日常生活の中で、どのくらいタンパク質を意識して食事を摂っていますか?野菜を食べましょうとは言われても、タンパク質を食べましょうと言われることは少ないですよね。体にとって大事な栄養素とはわかっていても、どのくらいの量をどのように調理して食べるのが良いかわからない、という方も多いのではないでしょうか。
タンパク質=proteinの語源は「第一」のという意味を持つ言葉です。名前の由来の通り、体の中で優先順位が最も高い栄養素と言えます。体の7~8割は水でできていますが、その水を支えているのはタンパク質です。したがって、タンパク質が不足すると体内の水分も保てなくなります。タンパク質は、単純にたくさん食べれば良いというものではありません。体内での消化吸収、リサイクル率、そして体調などを総合的に見ながら、質や量を考える必要があるのです。
1. タンパク質の基本
三大栄養素
脂質、タンパク質、糖質、この3つが三大栄養素です。これにビタミン、ミネラルを加えたものを五大栄養素と呼びます。三大栄養素とビタミン・ミネラルの決定的な違いは何でしょうか?
それはエネルギーになるということです。ビタミンやミネラルは、そのものがエネルギーになるのではなく、三大栄養素がエネルギーに変換される時に働くものです。例えるなら、建物の材料が三大栄養素、建てる時の道具がビタミン・ミネラルです。
アミノ酸の分子構造
タンパク質の分子構造で、糖質や脂質と決定的に違うものが1つあります。それは窒素を保有していることです。脂質や糖質は、炭素(C)、水素(H)、酸素(O)だけでできているのに対し、タンパク質はアミノ基(NH2)の形で窒素を含みます。土壌に窒素が多いと野菜や米がよく育ちますよね。おそらく人間の体も同じで、ある程度の窒素を必要としていて、それが成長因子として働いているのだと思います。
タンパク質の最小単位はアミノ酸です。アミノ酸の基本構造にはアミノ基(NH2)とカルボキシル基(COOH)があります。Rの部分のバリエーションは20種類。タンパク質は、この20種類のアミノ酸が様々に組み合わさってできた高分子化合物です。
タンパク質の種類については、正確な数はまだわかっていません。おおよそ10万種類と推定されています。20種類のアミノ酸をもとに、10万種類のタンパク質ができるわけですから、タンパク質はとても複雑な構造をしています。イメージで表すとこんな感じです。
1粒のパールがアミノ酸とすると、いくつか繋がったものがペプチド、もう少し多くなるとポリペプチド、さらに繋がっていくとタンパク質になります。パールでできたポーチには物を入れるという機能が備わります。タンパク質がアミノ酸やペプチドと異なるところは、機能を有するという点です。
必須アミノ酸と非必須アミノ酸
体内で合成できるものを非必須アミノ酸、合成できないものを必須アミノ酸と言います。「必須」と付くので、なんとなく必須アミノ酸の方が大事だと思われがちですが、私は逆ではないかと思います。非必須アミノ酸は、常に体内で必要とされているので、重要度が高いために、体内で合成できるようになったと考えるのが自然だと思います。
必須アミノ酸
- バリン
- ロイシン
- メチオニン
- リジン
- フェニルアラニン
- トリプトファン
- スレオニン
- ヒスチジン
非必須アミノ酸
- アルギニン
- グリシン
- アラニン
- セリン
- チロシン
- システイン
- アスパラギン
- グルタミン
- プロリン
- アスパラギン酸
例えばグルタミン。通常、細胞は糖をエネルギー源としますが、小腸の粘膜細胞はグルタミンを主な栄養源とします。小腸は全ての栄養の入口ですから、ここがダメージを受けると体全体の代謝が滞ります。したがって、グルタミンは常に供給される必要のあるアミノ酸と言えます。
タンパク質の構造
タンパク質の構造はとても複雑です。一次構造は単純な直鎖のアミノ酸配列、二次構造はテープのような平たい形をしています。三次構造は二次構造が折り畳まれたもの、三次構造が集合して複合体を形成したものが四次構造です。
2. 良いタンパク質とは?
