疲れがとれない、朝からだるいといった症状に悩んでいませんか?それはもしかしたら「鉄不足」が原因かもしれません。鉄不足は体の代謝全体に影響を及ぼすため、疲労感、冷え性、イライラ、立ちくらみ、肩こりなど、症状は多岐にわたります。
日本人女性の約7割は潜在性鉄欠乏と言われています。鉄は生命維持に不可欠なミネラルである一方、活性酸素の原因になったり、細菌が増殖しやすくなるので、足りないからと安易に鉄サプリメントを飲むと症状が悪化することがあります。今回は、鉄代謝や赤血球の基礎知識、鉄不足の根本原因を探る方法などを詳しく解説します。
鉄の基礎知識
多量ミネラルと微量ミネラル
体に必要なミネラルには2種類あります。1日の必要量がおよそ100mg以上の多量ミネラルとおよそ100mg以下の微量ミネラルです。微量ミネラルには、鉄、亜鉛、銅、マンガン、ヨウ素、セレン、クロム、モリブデンがありますが、その中で最も体内に多く存在するのが鉄です。
多量ミネラル
1日の摂取量が100mg以上
ナトリウム
カリウム
マグネシウム
リン
塩素
硫黄
微量ミネラル
1日の摂取量が100mg以下
鉄
亜鉛
マンガン
ヨウ素
セレン
クロム
モリブデン
機能鉄と貯蔵鉄
体内には3000~4000mgの鉄が存在しており、そのうち7割は赤血球と結合しています(機能鉄)。残り3割は、肝臓や脾臓、骨髄、小腸の粘膜に貯蔵されています(貯蔵鉄)。代表的な貯蔵鉄がフェリチンです。
鉄の重要性
栄養療法で鉄が重要視されるのは、エネルギー産生に関わるからです。他にも、 スーパーオキシドディスムターゼ(SOD) の構成要素として抗酸化に必要であったり、コラーゲンなどのタンパク質産生にも関わっています。
- 酵素を運ぶ赤血球の主な構成要素
- 電子の輸送とエネルギー代謝で必要
- SODの構成要素として抗酸化力に必要
- コラーゲンなどタンパク質の産生に必要
エネルギー産生と鉄
タンパク質、糖質、脂質、これらの3大栄養素からエネルギーが産生される過程のうち、酸素の運搬、TCA回路、電子伝達系、この3箇所で鉄が必要になります。
TCA回路では、アセチルCoAからクエン酸、コハク酸からフマル酸が生成される際に鉄が必要です。
電子伝達系では、ミトコンドリアの内膜と外膜の電位差によりエネルギーが作られますが、その際に働くチトクロムCオキシダーゼという酵素に鉄が含まれます。
スーパーオキシドディスムターゼ(SOD)
ストレスや毒物によって活性酸素が発生したとき、一番最初に戦ってくれるのがSODと呼ばれる酵素です。この活性中心にも鉄があります。他にも、銅や亜鉛、マンガンなどのミネラルを含むSODもあります。
鉄欠乏の症状
鉄は全身の代謝に影響しているため、鉄不足の症状は多岐にわたります。
- 疲れやすい
- 寝起きが悪い
- 風邪を引きやすい
- 浮腫み
- 便秘・下痢
- 食欲不振
- 吐き気
- 動悸・息切れ
- 胸が痛む
- 頭痛・頭重
- 冷え性
- 月経の異常
- 神経過敏
- 注意力低下・イライラ
- 洗髪時に髪が抜けやすい
- アザができる
- 湿疹ができやすい
- 顔色が悪い
- 喉の不快感
- 立ちくらみ・めまい・耳鳴り
- 歯茎の出血
- 肩こり・腰痛
- 背中の痛み
日本女性の鉄不足は深刻です。特に消化管の機能が弱まっている人は、動物性タンパク質を好まないので、より一層鉄不足に陥りやすくなります。
20〜29歳女子の食事摂取基準と比較した栄養素摂取量
『厚生労働省 平成25年度 国民栄養調査』より
鉄欠乏の所見
鉄が欠乏すると爪や舌に変化が見られます。爪はスプーンネイルと言って反り返ったように変形します。ここまでいかなくとも、平たい爪や柔らかい爪、薄く脆い爪は貧血のサインです。舌はピカピカ光った感じになることがあります。また、舌の裏側に太い血管が走っていますが、どす黒く見える場合は鉄欠乏を疑います。漢方の分野で瘀血と言われる症状です。
鉄の代謝
鉄の代謝は閉鎖的
体内には3000~4000mgの鉄が存在しますが、体内でリサイクルされるため、体外への排出量は1日あたり1mgとわずかです。ただし有経女性の場合、1回の月経で30mg程度失うため、圧倒的に鉄欠乏が起こりやすいといえます。
鉄のリサイクル
体内に存在している鉄の約7割は赤血球に結合している機能鉄で、残りの400~1000mgは貯蔵鉄として蓄えられています。赤血球をつくるために必要な鉄は20mg/日、古くなった赤血球から回収される量も20mg/日です。そして、消化管粘膜細胞から剥がれ落ちて体外に排出される量が1mg/日ですから、その分は食べ物から補給しないとどんどん鉄の貯金が減ってしまいます。
鉄は吸収率が悪く、ヘム鉄で25%、非ヘム鉄で5~10%程度しか吸収されません。そうすると、1日に10mgくらいは摂取する必要があるということになります。
