最近よく眠れていますか?忙しい現代社会では、なかなか寝付けなかったり、夜中や早朝に目が覚めてしまう人も多いのではないでしょうか?睡眠障害にはストレスや栄養状態、ライフスタイルなど、様々な要因が関係しています。
睡眠障害は自覚がないケースも多く、放っておくとQOLの低下にも繋がります。睡眠障害の原因の一つに夜間低血糖があります。成長ホルモンやコルチゾールの働きが悪く、血糖値が下がってしまうのです。血糖値を安定化させることは睡眠の質向上につながります。今回は、睡眠障害の原因と具体的な対処法について詳しく解説します。
1. 不眠の原因(5つのP)
不眠には、生理的、心理的、身体的、精神医学的、薬理学的、5つの原因があります(5つのP)。
生理的(Physiolosic)
交代勤務やシフト制で昼夜逆転した生活を送ったり、海外の行き来で生じる時差が原因で不眠になることがあります。暑くて寝苦しいなど、寝室環境の問題や、夜間にスマホやパソコンのブルーライトを浴びることも生理的原因に含まれます。
心理的(Phychological)
ストレスや悩み、緊張、人生上の大きな変化など、心理的な原因で不眠になることもあります。
身体的(Physical)
痛みや痒み、下痢、尿意、咳、発熱など、体に炎症があると睡眠が妨げられます。風邪を引くと悪い夢を見るのは、眠りが浅くなっているサインです。
精神医学的(Phychiatric)
うつ病、統合失調症、アルコール依存症など、精神医学的な原因でも不眠になります。
薬理学的(Pharmacologic)
中枢神経、降圧剤、抗がん剤、ステロイド、カフェインなどの薬理学的原因でも眠りの質が下がります。特に、カフェインは常飲している人が多いので注意が必要です。後ほど詳しく解説します。
2. 睡眠障害の種類
睡眠障害は4種類に分けられます。
- 入眠困難
- 中途覚醒
- 早朝覚醒
- 熟睡障害
上3つはわかりやすいのですが、熟睡障害は本人に自覚がないケースが多いので、次のような症状から推察します。
睡眠障害の自覚がないケース
・ 寝汗
・ 寝違え
・ 夢を見る
・ 朝から疲れている
・ 食いしばり・歯ぎしり
・ 朝ごはんが食べられない
・ お通じ・排便が困難
カウンセリングで、「寝汗がひどい」という方がいらっしゃったので、睡眠についてヒアリングしたところ、「よく眠れています」という答えが返ってきました。その方のCSA検査結果を見ると、腸に強い炎症がありました。本人は眠れているつもりであっても、体に炎症があると睡眠の質は低下し、様々な不調の原因になってしまいます。
寝違えは体が緊張しているために起こります。子供がたくさん寝返りを打つのは、リラックスしている証拠です。緊張状態のまま眠りにつくと、うまく寝返りが打てず、寝違えを起こしてしまうのです。また、夢の内容を覚えているのもあまり良いことではありません。夢見が悪かったり夢をよく見たりするのは、脳が覚醒しているサインです。
食いしばりや歯ぎしりがある人は、朝起きた時に口内を見ると、頬の内側や舌に歯形がついています。長期間続くと歯が削れたり歯茎が下がったり、知覚過敏になりやすくなるので対処が必要です。日本人は虫歯がないと歯医者に行かない人が多いですが、健康維持に定期的なメインテナンスは欠かせません。
3. 睡眠と血糖値
血糖値の日内変動
熟睡障害を抱えている人は、夜間の血糖値の安定性に問題があります。まずは1日の血糖値の挙動を見てみましょう。血糖値の正常範囲は、下90mg/dL、上140mg/dLです。食事の度に、緩やかに上昇し緩やかに下降します。
昼食後から夕食前までの血糖値の変化を抜き出してみます。食事を摂ると、炭水化物が消化されてブドウ糖になり、腸から吸収されます。消化に時間がかかるので、食事と血糖値が上昇するタイミングには2~3時間のタイムラグが発生します。食物繊維や脂質を一緒に摂ると、血糖値の上昇はさらに緩やかになります。
