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小池雅美

やまいは気から1~副腎疲労の見えにくい原因

小池雅美 · 2021年11月10日 ·

  • 副腎疲労で服薬しているけれど、あまり効果がない。
  • サプリメントを飲んでいるけれど、副腎疲労の症状が改善してこない。
  • 生活改善もしているけれど、副腎疲労が治らない。

もしそのような方がいたら、その奥にある本当の原因を見つける必要があります。

例えば、自分自身では自覚できないような精神的なストレスがないか。辛い記憶とリンクした感覚や体の反応で、コルチゾールの無駄遣いをしてないか。

今日は、副腎疲労についてあらためて学びながら、見えにくい本当の原因を見つける、その対策をとる方法を具体例を交えてお伝えします。

1.副腎疲労とは

1-1.副腎疲労の症状

副腎疲労というのは症状です。どちらかというと病名ではありません。

副腎疲労の症状には、以下のようなものがあります。

  • 朝が起きられない、起きるのがつらい、目覚し時計が鳴っても起き上がることができない
  • 十分寝ているのに疲れが取れない、ベッドから起き上がっても動き出すことが難しい
  • 塩分が欲しくてたまらない、塩辛いものにさらに塩をかけてしまう
  • いつも疲れている、以前は楽しかったことも最近は疲れてできない、全てのことが億劫
  • 毎日をやっとの思いで過ごしている、日常的なことがとても疲れる、同じことをするのに以前の何倍もの努力が必要
  • ストレスに対処できなくなった、以前は気にならなかったことが気に障る、イライラすることが多い
  • 性欲が低下した、セックスする元気がない
  • 怪我や病気が治るのに時間がかかるようになった、風邪が治るのに1ヶ月、切り傷が癒えるのに数週間かかってしまう
  • 立ち眩みがする、椅子やベッドから立ち上がる時クラクラする
  • うつ症状がある、人生に意味を見出せないと感じる
  • 何をしても楽しくない、楽しいことがひとつもない、興味を持てない
  • PHS(月経前症候群)が酷い・悪化した、のぼせや疲れ・イライラがある、チョコレートを欲する
  • 食事を抜くと倦怠感などの症状が悪化する、コーヒーやお茶で何とかつながないといられない
  • 考えがまとまらない、優柔不断になった
  • 記憶力が低下した、記憶があやふやになることがある
  • 以前に比べて我慢できなくなった、些細なことで怒りが爆発するようになった
  • 朝は調子が悪く、午後でもなんとか動いているが、夕食後(夕方以降)は元気になる
  • 生産性が低下した、仕事や生活の効率が落ちた、何かと捗らない、体力・気力の低下を感じる
  • カフェイン(コーヒー等)やたばこなどを欲する、カフェインがないと頑張れない、カフェインを摂取することでモチベーションを維持している

1-2.副腎疲労とはどのようなものか

副腎というのは、人間の背中側、左右にある腎臓の上に防止のように乗っている三角形の臓器です。皮の部分を皮質、中の部分を髄質といいます。

皮質ではコルチゾール(別名:グルココルチゾール)、アルドステロン、プロゲステロン、エストロゲン、DHEAを、髄質ではアドレナリン、ノルアドレナリンというホルモンを出して、体内環境をちょうどよい状態に保つ仕事をしています。

副腎疲労というのは、副腎が疲れている状態です。

その原因には、以下のようなものがあります。

  • 炎症
    体の中にいつも炎症があるような場合です。特に見逃されがちなのは、痛みのないところです。肝臓、例えば脂肪肝も炎症です。腸の炎症も、血が出たりお腹が痛くなったりすれば分かるのですが、ミクロのレベルのリーキーガットのような炎症だとなかなか分かりません。歯の根、特に神経を抜いたあとの歯の根や歯茎の腫れ、上咽頭の炎症も、なかなか炎症の症状としては出にくいものです。
  • 精神的ストレス
    大切な方がなくなった、お金に困っている、人間関係がうまくいかない時にも、ストレスが溜まります。
  • 化学物質や重金属の体内蓄積
    体の中に化学物質や重金属が入っている場合、これを解毒しなければならないのでエネルギーをたくさん使います。そして、エネルギーがないとこの2つはなかなか出ていかないので、さらに体に負担がかかることになります。
  • アレルギー症状
    喘息やアトピー性皮膚炎、このような症状も副腎を痛めつけます。
  • 生活習慣
    睡眠不足や残業等、体に負担のかかる習慣がある方は、副腎疲労を起こしやすくなっています。
  • 食事
    特に糖質の過剰摂取は血糖値の乱高下を起こしますので、副腎の疲れが起こりやすくなってきます。アルコールの摂りすぎなどで低血糖が続く状態、これも副腎疲労の原因になります。

1-3.コルチゾールと副腎疲労の4ステージ

副腎で作られるコルチゾールは、コレステロールから作られています。コレステロールが、プレグネノロン、さらにプロゲステロンになって、最終的にコルチゾールに変わっていきます。その一方で、プレグネノロンは、DHEAにも変わって、そこからテストステロンやエストロゲンといった性ホルモンになっていきます。

ところが体に負担がかかった場合、体はストレスホルモンであるコルチゾールをたくさん作り始めます。そうするとDHEAに回す分のコレステロールが減り、性ホルモンにいくものも減ってきます。このようにストレスが溜まってコレステロールがどんどんコルチゾールに向かう状態、これをコルチゾール・スティールといいます。

急性ストレスで、インスリン抵抗性がまだ少ない状態のときには、コルチゾールは体の異化作用を起こします。

体の脂や筋肉をどんどん異化していってエネルギーに変えて、急性のストレスに耐えようとします。この時に、脂の分解作用が起こります。糖質や脂質、アミノ酸をどんどん利用して、ミトコンドリアの中でエネルギーを作ります。たまにだったら徹夜ができる、学園祭のときにはいつもより頑張れる、それがこの急性ストレスの状態です。

その逆に、ストレスが慢性的になった場合、つまりインスリンが増えている状態のときには、体の同化作用が起こります。それによって、脂肪がどんどん蓄積されていきます。LDL、HDLも溜まっていきます。そして、手足が細くて体の中心が太っている、中心性肥満の状態になっていきます。この状態になると、インスリン抵抗性はさらに高まっていきます。

また、唾液中コルチゾール検査をすると、急性ストレスの状態と慢性ストレスの状態とでは、日内変動がグラフのように異なってきます。

急性ストレスの状態
慢性ストレスの状態

急性ストレスから慢性ストレス下で進む副腎疲労には、4つのステージがあります。

唾液中コルチゾールコルチゾール代謝物DHEA
正常正常4000-6000正常
ステージ1high>6000
low自覚症状的には、どちらかというと元気な段階。
コルチゾールのほうにコレステロールがどんどん流れる一方で、DHEAは下がってくる。
ステージ2normal>6000lowもう少し副腎疲労が続いた段階。
いったん上がったコルチゾールが少し減ってくるため、その値は正常のように見える。DHEAも下がっている。
ステージ3low4000-6000low疲労感が強くなってくる段階。
コルチゾールがとうとう足りなくなるものの、コルチゾールの代謝物はまだなんとか保っている。DHEAも下がっている。
ステージ4low<4000lowほとんど動けなくなる段階。
コルチゾールもDHEAも全然足りない、コルチゾールの代謝物もぐっと下がっている状態。
副腎疲労 4つのステージ

副腎疲労が治るまでの目安は、ステージ3で大体3ヶ月から半年くらい、ステージ4で6ヶ月から1年以上です。これは、甲状腺機能の低下状態や、重金属の有無、腸内環境、炎症の強さなどによって変わってきます。

1-4.コルチゾールの役割と機序

コルチゾールは、血糖値の上昇、抗ストレス作用、カテコールアミンやグルカゴンに対する許容作用、抗炎症作用をもち、認知機能や情動の修飾、骨のカルシウムの代謝、リン脂質の合成にも関わっています。

このコルチゾールが出る機序は、視床下部からCRHというホルモンがでることで、下垂体からACTHを出し、これが副腎皮質に命令してコルチゾールを作るというようになっています。そして、コルチゾールがたくさん出すぎると、視床下部に「コルチゾールがたくさんあるよ」という命令がいって、CRHが下がる。

逆に、コルチゾールが少なすぎる時には、CRHを刺激してたくさん出すようにする。このようなフィードバック機能がついています。上から降りるのをフィードバック、コルチゾールからCRHに行くのをネガティブフィードバックといいます。

また、このCRHには、サーカディアンリズム(概日リズム)という1日のうちのサイクルがある、ストレスの影響を受けやすい視床下部からでている、コルチゾールによる負のフィードバックがあるために、外からのコルチゾールであるステロイドホルモンをたくさん使ってしまうと、出にくくなるという特徴があります。

1-5.コルチゾールと血糖値

図のように、血糖値は食事をとると上がってだんだん下がるを繰り返して、70から139の間で遷移します。

夜中は食事をしないので特別上がらないのですが、下がりすぎることもなく平らになっています(グラフの青線)。コルチゾールは朝の8時ごろに大きく上がった後、次第に下がって大体夜の8時から9時くらいの間に最も低くなります。夜中は低いままで、朝の8時に向かってゆっくり上がっていきます。これは、血糖上昇にかかわるコルチゾールが、食事をとらない夜中の血糖維持に必要になるためです。

コルチゾール以外に血糖を上げるホルモンには、グルカゴン、アドレナリン、ノルアドレナリン、コルチゾール、成長ホルモン、甲状腺ホルモン、ソマトスタチン、アルドステロンなどがあって、相互に関わっています。

そして、これらのホルモンは、肝臓や筋肉の中のグリコーゲンをほぐしてグルコースに分解し、血の中に入れることで血糖値をあげています。つまり、肝臓や筋肉内のグリコーゲン在庫が切れたら、血糖値があげられなくなるわけで、筋肉が少ない、肝臓が悪いとき低血糖を起こしやすくなるということになります。

ストレスがかかってコルチゾールが足りなくなると、血糖値の維持ができなくなります。そうすると血糖値を保つために、甘いものやカフェインで何とか上げようとする。けれども、コルチゾールが足りないので、油断するとすぐに血糖値が下がる。だから、血糖値を維持するために、お菓子やコーヒーをとり続ける、それでも足りないと、怒ったり気合を入れたりして血糖値を維持することになります。

そして夜中には、血糖値をあげるために違うホルモンーアドレナリン、ノルアドレナリンを出します。これはほどよく出ているときは気合いが入るホルモンですが、不安感とか緊張感を作るホルモンでもあります。だから、夜不眠になる。

こういう場合には、まず、日中の血糖値をコントロールすることで、コルチゾールの無駄遣いを減らし、余分なアドレナリン、ノルアドレナリンが出ないようにします。特にお昼過ぎ、コルチゾールが下がってくる午後2時くらいから寝るまでの間に、スープなどをとって血糖値を安定させると、副腎の負担が減って、疲労もだんだん治まってきます。

これは、ある方の血糖値のグラフです。

左は3月19日のものですが、寝ている間、そして食事のあと、夕方に血糖値が下がっています(赤い部分)。かなり乱れたグラフです。

右の3月24日のものは、終日基準値内に収まっていて、かなり安定しています。この5日間の間は、実践講座の中でファスティングドリンクを使ったファスティングをしていました。たった5日でも、食べ方次第で血糖値がこれだけコントロールができるという良い見本だと思います。

2.副腎疲労の原因となる長期間のストレスとその対策

2-1.ストレスの定義と4つのストレッサー

副腎疲労は、長期間のストレスで起こります。ストレッサーには以下のようなものがあります。

  • 物理的ストレッサー :寒さや騒音、放射線、気温や気圧の大きな変化など
  • 化学的ストレッサー :低酸素、薬物など
  • 生物的ストレッサー :細菌感染や炎症など
  • 心理的ストレッサー :怒りや不安など

こういったストレスがかかった時には、アドレナリンやノルアドレナリン、コルチゾールが体の状態を元に戻そうと、一生懸命出ています。

ストレスというのは、例えば意地悪をされた、嫌な上司がいるなどではなく、これらのホルモンが過剰に出ている状態のことです。これらをたくさん出して何とか体を維持しようとしている、不安定ながらも必死でバランスを取っているのが、ストレスがかかっている状態です。ちなみに、ストレスという嫌なことというイメージがありますが、大好きなアイドルやとても憧れている人とずっと一緒にいる時も緊張状態が続いているので、ストレスになります。

2-2.原因別の副腎疲労対策

  • 化学物質や重金属の体内蓄積
    外からの暴露に関する対策を立てるしかありません。できる限り重金属や化学物質のあるところに行かない、マスクをする、空気清浄機を使うなどです。
    虫歯の詰め物としてアマルガムが入っている方は安全な方法で除去をするのもありです。ただ、アマルガムが入っているということはもともと虫歯があったということなので、口の中の細菌層がよくない、緊張状態があって唾液が少ない、糖質を多く摂っている、だらだら食べている、免疫機能が低下している可能性があります。
  • 食事
    糖質の過剰摂取に注意します。糖質が多い食事自体が副腎疲労につながりますが、副腎疲労があると一層糖質過剰になって悪循環が生まれやすくなります。
  • アレルギー疾患
    アレルギー疾患の治療薬というのは、基本的には抗アレルギー剤とステロイドになります。ステロイドを使う病気は何かというと、体の中のコルチゾールの相対的低下です。なので、アレルギー疾患を起こしているということ自体が、そもそも副腎疲労ということになります。
  • 生活習慣
    生活習慣上、早く寝ることができないという場合には、仕事や育児が忙しかったり、家庭の中で何か問題があることが多いので、仕事の見直しをしてみるなど、その問題自体をコントロールする必要があります。眠れない場合には、夜間低血糖、カフェインの摂りすぎ、日中の興奮しすぎなど全体を見直していきます。特に、カフェインの摂りすぎについては、必ず確認してください。
  • 精神的ストレス
    2種類の対策があります。例えば、事故に遭った、大きな病気があった、家族の大切な人が亡くなったなどの分かりやすいストレスは、比較的短期のストレスなので、栄養状態を良くする、しっかり休むなどの対策で、改善しやすくなります。分かりにくいストレスについては、自分でも気づかないストレスなので、自分の中の常識を疑う、思考の方向性を変えていく必要がありますが、これについては次章で詳しく説明します。

2-3.自分でも気づかない精神的ストレスが起こる理由と対処法

吊り橋効果といわれるものがあります。これは、深い谷にかかる吊り橋を見てドキドキしているのか、イケメンがそばにいるからドキドキしているのかを脳が判断できずに、吊り橋を渡った後にそのイケメンに恋してしまうことを指したものです。

