「消化管の話はよく聞くけれど、胆嚢についてはあまり聞いたことがない。」そういう人は、案外多いのではないでしょうか。ところが、最新の研究では、胆汁にはそれ以上の、驚きの働きがあることが見えてきています。また、胆汁酸については、胆嚢だけでなく、脳内でもつくられているということもわかってきました。
胆汁酸を活用した薬やダイエットサポート薬についての研究も、日々進んでいます。今日は、そんな胆嚢と胆汁について、基本から最先端の情報までを見ていきたいと思います。
1.たんのうと胆汁
1-1.たんのうと胆汁
「たんのう」は、漢字で書くと胆嚢、胆(キモ)の嚢(フクロ)と書く臓器です。人間のお腹の中のだいたい真ん中あたり、肝臓の後ろ側にあって、洋梨のような袋型で、緑色をしています。
中には胆汁を貯めていますが、この胆汁は肝臓で作られて、左肝管、もしくは右肝管を通じて総肝管、次いで総胆管に入り、さらに胆嚢管を通じて胆嚢に入ってきます。
貯められた胆汁は、胃の中の食べ物が十二指腸に流れてくる刺激ででたコレシストキニンというホルモンによって胆嚢がぎゅっと縮むことで、ファーター乳頭から十二指腸に出ていきます。このファーター乳頭には、オッディ括約筋という普段はその穴をギュッと閉じておく筋肉がついています。
実は、胆汁は肝臓で作られて胆嚢に入っていくときにも、胆嚢からファーター乳頭にでていくときにも、胆嚢管を通ります。つまり、胆嚢管は尿管や膵管などと違って、一方向だけに働く管でなく、両方向に働く管ということになります。これは、胆嚢管の内側が「ラセンひだ」と呼ばれる、ラセン状のひだになっていて、これがガス管に使われているバルブのような働きをして、胆汁が出たり入ったりするのに役立っているのではないかという説もありますが、本当のところはまだよくわかっていません。ラセンひだは、別名ハイスター弁とも呼ばれています。
胆嚢も、内臓の1つなので、迷走神経からの命令を受けますが、胆嚢に関係する迷走神経からの命令には、胆嚢に対する収縮しなさいという命令と、オッディ括約筋に対する緩みなさいという命令の2つがあります。そして、この2つのバランスが取れて初めて、胆汁がきちんと十二指腸に流れることになります。これがうまく行かないとき、例えば糖尿病で神経がうまく働かなくなっているとき、自律神経失調の一つといわれている胆道ジスキネジーなどの場合には、胆嚢が縮もうとしているのに括約筋が開かない、そして痛みが出るということが起こります。自律神経失調の人は、胆嚢の動きも落ちることになります。
1-2.胆汁と便
胆嚢は、英語では、「gall=胆汁」の「bladder=袋」という意味で、“gall bladder”といいます。このgallという言葉は、「ghel=輝く、黄色い」という言葉が語源になっていて、ここから派生した言葉には、古代ギリシャ語で胆汁を意味する“khole”の他、「gold=金」「glitter=キラキラしている」「gloss=つやつやしている」などがあります。だいぶ綴りは変わりますが、「yellow=黄色」も同じ語源です。古代ギリシャ語の“khole”は、「chole sterol=コレステロール」の語源にもなっています。
胆汁は、この語源からもわかるように、胆嚢の中に入っている黄色い液体です。けれども、常に黄色というわけではなく、酸性かアルカリ性かによって色が変わり、酸性が強ければ明るい黄色、アルカリ性が強くなってくると茶色から黒っぽい色になります。そして、うんちの色は、この胆汁の色を反映しているので、明るい黄色の時には腸の中が酸性に偏っているということ、そのときには例えば乳酸とか酪酸をたくさん作るビフィズス菌や乳酸菌が多くいて、よい腸内環境になっているということがわかります。その逆に、黒っぽい時には、インドールやアンモニアなどの毒素、いわゆる臭いものを作るような菌がたくさんいるということになります。
