揚げ物を食べると胃がもたれることはありませんか?
ストレスで胃がキリキリするから胃薬が欠かせないという方も多いと思います。でもその胃薬、あなたにとって本当に必要なものなのでしょうか。
消化には多くのエネルギーが必要です。エネルギー代謝が低下している人は消化機能も低下します。消化機能が低下すると栄養の吸収も悪くなるという悪循環を招いてしまいます。そのようなケースでは、消化機能を改善することで、胃腸だけでなく体全体の調子も上がりやすくなります。今回は消化の仕組みの基礎知識と、消化機能を向上させる具体的な方法について解説します。
1. 消化とは?
機械的消化と化学的消化
消化には、機械的消化と化学的消化の2種類があります。機械的消化は、すり鉢ですり潰すように物理的に細かくする作業です。機械的消化で最も大きな役割を担っているのが咀嚼です。また、腸の蠕動運動も機械的消化の一つです。蠕動運動はミミズがうごめくという意味で、腸がグニグニ動くことで食べ物を移送します。細胞の主なエネルギー源は糖ですが、小腸はグルタミンを、大腸は酪酸を主なエネルギー源としています。
機械的消化
・咀嚼
・蠕動運動
化学的消化
・消化酵素
・胃液
・胆汁
化学的消化は、薬品を使ってドロドロにするようなイメージです。その薬品に当たるのが体内で合成される胃液や消化酵素、胆汁です。
肝・胆・膵の位置関係
肝臓・胆嚢・膵臓(肝・胆・膵)、これら3つは消化に重要な臓器で、消化管に近い位置にあります。肝臓は胃の右側に隣接しています。その肝臓の下にある小さな臓器が胆嚢です。膵臓は胃の裏側に位置しています。それぞれの臓器の役割を見てみましょう。
肝臓
肝臓は臓器の中で最も大きく、1.5kgほどあります。栄養素の代謝、解毒、そして胆汁の産生など、実に多くの役割を担っています。肝臓は1日に500~1000mLもの胆汁を作っています。分泌された胆汁は、小腸の先の方で回収され再利用されます(腸肝循環)。約5%は重金属などの不要なものと一緒に排泄されます。解毒という観点からも、肝臓が産生する胆汁は重要な役割を担っています。
- 栄養の代謝(分解・合成・貯蔵)
- 解毒作用
- 胆汁の産生
胆汁は脂質消化に必須であるため、栄養療法の分野ではかなり重要視されています。LDLコレステロールは、肝臓で産生されて様々な栄養素になりますが、約8割は胆汁の原料になると言われています。脂質の消化については後半で詳しく説明します。
胆管・胆嚢
胆管は胆汁の通り道、胆嚢は胆汁を貯蔵・濃縮する袋です。食べ物が入ってくると、胆嚢に溜められた胆汁が、胆管を通って少しずつ十二指腸で分泌されます。鶏レバーなどを調理したとき、緑色の汁が出てくるのを見たことはありませんか?あれが胆嚢が破れて出てきた胆汁です。
膵臓
膵臓には外分泌機能と内分泌機能という2つの機能があります。外分泌機能は、様々な消化酵素を含む膵液の産生を表します。膵液に含まれる消化酵素には、アミラーゼ、リパーゼ、トリプシンなどがあります。この小さな臓器で1日に1~2Lもの膵液が作られています。内分泌機能は、インスリンという血糖値を下げるホルモンを産生し、血中に分泌する働きを指します。
- 外分泌機能:アミラーゼ・リパーゼ・トリプシンなどの消化酵素を含む膵液を産生する(1000〜2000mL/日)
- 内分泌機能:インスリンという血糖値を下げるホルモンを産生し、血糖値を調節する
膵臓の細胞では、たくさんのエネルギー(ATP)を使いながら消化酵素が作られています。膵液の量は個人差が大きいと言われていますが、副腎疲労でエネルギーが枯渇している人は、消化酵素も十分に作られていない可能性があります。その結果、いくら栄養素を摂っても消化不良を起こしてしまいます。
肝・胆・膵の疾患
腹痛を起こしたとき、胃や腸を労っても、肝・胆・膵を心配する人は少ないと思います。胃腸科で処方された胃薬を飲んでいたけど、ある日突然激痛が走り、救急車で運ばれたら実は胆石だった…というのはよくある話です。また、有名女優が胆管癌で亡くなったというニュースがありましたが、肝臓と胆嚢を繋いでいる胆管にガンができたそうです。肝・胆・膵は、胃と近い位置にあるので痛みがあっても見逃されやすいので注意が必要です。
- 消化器内科=胃腸科と考える人が多い
- 肝・胆・膵の疾患は見逃されやすい
2. 糖質の消化
糖質の主な消化酵素はアミラーゼで、唾液に多く含まれます。ほとんどの消化酵素サプリメントにはアミラーゼが入っています。食材では大根おろしに豊富に含まれています。