実はこの時、脳が受け取っているのは、アドレナリンとノルアドレナリンの上昇、心臓のドキドキという体の状態についての情報だけです。

なぜドキドキしているのかの理由については、脳はわかっていない。だから、事実ではないかもしれないけれど、納得しやすい、都合のいい理由を探して後付けする。その結果、吊り橋でドキドキしているだけかもしれないのに、一緒に渡ったイケメンにドキドキしたと思い込む吊り橋効果が生まれます。

繰り返される予期しないパニック発作をパニック障害といいますが、これも脳による理由の後付けで起こります。パニック発作では、突然で激しい恐怖、または強烈な不快感の高まりが数分のうちにピークに達して、いろいろな症状が起こり、以下のように分類することができます。

交感神経刺激症状・動悸、心悸亢進、または心拍数増加
・発汗
・身震い、または振え
・寒気または熱感
・抑制力を失うまたは”どうかなってしまう”ことに対する恐怖
・死ぬことへの恐怖
筋緊張症状・息切れ感または息苦しさ
・窒息感
・胸痛または胸部の不快感
自律神経症状・嘔気または腹部の不快感
・めまい感、ふらつく感じ、頭が軽くなる感じ、気が遠くなる感じ
・異常感覚(感覚麻痺またはうずき感)
・現実感消失(現実ではない感じ)、離人感(自分自身から離脱している)

このようにパニック発作は、アドレナリン、ノルアドレナリンがドンと出たときに起こるーというわけです。

アドレナリンやノルアドレナリンの過剰分泌は、低血糖や鉄欠乏、銅・亜鉛バランスが悪い時、それ以外には、CO2濃度の上昇、つまり酸欠のような状態や、気温変化、気圧変化など、コルチゾールが急激に必要な状態の時に起こります。けれども、脳には、アドレナリンとノルアドレナリンがドンと出たことしか分からない。その理由が分からない。脳は、その原因を必死で探すので、電車の中で発作が起これば、電車のせいではないかと考えるわけです。そして、さらにそれにリンクする記憶、狭いところがダメかもしれない、人混みがダメに違いない、夕方がダメらしい、会社に行く時がダメなんだなどと考えて、その状況になると無条件にドキドキしてしまう。

本来、アドレナリンやノルアドレナリンの仕事は、交感神経を刺激してFight(戦う)、Flight(逃げる)、Freeze(すくむ)の行動を起こすこと、敵にあった時に生存確率を上げるための大切な反応を起こすことですが、パニック障害ではこの恐怖に対するパターン行動が、それとは直接関係がないかもしれない記憶によって起こってしまうことに問題があります。

このようにパターンを認識して体の反応を起こす記憶は、側頭葉にあります。エピソード記憶や意味記憶を担う扁桃体と、手続き記憶や感情・身体変化にかかわる記憶を担う海馬です。海馬に溜まっている記憶は、特定の感情や体の変化によって呼び覚まされるので、これがいろいろなことを起こしてくるわけです。

側頭葉内側に位置する海馬と偏桃体
  • 偏桃体
    宣言的記憶
    個人的な思い出である「エピソード記憶」
    物事に関する知識である「意味記憶」
  • 海馬
    非宣言的記憶
    技能や癖に関わる「手続き記憶」
    特定の感情や身体変化の記憶に関わる「レスポンデント条件づけ」

例えば、赤ちゃんは怖い思いをすると、背中をギュッと丸めます。これが残ったのが恐怖麻痺反射の残存で、この体の状態は恐怖とリンクしています。

脳の海馬は、筋緊張が起こっているときにはアドレナリンを出す、そして背中を丸める時、この筋緊張があったのは昔あった怖い時だなというように覚えています。

なので、背中を丸めている時、肩こりが強い時、頭の筋肉がガチガチな時、もともとは単なる疲れかもしれない時にも、体の記憶は怖いときと同じものを脳に伝えているので、脳は危険が迫っていると扁桃体に教えます。なので、このような身体の状態の時には、なんとなく漠然とした緊張感がでます。

そのような時には、上のほうを見て、手を伸ばして背中を反らしてください。この体の形は恐怖とリンクしていないので、パニック発作は起こりにくくなります。気持ちが落ち込むことも減ってきます。

セラピストの方々の中には、マッサージやエステ、整体などでクライアントの体を緩めていると、クライアントが泣き出してしまったという経験した方は多いと思います。

これは、筋緊張が抜けて、筋緊張とリンクしていた記憶が放たれているからで、この時にいわゆるトラウマの解放が起こります。こうして、記憶として残っている体や筋肉の位置や緊張をほぐすことで副腎疲労が治ってくることもあります。筋肉ゆるゆるの記憶を新たに入れてあげる、これで筋緊張が抜けるようになります。

これを応用して、例えば子どもが辛い思いをして泣いているときには、背中から抱っこして温めてあげながら、「今日何があったの?」と聞いてみてくだい。

子どもは辛い記憶を話し始めますが、体はどんどん緩んでリラックスしていきますし、温かいままです。そして、好きな人に受け入れてもらっているという事実もあります。こうしてあげると、恐怖の記憶と筋緊張という身体の状態がリンクしないので、トラウマにならずに済みます。

記憶は、感覚ともリンクしています。例えば、匂いを嗅ぐといろいろ思い出すという現象は、プルースト効果といわれています。

香りは、感情や体も動かします。うなぎ屋さんの前を通るとうな重のイメージがわいて、唾液が出る、腸管が動くといったことが起こるのは、そういうことです。さらにいうと、記憶そのものも身体を動かします。例えば、レモンや梅干しを想像しただけで、ジワッと唾液が出るのがそれにあたります。ですから、食べ物を食べるときに嫌なことを思い出していたら、お腹は動きません。

食事の時に「いただきます」と言う、楽しい気持ちで食べる。これはとても大事なことです。

視覚や聴覚、触った感じの触覚、味覚、そして香り、嗅覚、そのほか図にあるような様々な感覚の一つ一つが記憶と結びついています。記憶と結びついて、体の動きをコントロールしていきます。感覚、記憶、体の反応、3つの全部がリンクしてトータルで記憶として体の中に入っています。そして、記憶から体の反応が、体の反応から記憶が起こります。

記憶からは感覚が、感覚からは記憶が起こります。感覚を入力することで、体の反応も起こります。これらが気持ちよくリンクしていればよいのですが、辛いこととリンクしていると体調不良の原因になったりします。体の辛い状態と記憶は、できればリンクさせたくないので、これをほぐしてあげる、つながりを切ってあげることが大切です。

2-4.ダブルバインド

大学1年生で、一人暮らしの女の子の事例をお話しします。

この女の子は、頭痛、立ち眩み、倦怠感、これが辛くて学校に行けなくなっています。血液データを見ると、低血糖で中性脂肪が低め、鉄欠乏の傾向があります。甲状腺機能は基準値内でもやや低めで、低たんぱく傾向があり、典型的な体調不良のデータ、つまり副腎疲労が起こっています。食べ物、特にスープをこまめに飲んでもらうことを勧めましたが、それでもときどきチョコレートを食べてしまうくらい、血糖値が維持できていない状態です。

そして、この女の子の外来にいつも一緒に来るお母さんは、娘さんのことがとにかく大好きで、面倒を見てあげたい気持ちが強い人です。こまめに連絡を取り、タッパーにおかずをたくさん詰めては、週に2-3回は娘さんに会いに行っています。この2人はとても仲のよい親子で、外来の後にはいつも一緒におやつやケーキを食べて帰っています。とはいえ、実は、お母さんも同じような症状で数年前から外来に来ていたので、食事指導や生活指導、内服の処方もうけているんです。つまり、知識があって、自分も治りたい、娘も治したいと口では言っているのに、行動が一貫していない状態で、娘さんと同様、チョコレートも口にしていました。

このお母さんに詳しく話を聞くと、モラハラのご主人が、さらに口うるさい姑もいました。2人にあれこれ何も言われたくないので、お母さんはいつも2人の言いなりになっている。姑に「ちょっとどこかに連れて行って」と言われたら、自分の用事を全部キャンセルして連れて行く、そういう我慢の日々を送っていました。このような状態なので、ご主人や姑といる時のお母さんはいつも我慢を重ねて口がへの字になっています。

ギブソンという人が行った「視覚断崖実験」という心理学の実験からは、お母さんの表情というのは、赤ちゃんや子どもにとって安全か安全でないかの判断をする基準となることが分かっています。お母さんが怒ったり悲しい顔をしていれば危険、笑っていれば大丈夫というように、子どもはその状況を判断するわけです。

ギブソンの断崖絶壁実験:2つの断崖の上にガラスを敷いて、赤ちゃんがどう行動するかを見る実験

つまり、このお母さんは、ご主人や姑の前で口がへの字になることで、無意識のうちに娘さんに対して、「結婚は、危険。」というメッセージを発信しています。

その一方で、娘である自分の面倒を見ているときには、お母さんはニコニコしているので、娘さんとしては「自分が守られている状態の時には、お母さんが喜ぶ」という理解になる。実は、お母さんは娘を守ることで自分の存在意義が出て、自尊心が保たれるために嬉しそうな表情になっているわけですが、これがだんだん過剰になってくると、娘さんは潜在意識下で「自分が病気だと、お母さんが喜んでくれる」というように思うようになります。お母さんからすれば、世話ができる娘でないとお母さんの生きがいがない。娘さんのほうは、病気でないとお母さんを喜ばせられないと思ってくるというわけです。

これが共依存です。どちらも依存している、そしてお互いに足を引っ張りあっている状態です。

病気だとお母さんが喜んでくれると潜在意識で思っている娘さんも、成長する過程で、独り立ちしたい、自分の好きなことをしたい、恋をしたいと思いはじめます。けれども、お母さんは、自分が病気だと喜んでくれるし、一人暮らしをしたら悲しむし、結婚はつらいとも教えてくれている。この狭間で、娘さんの中では「自分が成長するとお母さんが悲しむ、成長すると辛いことをしなければならなくなる」といように認識がすり替えられて、無意識のうちに成長しないように行動していく。そして、成長したい自分とお母さんを喜ばせたい自分の間で、副腎がどんどん疲労していきます。

成長というのは、内的基準、つまり自分の考えと判断で、独り立ちする、自分の好きなことをする、恋をするようになるということです。

その反対にある外的基準は、自分の外にある基準、外の人の基準、この娘さんの場合は「お母さんが喜ぶ」「お母さんが悲しまない」です。内的基準は自分の内部から湧き上がってくる欲求、外敵基準は義務なので、どちらを選ぶかによって副腎の負担は変わってきます。外的基準を選ぶと、全部が義務になるので、いつも我慢をすることになってストレスになります。

そして、無意識で外敵基準を選んでいる娘さんは、「私には、選ぶ力がない」というセルフイメージを持つようにもなって、お母さんがいないと何も決められない、普通の生活もできないということになっていきます。

一方で、お母さんは、「娘が病気だから頑張らなきゃ!」と思っています。

潜在意識下で、娘が病気だと私は私という個人がきちんと作れると思っているわけです。表層意識では当然、「早く元気になってね」とも思っています。こうして、娘さんに対して、「病気でいなさい」と「元気でいなさい」という矛盾した2つのメッセージを出すことになります。そうなると、子どもはどちらのいうことを聞いたらいいのかが分からなくなります。

これを二重拘束、もしくはダブルバインドといいます。どちらを選んだらお母さんが喜ぶか、子どもは一生懸命考えるのですが、結局何も決められないので、心がバラバラになって、先に進むことができなくなってしまいます。

この場合の治療は、どうするのか。

もちろん足りない栄養は補充してあげる工夫が必要ですが、娘さんには極端なことを言えば、何も治療はいりません。

それよりも、元凶であるお母さんのダブルバインド、そして「夫や姑のいうことを聞かなければならない」「そのためには、私が我慢をしなければならない」とお母さんに教えたお祖母さんとお母さんとの関係を洗い出していく必要があります。時代的には、お祖母さんの栄養状態が悪かった可能性もあり、その場合はまだ胎児だったお母さんのお腹の中にできている卵子、つまり今の娘さんがもつ遺伝子の発現に影響を与えていた可能性も考えられます。

4.さいごに

コルチゾールの低下が起こると、低血糖が起こります。それを補うためにカテコールアミンがたくさん出ます。

副腎疲労が絡んでくると、カテコールアミンのバランスが悪くなります。そして自立神経の乱れによって、甲状腺機能の影響が出てきます。さらにコルチゾールは免疫系を司るホルモンなので、免疫系の不調が出てきます。免疫力が落ちれば、感染が起こる。免疫が過剰に働いた場合は、自己免疫疾患が起こります。アレルギーもその1つです。そしてふつうはリンパ球が抑えてくれるはずのガン細胞を抑えられなくなって、ガン抑制の低下が起こります。

病院では「ストレスですね」とざっくり言われることがありますが、突き詰めると、自律神経系の乱れと免疫の不調が絡んでいることが多くあります。

やまいは気から、副腎疲労の本当の原因を見つけよう、これが今日のテーマでした。

普通は低血糖があるから副腎疲労、感染があるから副腎疲労となるわけですが、さらにその奥にある、大元の原因を見つけてみると、実は思い込みが影響していることが多くあります。

自覚できないレベルのものが足を引っ張っていて、そこで余分にコルチゾールを使ってしまうために、感染が抑えられない、気圧変化にも耐えられないということが起こっている可能性があります。この場合、副腎疲労の本当の原因を見つけてこないと、薬やサプリでは治らないということになります。

もし治りにくい患者さんがいたら、ぜひ一度そこまで洗い出してみてもらえればと思います。

成長期の血糖コントロールと亜鉛

小池雅美 · 2021年10月1日 ·

張り切って外出した日の夕方には、子どもがいつもぐずって大変な状態になる。
思春期真っただ中の子どもの機嫌が、いつもとても悪い。
夜中に、子どもがよく悪夢を見るようだ。
朝どんなに起こしても、子どもが起きない。
朝、子どもの食欲がない、腹痛や吐き気があることもある。
子どもが不登校になってしまった。

こんな悩みを抱えている方がいたら、成長期の血糖コントロールと亜鉛について学ぶことで、悩みが軽くなったり、問題を解決したりできる可能性があります。タイトルには“成長期”と書いてはありますが、内容的にはどなたでも役立つものになっています。

1.体の成長と亜鉛

1-1.骨の成長と亜鉛

骨というのは、生まれたばかりの頃はそのほとんどが軟骨で、そこにカルシウムがつくことで、次第に大人の固い骨へと変化していきます。そして、人間の身長が一番伸びる、つまり骨が伸びるのは、生まれてから2歳前後までの幼児期、その次が第二次成長期である思春期。この骨が一番伸びる時期に特にたくさん必要になるのが、ALP(アルカリフォスファターゼ)という酵素です。