ちなみに、古代ギリシャではヒポクラテスが、「体の中にある赤・黄・青・黒の4つの色の体液が、体調を作っている」という四体液説を唱えて、この中の黒い胆汁が多くあるときに、抑うつ症状や疑い深くなる、いろいろものを怖がる恐怖症などといった気分障害がおこるとしました。これはなんと19世紀まで一貫して信じられてきたことで、比較的最近まで、胆汁が心に影響すると思われていました。ただ、黒い胆汁、つまり便の色が黒いときには、腸内環境が悪化して、インドールやアンモニアも出ていますし、リーキーガットが起こっている可能性もあります。アンモニアがたくさんあるときには、肝臓がそれをどんどん解毒しなければならないので、肝臓に負担がかかります。神経過敏でイライラして頭痛がしたり、交感神経優位の症状が出てきます。歯ぎしりをしたりお腹の動悸もあったりします。中国でも同じような考え方があって、そのようなときには疳を抑える薬、抑肝散という漢方を使ったりします。そういう意味で考えると、ヒポクラテスが言った胆汁が黒いとメンタルの症状が出るというのは、あながち間違ってはいなかったということになります。2000年近くもの間、胆汁と心の関係が信じられていたのは、そのような関係性が背景にあったからだと思います。
1-3.ビリルビン
血液検査にも出てくる「ビリルビン」は、ヘモグロビンから作られます。古くなった赤血球が、脾臓の中でマクロファージに食べられ処理される過程で、ヘモグロビンから鉄が抜かれ、その一部が酵素によって開いてビリベルジンになり、これが酸化してビリルビンに変わっていきます。このビルビリンは、胆汁を意味する“bile”と、赤い宝石であるルビーに関係する“rubin”という単語からできています。実際のビリルビン、胆汁は黄色なのに、どうして黄色に関係した言葉ではないのかはよく分かっていません。胆石の中に赤っぽいものがあるので、そこから来た可能性もあります。
このビリルビンは、酸化してビリベルジンになります。これも胆汁を意味する“bile”と、青緑を意味する“verde”が語源になっています。ビリベルジンの青緑は、新鮮なサンマに時としてついている鱗で見ることができます。
1-4.胆汁の循環
胆汁の成分は、97%が水分で、0.7%が胆汁酸塩、0.2%がビリルビン、0.5%が脂肪、その他は塩分やミネラルなどとなっています。この脂肪というのは、脂肪酸やレシチン、コレステロールです。この胆汁がつくられる量はかなり個人差があり、文献によっても異なりますが、1日に400ml~1200mlといわれています。ざっくり1Lくらい、あるいはそれ以上作られているということなので、かなりの量の胆汁がお腹の中をぐるぐる回っていることになります。
胆汁はコレステロールをもとにして作ります。小胞体の中にあるコレステロール7α-ヒドロキシラーゼという酵素を使って、コレステロールをコール酸とデオキシコール酸に変えていきます。この2つを一次胆汁酸といいます。一次胆汁酸というのは、体の中で作る胆汁酸のことです。
これがさらに体の中で、作用を受けます。具体的には、タウリンがくっつくタウリン抱合、グリシンがくっつくグリシン抱合が起こります。グリシン抱合は、メチレーション回路のCBSから下のルートで起こりますが、それと同じことがここでも起こっています。これら2つは抱合型胆汁酸と呼ばれるもので、体の中で使われていきます。胆嚢からギュッと出されたこの抱合型胆汁酸は腸の中を通って、腸管の中に入り、血管の中にどんどん吸い込まれていきます。そして、腸粘膜を通って門脈に、門脈は栄養を運んで肝臓に入りますが、胆汁酸もどんどん肝臓の中に入っていきます。つまり、胆汁は、肝臓で作られて腸の中に入っていったあと、最後には再び腸から吸収されて肝臓に戻っていくということになります。95%の胆汁酸は、リサイクルされて、腸肝循環しています。
