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臨床分子栄養医学研究会

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宮澤賢史

副腎・甲状腺・性ホルモン

宮澤賢史 · 2021年10月27日 ·

慢性的な疲労から抜け出せない、毎月の生理が重くてつらい、そんな悩みはありませんか?その不調、ホルモンの代謝異常が原因かもしれません。

この記事を読んで、ホルモン代謝を理解すれば、様々な不調から抜け出す手がかりが見つかるはずです。例えば、女性ホルモンの代謝が滞ると、乳がんなどの婦人科疾患を引き起こします。治療の際に、ホルモンの働きを薬で無理やり止めようとしても絶対にうまくいきません。重要なのは、ホメオスタシスに逆らわず、ホルモン代謝を正常化するという栄養療法的アプローチです。副腎疲労も甲状腺機能低下症も婦人科疾患も、ホルモン代謝の正常化が回復の鍵となるのです。

1. 治療ピラミッドにおける位置付け

根本治療の基本は、治療ピラミッドの下から順にアプローチすることです。ホルモンは、炎症や毒物の影響を強く受けるため、ピラミッドのちょうど真ん中に位置します。ホルモンに着手する際のポイントは、副腎→甲状腺→性ホルモンの順にアプローチするということです。

2. 副腎ホルモン

2-1. 副腎疲労は結果である

私が副腎疲労症候群(アドレナル・ファティーグ)という病態を知ったのは、2007年頃でした。それからたくさんの患者さんを診てきて、副腎疲労は様々な要因の「結果」として起こることがわかってきました。一番の要因は炎症とストレスです。また、化学物質や重金属の体内蓄積や睡眠不足でも副腎が酷使されます。

副腎の働きは、朝にピークを迎え、夕方にはほとんど働かなくなります。もともとは 1日中働き続けられない臓器なのです。睡眠による休息が不可欠で、24時間酷使されている副腎は、徐々に機能が落ちてきます。

2-2. ステロイドホルモンの代謝

3つの六員環と1つの五員環からなるステロイド骨格を持つホルモンを、ステロイドホルモンと呼びます。

ステロイドホルモンの代謝において、プレグレノロンを起点として3つの系統に分かれます。1つ目がミネラルコルチコイド、2つ目がコルチゾールなどの糖質コルチコイド、3つ目が性ホルモンです。これらが副腎皮質でつくられています。

ここで重要なのは代謝の流れです。ホルモン代謝の流れが滞ると、様々な疾患を引き起こします。例えば、性ホルモンは、アロマターゼの働きにより男性ホルモンから女性ホルモンに変換され、肝臓でメチレーションを受けて最終的に分解されます。しかし、エストロゲンの分解が滞っている人は少なくありません。それによりエストロゲン過多になると、乳がんや子宮内膜症などのリスクが高まってしまいます。つまり、ホルモン代謝をいかにうまく流してあげるかが最重要課題ということです。

2-3. ステロイドホルモンの特徴

ステロイドホルモンと甲状腺ホルモンは、核内受容体に結合し、さまざまな働きを活性化させることがわかっています。核内受容体は遺伝子転写を調節しているため、生体に極めて強力な作用をもたらすのです。

ステロイド剤は、効果が現れるのがとても速いのが特徴です。それは、細胞膜を通過して直接核の中に働きかけるからです。少量で効くので、使い方を間違えないように注意が必要です。常に代謝のフローを意識して使わないと、副作用が出てしまいます。

2-4. 副腎ホルモンの欠落症状

副腎ホルモンの欠落症状として、朝起きられない、起きてもぼーっとしている、イライラが止まらない、立ちくらみがする、塩をいくらかけてもまだ足りない気がする、といった特徴的な症状があります。当てはまる人が結構いらっしゃるのではないでしょうか?

コルチゾールには、血糖値を上昇させ、炎症を抑える働きがあるため、コルチゾール不足は低血糖と炎症を促進します。副腎疲労でアトピーを抱えている人は、なかなか炎症が治りません。また、塩分を渇望したり血圧が低下するのは、アルドステロンの作用が低下することで起こります。さらに、コルチゾール・スティール症候群により、女性ホルモンが低下し、月経不順や性欲減退といった症状も出ます。

  • コルチゾール欠落症状;低血糖、炎症の持続
  • 部分アルドステロン作用↓;塩分渇望、低血圧
  • コルチゾール・スティール;月経不順、性欲減退

宮澤医院に来院された副腎疲労患者さんのコレステロールは、160以下の低コレステロールの人が30%、コレステロールが160以上の高コレステロールの人が70%でした。

コレステロール値

これは、コルチゾールの原料であるコレステロールが少なすぎてつくれない場合と、コレステロールがあっても利用できていないという、両方のパターンがあると考えられます。

2-5. コルチゾール・スティール

コレステロールは、コルチゾールと性ホルモン、2手に分かれていきますが、生命にとって重要なのはコルチゾールです。したがって、コルチゾールが不足している時には、全ての材料がコルチゾールに優先的に回されることになります。その結果、性ホルモンが十分に作られず、結果として不妊等の原因になるわけです。

2-6. 副腎疲労の評価法

腎臓の上にある副腎というピラミッド型の臓器が副腎です。ホルモンを産生する臓器で、ホルモン分泌が低下する病態を副腎疲労と呼びます。症状、血液検査、唾液検査、尿検査から評価します。

2-7. 唾液中コルチゾール検査

私が最もよく用いる検査は、唾液中コルチゾール検査です。コルチゾールは朝にピークを迎え夜に低くなるという特徴があります。この日内変動を評価するには、唾液中コルチゾール検査が最も適しています。

血中コルチゾールの場合、活性がないコルチゾールまで測定してしまうため、正確に評価することができません。また、採血中のちょっとしたストレスで、値が上がることもあります。

唾液中コルチゾール濃度は、血清中の非結合コルチゾール濃度に比例する
Ann Clin Biochem. 1983 Nov;20 (Pt 6):329-35. 
Salivary cortisol: a better measure of adrenal cortical function than serum cortisol
DOI: 10.1177/000456328302000601

90-95%の血清中コルチゾールがアルブミンや赤血球細胞膜に結合しており、非結合のコルチゾールのみが生理活性をもつ
Psychosom Med. 1999 Mar-Apr;61(2):214-24. 
Increased salivary cortisol reliably induced by a protein-rich midday meal
DOI: 10.1097/00006842-199903000-00014

基本は朝、昼、夕方、夜に採取しますが、自分がものすごくストレスかかったと感じた時に採取してもらう方法もあります。大きなストレスかかった時のコルチゾール量を把握して、生活習慣の改善に繋げることができます。このように、採取のタイミングなどを変えて応用的に使えるので、とても便利な検査です。

2-8. 副腎疲労患者は相当疲れている

宮澤医院に来院された患者さんの、実に89%は朝のコルチゾールが低下していました。1日を通して低い人が大多数ですが、稀に夜だけ高い人もいます。そういう人は昼夜逆転しているパターンですね。

2-9. 尿中ホルモン検査

唾液中コルチゾール検査の他に、尿中ホルモン検査があります。この検査は、コルチゾールだけでなく、エストロゲンやDHEAなど、ほとんどの性ホルモンを一度に測ることができます。ホルモンの補充療法を考えている人、または乳がんなどのホルモン系の腫瘍を持っている人は、この検査を受けてホルモン代謝の状態を把握した方が良いでしょう。

尿中ホルモン検査

2-10. ステージと回復期間

上の症例を見ると、男性ホルモン(Androgens)がほとんどLowになっています。これはコルチゾールスティールが起きていることを示します。副腎疲労には4つのステージがあり、ステージ1はコルチゾールの過剰分泌により興奮状態にありますが、ステージ2、3、4…と進むに連れてコルチゾールが低下し、疲弊度がひどくなってきます。コルチゾール代謝物が4000以下であれば、ステージ4と判断します。尿中ホルモン検査では、1日に分泌されるコルチゾール量を把握できるので、正確にステージングすることができます。

副腎疲労がステージ4まで進行している場合は、腸内環境、重金属などの大きな問題がない限り、治療には6ヶ月から1年、完治には2年ほどかかります。ステージ3の場合は 完治まで1年程度です。このように、ステージングにより治療期間の目安を把握することができます。

副腎疲労の場合、コルチゾールスティールがあるため、ほとんどの数値がLowになってしまうことがあります。したがって、回復したタイミングで再度検査する必要があります。コルチゾールが充足してくると、性ホルモンが上がってくるので、乳がんなどのリスクを正確に読み取ることができます。乳がんのリスクは、善玉エストロゲンと悪玉エストロゲンの比率を見て評価しますが、コルチゾールスティールにより女性ホルモン全体が低下している場合は、比較してもあまり意味がありません。

2-11. 血中ホルモン検査

保険診療の範囲内で副腎疲労を見つける場合には、コレステロールやプロゲステロンの値で評価します。男性の場合、エストロゲンの一種であるエストラジオールを副腎から分泌しています。また女性の場合、DHEAとテストステロンを副腎から分泌しています。つまり、男性は女性ホルモンで、女性は男性ホルモンで副腎の働きを確認し、ある程度副腎疲労を評価することができるのです。

  • 総コレステロール
  • プロゲステロン
  • エストラジオール(♂は副腎から分泌)
  • ACTH
  • コルチゾール
  • DHEA-S(♀は副腎から分泌)
  • テストステロン(♀は副腎から分泌)

2-12. サプリメントアプローチ

副腎疲労に対するサプリメントアプローチとして、同位同食という漢方の考え方が有効です。副腎が悪い人は、動物由来の副腎抽出物を摂ると良いということです。または、副腎に1番多い栄養素であるビタミンCやEを摂ると良いでしょう。

生理学者であるハンス・セリエ博士が行ったラットの実験で、ビタミンCが副腎の負担を軽減することを明らかにしました。ストレス負荷により見られる副腎の腫大が、ビタミンC摂取により抑えられたというものです。その効果は血中濃度に比例するため、頻回摂取、または点滴により注入すると、副腎を効果的にリラックスさせることができます。

2-13. ハンス・セリエのストレス反応

ストレスかかると、副腎が腫れ、胸腺は萎縮し、免疫は低下します。リンパ腺も小さくなり、胃の粘膜から出血が見られるようになります。このようなストレスによる徴候はセリエの3徴と呼ばれています。セリエは、出血、体の束縛、過度の運動、どのようなストレス負荷をかけても、副腎の肥大、胸腺の萎縮、胃潰瘍(胃出血)がいつも一緒に起こることを明らかにし、これを警告反応と名付けました。これらは解剖で見た肉眼的な所感ですが、今はもっと様々な反応が起こることがわかっています。

引用:http://www.evolocus.com /Textbooks /Selye1952.pdf

2-14. 副腎疲労のステージ

副腎疲労は、警告反応が起こる警告期を経て抵抗期に向かいます。持続するストレスと釣り合った抵抗力を発揮し、適応している状態です。唾液中コルチゾールは1日中高値を示し、炎症やストレスに対応しているのがわかります。しかし、多くの患者さんを診ていますが、このような人が来院することはほとんどありません。興奮状態にあるので、自分が副腎疲労だという自覚がないからです。来院されるのは、強いストレスや感染症などのトリガーにより、コルチゾールがガクンと減って疲弊期に突入した人たちです。

2-15. ストレス反応には2系統ある

副腎疲労の改善には、サプリメントケアによる対処も必要ですが、ストレスのコントロールが必要不可欠です。ストレス反応には、内分泌系と神経系の2系統があります。内分泌系は、脳下垂体、ACTH、副腎皮質と伝達され、コルチゾールが分泌される流れです。

内分泌系
脳下垂体→ACTH→副腎皮質→コルチゾール→標的細胞

神経系は、自律神経が副腎の髄質(副腎の中身)を直接刺激し、アドレナリンを出すという流れです。副腎髄質は、脳下垂体のホルモンコントロールを受けず、自律神経の電気インパルスによってのみコントロールされているため、自律神経のコントロールも副腎のためには必要なのです。

神経系
自律神経→副腎髄質→アドレナリン→標的細胞

人間の神経には、自律神経と体性神経があります。自律神経は、脈拍や呼吸をコントロールしている神経、体性神経は、運動神経や感覚神経をコントロールしている神経です。通常、これらの2つの神経は交わることはありません。体性神経は自らの意思で制御できますが、自律神経はコントロールすることができません。自分の意思で汗をかいたり、脈拍を速めたり、鳥肌を立たせたりということはできませんよね。これらは自律神経が司っているからです。

しかし、びっくりした時などはこの2つの神経が交差します。このような交差を繰り返し続けていく(ストレスが持続する)と、自律神経中枢と体性神経の間に単路ができてしまいます。この単路が太くなるほど、どんどんストレスに弱くなって、ちょっとしたことで切れやすくなったり、高い所に登ることを考えるだけで息苦しくなったりします。

2-16. 必要なのは鈍感力

できてしまった単路をどう治せばよいのかというと、それは鈍感になることです。鈍感力を養うのに1番おすすめなのは、マインドフルネスです。簡単に言うと、自分の呼吸に集中する訓練です。何事が起きても自分の呼吸に意識を戻す、思考が別のところに行っても、また自分の呼吸に戻る、その繰り返しで鈍感力が養われます。

副腎疲労は副腎の不調によって起こりますが、大元の原因はHPA軸にあります。視床下部、下垂体、副腎の機能が同時に低下してしまうのです。ストレスには精神ストレスと身体ストレスがありますが、どちらも扁桃体を経由します。この扁桃体が自分にとってストレスかどうかを決めるのです。ストレスだと判断すると、コルチゾールの分泌量を上げたり、心拍を上げたりして反応します。つまり、ストレスとして感じるかどうかは扁桃体次第だから、扁桃体を鍛えましょうということです。

Amygdala(扁桃体)の位置

瞑想は扁桃体を鍛える訓練とも言えるわけです。リラックスするには、瞑想、CBDオイルの使用、Bスポット治療、ファスティングなどが効果的です。Bスポット治療は、上咽頭のところに通っている副交感神経を刺激するため、リラックス効果があります。ファスティングも、自律神経の緊張を緩和させる究極の方法です。あらゆる方法を使って脳をリラックスさせることが大切です。

2-17. 脳に有効なサプリメント

脳に対するサプリメントアプローチで有効なのは、脳の材料となるフィッシュオイルです。特にDHAは二重結合が多く、細胞膜の流動性を高める働きがあります。

J Nutr. 2010 Apr;140(4):869-74. 
DHA may prevent age-related dementia
DOI: 10.3945/jn.109.113910

ヘルシーパス社のスマートコリンは、認知機能のサポートに使われています。また、グロービア社のフェルガード(フェルラ酸)は、日本認知症予防学会が推奨している脳の抗酸化サプリメントです。MSS社のuDHAは、抗酸化作用が強化されたDHAです。

2-18. 生まれつきの副腎疲労もある

恐怖麻痺反射(ストレスにさらされ、胎児が身を固めて刺激に耐えようとする反射)が残存している人は、生まれつき副腎疲労を抱えています。ちょっとしたストレスに異常に反応してしまうので、常に疲れてしまう傾向にあります。感覚が過敏なために、副腎や自律神経、背筋がいつも緊張しています。さまざまな行動を無意識のうちに抑制し、極度の引っ込み思案の方は、もしかしたら恐怖麻痺反射が残っているのかもしれません。適切なケアで治すことも可能ですから、詳しくは小池先生の動画をご覧ください。

2-19. エネルギー泥棒を見つける

エビデンスには乏しいですが、副腎疲労の人はエネルギーがどんどん漏れているという説があります。エネルギーは感情でかなり消費されます。人から褒められている時、豪遊して無駄遣いしている時、ノリノリでしゃべって自分に酔っている時、こういう時はエネルギーが漏れている時で、心地よい状態です。しかし、エネルギーがある一定ラインを下回ると、他人からエネルギーを奪おうとする、エネルギーバンパイアの状態になってしまいます。この状態にならないためには、人から認められてエネルギーを補充する必要があります。

余談ですが、副腎疲労重症者の動物占いを見たところ、サルとヒツジが多いという結果が出ました。サルは、じっとしてるのが苦手、活発に動き回り複数のことを同時進行する、褒められるとなんでもやってしまうという特徴があります。マルチタスクは、複数のことを同時にやっているようで、実は人間は1つのことしかできないので、1つ1つのタスクを超高速で切り替えながら行っているだけなのです。だからものすごく疲れます。またヒツジは、和を大切にする性格で、本音を隠しがちです。こうした人たちは副腎疲労になりやすいので気をつけてくださいね。

そんな人におすすめの本を2冊紹介します。1冊は『エッセンシャル思考』(グレッグ・マキューン著)です。本当に重要なことだけに取り組み、他は全部断るべし、という内容が書かれています。

もう1冊は「嫌われる勇気」(岸見 一郎/古賀 史健 著)です。ここに書かれているのは、自分と他人のタスクの分離です。この仕事は私の仕事ではないですよ、あなたの仕事ですよって言えない人は、まずこれを読んでみてください。

2-20. コルチゾール補充

副腎疲労の治療には、重金属をデトックスしたり、ストレスを無くしたりすることから始めるのですが、中にはどうしても仕事を休めない、なるべく早く復帰したい、という人もいるので、そういう場合は根本治療と並行してコルチゾール補充療法を行うこともあります。

ホルモン治療の第一人者であるハルトゲ博士の著書、「ホルモンハンドブック」は、ホルモン治療をされる方にはぜひ読んでいただきたい一冊です。コルチゾールやDHEAなど、12種類程のホルモンの補充療法が詳細に書かれています。

例えば、男性でマイルドなコルチゾール欠損の場合は、ヒドロコルチゾンを朝に20mg、昼に10mg使うと書かれています。私もコルチゾールの補充療法をする場合は、ヒドロコルチゾンを使います。ヒドロコルチゾンは最もバイオアイデンティカルなコルチゾールです。人間が代謝しやすいので、副腎の疲弊が起こりにくいというメリットがあります。ただし、ヒドロコルチゾンだけでは解決できません。必ず根本治療をセットで行わないと、薬のテーパリングができなくなってしまうからです。

2-21. DHEAの併用

ヒドロコルチゾンを使う場合は、テストステロンの1つであるDHEAを併用すると良いでしょう。DHEAにはアナボリック(タンパク質の同化)作用があります。コルチゾールはタンパク質分解作用があるため、薬で大量に体内に入れると、筋肉が減少し内臓中心性肥満になります。お腹周りは太るのに、手足の筋肉が衰えて細くなるという身体的特徴が見られます。したがって、DHEAを一緒に摂るとタンパク質の分解を抑えることができます。男性ホルモンなので、男性の方は比較的量を多く使っても大丈夫ですが、女性は少なめに抑えた方が良いでしょう。副作用は、皮膚が脂っぽくなることです。気をつけたいのは、ホルモン系腫瘍の方には禁忌ということです。投与前に尿中ホルモン検査を行うことをお勧めします。

男性
・朝食前後35mgからスタート
・状況(ストレス・風邪など)に応じて+50〜200%
・最適量は20〜55mg/day

女性
・朝食前後20mgからスタート
・状況(ストレス・風邪など)に応じて+50〜100%
・最適量は5〜30mg/day

3. 甲状腺ホルモン

3-1. Ⅱ型甲状腺機能低下症

甲状腺低下症には、大きく分けて、通常の甲状腺機能低下症とⅡ型甲状腺機能低下症があります。Ⅱ型甲状腺機能低下症は、血液検査では異常が認められず、甲状腺ホルモンも十分に出ているのですが、受容体が正常に機能していないため、結果として甲状腺機能低下の症状が出ている病態を指します。

甲状腺機能の検査として、T3、T4、TSHの数値を確認するだけに留まるケースがほとんどです。しかし、これだけでは代謝の状態を把握することはできません。甲状腺ホルモンを動かしているミトコンドリアの異常も、甲状腺ホルモン受容体異常も、この3つの数値から推測することはできません。

3-2. 甲状腺ホルモンの代謝の流れ

視床下部からTRHが分泌されると、脳下垂体から甲状腺の刺激ホルモンであるTSHが分泌されます。すると、T3(活性型)とT4(T3の前駆体)が分泌され、T3は肝臓でT4に変換されて標的細胞に運ばれます。T3やT4が不足すると、フィードバックがかかってTSHが上がります。したがって、Ⅱ型甲状腺機能低下症の場合、T3、T4は低下せず、TSHのみ上がっていることがあります。

一方、標的細胞には、フィードバック機構がありません。ミトコンドリア機能が低下したり、甲状腺ホルモンの受容体の働きが悪くなったりしても、フィードバックはかかりません。そのような状態の人がたくさんいらっしゃいます。

もう一つ多いのが、T4が活性型のT3に変換されにくいパターンの人です。T4→T3の至適温度は37度で、栄養素として鉄やセレン、そしてコルチゾールが使われます。つまり副腎疲労がある場合は、T4からT3への変換がうまくいかないということです。これが甲状腺に着手する前に、副腎を治した方がいい理由の1つです。

下から順に治療する

3-3. 甲状腺ホルモンにはヨードが必要不可欠

人類の祖先が海から陸に進出した時、体には甲状腺濾胞という甲状腺ホルモンをストックしておく器官がつくられました。

陸には、海水のようにヨードが豊富に無いからです。甲状腺に刺激があったり破壊されたりすると、一気に甲状腺ホルモンが出て、亜急性甲状腺炎になり、高熱が出て酷いショック状態に陥ることがあります。日本の場合、ヨード不足になることはほどんどありませんが、フッ素や塩素、臭素の暴露が多すぎて、ヨードの働きが抑えられ、甲状腺機能低下になっている人もいるので、その点は注意が必要です。フッ素は歯みがきジェル、塩素はプール、臭素はパンの添加物などに使われています。

3-4. 水銀の影響

甲状腺ホルモンは水銀の影響を受けやすいという特徴があります。TSHの分泌、受容体の働き、T4からT3への変換などを抑制します。したがって、甲状腺治療の前にデトックスは必須です。

3-5. ホルモンの相互作用

コルチゾールスティールは、甲状腺機能にも大きく影響します。また、甲状腺機能低下は高プロラクチン血症を引き起こします。甲状腺ホルモンが下がると、フィードバックがかかって視床下部と下垂体が活性化します。TRHとTSHが上がります。それと同時にプロラクチンも上がります。プロラクチンは乳汁分泌ホルモンで、授乳中に分泌され、排卵が抑えられます。したがって、プロラクチンが上がっていると、不妊の大きな原因になるので、不妊治療クリニックでは甲状腺機能は必ず確認されます。

先述の『ホルモンハンドブック』によると、TSHのオプティマルレンジは1です。一般的な基準値は0.5~3で、検査会社によっては大きく捉えていますが、少なくとも2以上の場合は、潜在性の甲状腺機能低下を疑うべきでしょう。

3-6. 治療法

甲状腺機能低下症の治療法は、デトックスや腸内環境改善から始めますが、これを補助するために一般的にはチラージンSを使います。「S」は「合成」という意味で、合成のT4のみが含まれています。先述の通り、T4からT3への変換が妨げられている人が多いので、チラージンSが効かない人もたくさんいらっしゃいます。その場合は、私はチラージン末というブタ甲状腺の乾燥物を使っていました。天然物なので生理学的に人に近く、T4とT3が適度に混じっています。T4単独よりもT3とT4を合わせた方が治療効果が高いという報告もあります。

Journal of Nutritional & Environmental Medicine Volume 11, 2001 – Issue3
Thyroid Insufficiency. Is Thyroxine the Only Valuable Drug?
https://doi.org/10.1080/13590840120083376

チラージン末は、東日本震災の影響で製造中止になってしまったため、現在はアーマーサイロイドを海外から購入しています。もしくはチラージンにチュロナミンというT3の薬を合わせて使うこともあります。チラージンS 50μgに相当するチラージン末(乾燥甲状腺末)は、25-30mgです。

4. 性ホルモン

4-1. ホルモン代謝の正常化が重要

婦人科疾患に対して、女性ホルモンをブロックする薬剤の投与が当たり前のように行われています。しかし、それをしてしまうと、人間のホメオスタシスが働いてしまい、過剰にホルモンが分泌されたり、ダウンレギュレーションが起こり、かえって悲惨なことになっているのが現状です。大切なことは、女性ホルモンをブロックすることではなく、代謝を正常化させることです。

4-2. プロゲステロンに対してエストロゲンが優位になる

いわゆる更年期障害や月経不順、月経痛など、様々な女性特有の不定愁訴がありますが、多くの場合、原因としてエストロゲンの過剰分泌が考えられます。年齢に伴ってエストロゲンとプロゲステロンの分泌量が落ちてきますが、エストロゲンよりも、プロゲステロンの方が急激に低下します。特に35~50歳にかけての低下率は、エストロゲン35%に対し、プロゲステロン75%で、エストロゲンとプロゲステロンの差が大きく広がるのです。

4-3. プロジゲステロンクリームの選び方

これを食い止めるのに最も簡単な方法が、プロゲステロンクリームの使用です。エメリタのプロジェストなどは、バイオアイデンティカルなクリームとして有名です。ホルモンを補充するときに必ず気をつけるべきことは、人間が代謝しやすいホルモンを使うことです。例えば、プレマリンという女性ホルモン剤は、馬から抽出したものですが、人間にとってバイオアイデンティカルではないので、代謝に時間がかかってしまいます。長時間効く代わりに、いつまでも体に残留して様々な不調を引き起こすリスクがあります。

一方、バイオアイデンティカルなホルモンクリームであれば、1日で完全に代謝されます。 まめに塗る必要がありますが、副作用が極めて少なくて済むのは大きなメリットです。このクリームは、経皮吸収で腹部などに塗るタイプのもので、プロゲステロンの分泌量が高まる生理周期3週目に親指の先半分ぐらい、 4週目に親指1本分程度を使います。ただし、これは米国向けに作られているため、初めは少ない量から始めます。副作用は、プロゲステロンの鎮静作用により眠くなることです。

4-4. 婦人科疾患の原因は女性ホルモン代謝異常

婦人科疾患の多くは、女性ホルモンの代謝異常によるものですが、代謝異常になる原因の1つに、環境エストロゲンの増加が挙げられます。重金属、ダイオキシン、有機汚染物、フタル酸エステルなどに環境エストロゲンが含まれています。ホルモン剤を投与されたアメリカ産の牛肉や牛乳なども注意が必要です。現代は、バイオアイデンティカルではないエストロゲンが体に入りやすい環境にあります。日常的に環境エストロゲンを避けるように心がける必要があります。

また2つ目の原因として、エストロゲン代謝分解の低下があります。エストロゲンは、肝臓で加水分解され、メチレーションなどを経て解毒されますが、これらの代謝が滞り、エストロゲンが過剰に溜まっている人が大勢います。

4-5. 子宮内膜症の3つの原因

子宮以外で子宮内膜が増殖してしまう病気を異所性子宮内膜症と言います。例えば卵巣で増殖してチョコレート嚢胞を形成すると、炎症を引き起こします。また、月経時に月経血が逆流して卵管の方に流れると、血液に含まれる鉄の作用で活性酸素が発生し、炎症を引き起こします。その炎症をエストロゲンがさらに増大させるので、炎症がいろんなところに飛び火してしまいます。

根本原因は炎症、内分泌撹乱物質(環境エストロゲン)、エストロゲン代謝低下、これら3つです。オメガ3系油をしっかり摂って炎症体質を改善すること、環境エストロゲンをできる限り避けること、エストロゲン値が高ければ、解毒して代謝分解してあげることも重要です。

4-6. 乳がん治療の難しさ

乳がんはステージ4まで進行してしまうと、5年、10年の生存率は極めて低くなります。また、乳がん治療の成功率は、再発によりかなり低下します。乳がんもホルモン依存性のものが多いため、薬のセレクトなどが難しくなってきます。

4-7. 閉経前後のエストロゲン供給源

BMIと乳がんリスクの関連性を示す報告を見ると、BMIが高い(脂肪が多い)方が乳がんリスクが高いことがわかります。閉経後はエストロゲンの分泌が低下しますが、副腎でつくられる男性ホルモンが、アロマターゼの働きにより女性ホルモンに変換されます。したがって、ホルモンの材料となる脂肪が多いほど、乳がんのリスクが高くなります。

Ann Oncol. 2014 Feb;25(2):519-24.
Body mass index and breast cancer risk in Japan: a pooled analysis of eight population-based cohort studies
DOI: 10.1093/annonc/mdt542

一般的な治療としては、アロマターゼ阻害剤を処方します。乳がん細胞に到達したエストロゲンの働きを阻害する抗エストロゲン剤なども使われます。閉経後の人には、アロマターゼ阻害剤と抗エストロゲン剤を処方しますが、閉経前の人は卵巣が働いているので、卵巣のエストロゲンを止めるために、下垂体の働きを止めるLHRHアゴニストという薬が処方されます。

では、アロマターゼを阻害して、エストロゲンの働きをブロックすれば、完全に乳がんを撲滅できるかというと、実際はそう簡単にいきません。それは、受容体が変化するからです。

4-8. 受容体のホメオスタシス

先述のLHRHアゴニストは、合成されたLHRHで、通常のLHRHの100倍の効力を発揮します。下垂体に対する過度な刺激により、ホメオスタシスが働いて受容体が減少し、応答能が低下します。これにより、エストロゲン分泌が抑制されます。これを偽閉経療法と言います。

その一方で、抗エストロゲン剤も併用されています。エストロゲンの受容体をブロックする薬ですが、当然ホメオスタシスが働いてアップレギュレーションが起こってしまいます。つまり、エストロゲンの減少に伴って受容体が増加したり、感受性が亢進した結果、応答能が増大してしまうのです。

乳がんの原因は、エストロゲン受容体のアップレギュレーションであることを示す論文もあります。

Med Mol Morphol. 2010 Dec;43(4):193-6.
Mechanisms of estrogen receptor-α upregulation in breast cancers
DOI: 10.1007/s00795-010-0514-3

タモキシフェンというエストロゲン受容体ブロッカー薬の説明書には、重要な基本的注意として、「本剤の投与により、子宮体がん、子宮肉腫、子宮内膜ポリープ、子宮内膜症が見られることがある」と記載されています。最初は効くかもしれませんが、ホメオスタシスが働きだすと、アップレギュレーションが起きて、子宮関連の疾患リスクが高まると考えられます。

『乳がんと牛乳』(ジェイン・ブラント著)には、著者自身が乳がんを患い、抗癌剤やホルモン療法など、ありとあらゆる治療をやっても何度も再発したのに、乳製品を完全にやめたら全く再発しなくなったという話が書かれています。

これは、乳製品に含まれる環境エストロゲンの作用により、受容体のアップレギュレーションが起こった結果ではないかと思います。薬で無理矢理止めても、完全には抑えられないということです。では、どうすれば良いのでしょうか?

4-9. ホルモン代謝を正常化する

それはズバリ、代謝を正常化することです。女性ホルモンの代謝を見てみましょう。エストロンはフェーズ1で活性化されると、善玉エストロゲンである2-OHE1や発がん性のある16α-OHE1になります。2と16の比率が重要で、外因性の環境エストロゲンやPCB暴露があると、全て16α-OHE1に流れてしまいます。

他にも、甲状腺機能低下症、殺虫剤、喫煙、カフェイン、薬物の影響でCYP3A4が活性化され、16α-OHE1が増えて発がんリスクが高まります。したがって、デトックスのフェーズを強化し、代謝を促す必要があります。代謝がスムーズになれば、増殖作用がないエストリオールに変換され、がんリスクが低減します。

4-10. エストロゲンデトックスのための食材とサプリメント

エストロゲン代謝を促すには、COMTを活性化するビタミンB6やグルタチオン、メチオニンなどを使うのが効果的です。もう1つの方法として、2-OHE1の方向に流れを向けてあげることも有効です。そのためには、アブラナ科の野菜やI3C(Indole-3-carbinol)、DIM(Diindolylmethane)、亜麻仁油、チロキシンなどを使います。あとはデトックスな生活を心がけること、腸内環境を良くすることです。

4-11. 3型アルツハイマー病と性ホルモンの関係

『アルツハイマー病 真実と終焉』の著者であるデール・ブレデセンが提唱したアルツハイマー病の3つの型のうち、3型は毒物性アルツハイマー病で、マイコトキシンや重金属の暴露が原因で発症するものです。

他のアルツハイマー型よりも発症が早く、40代からと言われています。ストレスなどがトリガーになり、認知機能よりも、うつ症状が先に見られるという特徴があります。この3型アルツハイマー病にもホルモンバランスが関係しています。

3型アルツハイマー病の特徴
・40代で発症(更年期頃に起きやすい)
・うつ病が認知機能低下に先行する
・記憶低下<集中力低下、計算不能
・強いストレスがトリガー
・マイコトキシン、もしくは重金属への暴露
・血中TG低値
・血清亜鉛低値
・HPA軸↓、プレグネノロン↓、DHEA↓

3型アルツハイマー病の症例を見てみましょう。

57歳女性

  • 数年前から腹部のガスが増えた
  • 以前は考えられないようなうっかりミスが増え、記憶力、集中力が落ちた(日常生活には支障なし)
  • 昨年夏頃から睡眠の質が落ちた
  • 便の調子が良くない(いつも軟便、食事の度にもよおす、乳酸菌サプリで多少改善)
  • 年齢のせいかと思っていたが、腸内環境が悪化することでも記憶力、集中力が落ちると知り来院

早期認知症検査(MOCA)をやってみたところ、30点中の29点で全く異常なしでしたが、本人には、計算に時間がかかる、じっくり集中できない、記憶力が低下したという自覚がありました。

血液検査で確認すると、ホルモン値は保たれていましたが、銅亜鉛バランスが崩れていました。

  • 25OH-D 43 ng / ml
  • Cu 118μg / dl
  • Zn 66μg / dl
  • ACTH 21.5 pg / ml
  • コルチゾール 7.3μg / dl
  • DHEA-S 1767 ng/ ml
  • エストラジオール 8.1 pg / ml
  • テストステロン 25.5 ng / dl

炎症に関しては、ピロリ菌陽性でした。その他にも、胃の炎症、中等度の上咽頭炎、感染根菅が3カ所、口腔内カンジダもあり、体中炎症だらけの状態でした。

  • ヘリコバクタピロリ抗体陽性
  • PG1 46.7 ng / ml
  • PG2 10.6 ng / ml
  • PG1/PG2 4.4

マイコトキシンの蓄積も見られました。

マイコトキシンは、アルツハイマー病及びパーキンソン病などの神経変性疾患の発症に寄与していると言われており、暴露源としては、汚染された穀物、ブドウジュース、乳製品、香辛料、ワイン、乾燥ブドウ果実、コーヒーなどが挙げられます。

毛髪ミネラル検査の結果を見ると、ミネラルの輸送障害があり、水銀の蓄積が疑われました。

この症例のように、一見、副腎疲労のように見えますが、マイコトキシンと水銀の蓄積があり、腸内環境が悪化していて、ストレスがトリガーとなって記憶力が低下している場合は、3型アルツハイマー病の疑いがあります。

最後に、治療ピラミッドに当てはめてみましょう。炎症、毒物の蓄積、ホルモン代謝異常、こうしたものが結果として脳に影響を及ぼします。これらの根本原因を下から順番に治療していく必要があります。

5. 最後に

いかがでしたか?ホルモン代謝異常により、様々な疾患が引き起こされることをご理解いただけたかと思います。代謝の正常化は、通常の医療ではリーチできない部分なので、栄養療法的なアプローチがとても重要です。

副腎、甲状腺、性ホルモンはお互い影響し合っているため、副腎→甲状腺→性ホルモンの順番に治療する必要があります。副腎疲労は大きなストレスがトリガーとなり、抵抗期から疲弊期に移行します。自律神経と体性神経は本来は独立した神経系ですが、継続的なストレスで、両者の間に単路がつくられ、弱い刺激でも自律神経が興奮するようになり、慢性的な自律神経失調症につながります。副腎疲労の治療としては、根本治療とセットでホルモン療法を行うケースがあります。コルチゾールはカタボリックを促進するため、DHEAを併用するとアミノ酸分解を抑制することができます。

甲状腺機能低下症に関しては、Ⅱ型と呼ばれる潜在的な甲状腺機能低下を抱えている人が多く見られます。甲状腺ホルモンのT4が活性型のT3に変換できない原因の一つに、コルチゾールスティールの存在があります。したがって、まずは副腎疲労を治すことが先決です。

女性ホルモン代謝異常は、多くの婦人科疾患の原因となっています。代謝異常の原因としては、環境エストロゲンの過剰な暴露や、エストロゲン代謝分解の低下などが挙げられます。乳がん治療には、抗エストロゲン剤などが用いられますが、無理に抑制するとホメオスタシスが働き、かえって症状が悪化することがあります。まずはエストロゲン代謝を正常化するために、生活習慣の改善と、適切なサプリメンテーションを行うべきでしょう。

精神疾患の栄養療法

宮澤賢史 · 2021年10月12日 ·

うつ病、統合失調症、ADHDなどの精神疾患にどのような栄養療法をしていけば良いのでしょうか。

本日の内容は、神経伝達物質の代謝に栄養が大きく関与しているのでその仕組みを知り、実際にどのようにしてそれらを判別するか、それを基に薬やサプリメントどのように使っていくかということについてお話します。

1.神経伝達物質の代謝とメチレーション

1-1. 本日の内容

・神経伝達物質の代謝
・神経伝達物質再取り込みトランスポーターたんぱくの合成に栄養素が大きく関与している
・神経伝達物質の状態を血液検査や症状などから推測できる
・それを元に薬剤や栄養サプリメントを調整することで症状の安定化を図れる

脳のバランスをとるのに重要なのは神経伝達物質の代謝とメチレーションの2つです。昨今、ゲームが流行っているのは、競争心を煽りご褒美をもらえ、毎日めまぐるしく変わる人間の報酬系に対する仕組みを全部実現しているためです。自分に役に立つことをすると脳からドーパミンが出て嬉しい気持ちになることを報酬系と言いますが、それがどんどん活性化していくと最終的に依存症になります。

Facebookもそのような報酬系の仕組みの尤もたるもので、「いいね」が今日は何個付いたかが気になる場合、完全に報酬系の奴隷となっています。

このように依存症は比較的身近な話ですが、精神疾患を持っていたり、生科学的なインバランスがある人は、まず脳の生化学状態を整えてから食事療法を取り入れた方がスムーズです。

脳細胞は脳の中に1,000億個あり、その細胞のひとつひとつが隣の1,000個の細胞と繋がっています。それをシナプスと言います。人の思考、行動、感情は全て、神経伝達物質と呼ばれる特別な物質が脳細胞から脳細胞に伝えられて起こります。

脳の刺激は電気で伝わり、電気回路がショートしないように少しだけ離れています。神経伝達物質という特殊な物質が伝達されることによって、考えたり行動したり、色々な感情が沸き起こったりします。

神経伝達物質はドーパミン、セロトニン、GABAなど何種類もあり、全て栄養から出来ていてそのまま脳機能に直結しています。ドーパミンはフェニルアラニン、セロトニンはトリプトファン、GABAはグルタミンという必須アミノ酸から代謝されてできています。グルタミンは条件付きの必須アミノ酸です。

分子栄養学とはもともと分子栄養精神医学から始まっていて、ライナス・ポーリング博士は、「脳は身体の他の部位に比べて栄養の影響を受けやすいから、精神医学から始めた方がいい」ということを提唱してます。

1-2. モノアミン仮説

多くのうつ病の薬は、モノアミン仮説に基づいて設計されてます。

・うつ病患者で 脳脊髄液中の5-HIAAの低下が見られる
・セロトニンの前駆物質であるトリプトファンをモノアミン酸化酵素阻害剤に併用すると抗うつ作用が増強する
これらのことから、うつ病患者の脳ではセロトニン神経伝達の機能低下が起きているという仮説が立てられる
                 Br J Psychiatry: 1967, 113(504);1237-64

うつ病患者の脳の脊髄液に5-HIAAというセロトニンの代謝産物が低く、うつ病の薬にトリプトファンを一緒に併用すると改善することから、うつ病患者の脳ではセロトニンがうまく働いていないのではないかという仮説が立てられ、これをモノアミン仮説と言っています。現在ではうつ病だけでなく、統合失調症や気分障害などもこのような仮説をもとに治療されています。

1-3. うつ病患者のすべてが低セロトニンとは限らない

問題は、うつ病の患者さんに実際にセロトニンが低いかどうかを検査していないままセロトニンを増やす薬が処方されるため、セロトニン症候群を起こす人がいるということです。セロトニン症候群とは、セロトニンが増えすぎて起きる副作用のことです。

