前回は、ビタミンとミネラルの考え方について説明しました。今回はドーズレスポンスについてです。ドーズレスポンスとは、量と反応の関係ですね。
もくじ
歩行とふらつき、意識障害をもつ45歳男性
5日前から独り言が多くなり、会話が成り立たなくなった。また歩行がふらつくため、自宅内を這って移動していた。本日からほぼ寝たきり。
既往歴なし。喫煙歴20本x25年。飲酒ビール2.5リットル毎日。食事は不規則。バイタルサインほぼ安定。 診断と治療はなんでしょうか?
5日前からおかしくなって、すぐに寝たきり。普通は脳卒中などを考えますよね。
でも、特記すべきは1日ビール2.5リットル、食事は不規則でおつまみ程度というところです。
検査結果は、肝機能はお酒のせいで悪いですが、特に生命に関わるようなところはありません。
脳のMRIを撮ると、まんなかのところに少し炎症が見られます。
これは、ウェルニッケ脳症という極端なビタミンB1不足を原因とする中枢性障害です。眼球運動麻痺、歩行失調、意識消失をきたします。
大事なのは、拮抗栄養素の過剰な摂取によって、対立する栄養素が失われてしまうことです。
いったんこうなったら、ビタミンB1サプリを摂るのではなく、点滴でビタミンB1を大量に入れます。
ビタミンの欠乏症は現代でも存在する
脚気、ウェルニッケ脳症、壊血病は昔の病気ではありません。
現在でもあるんです。
現代の脚気は、こういったアルコール中毒か、子供の清涼飲料水の飲みすぎなどが主な原因です。 清涼飲料水は異常に糖質が多いので、それによってビタミンB1が消耗してしまうんです。
脚気心といって、動悸が激しくなって運ばれ、救急外来で肺高血圧症と診断されるも、最終的に脚気による心不全だということがわかる、ということはよくあります。
欠乏状態においては、十分な量の栄養を確保しましょう。
ビタミンC
欠乏症と言えば、壊血病です。
トーマス・スティーブンスの航海記を引用します。

これが壊血病の様子をあらわしています。

先ほどのウェルニッケ脳症のように、完全に不足したら点滴で入れないといけません。
でも特に問題がなければ、そんなにビタミンCを入れなくてもいいんじゃないの?と思う方もいらっしゃるかもしれません。
ビタミンCの抗がん作用

ビタミンCを点滴すると、血中濃度が経口で摂取する場合の70倍になります。レモン1250個分です。
点滴で入れると、経口摂取に比べ、血中濃度が通常の70倍になります。
僕がビタミンC点滴を習ったリオルダン・クリニックの、リオルダン先生が2000年に発表した論文です。
ビタミンCの血中濃度が400mg/dを超えるとがん細胞が死ぬ、という論文です。
2005年にWHOが追加実験を行うと、本当にがん細胞がなくなったので、そこから一気に広まりました。
これはビタミンCを経口摂取した場合と点滴した場合の、血中濃度のグラフです。
400mg/dというのは結構な濃度で、経口摂取では絶対にたどりつけない濃度なんです。点滴でしかこの濃度に達することはできません。
抗がん作用を期待するなら、点滴しなければなりません。これもドーズレスポンスですね。
ビタミンCの至適量は状況や目的によって変わる

ビタミンCの至適量は、状況や目的によって変わります。
怪我を治りやすくする、コラーゲンを作る(100mgで大丈夫)、壊血病を予防する、風邪の予防ではグラム単位で必要です。
副腎疲労は風邪と同じように、数十g摂るといいです。ビタミンCを点滴すると、てきめんにいいです。
ビタミンCサプリメントは頻回摂取が有効

サプリメントを摂るなら、1gずつ1時間ごとの頻回摂取が有効です。
ビタミンCは一度に大量に摂ると、吸収が落ちます。
60mgだと100%、100mgだと90%、1000㎎だと75%、2000㎎だと44%と、どんどん減っていきます。
ですから、1000mgが最もコスパが良いですね。
30分で血中濃度は上がりますが、4時間で下がります。4時間おきだと血中濃度が上がったり下がったり、血中濃度が安定しません。
ですから、1時間おきに、血中濃度が下がっていないうちに次々入れていくと、どんどん上がっていきます。
ビタミンCの効果は血中濃度に比例しますから、ビタミンCを1時間おきに摂るだけで、効果が3倍近くなります。
ビタミンCを自分で作れる動物

ビタミンCを自分で作れるものもいます。
左側が作れないグループ、右側が自分で作れるグループです。
犬と猫も作れますが200mg程度だそうです。自分で作れるとはいえ、少ないですね。動物病院ではビタミンC点滴はよくやることです。ストレスが多くて全然足りないからです。

野生のヤギは14mg/日ですが、病気になると100mg/日です。需要に応じて産生量が増すのです。
自分で作れない動物は、状況に応じて摂取量を増やした方がいいのではないか、という話です。
ビタミンDの血中濃度と効果

同様に、ビタミンDにもドーズレスポンスがあります。
ビタミンDの血中濃度が20ng/mlと低くても、くる病は予防できます。
様々ながん、糖尿病、多発性骨髄腫などはだいたい40~60ng/mlで予防できます。ほとんどの疾患ではこの濃度にしておくと、いいことがおきるということです。
日本人の平均ビタミンD血中濃度は20程度と言われています。
日焼けしていて、すごくビタミンDがありそうに見えても血中濃度が低い人もいます。逆の人もいます。ビタミンDの体内合成力によります。
低い人は、サプリメントを摂ると、確実に上がっていきます。血中濃度を上げるためには、できれば1日2000IU以上摂ると良いでしょう。
しかし、ビタミンDはビタミンAと同じく脂溶性ビタミンなので、1日5000IU以上摂取する場合は血中濃度を測定しながらやることが重要です。ビタミンDサプリメントを毎日摂っていて腎不全を起こしたという症例報告があります。