいです。親の期待に応えようという思考を持っている子供は、大人になってから自分が本当は何をやりたいのかを見失いがちです。ワーカーホリックも然り。自己評価が低いから他者評価に依存しがちになって、さらに精神を消耗させてしまいます。こうした思考の方にはやはりメンタルのサポートが必要になってきます。

おなか=心
消化力の向上・栄養の代謝=メンタルのケアが必要

栄養学と心理学は右と左の車輪だと思います。どちらかしか回らないと同じところをぐるぐるしてしまうんですね。両方にアプローチすると、胃腸が正しく機能し栄養が吸収されやすい体になってきます。本当に健康になるには、心も身体も満たしてあげることが大切です。

6. まとめ

いかがでしたか?消化が体にとっていかに重要な工程かをわかっていただけたかと思います。今回のテーマでインプットしてほしい項目をまとめてみました。ぜひ一度、自分の言葉で説明してみてください。アウトプットすることが一番の勉強になりますよ。

  • 肝臓・膵臓・胆嚢の「消化」における働きとは?
  • 消化酵素はタンパク質を壊すタンパク質である
  • 代表的な消化酵素(アミラーゼ・リパーゼ・トリプシン・ペプチターゼ)
  • 唾液の消化に対する働きは何か?
  • 胆汁は脂質に対してどのように働くか?
  • 胃酸の働きは?なぜ胃酸は重要か?
  • 消化がうまくできていないときの症状、判断方法
  • 消化がうまくできていないときのお食事の工夫
  • 自己評価が低いと栄養状態が悪くなるのはなぜ?

タンパク質の基本と調理

まごめじゅん · 2021年4月1日 ·

日常生活の中で、どのくらいタンパク質を意識して食事を摂っていますか?野菜を食べましょうとは言われても、タンパク質を食べましょうと言われることは少ないですよね。体にとって大事な栄養素とはわかっていても、どのくらいの量をどのように調理して食べるのが良いかわからない、という方も多いのではないでしょうか。

タンパク質=proteinの語源は「第一」のという意味を持つ言葉です。名前の由来の通り、体の中で優先順位が最も高い栄養素と言えます。体の7~8割は水でできていますが、その水を支えているのはタンパク質です。したがって、タンパク質が不足すると体内の水分も保てなくなります。タンパク質は、単純にたくさん食べれば良いというものではありません。体内での消化吸収、リサイクル率、そして体調などを総合的に見ながら、質や量を考える必要があるのです。

1. タンパク質の基本

三大栄養素

脂質、タンパク質、糖質、この3つが三大栄養素です。これにビタミン、ミネラルを加えたものを五大栄養素と呼びます。三大栄養素とビタミン・ミネラルの決定的な違いは何でしょうか?

それはエネルギーになるということです。ビタミンやミネラルは、そのものがエネルギーになるのではなく、三大栄養素がエネルギーに変換される時に働くものです。例えるなら、建物の材料が三大栄養素、建てる時の道具がビタミン・ミネラルです。

アミノ酸の分子構造

タンパク質の分子構造で、糖質や脂質と決定的に違うものが1つあります。それは窒素を保有していることです。脂質や糖質は、炭素(C)、水素(H)、酸素(O)だけでできているのに対し、タンパク質はアミノ基(NH2)の形で窒素を含みます。土壌に窒素が多いと野菜や米がよく育ちますよね。おそらく人間の体も同じで、ある程度の窒素を必要としていて、それが成長因子として働いているのだと思います。

タンパク質の最小単位はアミノ酸です。アミノ酸の基本構造にはアミノ基(NH2)とカルボキシル基(COOH)があります。Rの部分のバリエーションは20種類。タンパク質は、この20種類のアミノ酸が様々に組み合わさってできた高分子化合物です。

タンパク質の種類については、正確な数はまだわかっていません。おおよそ10万種類と推定されています。20種類のアミノ酸をもとに、10万種類のタンパク質ができるわけですから、タンパク質はとても複雑な構造をしています。イメージで表すとこんな感じです。

1粒のパールがアミノ酸とすると、いくつか繋がったものがペプチド、もう少し多くなるとポリペプチド、さらに繋がっていくとタンパク質になります。パールでできたポーチには物を入れるという機能が備わります。タンパク質がアミノ酸やペプチドと異なるところは、機能を有するという点です。