SSRIとはセロトニンの取り込みを押さえて、シナプスでのセロトニンを増やす薬ですが、効果が見られないだけではなく副作用を起こす人がいることが問題です。セロトニン過剰となり、衝動性や攻撃性、自殺念慮を引き起こしたりします。基本的に栄養療法を含め、全ての治療は各人のセロトニン濃度に応じて量を調節する個別化医療が求められます。

今日の話は、精神疾患に対する栄養療法において、最大のデータベースを持っているウォルシュリサーチ・インスティチュートを基に構成されています。

ウィリアム・ウォルシュ博士
精神疾患患者に対して行った生化学検査数は300万件以上にわたり、過去に執筆した科学論文や記事200本以上

(行動障害 10,000件、ADHD 5,600件、統合失調症 3,500件、うつ 3,200件、自閉症 6,500件)

世界14ヵ国で300名以上、現在まで28ヵ国以上もの国で臨床医向け講演。

ウォルシュ博士の栄養療法を私が採用している1番目の理由は、分子栄養学の創始者のエイブラハム・ホッファー先生の正当な流れを組んでいるためです。ウォルシュ博士は、長年ホッファー先生と一緒に活動されてきた先生です。

2番目の理由として、その考え方をさらに発展させてエピジェネティクスという考え方を取り入れていることです。このエピジェネティクスとは、栄養が遺伝子の発現をコントロールしてるという意味です。この考え方が取り入れられるようになってから、今までよく理解できなかった精神医学の根本原因が判明しました。

3番目にはエビデンスが多いことです。去年亡くなったジャック・チャレムという方にメチレーションに関してアメリカで一番エビデンスが多い人を紹介してくれないかと頼んで紹介して頂きました。2年前、日本で講演をしてもらいましたが、内容がとても良かったのでシカゴに行って彼の研修を受けてきました。

1-4. 栄養素を併用した個別化医療

ウォルシュ博士は、個体差の重要性が大切で、心の病に対しては栄養素の不足よりも過剰摂取がより多くの悪影響を及ぼすとおっしゃっています。

鉄、メチオニン、葉酸、銅などは、過剰に投与するとかえって症状が悪化することがあるので、僕の場合、精神疾患の人は最初にマルチビタミン摂っていた場合は一時的に辞めていただいてます。

低メチレーションの人に葉酸を投与すると悪化します。葉酸はマルチビタミンにも入っているので、ウォルシュ博士によるとマルチビタミンも1度やめたほうがいいそうです。食事中の葉酸に関してはOKですが、栄養素でかえって悪化することがある程、脳はとても不安定です。

これに関しては自閉症の権威エイミー・ヤスコ博士も同じようにおっしゃっています。

下記は、脳のインバランスを的確に把握した個別化医療がどのくらい効果があるかという2010年のウォルシュ博士の論文です。

自閉症スペクトラム、ADHD、アスペルガー症候群、不安、双極性障害、うつ病、統合失調症および強迫性障害(OCD)を持つ患者567名に対して12か月間個別化治療を行い、QOLの改善度インタビューを行った。

110例(23.6%)が脱落、
221例(44.9%)大幅改善、91例(18.5%)が部分的改善

ACNEM Journal Vol 29 No 3 – November 2010

自閉症でほとんど改善しているのが45%、部分的な改善が35%、合わせて8割の人に何らかの改善が見られています。ADHDや躁鬱病など7〜8割の人に改善が見られてるという大規模な論文です。

1-5. 神経伝達物質の代謝とメチレーションに栄養素が大きく関与する

神経伝達物質の代謝

様々な神経伝達物質がある中、今日の主役はドーパミン、ノルエピネフリン、セロトニン、GABA、グルタミン酸です。

ドーパミンはフェニルアラニンからテトラヒドロビオプテリンや、ビタミンB6の影響を受けて代謝されます。ビタミンB6が不足すると、ドーパミンが生成されません。そしてドーパミンからノルエピネフリンへは、ドーパミンβヒドロキシラーゼという酵素によって転換されますが、そこに銅が重要となります。銅過剰になるとドーパミンが減って集中力を高めてくれる神経伝達物質であるノルエピネフリンが増え、過剰になると不安な気持ちが出てその結果意欲がなくなってきます。

ビタミンB6はセロトニンやGABAの合成にも一役買っているので、特にピロール障害があるビタミンB6が少なくなってしまう体質の人が、ドーパミン、セロトニン、GABAは作られにくくなります。

また、グルタミン酸は、グルタミン酸受容体にくっついて効果を発現します。グルタミン酸は学習や記憶にとても大事ですが、多すぎると興奮を引き起こすため、特に自閉症のお子さんには問題となります。過剰なグルタミン酸の働きを強くするのはカルシウムで、働きを抑えてくれるのは亜鉛とマグネシウムです。 

気を付けなければいけないのは銅と亜鉛のバランスです。銅と亜鉛はブラザーイオンで、お互いを抑えるように働いています。銅過剰の場合、亜鉛を沢山投与すれば、自然と銅が下がってきます。

これはNMDA型のグルタミン酸受容体です。

症状
目を合わせない、攻撃的、stims、自傷行為。ぼっーとする(オピオイド受容体も刺激される)

受容体抑制   
マグネシウム
亜鉛
リチウム

グルタミン酸の神経の過剰興奮がカルシウムの流入を引き起こして細胞死を引き起こします。自閉症のお子さんの脳を解剖してみると、多く見られるのは鉄とカルシウムで、カルシウムが異常に流入してるので神経細胞が死んでしまい、グルタミン酸神経の過剰興奮により脳に炎症を起こしています。

上記の症状を抑えるため、自閉症のお子さんはグルタミンを食事から抜かなければいけない時期があります。グルタミン酸からGABAへの転換がうまくいかないため、グルタミン酸が溜まってしまうためです。それはビタミンB6不足なのかもしれないし、水銀の蓄積なのかもしれません。グルタミン酸からGABAへの転換には色々な要素が必要で、ビタミンAやビタミンKの不足もこの転換を阻害してしまいます。

この過剰なグルタミン酸神経の細胞死を防ぐのが、マグネシウムや亜鉛、リチウムなどです。脳の生化学状態をコントロールするのは2つです。一つは神経伝達物質の代謝、もう一つはメチレーションです。

1-6. メチル化について

メチレーションはメチル化とも言い、メチル基が色々な物質に結合し化学構造が変わって、様々な変化が起きたり代謝が進みます。メチル化は分子や、シナプス、ヒストン、DNAなどにも起こります。

例えば、水銀にメチル基がつくとメチル水銀になります。無機水銀に比べてメチル水銀が悪いのは、体が食べ物として認識して腸からそのまま吸収され、脳や脂肪に行ってしまいます。魚の水銀はメチル水銀です。

また、子宮内でDNAに起きるメチル化は、妊娠の2、3週で確立して一生続きます。肝臓も目も皮膚も全ての細胞は同じDNAを持っていますが、なぜ肝臓になったり皮膚になったり目玉になるかというと、DNAの読むところが違うからです。メチル基が結合しているところは読まなくなります。

僕は一夜漬けタイプで、試験前になると教科書で絶対出なさそうな箇所は、山をはって思い切ってバツをつけていました。集中力を高めるためそこが目に入らないようにバツをつけるようなもので、DNAのメチル化とは、DNAの中で読まないところを設定されるということです。

この子宮内で起こるメチル化がうまくいかないと、余計な遺伝子が発現してしまい問題になります。自閉症のお子さんは、98%低メチル化です。遺伝的な要因で、ほとんどの場合両親が低メチル化なら、低メチル化同士の組み合わせで低メチル化になりますが、本当はメチル基がつかなければいけないところに子宮の中で低メチル化が起きて活性酸素に弱い個体ができやすくなります。

妊婦はそれを防止するために、葉酸を摂ることが推奨されてます。葉酸を摂らなければいけないのは妊娠2、3週目なので、妊娠する前から計画的に葉酸を摂らないと間に合いません。妊娠2ヶ月と言われたときには、もう遅いのです。

また、今回一番の話題は神経伝達されるシナプスで起こるメチル化です。メチル化とは、メチル基がくっつくことですが、メチル基はほとんどがメチレーション回路によって作られるSAMeによって供給されます。メチレーション回路で作られるメチル基の最大の供給源がSAMeなので、メチレーション回路が回ってない人はSAMeが少ないです。メチレーション回路は遺伝子変異や環境によって左右されます。

この遺伝子変異を回避するサプリメントが、活性化葉酸です。このシナプスで起こるメチル化は、シナプス間隙の神経伝達物質を減らす効果があります。シナプスにおけるDNAのメチルレーションと、全身におけるメチレーションがあります。

下記はメチレーション回路です。

メチレーション回路でメチオニンというアミノ酸をもとに、それがアデノシル基がついてSアデノシルメチオニンになります。このSAMeがメチル基の供給源なので、メチレーション回路が回ってない人はメチル基が十分供給できません。ここでできたメチル基は、DNAのヒストンに結合します。

1-7. 核と染色体とDNAとヒストン

染色体をバラバラにすると、DNAとヒストンからできています。ヒストンとはこのDNAの長い紐を巻いておく糸巻きのようなものです。DNAは一つの細胞の中で伸ばすと1.8メートルくらいあり、このヒストンという糸巻きでぐるぐる巻かれているために1/1000ミリの核の中に入ることができます。そのため、昔はヒストンはDNAを絡ませないようにするためのものという風に思われていましたが、実はヒストンはDNAの発現に大きく関与しています。

1-8. 転写が起こるしくみ

転写はDNAからタンパク質が作られる過程の一部で、DNAはmRNAにコピーをされて、そのmRNAをもとにタンパク質が作られます。この一連の過程を転写と言います。

エンハンサー領域に転写因子タンパクが結合することがはじまり

タンパク質が作られるためにはまず転写が行わなければなりません。転写は遺伝子のエンハンサー領域に転写因子タンパクが結合することから始まります。そのためエンハンサー領域にタンパクが結合できないと、タンパク質は作られません。

ヒストンは塩基性が強いので、酸性のメチル基が結合すると、ヒストン同士は縮んでエンハンサー領域に転写因子が近づきにくくなります。

ヒストンは強い塩基性のタンパク質であり、酸性のメチル基と親和性が高く、
アルカリ性のアセチル基とは反発しあう

逆にこのヒストンにアルカリ性のアセチル基が結合すると反発しあうため、ヒストンとヒストンの間が離れて、転写因子が近づきやすくなり、タンパクの合成が促進されます。メチル基が付くと、構造が密になり転写因子が近づきにくくなるので転写がストップするという仕組みです。

1-9. シナプルにおけるセロトニン量はメチレーションに比例する

メチル基がメチル化されるとタンパクの合成が止まり、これはすべてのタンパク質に当てはまります。メチル化が進むとヒストン同士が縮み、メチル化が進まないとヒストン同士は離れて、タンパクが作られます。

メチレーションが亢進している人はシナプスの再取込タンパク合成が抑制されており、
シナプス間隙におけるセロトニン、ドーパミン量は増加している
メチレーションが低下している人は、セロトニン、ドーパミン量は減少している

シナプスにおいて問題になるのは、セロトニンの取り込みのタンパクのことを指しています。タンパクが沢山作れるということは、このセロトニン取り込みタンパクが沢山増えます。この場合はタンパクが少ないためセロトニンの取り込み口が少なくなり、シナプスの間隙にセロトニンが沢山余ってしまいます。

逆にセロトニン取り込みタンパクが沢山増えるということは、どんどん取り込まれてしまいシナプス間隙にセロトニンが減ります。メチレーション亢進=神経伝達物質の増加で、メチレーション低下=セロトニン、ドーパミン量低下です。

オーバーメーションやアンダーメチレーションについては後ほど詳しく説明しますが、オーバーメチレーションとはメチレーションが亢進しいてることで、アンダーメチレーションはメチレーションが低下してることを言います。オーバーメチレーションでは、セロトニンもドーパミンも沢山分泌されますが、アンダーメチレーションはどちらも分泌されません。

アンダーメチレーション=回路が回らなくて、メチル基が足りないこと
オーバーメチレーション=メチル基が多くて、余っていること

アンダーメチレーション状態

自閉症スペクトラム  98%
反社会的人格障害    95%
統合失調感情障害   90%
反抗挑戦性障害    85%
神経性食思不振症   82%
うつ病        38% 

オーバーメチレーション状態

パニック障害      64%
妄想型統合失調症  52%
ADHD         28%
行動障害        23%
うつ病        18% 

オーバーメチレーションの人は神経伝達物質が多すぎるので減らし、アンダーメチレーションの人は少なすぎるので増やしてください。メチレーションの状態を診ることがとても大切です。

一般的に、自閉症スペクトラムの人は、98%アンダーメチレーションです。様々な人格障害とか、神経性食思不振症、82%の人がアンダーメチレーションです。反対にドーパミンが多すぎるオーバーメチレーションの人は、パニック障害や、いわゆる典型的な妄想型の統合失調症、幻覚が見える統合失調症も含まれます。

アンダーメチレーション

オーバーメチレーション

  1. メチレーション回路の遺伝子変異
  2. ヒスタミン過剰負荷
  3. たん白不足 
  1. クレアチン合成障害 AGAT GAMTのSNP
  2. アルギニンまたはグリシン不足
  3. メチルトランスフェラーゼSNP

アンダーメチレーションになる原因は、メチレーション回路の遺伝子変異です。メチレーション回路がうまく回らないのは、遺伝子に変異があることが一番の理由です。特に問題になるのは葉酸の活性化の遺伝子のMTHFRです。

反対にオーバーメチレーションになる一番の原因は、クレアチン合成障害で筋肉を作る酵素がうまく働かない人です。メチレーション回路で作られたSAMeは、7割が筋肉を作るために使われます。筋肉をつけられない人は、その酵素の分だけSAMeが余ります。オーバーメチレーションの人は、鍛えても鍛えても筋肉がつきません。

1-10. 第一部まとめ

  • 神経のバランスは、神経伝達物質の合成や分解に必要な補酵素、シナプスにおける再取込トランスポーターなどの影響を強く受ける
  • 神経伝達物質の代謝には銅とビタミンB6が必要
  • ビタミンB6不足で ドーパミン↓、セロトニン↓、GABA↓
  • 銅の過剰で、ドーパミン↓、ノルエピネフリン↑,酸化ストレス↑ ✽ ✽神経伝達物質再取り込みトランスポーターたんぱくの合成(つまりシナプスにおける神経伝達物質の再取込量)にはメチレーションが大きく関与している
  • アンダーメチレーションではシナプス間隙のセロトニン↓、ドーパミン↓
  • オーバーメチレーションではシナプス間隙のセロトニン↑、ドーパミン↑

神経伝達物質の代謝とメチレーションによって脳の全体の生化学状態が決まります。つまり銅と亜鉛のバランス、ビタミンB6の不足、メチレーション状態を見れば良いということです。

2. うつ病のタイプ別分類

2-1. うつ病を脳内の生化学状態で分類

こちらは日本語訳されているウォルシュ博士の本です。

博士は、うつ病の分類を大まかに5つに分けてます。精神疾患を持っている人は2/3がメチレーション異常で、2/3はメチレーション正常です。メチレーション異常の人や、銅亜鉛バランスが狂ってる人は症状が特徴的です。

アンダーメチレーションタイプ(38%)

メチレーションが低下しているタイプの人は、ドーパミンが少ないです。

  • 強迫神経症状
  • 季節性アレルギー
  • 完璧主義
  • 競争心が強い
  • 学校の成績はよい
  • 儀式的な行動
  • SSRIが効果的

強迫神経症状を持つ人は、いつも同じ方から靴下を履き、いつも同じ道を通って学校に行く、いつも同じ食事をとらないと気が済まないなどの行動をとります。ヒスタミンが多くなるため、季節アレルギー出やすいです。そして完璧主義で競争心が強く、負けず嫌いです。

オーバーメチレーションタイプの人はドーパミン過多の人です。

オーバーメチレーションタイプ(20%)

  • 鬱に加えて不安やパニック
  • SSRIや抗ヒスタミン薬に対して不耐性、
  • 化学物質アレルギーを持つ
  • 症状にもかかわらず、気立てのよい優しい人が多い
  • ADHDや学業不良といった症状は
  • アンダーメチレーションタイプの人の3倍

ドーパミンやセロトニンが多すぎて鬱になる人もいますし、不安症状がとても強いという特徴があります。なにかにつけて不安なので、パニックを起こしたりしますが、SSRIやボルザックなどの薬に対してかえって悪化する場合もあります。様々なことが次から次へと頭に浮かんできて、思考がまとまらない人が多いです。ドーパミンが大量に出たら学校の成績が上がりそうですが、意外とそうでもなく、絵が上手だったり音楽的な才能があったり芸術家思考の人が多いです。

2-1. メチレーションと症状

メチレーション状態には低メチル化と高メチル化があり、低メチル化の原因は葉酸の活性化酵素の変異が一番です。

ヒスタミンを代謝している酵素でもあるSAMeの合成が低くなるので、ヒスタミンが多くなって花粉症になります。メチレーション回路が回らないとドーパミンの合成が下がって、依存症体質の人が多いです。クレアチン合成酵素にメチル基が回るため、筋肉量は多くテストステロンが多くなり、性欲も強いです。

反対に、高メチル化の人はクレアチン合成酵素が下がっているため、いくら鍛えても筋肉がつきません。高メチル化の人はSAMeが余るので、ドーパミンがどんどん構成されます。創造性に長けていて喋り始めたら止まりません。検査はヒスタミン量で判定し、好塩基球の実数を測ります。

2-2. 評価法 ヒスタミンと好塩基球

ヒスタミンはSAMeによって代謝されてメチルヒスタミンになるので、低メチレーションの人はSAMeがあまり作られず、ヒスタミンが溜まって色々な症状を引き起こします。

上記のサプリは、ヒスタミンを代謝する酵素であるジアミンオキシダーゼです。消化酵素や高ヒスタミン薬を使うと、ヒスタミン量が狂ってしまいますが、一般的にはヒスタミン量からメチレーション状態が推測できます。血液中のヒスタミンは98%好塩基球の中に入っているため、好塩基球数で測定します。

ウォルシュ博士は全血中のヒスタミン濃度を測ることを推奨していますが、全血中のヒスタミン濃度を測れる検査会社が日本にはないため、血液中の好塩基球数から推測します。

2-3. 好塩基球数を求める

好塩基球数の求め方は、白血球×好塩基球の割合をかけてそれで100で割ってください。

白血球数 × 好塩基球(BASO)の割合(%)÷100

白血球数4800×
好塩基球(BASO)の割合(%)2.5÷100=120

好塩基球数<30 なら OM
好塩基球数>70 なら  UM

好塩基球数が30以下ならオーバーメチレーション、好塩基球数が70以上ならアンダーメチレーションなので、この方の好塩基球数はとても多いとわかります。

さらに詳しく診るためにはSAMeと、SAMeが代謝されたS-アデノシルホモシステインの比率を測るドクターズデータ社のメチレーション検査もあります。

もしこの検査をされるなら治療の前に行なってください。治療の後にやると結果が狂ってくることが多いためです。

2-4. 銅過剰タイプ(17%)

銅は人間の成長に不可欠な因子なので、妊娠中に上がったり、お子さんも上がります。ただ一部の女性では、出産後、正常に戻るべき銅のレベルが下がらない人がいて、これを銅過剰タイプといいます。

  • 強い不安感・パニック傾向がある
  • 産後うつ病を引き起こす可能性がある
  • 活動的である
  • SSRIで不安が増強する
  • 安定剤ではうつが治らない
  • ピル、ホルモン補充療法で悪化する
  • 敏感肌である

銅過剰タイプの95%が女性で、特にエストロゲン値が高くなる思春期、更年期、妊娠期に発症することが多いです。銅過剰になると、ドーパミンからノルエピネフリンへの過剰転換が起き、不安、パニック傾向や、産後うつ病の大きな原因になります。薬が効かないため、SSRIや安定剤でも効果がありません。そしてエストロゲンは銅をさらに悪化させるので、ピルで悪化するというのも特徴です。オーバーメチレーション状態と銅過剰状態の人が混合で合わさっている場合もいます。

2-5. 銅過剰の症状

検査では、銅と亜鉛のバランスを見ます。

セルロプラスミンを測ってる人は、酸化ストレスに直結する遊離銅を測ることも大事です。栄養サプリメントの中で特に鉄と銅は活性酸素の発生源になるので、気を付けてください。

鉄の害が出やすい人は鉄を乗せるタンパクの残りであるUIBCが少ない人です。いわゆる空の台車です。その数字が通常200なので、100ある人は鉄の害が出やすいです。銅に関してはセルロプラスミンというタンパク質が少なくて、遊離銅が多い人が銅の酸化ストレスの影響が出やすくなります。

2-6. 銅過剰の評価

銅過剰の評価方法は下記の通りです。

  1. 血中銅↑(>110)
  2. 血中亜鉛↓(<90)
  3. 遊離銅比率↑(>25%)

銅過剰活性酸素のことを考えなければいけません。血中度が高くて、血中亜鉛が低く、さらに遊離銅比率が高いことです。

遊離銅比率の計算式は下記のとおりです。

( 血中銅 – セルロプラスミン×3 )/血中銅 x100 (%)

遊離銅の比率が高い方はセルロプラスミンを増やすことが大事で、セルロプラスミンを増やすのに有効なのはビタミンAです。

2-7. ピロール障害について

ピロールとはヘモグロビンを作る時の副産物で、多く作られると尿中に排泄される物質です。体の中での重要性はそれほど多くないので、作られた側から排泄されていきますが、問題なのはビタミンB6と亜鉛が非常に結合しやすいので、沢山作られる人はB6と亜鉛が体から抜けていきます。このような体質の人のことを、ピロール障害といいます。

これは体質で、生まれつきB6と亜鉛不足なので、10歳になる前から症状が出ることが多いです。神経伝達物質のセロトニン、ドーパミン、GABAは全てB6に依存しているので、これらが不足してしまうがために不安やうつの症状が出ます。気分の変動が激しく、双極性障害(躁鬱病)と診断されることもあり、躁と鬱を繰り返し、気分が1分単位で変わることもあります。

ピロール障害の人はストレスがあると症状が悪化するため、亜鉛とビタミンB6を増量する必要があります。ビタミンB6が不足し短期記憶障害が出て、夢が思い出せない、本が読めないという症状が出てきます。

このピロールタイプの人は副腎疲労にとても似ていて、朝が弱く夜がとても強いです。ストレスに弱く、朝弱く夜強いという傾向は、副腎疲労にとても似ているので、ピロール障害の人が隠れていることがあります。

2-8. パイロルリアの評価

ピロール障害は、下記の二つの方法で評価します。

①尿中ピロール

尿中のピロールが15を超えたらピロール異常です。ただこの検査もハードルが高いので、亜鉛とビタミンB6が足りていないかどうかということから推測しましょう。

②亜鉛、B6量から推し量る

血中亜鉛↓、GOT>GPT、尿素窒素↓

血中の亜鉛の濃度と、GOTとGPTの差がB6不足を反映します。ピロール障害には尿素窒素の低下も関わってきます。

  • GOTとGPTは、共にビタミンB6を補酵素とするアミノ基転移酵素である
  • ビタミンB6は様々なアミノ基転移酵素の補酵素として働くが、その中でもGOT,GPTの活性が特に高い。
  • GPT ↑ なら肝機能障害 (脂肪肝、ウイルス肝炎)
  • GPT ↓ なら酵素、補酵素の活性が低下
  • GPTのほうがB6の不足の影響を大きく受ける。
  • 両者共に低めで、GPTがより低い場合には、B6不足
  • 両者共に高めで、GPTがより高い場合には、脂肪肝 (B6不足と脂肪肝があると、一見正常範囲に見える)

下記は、アラニン回路という経路です。

筋肉では糖新生ができないため、ピルビン酸がアラニンに代わり肝臓に行って、そこからグルコースが新生されます。その際に尿素ができるので、この回路がうまく回る人は尿素窒素の数字が高めです。

この回路がうまく回るためには、ピルビン酸からアラニンへの転換がされなければいけませんが、このピルビン酸とのアラニンの転換をするのがALT(GPT)です。ビタミンB6が足りない人はピルビン酸、アラニンの転換がうまくいかないため、尿素が下がってきて尿素窒素が一桁という人も中にはいます。

2-9. パイロルリアの症状

ピロール障害の症状は、ビタミンB6と亜鉛欠乏によるところが大きいです。

爪に白い斑点があると分かりやすいですが、亜鉛不足でALPが下がって成長障害が起きます。また、B6不足なので、副腎疲労症状や短期記憶障害が出たり、気分が不安定になります。

オメガ6系の脂肪酸がうまく作れないというのもパイロルリアの特筆すべき症状です。そのため、ウォルシュ博士によるとパイロルリアの人はオメガ3を摂りすぎてはいけないとのことです。

2-10. 重金属蓄積タイプ(5%)

  • 突然鬱が現れる
  • 腹部の痛み、けいれん
  • イライラ
  • 頭痛、筋力低下
  • エネルギー切れ
  • カウンセリング、薬が効かない

どれにも当てはまらない場合は、鉛や水銀、カドミウム、ヒ素などの重金属について考えてみてください。見分け方としては何のきっかけもないのに突然鬱になったりします。腹部症状があり、イライラや怒りが出てくることがあります。それぞれの暴露歴からも判断していかないといけませんが、他の4つの病態と重なってる場合がありますので問診が大事です。

2-10. 第2部まとめ

① 評価すべき事項

  1. メチレーション状態 亢進?低下?正常?(ドーパミン量を左右する)
  2. 銅過剰はないか?(活性酸素の発生量、ノルエピネフリン量に影響)
  3. パイロルリアはないか?(亜鉛↓、B6↓により様々な影響)
  4. 消化管の問題はないか?
  5. 重金属の影響はないか?

メチレーション状態、銅過剰、パイロルリア、の他に、消化管の問題がないかを確認してください。消化管の問題があれば必ず鬱になります。そして重金属の影響も聞いてみてください。複数の異常が合併することがあるので注意してください。特に合併しやすいのはメチレーションの低下とパイロルリア、メチレーション過剰と銅過剰です。

②うつ病の生化学タイプと神経伝達物質のアンバランス

   うつ病の生科学タイプ           神経伝達物質活性
     低メチレーション         低セロトニン、低ドーパミン
     高メチレーション         高セロトニン、高ドーパミン
      銅過剰               高ノルエピネフリン
     ピロール異常            低セロトニン、低GABA
病名でなく、メチレーション、栄養状態で処方を決める

うつ病の生化学タイプと神経伝達物質は、低メチレーションの場合は神経伝達物質は低くなり、高メチレーションの場合は高くなります。銅過剰の場合はドーパミンが低くなってノルエピネフリンが高くなり、ピロール異常の場合はB6が不足するので、セロトニンもGABAもドーパミンも作られにくくなります。

大事なのはうつ病、統合失調症、ADHDとかの病名ではなくて、脳の中の生化学状態で栄養療法を決めていくということです。うつ病でもセロトニンが高い場合と低い場合とあります。

3. タイプ別治療

生化学治療の原則

・神経伝達物質の合成に必要な栄養素の濃度を正常化する事。
→亜鉛、銅、B6の事

・標的栄養療法を使い、神経伝達物質の活動性を
エピジェネティックに制御する事→メチレーションの調節をするという意味

・フリーラジカルの酸化ストレスを軽減する事
→抗酸化治療(一番大事な抗酸化物質は亜鉛)

抗酸化物質も色々ありますが、大事なのは亜鉛、グルタチオン、セレンです。グルタチオンは体の中で作られる物質ですが、これら3つの抗酸化力が強いです。

亜鉛はメタロチオネインという抗酸化物質を作るのにとても重要です。メタロチオネインを積極的に作って解毒を促すというのがウォルシュ博士の考え方で、メタロチオネインを作るためには、血中濃度、亜鉛の血中濃度を100以上に保つと良いと提唱しています。

3-1. 検査すべき項目

亜鉛や銅、その他に検査をしておいた方が良い推奨項目として血中のホモシステインもあります。他にも25OHビタミンDと甲状腺機能は精神疾患に関わってくるところです。

  • 血漿亜鉛
  • 血清銅
  • ヒスタミン
  • 尿中ピロール
  • 血中ホモシステイン
  • 25OHビタミンD
  • 甲状腺機能  
  • GOT/GPT

もしピロール検査をしてみたい方は是非してみてください。尿中ピロール検査を請け負っているのは、アメリカのDHAというラボか、HDRI社です。正確に測ってくれるのは、DHAの方ですが、凍結したものを送らなければいけなくて、凍結保証のDHLで送ると確か送料が9万円します。さすがに高すぎるので、僕の場合はHDRI社のものを使ってます。ただ測定誤差がどうしても出るそうです。

3-2. 治療失敗の最も大きな原因

  • コンプライアンスの低下
  • OMの場合、服薬の量、複雑さ → 単純化
  • UMの場合、説明不足 
  • 子供の場合、明確なメリットを示す
  • 食事内容に介入する前に、主なインバランスを
    改善する方が好結果が得られる。
  • 多くの患者にとって、インバランスを修正する前に
    生活スタイルを大幅に改善するのは無理。
    (自閉症、ADHDを除く)

治療は、亜鉛、銅、ビタミンB6、葉酸などを補充していくことですが、治療失敗の最も大きな原因は、コンプライアンスの低下です。コンプライアンスとは、患者さんが服薬をちゃんとできてるかどうかです。

オーバーメチレーションの人の場合は、服薬の量が多かったり複雑さを嫌う傾向にありので、要望によっては単純化してあげることです。

アンダーメチレーションの人は、完璧主義で理論的な話が好きなので、説明が足りてないとうまくコンプライアンスがいかないですが、きちんと説明してあげたら100%服薬してくれることが多いです。

母親に連れて来られたお子さんの場合は、コンプライアンスはとても悪いです。食事の改善にもやる気がないです。親のメリットのために連れて来られているにしても、お子さんに対して明確なメリットがちゃんと説明できれば、コンプライアンスが上がることが多いです。

食事内容の改善がとても大事ですが、多くの人にとって生化学的なインバランスを修正する前に生活スタイルを改善するのは無理だということもあります。もし食事指導がうまくいかなければ、最初にこのインバランスを調整してあげると良いかもしれません。ただし自閉症の場合は、脳に炎症を起こしていてリーキーブレーンになっているので、食事の介入が必要だと思います。

今年の最初にメドマプスの方が来て自閉症セミナーがありましたが、自閉症に対して今一番有効な栄養療法のエビデンスの話をされていて、1位がメラトニンで、2位がオメガ6とオメガ3とビタミンB6でした。

3-3. 治療の基本

  • High Pyrroles: 亜鉛, B6/P5P
  • Overmethylation: 葉酸、ナイアシン
  • Undermethylation: メチルB12, SAMe
  • Low Zinc: 亜鉛
  • High Copper: 亜鉛、モリブデン
  • Free Cu high: ビタミンA,抗酸化物質

ピロールの場合は亜鉛とB6、B6が効かない場合は、ピロールだと判明した場合は活性型のビタミンB6を併用して使ってきます。ピロールの患者は、例えばB6を200mg、P5Pを50mgみたいな感じで使っていきます。

オーバーメチレーションの場合はメチル化を低下させる働きがある葉酸とナイアシンを使います。アンダーメチレーションの場合はメチル化を亢進させる働きがあるSAMeと場合によってはメチルビタミンB12を使います。

亜鉛が低い場合は亜鉛を、そして銅が高い場合は亜鉛と場合によっては銅と拮抗するモリブデンを使うのも良いでしょう。遊離銅が高い場合は、酸化ストレスが問題になるのでビタミンAと抗酸化物質を使います。

3-4. アンダーメチレーションタイプ

治療:SAMe もしくは メチオニン
・Cal/Mag
・mB12
・治療効果に1か月以上
・就寝前にイノシトール
・葉酸をさけること
治療のコツ
・完全に理解したうえで注文したい完璧主義者が多い
・考え方を受け入れられれば100%摂取する

アンダーメチレーションの人には、SAMeそのものを使うか、その前駆体のメチオニンというアミノ酸を使っていますが、メチオニンの場合はSAMeに変換するのにマグネシウムが沢山必要なので、一緒に摂る必要があります。欠かせないのがマグネシウムで、上にはCal/Magとありますが僕はマグネシウム単独で使っています。時にはメチルビタミンB12を使うといいですが、かえってイライラする人もいるので、腸内環境を治してから使った方が良いです。

タイプ別によって、症状が落ち着くのにかかる時間が違います。アンダーメチレーションの場合は1ヶ月以上、大体2、3ヶ月かかります。メチル化を亢進させるのが目的なので、メチル化を低下させる葉酸は避けた方が良いと思います。

3-5. オーバーメチレーションタイプ

診断:
血中ヒスタミン 40以下
血中Folate ↓ 好塩基球30以下
治療:
・葉酸塩 or フォリン酸なら少量
・B12
・ナイアシン/ビタミン C
・マンガン
・2,3週間悪化の時期を経て1か月後から改善
治療のコツ
あまり多くのサプリを摂りたくない人多い、最初に最大のサプリ個数を決めておく。マルチを使う、最低限必要なものを使う

オーバーメチレーションの場合はメチル化が亢進してるので、メチル化を低下させる葉酸を使います。ビタミンB12は使う時と使わない時がありますが、葉酸がうまく効かない場合はナイアシンを使います。ナイアシンは徐々に増やしていきますが、なかにはナイアシンで肝障害が起きる人がいるので、気をつけてください。

ナイアシンの厚生労働省の推奨量は30mgなので、3g使うならモニタリングしながら使った方が良いです。不安症の人はナイアシンを重宝しますが、諸刃の剣なのでモニターが必要です。ナイアシンフラッシュも起こるし、コレステロールが下がる人がいますから、コレステロールが元々低い人はナイアシンの使用は考えたほうがいいかもしれません。コレステロールはとても大事です。僕もナイアシンを毎日飲んでたらコレステロールがかなり下がりました。500mgだったら大丈夫ですが、1,000mgだと下がる人は下がります。

マンガンはアセチルコリンを活性化する働きがあります。アセチルコリンが活性化するということは、ドーパミンを抑えるということです。アセチルコリンとドーパミンというのは反対の働きをして成長障害が問題になるので、大人のみに使うようにします。オーバーメチレーションの人は、場合によっては2、3週間悪化して、その後1ヶ月後から改善することがありますので、1ヶ月未満の始めた時に不安を癒すフォローが必要です。

3-6. 銅過剰タイプ

治療:
銅入りのサプリメントを止める。
水道にフィルターを付ける
亜鉛
モリブデン & ビタミン E
銅の急降下を防ぐため少量からスタート
改善まで2ヵ月

銅過剰タイプの人は、当然ですが銅のサプリメントを使わないでください。アメリカには、銅とか鉄がフリーのサプリメント結構ありますが日本は普通に入っています。銅がいつまでたっても高い人は、水道にフィルターを付けた方がいいかもしれません。

治療には、亜鉛とモリブデンを使います。統計によると、亜鉛の量を倍にすると9ぐらい上がってきます。亜鉛は、普通食事から10mgくらい摂っています。サプリメントで20mgに増やしたら血中レベルが9上がり、40mgに増やしたらさらに9上がります。

血中濃度を100にするためには、逆算してどれくらいの量を摂るかを決めていったら良いと思います。亜鉛は最初から目的量を摂るのではなく、少量から始めた方が良いです。亜鉛とカドミウムと水銀は同族元素なので、カドミウムが体に蓄積されていた場合にカドミウムが一気に動いて腎障害を引き起こすことがあるため、亜鉛は少量から使うと良いでしょう。

3-7. ピロールタイプ

治療:
・Zinc
・B6 and P5P
・ピロール>40ならオメガ3を避ける
・抗酸化物質があるとよい(E,C,biotin)
・1週間程度で改善傾向がみられる
治療のコツ
・ストレスに応じて増量が必要な時がある
・ストレスの持続時間中、亜鉛を25-50mgとB6を100mgもしくは、P5Pを50mg毎日増量。
・ストレスが終わったら、元の投薬に戻す。

ピロールタイプの人は、亜鉛とB6不足なので、亜鉛を25mgから、そしてビタミンB6を100mg+P5Pを50mg使っていきます。様々な治療の中で一番治療反応性が早いのは、亜鉛やビタミンB6の治療です。ビタミンB6は水溶性物質なので、効果が出るのが早いです。ピロールタイプの人はストレスに弱いので、ストレスがある場合は量を増量して、ストレスが終わったら元の投薬に戻すと良いでしょう。

3-8. 遊離銅過剰の場合

セルロプラスミンを測っている方は、遊離銅を計算してみてください。

  • 自閉症の多くの症状は酸化ストレスと関連
  • 脳内酸化ストレス過剰が統合失調症の特徴
  • 抗酸化物質+ビタミンA(CPを増やす効果)
  • βカロテンでなくビタミンAを使う事
  • 高齢者では念のため血中濃度チェックを
  • 亜鉛ももちろん

遊離銅は酸化ストレスと関係していて、特に自閉症や統合失調症の場合は酸化ストレスの調整がとても重要です。セルロプラスミンを増やすために抗酸化物質とビタミンAを使ってください。ビタミンAはベータカロチンではない方が良いです。ベータカロチンはビタミンAの医療体ですが、体の中でうまくビタミンAに分かれてくれないと言われています。

ビタミンAをどれくらい使うかは人により違い、僕は3〜6万IUぐらい使いますが、高齢者の場合、念の為血中濃度をチェックした方がいいです。

3-9. 低ビタミンD

  • 正常範囲は 25-30 ng/mL以上だが、50-100ng/mL を目指す
  • 最低1000IUできれば2000IU以上
  • 半減期は2週間なので週1回まとめての摂取でもOK
  • (脂肪吸収がちゃんとできていれば) 投与開始後3ヶ月で再検査を

ビタミンDは、50ng/mLぐらいあった方がいいです。日焼けを毎日していれば、必ずしもサプリメントで摂る必要はないです。ただし必要な日焼け量には、毎日水着で歩くくらいの日照時間が必要となり難しいし、ビタミンDの産生能力は体質にもよります。血中濃度を上げるには、最低2,000IU以上摂るのが良いです。半減期は15日なので、週一回まとめての摂取でもOKと言われていますが、脂溶性ビタミンなので胆汁が出てるかどうか確認が必要です。コレステロールが低い人は難しいでしょう。

上記はビタミンDの血中レベルを上げると、どれだけの疾患が予防できるかという表です。

癌や1型糖尿病、多発性硬化症のような疾患は、ビタミンDの血中レベルと防御率が密接に関係しています。40〜50のビタミンDレベルあった方が良いと思います。多くの疾患はこれくらいのレベルにしておけば防ぐことができると書いてます。ドーパミンが少なめの人、下痢型の過敏性腸の症状がある人は特にビタミンDを投与した方がいいです。

3-10. 甲状腺機能低下

  • チラージン末(乾燥甲状腺末)は販売中止
  • ARMOUR THYROID 
  • チラージンとチロナミンを使い分ける。
  • チラージンと鉄、セレンを併用する
  • T3過剰は不安、動悸
  • 副腎疲労を治す

甲状腺が低下していたら昔はチラージン末を使っていましたが、震災で工場が閉鎖して、製造中止になってしまいました。このチラージン末は天然のブタの乾燥甲状腺で、T4とT3が自然な形で入っていたのですがもう販売していないので、ARMOUR THYROIDを使うか、もしくはT4とT3の製剤を使い分けるかで調整する場合があります。

僕はよくT4に加えて、鉄やセレンなどT4からT2に変換を促す栄養素も一緒に摂ってもらいます。甲状腺機能低下症は副腎疲労のベースの上に乗っかってくるので、一番大事なのは副腎疲労を治すことです。副腎疲労があったら、副腎疲労を最初に治してください。

3-11. 服用の際の注意

  • ほとんどの物は食後(亜鉛、B6は特に)
  • 甲状腺ホルモンやSAMeは食間に
  • 統合失調症、自閉症、躁うつ病では高用量が必要
  • コンプライアンス低下、成長期、ストレス過多、
  • 吸収不良、頭部外傷、薬物乱用、低血糖症では効果まで時間がかかる
  • UMではホモシステイン上昇に注意
  • (B6,B12,TMG,セリンで治療)
  • 高用量亜鉛による銅症状に注意
  • 亜鉛倍量で9ずつ上昇
  • バルプロ酸、ヒスチジン、サイアザイド利尿薬は
  • 亜鉛濃度を下げる