食事由来の糖が枯渇すると、次は肝臓や筋肉に蓄えられたグリコーゲンが切り崩されてエネルギーが作られます。安静時は肝グリコーゲンが、動いている時は筋グリコーゲンが使われます。グリコーゲンが枯渇すると、今度は糖新生によりアミノ酸からエネルギーが作られます。
4. 血糖値とホルモン
コルチゾールの働き
グリコーゲンの分解や糖新生を促すスイッチの役割を担うのがコルチゾールです。副腎疲労でコルチゾールが枯渇している人は、血糖値を維持することができません。副腎疲労の人が低血糖を起こしやすい理由はここにあります。
- グリコーゲンを分解する
- 糖新生を促す
糖新生
糖新生はアミノ酸から糖を作る代謝経路です。他にも乳酸から糖を作るコリ回路がありますが、ここではタンパク質からアミノ酸を経て糖になる経路を見ていきましょう。
糖新生には、食事由来のタンパク質や筋肉に蓄えられているタンパク質が使われます。タンパク質がアミノ酸に分解され、細胞内でピルビン酸になります。ピルビン酸は一旦ミトコンドリアに入ってアセチルCoAになりますが、その後ミトコンドリアの外でピルビン酸になり、最終的にブドウ糖に代謝されます。
このように、糖新生にはミトコンドリアが関与するため、ミトコンドリア機能が低下している人は糖新生がうまくいきません。ミトコンドリアは肝臓に多く含まれるため、肝機能を表すデータ(ALT、γ-GTPなど)を確認することで、その人のミトコンドリア機能や糖新生の能力を推測することができます。
血糖値が下がった時の症状
グリコーゲン分解や糖新生が行われないと、じりじりと血糖値が下がってしまいます。症状としては、だるさや眠気、集中力の低下などがみられます。ちょうど夕方頃にコーヒーや甘いものを欲してしまうのは、血糖値が下がっているからです。甘いものがやめられないのは、嗜好ではなく症状なのです。
血糖値が下がり続けると、体は生命の危機と認識し、何とかして血糖値を上げようとします。その時分泌されるのがノルアドレナリンやアドレナリン、グルカゴンです。これらのホルモンが過剰に出ると、様々なメンタル症状が出ます。身体的な反応としては発汗や心拍の上昇、メンタル的にはイライラしたり怒りっぽくなります。
グルカゴンの働き
グルカゴンは膵臓にあるランゲルハンス島から分泌されます。グルカゴンには糖新生を促進し、血糖値を上げる作用があります。また、脂肪燃焼のスイッチとしての役割もあるので、ダイエット本などでもよく取り上げられます。
- 膵ランゲルハンス島から分泌
- 血糖値を上げる
- 糖新生を促す
- 肝グリコーゲンの分解を促す
- 脂肪細胞から脂肪を分解する
- インスリンと逆の動きをする
グルカゴンには、胃カメラを飲むときの鎮痙薬に使われるくらい、消化液の分泌抑制作用があります。例えば、糖質制限をしていると、糖が入ってこないのでグルカゴンが分泌されやすくなります。そうすると、お腹の動きを止めてしまい、栄養吸収が悪化してしまいます。私が消化力の弱い人に糖質制限をお勧めしない理由はここにあります。健康のためにやっていたことが逆効果になることもあります。糖質制限をやっていいのは消化力のある人だけです。
抗インスリンホルモン
血糖値を下げるホルモンはインスリンただ一つですが、血糖値を上げるホルモンは複数あります。代表的なものは、コルチゾール、グルカゴン、カテコラミン、成長ホルモンです。今でこそ飽食の時代と言われるようになりましたが、長い歴史を振り返ると、人類は飢えていた時代の方がうんと長いですよね。したがって、飢餓に耐える手段として、血糖を上げるホルモンが複数用意されているのです。
血糖値を下げる
・インスリン
血糖値を上げる
・コルチゾール
・グルカゴン
・カテコラミン
・成長ホルモン
ペプチドホルモンと脂溶性ホルモン