ALP
(アルカリフォスファターゼ)
造骨↑
Zn、 Ca、Mg
小児は高値(~1000)
ALP1,2 ー 肝臓
ALP 3 ー 骨
ALP 4 ー 胎盤、悪性腫瘍の一部
ALP 5 ー 小腸
ALP 6 ー 肝臓、骨に由来

このALPの仕事は、ピドキサールリン酸やアデノシン三リン酸(ATP)などといった体内のリン酸化合物から、リンをちぎること。このちぎられたリンがカルシウムと結びつくことで、骨の固い部分(ハイドロキシアパタイト)ができていきます。ですから、骨形成が活発な乳児期と思春期には、ALP値はとても高くなります。

小児の基準値(ALP)
https://www.kyorin-pharm.co.jp/prodinfo/useful/journal/upload_docs/120356-1-37A.pdf
田中敏章、他:潜在基準値抽出法による小児臨床検査基準範囲の設定。 日本小児科学会雑誌 112:1117-1132、2008より図作成

これは子どものALP基準値グラフです。上の黒い破線折れ線グラフが上限、下が下限を示しています。大人の基準値は青枠で囲んでいるとことなので、子どもの基準値は大人よりもずっと高いことがわかります。なので、もし高校生以下で血液検査をした場合には、異常値のHがついているのが正常です。むしろ大人の基準値内に入っていたら、栄養不足や何か大きな病気が隠れている可能性があります。

ALPには、2つの亜鉛と1つのマグネシウムが1つついている

このALPには、2つの亜鉛と1つのマグネシウムが1つついていています。子どものALP値はこの亜鉛とマグネシウムの量を反映しているので、ALPがとても高い時には需要が増大しているので、亜鉛とマグネシウムの補給が必要です。その逆に、基準値の下のほうにある、もしくは下回っている時には、ALPの供給が不足している、亜鉛とマグネシウムが足りていないーということになります。なので、子どもの場合、ALPが多すぎても少なすぎても、亜鉛とマグネシウムの補給が必要です。

そして、ALPを作るときには、ATPが必要になります。ATPからリンを1つちぎるとにエネルギーがたくさん出ますが、この時にALPが必要なので、亜鉛とマグネシウムがないとエネルギーも作れないということになります。マウスを用いた京都大学の研究によれば、亜鉛欠乏症とATP代謝の破綻症状はとてもよく似ていて、食事中に亜鉛があるかないかだけで、元気度が全く変わってくるそうです。

1-2.細胞分裂と亜鉛

ジンクフィンガーの仕事は、まずDNAを2つに分けること

体が成長するときには、細胞分裂がどんどん起こる必要があります。この時に働くのがジンクフィンガーという真ん中に亜鉛が入った酵素です。ジンクフィンガーの仕事は、細胞分裂の準備として、まずDNAを2つに分けること。別れたDNAは、それぞれがもう一度DNAを再生していきます。つまり、亜鉛が十分にあって初めて、細胞がどんどん分裂できるというわけで、成長時には亜鉛がたくさん必要になります。

亜鉛不足のサイン、爪甲白斑

この亜鉛が不足した時によく見られるサインが、爪甲白斑という爪の白い点々です。これが出ているときには亜鉛不足のせいで、子どもがグズグズ言うことが多いですし、成績が落ちてきたりもします。白い部分ができるのは、爪を作るときに、隙間に空気が入ってしまうからといわれています。

1-3.膵臓、血糖コントロールと亜鉛

血糖を下げる働きをするインスリンは、膵臓のランゲルハンス島にあるβ細胞で作られています。そして、つくられたインスリンは、亜鉛によって縛られるような感じで6つがくっついた結晶となって、さらにそれが集まってインスリン顆粒の形で保持されています。

亜鉛がインスリンをしっかり結びつける

このインスリンの結晶は、すい臓から肝臓にいき、そこから下大静脈に乗って全身に運ばれ、その運ばれた先で分解されてインスリンとして使われます。ところが、もし亜鉛不足の場合には、インスリン6つをしっかりと固めておけなくなり、肝臓の中でバラバラに分解され、一部は代謝され壊されてしまいます。つまり、体の方に出られるインスリンは少なくなる。こうなると、インスリンが足りなくて、血糖値が上がる。また、膵臓はよりたくさんのインスリンを作らなければならなくなって、どんどん疲れていく。このように、亜鉛が足りないと、2型の糖尿病リスクが上がっていきます。

また、インスリン6つを固めてパッキングする亜鉛は、インスリン顆粒にあるZnT8という亜鉛専用のチャンネルから取りこまれていますが、これがうまく働かない時、ZnT8をつくるための遺伝子に一塩基多型(SNPs:スニップス)がある時には、同様のリスクが上がるといわれています。

さらに、インスリンをつくるためにβ細胞は多くのATPを必要とするので、ミトコンドリアが酸素を使って働くことになります。その結果として、フリーラジカルが出てくる。そして、このフリーラジカルを処理するには、メタロチオネインかSOD(スーパーオキシドディムスターゼ)が必要となりますが、このSODには亜鉛を使うものがたくさんある。つまり、亜鉛が足りないと、フリーラジカルによって膵臓の中の細胞が酸化されて、壊れていくことにもなるというわけです。その結果として、亜鉛欠乏の人ではインスリン顆粒が減少して、血糖コントロール不良が進むことになります。

(左)メタロチオネイン (右)SOD

なので、血糖コントロールが悪くて、糖質少なめの食事やおやつをとっても乱高下するような場合には、亜鉛の量を確認してみてもいいかもしれません。この時、亜鉛そのもの、もしくはALPを見て、亜鉛が根本的に不足している場合は無条件で足してください。場合によっては、ALPが高くなっていても、身長を伸ばしたりエネルギーを作るのにどんどん使われてしまうために、本当の必要量を満たしていないということもあります。成長期には、普段の生活でも亜鉛をたくさん入れる必要があります。

2.子どもの血糖値の乱高下と低血糖

2-1.自家中毒

子どもの血糖値の乱高下、特に低血糖によって引き起こされる病態の1つに、自家中毒、正式にはアセトン血性嘔吐症というものがあります。その症状は、腹痛と吐き気と頭痛。この頭痛は、交感神経優位になって筋緊張が起こっていることで起こります。一方、腹痛と吐き気は、消化機能が亢進している状態ですから、副交感神経の刺激が起こっているために起こっている。これは、血糖値を上げるためにアドレナリン、ノルアドレナリンが出ているのを、それをなんとか抑えるために、お腹が動き出している状態です。それでも追いつかなくなって低血糖症状が出ると、ウトウトと眠ったり、ぐったりしたり、さらには意識の混濁が起こってきます。

この自家中毒は、どちらかというと体の線が細くて繊細な子ども、消化機能が弱い子どもに多く見られます。タイミングとしては、風邪のあと、遠足や発表会など楽しいことをしたあとなどで、頑張りすぎて副腎に負担がかかってしまったときです。

  • 腹痛
  • 吐き気
  • 頭痛
  • その後何度も嘔吐
  • 眠気、ぐったり、意識混濁
  • 身体の線が細く繊細な子どもに多い
  • 風邪のあと
  • 遠足のあと
  • 発表会のあと

例えば、テンションの上がる日曜日、出かけた先で甘いものなども食べてはしゃぎまわった後、疲れて暴れたり、泣き出したり、わがままをいったり、さらには夕方にグズグズ泣いて倒れたりする子どもがいます。この時には、甘いものを食べて血糖値が上がり、はしゃいでさらに血糖値が上がって、暴れてもっと血糖値が上がる、そしてとうとう材料がなくなって低血糖を起こすということが起こっている。

元気な子ならば、肝臓や筋肉に入っているグリコーゲンで半日ほどもって、その間の脂肪代謝で残りの半日ももつーつまり、丸々1日食べなくても、エネルギー切れしないものです。ところが、調子の悪い子、もともと虚弱なタイプの子は、グリコーゲンへの代謝がすぐに切り替えられないだけでなく、グリコーゲンの量もとても少ないことが多いから、エネルギーが半日ももたない。そのために、大人と同じペースの食事タイミングだと、子どもはグズグズになって疲れてしまう。ハイテンションになっている午前中にはこの症状が見えませんが、元気だから大丈夫といって食べさせずにいると、夕方大変な目に遭うことになります。

余談になりますが、小さくて食が細くて、泣き虫でよく癇癪を起こす、風邪をひきやすいタイプの子は、よく副鼻腔炎や中耳炎になったり、すぐに肺炎になったりして、病院でメイアクトやフロモックス、オラペネム、トロミンといった抗生剤が処方されます。これらには消化管での吸収をよくするピバリン酸というものがついていているので、体内ではカルニチン抱合によって代謝しなければなりません。もともとカルニチンは脂肪をβ参加させてエネルギーをつくりだす役割を果たすものなのですが、薬を長期で服用しているとそちらに使われてしまう。しかも、まだカルニチン合成もうまくできない年齢の場合には、脂肪酸代謝ができずに低血糖発作を起こすことがあります。また、てんかんや頭痛のためにデパケンという薬剤を長く飲んでいる場合にも、発作の危険があります。子どもの場合は、低血糖を起こすと脳に影響が出やすいので注意が必要です。

2-2.低血糖と夜間の睡眠障害

夜寝ている間の血糖値は、副腎から出るコルチゾールと、脳の下垂体前葉から出る成長ホルモンで維持されています。このコルチゾールは、普通、昼から夜にかけて落ちていき、夜中から明け方にかけて上がっていき、朝8時くらいがピークになります。一方の成長ホルモンは、基本日中は低めで、夜中の2時くらいがピークです。つまり、寝始めから夜中の2時くらいまでは成長ホルモンが、夜中の3時くらいは両方が、明け方からはコルチゾールが血糖を維持しているということになります。

ところが、普段からストレスがあったり、炎症・感染・怪我などがあったりすると、副腎疲労を起こしてコルチゾールが足りなくなるために、血糖値を維持することができず、眠れなかったり、眠りが浅くなったりします。また、コルチゾールの絶対量は多くても、相対的な低下が起こっている人にも同じことが起こります。

ノンレム睡眠のとき成長ホルモンは多く分泌される

成長ホルモンは就寝後のノンレム睡眠という深い眠りのときに最も多く分泌されるので、夜更かししたり、深い睡眠がとれていない時にはしっかりとは出なくなります。例えば、日中に炭酸飲料をたくさん摂ってしまった、カフェインを入れてしまった、遅くまで目に光刺激を入れている、興奮するような動画を見た、日中疲れたり興奮しすぎた、貧血や亜鉛欠乏がある、怖い思いをしたなどといった場合です。このような過剰な交感神経刺激は睡眠を阻害し、成長ホルモンを出なくするので、成長に問題が出るだけでなく、血糖値そのものも不安定になります。

成長ホルモンが出終わったあと、コルチゾールがピークになる前、つまり夜中の3時頃は血糖が一番下がる時間帯です。夜更かしなどしてしまうと成長ホルモンが出ていないために血糖値がどんどん下がって、血糖値維持のためのアドレナリン、ノルアドレナリンがバンバン出る。そうすると、この時間帯に起きてしまったり、不安焦燥感や感覚過敏が出たりします。ちょっとした物音にも敏感になったり、よく分からないけど焦る感じ、ゾワゾワする感じもでてきます。

低血糖の状態を、24時間持続的に血糖値を計れるリブレという機械を使ってみてみましょう。

リブレの結果

この人、正常であれば朝ごはんを食べ後上がるはずの血糖値が下がっています。これだけ下がってしまうと体の調子が狂うので、血糖をあげるアドレナリンやノルアドレナリンがでます。こういうような人は、大抵、朝、倦怠感が強くあります。体温もうまく作れていないことが多くあります。そして、食いしばりがあるので、アゴとか肩が張っていることも多い。その他、動悸が出たり、悪夢を見たりもします。もし、朝起きた時に頭が痛い、肩が痛い、起きるのがつらいという症状があったら、ほぼ間違いなく夜間低血糖があります。

さらに、夕方にも低血糖を起こしています。これは午後にコルチゾール不足を起こして、さらに筋肉の中のグリコーゲンも、肝臓の中のグリコーゲンも空っぽになっている状態です。この人は夕食後に高血糖になっていますが、これは食後高血糖です。早食いや炭水化物メインの食事、耐糖能異常がある、血糖の上昇ホルモンが出ているといったような時に起こります。

また、これは別の人の例ですが、この人は朝6時頃と7時半頃に低血糖を起こしています。その間の1時間は二度寝をしていて食事をとっていないのに血糖値が上がっているので、グルカゴン、アドレナリン、ノルアドレナリンといった血糖値を上げるホルモンが出ているはずです。だから、交感神経刺激になって、眠たくて怠くて動きたくない状態になっています。アドレナリンとノルアドレナリンがドンと出ると、動悸、寝汗、悪夢が出てきます。夜中に寝汗をかくのは、ストレスが溜まっているときや体が弱っているときで、本人は暑いから寝汗をかいているということが多いのですけれども、大抵は血糖値の乱高下を疑います。

3.朝起きられない子どもと、その改善方法

3-1.朝方に起こるあかつき現象

明け方の時間帯に血糖値がふわっと上がる現象を、あかつき現象といいます。これは4つのインスリン拮抗ホルモンが生理的にそろって上がることによって起こります。

コルチゾール 夜から明け方にかけてじわっと上がる。
成長ホルモン夜中に出て、明け方になると下がって、昼間に少し上がる。
ノルエピネフリン日中のほうが高く出る。
エピネフリン日中のほうが高く出る。

健康な人の場合は、もし血糖値が上がりすぎてもインスリンでうまく調整し、十分量の血糖値も維持されるので、あかつき現象の結果として、朝になるとサッと気持ちよく、場合によっては飛び起きることがきます。大きな声で挨拶もできます。

夜間のインスリン拮抗ホルモンの推移

ところが、その一方で、目覚ましが鳴り続けていようが、どう起こそうが眠っていて、朝起きられない子どももいます。学校に行きたくないときには、目を覚ましてから布団の中でぐずぐずいうはずなので、これはそれとは違う。起きられない理由は、血糖値が上がらないから。このような時には、以下を疑う必要があります。

  • コルチゾールがうまく出ない
    副腎疲労や炎症がある、低栄養、血糖コントロール不良で日中にコルチゾールをたくさん使っているなど。
  • 成長ホルモンが出ず、睡眠障害がある
    過緊張、鉄や亜鉛の不足、セロトニンやメラトニンの不足。セロトニンやメラトニンの不足はビタミンB6によって起こっている可能性がある。
  • 緊張している
    鉄欠乏や低血糖、寒さや痛み、恐怖など。
  • ノルエピネフリン、エピネフリンが増えている
    副腎疲労や銅不足。副腎疲労がある場合は、アドレナリンの合成が低下するので、ノルエピネフリンが増えて、特に不安感特が強くなる。

