米国では、ここ20年自閉症の発症率の伸びが止まりません。
アメリカ疾病予防管理センターの自閉症監視ネットワークによると、2016年現在、54人の子供に約1人が自閉症スペクトラム障害(ASD)と特定されています。
これは、2000年の調査における150人に1人と比べて3倍の数字です。
監視年 | 有病率 | それは何人に一人? |
2000 | 6.7 | 150人にひとり |
2004 | 8.0 | 125人にひとり |
2008 | 11.3 | 88人にひとり |
2012 | 14.5 | 69人にひとり |
2016 | 18.5 | 54人にひとり |
1970年には1万人に1人だった自閉症発症率がここまで上昇した原因は一体なんなのでしょう?
- 認知されたこと?
- 自閉症の診断基準が変わったこと?
- 環境が悪化したこと?
- ワクチン接種?
- 農薬?
諸説ありますが、私は「妊娠期間中の母体にのみ葉酸サプリメント摂取が奨励されたこと」が大きな要因だと考えています。
葉酸サプリが二分脊椎を激減させた
葉酸はビタミンB群に分類される生理活性物質で、DNAの合成に必要であり、欠乏すると妊娠の継続に深刻な影響を与えます。
例えば「二分脊椎」です。これは生まれつき脊椎の一部が形成されない状態で、運動麻痺、感覚障害、死産などを引き起こします。
葉酸と「二分脊椎」のような神経管閉鎖障害の症例対照研究は1980年代に多く行われ、その結果、英国、米国が1992年に、カナダ、アイルランド、ニュージランド、ノルウェーなどが1993年に強化食品、サプリメントによる1日0.4mgの葉酸摂取を勧告するに至りました。
その後多くの国で二分脊椎の発症率の大幅な低下が報告されましたので、日本の厚労省もその流れに乗り2000年に葉酸サプリメントの摂取を推奨しはじめたのです。
これによると、妊娠を計画している女性は、障害の発症リスクを減らすために、「妊娠1か月以上前から妊娠3か月までの間、葉酸をサプリで摂ること」と勧告されています。
葉酸サプリを開始したら自閉症が増えた?
というわけで、1990年代前半から始まった葉酸サプリメント摂取の推奨は、各国の二分脊椎の発症を減少させました。この成果は素晴らしいものですが、その時各国政府はまだ気が付いていなかったのかもしれません。同時期から、自閉症の発症率が増加し始めることに・・・
実際に、様々な国、年代で行われた自閉症の発症率調査をまとめると、1990年ころから劇的な増加を示しているのがわかります。
なぜ、葉酸サプリ摂取が、「二分脊椎発症率の低下」と「自閉症の発症率の上昇」を同時に起こしたのでしょうか? なぜ、神経の発達に必要な葉酸の摂取で自閉症の発症率があがるのでしょうか?
これを理解するには、葉酸回路を理解する必要があります。ここからが本題です。
二分脊椎を予防できる葉酸はフォリン酸のみ
さて、先ほど「葉酸不足が二分脊椎の原因」と言いましたが、葉酸には種類があり、全ての葉酸が二分脊椎を予防できるわけではありません。
葉酸は大きく作用別に3種類の葉酸に分けられます。
一つ目は、Folic Acid(サプリの葉酸)です。ほとんどのサプリや葉酸強化食品に入っている葉酸です。二つ目は、Folinic acid(フォリン酸)で、DNAを合成し、神経を成長させてくれるため二分脊椎を起こさなくなります。3番目はMTHF(メチル葉酸)です。これが自閉症に密接に関わります。
これらは全て別物です。サプリに入っているのがFolic Acid(サプリの葉酸)、二分脊椎を防止するのがFolinic acid(フォリン酸)、自閉症を防止するのがMTHF(メチル葉酸)です。
なぜフォリン酸でなく、サプリ葉酸のFolic Acidで、二分脊椎が予防できるのかというと、Folic Acidは体内でフォリン酸に変化するからです。 これを活性化と呼びます。サプリの葉酸は→Folinic Acid(フォリン酸)→MTH Folate(メチル葉酸)へと活性化されて変化します。
この経路のことを「葉酸経路」とか「葉酸の活性化経路」とか呼んでいます。
葉酸の活性化経路が滞って、Folinic Acidが作られなければ二分脊椎になるし、MTH Folateができなければ自閉症になります。
「活性化の流れが悪い人でも、サプリの葉酸の摂取量を多くすることで、二分脊椎を予防するフォリン酸の量を確保できる」というのが、サプリで二分脊椎が予防できる仕組みです。
葉酸は大きく3種類に分けられます。
・非活性型のFolic acid (日本で作られるサプリはこれ)
・半分活性型 Folinic acid (神経の発達に重要、お母さんのお腹の中で必須)
・完全活性型methyl folate(ドーパミン合成、解毒に重要、生まれてから必須)