アミノ酸スコア
タンパク質の質を考えるとき、アミノ酸価(アミノ酸スコア)が一つの指標になります。「アミノ酸の桶」という理論を聞いたことはありますか?桶を構成する9枚の板を必須アミノ酸に見立てて、そのうち一つでも高さが足りないと水(タンパク質)が少なくなるというものです。つまり、最も少ないアミノ酸に合わせた量のタンパク質しか合成できないということです。
アミノ酸スコアの例
- 鶏肉:100
- 卵:100
- 精白米:65
- 食パン:44
最も少ないアミノ酸を第一制限アミノ酸と呼びます。例えば、鶏肉や卵のアミノ酸スコアは100を示します。一方、精白米にも多くのアミノ酸が含まれますが、リシンが第一制限アミノ酸のため、スコアは65と低めです。大豆にはリシンが多いので、ご飯に納豆をかけたり、お味噌汁と一緒に食べたりすることによって、アミノ酸スコアを100に近づけることができます。いろんなものを食べることで栄養バランスが整うというのは、このアミノ酸スコアの話からも納得がいきますね。
生物価
タンパク質の質を示すものがもう一つあります。それは生物価です。体に吸収されたタンパク質のうち、実際に体の材料として使われた割合を示します。食べたタンパク質は消化酵素でアミノ酸単位まで小さく分解され、消化吸収されます。この消化吸収されたアミノ酸が身体づくりに使われ、使われなかった分は排泄されます。
生物価はこの廃棄率をもとに算出されます。値が高くなるほど利用効率が良いと言えます。卵は87~97、牛乳は85~90、ホエイプロテインは100を超えます。激しいスポーツをする人がホエイプロテインを選ぶ理由はここにあります。タンパク質の質を示す値として、アミノ酸スコアの方が知名度は高いですが、この生物価も重要な指標になります。
3. 機能による分類
タンパク質の機能は多岐にわたります。人間の仕事で例えるなら、輸送を担うロジスティクス系、防御を担う自衛隊や警察官、貯蔵の役割をする銀行などなど。大まかに分けると7種類あります。
酵素タンパク質
よく耳にする酵素もタンパク質のひとつです。酵素タンパク質には代謝酵素と消化酵素があります。代謝酵素は化学反応の触媒となる酵素で、ASTやALTがあります。消化酵素は、タンパク質という大きな塊を最小単位であるアミノ酸まで分解する酵素で、アミラーゼやペプシン、リパーゼなどがあります。
構造タンパク質
コラーゲンは代表的な構造タンパク質の一つです。細胞間マトリックスの主要成分の一つで、細胞と細胞の間を埋めて真皮や骨などを構成します。血管にも多く含まれます。コラーゲン形成にはビタミンCが欠かせませんが、ビタミンC不足になるとコラーゲンが形成されず、血管が壊れて出血してしまいます。これが大航海時代に流行した壊血病と呼ばれる病気です。
ケラチンは、角質組織を構成するタンパク質です。おそらく人間の体で最も丈夫な固いタンパク質で、髪の毛や爪を作っています。
輸送タンパク質
その名の通り、荷物を運んでいるタンパク質です。例えば、ヘモグロビンは酸素を運ぶトラック。セルロプラスミンは銅を運ぶトラックです。血清銅が高いとセルロプラスミンも高くなる傾向があります。余談ですが、セルロプラスミンはエストロゲンと連動しているので、血清銅が高い場合は、エストロゲン値も高いと推測できます。
リポプロテインは脂質を運ぶタンパク質で、最もメジャーなものがコレステロールです。LDLコレステロール、HDLコレステロールの「L」はリポプロテインのLです。脂質は水に溶けないため、水溶性のリポプロテインに乗せて運ばれます。
防御タンパク質
免疫機能に関与するタンパク質です。免疫グロブリンもその一つ。血液中には大まかに分けて、アルブミンとグロブリンの2種類のタンパク質が存在しており、その割合は2:1くらいです。
貯蔵タンパク質
栄養療法の分野ではフェリチンが有名ですね。鉄を貯蔵しておくためのタンパク質です。
収縮タンパク質
アクチンやミオシンは、筋肉を構成しているタンパク質です。ハンバーグを作るときに、塩を加えてこねると粘りや引きが出ます。これはアクチンとミオシンが収縮することで起こる変化です。