必須アミノ酸と非必須アミノ酸

体内で合成できるものを非必須アミノ酸、合成できないものを必須アミノ酸と言います。「必須」と付くので、なんとなく必須アミノ酸の方が大事だと思われがちですが、私は逆ではないかと思います。非必須アミノ酸は、常に体内で必要とされているので、重要度が高いために、体内で合成できるようになったと考えるのが自然だと思います。

必須アミノ酸

  • バリン
  • ロイシン
  • メチオニン
  • リジン
  • フェニルアラニン
  • トリプトファン
  • スレオニン
  • ヒスチジン

非必須アミノ酸

  • アルギニン
  • グリシン
  • アラニン
  • セリン
  • チロシン
  • システイン
  • アスパラギン
  • グルタミン
  • プロリン
  • アスパラギン酸

例えばグルタミン。通常、細胞は糖をエネルギー源としますが、小腸の粘膜細胞はグルタミンを主な栄養源とします。小腸は全ての栄養の入口ですから、ここがダメージを受けると体全体の代謝が滞ります。したがって、グルタミンは常に供給される必要のあるアミノ酸と言えます。

タンパク質の構造

タンパク質の構造はとても複雑です。一次構造は単純な直鎖のアミノ酸配列、二次構造はテープのような平たい形をしています。三次構造は二次構造が折り畳まれたもの、三次構造が集合して複合体を形成したものが四次構造です。

2. 良いタンパク質とは?

アミノ酸スコア

タンパク質の質を考えるとき、アミノ酸価(アミノ酸スコア)が一つの指標になります。「アミノ酸の桶」という理論を聞いたことはありますか?桶を構成する9枚の板を必須アミノ酸に見立てて、そのうち一つでも高さが足りないと水(タンパク質)が少なくなるというものです。つまり、最も少ないアミノ酸に合わせた量のタンパク質しか合成できないということです。

アミノ酸スコアの例

  • 鶏肉:100
  • 卵:100
  • 精白米:65
  • 食パン:44

最も少ないアミノ酸を第一制限アミノ酸と呼びます。例えば、鶏肉や卵のアミノ酸スコアは100を示します。一方、精白米にも多くのアミノ酸が含まれますが、リシンが第一制限アミノ酸のため、スコアは65と低めです。大豆にはリシンが多いので、ご飯に納豆をかけたり、お味噌汁と一緒に食べたりすることによって、アミノ酸スコアを100に近づけることができます。いろんなものを食べることで栄養バランスが整うというのは、このアミノ酸スコアの話からも納得がいきますね。

生物価

タンパク質の質を示すものがもう一つあります。それは生物価です。体に吸収されたタンパク質のうち、実際に体の材料として使われた割合を示します。食べたタンパク質は消化酵素でアミノ酸単位まで小さく分解され、消化吸収されます。この消化吸収されたアミノ酸が身体づくりに使われ、使われなかった分は排泄されます。

生物価はこの廃棄率をもとに算出されます。値が高くなるほど利用効率が良いと言えます。卵は87~97、牛乳は85~90、ホエイプロテインは100を超えます。激しいスポーツをする人がホエイプロテインを選ぶ理由はここにあります。タンパク質の質を示す値として、アミノ酸スコアの方が知名度は高いですが、この生物価も重要な指標になります。

3. 機能による分類

タンパク質の機能は多岐にわたります。人間の仕事で例えるなら、輸送を担うロジスティクス系、防御を担う自衛隊や警察官、貯蔵の役割をする銀行などなど。大まかに分けると7種類あります。

酵素タンパク質

よく耳にする酵素もタンパク質のひとつです。酵素タンパク質には代謝酵素と消化酵素があります。代謝酵素は化学反応の触媒となる酵素で、ASTやALTがあります。消化酵素は、タンパク質という大きな塊を最小単位であるアミノ酸まで分解する酵素で、アミラーゼやペプシン、リパーゼなどがあります。

構造タンパク質

コラーゲンは代表的な構造タンパク質の一つです。細胞間マトリックスの主要成分の一つで、細胞と細胞の間を埋めて真皮や骨などを構成します。血管にも多く含まれます。コラーゲン形成にはビタミンCが欠かせませんが、ビタミンC不足になるとコラーゲンが形成されず、血管が壊れて出血してしまいます。これが大航海時代に流行した壊血病と呼ばれる病気です。