ここで少し豆知識。インスリンやグルカゴン、カテコラミンは、タンパク質からできているペプチドホルモンです。ペプチドホルモンは、細胞膜にある受容体から選択的に細胞内に取り込まれます。一方、脂溶性ホルモン(性ホルモン、ステロイドホルモン)は、細胞の核内に受容体があるので細胞膜をそのまま通り抜けることができます。ホルモンによって性質が異なることを覚えておきましょう。
ホルモンの日内変動
ホルモンは、1日を通して高くなったり低くなったりを規則的に繰り返してます。眠りホルモンと呼ばれるメラトニンは、夕方あたりから徐々に増えていき、夜にピークを迎えた後、朝にかけて低くなります。
血糖値を安定化させる成長ホルモンは、入眠後1~2時間ぐらいで一気に分泌されます。
血糖値の安定化に重要なもう1つのホルモンがコルチゾールです。明け方にかけて徐々に上がり、朝にピークを迎えます。
コルチゾールと成長ホルモン、血糖値の曲線を重ねてみましょう。
夜間に何も食べなくても血糖値が安定しているのは、成長ホルモンとコルチゾールの働きによるものです。
これはリブレによる血糖値測定結果です。グレーの枠は下80、上140mg/dLで設定してあります。このデータは夜間を通して90mg/dL前後で安定しています。熟睡している時の血糖値はこのような挙動を示します。
5. 夜間低血糖
血糖値の推移
寝る前に布団の中でスマホを見たり、ゲームをやったりしてブルーライトをたくさん浴びると、成長ホルモンが出にくくなります。さらに、副腎疲労を抱えているとコルチゾールの分泌も低下し、夜間に血糖を維持できなくなります。
血糖値が下がってきたときに分泌されるのが、カテコラミンやグルカゴンです。ノルアドレナリンは過剰に出ると不安感が強くなり、夜中に考え事が止まらず眠れなくなったりします。アドレナリンが出過ぎると緊張感が高まります。体が硬直するので、寝違えや肩こり、食いしばり、歯ぎしりの原因になります。グルカゴンが分泌されるとお腹の動きを止めるので、朝から食欲が湧きません。睡眠中は腸の蠕動運動が活発になる時間帯なのに、動きが止まってしまうのです。
血糖値が維持できない人のリブレ測定結果はこのようになります。この方は2児の母で、寝汗や寝違えが頻繁にあり、朝子供のお弁当を作り終えるとソファで横にならないと夕方までもたないとおっしゃっていました。副腎疲労でコルチゾールが十分に出ていないので、夜間を通して血糖値が低下しています。
この方の血液データです。注目すべきは中性脂肪で、39mg/dLとかなり低い値を示しています。低血糖を起こしている人は中性脂肪が低い傾向が見られます。
糖が欠乏すると血糖を上げるために中性脂肪から脂肪酸を切り出してエネルギーとして使います。しかし、低血糖を起こしているということは、ミトコンドリア機能も低下しているので、切り出した遊離脂肪酸もうまく使えないケースが多いのです。
身体的特徴
食いしばりや歯ぎしりのある人は、咬筋が張っています。グッと噛むとピクッと動く筋肉が咬筋です。また、歯が削れてたり、骨隆起が見られる場合もあります。
引用:https://www.otsuka-biyo.co.jp
他にも、緊張すると肩に力が入るので胸鎖乳突筋が張ります。この筋肉が凝り固まると呼吸も浅くなり、喉を締め付けるような喋り方になります。このような身体的所見からも夜間低血糖を推測することができます。
睡眠とアルコール
アップルウォッチで測定した私の心拍のデータです。左は熟睡できた時のデータで、最小51、最大55拍/分です。眠りが深いのでゆっくりとした心拍になっています。一方、右は寝る前にお酒を飲んだ時のデータです。入眠も起床時間も同じですが、明け方の4~5時の心拍は最小61、最大71拍/分になっています。
飲酒は低血糖を引き起こします。体にとってアルコールは毒物なので、肝臓はアルコールの解毒を優先して、糖代謝を後回しにしてしまいます。忘年会シーズンになると終電で酔って寝ている人をよく見かけますが、あれは低血糖症状で気絶しているような状態になっているのです。睡眠自体は浅いので、明け方に中途覚醒してしまいます。