でんぷんの分子構造は、ブドウ糖(グルコース)が300~600個繋がってできたものです。これが二糖類になるまで、唾液中のアミラーゼで分解されます。タンパクと脂質は咀嚼で小さくなりますが、化学的な作用は受けません。
- 唾液中のアミラーゼは、でんぷん(多糖類)の分子を短く切断し、マルトース(二糖類)まで分解する
- タンパク質・脂質は機械的消化を受けるが、化学的消化は受けない
アミラーゼ
アミラーゼは細胞の中の小胞体で作られます。図の水色の玉がタンパク質です。耳下腺にはブドウの房のような形をした細胞があり、この1つ1つの細胞でアミラーゼが作られています。
出典:福岡伸一/生物と無生物のあいだ (講談社現代新書)
血液データに血清アミラーゼという項目があります。理想値は90くらいですが、極端に低くなければ異常ではありません。血清アミラーゼが高値の場合は、アミラーゼを作る臓器、すなわち膵臓か唾液腺に異常があると推測できます。
この症例の方はアミラーゼが126U/Lと高めに出ています。このような場合は分画を見てみるとよいでしょう。異常があれば、膵臓か唾液腺、片方の数値が跳ね上がっているはずです。
症例の方は唾液腺からも膵臓からも適度に分泌されており異常はありません。このようなケースは経過を見るのが一番だと思います。じわじわ上がっていればどこかに異常があるでしょうし、上げ止まっているならば、遺伝的な体質と考えて良いと思います。
唾液
唾液を分泌する腺は、耳下腺、顎下腺、舌下腺の3箇所あります。さらに、唾液はサラサラした唾液とネバネバした唾液、2種類があります。副交感神経優位なときは、アミラーゼがたくさん含まれたサラサラ唾液が耳下腺から分泌されます。逆に過緊張があるとサラサラ唾液が出にくくなります。耳下腺のところをマッサージするとじわっと唾液が出てきますが、過緊張気味の人はこの部分が凝り固まっていることがあります。
- 耳下腺:サラサラ(副交感神経→消化酵素)
- 顎下腺:サラサラ+ネバネバ
- 舌下腺:ネバネバ(交感神経→免疫、IgA抗体)
交感神経優位なときは、顎下腺と舌下腺からネバネバ唾液が出ます。ネバネバ唾液には細菌をトラップする働きがあります。ストレスが強くて食いしばりのある人は耳下腺あたりが緊張しがちなのでサラサラ唾液が出にくく、口の中が粘着き、口臭が強くなります。そんな症状からもその人のストレス状態がわかるのです。
出典:日本大百科全書(小学館)
1日に分泌される唾液は1~1.5L。すごい量ですよね。唾液にはIgA抗体が含まれます。全身の粘膜に存在し、細菌から体を守っています。よく噛んで唾液を出すという行為は、異物から防御する方法の一つと言えます。
3. タンパク質の消化
胃の働き
タンパク質の消化で重要な臓器は胃です。胃の働きは大きく分けて4つあります。
- 胃酸によって細菌を死滅させる→SIBOの予防
- ペプシン(胃酸によって活性化)によってタンパク質を分解する
- ビタミンB12などの吸収を促進させる
- 数時間程度の食品の貯蔵庫
胃酸の成分は塩酸(HCl)で、pH1~2の強酸性です。したがって、口から入ってくるほとんどの細菌は胃酸で殺菌されます。胃酸が出にくい人は、肺炎や感染症リスクが高まります。食中毒も症状に個体差がありますが、お年寄りや小さい子供ほど症状が重くなるのは、胃酸の分泌が少ないためです。胃で十分に殺菌されず、小腸で悪玉菌が増殖する症状をSIBOと呼びます。
タンパク質の消化酵素(ペプシン)は、タンパク質の大きな塊をチョキチョキ切って、ポリペプチドに分解します。ペプシンはタンパク質を消化する酵素ですが、体自体が消化されないのは、活性化していない前駆体の形で産生されるからです。胃粘膜から分泌されたペプシノーゲンは胃酸によって活性化し、ペプシンに生まれ変わります。
胃粘膜は粘液で保護されているので、pH1~2という強酸に常に晒されていても胃が傷つくことはありません。しかし、粘液が正常に分泌されていないと胃が荒れてしまいます。胃酸抑制剤を飲む前に、胃酸で胃が荒れている理由を考えなければ根本解決にはなりません。
タンパク質消化のフロー
胃酸によりペプシノーゲンがペプシンに活性化され、タンパク質がポリペプチドに分解されます。ポリペプチドが十二指腸に運ばれると、膵臓が分泌するトリプシンやキモトリプシンにより、オリゴペプチドに分解されます。さらに小腸でペプチターゼ(ジペプチターゼやアミノペプチターゼなどの総称)の作用でアミノ酸になり、小腸上皮細胞から吸収されます。