ケラチンは、角質組織を構成するタンパク質です。おそらく人間の体で最も丈夫な固いタンパク質で、髪の毛や爪を作っています。

輸送タンパク質

その名の通り、荷物を運んでいるタンパク質です。例えば、ヘモグロビンは酸素を運ぶトラック。セルロプラスミンは銅を運ぶトラックです。血清銅が高いとセルロプラスミンも高くなる傾向があります。余談ですが、セルロプラスミンはエストロゲンと連動しているので、血清銅が高い場合は、エストロゲン値も高いと推測できます。

リポプロテインは脂質を運ぶタンパク質で、最もメジャーなものがコレステロールです。LDLコレステロール、HDLコレステロールの「L」はリポプロテインのLです。脂質は水に溶けないため、水溶性のリポプロテインに乗せて運ばれます。

防御タンパク質

免疫機能に関与するタンパク質です。免疫グロブリンもその一つ。血液中には大まかに分けて、アルブミンとグロブリンの2種類のタンパク質が存在しており、その割合は2:1くらいです。

貯蔵タンパク質

栄養療法の分野ではフェリチンが有名ですね。鉄を貯蔵しておくためのタンパク質です。

収縮タンパク質

アクチンやミオシンは、筋肉を構成しているタンパク質です。ハンバーグを作るときに、塩を加えてこねると粘りや引きが出ます。これはアクチンとミオシンが収縮することで起こる変化です。

受容体タンパク質

細胞膜に存在するタンパク質です。細胞膜の主成分は脂質ですが、所々に膜タンパク質があり、様々な栄養素の通り道になっています。細胞膜内にはミトコンドリアや核、小胞体など、とても重要な器官が入っています。そこで、この受容体タンパク質が門番のような働きをし、外部のものを選択的に取り込んで細胞内を守っています。

4. アミノ基転移酵素

ここからは、特に重要な機能を持つタンパク質をピックアップして説明します。まずは実践講座でよく出てくるASTとALTのお話です。これらはアミノ酸代謝に関わる酵素です。肝機能検査で測定される値ですが、栄養療法の分野ではエネルギー代謝の状態を推測する数値として使われます。

AST:アスパラギン酸アミノ基転移酵素

ALT:アラニンアミノ基転移酵素

ALTはアラニンアミノ基転移酵素で、アラニンのアミノ基をα-ケトグルタル酸に転移させます。すると、グルタミン酸とピルビン酸ができます。ASTはアスパラギン酸アミノ基転移酵素で、アスパラギン酸のアミノ基をα-ケトグルタル酸に転移させます。すると、グルタミン酸とオキサロ酢酸ができます。

ピルビン酸、α-ケトグルタル酸、オキサロ酢酸は、エネルギーを産生するTCA回路に関わる物質です。ということは、ASTとALTの値から何となくその人のエネルギー代謝の状態が想像できるのです。

細胞内のエネルギー代謝を見てみましょう。1つのグルコースからピルビン酸に代謝される過程で2つのATPができます。これを解糖系と言います。ピルビン酸はミトコンドリアに入り、TCA回路で2ATP、電子伝達系で36ATPがつくられます。

ASTとALTはこのTCA回路に絡んでいます。TCA回路は山手線のようにぐるぐる回っています。遅延せずに回っていれば良いのですが、ASTやALTが極端に低いと、エネルギーが十分に作れなくなる可能性があります。

この症例の方はASTが12、ALTが4です。理想値はAST、ALTともに20ですから、極めて低い値です。細胞のミトコンドリア機能が低下し、エネルギー代謝がものすごく落ちていると推測できます。こうした値を示す人は、体感としていつも疲れていたり、QOLが著しく下がっていたりします。

5. アルブミンとグロブリン

アルブミン

輸送タンパクであるアルブミンは、血液中で1番多いタンパク質です。1日に6g~12gぐらい肝臓で合成されています。

アルブミンが運ぶもの

  • カルシウム
  • 亜鉛
  • 脂肪酸
  • 間接ビリルビン
  • ホルモン
  • 薬剤
  • 水分

アルブミンが運ぶものの中で最も重要なのは水分です。アルブミンが水分を抱えているので、血管内の水分が保たれます。アルブミンが減ると、血液中に水分を保持することができなくなって、血液が少し濃くなります。これがいわゆる濃縮と呼ばれる現象です。濃縮が起こると、見かけ上の血液データが全体的に上がります。その中でも、アルブミン値は最も濃縮の影響を受けます。血液中の水分は細胞と血管の間に逃げるので、これがむくみの原因になります。高齢者は特にアルブミン値が低くなりがちです。

