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宮澤賢史

ヘム鉄を1年以上続けてる方は治っていません

宮澤賢史 · 2023年1月7日 ·

前回、血液検査だけでは病気の原因はわからないと書きましたら(記事はこちら)、「私は血液検査で鉄欠乏が判明して、ヘム鉄で改善しました。それからヘム鉄を3年続けており、今は貧血症状は全くありません。」とご意見を頂きました。
それ、治ってないです。

​ヘム鉄を摂り続けている人は意外と多い

栄養療法に詳しい方は、フェリチンが鉄欠乏の良い指標であることはご存知ですよね。
​
残念ながら日本では検診でフェリチン測定が行われないため、鉄欠乏が見逃されている事がよくあります。でもその場合鉄剤、もしくはヘム鉄を1,2ヶ月も摂ればフェリチンも上昇して解決です。
​
しかし、うちに来る患者さんはしばしばヘム鉄を摂り続けています。続けないとまたフェリチン値が下がってしまうからだそうです。
​
鉄を摂り続けなければ維持できない状態って、病気か身体機能の低下が隠れていることが多いです。

鉄が不足し続ける原因を突き止めよう

確かに日本人の鉄の摂取量は推奨量を下回ってはいるのですが、鉄代謝には恒常性維持機構が強く働いており、体内鉄が減少すると、吸収率は高く、同時に排泄量は少なくなる仕組みがあります。
​
貧血になる人は、何らかの原因でこのシステムがうまく働いていないのです。具体的には腫瘍や子宮筋腫などの他に、体内の炎症や腸内環境の悪化なども原因になります。
​
僕の経験上はピロリ菌やカンジダ感染の方は特に鉄欠乏を起こしやすいです。ピロリ菌は胃酸分泌を低下させて鉄吸収を邪魔するし、カンジダは成長のために鉄を人から奪うためです。ぜひ、まだ原因がわかっていないなら詳しい検査をお勧めします。
​
フェリチンが上がらないからといって、ヘム鉄サプリをただ増やすのだけはお勧めしません。ヘム鉄を摂れば摂るほどがんのリスクが高くなるからです。

栄養療法がうまくいっていない人の共通点

宮澤賢史 · 2023年1月4日 ·

こんにちは、宮澤です。栄養療法を始めて21年目の内科医です。僕は普段慢性疲労やうつ、不妊や発達障害の人を多く診ています。また、クリニックに来院する患者さんの5割は治療がうまくいっていない人たちで、そんな方達にセカンドオピニオンを提供しています。

病気改善と健康増進は全く違う

今日は栄養療法がうまくいっていない人の共通点についてお話します。それは「病気の改善のために健康増進治療を行っていること」です。バカみたいな、ホントの話です。栄養療法を受ける人の目的は大きく分けると健康の増進か病気の改善です。

うつや慢性疲労に対する栄養療法は病気の改善が目的で、

美容、アンチエイジングやアスリートのパフォーマンスの向上は健康増進です。

この両者に対するサプリの使い方は全く異なります。「サプリが効かない」といって私の外来に来る方はここを混同しています。

足りない栄養を摂ることはオリンピックに有効

20年前、僕は大学病院を辞めてサプリメント会社に就職しました。その会社がすごかったのは、会員全員に血液検査を推奨していたことです。

血液検査の結果から足りない栄養素や体のダメージが推定できます。それに対して鉄不足ならヘム鉄サプリ、活性酸素が多ければ抗酸化のビタミンCを摂る。

これが栄養療法の基本です。この方法は元々健康な人をさらに調子良くしたり、アスリートのパフォーマンスをアップするのに長けています。

実際にその会社は多くのスポーツ選手をサポートしており、2004年のアテネオリンピックの時にはサポートチームが金メダルを量産するのを目の当たりにしました。

しかし、その一方で病気にはあまり効果がなかったのも事実です。僕は慢性疲労、うつの人たちにサプリを処方をしたけど、根本的に改善することはほとんどありませんでした。
 

ポイントは身体機能の低下

検査して足りない栄養を摂っているのに、なんでこんなに効果がないのか?

なんでスポーツ選手にはこれほど効果のあるサプリが、慢性疾患の人を治してあげられないのか?

その理由は、病気の人は身体機能低下の結果として栄養が不足するからです。自律神経が緊張して栄養の消耗が激しいとか。腸が悪くて栄養を吸収できないとか。

つまり、病気の人の栄養不足は結果であり、原因ではありません。原因を治療しなければ栄養をいくら補充してもまた足りなくなります。

つまり、「健康の増進」と「病気の改善」でサプリを使い分けるとは、健康増進には足りない栄養素の補充を、病気の改善には栄養素を使って身体の修復を行なうということです。

言い換えれば、それは神経内分泌系や腸内環境、デトックス機能などの機能低下を探し出してそれぞれに対処することです。

病気の改善目的の栄養療法がうまくいっていない時は、自分の治療が「健康増進」治療になっていないかチェックしてみてください。

両者の治療の見分け方

え? 「健康の増進」と「病気の改善」治療、どうやって見分けるのかって?

簡単です。診察の時「サプリを一生続けてください」と言われたら健康増進治療です。

当たり前すぎる? ではもう一つの目安を教えましょう。

それは「血液検査以外の検査を受けているか?」です。

健康増進治療は足りない栄養素の補充とダメージの修復がメインになります。ダメージというのは活性酸素や炎症のことです。これは血液検査で判断できます。

でも、病気の改善には体の機能低下を見つける必要があります。例えば自律神経を見るには唾液検査、腸内環境には便検査、ミトコンドリア機能を知るためには特殊な尿検査が必要です。一般的な血液検査では詳しいことはわかりません。

だから、血液検査しか受けていなければ、今の治療は「健康増進治療」になっている可能性が高いです。ぜひしかるべき検査を受けて「病気の改善治療」にシフトしてください。

ついでに言えばこの方法は「健康増進目的で健康増進治療をしても効果がない人」にも有効です。

検査で足りない栄養を摂ってもダイエットがうまくいかない人、競技のタイムを縮められない人はぜひ体の機能低下チェックを行ったほうが良いでしょう。プロスポーツ選手でも身体機能が低下してる方は多いです。

副腎疲労を正確に診断し治療する必要性

宮澤賢史 · 2022年12月29日 ·

とある医師の専門雑誌があるのですが、そこの記事があまりにも気になったので、書きました。


開業医の先生が書かれた記事で、内容は「他院で副腎疲労治療中の患者さんがコートリル(ステロイド剤)が切れたので処方して欲しいとやってきたが、ステロイドを簡単に処方するわけにもいかず副腎疲労という病気を調べたら、Pubmed で adrenal fatigue doesnt exist. という論文に突き当たり、この病気の存在自体が怪しい。また、副腎機能低下ということで、患者さんに聞いてみたら血中ATCHをフォローしている訳でもないし、こんな怪しい副腎疲労外来と言う看板を掲げてる医者は大丈夫か?」というものです。
​
私が日本で副腎疲労外来を始めて15年になりますが、「副腎疲労外来」めちゃ増えたと思います。
​
中にはこのように表面上のことだけを理解して、コルチゾールの検査をせずに、ステロイドを処方してしまう先生もいるようですが、これが極端にひどい例であることを祈ります。その雑誌に書かれた先生のツッコミももっともだと思いますので、副腎疲労の概念、診断、治療に最低限守るべきことを書いておきます。
​
​1 副腎は疲労しない(正式にはストレスによるHPA軸の障害である)
2 ちゃんと診断しよう(除外診断も重要)
3 ステロイドは用いない
​
​
1 副腎は疲労しない
​
副腎疲労(Adrenal fatigue)は1990年代にカイロプラクターのJamesWilson博士により提唱された概念です。長年のストレスにより副腎が疲弊しコルチゾール分泌が減弱するというものです。 しかし、実際に副腎が疲弊する事実はありません。Pubmedの論文の記載通りです。
​
長年のストレスや慢性炎症などにより高コルチゾールが継続すると、下垂体から放出されるATCHのネガティブフィードバックのセットポイントが下がってきます。コルチゾールは体蛋白を異化させ、海馬を萎縮させるので、それを防ぐためかと思われます。
​
ついには、ACTH低下のためにコルチゾールも基準範囲を下回るようになります。これが俗に言う副腎疲労のステージ2です。つまり副腎疲労というのは言うなれば下垂体疲労なのです。 HPA軸(視床下部-下垂体-副腎)で言えば、視床下部からのCRHに下垂体からのACTHと副腎のコルチゾールが反応しない状態であり、正式な医学的名称はHPA-axis dysfunctionになります。
​
このHPA軸障害をpubmedで検索すると、うつやPTSDなど慢性ストレスを引き起こす疾患との関連論文が多数ヒットします。
​
(じゃあ、なんで副腎疲労外来と言う名前を残しているかというと、患者さんが理解しやすいからです。HPA軸の説明は難しく説明に時間がかかる。副腎が疲れると言うのは説明がしやすい。increased intestinal permabilityではなくリーキーガットを使うのと同じです。)
​
​2 ちゃんと診断しよう(除外診断も重要)​
​
HPA軸障害は下垂体性の低コルチゾール症で、器質性の下垂体腺腫やアディソン病などとは全く性質の違うものですが、時に重症化するとアディソン病などに類似した症状を呈することもあります。
​
だからと言って、慢性疲労や朝が起きられない、うつや「やる気のなさ」などの症状のみから診断を付ける事は殊に避けなければなりません。
​
HPA軸障害で低下するコルチゾールレベルは僅かなので、血中よりも唾液中レベル測定が適しています。
​
症状によっては内分泌専門科の受診、下垂体や副腎のCT検索などを併せて行うべきであり、そうでなくとも最低限血中のACTH、コルチゾールなどは検査し、基準値以内であることを確認すべきです。
​
​
​3 治療にはステロイドを用いない​
​
副腎疲労(HPA軸機能障害)は、慢性ストレスの結果HPA軸がダウンレギュレーションを起こした状態です。器質的な障害、下垂体の血流低下や副腎の萎縮などはなく、よほどの極期を除いて、ステロイドの使用は避けるべきです。
​
実際の治療は、HPA軸のストレス負荷を軽減した状態で、ステロイドを用いずに滋養強壮の生薬やホルモンの前駆体などを用いてコルチゾールレベルを修正していきます。
​
副腎の疲労を治すのではなく、歪んでしまったHPA軸を元に戻すのです。副腎疲労の治療のポイントは脳へのアプローチにあります。
​
実は、副腎疲労の診断で検査も受けず、ステロイドだけ処方されてる方、時々うちにもいらっしゃいますが、殆ど治ってないです。患者さんに良かれと思って投薬されているのでしょうが、ステロイドの離脱の分だけ余計に時間もお金もかかります。
​
中途半端でない系統的な治療にぜひ切り替えを!

栄養療法で行き詰まっている人がするべき2つの質問

宮澤賢史 · 2022年12月29日 ·

栄養療法を受けている友達との会話


友達「ちょっと相談があるんだけど。」
宮澤「どうしたの?」
​
「半年前から栄養療法のクリニック通ってるんだけどさ」
​
「ああ、そうだったね。 治療は順調にいってるの?
前よりは元気そうに見えるけど。」
​
「確かに調子はよくなってきてるのよ。
蕁麻疹は出なくなったし、不安な気持ちになることも少なくなった。
でも、まだ疲れは取れないし、夜もよく眠れないのよね。」
​
「今後どうしたらいいのかと思って。」
​
「そんなこと言ってたよね。
ところで主治医の先生に聞いた? 例の質問」
​
「聞いたよ。この2つの質問ね。」
・なぜ私の具合が悪くなっているのか?(私の症状の根本原因はなんですか?)
・どのようにすれば治るのか?(その根本原因の治療プランはなんですか?)
​
「それで答えは?」
​
「ビタミンB不足でエネルギーが出ていないこと、活性酸素が溜まっていること、腸のカンジダ感染症が原因だって。実際に治療はビタミンBや抗酸化サプリが処方してもらって、カンジダ除菌も終わったんだけど。
​
でも、まだ完全じゃないし、いつまでサプリを摂ったらいいですか?って聞いたら、「一生摂る必要がある」って言われたのよね。」
​
「残念ながら、それらは全て根本原因じゃないな。栄養不足っていうのはなんらかの原因があって起きるんだよ。例えば、ビタミンBは糖質と一緒に使われるから、糖質を摂りすぎればビタミンB不足を起こすんだよね。」

「ついつい甘いものが欲しくなるんだよね。」
​
「そう、多分低血糖が前提にあるから甘いものに手が伸びるようになって、その結果ビタミンB不足になってるんだよ。低血糖治さなきゃ、永遠にビタミンBを摂る事になるよ」
​
「そうなんだ! でもカンジダは根本原因じゃないの?」
​
「確かにカンジダを除菌すれば、甘いものを欲しくなくなるし、エネルギーも戻ってくるよ。でもカンジダっていうのは常在菌で多くの人が元々もっているんだよね。
​
増えすぎた場合問題になるから除菌するんだけど、同時になんで増えすぎるのか?を考えないといけない。その要因を潰さないと何度もカンジダ除菌を繰り返すことになるから。」
​
「確かに言われてみればその通りかも。
 大丈夫かな?  私の治療うまく行ってるのかしら?​
 治療がうまくいってるかどうかわかる簡単な目安とかってないの? 」

「 一番簡単な目安はサプリの量だね。
  半年前と比べてサプリの量は増えてる?減ってる?
  治療がうまく行っていれば、だんだんサプリは減ってくるよ。
  栄養不足は結果であって原因ではないから。 
 原因にアプローチできなければサプリはどんどん増えることになるよ 


もう1つの目安は治療期間ね。根本原因が明確ならそれに対する治療期間もはっきりするはず。副腎機能の改善は半年から2年くらい、病原菌の除菌は1週間から3ヶ月、デトックスは3−6ヶ月間くらいが多いよ。
​
もし本当に栄養不足が根本原因なら、一生摂り続けなければならないけど、一部の遺伝的な疾患を除いてそうなる事はほとんどないよ。」
​
「なるほど、治療から半年経ってサプリも減る気配がないし、一生摂り続けるのもいやだから、先生に根本原因の事、治療方針の事もう一度確かめてみるわ! ありがとう。」

​​自分の受けている栄養療法をチェックする質問 まとめ​
​
​1「なぜ私の具合が悪くなっているのか?」
自分の根本原因が何か?ということを聞く。
​
​
(重要)栄養素の不足(タンパク不足とかB群不足とか低フェリチンとか)が根本原因になることは殆んどない。足りない栄養を補うと調子が良くなるが、根本原因にプローチは別に必要。
​
​2「どのようにすれば治るのか?」
根本原因別の治療プランを組み合わせを具体的に聞く
​
​
(重要)合わせてそれぞれのプランの治療期間を聞くこと。
(例)副腎疲労半年間、腸内除菌2ヶ月間、デトックス3ヶ月間


サプリがいらない体、なんでも食べられる体を作るのが栄養療法のゴールと設定すると、栄養療法の治療効果を最大化できます。
​
もし自分の治療に行き詰まりを感じたら、上記の2点に関して主治医の先生とよく話し合ってみることが大いに参考になるでしょう。

運動と生活習慣

宮澤賢史 · 2022年12月21日 ·

機械化された現代社会では、運動だけでなく運動以外の身体活動までもが少なくなり、身体を動かす機会が激減しています。

かつて、人々は身体を動かさないという選択肢はなく、終始身体活動を行っていました。
ヒトの身体は、動かすことで健康維持・老化防止システムにスイッチが入るようにできています。

運動以外の身体活動が激減している現代は特に、身体を健康に保つメカニズムのスイッチを入れるため、運動の必要性があります。
運動ができない体でない限りは、運動をして健康維持・老化防止システムを稼働させたいものです。

今回は、運動の効能についてご紹介し、皆さんに運動をする気持ちを高めていただければと思います。

定期的な運動は老化を遅らせ、寿命を延ばすための最良の手段

加齢は避けられませんが、それに伴う機能の低下度合いは個人差があります。

それは食習慣や身体活動、放射線など環境要因にも大きく影響されるため、老化の進行を遅らせたり、時には防いだり、部分的に回復させたりすることさえ可能です。

運動は、最初は筋肉を介して炎症を引き起こしますが、その後筋肉は広範な抗炎症作用を起こすようになるため、長期的な効果として患部の筋肉だけでなく他の部位でも炎症が抑えられるようになります。そして、たくさんの抗酸化物質が生成され、酸化ストレスレベルも低下します。

また、運動により細胞に損傷したたんぱく質を除去(小胞体ストレスの低下)させ、細胞老化の時限装置であるテロメアを延長し、DNA修復をするほか多くの恩恵をもたらしてくれます。

このように適度な運動による軽度の生理学的ストレスは修復反応を引き起こして有益な作用をもたらし、老化防止寿命延長に貢献してくれます。

運動すると気分が高まる

運動することにより、気分を変える神経伝達物質を分泌促進させます。 その中で最も重要なのは、ドーパミン、セロトニン、エンドルフィン、エンドカンナビノイドの4種類です。

ドーパミン

  • 脳の報酬系の要となる物質
  • 脳の奥深くにある領域に「もう一度やって」と伝える
  • 意欲を持った時にもドーパミンが出て、それが「楽しい」「快楽感」につながる
  • 意欲・運動・快楽に関与  

ただし、この報酬系を動かすドーパミンの作用には3つの欠点があります。

①ドーパミンのレベルが上がりやすいのは運動している最中
②運動していない人の脳内にあるドーパミン受容体の感度は、普段から活発に動 いている健康な人の感度より低い
③肥満の人では活性化するドーパミンの受容体の数が少ない これらのことから、運動していない人や肥満の人は受容体を正常に活動させるために、より長期間努力することが必要になる

と言われています。

一方、定期的に運動している人は数日間運動しない日が続いた後の感覚として、落ち着きがなくなり、イライラして飢えたドーパミン受容体を満足させるため、身体を動かしたくてたまらなくなります。

セロトニン

  • 幸福感や喜びを感じたり、衝動をコントロールしたりするときに役立つ
  • 記憶や睡眠などの機能にも影響を与える  

運動しない人は、ドーパミンと同様にセロトニン活性が低い恐れがあります。

うつ状態になりやすく、運動を避けたいという衝動に勝てないため更にセロトニンレベルが低下してしまうという悪循環に陥ってしまいます。

エンドルフィン

  • エンドルフィンは天然のオピオイドで体を動かしたときの不快感を和らげる

体内で作られるエンドルフィンはヘロインやコデイン、モルヒネに比べると作用は弱いですが、それでも痛みを和らげ幸福感をもたらしてくれます。

そのため運動中毒の一因ともなります。

・エンドルフィンの効果は数時間持続する可能性があるとはいえ、20分以上集中して激しく動かさないと分泌されないため、そこまで激しい運動ができる人でないとその恩恵が十分受けられません。

エンドカンナビノイド

  • 体内で天然に生成されるマリファナの有効成分
  • ランナーズハイに大きな役割を果たす

真に心地よい高揚感を引き起こしはするものの、通常、数時間にわたる激しい身体活動しないと脳はこれを分泌しないため、それに該当しない人には関係ありません。

ポイント

これらの神経伝達物質は、運動によって分泌促進されて気分が良くなり、またやりたいという気持ちになり、運動を継続促進するのに役立ちます。

ただ、運動に対するこれらの脳の快楽的反応は座りっぱなしの人に働くように進化していません。不健康になればなるほど脳の快楽的反応を自然な形で受けにくくなってしまいます。

運動と病気

運動は脳ばかりでなく、病気に対しても良い影響をたくさん与えてくれます。

若い頃から運動継続することにより、骨を丈夫にし記憶力を向上させる能力が高まります。それにより、高齢になっても健康維持システムの働きを良い状態で保ち続けることができます。

逆に年を重ねるにつれ、座りっぱなしの日々を継続すると、慢性疾患(心臓病、高血圧、様々な頑、骨粗鬆症、変形性関節症、アルツハイマー病など)にかかりやすくなります。

運動は万能ではないかもしれませんが、健康維持システムを良い状態に保つ作用があるという意味でも、行う価値はあります。

肥満と運動

過剰な脂肪細胞は関節に負担をかけたり、呼吸を妨げたりするだけでなくホルモンを過剰に分泌して代謝を悪い方向へ変えてしまいます。

そこで、運動を取り入れることにより、脂肪細胞から出されるアディポサイトカインにより遮断されていたインスリン受容体を回復させ、糖輸送体タンパクを筋肉により多く産生しインスリン抵抗性を改善するのに役立ちます。

肥満に対してはウェイトトレーニングより有酸素運動の方が適しています。

ウェイトトレーニングは肥満による代謝の低下をいくらか抑える効果がありますが、体重増加の予防や回復には有酸素運動の方が効果を発揮します。高強度の運動は長時間継続するのが難しいため、結果的に総エネルギー消費量が少なくなる場合があるためです。

免疫向上と運動

運動習慣により、免疫システムを向上させる効果もあります。

その効果は感冒症状や感染症等にあるといわれています。適度な運動により免疫システムの根幹である白血球が増加します。

継続的な運動習慣によっても免疫システムは変化すると考えられており、1回45分、運動強度は心拍数予備能の60%の運動習慣により感冒症状の発症頻度は減少すると報告されています。

サルコペニア防止

人の筋肉量は40歳を境にして徐々に減少していく傾向があり、60歳を超えるとその減少率は加速します。

サルコペニアは、タンパク質の摂取不足と運動量の減少によって、作られる筋肉よりも分解される筋肉の方が多くなることが原因です。 サルコペニアを予防する上で大切なのは、筋肉を減らさないための適度な「運動」と「栄養バランス」の取れた食生活です。

筋肉量を増やし、筋力や身体能力を改善するためにはレジスタンス運動と低強度の有酸素運動が効果的であることが言われています。

骨粗しょう症防止

運動はすべての年齢で骨の強度と量に影響を与えます。

定期的な運動は、小児期や思春期の骨量増加や骨形状の最適化を促進し、成人期の骨量維持に貢献し、老年期の骨量減少や強度低下を抑え、骨粗鬆症骨粗しょうを防止します。

丈夫な骨作りに、良質な栄養摂取と同じくらい身体活動によって骨に物理的に力をかけ、骨芽細胞を刺激することも重要です。

ただし、骨粗鬆症が進行している人は骨折リスクがある激しい運動は避けましょう。

骨芽細胞を活性化させるには、体の縦軸方向に対して物理的な刺激を加える体重負荷運動が必要です。ランニングやジャンプ、重量挙げなどが当てはまります。水泳やクロストレーナーは骨への体重負荷が少なめなので、骨密度増加効果は前者より低めです。