アミノ酸まで分解されると、食べ物由来のタンパク質が持っている情報(DNA)が完全にデリートされます。ここまで分解されて初めて、自分の体のタンパク質の原料として使えるようになるのです。
タンパク質代謝が低下している場合
タンパク質代謝が低下している場合は、胃酸低下や胃の機能低下、消化酵素不足を疑います。お肉はもたれるからあまり食べられないという方は、消化酵素を十分に作れていない可能性があります。タンパク質の摂取量が足りていないという単純な原因ではないということです。
消化酵素不足でタンパク質が未消化になると、大腸で有毒アミンやアンモニアが生じ、便が臭くなります。悪玉菌の餌になりやすいので、腸内環境も悪化します。タンパク質を増やして、お腹が張ったり便が臭くなるという症状が出る場合は、本人の消化能力を超えてる場合があります。
CSA検査
膵エラスターゼは膵臓から分泌されるタンパク質の消化酵素で、消化管内でほとんど分解されずに便と一緒に排出されます。したがって、膵エラスターゼ濃度を測定することで、消化能力を推測することができます。
検査基準は200μg/mLがカットオフ値とされていますが、本当に健康な人は500μg以上あるそうです。ですから、500μg/mL以下であれば十分な消化酵素が分泌されていない可能性があるとみてよいでしょう。消化に問題のある方は、ぜひこのCSA検査を受けてみてください。腸の炎症の有無も確認できます。
脂質の消化
膵液と胆汁酸
膵液と胆汁酸、これら2つがタッグを組んで脂質を消化します。消化は胆汁酸が分泌される十二指腸から先で行われます。食べ物由来の脂質はほとんどが中性脂肪の形をしており、次のようなフローで分解、吸収されます。
- 十二指腸で胆汁によって乳化される
- 消化酵素リパーゼ(膵臓)によって、モノグリセリド、脂肪酸、グリセロールに分解される
- グリセロール(水溶性)はそのまま小腸上皮細胞から吸収される
- モノグリセリド、脂肪酸は、腸内で分泌された胆汁酸によりミセル化(水溶性のミクロ分子)され腸管から吸収
脂質は水に溶けないため、そのままでは腸管から吸収されません。消化酵素の働きにより分解され、胆汁酸によって形成されたミセルと呼ばれる水溶性のミクロ分子に取り込まれて吸収されます。
栄養学的に重要なことは、ミセル化の時に脂溶性ビタミンが一緒に入ってくるということです。脂質の消化吸収が悪い人は、脂溶性ビタミン不足の症状が出やすいのです。
脂質の消化吸収が悪い場合の症状
- ドライアイ
- ドライマウス
- 腸の炎症
- 生理不順
- 不妊
- 肌荒れ
- 風邪を引きやすい(喉かぜ)
- 溶血性貧血
- 肌のシミやくすみ、ざらざら感
- 接触性皮膚炎、湿疹
- 肩こり
- 冷え
脂溶性ビタミン(A, D, E, K)を運ぶためには、胆汁酸によってミセルが形成されていることが大前提になります。ビタミンEが欠乏すると、月経不順や溶血性貧血などが起こります。ビタミンK不足では骨粗鬆症、ビタミンAは粘膜に必要な栄養素なので、欠乏するとドライアイやドライマウスなどの症状が出ます。このような症状がある場合は栄養補給の前に消化吸収のサポートを考える必要があります。
LDLコレステロールを原料とするもの
- 胆汁酸
- 細胞膜
- ホルモン
- ビタミンD
- CoQ10
胆汁酸の原料はLDLコレステロールです。LDLコレステロールからは様々な栄養素が合成されるので、血液データとして100mg/dL以上はほしいところです。経験上、アトピーなど皮膚に問題のある人は、LDLコレステロール値が低い傾向にあります。LDLコレステロール値が低い=胆汁酸が十分量作れていない=脂溶性ビタミンを使えていないということです。風邪を引いた時、体力のある人は割とパッと熱が出るのですが、体力のない人は喉の痛みがずっと続いたりします。粘膜が弱い→ビタミンAが足りていない→脂溶性ビタミンが使えていない→胆汁酸が作れていないというように、推測を繋げていくことができます。
消化酵素のまとめ
部位 | 分泌液 | 消化酵素 | 消化する栄養素 | 分泌量(1日) |
---|---|---|---|---|
口 | 唾液 | アミラーゼ | 炭水化物 | 1〜1.5L |
胃 | 胃液 | ペプシン | タンパク質 | 2L |
小腸 | 腸液 | マルターゼなど | 炭水化物 | 2〜3L |
ペプチターゼ | タンパク質 | |||
膵臓 | 膵液 | アミラーゼ | 炭水化物 | 1〜2L |