また、アルブミンが運ぶものの中に薬剤があります。アルブミンが少ない人は、薬を飲んでもうまく運ぶことができず、結果として副作用が出やすいと言われています。

データの目安

総タンパク質、アルブミン、アルブミン/グロブミン(A/G)比の目安を覚えておきましょう。アルブミンは肝臓で合成されることから、アルブミン値が低いと肝機能低下を疑います。また、肝臓にはミトコンドリアがたくさん存在しているので、肝機能低下はミトコンドリア機能低下を反映します。

  • 総蛋白(TP):7.5
  • アルブミン(Alb):4.5
  • A/G比:1.8

下の症例は、総蛋白6.8、アルブミン4.1、A/G比1.52。全体的に低いですね。タンパク質代謝が低下し、アルブミンの合成能力も落ちていると考えられます。おそらく濃縮が起こっているので、実際のアルブミン値はもっと低いはずです。

さらにLDLコレステレロールが67と、著しく低いです。LDLコレステロールはリポプロテインでしたね。脂質を運ぶタンパク質のトラックが足りていない、つまり肝臓から脂質を運び出せない状態です。この症例は極端な例ですが、全体的に酵素活性が低く、尿素窒素も尿酸値も低い。血糖値に至っては73で、完全に低血糖です。疲れやすかったり、QOLが低下していたりといった症状がデータを見ただけで推測できます。

アルブミン/グロブリン(A/G)比

A/G比も栄養状態を見る上で重要な値です。理想値は1.8~2。A/G比の値が低い場合は、アルブミンが下がってグロブリンが上がっているパターンが多いです。前述の通り、低アルブミン値は低栄養や肝機能低下が原因で起こります。グロブリンは防御タンパク質なので、炎症があると上がります。風邪を引いていたり、手術後だったりと、わかりやすい炎症であればいいのですが、中には自覚症状のない炎症もあります。その多くが腸の炎症、つまりリーキーガットです。強いストレスなどによりリーキーガットを起こしていると、低栄養かつ免疫が働くので、アルブミンが下がりグロブリンが上がります。したがって、A/G比が低い場合はまず炎症を疑います。

A/G比が2以上になるケースもあります。この場合はグロブリンが下がっていると考えるのが自然でしょう。グロブリンが下がるのは、エイズなどの免疫不全、免疫抑制するようなステロイドを使っているケースが考えられます。ステロイドは強力な抗炎症作用がありますが、免疫も一緒に抑えてしまいます。

しかし、こちらの症例の方は免疫不全でもなくステロイドを使っている訳でもありません。これは私のカウンセリング経験からの推測ですが、強いストレスにより、体内合成できるステロイド、コルチゾールが過剰に分泌されて免疫抑制作用が働いている結果、グロブリンが低下している可能性があると思います。A/G比だけでもここまで深読みすることができます。

6. 小胞体と分子シャペロン

タンパク質の工場

タンパク質は小胞体という器官で作られます。タンパク質合成のためのエネルギーを作っているのはミトコンドリア。ミトコンドリアが発電所で、タンパク質工場である小胞体に電力を供給しています。したがって、ミトコンドリア機能が低下すると小胞体の機能も低下します。ミトコンドリアと小胞体は一蓮托生の関係にあります。

タンパク質が細胞の外に出荷されるには、様々な条件が揃っていることが重要です。まずミトコンドリアのエネルギーがちゃんと供給されてること。酸化ストレスや有害金属などでミトコンドリアの機能が落ちていると、電力の供給が滞ってしまいます。それから、細胞膜を通ってタンパク質が細胞外に出されること。例えばトランス脂肪酸ばかり食べていると細胞膜が固くなってしまい、タンパク質を細胞外に出荷できなくなる可能性があります。様々なケースが考えられます。

分子シャペロン

タンパク質の構造は、一次構造、二次構造、三次構造、四次構造と変化を遂げます。その構造変化をフォールディングと言います。「畳む」という意味ですね。タンパク質のフォールディングをするのもタンパク質。それを分子シャペロンと呼びます。シャペロンは介添人という意味です。その昔、ヨーロッパで貴族のお嬢様が社交デビューするときのお手伝いさんをシャペロンと呼んだことから名付けられたそうです。分子シャペロンは、小胞体で出来たタンパク質をフォールディングするお仕事を担っています。社交界にデビューする(細胞の外に出る)前に、ちゃんと整えてあげなきゃいけないんですね。