生殖ホルモンと運動

中強度の運動をしている女性は生殖に必要なホルモンを十分に分泌していますが、座りがちな女性の体では、必然的に生殖に回せるエネルギーが増え、エストロゲンレベルが25%も高くなるとも言われています。

エストロゲンは乳房組織の細胞分裂を誘発するため、運動不足は乳がんリスクを高める一方で、運動は逆にリスクを下げるのに役立ちます。 ただ、乳がんリスクやエストロゲンレベルは運動だけでなく肥満や妊娠回数の少なさなども影響します。

がんと運動

ウォーキングなどの運動が、がん発症リスクを低下させるメカニズムについての研究も進んでいます。 がんの発症リスクが高くなるメカニズムの一つに肥満や運動不足によって引き起こされる「高インスリン血症」があります。

血液中のインスリンが多すぎると、細胞増殖、成長促進など様々な働きをするIGF(インスリン様成長因子)という物質の働きが活発になります。

さらには、細胞から分泌されるサイトカインと呼ばれるたんぱく質が慢性炎症を引き起こし、がんがさらに増殖しやすくなります。

運動を定期的に継続すると、筋肉などでインスリンの効きがよくなります。そのため、体内でインスリンの過剰な分泌防ぎ、それが、がん細胞増殖や成長促進にも作用するIGFの働き刺激を減らし、がん促進因子を減らすことになります。

抗酸化物質と運動

運動は、活性酸素の産生を通して生体に酸化ストレスを与えることが知られています。

一方、活性酸素による障害防止あるいは最小限にするために生体にはいろいろな抗酸化物質や抗酸化酵素が存在します。

運動は抗酸化酵素を誘導し、酸化ストレスの増大に対応することが知られています。適度な運動は抗酸化酵素を誘導するだけでなく、インスリン感受性を増大させ、疾患リスクを減少させる健康増進効果が期待されます。 これは、運動時のミトコンドリアでの一過性の活性酸素の上昇により発揮されるものと考えられ、ミトホルミシス効果という概念が提唱されています。

運動により、活性酸素の生成が飛躍的に増え、組織に酸化ストレス障害が生体に与えられると、生体は活性酸素ストレスに対抗する防御メカニズムを発動します。特に主要な抗酸化酵素であるスーパーオキシドジスムダーゼ(SOD)やグルタチオンペルオキシダーゼ(GPX)、カタラーゼ(CAT)は重要です。活性酸素のほとんどはぺルオキシラジカルでその消去系酵素であるSODは抗酸化酵素の最上流にあります。

適度な運動による低レベルの活性酸素刺激により、抗酸化酵素の発現促進のほかにミトコンドリアの生合成と再構築を活性化させてくれます。

一方、運動の際に抗酸化剤を投与するとこれらの運動の健康増進効果が失われてしまうようです。

https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/19433800/
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC4036400/

運動による抗酸化酵素レベルの上昇は、運動によって産生される活性酸素を効率よく消去し、酸化ストレスを最小限にする適応現象が起きます。

ただし、酸化ストレスが増大する疾患や病態がある場合は、酸化ストレス障害が増大しており、抗酸化防御反応をはるかに上回っているので注意が必要です。運動を再開するタイミングや、強度や量を増やしていくペースなどは医師と相談しましょう。

アルツハイマー病予防と身体活動

中強度の身体活動がアルツハイマー病のリスクを45%低下させると示されています。

特に(長時間かつ激しい運動が)BDNF(脳由来神経因子)と呼ばれる強力な分子の生成を脳内で促進させます。

BDNFは脳の成長促進材のようなもので、脳に栄養を与えて新たな脳細胞の発育を促してくれます。それによる効果は、認知力の向上、記憶力の向上、神経細胞の健康的に維持するといったもので、とりわけ記憶にかかわる領域で顕著です。

また、BDNFの増加によりアルツハイマー病の原因と考えられている星状膠細胞(アストロサイト)による損傷を防ぐ可能性もあるといわれています。

人間はずっと座りがちの生活をするようには進化してこなかったため、身体活動以外に高レベルのBDNFを生成させるメカニズムは進化してきませんでした。そのため、運動しないとBDNFが不足してしまうことになります。 また、BDNF以外の脳への運動の恩恵については、脳への血流労増加、有害な酸化ストレスレベルの低下、炎症抑制効果などにより、アルツハイマー病リスクを低下させられる可能性があるといわれています。

ストレス耐性向上と運動 ~ストレス反応~

ストレスを感じるとき、脳内ではストレスホルモンが放出されています。それが何か月、何年と続いたら、身体は蝕まれ精神も飲み込まれてしまいます。

ストレスが脳内で警告として始まるのは、HPA軸を動かす動力源である”扁桃体”です。

扁桃体が危険を知らせ、それに反応してコルチゾールの血中濃度が上がると、脳も体も厳戒態勢に入ります。それがまた、扁桃体を刺激し更に興奮し、興奮が収まらずHPA軸が制御不能の状態になると、そのうち本格的なパニック発作が起きます。

ストレス刺激による扁桃体の過剰興奮によりHPA軸を制御不能にしないため、体内にはストレス反応を緩和して興奮やパニック発作を防ぐブレーキペダルがいくつか備わっています。その代表が海馬と前頭葉です。

通常、ストレスを生む状況が去ると、扁桃体の興奮が鎮まり、すぐにコルチゾールの分泌量が下がります。(脳と体はもはや脅威は去ったとみなし厳戒態勢を解きます)

ところが、慢性的にコルチゾールが分泌されると、海馬や前頭葉が萎縮し脳機能が低下します。 すると、ストレス反応にブレーキが利かなくなり暴走を始めます。

興奮の扁桃体がやたらと警告を発して前頭葉や海馬がそれを打ち消すことができなければ、ほんの些細なことにも大袈裟に反応するようになってしまいます。

ストレス反応の動力源ともなる脳の興奮に対し、運動は様々な鎮静システムを強化してくれます。

その1:脳内に気分を変える化学物質を充満させる

運動は、ドーパミン、セロトニン、ノルエピネフリンなどに代表される神経伝達物質の分泌を促進します。 これらは、報酬、幸福感、覚醒、記憶力の向上などの感覚をもたらしてくれます。 また、運動すると、うつ病や不安障害を抱える人の間で枯渇しがちなグルタミン酸やGABAなどの神経伝達物質の量も増加します。

その2:脳の各領域の連携を強化する

たとえば、ストレス反応を抑える海馬と前頭葉が強化され、不安の引き金である扁桃体の活動が抑えられ、HPA軸反応も抑制促進されるようになります。

その3:コルチゾールが慢性的に高くならないよう制御する

適度な運動を長期にわたって継続することにより、コルチゾールの分泌量は次第に増えにくくなり、運動以外のことが原因のストレスを抱えているときでも、コルチゾールの分泌量はわずかしか上がらなくなっていきます。

ただし、運動しすぎるとかえってストレス反応を強くしてしまいます。

コルチゾールは、たいていは運動したあとで濃度が低下しますが、その効果を得られる運動量には限界があります。今の時点では運動がストレスとなる限界点がどのあたりかは解明されていませんが個人差はあるようです。

抗ストレス作用や脳機能向上させることが目的であれば、少し長めに歩いたり、30分走ったりするだけで十分なようです。

その4:抗ストレスニューロンの活性化促進

運動すると脳に新しい細胞が生まれます。通常、新しい神経細胞は幼い子供の様に勝手気ままで、周りから指示されなくても他の細胞に信号を送ろうとし、脳を興奮させやすくしてしまいます。

しかし、運動によって生まれた新生ニューロンは、興奮しても制御不能な状態にはなりません。それは、その中にGABAを放出するニューロンがあるためです。このニューロンは、他のニューロンの興奮を鎮めることから、〝ニューロンの乳母″ともいわれています。〝ニューロンの乳母″が新生ニューロンの興奮鎮めると脳全体が落ち着き、そして運動すれば、更に〝ニューロンの乳母″が増えて脳内の興奮を効果的に抑え、ストレスも解消します。

まとめ

運動することによるストレス耐性強化作用については下記4点になります。

  • 気分を良くしてくれる神経伝達物質の分泌促進
  • ストレス反応を抑える海馬や前頭葉の働き強化され、不安の引き金である扁桃 体の活動抑制
  • コルチゾールが慢性的に高くならないよう制御
  • 抗ストレスニューロン(ニューロンの乳母)増加、脳の興奮を鎮めるGABAの作 用活発に により、ストレスの募る状況に対する反応を全体的に低下させる

ストレスがゼロの生活を送ることは困難ですが、それよりもストレスに対する抵抗力を高めるほうが賢明です。

運動したからと言ってストレスを根こそぎ取り除くことはできませんが、うまく制御できるようにはなります。運動が習慣づけば、闘争と逃走モードに入りにくくなり身体も過剰に反応しにくくなります。

以上のことより、適度な運動は素晴らしいたくさんの効能があり、健康維持・老化防止システムを動かすために、栄養療法と同じくらい価値があるといえます。

ただし、運動の効能を引き出すには、体力、体調、炎症、酸化ストレスなど身体へのダメージ度合といったような個人差を考慮しないとかえって害になることもあります。

自分に見合った適度な強度と量の運動を習慣化できると良いですね。

参考文献:

  • 運動脳:アンデシュ・ハンセン:2022年9月10日初版発行 
  • 運動の神話(下):ダニエル・E・リバーマン:2022年9月25日初版発行
  • 糖尿病ネットワーク:ウォーキングが12種類のがんリスクを減少 運動でがん予防             2016年5月14日
  • 運動と酸化ストレス‐活性酸素と酸化防御のバランスの重要性―大石 修司            IRYO Vol69 No7(317-324)2015
  • 昭和学会誌 大81巻 第5号(395-401頁、2021) 特集 酸化ストレス関連疾患への薬学的アプローチ 酸化ストレスとスポーツ 岩井真一
  • 骨粗鬆症とサルコペニアに対する運動と栄養の影響 ―オステオサルコペニアの発症率 ナラティブプレビュー

アドバンスコースのご紹介

宮澤賢史 · 2022年9月17日 ·

臨床分子栄養医学研究会では様々なご要望に応じて、多種類のアドバンスコースを公開しております。

栄養療法セルフケアコース

栄養療法で自分を知るためのセルフチェックを詰め込んだオンライン・コースです。

栄養療法をマスターするには、まず自分を知ること(自分の根本原因をチェックし、治療方針を組み上げてみる)のが一番早道です。

4つのステップに分けて分かりやすく解説しています。

  • ステップ1 自分に問診する(当てはまるものにチェックをつけるだけ)
  • ステップ2 検査をして確かめる(血液、毛髪、有機酸検査の結果を見ながらチェックするだけ)
  • ステップ3 自分に必要な治療を選ぶ(ステップ1、2の結果から総合判定票を埋めて、次に治療アクションシートにチェックをつけるだけ)
  • ステップ4 順番に治療する(治療順番チャートに書き込むだけ)

5分程度の短い動画で構成されていて、「これを知りたい」というピンポイントな知識習得に役立ちます。

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まごめじゅん特選オンラインコース

分子栄養学実践講座でも大人気のまごめじゅん先生が過去に行っていたコンテンツをまとめてご覧いただけます。

コンテンツは全16本

栄養療法って何?、一般的な医療とどう違うの?

エネルギー代謝などの回路など、一般の方が普段聞きなれないカタカナやアルファベットが満載の専門用語を並び立てても、伝わりません。

栄養カウンセラーを目指している方や今後、栄養セミナーをしたい方にぴったりな、患者さんや生徒さんにわかりやすくお伝えする際のコツもそれぞれの動画で触れられています。

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小池アドバンス

血液検査の深読みと分かりやすい解説でおなじみの小池雅美先生によるアドバンスコースです。

月に1回ZOOMにて講義と症例解析を行っています。

解析する症例は参加者による持ち寄りですので、「小池先生に解析してもらいたい!」という方におすすめです。(WEB版は講義部分のみを配信しますので、症例解析への参加はできません)

講義は子育てから栄養素に至るまで毎回違うテーマを幅広く扱っています。

アドバンスと書いてあるため敷居が高いと思われがちですが初心者さんも大歓迎です。

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鹿沼聡美の薬膳のすゝめ

美養薬膳研究家 鹿沼聡美先生の「分子栄養学」と「薬膳」を融合させたオンライン料理教室です。

毎月1回薬膳や東洋医学に関する講義と、薬膳を身近に感じていただき、日々の献立にとり入れやすい「簡単」で「美味しい」薬膳料理をご紹介していきます。

副腎疲労やお疲れの方は日々のお料理もなかなか大変です。

本当に簡単で美味しい料理を紹介しますので、日々の献立にお役立てください。

~こんなことをやってきました(一部抜粋)~

薬膳の基礎理論を腹落ちさせよう!今すぐ使える舌診(実習:簡単すぎるのに褒められる「うま塩肉じゃが」&秒速でできる副菜

「五臓」は「感情」で理解する!カウンセリングで使える東洋医学(実習:グルテンカゼインフリー!アレンジ自在の簡単「スパイスカレー」)

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大野真理の難しすぎない分子栄養学オンラインセミナー

  • 分子栄養学の基礎を簡単に説明してほしい
  • 分子栄養学を他の人にも勧めたいけど難しいと思われる。
  • クライアントにうまく説明できない。

など思う方は少なくありません。

この講座では、分子栄養学を初めて学ぶ方にもわかりやすくクライアントに説明するときに参考になるようなコンテンツを公開していきます。

毎月第3木曜日10:00からZOOMにて開催します。(動画公開もしますので見逃した方も安心です)

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コロナの2年間で起こったこと、これから間違いなくおこること

宮澤賢史 · 2022年1月2日 ·

明けましておめでとうございます。

本年もどうぞよろしくお願い致します。
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お正月、ゆったり過ごされていますか?ゆっくりしていると、頭が冴えて次々といろんなことがひらめきます。今日は今後の栄養療法の方向性の話です。
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コロナ禍の2年間は、経済の二極化が進んだそうです。富裕層の世帯数は2013年以降一貫して増えているのに、Yahooニュースは、コロナの影響で生活が苦しいという記事ばかり。中間層の人がどんどんいなくなっているんです。
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これは、知識社会に適応できない人の収入が増えないために起きている状況です。

知識を持っている人、上手く使える人とそうでない人の差は10年前から結構あったのですが、直接あっての営業とか、店頭でのパフォーマンスとか、プレゼントの手渡しとか、そういう物質社会の良い面を出す機会が激減したため、差が顕著に現れたんです。

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その差を分けているのは知識です。どんなビジネスが順調で、どんなビジネスがジリ貧か、完全に分かれています。同じもの作りでも、「はじめに物ありき」で売っている場合はジリ貧、知識に基づいて作られた物を売っている場合は順調。
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例えば僕が去年買った青いiMac。

カラーバリエーションが選べるようになったのでノリで買ったのですが、恐ろしく早いです。動画編集も問題なし。マイクロチップが変わるとこんなに変わるのね。
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今までApple社は、パソコンの心臓部であるマイクロチップをインテル社から供給してもらっていたのですが、ついに自社開発に成功しました。設計段階からMacのOSに最適化できたようで、その結果CPU性能は85パーセント、グラフィックス性能は最大2倍です。このインパクトは大きく、Appleの時価総額(会社の規模)は値上がりを続け、世界1位を独走中です。
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反対にインテル社の株は今年ピークから25%も落ちました。独占的な供給元から、下請けに成り下がったためです。ユーザービリティ含む様々な知識を集約してチップを設計したAppleに、まず製品ありきでやってきたインテルはなす術がなくなってしまいました。
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サプリの業界も同じです。
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10年前まではサプリ会社が実権を握っていました。
その時はインテルと同じく「まず商品ありき」だったから。
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アメリカで話題になった栄養素とか、日本で解禁になった成分とか、そういうのを決めてキャンペーンを張り、それに消費者が追従する。
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それが当たり前でした。
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でも今は違います。特に海外では臨床現場での経験をフィードバックした、明らかに治療を意識したサプリメントが数多く出るようになりました。
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例えば、Davinci LaboのCandida away

  • マグネシウム(カンジダのアセトアルデヒドを分解する酵素の補酵素)
  • セルラーゼ(カンジダのバイオフィルムを破壊する酵素)
  • カプリル酸、グレープフルーツシード(抗真菌作用)
  • ベタインHcl(胃のpHを下げて抗菌作用を持つ)
  • ベルベリン(腸管の炎症抑制)
    ​


と、まさにプロがカンジダ除菌に使うプロトコールをこの1本で再現しています。このような医療者や患者のニーズを組んで、臨床経験からのフィードバックを盛り込んだ知識集約型のサプリが今の主流になりつつあります。
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まず製品ありきで、なんとなく販売したサプリは全く売れず、抗酸化、デトックス、ファスティングなど明らかな目的を持つ知識集約型のサプリはバカ売れ。
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以上の例からもわかるように、この二極化は知識の差です。この2年で知的所有者に向けて、そうでない人から急速にお金の移動が起きました。
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おそらく、今年からその流れはますます強くなっていくでしょう。
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では、今後はどうなるのか?
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僕の予測は「製品と知識が分離する」です。
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今年以降、栄養療法業界に関してはますます効率化が進むでしょう。
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今後もオンライン診療は伸びるでしょう。リモートでの診療やカウンセリングがますます増えるでしょう。
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現在個別で診療所が行なっている検査は検査センターに集約されるか、郵送でできるキット化がすすむでしょう。
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サプリメントはクリニックで在庫を持つことがなくなり、処方内容を伝達したサプリ倉庫からの直送が主流になります。
​
その結果どうなるか?
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医師やカウンセラーは、検査やサプリを売る商売から、自分の診察やカウンセリングなどの知識にチャージするようになります。
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(サプリで利益を得るのではなく、サプリの処方せんの料金をもらう、検査を売るのではなく、検査結果の説明にチャージするようになります。)
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医師はサプリや検査といった物質的なものを扱う必要がなくなり、その概念だけを頭に入れておけば診療できるようになります。頭脳とラップトップがひとつあればどこでも仕事ができるようになるでしょう。
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なんていい時代なんでしょうか!
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但し、問診から患者さんの具合悪さの原因を探り、検査を選び、出てきた検査結果を元に、治療方針や推定治療期間を説明できるような知識を持っていればですが。
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もちろん、食事や心理的なバックアップなど、知識を提供するのが仕事のカウンセラーには、非常にいい時代になるでしょう。
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​
さらに言えば、あと数年以内に実現するであろうVR(仮想空間)はこの流れを加速させるはずです。
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Appleの開発が今のペースで続けば、今年後半にmacの画像処理速度は現在の20倍を超えるそうです。仮想空間に診療所やカウンセリングスペースが出現するのにそう時間はかからないでしょう。
​
同時通訳機能は標準装備になり、誰でも世界の栄養療法医やナチュロパス、カウンセラーと話をすることができるようになるかもしれませんね。
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というわけでまとめると、自分の知識で勝負できる人はこれから最高の時代を迎えます。今後、価値感がますます知識偏重になっていくからです。
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(仮想空間なんて夢でしょうと思っている方、去年フェイスブックの会社名が仮想空間を表すメタに変わったのご存知ですか? 家にいながらディズニーランド体験ができるのはもうすぐです)
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p.s. 実践講座を受講された方、研究会の方へ。
​
ご安心ください。元々うちの方向性は、かなり知識偏重だから。すでに去年にもその兆しは見えていたと思いますが、世界は間違いなく我々の方に向かって流れています。今後も一緒に知識をブラッシュアップしていきましょう。
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​
p.p.s. 実践講座に入ろうかどうか今まで様子見てた方へ。
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実践講座は栄養療法のプロフェッショナル養成講座です。サプリを作ったり、特定のサプリの公認をしたりしていませんので、「初めに製品ありき」の考え方に染まらず、知識集約型の考え方を身につけていただけます。
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知識集約型を行なっているところはまだ少ないです。栄養外来を行うにも、カウンセリングで独立するにしても、あと2、3年は競争優位性が保てるので今のうちに実績を作り、業界でポジションをとることをお勧めします。
​
講座期間は半年間ですが、実際に栄養療法のフレームワークを自在に使えるようになるのに平均で1年半〜2年ほどかかる方が多いです。
​
お考えの方は、どうかお早めのご決断を。
​
​https://www.bunshieiyou.com/

副腎・甲状腺・性ホルモン

宮澤賢史 · 2021年10月27日 ·

慢性的な疲労から抜け出せない、毎月の生理が重くてつらい、そんな悩みはありませんか?