3-2.低血糖で起こる、朝のソモジー効果

朝方の低血糖に対してインスリン拮抗ホルモンが出て、その結果として血糖値が上がっている状態のことを、ソモジー効果といいます。一般的にはインスリン注射をしている人に使う言葉ですが、実際には普通に生活している人の中でも近いことが起こっています。例えば、先ほどとり上げた二度寝の間に血糖値が上がっている人。もしくは、アルコール性低血糖で二日酔いになっている人。アルコールには、肝臓の中のグリコーゲンを分解してブドウ糖を放出するのを抑制する効果があるのでこのようなことが起こります。

あかつき現象とソモジー効果は、明け方に血糖値が上がってくるという点では、一見似ています。違いは、あかつき現象のほうがふわっと血糖値が上がってくるのに対して、ソモジー効果のほうはいったん血糖値が下がってからグッと上がってくるということ。そして、その結果として、あかつき現象では元気に起きられるのに対して、ソモジー効果では朝起きるときにつらさがあるということになります。ただ、血糖値を測った時に一回下がっている数字で出ずに、見た目上はとてもいい数字になっていることもあります。朝怠いのにリブレのグラフが真っ直ぐでおかしいというような人は、脈を計ってみてもいいかもしれません。

糖尿病の場合は、両方とも朝に高血糖が起こりますが、あかつき現象の場合は、インスリン不足があって、生理的な血糖値の上昇に耐えられない状態。一方、ソモジー効果は一旦低血糖を起こしてしまって、反応性の拮抗ホルモンが大量に出て血糖値が上がる状態なので、自律神経の症状が強く出ます。

糖尿病患者におけるあかつき現象とソモジー効果の違い
(日本糖尿病学会編・著『糖尿病食事療法のための食品交換表』 第7版)

3-3.朝血糖があげられない副腎疲労と、その改善

副腎疲労がある場合には、血糖値が上げられないので、あかつき現象もソモジー効果も起こすことができません。だから、当然、朝起きることができない。なんとかそれでも血糖値を上げようとして交感神経を刺激するので、お腹が止まってしまって、朝ごはんを食べることもできない。吐き気がすることもある。不安感がものすごく強い。怠さもある。強く出ている交感神経刺激を代償するために、お腹が動くので、腹痛が強いことも多くある。こういう症状の子どもたちには不登校が多いのですが、そんな時には「学校に行こう」という前に、その子の1日の血糖値の流れはどうか、甘いものやお菓子を食べて血糖値が乱れていないか、はしゃぎすぎていないか、情緒不安定がないかを確認してみてください。もしそれらの結果として、朝のぐったりがある場合には、無理やり学校に行かせるのは不可能です。

このような子どもには、まず、血糖値を安定させてあげます。血糖値を上げるホルモンが出るのをできるだけ少なくしたいので、外からゆっくり補給する。1回の食事量を少なめにして、回数を増やしていく。コルチゾールが減ってくるお昼以降は、なかなか自力で血糖値が維持できないので補食の回数を増やす。この補食には、ゆっくり消化されて少しずつ入るような葛粉などをボーンブロスに入れてポタージュのようにしたものがお勧めです。小さなおにぎりを、ゆっくり20~30分、場合によっては1時間くらいかけて食べるようにするのもよい方法です。個人差もあるので、もしリブレがあったら計りながら進めてみるといいかもしれません。こうすることで、コルチゾールのロスが減って、副腎に負担をかけなくて済むようになります。できれば、お昼すぎから寝るまでの間はこのやり方で血糖値を安定させることで副腎の疲れをとって、最終的には、普通の食事ができるところまで持って行きます。

血糖値が下がってしまう夜は、あまり症状が強い場合には途中で起こして、食事を取らせてあげるのもいい方法です。課題は夜間血糖を維持することです。

コルチゾールと成長ホルモンをしっかりキープしたいので、日中興奮しすぎない、ストレスをかけすぎないようにして、寝る前に炭水化物が少し入ったスープを飲んでみてください。かぼちゃとかじゃがいもの入ったお味噌汁でもOKです。また、BCAA(分泌アミノ酸)を使うと糖新生を起こしやすくなって、血糖値が安定する人もいます。ただ、副腎疲労が強すぎる場合には、BCAA単品で血糖値を安定させるのは難しいです。夜間には、温かくすることもすごく大事です。本人が寒いと感じると交感神経が働いてしまうので、その前に、背中側の首周りや肩甲骨、背骨回りを温めてください。ここには褐色細胞という細胞があって、体温を作っています。場合によっては、電気毛布や湯たんぽを、もし予算があれば、ウォーターベッドを使ってもらうのもよい方法です。

それでもうまくいかない場合-例えば炎症がとても強かったり、ホルモンの病気などがある場合ですがー、そのような時にはコルチゾールの薬を使うこともあります。そして、そこまでではないという時に役立つのが以下のような甘草の入った漢方薬です。甘草に入っているグリチルリチンという成分には、コルチゾールが代謝されないよう、できるだけ無駄遣いしないで残しておいてくれる作用があって、ステロイド剤の役目を果たしてくれるます。

補中益気湯、十全大補湯、人参養栄湯
芍薬甘草湯肩こり症状が強い、食いしばりが強い場合に使う。肩こりや筋肉の痙攣を取ってくれる。
甘麦大棗湯怖い夢を見る、悲しくなるなどメンタルにダイレクトに響く人に使う。
コルチゾールの手伝いをしてくれる漢方薬

ただ、グリチルリチンを使いすぎるとカリウムが減ってしまうので、できれば3ヶ月に1回くらいは血液検査をしたいですし、普段の生活でカリウムをしっかり摂るようにしてもらいたいと思います。また、補中益気湯や十全大補湯、人参養栄湯などは年単位で使うことも多いですが、芍薬甘草湯と甘麦大棗湯は甘草の量がかなり多いので長期的にはあまり使いません。

4.さいごに

成長期には、大人と比べて栄養の需要がとても多くなっています。

栄養を補給すればするほど身長が伸びて、さらに栄養の需要が増えます。特に、亜鉛や鉄分の消費が多いので、自律神経の乱れも出やすくなります。そういった時に一番大事なのが、普段の食事です。

もともと元気な子であれば、しっかり食べさせるだけでもよいですが、低血糖発作を起こしやすい子は胃腸機能が弱いことが多いので、回数を分けて少しずつ煮干出汁や、お味噌汁、スープをとってもらいましょう。お肉も、塊よりは、スープにしたり、細かく切ってあげましょう。お腹に負担がかからないような形で、こまめに、小分けにして、ミネラルやたんぱく質、糖質、ビタミン、いろんな種類を食べさせる。

こういった工夫をしていただくことで、子どもが朝元気に起きられるようになるといいなと思っています。

自分をもっとすきになる

小池雅美 · 2021年9月14日 ·

腰痛や頭痛、副腎疲労など、なかなか治らない症状を抱えてはいませんか?
なぜだかわからないけれど、キッチンに入ると動悸や息切れがするというようなことはありませんか?

このような場合には、自覚しにくい、分かりにくいストレスが隠れている場合があります。そして、その大元には、小さな頃のトラウマがある可能性があります。

今日は、なぜそのようなことが起こるのかを、自律神経の働きから学ぶとともに、トラウマや気づきにくいストレスを超えていく方法をお話しします。

そして、そうすることで自分をもっと好きになっていってもらえればと思います。

1.ストレスホルモンと副腎疲労

みなさんは、自分のことが好きですか?

ここに2組の親子がいたとします。

そして、娘たちは、少し変わったデザインだけれども、とてもお気に入りのセーターを見つけました。2人とも、ちょっといい気分になっています。その服を試着していると、1人のお母さんがやって来て、自分の娘に言いました。

「まあ、なんて素敵なセーター。これを選ぶなんていいセンスだし、これを着こなせるなんてあなたは最高。みんなに見せに行ったら?」

その娘は、ご機嫌になっています。

ところが、もう一人のお母さんは、自分の娘に言いました。

「なにそのデザイン、そんなのが似合うとでも思っているの?いつも無駄遣いばかりして、いい加減にしてちょうだい」

この娘は、気持ちが萎えています。

では、この2人の娘のうち、自分のことが好きなのはどちらの子でしょうか?

そして、この時、2人の自律神経、脳内伝達物質はどのようになっているでしょうか?

1人目の娘の脳内には、報酬系といわれる神経が刺激されたときに出るホルモン、セロトニン、オキシトシン、エンドルフィン、ドーパミンがでています。

2人目の娘には、苦痛系の神経が刺激されたときにでるアドレナリン、ノルアドレナリン、コルチゾールといったストレスホルモンがでています。ストレスホルモンというのは、例えば、とても暑い、寒い、気圧の変化が激しいなど周りの変化が大きい時に、これに対応して体を調整をしようとしてでるホルモンです。

基本的には、緊急事態にだけ使うもので、これがあることで人間は生き延びることができます。

ところが、ストレスホルモンによって苦痛系の神経が刺激さ続けてていると、筋緊張から、頭痛や肩こり、腰痛などが出てきます。性ホルモンもうまくでないので、月経不順やPMSが出てきます。免疫の不調からアレルギーなどの自己免疫疾患も出てきます。消化機能に異常が出て、便秘や下痢を繰り返すこともあります。その他、動悸や不眠、過呼吸、脂肪肝、がん、倦怠感なども起こってきます。

こういった不調を引き起こすこともあるストレスホルモンは、副腎で作られています。

そして、ストレスホルモンを出し続けなければならないような状態が続くと、副腎が疲労してきます。最終的に、慢性的な疲労に陥った状態を、「副腎疲労」といいます。

副腎疲労の原因
  • 炎症
    特に見逃されがちなのは、痛みのないもの、脂肪肝、リーキーガット、神経を抜いた歯の根っこの炎症、上咽頭炎など
  • 化学物質、重金属の体内蓄積
    特にアマルガムの蓄積が有名
  • 生活習慣
    睡眠不足や残業、夜更かしなど
  • 食事によるストレス
    糖質の過剰摂取、カフェインの摂取、消化できる以上のたんぱく質を摂ったとき
  • アレルギー疾患
    ぜんそくや花粉症など
  • 精神的ストレス
    大切な人の死、経済的な問題や人間関係など

では、副腎ではどうやってコルチゾールを作っているでしょう。

まず、副腎がコレステロールを取り込み、プレグネノロンに変わります。ここから2つのルートに分かれて、一つはプロゲステロン、もう一つはDHEAです。

DHEAはテストステロン、エストロゲンといった性ホルモンを作りますし、プロゲステロンはさらに変化してコルチゾールを作るようになります。

プロゲステロンとエストロゲンは女性にとって特に大事なホルモンで、副腎だけではなくて卵巣でも作られており、子宮内膜に影響しています。

女性の子宮内膜は月経によって剥がれ、月経血として排泄されています。そして子宮内膜を度再生するときにエストロゲンが使われます。そして、プロゲステロンが受精卵の着床に適した状態を作っていきます。ということは、この2つがしっかり作れていることは妊娠に関係してくるということになりますから、副腎疲労のある人が妊娠しにくいのは、このホルモンが関わってるからです。

また、もともと卵巣機能が十分であればこの2つのホルモンが作れますが、更年期状態に入り、卵巣の機能が落ちてくると、この2つのホルモンを副腎で作り始めます。この移行期がうまくいかないと、更年期症状が強く出ることがあります。

副腎で作るホルモンはたくさんあります。

これがうまく作れないとき、ストレスがかかったときにはコルチゾールがたくさん出てなんとか対処しようとします。ただ、ストレスが長く続いたときはずっとコルチゾールを作り続けなければならないので、副腎の中のコレステロールはほとんどがコルチゾールに流れていき、性ホルモンに流れる量が減っていきます。なぜなら、コルチゾールがなくなると生命にダイレクトに影響しますが、性ホルモンはすぐには影響しないからです。このため、ストレスが溜まってくると性ホルモンが作られず、性欲の低下が起こります。このコレステロールがコルチゾールのほうにどんどん流れていくのを、コルチゾール・スティールといいます。

このコルチゾールを検査する方法があります。専門のクリニックでの検査のほか、Amazonで検査キットを買うことができます。

これはコルチゾールとDHEAを調べるキットで、唾液を調べる検査です。

このグラフはコルチゾールの日内変動を見ています。
朝の8時にピークになり、そこから夜に向けてどんどん下がっていき、真夜中で一番低くなってから、また8時に向けて上がっていきます。コルチゾールの検査は朝8時から真夜中までの間を調べます。

この水色の中に入っていれば、基本的に正常とカウントします。

もし一過性のストレスがかかった場合、DHEAのほうに回す分をコルチゾールに回すため、プロゲステロン、コルチゾールが増えていきます。この時、一次的にコルチゾールが上がるため、日中は意外と元気なため、本人は元気だと思っています。しかし、だんだん足りなくなってくると、カフェインや甘いものを摂ったりしだします。

しかし、このときには自覚症状がないので病院に来ることはまずありません。

どんどん副腎が疲れてきてコルチゾールが不足してくると、元気がなくなってぐったりします。これは、コレステロールがもともと低い人もこういう傾向があります。
コレステロールが作れないだけではなくて、コレステロールを下げる薬が効きすぎている場合も要注意です。

コルチゾールにはいろいろな作用がありますが、ここで重要なのは肝臓での糖の新生です。

では、血糖値を上げるホルモン、どんなものがあるでしょう。グルカゴン、アドレナリン、ノルアドレナリン、コルチゾール、成長ホルモン、甲状腺ホルモン、ソマトスタチン、アルドステロン、多くのホルモンが血糖値を上げてくれます。

どうやって上げているかというと、肝臓の中にはグルコースが鎖状になったグリコーゲンがあります。グリコーゲンは、このままでは血糖値になれないので、これらのホルモンが出ることによってグリコーゲンが分解されて血中に入り、血糖値を上げることができます。ということは、体中のグリコーゲンがなくなったら、血糖値を上げることができないということになります。グリコーゲンがしまってあるのは肝臓、そして筋肉です。脂肪肝などで肝臓が悪い人や筋肉量が少ない人は、グリコーゲンがもともと少ないので、血糖値を上げにくい状態が続いています。

では、血糖コントロールはどうなっているのでしょうか。

血糖値は、食事をした場合、大体70~139の間に留まっています。食べるたびに血糖値が上がって、インスリンの作用で下がります。そして、夜の間は食事をしなくても血糖値が保たれています。

これにコルチゾールの日内変動を重ねてみると、朝はコルチゾールがしっかり出た後、だんだん下がって、夜中の間は少しずつ出ています。つまり、コルチゾールが保たれていれば、夜中の血糖値は安定して保たれることになります。夜中はご飯を食べないので、血糖値を上げるホルモンがしっかり出ていることが大切です。