受容体タンパク質
細胞膜に存在するタンパク質です。細胞膜の主成分は脂質ですが、所々に膜タンパク質があり、様々な栄養素の通り道になっています。細胞膜内にはミトコンドリアや核、小胞体など、とても重要な器官が入っています。そこで、この受容体タンパク質が門番のような働きをし、外部のものを選択的に取り込んで細胞内を守っています。
4. アミノ基転移酵素
ここからは、特に重要な機能を持つタンパク質をピックアップして説明します。まずは実践講座でよく出てくるASTとALTのお話です。これらはアミノ酸代謝に関わる酵素です。肝機能検査で測定される値ですが、栄養療法の分野ではエネルギー代謝の状態を推測する数値として使われます。
AST:アスパラギン酸アミノ基転移酵素
ALT:アラニンアミノ基転移酵素
ALTはアラニンアミノ基転移酵素で、アラニンのアミノ基をα-ケトグルタル酸に転移させます。すると、グルタミン酸とピルビン酸ができます。ASTはアスパラギン酸アミノ基転移酵素で、アスパラギン酸のアミノ基をα-ケトグルタル酸に転移させます。すると、グルタミン酸とオキサロ酢酸ができます。
ピルビン酸、α-ケトグルタル酸、オキサロ酢酸は、エネルギーを産生するTCA回路に関わる物質です。ということは、ASTとALTの値から何となくその人のエネルギー代謝の状態が想像できるのです。
細胞内のエネルギー代謝を見てみましょう。1つのグルコースからピルビン酸に代謝される過程で2つのATPができます。これを解糖系と言います。ピルビン酸はミトコンドリアに入り、TCA回路で2ATP、電子伝達系で36ATPがつくられます。
ASTとALTはこのTCA回路に絡んでいます。TCA回路は山手線のようにぐるぐる回っています。遅延せずに回っていれば良いのですが、ASTやALTが極端に低いと、エネルギーが十分に作れなくなる可能性があります。
この症例の方はASTが12、ALTが4です。理想値はAST、ALTともに20ですから、極めて低い値です。細胞のミトコンドリア機能が低下し、エネルギー代謝がものすごく落ちていると推測できます。こうした値を示す人は、体感としていつも疲れていたり、QOLが著しく下がっていたりします。
5. アルブミンとグロブリン
アルブミン
輸送タンパクであるアルブミンは、血液中で1番多いタンパク質です。1日に6g~12gぐらい肝臓で合成されています。
アルブミンが運ぶもの
- カルシウム
- 亜鉛
- 脂肪酸
- 間接ビリルビン
- ホルモン
- 薬剤
- 水分
アルブミンが運ぶものの中で最も重要なのは水分です。アルブミンが水分を抱えているので、血管内の水分が保たれます。アルブミンが減ると、血液中に水分を保持することができなくなって、血液が少し濃くなります。これがいわゆる濃縮と呼ばれる現象です。濃縮が起こると、見かけ上の血液データが全体的に上がります。その中でも、アルブミン値は最も濃縮の影響を受けます。血液中の水分は細胞と血管の間に逃げるので、これがむくみの原因になります。高齢者は特にアルブミン値が低くなりがちです。
また、アルブミンが運ぶものの中に薬剤があります。アルブミンが少ない人は、薬を飲んでもうまく運ぶことができず、結果として副作用が出やすいと言われています。
データの目安
総タンパク質、アルブミン、アルブミン/グロブミン(A/G)比の目安を覚えておきましょう。アルブミンは肝臓で合成されることから、アルブミン値が低いと肝機能低下を疑います。また、肝臓にはミトコンドリアがたくさん存在しているので、肝機能低下はミトコンドリア機能低下を反映します。
- 総蛋白(TP):7.5
- アルブミン(Alb):4.5
- A/G比:1.8
下の症例は、総蛋白6.8、アルブミン4.1、A/G比1.52。全体的に低いですね。タンパク質代謝が低下し、アルブミンの合成能力も落ちていると考えられます。おそらく濃縮が起こっているので、実際のアルブミン値はもっと低いはずです。