6. 自律神経と睡眠
交感神経と副交感神経
睡眠には自律神経のバランスが深く関わっています。交感神経が優位になっているときは、血管が収縮して血圧が上がります。心拍が速くなり、筋肉は緊張し、汗をかきやすくなり、腸の蠕動運動が抑制されます。副交感神経には逆の作用があり、血管が拡張し、血圧は下がります。心拍はゆっくりになり、筋肉は緩み、発汗も抑制されます。そして、腸の蠕動運動が促進されます。
好中球とリンパ球
交感神経と副交感神経は、どちらが優勢だからいいというわけではなく、大切なのはバランスです。交感神経が優位になると、好中球が増えます。逆に副交感神経が強くなると好中球が減り、相対的にリンパ球が上がります。
左の症例の好中球(Neutro)は48.2、リンパ球(Lympho)は42.2です。好中球:リンパ球=60:30が目安なので、明らかに副交感神経が優位な状態と読み取れます。逆に右の症例は、好中球が72.9、リンパ球が17.8なので、交感神経が優位になっています。目安値から10以上乖離していると、自律神経の乱れを疑います。
自律神経と天気
自律神経は天気にも左右されます。曇や雨の日はなんとなくお布団から出られなかったりしますよね。そんな時は好中球が下がっています。逆に快晴でスッと起き上がれる日は、好中球が上がっています。大昔、狩りをしていた時代から、人間の生体システムはそれほど進化していません。天気が良い日は狩りの時に怪我をするリスクが高まるので、細菌感染を防ぐ好中球を増やして怪我に備えようとするプログラムが働きます。
一方、天気の悪い日は狩りに出られないので、体はお休みモードに入ります。このような時は好中球はあまり増えず、相対的にリンパ球が増えます。
自律神経の代償機構
食いしばりがありそうな顎の張り方をしていて、胸鎖乳突筋も張っていて、早口で…と見るからに副腎疲労を抱えていそうな人でも、リンパ球の数値が高い場合があります。これは代償機構と言って、交感神経優位な状態が続いたために、バランスを取ろうとして副交感神経が強くなってしまう現象です。過緊張状態なのに、朝起きられない起立性障害のあるお子さんがいらっしゃいますが、それも代償機構が働いた結果と考えられます。
この症例の方は、声を喉から絞り出すように話す人で、少し大きめのサプリメントも喉を通りにくいとおっしゃっていました。アトピーがひどく、極度の鉄欠乏で、食事にはかなり神経質になっていました。一見、リンパ球が高く副交感神経が優位な状態に見えますが、主訴やその人の状態を総合的に見ると、過緊張でバランスを取ろうとして副交感神経が強くなっているパターンだと推測できます。
睡眠中の大蠕動運動
腸の蠕動運動は自律神経の支配下にあります。本来、夜間は副交感神経がオンになり、ぐっすり眠れるはずです。しかし、夜間低血糖が起こってしまうと、カテコラミンやグルカゴンが働いて、蠕動運動を止めてしまいます。
睡眠中は大蠕動運動と呼ばれる腸の大きな動きがあります。直腸に便を押し出す動きで、チューブから内容物をごっそり絞り出すイメージです。
蠕動運動は、24時間いつでも起こっていますが、大蠕動運動は睡眠中に起こります。蠕動運動に比べ、便を押し出す速さが200倍と言われています。
旅先で便秘になりがちなのは、慣れない場所で寝ることで交感神経優位になり、夜間の大蠕動運動が起こりにくくなることが原因です。朝起きてからすぐ、または朝食後すぐの排便が理想的です。カウンセリングの際は、朝食を美味しく食べられているか、朝に排便があるか、この2つは必ず確認します。
7. 夜間低血糖の予防
熟睡障害でまず改善すべきは夜間低血糖です。予防方法として私がアドバイスしていることをリストアップしました。
昼間の…
☑️ 食事はタンパク質・良質な糖質
☑️ 血糖値の安定(補食・運動)
☑️ コーヒー(カフェイン)をやめる
就寝時間の…
☑️ スマホ・パソコン・ゲーム・テレビを避ける
就寝前の...