その不調、ホルモンの代謝異常が原因かもしれません。

この記事を読んで、ホルモン代謝を理解すれば、様々な不調から抜け出す手がかりが見つかるはずです。

例えば、女性ホルモンの代謝が滞ると、乳がんなどの婦人科疾患を引き起こします。治療の際に、ホルモンの働きを薬で無理やり止めようとしても絶対にうまくいきません。重要なのは、ホメオスタシスに逆らわず、ホルモン代謝を正常化するという栄養療法的アプローチです。副腎疲労も甲状腺機能低下症も婦人科疾患も、ホルモン代謝の正常化が回復の鍵となるのです。

1. 治療ピラミッドにおける位置付け

根本治療の基本は、治療ピラミッドの下から順にアプローチすることです。ホルモンは、炎症や毒物の影響を強く受けるため、ピラミッドのちょうど真ん中に位置します。ホルモンに着手する際のポイントは、副腎→甲状腺→性ホルモンの順にアプローチするということです。

2. 副腎ホルモン

2-1. 副腎疲労は結果である

私が副腎疲労症候群(アドレナル・ファティーグ)という病態を知ったのは、2007年頃でした。それからたくさんの患者さんを診てきて、副腎疲労は様々な要因の「結果」として起こることがわかってきました。一番の要因は炎症とストレスです。また、化学物質や重金属の体内蓄積や睡眠不足でも副腎が酷使されます。

副腎の働きは、朝にピークを迎え、夕方にはほとんど働かなくなります。もともとは 1日中働き続けられない臓器なのです。睡眠による休息が不可欠で、24時間酷使されている副腎は、徐々に機能が落ちてきます。

2-2. ステロイドホルモンの代謝

3つの六員環と1つの五員環からなるステロイド骨格を持つホルモンを、ステロイドホルモンと呼びます。

ステロイドホルモンの代謝において、プレグレノロンを起点として3つの系統に分かれます。1つ目がミネラルコルチコイド、2つ目がコルチゾールなどの糖質コルチコイド、3つ目が性ホルモンです。これらが副腎皮質でつくられています。

ここで重要なのは代謝の流れです。ホルモン代謝の流れが滞ると、様々な疾患を引き起こします。例えば、性ホルモンは、アロマターゼの働きにより男性ホルモンから女性ホルモンに変換され、肝臓でメチレーションを受けて最終的に分解されます。しかし、エストロゲンの分解が滞っている人は少なくありません。それによりエストロゲン過多になると、乳がんや子宮内膜症などのリスクが高まってしまいます。つまり、ホルモン代謝をいかにうまく流してあげるかが最重要課題ということです。

2-3. ステロイドホルモンの特徴

ステロイドホルモンと甲状腺ホルモンは、核内受容体に結合し、さまざまな働きを活性化させることがわかっています。核内受容体は遺伝子転写を調節しているため、生体に極めて強力な作用をもたらすのです。

ステロイド剤は、効果が現れるのがとても速いのが特徴です。それは、細胞膜を通過して直接核の中に働きかけるからです。少量で効くので、使い方を間違えないように注意が必要です。常に代謝のフローを意識して使わないと、副作用が出てしまいます。

2-4. 副腎ホルモンの欠落症状

副腎ホルモンの欠落症状として、朝起きられない、起きてもぼーっとしている、イライラが止まらない、立ちくらみがする、塩をいくらかけてもまだ足りない気がする、といった特徴的な症状があります。当てはまる人が結構いらっしゃるのではないでしょうか?

コルチゾールには、血糖値を上昇させ、炎症を抑える働きがあるため、コルチゾール不足は低血糖と炎症を促進します。副腎疲労でアトピーを抱えている人は、なかなか炎症が治りません。また、塩分を渇望したり血圧が低下するのは、アルドステロンの作用が低下することで起こります。さらに、コルチゾール・スティール症候群により、女性ホルモンが低下し、月経不順や性欲減退といった症状も出ます。

  • コルチゾール欠落症状;低血糖、炎症の持続
  • 部分アルドステロン作用↓;塩分渇望、低血圧
  • コルチゾール・スティール;月経不順、性欲減退

宮澤医院に来院された副腎疲労患者さんのコレステロールは、160以下の低コレステロールの人が30%、コレステロールが160以上の高コレステロールの人が70%でした。

コレステロール値

これは、コルチゾールの原料であるコレステロールが少なすぎてつくれない場合と、コレステロールがあっても利用できていないという、両方のパターンがあると考えられます。

2-5. コルチゾール・スティール

コレステロールは、コルチゾールと性ホルモン、2手に分かれていきますが、生命にとって重要なのはコルチゾールです。したがって、コルチゾールが不足している時には、全ての材料がコルチゾールに優先的に回されることになります。その結果、性ホルモンが十分に作られず、結果として不妊等の原因になるわけです。

2-6. 副腎疲労の評価法

腎臓の上にある副腎というピラミッド型の臓器が副腎です。ホルモンを産生する臓器で、ホルモン分泌が低下する病態を副腎疲労と呼びます。症状、血液検査、唾液検査、尿検査から評価します。

2-7. 唾液中コルチゾール検査

私が最もよく用いる検査は、唾液中コルチゾール検査です。コルチゾールは朝にピークを迎え夜に低くなるという特徴があります。この日内変動を評価するには、唾液中コルチゾール検査が最も適しています。

血中コルチゾールの場合、活性がないコルチゾールまで測定してしまうため、正確に評価することができません。また、採血中のちょっとしたストレスで、値が上がることもあります。

唾液中コルチゾール濃度は、血清中の非結合コルチゾール濃度に比例する
Ann Clin Biochem. 1983 Nov;20 (Pt 6):329-35. 
Salivary cortisol: a better measure of adrenal cortical function than serum cortisol
DOI: 10.1177/000456328302000601

90-95%の血清中コルチゾールがアルブミンや赤血球細胞膜に結合しており、非結合のコルチゾールのみが生理活性をもつ
Psychosom Med. 1999 Mar-Apr;61(2):214-24. 
Increased salivary cortisol reliably induced by a protein-rich midday meal
DOI: 10.1097/00006842-199903000-00014

基本は朝、昼、夕方、夜に採取しますが、自分がものすごくストレスかかったと感じた時に採取してもらう方法もあります。大きなストレスかかった時のコルチゾール量を把握して、生活習慣の改善に繋げることができます。このように、採取のタイミングなどを変えて応用的に使えるので、とても便利な検査です。

2-8. 副腎疲労患者は相当疲れている

宮澤医院に来院された患者さんの、実に89%は朝のコルチゾールが低下していました。1日を通して低い人が大多数ですが、稀に夜だけ高い人もいます。そういう人は昼夜逆転しているパターンですね。

2-9. 尿中ホルモン検査

唾液中コルチゾール検査の他に、尿中ホルモン検査があります。この検査は、コルチゾールだけでなく、エストロゲンやDHEAなど、ほとんどの性ホルモンを一度に測ることができます。ホルモンの補充療法を考えている人、または乳がんなどのホルモン系の腫瘍を持っている人は、この検査を受けてホルモン代謝の状態を把握した方が良いでしょう。

尿中ホルモン検査

2-10. ステージと回復期間

上の症例を見ると、男性ホルモン(Androgens)がほとんどLowになっています。これはコルチゾールスティールが起きていることを示します。副腎疲労には4つのステージがあり、ステージ1はコルチゾールの過剰分泌により興奮状態にありますが、ステージ2、3、4…と進むに連れてコルチゾールが低下し、疲弊度がひどくなってきます。コルチゾール代謝物が4000以下であれば、ステージ4と判断します。尿中ホルモン検査では、1日に分泌されるコルチゾール量を把握できるので、正確にステージングすることができます。

副腎疲労がステージ4まで進行している場合は、腸内環境、重金属などの大きな問題がない限り、治療には6ヶ月から1年、完治には2年ほどかかります。ステージ3の場合は 完治まで1年程度です。このように、ステージングにより治療期間の目安を把握することができます。

副腎疲労の場合、コルチゾールスティールがあるため、ほとんどの数値がLowになってしまうことがあります。したがって、回復したタイミングで再度検査する必要があります。コルチゾールが充足してくると、性ホルモンが上がってくるので、乳がんなどのリスクを正確に読み取ることができます。乳がんのリスクは、善玉エストロゲンと悪玉エストロゲンの比率を見て評価しますが、コルチゾールスティールにより女性ホルモン全体が低下している場合は、比較してもあまり意味がありません。

2-11. 血中ホルモン検査

保険診療の範囲内で副腎疲労を見つける場合には、コレステロールやプロゲステロンの値で評価します。男性の場合、エストロゲンの一種であるエストラジオールを副腎から分泌しています。また女性の場合、DHEAとテストステロンを副腎から分泌しています。つまり、男性は女性ホルモンで、女性は男性ホルモンで副腎の働きを確認し、ある程度副腎疲労を評価することができるのです。

  • 総コレステロール
  • プロゲステロン
  • エストラジオール(♂は副腎から分泌)
  • ACTH
  • コルチゾール
  • DHEA-S(♀は副腎から分泌)
  • テストステロン(♀は副腎から分泌)

2-12. サプリメントアプローチ

副腎疲労に対するサプリメントアプローチとして、同位同食という漢方の考え方が有効です。副腎が悪い人は、動物由来の副腎抽出物を摂ると良いということです。または、副腎に1番多い栄養素であるビタミンCやEを摂ると良いでしょう。

生理学者であるハンス・セリエ博士が行ったラットの実験で、ビタミンCが副腎の負担を軽減することを明らかにしました。ストレス負荷により見られる副腎の腫大が、ビタミンC摂取により抑えられたというものです。その効果は血中濃度に比例するため、頻回摂取、または点滴により注入すると、副腎を効果的にリラックスさせることができます。

2-13. ハンス・セリエのストレス反応

ストレスかかると、副腎が腫れ、胸腺は萎縮し、免疫は低下します。リンパ腺も小さくなり、胃の粘膜から出血が見られるようになります。このようなストレスによる徴候はセリエの3徴と呼ばれています。セリエは、出血、体の束縛、過度の運動、どのようなストレス負荷をかけても、副腎の肥大、胸腺の萎縮、胃潰瘍(胃出血)がいつも一緒に起こることを明らかにし、これを警告反応と名付けました。これらは解剖で見た肉眼的な所感ですが、今はもっと様々な反応が起こることがわかっています。

引用:http://www.evolocus.com /Textbooks /Selye1952.pdf

2-14. 副腎疲労のステージ

副腎疲労は、警告反応が起こる警告期を経て抵抗期に向かいます。持続するストレスと釣り合った抵抗力を発揮し、適応している状態です。唾液中コルチゾールは1日中高値を示し、炎症やストレスに対応しているのがわかります。しかし、多くの患者さんを診ていますが、このような人が来院することはほとんどありません。興奮状態にあるので、自分が副腎疲労だという自覚がないからです。来院されるのは、強いストレスや感染症などのトリガーにより、コルチゾールがガクンと減って疲弊期に突入した人たちです。

2-15. ストレス反応には2系統ある

副腎疲労の改善には、サプリメントケアによる対処も必要ですが、ストレスのコントロールが必要不可欠です。ストレス反応には、内分泌系と神経系の2系統があります。内分泌系は、脳下垂体、ACTH、副腎皮質と伝達され、コルチゾールが分泌される流れです。

内分泌系
脳下垂体→ACTH→副腎皮質→コルチゾール→標的細胞

神経系は、自律神経が副腎の髄質(副腎の中身)を直接刺激し、アドレナリンを出すという流れです。副腎髄質は、脳下垂体のホルモンコントロールを受けず、自律神経の電気インパルスによってのみコントロールされているため、自律神経のコントロールも副腎のためには必要なのです。

神経系
自律神経→副腎髄質→アドレナリン→標的細胞

人間の神経には、自律神経と体性神経があります。自律神経は、脈拍や呼吸をコントロールしている神経、体性神経は、運動神経や感覚神経をコントロールしている神経です。通常、これらの2つの神経は交わることはありません。体性神経は自らの意思で制御できますが、自律神経はコントロールすることができません。自分の意思で汗をかいたり、脈拍を速めたり、鳥肌を立たせたりということはできませんよね。これらは自律神経が司っているからです。

しかし、びっくりした時などはこの2つの神経が交差します。このような交差を繰り返し続けていく(ストレスが持続する)と、自律神経中枢と体性神経の間に単路ができてしまいます。この単路が太くなるほど、どんどんストレスに弱くなって、ちょっとしたことで切れやすくなったり、高い所に登ることを考えるだけで息苦しくなったりします。

2-16. 必要なのは鈍感力

できてしまった単路をどう治せばよいのかというと、それは鈍感になることです。鈍感力を養うのに1番おすすめなのは、マインドフルネスです。簡単に言うと、自分の呼吸に集中する訓練です。何事が起きても自分の呼吸に意識を戻す、思考が別のところに行っても、また自分の呼吸に戻る、その繰り返しで鈍感力が養われます。

副腎疲労は副腎の不調によって起こりますが、大元の原因はHPA軸にあります。視床下部、下垂体、副腎の機能が同時に低下してしまうのです。ストレスには精神ストレスと身体ストレスがありますが、どちらも扁桃体を経由します。この扁桃体が自分にとってストレスかどうかを決めるのです。ストレスだと判断すると、コルチゾールの分泌量を上げたり、心拍を上げたりして反応します。つまり、ストレスとして感じるかどうかは扁桃体次第だから、扁桃体を鍛えましょうということです。

Amygdala(扁桃体)の位置

瞑想は扁桃体を鍛える訓練とも言えるわけです。リラックスするには、瞑想、CBDオイルの使用、Bスポット治療、ファスティングなどが効果的です。Bスポット治療は、上咽頭のところに通っている副交感神経を刺激するため、リラックス効果があります。ファスティングも、自律神経の緊張を緩和させる究極の方法です。あらゆる方法を使って脳をリラックスさせることが大切です。

2-17. 脳に有効なサプリメント

脳に対するサプリメントアプローチで有効なのは、脳の材料となるフィッシュオイルです。特にDHAは二重結合が多く、細胞膜の流動性を高める働きがあります。

J Nutr. 2010 Apr;140(4):869-74. 
DHA may prevent age-related dementia
DOI: 10.3945/jn.109.113910

ヘルシーパス社のスマートコリンは、認知機能のサポートに使われています。また、グロービア社のフェルガード(フェルラ酸)は、日本認知症予防学会が推奨している脳の抗酸化サプリメントです。MSS社のuDHAは、抗酸化作用が強化されたDHAです。

2-18. 生まれつきの副腎疲労もある

恐怖麻痺反射(ストレスにさらされ、胎児が身を固めて刺激に耐えようとする反射)が残存している人は、生まれつき副腎疲労を抱えています。ちょっとしたストレスに異常に反応してしまうので、常に疲れてしまう傾向にあります。感覚が過敏なために、副腎や自律神経、背筋がいつも緊張しています。さまざまな行動を無意識のうちに抑制し、極度の引っ込み思案の方は、もしかしたら恐怖麻痺反射が残っているのかもしれません。適切なケアで治すことも可能ですから、詳しくは小池先生の動画をご覧ください。

2-19. エネルギー泥棒を見つける

エビデンスには乏しいですが、副腎疲労の人はエネルギーがどんどん漏れているという説があります。エネルギーは感情でかなり消費されます。人から褒められている時、豪遊して無駄遣いしている時、ノリノリでしゃべって自分に酔っている時、こういう時はエネルギーが漏れている時で、心地よい状態です。しかし、エネルギーがある一定ラインを下回ると、他人からエネルギーを奪おうとする、エネルギーバンパイアの状態になってしまいます。この状態にならないためには、人から認められてエネルギーを補充する必要があります。

余談ですが、副腎疲労重症者の動物占いを見たところ、サルとヒツジが多いという結果が出ました。サルは、じっとしてるのが苦手、活発に動き回り複数のことを同時進行する、褒められるとなんでもやってしまうという特徴があります。マルチタスクは、複数のことを同時にやっているようで、実は人間は1つのことしかできないので、1つ1つのタスクを超高速で切り替えながら行っているだけなのです。だからものすごく疲れます。またヒツジは、和を大切にする性格で、本音を隠しがちです。こうした人たちは副腎疲労になりやすいので気をつけてくださいね。

そんな人におすすめの本を2冊紹介します。1冊は『エッセンシャル思考』(グレッグ・マキューン著)です。本当に重要なことだけに取り組み、他は全部断るべし、という内容が書かれています。

もう1冊は「嫌われる勇気」(岸見 一郎/古賀 史健 著)です。ここに書かれているのは、自分と他人のタスクの分離です。この仕事は私の仕事ではないですよ、あなたの仕事ですよって言えない人は、まずこれを読んでみてください。

2-20. コルチゾール補充

副腎疲労の治療には、重金属をデトックスしたり、ストレスを無くしたりすることから始めるのですが、中にはどうしても仕事を休めない、なるべく早く復帰したい、という人もいるので、そういう場合は根本治療と並行してコルチゾール補充療法を行うこともあります。

ホルモン治療の第一人者であるハルトゲ博士の著書、「ホルモンハンドブック」は、ホルモン治療をされる方にはぜひ読んでいただきたい一冊です。コルチゾールやDHEAなど、12種類程のホルモンの補充療法が詳細に書かれています。

例えば、男性でマイルドなコルチゾール欠損の場合は、ヒドロコルチゾンを朝に20mg、昼に10mg使うと書かれています。私もコルチゾールの補充療法をする場合は、ヒドロコルチゾンを使います。ヒドロコルチゾンは最もバイオアイデンティカルなコルチゾールです。人間が代謝しやすいので、副腎の疲弊が起こりにくいというメリットがあります。ただし、ヒドロコルチゾンだけでは解決できません。必ず根本治療をセットで行わないと、薬のテーパリングができなくなってしまうからです。

2-21. DHEAの併用

ヒドロコルチゾンを使う場合は、テストステロンの1つであるDHEAを併用すると良いでしょう。DHEAにはアナボリック(タンパク質の同化)作用があります。コルチゾールはタンパク質分解作用があるため、薬で大量に体内に入れると、筋肉が減少し内臓中心性肥満になります。お腹周りは太るのに、手足の筋肉が衰えて細くなるという身体的特徴が見られます。したがって、DHEAを一緒に摂るとタンパク質の分解を抑えることができます。男性ホルモンなので、男性の方は比較的量を多く使っても大丈夫ですが、女性は少なめに抑えた方が良いでしょう。副作用は、皮膚が脂っぽくなることです。気をつけたいのは、ホルモン系腫瘍の方には禁忌ということです。投与前に尿中ホルモン検査を行うことをお勧めします。

男性
・朝食前後35mgからスタート
・状況(ストレス・風邪など)に応じて+50〜200%
・最適量は20〜55mg/day

女性
・朝食前後20mgからスタート
・状況(ストレス・風邪など)に応じて+50〜100%
・最適量は5〜30mg/day

3. 甲状腺ホルモン

3-1. Ⅱ型甲状腺機能低下症

甲状腺低下症には、大きく分けて、通常の甲状腺機能低下症とⅡ型甲状腺機能低下症があります。Ⅱ型甲状腺機能低下症は、血液検査では異常が認められず、甲状腺ホルモンも十分に出ているのですが、受容体が正常に機能していないため、結果として甲状腺機能低下の症状が出ている病態を指します。

甲状腺機能の検査として、T3、T4、TSHの数値を確認するだけに留まるケースがほとんどです。しかし、これだけでは代謝の状態を把握することはできません。甲状腺ホルモンを動かしているミトコンドリアの異常も、甲状腺ホルモン受容体異常も、この3つの数値から推測することはできません。

3-2. 甲状腺ホルモンの代謝の流れ

視床下部からTRHが分泌されると、脳下垂体から甲状腺の刺激ホルモンであるTSHが分泌されます。すると、T3(活性型)とT4(T3の前駆体)が分泌され、T3は肝臓でT4に変換されて標的細胞に運ばれます。T3やT4が不足すると、フィードバックがかかってTSHが上がります。したがって、Ⅱ型甲状腺機能低下症の場合、T3、T4は低下せず、TSHのみ上がっていることがあります。

一方、標的細胞には、フィードバック機構がありません。ミトコンドリア機能が低下したり、甲状腺ホルモンの受容体の働きが悪くなったりしても、フィードバックはかかりません。そのような状態の人がたくさんいらっしゃいます。

もう一つ多いのが、T4が活性型のT3に変換されにくいパターンの人です。T4→T3の至適温度は37度で、栄養素として鉄やセレン、そしてコルチゾールが使われます。つまり副腎疲労がある場合は、T4からT3への変換がうまくいかないということです。これが甲状腺に着手する前に、副腎を治した方がいい理由の1つです。

下から順に治療する

3-3. 甲状腺ホルモンにはヨードが必要不可欠

人類の祖先が海から陸に進出した時、体には甲状腺濾胞という甲状腺ホルモンをストックしておく器官がつくられました。

陸には、海水のようにヨードが豊富に無いからです。甲状腺に刺激があったり破壊されたりすると、一気に甲状腺ホルモンが出て、亜急性甲状腺炎になり、高熱が出て酷いショック状態に陥ることがあります。日本の場合、ヨード不足になることはほどんどありませんが、フッ素や塩素、臭素の暴露が多すぎて、ヨードの働きが抑えられ、甲状腺機能低下になっている人もいるので、その点は注意が必要です。フッ素は歯みがきジェル、塩素はプール、臭素はパンの添加物などに使われています。

3-4. 水銀の影響

甲状腺ホルモンは水銀の影響を受けやすいという特徴があります。TSHの分泌、受容体の働き、T4からT3への変換などを抑制します。したがって、甲状腺治療の前にデトックスは必須です。

3-5. ホルモンの相互作用

コルチゾールスティールは、甲状腺機能にも大きく影響します。また、甲状腺機能低下は高プロラクチン血症を引き起こします。甲状腺ホルモンが下がると、フィードバックがかかって視床下部と下垂体が活性化します。TRHとTSHが上がります。それと同時にプロラクチンも上がります。プロラクチンは乳汁分泌ホルモンで、授乳中に分泌され、排卵が抑えられます。したがって、プロラクチンが上がっていると、不妊の大きな原因になるので、不妊治療クリニックでは甲状腺機能は必ず確認されます。

先述の『ホルモンハンドブック』によると、TSHのオプティマルレンジは1です。一般的な基準値は0.5~3で、検査会社によっては大きく捉えていますが、少なくとも2以上の場合は、潜在性の甲状腺機能低下を疑うべきでしょう。

3-6. 治療法

甲状腺機能低下症の治療法は、デトックスや腸内環境改善から始めますが、これを補助するために一般的にはチラージンSを使います。「S」は「合成」という意味で、合成のT4のみが含まれています。先述の通り、T4からT3への変換が妨げられている人が多いので、チラージンSが効かない人もたくさんいらっしゃいます。その場合は、私はチラージン末というブタ甲状腺の乾燥物を使っていました。天然物なので生理学的に人に近く、T4とT3が適度に混じっています。T4単独よりもT3とT4を合わせた方が治療効果が高いという報告もあります。

Journal of Nutritional & Environmental Medicine Volume 11, 2001 – Issue3
Thyroid Insufficiency. Is Thyroxine the Only Valuable Drug?
https://doi.org/10.1080/13590840120083376

チラージン末は、東日本震災の影響で製造中止になってしまったため、現在はアーマーサイロイドを海外から購入しています。もしくはチラージンにチュロナミンというT3の薬を合わせて使うこともあります。チラージンS 50μgに相当するチラージン末(乾燥甲状腺末)は、25-30mgです。