抱合型胆汁酸のほとんどは吸収されますが、5%が残ります。そのうちのほとんどは便として排泄されます。さらにその一部はお腹の中にいる菌に食べられます。菌が食べると、ちょっと違う形の胆汁酸になって、抱合していたグリシンやタウリンがなくなります。これを脱抱合、脱抱合した胆汁を二次胆汁といいます。二次胆汁には、デオキシコール酸やリトコール酸などたくさんの種類があります。二次胆汁も、お腹の中でリサイクルされて、腸肝循環しています。ただ、お腹の中の菌の様子によって、その量や質が変わってくるので、腸内環境と胆汁はかなり密接に絡んでいるということができます。また、通常の便の中には二次胆汁が入っていますが、抗菌剤を使うと二次胆汁はなくなってしまいます。
1-5.胆汁の仕事と胆汁がうまく出ないときの対処法
胆汁の仕事は、脂肪を乳化させることです。胆汁酸の成分の中には、水に溶けやすい部分と脂に溶けやすい成分とがあって、それによって脂肪をミセル化しています。これは、本来は混ざり合わない酢と油を、卵の黄身で乳化させているマヨネーズと同じ原理です。そして、これがうまくできると、脂溶性ビタミンがしっかり吸収できることになります。
サプリメントで、ビタミンAやビタミンDといった脂溶性ビタミンを取っている方がいると思いますが、飲んでも飲んでも効いてこないことがあります。その場合、迷走神経の状態がアンバランスだったり、自律神経の状態が悪かったり(例えば、低血糖があるとかホルモンバランスの悪い方)、コレステロールの合成がうまくいかなかったりして、胆嚢がうまく働かず胆汁が出せなくなっている可能性があります。脂肪がうまく吸収できなくなるため、脂の中にビタミンAやDを溶かしているようなサプリメントが効かないのです。そのような時には、胆汁をたくさん出すような工夫をする、乳化を促進するような食べ物やサプリメント(例えば、卵の黄身やレシチンなど)を追加する、さらには乳化した形になっているミセルタイプのビタミンAやDを検討するといいかもしれません。切り替えたらいきなり効果が出たという方もかなり多いです。
1-6.Typhoid Mary
100年位前の“ Typhoid Mary ”という実話があります。アイルランド出身のメアリー・マーロンという女性がニューヨークに渡って、裕福なお屋敷で料理をする仕事につくのですが、しばらくするとそこのご主人が、そして家族全員が病気になってしまう。そこにいられなくなったマリーは、いろいろなお屋敷を転々とするのですが、どこでもみんな体調が悪くなっていく。マリーがいた家で、感染した人が22人、そして亡くなったと分かっている方は1人。その後、務めた産婦人科でも、マリーが勤めている間に25人病気になり、分かっているだけでも2人が亡くなってしまった。なぜ、このようなことが起こったのでしょうか。実は、マリーの胆嚢にはチフス菌がいて、これが胆汁とともに十二指腸にいき、便となって出て、その菌がついた手で、料理や看護をしていたからでした。おそらくマリーの場合、初めの感染が軽いまま抗体ができたために、マリーにはチフスの症状が出なかったのだろうと考えられています。
胆嚢のような空洞構造の内側というのは、免疫細胞が働きません。また、胆石の周りに菌がつくりだすバイオフィルムができて、免疫細胞がうまく働がないだけでなく、抗体が届かなかったという可能性もあります。自律神経がうまく働かなくて、いつもオッディ括約筋が開いている、うまく締まらないような場合には、ここが開きっぱなしになるので、胆嚢に菌が入りやすくなります。マリーの場合はチフス菌でしたが、大腸菌が入って炎症を起こすこともあります。
1-7.胆石
胆石は割とありふれた病気ですが、このリスク群として3Fというものがあります。40代(Forty)、女性(Female)、それから肥満(Fatty)です。ここにさらに、白人の方というのが入ることもあります。
これまで、女性の発生率は男性の2倍といわれていましたが、これは、もともと女性に自律神経の失調が多いということや、閉経が近づいてきて体全体のバランスが狂ってきたり、女性のホルモンバランスによってコレステロールが上がってくるということがあったためと思われます。なので、以前は、太った40代くらいのおばちゃんは、胆石を持っている確率が高いといわれていました。が、2013年の調査では男女比が逆転して、男性1に対して、女性0.87となりました。食生活や食習慣が変わって、男女差がなくなってきたのかもしれません。