トリプシン | タンパク質 | |||
キモトリプシン | タンパク質 | |||
リパーゼ | 脂質 | |||
肝臓 | 胆汁 | ー | 脂質 | 0.5〜0.8mL |
この表を見れば、1日でいかに多くの消化酵素が作られているかがわかります。消化酵素はタンパク質でできているので、タンパク質代謝がうまく回っていないと消化力も低下するというのは納得がいくと思います。
4. 胃の不調
胃内pHと萎縮
血液データのペプシノーゲン値は胃の萎縮を調べるのに有効です。ピロリ菌感染により胃の萎縮が起こるケースが非常に多く、逆流性食道炎などの症状が出ます。胃には入口(噴門)と出口(幽門)があって、胃酸が出るとキュッと閉まります。寝ている間に胃酸が上がってくるので枕を高くして寝ています、なんて言う方がいらっしゃいますが、それは噴門が閉まらず胃酸が逆流しているからです。胃酸抑制剤を飲むと噴門が閉まりにくくなるので、逆流性食道炎は慢性化したり再発リスクが高くなりがちです。
出典:広島国際大学 島谷研究所 http://www.hirokoku-u.ac.jp/
食事をすると胃内がアルカリ側に傾きますが、健康な人は胃酸の働きでpH1~2に戻ります。一方、胃粘膜萎縮がある人は胃酸分泌が少ないため、睡眠中にpHがじわじわと高くなってしまいます。
胃酸の量と年齢の関係
胃酸は年齢によって分泌量が大きく変化します。このグラフは栄養療法の分野では有名な書籍からの抜粋ですが、ここでも胃酸がなぜ体にとって重要かということが詳しく書かれています。
出典:Jonathan Wright, MD and Lane Lenard PhD/Why Stomach Acid Is Good for You
年齢を重ねると胃酸の分泌が減り、必然的にタンパク質代謝が低下します。そうすると、傷の治りが遅くなったり、薬が効きにくくなったり、副作用が出たりと、様々な不具合が起きやすくなります。病気に対して抵抗力をつけるという意味でも、タンパク質代謝を意識することはとても大事です。胃酸をサポートする食事法については後半で解説します。
ピロリ菌検査・ペプシノーゲン検査
日本人のピロリ菌感染率は非常に高いので、この検査も1回はやっておくといいと思います。血液中にピロリ菌がいると、免疫システムが働き抗体ができます。その抗体の量でピロリ菌の感染有無が推測できます。
この症例の方は明らかにピロリ菌陽性ですが、自覚症状が全くありませんでした。食事内容を聞くと、麺類ばかり食べていました。逆流性食道炎やピロリ菌陽性の方の特徴ですが、お蕎麦など食べやすい麺類を好む傾向があります。消化力が落ちていので、そういったメニューを選んでしまいがちになるのでしょう。食習慣はその人の嗜好ではなく、栄養状態の結果なのです。1日分の食事内容を問診すると、その人の栄養状態が大体わかります。
ピロリ菌陽性の場合、ペプシノーゲンⅠの値が高くなることがあります。これは胃酸が出ているのではなく、炎症が起こっている結果です。萎縮を判断するのはペプシノーゲンⅠとⅡの比率で、通常は7~8、5以下で胃の萎縮があると判断します。3以下になると胃がんの検診を勧められます。
データを見る上で注意したいのが、副腎疲労で抗体を作る元気もないような人は、抗体の数値すら上がってこないこともあるということです。ピロリ菌陰性だと思っていたのに、栄養療法を実践してタンパク質代謝が上がると突然陽性になった、というケースもあります。
ピロリ菌感染の原因
日本では井戸水を飲むからピロリ菌になりやすい、と聞いたことはありませんか?しかし、同じ井戸水を飲んでいても感染する人としない人がいます。その違いは、空腹時の胃酸の量に関係していると考えられます。空腹時に胃酸が出すぎるとピロリ菌の活性が高まるという報告があります。ストレスで胃酸過多になるので、ストレス状態でピロリ菌感染リスクが変わると言えます。
World J Gastroenterol. 2008 Mar 14; 14(10): 1539–1543
Gastric juice for the diagnosis of H pylori infection in patients on proton pump inhibitors
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/18330944/
胃酸分泌は副交感神経支配下にあるのに、ストレスで交感神経優位になっている時になぜ胃酸過多になるのでしょうか?