ヒートショックプロテイン(HSP)

その名の通り、熱によって変性したタンパク質を修復する機能をもつタンパク質です。熱の刺激で誘導されます。タンパク質は熱がかかると変性が起こります。イメージで表すと、きちんと畳まれたシャツがシワシワになってしまう感じ。フォールディング構造が壊れてしまうのです。

シワシワになったシャツをまた元に戻してくれるのがHSPです。変性したタンパク質を元通りに戻してくれるので、アンチエイジング効果があると言われています。HSPは茶筒のような形をしています。茶筒のフタを開けてシワシワのシャツを入れ、ユサユサ揺らしたらとちゃんとまた折り畳まれて出てくるみたいな感じです。いわば、洗濯物の自動折り畳み装置。実はシャペロンとHSPは同じものです。ストレスがかかってない通常運転中は分子シャペロンと呼ばれ、熱ストレスがかかった時に働くとHSPと呼ばれます。呼び名が変わるだけで、フォールディングという作業自体はほとんど変わりません。

ちなみに、どのくらいの熱ストレスでHSPが誘導されるかというと、42度のお風呂に5分間、または40度のお風呂に20分浸かると良いそうです。深部の体温を38度まで温めることで、HSPの効果が2~3日続くと言われています。

7. タンパク質の合成・分解・貯蔵

たんぱく異化とたんぱく同化

体内でタンパク質を作る工程をたんぱく同化(アナボリック)、タンパク質を分解してエネルギーを得る過程をたんぱく異化(カタボリック)と言います。食事から得るエネルギーも異化、体を構成するタンパク質を切り崩してエネルギーを得るのも異化です。たんぱく異化が多いと体重が減少します。

たんぱく異化が亢進するケース

たんぱく異化が亢進するケースは注意が必要です。通常、糖のエネルギーがなくなると、次に使うのは脂肪です。タンパク質はどちらかというと緊急事態用です。例えば、手術や怪我、感染、炎症といった強いストレスがあった場合には、修復するために多くのエネルギーを使います。そのような時には筋肉中のタンパク質を異化しエネルギーに変換します。

これは糖新生の回路です。筋肉中のアラニンが肝臓に回って糖に変換され、血液中に放出されエネルギーとして使われます。一方、飢餓時は脂肪酸をエネルギーとして優先し、タンパクを温存しようとします。しかし、脂肪酸をうまくエネルギーに変換できない人は多いです。特に低血糖症の人はその傾向が強いです。

タンパク質の動的平衡

体内では絶えず分解と合成を繰り返しながら、タンパク質の動的平衡を保っています。その量は1日に約200g。食事で摂取しているのは70gくらいですから、全体の1/3程度です。残りの130gは体内のタンパク質を分解しています。

タンパク質の貯蔵

体内には、アミノ酸プールと呼ばれるアミノ酸の貯蔵庫があります。正常にフォールディングされなかった欠陥タンパク質や寿命を迎えたタンパク質は、一度アミノ酸に分解され、この貯蔵庫にストックされます。また、食事由来のアミノ酸や体内合成されたアミノ酸も同じようにストックされます。ストックされたアミノ酸は、新しいタンパク質を作るのに再利用されます。

こうして見ると、低タンパク質にならないためには、食事でタンパク質を摂ることももちろん大事ですが、体内のアミノ酸のリサイクル率を上げるという視点も重要だということがわかります。

8. タンパク質の必要量

タンパク質の出納

タンパク質を1日にどれくらい食べるべきかについては様々な意見がありますが、代謝が通常運転していれば、便や尿で一定量排泄されています。したがって、体外に排泄された分は補う必要がありますよね。健康な男性で70gくらいです。

1日に必要なタンパク質量

窒素出納法が使われていた頃は、体重1kgあたりタンパク質0.8gあれば十分だと言われていました。しかし、指標アミノ酸酸化法で測定すると、体重1kgあたり1~1.2g必要だということがわかってきました。体重50kgの女性で50~60gです。健康体を維持するためには、最低限これくらいの量が必要なのです。1食で最低限食べたいタンパク質量は、グラム数だとわかりにくいので、大体手のひら1つ分と覚えるとよいでしょう。