鉄のリサイクル(有経女性の場合)
有経女性は、男性の倍のスピードで鉄を消費してしまいます。貯蔵鉄が1000mgあった場合、男性は1000日持ちますが、女性は500日しか持たないということです。有経女性であれば、1日12mgくらいは摂取したほうが良いでしょう。食事としてはステーキをもう1枚増やすイメージです。
マクロファージの働き
マクロファージはとても大きな免疫細胞で、細菌やがん細胞を食べて殺菌する働きを持ち、これを貪食と言います。120日の寿命を終えた赤血球も、マクロファージによって貪食されます。その際に鉄を分離して骨髄に提供します。しかし、マクロファージからの供給が不安定なため、足りない時は貯蔵鉄であるフェリチンを使います。
血液の工場は骨髄
血液は骨髄でつくられます。ボーンブロスなどを作るときに骨の断面を観察すると、赤いものと白いものがあることがわかります。これは、造血している骨髄は赤く、休眠している骨髄は脂肪化して白くなるためです。
鉄の吸収
鉄の種類
食品中の鉄には二価の鉄(ヘム鉄・Fe2+)と三価の鉄(非ヘム鉄・Fe3+)があります。ヘム鉄は赤身肉などに多く含まれ、非ヘム鉄は野菜などに含まれます。鉄は回腸上部の十二指腸で吸収されます。後で詳しく解説しますが、鉄はあらゆる細菌にとって必要なエネルギーです。したがって、十二指腸よりも先に進むと、腸内細菌に鉄を奪われてしまう恐れがあるため、無菌状態である回腸上部で吸収される仕組みになっていると考えられます。
鉄吸収を阻害するもの
鉄の吸収を阻害するものには、フィチン酸やシュウ酸があります。フィチン酸は、玄米やとうもろこし、胡麻に含まれる物質です。シュウ酸は緑茶やコーヒー、ほうれん草などに含まれる苦味成分です。緑茶やコーヒーと一緒に鉄剤を飲むと、吸収率が落ちると言われています。
ヘム鉄と非ヘム鉄の吸収
ヘム鉄はHCP1という入り口から小腸粘膜に取り込まれ、フェリチンの形でストックされます。体で必要が生じると、トランスフェリンという鉄を運ぶトラックに乗って必要なところに運ばれます。
非ヘム鉄の吸収
非ヘム鉄は三価から二価の鉄に変わらないと小腸粘膜から吸収されません。この時必要なのが胃酸とビタミンCです。胃酸は食材から鉄を分離するのに必要です。ビタミンCは、鉄を還元して小腸の細胞が吸収しやすい形にしてくれます。動物実験で、ビタミンC75mg存在下で鉄の吸収率が4倍になるという報告もあります。また、三価の鉄から二価の鉄になる際は、DcytBという鉄還元酵素が働きます。この酵素が働いてくれると、非ヘム鉄の吸収がよくなります。
亜鉛や銅といったミネラルも同じ入り口を使うので、治療で1日100mgくらいの亜鉛を摂取していると鉄の吸収が落ちてしまいます。逆に鉄サプリを飲み過ぎると亜鉛不足になります。自然の食べ物で競合することはほとんどありませんが、サプリメントを摂る場合は、朝に鉄サプリを飲んで亜鉛は夜に飲むなど、飲み方の工夫が必要です。
ヘム鉄サプリが良いと言われるのは、胃酸やビタミンCを考慮しなくても良いことや、ヘム鉄専用の入り口があるので吸収されやすいことが理由です。
赤血球の基礎知識
ヘモグロビン
赤血球はヘモグロビンを含みます。柔らかくて真ん中が凹んだビーズクッションを破ると、中に小さいつぶつぶがいっぱい入ってます。その1粒1粒がヘモグロビンといったイメージです。ヘモグロビンはヘムとグロビンでできています。グロビンはタンパク質、ヘムはポルフィリンの中に鉄を含んだものです。
ヘムはポルフィリン環と呼ばれる環状構造になっており、中心に鉄を含みます。ポイントは、ポルフィリン環で鉄が厳重に包装されているということです。
グロビンは複雑な四次構造をしています。4つのパートがあり、黄色い丸がヘムです。肺で受け取られた酸素はヘム鉄に緩く結びつき、全身の血流に乗って細胞に届けられます。
血液データ
赤血球数(RBC)の理想値は450μLです。ヘモグロビン(Hgb)は、女性13、男性15g/dLを目安にします。ヘマトクリット(Hmt)は血液100mL中に占める赤血球の割合を示し、40%くらいが目安です。RBC、Hgb、Hmtがわかると、あとは計算で算出できます。
- MCV:[ヘマトクリット値÷赤血球数]×10
- MCH:[ヘモグロビン÷赤血球数]×10
- MCHC:[ヘモグロビン÷ヘマトクリット値]×100
MCVは赤血球の大きさを示す値で90fLが理想値です。90fL未満で鉄欠乏が疑われます。MCHは赤血球内のへモグロビン量、MCHCは赤血球内のヘモグロビン率で、両方とも31くらいです。MCHとMCHCは赤血球の質を表します。鉄欠乏のひどい人ほどMCHとMCHCが下がります。
- RBC:450 μL
- Hgb:13(女性)、15(男性)g/dL
- MCV:90 fL
- MCH:31 pg
- MCHC:31 %
血液の分画