注)実は、葉酸には10種類以上のバリエーションがあります。DNA合成に関わるのはプリン体を生合成する10-ホルミルテトラヒドロ葉酸と、ウラシルをチミンに変換する5,10-メチレンテトラヒドロ葉酸ですが、ここでは話を簡略化するために、これらを全てフォリン酸の仲間としています。
自閉症とメチル葉酸の関係
自閉症の原因は様々な説がありますが、葉酸との関わりは特に深いと言えるでしょう。
フォリン酸がもう一段階活性化される時にメチル化という化学反応が起こります。メチル基という化学物質が結合することでMTH Folate(メチル葉酸)になるのです。
さらにメチル葉酸はメチル基を他の物質に渡す事ができます。こうしてメチル基が様々な物質に次々と受け渡される回路はメチル化経路と呼ばれています。
乳幼児が言葉をしゃべり始めるようになるために、メチル化経路は非常に重要な役割を担っています。この経路が回らなければ、神経伝達物質が作られないので、脳の発達が十分進まず、言語の習得に困難が生じます。
他にも様々な物質がメチル化されることで、
・DNAが合成されたり、
・神経伝達物質をつくったり、
・炎症を抑えたり、
・解毒をおこなったり
することができるようになります。
自閉症の予防、治療には葉酸をうまく働かせ、メチル化経路を回すことが大変重要です。神経発達の栄養療法の権威、ウイリアム・ウォルシュ博士によれば自閉症児の98%にメチレーション回路の低下が見られるそうです。
体内でメチル化経路の出発点になるのが、葉酸のメチル化で、フォリン酸がメチル葉酸に変換される反応です。
変換するのはMTHFRという酵素ですが、自閉症児の多くは、この酵素を作る遺伝子に変異を持っています。つまり、この酵素が上手く働かないというのが、自閉症が増えた第一の理由として考えられます。
自閉症が増えた第一の理由
このMTHFR酵素遺伝子変異の強い人はMethyl folate(3番目)への変換がうまくできません。
遺伝子変異があるとどの位酵素の力が弱まるのでしょうか?
片方だけ変異していると30%、両方変異していると70%酵素活性が低下します。つまり、この場所の遺伝子変異を片方の親から貰えば30%、両親からもらえば70%葉酸を活性化できなくなるということです。
MTHFRの677番目の塩基配列が酵素活性に重要です。ここの塩基はシトシン(C)ですが、これがT(チミン)に変異していると226番目のアミノ酸がアラニンからバリンに変換されるため、熱に不安定となります。
こんな人がたくさんいれば、自閉症児がたくさん生まれちゃいますよね。
でも、あなたは疑問に思うはずです。
メチレーション回路が弱い人がそんなにいるの?
いるんです。
アジア人の45%はMTHFR酵素の片方が遺伝子変異していることがわかっています。
さらに問題は、メチレーション回路が低い人同士が結婚すると、メチレーション回路が弱い子供が生まれやすいということです。
メチレーション回路が弱いことを「低メチレーション」と言います。
低メチレーションの人の特徴は「高学歴」「完璧主義」「強迫的行動」です。つまり、毎日同じことをコツコツ続けることを苦にしない努力型タイプで、高学歴、高収入のことが多いです。医師、経営者に多く、そのような人たちは同タイプの人たちと付き合い、結婚することを選ぶことが多いと言われています。
だからそのような低メチレーションタイプの人同士から生まれる子供は注意をすべきだという人もいます。
確かに近年そういった傾向があるかもしれません。
自閉症児が低メチレーションなのも納得です。
でも仮にそうだとしても、それだけの理由で自閉症の発症率が20年で3倍に増えるでしょうか?他にも理由がありそうです。
メチレーション(メチル化)とは?
さまざまな基質にメチル基(CH3)が置換または結合することを意味する化学用語です。メチル化することで物質が活性化したり不活化したりします。
メチル基を与えるものをメチル基供与体、受け取るものをメチル基受容体といいます。代表的なのは、SAMeとナイアシンです。例えば、SAMeはノルエピネフリンにメチル基を与えることでエピネフリンに変換します。
他にもセロトニンをメラトニンに変換したり、グルタチオン、ホスファチジルコリン、ミエリン、クレアチン、COq10、カルニチンの合成に関わったりします。
メチレーションは様々な病態に関わっています。以下はそのほんの一例。
先天性障害、習慣性流産(DNA合成、DNAメチル化)
脳梗塞(ホモシステイン)
精神疾患、やる気、集中力(神経伝達物質の合成、代謝)
統合失調症、発達障害 、うつ、ADHD、副腎疲労
解毒、抗酸化、アレルギー
サプリの葉酸の問題点
葉酸サプリが乳がんの元になるというお話を聞かれた事がありますか?