サプリメントの服用の際の注意点は、ほとんどの場合は食後で良いですが、甲状腺ホルモンやSAMeは食間の方が良いです。

うつ病とADHDと、統合失調症と自閉症はそもそもの根本が違います。うつ病と躁鬱病とは全く違う病態です。これらの疾患では高容量必要になることが多いです。

ホモシステインを事前に調べている方は、アンダーメチレーションではSAMeを使いますが、SAMeを使うと回路がぐるぐる回ってホモシステインが急激に上がり、動脈硬化のリスクになる場合があるので注意をしてください。ホモシステインが元々高い人は、最初にB6、B12を摂ると下がります。

4. 症例

4-1. 症例1 33歳女性、うつ、慢性疲労

症状
■朝起き上がれない
■首、肩、背中、腰のこり、痛み
■倦怠感が続く
■頭がぼんやりとする
■疲れて眠気がくるのに、寝付けない
■アレルギー(幼少より皮膚疾患。良くなったことが一度ない。
  花粉症は高校生の頃より)

■精神的に鬱気味

これらの症状による問診と血液検査などの検査結果の両方とも重要なので、現病歴をいかに詳しく聞くかが、メチレーション状態や生化学インバランスを診るコツです。

僕の場合は、問診票を使って洗い出していますが、それをもとにさらに聞き込みをします。自分からは言いたくないこともあり、聞かれれば答えるというセンシティブな患者さんは、トラウマや依存症のことなどを僕に話さず他のスタッフに話していたりします。聞きにくいことは、スタッフに聞いてもらっても良いと思います。

それをもとに問診をして先ほどの症状別の表を元に、これに当てはまるかとか、これはどうですかとかいうのを質問してください。

問診票

  • 表現が難しい症状もある
  • 症状の重症度の経過を追っていくとよいでしょう。
  • スタッフが問診できるようになってもらいましょう
  • 一緒に見て、項目を解説し、適切に項目を埋めるられるように手伝ってあげましょう
  • 症状表を読み込む
  • それぞれの症状のバランス感覚が大切。
  • 100%の特徴を満たす人はいない
  • 40%ならそれはすごく特徴を満たしている

症状には重要度がありそれらを全て聞くのは大変なので、確定的な症状を中心に聞いていくと良いと思います。アンダーメチレーションだったら完璧主義ですかとか、毎日靴下を同じ方から履かないと気が済まないですかとか。水道の元栓を何度も締めないと気が済まないかなど聞いてみてください。

大事なことはバランス感覚で、100%の特徴を満たす人はいません。どちらかに40%当てはまれば上々です。

これまでの対処
心療内科 使用の薬:リボトリール、レンドルミン
サプリメントビタミンCビタミンB系、ビオチン亜鉛ボスウェルケルセチンミヤリサン
ブルーベリーエキス 他
体調に変化の自覚症状があったのは、ビタミン系サプリ、亜鉛、整腸系
生活習慣
◇喫煙 30歳くらいの頃、あまりの体調の悪さに吸えなくなってしまい、以後1年以上禁煙状態となったが、その後仕事のストレスから喫煙再開。
◇飲酒 もともと好んでいたのにも加え、20代の頃は、仕事や生活のストレス、不眠等の解消の為、ほぼ毎日。休肝日はほぼ無い状態。28歳頃より体調の悪化に比例して、少しずつ飲めなくなり、一時禁酒状態になるも最近は体調が良い時には時々たしなむように。
◇幼少より甘いものが苦手だったが、喫煙をやめた後好む傾向になる。味の濃いものや塩味・タンパク質系は好物。糖質制限をすると調子がいい

これらのことを踏まえてさらに見ていきましょう。

これまではリボトリールやレンドルミンという睡眠薬や、色々なサプリメントを使って、自覚症状が変化あったのはビタミン系、亜鉛、整腸系でした。生活習慣では喫煙と飲酒がやめられないっという依存状態が見られます。

食の嗜好としては、塩味、たんぱく質系が好物とあり、塩味が好きなのは副腎疲労の可能性があります。糖質制限をすると調子が良いというのは要するにタンパク嗜好だということです。タンパクを摂ると調子が良いということは、メチオニンを摂るとSAMeがいっぱいできて、メチレーション回路が回るのかもしれません。

血液データも見てみましょう。

この人の場合は、白血球6,420で、好塩基球パーセンテージが1.1なので、好塩基球数の実数は70ぐらいです。ギリギリでアンダーメチレーションになります。血液データ的に色々問題はありますが、アレルギーや鬱があるのはアンダーメチレーション、寝付けないのは両方の働きがあります。不安が強いのは、オーバーメチレーションの症状でしょう。

リボトリールやレンドルミンなどの睡眠薬系が効くのはオーバーメチレーションの人の特徴なんですけども、必ずしもそうとは限りませんので注意してください。依存症体質はアンダーメチレーション、タンパク質好物もアンダーメチレーションです。この方にはアンダーメチレーションの治療をしました。

4-2. 低メチル化の特徴

  • 治療に抵抗性のあるうつ
  • 表向きは落ち着いているが、内心は神経質
  • 強迫神経症の傾向、もしくは強迫神経症
  • 学生時代は自発的であった
  • 完璧主義者
  • 学校やスポーツ、もしくは他の分野で競争心が強い
  • 内向的:孤立しがち
  • 権力者に対して反抗的
  • 柔軟性がない
  • ヘビースモーカー、ギャンブラー、その他の刺激性の強い物事への依存
  • ベンゾを長く使うほど、悪化する。メチル基を枯渇させるから。

アンダーメチレーションの人でも睡眠薬が効く人は効きます。ただ大事なことは、ベンゾジアゼピン系の抗不安薬や睡眠薬を長期間使ってる人はメチル基が枯渇しているので、アンダーメチレーションを助長してる場合があります。薬を漸減していくことが求められます。薬の離脱症状を最小限に抑えるには、高タンパク食が有効です。

4-3. 症例2 35歳女性

会社業務非常に多忙
朝9時から夜19時まで4年間激務⇒ストレスの調節がうまくいかない
その後、非常に疲れやすくなった。それが3年くらい続いている。
症状
■朝、起きることが出来ない。⇒ 朝弱く、夜に強い
■倦怠感が強い
■月に1回は疲れて寝込んでしまう。
■月経前症候群が強い
■便秘傾向
食事
朝はスムージーのみ、昼、夜の2食⇒朝は食事、サプリが飲めない
甘いもの、コーヒーが大好き 但し、食後に眠くなる

この方は、典型的な副腎疲労タイプのパターンです。

ヘモグロビンが11で、フェリチンが6.5しかないので貧血がひどいですが、他のデータを見てみるとGOTとGPTの差が離れていて、亜鉛とALPが低いですから、一見して亜鉛とB6不足です。メチレーションを表す数字は白血球の8,400と、0.7%かけると、好塩基球の実数は70くらいなのでメチレーションは正常だと思います。

4-4. ピロール障害の特徴

  • 極度な感情の起伏がある
  • 幼少時代から高い頻度で発生する恐怖感。
  • 短期記憶障害
  • 本が読めない
  • ストレスに弱い
  • ヒステリー
  • 夢を覚えていない
  • 朝の吐き気
  • 朝食をとらない
  • 宵っ張り

ストレスの調節が悪い、朝弱い、朝食を抜いてるというところはピロール障害の可能性大です。ご自分では言わないことがあるかもしれないので、夢を見るか、ストレスに弱いか、子どもの頃のことについてを問診で追加して聞いてください。

4-5. 症例3 40歳女性 気分の落ち込み、慢性疲労、妊娠希望

症状
■肺炎と副鼻腔炎を患い、以降疲労が抜けない。
■最近2ヶ月は特に顕著で頭痛と少しめまいがある。
■少し外出しても疲労を感じるようになった。
■気分の落ち込みあり。
■ 空腹時に動悸、めまいすることも2度あった。
■ 不妊治療のため、8ヶ月前から漢方医のもとさまざまな栄養補助食品は摂取している。
■ 少し改善したように思われたが、ここ最近疲労感が強くなった。
■フルタイム勤務で二人目不妊。

右上2本、右下2本、左下1本
アマルガムあり

この方の症状の原因は、重金属の影響です。結構アマルガムが入っているのにもかかわらず、水銀が振り切れるほど出ていないので、恐らく重金属の排泄障害があるのでしょう。身体の中にどこかに炎症を起こしていたり、腸内環境がうまくいってない場合、上咽頭炎がある場合は、炎症のせいでグルタチオンが枯渇していて水銀がうまく排出できなくなってしまいます。

4-6. 重金属タイプの特徴

  • イライラ、しばしば怒り
  • 学業成績と精神状態が比例
  • トリガーもなく突然発症
  • 人格の変化
  • 持続する腹痛(食事によらない)
  • 口腔内金属味
  • 息がくさい デトックス治療で軽快

重金属によるうつの症状は、突然の発症や、腹痛を伴う、口腔内に金属の管があるなどがありますが、治療的診断によればデトックス治療をしたら軽快するということが一番の特徴だと思います。

4-7. 症例4 39歳女性

  • 高校生からレクサプロ、ジアゼパム、トラムセット、マイスリーなど使用
  • ヒスタミン72 銅102 亜鉛102 CP23.2 KP20.78
  • ヒスタミン↑からUM しかし、ジアゼパムに依存性あり
  • UM+KPの処方にて徐々に良くなっていた。 しかしストレスにより最近増悪し、2㎎を1時間おきに使用しても収まらず、OMと考えるようになった。
  • 症状はUM,OMの両者の特徴をもっている
  • 不安とうつと自殺念慮があるが、二人の子供がいるため思いとどまっている様子
  • 彼女にはレクサプロとベンゾの両者が必要に思える。
  • 同様に彼女にはSAMeとナイアシンの両者を投与すべき?

ヒスタミン72はやや高く、銅102、亜鉛102、CPはセルロプラスミン23.2、KPとはクリプトピロールで20.78、ピロールが高いです。

アンダーメチレーション、ピロール、銅が102ですが、亜鉛は低くないですが、セルロプラスミンが23.2で少し低いです。この方の場合はアンダーメチレーションとピロールの処方をして徐々に良くなったそうですが、ストレスによって増悪してうまくいかないということでした。診断が間違ってオーバーメチレーションだったのではないかと考えるようになったそうです。

症状はアンダーメチレーション、オーバーメチレーション両者の特徴があります。オーバーメチレーションの特徴の自殺念慮があって、不安が強いです。二人の子どもがいるためになんとか自殺を思いとどまってる状態です。

アンダーとオーバーの両方があるから、SAMeとナイアシン両方入れた方がいいのではないか。その場合、葉酸をどうすればいいかという問題になります。ウォルシュリサーチ・インスティチュートの掲示板にあった症例ですが、両方あると確かに迷います。

一般にアンダーメチレーションの人はSAMeを使いますが、有機酸検査で葉酸不足と出る人もいます。ただ、アンダーメチレーションの人は、葉酸は摂ってはいけないので、この場合どうしたらいいのでしょうか。多くのアンダーメチレーション患者は葉酸欠乏ですが、うつ病症状にある場合は葉酸は避けるべきというのが、ウォルシュの答えです。

4-8. 葉酸どうすればいい?

患者がUMで、SAMeでうまく反応したが、有機酸検査では葉酸不足と出ている。葉酸を摂るべきでしょうか?

  • 多くのUM患者は葉酸欠乏。しかし うつ病、不安、強迫障害、運動障害が主な症状である場合、葉酸は避けるべき。
  • 多くの場合、メチルフォレートがメチル化を改善するが、全ての形態の葉酸は強力な脱アセチル化酵素阻害剤として働き、セロトニン神経伝達を低下させるため、悪化する。
  • その一方で、低セロトニンが病態に関係しないUM患者(自閉症患者など)は葉酸治療が奏功する。
  • 患者治療プログラムを考えるときにはメチレーションとエピジェネティクス両者を考慮する必要がある。

うつ病や不安など低セロトニンが病態に関係しないアンダーメチレーションの人は葉酸を摂るべきです。自閉症の人は低メチレーションなので、葉酸を摂ったほうがいいです。セロトニンが第一義に関係しないからです。セロトニンが第一義に関係するうつ病の場合は、葉酸を避けた方がいいということです。

シナプスにおけるメチレーションと、全身におけるメチレーションがあり、葉酸はメチレーション回路を回します。ですがシナプスにおいて葉酸を入れると、メチレーションを低下させます。そのためうつ病や低メチレーションの人には葉酸は使わない方が良いですが、自閉症の人の低メチレーションは使った方がいいです。

4-9. 症例5 61歳女性 ベンゾジアゼピンが手放せない

  • 20才の時からずっと心配性、不眠が続いている。
  • 治療方針について週に数回質問の電話がかかってくる。
  • 非常に神経質。
  • hsCRP 1.0
  • Glu 83、インスリン5.6、HOMA-IR 1.1
  • TSH 3.38 、fT4 1.3; fT3 2.6;
  • フェリチン28 Cp 18
  • Cu 69
  • Zn 74
  • FC%21.7
  • FCI 15 WNL Cu:Zn 0.93

甲状腺機能は潜在的に低下していて、低血糖気味です。

4-10. ウィルソン病

  • 常染色体劣性遺伝 胆汁中への銅排泄障害による
  • 先天性銅過剰症。
  • 血清セルロプラスミン低下(20mg/dL未満 )
  • カイザー・フライシャー角膜輪 
  • 精神神経症状 

この方は、遺伝的な銅の蓄積病であるウィルソン病です。角膜に、銅が溜まっていて、カイザー・フライシャー角膜輪ができる有名な病気で、精神症状も出ます。血中銅が下がってくるのが特徴的です。血中銅が低くてもほとんどはウィルソン病ではないですが、精神症状や肝硬変があり、血中銅が下がってたら、このような病気もたまに隠れています。

セルロプラスミンが低く、遊離の銅が低いのが特徴です。

4-11. 効果が出るまでの期間

SSRI       数時間〜         輸送体に結合し、
                      セロトニン活性を上げる
ビタミンB6 1週間〜          血中濃度上昇
亜鉛       2ヶ月以内         MT合成亢進
ナイアシン、  1,2ヶ月          輸送タンパクの遺伝子発現亢進
葉酸など
SAMe 3〜9ヶ月         輸送蛋白の遺伝子発言抑制、
                     タンパクの半減期に関わる

治療の効果が出るまでの期間は、薬に比べて時間がかかることが多いです。時間がかかるということを最初からお伝えしておくと良いです。治療にはモニタリングが必要ですから、亜鉛、銅、セルロプラスミンは3ヶ月後に測ってみたら良いと思います。2ヶ月で変わることは多いですが、亜鉛のレベルは誤差が出ます。朝と晩で測っても異なるし、尿欠してたら亜鉛が高く出ます。亜鉛は摂っている量が倍になると、9〜10くらい血中濃度が上がってくるのが一般的です。そこから大きく外れてたら再検査してみてください。

マーケティング戦略の用語でUnder-promise and over-deliverという言い回しがありますが、約束を控えめにして結果を大きくした方が喜ばれることが多いです。特に治療期間の場合は、1年かかりますと言って3ヶ月で治ったら喜ばれますが、逆だとひどい目に合うので注意してください。

特に自覚症状の改善度については、こちらが改善してると思っていても、患者さんが自分で良くなってることに気が付いてないということは、良くなっていないということなので難しいところです。

4-12. 薬との使い分け

  • 初期の数か月は併用が原則
  • 後に明確な症状改善が得られていれば、精神科医の元での慎重な減薬を相談
  • 減薬の目標は、向精神病薬の中止ではなく「最善の効果が得られ、副作用が少ない投与量を明確にすること」

自閉症、統合失調症、躁鬱病は減薬が難しい病態なので、完全に中止するのではなくて、副作用が少ない投与量まで減薬することを目標にしてください。

4-13. 副作用について

  • 亜鉛、B6は嘔気を起こすことがある(特に初期から大量に入れた場合)
  • 亜鉛が不安を起こす事がある(銅に影響するため)
  • 亜鉛は鉄の吸収を阻害する
  • UMにマンガン投与はパーキンソン症状悪化
  • B6十分な人にB6投与は悪夢
  • OMにメチオニンは不安、自殺企図
  • ピロール以外の治療は時間がかかる 治療初期に悪化する事がある

亜鉛を飲んで吐き気を感じる方は、朝食に摂らずにお昼や夕食後に摂ってください。また、亜鉛と鉄欠乏がある方は、鉄は亜鉛の吸収を阻害するので、鉄欠乏が重度出ない限り同時に摂らないほうが良いでしょう。

アンダーメチレーションの方でマンガン投与する人はあまりいないと思いますが、ドーパミンを抑えるため、パーキンソン症状が悪化することがあります。

B6も過剰摂取をすると悪夢が出ることがあるので、オーバーメチレーションの場合は、菜食主義にした方が良いです。アンダーメチレーションの人は、いっぱい肉を食べてメチオニンを作った方が良いでしょう。このようなことは、事前の説明が大事です。

4-14. 妊娠したらどうするか

SAMe
・依存している場合、出産までは50%減量。200mg以上を服用しない。
そうでない場合、最初の4ヶ月間は中止が推奨
・SAMeが優先的に胎児に行き、潜在的に問題を引き起こす可能性
・赤ちゃんが子宮内の非メチル化環境で発達することは理想的ではない
葉酸 ・毎日800μg以上(特に妊娠第2期まで、二分脊椎、自閉症の予防)
亜鉛 ・ 投与量の半分に減量。
・胎児の血管新生に対する銅の重要な効果を損なう可能性。
・亜鉛レベルが低すぎると胎児の成長が損なわれるので適量は必要
ビタミンB6 ・投与量を半分にする。水溶性ビタミンであるため、速やかに変化。

妊娠した場合、SAMeは出産まで50%減量してください。そうでない場合は、子宮の中のメチル化に影響しないためにも最初の4ヶ月間は中止が推奨されてます。妊娠後期なら非常に安全だといわれているため、産後うつの人にSAMe使う場合がありますが、統合医療の情報発信を見ると、安全性が確立されていないとあるため、慎重に扱われた方が良いと思います。

葉酸を摂ることに異議はないですし、亜鉛も胎児の成長に絶対必要ですが、多すぎると血管新生に役立つ銅が少なくなりすぎるので、投与量の半分に減量するのが推奨されてます。

この治療は根本治療ではありません。亜鉛やビタミンB6、SAMeもサプリをやめたら元に戻るので、そこが一番の問題点です。遺伝的な性質を改善する方法ではないということ、コストを常に考えないと続けられません。そのため症状が安定したらより経済的な方法を探っていく必要があります。

5. うつ以外への疾患への対応

5-1. ADHDの治療

不注意が主症状の場合
半数以上に葉酸、B12,亜鉛、コリンの欠乏が見られる。
これらサプリメンテ―ションで集中力改善が期待できる。
衝動性、多動が主症状の場合
銅亜鉛バランスが大きく崩れていることが多く、これがノルエピネフリン、
アドレナリン過剰症状をもたらす。
両者を合併している場合
さらにメチレーション異常、重金属負荷、ピロール異常などが背景に
あることも多く、検査による正確な診断が必要。

ADHDは、注意欠陥不安障害です。不注意が症状の場合と、多動が症状の場合でサプリメントの使い分けをしたらいいというのがウォルシュ博士の見解です。基本的にはメチレーションや、銅亜鉛バランスを見てください。

ADHDで注意することはタイプ別で治療が違うことです。ADHDの患者さんは不注意になったり過集中になったりしますが、これは注意が欠陥しているのではなくて、注意の調節力が欠陥しています。薬で対処できることとできないことがあるので、この注意力を調整するためには個別化医療による栄養素の投与が良いと思います。

行動障害が合併することがあるので、銅・亜鉛バランスがとても大事です。暴力行為は、銅・亜鉛バランスが狂っている人が多いです。その辺りについて、ウォルシュ博士の本にとても詳しく書いてありますのでぜひ買って読んでみてください。

半年以上の栄養療法で薬を中止できてる人は70%いるので、うつとADHDはどちらかというと軽症です。

5-2. 強迫神経症

比較的軽症な強迫神経症という病気があって、ほとんどの場合が低メチレーションです。このような方には、メチル化の治療をしたら良いと思います。グルタミン酸の障害もあるので、Nアセチルシステインがいいという報告もあります。

  • 重症は殆ど低メチレーション、MTHFRに変異あり
  •  さらに、メチル葉酸にて症状悪化
  • ドーパミン受容体活性の低下が報告されている。
  • SAMeやメチオニンで効果が見られることが多いが事前に
  •  ホモシステインを評価する。心血管リスクがある例では
  •  事前にB6などでホモシステインを下げておく。
  • もう一つはNMDA受容体のSNPによるグルタミン酸
  •  トランスポーター障害。これの正常化にNACがよい。

5-3. 脳に非可逆性変化が生じている栄養療法だけでは×な疾患

可塑性が関係する
•依存症
•過食症
酸化ストレスによるメチル化の恒久的変異(GSH,MTの枯渇)
•自閉症 3歳
•ウィルソン病 15歳
•統合失調症  20歳 双極性障害  25歳

栄養療法だけでうまくいかないのは、脳に非可逆性変化が生じている、例えば依存症や過食症など脳の可塑性が関係している場合です。もしくは、酸化ストレスで脳のメチル化のブックマークが変わってしまっている場合も難しいです。

酸化ストレスが強くなっている人は、グルタチオンやメタロチオネインが完全に枯渇しています。これらの疾患の特徴は、突然の発症で永続的な症状の継続です。普通、急性発症は急性の病気だから治るはずですが、急性に発症したのになかなか治らないのはこれが起きているからです。

自閉症3歳、ウィルソン病15歳、統合失調症20歳、双極性障害25歳など、病態は似ていますが、好発年齢が違います。これらの疾患には、栄養療法プラスαを行っていかなければなりません。

5-4. 統合失調症の治療

統合失調症の治療も同様で、メチレーションに応じて上記のような対処をしていきますが、抗酸化対策も重要です。本来、遺伝形式があると分かった時点での予防が大事です。

5-5. 自閉症

  • エピジェネティクス障害により、異常な低メチル化、酸化過剰、重金属への脆弱性をもつ
  • つまり「低メチル化の人が圧倒的な酸化ストレスを引き起こす
  • 環境障害を経験する事で発症
  • 予防の重要性(遺伝要因)
  • 妊娠20~24日目が重要(サリドマイド児)
  • 活性化葉酸、抗酸化対策
  • 脳の成長時期に不可逆性変化
    →治療の早期介入が重要

自閉症の特徴は、エピジェネティクス障害です。ほとんどの人が低メチレーション、酸化過剰で、重金属への脆弱性を持ってます。いろんな論文を重ね合わせると、低メチルの人が酸化ストレスを引き起こし、環境障害を経験することで発症します。予防が何より大切です。

サリドマイドという免疫抑制剤を使った場合、サリドマイドを妊娠20日〜24日に飲んでた人のみ発症しました。計画的に妊娠をして、遺伝子変異がある場合活性化葉酸を摂っておくことです。

自閉症は他の病気に比べて、発症時期が早いです。脳は4歳までに8割できてしまうので、4歳までの成長時期には不可逆性変化が起こることがとても大事です。そのため、早めに発見して対策をすることが望まれます。1歳と6歳で治療するのとでは、治療期間は3倍〜5倍違います。

統合失調や躁鬱は、なかなかうまくいかないことが多いので、栄養療法以外のことも重ね合わせないと難しいです。

5-6. 栄養療法の限界

  • この治療は、栄養素を使って 神経伝達物質の代謝を促す。
  • メチレーションを調節してシナプス間隙の神経伝達物質量を調整する。
  • 神経細胞、シナプスの物理的変性には効果がない。
  • 海馬、偏桃体の萎縮
  • シナプスの可塑性による変異

栄養療法は、栄養素を使って神経伝達物質代謝を促すものなので、神経細胞やシナプスが物理的に変性してしまっている場合はうまくいきません。

5-7. 自律神経と体性神経

上記は自律神経と体性神経の図ですが、この二つの神経は別々のもので、交わることはありません。自分の意思で汗をかいたり、脈拍を早くしたり、鳥肌を立たせることができないでのは自律神経と体性神経が別々だからです。

でも、時には短路が生じることがあって、例えばびっくりして心臓が止まりそうになるとか、怖い話を聞いたら鳥肌が立つとか、ストレスで胃が痛くなるとか、それは交わりが起こることです。これが毎日びっくりしたり、毎日ストレスで胃が痛くなっているとだんだんこの神経が太くなってきます。

持続的に興奮するシナプスは、より容易に伝達が起こるようにどんどん変化していきます。これをシナプスの可塑性といいます。

解剖学的に、シナプスに達する軸索が枝分かれして、より広い面積でニュートン細胞体と向き合うようになります。

この結果シナプスの有効面積が増大し、より大量の伝達物質がシナプスで放出されるようになるのです。

これと同じことが、依存症にも起きます。依存症というのは、報酬系が過剰活性化された状態です。ドーパミンは嬉しいことがあると分泌されますが、嬉しいことを想像しただけでも分泌されます。

この報酬系の刺激は、常に刺激すると徐々に少しの刺激でも活性化されやすくなります。コカイン中毒の人はコカインを見ただけで興奮します。コカインやアルコールを辞める治療はありますが、単に罰則を厳しくしたり、グループの皆で話し合って終わりなど医学的に基づいていません。

報酬系が活性化されている状態を止めないと医学的には治らないです。それが活性化していくと、ついには潜在的な意識の働きかけでも同様の行動を刺激するようになります。例えば、コカイン中毒の人っていうのは一回辞めても、サブリミナルでテレビ見てるうちに0.01秒のコカインの画像を入れたらそれで反応して、またコカインをやりたくなります。潜在意識まで落ちてしまうとそういうことになります。

5-8. マインドフルネス瞑想法

  • ストレスをコントロールできる
  • 痛みをコントロールできる
  • 集中力を高める
  • ネガティブ思考からポジティブ思考へ
  • 心と体をリラックスさせる

マインドフルネス瞑想法の実践

瞑想は、シナプスの可塑性を逆に戻す試みで、色々な文献を見るとマインドフルネスの実践を勧めています。“今”という瞬間に意識を集中するという方法で、仏教の瞑想法がベースになっています。

ドーパミンは興奮系神経ですが、それとは別に抑制系の神経があります。人間の場合、脳を抑制させてるのは前頭葉です。前頭葉で統合して、抑制させる抑制系の神経が弱っている人が依存症になってしまいます。

5-9. 不可逆性変化を伴う疾患への対策

  • 自閉症、統合失調症、双極性障害  
  • 家族歴があれば、予防的処置。
  • 特に酸化ストレスを抑制する。
  • 自閉症は24~29週の妊娠期間が重要
  • 脳神経再生治療(経頭蓋磁気治療、Edelfo)

経頭蓋磁気治療とは、うつ病の患者さんにも用いられている神経を刺激して抑制されている神経を元に戻す治療です。コカイン中毒の人の7割が改善しています。

Edelfoは、脳由来の神経栄養因子をサプリメントで投与して脳を戻す方法です。これらはコストがかかりますが、脳神経を戻すという意味では根本治療につながる可能性があります。自閉症、統合失調症、双極性障害にはこういった治療も混ぜることが必要かもしれません。

5-10. 双極性障害のメカニズムを解明

  • 2018年5月8日、米国精神医学会での発表
  • エピジェネティックな傷害が多数のイオンチャネル遺伝子の発現を突然、かつ永続的に変化させる。
  • ニューロンの外側にカリウムイオンが過剰に蓄積し、膜電位を形成できなくなるため、局所の脳機能が低下しうつ症状が出る。
  • 障害部位はゆっくりと回復し、細胞膜の外側のカリウムが除去されるにつれ躁病が戻る
  • この発見は同疾患の画期的な治療につながる可能性がある。

上記は双極性障害のメカニズムは解明されたというウォルシュリサーチの最新の発表です。躁鬱病は、アンダーメチレーションとオーバーメチレーションが入れ替わるという不思議性があります。今までの治療は、躁のときは躁用、鬱の時は鬱の薬でした。躁鬱病とは、カリウムイオンが細胞の膜の外から中に入れない状況らしく、細胞が働かなくなるので鬱になり、カリウムが長年かけて入ってくるようになると、元々の躁が顔を出すという病態だということが解明されたので、恐らく新しい治療に繋がっていくのではないかと思います。

5-11. 穏やかに、忍耐強く!

薬、栄養素、磁気治療、マインドフルネス、神経再生、様々な治療を使い分けて最善の状態を目指しましょう。

患者さんがあなたに会いに来た理由を理解しましょう。

そのためには治したいリストを書いてもらうといいと思います。旅行に行けるようになりたいとか、そういうのを僕は書いてもらっています。

今回は触れませんでしたが、腸内環境と重金属の影響もとても大事ですので、この2つは常に考えるようにしてください。

血液検査から推測するメチレーション

宮澤賢史 · 2021年9月6日 ·

メチレーションのこと、ご存知ですか?栄養療法を学び始めた方の中には、何となく難しいもの…と感じていらっしゃる方が多いかもしれませんね。

そこで今回は、血液検査からメチレーションレベルを推測する方法と、適切に回すための栄養療法的アプローチをわかりやすく解説します。メチレーション回路には様々な栄養素が絡んでいますが、今まで学んできた血液データの読み方を活用すれば、ご自身のメチレーションレベルをある程度推測することが可能です。メチレーションを学んで、栄養療法への理解をさらに深めていきましょう。

1. メチレーションとは

1-1. メチル基供与体と受容体

様々な基質にメチル基(-CH3)が置換または結合することをメチレーション(メチル化)と言います。メチル化することで、物質が活性化したり不活性化したり、様々な化学反応が起きます。メチル基を与えるものをメチル基供与体、受け取るものをメチル基受容体と呼びます。代表的な供与体はSAMe(S-アデノシルメチオニン)、受容体はナイアシンです。SAMeは、ATPに次いで体内でたくさん使われています。

1-2. メチレーション 3つの経路

メチレーション回路は、3つの経路が歯車のように噛み合わさって動いています。メチル化経路はメチル基を作り出す経路、葉酸経路は葉酸を活性化する経路、神経経路はドーパミンを作り出す経路のことです。さらに、メチル化経路のホモシステインからシステインに向かう硫酸経路は、解毒に関係する経路です。

1-3. メチレーションの役割

メチレーション回路は体にとって大変重要な代謝経路で、次のような役割があります。

  • 解毒(グルタチオン合成)
  • メチル基の供給
  • DNA、RNAの産生
  • ドーパミン産生
  • 動脈硬化の予防(ホモシステイン)
  • がんの予防(DNAサイレンシング)
  • 免疫調整

メチレーションが正常に行われると、グルタチオンが合成され解毒が促進します。また、ホモシステインが溜まらないので、酸化ストレスが低減し、無駄なタンパク質の発現が抑えられ、がんを防ぐことができます。葉酸経路が活性化し、DNAやRNAの合成が促進されたり、ドーパミンやセロトニンといった神経伝達物質の合成や代謝がスムーズに行われたりします。

1-4. メチレーションを阻害する要素

メチレーションは、基質と酵素の適合性によって回っているので、基質や酵素の不足によりアンバランスが起こります。例えば、動物性タンパク質の摂取が少ないと基質であるメチオニンが不足しますし、酵素を産生する遺伝子にSNPがあると酵素が不足します。また、補酵素の不足、重金属や感染、炎症といったものがメチレーション回路を阻害します。

  • 基質の不足(タンパク質摂取不足によるメチオニン↓)
  • 遺伝子のSNP(遺伝子多型、MTHFRではC677Tなど)
  • 酵素の補酵素不足(MTHFRではビタミンB2)
  • 重金属(MTRでは水銀、硫酸経路ではヒ素)
  • 感染、炎症(SHMT、CBS、MTR、BH4、CDX)

1-5. 実践ピラミッドにおけるメチレーションの位置づけ

メチレーションは実践ピラミッドの頂上に位置します。メチレーションはとても重要な部分ですが、腸の炎症、デトックス、ホルモンバランス、ミトコンドリア機能のケアをスルーして、メチレーションだけにアプローチしても絶対にうまくいきません。逆に言うと、ピラミッドの下から順にアプローチしていくと、徐々にメチレーションが回るようになっていきます。

2. 自閉症との関連性

2-1. 自閉症治療の難しさ

メチレーションレベルに深い関わりがあるのが自閉症です。自閉症に対するアプローチは様々試みられていますが、なかなか結果に繋がっていないのが現状です。それは、自閉症児の脳は発達段階にあるため、ものすごくナイーブで色々な外的影響を受けやすいためです。普通はメチレーションまで考えなくても症状が改善することが多いのですが、重症患者や子どもの場合は、メチレーションのアプローチが必要になることもあります。

2-2. 自閉症発症の原因

米国自閉症児治療学会であるMAPSの会長で、自閉症治療の第一人者である、ダン・ロシニョール博士は、1971~2010年における自閉症関連の論文を分析し、自閉症には炎症や酸化ストレス、ミトコンドリア機能不全、毒物曝露が関係していることを明らかにしました。

自閉症に関するレビュー
・炎症・免疫不全(416/437, 95%)
・酸化ストレス(115/115, 100%)
・ミトコンドリア機能不全(145/153, 95%)
・毒物曝露(170/190, 89%)
Mol Psychiatry. 2012 Apr;17(4):389-401. 
A review of research trends in physiological abnormalities in autism spectrum disorders: immune dysregulation, inflammation, oxidative stress, mitochondrial dysfunction and environmental toxicant exposures
https://www.nature.com/articles/mp2011165

2-3. 効果的な代替医療

一般的に、自閉症に対する食事以外の代替医療として、エビデンスレベルが高い治療と言えば、メラトニン、ナルトレキソン(オピオイド拮抗薬)、音楽治療くらいしかありません。しかしながら、エビデンスレベルは低くとも、ビタミンB12、B6、B3、亜鉛など、メチレーションに関わる栄養素の摂取により、自閉症改善に効果が現れているため、既に治療に取り入れられています。ロシニョール博士の報告によると、自閉症児の親へのアンケート結果をまとめると、効果があった治療の1位はキレーション、2位はビタミンB12注射、3位はメラトニン摂取でした。

AnnAls of CliniCAl PsyChiAtry 2009;21(4):213-236
Novel and emerging treatments for autism spectrum disorders: A systematic review
https://hyperbaricoxygentreatmentcenter.com/wp-content/uploads/2020/07/Novel-and-emerging-treatments-for-autism.pdf

3. 葉酸経路と遺伝子の関係

3-1. MTHFRの遺伝子変異

葉酸経路で働くMTHFR(5,10-メチレンテトラヒドロ葉酸還元酵素)は、葉酸を活性化するときに使われる酵素で、5,10-メチレンテトラヒドロ葉酸を活性化型のメチル葉酸に変える働きをします。補酵素はビタミンB2とNAD(ビタミンB3)です。ビタミンB2、B3不足や、MTHFRに遺伝子変異があると、葉酸を十分に活性化できなくなります。

MTHFRの遺伝子は、20,373塩基対からなる大きなタンパク質です。遺伝子には冗長性があるので、1個や2個の塩基が置き換わってもタンパク質の機能にはあまり影響ありません。しかし、塩基番号677番、または1298番の塩基が1つ入れ替わると、それだけで機能が大幅に損なわれてしまいます。

  • 塩基番号677:本来シトシン(C)のはずが、SNPが生じるとチミン(T)に置き換わり、生成されるアミノ酸がアラニンからバリンに変わる
  • 塩基番号1298:本来アデニン(A)のはずが、SNPが生じるとCに置き換わる

遺伝子多型とは、遺伝子上の1つの塩基が別の塩基に置き換わることです。 1%以上の人が持っているものをSNP(スニップ、一塩基多型)、1%以下の人しか持っていないものを突然変異と呼びます。MTHFR遺伝子多型は日本人に多く、C677Tの変異は、日本人の45%に見られます。つまり、MTHFR遺伝子多型は、突然変異ではなくSNPということになります。

人種C677T
変異1つ
(ヘテロ)
C677T
両方変異
(ホモ)
C282YとA1298C
の変異が各1つ
(複合ヘテロ)
A1298C
両方変異
(ホモ)
白人
(欧州・北アメリカ)
25-45%8-18%15-20%4-12%
ヒスパニック
(アメリカ)
42%21%不明4-5%
黒人
(アメリカ)
14%約1%不明2-4%
アジア人35%
(日本人)
11%
(日本人)
不明1-4%

遺伝子は両親から受け継ぎます。遺伝子変異を1つ受け継いだ場合をへテロ(異型接合体)、2つ受け継いだ場合をホモ(同型接合体)と言います。677CCが正常、677CTがヘテロ、677TTがホモとなります。また、677CTと1298ACといったようにそれぞれに遺伝子変異が1つずつある場合を複合ヘテロ接合体と呼びます。 

3-2. 葉酸サプリメントの種類

葉酸サプリメントは大きく分けて、非活性葉酸、10ホルミル葉酸に近いフォリン酸(folinic acid)、5-メチル葉酸の3種類あります。5-メチル葉酸は日本では製造できないため、海外から購入する必要があります。個々のリスクよってどの葉酸サプリを摂ったら良いかが異なります。

葉酸経路は、葉酸を活性化してメチル化経路にメチル基というバトンを渡す役目をしています。非活性型の葉酸が1段階活性化されると10ホルミル葉酸になり、これがDNA合成を促進します。大多数の人は10ホルミル葉酸まで活性化させることができるので、非活性葉酸でも適量摂取すればDNA合成が促されます。

3-3. 妊娠前にはどの葉酸サプリを飲んだらいいのか?

二分脊椎というDNA合成不良により、神経系に異常をきたした赤ちゃんが産まれるケースが多かったことを受けて、厚生労働省が妊婦に対して葉酸サプリメントの摂取を推奨しています。

結論から言うと、妊娠前の方は普通の非活性葉酸で十分です。葉酸の量自体を増やすことが重要で、非活性葉酸でも十分効果を発揮します。特に積極的に摂取したいのは、オーバーメチレーション型のうつ症状がある方です。ナイアシンと葉酸サプリメントの摂取で、ドーパミンの過剰な生成を抑えてくれるからです。この場合も非活性葉酸を使います。

3-4. 特に注意すべき人とは?