「全血」や「血清」といった言葉をよく耳にすると思います。それぞれ何を指しているのか整理しておきましょう。採血したての血液が全血です。全血を遠心分離すると、血漿と血球成分に別れます。血球成分には、赤血球や白血球、血小板などが含まれます。さらに放置しておくと血漿内のフィブリノーゲンが沈澱します。この状態の上澄みを血清と言います。
赤血球の成長過程
赤血球の工場は骨髄にあります。骨髄中の造血幹細胞から、白血球や血小板など、様々な細胞に分化します。赤血球は、前駆細胞、前赤芽球、赤芽球、網赤血球、赤血球というように成長していきます。
赤芽球には核がありますが、網赤血球になる時に核を捨てます(脱核)。その後、中身がきれいに掃除され、真ん中が凹んだような形になって成熟したものが赤血球です。赤血球の成長過程で重要なポイントは脱核です。赤血球には核がない、つまりタンパク質の設計図を持っていないということです。
網(状)赤血球
細胞核が抜け落ち、リボソームやミトコンドリアなどの残骸が網のように見える赤血球を網赤血球と呼びます。
erythroid cells
引用:http://www.ft-patho.net
網赤血球は生まれたばかりの赤血球です。数値が低い場合は骨髄での造血能力に何らかの異常があり、逆に高い場合は溶血によりたくさん造血しなければいけない状況にあることが示唆されます。
赤血球と栄養素
赤血球が成熟していく段階で必要な栄養素がそれぞれ異なります。造血幹細胞から分化する際にはビタミンAとビタミンD、脱核の際はビタミンB12と葉酸が必要です。網赤血球には鉄が必要で、赤血球の形を保つためにコレステロールとビタミンEも重要になってきます。
赤血球とコレステロール
通常の細胞では、コレステロールは細胞内で合成され、細胞膜の脂質二重層にコレステロールが入り込み、柔軟性と保形性を維持しています。しかし、赤血球はコレステロールを合成できないため、血液中のコレステロールを取り込んで細胞膜を形成します。したがって、食べた栄養素の影響を受けやすいと言えます。
赤血球の変形能と糖
赤血球にはミトコンドリアもないので、唯一のエネルギー源は糖です。したがって、低血糖の場合、赤血球の機能は著しく低下します。
赤血球は毛細血管の幅より大きいため、自身の体を折り畳んで毛細血管の中に入っていきます。これを赤血球の変形能といいます。この変形能を維持するためにエネルギーとして糖を使います。赤血球の変形能をキープするための1日に必要な糖の量は20gです。ストイックに糖質制限をする場合、1日に最低限必要な糖の量は20gと言われていますが、それはここからきています。
赤血球の真ん中がくぼんだ形をしているのは、表面積を大きくして酸素をたくさん取り込むためと、折り畳んで毛細血管に入るためです。血管の9割は毛細血管で、全てを繋ぐと10万kmにも及ぶと言われています。
美容本などでゴースト血管という言葉を目にしますが、これは血液が通っていない毛細血管を指します。血が通わないので徐々に萎縮してくるのですが、足首の内側に小さな赤いミミズのような模様が確認できたら、それがゴースト血管です。健康な体を維持するためには、その血管の隅々まで酸素を送り届けることがポイントで、それには運動が欠かせません。
貧血とその種類
鉄を運ぶトランスフェリン
鉄はトランスフェリンに乗って運ばれます。鉄は活性酸素の発生源で、かつ細菌に奪われやすいので、専用のトラックに乗せられて慎重に運ばれるのです。検査結果に血清鉄という項目がありますが、これは鉄を乗せたトランスフェリンの数を示しています。
トランスフェリンは鉄欠乏の重要なマーカーになります。TIBC(総鉄結合能)はトランスフェリンの総数を表します。鉄を乗せているトランスフェリンは血清鉄ですから、TIBCから血清鉄を引くと鉄を乗せていないトランスフェリンの量がわかります。これがUIBC(不飽和鉄結合能)です。TIBCとUIBCは混同しやすいですが、TotalのT、Unsaturated(不飽和)のUを覚えておくとわかりやすいですね。
TIBCやUIBC、血清鉄の値で、貧血状態や炎症の有無を推測することができます。TIBC300、血清鉄100、UIBC200を目安に、それより多いか少ないかで判断します。
溶血性貧血の場合、赤血球が壊れるので、鉄を回収するために血清鉄の値が上昇します。また、鉄欠乏性貧血の場合は、血清鉄が下がりUIBCが増えます。体が鉄を要求しているので、空のトラックをたくさん用意して待機しているのです。一方、細菌感染などで炎症が起こると、体は鉄を横取りされまいとして鉄吸収を止めます。その時はUIBCとTIBC、共に減少します。このように、TIBCとUIBCのバランスを見て、体内で何が起こっているのかある程度推測することができます。
血液データで見る鉄
こちらは比較的健康だと自覚のある方々のデータです。