さらにLDLコレステレロールが67と、著しく低いです。LDLコレステロールはリポプロテインでしたね。脂質を運ぶタンパク質のトラックが足りていない、つまり肝臓から脂質を運び出せない状態です。この症例は極端な例ですが、全体的に酵素活性が低く、尿素窒素も尿酸値も低い。血糖値に至っては73で、完全に低血糖です。疲れやすかったり、QOLが低下していたりといった症状がデータを見ただけで推測できます。
アルブミン/グロブリン(A/G)比
A/G比も栄養状態を見る上で重要な値です。理想値は1.8~2。A/G比の値が低い場合は、アルブミンが下がってグロブリンが上がっているパターンが多いです。前述の通り、低アルブミン値は低栄養や肝機能低下が原因で起こります。グロブリンは防御タンパク質なので、炎症があると上がります。風邪を引いていたり、手術後だったりと、わかりやすい炎症であればいいのですが、中には自覚症状のない炎症もあります。その多くが腸の炎症、つまりリーキーガットです。強いストレスなどによりリーキーガットを起こしていると、低栄養かつ免疫が働くので、アルブミンが下がりグロブリンが上がります。したがって、A/G比が低い場合はまず炎症を疑います。
A/G比が2以上になるケースもあります。この場合はグロブリンが下がっていると考えるのが自然でしょう。グロブリンが下がるのは、エイズなどの免疫不全、免疫抑制するようなステロイドを使っているケースが考えられます。ステロイドは強力な抗炎症作用がありますが、免疫も一緒に抑えてしまいます。
しかし、こちらの症例の方は免疫不全でもなくステロイドを使っている訳でもありません。これは私のカウンセリング経験からの推測ですが、強いストレスにより、体内合成できるステロイド、コルチゾールが過剰に分泌されて免疫抑制作用が働いている結果、グロブリンが低下している可能性があると思います。A/G比だけでもここまで深読みすることができます。
6. 小胞体と分子シャペロン
タンパク質の工場
タンパク質は小胞体という器官で作られます。タンパク質合成のためのエネルギーを作っているのはミトコンドリア。ミトコンドリアが発電所で、タンパク質工場である小胞体に電力を供給しています。したがって、ミトコンドリア機能が低下すると小胞体の機能も低下します。ミトコンドリアと小胞体は一蓮托生の関係にあります。
タンパク質が細胞の外に出荷されるには、様々な条件が揃っていることが重要です。まずミトコンドリアのエネルギーがちゃんと供給されてること。酸化ストレスや有害金属などでミトコンドリアの機能が落ちていると、電力の供給が滞ってしまいます。それから、細胞膜を通ってタンパク質が細胞外に出されること。例えばトランス脂肪酸ばかり食べていると細胞膜が固くなってしまい、タンパク質を細胞外に出荷できなくなる可能性があります。様々なケースが考えられます。
分子シャペロン
タンパク質の構造は、一次構造、二次構造、三次構造、四次構造と変化を遂げます。その構造変化をフォールディングと言います。「畳む」という意味ですね。タンパク質のフォールディングをするのもタンパク質。それを分子シャペロンと呼びます。シャペロンは介添人という意味です。その昔、ヨーロッパで貴族のお嬢様が社交デビューするときのお手伝いさんをシャペロンと呼んだことから名付けられたそうです。分子シャペロンは、小胞体で出来たタンパク質をフォールディングするお仕事を担っています。社交界にデビューする(細胞の外に出る)前に、ちゃんと整えてあげなきゃいけないんですね。
ヒートショックプロテイン(HSP)
その名の通り、熱によって変性したタンパク質を修復する機能をもつタンパク質です。熱の刺激で誘導されます。タンパク質は熱がかかると変性が起こります。イメージで表すと、きちんと畳まれたシャツがシワシワになってしまう感じ。フォールディング構造が壊れてしまうのです。