問題は、10ホルミル葉酸からメチル葉酸になる代謝で、ここにはMTHFRが関わっています。MTHFR遺伝子に変異があると機能が半減し、メチル葉酸が低減します。メチル葉酸はドーパミンと解毒に関わっており、言語障害や解毒力低下を引き起こします。また、メチル葉酸はメチル化回路と繋がっており、ビタミンB12と反応して非活性型葉酸になってまた戻ってきますが、MTHFRにSNPがあるとこの循環がうまくいかなくなります。その場合は、活性型のメチル化葉酸をサプリメントで摂取して、この反応をバイパスしてあげる必要があります。

MTHFRの遺伝子検査は、唾液採取で簡単に検査ができるので、リスクがある女性は妊娠前に一度検査をしておくと良いでしょう。その結果を受けて、リスクがありそうだったら、フォリン酸またはメチル葉酸を摂取します。副作用がなく安全性が高いのはフォリン酸ですが、リスクが大きい場合はメチル葉酸を選びます。メチル葉酸は活性型葉酸なので、多少リスクがあります。葉酸はグルタミン酸を内部構造に含んでいるため、メチル葉酸を飲んでイライラが強くなったという事例は少なくありません。そうしたリスクを避けるのであれば、フォリン酸を選ぶと良いでしょう。

自閉症の家系

一卵性双生児において、片方が自閉症を発症した場合、もう片方が発症する確率は60~90%というデータがあり、遺伝の影響はかなり大きいと言えます。家系で自閉症の方がいる場合はMTHFRの遺伝子検査をした方が良いでしょう。

Mol Psychiatry. 2007 Jan;12(1):2-22.
The genetics of autistic disorders and its clinical relevance: a review of the literature
https://www.nature.com/articles/4001896

低メチレーション同士の夫婦

また、自閉症児の親には優秀な人が多いこともわかっています。高い業績を上げている、強迫神経症である、細部までわたる注意力を備えている、こだわりが強いなど、低メチレーション傾向の夫婦(例えば医師同士の夫婦)からは自閉症の子供が産まれる確率が上がると言われています。その場合、食事や解毒や酸化ストレス、炎症などに気をつけながら、必要に応じて葉酸サプリメントを補います。

薬物の影響

また、妊娠から20~24日目にサリドマイドを服用していた場合にのみ、子供に自閉症状が出たという報告もあります。子宮内ブックマークの書き換えが妊娠 1ヶ月目に起こるので、妊娠する前から対策をしていないと間に合わないということです。

Dev Med Child Neurol. 1994 Apr;36(4):351-6.
Autism in thalidomide embryopathy: a population study
https://onlinelibrary.wiley.com/doi/10.1111/j.1469-8749.1994.tb11856.x

出生後の酸化ストレス

妊娠前に限らず、生後のケアも重要です。なぜなら、自閉症は退行型発症が80%、つまり、生まれた時(生後16~24ヶ月)は正常で、その後突然発症するケースが大多数だからです。

Neuropsychol Rev. 2008 Dec;18(4):305-19. 
Regression in autistic spectrum disorders
https://link.springer.com/article/10.1007%2Fs11065-008-9073-y

自閉症児は、グルタチオン、セレン、システイン、マグネシウム、亜鉛、ビタミンAが不足しており、水銀、鉛、銅が過剰で、酸化ストレスを生みやすい状態にあることがわかっています。

Presented at the APA Annual Meeting, May, 2001
Disordered metal metabolism in a large autism population
http://www.walshinstitute.org/uploads/1/7/9/9/17997321/disordered_metal_metabolism_in_a_large_autism_population.pdf

自閉症は、酸化ストレスに酸化防御能力が耐えられなくなると、脳が不可逆的な炎症を起こして発症します。したがって、十分な抗酸化対策、カゼインフリー、グルテンフリーを含めた腸内環境ケアをしっかり行えば確実に予防できるのです。

4. 血液データから推測する

4-1. 指標となる血液データ

初めてメチレーションを学ぶ方は、血液データを見てメチレーションの状態を推測することから始めましょう。

指標となる項目
☑️ MCV
☑️ AST(GOT)、ALT(GPT)
☑️ 尿酸
☑️ 炎症(フェリチン、CRP、血小板)
☑️ 好塩基球
☑️ ミトコンドリア

4-2. MCVからビタミンB12不足を推測する

メチル化経路で働くMTRは、補酵素にビタミンB12を使うため、MCVが高い人はメチレーションがうまく回っていない可能性があります。効果があった自閉症治療の第3位にビタミンB12注射がありましたが、これはMTRの反応をターゲットにした治療です。MCVの値は、細胞内のビタミンB12、葉酸濃度を反映するので良い指標となります。ビタミンB12が細胞内で働く際にリチウムを必要とするので、リチウム不足を把握するために、毛髪ミネラル検査を受けておくのも良いでしょう。

4-3. ビタミンB6の様々な働き

次に、ビタミンB6が不足するとメチレーションにどのような影響があるか見ていきましょう。ビタミンB6は体内の様々な場所で働いてるので、影響が出やすい栄養素ですが、代表的なものでは次の3つが挙げられます。

  • COMT↓:ドーパミン、エストロゲン代謝の低下
  • CBS↓:ホモシステイン蓄積、解毒力低下
  • GAD↓:不安感、会話ができない(言葉とノイズが区別できない)

ビタミンB6は、ドーパミンの代謝に働くCOMT(カテコールO-メチル基転移酵素)を活性化します。他にもリチウムや抑肝散で活性化されるので、イライラが治らない場合は、これらを摂ると改善します。逆に、SAH(Sアデノシルホモシステイン)、コーヒー、ケルセチンはCOMTの働きを弱めるため、特に低メチレーション傾向の人は注意が必要です。

ホモシステインを硫酸経路に流す酵素である、CBS(シスタチオニンβ合成酵素)もビタミンB6で活性化されます。CBSに遺伝子変異があると、活性化しすぎたり、逆にホモシステインが蓄積して解毒力が弱まったりします。後者の場合は、ビタミンB6をサプリメントで補うと良いでしょう。

ビタミンB6は、グルタミン酸をGABAに転換するGAD(グルタミン脱水素酵素)の補酵素でもあります。不安感が常に付きまとっている人は、ビタミンB6を摂取するとGABAへの変換が促されます。また、私自身がそうなのですが、会話とノイズの区別が苦手な体質なので、ノイズキャンセラーヘッドホンが手放せません。そういった人は、ビタミンB6を摂ることで、ヘッドホンを付けた時と同じような効果を得ることができます。

4-4. ASTとALTからビタミンB6不足を推測する

ビタミンB6不足の確認は、AST(GOT)とALT(GPT)の差が指標になります。ALTはグルコース-アラニン回路で働く酵素です。エネルギー源としてブドウ糖と乳酸が両方不足した時に、筋肉のアミノ酸が分解され糖新生によりグルコースが生成します。筋肉にはグルコースを生成するグルコース-6-ホスファターゼが存在しないため、ALTの働きでピルビン酸がアラニンになり、このアラニンが肝臓に運ばれて糖新生が行われます。

引用:ポケットアトラス栄養学

ASTとALTはともにビタミンB6を補酵素としますが、ALTの方がよりビタミンB6の影響を受けやすいため、ビタミンB6不足の場合、AST>ALTとなります。

4-5. 尿素窒素とビタミンB6

尿素窒素値からもビタミンB6不足を推測できます。アラニンからピルビン酸に戻る反応で尿素が生成されるため、尿素窒素値が低い人もビタミンB6が不足していると考えられます。

4-6. COMTの働きを促進するもの

COMTの働きを良くする栄養素は、SAMe、リチウム、B6、抑肝散です。逆にCOMTの働きを止めるのは、ケルセチン、カテキン、コーヒー、チョコレート、SAHです。

このように、ドーパミン、GABA、セロトニンの生成、COMTの活性化など、神経伝達物質の様々な反応に、ビタミンB6が関与していることがわかります。しかし、ビタミンB6はたくさん飲めば良いというものではありません。摂り過ぎると、トリプトファンからキノリン酸への過剰転換が起きて、キノリン酸が神経毒として働いてしまいます。ビタミンB6の効きが悪い人は、活性型のビタミンB6(P-5-P;ピリドキサール-5-リン酸)を使うと良いでしょう。海外製のサプリメントには、ビタミンB6とP-5-Pが適量ずつ入っているものもあります。ビタミンB6:P5P=2:1くらいがベストです。

4-7. ホモシステイン値を下げる方法

メチル化回路の中心にあるのがホモシステインです。ホモシステイン値は血液検査でわかるので、ぜひ一度測ってみてください。ホモシステインは酸化ストレスの素になるので、値が高い人は下げる必要があります。ホモシステインを下げる方法は3通りあります。

MTRを活性化する

正攻法は、MTRを介してDNA合成に向かう経路を回す方法で、ビタミンB12、葉酸、亜鉛を使います。ただし、MTRは炎症と重金属、カンジダにとても弱いという性質があります。お子さんの場合はビタミンB12の吸収も悪いので、注射を打つこともあります。

BHMTを活性化する

正攻法でうまくいかない場合は、亜鉛とトリメチルグリシンというベタインを使い、BHMTの酵素を活性化させてメチオニンに行く経路を流してあげます。これを近道の経路と呼びます。近道ばかり回していると、神経伝達物質やDNAの合成が滞りますが、とりあえずホモシステインを下げてメチル基を作ることを優先させます。これは、エイミー・ヤスコプロトコルの方法です。ある程度SAMeをたくさん供給できる状態にもっていったところで近道を止めると、MTRの経路が回り出して言語障害などが改善します。

ポイントは、近道の経路がコルチゾールで活性化するということです。つまり、ストレスはメチレーションに影響するということです。BHMT酵素はストレスがあると活性化し、SAMeがたくさん生成されるので、高ストレス状態の時には高メチル化状態になります。副腎疲労の疲弊期になるとコルチゾールが枯渇しているので、低メチレーションのように見えます。でもだんだん治ってくると、実は高メチレーションだったということはよくあることです。好中球分画や唾液中コルチゾール値を見て、ストレス状態を把握すると、メチレーションの状態が推測できます。

CBSを活性化する

3つ目の方法は、ビタミンB6などを使ってCBSを回すことです。CBSの働きが弱まっていると、ホモシステインが高くなり、若年性心筋梗塞などのリスクが高まります。逆に、ホモシステインが低すぎる場合は、解毒やDNA合成などに使う材料が足りないことを意味するので、その場合は動物性タンパク質をしっかり摂ってメチオニンを補給しましょう。

4-8. 炎症とメチレーション

メチレーションに影響するのは、ビタミンB12、B6、ストレス、そして炎症です。炎症はメチレーションにものすごく影響するので、フェリチンやCRP、血小板といった炎症マーカーが上がっていれば、まずは炎症の部位を突き止めて対処する必要があります。

メチレーションの反応で炎症に 1番弱い部分がMTRです。炎症の他に、カンジダ、水銀、活性酸素でもこの経路は阻害されてしまいます。炎症性サイトカインであるTNFαや、カンジダにより分泌されたアセトアルデヒドがMTRの働きを止めます。メチレーションを改善するためには、MTRの働きを阻害する要因をまず最初に除く必要があります。

2番目に弱いのは、メチレーションと他の代謝経路が交わっている部分です。トリプトファンは、セロトニン経路とキヌレニン経路の二手に別れます。セロトニンには10%、残りの90%はキヌリン酸にいきます。炎症があるとセロトニン経路が止まり、キヌリン酸経路に流れるため、セロトニン不足が起こります。また、炎症があると、キヌレニン経路が活性化して免疫を上げるナイアシンをたくさん作るようになります。しかし、炎症が強すぎると、ナイアシンの手前で代謝が止まってキノリン酸が溜まり、神経毒として働いてしまいます。

ナイアシンはBH4を作る経路で働きます。BH4はセロトニンやドーパミンの生合成に必要な物質で、ナイアシンから作られる経路と、BH2のリサイクルで作られる経路があります。両方の経路が活性化されないと、セロトニンとドーパミンのバランスがうまく取れません。炎症を起こすと、セロトニン経路からもBH4からもセロトニンが作られず、相対的にドーパミンが過剰になって、イライラが強まります。BH2からのリサイクル経路は、特にアルミやアンモニアで阻害されると言われています。

4-9. 神経伝達物質の産生

メチレーションの一番左に位置するのが神経経路です。BH4は、チロシン、Lドーパ、5HTPといった様々な神経伝達物質の産生に関わっている補酵素です。

BH4の阻害要因は、アルミニウムとアンモニアです。また、MTHFR1298の遺伝子変異によっても阻害されます。

4-10. 尿酸不足は低メチレーション

メチル化回路で働くAHCYという酵素があります。メチオニン→SAMe→SAH(S-アデノシル-L-ホモシステイン)→ホモシステインという一連の代謝において、SAHからホモシステインに変換されるところで働きます。AHCYによってホモシステインとアデノシンが生成し、アデノシンは、イノシン→ヒポキサンチン→尿酸と代謝されていきます。

このことから、尿酸値はメチル化回路の状態を見る指標の 1つになります。尿酸が低ければ、AHCYの働きが悪くSAHが上がり、低メチレーション状態になっていると推測できます。 ご存知の通り、尿酸は体内で作られる1番の抗酸化物質なので、尿酸が低い人は抗酸化対策が必要です。抗酸化対策として最初にアドバイスするのは、ヒポキサンチンの補酵素であるモリブデンを摂取することですが、根本的には炎症を治してメチレーション回路を回してあげることが重要です。

 SAHが上がると、COMTの働きが弱まるため、ドーパミン、アドレナリン、エストロゲンの分解ができなくなります。エストロゲンとドーパミンの分解には、同じ酵素が使われるため、生理周期後半にイライラしやすいのは、エストロゲンが過多になってドーパミンの分解が追いつかなくなるためです。人によってはビタミンB6を摂取しCOMTの働きを補完してあげると、生理周期に伴うイライラを和らげることができます。

4-11. ミトコンドリア機能とメチレーション

メチオニンをSAMeに変換するMATという酵素は、補酵素としてマグネシウムをたくさん必要とします。エネルギーも多く使うので、ミトコンドリア機能障害がある場合もメチレーションが低下してしまいます。また、硫酸経路にもエネルギーを多く要します。人間は、エネルギーの3割を解毒に使っているので、ミトコンドリア機能の低下により硫酸経路が止まってしまい、解毒ができなくなってしまいます。血液データから、ミトコンドリア機能低下が疑われる人は、そこへのアプローチも必要です。

4-12. まとめ

ASTとALTが低ければ、COMTとCBSの低下を疑います。尿酸値が低ければ、低メチレーションでCOMTにも影響しているかもしれません。クレアチニンが低ければ一般的には低メチレーションですが、例外的に高メチレーションの場合もあります。ミトコンドリアが低下している時は、低メチレーション、SAMe不足になります。炎症があれば、まず炎症を抑えることから始めましょう。

  • GOT, GPT↓:COMT↓(イライラ)、CBS↓(解毒できない、HCT↑)
  • 尿酸↓:低メチレーション、COMT↓
  • クレアチニン↓:低メチレーションor高メチレーション
  • ミトコンドリア↓:低メチレーション、SAMe不足
  • 炎症:MTR↓、CTX↓(解毒できない)
  • ストレス:BHMT↑(言語の問題など)

糖質制限してよい人いけない人

宮澤賢史 · 2021年8月28日 ·

15年前に低血糖症と診断した患者さんに糖質制限を指導して、症状が悪化してしまった時の事を今でも昨日のように覚えています。糖質制限は自律神経を整え、ケトン体生成を可能にしてくれる素晴らしい治療ですが、適応になる人とならない人が存在します。糖質制限今日は分子栄養学とは何なのか、また分子栄養学実践講座はどのような内容なのかを、糖質制限の観点からご説明します。まずは一番良く聞かれるご質問「普通の栄養学」と「分子栄養学」は何が違うのかから説明していきましょう。

1.普通の栄養学と「分子栄養学」は何が違うのか

分子栄養学という言葉をご存知ない方はいらっしゃらないと思いますが、分子栄養学とは何かと改めて聞かれるとなかなか説明しづらいですよね。

僕もいつもどのように説明しようか考えていますが、分子生物学を知らないと説明が難しいと思います。分子生物学と分子栄養学は一体どのような違いがあるのでしょうか。

1-1.親子の見た目が似ている理由

  • 黄色と緑のエンドウマメをかけ合わせると全て緑のエンドウマメになる
  • 黄色のエンドウマメ同士をかけ合わせると75%が黄色、25%が緑のエンドウマメになる

これをメンデルの法則と言います。このように、実際の現象から何らかの法則を発見して、そこから法則性を探っていくのが従来の生物学です。

この生物学の考え方を根底から覆したのがジェームズ・ワトソンとフランシス・クリックです。1953年、彼らはDNAの二重らせん構造を発見しました。人間は細胞からできていて、細胞の中には核があり、核の中にはDNAがあり、DNAはタンパク質の設計図になっています。そしてDNAは両親から片方ずつ受け継いでいきます。DNAを受け継いで、そのDNAからタンパク質ができていて、そのタンパク質から人間ができているから親子は似ているのです。

生物学
子は親に似る(経験から法則性を探っていく)
⇒ DNAの二重らせん構造の発見 ⇒
分子生物学
遺伝子が受け継がれるため、そこから作られるたんぱく質の立体構造が似る
(法則を分子レベルで科学的に説明できる)

1-2. 壊血病と脚気は経験則から治療が発見された

航海中の船は食物の供給がままならないため、栄養不足になりやすい場所です。

1600年代の大航海時代には、長期間航海を行う船員の半分の人が壊血病で亡くなりました。ジェームス・リンド医師が船にビタミンCを含むライムを積んだことでこの問題は解消しました。

1920年ごろの日本の海軍は脚気に悩まされていました。発症率は20%以上、5人に1人がかかっていました。当時は原因がはっきり分からず、軍医の高木先生が食事に問題があると言って、欧米にならい麦飯と肉などタンパク質を導入したら、2年で発症率が23%から1%以下に激減しました。当時ははっきり原因は分かりませんでしたが、経験的に良いだろうと積み重ねたのが従来の生物学です。それからビタミンB1が発見されて、ミトコンドリアの機能が生科学的に説明できるようになりました。

経験から法則を探るのが従来の栄養学、生化学的な理論で突き詰めるのが分子栄養学です。これで説明になっているでしょうか?

栄養学
大日本帝国海軍で軍医の高木兼寛が麦飯を導入したところ、脚気の発症率が2年で23.1%から 1%未満に激減した(経験則による)
分子栄養学
脚気はビタミンB1を補酵素とするPDHの機能低下による
ミトコンドリア病(疾患を分子レベルで科学的に説明できる)

1-3. 脚気の生化学的原因

脚気とは、ビタミンB1を補酵素とするピルビン酸デヒドロゲナーゼの機能低下だと説明することができます。このように、分子栄養学は分子レベルの科学的な説明ができることが大きな違いです。

根本原因が分かるので疾患の原因をピンポイントで特定できます。つまり、細胞やミトコンドリア、分子などに着目すると、目に見えない病気の原因を突き止めることができるようになります。

これはジェノバダイアグノスティックス社の検査です。

炭水化物、脂肪、タンパク質などそれぞれの栄養素がTCA回路というエネルギー回路のミトコンドリアの中に入って燃えていく図を表しています。

炭水化物が分解されてブドウ糖から出来るのがピルビン酸です。ピルビン酸はアセチルCoAになってミトコンドリアの中に入っていきます。もし検査データで、ピルビン酸や乳酸が多くてクエン酸が少なく出れば、ピルビン酸をアセチルCoAやクエン酸に変換する経路が働いていないということが分かります。重要な段階である律速段階でピルビン酸デヒドロゲナーゼが働くためにビタミンB1が重要なので、これが不足しているということがピンポイントで推測できます。

分子栄養学的に見れば、脚気とはミトコンドリア機能障害です。ミトコンドリアが障害されるので、ミトコンドリアをたくさん含む心臓の働きが低下して心不全を起こしたりします。脚気を症状から診断するのは難しいですが、生体内物質の量や、変換に必要な酵素の活性を測定できれば、原因の特定は難しくありません。

1-4. 必要な栄養は人によって異なる

クエン酸回路の図は、首都高の渋滞マップのようです。新宿からディズニーランドに行く時に箱崎を通って行くこともできるし、箱崎が渋滞していたらレインボーブリッジを渡って行くこともできます。レインボーブリッジが封鎖されていたら箱崎は少し混んでいたとしてもそこを通らざるを得ません。中にはどちらも渋滞している人もいます。このように、体内の代謝状態は人によって大きく異なり、これを個体差と呼んでいます。

言い換えれば、個体差とは体内における酵素と基質の反応力です。これは鍵と鍵穴の関係に例えられます。鍵穴の形をした酵素の設計図はDNAです。DNAは一人一人違うために鍵穴の形も人によって異なります。鍵穴の形が変形してる人は、潤滑油の補酵素を使わないと鍵がスムーズに入りません。

このように人によって必要な栄養素が異なることを知り、実際の個人データを測り、分子栄養学をベースにした個別化栄養療法の勉強会を行っているのが分子栄養学実践講座です。

2. 糖質制限を考慮してもよい人

今日はこの見解をベースに、糖質制限について考えてみたいと思います。「先生は糖質制限推進派ですか?そうではない派ですか?」とよく聞かれますが、そのどちらでもなく、「人によって変える派」です。

一般的に糖質制限を考慮しても良い人とは、食事療法の選択肢として考える糖尿病の患者です。アメリカの糖尿病学会は、2013年に糖質制限を食事療法の選択肢の一つとして認めるとアナウンスをしました。もっとも100%糖質制限だけが良いというわけではなく、カロリー制限も地中海食も選択肢として良いのですが、人によっては糖質制限も合うだろうというコメントをしています。

特に糖質制限に適しているのは、インスリンが効きにくい人です。インスリンが効きにくいためにインスリンが沢山出て、脂肪細胞がどんどん大きくなってしまうことを「インスリン抵抗性がある」といいます。糖質制限はインスリン抵抗性を下げるのに有効だという報告も多々あり、特に減量時に有効です。

薬がなかなか効かない難治性のてんかんの選択肢として、ケトン体が出る糖質制限も良いでしょう。

また、がんは種類によってエネルギーが糖質依存になります。そのためがんの成長期に糖質制限をするのは人によったら良いかもしれません。

糖質制限して良い人
・糖尿病の食事指導の選択肢の一つ
・インスリン抵抗性の患者が減量する場合
・難治性てんかん
・がん患者

2-1. ケトン食療法の適応となるてんかん

  • 2剤以上の抗てんかん薬を十分な量、十分な期間使用しても効果が不十分な難治性てんかん患者
  • ただし、West症候群などのてんかん性脳症などでは早めに検討して良い
  • てんかん外科の適応のある患者さんでは外科手術が優先される

2剤以上の抗てんかん薬を入れても効果がない人は、てんかん食を試したら良いでしょう。日本ではまだ完全に認知されてませんが、アメリカや韓国では標準の治療の中に組み込まれています。

ケトン体は脂肪酸と比べて分子量が小さいため、脳血液関門(B.B.B)を通過して脳のエネルギー源となり得ます。また、ケトン体には抗酸化作用もあります。

2-2. 糖尿病の食事療法についての議論

・2008年 DIRECT 研究(2+4年)
低脂肪食に比較して地中海食と低炭水化物食では減量効果が優っており、
両群では血中脂質やインスリン抵抗性が改善。
・2013年 米国糖尿病学会のstatement
肥満者の減量を図るためには、低炭水化物食、低脂肪食あるいは地中海食は、短期間(2年間まで)では有効であるかもしれない(ガイドラインの変更)
・日本糖尿病学会の提言 2013年
「総エネルギー摂取量は過剰でも、炭水化物さえ制限すれば減量効果がある」という解釈は短絡的。炭水化物を制限することによって起きる、たんぱく質あるいは脂質摂取増加の影響が調整されていない。

糖質制限が糖尿病の治療として認められるようになったのは、2008年のDIRECT研究がきっかけです。それまでも糖質制限が良いとは言われていましたが、第一級のエビデンスレベルのある論文がありませんでした。医学の世界では、このように論文が出ると急に見方が変わることがよくあります。低炭水化物食と地中海食では減量効果が勝っており、脂質やインスリン抵抗性が改善したので、選択肢の一つになりました。ただこれには個体差があります。

2-3. 脳腫瘍に対する糖質制限

癌に関しては、多くの悪性細胞はミトコンドリア機能が障害されてしまうため、糖質を代謝するようになります。ブドウ糖はインスリンレベルを高くしますが、このインスリン様成長因子も高くします。インスリンには細胞増殖作用があるため、ガンが進行するという理屈です。癌患者はみんな糖質制限した方が良いだろうと思いきや、効かない人もいます。

神経膠芽腫に対するケトジェニックダイエットを用いた治験
Pilot Feasibility Stud. 2017 Nov 28;3:67.
Ketogenic diets as an adjuvant therapy in glioblastoma (the KEATING trial): study protocol for a randomised pilot study.

神経膠腫にケトジェニックダイエットが有効
Cancer Metab. 2015; 3: 3.
Published online 2015 Mar 25. doi:  10.1186/s40170-015-0129-1

神経膠芽腫は脳の悪性腫瘍の中で一番悪性で、平均寿命が1年ぐらいです。放射線治療にも手術にもなかなか反応しないので難渋しますが、この神経膠芽腫には特別に糖質制限が効くという報告が出始めていて、二重盲検試験のトライアルがされている最中です。こういう極端な場合は糖質制限していいかどうかわかりやすいのですが、神経膠芽腫じゃない場合、髄膜腫の場合、膵臓癌、白血病の場合は糖質制限が良いのか悪いのかは分かりません。実際に糖質制限をしてみても良いですが、がん幹細胞検査がお勧めです。

2-4. がん幹細胞検査

インスリン様成長因子受容体

加齢、腫瘍成長に関わる この数値が高ければ、
*放射線治療と化学療法への抵抗性
*強い炎症ががんのベースにある
*成長にエネルギーが必要、特に砂糖で成長

がん幹細胞検査とは、採血するだけでがんの性質が分かる検査です。がんは直径2mmになると血中に一部分出ているため、その一部分を採血で末梢から取ることによって、そのがんを様々な物質にさらして感受性を見たり、遺伝子レベルを検索したりして見ます。この検査をして、インスリン様成長因子の受容体であるIGFR1の数字が30%あると陽性です。この数値が陽性の人は放射線や化学療法が効きにくいので、この数値が上がっていたらがんのベースにある炎症を抑えるような治療した方が良いでしょう。

そして、成長にエネルギーを使う、特に砂糖で成長するという特徴があるので、僕ならがんになったらこれを調べて、この数字が高ければ糖質制限をします。個体差があるので、抗がん作用があると言われているビタミンCの点滴が効くかどうかもこの検査でわかります。

3. 糖質制限をしてはダメな人

糖質制限の最初の提唱者である江部先生によると、糖質制限をしてはいけない人とは、腎不全、膵炎、肝硬変、長鎖脂肪酸の代謝異常がある人です。この人たちは、糖質以外の栄養の摂取、吸収、代謝に問題があります。糖質制限では、主に脂質をエネルギーとして使わなければいけないため、その経路に問題があったらできません。

このリスト以外にも糖質制限をしてはいけない代表的な疾患があります。それは副腎疲労です。副腎疲労も立派な糖代謝異常です。僕が糖質制限を勧めて悪化した患者さんは、ステージ3の副腎疲労だったのです。

糖質制限してはダメな人
・腎不全
・活動性膵炎
・非代償期の肝硬変
・長鎖脂肪酸代謝異常
・副腎疲労

3-1. 35歳男性 副腎疲労

  • うつ病にて投薬治療中。再発を何度も繰り返す。
  • 倦怠感、疲れやすい、頭重感、夜中に数回目が覚める、不安感。
  • 低血糖症という言葉を知り、糖質制限を始めました。
  • 起床時に憂うつ、不安、恐怖感があり、なかなか起きられない。睡眠が浅い、頭がぼーっとして、頭と体が重たい、疲労感、イライラ

上記は35歳の男性の問診ですが、夜中に数回目が覚めているという症状から、低血糖を起こしていることが分かります。血糖値を保てなくなり、自律神経が緊張しています。糖質制限を始めたところ、症状は悪化したそうです。

副腎疲労の原因は、長年のストレスです。長年のストレスが脳に効き、脳から出る副腎刺激ホルモンが出て抗ストレスホルモンが出ていますが、副腎が疲れてくると、この抗ストレスホルモンであるコルチゾールが5年、10年単位で出なくなってきます。

3-1. 人は糖新生で血糖値を保っている

人は糖新生で血糖値を保っているため、食事をしたら血糖値は上がりますが、せいぜい保つのは2時間です。残りは貯蔵型の糖であるグリコーゲンで、血糖値を保っています。肝臓に12時間ぐらい蓄えていますが、そもそも糖質を食べなければグリコーゲンの蓄積がありません。ではどのように糖質を保つかというと、糖新生です。

肝硬変は、肝臓の機能が落ちているため、糖新生の力が弱いということで問題があります。肝硬変になったらもちろんグリコーゲン貯蔵量も減ります。肝臓の機能が働いていない人に糖質制限は合いません。糖新生を促すためのコルチゾールが出ない疾患である副腎疲労の人にも糖質制限は、難しいです。

食事中のブドウ糖 2時間
グリコーゲン  12時間
両者を使い果たしたら、糖新生(体のアミノ酸を分解してブドウ糖を作る)
①肝硬変  ②副腎疲労

糖新生というのは身体のアミノ酸を分解してブドウ糖を作ることです。この糖新生ができない人は糖質制限NGとなります。

副腎疲労は肝臓に働いて糖新生をうながす

3-3. アラニン回路が働かない人は糖質制限をしてはいけない

これはリブレという簡易血糖測定器です。いつでも血糖値を測れて便利なので、副腎疲労の患者さんにトライアルをしています。

今の僕の血糖値は112ですが、食事をすると上がったり下がったり、リアルタイムで見れるので便利です。正確には血糖値とは違いますが、血糖値のトレンドを追うのにはとても適してます。

これは僕の2月3日の土曜日の0時から24時までの血糖値です。

金曜日に多少お酒をたしなむ機会があり、あまり食事をしませんでした。食事をしないとグリコーゲンの蓄積がないため、低血糖になりやすくなります。しかも、お酒が入ると糖新生の仕組みがうまく働かないため、夜中に低血糖を起こします。糖尿病患者にもよくあることですが、副腎疲労の人はお酒を飲むのはよくないということわかります。

副腎疲労は、唾液中のコルチゾールで測れます。

朝、昼、夕方、夜に唾液中のコルチゾールを測りますが、この方の場合は完全にコルチゾール分泌が枯渇していました。夜中も血糖値がなかなか保ちにくい状態です。

血液検査を見ると、好中球が63.5%で自律神経の過緊張をあらわしています。夜中に低血糖を起こし、副腎がアドレナリンを分泌して血糖を保つので、副腎がアドレナリンを常に分泌させらて、副腎に24時間負担がかかります。

筋肉にはアラニンというアミノ酸があり、アラニン経路でグルコースを作ってくれる経路があるため、筋肉が沢山あれば肝臓のカバーはしてくれます。

この経路はとても重要な経路ですが、アラニンとピルビン酸の切り替えがうまくいかないときちんと働きません。アラニンとピルビン酸の切り替えをうまくしている酵素とは、みなさんご存知のALTという酵素です。

ピルビン酸がアラニンになる時に、このアミノ基が転移します。

グルタミン酸のアミノ基が転移するため、アミノ基転移酵素といいます。このアミノ基転移酵素の補酵素はビタミンB6です。ビタミンB6が不足していると、GOTとGPTの差が激しくなりますが、そういった人は糖質制限をしてもうまくいかないでしょう。

3-4. 長鎖脂肪酸代謝異常症

「このカルニチンサプリを摂ってから身体が軽くなった気がする」「そうなの、じゃあ私もやってみようかな。」これが従来の経験に基づく栄養学です。

それに比べて「このカルニチン摂ってから身体が軽くなったような気がする。有機酸検査でアジピン酸とスベリン酸が低下したし基礎代謝も5%上がったし。」

「え、そうなの?じゃあ私も有機酸検査と基礎代謝測って脂肪酸代謝経路に異常がないか見てみようかな。」これが分子栄養学です。

長鎖脂肪酸代謝異常症は、平成22年度に厚労省の指定難治性疾患に指定されています。

一般検査の異常所見
1)代謝性アシドーシス、2)高アンモニア血症、3)CPK、AST、ALTの高値

日本において毎年10人〜50人の新患が発生と言われていますが、脂肪酸代謝異常の人を何人も見ているのでそんなに少ないわけはないと思います。

この長鎖脂肪酸代謝異常症の人は、本当に極端な異常症です。脂肪をエネルギーに変えることができないので最終的にアシドーシスを起こしたり、横紋筋融解症を起こしますが、こう言った人はごく少数です。ただし長鎖脂肪酸の代謝が止まっている人は多数います。脂肪酸は、ミトコンドリアの中に入るときにカルニチンが必要なため、リジンやメチオニンなどの栄養素が一つでも欠けているとカルニチンがうまく作られません。

カルニチンは75%食事から摂りますが、25%は身体の中で作られています。低カルニチン食の人で栄養欠損があると、長鎖脂肪酸の代謝不全があるかもしれません。

これに関しては、有機酸検査で分かります。アジピン酸、スベリン酸、エチルマオンが上がっている人は脂肪酸の代謝が障害されています。そういう人は、糖質制限をしてはいけません。

もう一つ考えなければいけないことは、糖質制限をしたら脂質とタンパク質でエネルギーをまかなうために何を食べるのかということです。

タイム誌の1984年と2010年の表紙を比べてみると、30年前はコレステロールを悪者にしていますが、最近では考え方が全く変わって”Eat butter”とあります。脂質を制限するのが問題だと言っていますが、何を食べるかも重要です。

厚労省は2015年に高コレステロール血症の上限を撤廃しました。コレステロールが高いのは良いことですが、どういう脂肪を摂るかを細胞に立ち返って考えてみてください。食べる前に細胞の細胞膜のリン脂質の組成はどのくらいかなと考えてください。肉の油を沢山食べて飽和脂肪酸が増えてくると、細胞膜が硬くなって、細胞膜の経路が低下してくるかもしれません。神経の伝達に支障をきたすかもしれないし、オートファゴーゾーム(細胞内で二重膜に囲まれた球状の構造)が正常に働かなくなるかもしれません。

細胞膜のリン脂質組成を測ることもできます。タンパク質を多く摂ろうとすることの問題は、消化吸収の手間です。タンパク質は三大栄養素の中で一番消化と吸収に手間がかかります。

日本人はもともと胃酸が少なく、消化酵素が少なく腸が長いため、ペプシノゲンが70以上ある人はあまりいません。大量のタンパクの消化には向いてない人が多いです。

3-5. 45歳女性コレステロール高値

  • 半年前、食事方法をマクロビから糖質制限に変更
  • 3ヶ月前の血液検査ではいきなりコレステロールが200から350へ上昇
  • 理由がわからないために来院

この方は45歳の女性ですが、コレステロールが異常に高くなったということでご相談にみえました。半年前に食事方法をマクロビオティックスから糖質制限に変更したそうです。それ以来、とても調子良くなりましたが、3ヶ月前の血液検査で1年前200だったコレステロール値が350まで急に上がてしまいました。何か体に異変が起きているのではないかといらっしゃいました。

3-6. 急激な糖質制限は甲状腺トラブルとホルモンバランスの乱れを招く

この理由は代謝の低下で、 LOWT3症候群といいます。人間は飢餓状態になると自らの代謝を落とすように働きます。身体の代謝をコントロールするものはいくつかありますが、そのうちの一つが甲状腺ホルモンです。甲状腺ホルモンというのは、ヨードが4つついているT4と、3つついているT3があります。そのT4がT3に変わる時に、不活性型のreverseT3に変わってしまうのがLOWT3症候群です。

実際の血液検査ではこのreverseT3もT3として勘定されるので、はっきりと甲状腺機能低下と出ません。普通コレステロールが高ければコレステロールが高く上がり、CPKが高く上がれば誰でも甲状腺機能低下症と考えると思いますが、血液検査を見ると甲状腺ホルモンが正常範囲内にあるので、問題ないですと言われる人も結構多いです。最近になってこのreverseT3も測れるようになりました。

このように現在では、疾患の原因が明確に分かるようになってきています。潜在性の甲状腺機能低下症になると、このreverseT3を測らなくてもこれらの甲状腺を刺激する甲状腺刺激ホルモンのTSHという数字が上がってくる人は多くいます。通常の血液検査からも、潜在性の機能低下症を検出することができますが、甲状腺の問題は大変奥が深いです。

このような飢餓状態になってる人は糖質制限はしてはいけません。タンパク質や脂肪も摂って、エネルギーをきちんと摂ってるのに糖質制限したらどうして飢餓状態になるのか。脂肪からのエネルギーはパイプが細いですが、炭水化物は非常に効率の良いエネルギー源になっていてパイプが太いから、糖はいくらでもエネルギー化できます。普通の人の安静時だと脂肪と糖のエネルギーの比率は大体2:1です。安静にしているときは脂肪のエネルギーを主に使っていますが、運動負荷がかかってくると、糖質の比率が高くなってきて逆転します。

糖質はグリコーゲンなので、肝臓で500、筋肉で1,500、あわせて2,000~2,500キロカロリーしか貯められませんが、エネルギーの蓄積量として大体10万キロカロリーぐらいは体の中の脂肪にあります。備蓄はあっても供給のパイプは細く、脂肪をエネルギーに使うためにはまず脂肪細胞から取ってきます。脂肪は水に溶けないため、アルブミンに乗せて血液中を運搬しなくてはいけません。ミトコンドリアの中に入る前にカルニチンが必要で、何段階もあって使いにくい供給源です。だから特別にそこの供給源が細い人は、糖質制限してはいけません。

4. まとめ

糖尿病の食事の選択肢としては、HOMA-Rを測ると良いでしょう。インスリン抵抗性が大きい人は5時間糖負荷試験をしてみて、インスリンが出すぎてる人は糖質制限が有効でしょう。逆にインスリンがあまり出ない無反応型の低血糖症の人は、糖質制限はしない方がいいです。

癌の人は幹細胞検査をしてみてください。

糖質制限をしてはいけない人で腎不全、肝不全というのは、血液、肝機能、膵機能を見れば大体分かりますし、アミノ基転移反応を見るのはGOTとGPTです。その他に、長鎖脂肪酸代謝異常というのはカルニチンの代謝検査、有機酸検査をすれば良いです。タンパク質の消化悪い人は、便検査をして消化酵素の量とか食物残渣による悪性菌の増加などもチェックした方がいいかもしれません。

5. 勘に頼るサプリ処方からデータに基づく栄養療法へ

便検査、有機酸検査、毛髪検査、血液検査など実践講座で推奨されている検査を一通りやるとこれらのことが全て分かるようになっています。これらは、個体差を見るための検査です。勉強していくと糖質制限して良いのか悪いのかということが、一目で分かるようになると思います。

栄養療法はただの大量のサプリメントを処方するものだけでは決してありません。体内の代謝を司ってるのは栄養ですが、全ての疾患がサプリメントの投与で治るほど甘くありません。慢性疾患を持つ人はどこかで代謝が止まっています。その場所を様々な問診と検査で突き止め、適切な対処をすることで初めて身体が栄養をうまく使えるようになってくるのです。

アルツハイマーの原因と治療法

宮澤賢史 · 2021年8月10日 ·

アルツハイマー病の本当の原因をご存知ですか?身近な病気である一方、未だ完璧な治療法が見つからないため、得体の知れない不安感をお持ちの方もいらっしゃるでしょう。

アルツハイマー型認知症は、認知症の中でも最も多く、脳の一部が萎縮していく過程で起こります。アミロイドβの蓄積が原因とされてきましたが、それはあくまでも結果であり、真の原因は、「炎症」「栄養の欠乏」「毒物」これら3つにあることがわかってきました。

1. アルツハイマー病の本当の原因

1-1. アルツハイマー型認知症とは?