ストレスで交感神経優位になり続けると、それに反応して副交感神経が過剰に働き、空腹時に胃酸が出過ぎてしまうのです。結果的に胃の粘膜が傷ついて、ピロリ菌が増えるリスクが高まります。問題は井戸水ではなく、自律神経のバランスなのです。
ストレス
→ 視床下部
→ 副腎皮質が刺激
→ ガストリン、アセチルコリン(ホルモン)
→ 胃液分泌↑、胃粘膜防御↓
→ ピロリ菌増殖
下痢型の過敏性腸症候群になると、医療機関では腸のセロトニン分泌を止める薬を処方されます。副交感神経の働きでセロトニンが過剰に分泌され、腸が蠕動運動をしすぎて下痢になるからです。このように、胃酸過多も過敏性腸炎も、自律神経のバランスの乱れで起こると考えられます。
胃薬の種類
胃薬は大まかに4種類に分けられます。
- 胃酸の分泌を抑制するもの(PPI; オメプラゾールなど)
- 胃酸を中和するもの(市販薬に多い)
- 消化管運動機能を改善するもの(ガスモチンなど)
- 胃粘膜を保護するもの(レバミピドなど)
PPI(プロトポンプ阻害剤)
胃粘膜の細胞には、プロトンポンプと呼ばれる胃酸を出すポンプがあります。プロトンとは水素イオンのことです。水を汲み出すポンプをイメージしてください。汲み出すときにはエネルギーが必要です。エネルギー(ATP)を十分量作れる人は、プロトンをちゃんと汲み出せるので胃酸も分泌できます。
PPIには、このプロトンポンプを止める働きがあります。つまり胃酸を止めるお薬です。よく効くので、特に高齢者に処方されている場合が多いですが、長期的に使用すると様々な弊害が出てくることがわかっています。肺炎になるリスクが約1.5倍、骨折リスクが1.25倍、腎機能低下リスクが1.3倍に増加するなどといった報告があります。当前ですが、胃酸の分泌を止めるということは、タンパク質の消化も止めるということになります。
PLoS ONE (2015) 10: e0128004.
Risk of Community-Acquired Pneumonia with Outpatient Proton-Pump Inhibitor Therapy: A Systematic Review and Meta-Analysis.
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC4456166/
Arch Intern Med. (2010) 3:765-771.
Proton Pump Inhibitor Use, Hip Fracture and Change in Bone Density In Postmenopausal Women Results from the Women’s Health Initiative.
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC4240017/
J Am Soc Nephrol. 2016 Oct; 27(10): 3153–3163.
Proton Pump Inhibitors and Risk of Incident CKD and Progression to ESRD.