シワシワになったシャツをまた元に戻してくれるのがHSPです。変性したタンパク質を元通りに戻してくれるので、アンチエイジング効果があると言われています。HSPは茶筒のような形をしています。茶筒のフタを開けてシワシワのシャツを入れ、ユサユサ揺らしたらとちゃんとまた折り畳まれて出てくるみたいな感じです。いわば、洗濯物の自動折り畳み装置。実はシャペロンとHSPは同じものです。ストレスがかかってない通常運転中は分子シャペロンと呼ばれ、熱ストレスがかかった時に働くとHSPと呼ばれます。呼び名が変わるだけで、フォールディングという作業自体はほとんど変わりません。
ちなみに、どのくらいの熱ストレスでHSPが誘導されるかというと、42度のお風呂に5分間、または40度のお風呂に20分浸かると良いそうです。深部の体温を38度まで温めることで、HSPの効果が2~3日続くと言われています。
7. タンパク質の合成・分解・貯蔵
たんぱく異化とたんぱく同化
体内でタンパク質を作る工程をたんぱく同化(アナボリック)、タンパク質を分解してエネルギーを得る過程をたんぱく異化(カタボリック)と言います。食事から得るエネルギーも異化、体を構成するタンパク質を切り崩してエネルギーを得るのも異化です。たんぱく異化が多いと体重が減少します。
たんぱく異化が亢進するケース
たんぱく異化が亢進するケースは注意が必要です。通常、糖のエネルギーがなくなると、次に使うのは脂肪です。タンパク質はどちらかというと緊急事態用です。例えば、手術や怪我、感染、炎症といった強いストレスがあった場合には、修復するために多くのエネルギーを使います。そのような時には筋肉中のタンパク質を異化しエネルギーに変換します。
これは糖新生の回路です。筋肉中のアラニンが肝臓に回って糖に変換され、血液中に放出されエネルギーとして使われます。一方、飢餓時は脂肪酸をエネルギーとして優先し、タンパクを温存しようとします。しかし、脂肪酸をうまくエネルギーに変換できない人は多いです。特に低血糖症の人はその傾向が強いです。
タンパク質の動的平衡
体内では絶えず分解と合成を繰り返しながら、タンパク質の動的平衡を保っています。その量は1日に約200g。食事で摂取しているのは70gくらいですから、全体の1/3程度です。残りの130gは体内のタンパク質を分解しています。
タンパク質の貯蔵
体内には、アミノ酸プールと呼ばれるアミノ酸の貯蔵庫があります。正常にフォールディングされなかった欠陥タンパク質や寿命を迎えたタンパク質は、一度アミノ酸に分解され、この貯蔵庫にストックされます。また、食事由来のアミノ酸や体内合成されたアミノ酸も同じようにストックされます。ストックされたアミノ酸は、新しいタンパク質を作るのに再利用されます。
こうして見ると、低タンパク質にならないためには、食事でタンパク質を摂ることももちろん大事ですが、体内のアミノ酸のリサイクル率を上げるという視点も重要だということがわかります。
8. タンパク質の必要量
タンパク質の出納
タンパク質を1日にどれくらい食べるべきかについては様々な意見がありますが、代謝が通常運転していれば、便や尿で一定量排泄されています。したがって、体外に排泄された分は補う必要がありますよね。健康な男性で70gくらいです。
1日に必要なタンパク質量
窒素出納法が使われていた頃は、体重1kgあたりタンパク質0.8gあれば十分だと言われていました。しかし、指標アミノ酸酸化法で測定すると、体重1kgあたり1~1.2g必要だということがわかってきました。体重50kgの女性で50~60gです。健康体を維持するためには、最低限これくらいの量が必要なのです。1食で最低限食べたいタンパク質量は、グラム数だとわかりにくいので、大体手のひら1つ分と覚えるとよいでしょう。
忙しい現代では食べる時間を削る人が多くなっています。女性に人気のスープ店で、1食あたりのタンパク量を見てみると、10gくらいしかありませんでした。これでは全然足りません。タンパク質が足りていなくても、すぐに症状として出ることはありません。体内でリサイクルする分が130gあるからです。ただし、長期間続いてしまうと様々な不調が出てきます。
プロテインレバレッジ