☑️ アミノ酸
☑️ 生薬・漢方(甘草系)
☑️ ココナッツオイル
まずはバランスの良い食事は大前提です。特に、タンパク質や良質な糖質をしっかり摂りましょう。次に、補食や運動で血糖値を安定化させることです。当然のことながらカフェインは禁忌です。そして、就寝前にはブルーライトを浴びないこと。低血糖症状がひどければ、アミノ酸や甘草系の漢方を使ったり、ココナッツオイルを使います。中鎖脂肪酸はエネルギー変換されやすいので、血糖が安定化しやすくなります。
メラトニン合成に必要な栄養素
睡眠にとって重要な栄養素であるセロトニンやメラトニンは、アミノ酸の1つであるトリプトファンが原料になります。トリプトファンが5-HTP(5-Hydroxytryptophan)を経てセロトニンになり、メラトニンに代謝されます。トリプトファン→5HTPにはナイアシンや葉酸、鉄、5HTP→セロトニンの反応にはビタミンB6、セロトニン→メラトニンの反応にはSAMeとマグネシウムが必要です。
キヌレニン仮説
トリプトファンからの代謝経路がもう一つあり、それをキヌレニン経路と呼びます。トリプトファンの2%がメラトニン側に、8%がキヌレニン経路、残り90%がタンパク質合成に使われます。
体に炎症があると5-HTPへの代謝が止まり、キヌレニン経路に回ってしまうので、メラトニンが産生されず不眠の症状が出ます。さらに、ビタミンB6やマグネシウムが欠乏していると、キノリン酸からNADになる代謝が止まり、中間代謝産物であるキノリン酸が溜まります。キノリン酸は神経毒なので、さらに睡眠の質が悪化してしまいます(キヌレニン仮説)。
炎症があると、トリプトファンからキヌレニンに代謝される時に働くトリプトファン分解酵素は、炎症性サイトカインやコルチゾールの作用により発現し、活性化されます。つまり、炎症があるとこの酵素が活性化しキヌレニンが増えるということです。
炎症の有無
このように、炎症があると睡眠の質が確実に下がるので、まずは炎症の有無を確認し、炎症があれば改善しましょう。睡眠の質向上のためには欠かせないステップです。特に、歯周病や歯根の腫れ、副鼻腔炎、腸の炎症は自覚症状に乏しいので注意が必要です。また、内臓脂肪が多いと炎症性物質が産生されやすいため、炎症体質になります。
気づきにくい炎症
・歯
・喉
・腸
・内臓脂肪
血液データではCRPがマーカーになります。ただ、歯や喉、腸など、局所的な炎症の場合はCRPに反映されないことがあります。逆に、BMIが24以上のぽっちゃり体型の人はCRPが高くなっている場合が多く見られます。
上の症例の方は口腔がんの治療中で、CRPは3.73でした。理想値は0.1以下なのでかなり高い数値と言えます。
こちらの症例の方はCRP1.06とやや高めですが、たまたま採血日が風邪の治りかけの時だったそうです。そのような場合でもCRPは上昇します。
補食のススメ
血糖値の安定化にこまめな補食は必須です。私も資料作りで長時間パソコンに向かう時は、ゴルフボールくらいの玄米おにぎりをいくつか用意しておいて、2~3時間おきに食べるようにしています。
実践講座でも紹介されていた、Soup・Soupというペプチドタイプのスープに葛粉を加えて飲むのも良いでしょう。本葛は良質な糖質です。私はだし&栄養スープをよく飲んでいます。副腎疲労気味の時ほど美味しく感じられるので、体が欲しているのかもしれませんね。
- 食後2〜3時間後からこまめに補食
- 副腎ホルモン(カテコラミン・コルチゾール)の無駄使い予防
- 空腹時間を長くしない
こまめな補食はブドウ糖点滴を口から入れているような効果があり、血糖値を維持し、カテコラミンやコルチゾールの無駄遣いを防いでくれます。空腹時間は長い方が良いという情報の方が圧倒的に多いですが、低血糖や副腎疲労の人がそれを鵜呑みにして実行すると症状が悪化してしまいます。
運動のススメ