忙しい現代では食べる時間を削る人が多くなっています。女性に人気のスープ店で、1食あたりのタンパク量を見てみると、10gくらいしかありませんでした。これでは全然足りません。タンパク質が足りていなくても、すぐに症状として出ることはありません。体内でリサイクルする分が130gあるからです。ただし、長期間続いてしまうと様々な不調が出てきます。

プロテインレバレッジ

ダイエットなどで食べる量を減らすと、ある日突然過食欲求が起こってしまいます。しかし、タンパク質量の割合を多めにすると、無駄な食欲が減ることがわかっています。オーストラリアの研究で、最初の4日間は摂取総カロリーの10%、続く4日間は15%、最後の4日間は25%をタンパク質にして比較したところ、10%の時期は明らかに無駄な食欲が起こりやすく、15%にすると空腹感が減り、15%と25%では変化がないという結果になりました。つまり、摂取総カロリーの15%を目安にタンパク質をとると、栄養が満たされてるというメッセージが脳に送られるということです。

タンパク質を多く必要とする場合

妊娠中や成長期、手術後、怪我や炎症がある場合は、タンパク質異化が亢進しやすい状況にあります。その時は1日体重1kgあたり1gだと足りないのはイメージがつきやすいと思います。

ところがタンパク質は消化に負担がかかりやすい栄養素です。子どもは胃腸が未熟なので、1食でたくさん食べさせるのではなく、補食(おやつ)も含めてタンパク質を補います。大人の場合も、胃腸が弱っている人には頻回摂取をお勧めします。例えば、小腹が空いた時や勉強中、仕事中にお茶の代わりに出汁を飲むと良いと思います。

9. タンパク質代謝を左右する要因

血液データなどで低タンパク質の傾向が見られた場合、不足分を補うためにタンパク質をたくさん食べればいいと思ってしまいがちですが、それは得策ではありません。消化・吸収、リサイクル率を含め、タンパク質代謝全体を俯瞰する必要があります。私の経験上、タンパク質代謝を左右する要因は4つあると考えています。

消化能力・胃腸機能・自律神経

食べ物のタンパク質は生物の情報(DNA)を持っていますから、消化の過程で一度その情報をデリートする必要があります。レゴブロックの塊を一つ一つのピースにバラすイメージですね。ところが消化能力が弱く、完全に消化されないまま吸収してしまうと、悪玉菌が増えて腸内環境悪化させてしまいます。

胃腸の動きは副交感神経の支配下にあります。蠕動運動は寝ている間に最も活発に起こります。だからぐっすり眠れていない人はお腹が動いていません。本人はぐっすり眠ったつもりでも、朝に食欲がない場合は睡眠の質が悪い可能性もあります。また、胃酸分泌も副交感神経が司っています。急いでご飯食べなきゃとか、あれしなきゃこれしなきゃと考えながら食事をするのは、胃酸分泌にはよくありません。美味しいな、幸せだなとリラックスして食べることは、消化の観点からも大切なことです。

交感神経

  • 胃酸分泌不安定
  • 胃粘液減少
  • 胃の蠕動運動の低下
  • 胃壁再生の低下

交感神経を刺激するホルモン

  • ノルアドレナリン
  • アドレナリン
  • コルチゾール
  • グルカゴン

交感神経を優位にするホルモンには、ノルアドレナリン、アドレナリン、といったカテコールアミン系や、コルチゾール、グルカゴンがあります。それらのホルモンは、胃腸の動きを止める作用があります。交感神経を優位にするようなカフェイン、酒、タバコはやはり抜く必要があるでしょう。場合によっては、仕事やライフスタイル、家族関係などの見直しも必要かもしれません。

腸内細菌

腸内細菌の中にはアミノ酸を産生する菌がいることがわかっています。何十年もフルーツしか食べていない人の腸内細菌を調べると、空気中の窒素をタンパク質に変える菌が発見されたそうです。芋しか食べてないような原住民の人が筋骨隆々だったりするのも、我々には無い腸内細菌を持っている可能性があるのではないかと思います。

他にもタンパク質と腸内細菌の関係を示す研究があります。カロリーは充足しているのにタンパクが足りていない時の栄養失調(クワシオルコル)では、お腹や肝臓が腫れる症状が出ます。マラウイ共和国に生まれた双子で、同じ食事をしているのに、1人はクワシオルコルを発症し、もう1人は発症しなかったケースがありました。調べたところ、腸内の菌のバリエーションが違っていたそうです。腸内細菌が栄養状態に深く関係していることが示唆される研究です。