ダイエットなどで食べる量を減らすと、ある日突然過食欲求が起こってしまいます。しかし、タンパク質量の割合を多めにすると、無駄な食欲が減ることがわかっています。オーストラリアの研究で、最初の4日間は摂取総カロリーの10%、続く4日間は15%、最後の4日間は25%をタンパク質にして比較したところ、10%の時期は明らかに無駄な食欲が起こりやすく、15%にすると空腹感が減り、15%と25%では変化がないという結果になりました。つまり、摂取総カロリーの15%を目安にタンパク質をとると、栄養が満たされてるというメッセージが脳に送られるということです。
タンパク質を多く必要とする場合
妊娠中や成長期、手術後、怪我や炎症がある場合は、タンパク質異化が亢進しやすい状況にあります。その時は1日体重1kgあたり1gだと足りないのはイメージがつきやすいと思います。
ところがタンパク質は消化に負担がかかりやすい栄養素です。子どもは胃腸が未熟なので、1食でたくさん食べさせるのではなく、補食(おやつ)も含めてタンパク質を補います。大人の場合も、胃腸が弱っている人には頻回摂取をお勧めします。例えば、小腹が空いた時や勉強中、仕事中にお茶の代わりに出汁を飲むと良いと思います。
9. タンパク質代謝を左右する要因
血液データなどで低タンパク質の傾向が見られた場合、不足分を補うためにタンパク質をたくさん食べればいいと思ってしまいがちですが、それは得策ではありません。消化・吸収、リサイクル率を含め、タンパク質代謝全体を俯瞰する必要があります。私の経験上、タンパク質代謝を左右する要因は4つあると考えています。
消化能力・胃腸機能・自律神経
食べ物のタンパク質は生物の情報(DNA)を持っていますから、消化の過程で一度その情報をデリートする必要があります。レゴブロックの塊を一つ一つのピースにバラすイメージですね。ところが消化能力が弱く、完全に消化されないまま吸収してしまうと、悪玉菌が増えて腸内環境悪化させてしまいます。
胃腸の動きは副交感神経の支配下にあります。蠕動運動は寝ている間に最も活発に起こります。だからぐっすり眠れていない人はお腹が動いていません。本人はぐっすり眠ったつもりでも、朝に食欲がない場合は睡眠の質が悪い可能性もあります。また、胃酸分泌も副交感神経が司っています。急いでご飯食べなきゃとか、あれしなきゃこれしなきゃと考えながら食事をするのは、胃酸分泌にはよくありません。美味しいな、幸せだなとリラックスして食べることは、消化の観点からも大切なことです。
交感神経
- 胃酸分泌不安定
- 胃粘液減少
- 胃の蠕動運動の低下
- 胃壁再生の低下
交感神経を刺激するホルモン
- ノルアドレナリン
- アドレナリン
- コルチゾール
- グルカゴン
交感神経を優位にするホルモンには、ノルアドレナリン、アドレナリン、といったカテコールアミン系や、コルチゾール、グルカゴンがあります。それらのホルモンは、胃腸の動きを止める作用があります。交感神経を優位にするようなカフェイン、酒、タバコはやはり抜く必要があるでしょう。場合によっては、仕事やライフスタイル、家族関係などの見直しも必要かもしれません。
腸内細菌
腸内細菌の中にはアミノ酸を産生する菌がいることがわかっています。何十年もフルーツしか食べていない人の腸内細菌を調べると、空気中の窒素をタンパク質に変える菌が発見されたそうです。芋しか食べてないような原住民の人が筋骨隆々だったりするのも、我々には無い腸内細菌を持っている可能性があるのではないかと思います。
他にもタンパク質と腸内細菌の関係を示す研究があります。カロリーは充足しているのにタンパクが足りていない時の栄養失調(クワシオルコル)では、お腹や肝臓が腫れる症状が出ます。マラウイ共和国に生まれた双子で、同じ食事をしているのに、1人はクワシオルコルを発症し、もう1人は発症しなかったケースがありました。調べたところ、腸内の菌のバリエーションが違っていたそうです。腸内細菌が栄養状態に深く関係していることが示唆される研究です。
オートファジー
アミノ酸のリサイクルのことです。欠陥タンパク質をアミノ酸に分解して再利用する機能を、オートファジーといいます。そんなに食べてないのにタンパク質代謝が良い人をたまに見かけますが、このオートファジーがしっかり働いていると想像できます。