上から2番目の女性は、フェリチン125、血清鉄106、UIBC218と、とても健康的な結果です。一方、1番上の女性は、最低30はほしいフェリチンの値が3.9と、貯蔵鉄がほとんど空っぽの状態です。体が鉄を要求しているので、UIBCは357と高い数値を示しています。
鉄欠乏性貧血
鉄欠乏性貧血の場合はこのようなデータになります。
赤血球数が400万を下回り、ヘモグロビンが11.2と低い数値になっています。網赤血球が1ケタということは、血を作る元気すらないというイメージができます。
データで判断する鉄欠乏性貧血
☑️ RBC↓
☑️ Hgb↓
☑️ ヘマトクリット↓
☑️ MCV↓
☑️ MCH、MCHC↓
溶血
物理的、化学的、または生物学的要因によって赤血球の細胞膜が損傷を受け、寿命の120日を迎えずに死んでしまう現象を溶血といいます。溶血すると赤血球の内容物が飛び出してくるので、各データの数値が上がります。間接ビリルビンの理想値は0.5~0.6ですが、0.6以上になると溶血を疑います。
データで判断する溶血
☑️ 血清鉄↑
☑️ 間接ビリルビン↑
☑️ 網赤血球↑
☑️ カリウム↑
☑️ LDLコレステロール
スポーツ性貧血
ランニングや着地の衝撃で溶血が起こり、貧血になることもあります。スポーツ選手に多いパターンです。また、激しい運動により活性酸素が発生するため、赤血球の細胞膜がダメージを受けやすくなります。溶血で失った分を取り戻すために体は一生懸命造血しようとするので、赤血球の赤ちゃんである網赤血球の値が上昇します。
2018年に、駅伝出場選手が鉄剤注射をしており、不適切な鉄剤注射の防止に関するガイドラインが発表されたというニュースが出て、SNSなどで拡散されました。駅伝の女子選手の静脈注射経験者は15%以上だったそうです。
溶血の症例を見てみましょう。この方はランニングが習慣です。間接ビリルビンが高く、血清鉄が168と高めです。逆にUIBCが低くなっています。溶血の原因は生活習慣と照らし合わせて判断する必要があります。
アルコールと溶血
下の症例の方は体格のいい健康な男性のデータです。数値だけで判断すると、赤血球数が379と低めで、MCVが111と高いので、巨赤芽球性貧血で胃酸不足かなと推測してしまうのですが、それはちょっと早とちりです。
話を聞くと、前日にお酒を飲んでいることがわかりました。飲酒によっても溶血するので、データはズレてしまいます。目の前の人間像と全く違うデータが出ることもあるので、前日の睡眠不足や飲酒の有無などは確認が必要です。
巨赤芽球性貧血
ビタミンB12と葉酸が不足すると脱核がうまくいかず、サイズが大きく寿命の短い赤血球ができてしまいます。脱核が不十分な赤血球は鉄を運ぶことができないため、貧血を招いてしまいます。これを巨赤芽球性貧血と言います。巨赤芽球性貧血の原因はDNA合成障害です。ビタミンB12と葉酸はDNA合成に関わります。ビタミンB12にはコバラミンとメチルコバラミンが、葉酸には5メチルテトラヒドラ葉酸とテトラヒドラ葉酸があります。メチル基がくっついたり離れてたりする反応でDNAが合成されていきます。
MCVが80~100では4人に1人、115~129では2人に1人、130以上で全ての人が巨赤芽球性貧血と言われています。ビタミンB12と葉酸は幹細胞から分化するタイミングで必要な栄養素なので、それらが欠乏しているということは、白血球や血小板など、他の血液成分も低くなっている可能性があります。
腎性貧血
腎臓からエリスロポエチンというホルモンが分泌されると赤血球が作られます。腎臓機能低下によりホルモンが分泌されないと、造血能力が低下します。これを腎性貧血と言います。稀なケースではありますが、基礎知識として覚えておきましょう。
鉄と細菌
地球上のあらゆる生命体が鉄を栄養源としていると言っても過言ではありません。私が栄養療法を始めた頃、貧血改善のために半年ほどヘム鉄サプリを50~60mm飲んでいました。満を持して採血したところ、なんと良くなるどころか悪化していたのです。この結果を自身のSNSで発信したところ、名前も知らない男性から、論文が送られてきました。
Front. Cell. Infect. Microbiol., 19 November 2013
Shared and distinct mechanisms of iron acquisition by bacteria and fungal pathogens of humans
https://www.frontiersin.org/articles/10.3389/fcimb.2013.00080/full
ここには、菌も鉄を必要としているから、鉄サプリを飲み過ぎると悪い細菌が増殖するという内容が書かれていました。とても衝撃を受けた記憶があります。
シデロフォア