問題なく動ける人にはとにかく運動をお勧めします。食後の運動は、筋肉と肝臓のグリコーゲンを増やします。運動といっても大袈裟なものではなく、ランチで外に出たときにオフィスがある階まで階段を使うなど、そんなレベルで大丈夫です。
通常、インスリンが細胞膜の受容体(GLUT)に結合すると、糖が取り込まれる仕組みになっています。しかし、運動で反応する筋肉は、インスリン非関与のGLUTから糖を取り込むので、インスリンの分泌が悪い人でも血糖値を下げられることがわかっています。運動は食後高血糖予防にも効果があります。サプリメントでなんとかしようというのは限界があるので、根本的に治す場合はやはり運動は不可欠です。
- 良質の炭水化物を摂ったあとの運動が効果的
- インスリンがグリコーゲンを増やす
- 食後高血糖予防になる
コーヒーと睡眠障害
繰り返しになりますが、副腎疲労の人にカフェインは禁忌です。コーヒーに含まれるクロロゲン酸というポリフェノールの健康効果などが謳われていますが、それを享受できるのは副腎疲労がない健康な人です。カフェインはドーパミンの分泌を促進するので、交感神経優位になり、元気になった錯覚を起こします。
さらに、カフェインはコルチゾールのリサイクルを妨げます。コルチゾールは11β-HSD2という酵素の作用で不活性型コルチゾール(コルチゾン)になり、尿として排出されます。同時に排泄前のコルチゾンからコルチゾールにリサイクルされる経路もあり、その時に働く11βHSD-1をカフェインが阻害してしまうのです。
コーヒーがどうしても飲みたいという人には、インスタントコーヒーはやめて本当に美味しい本物のコーヒーしか飲まないと決めてください、とアドバイスします。カフェイン中毒の人は、自分が中毒になっていることを認めたがらない傾向がありますので、アドバイスするときはちょっとした工夫が必要です。
コルチゾールのリサイクル率を高める漢方
補中益気湯は、副腎疲労の初期段階でよく処方される漢方薬で、11β-HSD2の働きを阻害し、コルチゾンとして排泄されるのを防ぐ作用があります。実は私もほぼ毎日飲んでいます。補中益気湯は補剤と呼ばれ、不足している力を補ってくれる漢方です。
甘麦大棗湯という漢方には、小麦(ショウバク)と大棗(タイソウ)と甘草(カンゾウ)、3種類の生薬が入っています。子供の夜泣きやひきつけ、女性のヒステリーなどに効果があると言われていますが、実は低血糖予防に対する効果についてもデータが示されています。つまり、夜泣きやひきつけ、ヒステリーの原因が低血糖にあるということですね。
引用:http://www.nagano-matsushiro.or.jp/_pdf/feature/kampo/magazine/2.pdf
一つ注意したいのが、甘草を含む漢方薬の副作用として低カリウム血症があるということです。偽アルドステロン症と呼ばれることもあります。血液データで、カリウムの数値が4.0より低い人には、甘草を含む漢方は積極的には勧めません。
ブルーライト
ブルーライトが睡眠にとって良くないことは明らかです。ブルーライトはメラトニン分泌を抑制します。また、白目にタンパク質変性を起こします。黄斑変性といい、進行すると失明することもあります。美容にも大敵です。紫外線に近いということは、活性酸素の発生源になるということです。スマホは目との距離が近いので、パソコン以上にダメージは大きくなります。
波長で表すと、ブルーライトは可視光線の中でも紫外線に近い位置にあります。波長が短ければ短いほど体への影響が大きくなります。スマホやパソコン、LEDライトもブルーライトです。ついつい寝室にスマホを持っていってしまいますが、成長ホルモンの分泌を妨げるので注意が必要です。
アミノ酸サプリメント