胆石には、いろいろな種類があります。有名なものでは、コレステロール結石、色素結石、そしてその両方が混ざった混合石、コレステロール結石の周りにカルシウムがついて組織が混ざったような混成石などです。他にもリン酸カルシウムといった珍しいものもあります。結石は、胆汁のあるところだったら基本的にどこでもできます。一番たくさんできるのは胆嚢の中で7割以上、次いで総胆管が14.1%、肝内胆管が3.5%となっています。ただ、これは石が見つかったときの状態を示しているので、もともと肝内胆管にあったものも胆嚢結石だったものも、総胆管に落ちてきた時点で見つかれば、すべて総胆管にカウントされています。
胆石の発生率は、国によってかなりのバラつきがあります。日本だと全人口の5%くらいで、アジアは比較的少なめです。多いのがインディアンで、カナディアンインディアンでは62%、アメリカインディアンでは64~73%とかなり多くなっています。また、人種的には同じと考えてよいアフリカの黒人とアメリカの黒人の発生率を調べてみると、アフリカの人たちの罹患率は5%以下、アメリカに住んでいる方は14%でした。ここからわかるのは、胆石のリスクファクターは食生活であろうということです。例えば、1日の摂取総カロリー、炭水化物の摂取量、糖質の摂取量、動物性の脂肪量などが関係していそうです。それ以外には、夜間長時間に渡る絶食をしたとき、ダイエット中で急激な体重減少をしたときなども胆石発生のリスクと考えられています。ダイエット中には、食事を抜いたりものすごく少なくしたりしますし、脂を抜くことも多いです。脂を抜くと胆汁の必要性がなくなってくるので、胆嚢が動かなくなって、胆汁が溜まった状態の胆嚢はそのまま固まって石になりやすくなります。中にできた石も、出ていかなくなります。ですから、食べないタイプのダイエットをする場合には、少し脂を取る、ウルソデオキシコール酸という胆汁の成分を使ったお薬を使うことで、胆石のリスクをグッと減らすことができます。
胆石が発症する原因は、結石によって異なります。コレステロール結石は、その70%がコレステロールの結晶でできています。もともと胆嚢の中には、コレステロールが胆汁酸とリン脂質によってミセル化して入っていますが、コレステロールが増えすぎた場合、胆汁酸とリン脂質で溶かしきれなくなって、コレステロールの結晶ができてきます。胆嚢がしっかり動いていれば、結石が小さいうちにオッディ括約筋のところからどんどん出すことができるのでほとんど問題ありませんが、お腹の中で動きがないとき、自律神経がうまく動かないとき、食事をあまりしないときは、胆汁が出ないので、胆石はどんどん大きくなっていきます。
色素結石の中のビリルビンカルシウム結石は、菌がつくったカルシウム塩が核になって、周りにいろいろなものがくっついて結石になると考えられています。その核には、大腸菌、クレブシエラ、エンテロバクター、シュードモナスのような菌が多いといわれています。金平糖は、最初に砂糖の小さな粒をつくって、この粒を大きな鍋にいれてぐるぐる回しながら砂糖水をかけていくことで、あのトゲトゲの形をつくりますが、ビリルビンカルシウム結石はこの金平糖とほぼ同じ作り方です。トゲトゲしているので、出ていくときに大変です。これをCTの縦切りで見てみると、この白いところがそうです。カルシウムが多いので白いものが見えます。
2.胆汁や胆嚢の活用と今後の可能性
2-1.薬としての活用~牛黄(ごおう)と熊の胆(くまのい)