この論文にシデロフォアという物質が出てきます。細菌や植物などが分泌する鉄キレート剤で、細菌が人間の体に住み着くと、このシデロフォアを使ってトランスフェリンから鉄を奪い取ろうとするそうです。細菌内の鉄分濃度は一定濃度に維持できないと死滅してしまいます。だから必死になって鉄を奪おうとしてきます。
エンテロバクチン
e.coli(大腸菌)のシデロフォア
ヘプシジンとフェロポルチン
細菌感染で鉄を奪われまいと、人間の体内ではヘプシジンというホルモンを出して対抗します。ヘプシジンは生体内唯一の鉄輸送タンパクであるフェロポルチンをコントロールすることで、鉄の代謝を抑制します。鉄が小腸粘膜から血液に移行する際に、フェロポルチンというゲートを通るのですが、そこを制御しているのがヘプシジンです。細菌感染があると、ヘプシジンの命令でフェロポルチンのゲートが閉まるという仕組みになっています。
腸管の鉄代謝の他に、マクロファージの貪食によりリサイクルされる鉄もヘプシジンが制御しています。
- 腸管からの鉄吸収を抑制する
- マクロファージからの鉄の放出を抑制する
→ 鉄が体内に入らないようにする
→ 鉄がリサイクルされないようにする
ヘプシジン投与によりフェロポルチンが一気に減るという報告もあります。鉄が過剰なとき、炎症があるときはヘプシジンが鉄代謝を止めます。自然の食べ物から摂取する分にはあまり問題ありませんが、鉄サプリメントを摂る時は、感染や炎症は必ず考慮する必要があります。
Pulmonary arterial hypertension: scientific advances
S36 Ferroportin Is Expressed In Human Pulmonary Artery Smooth Muscle Cells: Implications For Pulmonary Arterial Hypertension
https://thorax.bmj.com/content/69/Suppl_2/A21.1
ヘプシジンとシデロフォア
シデロフォアは細菌が持っている武器で、それに対抗するために人間の体はヘプシジンを作っているということです。炭疽菌や結核菌、腸炎ビブリオ、エンテロバクターなど、ほぼ全ての病原菌は増殖に鉄を必要とします。人間の体内でポルフィリン環で厳重に包まれて輸送されているのも納得がいきますね。
鉄と慢性炎症
貧血の原因として、摂取量が少ないことも一因ではありますが、炎症で体が鉄の代謝を止めている可能性も疑わなければいけません。
- 歯周病
- 歯根感染
- 肥満
- ピロリ菌感染
- 副鼻腔炎
- リーキーガット
- 消化管の慢性炎症
- アトピー
肥満と炎症はあまりピンとこないかもしれませんが、内臓脂肪が多いと脂肪細胞自体が炎症性の物質を出すことがわかっています。副鼻腔炎やリーキーガットも慢性炎症です。20150年の論文で、アフリカやアジアの子どもに鉄剤投与したところ、マラリアや呼吸器感染症が増えたという報告があります。
Sci. Rep. 2015; 5: 16670.
Oral iron acutely elevates bacterial growth in human serum
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC4655407/
カンジダと鉄
カビの一種であるカンジダ菌は、真核生物なので核やミトコンドリアを持っています。つまり、酸素要求性が高く、鉄が大好物ということです。
引用:井上重治/微生物と香りーミクロ世界のアロマの力
カンジダ菌は常在菌ですが、過剰に増殖すると痒みが出たりリーキーガットを起こしたりします。特に女性は、膣カンジダ感染している人が多く、1度でもカンジダ菌の既往がある人は繰り返しやすいので注意が必要です。また、腸カンジダがある人はSIBOやSIFOにも気を付ける必要があります。症状としては、腹部膨満感やガス腹、逆流性食道炎、カンジダ膣炎などが挙げられます。腹部膨満感は、カンジダ菌が二酸化炭素を発生することによって起こります。鉄サプリメントを摂る前にカンジダが増殖していないことを必ず確認しなければいけません。
Killing., doi.org/10.1371/journal.ppat.1001322(2011)
Host Iron Withholding Demands Siderophore Utilization for Candida glabrata to Survive Macrophage Killing
https://journals.plos.org/plospathogens/article?id=10.1371/journal.ppat.1001322
Front Cell infect Microbiol. 2018; 8: 185.