4. 性ホルモン

4-1. ホルモン代謝の正常化が重要

婦人科疾患に対して、女性ホルモンをブロックする薬剤の投与が当たり前のように行われています。しかし、それをしてしまうと、人間のホメオスタシスが働いてしまい、過剰にホルモンが分泌されたり、ダウンレギュレーションが起こり、かえって悲惨なことになっているのが現状です。大切なことは、女性ホルモンをブロックすることではなく、代謝を正常化させることです。

4-2. プロゲステロンに対してエストロゲンが優位になる

いわゆる更年期障害や月経不順、月経痛など、様々な女性特有の不定愁訴がありますが、多くの場合、原因としてエストロゲンの過剰分泌が考えられます。年齢に伴ってエストロゲンとプロゲステロンの分泌量が落ちてきますが、エストロゲンよりも、プロゲステロンの方が急激に低下します。特に35~50歳にかけての低下率は、エストロゲン35%に対し、プロゲステロン75%で、エストロゲンとプロゲステロンの差が大きく広がるのです。

4-3. プロジゲステロンクリームの選び方

これを食い止めるのに最も簡単な方法が、プロゲステロンクリームの使用です。エメリタのプロジェストなどは、バイオアイデンティカルなクリームとして有名です。ホルモンを補充するときに必ず気をつけるべきことは、人間が代謝しやすいホルモンを使うことです。例えば、プレマリンという女性ホルモン剤は、馬から抽出したものですが、人間にとってバイオアイデンティカルではないので、代謝に時間がかかってしまいます。長時間効く代わりに、いつまでも体に残留して様々な不調を引き起こすリスクがあります。

一方、バイオアイデンティカルなホルモンクリームであれば、1日で完全に代謝されます。 まめに塗る必要がありますが、副作用が極めて少なくて済むのは大きなメリットです。このクリームは、経皮吸収で腹部などに塗るタイプのもので、プロゲステロンの分泌量が高まる生理周期3週目に親指の先半分ぐらい、 4週目に親指1本分程度を使います。ただし、これは米国向けに作られているため、初めは少ない量から始めます。副作用は、プロゲステロンの鎮静作用により眠くなることです。

4-4. 婦人科疾患の原因は女性ホルモン代謝異常

婦人科疾患の多くは、女性ホルモンの代謝異常によるものですが、代謝異常になる原因の1つに、環境エストロゲンの増加が挙げられます。重金属、ダイオキシン、有機汚染物、フタル酸エステルなどに環境エストロゲンが含まれています。ホルモン剤を投与されたアメリカ産の牛肉や牛乳なども注意が必要です。現代は、バイオアイデンティカルではないエストロゲンが体に入りやすい環境にあります。日常的に環境エストロゲンを避けるように心がける必要があります。

また2つ目の原因として、エストロゲン代謝分解の低下があります。エストロゲンは、肝臓で加水分解され、メチレーションなどを経て解毒されますが、これらの代謝が滞り、エストロゲンが過剰に溜まっている人が大勢います。

4-5. 子宮内膜症の3つの原因

子宮以外で子宮内膜が増殖してしまう病気を異所性子宮内膜症と言います。例えば卵巣で増殖してチョコレート嚢胞を形成すると、炎症を引き起こします。また、月経時に月経血が逆流して卵管の方に流れると、血液に含まれる鉄の作用で活性酸素が発生し、炎症を引き起こします。その炎症をエストロゲンがさらに増大させるので、炎症がいろんなところに飛び火してしまいます。

根本原因は炎症、内分泌撹乱物質(環境エストロゲン)、エストロゲン代謝低下、これら3つです。オメガ3系油をしっかり摂って炎症体質を改善すること、環境エストロゲンをできる限り避けること、エストロゲン値が高ければ、解毒して代謝分解してあげることも重要です。

4-6. 乳がん治療の難しさ

乳がんはステージ4まで進行してしまうと、5年、10年の生存率は極めて低くなります。また、乳がん治療の成功率は、再発によりかなり低下します。乳がんもホルモン依存性のものが多いため、薬のセレクトなどが難しくなってきます。

4-7. 閉経前後のエストロゲン供給源

BMIと乳がんリスクの関連性を示す報告を見ると、BMIが高い(脂肪が多い)方が乳がんリスクが高いことがわかります。閉経後はエストロゲンの分泌が低下しますが、副腎でつくられる男性ホルモンが、アロマターゼの働きにより女性ホルモンに変換されます。したがって、ホルモンの材料となる脂肪が多いほど、乳がんのリスクが高くなります。

Ann Oncol. 2014 Feb;25(2):519-24.
Body mass index and breast cancer risk in Japan: a pooled analysis of eight population-based cohort studies
DOI: 10.1093/annonc/mdt542

一般的な治療としては、アロマターゼ阻害剤を処方します。乳がん細胞に到達したエストロゲンの働きを阻害する抗エストロゲン剤なども使われます。閉経後の人には、アロマターゼ阻害剤と抗エストロゲン剤を処方しますが、閉経前の人は卵巣が働いているので、卵巣のエストロゲンを止めるために、下垂体の働きを止めるLHRHアゴニストという薬が処方されます。

では、アロマターゼを阻害して、エストロゲンの働きをブロックすれば、完全に乳がんを撲滅できるかというと、実際はそう簡単にいきません。それは、受容体が変化するからです。

4-8. 受容体のホメオスタシス

先述のLHRHアゴニストは、合成されたLHRHで、通常のLHRHの100倍の効力を発揮します。下垂体に対する過度な刺激により、ホメオスタシスが働いて受容体が減少し、応答能が低下します。これにより、エストロゲン分泌が抑制されます。これを偽閉経療法と言います。

その一方で、抗エストロゲン剤も併用されています。エストロゲンの受容体をブロックする薬ですが、当然ホメオスタシスが働いてアップレギュレーションが起こってしまいます。つまり、エストロゲンの減少に伴って受容体が増加したり、感受性が亢進した結果、応答能が増大してしまうのです。

乳がんの原因は、エストロゲン受容体のアップレギュレーションであることを示す論文もあります。

Med Mol Morphol. 2010 Dec;43(4):193-6.
Mechanisms of estrogen receptor-α upregulation in breast cancers
DOI: 10.1007/s00795-010-0514-3

タモキシフェンというエストロゲン受容体ブロッカー薬の説明書には、重要な基本的注意として、「本剤の投与により、子宮体がん、子宮肉腫、子宮内膜ポリープ、子宮内膜症が見られることがある」と記載されています。最初は効くかもしれませんが、ホメオスタシスが働きだすと、アップレギュレーションが起きて、子宮関連の疾患リスクが高まると考えられます。

『乳がんと牛乳』(ジェイン・ブラント著)には、著者自身が乳がんを患い、抗癌剤やホルモン療法など、ありとあらゆる治療をやっても何度も再発したのに、乳製品を完全にやめたら全く再発しなくなったという話が書かれています。

これは、乳製品に含まれる環境エストロゲンの作用により、受容体のアップレギュレーションが起こった結果ではないかと思います。薬で無理矢理止めても、完全には抑えられないということです。では、どうすれば良いのでしょうか?

4-9. ホルモン代謝を正常化する

それはズバリ、代謝を正常化することです。女性ホルモンの代謝を見てみましょう。エストロンはフェーズ1で活性化されると、善玉エストロゲンである2-OHE1や発がん性のある16α-OHE1になります。2と16の比率が重要で、外因性の環境エストロゲンやPCB暴露があると、全て16α-OHE1に流れてしまいます。

他にも、甲状腺機能低下症、殺虫剤、喫煙、カフェイン、薬物の影響でCYP3A4が活性化され、16α-OHE1が増えて発がんリスクが高まります。したがって、デトックスのフェーズを強化し、代謝を促す必要があります。代謝がスムーズになれば、増殖作用がないエストリオールに変換され、がんリスクが低減します。

4-10. エストロゲンデトックスのための食材とサプリメント

エストロゲン代謝を促すには、COMTを活性化するビタミンB6やグルタチオン、メチオニンなどを使うのが効果的です。もう1つの方法として、2-OHE1の方向に流れを向けてあげることも有効です。そのためには、アブラナ科の野菜やI3C(Indole-3-carbinol)、DIM(Diindolylmethane)、亜麻仁油、チロキシンなどを使います。あとはデトックスな生活を心がけること、腸内環境を良くすることです。

4-11. 3型アルツハイマー病と性ホルモンの関係

『アルツハイマー病 真実と終焉』の著者であるデール・ブレデセンが提唱したアルツハイマー病の3つの型のうち、3型は毒物性アルツハイマー病で、マイコトキシンや重金属の暴露が原因で発症するものです。

他のアルツハイマー型よりも発症が早く、40代からと言われています。ストレスなどがトリガーになり、認知機能よりも、うつ症状が先に見られるという特徴があります。この3型アルツハイマー病にもホルモンバランスが関係しています。

3型アルツハイマー病の特徴
・40代で発症(更年期頃に起きやすい)
・うつ病が認知機能低下に先行する
・記憶低下<集中力低下、計算不能
・強いストレスがトリガー
・マイコトキシン、もしくは重金属への暴露
・血中TG低値
・血清亜鉛低値
・HPA軸↓、プレグネノロン↓、DHEA↓

3型アルツハイマー病の症例を見てみましょう。

57歳女性

  • 数年前から腹部のガスが増えた
  • 以前は考えられないようなうっかりミスが増え、記憶力、集中力が落ちた(日常生活には支障なし)
  • 昨年夏頃から睡眠の質が落ちた
  • 便の調子が良くない(いつも軟便、食事の度にもよおす、乳酸菌サプリで多少改善)
  • 年齢のせいかと思っていたが、腸内環境が悪化することでも記憶力、集中力が落ちると知り来院

早期認知症検査(MOCA)をやってみたところ、30点中の29点で全く異常なしでしたが、本人には、計算に時間がかかる、じっくり集中できない、記憶力が低下したという自覚がありました。

血液検査で確認すると、ホルモン値は保たれていましたが、銅亜鉛バランスが崩れていました。

  • 25OH-D 43 ng / ml
  • Cu 118μg / dl
  • Zn 66μg / dl
  • ACTH 21.5 pg / ml
  • コルチゾール 7.3μg / dl
  • DHEA-S 1767 ng/ ml
  • エストラジオール 8.1 pg / ml
  • テストステロン 25.5 ng / dl

炎症に関しては、ピロリ菌陽性でした。その他にも、胃の炎症、中等度の上咽頭炎、感染根菅が3カ所、口腔内カンジダもあり、体中炎症だらけの状態でした。

  • ヘリコバクタピロリ抗体陽性
  • PG1 46.7 ng / ml
  • PG2 10.6 ng / ml
  • PG1/PG2 4.4

マイコトキシンの蓄積も見られました。

マイコトキシンは、アルツハイマー病及びパーキンソン病などの神経変性疾患の発症に寄与していると言われており、暴露源としては、汚染された穀物、ブドウジュース、乳製品、香辛料、ワイン、乾燥ブドウ果実、コーヒーなどが挙げられます。

毛髪ミネラル検査の結果を見ると、ミネラルの輸送障害があり、水銀の蓄積が疑われました。

この症例のように、一見、副腎疲労のように見えますが、マイコトキシンと水銀の蓄積があり、腸内環境が悪化していて、ストレスがトリガーとなって記憶力が低下している場合は、3型アルツハイマー病の疑いがあります。

最後に、治療ピラミッドに当てはめてみましょう。炎症、毒物の蓄積、ホルモン代謝異常、こうしたものが結果として脳に影響を及ぼします。これらの根本原因を下から順番に治療していく必要があります。

5. 最後に

いかがでしたか?ホルモン代謝異常により、様々な疾患が引き起こされることをご理解いただけたかと思います。代謝の正常化は、通常の医療ではリーチできない部分なので、栄養療法的なアプローチがとても重要です。

副腎、甲状腺、性ホルモンはお互い影響し合っているため、副腎→甲状腺→性ホルモンの順番に治療する必要があります。副腎疲労は大きなストレスがトリガーとなり、抵抗期から疲弊期に移行します。自律神経と体性神経は本来は独立した神経系ですが、継続的なストレスで、両者の間に単路がつくられ、弱い刺激でも自律神経が興奮するようになり、慢性的な自律神経失調症につながります。副腎疲労の治療としては、根本治療とセットでホルモン療法を行うケースがあります。コルチゾールはカタボリックを促進するため、DHEAを併用するとアミノ酸分解を抑制することができます。

甲状腺機能低下症に関しては、Ⅱ型と呼ばれる潜在的な甲状腺機能低下を抱えている人が多く見られます。甲状腺ホルモンのT4が活性型のT3に変換できない原因の一つに、コルチゾールスティールの存在があります。したがって、まずは副腎疲労を治すことが先決です。

女性ホルモン代謝異常は、多くの婦人科疾患の原因となっています。代謝異常の原因としては、環境エストロゲンの過剰な暴露や、エストロゲン代謝分解の低下などが挙げられます。乳がん治療には、抗エストロゲン剤などが用いられますが、無理に抑制するとホメオスタシスが働き、かえって症状が悪化することがあります。まずはエストロゲン代謝を正常化するために、生活習慣の改善と、適切なサプリメンテーションを行うべきでしょう。

精神疾患の栄養療法

宮澤賢史 · 2021年10月12日 ·

うつ病、統合失調症、ADHDなどの精神疾患にどのような栄養療法をしていけば良いのでしょうか。

本日の内容は、神経伝達物質の代謝に栄養が大きく関与しているのでその仕組みを知り、実際にどのようにしてそれらを判別するか、それを基に薬やサプリメントどのように使っていくかということについてお話します。

1.神経伝達物質の代謝とメチレーション

1-1. 本日の内容

・神経伝達物質の代謝
・神経伝達物質再取り込みトランスポーターたんぱくの合成に栄養素が大きく関与している
・神経伝達物質の状態を血液検査や症状などから推測できる
・それを元に薬剤や栄養サプリメントを調整することで症状の安定化を図れる

脳のバランスをとるのに重要なのは神経伝達物質の代謝とメチレーションの2つです。昨今、ゲームが流行っているのは、競争心を煽りご褒美をもらえ、毎日めまぐるしく変わる人間の報酬系に対する仕組みを全部実現しているためです。自分に役に立つことをすると脳からドーパミンが出て嬉しい気持ちになることを報酬系と言いますが、それがどんどん活性化していくと最終的に依存症になります。

Facebookもそのような報酬系の仕組みの尤もたるもので、「いいね」が今日は何個付いたかが気になる場合、完全に報酬系の奴隷となっています。

このように依存症は比較的身近な話ですが、精神疾患を持っていたり、生科学的なインバランスがある人は、まず脳の生化学状態を整えてから食事療法を取り入れた方がスムーズです。

脳細胞は脳の中に1,000億個あり、その細胞のひとつひとつが隣の1,000個の細胞と繋がっています。それをシナプスと言います。人の思考、行動、感情は全て、神経伝達物質と呼ばれる特別な物質が脳細胞から脳細胞に伝えられて起こります。

脳の刺激は電気で伝わり、電気回路がショートしないように少しだけ離れています。神経伝達物質という特殊な物質が伝達されることによって、考えたり行動したり、色々な感情が沸き起こったりします。

神経伝達物質はドーパミン、セロトニン、GABAなど何種類もあり、全て栄養から出来ていてそのまま脳機能に直結しています。ドーパミンはフェニルアラニン、セロトニンはトリプトファン、GABAはグルタミンという必須アミノ酸から代謝されてできています。グルタミンは条件付きの必須アミノ酸です。

分子栄養学とはもともと分子栄養精神医学から始まっていて、ライナス・ポーリング博士は、「脳は身体の他の部位に比べて栄養の影響を受けやすいから、精神医学から始めた方がいい」ということを提唱してます。

1-2. モノアミン仮説

多くのうつ病の薬は、モノアミン仮説に基づいて設計されてます。

・うつ病患者で 脳脊髄液中の5-HIAAの低下が見られる
・セロトニンの前駆物質であるトリプトファンをモノアミン酸化酵素阻害剤に併用すると抗うつ作用が増強する
これらのことから、うつ病患者の脳ではセロトニン神経伝達の機能低下が起きているという仮説が立てられる
                 Br J Psychiatry: 1967, 113(504);1237-64

うつ病患者の脳の脊髄液に5-HIAAというセロトニンの代謝産物が低く、うつ病の薬にトリプトファンを一緒に併用すると改善することから、うつ病患者の脳ではセロトニンがうまく働いていないのではないかという仮説が立てられ、これをモノアミン仮説と言っています。現在ではうつ病だけでなく、統合失調症や気分障害などもこのような仮説をもとに治療されています。

1-3. うつ病患者のすべてが低セロトニンとは限らない

問題は、うつ病の患者さんに実際にセロトニンが低いかどうかを検査していないままセロトニンを増やす薬が処方されるため、セロトニン症候群を起こす人がいるということです。セロトニン症候群とは、セロトニンが増えすぎて起きる副作用のことです。

SSRIとはセロトニンの取り込みを押さえて、シナプスでのセロトニンを増やす薬ですが、効果が見られないだけではなく副作用を起こす人がいることが問題です。セロトニン過剰となり、衝動性や攻撃性、自殺念慮を引き起こしたりします。基本的に栄養療法を含め、全ての治療は各人のセロトニン濃度に応じて量を調節する個別化医療が求められます。

今日の話は、精神疾患に対する栄養療法において、最大のデータベースを持っているウォルシュリサーチ・インスティチュートを基に構成されています。

ウィリアム・ウォルシュ博士
精神疾患患者に対して行った生化学検査数は300万件以上にわたり、過去に執筆した科学論文や記事200本以上

(行動障害 10,000件、ADHD 5,600件、統合失調症 3,500件、うつ 3,200件、自閉症 6,500件)

世界14ヵ国で300名以上、現在まで28ヵ国以上もの国で臨床医向け講演。

ウォルシュ博士の栄養療法を私が採用している1番目の理由は、分子栄養学の創始者のエイブラハム・ホッファー先生の正当な流れを組んでいるためです。ウォルシュ博士は、長年ホッファー先生と一緒に活動されてきた先生です。

2番目の理由として、その考え方をさらに発展させてエピジェネティクスという考え方を取り入れていることです。このエピジェネティクスとは、栄養が遺伝子の発現をコントロールしてるという意味です。この考え方が取り入れられるようになってから、今までよく理解できなかった精神医学の根本原因が判明しました。

3番目にはエビデンスが多いことです。去年亡くなったジャック・チャレムという方にメチレーションに関してアメリカで一番エビデンスが多い人を紹介してくれないかと頼んで紹介して頂きました。2年前、日本で講演をしてもらいましたが、内容がとても良かったのでシカゴに行って彼の研修を受けてきました。

1-4. 栄養素を併用した個別化医療

ウォルシュ博士は、個体差の重要性が大切で、心の病に対しては栄養素の不足よりも過剰摂取がより多くの悪影響を及ぼすとおっしゃっています。

鉄、メチオニン、葉酸、銅などは、過剰に投与するとかえって症状が悪化することがあるので、僕の場合、精神疾患の人は最初にマルチビタミン摂っていた場合は一時的に辞めていただいてます。

低メチレーションの人に葉酸を投与すると悪化します。葉酸はマルチビタミンにも入っているので、ウォルシュ博士によるとマルチビタミンも1度やめたほうがいいそうです。食事中の葉酸に関してはOKですが、栄養素でかえって悪化することがある程、脳はとても不安定です。

これに関しては自閉症の権威エイミー・ヤスコ博士も同じようにおっしゃっています。

下記は、脳のインバランスを的確に把握した個別化医療がどのくらい効果があるかという2010年のウォルシュ博士の論文です。

自閉症スペクトラム、ADHD、アスペルガー症候群、不安、双極性障害、うつ病、統合失調症および強迫性障害(OCD)を持つ患者567名に対して12か月間個別化治療を行い、QOLの改善度インタビューを行った。

110例(23.6%)が脱落、
221例(44.9%)大幅改善、91例(18.5%)が部分的改善

ACNEM Journal Vol 29 No 3 – November 2010

自閉症でほとんど改善しているのが45%、部分的な改善が35%、合わせて8割の人に何らかの改善が見られています。ADHDや躁鬱病など7〜8割の人に改善が見られてるという大規模な論文です。

1-5. 神経伝達物質の代謝とメチレーションに栄養素が大きく関与する

神経伝達物質の代謝

様々な神経伝達物質がある中、今日の主役はドーパミン、ノルエピネフリン、セロトニン、GABA、グルタミン酸です。

ドーパミンはフェニルアラニンからテトラヒドロビオプテリンや、ビタミンB6の影響を受けて代謝されます。ビタミンB6が不足すると、ドーパミンが生成されません。そしてドーパミンからノルエピネフリンへは、ドーパミンβヒドロキシラーゼという酵素によって転換されますが、そこに銅が重要となります。銅過剰になるとドーパミンが減って集中力を高めてくれる神経伝達物質であるノルエピネフリンが増え、過剰になると不安な気持ちが出てその結果意欲がなくなってきます。

ビタミンB6はセロトニンやGABAの合成にも一役買っているので、特にピロール障害があるビタミンB6が少なくなってしまう体質の人が、ドーパミン、セロトニン、GABAは作られにくくなります。

また、グルタミン酸は、グルタミン酸受容体にくっついて効果を発現します。グルタミン酸は学習や記憶にとても大事ですが、多すぎると興奮を引き起こすため、特に自閉症のお子さんには問題となります。過剰なグルタミン酸の働きを強くするのはカルシウムで、働きを抑えてくれるのは亜鉛とマグネシウムです。 

気を付けなければいけないのは銅と亜鉛のバランスです。銅と亜鉛はブラザーイオンで、お互いを抑えるように働いています。銅過剰の場合、亜鉛を沢山投与すれば、自然と銅が下がってきます。

これはNMDA型のグルタミン酸受容体です。

症状
目を合わせない、攻撃的、stims、自傷行為。ぼっーとする(オピオイド受容体も刺激される)

受容体抑制   
マグネシウム
亜鉛
リチウム

グルタミン酸の神経の過剰興奮がカルシウムの流入を引き起こして細胞死を引き起こします。自閉症のお子さんの脳を解剖してみると、多く見られるのは鉄とカルシウムで、カルシウムが異常に流入してるので神経細胞が死んでしまい、グルタミン酸神経の過剰興奮により脳に炎症を起こしています。