アルツハイマー型認知症(以下、アルツハイマー)は、認知機能の低下と人格の変化を症状とする認知症の一種であり、脳の萎縮を伴います。認知症の中でも最も多く、今後もますます増えると予測されています。

脳血管認知症は、脳梗塞などに伴って起こる認知症で、脳の血管が詰まるとその部分が壊死するので一気に発症します。一方、アルツハイマーは脳の変性が徐々に進行するため、症状も徐々に進行するというのが特徴です。アルツハイマーで問題なのは、最終的には寝たきりになって、死に至るということです。症状経過の途中で、被害妄想や幻覚、暴力、徘徊などを伴うケースが多く、患者本人だけではなく、周囲の人のメンタルにも大きな影響を及ぼすことも問題になっています。

1-2. アルツハイマー治療の問題点

認知症そのものを抑える薬はなく、今のところは周辺症状を止める治療薬に主眼が置かれているような状況です。つまり、問題は進行を止めたり回復する治療法が存在していないということです。大部分は65歳以上で発病しますが、5%は若年性アルツハイマーとしてそれ以前に発病することがあります。早期認知症の検査は、ネットでもダウンロードが可能です。

そんなアルツハイマーですが、2050年までに1億6千万人が発症すると予測されています。それにもかかわらず、薬物治療がことごとく失敗しています。アリセプトやエミニール、メモリー、リバスタッチなど、アルツハイマー型認知症薬として現在5種類の治療薬が日本で認可されていますが、いずれも治すための薬ではなく、症状を遅らせるための薬です。米国アルツハイマー協会も、アルツハイマーを治す薬はないと発表してます。フランスでは効果が認められないということで、全ての治療薬が保険適用外になりました。

フランスの保健省は2018年6月1日、アルツハイマー型認知症治療薬の保険償還を8月1日から停止すると発表した。同国高等保健機構(HAS)が公表した「勧告」を受け、アルツハイマー型認知症治療薬4剤について「公的医療保険の適用を正当化するための医療上の利益が不十分」だと結論づけた。

アリセプトはアセチルコリンを増やす薬です。アルツハイマー患者には、脳内のアセチルコリンと呼ばれる神経伝達物質が減少していることがわかっています。また、メマリーという治療薬はNMDA受容体拮抗薬です。アルツハイマー患者はNMDA受容体(グルタミン酸受容体の一種)が亢進するという特徴があり、そこを抑えることで興奮が抑えられます。しかし、アリセプトもメマリーも、根本治療とは程遠いものです。

1-3. アミロイドベータは原因ではなく結果だった

アルツハイマー病患者の脳には、アミロイドβという老人斑が見られます。このアミロイドβの蓄積がアルツハイマーの原因とされ、これを除去する薬の開発競争がずっと続いてきました。しかし、アミロイドβを除去してもアルツハイマーが治らず、治験はことごとく失敗に終わっています。実は、アミロイドβが本当の原因ではなく、様々な病因による結果として出てくるものだということが最近明らかになってきました。

アミロイドβの塊

その病因が、「炎症」と「栄養・ホルモン不足」と「毒物」です。脳がこれらの脅威に晒されると、そこから身を守るためにアミロイドβを増やすのです。確かにアミロイドβは神経ネットワークを破壊するのですが、見方を変えれば、重要な脳の神経の部分を守るためのダウンサイジングとも捉えることができます。様々な病因の影響で、脳機能を維持できないと脳自身が判断すると、優先順位の低い脳細胞をリストラして、必要最低限のところまでサイズを小さくするのです。アルツハイマー患者の脳が萎縮するのは、こうした理由からです。

アルツハイマーは、炎症、栄養・ホルモン不足、毒物に対する防御反応である。

リストラには「最後に雇われたものが最初に解雇される法則」というのがありますが、脳も同じで、新しく覚えたことは生命維持に重要ではないので、新しい記憶からなくなっていきます。昔のことはよく覚えているのに最近のことは思い出せない、という症状は、脳のリストラが行われている結果なのです。

1-4. アルツハイマーを改善するリコード法

「アルツハイマー病の真実と終焉」(デール・プレデセン著)には、アルツハイマー病患者100人の改善報告がまとめられています。プレデセン博士は、アミロイドβが増える理由を様々な角度から研究し、36個の因子を突き止めました。そして、患者1人1人に対して、その因子に該当するかを1つずつ調べていき、当てはまる要素を取り除いていくというアプローチを取りました。この本に書いてあるのは、個体差を見つけてそこに応じて治療するという分子栄養学の考え方そのものです。

ここからは、この本に書かれているリコード法に基づいて、脳機能を改善する方法を見ていきましょう。アルツハイマーには、脳血管性の4型や5型もありますが、今回は栄養や炎症に関わる1~3型について詳しく解説します。リコード法の手順としては、まずはじめに、1型(炎症性)、2型(栄養性)、3型(毒性)のどれに該当するかを探ります。次に、36個の因子のどれに当てはまるかを特定し、それに応じた食事、睡眠、運動、ストレス対策などの治療計画を練ります。

  • リコード法は、アルツハイマーでなくともブレインフォグの治療にも応用できる
  • アルツハイマーと診断されていなくても、リコード法を行う価値がある
  • リーキーブレインを起こすもの(グルテン、カゼイン、高血圧、リーキーガット)は、全て1型アルツハイマーの原因と考える
  • チェックリストを作って、全てに対処する

2. 1型(炎症性)アルツハイマー

2-1. 特徴

1型アルツハイマーが疑われる症状は、ダニや感染症、関節炎、糖尿病、メタボリックシンドローム、副鼻腔炎、ピロリ、根尖病巣などです。これらは全て炎症です。炎症があって、炎症マーカーも上がっていたら、1型アルツハイマー、もしくは脳機能の変性があるかもしれません。

1型アルツハイマーが疑われる症状
☑️ ダニに噛まれたことがある
☑️ 関節炎がある
☑️ 糖尿病にかかっている
☑️ メタボリックシンドローム
☑️ 副鼻腔炎、慢性の鼻づまりがある
☑️ ピロリ菌感染がある
☑️ 歯の根幹治療を行なっている

炎症マーカーの挙動

1型は炎症性のため、血液データの炎症マーカーが高くなります。CRP、ホモシステインが上がり、A/G比は下がります。IL-6やTNFといった炎症性サイトカインの数値も上がります。炎症があるとメチレーション回路が回らなくなるため、ホモシステインは高くなります。本には書かれていませんが、おそらくフェリチンも高くなると考えられます。

炎症の原因物質

最も気をつけるべきは腸の炎症です。他にも、口腔や喉、胃、肝臓の炎症も関連します。腸に炎症を起こすものは、あらゆる病原菌と、砂糖、グルテン、カゼイン、トランス脂肪酸といったリーキーガットを誘発する食材です。また、内臓脂肪にも注意が必要です。脂肪細胞は、サイズが小さいときには、アディポネクチンやレプチンといった痩せる物質が分泌されますが、サイズが大きくなると炎症性物質であるTNFαが分泌されます。これは、インスリン抵抗性を惹起する物質でもあります。インスリンを排泄する物質とアミロイドβを排泄する物質が同じなので、その結果として脳にアミロイドβの蓄積が促進されてしまいます。

ApoE4の存在

ApoE4遺伝子を持っているとアルツハイマーの発症リスクが高まります。ApoE4遺伝子は炎症を促進させ、炎症抑制の遺伝子を抑制する働きがあります。抗炎症のサプリを飲むだけでは対策としては不十分で、炎症場所を特定し局所の対策を講じる必要があります。

海馬の萎縮

炎症があると慢性的にコルチゾールが分泌されるため、海馬が萎縮すると言われています。

2-2. アマルガムとアルツハイマーの関係

「本当に怖い歯の詰め物」の著者である歯科医のハル・ハギンス博士は、アマルガム(水銀と他の金属との合金)の毒性を世に知らしめました。本には、慢性疲労や白血病など、水銀がもたらす様々な疾患がまとめられています。

同じくハギンス博士の著書に「歯科治療に潜む致命的な危険性」という本があります。これは根尖病巣について書かれており、博士に会ったときに、根尖病巣とアマルガムどちらが悪いかと聞いたら、根尖病巣が圧倒的に悪いという答えが返ってきました。

アマルガムからは、有機水銀、無機水銀、水銀蒸気、3つの形態で水銀が流出します。蒸気になると、脳や肺に入って影響を及ぼします。また、有機水銀は細胞膜を通過できるため、脂肪細胞や脳に直接影響します。日本歯科医学会では、無機水銀は安全だとしていますが、ハギンス博士は、口腔内や腸管で容易にメチル化されてメチル水銀になるので非常に危険だと訴えています。

もう一つ、アマルガムを外しただけでよくなる人とよくならない人の違いなんですか?という質問をしてみました。すると、アポリポ蛋白E(ApoE)のアイソフォームの違いだろうという答えが返ってきました。現在ほど遺伝子解析が進んでいなかった当時から、博士はApoEのアイソフォームに言及していたのです。ApoEによるアルツハイマーは1型です。アマルガムは毒物なので3型に該当します。ハギンス博士は、3型は40代で発症するのが一般的だけど、1型と3型が合併している人は30代で発症するよとおっしゃっていました。

2-3. ApoEとアルツハイマーの発症リスク

ApoEは、VLDL、IDL、HDLなどのリポ蛋白を構成している主要なアポリポ蛋白の1つで、コレステロールや脂肪酸の運搬に関与しています。アポリポ蛋白とは、コレステロールを運んでいるタンパク質のことで、コレステロールと輸送体タンパク質を合わせたものをリポ蛋白と呼びます。ApoEにはε2、ε3、ε4という3つの遺伝子変異があり、それに対応してタンパク質にもE2、E3、E4というアイソフォームが存在します。ApoE4はSirt1(サーチュイン)を抑制し、炎症促進物質であるNFκBを増やします。ApoE4がいくつあるかによってアルツハイマーの生涯発症リスクが決まり、1つもない場合は9%、1つで30%、2つで50~90%と言われています。発症年齢にも影響を与え、一般的には65歳以上ですが、ApoE4が1つあると50代後半で発症する確率が高くなります。

遺伝子検査でApoEの変異を調べることは決して無駄ではありません。自分のアルツハイマー発症リスクがわかるだけでなく、炎症を起こしやすいかどうかという体質チェックにもなります。ApoE4の変異があった場合の対処法は、炎症を起こしている部位を特定し除去すること、そしてもう一つは抗酸化対策です。

2-4. 抗酸化対策

ApoE4を有する高齢女性において、血中ビタミンC濃度を高めると将来の認知機能低下リスクが減少することが金沢大学の研究で明らかになりました。

J Alzheimers Dis. 2018;63(4):1289-1297.
Higher Blood Vitamin C Levels are Associated with Reduction of Apolipoprotein E E4-related Risks of Cognitive Decline in Women: The Nakajima Study
https://doi.org/10.3233/JAD-170971.

日本人の場合、E3/E3に比べ、E3/E4ではアルツハイマー発症リスクが約4倍になります。しかし、ビタミンCの血中濃度を高めておくと、認知症発症リスクが低下し、認知機能低下発症リスクも有意に下がります。

ビタミンEでも同様の結果が得られています。抗酸化ネットワークの相互作用により、ラジカルになったビタミンEをビタミンCが戻すので、抗酸化にはビタミンCとE、両方とも大切な栄養素です。これら2つの栄養素が特に優れているのは、ラジカルが安定していることです。通常、電子を失った物質は不安定になってラジカル連鎖反応を起こしますが、ビタミンCとEは電子共鳴によって安定化しているので、連鎖反応を起こしません。

2-5. 抗酸化サプリメント

抗酸化サプリメントとしては、リポソーマルビタミンCやフェルラ酸が良いでしょう。フェルラ酸は、脳の抗酸化物質としての働きを持ち、日本認知症予防学会などで推奨されています。通常のフェルラ酸はiHerbなどで購入できますが、12時間体内で効果を維持できるように加工されたフェルガードというサプリメントもあります。

余談ですが、とある先生が、フェルラ酸を受験生のお子さんに使うとおっしゃっていました。脳の抗酸化対策は脳機能の向上に直結するので、アルツハイマーだけではなく、様々なことに応用できます。

2-6. 鼻腔の炎症

鼻腔は炎症を起こしやすい場所の一つです。鼻は直接脳と繋がっているため、慢性副鼻腔炎や慢性鼻炎を抱えていると、脳へのダメージもかなり大きくなります。また、長期間にわたって抗生物質を使うと、鼻腔の悪性細菌が作るバイオフィルムにより耐性ができるため、通常の抗生物質では効きが悪くなってしまいます。

プレデセン博士は、バイオフィルムクレンジングの成分が配合されたスプレーを使って鼻炎を治療しています。バイオフィルムクレンジングのEDTAと3種類の抗生剤を入れたBEG1スプレーというものです。残念ながら日本では取り扱いがないため、京都市にあるうさぎ堂薬局さんで調合してもらえるようにしました。処方箋があれば購入することができます。鼻炎があるとデトックスにも影響するため、ここは早めに治しておきたいところです。

3. 2型(栄養性)アルツハイマー

3-1. 特徴

2型を疑う症状として、以下の項目が挙げられます。栄養・ホルモンの欠乏が原因のため、当然のことながら、それに関連した症状が強く出ます。

2型アルツハイマーが疑われる症状
☑️ 更年期障害が強い
☑️ 子宮、卵巣を切除している
☑️ 甲状腺機能低下症状
☑️ ビタミンD不足

BDNFの減少

脳シナプスを保つためのBDNF(脳由来神経栄養因子)は、アルツハイマー病に最も重要な脳の部位前脳基底部の受容体と結合し、アポトーシス(細胞死)を抑制します。したがって、BDNFが減少するとアポトーシスが亢進し、2型アルツハイマーが発症します。またアミロイドβは、BDNFが受容体に結合するのを邪魔する抗栄養因子として働くため、さらに悪化します。

BDNFを保つための栄養素

BDNFを保つためには、ビタミンD、ホルモン、葉酸といった栄養素と運動が欠かせません。また、BDNFはコレステロールからできているので、低コレステロールの人は特に注意が必要です。

ホモシステイン高値

2型は葉酸が不足するのでホモシステインが高くなりがちです。

2型の診断

これらのチェックは、血中のホルモン濃度やビタミン濃度を測ることで把握することができます。

3-2. ホモシステインを減らすためには

ホモシステインはそれ自身が酸化物質であるため、過剰に蓄積すると体内で活性酸素を発生させたり、動脈硬化を引き起こします。メチレーション回路の中で、ホモシステインが代謝される経路は3つあります。これら3つの経路を適度に回す必要があります。高い場合にはまず、ビタミンB6、ビタミンB12、葉酸を摂ることから始めてください。

ホモシステインからメチオニンに代謝される際に働くMTRは、炎症に対して影響を受けやすい酵素です。炎症でこの代謝が止まっている人は、メチルビタミンB12のサプリメントを使って、この代謝を強制的に動かすこともあります。もしくは、ベタインを使うとBHMTを介してメチオニンに行く経路が回るため、ホモシステインが下がりやすくなります。

4. 3型(毒性)アルツハイマー

4-1. 特徴

この3型は宮澤医院の患者さんに多いタイプで、症状が副腎疲労とものすごくオーバーラップします。40代の患者さんで、「注意力が低下していて、頭が全く働かないんです」という方は結構いらっしゃいます。そのようなケースでは、単なる副腎疲労と診断せずに、3型アルツハイマーの合併がないかもチェックが必要です。

☑️ 40代から発症(更年期頃に起きやすい)
☑️ うつ病が認知機能的かに先行する
☑️ 記憶低下<集中力低下、計算不能
☑️ 強いストレスがトリガー
☑️ マイコトキシン、もしくは重金属への曝露
☑️ 副腎疲労あり
☑️ 血中TG低値
☑️ 血清亜鉛低値
☑️ HPA軸↓、プレグネロノロン↓、DHEA↓

4-2. 解毒のしくみ

解毒には、3つのフェーズがあります。フェーズ1が活性化、フェーズ2が抱合、フェーズ3が輸送です。フェーズ1の「活性化」は、反応としては「酸化」することです。活性化したままでは酸化物質が溜まっていく一方なので、フェーズ2で水溶性にして細胞外に排出できる状態にします。そしてフェーズ3では、MRP輸送体を通して細胞外に送り出し、肝臓または腎臓経由で体外に排出します。

4-3. デトックスの順番

デトックスにおいて重要なことは、フェーズ1, 2, 3を逆から攻めるということです。例えば、フェーズ2の準備ができてないのにフェーズ1が進行してしまうと、酸化物質が体に溜まって逆効果になってしまいます。また、フェーズ3の前にフェーズ2を行うと、毒物を体外に排出できず溜め込むことになります。最初にやるべきは、フェーズ3、すなわち腸内環境を改善して便秘を解消するということです。その次は肝臓のケアです。肝臓は、フェーズ1とフェーズ2を大部分を行っている場所なので、肝機能を向上させると毒物がスムーズに排出されます。

4-4. グルクロン酸抱合

フェーズ2(抱合)は、難水溶性物質を水溶性に変えるプロセスです。薬物、ビリルビン、ステロイドなどは、体内に滞留するとがん、神経障害、内分泌障害など重篤な疾病を引き起こします。これらの物質は肝臓にあるUDP-グルクロン酸転移酵素(UGT; UDP-glucuronosyl transferase)によって、グルクロン酸が付加されて水溶性のグルクロナイドに変換されます。

グルクロン酸にはOH基がたくさん付いているので、抱合により難水溶性物質が水溶性になります。水溶性になった薬物は、血流にのって腎臓で濾過され、尿中に排出されます。グルタチオンもグルクロン酸と同様の働きをします。グルクロン酸と結合するとグルクロン酸抱合、グルタチオンと結合するとグルタチオン抱合と呼ばれます。

4-5. グルクロン酸抱合に欠かせないUGTs

グルクロン酸抱合の際に働くUGTsには、1A1、1A6、2B1など、いくつかの分子種が存在します。分子種によって抱合する難水溶性物質の種類が決まっており、UGT1A1はビリルリンやモルヒネを代謝することがわかっています。ギルバート症候群やクリグラー・ナジャー症候群といった疾患では、UGT1A1のSNPによりグルクロン酸抱合が障害され、ビリルビンが高値を示します。血液検査の項目にある直接ビリルビンは抱合後、間接ビリルビンは抱合される前の状態を表しています。

4-6. スルフォラファンの効果

UGT1A1の酵素を活性化するのがスルフォラファンです。スルフォラファンはブロッコリーから抽出される物質で、ASDの行動改善にも効果があるという報告があります。

Proc Natl Acad Sci U S A. 2014 Oct 28;111(43):15550-5.
Sulforaphane treatment of autism spectrum disorder (ASD)
https://doi.org/10.1073/pnas.1416940111
18週間毎日スルフォラファンを摂取したグループで、異常行動と対人応答性のスコアが、プラセボに比べて大幅に低下し改善がみられた。摂取をやめるとスコアが上昇した。

スルフォラファンがUGT1A1、GSTA1のmRNAレベルを増加させ、UGT1A1タンパク合成、およびビリルビングルクロン酸抱合を2~8倍増加させたという報告もあります。

Carcinogenesis. 2002 Aug;23(8):1399-404
Sulforaphane and its glutathione conjugate but not sulforaphane nitrile induce UDP-glucuronosyl transferase (UGT1A1) and glutathione transferase (GSTA1) in cultured cells
https://doi.org/10.1093/carcin/23.8.1399.

スルフォラファンは、UGT1A1の酵素を活性化する以外にも、MRP輸送体自体をも活性化すると言われています。

4-7. 重金属の蓄積量と排泄力を評価する

解毒力の評価は、毛髪ミネラル検査で蓄積量と排泄量を把握し、両者を比較することで行います。マグロをたくさん食べていたり、アマルガムが歯に入っていたりするのに、毛髪からの水銀検出量が少なければ、排泄力が弱く体内に水銀を溜め込んでいるということになります。逆に、毛髪からの水銀が振り切れるほど出ていれば、それは排泄力があることを意味します。後者は比較的軽症ですが、問題となるのは水銀を溜め込んでいる前者のケースです。

4-8. デトックスの検査

毛髪ミネラル検査以外にも、デトックスに関連した検査はたくさんあります。例えば、フェーズ2のグルタチオン抱合を評価する検査として、オリゴスキャンが有効です。

また、ジェノバ社のキレーション・プロファイルは、フェーズ 1とフェーズ2における酵素のSNPを調べる検査です。フェーズ1は、シトクロームP450による酸化の工程ですが、CYP 1A1は排ガス、 1B1はエストロゲン…と対応する毒物が決まっているので、自分が排泄しにくいものがよくわかります。

キレーション プロファイル
  • CYP1A1;排ガス
  • CYP1B1;エストロゲン水酸化
  • CYP2C19;PPI、抗痙攣薬
  • CYP2D6;SSRI、抗うつ薬
  • CYP3A4;処方薬の50%、ステロイド

フェーズ2においては、COMTにSNPがあればエストロゲンやドーパミンが代謝しにくくなります。その他に、Nアセチルトランスフェラーゼ、GST、グルタチオントランスフェラーゼ(グルタチオンの抱合を助ける酵素)、SOD(酸化ストレスの起こりやすさの指標)などのSNPを調べることで、自分が避けるべき毒物を特定することができるのです。該当する毒物の曝露を避けた上で、ブロッコリーやキャベツ、玉ねぎ、ニンニク、ウコン、ローズマリー、クミンといった食材を使いながら肝臓のクレンジングを行うと良いでしょう。

キレーション プロファイル

4-9. デトックスサプリメント

フェーズ2で重要なポイントは、抱合して胆汁から排泄するというステップです。私がよく使うのは、ミルクシスルとNアセチルシステインが配合されたSeeking Health社のLiver Nutrientsです。肝臓の滋養強壮に良いサプリメントです。それともう 1つ、Optimal Liposomal Glutathioneです。抱合に関してはグルタチオンが欠かせないため、グルタチオンの前駆体であるNアセチルシステイン、もしくはリポソーマルタイプのグルタチオンやクリームタイプのグルタチオンを使って、消化酵素で分解されないように摂取すると良いでしょう。医薬品としては、ウルソ(ウルソデオキシコール酸)やタチオン(グルタチオン)などがあります。ウルソは、脂肪吸収促進とデトックス、両方の効果が期待できます。

フェーズ3で重要なポイントは、胆汁から排泄された毒素をキャッチしてあげることです。メチル水銀は胆汁から排泄されますが、メチオニンと形が似ているので、再吸収されてしまうリスクがあります。私が使っているのは、クロレラ、ケイ素、チャコール、そして医薬品のクレメジンです。

このように、フェーズ 1、2、3を理解し、うまくデトックスが進むように自分でプロトコルを組み立ててみてください。

4-10. 脳機能改善にはDHA

脳機能改善には、アセチルコリンやDHAを補充することも効果的です。この論文では、DHAを補うことで認知症を抑制することを示しています。

J Nutr. 2010 Apr;140(4):869-74. 
DHA may prevent age-related dementia
https://doi.org/10.3945/jn.109.113910. 

脳神経の樹状突起がDHAによって維持されているため、脳の細胞膜機能の改善には、やはりDHAが良いでしょう。細胞膜からのデトックスの作用も強まると考えられます。MSS社のuDHAは酵素処理により抗酸化力を高めたDHAが配合されています。また、ヘルシーパス社のスマートコリンも脳の認知機能向上に効果が示されています。

5. アルツハイマーの治療方針

炎症、栄養・ホルモン、毒物を根本原因ピラミッドに照らし合わせてみましょう。1型は一番下の腸・炎症、2型はエネルギーとホルモン、3型はデトックスに該当します。これらを順番に治療していくと、結果として脳機能が改善します。基本的には下から順番に進めていくのが良いでしょう。

6. 実際の症例と治療方法

6-1. 症状

ここからは実際の症例に基づいて、治療のアプローチを解説します。ピラミッドの下から順にアプローチしていき、認知機能の改善に結びつけた事例です。

年齢・性別
38歳、女性

主訴
・10年来の慢性疲労
・めまい、立ちくらみ、朝が起きられない
・時々胃を掴まれるような痛み
・手の湿疹、頻尿、関節痛
・集中力が続かない、物忘れがひどい

所見
・他院でのカンジダハーブ治療で胃痛と下痢が出現
・子宮筋腫あり
・不眠気味、入眠障害あり
・唇がよく乾く、話し声のかすれがある、無性に甘いものが食べたくなる
・お菓子、コーヒー時々
・虫歯既往あり、抜髄歯あり
・腹部膨満、ガス多量
・頸部リンパ節腫脹なし
・眼球結膜貧血なし

活力レベル
朝:2、昼:5、15~17時:3、23時:8

飲んでいるサプリメント
DHEA、ビタミンD、ヘム鉄、ビタミンB、亜鉛

現在の食事
糖質制限、グルテンフリー、カゼインフリー

活力レベルを見ると、朝は低く、夜に向けて徐々に元気になるという典型的な副腎疲労の症状を示しています。ビタミンD、ヘム鉄、亜鉛のサプリメントを飲んでいるので、血液濃度は高めですが、感覚的には効いていないとおっしゃっていました。糖質制限とグルテン・カゼインフリーをやっているとのことですが、お菓子を食べていることから、完全ではないことが見受けられます。腹部膨満があり、お腹が張ってパンパンでした。

6-2. メチレーションの状態

こちらはウォルシュ博士によるうつ病の生化学的分類に基づいた問診票です。Aは低メチレーション、Bは高メチレーション、Dはピロール障害のチェックです。Dにたくさん◯がついていますね。ピロール障害は慢性的な亜鉛とビタミンB6欠乏により起こりますが、症状としては副腎疲労に酷似してます。

6-3. 血液データ

血液データでは、特にタンパク質と中性脂肪の低さが目立ちます。これは低血糖のパターンです。血清銅に対して亜鉛がかなり高い値を示しているのは、サプリメントを飲んでいることが原因と考えられます。

6-4. 栄養療法ピラミッドは低血糖の海に浮いている

2005年に、「脳に効く栄養」という本の出版記念講演で、マイケル・レッサー博士の講演を聴く機会がありました。その講演の中で博士は、統合失調症の要因として、ホルモンバランス、ピロール障害、アレルギー、毒物などを挙げていました。毒物の影響、次いでビタミン欠乏が大きな要因になっています。ここで博士が強調していたのは、要因は様々だが、全ての要因は低血糖の海の上に浮いている(Schizophrenias float in the ocean of hypoglycemia )ということです。だからまずは低血糖をなんとかしないと次に進めない、というお話をされていました。

同じように、栄養療法ピラミッドも低血糖の海に浮いているのです。腸内環境改善も副腎疲労も、低血糖をなんとかしないと治療に入れません。低血糖がある程度落ち着いてから、ピラミッドを下から戦略していくというアプローチになります。症例の女性の治療もそんな感じで始まりました。

6-5. 毛髪ミネラル検査

毛髪ミネラル検査を見ると、カウンティングルールに当てはめるとミネラル輸送障害はありませんでした。水銀の曝露も少なく、水銀は十分に出ていて、ミネラルのバランスも整っています。

6-6. 総合便検査(CSA)

腸内環境検査では、良性細菌である乳酸菌、ビフィズス菌は十分ありましたが、境界型菌も多く存在しました。カンジダは他の検査では検出されましたが、便検査では検出されませんでした。便検査では実際の3割程度しか検出しないので、現在はDNA検査に移行しています。

ただ、この検査の良いところは、消化酵素、短鎖脂肪酸の産生、炎症、免疫の状態が複合的に把握できる点です。症例の女性の場合、炎症がとても強く出ました。炎症マーカーのラクトフェリンが高く、ライソザイムのマーカーも527とかなり上昇していました。免疫も亢進していることがわかります。

6-7. SIBO検査

腹部膨満感も強かったため、SIBOの検査も一緒に行いました。SIBO検査では、呼気中の水素とメタンガスを経時的に調べます。最初の方は小腸に溜まっているガスが出て、ある時から大腸のガスが出るようになります。この女性の場合は初期段階から水素ガスが出ているので、小腸にも細菌が増殖していることがわかります。治療方針としては、まずは低血糖を治して、それから腸内環境改善としてSIBO治療に着手することにしました。

6-8. 治療に使用したサプリメント

腸内環境改善には、これらのサプリメントを使用しました。

  • ウルトラフローラ(乳酸菌)
  • ビタミンA
  • トレースミネラル
  • グルタミン

腸のバリアは、乳酸菌、免疫、機械的バリアの三重層になっています。タイトジャンクションを繋げて炎症を抑制するのはグルタミン、免疫グロブリンA(IgA)の材料になり免疫を上げるのはグルタミンとビタミンAです。そして腸内細菌叢のバランスを整えるために乳酸菌を使います。炎症が治まったタイミングで、以下のサプリメントを使いました。

  • DaVinciリポソーマルC
  • カンジダアウェイ
  • リフキシマ
  • インターフェーズ

腸内環境を少し酸性にした方がカンジダ治療には効果的なので、抗真菌ハーブと胃酸が配合されているカンジダアウェイを使用しました。SIBO治療に使われるリフキシマを 1日3錠、1ヶ月使いました。それと一緒に、インターフェーズというバイオフィルムをクレンジングする消化酵素も処方しました。消化酵素は、食物の消化をサポートする以外に、腸にこびりついているバイオフィルムを削る作用もあります。バイオフィルムクレンジングには食物繊維の消化酵素が効果的です。これを2ヶ月飲んでもらったところ、4ヶ月後には湿疹、頻尿、腹部膨満はすっかり良くなったので、次にデトックスを行いました。

  • ミヤリ酸
  • Liver Nutrients
  • グルタチオン
  • ビタミンB12(ヒドロキシコバラミン)
  • 葉酸(フォリン酸)
  • クロレラ
  • ケイ素

これらを3ヶ月間続けてもらったところ、8ヶ月後には関節痛、手湿疹がほぼ消失しました。また、認知機能も改善しました。

7. 最後に

日々患者さんを診てきて感じることは、考える力が湧いてくると自分の治療に対する姿勢が変わってくるということです。そうすると、治療の効果が一気に加速していくような感じがあります。患者さんご本人が自分でやらなければいけないことが結構多いからですね。

今回は、アルツハイマーの治療法をテーマにしましたが、アルツハイマーに使えるということは、脳機能全体の治療に使えるということなので、非常に応用性が広いと思います。脳機能の改善に至るまでには、低血糖の改善から炎症、腸、デトックス…と一つずつ積み上げていく必要がありますが、ご自分でプロトコルを組み立てて、サプリメントをうまく活用しながら取り組んでみてください。

水銀デトックスで免疫力を高める

宮澤賢史 · 2021年8月4日 ·

あなたは自分の免疫力に自信がありますか?免疫力を上げるにはまず、免疫力を低下させる原因を知る必要があります。

免疫力を低下させる大きな要因の一つに、水銀の蓄積があります。マグロなどの大型魚を週に何度も食べる方、歯に金属の詰め物がある方は、ご自身が持っている本来の免疫力を発揮できていないかもしれません。そこで行いたいのが、水銀デトックスです。体に溜まった水銀を体外に排泄することにより、免疫力を上げ、ウイルスに打ち勝つ体づくりができるのです。

1. 水銀デトックスは免疫の要

1-1. なぜ水銀デトックスが重要なのか?

抗生物質の一つであるヒドロキシクロロキンは、抗炎症効果があるため、自己免疫疾患の治療に使われていますが、体内に水銀が溜まっていると効きが悪くなります。なぜなら、水銀は細胞分裂の活発な部位に入りやすく、骨髄に蓄積すると多発性硬化症(MS)や白血病などの自己免疫疾患を誘発するからです。花粉症などのアレルギー症状にも水銀が影響しているケースがあります。

亜鉛には下気道感染の予防効果がありますが、亜鉛と水銀が同族元素なので、お互いに拮抗します。したがって、亜鉛の働きをよくするためには、水銀デトックスが欠かせません。

抗生物質のジスロマックは、リボゾームに作用するため、ウイルスへの効果が期待されています。日本では約20年前から最も使われている薬のうちの1つですが、あまりにも使われすぎて、薬剤耐性が問題になっています。水銀は耐性菌を誘導することが知られており、水銀が体内に蓄積しているとますます抗生物質が効きにくい体になってしまいます。

このように、いざというときに備えて薬が効く体にしておくためには、水銀デトックスは不可欠ということがお分かりいただけたかと思います。

1-2. 解毒の3フェーズと水銀の関連性

人間の解毒の仕組みは、3つのフェーズに別れています。フェーズ1は活性化、フェーズ2は抱合、フェーズ3は輸送です。解毒がうまくいっていない人は、フェーズ1、 2、3のどこに原因があるかを探らなければなりません。

フェーズ2は、毒素がグルタチオンやグルクロン酸により抱合されて水溶性になるプロセスです。細胞内に溜まった毒素は脂質に溶けて安定化しているため、細胞外に出るには水溶性の物質と結合する必要があります。

フェーズ3は、細胞内から細胞外に出る工程と、尿や便から排出されるプロセスです。細胞膜にあるMRP1(薬剤耐性タンパク1:Multidrug resistance-associated Protein 1)輸送体は、水銀の他に抗生物質などの薬剤も排出する働きがあります。したがって、MRP1輸送体が活性化している人は、水銀と一緒に抗生物質も排出してしまうので、当然抗生物質の効きは悪くなります。

また、水銀は多剤耐性関連タンパク質遺伝子を誘発することがわかっています。水銀をたくさん蓄積している人は、細胞外に排出しようとする働きが強まり、その過程で抗生物質も排出されてしまうのです。

Toxicol Lett. 2005 Jan 15;155(1):143-50.
Mercury induces multidrug resistance-associated protein gene through p38 mitogen-activated protein kinase
https://doi.org/10.1016/j.toxlet.2004.09.007

他にも、1993年の論文では、アマルガムが水銀耐性細菌や抗生物質耐性細菌の増加を引き起こすことが報告されています。

Antimicrob Agents Chemother. 1993 Apr;37(4):825-34. 
Mercury released from dental “silver” fillings provokes an increase in mercury- and antibiotic-resistant bacteria in oral and intestinal floras of primates
https://doi.org/10.1128/AAC.37.4.825.

このような知見から、患者さんに抗生物質を処方する場合は、必要に応じて水銀のデトックスを行っています。

2. 検査の読み方と治療方針

2-1. 蓄積量・排泄力・対処法を適切に把握する

水銀デトックスをするためには、ご自身の水銀蓄積量と排泄力、そして自分に合った対処法を適切に把握することが大切です。今回は、水銀の排泄量を評価できる毛髪ミネラル検査に加え、重金属の蓄積量や対処法などの情報を与えてくれるオリゴスキャンを紹介します。

症例: 28歳男性 非淋菌性尿道炎と全身倦怠感

主訴
・尿道炎症状、発熱、下痢、食欲低下、倦怠感、手足のしびれ
・疹、手足のさかむけ、
・脱力感、手足の筋肉量低下

この男性は、尿道炎を何度も繰り返して泌尿器科を受診していましたが、全く改善がみられず、しまいには手足の痺れや脱力感、倦怠感が強くなり、宮澤医院に来院されました。舌にびらんがあり、筋力も低下していました。排尿時痛がずっと続いており、関節痛や微熱もあったため、マイコプラズマ感染の疑いがありました。マイコプラズマ・ファーメンタンス(尿道炎からくるマイコプラズマ)の検査をしたところ、陽性を示したので、マイコプラズマ感染による非淋菌性尿道炎と慢性疲労症候群と診断しました。

症状
・舌にびらん、上下肢の筋力低下、排尿時痛、
・頭のもやもや感、関節痛、微熱
・フェリチン152ng/ml, AST26,ALT27,γGTP21
・マイコプラズマによる非淋菌性尿道炎と慢性疲労症候群と診断

マイコプラズマ感染症は、関節リウマチや慢性疲労症候群、線維筋痛症など、さまざまな病気を引き起こすことがわかっており、微熱、発熱、筋肉痛、といった症状がある人には必ずマイコプラズマ検査を行っています。通常のマイコプラズマ検査ではなく、私はエムバイオテック社の抗原抗体検査を用いています。マイコプラズマ・ファーメンタンス検査は、尿道炎の原因菌となるマイコプラズマを検出できます。

最初は抗生物質であるミノマイシンを使って治療を行いましたが、なかなか改善しませんでした。抗生物質に対する耐性があると考え、水銀デトックスのDMPSと、鉛やカドミウムのデトックスに使うEDTAキレーション点滴を5クールにわたって行いました。かなり時間はかかりましたが、今はほとんどの症状が消失しています。慢性疲労症候群の患者さんで、マイコプラズマが陽性の場合、ミノマイシンを処方して1~ 2ヶ月で治る人はたったの1割程度です。先にデトックス治療を行うことにより、抗生物質の効きをよくすることができるのです。

症例の28歳男性の重金属蓄積量をオリゴスキャンで確認してみたところ、鉛は低下していましたが、僅かに増えている重金属もあり、重金属の蓄積量にほとんど変化がありませんでした。蓄積量が変わらないのに、なぜ症状が改善したのでしょうか?

2-2. オリゴスキャンの結果が教えてくれること

オリゴスキャンは、手のひらに光を照射し、体内の重金属の蓄積量を測定する装置です。蓄積量だけではなく、有害金属毒性、酸化ストレスなど、デトックスに関する様々な情報を与えてくれます。症例の男性の場合、重金属の蓄積量だけを見ると変化は少ないのですが、有害重金属のトータル毒性は減少していました。また、酸化ストレスが低下し、抗酸化力が向上していました。この辺りが影響し、症状が軽快したと推察されます。

有害金属毒性の項目に、「硫黄との結合が十分でないため有害金属の代謝不良」とありますが、これはフェーズ3(毒物の輸送)のことを指しています。硫黄と水銀は非常に親和性が高く、摂取した硫黄が水銀と結合して排出されているかという指標がここに現れます。赤から黄色に好転していますが、これが緑になるように硫黄をもう少し摂った方が良いということがわかります。硫黄を豊富に含むアブラナ科の植物や肉を積極的に摂るようにします。

2-3. 酸化ストレスは解毒力を低下させる

フェーズ2(抱合)の過程では、グルタチオンの活性化が重要になります。グルタチオンは抗酸化にも使わてしまうので、酸化ストレスが強い人はグルタチオンがうまく働きません。したがって、オリゴスキャンの酸化ストレスマーカーと、血液検査の肝臓機能マーカーを確認し、酸化ストレスが強い場合はそちらの対処をします。肝臓機能を確認する理由は、フェーズ1とフェーズ 2が主に肝臓で行われるからです。慢性の肝臓疲労や肝炎がある場合は、フェーズ2の力が落ちます。症例の男性の場合、フェリチンが152もありました。フェリチンが100以上ある場合は炎症と捉えます。抗炎症のアプローチ、もしくは肝臓のケアを行った方が良いでしょう。毛髪検査も行ったところ、ミネラル輸送障害に当てはまりました。まだ水銀の害が残っていることを示します。

以上のことから今後の治療では、ミネラルのバランスが整うように、抗炎症のアプローチと肝臓ケア、そしてもう少し水銀のデトックスが必要だと考えています。症状自体はだいぶ回復したので、メンテナンスをしながらゆっくりとしたペースで行っていきます。

2-4. 毛髪ミネラル検査とは

毛髪ミネラル検査とは、毛髪中のミネラルを測定し、重金属の排泄力を評価する検査です。髪は1ヶ月に1cm伸びるので、毛髪の根元から3cmの部分を測定すると、過去3ヶ月の平均の排泄量がわかります。毛髪は、細胞外液のミネラルの経時変化を表す記録紙と言えます。

2-5. 耐容量を超えなければ大丈夫?

水銀は、下垂体からのACTH分泌や副腎からのコルチゾール分泌をブロックします。したがって、体内に水銀が溜まっている人はだいたい副腎疲労になります。

症例: 45歳女性、副腎疲労

この症例の女性は、歯にアマルガムが9本もありましたが、毛髪ミネラル検査を行ったところ、水銀は1.1ppmしか検出されませんでした。

厚生労働省の国立水俣病総合研究センターのWEBサイトを見ると、毛髪中の水銀量が重症度を全て表しているという考えで、耐容許容量5ppmを超えなければ問題ないとされています。耐容許容量は十分な安全性を考慮して決められた値で、これを超えない限り影響はないと書かれています。症例の方に当てはめると、全く問題ないとみなされてしまいますが、果たしてそうでしょうか?

私が強く言いたいのは、「検出されない=問題ない」は間違いということです。むしろ、水銀の曝露量が多いにも関わらず、毛髪検査で検出されないケースの方が重症なのです。

2-6. 自閉症児の毛髪分析

ここで、自閉症児の毛髪分析結果の報告を見てみましょう。自閉症児の母親は、対照児の母親に比べて、明らかに水銀曝露歴が高かったにも関わらず、子供の毛髪からの排泄パターンは少なかったそうです。毛髪の水銀レベルが少ないほど、自閉症の重症度が高かったという結果も出ています。

Int J Toxicol. 2003 Jul-Aug;22(4):277-85.
Reduced levels of mercury in first baby haircuts of autistic children.
https://doi.org/10.1080/10915810305120.