日中の低血糖症状がひどい時には、アミノ酸サプリメントを摂っても良いでしょう。アミノ酸は糖新生に使われるので、エネルギー維持に役立ちます。アミノ酸であれば消化力が低下していても吸収がスムーズです。私もセミナーをやる前などにアミノ酸を飲むことがあります。血糖が安定するので、手汗をかいたり、妙に早口になったりするのを防いでくれます。
注意したいのは、アミノ酸には覚醒作用があるということです。脳は非常に重要な臓器なので、血液から必要なものだけを選択的に取り込むために血液脳関門(Blood Brain Barrier, BBB)と呼ばれるフィルターのようなものがあります。BBBを通る際、トリプトファンやBCAA(バリン、ロイシン、イソロイシン)はアミノ酸トランスポーターを介して取り込まれます。トリプトファンが取り込まれると、脳内でセロトニンになります。血液中のBCAAの濃度が高くなると、トリプトファンが取り込まれにくくなるので、脳のセロトニンレベルが下がります。
BCAAは脳の疲労に効くと言われています。これは、血中BCAAが増えることによりセロトニンが脳内で増えすぎるのを阻害するので、頭がスッキリする感覚になるのです。逆に言うと、寝る前にBCAAを飲んでしまうと寝付きが悪くなる可能性があります。
筋肉の成長にはインスリンが関わっています。インスリンが分泌されると、BCAAが筋肉に優先的に入ってきます。一方、脳内ではアミノ酸トランスポーターがトリプトファンの方に多く使われるので、セロトニンが増えます。インスリンが分泌されるには糖が必要ですから、適度に良質な糖を摂取することは、筋肉増強やセロトニンを増やす意味でも大切です。
メラトニンサプリメント
入眠困難がひどい時にはメラトニンを使うのも手です。メラトニンは経口投与でも脳内に取り込まれることがわかっています。心部体温を下げ、副交感神経をオンにし、熟睡を促すのがメラトニンの作用です。メラトニンサプリメントは比較的安価で売られています。時差ボケ予防に使われることが多いですが、翌日に大事な仕事を抱えていて高揚感で眠れない時などにも使えます。
加齢に伴いメラトニンの分泌量は低下します。特に、女性は更年期以降にメラトニンの低下が見られます。高齢者の睡眠時間が短時間化する理由の一つでもあるでしょう。メラトニンには抗酸化作用もあり、ビタミンEの2倍、グルタチオンの5倍と言われています。抗癌作用もあり、特に乳がんに関してはポジティブな報告が多くあります。
引用:. BMC Med. 2018 Feb 5;16(1):18. doi: 10.1186/s12916-017-1000-8.
Melatonin and health: An umbrella review of health outcomes and biological mechanisms of action
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/29397794/
下のサプリメントには、メラトニンの他に、GABAやタウリン、グリシン、カモミール、レモンバームなど、リラックス効果のあるものが配合されています。一見良さそうに見えるのですが、カモミールはキク科なので、アレルギーを持っている人は飲むと不調の原因になります。サプリメントを選ぶ時は、配合されているものについて必ず確認が必要です。
タイムリリース型(徐放性)のメラトニンもあります。有効成分の放出を遅くする加工がされており、血中の有効成分濃度を一定に長時間保つ作用や副作用が和らぐ効果があります。
メラトニンの副作用
多量に飲まない限りネガティブな評価は少なく、1日75gでも問題ないとされています。過剰に飲むと一時的なめまいや、軽い頭痛がありますが、クリティカルなものはほとんどありません。耐性の懸念もないと言われています。
☑️ 1日75gでも問題ない
☑️ 一時的なめまい、軽い頭痛
BMC Med. 2018 Feb 5;16(1):18. doi: 10.1186/s12916-017-1000-8.