ところが辛いことがあってストレスが溜まっている場合、コルチゾールのロスが起こってだんだん下がっていきます。すると日中、夜間ともに血糖値が保たれなくなるため、なんとか正常値に戻そうと、違うホルモンが手伝ってくれることで、血糖値が保たれます。このホルモンがアドレナリン、ノルアドレナリンです。

この2つのホルモン、普段は戦ったり逃げたりするときに使われるホルモンです。ほどよく出ていれば、やる気と気合いになりますが、出すぎた場合は怒りやイライラ、不安や焦燥感、不眠、動悸、高血圧、高血糖にもなります。

2.過去のトラウマからくる Freeze や身体の緊張

外来にきた冷蔵トラック運転手の女性は、なかなか治らない腰痛を抱えた方でした。腰痛のためにサポーターを使ったり、温めたり、他の病院で処方された痛み止めを使ったりしています。

まずは、仕事中にとっているカフェインを止めてもらいました。

しかし「毎日疲れが抜けない」というので、お休みの日に何をしているのか聞いてみました。すると、「土日はいつも、夫と一緒に釣りに行っている」と言います。それも、「夫を釣り場に送り迎えしている」のです。いつも疲れが抜けないのにそうまでしている理由は、「自分が釣りに行かないと、夫が怒りそうだから。機嫌を損ねそうだから」だそうです。

そこで、「疲れているから、行かないと言ったことはありますか?」と聞いてみると、言ったことはないといいます。

ですので、処方箋として「私は疲れているから、自分で運転して行ってください」と言葉にして言うようにしてもらったところ、これだけで次の診療までに腰痛が治っていました。

けれどもしばらくすると、今度は膝の痛みが出てきました。
もう一度話を聞いてみると、勤務がほぼ毎日なうえに、なかなかシフト通りには運転できず、他の人が休んだときに代わりにシフトに入ったり、他の人があまり行かない遠くに行かされたり、時間帯も遅かったり早かったりなど、都合のいいように使われているといいます。でもやはり、それを断ったり、シフトを変えてくださいと言ったり、残業代や給料を上げてくれと言葉にして言うことができないと言います。

この患者さんの問題点は、夫にも仕事先にも何も言えないことです。

何も言わなければ、夫も会社も、この方が満足していると思い込んでしまうので、外から見ると問題な何もないことになってしまうわけです。けれども、患者さんのほうは、誰も分かってくれないし、守ってもくれないと思っている。

’’誰も守ってくれないということは、自分の身に危険が迫っている’’ということなので、体がそれを感じてガチガチに固まり、腰やひざに痛みが出ていたというわけです。

人間の身体は、危険を感じると交感神経優位になって「Fight(戦う)」の状態に、これができない時には「Flight(逃げる)」の状態になります。これは、どちらも体を動かして生命を維持しようとする機能です。

けれども、FightもFlightもできない時、副交感神経優位の「Freeze(固まる)」という状態になります。これは、危険なのに動かなくなってしまう状態です。

Fight,Flightは交感神経優位で起き、Freezeは副交感神経優位で起こる

例えば、カエルが散歩中に蛇にあったとします。

この時、あまりに驚いたせいで、カエルが戦うことも逃げることもできずに気を失ってしまったとしましょう。そうすると、ヘビはカエルに気がつかずに通りすぎてしまう。つまり、カエルは意識を失うことによって命が守られたーということになります。
動かなくなるというのも、身を守る手段の1つというわけです。

また、貝の仲間のホタテは、いじめられると貝殻を閉じてじっとしています。いじめた相手に襲いかかったりせず固まってしまうので、おいしく食べられてしまうわけですが、これは体をガチガチに固めてFreezeすることで、せめて痛みがないようにしたい、あるいは、うまくいけば敵からの攻撃を最小限にするためのものです。

先ほどの患者さんも、今日は釣りに行きたくないとも、シフトを調整してくれとも、お給料を上げてくれとも言えない、つまりFreeze固まっている状態です。どうして言えないのかというと、ここは危険だと判断しているからです。

表層意識では怖いとは思っていないのですが、危険だという判断に体が反応してギュッと力を入れ続けているので、腰痛や頭痛が起こります。体が緊張しているので、不眠や不安が起こります。

この方の場合、実は、大元の原因は、お母さんとの関係性にありました。

お母さんがとりあえず文句を言う、そして逆らわせないタイプの人だったそうで、それがトラウマになって体がFreezeする、世界は危険だというふうに体が認識してしまっていました。頭では分かっていても体が反応する、これが自律神経の記憶です。

そして、この患者さんのように嫌だと思うことが日常になっていると、嫌だと思っていることすらも忘れて、本人がそれを自覚していないことがあります。つまり、ストレス自体なかったことになっている。

こういう場合には、「何がストレスですか?」と聞いても本人には答えられないので、問診がとても大切になります。

3.命の危険を感じたときに働く、お腹の副交感神経とFreeze

Freezeの状態をつくる副交感神経は、体を調整する自律神経の1つです。そして、体をリラックスさせるという、もう1つの機能も持っています。

この副交感神経、今までは単純に、交感神経とバランスを取っているだけのものだと思われていましたが、最近では、副交感神経にも2種類あることがわかってきています。これはポージェス博士が提唱したもので、ポリヴェーガル理論というものです。

ステファン・W・ポージェス (著)ポリヴェーガル理論入門

まずその1つが、主にお腹を司る副交感神経で、内臓機能、消化機能を調整しています。消化機能というのは進化の一番最初の頃にできるものなので、この副交感神経は進化の初期からの古い神経ということになります。

もう1つの副交感神経は、心臓を含めた胸から上の調整をしています。

調整しているのは主に三叉神経、顔面神経、舌咽神経、腹側迷走神経といわれるもので、鼓膜や顎、中耳、表情筋、喉、心臓気管支、一部は心臓を調整しています。この神経によって、声や表情、呼吸の調整ができますし、さまざまな音を聞き分けることができます。そして、この神経は、もともと魚のエラの部分を支配していたもの、つまりエラがなくなってから発達した新しい神経系でもあります。

2つの副交感神経。1つは主にお腹、もう一つは胸から上を調整している。

人間の神経系は、まずお腹を支配する神経ができた後、外界と接するようになって、戦う神経や逃げる神経ができてきます。そして、社会でのコミュニケーションが必要になった時に、首から上の副交感神経を発達させるようになります。

この首から上の副交感神経がしっかり働けるのは、周りが安全な時。

周りが安全と分かると、首から上の副交感神経が、お腹の副交感神経と交感神経の両方の調節をして、リラックスと消化、緊張と活動の両方を調整するので、楽しみながらおいしいものを食べるということができます。

ところが、安全を脅かされた時、戦うのも逃げるのも無理だと分かった時には、お腹のほうの副交感神経の一部を頑張って働かせようとします。命に関わるほどの危険が差し迫ったとき、お腹の副交感神経が一生懸命働いて体をシャットダウンさせ、硬直させます。体中をストップさせるので、呼吸停止、徐脈から心停止が起こります。呼吸と心臓、これはもともと首から上の副交感神経が調整していたところです。この調整がなくなったので、お腹の神経の威力が大きくなって止まってしまうということです。

新生児の突然死症候群は、もともと首から上のほうの神経がまだ発達していなくて、お腹の神経が優位になっているところで、お腹の副交感神経が激しく動いてしまうことが原因と考えられています。

これに関連したもので、赤ちゃんの原始反射の1つに「恐怖麻痺反射」というものがあります。この反射が作られるのは、だいたい妊娠5~12週、赤ちゃんが2㎜から6㎝くらいの時、まだお母さんが妊娠に気づくか気づかない頃といわれています。

この時期に、母体にストレスがかかったらどうなるか。母体にストレスがかかった状態というのは、コルチゾール、アドレナリン、ノルアドレナリンがたくさん出ている状態です。

例えば、貧血や低血糖があるとき、カフェインやニコチンを摂っているとき、痛みや炎症があるとき、怪我をしたとき、家庭環境や社会環境が悪いときなどです。

ストレスホルモンが血流に乗って赤ちゃんに届くと、赤ちゃんの体にはストレスがずっと持続します。そして、体を守るためにお腹の神経が働いて、体をギュッと固めて丸くなります。これでなんとか生き残ることができると、次第に消えていくはずのこの反射がずっと残存することになります。ストレスがかかるごとに体をギュッと固める結果として、お腹の動きが過剰になったり、背中の筋肉がガチガチになったり、人前に出るとしゃべれなくなる場面緘黙などが起こります。

泣き叫んで動かない子どもも、このバリエーションです。いってみれば、胎児期からストレスがある状態、つまり生まれる前から副腎疲労のある子どもも存在するということになります。

赤ちゃんはもともと体を丸めて、グーッと前かがみになっています。だんだん成長してくるとハイハイをし、背中を反らせて首を上げ、頭を上げて、見る機能を発達させていきます。さらに、赤ちゃんが立てるようになるためには、背中の筋肉がグッと伸びることが重要です。背中の筋肉がグッと伸びていないと人間は立つことができません。

では、成長した普通の人が首をすくめる姿勢をとったときに、何が起こるでしょうか。

首をすくめるというのは、首と頭の筋肉が収縮しているということなので、脳はこれを

「前かがみだぞ。これは、怖いことがあったときの姿勢だ。今きっと怖いことが起こっているに違いない」

と判断します。例えば、スマホをずっと見ているとき、うつむいているときなども、同じように判断します。そして、脳は何か準備をしないといけないと考えて、副腎からたくさんのホルモンがでることになる。つまり、普段から前かがみ、姿勢が悪い人は恐怖の反応が出やすい状態が整っているということになります。

恐怖麻痺反射などについては、「のうみそとからだをつなげよう」にも詳しく書かれていますので、ぜひあわせてお読みください。

4.「なんとなくキッチンが嫌い」な人に起こっていること

ストレスには2つの種類があります。

1つ目は、わかりやすいストレス、例えば嵐で家が壊れた、火事になった、事故に遭ったというように原因がはっきりしているものです。この場合は、本人自身が何がストレスかを自覚しているので、カウンセリングをするにしても、体のケアをするにしても、対策は立てやすくなります。

2つ目は、わかりにくいストレス、特に本人が自覚していないストレスです。

例えば、キッチンが嫌いという人がいます。

なぜだか分からないけど、キッチンに行くのが好きでない、お料理をするのが嫌いで、ここに入ってくると恐怖感や不安感、焦燥感、絶望感、罪悪感が沸いてくる。その延長で、動悸や頭痛、倦怠感、イライラ、肩こりも起こってくる。本人自身、キッチンに入ることそのものは危険でも何でもないと分かっているので、こういった精神や体の症状に対しても、自覚がない。けれども、そもそもキッチンというのは、以下のようなさまざまなストレスや嫌な記憶が紐づけられた場所です。

  • お腹が空いてから、つまり低血糖になって、交感神経が優位になってから入る
  • 火を使うけれども、換気扇を使うので温かい空気は上に流れて、外からの冷たい空気が足元に入ってきて、足が冷える
  • 調理する素材は大抵冷蔵庫に入っているので、冷たいものを触らなければならない
  • 水を扱うので手が濡れる、もたれかかって調理をする人の場合はお腹も濡れる
  • 冷蔵庫や換気扇、ガスコンロ、水道などいろいろな音、ノイズがある
  • 料理も一品だけ作るわけではないので、マルチタスクが要求される
  • お腹が空いている人が待っているので、急かされる
  • たとえ家族が居間でおしゃべりしていても、自分だけは作業をしなければならず、疎外感がある
  • 子どもの頃、低血糖でイライラしているお母さんが時間に追われてご飯を作っていた記憶がある
  • 場合によっては、「男は入るものではない」と言われて、入ると怒られた記憶もある
  • 男尊女卑の強い家の場合、女が料理をして当たり前と命令されて入る場所としての認識がある

そして、これだけストレスの条件と嫌な記憶が揃っているのにその自覚がなく、ご飯を作らなければならないという義務感がある。義務感はあるけど、私が作るのが当然とも思っている。このストレスが常に、日常に組み込まれているのがキッチンというわけで、ここから「なんとなくキッチンが嫌い」という状態が生まれることになります。

記憶というのは、体感や自律神経とリンクしています。特に命にかかわるような危険な記憶は、恐怖とリンクしやすくなっています。これは人間が生き残るための大事な戦略ですが、過剰に働いてしまうと生きにくさの原因になります。けれども、どの記憶を残すか、自分がどのように振舞うかの決定権は自分にありますし、記憶を書き換えることも可能です。

では、なんとなくキッチンが嫌いな人が、どうしても料理を作らなければならない場合はどうしたらよいでしょうか。

  • 足元を温める
    まず足元を温めるところから始めてもらいたいと思います。靴下をはく、カーペットを敷く、今は濡れても大丈夫なホットカーペットがあるのでそれを敷いてキッチンに立つ、これだけでもずいぶん楽になります。
  • 可能であれば、食器洗浄機を使う
    誰かに手伝ってもらうなどして作業を減らします。
  • キッチンに入る前には補食をとる
    働いている人の場合は、買物の前にも軽く補食をとって、血糖値を安定させておきます。
  • ノイズキャンセリングのヘッドホンを使う
    ノイズをシャットダウンするのも1つの手なので、ノイズキャンセリングのヘッドホンを使うと作業が楽になります。ただし、物によっては警報音が聞こえなくなるので注意してください。

5.症状が治りにくい人特有のセルフイメージ

治りにくい人のキーワードというものがあります。

例えば外来で、

「どうなりたいですか?」

と聞くと、

「元気になりたい」「健康になりたい」「疲れにくくなりたい」

と答える人です。

こういう人は、実は自分のことを「私は不元気」「元気ではない」「疲れやすい」と思っています。

「今は元気ではない」「今は疲れやすい」というように、「今は」とつく場合は、もともとの私は健康である、私は元気であるというセルフメージがあるからよいのですが、「今は」がない場合はもともとのセルフイメージが狂っている、ということになります。

セルフイメージというのは、私とは、私の存在とは何かということです。

このセルフイメージ、「私とは」という思いは、服装や態度、行動に出ます。

「私は疲れやすい」といつも思っている人は、全ての行動をその前提でしています。仕事も、人間関係も、学習も、趣味も、私は疲れやすいという前提で選んでいきます。

例えば仕事を選ぶとき、「私は疲れやすいから、高い時給では働けない」と思っています。勤務時間についても、「どうせ私は疲れやすいから、短い時間で働こう」と思っています。「私は疲れやすいから辛い仕事はダメ、楽な仕事を選ばなければならない」と思っています。