Iron at the Centre of Candida albicans Interactions.
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC5996042/
カンジダ対策サプリメント
繰り返しカンジダ感染を起こしている場合は、カンジダ対策サプリメントを検討してもよいかもしれません。カンジダサポートというサプリメントの中身はオレガノとカプリル酸です。カプリル酸はココナッツオイルの主成分で、非常に強い殺菌力があります。特にカンジダ菌に対して強い抗菌作用を発揮すると言われています。カンデックスは、細胞壁を壊す消化酵素が含まれています。空腹時に多めの水と一緒に飲むと、カンジダ菌のバイオフィルムを破壊し消化管の掃除をしてくれます。
食材であれば、ココナッツオイルやりんご酢、ニンニクなどがカンジダに対する抗菌作用が強いと言われています。普段の食事でも積極的に取り入れたい食材です。
便秘対策
カンジダ対策で最も重要なことは、便秘を治しておくことです。除菌した菌が排出されずに腸に残り、腸管から吸収されることで症状が悪化してしまう場合があります(ダイオフ)。ダイオフを起こさないためには、何よりも便秘対策が最優先です。カンジダ対策で私が愛用しているのはロイテリです。
他にはビオスリーもカンジダに効果があるという報告があります。
Jpn J Antibiot. 1998 Dec;51(12):759-63.
Ecological treatment of bacterial vaginosis and vaginitis with Bio-three
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/10077774/
ラクトフェリン
細菌感染がある時の鉄補給として、ラクトフェリンが使われることもあります。ラクトフェリンは、鉄イオンと結合する乳タンパクです。母乳に多く含まれる成分で、免疫強化にも役立ちます。著しく熱に弱いので食品からの摂取は難しく、サプリメントから摂取することができます。フェリチン値を上げる手段として有効と言われています。
フェリチン
貯蔵鉄であるフェリチンは肝臓、脾臓、骨髄、小腸粘膜にあります。脾臓はマクロファージが赤血球を貪食する場所です。前述のように、マクロファージからの鉄供給は不安定なので、フェリチンとして常にストックされています。
フェリチンは鉄に結合するタンパクの一種で、鉄をタンパク質で覆うことにより鉄を無毒化しています。血中フェリチン量=体内の貯蔵鉄量と考えて良いでしょう。フェリチン1ng/mLが貯蔵鉄8mgに値します。貯蔵鉄1000mgで、フェリチン値は125ng/mLです。私の経験上、炎症がなく100ng/mLを超えている女性はあまり見かけませんが、30ng/mL以下は明らかに少ないです。1回妊娠すると30~40ng/mL失われると言われており、フェリチンが枯渇すると産後うつを発症しやすくなります。
潜在性鉄欠乏
フェリチン30ng/mL以下は潜在性鉄欠乏と呼ばれ、日本人女性の7割は潜在性鉄欠乏と言われています。潤沢に鉄が供給されるには50~60ng/mLは欲しいところです。
「潜在性」という言い方をするのは、ヘモグロビンが基準値内で一見鉄が足りているように見えるからです。すぐに使えるお財布の現金は足りているけど、貯金が少ない状態です。貯蔵鉄を優先的に使うため、ヘモグロビンの値は見かけ上は減らないのです。
子供のフェリチン
新生児には母乳から供給されるので、110ng/mLと高フェリチンになります。しかし、生後6ヶ月~1年でそれを使い切ってしまい、生後2ヶ月~2歳は5ng/mLくらいまで下がり貧血傾向になります。さらに成長すると、食事から鉄を摂取できるようになるので、また20ng/mLまで回復します。
しかし女性の場合は、生理が始まる頃から低フェリチン状態が続くと、鉄不足の人生しか歩んでいないので、本当に健康な状態を知らないという人も多いはずです。
人種的な相違
日本人は鉄欠乏が多く、逆に西洋人は鉄過剰が多いと言われています。鉄過剰の疾患をヘモクロマトーシスと言います。「迷惑な進化」という本に書いてありますが、14世紀半ばにペストが大流行し、当時のヨーロッパ人口の1/3~1/4にあたる2500万人以上が死亡しました。その時ペスト菌で死亡した人が低フェリチンだったと言われています。ヘモクロマトーシスの遺伝子を持つ人は高フェリチンで、マクロファージ中の鉄が少なく、結果的にペスト病原体に抵抗力があったと考えられています。
フェリチンと炎症
炎症があるとフェリチンが上昇します。重度の歯周病、アトピー、脂肪肝などの他に、肥満の人も要注意です。フェリチンは低酸素ストレスで増加するため、無呼吸症候群の方は高フェリチンになります。
炎症によりフェリチンが上昇する理由
フェリチンが上昇する理由は2つあります。
- 炎症を起こしている組織が破壊