上記の症状を抑えるため、自閉症のお子さんはグルタミンを食事から抜かなければいけない時期があります。グルタミン酸からGABAへの転換がうまくいかないため、グルタミン酸が溜まってしまうためです。それはビタミンB6不足なのかもしれないし、水銀の蓄積なのかもしれません。グルタミン酸からGABAへの転換には色々な要素が必要で、ビタミンAやビタミンKの不足もこの転換を阻害してしまいます。

この過剰なグルタミン酸神経の細胞死を防ぐのが、マグネシウムや亜鉛、リチウムなどです。脳の生化学状態をコントロールするのは2つです。一つは神経伝達物質の代謝、もう一つはメチレーションです。

1-6. メチル化について

メチレーションはメチル化とも言い、メチル基が色々な物質に結合し化学構造が変わって、様々な変化が起きたり代謝が進みます。メチル化は分子や、シナプス、ヒストン、DNAなどにも起こります。

例えば、水銀にメチル基がつくとメチル水銀になります。無機水銀に比べてメチル水銀が悪いのは、体が食べ物として認識して腸からそのまま吸収され、脳や脂肪に行ってしまいます。魚の水銀はメチル水銀です。

また、子宮内でDNAに起きるメチル化は、妊娠の2、3週で確立して一生続きます。肝臓も目も皮膚も全ての細胞は同じDNAを持っていますが、なぜ肝臓になったり皮膚になったり目玉になるかというと、DNAの読むところが違うからです。メチル基が結合しているところは読まなくなります。

僕は一夜漬けタイプで、試験前になると教科書で絶対出なさそうな箇所は、山をはって思い切ってバツをつけていました。集中力を高めるためそこが目に入らないようにバツをつけるようなもので、DNAのメチル化とは、DNAの中で読まないところを設定されるということです。

この子宮内で起こるメチル化がうまくいかないと、余計な遺伝子が発現してしまい問題になります。自閉症のお子さんは、98%低メチル化です。遺伝的な要因で、ほとんどの場合両親が低メチル化なら、低メチル化同士の組み合わせで低メチル化になりますが、本当はメチル基がつかなければいけないところに子宮の中で低メチル化が起きて活性酸素に弱い個体ができやすくなります。

妊婦はそれを防止するために、葉酸を摂ることが推奨されてます。葉酸を摂らなければいけないのは妊娠2、3週目なので、妊娠する前から計画的に葉酸を摂らないと間に合いません。妊娠2ヶ月と言われたときには、もう遅いのです。

また、今回一番の話題は神経伝達されるシナプスで起こるメチル化です。メチル化とは、メチル基がくっつくことですが、メチル基はほとんどがメチレーション回路によって作られるSAMeによって供給されます。メチレーション回路で作られるメチル基の最大の供給源がSAMeなので、メチレーション回路が回ってない人はSAMeが少ないです。メチレーション回路は遺伝子変異や環境によって左右されます。

この遺伝子変異を回避するサプリメントが、活性化葉酸です。このシナプスで起こるメチル化は、シナプス間隙の神経伝達物質を減らす効果があります。シナプスにおけるDNAのメチルレーションと、全身におけるメチレーションがあります。

下記はメチレーション回路です。

メチレーション回路でメチオニンというアミノ酸をもとに、それがアデノシル基がついてSアデノシルメチオニンになります。このSAMeがメチル基の供給源なので、メチレーション回路が回ってない人はメチル基が十分供給できません。ここでできたメチル基は、DNAのヒストンに結合します。

1-7. 核と染色体とDNAとヒストン

染色体をバラバラにすると、DNAとヒストンからできています。ヒストンとはこのDNAの長い紐を巻いておく糸巻きのようなものです。DNAは一つの細胞の中で伸ばすと1.8メートルくらいあり、このヒストンという糸巻きでぐるぐる巻かれているために1/1000ミリの核の中に入ることができます。そのため、昔はヒストンはDNAを絡ませないようにするためのものという風に思われていましたが、実はヒストンはDNAの発現に大きく関与しています。

1-8. 転写が起こるしくみ

転写はDNAからタンパク質が作られる過程の一部で、DNAはmRNAにコピーをされて、そのmRNAをもとにタンパク質が作られます。この一連の過程を転写と言います。

エンハンサー領域に転写因子タンパクが結合することがはじまり

タンパク質が作られるためにはまず転写が行わなければなりません。転写は遺伝子のエンハンサー領域に転写因子タンパクが結合することから始まります。そのためエンハンサー領域にタンパクが結合できないと、タンパク質は作られません。

ヒストンは塩基性が強いので、酸性のメチル基が結合すると、ヒストン同士は縮んでエンハンサー領域に転写因子が近づきにくくなります。

ヒストンは強い塩基性のタンパク質であり、酸性のメチル基と親和性が高く、
アルカリ性のアセチル基とは反発しあう

逆にこのヒストンにアルカリ性のアセチル基が結合すると反発しあうため、ヒストンとヒストンの間が離れて、転写因子が近づきやすくなり、タンパクの合成が促進されます。メチル基が付くと、構造が密になり転写因子が近づきにくくなるので転写がストップするという仕組みです。

1-9. シナプルにおけるセロトニン量はメチレーションに比例する

メチル基がメチル化されるとタンパクの合成が止まり、これはすべてのタンパク質に当てはまります。メチル化が進むとヒストン同士が縮み、メチル化が進まないとヒストン同士は離れて、タンパクが作られます。

メチレーションが亢進している人はシナプスの再取込タンパク合成が抑制されており、
シナプス間隙におけるセロトニン、ドーパミン量は増加している
メチレーションが低下している人は、セロトニン、ドーパミン量は減少している

シナプスにおいて問題になるのは、セロトニンの取り込みのタンパクのことを指しています。タンパクが沢山作れるということは、このセロトニン取り込みタンパクが沢山増えます。この場合はタンパクが少ないためセロトニンの取り込み口が少なくなり、シナプスの間隙にセロトニンが沢山余ってしまいます。

逆にセロトニン取り込みタンパクが沢山増えるということは、どんどん取り込まれてしまいシナプス間隙にセロトニンが減ります。メチレーション亢進=神経伝達物質の増加で、メチレーション低下=セロトニン、ドーパミン量低下です。

オーバーメーションやアンダーメチレーションについては後ほど詳しく説明しますが、オーバーメチレーションとはメチレーションが亢進しいてることで、アンダーメチレーションはメチレーションが低下してることを言います。オーバーメチレーションでは、セロトニンもドーパミンも沢山分泌されますが、アンダーメチレーションはどちらも分泌されません。

アンダーメチレーション=回路が回らなくて、メチル基が足りないこと
オーバーメチレーション=メチル基が多くて、余っていること

アンダーメチレーション状態

自閉症スペクトラム  98%
反社会的人格障害    95%
統合失調感情障害   90%
反抗挑戦性障害    85%
神経性食思不振症   82%
うつ病        38% 

オーバーメチレーション状態

パニック障害      64%
妄想型統合失調症  52%
ADHD         28%
行動障害        23%
うつ病        18% 

オーバーメチレーションの人は神経伝達物質が多すぎるので減らし、アンダーメチレーションの人は少なすぎるので増やしてください。メチレーションの状態を診ることがとても大切です。

一般的に、自閉症スペクトラムの人は、98%アンダーメチレーションです。様々な人格障害とか、神経性食思不振症、82%の人がアンダーメチレーションです。反対にドーパミンが多すぎるオーバーメチレーションの人は、パニック障害や、いわゆる典型的な妄想型の統合失調症、幻覚が見える統合失調症も含まれます。

アンダーメチレーション

オーバーメチレーション

  1. メチレーション回路の遺伝子変異
  2. ヒスタミン過剰負荷
  3. たん白不足 
  1. クレアチン合成障害 AGAT GAMTのSNP
  2. アルギニンまたはグリシン不足
  3. メチルトランスフェラーゼSNP

アンダーメチレーションになる原因は、メチレーション回路の遺伝子変異です。メチレーション回路がうまく回らないのは、遺伝子に変異があることが一番の理由です。特に問題になるのは葉酸の活性化の遺伝子のMTHFRです。

反対にオーバーメチレーションになる一番の原因は、クレアチン合成障害で筋肉を作る酵素がうまく働かない人です。メチレーション回路で作られたSAMeは、7割が筋肉を作るために使われます。筋肉をつけられない人は、その酵素の分だけSAMeが余ります。オーバーメチレーションの人は、鍛えても鍛えても筋肉がつきません。

1-10. 第一部まとめ

  • 神経のバランスは、神経伝達物質の合成や分解に必要な補酵素、シナプスにおける再取込トランスポーターなどの影響を強く受ける
  • 神経伝達物質の代謝には銅とビタミンB6が必要
  • ビタミンB6不足で ドーパミン↓、セロトニン↓、GABA↓
  • 銅の過剰で、ドーパミン↓、ノルエピネフリン↑,酸化ストレス↑ ✽ ✽神経伝達物質再取り込みトランスポーターたんぱくの合成(つまりシナプスにおける神経伝達物質の再取込量)にはメチレーションが大きく関与している
  • アンダーメチレーションではシナプス間隙のセロトニン↓、ドーパミン↓
  • オーバーメチレーションではシナプス間隙のセロトニン↑、ドーパミン↑

神経伝達物質の代謝とメチレーションによって脳の全体の生化学状態が決まります。つまり銅と亜鉛のバランス、ビタミンB6の不足、メチレーション状態を見れば良いということです。

2. うつ病のタイプ別分類

2-1. うつ病を脳内の生化学状態で分類

こちらは日本語訳されているウォルシュ博士の本です。

博士は、うつ病の分類を大まかに5つに分けてます。精神疾患を持っている人は2/3がメチレーション異常で、2/3はメチレーション正常です。メチレーション異常の人や、銅亜鉛バランスが狂ってる人は症状が特徴的です。

アンダーメチレーションタイプ(38%)

メチレーションが低下しているタイプの人は、ドーパミンが少ないです。

  • 強迫神経症状
  • 季節性アレルギー
  • 完璧主義
  • 競争心が強い
  • 学校の成績はよい
  • 儀式的な行動
  • SSRIが効果的

強迫神経症状を持つ人は、いつも同じ方から靴下を履き、いつも同じ道を通って学校に行く、いつも同じ食事をとらないと気が済まないなどの行動をとります。ヒスタミンが多くなるため、季節アレルギー出やすいです。そして完璧主義で競争心が強く、負けず嫌いです。

オーバーメチレーションタイプの人はドーパミン過多の人です。

オーバーメチレーションタイプ(20%)

  • 鬱に加えて不安やパニック
  • SSRIや抗ヒスタミン薬に対して不耐性、
  • 化学物質アレルギーを持つ
  • 症状にもかかわらず、気立てのよい優しい人が多い
  • ADHDや学業不良といった症状は
  • アンダーメチレーションタイプの人の3倍

ドーパミンやセロトニンが多すぎて鬱になる人もいますし、不安症状がとても強いという特徴があります。なにかにつけて不安なので、パニックを起こしたりしますが、SSRIやボルザックなどの薬に対してかえって悪化する場合もあります。様々なことが次から次へと頭に浮かんできて、思考がまとまらない人が多いです。ドーパミンが大量に出たら学校の成績が上がりそうですが、意外とそうでもなく、絵が上手だったり音楽的な才能があったり芸術家思考の人が多いです。

2-1. メチレーションと症状

メチレーション状態には低メチル化と高メチル化があり、低メチル化の原因は葉酸の活性化酵素の変異が一番です。

ヒスタミンを代謝している酵素でもあるSAMeの合成が低くなるので、ヒスタミンが多くなって花粉症になります。メチレーション回路が回らないとドーパミンの合成が下がって、依存症体質の人が多いです。クレアチン合成酵素にメチル基が回るため、筋肉量は多くテストステロンが多くなり、性欲も強いです。

反対に、高メチル化の人はクレアチン合成酵素が下がっているため、いくら鍛えても筋肉がつきません。高メチル化の人はSAMeが余るので、ドーパミンがどんどん構成されます。創造性に長けていて喋り始めたら止まりません。検査はヒスタミン量で判定し、好塩基球の実数を測ります。

2-2. 評価法 ヒスタミンと好塩基球

ヒスタミンはSAMeによって代謝されてメチルヒスタミンになるので、低メチレーションの人はSAMeがあまり作られず、ヒスタミンが溜まって色々な症状を引き起こします。

上記のサプリは、ヒスタミンを代謝する酵素であるジアミンオキシダーゼです。消化酵素や高ヒスタミン薬を使うと、ヒスタミン量が狂ってしまいますが、一般的にはヒスタミン量からメチレーション状態が推測できます。血液中のヒスタミンは98%好塩基球の中に入っているため、好塩基球数で測定します。

ウォルシュ博士は全血中のヒスタミン濃度を測ることを推奨していますが、全血中のヒスタミン濃度を測れる検査会社が日本にはないため、血液中の好塩基球数から推測します。

2-3. 好塩基球数を求める

好塩基球数の求め方は、白血球×好塩基球の割合をかけてそれで100で割ってください。

白血球数 × 好塩基球(BASO)の割合(%)÷100

白血球数4800×
好塩基球(BASO)の割合(%)2.5÷100=120

好塩基球数<30 なら OM
好塩基球数>70 なら  UM

好塩基球数が30以下ならオーバーメチレーション、好塩基球数が70以上ならアンダーメチレーションなので、この方の好塩基球数はとても多いとわかります。

さらに詳しく診るためにはSAMeと、SAMeが代謝されたS-アデノシルホモシステインの比率を測るドクターズデータ社のメチレーション検査もあります。

もしこの検査をされるなら治療の前に行なってください。治療の後にやると結果が狂ってくることが多いためです。

2-4. 銅過剰タイプ(17%)

銅は人間の成長に不可欠な因子なので、妊娠中に上がったり、お子さんも上がります。ただ一部の女性では、出産後、正常に戻るべき銅のレベルが下がらない人がいて、これを銅過剰タイプといいます。

  • 強い不安感・パニック傾向がある
  • 産後うつ病を引き起こす可能性がある
  • 活動的である
  • SSRIで不安が増強する
  • 安定剤ではうつが治らない
  • ピル、ホルモン補充療法で悪化する
  • 敏感肌である

銅過剰タイプの95%が女性で、特にエストロゲン値が高くなる思春期、更年期、妊娠期に発症することが多いです。銅過剰になると、ドーパミンからノルエピネフリンへの過剰転換が起き、不安、パニック傾向や、産後うつ病の大きな原因になります。薬が効かないため、SSRIや安定剤でも効果がありません。そしてエストロゲンは銅をさらに悪化させるので、ピルで悪化するというのも特徴です。オーバーメチレーション状態と銅過剰状態の人が混合で合わさっている場合もいます。

2-5. 銅過剰の症状

検査では、銅と亜鉛のバランスを見ます。

セルロプラスミンを測ってる人は、酸化ストレスに直結する遊離銅を測ることも大事です。栄養サプリメントの中で特に鉄と銅は活性酸素の発生源になるので、気を付けてください。

鉄の害が出やすい人は鉄を乗せるタンパクの残りであるUIBCが少ない人です。いわゆる空の台車です。その数字が通常200なので、100ある人は鉄の害が出やすいです。銅に関してはセルロプラスミンというタンパク質が少なくて、遊離銅が多い人が銅の酸化ストレスの影響が出やすくなります。

2-6. 銅過剰の評価

銅過剰の評価方法は下記の通りです。

  1. 血中銅↑(>110)
  2. 血中亜鉛↓(<90)
  3. 遊離銅比率↑(>25%)

銅過剰活性酸素のことを考えなければいけません。血中度が高くて、血中亜鉛が低く、さらに遊離銅比率が高いことです。

遊離銅比率の計算式は下記のとおりです。

( 血中銅 – セルロプラスミン×3 )/血中銅 x100 (%)

遊離銅の比率が高い方はセルロプラスミンを増やすことが大事で、セルロプラスミンを増やすのに有効なのはビタミンAです。

2-7. ピロール障害について

ピロールとはヘモグロビンを作る時の副産物で、多く作られると尿中に排泄される物質です。体の中での重要性はそれほど多くないので、作られた側から排泄されていきますが、問題なのはビタミンB6と亜鉛が非常に結合しやすいので、沢山作られる人はB6と亜鉛が体から抜けていきます。このような体質の人のことを、ピロール障害といいます。

これは体質で、生まれつきB6と亜鉛不足なので、10歳になる前から症状が出ることが多いです。神経伝達物質のセロトニン、ドーパミン、GABAは全てB6に依存しているので、これらが不足してしまうがために不安やうつの症状が出ます。気分の変動が激しく、双極性障害(躁鬱病)と診断されることもあり、躁と鬱を繰り返し、気分が1分単位で変わることもあります。

ピロール障害の人はストレスがあると症状が悪化するため、亜鉛とビタミンB6を増量する必要があります。ビタミンB6が不足し短期記憶障害が出て、夢が思い出せない、本が読めないという症状が出てきます。

このピロールタイプの人は副腎疲労にとても似ていて、朝が弱く夜がとても強いです。ストレスに弱く、朝弱く夜強いという傾向は、副腎疲労にとても似ているので、ピロール障害の人が隠れていることがあります。

2-8. パイロルリアの評価

ピロール障害は、下記の二つの方法で評価します。

①尿中ピロール

尿中のピロールが15を超えたらピロール異常です。ただこの検査もハードルが高いので、亜鉛とビタミンB6が足りていないかどうかということから推測しましょう。

②亜鉛、B6量から推し量る

血中亜鉛↓、GOT>GPT、尿素窒素↓

血中の亜鉛の濃度と、GOTとGPTの差がB6不足を反映します。ピロール障害には尿素窒素の低下も関わってきます。

  • GOTとGPTは、共にビタミンB6を補酵素とするアミノ基転移酵素である
  • ビタミンB6は様々なアミノ基転移酵素の補酵素として働くが、その中でもGOT,GPTの活性が特に高い。
  • GPT ↑ なら肝機能障害 (脂肪肝、ウイルス肝炎)
  • GPT ↓ なら酵素、補酵素の活性が低下
  • GPTのほうがB6の不足の影響を大きく受ける。
  • 両者共に低めで、GPTがより低い場合には、B6不足
  • 両者共に高めで、GPTがより高い場合には、脂肪肝 (B6不足と脂肪肝があると、一見正常範囲に見える)

下記は、アラニン回路という経路です。

筋肉では糖新生ができないため、ピルビン酸がアラニンに代わり肝臓に行って、そこからグルコースが新生されます。その際に尿素ができるので、この回路がうまく回る人は尿素窒素の数字が高めです。

この回路がうまく回るためには、ピルビン酸からアラニンへの転換がされなければいけませんが、このピルビン酸とのアラニンの転換をするのがALT(GPT)です。ビタミンB6が足りない人はピルビン酸、アラニンの転換がうまくいかないため、尿素が下がってきて尿素窒素が一桁という人も中にはいます。

2-9. パイロルリアの症状

ピロール障害の症状は、ビタミンB6と亜鉛欠乏によるところが大きいです。

爪に白い斑点があると分かりやすいですが、亜鉛不足でALPが下がって成長障害が起きます。また、B6不足なので、副腎疲労症状や短期記憶障害が出たり、気分が不安定になります。

オメガ6系の脂肪酸がうまく作れないというのもパイロルリアの特筆すべき症状です。そのため、ウォルシュ博士によるとパイロルリアの人はオメガ3を摂りすぎてはいけないとのことです。

2-10. 重金属蓄積タイプ(5%)

  • 突然鬱が現れる
  • 腹部の痛み、けいれん
  • イライラ
  • 頭痛、筋力低下
  • エネルギー切れ
  • カウンセリング、薬が効かない

どれにも当てはまらない場合は、鉛や水銀、カドミウム、ヒ素などの重金属について考えてみてください。見分け方としては何のきっかけもないのに突然鬱になったりします。腹部症状があり、イライラや怒りが出てくることがあります。それぞれの暴露歴からも判断していかないといけませんが、他の4つの病態と重なってる場合がありますので問診が大事です。

2-10. 第2部まとめ

① 評価すべき事項

  1. メチレーション状態 亢進?低下?正常?(ドーパミン量を左右する)
  2. 銅過剰はないか?(活性酸素の発生量、ノルエピネフリン量に影響)
  3. パイロルリアはないか?(亜鉛↓、B6↓により様々な影響)
  4. 消化管の問題はないか?
  5. 重金属の影響はないか?