  • 94人の自閉症児と、年齢、性別をマッチさせた45人の対照児の毛髪分析を行った
  • 自閉症児の母親は、対照児の母親に比べて免疫グロブリン注射や歯科アマルガムなど顕著に高レベルの水銀曝露歴があったにもかかわらず、自閉症児の毛髪からの排泄パターンは対照児に比べて明らかに少なかった
  • 対照児の毛髪水銀レベルは、母親のアマルガムの個数と魚の摂取量、そして幼少期のワクチン接種と優位に相関していたが、自閉症児には相関が見られなかった
  • 自閉症児は、症状の重症度が高いほど毛髪の水銀レベルが少なかった

毛髪は水銀の排泄器官です。したがって、水銀の排泄障害が重度であるほど、症状も重篤になると言えます。

2-7. 毛髪ミネラル検査からわかること

毛髪ミネラルの結果は、有害金属の排泄力を表しています。アマルガムの詰め物がたくさんある人でも、毛髪検査の水銀レベルが高い人は比較的軽症です。曝露量と排泄量が一致しているからです。

もう1つ、毛髪ミネラル検査で得られる重要な情報が、ミネラルバランスです。ミネラルバランスを見れば、水銀の排泄能力をある程度推測できます。水銀が体内に溜まっていないから排泄量が少ないのか、それともたくさん溜まってるのに排泄できていないのか、一見しただけでは区別がつきません。その場合はミネラルバランスを確認します。検査結果で、左右のミネラルバランスが整っている場合、水銀の排泄量=水銀の蓄積量とみなしてよいでしょう。一方、ミネラルバランスが崩れている場合は、重金属排泄不良を起こしており、水銀が蓄積していると考えます。

2-8. 毛髪レベルとオリゴスキャンを比較する

水銀が体内にないのか、排出できていないのかを知る上でより確実な方法は、毛髪レベルとオリゴスキャンを比較することです。比較することで、どのぐらい排泄できていないのか、どのぐらい蓄積しているのかがはっきりわかります。オリゴスキャンと毛髪ミネラル検査を同時に行うことで、的確なデトックスの治療方針を立てられるようになるのです。

症例: 48歳女性、慢性疲労

  • 原発性アルドステロン症にて左副腎摘出
  • 摘出後から疲労感増強、歩行不可能
  • 3ヶ月経過も改善が見られないため、副腎機能低下を疑い来院
  • 血中ACTH 27.4pg/mL, コルチゾール 11.3μg/dL(基準範囲内)
  • フェリチン 17.5 ng/mL, AST 25, ALT 17, γ-GTP 11
  • 唾液中コルチゾールが顕著に低下
  • 歯科アマルガムあり

この女性は、原発性アルドステロン症という副腎の癌を発症し、左副腎を摘出していました。この疾患は、もう片方の副腎が萎縮するため、オペ後に副腎疲労の症状が強く出るケースが多くみられます。副腎摘出後から疲労感が増し、歩行も困難になりました。3ヶ月しても改善が見られず、副腎疲労を疑い来院されました。血中のACTHとコルチゾールは基準値内でしたが、唾液中コルチゾールが顕著に低下していました。この方も歯にアマルガムがありました。治療は、腸と副腎ケア、デトックスを行い、歯科受診を勧めました。

治療前後の毛髪ミネラル検査の結果です。治療前はミネラルバランスが左に寄っていましたが、治療後は左右のバランスがとれています。この結果は、デトックスで水銀をある程度出してあげると、ミネラル輸送が回復することを示しています。ここまで回復すれば、あとは自然デトックス(サウナや運動など)で水銀を排泄できるようになります。この方は治療に4年かかりましたが、歩行が可能になり、仕事復帰し、通常の生活に戻ることができました。

ミネラル輸送が回復した時のオリゴスキャンと毛髪ミネラル検査を比較すると、アルミやカドミウムは、蓄積量が多く、排出量は少なくなっています。ヒ素の蓄積は標準レベルですが、排泄量はかなり多くなっています。

このように、ミネラル輸送障害がなければ、蓄積量(オリゴスキャン)と排泄量(毛髪ミネラル検査)は反比例する傾向があります。今後の治療方針としては、オリゴスキャンでフェーズ3がNGとなっているため、食事やα-リポ酸などのサプリメントで硫黄を補給します。また、抗酸化力が黄色なので、抗酸化アプローチも行います。フェリチンは17.5で、強い炎症がみられないため、ビタミンCを足す程度で良いと考えています。

毛髪検査の下にあるのは有機酸検査の結果です。有機酸検査では、グルタチオンレベルを確認することができます。58番のピログルタミン酸はグルタチオンが不足すると数値が上がります。この女性の場合は値が低いため、グルタチオンは足りていると判断します。2-ヒドロキシ酪酸は、グルタチオンが作られる経路(硫酸経路)の生成物です。この数値が上がっていれば、体内で解毒が活性化されていることを意味します。

2-9. 自己免疫疾患と水銀デトックス

症例: 51歳女性、線維筋痛症

  • 5年半にわたり、線維筋痛症治療を継続
  • 副腎疲労の症状に当てはまることが多数あり来院
  • 歯科アマルガム多数
  • 時々熱が出る。CRP 0.1 ng/dL
  • フェリチン51.4 mg/mL, AST 20, ALT 17, γ-GTP 11

この女性は、5年半にわたって線維筋痛症の治療を継続しており、副腎疲労の疑いもあって来院されました。歯科アマルガムも多数確認できました。時々微熱が出るということなので、マイコプラズマ検査を行ったところ陽性でした。したがって、副腎ケア、ミノマイシン、デトックスを行いました。

抗生物質が効かない人や効きにくい人には、多くのケースでデトックス治療を行っています。『Overcoming Arthritis』(David Brownstein著)には、リウマチに対してミノマイシンを投与したところ改善がみられたと書かれています。関節リウマチもマイコプラズマ感染が原因であることを示しています。

関節リウマチ患者に対して、48週間にわたる二重盲試験でミノサイクリン200mgを投与した群(109名)は、しない群(110名)に比べて優位に関節の腫張(54%, 39%)、関節の圧痛(56%, 41%)の改善がみられた。

Ann Intern Med. 1995 Jan 15;122(2):147-8.
Minocycline treatment of rheumatoid arthritis
https://doi.org/10.7326/0003-4819-122-2-199501150-00012

この女性のデトックスで注意すべきことが、硫黄に対する過敏反応があるということでした。通常のデトックス治療で使用する、DMSA、モリブデン、グルタチオン、タウリンが使えなかったため、毒物に拮抗するミネラルを多めに摂ってもらい、自然デトックスから始めました。幸いなことに、ミネラル輸送障害は見られず、重金属の排泄は良好でした。

DMSA、モリブデン、グルタチオン、タウリンに過剰反応あり

オリゴスキャンの結果から抗酸化力が低いことがわかったため、ビタミンCを摂取してもらいました。フェーズ3も赤色ですが、硫黄系のサプリメントが使えないため、一旦保留にしています。良くなったり悪くなったりを繰り返していましたが、甲状腺機能を上げると一気に症状が軽快しました。

症例: 38歳男性、慢性疲労

  • 性行為後にインフルエンザ症状が出現
  • その後、尿道炎を繰り返し、抗生剤治療で軽快するも再発。関節炎や皮膚湿疹も出現したため当院を受診
  • 湿疹、関節痛、咽頭痛、口内違和感あり
  • 口腔内アマルガム多数
  • フェリチン 71ng/mL, AST 48, ALT 54, γ-GTP 34

この男性は、性行為後にインフルエンザ症状が出現し、尿道炎を繰り返していました。典型的なマイコプラズマ感染症です。肝機能を示す数値がかなり高い状態でした。

アマルガムが多数あるにも関わらず、水銀レベルが低いため、水銀の排泄障害があると考えられました。DMPSとEDTAのキレーションを行ったところ、多くの有害金属の排出が確認できました。キレーションに効果があると確信し、DMPSとEDTAのキレーション治療を3クール行いました。その結果、ミネラルバランスは概ね整いましたが、アルミニウムの蓄積は持続していました。

この方は、3年目あたりから急に良くなって、今は慢性疲労の症状はほとんど消失しました。ただ、問題は肝機能の数値が上がってしまうことです。肝機能の数値が上がるということは、肝臓の解毒力が低下していることを意味します。オリゴスキャンの結果では、フェーズ3とフェーズ2がNGになっています。化学物質過敏症の症状が出るようになったため、ウルソやミルクシツルを使って肝臓ケアを行っています。

症例: 71歳男性、掌蹠膿疱症

5年間、掌蹠膿疱症の緩解、増悪を繰り返している方です。関節リウマチと掌蹠膿疱症の症状があり、ミネラルバランスも大きく崩れていたため、デトックスを行いました。水銀レベルがかなり高かったのですが、チオラとウラリットによるキレーションを徹底的に行ったところ、ある程度ミネラルバランスが整うようになりました。現在は、関節痛も掌蹠膿疱症もほぼ改善しています。

オリゴスキャンの結果を見ると、有害金属の代謝不良、抗酸化力の低下がみられました。関節リウマチがあったため、CRPがなかなか下がりませんでした。肝臓の数値が少し高いため、グルタチオンやビタミンCを用いて、フェーズ2, 3へのアプローチを集中的に行っています。

3. まとめ

解毒には、フェーズ1(活性化), 2(抱合), 3(輸送)の3つのステップがあります。フェーズ1にはチトクロームP450が関わっており、SNPを調べることにより評価はできますが、治療の介入が難しい部分です。一方、フェーズ2と3は治療による改善が可能です。

解毒の要素オリゴスキャン毛髪ミネラルその他の評価法
フェーズ1
(活性化)
チトクロームP450のSNP
フェーズ2
(抱合)
◯
(抗酸化)
肝機能、フェリチン、有機酸検査
フェーズ3
(輸送)
◯
(硫黄結合)
蓄積量◯
排泄力◯
水銀の影響◯

フェーズ2はオリゴスキャンで確認できます。その他にも、肝機能やフェリチン値、有機酸検査のグルタチオンレベルを調べることで評価できます。フェーズ3は、オリゴスキャンの硫黄結合の項目で評価することができます。毛髪ミネラル検査では、重金属の排泄力と水銀の影響、ミネラル輸送障害の有無を評価することができます。

重症度と重金属の蓄積量は必ずしも相関しません。複数の検査と合わせて総合的に体内を理解する必要性があります。毛髪ミネラル検査、オリゴスキャン、血液検査、これら3つの検査結果を総合的に判断することで、治療方針が立てやすくなるでしょう。

  • 症状の重症度と重金属蓄積量は必ずしも相関しない 
  • 他の検査と合わせて総合的に体内を理解する必要がある 
  • オリゴスキャンは重金属蓄積量に加えて、 デトックスのフェーズ2、3を評価できる 
  • 毛髪ミネラル検査は重金属の排泄力、水銀によるミネラル輸送障害を評価できる
  • オリゴスキャンを読み解く鍵は重金属蓄積量以外にある 

根本原因に対する個別化栄養療法のすすめ

宮澤賢史 · 2021年7月26日 ·

栄養療法を学ぶ目的は人それぞれですが、薬に頼る治療方法に限界を感じてこのサイトにたどり着いた方もたくさんいらっしゃると思います。では、そもそも栄養療法の何が優れているのでしょうか?

この内容を一言で表すと、「根本原因に対する個別化栄養療法」と言えます。様々な検査や病態から個々人の根本原因を見つけ出し、一つ一つに対処していく治療方法です。様々な検査手法が確立し遺伝子解析が進む中、個別化栄養療法は今後ますます重要視されるようになるでしょう。

1. 個別化栄養療法とは何か

1-1. 効かないサプリメントは論外

2019年に国民生活センターが各社のサプリメントを一斉にテストしたところ、4割以上が規定時間内に溶けないことが明らかとなり、メディアで話題になりました。溶けないということは、体内をスルーして便で排出され、全く効果がないということです。実践講座ではサプリメントが効かない理由を探っていきますが、このような粗悪なサプリメントは論外です。本来「効く」はずのサプリメントがなぜ自分の体には「効かない」のか、それを考えるのが本講座の目的です。

1-2. 栄養療法との出会い

私が栄養療法を始めたのは、サプリメント会社が設立したクリニックの院長に就任したことがきっかけでした。当初は血液検査などをもとに、ミトコンドリア機能と低血糖症へのアプローチをメインに行っていました。

例えば、GOT(AST)とGPT(ALT)の関係を紐解くと、ミトコンドリア機能の状態がわかります。

  1. GOT≒GPT: 正常
  2. GOT>GPT(差が2以上): ビタミンB群代謝不足
  3. GOT>40: 心不全、筋肉障害
  4. GOT<GPT: 脂肪肝、ウイルス性肝炎
  5. GOT↑・GPT↑:ビタミンB群消費↑
    ⇨ ②+④の状態の時、一見①に見えることもある
    ⇨ GOT、GPTは↑でも↓でも補給を考える

低血糖の診断には5時間糖負荷試験が用いられます。当時、500人以上の患者さんに糖負荷試験を行いましたが、ほとんどの人が3~5時間で低血糖を起こしていました。この症例はうつ病の患者さんで、30分後に146mg/dLまで上がった後、240分後には52mg/dLまで下がっています。

低血糖症は血糖値の急激な上昇のリバウンドで起こることから、当時の患者さんには糖質制限を勧めました。しかしながら、ことごとく失敗に終わってしまいました。低血糖の陰には副腎疲労が隠れていることが多く、糖質制限によりかえって症状を悪化させてしまっていたのです。

1-3. リオルダンアプローチから学ぶこと

そんな時、研修で訪れたのが米国リオルダンクリニックでした。建物がドームの集合体になっており、ドーム1つ1つが研究所やクリニックになっています。そこで教わったのが、創設者であるヒュー・リオルダン博士が提唱した「リオルダンアプローチ」でした。

リオルダンアプローチ 7つの要素
☑️ Staff/Co-learner Relationships
☑️ Identify The Causes
☑️ Characterize Biochemical Individuality
☑️ Care for the Whole Person
☑️ Food As Medicine
☑️ Cultivate Healthy Reserve
☑️ Healing Power of Nature

1つ目に「Staff/Co-learner Relationships」とあります。リオルダン博士は、「患者」と呼ばずに「Co-learner(共に学ぶ人)」という表現を使っていました。クリニックにはオーガニックレストランやセミナー施設が併設されており、畑で採れたオーガニック野菜を使ったランチを食べながら、ランチョンセミナーも開催できます。スタッフとCo-learnerとの関係性を築くために、様々な工夫が施されていました。

2つ目にある「Identify The Causes」ですが、頭文字を取って病気や病態の原因を次のようにまとめることができます。

  • Infection(感染):ウイルス、細菌、真菌の増殖
  • Digestion(消化):消化不良、胃酸分泌不良、消化酵素分泌不全
  • Emotion(感情):非常に問題で、疾患を悪化させる
  • Nutrients(栄養):栄養不良、吸収不良、代謝的なブロック
  • Toxins(毒):鉛、水銀などの重金属、残留農薬、除草剤など
  • Inflammation(炎症):「○○炎」を引き起こす慢性的な引き金、食習慣
  • Foods(食事):臓器のダメージ、食物依存症を引き起こす
  • You(あなた自身):あなたの決断、思い込み、思考の方向性
  • Thyroid dysfunction(甲状腺機能障害):特に検査でわからない甲状腺機能異常
  • Hypoglycemia(低血糖症):炭水化物、糖質、インスリン、副腎と関わる
  • Endocrine disorders(ホルモン異常):加齢、機能不全を引き起こす
  • Candida overgrowth(カンジダ過剰増殖):過剰な抗生剤、ステロイド、砂糖、ストレス
  • Adrenal Fatigue(副腎疲労):低血糖、病気や人生への負担などが原因
  • Under activity(運動不足):自分の能力を十分に鍛えないこと
  • Stress or spiritual crisis(ストレス、精神的な危機):不必要な活動でいっぱいになってしまうこと
  • Environmental(環境):満たされない、機能しない、むしろ害になっている
  • Structural(構造):心と体の不一致

これはまさに、いま行っている栄養療法そのものです。この学びをもとに、腸内環境や解毒、炎症、甲状腺ホルモンに関する検査を導入しました。また、この時初めて副腎疲労の存在を知り、クリニックに持ち帰って治療に取り入れたところ、とてもいい効果が得られました。そんな経緯で副腎疲労に特化した外来を始めました。

1-4. メチレーションと脳機能

その他に影響を受けたのが、メチレーションの権威であるベン・リンチ博士とウィリアム・ウォルシュ博士との出会いです。2016年にはウィリアム・ウォルシュ博士に来て頂き、メチレーションのセミナーを開催しました。メチレーションは脳機能に影響します。脳機能のアンバランスは個別化分類できて、それに応じた栄養素を投与すればよいということが理解でき、治療に取り入れました。

1-5. 根本原因は共通している

宮澤医院に来院する患者さんは、リウマチや橋本病、うつ病、集中力の低下、慢性疲労など、疾患名は様々です。しかし、治療方法としては、腸、炎症、重金属・カビ毒、副腎疲労・低血糖、ミトコンドリア、脳機能、これら6つの根本原因があるかどうかを確認し、それを順番に対処していくと改善していくのです。

疾患名腸内環境炎症重金属
カビ毒
副腎疲労
低血糖
ミトコンドリア脳機能
リウマチ◯◯◯
慢性疲労◯◯◯
橋本病◯◯
集中力低下◯◯◯◯◯
うつ◯◯

1-6. 根本治療ピラミッド

私の経験をもとに作ったのが根本治療ピラミッドです。個別化栄養療法は、6つの根本原因の有無を確認し、それに応じて治療を進めていきます。このピラミッドが私のひとりよがりなものではないという証拠に、他の統合医療学会も同じような治療方針を掲げています。

例えば、米国の統合医療学会で今1番勢いのある機能性医療学会、Functional Medicineのトップページには、「機能医学は、各個人の病気の根本原因に対処することにより、病気が発生する方法と理由を判断し、健康を回復します」と書かれています。認定医になるためには、基本的なコースの他に、エネルギー(ミトコンドリア)、消化管、ホルモン、解毒などのコースが用意されています。

他にも、統合医療のWebセミナーを開催しているIntegrative Medicine Academyのオンラインプログラムは、副腎、甲状腺、血液化学を含む臨床検査、有機酸検査と代謝評価、栄養とサプリメントなどがカバーされており、解毒、ミトコンドリア機能、重金属、カビ毒などについても学ぶことができます。

また、先日参加した個別化ライフスタイル医療学会では、網膜疾患の根本原因についての発表があり、次のような項目が挙げられていました。

網膜疾患の根本原因
炎症
酸化ストレス
インスリンシグナル経路の調整不全
オートファジーの不活性化
免疫不全
ミトコンドリア機能低下
タンパク質異化亢進
視細胞、網膜組織の壊死、機能障害

免疫不全は、感染、炎症、毒素による免疫の誤作動によるものです。インスリンシグナル経路の調整不全も炎症から来ています。

アルツハイマー病も同じことが言えます。『アルツハイマー病 真実と終焉』(デール・プレデセン著)には、アルツハイマーは単一型の疾患ではなく、大きく3つの型に分類される病気であると書かれています。その3つの型が、炎症、栄養・ホルモン不足、毒素です。

このように、病名や病態は様々でも、根本原因は共通しているのです。もう一つ重要なことは、根本原因は遺伝や環境的影響によって疾患の要因となりやすい箇所にあるということです。

2. 遺伝子情報の重要性

2-1. 栄養療法と遺伝子解析

今後の栄養療法は遺伝子情報を元にしたアプローチが主流になるでしょう。特に、遺伝子解析先進国のアメリカではすごい勢いで研究が進んでいます。私が23andMeで遺伝子検査を受けてから5年以上経っていますが、得られる情報がどんどんアップデートされています。

2-2. 遺伝子解析の課題

万能に見える遺伝子解析にも大きな課題があります。それは、膨大な情報を網羅的に解析して判断する必要があることです。グルタミン→グルタミン酸→GABAの代謝を例に挙げると、グルタミン酸がGABAに代謝されにくい人は、グルタミン酸脱水素酵素(GAD)のSNP(スニップ:DNAの塩基配列における1塩基の違い)を調べれば根本原因を突き止めることができるかもしれません。しかし、GADにはGAD1とGAD2があり、そのSNPは少なくともGAD1で10個、GAD2で12個存在します。22個全てのSNPを網羅的に解析するのはとても複雑な作業です。

アメリカの多くのベンチャー企業が遺伝子解析に参入し、複雑な計算からリスクを算出しサービスとして提供しています。私の23andMeの生データを別のサービスで解析したところ、アルコールとニコチンはD-、つまり酒とタバコに溺れやすいという体質ということがわかりました。他にも様々な因子を解析してくれます。

こうしたサービスはインターネットとの相性がいいので、破竹の勢いで伸びています。まだ完全には「あなたはこういう体質です」と言えるところまで来ていませんが、そう遠くない将来にはより精度の高い解析が可能になるでしょう。

2-3. MTHFRは稀なケース

今お話ししたように、一般的にはSNPは多くの箇所の網羅的な解析が必要ですが、MTHFR(メチレンテトラヒドロ葉酸還元型酵素)は、たった2つの遺伝子変異で酵素活性が決まる極めて稀な酵素です。1箇所にSNPがあると70%、2箇所にSNPがあると20%まで活性が落ちてしまいます。結果がクリアに出るので、MTHFRの遺伝子解析はとてもポピュラーなものになりました。このように、自己評価できる遺伝子のSNP情報は大いに活用できると思います。

2-4. デトックスプロファイル

これはGenovaDiagnostics社のデトックスプロファイルです。デトックスに関連する特定の酵素は、遺伝子の影響を強く受けるため、遺伝子検査がよく使われます。

解毒のフェーズは、フェーズ1(活性化)とフェーズ2(抱合)に分かれています。フェーズ1はCYP(シップ)という酵素が関係しており、CPY1A2にSNPがある場合はカフェインに弱いことを示します。コーヒーを飲むと心臓がドキドキしてしまう人ですね。この検査をすれば、カフェインやタバコ、特定の薬などの影響が全てわかります。

上の結果はグルタチオンの抱合に関わるグルタチオンSトランスフェラーゼのSNPなどを見ています。

3. なぜ薬ではなく栄養が重要なのか

3-1. 遺伝子型から表現型へ

2019年9月のサイエンス誌で、『Genotype to Phenotype(遺伝子型から表現型へ)』というトピックが特集されました。

「表現型」とは見た目や行動特性のことで、遺伝子をもとにタンパク質がどう発現したかによって結果が異なってきます。特に「形態」は遺伝子の影響を強く受けますが、同一の遺伝子型でさえも表現型は微妙に異なります。一卵性双生児はそっくりですが、親が見ればすぐに判別できますよね。また、一卵性双生児の片方が統合失調症になった場合、もう片方が発症する確率は50%しかありません。つまり、遺伝子型が全てではないということです。では、遺伝子型を理想的な表現型にするためにはどうすれば良いのでしょうか。

3-2. 遺伝的弱点は栄養によって補完できる

こうした研究はもう何十年も前から続いており、その間に様々なことがわかってきました。「人は栄養に支配されており、特に重要なのは食事である」ということも明らかになっています。食べ物が表現型の決定に大きな影響を及ぼしているということです。遺伝子発現を制御・伝達するシステムとその学術分野をエピジェネティクスと言います。そして、最大のエピジェネティクス要因は栄養です。だからこそ、薬ではなく個別化栄養療法が重要なのです。

☑️ 人は栄養に支配されている
☑️ 栄養の必要性は遺伝子によって決まる
☑️ 食物は表現型を決める栄養の代表的存在
Vol 365, Issue 6460, 27 September 2019
https://doi.org/10.1126/science.aax3710

例を挙げると、女王蜂と働き蜂は全く同じ遺伝子型を持っていますが、大きさも寿命も異なります。女王蜂はローヤルゼリー食べて寿命が3年。働き蜂は花粉を食べて寿命が1ヶ月です。食べ物で表現型が大きく変わるということをよく表しています。

これも有名な実験です。同じ親から生まれた同一の遺伝子を持つ糖尿病のモデルマウスの実験で、通常の食事を与えると、肥満遺伝子が発現して糖尿病になります。一方、メチル化を促す食事を与えると、メチレーションが働いて遺伝子の発現を抑え、肥満遺伝子が発現しないのです。

引用:A Tale of Two Mice July 2008

これらの研究結果は、遺伝的な弱点は栄養によって補完できるということを示しています。

4. 個別化栄養療法のすすめ

4-1. 検査の使い分け

脳機能に関しては、メチレーションの遺伝子検査がある程度役立ちます。しかし、メチレーション検査が網羅的ではないため、遺伝子検査の結果とその時の脳の状態が必ずしも一致しないケースも多く見られます。

遺伝子の影響が強い箇所は、遺伝子型と根本原因がリンクしやすいので、遺伝子検査で判断しても良いでしょう。そうでない場合、つまり、環境要因が強かったり、多くの遺伝子が影響する場合は、症状や他の検査結果から判断することになります。このように、検査を選択しながら自分の根本原因がどこにあるかを絞って治療を進めてほしいと思います。

4-2. 個別化栄養療法がうまくいっていない方へ

個別化栄養療法がうまくいっていない方は、「Identify The Causes」の色がついているところをもう一度確認してください。

  • Infection(感染):ウイルス、細菌、真菌の増殖
  • Digestion(消化):消化不良、胃酸分泌不良、消化酵素分泌不全
  • Emotion(感情):非常に問題で、疾患を悪化させる
  • Nutrients(栄養):栄養不良、吸収不良、代謝的なブロック
  • Toxins(毒):鉛、水銀などの重金属、残留農薬、除草剤など
  • Inflammation(炎症):「○○炎」を引き起こす慢性的な引き金、食習慣
  • Foods(食事):臓器のダメージ、食物依存症を引き起こす
  • You(あなた自身):あなたの決断、思い込み、思考の方向性
  • Thyroid dysfunction(甲状腺機能障害):特に検査でわからない甲状腺機能異常
  • Hypoglycemia(低血糖症):炭水化物、糖質、インスリン、副腎と関わる
  • Endocrine disorders(ホルモン異常):加齢、機能不全を引き起こす
  • Candida overgrowth(カンジダ過剰増殖):過剰な抗生剤、ステロイド、砂糖、ストレス
  • Adrenal Fatigue(副腎疲労):低血糖、病気や人生への負担などが原因
  • Under activity(運動不足):自分の能力を十分に鍛えないこと
  • Stress or spiritual crisis(ストレス、精神的な危機):不必要な活動でいっぱいになってしまうこと
  • Environmental(環境):満たされない、機能しない、むしろ害になっている
  • Structural(構造):心と体の不一致

私が初めてこのリストを目にした時は、何のことだかさっぱりわからなかったのですが、長年栄養療法に携わり、今はこの意味がよくわかります。心と体の不一致、思い込み、偏った考えや思考性、トラウマ、こうした問題を抱えている人は、それが治療の足かせになっている可能性があります。

4-3. 個別化栄養療法チェック

個別化栄養療法について、どこまで理解が深まっているか確認してみましょう。

Q1. あなたの根本原因は何ですか?
Q2. 腸内環境をどうやって判断していますか?
Q3. 重金属や毒素は溜まっていますか?
Q4. 体内の隠れた炎症が起きそうな場所をチェックしていますか?
Q5. 足りない栄養素は?
Q6. メチレーション状態は?
Q7. 副腎、甲状腺、その他のホルモンバランスは正常ですか?
(答えられれば1点、答えられなければ0点)

6-7点:適切な検査と問診を組み合わせることで根本原因は見つけられます。
3-6点:把握できていない根本原因をもう一度考えてみてください
2点以下:根拠もなく言われるがままにサプリを摂っていませんか?

4-4. 最低限受けるべき検査

根本原因に対する個別化アプローチのために最低限受けて欲しい検査は、「血液検査」「有機酸検査」「毛髪検査」この3つです。もう一つ付け加えるなら、便中カルプロテクチン検査です。これらの結果から根本原因を割り出すことが可能です。もし症状があれば、耳鼻科受診や歯科受診も検討してみてください。

4-5. 個別化医療市場の展望

メタジェニックス社によれば、世界の個別化医療市場は、2025年には倍近くになると予測されています。特に大きな部分を占めるのは、個別に診断する能力です。様々な検査手法が確立し、遺伝子解析によるリスク計算がより確実なものになれば、個別化栄養療法は今以上に重要視されてメジャーになってくるでしょう。

5. 最後に

臨床分子栄養医学研究会は、根本原因に対する個別化栄養療法を推奨しています。根本原因が見つけられていない人のために、実践講座を開催しています。個別化診療が主流になる新しい時代に向けて、ともに学んでいきましょう。

分子栄養学のロードマップ

宮澤賢史 · 2021年7月15日 ·

ロードマップというのは、実践講座で紹介している分子栄養学の勉強の順番を示した道案内の役割をする地図です。膨大な分子栄養学の世界を一段ずつ確実に上がっていけるために作りました。もうすでに分子栄養学マスターの方は、自分の抜けている場所のチェックリストとして使ってください。

ステップ1:基本的な考え方を身につける

まずは体の仕組みを知ることから始めてください。これを理解しないことには体の不調に対処できないからです。

例えば、エネルギーが生まれる仕組みを知らずに慢性疲労に対処することはできないし、炎症を起こす仕組みと抑える仕組み、両方を知らずして慢性炎症を治すことは難しいでしょう。

ビタミンとミネラルは似ているようで全く異なる性質を持っています。それを知って実際にサプリメントを試すところから始めましょう。

モジュール1 分子栄養学の基本的な考え方

どのような状況で、どのくらいの量のサプリを摂ったら良いか理解していますか?栄養素は摂る量により効果が異なる事を理解してください
必要な栄養の量が人によって異なることを知っていますか?なぜある人にとっての栄養になるものが他の人にとって毒になるのか、その仕組みを知りましょう
なぜ栄養が不足するのか、理解できていますか?根本原因の定義を知り、どのようなものが当てはまるかを考えてみましょう
ある人にとってその栄養素が必要かどうか疾患の場所から推定できますか?栄養素の局在について理解してください

モジュール2 細胞について理解する

人がエネルギーを生み出す仕組みと必要な栄養素を理解していますか?ミトコンドリアの構造とエネルギー産生の仕組みを知りましょう
情報のやり取り、炎症を起こしたり静めたりする機序を知っていますか?細胞膜とそれを構成する栄養素、その代謝を押さえてください
栄養、食事をはじめとした環境で作られるタンパク質が変わってくる仕組みをご存知ですか?体内でタンパク質が作られる仕組みとそれにメチル化が及ぼす影響をマスターしましょう
無駄なタンパク質を作らない方法、ミトコンドリアを若返らせる方法をマスターしていますか?小胞体とミトコンドリアの関係を学び、小胞体ストレスを軽減させる方法を習得してください

モジュール3 ビタミン、ミネラル、アミノ酸の使い方

水溶性ビタミンの性質を踏まえた効果的な摂り方を実践していますか?ビタミンCを効果的な方法で摂ってみましょう
脂溶性ビタミンの使い方をマスターしていますか?ビタミンAを摂ってドライスキンの改善を体験します
ミネラルがどのような効果をもち、どのように人体に貢献するかご存知ですか?マグネシウム・亜鉛の効果的な摂取方法について学び、実際に使ってみましょう
アミノ酸をうまく使う方法をマスターしていますか?グルタミンやBCAAの体内での働きを知り、実際に摂ってみましょう

第17期実践講座の実施概要はこちら

ステップ2:サプリと食事の基本をマスターする

次に目指すのはフードマスターです。

ビタミンやミネラルは三大栄養素の調整を行っていますが、食事の量や質が悪ければ、効果は期待できません。血糖値が乱高下しない食べ方や、脳のパフォーマンスを最大限にあげるための脂質の種類の選び方と調理方法、腸の炎症をとり疲れ知らずになる食事メニューなど、誰もが目指すべき食事内容について学んでください。症例検討会参加までにここまではマスターしておかれると話がスムーズになります。

モジュール4 三大栄養素の代謝をマスターする

食事を摂っていない時に血糖値が保たれる仕組みを理解していますか?解糖系・糖新生について理解しましょう
血糖値が乱高下しない糖質の種類や摂り方を知っていますか?補食の摂り方(タイミング、量、質)について学んでください
体内でタンパク質が作られる機序を理解していますか?タンパク質の作られ方について復習しましょう
体内のタンパク質の種類が頭に入っていますか?(機能性タンパク質と構造タンパク質)特に機能性タンパク質の種類と働きについて一通り押さえてください。
摂るべき油と避けるべき油の区別がつきますか?油の構造式から性質が読み取れるようになりましょう。
コレステロールが体内でどのような働きをしているか知っていますか?コレステロールの生成、コレステロールを原料にして作られるものを押さえます。
中性脂肪とリン脂質の違い、働きを理解していますか?中性脂肪がエネルギーに使われる機序、リン脂質の細胞膜における代謝を学んでください

モジュール5食事療法の基本をマスターする

引き算の栄養学を体験しましたか?カゼイン・グルテン・カフェイン・アルコールフリー生活を2週間やってみましょう
カンジタを減らす食事をマスターしていますか?カンジダ除菌中に摂るべきものと控えるものを知りましょう
グルテンとは何か?どのような影響を体に与えるかご存知ですか?グルテンの性質、交差反応について学びましょう
食物アレルギーと過敏症、不耐症の違いを理解していますか?それぞれの対処法についても理解してください
食事への依存はないですか?食事制限がうまくいかない場合は考えるべきです。

ステップ3:個体差を見極め対処する Personalize

ある人にとっての薬は他の人にとって毒になり得ますが、サプリや食事にも同じことが言えます。ここでは自分にあったサプリや食事を検査データから見分ける方法を学びます。結果を元にして必要なサプリメントと食事を細かく選んでいきます。

まずは足りない栄養素の補給法、そして次に体が受けているダメージをデータから読み取り、その対策をしていきます。血液検査だけでもわかることはたくさんあります。

モジュール6 足りない栄養素を知って補充する

自分に足りない栄養を把握できていますか?栄養素別のアンケートにチェックをして、どんな栄養が足りないのかあたりをつけましょう
自分に足りない栄養を検査したことがありますか?既定の血液検査を受けましょう
検査結果で足りないビタミン・ミネラルをチェックしてくださいVB3,B6,B12,Mg,Zn,Fe,K,Dなどのチェックを行いましょう
糖質代謝は問題なかったですか?低血糖のチェックにはALT,TGが特に有用です。
エネルギー状態はどうでしたか?ミトコンドリアが動いていない場合、代償的に解糖系が亢進します。

モジュール7体のダメージを知って対策する

体に起こっているダメージを把握していますか?活性酸素、炎症、インスリン抵抗性、タンパク異化の状態とその対応
炎症マーカーは上昇していますか?対策としてはCRPだけでなく、フェリチンや血小板、ガンマグロブリンなどもチェックしてください
インスリン抵抗性はありましたか?たとえ痩せていてもインスリン抵抗性は存在します。もれなくチェックしてください。
タンパク異化はどうですか?その程度は?データチェックと体感から読み取り対策しましょう
自律神経の緊張度はどうですか?自覚のない緊張にも注意しましょう。低血糖と合わせて理解してください。

ステップ4:根本原因にアプローチ1 Rootcause

問診と検査結果から自分にどのような根本原因が潜んでいるかを知り、それをどのような順番で対処するか計画を立てて実行します。

ここで重要なのはアプローチの順番です。人がどのように病気になるかを理解することで、アプローチの方法が見えてきます。まずは副腎、神経、ミトコンドリアを同時にケアすることで気分、体調を上げましょう。

モジュール8 病気になる順番、直す順番を理解する

頭の中に自分の治療モデルが描かれていますか?モデルの雛形に沿って自分のを作りましょう
多くの人が病気になる流れを掴んでいますか?全体像を学びましょう(生活習慣、腸内環境、ホルモンバランス、解毒)
多くの人に有効な治療の順番を知っていますか?自分の順番を組み上げましょう

モジュール9 副腎疲労の原因と対策

低血糖症状はないですか?リブレと合わせて低血糖の有無を確認し、あれば補食から始めましょう
自分のストレスを把握していますか?ストレス問診と唾液、血液検査結果、から自分のストレスタイプを決定し、対処法を考えます
睡眠は良好ですか?炎症と低血糖、ストレス状態を確認します
副腎ホルモンは低下していませんか?コルチゾール検査で日内リズムと覚醒反応を確認し、それに応じたサプリケアを始めましょう

モジュール10 神経伝達物質とミトコンドリアケア

気分の落ち込み、不安などの神経症状がありますか?検査と症状からセロトニンレベルを推定し、対策しましょう。(程度により病院受診が必要)
やる気の低下、もしくはイライラが強いなど症状がありますか?検査と症状からドーパミンレベルを推定し、対策しましょう
疲れやすさがありますか?ミトコンドリアの状況を有機酸検査から把握し、それに応じた対策を取りましょう

ステップ5:根本原因にアプローチ2Rootcause

副腎やミトコンドリアケア、抗炎症アプローチを終え、やっと腸内環境をきちんと治療する準備が整いました。いよいよ最終的な根本原因にアプローチしていきます。

感染症や毒素などの重大な根本原因は腸や肝臓などに存在しています。ここでもプロトコールに沿って順番に進めていきます。

モジュール11 腸内環境の改善

自分の腸内環境を知る方法を知っていますか?腸内環境検査をオーダーし、結果を解析しましょう
腸内環境は良好でしたか?結果に応じてサプリと食事内容で対処しましょう
消化不良はありませんか?採血検査と自覚症状から確認の上、サプリケアをしましょう
リーキーガット(腸漏れ)は起きていませんか?リーキーガットの程度に応じてケアを行います
腸にカンジダや悪性菌が増殖していませんか?便検査や有機酸検査で確認し必要に応じて対処しましょう。

モジュール12 解毒、ファスティング

検査で重金属が蓄積していましたか?毛髪検査で体内毒素の排泄力を推測します
問診で体内にカビが蓄積していそうですか?体内のカビ毒蓄積を確認して対処します
検査で毒素が溜まっていそうですか?セルフデトックスをしましょう
一通りデトックスが終わりましたか?デトックス体質に変換していきましょう
ファスティングをしたことがありますか?ファスティングにトライしてみましょう

根本原因とデトックス

宮澤賢史 · 2021年7月13日 ·

免疫を上げるには、睡眠や食事などのライフスタイル、つまり「環境」を改善することが大切といわれていますが、デトックスも同じで、どんなデトックスサプリを使うかよりも、どのようなデトックス環境を整えるかが重要となります。

本日は、何がどれくらい溜まっているかをどうやって知るのかという検査のことと、どうやって解毒すべきかというWhatとHowについてお話しします。

1. 何を解毒するべきなのか

1-1. 脳に蓄積し障害を起こすもの

根本原因とデトックスのピラミッド図をご覧頂くと分かるように、デトックスは様々な要因の影響を受けています。

では、一体何を解毒すべきなのでしょうか?基本的には、主に以下のものになります。

①脳に蓄積し、障害を引き起こしやすいもの

・脂溶性である水銀、カビ毒は脳に蓄積しやすい(『アルツハイマー病 真実と終焉』デール・ブレデセン著より)

・アマルガムが自閉症、発達障害慢性疲労、繊維筋痛症、化学物質過敏症、精神疾患の原因となる(『アマルガム・イルネス』 アンドリュー・カトラー著より)

上記の本にあるように、水銀とカビ毒は脂溶性のため脳に蓄積しやすく、BBB(血液関門)を通過しやすいものが中に入り込んで脳に溜まってしまいます。

②ミトコンドリアを障害するもの

フッ素、水銀、ヒ素、アンチモン、アルミニウムは、TCAサイクルの働きを止め、ミトコンドリア機能を阻害してしまいます。TCAサイクルだけではなく、右上の図のように電子伝達系にも影響を与えます。特にNADHが関わっている複合体一番の細胞膜にあるSH基とS基の間に水銀が入り込んで、タンパク質の構造を変化させてしまいます。

これらを調べるには、有機酸検査を受けることをお勧めします。有機酸検査の結果から、29番のクエン酸と28番のアコニット酸を比べてみます。クエン酸がアコニット酸に変わるのには、アコニターゼという酵素が必要ですが、このアコニターゼが水銀やヒ素に阻害されてしまいます。アコニット酸よりイソクエン酸が低くなっている場合には、アコニターゼが阻害されていると考えられ、水銀のデトックスが必要だと推測できます。

水銀は硫黄との親和性が非常に高く、硫黄と硫黄の間にあるSS結合の間に水銀が入りこみ、タンパク質の構造全体を狂わせてしまいます。

逆にそれを利用して、硫黄を含んだ食事やサプリメントを使って水銀と結合させて解毒することが可能になります。

下記は、ハル・ハギンス博士の『本当に怖い歯の詰め物』という書籍からの抜粋になります。

  • 85.0% 説明のつかない疲労感
  • 73.3% 説明のつかないいらつき
  • 72.0% 長時間のうつ
  • 67.3% 四肢のしびれ
  • 64.5% 夜間頻尿
  • 62.6% 四肢の冷感(温かい日でも)
  • 60.6% 食後の腹部膨満感
  • 58.0% 記憶障害(物事が思い出せない)
  • 55.5% 突然怒りが込み上げてくる
  • 54.6% 便秘

水銀中毒の症状にはイライラや、うつ、しびれがありますが、一番顕著な症状は疲労感で、これはミトコンドリア機能の低下からきていると考えられます。その原因は他にもあり、尿中のポルフィリン検査からヘムの合成過程が水銀によって妨害されるということがわかります。

ヘモグロビンが合成される過程で、いくつかのポルフィリン経路を経由します。その経路を水銀や鉛、カドミウムが阻害します。水銀が蓄積すると、途中で反応が止まりコプロポルフィリンやプレコプロポルフィリンが増えてしまいます。水銀はヘムの合成を阻害し、貧血を引き起こします。

また、1つの分子につき酸素を4つ結合する分子構造を持つヘモグロビンは、鉄と酸素の親和性よりも鉄と水銀の親和性の方が強いので、一旦そこに水銀がくっつくとなかなか離れません。酸素は肺でくっついて、末梢の臓器で離れることによって循環しますが、ヘモグロビンに水銀がくっついてしまうと使い物にならなくなってしまいます。

赤血球の寿命は120日なので、少なくとも120日間は水銀が結合した赤血球ということになります。実際にこのような状態であってもヘモグロビン自体が少なくなるわけではないので、見た目上は貧血ではなく、むしろ酸素飽和度が低下するために体はもう少し酸素が必要だと判断して造血を行います。その結果、ヘモグロビンの数値が高くなるというのが水銀中毒の人の一般的なデータとなります。このためヘモグロビンの数値より、注目すべきは酸素飽和度となります。ハル・ハギンス博士のデータによると、アマルガム除去をすると酸素飽和度は上昇します。

2. 何を解毒するべきなのか?