「牛黄」と呼ばれる牛の胆石は、牛1千頭から1万頭に1個しか取れない、とても貴重なものです。効能は、強心、解熱、鎮静といわれています。中身としてはコール酸、デオキシコール酸、胆汁酸です。血液の搾りかすであるビリルビン、ビリベルジン、そしてコレステロールも入っています。牛黄は舐めるととても苦いのですが、これを愛用していたのが田中角栄です。ゴルフに行くときは必ず持っていって舐めていたといわれています。すごく元気なのは、もしかしたらこれを使っていたせいかもしれません。また、水戸黄門は成敗の時に印籠を出しますが、その中に入っていたのも牛黄だといわれています。
今、牛黄の7割はブラジルから輸入しています。牛黄の原材料の輸入価格は、2017年の後半からグッと上がっていますが、それは中国の輸入が増えたからで、なかなか買い付けができなくなっているそうです。牛黄カプセルは、薬局で売っていますが、2カプセルで3000円ほど。2カプセル中に牛黄は200mg入っているので、100mgが1500円という、とても高価なものです。
「熊胆(ユウタン)」は、熊の胆嚢です。あまり馴染みがないかもしれませんが、熊の胆(くまのい)というと聞いたことがあるかもしれません。熊胆圓という薬もあります。熊の胆嚢を愛用していたのが聖武天皇で、今も正倉院に保存されています。この熊の胆嚢は、薬としての価値がものすごく高いのですが、熊1頭から、1個しか取れません。胆嚢が取れる大きさになるには少なくとも10年、熊の寿命は25年くらいともいわれているので、10年から20年待たないと1個の胆嚢が取れないことになります。熊の胆嚢はとても値段が高く、胆嚢1つが熊1頭の値段と同じだといわれています。
この熊胆、効能としては苦味健胃、苦いことでお腹を動かそうという作用です。そして、鎮痙、鎮痛、利胆、消炎、解熱薬、胃痛、下痢、黄疸、小児の疳疾(疳の虫)、お腹の中の寄生虫やバイ菌を殺すのに使われます。疳の虫に効くように、熊胆はメンタルにも効いてくるので、胃痛や下痢というのも自律神経の病気と考えると、熊胆が使えそうな気がします。
牛黄も熊胆と同じ効果を発揮するものとして開発されたのが、「ウルソデオキシコール酸」です。コール酸から合成して作られています。ただ、単一の胆汁酸しか入っていないので、他のコレステロールとか、微量成分はどうしても落ちてくるかなと思います。薬価はとても低くなっています。
2-2.胆汁酸のホルモン作用
胆汁酸というと、基本的に苦いとかお腹が動くとか、乳化させる、脂溶性ビタミンの吸収をよくさせる、油の吸収をよくする、解毒したものを出すというニュアンスがあると思いますが、胆汁酸自体に実はホルモン作用があることが分かってきました。
特定の受容体にだけにくっつく物質をリガンドといいますが、胆汁酸は核内受容体につくリガンドです。核内受容体にくっついて核の中に入り、遺伝情報を直接操作します。核内受容体につくリガンドには、胆汁酸の他、甲状腺ホルモン、ステロイド、ビタミンAやビタミンDなどがあります。ビタミンAの場合、食べたもののまま、つまりレチノールやレチナールのときには核内受容体にすぐくっつくことはありませんが、レチノイン酸になったときには、遺伝子にダイレクトに影響するので、催奇形性があったり毒性が出たりします。
核内受容体とリガンドがくっついたものは、核内でDNAの端にくっつきます。そしてもう1つのリガンドと核内受容体も、隣につきます。DNAの転写因子のところに、必ず2つつくわけです。そうすると、mRNAができます。つまりDNAの情報を読むときに、このペアシートに2つの物質がくっつくことが必要です。そして、この片方は必ずビタミンAです。ですから、ビタミンAがしっかりあれば、DNAがきちんと動きます。これが足りなくてうまく動かないと、筋腫になったりガンになったりしやすいというのは、ここです。お肌がカサカサのときにビタミンAがいるというのも、細胞の分化をしっかりさせてお肌を作るためです。ですから、子どもや妊婦さんは、本当はビタミンAがたくさん必要です。