メチレーション状態、銅過剰、パイロルリア、の他に、消化管の問題がないかを確認してください。消化管の問題があれば必ず鬱になります。そして重金属の影響も聞いてみてください。複数の異常が合併することがあるので注意してください。特に合併しやすいのはメチレーションの低下とパイロルリア、メチレーション過剰と銅過剰です。

②うつ病の生化学タイプと神経伝達物質のアンバランス

   うつ病の生科学タイプ           神経伝達物質活性
     低メチレーション         低セロトニン、低ドーパミン
     高メチレーション         高セロトニン、高ドーパミン
      銅過剰               高ノルエピネフリン
     ピロール異常            低セロトニン、低GABA
病名でなく、メチレーション、栄養状態で処方を決める

うつ病の生化学タイプと神経伝達物質は、低メチレーションの場合は神経伝達物質は低くなり、高メチレーションの場合は高くなります。銅過剰の場合はドーパミンが低くなってノルエピネフリンが高くなり、ピロール異常の場合はB6が不足するので、セロトニンもGABAもドーパミンも作られにくくなります。

大事なのはうつ病、統合失調症、ADHDとかの病名ではなくて、脳の中の生化学状態で栄養療法を決めていくということです。うつ病でもセロトニンが高い場合と低い場合とあります。

3. タイプ別治療

生化学治療の原則

・神経伝達物質の合成に必要な栄養素の濃度を正常化する事。
→亜鉛、銅、B6の事

・標的栄養療法を使い、神経伝達物質の活動性を
エピジェネティックに制御する事→メチレーションの調節をするという意味

・フリーラジカルの酸化ストレスを軽減する事
→抗酸化治療(一番大事な抗酸化物質は亜鉛)

抗酸化物質も色々ありますが、大事なのは亜鉛、グルタチオン、セレンです。グルタチオンは体の中で作られる物質ですが、これら3つの抗酸化力が強いです。

亜鉛はメタロチオネインという抗酸化物質を作るのにとても重要です。メタロチオネインを積極的に作って解毒を促すというのがウォルシュ博士の考え方で、メタロチオネインを作るためには、血中濃度、亜鉛の血中濃度を100以上に保つと良いと提唱しています。

3-1. 検査すべき項目

亜鉛や銅、その他に検査をしておいた方が良い推奨項目として血中のホモシステインもあります。他にも25OHビタミンDと甲状腺機能は精神疾患に関わってくるところです。

  • 血漿亜鉛
  • 血清銅
  • ヒスタミン
  • 尿中ピロール
  • 血中ホモシステイン
  • 25OHビタミンD
  • 甲状腺機能  
  • GOT/GPT

もしピロール検査をしてみたい方は是非してみてください。尿中ピロール検査を請け負っているのは、アメリカのDHAというラボか、HDRI社です。正確に測ってくれるのは、DHAの方ですが、凍結したものを送らなければいけなくて、凍結保証のDHLで送ると確か送料が9万円します。さすがに高すぎるので、僕の場合はHDRI社のものを使ってます。ただ測定誤差がどうしても出るそうです。

3-2. 治療失敗の最も大きな原因

  • コンプライアンスの低下
  • OMの場合、服薬の量、複雑さ → 単純化
  • UMの場合、説明不足 
  • 子供の場合、明確なメリットを示す
  • 食事内容に介入する前に、主なインバランスを
    改善する方が好結果が得られる。
  • 多くの患者にとって、インバランスを修正する前に
    生活スタイルを大幅に改善するのは無理。
    (自閉症、ADHDを除く)

治療は、亜鉛、銅、ビタミンB6、葉酸などを補充していくことですが、治療失敗の最も大きな原因は、コンプライアンスの低下です。コンプライアンスとは、患者さんが服薬をちゃんとできてるかどうかです。

オーバーメチレーションの人の場合は、服薬の量が多かったり複雑さを嫌う傾向にありので、要望によっては単純化してあげることです。

アンダーメチレーションの人は、完璧主義で理論的な話が好きなので、説明が足りてないとうまくコンプライアンスがいかないですが、きちんと説明してあげたら100%服薬してくれることが多いです。

母親に連れて来られたお子さんの場合は、コンプライアンスはとても悪いです。食事の改善にもやる気がないです。親のメリットのために連れて来られているにしても、お子さんに対して明確なメリットがちゃんと説明できれば、コンプライアンスが上がることが多いです。

食事内容の改善がとても大事ですが、多くの人にとって生化学的なインバランスを修正する前に生活スタイルを改善するのは無理だということもあります。もし食事指導がうまくいかなければ、最初にこのインバランスを調整してあげると良いかもしれません。ただし自閉症の場合は、脳に炎症を起こしていてリーキーブレーンになっているので、食事の介入が必要だと思います。

今年の最初にメドマプスの方が来て自閉症セミナーがありましたが、自閉症に対して今一番有効な栄養療法のエビデンスの話をされていて、1位がメラトニンで、2位がオメガ6とオメガ3とビタミンB6でした。

3-3. 治療の基本

  • High Pyrroles: 亜鉛, B6/P5P
  • Overmethylation: 葉酸、ナイアシン
  • Undermethylation: メチルB12, SAMe
  • Low Zinc: 亜鉛
  • High Copper: 亜鉛、モリブデン
  • Free Cu high: ビタミンA,抗酸化物質

ピロールの場合は亜鉛とB6、B6が効かない場合は、ピロールだと判明した場合は活性型のビタミンB6を併用して使ってきます。ピロールの患者は、例えばB6を200mg、P5Pを50mgみたいな感じで使っていきます。

オーバーメチレーションの場合はメチル化を低下させる働きがある葉酸とナイアシンを使います。アンダーメチレーションの場合はメチル化を亢進させる働きがあるSAMeと場合によってはメチルビタミンB12を使います。

亜鉛が低い場合は亜鉛を、そして銅が高い場合は亜鉛と場合によっては銅と拮抗するモリブデンを使うのも良いでしょう。遊離銅が高い場合は、酸化ストレスが問題になるのでビタミンAと抗酸化物質を使います。

3-4. アンダーメチレーションタイプ

治療:SAMe もしくは メチオニン
・Cal/Mag
・mB12
・治療効果に1か月以上
・就寝前にイノシトール
・葉酸をさけること
治療のコツ
・完全に理解したうえで注文したい完璧主義者が多い
・考え方を受け入れられれば100%摂取する

アンダーメチレーションの人には、SAMeそのものを使うか、その前駆体のメチオニンというアミノ酸を使っていますが、メチオニンの場合はSAMeに変換するのにマグネシウムが沢山必要なので、一緒に摂る必要があります。欠かせないのがマグネシウムで、上にはCal/Magとありますが僕はマグネシウム単独で使っています。時にはメチルビタミンB12を使うといいですが、かえってイライラする人もいるので、腸内環境を治してから使った方が良いです。

タイプ別によって、症状が落ち着くのにかかる時間が違います。アンダーメチレーションの場合は1ヶ月以上、大体2、3ヶ月かかります。メチル化を亢進させるのが目的なので、メチル化を低下させる葉酸は避けた方が良いと思います。

3-5. オーバーメチレーションタイプ

診断:
血中ヒスタミン 40以下
血中Folate ↓ 好塩基球30以下
治療:
・葉酸塩 or フォリン酸なら少量
・B12
・ナイアシン/ビタミン C
・マンガン
・2,3週間悪化の時期を経て1か月後から改善
治療のコツ
あまり多くのサプリを摂りたくない人多い、最初に最大のサプリ個数を決めておく。マルチを使う、最低限必要なものを使う

オーバーメチレーションの場合はメチル化が亢進してるので、メチル化を低下させる葉酸を使います。ビタミンB12は使う時と使わない時がありますが、葉酸がうまく効かない場合はナイアシンを使います。ナイアシンは徐々に増やしていきますが、なかにはナイアシンで肝障害が起きる人がいるので、気をつけてください。

ナイアシンの厚生労働省の推奨量は30mgなので、3g使うならモニタリングしながら使った方が良いです。不安症の人はナイアシンを重宝しますが、諸刃の剣なのでモニターが必要です。ナイアシンフラッシュも起こるし、コレステロールが下がる人がいますから、コレステロールが元々低い人はナイアシンの使用は考えたほうがいいかもしれません。コレステロールはとても大事です。僕もナイアシンを毎日飲んでたらコレステロールがかなり下がりました。500mgだったら大丈夫ですが、1,000mgだと下がる人は下がります。

マンガンはアセチルコリンを活性化する働きがあります。アセチルコリンが活性化するということは、ドーパミンを抑えるということです。アセチルコリンとドーパミンというのは反対の働きをして成長障害が問題になるので、大人のみに使うようにします。オーバーメチレーションの人は、場合によっては2、3週間悪化して、その後1ヶ月後から改善することがありますので、1ヶ月未満の始めた時に不安を癒すフォローが必要です。

3-6. 銅過剰タイプ

治療:
銅入りのサプリメントを止める。
水道にフィルターを付ける
亜鉛
モリブデン & ビタミン E
銅の急降下を防ぐため少量からスタート
改善まで2ヵ月

銅過剰タイプの人は、当然ですが銅のサプリメントを使わないでください。アメリカには、銅とか鉄がフリーのサプリメント結構ありますが日本は普通に入っています。銅がいつまでたっても高い人は、水道にフィルターを付けた方がいいかもしれません。

治療には、亜鉛とモリブデンを使います。統計によると、亜鉛の量を倍にすると9ぐらい上がってきます。亜鉛は、普通食事から10mgくらい摂っています。サプリメントで20mgに増やしたら血中レベルが9上がり、40mgに増やしたらさらに9上がります。

血中濃度を100にするためには、逆算してどれくらいの量を摂るかを決めていったら良いと思います。亜鉛は最初から目的量を摂るのではなく、少量から始めた方が良いです。亜鉛とカドミウムと水銀は同族元素なので、カドミウムが体に蓄積されていた場合にカドミウムが一気に動いて腎障害を引き起こすことがあるため、亜鉛は少量から使うと良いでしょう。

3-7. ピロールタイプ

治療:
・Zinc
・B6 and P5P
・ピロール>40ならオメガ3を避ける
・抗酸化物質があるとよい(E,C,biotin)
・1週間程度で改善傾向がみられる
治療のコツ
・ストレスに応じて増量が必要な時がある
・ストレスの持続時間中、亜鉛を25-50mgとB6を100mgもしくは、P5Pを50mg毎日増量。
・ストレスが終わったら、元の投薬に戻す。

ピロールタイプの人は、亜鉛とB6不足なので、亜鉛を25mgから、そしてビタミンB6を100mg+P5Pを50mg使っていきます。様々な治療の中で一番治療反応性が早いのは、亜鉛やビタミンB6の治療です。ビタミンB6は水溶性物質なので、効果が出るのが早いです。ピロールタイプの人はストレスに弱いので、ストレスがある場合は量を増量して、ストレスが終わったら元の投薬に戻すと良いでしょう。

3-8. 遊離銅過剰の場合

セルロプラスミンを測っている方は、遊離銅を計算してみてください。

  • 自閉症の多くの症状は酸化ストレスと関連
  • 脳内酸化ストレス過剰が統合失調症の特徴
  • 抗酸化物質+ビタミンA(CPを増やす効果)
  • βカロテンでなくビタミンAを使う事
  • 高齢者では念のため血中濃度チェックを
  • 亜鉛ももちろん

遊離銅は酸化ストレスと関係していて、特に自閉症や統合失調症の場合は酸化ストレスの調整がとても重要です。セルロプラスミンを増やすために抗酸化物質とビタミンAを使ってください。ビタミンAはベータカロチンではない方が良いです。ベータカロチンはビタミンAの医療体ですが、体の中でうまくビタミンAに分かれてくれないと言われています。

ビタミンAをどれくらい使うかは人により違い、僕は3〜6万IUぐらい使いますが、高齢者の場合、念の為血中濃度をチェックした方がいいです。

3-9. 低ビタミンD

  • 正常範囲は 25-30 ng/mL以上だが、50-100ng/mL を目指す
  • 最低1000IUできれば2000IU以上
  • 半減期は2週間なので週1回まとめての摂取でもOK
  • (脂肪吸収がちゃんとできていれば) 投与開始後3ヶ月で再検査を

ビタミンDは、50ng/mLぐらいあった方がいいです。日焼けを毎日していれば、必ずしもサプリメントで摂る必要はないです。ただし必要な日焼け量には、毎日水着で歩くくらいの日照時間が必要となり難しいし、ビタミンDの産生能力は体質にもよります。血中濃度を上げるには、最低2,000IU以上摂るのが良いです。半減期は15日なので、週一回まとめての摂取でもOKと言われていますが、脂溶性ビタミンなので胆汁が出てるかどうか確認が必要です。コレステロールが低い人は難しいでしょう。

上記はビタミンDの血中レベルを上げると、どれだけの疾患が予防できるかという表です。

癌や1型糖尿病、多発性硬化症のような疾患は、ビタミンDの血中レベルと防御率が密接に関係しています。40〜50のビタミンDレベルあった方が良いと思います。多くの疾患はこれくらいのレベルにしておけば防ぐことができると書いてます。ドーパミンが少なめの人、下痢型の過敏性腸の症状がある人は特にビタミンDを投与した方がいいです。

3-10. 甲状腺機能低下

  • チラージン末(乾燥甲状腺末)は販売中止
  • ARMOUR THYROID 
  • チラージンとチロナミンを使い分ける。
  • チラージンと鉄、セレンを併用する
  • T3過剰は不安、動悸
  • 副腎疲労を治す

甲状腺が低下していたら昔はチラージン末を使っていましたが、震災で工場が閉鎖して、製造中止になってしまいました。このチラージン末は天然のブタの乾燥甲状腺で、T4とT3が自然な形で入っていたのですがもう販売していないので、ARMOUR THYROIDを使うか、もしくはT4とT3の製剤を使い分けるかで調整する場合があります。

僕はよくT4に加えて、鉄やセレンなどT4からT2に変換を促す栄養素も一緒に摂ってもらいます。甲状腺機能低下症は副腎疲労のベースの上に乗っかってくるので、一番大事なのは副腎疲労を治すことです。副腎疲労があったら、副腎疲労を最初に治してください。

3-11. 服用の際の注意

  • ほとんどの物は食後(亜鉛、B6は特に)
  • 甲状腺ホルモンやSAMeは食間に
  • 統合失調症、自閉症、躁うつ病では高用量が必要
  • コンプライアンス低下、成長期、ストレス過多、
  • 吸収不良、頭部外傷、薬物乱用、低血糖症では効果まで時間がかかる
  • UMではホモシステイン上昇に注意
  • (B6,B12,TMG,セリンで治療)
  • 高用量亜鉛による銅症状に注意
  • 亜鉛倍量で9ずつ上昇
  • バルプロ酸、ヒスチジン、サイアザイド利尿薬は
  • 亜鉛濃度を下げる

サプリメントの服用の際の注意点は、ほとんどの場合は食後で良いですが、甲状腺ホルモンやSAMeは食間の方が良いです。

うつ病とADHDと、統合失調症と自閉症はそもそもの根本が違います。うつ病と躁鬱病とは全く違う病態です。これらの疾患では高容量必要になることが多いです。

ホモシステインを事前に調べている方は、アンダーメチレーションではSAMeを使いますが、SAMeを使うと回路がぐるぐる回ってホモシステインが急激に上がり、動脈硬化のリスクになる場合があるので注意をしてください。ホモシステインが元々高い人は、最初にB6、B12を摂ると下がります。

4. 症例

4-1. 症例1 33歳女性、うつ、慢性疲労

症状
■朝起き上がれない
■首、肩、背中、腰のこり、痛み
■倦怠感が続く
■頭がぼんやりとする
■疲れて眠気がくるのに、寝付けない
■アレルギー(幼少より皮膚疾患。良くなったことが一度ない。
  花粉症は高校生の頃より)

■精神的に鬱気味

これらの症状による問診と血液検査などの検査結果の両方とも重要なので、現病歴をいかに詳しく聞くかが、メチレーション状態や生化学インバランスを診るコツです。

僕の場合は、問診票を使って洗い出していますが、それをもとにさらに聞き込みをします。自分からは言いたくないこともあり、聞かれれば答えるというセンシティブな患者さんは、トラウマや依存症のことなどを僕に話さず他のスタッフに話していたりします。聞きにくいことは、スタッフに聞いてもらっても良いと思います。

それをもとに問診をして先ほどの症状別の表を元に、これに当てはまるかとか、これはどうですかとかいうのを質問してください。

問診票

  • 表現が難しい症状もある
  • 症状の重症度の経過を追っていくとよいでしょう。
  • スタッフが問診できるようになってもらいましょう
  • 一緒に見て、項目を解説し、適切に項目を埋めるられるように手伝ってあげましょう
  • 症状表を読み込む
  • それぞれの症状のバランス感覚が大切。
  • 100%の特徴を満たす人はいない
  • 40%ならそれはすごく特徴を満たしている

症状には重要度がありそれらを全て聞くのは大変なので、確定的な症状を中心に聞いていくと良いと思います。アンダーメチレーションだったら完璧主義ですかとか、毎日靴下を同じ方から履かないと気が済まないですかとか。水道の元栓を何度も締めないと気が済まないかなど聞いてみてください。

大事なことはバランス感覚で、100%の特徴を満たす人はいません。どちらかに40%当てはまれば上々です。

これまでの対処
心療内科 使用の薬:リボトリール、レンドルミン
サプリメントビタミンCビタミンB系、ビオチン亜鉛ボスウェルケルセチンミヤリサン
ブルーベリーエキス 他
体調に変化の自覚症状があったのは、ビタミン系サプリ、亜鉛、整腸系
生活習慣
◇喫煙 30歳くらいの頃、あまりの体調の悪さに吸えなくなってしまい、以後1年以上禁煙状態となったが、その後仕事のストレスから喫煙再開。
◇飲酒 もともと好んでいたのにも加え、20代の頃は、仕事や生活のストレス、不眠等の解消の為、ほぼ毎日。休肝日はほぼ無い状態。28歳頃より体調の悪化に比例して、少しずつ飲めなくなり、一時禁酒状態になるも最近は体調が良い時には時々たしなむように。
◇幼少より甘いものが苦手だったが、喫煙をやめた後好む傾向になる。味の濃いものや塩味・タンパク質系は好物。糖質制限をすると調子がいい

これらのことを踏まえてさらに見ていきましょう。

これまではリボトリールやレンドルミンという睡眠薬や、色々なサプリメントを使って、自覚症状が変化あったのはビタミン系、亜鉛、整腸系でした。生活習慣では喫煙と飲酒がやめられないっという依存状態が見られます。

食の嗜好としては、塩味、たんぱく質系が好物とあり、塩味が好きなのは副腎疲労の可能性があります。糖質制限をすると調子が良いというのは要するにタンパク嗜好だということです。タンパクを摂ると調子が良いということは、メチオニンを摂るとSAMeがいっぱいできて、メチレーション回路が回るのかもしれません。

血液データも見てみましょう。

この人の場合は、白血球6,420で、好塩基球パーセンテージが1.1なので、好塩基球数の実数は70ぐらいです。ギリギリでアンダーメチレーションになります。血液データ的に色々問題はありますが、アレルギーや鬱があるのはアンダーメチレーション、寝付けないのは両方の働きがあります。不安が強いのは、オーバーメチレーションの症状でしょう。

リボトリールやレンドルミンなどの睡眠薬系が効くのはオーバーメチレーションの人の特徴なんですけども、必ずしもそうとは限りませんので注意してください。依存症体質はアンダーメチレーション、タンパク質好物もアンダーメチレーションです。この方にはアンダーメチレーションの治療をしました。

4-2. 低メチル化の特徴

  • 治療に抵抗性のあるうつ
  • 表向きは落ち着いているが、内心は神経質
  • 強迫神経症の傾向、もしくは強迫神経症
  • 学生時代は自発的であった
  • 完璧主義者
  • 学校やスポーツ、もしくは他の分野で競争心が強い
  • 内向的:孤立しがち
  • 権力者に対して反抗的
  • 柔軟性がない
  • ヘビースモーカー、ギャンブラー、その他の刺激性の強い物事への依存
  • ベンゾを長く使うほど、悪化する。メチル基を枯渇させるから。

アンダーメチレーションの人でも睡眠薬が効く人は効きます。ただ大事なことは、ベンゾジアゼピン系の抗不安薬や睡眠薬を長期間使ってる人はメチル基が枯渇しているので、アンダーメチレーションを助長してる場合があります。薬を漸減していくことが求められます。薬の離脱症状を最小限に抑えるには、高タンパク食が有効です。

4-3. 症例2 35歳女性

会社業務非常に多忙
朝9時から夜19時まで4年間激務⇒ストレスの調節がうまくいかない
その後、非常に疲れやすくなった。それが3年くらい続いている。
症状
■朝、起きることが出来ない。⇒ 朝弱く、夜に強い
■倦怠感が強い
■月に1回は疲れて寝込んでしまう。
■月経前症候群が強い
■便秘傾向
食事
朝はスムージーのみ、昼、夜の2食⇒朝は食事、サプリが飲めない
甘いもの、コーヒーが大好き 但し、食後に眠くなる

この方は、典型的な副腎疲労タイプのパターンです。

ヘモグロビンが11で、フェリチンが6.5しかないので貧血がひどいですが、他のデータを見てみるとGOTとGPTの差が離れていて、亜鉛とALPが低いですから、一見して亜鉛とB6不足です。メチレーションを表す数字は白血球の8,400と、0.7%かけると、好塩基球の実数は70くらいなのでメチレーションは正常だと思います。

4-4. ピロール障害の特徴

  • 極度な感情の起伏がある
  • 幼少時代から高い頻度で発生する恐怖感。
  • 短期記憶障害
  • 本が読めない
  • ストレスに弱い
  • ヒステリー
  • 夢を覚えていない
  • 朝の吐き気
  • 朝食をとらない
  • 宵っ張り

ストレスの調節が悪い、朝弱い、朝食を抜いてるというところはピロール障害の可能性大です。ご自分では言わないことがあるかもしれないので、夢を見るか、ストレスに弱いか、子どもの頃のことについてを問診で追加して聞いてください。

4-5. 症例3 40歳女性 気分の落ち込み、慢性疲労、妊娠希望

症状
■肺炎と副鼻腔炎を患い、以降疲労が抜けない。
■最近2ヶ月は特に顕著で頭痛と少しめまいがある。
■少し外出しても疲労を感じるようになった。
■気分の落ち込みあり。
■ 空腹時に動悸、めまいすることも2度あった。
■ 不妊治療のため、8ヶ月前から漢方医のもとさまざまな栄養補助食品は摂取している。
■ 少し改善したように思われたが、ここ最近疲労感が強くなった。
■フルタイム勤務で二人目不妊。

右上2本、右下2本、左下1本
アマルガムあり

この方の症状の原因は、重金属の影響です。結構アマルガムが入っているのにもかかわらず、水銀が振り切れるほど出ていないので、恐らく重金属の排泄障害があるのでしょう。身体の中にどこかに炎症を起こしていたり、腸内環境がうまくいってない場合、上咽頭炎がある場合は、炎症のせいでグルタチオンが枯渇していて水銀がうまく排出できなくなってしまいます。

4-6. 重金属タイプの特徴

  • イライラ、しばしば怒り
  • 学業成績と精神状態が比例
  • トリガーもなく突然発症
  • 人格の変化
  • 持続する腹痛(食事によらない)
  • 口腔内金属味
  • 息がくさい デトックス治療で軽快

重金属によるうつの症状は、突然の発症や、腹痛を伴う、口腔内に金属の管があるなどがありますが、治療的診断によればデトックス治療をしたら軽快するということが一番の特徴だと思います。

4-7. 症例4 39歳女性

  • 高校生からレクサプロ、ジアゼパム、トラムセット、マイスリーなど使用
  • ヒスタミン72 銅102 亜鉛102 CP23.2 KP20.78
  • ヒスタミン↑からUM しかし、ジアゼパムに依存性あり
  • UM+KPの処方にて徐々に良くなっていた。 しかしストレスにより最近増悪し、2㎎を1時間おきに使用しても収まらず、OMと考えるようになった。
  • 症状はUM,OMの両者の特徴をもっている
  • 不安とうつと自殺念慮があるが、二人の子供がいるため思いとどまっている様子
  • 彼女にはレクサプロとベンゾの両者が必要に思える。
  • 同様に彼女にはSAMeとナイアシンの両者を投与すべき?