オートファジー

アミノ酸のリサイクルのことです。欠陥タンパク質をアミノ酸に分解して再利用する機能を、オートファジーといいます。そんなに食べてないのにタンパク質代謝が良い人をたまに見かけますが、このオートファジーがしっかり働いていると想像できます。

身体ストレス・炎症

前述の通り、怪我をしたり炎症があったりすると、アミノ酸の異化が亢進します。

10. 高タンパク質食に注意するケース

タンパク質は酸性食品だから体に悪い、と聞いたことがありませんか?そもそも酸性/アルカリ性食品とはどんなものなのでしょうか。例えばレモン自体は酸性ですが、アルカリ性食品に分類されます。食材そのもののpHではなく、燃やした時の灰のpHで分類しています。果物や野菜、海藻類などはミネラルが豊富なので、アルカリ性を示します。一方、お肉などの高タンパク質食品は、窒素やリン、硫黄が入っているので酸性を示します。

尿のpHが酸性側に傾いている場合

30~40代で結石の出来やすい人がいます。通常、尿のpHは6.0ですが、この症例のように、pH5.5とやや酸性よりに傾いているケースがあります。尿が酸性化すると、骨からカルシウムを削り出して中和しようと働きます。そのカルシウムが体内のシュウ酸などと結合すると結石ができてしまいます。こういった人には高タンパク質食はお勧めできません。だからといって、低タンパク質を推奨するわけではなく、私は「まごわやさしい」の食材を基本としたバランスの良い食事をお勧めしています。

ホモシステインが高い場合

メチレーションの一番右の回路がメチオニン回路です。メチオニンはタンパク質代謝に関わるアミノ酸で、最近の研究ではメチオニンを食べすぎると老化が進むなどと言われています。メチオニンがたくさん入ってきて、かつメチオニン回路のどこかの代謝が滞っていると、ホモシステインが溜まります。

ホモシステインが高いと、動脈硬化や脳梗塞、心筋梗塞のリスクが上がります。こういう人にも、高タンパク質食はお勧めできません。遺伝性がありますので、家族の病歴も確認します。

血液データなどから推測するしかないのですが、葉酸、ビタミンB12、ビタミンB6不足と高ホモシステインには相関関係があります。AST>ALTでその差が2以上あればB6不足を疑います。また、MCVが高ければ、葉酸やビタミンB12不足です。その場合、まずはB6、B12、葉酸を充足させてあげます。

腎機能が弱い場合

腎臓機能の弱い方には高タンパク食は負担が大きいと言われています。腎臓は、タンパク質代謝によって作り出される老廃物を排出するので、タンパク質をたくさん摂ると作業が増えるということですね。血液データのeGFRは腎機能を表す数値です。

最近の研究で、赤身肉と加工肉は確実に腎臓に悪いことがわかっています。しかし、白身魚や鶏肉は腎機能の低下とあまり相関関係がないという研究結果もあります。タンパク質を控えて下さいねとアドバイスすると、炭水化物に偏りがちの食事になってしまいます。そこで私は、ソーセージやベーコンといった加工肉を控えるようにして、赤身のお肉はほどほどに、お魚はしっかり食べてくださいね、とお伝えするようにしています。

11. タンパク質の調理

タンパク質の熱変性

タンパク質に熱をかけると変性します。タンパク質の水素結合が取れてフォールディング構造が崩れるからです。卵の黄身と白身では、黄身の方が複雑な構造をしています。そのため、黄身の方が低い温度で変性します。この変性の温度差を利用したのが温泉卵です。70度のお湯に30分くらいつけておくと、黄身は固まるけど白身は完全に固まらないという変性が起こります。

お肉を調理するときのコツはただ一つ、熱変性を少なくすることです。細胞の中に栄養がたくさん入っているので、細胞が崩れるとドリップという形で栄養が出ていってしまいます。ジューシーで美味しいお肉は細胞が崩れていません。

室温に戻す

熱変性を少なくするために、まずは調理前にお肉を室温に戻すことがポイントです。冷たいまま加熱すると、温度差でキュッと縮んでしまい細胞が壊れます。また、スーパーで買ってきたお肉はトレイにのっていますが、このトレイはプラスチック性なので熱伝導率が悪く、冷蔵庫に入れても冷たくなりにくいため、ドリップが出やすくなります。トレイは外して、ラップに包み直して冷蔵庫入れておくと良いです。