1-2. ミトコンドリアを障害するもの

水銀はこのように様々な悪さをして、貧血を起こしたりミトコンドリア機能も障害しますが、実はヒ素もメチル水銀と同様に血液脳関門を通過します。ミトコンドリアがヒ素毒性の重要なターゲットです。ミトコンドリア豊富な臓器である脳は、ミトコンドリア機能に大きく依存していて、ミトコンドリア異常=脳機能低下ということになります。

下記は、ミトコンドリア機能がヒ素の暴露によって低下しているという毛髪検査のレビューです。

ヒ素や水銀が一緒に多く出る場合は、海産物の摂取量が多いと推測できます。脳に蓄積して障害を起こすものは水銀、ヒ素、カビ毒で、ミトコンドリア機能を障害するものは、水銀と重金属ではヒ素です。揮発性毒物のトックス検査をすると、ミトコンドリアのDNAがどれくらい障害されているかを見ることができます。

ミトコンドリアDNAの障害の指標となるのは、チグリルグリシンというトックス検査の一番最後の項目です。もしその数値が上がっていたら、積極的なデトックスをしたほうがいいだろうということになります。日本人の毛髪水銀濃度は、世界中でも飛び抜けて高いですが、その理由は魚が汚染されているからで、世界の水銀の排出量のうち47.4%が東アジアに集中しています。これは火力発電所が沢山あるためで、魚の水銀汚染の主な起源というのは、石炭火力発電所から大気中に排泄された水銀です。

1-3. 内分泌撹乱物質・PMS・乳がん

次にPMSや乳がんを引き起こす内分泌撹乱物質を取り上げます。PMS症候群は、エストロゲンとプロゲステロンのアンバランスにより起こります。内分泌撹乱物質は、一般に環境ホルモンと言われていますが、受容体で結合してホルモンのふりをし、その働きを邪魔して、内分泌の一連の働きを乱す物資のことをいいます。

PCBのようにすでに製造中止になったものもありますが、今話題になってるのはビスフェノールAというプラスチックの原料や、ゴミの焼却の時に排出されるダイオキシン、水銀、鉛、カドミウムです。水銀の論文によると、甲状腺、副腎、卵巣、精巣機能など様々な内分泌臓器に影響を及ぼします。

アンドリュー・カトラー先生の『アマルガムイルネス』によると、甲状腺も副腎も性ホルモンも様々なところの受容体をブロックしたり、ホルモンの分泌を障害したりしますが、甲状腺の場合は、TSHの分泌、甲状腺の受容体、T 4から T 3への変換も全て阻害してしまいます。つまり甲状腺機能の低下があったら、水銀の害を考えた方が良いでしょう。

女性ホルモンには悪玉と善玉と言われるものがありますが、善玉が2-ヒドロキシエストロン(2-OHE1)で、悪玉が16-ヒドロキシエストロン(16a-OHE1)です。外因性の環境ホルモンや、ホルモン補充療法で使われるホルモンの原料は馬の尿ですが、これはバイオアイデンティカルではないので、人間のホルモンと違い代謝がゆっくりです。女性ホルモンの薬はすぐに代謝されないように作られているので、エストロゲンもプロゲストロンも体内に長く留まります。

ピルを飲むと99%の確率で排卵させない分体内に長く留まるので、発癌リスクも高まります。それに比べて天然のホルモンは、半減期が短いバイオアイデンティカルのため代謝されやすいです。天然のホルモンは効きを良くするために、経口ではなく経皮でゆっくり補充します。善玉のエストロゲンを増やすためには、DIM、インドール-3-酢酸、アマニ油、ブロッコリを摂ると良いです。

腸内環境への影響もあり、水銀は消化酵素のDPPⅣを阻害するため、グルテン・カゼインの分解が悪くなり、カンジダの悪性度を増します。水銀が蓄積しているとカンジダが増殖形態になりやすいので、私はカンジダを除菌した後は、ほぼ全員の人に水銀のデトックスを勧めています。

水銀の種類には、金属水銀、有機水銀と無機水銀の3つがあります。

金属水銀はアマルガムの他に、アフリカなどの採掘所では金属水銀の塊を使って金をろ過します。これらの金属水銀は蒸発して蒸気水銀になるため、採掘所で働く子供が水銀中毒になる問題を抱えています。

水銀の種類

左の図は、カルガリー大学の実験でアマルガムを擦って、水銀蒸気を出させる実験です。

このような金属水銀は簡単な刺激によって蒸発します。蒸気水銀になると吸入して肺から入り、脳に行ったところで酸化して蓄積し、脳から出られなくなってしまいます。水銀の中で害になるのは、この蒸発する金属水銀と、有機水銀です。メチル水銀はシステインと結合すると腸管から吸収され、 blood-brain barrier, BBB(血液脳関門)を通過して脳に届きます。

1-4. アマルガムを知らない人のために

  • 水銀を多く(50%)含む歯科材料。
  • 加工が容易で丈夫なため、20世紀を中心に歯の詰め物として使われてきた。
  • 水銀の害が知られ、今ではあまり使われなくなったが、2016年4月まで日本政府公認の治療材料。

アマルガムは水銀を多く含む歯科材料です。加工が容易で丈夫なので、20世紀を中心に歯の詰め物として使われてきました。殺菌作用が強く長持ちするため、水銀の害を除けば歯科材料としては最適です。『乳歯のアマルガム修復』という50年くらい前の本によると、当時は乳幼児にも積極的にアマルガムが使われていました。

今は保険適用外ですが、2016年までは日本政府公認の歯科材料として使われていました。とても便利なため、いまだに自費診療で使用している歯科医師もいます。日本人の場合は、水銀の源の大半は、魚か歯だと言われています。この二つの暴露源がないかをチェックし、もしあればそれを避けることが大切になります。

アマルガムは無機水銀のため、BBB(血液脳関門)を通過せず、脂肪に移行しないので安全であるというのがアメリカの歯科学会の主張ですが、実際には無機水銀は口腔内や腸内でメチル化するので、BBBを通過します。アマルガムは蒸発して肺から吸入し、目や脳、神経、肺、そして血中で酸化したものが口の中から胃腸を通過後にメチル化して胎盤、内分泌、細胞膜にも届きます。

1-5. 腸への影響

上記はハル・ハギンス先生に頂いたポスターで、どの水銀が体のどこに影響してるかという図です。左から金属水銀、イオン化している無機水銀、メチル水銀ですが、この金属水銀とか無機水銀に比べて、メチル水銀の人は頭がぼやっとしていて、ブレインフォグを起こしてます。手と足に痺れがあることからみても、BBBを通過してCentral nervous system(中枢神経系)、免疫系、生殖器系にも影響を及ぼしていることがわかります。

水銀蒸気は血液脳関門を通過し、無機水銀は通過しないので安全と言われていますが、メチル化して全てのバリアを通過し、胎盤を通過するので、母親が水銀に暴露していると子供の毛髪にも水銀が検出されます。そして内分泌かく乱も引き起こすので、どれだけ排泄できているかということがすごく大事になってきます。

1-6. アマルガムの水銀分布

上記は歯にアマルガムがある人の体内の水銀分布図です。

Tooth alveolar bone(歯槽骨)と、Gum mucosa(歯肉)の水銀濃度が高いのは当然ですが、胃の濃度が非常に高いことから、水銀が体内にも影響を与えていることが分かります。そして便中の濃度や、腎臓と肝臓という排泄機関の濃度も高いです。胃腸の濃度が高いことから、腸内細菌に影響を及ぼしていることも想像に難くないです。

アマルガムや魚の水銀はもともとメチル水銀です。

メチル水銀というのは、システインという必須アミノ酸と結合すると、メチオニンと同じく腸管から100%吸収されます。メチル水銀はデトックスで胆汁排泄されますが、胆汁から排出されたメチル水銀はメチオニンと間違えられて再度吸収されるので腸管循環を繰り返してしまいます。つまりデトックスは腸管循環を少なくして、便中にいかにメチル水銀を排出させるかということがポイントになります。

ハル・ハギンス先生のセミナーでは、アマルガムが開発されてから ALS(筋萎縮性側索硬化症)の発症率が異常に上昇しているというデータや、1832年にアマルガムがフランスで発明されてからしばらくして白血病の発症率も増えてきたというお話しがありました。

Multiple sclerosis(多発性硬化症)の発症率は、特に毒性が高いアマルガムが発明された1976年以降に、急に発症率が上がっているという話もありました。水銀は骨髄の中に入り込みやすいため、骨髄の免疫を壊して自己免疫疾患や白血病が発症しやすくなるのだろうとのことでした。

2. 溜まっているものを知る方法

体内に何がどのくらい溜まっているのかを、どのように調べるかということをお話しします。毛髪で水銀レベルを見るというのは、恐らくイラクで1971年に起こった水銀中毒事故のデータをベースにしていると思います。

  • 農薬のメチル水銀を使った小麦で作ったパン
  • 6,500人が水銀中毒
  • 血液、毛髪中水銀レベルデータが多数残っている
  • 毛髪中水銀レベルは血中の250倍

血中の水銀レベルは半減期が短く、暴露して3日もすると測定感度以下になってしまいますが、毛髪中の水銀のレベルは血中レベルの250倍ありました。

内閣府の食品安全委員会の資料によれば、例のイラクの事故を分析すると、母親の毛髪中の水銀モードが上がれば上がるほど、子供への発達の影響があるということがわかります。

母親の毛髪中の水銀モードが10〜20ppmを超えると胎児に影響があったため、それをもとに国立水俣病の胎児に影響を与える母親の最小値が11ppmとみなされました。このイラクの暴露事故から計算して、耐容摂取量、つまりこれを超えない限り影響はないと考えられる摂取量が5ppmに設定されたのです。

2-1. 45歳副腎疲労の女性

唾液中コルチゾールからは完全に副腎疲労と思われる45才女性の毛髪検査をしたら、1.1 ppmしか水銀が検出されませんでした。厚労省の設定した耐容摂取量5ppmの1/5だから全く問題はないだろうと考えがちですが、実際には歯の中に9本のアマルガムがあったので、水銀の暴露量は非常に多いと言えます。

水銀にこれだけ暴露しているのにかかわらず、毛髪から1.1ppmしか出ないということは、水銀の排泄の障害があると考えられます。水俣病のように大量の暴露をしたら、さすがに毛髪に出るとは思いますが、中には排出できない人がいるということが問題なのです。

実際に上記左側の34歳の慢性疲労の人は、アマルガムが歯の中にあって水銀が10ppm出ているので、明らかに水銀中毒です。ただ逆の見方をすれば、この人は水銀の排泄能力が保たれているということです。毛髪中の水銀濃度というのは、有機水銀メチル水銀の排泄能力とイコールだと考えていいと思います。実際、この方はアマルガムを除去したら元気になりました。それに対して右側の45歳の方は、アマルガムが何本も入っているにもかかわらず、水銀濃度が1.1ppmしかないということは、排泄能力が低下しているため、アマルガムを除去しても疲れが取れませんでした。

宮澤医院の150人の副腎疲労の患者さんを、アンドラー・カトラー博士が開発したカウンティングルールに基づいて調べたら、56%の人はミネラルの輸送障害がありました。

           軽症      中等症        重症
ミネラル輸送障害   なし      なし         あり
水銀レベル      低い      高い         低い
備考         問題なし   排泄機能は正常    排泄機能
                  症状ない人もいる   に異常がある
副腎疲労と水銀

副腎疲労の人は水銀を排泄する力が弱いため、ミトコンドリア機能が低下していることが多いです。残り半分の人は水銀レベルがとても高く、水銀の害が全くないと思われるような人は1%しかいなかったです。調べてみたら皆ことごとく水銀だったので、疲れている人はやっぱり水銀レベルを見た方がいいだろうと私は思っています。

2-2. 自閉症児の毛髪分析

自閉症の子供に関しては、水銀のレベルは低ければ低いほど重症です。

  • 94人の自閉症児と年齢、性別をマッチさせた45人の対照児の毛髪分析を行った。
  • 自閉症群の母親は対照群の母親に比べて免疫グロブリン注射や歯科アマルガムなどによって顕著に高レベルの水銀暴露歴があったにもかかわらず、自閉症群の毛髪からの排泄パターンは対照群に比べて明らかに減少していた。
  • 自閉症群では、毛髪の水銀レベルは症状の重症度が高いほど少なかった。
  • 対照群の毛髪水銀レベルは顕著に母親のアマルガムの個数と魚の摂取量、そして小児期のワクチン接種と相関していた。
  • この相関は自閉症群には見られなかった。
  • 自閉症の子供の毛髪からの水銀排泄はそうでない子供に比べて明らかに少なかった
  • Int J Toxicol. 2003 Jul-Aug;22(4):277-85. Reduced levels of mercury in first baby haircuts of autistic children.

なぜならば毛髪検査というのは蓄積量ではなくて排泄量をみるものだからです。母親の歯にアマルガムがあったり、高レベルの水銀の暴露歴があるにも関わらず、自閉症の子供からは毛髪中の水銀が出ませんでした。お子さんの場合は母親の暴露歴も聞いてください。メチル水銀は胎盤を通過します。

デトックスのために何か特別な治療をやらなければいけないのかというと、必ずしもそういうわけではありません。人間はもともと水銀を排泄する力があります。水銀の生物学的半減期、つまり体の中にある水銀が半分になるまでの期間は、50〜60日です。そのため正常な排泄する力を持っている人でしたら、魚を食べなければ150日あれば水銀は体から排泄されます。

文献検体    暴露物   半減期(日)
Miettinen et al.(1971)水銀/血液メチル水銀49.8
l-Shahristani and Shihab (1974)水銀/血液穀物中メチル水銀(Total) 72 (35–120),
(90%) 65 (35–100)
Kershaw et al.(1980)水銀/血液魚 (20 µg Hg/kg bw)52
Sherlock et al.(1984)水銀/血液水銀濃縮された魚、3か月50
Smith et al.(1994)メチル水銀/血液メチル水銀44.8 (35.1–52.8)
Albert et al.(2010)水銀/血液海産物65.4
Yaginuma-Sakurai et al.(2012)水銀/血液・毛髪魚(3.4 µg/kg/week)血液; 94 (58–155),
毛髪; 102 (60–192)
水銀の半減期には個人差がある

水銀を出す力には個人差があります。

平均は70日ぐらいですが、40日の人もいるし、100日の人もいます。100日以上かかる人はものすごくスローメタボライザーで代謝が遅いので、暴露量が微量でも体内に溜まってしまいます。そのような人は、デトックス体質になるかデトックス治療をしないと水銀の有害性が出てくる可能性があります。そこを見極めるために検査するわけです。

2-3. 人の解毒のしくみ

人の解毒は3段階になっています。

Phase1・2・3となっていて、Phase1は「活性化」、Phase2は「抱合」と言って、グルタチオン、グルクロン酸、硫酸などによる抱き合わせによって、細胞の外に出る準備をします。MRP1輸送隊という受容体を通って細胞の中から外に出て行きます。

その先のPhase3は「輸送」です。輸送の際、無機水銀は水溶性なので腎臓を通って尿へ、そして有機水銀の場合は、脂溶性のため肝臓を通って胆汁から便へ排泄されることになります。

何がどれぐらい溜まっていて、どれぐらいの排泄能力があるかを見ることが大切で、溜まっている量を見るのはオリゴスキャン、排泄能力を見るのは毛髪検査や尿検査が良いです。

腎臓からの排泄量は尿検査で直接分かりますが、胆汁からの便排泄の量というのは、直接見にくいのでメチル水銀を排泄している毛髪検査で代用します。毛髪はシステインを含んでいるため、メチル水銀がシステインと結合して肝臓の胆汁排泄を代表する代わりになるのが毛髪検査と言われています。

つまりオリゴスキャンでは蓄積量と対処法。そして毛髪ミネラル検査では排泄量と「カウンティングルール」で主に把握することができます。

蓄積量と対処法                       排泄量

水銀が元々体内にないのか、排泄できずに低いのか、それを見分けるのが「カウンティングルール」です。水銀レベルからではなく、ミネラルのバランスから判断します。

 ミネラル輸送障害なし                         ミネラル輸送障害あり

ミネラルバランスが左の表のようではなく、真ん中や右側のように、左側や右側に偏りすぎてる場合、ミネラルの輸送障害が考えられます。ミネラルの輸送障害があるということは、水銀が溜まっているということを示唆します。これがカウンティングルールと言って、アンドリュー・カトラー先生の本に書いてあることですが、今のところエビデンスはほとんどありません。

ただ、他のアメリカの代替療法のセミナーでも、このカウンティングルールを使っていて、毛髪検査だけで水銀の蓄積量を完全に推定するのは不確定なので、オリゴスキャンで俯瞰するのが有力な方法じゃないかと考えています。実際に治療をすると、このミネラルバランスが戻ってくる人が多いので、治療経過としても使えると思います。先ほどの48歳の慢性疲労の女性のように、ミネラルのバランスが崩れている場合、水銀をある程度出すと症状も良くなりミネラルバランスが改善します。

水銀レベルを0にすることはできないので、どこまでデトックスを続けるかについては、ミネラルのバランスを取り戻すまでを治療期間にして、その後は自然デトックス、例えばサウナや運動に切り替えるようにしてもらっています。できればオリゴスキャンをしてご自分の毛髪検査と比べてみるといいと思います。排泄障害がない場合、排泄量と蓄積量は反比例していることが多いです。

2-4. 48歳女性 慢性疲労

この方の場合はミネラルの輸送障害がないので、例えばヒ素が多く出ている場合、ヒ素の溜まりは少ないといえます。オリゴスキャンの良い点は、Phase2とPhase3が働いているかを見る指標にもなってくれることです。酸化ストレスがあるかどうかは、Phase2がうまく働いているかどうかを見る指標となります。Phase2のセンターピンは細胞内グルタチオン濃度です。細胞内のグルタチオン濃度を保つためには、抗酸化力がとても重要です。有機酸検査のグルタチオン濃度がきちんと働いているかどうかをみるためには58番、59番に注目します。水銀は硫黄と結合することによって、体外に排出されやすくなるので、オリゴスキャンで硫黄との結合性をみてPhase3の輸送の評価もできます。

グルタチオン濃度を詳しく見たのが上記です。グルタチオンの指標物質の58番ピログルタミン酸は、グルタチオンの欠乏で上昇します。59番の2-ヒドロキシ酪酸は、このメチレーション回路が働いてグルタチオンが出来る時に副産物としてできるので、これが上昇していたら解毒回路が働いているということが分かります。つまり解毒で体内が忙しい時には、59番が上昇するということです。

この2つの上昇でグルタチオン不足だと急いでグルタチオンを補充するのではなく、まずは原因追及をして、なぜグルタチオンが足りないのか、なぜ解毒で忙しくなっているのかを突き止めることが大切です。そうしないといくらサプリがあっても足りなくなります。特に炎症があると、グルタチオンは全部使われてしまいます。

Phase1から3は、オリゴスキャン、毛髪ミネラル検査、血液検査などを見て把握してください。自分のどこが詰まっているのかを解明して、そこをターゲットにアプローチしていくのが正しいデトックス法です。

5. どうやって解毒していくか〜人の解毒の方法を知る方法

どうやって解毒していくかというと、本来の人間の解毒システムを知ってそれを強化してあげる方法がベストだと思います。

  • 暴露源を除去する
  • 毛髪検査をして特にヒ素・カドミウムが高い人は、水と米を変える
  • カビ毒がある人は、空気清浄機を買う
  • 引っ越しする
  • マグロをサンマにする
  • アマルガムを除去する

胎児に影響を及ぼさない母体中の毛髪水銀濃度は11ppmですが、そこから計算するとどれぐらい水銀を摂取しても大丈夫かという耐容週間摂取量は、2μg/kg/週になります。

普通に魚の摂取をしていると2μgを優に超えてしまいます。食品安全委員会は、マグロの代わりにサンマを食べるとこれを超えずに済むと提唱しています。食物連鎖の上にある魚ほど、水銀が沢山溜まっているので、マグロをサンマに変えるのは意味のあることだと思います。

5-1. キレーション・プロファイル

 Phase1は、シトクロムP450による酸化のことで、つまり活性化のことをいいます。酸化して活性化させて安定化している脂肪の中の毒物を出す準備をすることです。

第1相:シトクロムP450による酸化      第2相:グルタチオン等による抱合

CYP1A1  排ガス
CYP1B1  エストロゲン水酸化
CYP2C19 PPI,抗痙攣薬
CYP2D6  SSRI,抗うつ薬など
CPY3A4  処方薬の50%、ステロイド

Phase2がグルタチオンによる抱合ですが、まず最初に準備することは、暴露物をなくすことなので、マグロをサンマに変えたり、アマルガムを外すことになります。アマルガムは防御しないで外すと、脱力、頭痛、めまい、耳鳴りなどの症状が出ることがあります。特に水銀を排泄する力がない人、カウンティングルールでミネラルの輸送障害がある人は、アマルガムを外す時は気をつけたほうが良いです。アマルガムを削ると大量の水銀が一気に蒸発するため、急性水銀中毒になるからです。刺激なしの時の100倍の水銀の蒸気が脳に行ってしまうため、特にアマルガムが大きい場合はきちんと防御をして除去してくれる所に相談をしましょう。

キレーション療法とは「蟹のはさみ」という意味で、現在色々なクリニックで取り入られている治療法です。金属イオンをはさみこんで結合して、有害物質を体外に排出しやすくする方法です。キレートミネラルというサプリメントが体内に入り込みやすいのは、ミネラルではなくアミノ酸の扱いになるからです。アミノ酸の扱いになると、体の中に入るのも、出すのも容易になります。だからミネラルはキレートとして入れたり、キレートして出したりするのです。

キレートによく使われる薬が、EDTAです。EDTAは、このような形の構造をしているアミノ酸で、中に金属を挟み込むことができます。

EDTAのサプリメントは、経口摂取しても腸管からの吸収が悪いため、点滴で取り込むのが一番です。その代わりEDTAを飲めば、腸管の金属は除去することができます。慢性の副鼻腔炎の患者に使用している経鼻スプレーにはEDTAが入っていますが、これは金属を除去するのと、バイオフィルムを除去するという働きがあるからです。ただし体内には吸収されないので鼻腔や腸管啌などに使い、体内に入れたい場合は点滴をします。

その他、有名なのは DMSAやチオラですが、これの問題点は水銀を吸着することができないことです。水銀以外のカドミウムやアルミニウムは沢山入りますが、水銀をターゲットとして出すためにはSH基やヒドロキシル基を持った薬剤やサプリメントを使います。

DMSAは5年ぐらい前までi herbでも買えたましたが、日本では輸入できなくなりました。現在DMSAは薬剤扱いで、SH基は2つ結合しています。日本で買えるチオラは鉛中毒の薬で、SH基が1つです。これでも水銀も鉛も排出されると思いますが、一部のキレーションドクターの中ではSH基が2つないと水銀との親和性が低くなって途中で離してしまうので、DMSAだけを使う先生もいます。どちらにしても重要なのは血中濃度を保つことで、血中濃度が下がると水銀をキャッチしても途中で離してしまうので、体の中で他の場所に再分布してしまいます。

血中濃度をうまく保てるように、僕の場合はチオラを使うなら3時間おきに5回、1日5回摂ってもらうようにしています。僕の医院では行っていませんが、カトラー先生は、5時間おきに睡眠中も子供を起こしてチオラを摂取させる強行的なプログラムを行なっています。それほど血中濃度を保つことが大切ということになります。こういった薬を組み合わせて、挟み込んでくっつけて外に出す治療をキレーション治療と言いますが、この治療の問題点は、Phase3にしかアプローチできないことです。

5-2. 42才男性 脱力、乾癬

42歳男性

  • 医師
  • ストレスが強い
  • 倦怠感
  • 風邪をひきやすい(2ヶ月に1度)
  • 乾癬(左腕、左大腿部)
  • 不眠

倦怠感、風邪をひきやすく、アマルガムがある方を、 先ほどのEDTAという薬を点滴してキレーション治療をしたところ、鉛は出ましたが水銀はあまり出ませんでした。

Ca-EDTAによる誘発テスト

カルシウム入りEDTAとDMSAの点滴を入れたら、沢山出るようになってかなり頭が冴えるようになりました。このように細胞の外に水銀を出せる人の場合は良くなります。

僕の場合マグロを食べているせいか、毛髪中の水銀濃度がものすごく高いです。ミネラル輸送障害はなかったので、点滴治療で良くなりました。

5-3. 歯科医師 33歳男性

33歳の歯科医師の男性で、疲れやすく、痺れや痒みがある方にはやはり歯にアマルガムがあったのですが、食物アレルギーがあってデトックスしてもあまり上手くいきませんでした。

  • 疲れやすい、手にわずかなしびれ、かゆみ、背部痛、記憶力低下
  • 便の状態が日々変わる(腹部に症状は無い)
  • 現病歴 数年前から疲れやすさと記憶力が低下している感じがでて、
  •  最近わずかに指先がしびれる感じがある。
  • 身長178cm 体重68kg BMI:21.5
  • 筋肉量 標準 体脂肪量 標準
  • 歯科アマルガムあり

ミネラル輸送障害があって、細胞の中から外に出す力がないためPhase3のキレーション治療だけ行ってもうまくいかなかったと考えられます。

卵と乳製品に重度の食物アレルギー
水銀は体内でミネラルの輸送を阻害する

毛髪検査や尿検査でうまく排泄できている人は、必要に応じてキレーション治療を行えば良くなると思いますが、暴露量と排泄量が一致していない人は 、Phase1・2・3の評価をして、この機能を上げてあげるほうが良いだろうということです。

6. 解毒の3Phase

6-1. フェーズ1 活性化(脂肪内で安定化している毒物を刺激する)

上記は僕の遺伝子検査の結果ですが、物事を活性化する酵素というのは半分遺伝子によって決まります。僕の場合はCYP2D6が++になっているので、ここは少し弱いところです。CYP1A2も+/−になっていますが、これはカフェインの解毒に関係しています。もし遺伝子検査をすぐにしたいという方は、ジェネシスと検索してみてください。確か1万5千円くらいだったと思いますけども、唾液の採取で検査できます。結果が分かるのに1ヶ月近くかかりますが、非常に結果が分かりやすいです。

僕の場合は飲酒量が多い、ワインはやや好き、喫煙量は標準というふうに出ています。この飲酒量の有無は、アセトアルデヒド脱水素酵素から推測しているようです。カフェインの消費量は少ない傾向になっていますが、それは僕の場合はCYP1、CYPA2があまり良くないからだと思います。

つまりこの第一相のシトクロムP450対策は何かと言うと、事前に検査をして自分の排泄しづらいものは食べない、入れないということになります。CYPA1Aが排ガス、CYP2D6がSSRIとか抗うつになるので、僕の場合はこの薬は飲まないようにした方が良さそうです。

該当するもの暴露を避けるという意味では、第2相も同じです。エストロゲンの代謝はCOMTです。このCOMTの補酵素がビタミンB6です。COMTがある人はエストロゲンの暴露を避けると良いと思います。

また、グルタチオンは「抱合」といって、毒物と抱き合わせますが、そのための酵素がグルタチオンSトランスフェラーゼ(GST)です。スニップ(一塩基多型)があったら解毒しづらいということです。同じようにグルタチオンは活性酸素があると働かないので、 SODスーパーオキサイドディスムターゼという酸化ストレスを中和してくれるところにスニップがあるかどうかを見ると良いと思います。

ジェノバ社のデトックスプロファイルは値段が高いのであまりお勧めしませんが、一生に一度と思って検査しておいても良いかもしれません。何が溜まりやすいか分かるので、該当するものを下げられます。

6-2. フェーズ2 抱合水溶性物質と抱き合わせて排出の準備をする

Phas1を処置したら、次はPhase2(抱合)です。Phase2のポイントは、グルタチオンです。

グルタチオンというのは、アミノ酸(グルタミン酸、システイン、グリシン)からなるトリペプチドで、抗酸化と抱合の二つの役割をしています。どちらの役割が高いかと言うと抗酸化です。細胞内濃度が極めて高く、細胞内の酸化還元環境を維持しているトップはグルタチオンです。グルタチオン濃度をいかに保つかということが、全てと言ってもいいと思います。

細胞中の還元型と酸化型グルタチオンの比率が、細胞毒性の評価の指標です。還元型と酸化型グルタチオンが混在していますが、98%以上が還元型として存在しているので、このバランスが狂っているとまずいです。酸化されてもすぐにナイアシンによって還元されます。Phase2のセンターピンは細胞内グルタチオン濃度を適切に保つことです。センターピンというのはボーリングの一番前のピンのことで、そこを倒せば全部残りの9本も倒れます。

グルタチオンが活性酸素H2O2を組み合わせると、酸化されて水ができます。

上記の下の式が酸化型グルタチオンですが、これはナイアシンによってまた元のグルタチオンに戻してくれます。この抗酸化の働きをするためには、グルタチオンペルオキシダーゼという反応を触媒するものが必要で、ペルオキシダーゼの活性中心が有名なセレンです。

先ほどのオリゴスキャンにPhase2の抗酸化力とありましたが、抗酸化力が何故ミネラルの測定で分かるかというと、グルタチオンペルオキシダーゼの活性中心のセレンを測定しているからです。セレン、マンガン、亜鉛などが、高酸化酵素の活性化中心として必要で、ミネラルは抗酸化力の維持に関わっています。

メチレーション検査

細胞内グルタチオン濃度を測定するのは難しいので、血漿中のグルタチオン濃度を調べようというのがこのメチレーション検査です。メチレーション回路が回ると、体内で適切にグルタチオンが産生されます。このメチレーション検査では、グルタチオンの中でも酸化型と還元型のグルタチオン濃度を測ることができます。

上記はHDRI社のメチレーション検査です。この方の場合、酸化型(oxisidised)グルタチオンは基準範囲内ですが、還元型(reduced)グルタチオン濃度がちょっと低めなので、抗酸化能力が少し低くなっていて、恐らくメチレーション回路がうまく回ってないからだろうというのが分かります。

6-3. グルクロン酸抱合

グルタチオン以外にもグルクロン酸抱合や硫酸抱合などがあり、グルクロン酸はOHが沢山あるため水溶性だということが分かります。

  • 種々の薬物、ビリルビン,ステロイドホルモンなどは生体内に滞留すると発ガン・神経障害 ・内分泌障害など重篤な疾病をひき起こす。
  • 一般に、これらの難水溶性物質 は肝臓にあるUDP-グルクロン酸転移酵素 (UGT) によって、グルクロン酸が付加され水溶性のグルクロナイドに変換される。
  • 水溶性になった薬物は細胞外に輸送され、血流にのって腎臓で濾過され尿中に排泄される。一方、ビリルビンのグルクロン酸抱合体は胆汁中に排泄される。このグルクロン酸抱合反応は、上記物質の生体内解毒反応の主役である。

抱合というのは水溶性にして外に出させるようにすることです。ビリルビン、ステロイドホルモンなど一部の薬は、グルクロン酸抱合でPhase2を引き起こします。このグルクロン酸抱合を起こすUDPグルクロノシルトランスフェラーゼ(UGT)を活性化するのが、ブロッコリースプラウトです。

スルフォラファンを摂取したら、ビリルビンやモルヒネを活性化して解毒が進むので、スルフォラファンを摂取したら自閉症のお子さんの症状が改善したというデータがあります。

6-4. グルタチオンを増やす方法

  • サプリで増やす(トリペプチドで分解されやすいので、リポソーム・タイプのものが細胞膜を通過して細胞内に入ることができる)
  • メチレーション回路を回す(体内のグルタチオン濃度を保つ)
  • 炎症を取る
  • 抗酸化サプリを摂る(ビタミンCを沢山摂ることで、抗酸化をビタミン C に任せ、グルタチオンを温存することができる)

5年前にハル・ハギンス先生を訪ねた時に伺ったのですが、実は先生がコロラドに行った理由は、コロラド州は比較的医療に関して寛容だからだそうです。6年前にすでにコロラド州とニューヨーク州では医療大麻が解禁されていました。医療大麻は、小児のてんかんに限って使用が認められたのですが、アマルガムを除去したり、水銀をデトックスするというのは、異端の医療で他で禁止されていて、先生も歯科免許を一回剥奪されたことがあるそうです。

そのため一時期はサン・ディエゴに住んで、オフィスはメキシコにおいて、話を聞くのはサンディエゴで、治療はアメリカでなくメキシコでやってたりしたそうです。今はさすがにもう大丈夫だと思いますが、栄養療法の最先端のことをやっている人は、迫害されたりすることはよくあります。

先生によると、アマルガムを取って良くなる人とそうじゃない人の違いは、アポリポ蛋白E のアイソザイムの違いだろうとおっしゃっていました。ApoE4が1つもない人に比べて、ApoE4が1つある人は、炎症促進してアルツハイマーになりやすいです。

ApoE4がひとつもない人のアルツハイマーの発症率が9%に比べて、ApoE4がひとつだと30%、ApoE4が2つ以上だと50%以上になります。

このApoE対策も抗酸化です。グルタチオンを摂るのに先駆けて、ビタミンCやビタミンEを摂ることによって、ApoE4を持っていても発症のリスクを抑えられるので、十分調べる価値がある検査だと思います。

このような人は、脳の抗酸化であるフェルガードや、リポゾームのビタミンCを摂ることをお勧めします。

phase2の細胞内グルタチオン濃度を上げるため、抗酸化はデトックス治療の一部です。細胞内グルタチオン濃度上げる方法をまとめると、まず暴露量を減らすこと。DMSAなどは細胞外液の水溶性分画にしか作用しないのでまず炎症を止めること、抗酸化治療をすること、そしてメチレーション回路を回すことです。自閉症の治療をするアメリカのDAN!という組織が、このプロトコールを推奨しています。

6-5. フェーズ3 排細胞内から細胞外へ肝・腎を経由して対外へ

Phase3は Phase 2に先駆けて行ってください。便秘をしないこと、そして腸管循環を抑制するために水溶性食物繊維を摂ること、キレーションもこのPhase3に入ります。細胞の中から外に出すためのMRP 蛋白を活性化してあげること、あとはメタロチオネインというカドミウムをくっつける蛋白を作るのもPhase3の要素の一つになります。

MRPタンパク質というのは細胞の外から中に変な化合物が入ってきた場合に大きく口を開けて、排出させる蛋白のことです。 Multi-drug resistance; MDR蛋白、つまり薬が入ってきて排出させるタンパクで、抗がん剤が効かないのはこのMRPたんぱく質が原因ということで、現在研究されています。デトックスの場合、MRPたんぱく質を活性化させなければいけないのですが、抗癌剤を効かせるためにはこの MRPタンパク質を阻害しなければならないので、その阻害剤というのが研究されているわけです。

デトックス目的の場合は、このMRPタンパク質を活性化させることですが、そもそもデトックスをすると疲れる理由は、ATPを消費するからです。ファスティングのメリットは、消化に使うATPを全部デトックスに回せることです。デトックスをすると次の日尿が濃いのは、MRP蛋白質がきちんと働けるからです。メチル水銀の排泄経路は90%は胆汁排泄で腸から出ますから、便秘をしないことです。

6-6. メタロチオネイン

メタロチオネインとは、重金属(特に銅、カドミウム、水銀)を結合するタンパク質のことで、これは亜鉛を摂ることで生成されます。

結合力  Zn < Cd < Cu< Hg Ag
亜鉛刺激で作られ、カドミウムがあれば入れ替わる
システイン摂取の必要性

ウィリアム・ウオルシュは、このメタロチオネインをプロモーションする治療を推奨していて、それはアミノ酸と亜鉛を摂ることです。そこで重要になってくるのが、亜鉛の血中濃度です。メタロチオネインを作るためには、亜鉛の血中濃度を100μgに上げることをウオルシュ博士は推奨しています。

6-7. 亜鉛の使用量

どれぐらい亜鉛を摂れば100μgになるかというと、下記の9パーセントルールを使用してください。

亜鉛摂取量を2倍にすると血清/血漿亜鉛状態が9%上昇した

9%ルールというのは、亜鉛を摂る量を2倍にすると、亜鉛の血中濃度が9%上昇するということです。これを計算するとどれくらい亜鉛を摂ったら血中濃度が100になるかが分かります。例えば血中濃度が70の人は、食事からの亜鉛が10mgとすると、亜鉛を150mg摂らなければいけないことになります。

150mgというのは食事で摂るととてつもない量ですが、普通の薬では150mgなので、このような目的によっては使用するのが良いです。ただ亜鉛を100mg以上摂る場合は、特に銅の欠乏が問題になります。銅は成長に必要なので、多すぎても少なすぎても問題です。亜鉛と銅はブラザーイオンなので亜鉛を沢山摂る場合は、血中濃度をモニタリングしながら専門家のもとで行ってください。

デトックスというのは、特に脂溶性のものは抱合して、胆汁から排泄させるもの、肝機能を高めるミルクシスルとかリポゾマルグルタチオン、還元型グルタチオン、ウルソや、タチオンとか使うのもいいでしょう。

そして出てきた毒素をキャッチして、再吸収による腸管循環を防ぐためには、クロレラやクレメジンのような活性炭の薬を使うのもいいでしょう。これら2つをうまく組み合わせることで、自然デトックスのPhase2とPhase3をコントロールすることができます。

炎症→腸→デトックス

まず炎症を取ること、そして腸内環境を改善して除菌をすること。その後にデトックスをすると良いでしょう。

7. デトックスのセンターピンは

最後にデトックスのセンターピン(物事の本質を見つけること)は何かというと、

根本原因ピラミッドPhase1というのは自分の排泄しにくいものを避けることです。そしてPhase2は、細胞内グルタチオン濃度を上げること、そして炎症を抑えること。Phase3は腸内環境を改善して腸管循環を抑えること、そしてミトコンドリア機能を改善することです。根本原因の色々な物を超えたアプローチをして、炎症、腸内環境、エネルギーを総合的に見ることが、結果としてデトックスになるということが分かります。

詳しくは与沢翼さんの『ブチ抜く力』という本を読んでみてください。この本には、センターピンを1つに絞ること、そして選択と集中をして、やり遂げることが重要とあります。理論が分かってもなかなか実行できないので、とにかく1つやることを絞って、最低3週間続けてみることです。3週間続けると習慣化するからです。

この与沢翼さんは、秒速で1億稼ぐと言われながらも破産して、マレーシアで投資に成功して今億万長者になった人ですけど、億万長者になって暇になったので生命保険に入ろうとしたのですが、太り過ぎという理由で生命保険から拒否されたそうですが、お金の事になるとモチベーションが上がって、2ヶ月で10 kg 減量に成功したそうです。

ダイエットのセンターピンは「食べないで鬼動くこと」と書いてありますけども、このダイエットの仕方は人をよほど選ぶので、ここだけは真似しないようにしてください。他はすごく参考になると思います。

デトックスのポイントは腸内環境改善とグルタチオンの使い方

宮澤賢史 · 2021年7月4日 ·

今回は、デトックスの中級編です。デトックス治療をするときの重要なポイントは共通しているので、デトックスのボトルネックをいかにして克服するかが大切になります。

1. 低血糖とミトコンドリア対策

1-1. Dr Kalishのmethod

機能性医学の権威、ダニエル・カリッシュ先生は、医療コンサルタントと栄養療法の講師をしています。彼曰く、患者さんが検査や治療に消極的なのは説明が悪いのが原因だそうです。患者にきちんと説明ができていないから、セールスにつながらない。つまり、売り上げというのは自分の技量の結果そのものなんですね。

さて、カリッシュ先生はいつも僕が解説している根本治療ピラミッドに似た概念を提唱しています。彼の治療ピラミッドは大きく、神経内分泌、消化器、デトックスの3つから成り立っています。

  • 神経内分泌 1.糖質代謝 2.エネルギー産生 3.神経伝達物質代謝
  • 消化器     4.バクテリア、クロストリジウム、イースト除菌
  • デトックス    5.デトックス 6.酸化 7.メチレーション

神経内分泌の1番の糖質代謝とは、低血糖を治すということです。2番目のエネルギー産生はミトコンドリア機能を上げること、3番目は神経伝達物質代謝で、アドレナリンの過剰分泌があるとデトックス効率が落ちるので、全て整えてからデトックスした方が良いということです。

デトックス治療が上手くいくかどうかは、環境を整えられるかどうかにかかっています。肝臓がデトックスの要なので、肝臓の機能が上がると、デトックス治療をしなくても自然に毒が排出されます。

1-2.遺伝子よりも症状が大切

メチレーションの大家のベン・リンチ博士も、メチレーションは最後にケアすべきと言います。「DIRTY GENES」という著書の中で、「いくら遺伝子解析をしても、遺伝子が環境によって汚されると思うようにタンパク質を発現できない。そのため治療すべきターゲットは、遺伝形式ではなくて実際の表現型だ」と言っています。遺伝子検査の結果に一喜一憂せず、実際の症状に目を向けましょう。

1-3. 低血糖とミトコンドリア対策

一番最初に取り組むべきは低血糖のケアです。低血糖があると、エネルギーの供給障害でミトコンドリア機能低下に直結します。糖質代謝がうまくいかないとエネルギー(ATP)産生もできなくなります。肝臓はエネルギーを大量に消費するので、ミトコンドリア機能低下=肝機能低下ということになります。

肝機能低下を表す代表的な数字が、ASTとALTです。両者は、アラニン経路の酵素なので、これらの数値が低いということはアラニン経路が異常に活性化されて、低血糖の代償が行われているということです。いくらビタミンB6を摂ってもASTとALTが上がってこない方は、糖質のエネルギーがうまく供給されないので、アミノ酸が異化されていきます。夜間低血糖を起こす人は、眠りが浅く、筋肉が緊張しているため、朝から肩が凝っています。プロテインを摂っていても、タンパク異化を起こして筋肉がどんどん痩せていきます。

人間は本来、血糖値を維持するためにグリコーゲンを蓄積することができますが、肝臓には500kcal分しか貯蔵することができません。そのため筋肉の1500kcal分のグリコーゲンを間接的に使うべくアラニン回路が働きます。低血糖を頻発する人はアラニン回路が過剰に亢進しているので、筋肉がどんどん分解されます。肝臓のグリコーゲンの分解刺激はグルカゴンですが、筋肉のグリコーゲンの分解刺激はコルチゾールとアドレナリンなので、低血糖を頻発してる人はこれらが過剰となります。

だから、補食をしたり、薬で副腎のケアをして低血糖を落ち着かせて、ミトコンドリア機能を安定させることがデトックスの最初の一歩なのです。そのあとに消化器のディスバイオシス、それからリーキーガットを治すという順序になります。

2. 腸内環境を整え肝臓の炎症を抑える

デトックスの第二のボトルネックは、肝臓の炎症です。炎症がデトックスの第二段階の抱合に必要なグルタチオンを無駄遣いしてしまうし、肝臓の炎症があると胆汁がうまく分泌できなくなります。肝臓の炎症は様々な要因で起こりますが、一番の要因は腸です。

2-1.ストレス、ディスバイオーシスとLPS

ストレスが腸の透過性を亢進することは昔から知られていました。これは1996年の論文で心臓手術を受けている患者にリーキーガットが多いことを示すものです。

バイパス手術を受けている患者はリーキーガットを引き起こしている
Intestinal permeability, gastric intramucosal pH, and systemic endotoxemia in patients undergoing cardiopulmonary bypass
JAMA 1996 Apr 3;275(13):1007-12.