ヒスタミン72はやや高く、銅102、亜鉛102、CPはセルロプラスミン23.2、KPとはクリプトピロールで20.78、ピロールが高いです。

アンダーメチレーション、ピロール、銅が102ですが、亜鉛は低くないですが、セルロプラスミンが23.2で少し低いです。この方の場合はアンダーメチレーションとピロールの処方をして徐々に良くなったそうですが、ストレスによって増悪してうまくいかないということでした。診断が間違ってオーバーメチレーションだったのではないかと考えるようになったそうです。

症状はアンダーメチレーション、オーバーメチレーション両者の特徴があります。オーバーメチレーションの特徴の自殺念慮があって、不安が強いです。二人の子どもがいるためになんとか自殺を思いとどまってる状態です。

アンダーとオーバーの両方があるから、SAMeとナイアシン両方入れた方がいいのではないか。その場合、葉酸をどうすればいいかという問題になります。ウォルシュリサーチ・インスティチュートの掲示板にあった症例ですが、両方あると確かに迷います。

一般にアンダーメチレーションの人はSAMeを使いますが、有機酸検査で葉酸不足と出る人もいます。ただ、アンダーメチレーションの人は、葉酸は摂ってはいけないので、この場合どうしたらいいのでしょうか。多くのアンダーメチレーション患者は葉酸欠乏ですが、うつ病症状にある場合は葉酸は避けるべきというのが、ウォルシュの答えです。

4-8. 葉酸どうすればいい?

患者がUMで、SAMeでうまく反応したが、有機酸検査では葉酸不足と出ている。葉酸を摂るべきでしょうか?

  • 多くのUM患者は葉酸欠乏。しかし うつ病、不安、強迫障害、運動障害が主な症状である場合、葉酸は避けるべき。
  • 多くの場合、メチルフォレートがメチル化を改善するが、全ての形態の葉酸は強力な脱アセチル化酵素阻害剤として働き、セロトニン神経伝達を低下させるため、悪化する。
  • その一方で、低セロトニンが病態に関係しないUM患者(自閉症患者など)は葉酸治療が奏功する。
  • 患者治療プログラムを考えるときにはメチレーションとエピジェネティクス両者を考慮する必要がある。

うつ病や不安など低セロトニンが病態に関係しないアンダーメチレーションの人は葉酸を摂るべきです。自閉症の人は低メチレーションなので、葉酸を摂ったほうがいいです。セロトニンが第一義に関係しないからです。セロトニンが第一義に関係するうつ病の場合は、葉酸を避けた方がいいということです。

シナプスにおけるメチレーションと、全身におけるメチレーションがあり、葉酸はメチレーション回路を回します。ですがシナプスにおいて葉酸を入れると、メチレーションを低下させます。そのためうつ病や低メチレーションの人には葉酸は使わない方が良いですが、自閉症の人の低メチレーションは使った方がいいです。

4-9. 症例5 61歳女性 ベンゾジアゼピンが手放せない

  • 20才の時からずっと心配性、不眠が続いている。
  • 治療方針について週に数回質問の電話がかかってくる。
  • 非常に神経質。
  • hsCRP 1.0
  • Glu 83、インスリン5.6、HOMA-IR 1.1
  • TSH 3.38 、fT4 1.3; fT3 2.6;
  • フェリチン28 Cp 18
  • Cu 69
  • Zn 74
  • FC%21.7
  • FCI 15 WNL Cu:Zn 0.93

甲状腺機能は潜在的に低下していて、低血糖気味です。

4-10. ウィルソン病

  • 常染色体劣性遺伝 胆汁中への銅排泄障害による
  • 先天性銅過剰症。
  • 血清セルロプラスミン低下(20mg/dL未満 )
  • カイザー・フライシャー角膜輪 
  • 精神神経症状 

この方は、遺伝的な銅の蓄積病であるウィルソン病です。角膜に、銅が溜まっていて、カイザー・フライシャー角膜輪ができる有名な病気で、精神症状も出ます。血中銅が下がってくるのが特徴的です。血中銅が低くてもほとんどはウィルソン病ではないですが、精神症状や肝硬変があり、血中銅が下がってたら、このような病気もたまに隠れています。

セルロプラスミンが低く、遊離の銅が低いのが特徴です。

4-11. 効果が出るまでの期間

SSRI       数時間〜         輸送体に結合し、
                      セロトニン活性を上げる
ビタミンB6 1週間〜          血中濃度上昇
亜鉛       2ヶ月以内         MT合成亢進
ナイアシン、  1,2ヶ月          輸送タンパクの遺伝子発現亢進
葉酸など
SAMe 3〜9ヶ月         輸送蛋白の遺伝子発言抑制、
                     タンパクの半減期に関わる

治療の効果が出るまでの期間は、薬に比べて時間がかかることが多いです。時間がかかるということを最初からお伝えしておくと良いです。治療にはモニタリングが必要ですから、亜鉛、銅、セルロプラスミンは3ヶ月後に測ってみたら良いと思います。2ヶ月で変わることは多いですが、亜鉛のレベルは誤差が出ます。朝と晩で測っても異なるし、尿欠してたら亜鉛が高く出ます。亜鉛は摂っている量が倍になると、9〜10くらい血中濃度が上がってくるのが一般的です。そこから大きく外れてたら再検査してみてください。

マーケティング戦略の用語でUnder-promise and over-deliverという言い回しがありますが、約束を控えめにして結果を大きくした方が喜ばれることが多いです。特に治療期間の場合は、1年かかりますと言って3ヶ月で治ったら喜ばれますが、逆だとひどい目に合うので注意してください。

特に自覚症状の改善度については、こちらが改善してると思っていても、患者さんが自分で良くなってることに気が付いてないということは、良くなっていないということなので難しいところです。

4-12. 薬との使い分け

  • 初期の数か月は併用が原則
  • 後に明確な症状改善が得られていれば、精神科医の元での慎重な減薬を相談
  • 減薬の目標は、向精神病薬の中止ではなく「最善の効果が得られ、副作用が少ない投与量を明確にすること」

自閉症、統合失調症、躁鬱病は減薬が難しい病態なので、完全に中止するのではなくて、副作用が少ない投与量まで減薬することを目標にしてください。

4-13. 副作用について

  • 亜鉛、B6は嘔気を起こすことがある(特に初期から大量に入れた場合)
  • 亜鉛が不安を起こす事がある(銅に影響するため)
  • 亜鉛は鉄の吸収を阻害する
  • UMにマンガン投与はパーキンソン症状悪化
  • B6十分な人にB6投与は悪夢
  • OMにメチオニンは不安、自殺企図
  • ピロール以外の治療は時間がかかる 治療初期に悪化する事がある

亜鉛を飲んで吐き気を感じる方は、朝食に摂らずにお昼や夕食後に摂ってください。また、亜鉛と鉄欠乏がある方は、鉄は亜鉛の吸収を阻害するので、鉄欠乏が重度出ない限り同時に摂らないほうが良いでしょう。

アンダーメチレーションの方でマンガン投与する人はあまりいないと思いますが、ドーパミンを抑えるため、パーキンソン症状が悪化することがあります。

B6も過剰摂取をすると悪夢が出ることがあるので、オーバーメチレーションの場合は、菜食主義にした方が良いです。アンダーメチレーションの人は、いっぱい肉を食べてメチオニンを作った方が良いでしょう。このようなことは、事前の説明が大事です。

4-14. 妊娠したらどうするか

SAMe
・依存している場合、出産までは50%減量。200mg以上を服用しない。
そうでない場合、最初の4ヶ月間は中止が推奨
・SAMeが優先的に胎児に行き、潜在的に問題を引き起こす可能性
・赤ちゃんが子宮内の非メチル化環境で発達することは理想的ではない
葉酸 ・毎日800μg以上(特に妊娠第2期まで、二分脊椎、自閉症の予防)
亜鉛 ・ 投与量の半分に減量。
・胎児の血管新生に対する銅の重要な効果を損なう可能性。
・亜鉛レベルが低すぎると胎児の成長が損なわれるので適量は必要
ビタミンB6 ・投与量を半分にする。水溶性ビタミンであるため、速やかに変化。

妊娠した場合、SAMeは出産まで50%減量してください。そうでない場合は、子宮の中のメチル化に影響しないためにも最初の4ヶ月間は中止が推奨されてます。妊娠後期なら非常に安全だといわれているため、産後うつの人にSAMe使う場合がありますが、統合医療の情報発信を見ると、安全性が確立されていないとあるため、慎重に扱われた方が良いと思います。

葉酸を摂ることに異議はないですし、亜鉛も胎児の成長に絶対必要ですが、多すぎると血管新生に役立つ銅が少なくなりすぎるので、投与量の半分に減量するのが推奨されてます。

この治療は根本治療ではありません。亜鉛やビタミンB6、SAMeもサプリをやめたら元に戻るので、そこが一番の問題点です。遺伝的な性質を改善する方法ではないということ、コストを常に考えないと続けられません。そのため症状が安定したらより経済的な方法を探っていく必要があります。

5. うつ以外への疾患への対応

5-1. ADHDの治療

不注意が主症状の場合
半数以上に葉酸、B12,亜鉛、コリンの欠乏が見られる。
これらサプリメンテ―ションで集中力改善が期待できる。
衝動性、多動が主症状の場合
銅亜鉛バランスが大きく崩れていることが多く、これがノルエピネフリン、
アドレナリン過剰症状をもたらす。
両者を合併している場合
さらにメチレーション異常、重金属負荷、ピロール異常などが背景に
あることも多く、検査による正確な診断が必要。

ADHDは、注意欠陥不安障害です。不注意が症状の場合と、多動が症状の場合でサプリメントの使い分けをしたらいいというのがウォルシュ博士の見解です。基本的にはメチレーションや、銅亜鉛バランスを見てください。

ADHDで注意することはタイプ別で治療が違うことです。ADHDの患者さんは不注意になったり過集中になったりしますが、これは注意が欠陥しているのではなくて、注意の調節力が欠陥しています。薬で対処できることとできないことがあるので、この注意力を調整するためには個別化医療による栄養素の投与が良いと思います。

行動障害が合併することがあるので、銅・亜鉛バランスがとても大事です。暴力行為は、銅・亜鉛バランスが狂っている人が多いです。その辺りについて、ウォルシュ博士の本にとても詳しく書いてありますのでぜひ買って読んでみてください。

半年以上の栄養療法で薬を中止できてる人は70%いるので、うつとADHDはどちらかというと軽症です。

5-2. 強迫神経症

比較的軽症な強迫神経症という病気があって、ほとんどの場合が低メチレーションです。このような方には、メチル化の治療をしたら良いと思います。グルタミン酸の障害もあるので、Nアセチルシステインがいいという報告もあります。

  • 重症は殆ど低メチレーション、MTHFRに変異あり
  •  さらに、メチル葉酸にて症状悪化
  • ドーパミン受容体活性の低下が報告されている。
  • SAMeやメチオニンで効果が見られることが多いが事前に
  •  ホモシステインを評価する。心血管リスクがある例では
  •  事前にB6などでホモシステインを下げておく。
  • もう一つはNMDA受容体のSNPによるグルタミン酸
  •  トランスポーター障害。これの正常化にNACがよい。

5-3. 脳に非可逆性変化が生じている栄養療法だけでは×な疾患

可塑性が関係する
•依存症
•過食症
酸化ストレスによるメチル化の恒久的変異(GSH,MTの枯渇)
•自閉症 3歳
•ウィルソン病 15歳
•統合失調症  20歳 双極性障害  25歳

栄養療法だけでうまくいかないのは、脳に非可逆性変化が生じている、例えば依存症や過食症など脳の可塑性が関係している場合です。もしくは、酸化ストレスで脳のメチル化のブックマークが変わってしまっている場合も難しいです。

酸化ストレスが強くなっている人は、グルタチオンやメタロチオネインが完全に枯渇しています。これらの疾患の特徴は、突然の発症で永続的な症状の継続です。普通、急性発症は急性の病気だから治るはずですが、急性に発症したのになかなか治らないのはこれが起きているからです。

自閉症3歳、ウィルソン病15歳、統合失調症20歳、双極性障害25歳など、病態は似ていますが、好発年齢が違います。これらの疾患には、栄養療法プラスαを行っていかなければなりません。

5-4. 統合失調症の治療

統合失調症の治療も同様で、メチレーションに応じて上記のような対処をしていきますが、抗酸化対策も重要です。本来、遺伝形式があると分かった時点での予防が大事です。

5-5. 自閉症

  • エピジェネティクス障害により、異常な低メチル化、酸化過剰、重金属への脆弱性をもつ
  • つまり「低メチル化の人が圧倒的な酸化ストレスを引き起こす
  • 環境障害を経験する事で発症
  • 予防の重要性(遺伝要因)
  • 妊娠20~24日目が重要(サリドマイド児)
  • 活性化葉酸、抗酸化対策
  • 脳の成長時期に不可逆性変化
    →治療の早期介入が重要

自閉症の特徴は、エピジェネティクス障害です。ほとんどの人が低メチレーション、酸化過剰で、重金属への脆弱性を持ってます。いろんな論文を重ね合わせると、低メチルの人が酸化ストレスを引き起こし、環境障害を経験することで発症します。予防が何より大切です。

サリドマイドという免疫抑制剤を使った場合、サリドマイドを妊娠20日〜24日に飲んでた人のみ発症しました。計画的に妊娠をして、遺伝子変異がある場合活性化葉酸を摂っておくことです。

自閉症は他の病気に比べて、発症時期が早いです。脳は4歳までに8割できてしまうので、4歳までの成長時期には不可逆性変化が起こることがとても大事です。そのため、早めに発見して対策をすることが望まれます。1歳と6歳で治療するのとでは、治療期間は3倍〜5倍違います。

統合失調や躁鬱は、なかなかうまくいかないことが多いので、栄養療法以外のことも重ね合わせないと難しいです。

5-6. 栄養療法の限界

  • この治療は、栄養素を使って 神経伝達物質の代謝を促す。
  • メチレーションを調節してシナプス間隙の神経伝達物質量を調整する。
  • 神経細胞、シナプスの物理的変性には効果がない。
  • 海馬、偏桃体の萎縮
  • シナプスの可塑性による変異

栄養療法は、栄養素を使って神経伝達物質代謝を促すものなので、神経細胞やシナプスが物理的に変性してしまっている場合はうまくいきません。

5-7. 自律神経と体性神経

上記は自律神経と体性神経の図ですが、この二つの神経は別々のもので、交わることはありません。自分の意思で汗をかいたり、脈拍を早くしたり、鳥肌を立たせることができないでのは自律神経と体性神経が別々だからです。

でも、時には短路が生じることがあって、例えばびっくりして心臓が止まりそうになるとか、怖い話を聞いたら鳥肌が立つとか、ストレスで胃が痛くなるとか、それは交わりが起こることです。これが毎日びっくりしたり、毎日ストレスで胃が痛くなっているとだんだんこの神経が太くなってきます。

持続的に興奮するシナプスは、より容易に伝達が起こるようにどんどん変化していきます。これをシナプスの可塑性といいます。

解剖学的に、シナプスに達する軸索が枝分かれして、より広い面積でニュートン細胞体と向き合うようになります。

この結果シナプスの有効面積が増大し、より大量の伝達物質がシナプスで放出されるようになるのです。

これと同じことが、依存症にも起きます。依存症というのは、報酬系が過剰活性化された状態です。ドーパミンは嬉しいことがあると分泌されますが、嬉しいことを想像しただけでも分泌されます。

この報酬系の刺激は、常に刺激すると徐々に少しの刺激でも活性化されやすくなります。コカイン中毒の人はコカインを見ただけで興奮します。コカインやアルコールを辞める治療はありますが、単に罰則を厳しくしたり、グループの皆で話し合って終わりなど医学的に基づいていません。

報酬系が活性化されている状態を止めないと医学的には治らないです。それが活性化していくと、ついには潜在的な意識の働きかけでも同様の行動を刺激するようになります。例えば、コカイン中毒の人っていうのは一回辞めても、サブリミナルでテレビ見てるうちに0.01秒のコカインの画像を入れたらそれで反応して、またコカインをやりたくなります。潜在意識まで落ちてしまうとそういうことになります。

5-8. マインドフルネス瞑想法

  • ストレスをコントロールできる
  • 痛みをコントロールできる
  • 集中力を高める
  • ネガティブ思考からポジティブ思考へ
  • 心と体をリラックスさせる

マインドフルネス瞑想法の実践

瞑想は、シナプスの可塑性を逆に戻す試みで、色々な文献を見るとマインドフルネスの実践を勧めています。“今”という瞬間に意識を集中するという方法で、仏教の瞑想法がベースになっています。

ドーパミンは興奮系神経ですが、それとは別に抑制系の神経があります。人間の場合、脳を抑制させてるのは前頭葉です。前頭葉で統合して、抑制させる抑制系の神経が弱っている人が依存症になってしまいます。

5-9. 不可逆性変化を伴う疾患への対策

  • 自閉症、統合失調症、双極性障害  
  • 家族歴があれば、予防的処置。
  • 特に酸化ストレスを抑制する。
  • 自閉症は24~29週の妊娠期間が重要
  • 脳神経再生治療(経頭蓋磁気治療、Edelfo)

経頭蓋磁気治療とは、うつ病の患者さんにも用いられている神経を刺激して抑制されている神経を元に戻す治療です。コカイン中毒の人の7割が改善しています。

Edelfoは、脳由来の神経栄養因子をサプリメントで投与して脳を戻す方法です。これらはコストがかかりますが、脳神経を戻すという意味では根本治療につながる可能性があります。自閉症、統合失調症、双極性障害にはこういった治療も混ぜることが必要かもしれません。

5-10. 双極性障害のメカニズムを解明

  • 2018年5月8日、米国精神医学会での発表
  • エピジェネティックな傷害が多数のイオンチャネル遺伝子の発現を突然、かつ永続的に変化させる。
  • ニューロンの外側にカリウムイオンが過剰に蓄積し、膜電位を形成できなくなるため、局所の脳機能が低下しうつ症状が出る。
  • 障害部位はゆっくりと回復し、細胞膜の外側のカリウムが除去されるにつれ躁病が戻る
  • この発見は同疾患の画期的な治療につながる可能性がある。

上記は双極性障害のメカニズムは解明されたというウォルシュリサーチの最新の発表です。躁鬱病は、アンダーメチレーションとオーバーメチレーションが入れ替わるという不思議性があります。今までの治療は、躁のときは躁用、鬱の時は鬱の薬でした。躁鬱病とは、カリウムイオンが細胞の膜の外から中に入れない状況らしく、細胞が働かなくなるので鬱になり、カリウムが長年かけて入ってくるようになると、元々の躁が顔を出すという病態だということが解明されたので、恐らく新しい治療に繋がっていくのではないかと思います。

5-11. 穏やかに、忍耐強く!