さて、人間は褒められると、脳の一部が活性化します。

脳の真ん中にある大脳基底核、その中の線条体という部分です。この線条体は、運動の開始・持続・コントロールをするところ、つまりやる気スイッチそのものなのですが、お金をもらった時にもここが活性化します。これは、お金をもらうことで、自分が褒められている、自慢ができる、価値があると思い込むことができるからです。本来、お金と自分の価値との間には何の関係もありませんが、脳の働きによって、「お金=自分の価値」と思い込む人がたくさんいます。その結果、お金がもらえないのは悪、時給が低い私はダメ、働けない自分には価値がない、そのような意味になっていきます。

「私は疲れやすい」と思っている人は、このようなプロセスで自分には価値がないと思うようになっていきます。

でも、そもそもお金とは、野生動物であれば獲物を取る能力のことです。野生動物であれば、獲物を取れるかどうかが自分の価値になるわけです。ところが、お金は、獲物そのものではありません。文化が作ったものなので、自分の価値をそこに当てはめることには問題があります。

人によっては、「人気=自分の価値」と思い込むこともあります。

InstagramやFacebookで「いいね」をもらわないと不安になる人、YouTubeで登録者が少ないと自信がなくなる人がそうです。テストの点数が悪いと、自分自身の価値がないと思い込む人もいます。配偶者の稼ぎや社会的地位を、自分の価値と紐付ける人もいます。家族が立派かどうか、自分の知り合いに有名人がいるかどうかを、自分の価値と紐付ける人もいます。

もしそうでないと自分の価値がないというのであれば、赤ちゃんには全く存在価値がないということになります。なぜなら、赤ちゃんには、収入も、社会的な人気も、配偶者もいないからです。もちろん、テストを受けることもできないし、知り合いや配偶者もいません。

もし自分に価値がないと思ったら、赤ちゃんと比べてみてください。

歩くこともできるし、話すこともできる。自分の意見をきちんということもできる。自分が持つ、その素晴らしい価値を思い出してください。

また、服装や態度・行動に現れるセルフイメージは、服装・態度・行動を変えることで、変えることもできます。

6.思い込みや記憶が症状をつくる

ここで、思い込みや記憶からさまざまな症状に悩んでいた人の症例を紹介します。

【症例1】

めまい、食欲低下、胃腸機能低下の症状に悩む、60代後半の女性。

話を聞くと、「ストレスが多くて」と言います。よく聞いてみると、「80代の姑に、自分は絶対に勝てない」と思い込んでいます。

この方には、あるイメージをしてもらいました。昭和の応接間にあるようなガラスの灰皿を手に持って、後ろから姑にそっと近づいて、その灰皿を振り上げるイメージです。そして、「どちらが強いですか?灰皿を持っている自分、後ろを向いている姑、どちらが強いかよく考えてみましょう。」と言った瞬間、この方は急に笑い出しました。

これは、自分が姑に勝てないと思っていたのは、ただの思い込みだったということです。体調というのは、イメージだけで十分に変えられます。

【症例2】

ぐったりとして、倦怠感が強い方。

仕事が忙しくて休めず、補食もとれずにいます。「疲れて動けないけれど、休むと周りに迷惑がかかるので、休めない。」と言います。けれども、この人は、そもそもどうして仕事が忙しいのでしょうか。他の人は早く帰っています。きちんと仕事を終わらせています。

この人だけが忙しい理由、それは仕事を断らないから、嫌だと言えないからです。休むことができないのは、勝手に周りに迷惑がかかると決めつけて、休みたいと言わないからです。補食が取れないのは、補食を取っていいかどうか聞いていないからです。周りの人には「こういう人は断らない」とばれているので、仕事をどんどん押し付けられるわけです。もちろん、周りは「何も言ってこないので、問題ない」と思っています。

【症例3】

自律神経失調の症状が続く男性。

この方のご両親は仲が悪く、子どもの頃にお父さんがお母さんに暴力を振るっていました。

この方の根底には、「お母さんを守れなかった」という無力感がありました。だから、仕事の仕方が自己犠牲前提で、たとえ休日でも体調の悪い人がいたりするとどんどん仕事を取ってしまいます。そして、自分の給料を上げられない、お客さんからお金を取れない、自分が頑張るべきである、自分が我慢しなければならないと思っている。そうしないと、自分の価値が認められないと感じていました。

この方の場合は、お母さんへの不信感も強くありました。それは、記憶の中で「お母さんは、大切な人を守ってくれない存在」だったからです。さらには、「家族は我慢するもの」「夫婦や家族は傷つけあうもの」という刷り込みが、「男性である自分は、好きな人を傷つけるに違いない」という認識もあるので、結婚にも踏み出せません。

【症例4】

頭痛、立ち眩み、倦怠感がひどく学校に行けない一人暮らしの女子大生。

血液データは、低血糖、中性脂肪が低値、鉄欠乏傾向、甲状腺機能がやや低値、低たんぱく傾向という副腎疲労の症状です。お母さんは、おかずを作って持っていたり、こまめに連絡をとるなどとてもいいお母さんです。この2人は仲良し親子で、お母さんは娘大好き、お嬢さんは、お母さんはとても優しいと言っています。

ところが、このお母さん、同じ外来に数年前から通っていて、食事指導、生活指導、内服処方を受けているにも関わらず、お嬢さんと一緒に外来に来ると「じゃあ病院が終わったら一緒にパンケーキを食べて帰ろうね」と平気で言います。それはなぜかというと、子どもに甘い物を食べさせる、いいお母さんになりたいからです。

この場合、お母さんに何か問題があるはずなので、家庭について聞いてみると、モラハラのご主人と口うるさい姑がいました。あれこれ言われたくないから黙って「はいはい」と我慢して言うことを聞いていると言います。つまり、この家族の中で頑張っている私はすごいと思っています。

お母さんのそばにいるのがモラハラのお父さん、この2人の関係をお嬢さんはずっと見ています。お母さんは首から上の自律神経が動かず表情が動きませんから、子どもは危険な状態だと認識します。つまり、大人になること、妻になること、嫁であること、結婚することが危険だと認識します。好きな人と結婚して優しい家庭を作りたいと頭ではわかっていますが、本能であるお腹の副交感神経がこう反応をするように体ができあがってしまっているわけです。

お母さんは、娘の面倒を見なきゃと思って嬉しそうですし、自分は優しいお母さんだと思っています。お母さんがニコニコするためには、お嬢さんは守られなければいけない状態でずっといなければなりません。つまり、自分が病気であるとお母さんは安全であると判断します。娘の世話が私の生きがいで、娘が病気だと自分の自己肯定感が上がります。そしてお嬢さんは、自分が病気だとお母さんが喜んでくれると思っています。この状態を「共依存」といいます。

共依存関係にある親子の場合、治ると困ってしまいますので、病院に行っても絶対に治りません。治りかけると必ず健康状態を崩すようなことを起こします。

成長するための独り立ち、好きなことをしたい、恋をしたい、この反応をもう1つのお腹の意見、病気ならお母さんが喜ぶ、1人暮らしはお母さんが悲しむ、結婚は辛いという思いが止めているわけです。この思いがずっとあると体は緊張状態、ストレスホルモンが出ます。その結果、副腎疲労を起こします。

他人がどう反応するか、これで自分の行動を決めるのを外的基準といい、自分がどうしたいか、自分で選択するのを内的基準といいます。

自分で選択することが大切です。

外的基準は、“しなければならない”義務感です。義務と欲求の両方がある状態の場合、どうしたらいいのか分かりません。でも、体のほうは外的基準、義務感のほうに引っ張られます。その結果、私には選ぶ力がない、好きなことを選んではいけないと思いこみます。

お母さんは、娘が病気だとニコニコしながらも、「早く良くなってね」という異なるものを同時に子どもに言うわけですから、子どもは「どっちの言うことを聞いたらいいの?」いつも悩みます。元気になってもいけない、けれど病気になってもいけない…、これが二重拘束です。これがずっと続くと心が張り裂けてしまいます。

この治療法はどうしたらいいでしょう。

この場合、まずそのお母さん、このお母さんとさらにまたお母さんとの関係を洗い出してみます。ここではお母さんと言っていますが、主に養育に関わった人です。ですから、保育士さん、ベビーシッター、場合によってはお父さん、親戚の人、おじいちゃんおばあちゃんのこともあります。

ここで絡んでくるのは栄養状態、ピロリ感染、社会情勢、文化などです。

今、大学生くらいの子どものお母さん、さらにそのお母さんとなると大抵戦中か戦後に生まれた人が多いです。ということは戦時中の社会情勢、食べ物が足りない、栄養状態が悪い、ストレスが多いという状態になります。

おばあちゃんが妊娠していたとき、お母さんがまだ胎児だったとき、この体の中に、孫にあたる人の卵細胞ができています。ということは、このときにストレスがかかると、いろいろな栄養状態、ストレス状態、これが遺伝子に反応されます。遺伝子そのものは変わりませんが、そのスイッチになるメチル基の位置が変わってきます。ですから、おばあちゃんのストレスというのは孫に関わってきます。自分のストレスが親子3代に響いてくるということになります。

7.トラウマを終わらせる

おさらいになりますが、自律神経には交感神経と副交感神経がありました。

ストレスがかかったとき、自律神経はそれを調整して整えようとします。そして、Freezeに作用する副交感神経には、2種類あることが分かってきています。

1つはお腹を支配する副交感神経、もう1つは首から上の新しい副交感神経です。

後者の「首から上の新しい副交感神経」は、話し合いや調整をします。これがしっかり働いているとき、体にはほどよい緊張とほどよい安静があります。つまり、楽しい活動をしながら、お腹もしっかり動くことができる。危険なことがあっても話し合いで済ませることができる。シャットダウンと戦う、逃げる、これを動かしすぎない、ちょうどいい時期に置いておくことができます。

ただ、この首から上の副交感神経が働くには条件があります。

「自分のいるところが安全であると、本人が安心している。」ということです。

外的環境でいえば、暑すぎない、寒すぎない、内分泌系がうまくいっている、血糖値が安定している、心地よい音がしている、柔らかくて温かい手触りがするなどの時です。その逆に、暑い、寒い、内分泌系の異常、血糖値の乱高下、うるさいノイズ、低いうなり声のような音、痛い手触りなど、危険が感じられるときにはシャットダウンするか、戦うか逃げるかになります。どれを選択するかは、危険度によって体が自動選択します。自分の意志で選べるわけではありません。

ただ、「何を危険と感じるか」については、とても個人差があります。

普通の人がなんとも思わないことでも、自分には命の危険があると判断することもあり、この時にはシャットダウンに動きます。

冒頭のお気に入りのセーターを着たい娘のところに、また口うるさいお母さんがやって来ました。でも、娘が自分は安全だと思っている場合には、お母さんが何か言って少し萎えたとしても、そのセーターを着ていくことができます。怒りもシャットダウンも、コントロールできます。お母さんなんか無視して、自分自身の選択で着ていくことができます。さらにお母さんが嫌なことを言ったときには、ひどくムカついて、「うるせえ、ババア」と言ったりして、さっさと遊びに行くこともできます。

戦う、逃げるがきちんと選択できるわけです。

ところが、お母さんが毎回嫌なことを言ってきて、もう逆らえない、何を言っても無駄だと思ったときには、シャットダウンのほうが働きます。口ごたえもしなくなって、お母さんの言いなりになります。このような状態に対して世間がいい子と判断している場合には、お母さんも本人もこのシャットダウンに気づかないことがあります。いい子が危ないというのは、このシャットダウンが効いてしまっている場合のことです。

このシャットダウンや硬直は、恐怖対象の記憶、恐怖環境の記憶がベースになっています。何を記憶するかには個人差がありますが、Freezeをすることによって自分の命が助かったという記憶と、すべてを止めることで生き残ることができた、生存率を上げることができたという成功体験は共通します。このシャットダウンと硬直によって、子供の成長と発達は止まります。

けれども、その記憶は、今でも必要でしょうか。

生存率をアップするには、そのような方法をとるのではなくて、安心・安全な状態に体を持っていっていくという方法をとってもらいたいと思います。安心・安全であれば、首から上の副交感神経がきちんと働けて、表情も豊かに表現できるし、ご飯を食べることもできる、声を出すこともできる、コミュニケーションもうまくとれます。

そのためにしてほしいのは、まず、記憶の再確認、再調整、そして言葉の再定義です。

例えば、「夫婦」という言葉を聞くと、先ほどの症例3の男性の場合は、“喧嘩をするもの”と定義・認識しています。でも本来はそうではありません。自分が作る仲のいい関係、これが夫婦の定義で構わないわけです。

次にしてほしいのは、首から上の使い方の調整です。無理矢理にでもいいから笑ってみる、声を出してみる、歌ってみる、こうすることで副交感神経をしっかり使う訓練ができていきます。

トラウマを持っている方はたくさんいます。

特にFreezeするタイプの方はずっと体が硬直していて、その記憶が残っています。

しかし、それを安心・安全と感じられるようになることで、いつの日か自分が好きと言えるようになってほしいと思います。

胆嚢(たんのう)と胆汁のキモ

小池雅美 · 2021年8月18日 ·

「消化管の話はよく聞くけれど、胆嚢についてはあまり聞いたことがない。」そういう人は、案外多いのではないでしょうか。ところが、最新の研究では、胆汁にはそれ以上の、驚きの働きがあることが見えてきています。また、胆汁酸については、胆嚢だけでなく、脳内でもつくられているということもわかってきました。

胆汁酸を活用した薬やダイエットサポート薬についての研究も、日々進んでいます。今日は、そんな胆嚢と胆汁について、基本から最先端の情報までを見ていきたいと思います。

1.たんのうと胆汁

1-1.たんのうと胆汁

「たんのう」は、漢字で書くと胆嚢、胆(キモ)の嚢(フクロ)と書く臓器です。人間のお腹の中のだいたい真ん中あたり、肝臓の後ろ側にあって、洋梨のような袋型で、緑色をしています。

中には胆汁を貯めていますが、この胆汁は肝臓で作られて、左肝管、もしくは右肝管を通じて総肝管、次いで総胆管に入り、さらに胆嚢管を通じて胆嚢に入ってきます。

貯められた胆汁は、胃の中の食べ物が十二指腸に流れてくる刺激ででたコレシストキニンというホルモンによって胆嚢がぎゅっと縮むことで、ファーター乳頭から十二指腸に出ていきます。このファーター乳頭には、オッディ括約筋という普段はその穴をギュッと閉じておく筋肉がついています。