血中へ流れ出た組織がフェリチンとしてカウントされる - ヘプシジンによるもの
骨髄における赤血球産生(ヘモグロビン合成)を抑制
→ 待機中の鉄(フェリチン)が上昇する
症例 ①
症例を見てみましょう。この方はアトピーに悩んでいました。AST>ALTでやや脂肪肝気味で好酸球(Eosino)も高いので、フェリチンの67という数値はマスキングがかかっており、実際はもっと低いと推察できます。
症例 ②
次の症例は少し特殊です。2017年の検査ではAST17、ALT12と普通の女性らしい数値だったのに、2018年にはASTが33、ALTが52まで上昇しています。この女性は2017年の検査以降にメガビタミン療法を始め、自己流でビタミンB群サプリやプロテインを大量に飲んでいました。フェリチンが18から237まで上がってしまっています。サプリメントの飲み過ぎで肝臓が炎症を起こしているケースが最近増えています。
TIBCは2017年時点では357で少し高めでやや鉄欠乏性貧血でしたが、2018年には282と下がっています。本人はフェリチンが上がったと喜んでいましたが、TIBCが下がっているということは、炎症が起きていることを示すので、フェリチン上昇も炎症によるマスキングと読み取れます。
MCVと胃酸
下の症例のように、MCVが100と高めなのに他の数値は正常というケースはよくみられます。
これは胃酸分泌の低下を表しています。MCVが高い=ビタミンB12・葉酸不足ですが、ビタミンB12は胃酸が出ないと吸収されません。MCVが高い→ビタミンB12不足→胃酸分泌低下という推測が成り立ちます。胃酸分泌の状態はペプシノーゲン検査でわかります。
MCVを見るときの注意点は、鉄欠乏があると赤血球が小粒になるため、マスキングが起こる可能性があるということです。MCVはあくまでも平均値なので、脱核ができてない大きな赤血球と鉄欠乏の小さい赤血球があると、結果的に真ん中ぐらいの数値を弾き出してしまうことがあります。
巨赤芽球性貧血と甲状腺機能
私の経験から言うと、巨赤芽球性貧血は、胃酸不足や動物性タンパク質の摂取不足よりも、甲状腺機能低下の影響が大きいと感じています。
症例(甲状腺機能低下)
この症例の方は40代の女性で、線維筋痛症や慢性疲労、耳鳴りがある方でした。月に何万円ものお金をかけて、高タンパク食とサプリメントのメガドーズを始めたにもかかわらず、半年経ってもほとんど改善しなかったそうです。MCVが高い状態が続いていたので、自己判断でビタミンB12注射もしたそうです。
- Hgb 12.5
- MCV 102
- 網赤血球 10
(2012年1月)
- Hgb 12.8
- MCV 104
- 網赤血球 22
(2012年7月)
その後、甲状腺の問題ではないかと考えて治療をしたら、症状が改善したそうです。ずっと高止まりだったMCVも92.5まで下がっています。
甲状腺と鉄
女性の方が圧倒的に甲状腺機能低下症は多いのですが、これには鉄が関係しています。甲状腺ホルモンが作られる時に働く甲状腺ペルオキシターゼという酵素の活性中心にヘムが含まれます。つまり、甲状腺ホルモンの分泌には鉄が必要ということです。
The Journal of Nutrition, Volume 132, Issue 7, July 2002, Pages 1951–1955
Iron Deficiency Anemia Reduces Thyroid Peroxidase Activity in Rats
https://academic.oup.com/jn/article/132/7/1951/4687383
甲状腺機能低下で治療薬のチラージンが処方されることがありますが、チラージンは鉄サプリと競合すると言われています。したがって、朝にチラージンを飲んだら鉄は夜に飲むなど、腸管を通るタイミングを別々にする必要があります。
症例(LowT3症候群)
この症例の方は、MCVが101と高く、FT3が2.2とかなり低い値になっています。FT3が低い場合、それに反比例してTSHが高くなっているはずなのに、2.01と低いままです。これがLowT3症候群と言われる症状です。
- MCV 101
- TSH 2.01
- FT3 2.2
- FT4 1.4
甲状腺機能低下症の場合、漢方を利用すると症状が改善するケースもあります。当帰芍薬散は鉄欠乏の女性にはよく使われる漢方です。
鉄サプリメントの種類
フェロミア(クエン酸第一鉄)
クエン酸でキレートされた鉄剤で、医療機関で処方される鉄剤が大体これです。フェロミアは胃痛や吐き気を起こす人がとても多いです。胃で溶けて活性酸素の発生源になりやすいためです。
フェロケル鉄
フェロケルはアミノ酸(グリシン酸)でキレートされているので、胃にやさしく、吸収率が良いという特徴があります。またフェロケル鉄服用により、ヘモグロビンより先にフェリチンが上昇することがあります。