ストレスは、炎症、リーキーガットを引き起こします。リーキーガットになれば未消化のタンパクや腸管の病原菌、ウイルスなど様々なものが血中を経由して肝臓に到達します。リーキーガットと肝臓の炎症には密接な関連がありそうです。

SIBOと脂肪肝に有意な関連性
Small intestinal bacterial overgrowth and nonalcoholic fatty liver disease: a systematic review and meta-analysis
Eur J Gastroenterol Hepatol2020 May;32(5):601-608. 

腸内細菌のバランスが悪い人は炎症体質です。ディスバイオーシスとは、腸内細菌の多様性が失われている状態のことを指します。腸内細菌の数と種類が減ることで、悪性のグラム陰性桿菌の割合が増えて、その細胞壁の成分であるLPS(リポポリサッカライド)からエンドトキシンが分泌されて体の内外に炎症を引き起こします。

糖尿病性腎症の患者は、腸内細菌バランスが悪く、炎症レベルが高い
Dysbiosis of Gram-negative gut microbiota and the associated serum lipopolysaccharide exacerbates inflammation in type 2 diabetic patients with chronic kidney disease
Exp Ther Med. 2019 Nov; 18(5): 3461–3469.Published online 2019 Aug

2-2. LPSがMRPを抑制する

この全身に炎症を引き起こすLPSですが、実は解毒にも重大な悪影響を及ぼすことがわかっています。LPSは、肝臓に炎症を引き起こして肝機能を止め、細胞の外から入ってきた異物を捕まえて外に排出する多剤耐性タンパク(multi-drug resistance Protein ; MDP)の機能低下を引き起こします。

抗がん剤が効かない一番の理由がこのMRPタンパク質なので、近年非常に研究されています。細胞には元々異物を排出する仕組みが備わっているため、抗がん剤を大量に使っている人たちに対して、MRPをいかに阻害するかという薬を開発しています。デトックスをする人の場合、このMRPを逆に活性化するということが大切になってきます。

細胞内から細胞外に薬物を排出するためには、この図にあるように大量なエネルギーが必要です。細胞が活性化するためにミトコンドリア機能を上げる必要がありますが、このMRPが阻害される原因はLPSです。エンドトキシンは、第二相・第三相の解毒ともに阻害するので、腸内環境が悪い人は解毒ができません。まず腸を治すために、食事を変えて、ストレスを減らしてください。

さらに悪いことに、エンドトキシンは胆汁の流れを劇的に減少させます。胆汁は下記のように様々な機能を持っています。

  • 脂肪の消化
  • 解毒
  • 抗菌
  • 甲状腺ホルモン活性化(+胆汁が脂肪を分解して体が活発な甲状腺ホルモンを作るのを助ける)

胆汁が分泌されないと、脂溶性ビタミンも吸収できず、メチル水銀、農薬、マイコトキシン脂溶性などの毒物が解毒できず、甲状腺ホルモンの活性化も妨げられます。

マウスに胆汁を投与すると、褐色脂肪組織のエネルギー消費が増加して肥満とインスリン抵抗性が予防されます。胆汁は単なる消化液ではありません。油ものを食べると胃がもたれるという人は、解毒もできず、腸内の抗菌活性も保たれていないのでSIBOも起きやすく、甲状腺機能も低下していると思われます。

2-3. 胆汁分泌不全の兆候

Dr.サンドラ・カボットが、サイロイドと、リバーディスファンクションの関係の本を沢山出版されていますが、甲状腺機能低下の患者さんの半数以上は胆汁分泌に障害を持っているとおっしゃっています。

胆汁分泌が低下して出る症状は、下記の通りです。

  • 肩甲骨の間または胸郭の下の痛み
  • 明るい色または灰色の便
  • めまい
  • 脂肪の多い食事後の膨満感
  • 不眠症
  • 乾燥肌
  • 脱毛

ビタミンDのサプリメントを摂っているのにビタミンDの血中濃度が上がらない人も、一度胆汁分泌ができているかどうかを確かめてみると良いと思います。甲状腺機能の低下に関連した脱毛もあります。胆汁分泌不全の原因は、肝機能障害も然り、化学物質の曝露による毒素の蓄積や、ストレスホルモンであるコルチゾールの過多が胆汁分泌を妨げます。胆汁分泌も胃と同じように副交感神経支配だからです。

副交感神経の迷走神経は枝分かれしていて胃と胆のうに伸びているため、緊張すると胆のうや胃の動きも止めてしまいます。解決策として、Dr.サンドラ・カボットは、ココナッツオイルやMCT、クランベリーを推奨しています。甲状腺機能の低下が改善されない人は、リバークレンジングジュースで検索して、胆汁分泌を改善させてください。

2-4. LPS↑を疑う症状と検査

このエンドトキシンが悪さをして胆汁に炎症を引き起こし、胆汁分泌を止めてデトックスを妨げます。下記の症状がある方は要注意です。

症状

  • 鼓腸
  • 過敏性腸症候群
  • 膨満
  • 口臭
  • 食物アレルギー
  • うつ 不安

検査

  • 血中ゾヌリン↑
  • 良性細菌の低下
  • 細菌多様性の低下
  • 食物アレルギーIgG↑
  • アラビノース↑
  • カルプロテクチン↑

腸内環境の良し悪しは、腸と脳の症状で見ます。様々なエビデンスが出ていて、腸内環境の悪化=うつ、不安、緊張、パニック、などの精神症状を引き起こすため、精神症状が安定しない人は腸をチェックしてみてください。

検査での血中ゾヌリンはリーキーガットの良い指標です。CSA(腸内細菌検査)で良性細菌の低下、もしくは細菌の数や種類が減っていたら多様性の低下が考えられます。食物アレルギーが上昇していたり、カンジタならアラビノース、便中及び血中のカルプロテクチンは腸の炎症を表す良い指標のひとつです。これらを総合して、数値に問題がある人はデトックスはまだ時期早々か、行ったとしてもあまり効果が出ないでしょう。

まずは腸内細菌や腸内環境を改善してください。様々な方法がありますが、乳酸菌をサプリメントで入れるのが近道です。プロバイオティクスとプレバイオティクスをうまく使い分けるのがコツですが、プロバイオティクスを入れるということは強制的に腸内環境細菌を良くするということで、生着はしませんが便の状態が改善されます。

2-5. グルタミンの有用性

僕が一番重要視しているのはグルタミンです。特に低血糖からの流れで腸内環境が悪い人は、グルタミンが減少しています。低血糖の発作時に低血糖があると、筋肉で身体の中にアミノ酸が一番分解されるのはアラニンとグルタミンです。アラニンは糖新生に使われ、グルタミンも一部エネルギーとして使われますが、グルタミンの用途はストレスで失われるのと、腸粘膜の修復で失われるため、低血糖で腸内環境が悪い人はグルタミンが足りません。グルタミンを補給すれば夜間の低血糖の防止にもなり、筋肉が痩せていくのを抑制することができます。

グルタミンの使用量は、少ない人は5g〜でも十分ですが、多い人で50g、または15gを1日3回摂る人もいます。グルタミンは腸の水分量を調整するので、摂り過ぎると便秘になりますが、マグネシウムを併用することで便のコントロールはある程度可能です。便通に関しては、マグネシウムがアクセルで、グルタミンがブレーキとなります。ストレスで両方失われるので、両方摂ることをお勧めします。便中のカルプロテクチンを下げるのにグルタミンは有用です。リーキーガットが改善されるということは、肝炎が治るということです。肝炎が治って肝臓の細胞がきちんと働きだしたら、デトックスの第一相と第二相が働き出します。

グルタミンが重症熱傷患者の腸透過性を改善し、入院期間を短縮
Effects of enteral supplementation with glutamine granules on intestinal mucosal barrier function in severe burned patients
Clinical Trial Burns.2004 Mar;30(2):135-9.

2-6.まとめ

ディスバイオーシスは、

  • 肝臓に炎症を引き起こし
  • MRPタンパク質の発現を低下させ
  • 胆汁の流れを止める

まずは徹底的に腸を治療してください。ドクター・カリッシュのメソッドで、1番目が低血糖、糖質代謝の改善、2番目がミトコンドリア、3番目が神経伝達物質代謝です。そこを落ち着かせてから、4番目に腸内環境に取り掛かりましょう。

デトックス治療というのは、デトックスに最適な環境を整えることで、副腎疲労の治療と似ています。副腎疲労の治療というのは副腎サプリを摂ることではなく、副腎が治るのに最適な環境を整えてあげることです。引き算で考えて、炎症とストレスと低血糖発作を取ってあげることが大切です。

3. グルタチオン

デトックスのボトルネックの3番目は、細胞内グルタチオンの濃度が上がらないことでした。いかに細胞内グルタチオン濃度を上げるかという、ここからが本題となります。

3-1.グルタチオンとは

グルタチオンは、グルタミン酸、システイン、グリシンという3つのアミノ酸から成るトリペプチドで、身体の中で2つの重要な機能を持っています。一つは細胞内の主要な抗酸化成分で、細胞内環境の抗酸化の集約です。それとともに、毒物や薬物の細胞外への排泄も執り行っています。他の抗酸化物質に比べてグルタチオンは特別に濃度が高く、酸化型と還元型のグルタチオンがありますが、NADHやビタミンB2、B3が働いて、細胞内の還元型グルタチオンを98%以上になるように保っています。

細胞内の還元型と酸化型のグルタチオンの比率が細胞毒性の評価指標、もしくは酸化ストレスの評価指標だと言われています。細胞内の指標は、血中濃度で測ることができます。メチレーションが低下している人は、この還元型と酸化型のグルタチオンの比率が低く、グルタチオンを還元する力が弱いです。

Phase1は酸化、活性化です。油の中に溶けている安定した毒物を排泄するために、活性化させて不安定にさせる必要があります。酸化させるためには、ビタミンB群が大量に必要で、実際に行うのはシトクロム、P450です。

Phase2は、活性化したものを抱合して水に溶けやすい物質と抱き合わせにします。その主役を担うのがグルタチオンで、Phase2のセンターピンは、細胞内グルタチオン濃度です。センターピンというのはボウリングの一番前に立っているピンのことです。ここのセンターピンを倒すと全部倒れるので、センターピンを外さないことです。

グルタチオンの半減期は12分なので、良いグルタチオンサプリを使っても即効性と持続性は両立しません。解毒の場合には細胞内グルタチオン濃度を高く保ち続けることが大切なので、やはり環境をいかに整えるかが大切になります。

3-2. グルタチオンの体内反応

グルタチオンペルオキシダーゼ(GPX)
中心にセレン
グルタチオンレダクターゼ

グルタチオンは、細胞の中で還元と解毒という2つの働きを持っています。上の式は、還元です。過酸化水素がグルタチオンと結合することによってグルタチオンが酸化されて、過酸化水素は還元されて水になります。過酸化水素を還元しています。

GS-SGは酸化されたグルタチオンです。これは、NADPH、ビタミンB3によってまたグルタチオンに還元されて、その反応が繰り返されます。

この酸化還元反応を触媒しているのがグルタチオンペルオキシダーゼ(GPX)という酵素で、補酵素はセレンです。グルタチオンがあるだけでは酸化還元反応は進みません。GPXという触媒が媒介してくれることによって、酸化還元反応が起きるので、セレンが不足している人は細胞内環境がうまくいきません。グルタチオンを働かせるためにはセレンとナイアシンを摂らなければいけないということが分かります。

これは、メチレーションの中の硫酸経路の図です。

ホモシステインは独立した動脈硬化の因子で、不安定な物質であるシステインに変換されると、活性酸素があったり、鉄が多く存在する環境ではシスチンに変化し、シスチンがリアクティブニトロゲンスペーシーズ(RNS)になります。活性酸素(ROS)とRNSは、友達みたいなものなのでホモシステインが多すぎると、活性酸素の元となります。

ホモシステインが高すぎる人は、ビタミンB6、B12、葉酸を適宜摂ってメチレーション回路を回してください。B6を摂ることによって、CBSという酵素が活性化されて、システインにどんどん代謝されていきます。CBSの酵素はSAMe、活性酸素、ビタミンB6はセレンによって活性化されます。逆にこれを止めるのはシステインとグルタチオンです。

身体の中でグルタチオンを作る経路はこれしかないので、システインに、グルタミン酸とグリシンが結合してグルタチオンになります。この上流にあるホモシステインが適度にあると良いんですが、10以上は高くて動脈硬化の原因となり、5以下でもグルタチオンを作る材料がないということで問題になります。

CBSの遺伝子変異がある人はこの経路が活性化しやすいと言われていますが、実際にはこのホモシステインの数字を見たほうが良いです。CBSは遺伝子変異もありますが、システイン、グルタチオン、SAMeなどCBS酵素に影響を与えるものが多いので、遺伝子型よりも表現型(実際の数字)を見て、治療に役立てたほうが良いでしょう。

4. 肝臓(フェーズ1とフェーズ2の動き)とデトックスの原則

4-1. 肝臓(フェーズ1とフェーズ2の動き)

下記は、肝臓の中でフェーズ1とフェーズ2がどのように動いてるかという図になります。

Phase1が、チトクロームP450酵素、Phase2は抱合(Conjugation )です。Phase1に必要な栄養素は、アミノ酸も必要ですが、活性化のためにはビタミンB群が主役です。

Phase2に至るために重要なのは抗酸化物質です。Phase1はビタミンB群、Phase2は抗酸化物質、そしてPhase3はS、硫黄です。これらの重要な栄養素は、BASと覚えると覚えやすいと思います。

ここで大事なのが、Phase1からPhase2に引っかかる人が多いということです。Phase1はビタミンB群で活性化されますが、実際はストレスやアルコールでも活性化されます。細胞内グルタチオンの濃度が低い、活性酸素が多い、体内で炎症を起こしているなど様々な理由で、細胞内グルタチオン濃度が低い人というのはPhase2で止まっていて、これが一番困るパターンです。活性化されがものがそのまま体に残ってしまうので、活性酸素を二次的に発生させて組織のダメージにつながってしまいます。細胞内環境の修復が急務です。そういう方には、肝臓の炎症を取ってからデトックス治療をしてください。

4-2. デトックスの原則

① 脂と水を適切量とること

  • 脂肪は中枢神経の60~80%を構成する
  • 不足すると水銀や農薬など脂溶性毒素の攻撃を受けやすい
  • 十分な水分がないと腎臓で適切な濾過ができなくなる
  • 水分を細胞内に入れ込むことが重要(そのためにはミネラル)

② 毒素の再分布は悪化を招く

  • 腸肝循環における再吸収
  • フェーズ1のみ活性化されるとデトックスクライシス
  • 経口での吸着物質なしでのキレーションは脳への再分布の可能性

デトックス治療で一番最初にやるべきことは質の良い油と水を適量取ることです。脂肪は脳の乾燥重量の6割から8割を占めているので、脂肪が不足すると水銀や農薬などの脂溶性毒素の攻撃を受けやすくなります。油は体に悪いのでなるべく摂らないようにしているという方がいますが、良い油を積極的に摂らないとデトックスにはならないです。

十分な水分がないと適切な毒素のろ過ができないので、水も沢山摂ってください。水を飲んでも細胞の外に入れ込むだけなので、細胞外液を増やすのではなく細胞の中に水分を入れ込むのがポイントです。そのために細胞内ミネラルを一緒に摂ることです。細胞内に多く存在するミネラルであるカリウムとマグネシウムを摂ることによって、細胞の中に水が供給されるようになります。それが解毒の第一歩です。

毒素の再分布が一番問題だということも覚えておいてください。再分布とは、腸肝循環における再吸収により、モルヒネなどの薬は肝臓で一度代謝されて、胆汁で排出されたあと、また腸から吸収されて肝臓に戻ります。それを何回か繰り返しているので、なかなか薬として抜けずに薬剤性肝障害の元となります。メチル水銀も腸管循環を繰り返していますが、腸が悪く便秘だとさらに腸肝循環が悪くなります。そのため水溶性食物繊維を意識して摂って、余計な毒物を排泄するというのがとても大事になってきます。

Phase1からPhase2にうまく繋げないと、活性化されたものが肝臓の中に溜まってしまい、毒素を悪化させる要因となります。これをデトックスクライシスと言います。最近、ミネラルをキレート化できる薬物を経口や点滴で入れるキレーション治療というものがあります。DMSAや、EDPAなどの硫黄や活性酸、クロレラなどの吸着物質が入っている薬を使います。これらを使わずにキレーションだけすると、脳に届いて悪化を招きます。

5. グルタチオンの上手い使い方

グルタチオンのサプリメントを使って細胞内グルタチオン濃度をあげる方法をご紹介します。

5-0.問診する

最初に重要なのは問診です。赤ワインを飲んだら不眠になるか、頭痛起こるかを聞いてください。何故かというと、グルタチオンには硫黄が含まれるからです。グルタチオンというのはグリシン、グルタミン酸、システインの3つのトリペプチドで、システインの中に硫黄を含み、硫黄負荷がかかります。

ROSおよびRNSとは何ですか?

活性窒素種は活性酸素種(ROS)と一緒に作用して細胞を損傷し、
ニトロソ化ストレスを引き起こします。
したがって、これらの2つの種はまとめてROS / RNSと呼ばれることがよくあります。

グルタチオンは、ある程度以上身体に入ると身体にフィードバックがかかってシステインをグルタチオンに変換する酵素の働きが悪くなるため抑制されて、硫黄を代謝する方向に流れます。硫黄を代謝する経路は、最終的に亜硫酸塩がSUOXで硫酸塩に変換され、尿になって身体から出ていきますが、炎症がある、モリブデンが足りない、ヒ素や胆のうが溜まっている、SUOXにスニップがある、遺伝子変異がある人というのは、硫黄を摂ると頭痛がしたり喘息が出たりします。

宮澤医院では、デトックス治療をする前に、硫黄アレルギー、玉ねぎ、ブロッコリー、にんにくなどを食べて具合が悪くなる方は申し出てくださいと伝えています。

ワインに含まれる酸化防止剤も亜硫酸塩なので、ワインを飲んで気持ち悪くなる人というのは硫黄代謝がうまくいってない人です。僕は3,000円以下のワインを買ったら、亜硫酸塩を飛ばすために、一杯だけグラスに注いでボトルを振ります。空気の隙間ができたらキャップをもう1回締めて、20回くらい振り、その後キャップを開けるとシューという音がします。これをすることによって悪酔いをしません。

5-1. 水を入れる

  • 脱水=毒素の濃縮
  • 水を補給するタイミングは「ちょっと脳が疲れたとき」
  • 脳は脱水に敏感

問診が終わったら、まず水を補給して毒素の濃縮を薄めることから始めます。特に脱水に敏感な臓器である脳のデトックスが大事なので、水を頻繁に補給してもらうようにしてください。ちょっと疲れたなと思ったらそれは脱水症状なので、カフェインを補給するではなくて、水分を補給してください。

5-2. ミネラルを補給する

正しい水分補給というのは細胞内ミネラルを摂ることと同義です。ミネラルは水を引っ張る性質があるので、細胞内ミネラルを摂ることが細胞内に水を引き込むことになるのです。カリウム、マグネシウムなどのミネラルを十分補給してください。

5-3. モリブデンを摂る

硫酸の活性化をするため、モリブデンを摂ってください。モリブデンといえばこの3つを覚えておいてください。

  • アセトアルデヒドの代謝
  • 硫黄の代謝(SUOXの補酵素)
  • 尿酸代謝(XOの補酵素)

黄色いのがモリブデンです。カンジタ治療をする時には、アセトアルデヒド脱水素酵素の補酵素としてマグネシウムと一緒にモリブデンを入れておくと、ダイオフが少なくて済みます。モリブデンを使って、硫黄の代謝をスムーズにしてください。グルタチオンが大切だと言うと、ついグルタチオンの量が増えてしまいますが、共に使う補酵素を消費するので、バランスが大事です。

モリブデンを使うと尿酸代謝が上がるので、元々尿酸が高い人は気をつけてください。尿酸が低くて活性酸素が足りずに抗酸化力が弱い人は、使用して大丈夫です。尿酸値を増やしたい人はモリブデンを使ってみましょう。尿酸値を減らしたい人は体をアルカリ化してください。尿酸は、アルカリ環境下で排泄が促進されます。

5-4. 抗酸化物質を摂る

抗酸化物質が足りないとグルタチオンが抗酸化に使われてしまうので、抗酸化物質を摂りましょう。

5-5. リボフラビンを摂る(グルタチオンの還元に必要)

ビタミンB2、B3は、グルタチオンの還元環境を保つのに必要です。

5-6. ブロッコリースプラウトを摂る

Phase2はグルタチオンが主役ですが、その他にグルクロン酸抱合も重要です。これを活性化してくれるのがブロッコリースプラウトです。ブロッコリースプラウトは安価のため、POORMAN’Sグルタチオンと言われていますが、グルタチオンに負けず劣らず効果が高いので、毎日摂るべきです。ラディッシュスプラウトと、ブロッコリスプラウトをミックスするとより効果が高いそうです。咀嚼することで活性化されるので、食べ物で摂ったほうが良いと思います。

5-7. 少量頻回に摂ること(半減期12分)

グルタチオンは、少量頻回の方が効きやすいです。白玉点滴というタチオンを入れる点滴があります。美白に効果が高く、モデルさんが使っているので白玉点滴という名前がついたようです。内容物は、グルタチオンで一つ200mgを5本、1,000mgくらい一度に点滴します。美白の効能については分かりませんが、肝機能の向上になり、お酒を飲んだ翌日は楽になると思います。

ただ、半減期が短く持続力はありません。細胞の膜を貫通して入るリポソーマルタイプのグルタチオンは、非常に即効性があります。リポソーマルグルタチオンを発売している会社のインタビューを見ると、「まずリポソーマルグルタチオンを飲んだら喉元に貯めておいてください。20秒、30秒〜1分くらい貯めておくと頭がスッキリしてきます」と言っています。即効性があり、細胞膜を超えて入ってくるので、良い使い方だと思います。脳に近く、細胞内の抗酸化をするから、頭がすっきりします。

ただし、持続と即効性は違うので、半減期が短いグルタチオンをうまく使うには、ティースプーン1杯を一度に摂るのではなく、1/4のティースプーンに4回に分けて摂ったほうが解毒に関しては効果が高いので、補酵素との影響を考えて少量頻回で摂って下さい。

5-8. 遺伝子について

グルタチオンに関しては、ホモシステインの数字を見て補酵素がきちんと働いているかどうかを見てください。ベン・リンチ博士は、色々な要素が大き過ぎて遺伝子変異だけでは予測がつかないので、ホモシステインからシステインに、システインからグルタチオンにどのくらい変換されているか、グルタチオンを過剰摂取したらフィードバックがかかる可能性と、その結果も考えながら上げる要素、下げる要素を理解して使いなさいと言っています。

では、どれくらいの量を摂ったらフィードバックがかかるでしょうか。グルタチオンは肝臓だけで1日10gくらい作られます。500mgのグルタチオンサプリを一度摂って、フィードバックがかかるかは疑問です。

ただし、身体は硫黄が大量に入ってくると硫酸経路を活性化させ、排泄する方向に動くので、フィードバックは実際にかかるということは試験管の中で確認されているようなので、そういう働きはあると思いますが、はっきりしたことはまだ分かっていません。

6. グルタチオンサプリの副作用

グルタチオン=グリシン+システイン(硫黄)+グルタミン酸

6-1. グルタミン酸による副作用

グルタチオンは、グリシン、システイン、グルタミン酸から成っています。システインの硫黄の負荷のことは以前お話しした通りですが、グルタミン酸による副作用が出る人もいるので気をつけてください。

グルタミン酸は脳のカルシウムチャンネルを開放します。カルシウム、低血糖は、グルタミン酸神経を刺激します。グルタミン酸神経が開放されて、カルシウムが沢山入ってくれば、炎症を引き起こして細胞死を起こします。これは、自閉症の子どもの脳によく起こるので、低グルタミン酸食にしてもらいます。イライラ、頭痛、MSG、過敏症、不眠症が起きている人は、グルタチオンによる副作用なのかもしれません。有機酸検査でキヌレニン経路が亢進して、脳に炎症が起きている人は副作用が起きやすいです。

グルタミン酸とキヌレニン酸、キノリン酸は、脳の神経毒物です。電磁波過敏症の人は、カルシウムチャンネルが開放を刺激するので、グルタチオンが足りていないことが多いです。5Gが怖いと思っている人は、細胞内グルタチオン濃度を上げてください。

6-2. 硫黄による副作用

前述したように、グルタチオンは硫黄の代謝物だということを忘れてはいけません。

7. どんなタイプのグルタチオンを使うべきか、基質と酵素のバランスが大事

7-1. グルタチオンレベルは低すぎても高すぎても問題

グルタチオンレベルが低いか高いかは、個人によって差があります。ブレインフォグ、頭がクリアでない程度に合わせて飲むグルタチオンの量を調整してください。リポソームグルタチオンなら2、3滴からスタートして、ティースプーンを1/4、半分、または1杯を1回に摂ってみて、症状に変化があるかを試してみてください。赤血球中のグルタチオン濃度を測るのは高価なので、症状で微調整するのが現実的でしょう。

7-2. どんなタイプのグルタチオンを使うべきか

グルタチオンのサプリメントは下記のように様々あります。

・S-acetylglutathione

グルタチオンはトリペプチドなので、胃酸で切られると効力がなくなりがちですが、最近出たiHerbで購入できるSアセチルグルタチオンというサプリはアセチル基だけが切られるので、細胞内グルタチオン濃度を上げるのに良いそうです。

・ラクトバチラス・ファーメンタンス(グルタチオン産生腸内細菌)

ラクトバチラス・ファーメンタンスという乳酸菌は、グルタチオンの産生能力がある菌だと言われています。ただし発酵して腹部膨満を起こす人がいるので、注意した方が良いかもしれません。

・NAC

他に有名なのはNACのNアセチルシステインです。システインがグルタチオンの前駆体なので、Nアセチルシステインを使うのは良い方法だと思います。前駆体を入れておけば身体の中で都合よく変換してくれるからです。Nアセチルシステインの問題点は、このGCLの酵素がマイコトキシンで阻害されるということです。これに関した論文がいくつかあるので、マイコトキシンの検査をして溜まってる人は NACではなくてグルタチオンそのものの方がいいかもしれません。

・グルタチオン点滴

グルタチオンの点滴に関しては、「リポゾーマルグルタチオンのサプリメントの方が、赤血球中グルタチオンレベルの上昇度が高い」というドクターズデータ社の検査の方の非公式コメントが出ています。点滴でも上がりますが性能が良いサプリメントの方が効果は高いらしいので、うまく組み合わせて使うのが良いだろうと思います。

大切なのは基質と酵素のバランスをとることです。グルタチオンはセレンがないと活性化できず、リボフラビンがあって初めてリサイクルでき、モリブデンがあって硫黄代謝ができます。グルタチオンだけ入れると、競合して使われる他の栄養素が枯渇するので気をつけてください。基質を入れる時はいつでも、酵素に負荷をかけすぎないように気をつけてください。

僕が今使っているのはこちらです。

ある先生が推奨していたのでこれを使っていますが、使っている一番の理由は不味くないからです。グルタチオンのサプリメントの欠点の一つは硫黄が入っているため不味いことです。 上記は、グルタチオンに加えて、リボフラビン、セレン、モリブデンが入っています。PQQというのは抗酸化の補酵素で、細胞膜を柔らかくするフォスファチジルコリンもセットで入っているので、基質と酵素のバランスが考えられていて使いやすいと思います。

このシーキングヘルス社のサプリはベン・リンチが作っていますが、彼のインタビューで、アンケートでは全く受け付けない人は3%しかいなかったとのことでした。それほど多数でないですが副作用として、痙攣と自己免疫の反応があるということです。アメリカではリーキーガットのせいか、癌や心臓病より自己免疫疾患の患者が飛び抜けて多くなっているので、そのような症状で困っている人がグルタチオンを使っていると推測します。

他に僕が使っているのはリサーチ・ドニュートリショナルというもので、グリセリンが沢山入っていてスイカ味とオレンジ味があって、味が中和されているために採用しました。また、個包装なので酸化しにくいと思います。沢山量を摂ることではなくて、細胞内環境を整えることが大事だと思うので、その補助として頻回に使うと良いでしょう。

これは、ウィリアム・ウォルシュ博士のスライドからお借りしたメチレーション、低メチレーションとオーバーメチレーションの原因の図です。

ホモシステインが高くなる人の多くは、低メチレーションが原因です。低メチレーションになる人の原因の一番は、MTHFRの遺伝子変異です。MTHFRはホモシステインが特に高い人は調べる価値があるかもしれません。

SAMeが沢山作れるかで、オーバーメチレーションかアンダーメチレーションかが決まりますが、SAMeは作られたものの7割が筋肉で使われるので、AGATやGAMTなど筋肉を作る酵素がうまく働いていない人は、筋肉が作られずメチル基が余ってしまいます。高メチル化の人は、いくら運動しても筋肉がつきません。低メチル化の人は少し運動すれば筋肉がつきます。筋肉がつきやすいということは筋肉を作るのにメチル基が全部持っていかれるため、低メチレーションになります。僕のホモシステインは7ぐらいなので、比較的低メチレーションだと思います。ホモシステインは、簡単に血中濃度を測れるので、ちょうど良い値になるように調整するように心がけてみてください。

8. 症例 46歳女性 慢性疲労

8-1. 主訴

  • 貧血でふらつく
  • だるい日はやるべきことが捗らない
  • 少しでもジャンクなものを食べると必ず体調が悪くなる
  • 夜になると動けなくなる
  • いつもはコーヒーを2杯ほど飲んでなんとか活動している
  • ここ2年で体重が8kg増えた
  • 元気にパワフルに過ごしたいです

症状で特筆すべきは、中性脂肪が極端に低いことです。中性脂肪が低い=エネルギー代謝が低いです。特にアドレナリンが沢山出ている人の場合は、アドレナリンが中性脂肪を分解して遊離脂肪酸に変えるため、低血糖があってエネルギー代謝が悪いことは容易に想像できると思います。

8-2. 血液データ

食後高血糖があるのか、1.5AGがとても低いです。炎症の影響なのか、銅亜鉛バランスも悪いため、銅過剰タイプなのかもしれません。炎症のマーカーはそれ程高くはないですが、ピロリ菌がいることが炎症の引き金になっているのかもしれません。ペプシノゲンが少し高いです。

フェリチンは37で、MCVは108です。つまり、鉄欠乏と大球性貧血が混在しているので、恐らく鉄欠乏に加えてB12の消化吸収の障害及び甲状腺機能の低下があるでしょう。実際にTSHおよびT3がとても低いです。T3が低くてTSHが低いというのはフィードバックがかけたくてもあまりかけられてない状態なので、長年に渡って中枢神経が抑制を受けてる状況じゃないかと考えられます。

このデータを見て、どうやってデトックスするのかということを考えてみてください。最初にお話ししたドクターカリッシュのメソッドを思い出してください。デトックスの一番最初にやることは低血糖の改善でした。2番目がミトコンドリア機能の改善でした。この方は低血糖症もあるし、ミトコンドリア機能低下もあるでしょう。

8-3. 腸内環境

腸内環境を見てみると、良性菌のラクトバチルスが1+と少なく、境界型菌が5つ出てますから、ディスバイオーシスは結構進んでいるのではと考えられます。

消化吸収マーカーを見てみると、エラスターゼが208と低下しています。これは500以上が標準なので消化酵素は低く、そのためにディスバイオーシスを起こしやすい原因になっています。下の炎症マーカーを見てみると、標準が1くらいのラクトフェリンが3.2、カルプロテクティンは10くらいでそれほど大きくありませんが、標準100のリゾチームが148で、炎症が少し見られます。

ディスバイオーシスがあり、消化酵素が落ちていて、炎症があるので、乳酸菌を足した方が良さそうです。消化酵素が少ないので、場合によってはSIBOの検査をした方が良いでしょう。

短鎖脂肪酸を見ると、トータルの総短鎖脂肪酸は6.7、その中の酪酸は1.8で、比較的低いので、もう少し足してあげたほうが良いです。元々この短鎖脂肪酸が低いのは乳酸菌が少ないせいです。短鎖脂肪酸は食物繊維が良性の細菌によって発酵されたもので、これが不足するとミネラルが吸収できなかったり、腸管循環が起きやすくなります。この方の場合は低血糖を治して、ミトコンドリア機能を上げて、腸内環境を治してあげることが重要です。腸内環境を治すには、乳酸菌を入れて炎症を抑えて消化酵素を少し足してください。だんだんお腹の調子が良くなってくるでしょう。

8-4. 毒物検査

46歳で、できれば妊娠もしたいというお話だったので、毒物検査もしていただきました。いくつかの毒物が出ましたが、特に高かったのは有機リンです。母体に有機リンがあると、自然流産やIUGRが起こりやすいので、デトックスしたいとご希望がありました。

最後にオリゴスキャンを見てみましょう。アルミニウム、銀、カドミウムが高いです。

日本人では標準な方ですが、有害金属の毒性を見るとトータル属性が高いので、デトックスをした方が良いと判断します。

あくまでも参考程度ですが、オリゴスキャンの検査ではPhase2とPhase3の状況が分かります。このPhase3の硫黄との結合状態に要注意と出ているのでうまくいってないだろうと思います。一番下の酸化ストレスと抗酸化薬は緑と黄色なので、酸化ストレスに関しては心配ないでしょう。ただこの検査だけでははっきり分からないので、有機酸検査や、他の血液検査から細胞内環境を推定していく必要はあります。尿酸値が低い、ビリルビンが高いというのは活性酸素が沢山出ているということです。

8-5. 有機酸検査

  • アラビノース
  • クロストリジウム
  • SIBO
  • シュウ酸
  • リボフラビン
  • ビタミンC
  • ミトコンドリア
  • キノリン酸
  • NAC
  • ピログルタミン酸
  • 2ヒドロキシ酪酸

解毒をする人はぜひ有機酸検査をしてみてください。有機酸検査では、解毒に必要なマーカーが10個くらいあり、これらを全部クリアしたらデトックスできるという印です。アラビノース、クロストリジウム、SIBO、アラビノースはカンジタの治療、クロストリジウムは腸内細菌バランス、SIBOも同じです。SIBOはDHPTAを見ればわかります。

有機酸検査で有用なのはシュウ酸がわかることです。シュウ酸というのはカンジタ感染や食べ物の多さで上がりますが、水銀と結びついてシュウ酸水銀になると水銀のデトックスができなくなるため、シュウ酸が高いうちにデトックスはしないでください。次に見るのはビタミンです。ビタミンCの血中濃度は有機酸検査では下がりやすい所ですが、抗酸化力の指標になります。

リボフラビンを見ると、ビタミンB2が見れます。ビタミンB2は有機酸検査では上がりやすい所です。グルタル酸というところで、ビタミンB2は低く出やすい場所です。なぜならばビタミンB2はカンジタの代謝で使われるからです。カンジタ感染を起こしている人はリボフラビンが低く出ます。甲状腺機能が低下している人も、リボフラビンが低く出ます。ビタミンB2が低いということはグルタチオンは還元できないということです。ここもチェックしておいてください。

ミトコンドリア機能を見るのも重要です。ミトコンドリアにはATPが必要ですが、解毒やMRPタンパク質を使うのにもミトコンドリアが必要です。キノリン酸Nアセチルシステインも測れます。

最後はピログルタミン酸と2ヒドロキシ酪酸。この二つはグルタチオンマーカーとして58番と59番に載ってます。この二つが高いということは解毒が体内で働いているか、グルタチオンが体内で枯渇しているかを表しています。有機酸検査でこの11個のマーカーを見て、解毒治療に役立ててください。

8-6. 治療経過

低血糖を治してミトコンドリアをフォローして、神経伝達物質バランスを治してください。この方の場合は銅亜鉛バランスがかなり悪いので、亜鉛を摂るのはとても有用です。ドーパミン代謝が悪いはずです。それが終わったら消化器と肝臓のケアをしてください。f僕がいつも使っているサプリメントをご紹介します。Phase2を助けるのは、こちらです。

Liver Nutrientsには、肝臓の胆汁排泄をあげるミルクシスルが入っています。

Nアセチルシステインとリポゾーマルグルタチオンを一緒に使うと、血中濃度細胞内グルタチオン濃度を安定させるのに有用です。グルタチオンの半減期は短いので、前駆体を入れることで安定します。タウリンは、胆汁排泄や、細胞内にマグネシウムを入れ込む時に役立ちます。他にメチレーションを回すためにベタインやトリメチルグリシンが入ってます。αリポ酸はSH基が付いているので、Phase3に役に立ちます。

リポソーマルグルタチオンにリボフラビンや補酵素が、リバーニュートリエンスにミルクシスル、Nアセチルシステインが入ってるので、この2つを僕は組み合わせて使うようにしています。場合によってはウルソという胆汁排泄用の薬と、たまに使うのがタチオン、iHerbで売っている還元型のグルタチオンを主に使って、抱合して胆汁排泄を促します。

胆汁から排泄してきたらその毒素をキャッチして再吸収を防ぐには、下記の活性炭、クレメジンという薬、クロレラをよく使うようにしています。ケイ素を入れると水銀の抗酸化に役立つとので一緒に使っています。

この方の場合は、甲状腺機能の低下症があったので途中からナチュラルサイロイドを使いました。

腸内環境処方

  • ウルトラフローラ
  • ビタミンA
  • トレースミネラル
  • DaVinci リポソーマルC
  • カンジダアウェイ
  • リフキシマ
  • インターフェーズ

デトックス処方

  • ミヤBM
  • リバー
  • 亜鉛・マグネシウム
  • グルタチオン
  • B12
  • 葉酸
  • クロレラ
  • ケイ素

ミトコンドリア機能を上げるのに、どうしても甲状腺機能がネックになる場合があって、その場合は起爆剤として甲状腺ホルモン(自然ホルモン)を使うとうまくいくことがあります。この方の場合は治療後のT3がも3.6まで上がりました。

治療後
デトックス治療前後での比較

治療期間は1年半くらいかかりましたが、貧血も治って低血糖症の症状も改善して表情も明るくなりました。デトックス後、有機リンはギリギリくらいまで下がり、症状も大分良くなりました。

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