実は、胆汁は肝臓で作られて胆嚢に入っていくときにも、胆嚢からファーター乳頭にでていくときにも、胆嚢管を通ります。つまり、胆嚢管は尿管や膵管などと違って、一方向だけに働く管でなく、両方向に働く管ということになります。これは、胆嚢管の内側が「ラセンひだ」と呼ばれる、ラセン状のひだになっていて、これがガス管に使われているバルブのような働きをして、胆汁が出たり入ったりするのに役立っているのではないかという説もありますが、本当のところはまだよくわかっていません。ラセンひだは、別名ハイスター弁とも呼ばれています。

胆嚢も、内臓の1つなので、迷走神経からの命令を受けますが、胆嚢に関係する迷走神経からの命令には、胆嚢に対する収縮しなさいという命令と、オッディ括約筋に対する緩みなさいという命令の2つがあります。そして、この2つのバランスが取れて初めて、胆汁がきちんと十二指腸に流れることになります。これがうまく行かないとき、例えば糖尿病で神経がうまく働かなくなっているとき、自律神経失調の一つといわれている胆道ジスキネジーなどの場合には、胆嚢が縮もうとしているのに括約筋が開かない、そして痛みが出るということが起こります。自律神経失調の人は、胆嚢の動きも落ちることになります。

1-2.胆汁と便

胆嚢は、英語では、「gall=胆汁」の「bladder=袋」という意味で、“gall bladder”といいます。このgallという言葉は、「ghel=輝く、黄色い」という言葉が語源になっていて、ここから派生した言葉には、古代ギリシャ語で胆汁を意味する“khole”の他、「gold=金」「glitter=キラキラしている」「gloss=つやつやしている」などがあります。だいぶ綴りは変わりますが、「yellow=黄色」も同じ語源です。古代ギリシャ語の“khole”は、「chole sterol=コレステロール」の語源にもなっています。

胆汁は、この語源からもわかるように、胆嚢の中に入っている黄色い液体です。けれども、常に黄色というわけではなく、酸性かアルカリ性かによって色が変わり、酸性が強ければ明るい黄色、アルカリ性が強くなってくると茶色から黒っぽい色になります。そして、うんちの色は、この胆汁の色を反映しているので、明るい黄色の時には腸の中が酸性に偏っているということ、そのときには例えば乳酸とか酪酸をたくさん作るビフィズス菌や乳酸菌が多くいて、よい腸内環境になっているということがわかります。その逆に、黒っぽい時には、インドールやアンモニアなどの毒素、いわゆる臭いものを作るような菌がたくさんいるということになります。

ちなみに、古代ギリシャではヒポクラテスが、「体の中にある赤・黄・青・黒の4つの色の体液が、体調を作っている」という四体液説を唱えて、この中の黒い胆汁が多くあるときに、抑うつ症状や疑い深くなる、いろいろものを怖がる恐怖症などといった気分障害がおこるとしました。これはなんと19世紀まで一貫して信じられてきたことで、比較的最近まで、胆汁が心に影響すると思われていました。ただ、黒い胆汁、つまり便の色が黒いときには、腸内環境が悪化して、インドールやアンモニアも出ていますし、リーキーガットが起こっている可能性もあります。アンモニアがたくさんあるときには、肝臓がそれをどんどん解毒しなければならないので、肝臓に負担がかかります。神経過敏でイライラして頭痛がしたり、交感神経優位の症状が出てきます。歯ぎしりをしたりお腹の動悸もあったりします。中国でも同じような考え方があって、そのようなときには疳を抑える薬、抑肝散という漢方を使ったりします。そういう意味で考えると、ヒポクラテスが言った胆汁が黒いとメンタルの症状が出るというのは、あながち間違ってはいなかったということになります。2000年近くもの間、胆汁と心の関係が信じられていたのは、そのような関係性が背景にあったからだと思います。

1-3.ビリルビン

血液検査にも出てくる「ビリルビン」は、ヘモグロビンから作られます。古くなった赤血球が、脾臓の中でマクロファージに食べられ処理される過程で、ヘモグロビンから鉄が抜かれ、その一部が酵素によって開いてビリベルジンになり、これが酸化してビリルビンに変わっていきます。このビルビリンは、胆汁を意味する“bile”と、赤い宝石であるルビーに関係する“rubin”という単語からできています。実際のビリルビン、胆汁は黄色なのに、どうして黄色に関係した言葉ではないのかはよく分かっていません。胆石の中に赤っぽいものがあるので、そこから来た可能性もあります。

このビリルビンは、酸化してビリベルジンになります。これも胆汁を意味する“bile”と、青緑を意味する“verde”が語源になっています。ビリベルジンの青緑は、新鮮なサンマに時としてついている鱗で見ることができます。

1-4.胆汁の循環

胆汁の成分は、97%が水分で、0.7%が胆汁酸塩、0.2%がビリルビン、0.5%が脂肪、その他は塩分やミネラルなどとなっています。この脂肪というのは、脂肪酸やレシチン、コレステロールです。この胆汁がつくられる量はかなり個人差があり、文献によっても異なりますが、1日に400ml~1200mlといわれています。ざっくり1Lくらい、あるいはそれ以上作られているということなので、かなりの量の胆汁がお腹の中をぐるぐる回っていることになります。

胆汁はコレステロールをもとにして作ります。小胞体の中にあるコレステロール7α-ヒドロキシラーゼという酵素を使って、コレステロールをコール酸とデオキシコール酸に変えていきます。この2つを一次胆汁酸といいます。一次胆汁酸というのは、体の中で作る胆汁酸のことです。

これがさらに体の中で、作用を受けます。具体的には、タウリンがくっつくタウリン抱合、グリシンがくっつくグリシン抱合が起こります。グリシン抱合は、メチレーション回路のCBSから下のルートで起こりますが、それと同じことがここでも起こっています。これら2つは抱合型胆汁酸と呼ばれるもので、体の中で使われていきます。胆嚢からギュッと出されたこの抱合型胆汁酸は腸の中を通って、腸管の中に入り、血管の中にどんどん吸い込まれていきます。そして、腸粘膜を通って門脈に、門脈は栄養を運んで肝臓に入りますが、胆汁酸もどんどん肝臓の中に入っていきます。つまり、胆汁は、肝臓で作られて腸の中に入っていったあと、最後には再び腸から吸収されて肝臓に戻っていくということになります。95%の胆汁酸は、リサイクルされて、腸肝循環しています。

抱合型胆汁酸のほとんどは吸収されますが、5%が残ります。そのうちのほとんどは便として排泄されます。さらにその一部はお腹の中にいる菌に食べられます。菌が食べると、ちょっと違う形の胆汁酸になって、抱合していたグリシンやタウリンがなくなります。これを脱抱合、脱抱合した胆汁を二次胆汁といいます。二次胆汁には、デオキシコール酸やリトコール酸などたくさんの種類があります。二次胆汁も、お腹の中でリサイクルされて、腸肝循環しています。ただ、お腹の中の菌の様子によって、その量や質が変わってくるので、腸内環境と胆汁はかなり密接に絡んでいるということができます。また、通常の便の中には二次胆汁が入っていますが、抗菌剤を使うと二次胆汁はなくなってしまいます。

1-5.胆汁の仕事と胆汁がうまく出ないときの対処法

胆汁の仕事は、脂肪を乳化させることです。胆汁酸の成分の中には、水に溶けやすい部分と脂に溶けやすい成分とがあって、それによって脂肪をミセル化しています。これは、本来は混ざり合わない酢と油を、卵の黄身で乳化させているマヨネーズと同じ原理です。そして、これがうまくできると、脂溶性ビタミンがしっかり吸収できることになります。

サプリメントで、ビタミンAやビタミンDといった脂溶性ビタミンを取っている方がいると思いますが、飲んでも飲んでも効いてこないことがあります。その場合、迷走神経の状態がアンバランスだったり、自律神経の状態が悪かったり(例えば、低血糖があるとかホルモンバランスの悪い方)、コレステロールの合成がうまくいかなかったりして、胆嚢がうまく働かず胆汁が出せなくなっている可能性があります。脂肪がうまく吸収できなくなるため、脂の中にビタミンAやDを溶かしているようなサプリメントが効かないのです。そのような時には、胆汁をたくさん出すような工夫をする、乳化を促進するような食べ物やサプリメント(例えば、卵の黄身やレシチンなど)を追加する、さらには乳化した形になっているミセルタイプのビタミンAやDを検討するといいかもしれません。切り替えたらいきなり効果が出たという方もかなり多いです。

1-6.Typhoid Mary

100年位前の“ Typhoid Mary ”という実話があります。アイルランド出身のメアリー・マーロンという女性がニューヨークに渡って、裕福なお屋敷で料理をする仕事につくのですが、しばらくするとそこのご主人が、そして家族全員が病気になってしまう。そこにいられなくなったマリーは、いろいろなお屋敷を転々とするのですが、どこでもみんな体調が悪くなっていく。マリーがいた家で、感染した人が22人、そして亡くなったと分かっている方は1人。その後、務めた産婦人科でも、マリーが勤めている間に25人病気になり、分かっているだけでも2人が亡くなってしまった。なぜ、このようなことが起こったのでしょうか。実は、マリーの胆嚢にはチフス菌がいて、これが胆汁とともに十二指腸にいき、便となって出て、その菌がついた手で、料理や看護をしていたからでした。おそらくマリーの場合、初めの感染が軽いまま抗体ができたために、マリーにはチフスの症状が出なかったのだろうと考えられています。

胆嚢のような空洞構造の内側というのは、免疫細胞が働きません。また、胆石の周りに菌がつくりだすバイオフィルムができて、免疫細胞がうまく働がないだけでなく、抗体が届かなかったという可能性もあります。自律神経がうまく働かなくて、いつもオッディ括約筋が開いている、うまく締まらないような場合には、ここが開きっぱなしになるので、胆嚢に菌が入りやすくなります。マリーの場合はチフス菌でしたが、大腸菌が入って炎症を起こすこともあります。

1-7.胆石

胆石は割とありふれた病気ですが、このリスク群として3Fというものがあります。40代(Forty)、女性(Female)、それから肥満(Fatty)です。ここにさらに、白人の方というのが入ることもあります。

これまで、女性の発生率は男性の2倍といわれていましたが、これは、もともと女性に自律神経の失調が多いということや、閉経が近づいてきて体全体のバランスが狂ってきたり、女性のホルモンバランスによってコレステロールが上がってくるということがあったためと思われます。なので、以前は、太った40代くらいのおばちゃんは、胆石を持っている確率が高いといわれていました。が、2013年の調査では男女比が逆転して、男性1に対して、女性0.87となりました。食生活や食習慣が変わって、男女差がなくなってきたのかもしれません。

胆石には、いろいろな種類があります。有名なものでは、コレステロール結石、色素結石、そしてその両方が混ざった混合石、コレステロール結石の周りにカルシウムがついて組織が混ざったような混成石などです。他にもリン酸カルシウムといった珍しいものもあります。結石は、胆汁のあるところだったら基本的にどこでもできます。一番たくさんできるのは胆嚢の中で7割以上、次いで総胆管が14.1%、肝内胆管が3.5%となっています。ただ、これは石が見つかったときの状態を示しているので、もともと肝内胆管にあったものも胆嚢結石だったものも、総胆管に落ちてきた時点で見つかれば、すべて総胆管にカウントされています。

出典:Gut Liver. 2012 Apr; 6(2): 172–187.
Published online 2012 Apr 17. doi: 10.5009/gnl.2012.6.2.172
Epidemiology of Gallbladder Disease: Cholelithiasis and Cancer
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC3343155/

出典:Gut Liver. 2012 Apr; 6(2): 172–187.
Published online 2012 Apr 17. doi: 10.5009/gnl.2012.6.2.172
Epidemiology of Gallbladder Disease: Cholelithiasis and Cancer
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC3343155/

胆石の発生率は、国によってかなりのバラつきがあります。日本だと全人口の5%くらいで、アジアは比較的少なめです。多いのがインディアンで、カナディアンインディアンでは62%、アメリカインディアンでは64~73%とかなり多くなっています。また、人種的には同じと考えてよいアフリカの黒人とアメリカの黒人の発生率を調べてみると、アフリカの人たちの罹患率は5%以下、アメリカに住んでいる方は14%でした。ここからわかるのは、胆石のリスクファクターは食生活であろうということです。例えば、1日の摂取総カロリー、炭水化物の摂取量、糖質の摂取量、動物性の脂肪量などが関係していそうです。それ以外には、夜間長時間に渡る絶食をしたとき、ダイエット中で急激な体重減少をしたときなども胆石発生のリスクと考えられています。ダイエット中には、食事を抜いたりものすごく少なくしたりしますし、脂を抜くことも多いです。脂を抜くと胆汁の必要性がなくなってくるので、胆嚢が動かなくなって、胆汁が溜まった状態の胆嚢はそのまま固まって石になりやすくなります。中にできた石も、出ていかなくなります。ですから、食べないタイプのダイエットをする場合には、少し脂を取る、ウルソデオキシコール酸という胆汁の成分を使ったお薬を使うことで、胆石のリスクをグッと減らすことができます。

胆石が発症する原因は、結石によって異なります。コレステロール結石は、その70%がコレステロールの結晶でできています。もともと胆嚢の中には、コレステロールが胆汁酸とリン脂質によってミセル化して入っていますが、コレステロールが増えすぎた場合、胆汁酸とリン脂質で溶かしきれなくなって、コレステロールの結晶ができてきます。胆嚢がしっかり動いていれば、結石が小さいうちにオッディ括約筋のところからどんどん出すことができるのでほとんど問題ありませんが、お腹の中で動きがないとき、自律神経がうまく動かないとき、食事をあまりしないときは、胆汁が出ないので、胆石はどんどん大きくなっていきます。

胆石の成分による分類
http://tmomed.info/nurse/n14/14-8.htm

色素結石の中のビリルビンカルシウム結石は、菌がつくったカルシウム塩が核になって、周りにいろいろなものがくっついて結石になると考えられています。その核には、大腸菌、クレブシエラ、エンテロバクター、シュードモナスのような菌が多いといわれています。金平糖は、最初に砂糖の小さな粒をつくって、この粒を大きな鍋にいれてぐるぐる回しながら砂糖水をかけていくことで、あのトゲトゲの形をつくりますが、ビリルビンカルシウム結石はこの金平糖とほぼ同じ作り方です。トゲトゲしているので、出ていくときに大変です。これをCTの縦切りで見てみると、この白いところがそうです。カルシウムが多いので白いものが見えます。

2.胆汁や胆嚢の活用と今後の可能性

2-1.薬としての活用~牛黄(ごおう)と熊の胆(くまのい)