小腸の粘膜の断面の赤くなっているところがフェリチンです。フェロケル鉄の場合、フェリチンとして貯蔵され、必要な分だけ体内に取り込まれるため、フェリチンが先に上昇すると考えられています。
H. Dewayne Ashmead (Author), Darrell J. Graff / Intestinal Absorption of Metal Ions and Chelates
コハク酸鉄タンパク(IPS)
コハク酸とコエンザイムAが結合したスクシニルCoAと一緒になっている鉄です。胃ですぐに溶けず、十二指腸で溶解され、アルカリ・中性環境下で急速に吸収されるという特徴があります。胃腸への刺激や副作用が少ないというメリットがあります。ただし、スクニシル酸鉄を作る時にカゼインを使うため、アレルギーがある方は注意が必要です。
ヘム鉄
2価鉄とポルフィリン環の有機化合物です。ポルフィリン環で包まれているため、胃腸にダメージを与えません。ヘム鉄専用の入り口から入ってくるので、他のミネラルと競合することもありません。コストが高いというデメリットはありますが、非常に優れたサプリメントと言えます。動物実験や宗教的な問題から、海外ではほとんど売っていません。
鉄を豊富に含む食材
ヘム鉄を多く含む食材
ヘム鉄といえばやはり赤身肉です。牛ヒレステーキ200gで5.3mgくらい摂取できます。吸収率25%で換算すると、1.3mgになります。1日に体外に排出される分の鉄は補える量です。
- 牛ヒレステーキ(200g)5.3mg
→ 吸収率25%として、1.3mg
ヘム鉄の吸収には、強酸(胃酸)でペプシンが活性化されていること、膵液(トリプシン)が分泌されていること、この2点がポイントです。
非ヘム鉄を多く含む食材
非ヘム鉄は、おひたしと納豆、がんもどきの煮物を合わせると4.8mgくらいになります。吸収率5%で換算すると、0.24mg摂取できます。
- 小松菜のおひたし(50g)1.5mg
- 納豆1パック(40g)1.5mg
- がんもどき煮物(50g)1.8mg
→ 非ヘム鉄 摂取量合計4.8mg
→ 吸収率5%として、0.24mg
近江の名産の赤こんにゃくは鉄分が豊富なことで有名です。100gに78.5mgも含まれているそうです。
非ヘム鉄の吸収には、強酸(胃酸)で可溶化されること、鉄還元酵素(Dcytb)が働いていること、ビタミンCが十分量あること、これら3つがポイントになります。
調理器具からの移行
普段から少しずつ鉄分をとるために、鉄鍋をおすすめします。鉄は熱伝導性が良く、昔はほとんど鉄製鍋が使われていました。鉄鍋から食品に鉄分が移行するため、良い鉄補給になります。
昔からひじきといえば鉄を多く含むイメージがありましたが、実はほとんど鉄が含まれていなかった、という事実が判明しました。食品成分表を改訂する際に、それまで鉄鍋で煮ていたのをステンレス鍋に変更したことで判明したそうです。つまり、鉄鍋由来の鉄分を計測していたということです。逆にいうと、鍋から移行する鉄もある程度見込めるということです。
現代はステンレスやアルミニウムが多用されるようになってきましたが、鉄製のフライパンや中華鍋、天ぷら鍋などはぜひ活用していただきたいです。1人暮らしの方にはスキレットをおすすめしています。鉄鍋のデメリットとしては、錆止めに油を塗って保管する必要がある点です。あと火傷には要注意です。
外食
鉄分豊富な食材といえばなんといってもレバーです。仕事で疲れて料理する気力が湧かない時は、チェーン店でもいいからレバニラでも食べくださいとお伝えすることもあります。外食でも意識的に鉄分を摂取すると良いと思います。
まとめ
いかがでしたか?今回は鉄と赤血球について詳しく解説しました。鉄は生命維持にとって欠かせない栄養素でありながら、活性酸素を発生させたり細菌などに奪われやすい栄養素でもあるため、体内で厳重に管理されています。
赤血球は成長の過程で脱核します。その際に必要な栄養素がビタミンB12と葉酸です。胃酸分泌が低下しているとB12の吸収も低下し、脱核が滞りMCVが上がると言われています。また、赤血球は糖を唯一のエネルギー源とします。赤血球の直径よりも狭い毛細血管に入るためには、赤血球の変形能が重要になってきますが、形を変えるにもエネルギーを使います。したがって、血糖の安定性が赤血球の変形能に影響するといえます。
貧血にはいくつか種類があり、UIBCや血清鉄の数値を見てある程度予測することができます。細菌感染によって鉄が奪われて貧血になるケースもあり、安易に鉄サプリに頼らず、まずは貧血の根本原因を探ることが大切です。慢性炎症や細菌感染は鉄不足を引き起こすため、特に注意が必要です。
鉄にはヘム鉄と非ヘム鉄があり、それぞれ吸収機構が異なります。ヘム鉄は赤身肉などに、非ヘム鉄は野菜などに含まれます。鉄鍋も食品への移行が期待できるのでおすすめです。日本人は鉄欠乏を起こしやすいので、日頃から鉄分を意識して摂るようにしましょう。