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC5042677/
ケイ酸アルミニウム・メタケイ酸アルミン酸
胃酸を中和する物質です。あまりにも胃酸過多がひどくて対処療法的に飲むのは仕方ありませんが、胃酸のpHを上げるので長期的に服用すると様々な不調を起こします。漢方薬などに添加物として含まれていることもあり、気が付かないうちに摂取している可能性があるので注意が必要です。
5. 消化をサポートする工夫
視覚・嗅覚など脳を刺激する
さて、ここからは実践編です。栄養療法を学んでいると、食事がタスク化してしまう時があります。真面目にやればやるほど、食べることに対して疲弊してしまいます。でも、食事をする上で一番大切なのは「美味しそう!楽しそう!」と感じることです。副交感神経が優位になり、消化酵素の分泌が高まり、胃腸の蠕動運動が正常化します。
食材の細胞壁を壊す
消化酵素は、生野菜や果物で補強することができます。消化酵素は細胞の中に含まれているので、細胞壁を壊すことで活性化します。大根おろしや山芋とろろ、玉ねぎのすりおろしが消化に良い理由はここにあります。豚肉に玉ねぎのすりおろしを大さじ2杯くらいを調味料と一緒に揉み込むだけでタンパク質が少し分解されます。複雑なタンパク質の四次構造を解きほぐしてくれるんですね。こうすることで、食べた時に消化酵素が働きやすくなり消化が楽になります。
生野菜を咀嚼したり、フルーツを生食するのも同じことです。咀嚼により細胞壁が壊れ、酵素がいっぱい出てきます。グリーンスムージーも、野菜やフルーツを砕くので酵素をたくさん出す効果があります。酢豚にパイナップルを入れるとか、メロンを生ハムで巻くのも、理にかなった組み合わせです。
ピロリ菌とブロッコリースプラウト
ブロッコリースプラウトを1日2パック、2週間食べ続けるとピロリ菌が陰性になったという報告があります。ブロッコリースプラウトはそれぐらい抗菌作用が強い食材です。SIBOの症状を抱えている人にも良い食材です。
Dig Dis Sci. 2004 Aug;49(7-8):1088-90.
Oral broccoli sprouts for the treatment of Helicobacter pylori infection: a preliminary report
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/15387326/
スプラウトの良い点は、汚染が少ないこと。生育期間が長くなればなるほど、いろんな汚染を抱え込みやすくなります。ブロッコリースプラウトは数日でできるので、汚染リスクが極めて少ない食材です。ブロッコリースプラウトに豊富に含まれるスルフォラファンは、抗癌作用や解毒作用もあるのでかなりオススメです。
スルフォラファン
・解毒
・抗酸化
・抗腫瘍
・抗菌
胃炎とキャベツ
昔からキャベツは胃に良いと言われてきました。キャベジンというお薬には、キャベツから発見されたビタミンU(S-メチルメチオニン)が配合されています。ビタミンUは胃の粘膜の保護・修復に働きます。そのほかにもキャベツに含まれるLPA(リゾフォスファチジン酸)が粘膜や胃の細胞の修復に働くそうです。グラフのPAとPCはLPAの前駆体です。
東洋食品研究所 研究報告書 29, 145-153(2013)
抗胃腸障害機能の強化を目的としたキャベツの効果的な調理および食べ合わせに関する研究
https://www.shokuken.or.jp/report/docs/029_019.pdf
とんかつと千切りキャベツも良い組み合わせです。千切りにすることで細胞壁が壊れ、酵素が活性化します。病弱でサプリを飲むのもしんどい方には、微塵切りしたキャベツを塩揉みして漬物風にしたり、昆布茶に入れたりすると消化のサポートになります。キャベツとフルーツを組み合わせたスムージーも良いでしょう。レモンを少量入れると胃酸のサポートにもなります。
ビタミンU(S-メチルメチオニン):
胃粘膜の保護・修復
LPA(リゾフォスファチジン酸):
胃粘膜細胞の修復・新生促進
消化とパセリ
消化に良い食材で外せないのがパセリです。添え物のイメージがありますが、抗菌作用や胃潰瘍の抑制効果があることがわかっています。唯一の欠点は苦いということですが、フリッターを作るときにみじん切りにして衣に混ぜ込むと食べやすくなります。葉酸も鉄も取れるのでとても良い食材です。
- 食欲増進・胃酸分泌・消化促進(アピオール、ピネン)
- 抗菌、腸内環境の改善
- 胃潰瘍の発生を抑制
Journal of Food Protection, Vol.60, No.1, 1997, Pages 72-77
Isolation and Identification of Antimicrobial Furocoumarins from Parsley
https://meridian.allenpress.com/jfp/article/60/1/72/168523/Isolation-and-Identification-of-Antimicrobial
Am J Chin Med. 2003;31(5):699-711.