薬、栄養素、磁気治療、マインドフルネス、神経再生、様々な治療を使い分けて最善の状態を目指しましょう。

患者さんがあなたに会いに来た理由を理解しましょう。

そのためには治したいリストを書いてもらうといいと思います。旅行に行けるようになりたいとか、そういうのを僕は書いてもらっています。

今回は触れませんでしたが、腸内環境と重金属の影響もとても大事ですので、この2つは常に考えるようにしてください。

血液検査から推測するメチレーション

宮澤賢史 · 2021年9月6日 ·

メチレーションのこと、ご存知ですか?栄養療法を学び始めた方の中には、何となく難しいもの…と感じていらっしゃる方が多いかもしれませんね。

そこで今回は、血液検査からメチレーションレベルを推測する方法と、適切に回すための栄養療法的アプローチをわかりやすく解説します。メチレーション回路には様々な栄養素が絡んでいますが、今まで学んできた血液データの読み方を活用すれば、ご自身のメチレーションレベルをある程度推測することが可能です。メチレーションを学んで、栄養療法への理解をさらに深めていきましょう。

1. メチレーションとは

1-1. メチル基供与体と受容体

様々な基質にメチル基(-CH3)が置換または結合することをメチレーション(メチル化)と言います。メチル化することで、物質が活性化したり不活性化したり、様々な化学反応が起きます。メチル基を与えるものをメチル基供与体、受け取るものをメチル基受容体と呼びます。代表的な供与体はSAMe(S-アデノシルメチオニン)、受容体はナイアシンです。SAMeは、ATPに次いで体内でたくさん使われています。

1-2. メチレーション 3つの経路

メチレーション回路は、3つの経路が歯車のように噛み合わさって動いています。メチル化経路はメチル基を作り出す経路、葉酸経路は葉酸を活性化する経路、神経経路はドーパミンを作り出す経路のことです。さらに、メチル化経路のホモシステインからシステインに向かう硫酸経路は、解毒に関係する経路です。

1-3. メチレーションの役割

メチレーション回路は体にとって大変重要な代謝経路で、次のような役割があります。

  • 解毒(グルタチオン合成)
  • メチル基の供給
  • DNA、RNAの産生
  • ドーパミン産生
  • 動脈硬化の予防(ホモシステイン)
  • がんの予防(DNAサイレンシング)
  • 免疫調整

メチレーションが正常に行われると、グルタチオンが合成され解毒が促進します。また、ホモシステインが溜まらないので、酸化ストレスが低減し、無駄なタンパク質の発現が抑えられ、がんを防ぐことができます。葉酸経路が活性化し、DNAやRNAの合成が促進されたり、ドーパミンやセロトニンといった神経伝達物質の合成や代謝がスムーズに行われたりします。

1-4. メチレーションを阻害する要素

メチレーションは、基質と酵素の適合性によって回っているので、基質や酵素の不足によりアンバランスが起こります。例えば、動物性タンパク質の摂取が少ないと基質であるメチオニンが不足しますし、酵素を産生する遺伝子にSNPがあると酵素が不足します。また、補酵素の不足、重金属や感染、炎症といったものがメチレーション回路を阻害します。

  • 基質の不足(タンパク質摂取不足によるメチオニン↓)
  • 遺伝子のSNP(遺伝子多型、MTHFRではC677Tなど)
  • 酵素の補酵素不足(MTHFRではビタミンB2)
  • 重金属(MTRでは水銀、硫酸経路ではヒ素)
  • 感染、炎症(SHMT、CBS、MTR、BH4、CDX)

1-5. 実践ピラミッドにおけるメチレーションの位置づけ

メチレーションは実践ピラミッドの頂上に位置します。メチレーションはとても重要な部分ですが、腸の炎症、デトックス、ホルモンバランス、ミトコンドリア機能のケアをスルーして、メチレーションだけにアプローチしても絶対にうまくいきません。逆に言うと、ピラミッドの下から順にアプローチしていくと、徐々にメチレーションが回るようになっていきます。

2. 自閉症との関連性

2-1. 自閉症治療の難しさ

メチレーションレベルに深い関わりがあるのが自閉症です。自閉症に対するアプローチは様々試みられていますが、なかなか結果に繋がっていないのが現状です。それは、自閉症児の脳は発達段階にあるため、ものすごくナイーブで色々な外的影響を受けやすいためです。普通はメチレーションまで考えなくても症状が改善することが多いのですが、重症患者や子どもの場合は、メチレーションのアプローチが必要になることもあります。

2-2. 自閉症発症の原因

米国自閉症児治療学会であるMAPSの会長で、自閉症治療の第一人者である、ダン・ロシニョール博士は、1971~2010年における自閉症関連の論文を分析し、自閉症には炎症や酸化ストレス、ミトコンドリア機能不全、毒物曝露が関係していることを明らかにしました。

自閉症に関するレビュー
・炎症・免疫不全(416/437, 95%)
・酸化ストレス(115/115, 100%)
・ミトコンドリア機能不全(145/153, 95%)
・毒物曝露(170/190, 89%)
Mol Psychiatry. 2012 Apr;17(4):389-401. 
A review of research trends in physiological abnormalities in autism spectrum disorders: immune dysregulation, inflammation, oxidative stress, mitochondrial dysfunction and environmental toxicant exposures
https://www.nature.com/articles/mp2011165

2-3. 効果的な代替医療

一般的に、自閉症に対する食事以外の代替医療として、エビデンスレベルが高い治療と言えば、メラトニン、ナルトレキソン(オピオイド拮抗薬)、音楽治療くらいしかありません。しかしながら、エビデンスレベルは低くとも、ビタミンB12、B6、B3、亜鉛など、メチレーションに関わる栄養素の摂取により、自閉症改善に効果が現れているため、既に治療に取り入れられています。ロシニョール博士の報告によると、自閉症児の親へのアンケート結果をまとめると、効果があった治療の1位はキレーション、2位はビタミンB12注射、3位はメラトニン摂取でした。

AnnAls of CliniCAl PsyChiAtry 2009;21(4):213-236
Novel and emerging treatments for autism spectrum disorders: A systematic review
https://hyperbaricoxygentreatmentcenter.com/wp-content/uploads/2020/07/Novel-and-emerging-treatments-for-autism.pdf

3. 葉酸経路と遺伝子の関係

3-1. MTHFRの遺伝子変異

葉酸経路で働くMTHFR(5,10-メチレンテトラヒドロ葉酸還元酵素)は、葉酸を活性化するときに使われる酵素で、5,10-メチレンテトラヒドロ葉酸を活性化型のメチル葉酸に変える働きをします。補酵素はビタミンB2とNAD(ビタミンB3)です。ビタミンB2、B3不足や、MTHFRに遺伝子変異があると、葉酸を十分に活性化できなくなります。

MTHFRの遺伝子は、20,373塩基対からなる大きなタンパク質です。遺伝子には冗長性があるので、1個や2個の塩基が置き換わってもタンパク質の機能にはあまり影響ありません。しかし、塩基番号677番、または1298番の塩基が1つ入れ替わると、それだけで機能が大幅に損なわれてしまいます。

  • 塩基番号677:本来シトシン(C)のはずが、SNPが生じるとチミン(T)に置き換わり、生成されるアミノ酸がアラニンからバリンに変わる
  • 塩基番号1298:本来アデニン(A)のはずが、SNPが生じるとCに置き換わる

遺伝子多型とは、遺伝子上の1つの塩基が別の塩基に置き換わることです。 1%以上の人が持っているものをSNP(スニップ、一塩基多型)、1%以下の人しか持っていないものを突然変異と呼びます。MTHFR遺伝子多型は日本人に多く、C677Tの変異は、日本人の45%に見られます。つまり、MTHFR遺伝子多型は、突然変異ではなくSNPということになります。

人種C677T
変異1つ
(ヘテロ)
C677T
両方変異
(ホモ)
C282YとA1298C
の変異が各1つ
(複合ヘテロ)
A1298C
両方変異
(ホモ)
白人
(欧州・北アメリカ)
25-45%8-18%15-20%4-12%
ヒスパニック
(アメリカ)
42%21%不明4-5%
黒人
(アメリカ)
14%約1%不明2-4%
アジア人35%
(日本人)
11%
(日本人)
不明1-4%

遺伝子は両親から受け継ぎます。遺伝子変異を1つ受け継いだ場合をへテロ(異型接合体)、2つ受け継いだ場合をホモ(同型接合体)と言います。677CCが正常、677CTがヘテロ、677TTがホモとなります。また、677CTと1298ACといったようにそれぞれに遺伝子変異が1つずつある場合を複合ヘテロ接合体と呼びます。 

3-2. 葉酸サプリメントの種類

葉酸サプリメントは大きく分けて、非活性葉酸、10ホルミル葉酸に近いフォリン酸(folinic acid)、5-メチル葉酸の3種類あります。5-メチル葉酸は日本では製造できないため、海外から購入する必要があります。個々のリスクよってどの葉酸サプリを摂ったら良いかが異なります。

葉酸経路は、葉酸を活性化してメチル化経路にメチル基というバトンを渡す役目をしています。非活性型の葉酸が1段階活性化されると10ホルミル葉酸になり、これがDNA合成を促進します。大多数の人は10ホルミル葉酸まで活性化させることができるので、非活性葉酸でも適量摂取すればDNA合成が促されます。

3-3. 妊娠前にはどの葉酸サプリを飲んだらいいのか?

二分脊椎というDNA合成不良により、神経系に異常をきたした赤ちゃんが産まれるケースが多かったことを受けて、厚生労働省が妊婦に対して葉酸サプリメントの摂取を推奨しています。

結論から言うと、妊娠前の方は普通の非活性葉酸で十分です。葉酸の量自体を増やすことが重要で、非活性葉酸でも十分効果を発揮します。特に積極的に摂取したいのは、オーバーメチレーション型のうつ症状がある方です。ナイアシンと葉酸サプリメントの摂取で、ドーパミンの過剰な生成を抑えてくれるからです。この場合も非活性葉酸を使います。

3-4. 特に注意すべき人とは?

問題は、10ホルミル葉酸からメチル葉酸になる代謝で、ここにはMTHFRが関わっています。MTHFR遺伝子に変異があると機能が半減し、メチル葉酸が低減します。メチル葉酸はドーパミンと解毒に関わっており、言語障害や解毒力低下を引き起こします。また、メチル葉酸はメチル化回路と繋がっており、ビタミンB12と反応して非活性型葉酸になってまた戻ってきますが、MTHFRにSNPがあるとこの循環がうまくいかなくなります。その場合は、活性型のメチル化葉酸をサプリメントで摂取して、この反応をバイパスしてあげる必要があります。

MTHFRの遺伝子検査は、唾液採取で簡単に検査ができるので、リスクがある女性は妊娠前に一度検査をしておくと良いでしょう。その結果を受けて、リスクがありそうだったら、フォリン酸またはメチル葉酸を摂取します。副作用がなく安全性が高いのはフォリン酸ですが、リスクが大きい場合はメチル葉酸を選びます。メチル葉酸は活性型葉酸なので、多少リスクがあります。葉酸はグルタミン酸を内部構造に含んでいるため、メチル葉酸を飲んでイライラが強くなったという事例は少なくありません。そうしたリスクを避けるのであれば、フォリン酸を選ぶと良いでしょう。

自閉症の家系

一卵性双生児において、片方が自閉症を発症した場合、もう片方が発症する確率は60~90%というデータがあり、遺伝の影響はかなり大きいと言えます。家系で自閉症の方がいる場合はMTHFRの遺伝子検査をした方が良いでしょう。

Mol Psychiatry. 2007 Jan;12(1):2-22.
The genetics of autistic disorders and its clinical relevance: a review of the literature
https://www.nature.com/articles/4001896

低メチレーション同士の夫婦

また、自閉症児の親には優秀な人が多いこともわかっています。高い業績を上げている、強迫神経症である、細部までわたる注意力を備えている、こだわりが強いなど、低メチレーション傾向の夫婦(例えば医師同士の夫婦)からは自閉症の子供が産まれる確率が上がると言われています。その場合、食事や解毒や酸化ストレス、炎症などに気をつけながら、必要に応じて葉酸サプリメントを補います。

薬物の影響

また、妊娠から20~24日目にサリドマイドを服用していた場合にのみ、子供に自閉症状が出たという報告もあります。子宮内ブックマークの書き換えが妊娠 1ヶ月目に起こるので、妊娠する前から対策をしていないと間に合わないということです。

Dev Med Child Neurol. 1994 Apr;36(4):351-6.
Autism in thalidomide embryopathy: a population study
https://onlinelibrary.wiley.com/doi/10.1111/j.1469-8749.1994.tb11856.x

出生後の酸化ストレス

妊娠前に限らず、生後のケアも重要です。なぜなら、自閉症は退行型発症が80%、つまり、生まれた時(生後16~24ヶ月)は正常で、その後突然発症するケースが大多数だからです。

Neuropsychol Rev. 2008 Dec;18(4):305-19. 
Regression in autistic spectrum disorders
https://link.springer.com/article/10.1007%2Fs11065-008-9073-y

自閉症児は、グルタチオン、セレン、システイン、マグネシウム、亜鉛、ビタミンAが不足しており、水銀、鉛、銅が過剰で、酸化ストレスを生みやすい状態にあることがわかっています。

Presented at the APA Annual Meeting, May, 2001
Disordered metal metabolism in a large autism population
http://www.walshinstitute.org/uploads/1/7/9/9/17997321/disordered_metal_metabolism_in_a_large_autism_population.pdf

自閉症は、酸化ストレスに酸化防御能力が耐えられなくなると、脳が不可逆的な炎症を起こして発症します。したがって、十分な抗酸化対策、カゼインフリー、グルテンフリーを含めた腸内環境ケアをしっかり行えば確実に予防できるのです。

4. 血液データから推測する

4-1. 指標となる血液データ

初めてメチレーションを学ぶ方は、血液データを見てメチレーションの状態を推測することから始めましょう。

指標となる項目
☑️ MCV
☑️ AST(GOT)、ALT(GPT)
☑️ 尿酸
☑️ 炎症(フェリチン、CRP、血小板)
☑️ 好塩基球
☑️ ミトコンドリア

4-2. MCVからビタミンB12不足を推測する

メチル化経路で働くMTRは、補酵素にビタミンB12を使うため、MCVが高い人はメチレーションがうまく回っていない可能性があります。効果があった自閉症治療の第3位にビタミンB12注射がありましたが、これはMTRの反応をターゲットにした治療です。MCVの値は、細胞内のビタミンB12、葉酸濃度を反映するので良い指標となります。ビタミンB12が細胞内で働く際にリチウムを必要とするので、リチウム不足を把握するために、毛髪ミネラル検査を受けておくのも良いでしょう。

4-3. ビタミンB6の様々な働き

次に、ビタミンB6が不足するとメチレーションにどのような影響があるか見ていきましょう。ビタミンB6は体内の様々な場所で働いてるので、影響が出やすい栄養素ですが、代表的なものでは次の3つが挙げられます。

  • COMT↓:ドーパミン、エストロゲン代謝の低下
  • CBS↓:ホモシステイン蓄積、解毒力低下
  • GAD↓:不安感、会話ができない(言葉とノイズが区別できない)

ビタミンB6は、ドーパミンの代謝に働くCOMT(カテコールO-メチル基転移酵素)を活性化します。他にもリチウムや抑肝散で活性化されるので、イライラが治らない場合は、これらを摂ると改善します。逆に、SAH(Sアデノシルホモシステイン)、コーヒー、ケルセチンはCOMTの働きを弱めるため、特に低メチレーション傾向の人は注意が必要です。

ホモシステインを硫酸経路に流す酵素である、CBS(シスタチオニンβ合成酵素)もビタミンB6で活性化されます。CBSに遺伝子変異があると、活性化しすぎたり、逆にホモシステインが蓄積して解毒力が弱まったりします。後者の場合は、ビタミンB6をサプリメントで補うと良いでしょう。

ビタミンB6は、グルタミン酸をGABAに転換するGAD(グルタミン脱水素酵素)の補酵素でもあります。不安感が常に付きまとっている人は、ビタミンB6を摂取するとGABAへの変換が促されます。また、私自身がそうなのですが、会話とノイズの区別が苦手な体質なので、ノイズキャンセラーヘッドホンが手放せません。そういった人は、ビタミンB6を摂ることで、ヘッドホンを付けた時と同じような効果を得ることができます。

4-4. ASTとALTからビタミンB6不足を推測する

ビタミンB6不足の確認は、AST(GOT)とALT(GPT)の差が指標になります。ALTはグルコース-アラニン回路で働く酵素です。エネルギー源としてブドウ糖と乳酸が両方不足した時に、筋肉のアミノ酸が分解され糖新生によりグルコースが生成します。筋肉にはグルコースを生成するグルコース-6-ホスファターゼが存在しないため、ALTの働きでピルビン酸がアラニンになり、このアラニンが肝臓に運ばれて糖新生が行われます。

引用:ポケットアトラス栄養学

ASTとALTはともにビタミンB6を補酵素としますが、ALTの方がよりビタミンB6の影響を受けやすいため、ビタミンB6不足の場合、AST>ALTとなります。

4-5. 尿素窒素とビタミンB6

尿素窒素値からもビタミンB6不足を推測できます。アラニンからピルビン酸に戻る反応で尿素が生成されるため、尿素窒素値が低い人もビタミンB6が不足していると考えられます。

4-6. COMTの働きを促進するもの

COMTの働きを良くする栄養素は、SAMe、リチウム、B6、抑肝散です。逆にCOMTの働きを止めるのは、ケルセチン、カテキン、コーヒー、チョコレート、SAHです。

このように、ドーパミン、GABA、セロトニンの生成、COMTの活性化など、神経伝達物質の様々な反応に、ビタミンB6が関与していることがわかります。しかし、ビタミンB6はたくさん飲めば良いというものではありません。摂り過ぎると、トリプトファンからキノリン酸への過剰転換が起きて、キノリン酸が神経毒として働いてしまいます。ビタミンB6の効きが悪い人は、活性型のビタミンB6(P-5-P;ピリドキサール-5-リン酸)を使うと良いでしょう。海外製のサプリメントには、ビタミンB6とP-5-Pが適量ずつ入っているものもあります。ビタミンB6:P5P=2:1くらいがベストです。

4-7. ホモシステイン値を下げる方法

メチル化回路の中心にあるのがホモシステインです。ホモシステイン値は血液検査でわかるので、ぜひ一度測ってみてください。ホモシステインは酸化ストレスの素になるので、値が高い人は下げる必要があります。ホモシステインを下げる方法は3通りあります。

MTRを活性化する

正攻法は、MTRを介してDNA合成に向かう経路を回す方法で、ビタミンB12、葉酸、亜鉛を使います。ただし、MTRは炎症と重金属、カンジダにとても弱いという性質があります。お子さんの場合はビタミンB12の吸収も悪いので、注射を打つこともあります。

BHMTを活性化する

正攻法でうまくいかない場合は、亜鉛とトリメチルグリシンというベタインを使い、BHMTの酵素を活性化させてメチオニンに行く経路を流してあげます。これを近道の経路と呼びます。近道ばかり回していると、神経伝達物質やDNAの合成が滞りますが、とりあえずホモシステインを下げてメチル基を作ることを優先させます。これは、エイミー・ヤスコプロトコルの方法です。ある程度SAMeをたくさん供給できる状態にもっていったところで近道を止めると、MTRの経路が回り出して言語障害などが改善します。

ポイントは、近道の経路がコルチゾールで活性化するということです。つまり、ストレスはメチレーションに影響するということです。BHMT酵素はストレスがあると活性化し、SAMeがたくさん生成されるので、高ストレス状態の時には高メチル化状態になります。副腎疲労の疲弊期になるとコルチゾールが枯渇しているので、低メチレーションのように見えます。でもだんだん治ってくると、実は高メチレーションだったということはよくあることです。好中球分画や唾液中コルチゾール値を見て、ストレス状態を把握すると、メチレーションの状態が推測できます。

CBSを活性化する

3つ目の方法は、ビタミンB6などを使ってCBSを回すことです。CBSの働きが弱まっていると、ホモシステインが高くなり、若年性心筋梗塞などのリスクが高まります。逆に、ホモシステインが低すぎる場合は、解毒やDNA合成などに使う材料が足りないことを意味するので、その場合は動物性タンパク質をしっかり摂ってメチオニンを補給しましょう。

4-8. 炎症とメチレーション

メチレーションに影響するのは、ビタミンB12、B6、ストレス、そして炎症です。炎症はメチレーションにものすごく影響するので、フェリチンやCRP、血小板といった炎症マーカーが上がっていれば、まずは炎症の部位を突き止めて対処する必要があります。

メチレーションの反応で炎症に 1番弱い部分がMTRです。炎症の他に、カンジダ、水銀、活性酸素でもこの経路は阻害されてしまいます。炎症性サイトカインであるTNFαや、カンジダにより分泌されたアセトアルデヒドがMTRの働きを止めます。メチレーションを改善するためには、MTRの働きを阻害する要因をまず最初に除く必要があります。

2番目に弱いのは、メチレーションと他の代謝経路が交わっている部分です。トリプトファンは、セロトニン経路とキヌレニン経路の二手に別れます。セロトニンには10%、残りの90%はキヌリン酸にいきます。炎症があるとセロトニン経路が止まり、キヌリン酸経路に流れるため、セロトニン不足が起こります。また、炎症があると、キヌレニン経路が活性化して免疫を上げるナイアシンをたくさん作るようになります。しかし、炎症が強すぎると、ナイアシンの手前で代謝が止まってキノリン酸が溜まり、神経毒として働いてしまいます。

ナイアシンはBH4を作る経路で働きます。BH4はセロトニンやドーパミンの生合成に必要な物質で、ナイアシンから作られる経路と、BH2のリサイクルで作られる経路があります。両方の経路が活性化されないと、セロトニンとドーパミンのバランスがうまく取れません。炎症を起こすと、セロトニン経路からもBH4からもセロトニンが作られず、相対的にドーパミンが過剰になって、イライラが強まります。BH2からのリサイクル経路は、特にアルミやアンモニアで阻害されると言われています。

4-9. 神経伝達物質の産生

メチレーションの一番左に位置するのが神経経路です。BH4は、チロシン、Lドーパ、5HTPといった様々な神経伝達物質の産生に関わっている補酵素です。

BH4の阻害要因は、アルミニウムとアンモニアです。また、MTHFR1298の遺伝子変異によっても阻害されます。

4-10. 尿酸不足は低メチレーション

メチル化回路で働くAHCYという酵素があります。メチオニン→SAMe→SAH(S-アデノシル-L-ホモシステイン)→ホモシステインという一連の代謝において、SAHからホモシステインに変換されるところで働きます。AHCYによってホモシステインとアデノシンが生成し、アデノシンは、イノシン→ヒポキサンチン→尿酸と代謝されていきます。

このことから、尿酸値はメチル化回路の状態を見る指標の 1つになります。尿酸が低ければ、AHCYの働きが悪くSAHが上がり、低メチレーション状態になっていると推測できます。 ご存知の通り、尿酸は体内で作られる1番の抗酸化物質なので、尿酸が低い人は抗酸化対策が必要です。抗酸化対策として最初にアドバイスするのは、ヒポキサンチンの補酵素であるモリブデンを摂取することですが、根本的には炎症を治してメチレーション回路を回してあげることが重要です。

 SAHが上がると、COMTの働きが弱まるため、ドーパミン、アドレナリン、エストロゲンの分解ができなくなります。エストロゲンとドーパミンの分解には、同じ酵素が使われるため、生理周期後半にイライラしやすいのは、エストロゲンが過多になってドーパミンの分解が追いつかなくなるためです。人によってはビタミンB6を摂取しCOMTの働きを補完してあげると、生理周期に伴うイライラを和らげることができます。

4-11. ミトコンドリア機能とメチレーション

メチオニンをSAMeに変換するMATという酵素は、補酵素としてマグネシウムをたくさん必要とします。エネルギーも多く使うので、ミトコンドリア機能障害がある場合もメチレーションが低下してしまいます。また、硫酸経路にもエネルギーを多く要します。人間は、エネルギーの3割を解毒に使っているので、ミトコンドリア機能の低下により硫酸経路が止まってしまい、解毒ができなくなってしまいます。血液データから、ミトコンドリア機能低下が疑われる人は、そこへのアプローチも必要です。

4-12. まとめ

ASTとALTが低ければ、COMTとCBSの低下を疑います。尿酸値が低ければ、低メチレーションでCOMTにも影響しているかもしれません。クレアチニンが低ければ一般的には低メチレーションですが、例外的に高メチレーションの場合もあります。ミトコンドリアが低下している時は、低メチレーション、SAMe不足になります。炎症があれば、まず炎症を抑えることから始めましょう。

  • GOT, GPT↓:COMT↓(イライラ)、CBS↓(解毒できない、HCT↑)
  • 尿酸↓:低メチレーション、COMT↓
  • クレアチニン↓:低メチレーションor高メチレーション
  • ミトコンドリア↓:低メチレーション、SAMe不足
  • 炎症:MTR↓、CTX↓(解毒できない)
  • ストレス:BHMT↑(言語の問題など)
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