そして、料理する前に冷蔵庫から出して、熱伝導率の高い金属バットなどに入れて15分ぐらい室温に置いておきます。このひと手間で、お肉の仕上がりが全然違ってきます。

低温調理

お勧めの調理法は低温調理です。ジッパー付きの袋に塩をふった塊肉をぴっちり包んで、60~70℃を2、3時間キープします。こうすると、とてもジューシーに仕上がります。厚生労働省が発表している殺菌の基準は63℃、30分なので、63℃で3時間ほどおけば、中心部まで十分に加熱されます。

ミオシン、アクチン、コラーゲンは、それぞれ熱変性を起こす温度帯が異なります。中でもアクチンは熱に対して縮みやすい性質を持っており、高温加熱すると栄養素がドリップとして出ていき、肉が硬くなります。だからそれよりも低い温度で調理します。オーブンは空気を伝ってじわじわ熱が伝わるので、高温に設定してもちょうど良い仕上がりになります。一方、フライパンは直接熱を伝えるので、肉の調理には難しい調理器具といえます。

  • ミオシン:50〜60℃
  • アクチン:66〜73℃
  • コラーゲン(V型):68℃以上

専用の調理器具がなくても簡単に低温調理ができます。例えば湯沸かし器。写真はささみですが、酒小さじ1杯と粗塩、臭み消しにレモンを入れてしっかり空気を抜き、熱湯に浸けて10分くらい放置します。ふわふわで美味しい蒸し鶏が出来上がります。

高温調理はあまりお勧めしていません。アルデヒド類が増えたり、トランス脂肪酸の摂取量が増えるからです。揚げ物の摂取頻度が高いと、心疾患死亡リスクが上昇するといった報告もあります。

  • アルデヒド(ヒドロキシノネナール):リノール酸が200℃前後に加熱されると急激に増える細胞毒性物質
  • トランス脂肪酸摂取量の増加

熟成

アミノ酸を豊かに味わうコツも紹介します。それは熟成です。細胞中の酵素でアミノ酸を増やして旨味を増強する方法です。最近、熟成肉のお店が増えてきました。お店で食べると高価ですが、自宅でも簡単に熟成ができます。1番のお勧めは豚バラ肉。肉の重さに対して約2%の塩を塗り、ラップでしっかり包んで冷蔵庫で1~2日置いておきます。オーブンで140℃、1時間ぐらい焼くと、本当に美味しいローストポークができます。そのまま食べてもいいですが、刻んで炒め物に使ったり、ポトフにして楽しめます。

もう1つ、熟成して美味しくなるのが魚です。干物が美味しいのは、水分が飛んでいる他に、熟成の効果もあります。魚の熟成も自宅で簡単にできます。カツオやマグロなど、赤身の魚が向いています。柵を買ってきて、1回さっと湯通しします。氷水につけてから水分を拭き取り、保存袋に醤油とみりんを2:1ぐらいで割ったものと一緒に入れて口閉じ、1日ぐらい冷蔵庫で寝かせます。湯通しして軽く表面の熱変性を起こしてあげると、中に塩分が入って行きにくくなるので熟成が起こりやすくなります。

ちょっとした手間はありますが、アミノ酸が増えるとこんなに美味しいんだな、と味わいながら食べてみると楽しいと思います。

12. まとめ

いかがでしたか?今回はタンパク質の基礎から調理法までをお話ししました。タンパク質は、「第一の」という名前の由来に相応しく、生体内で様々な機能を持っています。したがって、タンパク質が不足すると様々な不調の原因にもつながります。

低タンパク質にならないためには、食べ物で補う必要がありますが、単純にたくさん食べれば良いというものではありません。タンパク質の質や量、体内でのリサイクル率などで、利用効率が変化します。タンパク質代謝を左右する要因として4つ挙げました。

  • 消化能力・胃腸機能・自律神経
  • 腸内細菌
  • オートファジー
  • 身体ストレス・炎症

体質によっては高タンパク質食に注意するケースもあります。体質や血液データを見ながら、自身のタンパク質代謝を推測してみると良いと思います。

調理法は低温調理と熟成をご紹介しました。栄養素がいっぱい詰まった細胞をなるべく壊さない、アミノ酸を増やす、この2つがポイントです。栄養価が高くなるだけでなく、美味しさも倍増しますので、ぜひ実践してみてください。

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