身体ストレス・炎症
前述の通り、怪我をしたり炎症があったりすると、アミノ酸の異化が亢進します。
10. 高タンパク質食に注意するケース
タンパク質は酸性食品だから体に悪い、と聞いたことがありませんか?そもそも酸性/アルカリ性食品とはどんなものなのでしょうか。例えばレモン自体は酸性ですが、アルカリ性食品に分類されます。食材そのもののpHではなく、燃やした時の灰のpHで分類しています。果物や野菜、海藻類などはミネラルが豊富なので、アルカリ性を示します。一方、お肉などの高タンパク質食品は、窒素やリン、硫黄が入っているので酸性を示します。
尿のpHが酸性側に傾いている場合
30~40代で結石の出来やすい人がいます。通常、尿のpHは6.0ですが、この症例のように、pH5.5とやや酸性よりに傾いているケースがあります。尿が酸性化すると、骨からカルシウムを削り出して中和しようと働きます。そのカルシウムが体内のシュウ酸などと結合すると結石ができてしまいます。こういった人には高タンパク質食はお勧めできません。だからといって、低タンパク質を推奨するわけではなく、私は「まごわやさしい」の食材を基本としたバランスの良い食事をお勧めしています。
ホモシステインが高い場合
メチレーションの一番右の回路がメチオニン回路です。メチオニンはタンパク質代謝に関わるアミノ酸で、最近の研究ではメチオニンを食べすぎると老化が進むなどと言われています。メチオニンがたくさん入ってきて、かつメチオニン回路のどこかの代謝が滞っていると、ホモシステインが溜まります。
ホモシステインが高いと、動脈硬化や脳梗塞、心筋梗塞のリスクが上がります。こういう人にも、高タンパク質食はお勧めできません。遺伝性がありますので、家族の病歴も確認します。
血液データなどから推測するしかないのですが、葉酸、ビタミンB12、ビタミンB6不足と高ホモシステインには相関関係があります。AST>ALTでその差が2以上あればB6不足を疑います。また、MCVが高ければ、葉酸やビタミンB12不足です。その場合、まずはB6、B12、葉酸を充足させてあげます。
腎機能が弱い場合
腎臓機能の弱い方には高タンパク食は負担が大きいと言われています。腎臓は、タンパク質代謝によって作り出される老廃物を排出するので、タンパク質をたくさん摂ると作業が増えるということですね。血液データのeGFRは腎機能を表す数値です。
最近の研究で、赤身肉と加工肉は確実に腎臓に悪いことがわかっています。しかし、白身魚や鶏肉は腎機能の低下とあまり相関関係がないという研究結果もあります。タンパク質を控えて下さいねとアドバイスすると、炭水化物に偏りがちの食事になってしまいます。そこで私は、ソーセージやベーコンといった加工肉を控えるようにして、赤身のお肉はほどほどに、お魚はしっかり食べてくださいね、とお伝えするようにしています。
11. タンパク質の調理
タンパク質の熱変性
タンパク質に熱をかけると変性します。タンパク質の水素結合が取れてフォールディング構造が崩れるからです。卵の黄身と白身では、黄身の方が複雑な構造をしています。そのため、黄身の方が低い温度で変性します。この変性の温度差を利用したのが温泉卵です。70度のお湯に30分くらいつけておくと、黄身は固まるけど白身は完全に固まらないという変性が起こります。
お肉を調理するときのコツはただ一つ、熱変性を少なくすることです。細胞の中に栄養がたくさん入っているので、細胞が崩れるとドリップという形で栄養が出ていってしまいます。ジューシーで美味しいお肉は細胞が崩れていません。
室温に戻す
熱変性を少なくするために、まずは調理前にお肉を室温に戻すことがポイントです。冷たいまま加熱すると、温度差でキュッと縮んでしまい細胞が壊れます。また、スーパーで買ってきたお肉はトレイにのっていますが、このトレイはプラスチック性なので熱伝導率が悪く、冷蔵庫に入れても冷たくなりにくいため、ドリップが出やすくなります。トレイは外して、ラップに包み直して冷蔵庫入れておくと良いです。