Prevention of experimentally-induced gastric ulcers in rats by an ethanolic extract of “Parsley” Petroselinum crispum
https://www.researchgate.net/publication/8940609_Prevention_of_Experimentally-induced_Gastric_Ulcers_in_Rats_by_an_Ethanolic_Extract_of_Parsley_Petroselinum_crispum
生姜の健胃整腸作用
生姜は消化促進作用に優れており、アーユルヴェーダなどでよく使われています。生の時と加熱した時とで、成分が異なるのが特徴です。生の生姜はジンゲロールという高い殺菌効果がある成分を含みます。栄養学的に見てもお寿司にガリは欠かせません。加熱によって発生するショウガオールやジンゲロンは、身体を温めたり代謝を活性化する作用があります。炒め物に使ったり、生姜湯として飲んだりすることで健胃効果が期待できます。
- 消化促進
- 胃酸の分泌促進
- 健胃
- 殺菌
- ジンゲロール(生):殺菌効果
- ショウガオール(加熱):抗がん・抗酸化・身体を温める
- ジンゲロン(加熱):代謝の活性
塩酸ベタイン
私自身、サプリメントをどれだけ飲んでも一向に改善しなかった時期があったのですが、消化酵素と塩酸ベタインを飲み始めてから血液データに変化が現れました。単純にサプリメントで栄養素を補えばいいという話ではなく、まずは栄養素がしっかり消化・吸収されることが大事なんだと体感しました。
これは塩酸ベタインです。塩酸を直接カプセル化することはできないので、アミノ酸の一種であるベタインと結合させています。プロテアーゼが補助的に入っています。最近のお気に入りはTHORNE社のBio-Gest。原材料にオックスバイルとありますが、これは牛の胆汁酸のことです。タンパク質と脂質の消化酵素、胆汁酸、塩酸ベタイン、そして胃粘膜のエネルギー源であるグルタミンが配合されています。
動物用の消化酵素
私が消化酵素を飲み始めた当時、検索するとほとんどがペット用の消化酵素がヒットしました。ビオペアは家畜向けの胃酸補助剤です。これにも塩酸ベタインが含まれていますね。栄養療法の分野で文献を調べていると、獣医向けの論文に行き当たることがよくあります。かなり参考になりますよ。
消化酵素
保険適用で出してもらえる消化酵素にタフマックがあります。糖質、脂質、タンパク質、3大栄養素の消化酵素がタブレットになっています。
これはメタジェニックス社のスペクトラザイムという消化酵素です。栄養療法をやっている医療機関での取扱いが多い商品です。特徴は消化酵素の種類が多いことです。消化酵素によって分解するアミノ酸の結合部位が決まっているので、消化酵素は種類が多いほど細かく分解される、つまり消化の負担が軽減するということになります。
消化酵素の実験
お湯のみ(左)、お湯+塩酸ベタイン(中央)、お湯+消化酵素(右)の液を準備し、そこへ豚肉の薄切りを入れて半日置いてみました。その結果、お湯のみでは変化はなく、塩酸ベタインを入れたものはボロボロに崩れました。消化酵素を入れたものも、塩酸ベタインほどではありませんが崩れています。塩酸ベタインの方は油が浮いていますが、消化酵素は脂質も分解しています。それぞれの特徴がよくわかりますね。
DPP-4
グルテンに多く含まれるプロリンのペプチド結合を分解する酵素です。グルテンには人間が消化できない部分があるので、腸内環境が悪化したり、腸粘膜に炎症が起きたりします。そのグルテンの消化をサポートしてくれるのがこのDPP-4(Dipeptidyl Peptidase-4)です。小麦粉を主食とする国では、セリアック病を患っている人が大勢います。腸内のDPP-4濃度が減少しているため、DPP-4投与により下痢などの症状が改善することがわかっています。
このTriEnzaは、一般的な消化酵素にDPP-4がプラスされたサプリメントです。他にもDPP-4を主原料とするグルテン専用の消化酵素もあります。これさえあればパスタやラーメンをたくさん食べていいというわけではありませんが、外食すると小麦の摂取は避けられないので、事前に飲んでおくとグルテン消化のサポートになります。
DPP-4阻害剤
医療関係者であれば、DPP-4と聞いて思い浮かべるのは糖尿病の薬です。膵臓にインスリンを出すよう命令するホルモンをインクレチンと言います。このインクレチンを分解するのがDPP-4です。このDPP-4の働きをブロックするとインスリンがたくさん出るので、DPP-4阻害剤が糖尿病の薬として使われています。もうお分かりだと思いますが、DPP-4阻害剤を飲みながら小麦粉を摂取すると、グルテン消化まで阻害されてしまうということです。