リガンドのところに、違うものがくっつくときがあります。そうするとDNAの活性が変化して、今まで止めていたものが動き出したり、動いていたものを止めたりします。DNAの働きを反対方向にする、止めるようなものをアンタゴニストといいます。動きすぎると困るときに、このアンタゴニストを入れてあげれば止まるわけです。逆に、リガンドの代わりに働いて、DNAの働きを促進するものをアゴニストといいます。これらを利用すれば、薬を作ることができます。例えば、コレステロールを作りすぎて困るときには、アンタゴニストを入れてあげる。ガンでどんどん増殖しているとき、アンタゴニストを入れてあげる。ガンを止める遺伝子が活性化しないときには、アゴニストを入れる。リガンドの代わりをさせたいときにはアゴニスト、リガンドの作用を止めたいときにはアンタゴニストを入れます。
胆汁酸は、核内受容体だけでなく、細胞膜にある「Gたんぱく質共役型受容体」というレセプターにもくっついて生理活性を起こします。この核内受容体、細胞膜の受容体、胆汁酸には、それぞれ種類がいくつもあって、この3つの組み合わせによってDNAの反応が変わり、さまざまな生理活性が起こります。このようにホルモンとして使われる胆汁酸の作用には以下のようなものがあるといわれています。
- 褐色細胞を活性化する作用
エネルギーをたくさん作ることができるので、胆汁酸がダイエットに使えるのではないかという研究もされています。 - インスリン抵抗性の改善作用
- インスリンの分泌促進作用
- 脂肪肝の改善をさせるスイッチを押す作用
- 中性脂肪の合成を抑制する作用
- コレステロールの濃度を調整する作用
- 胆汁酸そのものの合成を調整する作用
- 肝臓の線維化の抑制する作用
肝臓の線維化とは、肝硬変のことです。胆汁酸とレセプターの組み合わせによっては、脂肪肝や肝硬変を予防できるということで研究が進んでいます。 - 大腸ガンの発ガンを促進する作用
二次胆汁酸が毒性を持つといわれるのは、こういった理由によります。が、逆に脂肪酸がくっついて大腸ガンの発ガンが促進させるのであれば、そこにアンタゴニストを使ってあげればいいわけです。二次胆汁酸の一部が悪いのであれば、それを便として出す、それが起こらないよう腸内環境を整えることもできます。このあたりはまだ研究段階なので、今後これを活かした薬が出てくる可能性があります。
2-3.胆汁酸の可能性
胆汁酸には、DNAの活性化によっていろいろな効果があることが分かってきました。その結果、胆汁酸への注目が集まり、今さまざまな研究が始まっています。
例えば脳神経。脳神経の軸索は、胆汁酸で破壊されることが分かっています。なので、BBBが壊れて胆汁酸が脳に入ってしまうとよくないのではないかということで、調べてみると、実は脳の中に意外と胆汁酸がある。特に黄疸があったということではなく、どうももともと作っているらしいーということが分かってきています。つまり、脳細胞の中でも、胆汁酸を微量だけれどもしっかり作っている。そして、特定のたんぱく質とくっついている。こうなっていることで、異常な活性化は抑えられているのではないかという仮説ができています。ただ、どうして脳の中にあるのか、その理由はまだ不明です。もしかしたら神経伝達物質と絡んでいるかもしれないという仮説はありますが、このあたりはまだ解明されておらず、脳の中に胆汁酸が見つかったばかりのようです。
実は、胆汁酸には、もっとすごい秘密があるかもしれません。なので、将来は、血液データを見たときに、ビリルビンが多いとか胆汁を作ることができているかなとかだけではなく、そこから神経伝達物質の話や発ガンの話につながってくるかもしれません。そして、データの読み方も、一層深くなっていく可能性があります。
3 まとめ
- ウンチの色は胆汁の色、黄色が良い。
- 胆汁は1日1リットル近く分泌され、95%が循環している。
- 胆汁の仕事は、脂肪を乳化させること。
- 食生活が急激なダイエットもリスク要因と考えられる。
- 熊や牛の胆嚢は貴重品。
- 胆汁には、脂肪を燃やしたり、インスリンを分泌させるホルモン作用もある。