葉酸と乳がんの関係については以前から賛否両論があって、葉酸が乳がんに対する防御効果を持つが、一方で高用量の場合は逆に乳がんの成長を促進するという報告もあります。
カナダ・トロント大学のキム博士ら研究グループは、2014年2月に「高用量の葉酸サプリメントの摂取が、ラットの乳腺組織にあるがん細胞の成長を促進する」と発表しました。
キム博士は、「このことは非常に重要な意味あいを持っています。なぜなら、北米の乳がん患者は、葉酸強化食品やサプリメントによって大量の葉酸を摂取することが多いからです。彼女らは、ビタミンをはじめとしたサプリメントを使うことが多く、その割合は乳がん患者がもっとも高いのです。」とコメントしています。
さてここで、ひとつ疑問が生じてきます。
葉酸はDNAの合成に関わるビタミンです。だから、葉酸が欠乏したままでは細胞分裂がうまくいかなくなります。理屈で考えれば、葉酸を補充することは正常な細胞分裂を助け、がんを予防するように思えます。
なのになぜ、葉酸サプリメントががんを増やしてしまうのでしょうか?
理由は、「サプリメントの葉酸の多くは未活性型の葉酸だから」です。
前述のように葉酸には活性型と未活性型があります。緑黄色野菜のサラダには、活性型と未活性型の両方の葉酸が含まれています。それに対してサプリメントの葉酸は、すべて未活性型です。
未活性型の葉酸が活性化されるためには、いくつもの過程が必要です。酵素や補酵素が十分でなかったり、うまく働かない場合、活性型葉酸は十分つくられず、未活性の葉酸が体内にたまってしまいます。
また、活性化葉酸が働くのには、葉酸結合蛋白(FBP)が必要ですが、非活性型の葉酸サプリメントを摂った女性の体内の葉酸結合蛋白は激減することがわかっています。
Am J Clin Nutr. 2009 Jan;89(1):216-20.
つまり、葉酸の活性化がうまくいかない人が、葉酸サプリメントを摂取すると、活性化葉酸の働きも邪魔されてしまう恐れがあるのです。
これが葉酸サプリでがんや自閉症が増える理由です。
まとめと対策
近年自閉症が増えている原因の一つに葉酸が関わっていると考えられます。
・遺伝子変異があるとメチレーション回路を回すのに必要なメチル葉酸ができにくい
・人工の葉酸サプリの大量摂取によってメチル葉酸が上手く働かない
自閉症は、1990年以降、妊婦に対して世界各国が葉酸サプリメント摂取を推奨し始めてから劇的に増加しています。皮肉なことに、「通常なら死産になる子供が葉酸のおかげでちゃんと生まれることができるようになったから」というのが理由の一つです。
神経管異常を起こす遺伝子と、自閉症を起こす遺伝子が一部共通していることが近年の研究でわかっています。妊娠中に葉酸を投与する事で神経管異常のリスクは逃れることができるようになりました。
しかし、残念ながら現時点では各国の対応は出生時の神経異常の防止のみにとどまっており、生まれた後のフォロープログラムはありません。
また、神経系に問題を引き起こすMTHFR遺伝子変異はアジア系に多いという事がわかっています。今後もアジア圏における自閉症の発症頻度に注意する必要があります。
ただ「活性化葉酸サプリ」をとればいいという単純なものではありません。サプリメントをとることでかえって問題が複雑になる場合もあります。
今後出産を予定している方(特に高齢出産や流産の既往のある方、遺伝的に心配のある方)、お子さんが自閉症と診断された方に、私がお勧めするのは、MTHFRをはじめとした遺伝子検査を受けてみることです。
そこで遺伝子変異があるなら、まずは、この分野について勉強してみるのがよいと思いますもちろんこの分野に詳しいドクターに相談してみるのもよいでしょう。
この葉酸活性化の問題ですが、解決手段の一つとして、すでに活性化されている葉酸サプリメントを使うという方法があります。すでに活性化されているのでMTHFRの遺伝子変異があっても、その問題を回避することができます。
しかし、使い方を間違って問題を起こしているかたが多数います。
・サプリメントが効かない、サプリメントで症状が悪化する
・爆発的行動、突然怒り出す
ということを経験された方は特に気を付けてください。
この分野に詳しいドクターの間では、活性型葉酸は全体の回路を整えた後に使うのが常識です。