ちなみに、DPP-4サプリメントを飲んでもインクレチン分解は促進されません。インクレチンの反応は内分泌、消化酵素は外分泌なので、作用する部位が異なります。
胆汁(ウルソデオキシコール酸)
脂質消化に必要な胆汁は、ウルソデオキシコール酸(ウルソ)という名で製剤になっています。歴史の長いお薬で、肝機能保護や栄養素吸収、利胆作用促進、消化不良改善などの効果があります。
熊胆
漢方薬の一つで、熊の胆汁を使ったものを熊胆と言います。現在は他の動物由来の胆汁も多く出回っています。ガロールという商品にも胆汁末が配合されています。iHerbでは、オックスバイル(牛の胆汁)などが販売されています。
六君子湯
サプリメントは体に足りない栄養素を外から補うという思想ですが、生薬は自分がすでに持ってる物を効率よく使えるようにしてくれるという働きがあります。胃腸に不調がありながら、内視鏡でみても原因が見つからない状態を、機能性ディスペプシアと言います。こうした症状を抱えている人は本当にたくさんいます。そのような人には、食欲改善効果がある六君子湯が効いたりします。
- 胃排泄能・蠕動運動改善
- 食欲改善効果グレリン(食欲に関するホルモン)の感受性を高める
他にも、副腎疲労の時によく使われる漢方で補中益気湯があります。漢方で「中」はお腹を指す言葉で、胃腸の力を補うという意味があります。痩せすぎで太れない人など、胃の機能が低下している場合は、補中益気湯や安中散などを使うと良いと思います。
自律神経と消化機能
自律神経と胃腸機能は密接に関係してます。緊張が強かったりストレスがあるとお腹は動きません。単純に消化酵素や胃酸を補填するだけで改善すれば良いですが、現実はそう簡単にいきません。根本原因が精神的ストレスだった場合、交感神経が優位になり、胃液や膵液が減少し、消化管の運動も抑制されます。ベッドが変わると、朝の排便がないという経験はありませんか?それは寝ている間に大蠕動運動が起きていない証拠です。本当にリラックスしていないと、腸管の内容物を一気に押し出す大蠕動運動が起きにくいと言われています。
神経・器官 | 交感神経の作用 | 副交感神経の作用 |
---|---|---|
瞳孔 | 拡大 (散瞳) | 縮小 (縮瞳) |
唾液腺 | ネバネバ唾液 | サラサラ唾液 |
末梢血管 | 収縮 | 拡張 |
気道 | 拡張 | 収縮 |
血圧 | 上昇 | 下降 |
心拍 | 促進 | 緩徐 |
肝臓 | グリコーゲンの分解 (血糖上昇) | グリコーゲンの合成 (血糖低下) |
消化分泌液 (胃・腸・膵液) | 減少 | 増加 |
消化管運動 | 抑制 | 促進 |
皮膚 (立毛筋) | 収縮 (鳥肌) | ー |
汗腺 | 分泌活動増加 | ー |
膀胱 | 弛緩 (尿閉) | 収縮 (排尿) |
心を表す慣用句によく「腹」が使われますよね。おなかは心を映します。自己評価の低い人は栄養状態が悪くなりやすいです。親の期待に応えようという思考を持っている子供は、大人になってから自分が本当は何をやりたいのかを見失いがちです。ワーカーホリックも然り。自己評価が低いから他者評価に依存しがちになって、さらに精神を消耗させてしまいます。こうした思考の方にはやはりメンタルのサポートが必要になってきます。
おなか=心
消化力の向上・栄養の代謝=メンタルのケアが必要
栄養学と心理学は右と左の車輪だと思います。どちらかしか回らないと同じところをぐるぐるしてしまうんですね。両方にアプローチすると、胃腸が正しく機能し栄養が吸収されやすい体になってきます。本当に健康になるには、心も身体も満たしてあげることが大切です。
6. まとめ
いかがでしたか?消化が体にとっていかに重要な工程かをわかっていただけたかと思います。今回のテーマでインプットしてほしい項目をまとめてみました。ぜひ一度、自分の言葉で説明してみてください。アウトプットすることが一番の勉強になりますよ。
- 肝臓・膵臓・胆嚢の「消化」における働きとは?
- 消化酵素はタンパク質を壊すタンパク質である
- 代表的な消化酵素(アミラーゼ・リパーゼ・トリプシン・ペプチターゼ)
- 唾液の消化に対する働きは何か?
- 胆汁は脂質に対してどのように働くか?
- 胃酸の働きは?なぜ胃酸は重要か?
- 消化がうまくできていないときの症状、判断方法
- 消化がうまくできていないときのお食事の工夫
- 自己評価が低いと栄養状態が悪くなるのはなぜ?