そして、料理する前に冷蔵庫から出して、熱伝導率の高い金属バットなどに入れて15分ぐらい室温に置いておきます。このひと手間で、お肉の仕上がりが全然違ってきます。
低温調理
お勧めの調理法は低温調理です。ジッパー付きの袋に塩をふった塊肉をぴっちり包んで、60~70℃を2、3時間キープします。こうすると、とてもジューシーに仕上がります。厚生労働省が発表している殺菌の基準は63℃、30分なので、63℃で3時間ほどおけば、中心部まで十分に加熱されます。
ミオシン、アクチン、コラーゲンは、それぞれ熱変性を起こす温度帯が異なります。中でもアクチンは熱に対して縮みやすい性質を持っており、高温加熱すると栄養素がドリップとして出ていき、肉が硬くなります。だからそれよりも低い温度で調理します。オーブンは空気を伝ってじわじわ熱が伝わるので、高温に設定してもちょうど良い仕上がりになります。一方、フライパンは直接熱を伝えるので、肉の調理には難しい調理器具といえます。
- ミオシン:50〜60℃
- アクチン:66〜73℃
- コラーゲン(V型):68℃以上
専用の調理器具がなくても簡単に低温調理ができます。例えば湯沸かし器。写真はささみですが、酒小さじ1杯と粗塩、臭み消しにレモンを入れてしっかり空気を抜き、熱湯に浸けて10分くらい放置します。ふわふわで美味しい蒸し鶏が出来上がります。
高温調理はあまりお勧めしていません。アルデヒド類が増えたり、トランス脂肪酸の摂取量が増えるからです。揚げ物の摂取頻度が高いと、心疾患死亡リスクが上昇するといった報告もあります。
- アルデヒド(ヒドロキシノネナール):リノール酸が200℃前後に加熱されると急激に増える細胞毒性物質
- トランス脂肪酸摂取量の増加
熟成
アミノ酸を豊かに味わうコツも紹介します。それは熟成です。細胞中の酵素でアミノ酸を増やして旨味を増強する方法です。最近、熟成肉のお店が増えてきました。お店で食べると高価ですが、自宅でも簡単に熟成ができます。1番のお勧めは豚バラ肉。肉の重さに対して約2%の塩を塗り、ラップでしっかり包んで冷蔵庫で1~2日置いておきます。オーブンで140℃、1時間ぐらい焼くと、本当に美味しいローストポークができます。そのまま食べてもいいですが、刻んで炒め物に使ったり、ポトフにして楽しめます。
もう1つ、熟成して美味しくなるのが魚です。干物が美味しいのは、水分が飛んでいる他に、熟成の効果もあります。魚の熟成も自宅で簡単にできます。カツオやマグロなど、赤身の魚が向いています。柵を買ってきて、1回さっと湯通しします。氷水につけてから水分を拭き取り、保存袋に醤油とみりんを2:1ぐらいで割ったものと一緒に入れて口閉じ、1日ぐらい冷蔵庫で寝かせます。湯通しして軽く表面の熱変性を起こしてあげると、中に塩分が入って行きにくくなるので熟成が起こりやすくなります。
ちょっとした手間はありますが、アミノ酸が増えるとこんなに美味しいんだな、と味わいながら食べてみると楽しいと思います。
12. まとめ
いかがでしたか?今回はタンパク質の基礎から調理法までをお話ししました。タンパク質は、「第一の」という名前の由来に相応しく、生体内で様々な機能を持っています。したがって、タンパク質が不足すると様々な不調の原因にもつながります。
低タンパク質にならないためには、食べ物で補う必要がありますが、単純にたくさん食べれば良いというものではありません。タンパク質の質や量、体内でのリサイクル率などで、利用効率が変化します。タンパク質代謝を左右する要因として4つ挙げました。
- 消化能力・胃腸機能・自律神経
- 腸内細菌
- オートファジー
- 身体ストレス・炎症
体質によっては高タンパク質食に注意するケースもあります。体質や血液データを見ながら、自身のタンパク質代謝を推測してみると良いと思います。
調理法は低温調理と熟成をご紹介しました。栄養素がいっぱい詰まった細胞をなるべく壊さない、アミノ酸を増やす、この2つがポイントです。栄養価が高くなるだけでなく、美味しさも倍増しますので、ぜひ実践してみてください。