Melatonin and health: an umbrella review of health outcomes and biological mechanisms of action
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/29397794/
☑️ 耐性の懸念なし
BMC Med. 2010 Aug 16;8:51. doi: 10.1186/1741-7015-8-51.
Nightly treatment of primary insomnia with prolonged release melatonin for 6 months: a randomized placebo controlled trial on age and endogenous melatonin as predictors of efficacy and safety
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/20712869/
☑️ 0.5mgから効果が認められる
Drugs Aging. 2014 Jun;31(6):441-51. doi: 10.1007/s40266-014-0178-0.
Optimal dosages for melatonin supplementation therapy in older adults: a systematic review of current literature
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/24802882/
寝る時の靴下
妊活中や冷え性で、靴下を履いて寝るという方がいらっしゃいますが、これは熟睡を妨げてしまうので逆効果です。手先や足先を使って深部体温を下げることで深い睡眠が促されます。締め付けによる血行不良の問題もあるので、手足が冷たくて眠れない場合は、湯たんぽや布団乾燥機で寝る前に布団を温めておくと良いでしょう。
8. おなかと自律神経
質の良い睡眠を得るためには自律神経のバランスが肝心なのですが、乱れたバランスをどうやって取り戻すかというお話です。
交感神経が優位になると熟睡障害が起こり、お腹の動きも悪くなります。夜間低血糖が起きると、カテコラミンやグルカゴンなど、お腹の緊張を強くするホルモンばかり分泌されるためです。
腸もみ
マッサージで物理的に腸に力を加えて動かしてあげるだけで、副交感神経がオンになりバランスが整いやすくなります。腸もみや腸セラピーと言われる方法です。慢性的な頭痛や生理痛、更年期障害の緩和や予防、アレルギーや花粉症、不眠症、めまいなどにも効果があると言われています。実際に体験してみたところ、施術前後で副交感神経が優位になっていました。
脳と腹部を繋いでいる神経を迷走神経と言います。迷走神経のほとんどが副交感神経です。胃腸や消化管に刺激を与えると迷走神経刺激が起こり、副交感神経が活性化するのです。
呼吸
腸もみと同じ効果をもたらすのが腹式呼吸です。過緊張がある人は肩で浅く呼吸していることが多く、深呼吸してくださいと言っても肩が上がってしまいます。慢性的な肩こりや首こりに悩まされている人がほとんどです。そんな人は、1日たった5分でいいので、マインドフルネスや瞑想で呼吸を整えてあげましょう。腹式呼吸のお手本は寝ている赤ちゃんの呼吸です。お腹を膨らませたりへこませたりする、あれが本来のリラックスした呼吸です。
実践講座で出てくる根本原因ピラミッドを見てみましょう。下から順に治療していくことが鉄則ですが、このピラミッドは低血糖の海にぷかぷか浮かんでいて、低血糖を治さない限りいつまでもぐらついてしまうことを表しています。睡眠改善も、まずは低血糖対策から始められると良いと思います。
9. まとめ
睡眠の質向上には、血糖値の安定化を図ることが大切です。血糖値の維持には成長ホルモンとコルチゾールの分泌が欠かせません。夜間にブルーライトを浴びたり緊張状態のまま眠りにつくと成長ホルモンの分泌が阻害されます。また、炎症があったり副腎疲労を抱えていたりするとコルチゾールが枯渇してしまいます。
質の良い眠りのためには、まずは炎症を取り除くことが必要です。そして1日を通して血糖値を安定化させるためにこまめに補食を摂ること、適度な運動を行うこと、ブルーライトを浴びないこと、カフェインを避けることなどが大切です。必要に応じて、アミノ酸やメラトニンサプリメントを使うのも良いでしょう。
また、自律神経のバランスを整えることは不可欠で、腸を動かして副交感神経を活性化する方法を紹介しました。ぜひ一度、ご自分の睡眠状態を振り返ってみてはいかがでしょうか。