「牛黄」と呼ばれる牛の胆石は、牛1千頭から1万頭に1個しか取れない、とても貴重なものです。効能は、強心、解熱、鎮静といわれています。中身としてはコール酸、デオキシコール酸、胆汁酸です。血液の搾りかすであるビリルビン、ビリベルジン、そしてコレステロールも入っています。牛黄は舐めるととても苦いのですが、これを愛用していたのが田中角栄です。ゴルフに行くときは必ず持っていって舐めていたといわれています。すごく元気なのは、もしかしたらこれを使っていたせいかもしれません。また、水戸黄門は成敗の時に印籠を出しますが、その中に入っていたのも牛黄だといわれています。

今、牛黄の7割はブラジルから輸入しています。牛黄の原材料の輸入価格は、2017年の後半からグッと上がっていますが、それは中国の輸入が増えたからで、なかなか買い付けができなくなっているそうです。牛黄カプセルは、薬局で売っていますが、2カプセルで3000円ほど。2カプセル中に牛黄は200mg入っているので、100mgが1500円という、とても高価なものです。

「熊胆(ユウタン)」は、熊の胆嚢です。あまり馴染みがないかもしれませんが、熊の胆(くまのい)というと聞いたことがあるかもしれません。熊胆圓という薬もあります。熊の胆嚢を愛用していたのが聖武天皇で、今も正倉院に保存されています。この熊の胆嚢は、薬としての価値がものすごく高いのですが、熊1頭から、1個しか取れません。胆嚢が取れる大きさになるには少なくとも10年、熊の寿命は25年くらいともいわれているので、10年から20年待たないと1個の胆嚢が取れないことになります。熊の胆嚢はとても値段が高く、胆嚢1つが熊1頭の値段と同じだといわれています。

この熊胆、効能としては苦味健胃、苦いことでお腹を動かそうという作用です。そして、鎮痙、鎮痛、利胆、消炎、解熱薬、胃痛、下痢、黄疸、小児の疳疾(疳の虫)、お腹の中の寄生虫やバイ菌を殺すのに使われます。疳の虫に効くように、熊胆はメンタルにも効いてくるので、胃痛や下痢というのも自律神経の病気と考えると、熊胆が使えそうな気がします。

牛黄も熊胆と同じ効果を発揮するものとして開発されたのが、「ウルソデオキシコール酸」です。コール酸から合成して作られています。ただ、単一の胆汁酸しか入っていないので、他のコレステロールとか、微量成分はどうしても落ちてくるかなと思います。薬価はとても低くなっています。

2-2.胆汁酸のホルモン作用

胆汁酸というと、基本的に苦いとかお腹が動くとか、乳化させる、脂溶性ビタミンの吸収をよくさせる、油の吸収をよくする、解毒したものを出すというニュアンスがあると思いますが、胆汁酸自体に実はホルモン作用があることが分かってきました。

特定の受容体にだけにくっつく物質をリガンドといいますが、胆汁酸は核内受容体につくリガンドです。核内受容体にくっついて核の中に入り、遺伝情報を直接操作します。核内受容体につくリガンドには、胆汁酸の他、甲状腺ホルモン、ステロイド、ビタミンAやビタミンDなどがあります。ビタミンAの場合、食べたもののまま、つまりレチノールやレチナールのときには核内受容体にすぐくっつくことはありませんが、レチノイン酸になったときには、遺伝子にダイレクトに影響するので、催奇形性があったり毒性が出たりします。

核内受容体とリガンドがくっついたものは、核内でDNAの端にくっつきます。そしてもう1つのリガンドと核内受容体も、隣につきます。DNAの転写因子のところに、必ず2つつくわけです。そうすると、mRNAができます。つまりDNAの情報を読むときに、このペアシートに2つの物質がくっつくことが必要です。そして、この片方は必ずビタミンAです。ですから、ビタミンAがしっかりあれば、DNAがきちんと動きます。これが足りなくてうまく動かないと、筋腫になったりガンになったりしやすいというのは、ここです。お肌がカサカサのときにビタミンAがいるというのも、細胞の分化をしっかりさせてお肌を作るためです。ですから、子どもや妊婦さんは、本当はビタミンAがたくさん必要です。

リガンドのところに、違うものがくっつくときがあります。そうするとDNAの活性が変化して、今まで止めていたものが動き出したり、動いていたものを止めたりします。DNAの働きを反対方向にする、止めるようなものをアンタゴニストといいます。動きすぎると困るときに、このアンタゴニストを入れてあげれば止まるわけです。逆に、リガンドの代わりに働いて、DNAの働きを促進するものをアゴニストといいます。これらを利用すれば、薬を作ることができます。例えば、コレステロールを作りすぎて困るときには、アンタゴニストを入れてあげる。ガンでどんどん増殖しているとき、アンタゴニストを入れてあげる。ガンを止める遺伝子が活性化しないときには、アゴニストを入れる。リガンドの代わりをさせたいときにはアゴニスト、リガンドの作用を止めたいときにはアンタゴニストを入れます。

胆汁酸は、核内受容体だけでなく、細胞膜にある「Gたんぱく質共役型受容体」というレセプターにもくっついて生理活性を起こします。この核内受容体、細胞膜の受容体、胆汁酸には、それぞれ種類がいくつもあって、この3つの組み合わせによってDNAの反応が変わり、さまざまな生理活性が起こります。このようにホルモンとして使われる胆汁酸の作用には以下のようなものがあるといわれています。

  • 褐色細胞を活性化する作用
    エネルギーをたくさん作ることができるので、胆汁酸がダイエットに使えるのではないかという研究もされています。
  • インスリン抵抗性の改善作用
  • インスリンの分泌促進作用
  • 脂肪肝の改善をさせるスイッチを押す作用
  • 中性脂肪の合成を抑制する作用
  • コレステロールの濃度を調整する作用
  • 胆汁酸そのものの合成を調整する作用
  • 肝臓の線維化の抑制する作用
    肝臓の線維化とは、肝硬変のことです。胆汁酸とレセプターの組み合わせによっては、脂肪肝や肝硬変を予防できるということで研究が進んでいます。
  • 大腸ガンの発ガンを促進する作用
    二次胆汁酸が毒性を持つといわれるのは、こういった理由によります。が、逆に脂肪酸がくっついて大腸ガンの発ガンが促進させるのであれば、そこにアンタゴニストを使ってあげればいいわけです。二次胆汁酸の一部が悪いのであれば、それを便として出す、それが起こらないよう腸内環境を整えることもできます。このあたりはまだ研究段階なので、今後これを活かした薬が出てくる可能性があります。

2-3.胆汁酸の可能性

胆汁酸には、DNAの活性化によっていろいろな効果があることが分かってきました。その結果、胆汁酸への注目が集まり、今さまざまな研究が始まっています。

例えば脳神経。脳神経の軸索は、胆汁酸で破壊されることが分かっています。なので、BBBが壊れて胆汁酸が脳に入ってしまうとよくないのではないかということで、調べてみると、実は脳の中に意外と胆汁酸がある。特に黄疸があったということではなく、どうももともと作っているらしいーということが分かってきています。つまり、脳細胞の中でも、胆汁酸を微量だけれどもしっかり作っている。そして、特定のたんぱく質とくっついている。こうなっていることで、異常な活性化は抑えられているのではないかという仮説ができています。ただ、どうして脳の中にあるのか、その理由はまだ不明です。もしかしたら神経伝達物質と絡んでいるかもしれないという仮説はありますが、このあたりはまだ解明されておらず、脳の中に胆汁酸が見つかったばかりのようです。

実は、胆汁酸には、もっとすごい秘密があるかもしれません。なので、将来は、血液データを見たときに、ビリルビンが多いとか胆汁を作ることができているかなとかだけではなく、そこから神経伝達物質の話や発ガンの話につながってくるかもしれません。そして、データの読み方も、一層深くなっていく可能性があります。

3 まとめ

  • ウンチの色は胆汁の色、黄色が良い。
  • 胆汁は1日1リットル近く分泌され、95%が循環している。
  • 胆汁の仕事は、脂肪を乳化させること。
  • 食生活が急激なダイエットもリスク要因と考えられる。
  • 熊や牛の胆嚢は貴重品。
  • 胆汁には、脂肪を燃やしたり、インスリンを分泌させるホルモン作用もある。

血液データの読み方 LDとγ-GTP

小池雅美 · 2021年6月13日 ·

検査データを前にしたときに、よほどの専門家でないと、その意味がよく分からない-ということがあると思います。ある項目について、数字が大きいから体がよくないらしいというのはわかるけれど、だから何?といったようなこともあるかもしれません。

今回は、血液検査項目の中でも、特にわかりにくい、アルファベットが並んだ曲者、LDとγ-GTPをとり上げて、血液データ読みこっそり帳の使い方をお話ししていきます。

1.LD(乳酸デヒドロゲナーゼ、乳酸脱水素酵素)

1-1.LDとは

LD
 乳酸デヒドロゲナーゼ
 乳酸脱水素酵素
180ナイアシン ↓
溶血 ↑ 臓器の損傷 ↑

LDは、“Lactate DeHydrogenase”の略語です。“De”はとり除く、“Hydro”が水という意味なので、乳酸から水をとり除く酵素ということで、日本語では、「乳酸デヒドロゲナーゼ」「乳酸脱水素酵素」と呼ばれます。また、LDでなくLDHといわれることもあります。

この酵素にはアイソザイムというものがあります。これには1、2、3…などの種類があり、それぞれのアイソザイムによって病気が変わります。そもそもアイソザイムとは何かというと、その酵素活性はほとんど同じで、異なるのはそれを作っているたんぱく質の配列です。この違いによって、どこから出たLDHかわかるようになっています。

LDH1,2増加悪性貧血、心筋梗塞、溶血性貧血
LDH2,3増加悪性リンパ腫、筋ジストロフィー、肺癌、白血病、膠原病
LDH5増加肝炎、肝癌、骨格筋の損傷

このLDは、肝臓、胆道、心臓、腎臓、血液など体のいろいろなところにあります。その組織が壊れた時にこぼれでてくる酵素であり、こういう酵素のことを逸脱酵素といいます。

1-2.LDの数値が高くなるとき

では、LDの数値が高い時というのは、どのような時でしょうか。

筋肉組織が壊れたとき

筋肉の病気でも、LDは上がってきます。筋トレをした場合にも、筋肉組織が壊れるので、筋肉からLDが出てきます。検査データでLDがすごく高い、けれども患者さんは元気そうだという場合、「昨日筋トレしましたか?」「運動しましたか?」「何か体に負担のかかることをしましたか?」と聞いてみてください。案外、日中に長時間草取りをしていたなどということもあります。

赤血球が壊れたとき

LDは、ピルビン酸を乳酸に変える、あるいは乳酸をもう一度ピルビン酸に変えるときの酵素として使われます。

通常は、体の中にグルコースが入ってくると、細胞の中でピルビン酸に変わり、次にミトコンドリアに入ってエネルギーを作っていきます。
ミトコンドリアが働かないとき、ピルビン酸は乳酸に変わります。このピルビン酸と乳酸の間で働くのがLDです。

LDは赤血球の中にたくさん入っています。なぜなら、赤血球にはミトコンドリアがないため、エネルギーを作るときには嫌気性解糖をしなければならないからです。
ですから、赤血球が壊れるとLDは上がるため、溶血を見るときにLDの値は参考になります。

悪性腫瘍があるとき

がんがあると、LDが上がってきます。がんはもともと低酸素の状態で育っていきますが、酸素が周りに足りなくなると、低酸素誘導性因子(hypoxia-inducible factor :IHF)というものができて、低酸素の状態でもグルコースをピルビン酸、乳酸に変えてエネルギーを作れるようになります。
つまり、IHFができると、LDが増える。LDが増えると、どんどんエネルギーがつくれるようになるので、材料となるグルコースもたくさん必要になってきます。がんの患者さんが甘いものをたくさん欲しがるのはこのためです。

がんの診断に使うPET検査は、がん細胞のこの性質を利用して、放射性フッ素をつけたグルコース(フルオロデオキシグルコース)を注射し、それがどこにたくさん取りこまれたかをみることでがんがどこにあるかを診断します。写真を撮ると、黒く濃く写っているところが、砂糖をたくさん取ったところ、グルコースをたくさん取り込んだところで、がんになります。

1-3.LDの数値が低いとき

では、その逆にLDの数値が低い時には、何が起こっているのでしょうか。

まず、LDの働きについて、詳細に見てみることにします。

LDというのは、ミトコンドリアがうまく働かない、つまりTCA回路が回っていない、電子伝達系が回っていないときに、グルコースから作られたピルビン酸を乳酸に変えてエネルギーをつくりだす酵素でした。
このエネルギーは、2つのNADが、2つのNADH(ニコチンアミドアデニンジヌクレオチド)に変わる時のエネルギーを使って、2つのADPから、2つのATPという形で作り出されます。そして、LDは、この2つのNADHを再びNADに戻し、もう一度使えるようにすることで、グルコースからピルビン酸、乳酸がつくられる回路をぐるぐると回しています。

このLDが動いている状態のとき、乳酸は一度肝臓の中に運ばれ、もう一度ピルビン酸に変わって、さらにグルコースになる糖新生が行われます。この回路をコリ回路といいます。
ところが、ピルビン酸をもう一度グルコースに変えるには、ATPが6個が必要になる。つまり、グルコースからピルビン酸を作るときの3倍のATPが必要になります。

もしここで、LDが少なかったらどうなるでしょうか。
まず、NADとNADHを使った回路がうまく回らない。グルコースをピルビン酸に変えて嫌気性解糖でATPを作る回路の効率が落ちる。コリ回路も回りにくくなる。結果、エネルギーがつくりだせなくなってくる。

つまり、LDが低いと、もともとTCA回路も電子伝達系も回っていないうえに、さらに解糖系も回らなくなります。ですから、LDが低い人というのは、エネルギーがつくれず、大抵疲れてぐったりしている方が多くなります。

1-4.LDデータの使い方

LDは、ASTとの比率をみることで、どこに問題があるかのあたりをつけることができます。

  • 肝臓が悪いとき
    ASTとLDの比(AST/LD)は、大体6を超えません。
    肝臓の炎症が強いときほど、この比が低下する。つまりLDが増え、ASTが相対的に下がってきます。
  • 心筋梗塞のとき
    この比は10前後になります。心臓の筋肉が壊れると、ASTもLDも出てくるのですが、特にASTがたくさん出てきます。
  • 悪性腫瘍のとき
    ASTのほうが高くて、10以上になることが多くなります。
  • 白血病や溶血のとき
    この比が20から30倍になりきます。

もしLDの数値が高い場合には、まず、それがどこからこぼれてきたのかをチェックしましょう。そのときには、アイソザイムを、LDHのどのタイプが多いかを調べます。
そして、その次に、ASTとの比で当たりをつける。
LDが低いときにはエネルギー切れ、LDが多いときにはどこかに障害があるので、それを調べる。このようにして、LDを使うことで、病気や障害、不調を見極めていくことができます。

2.γ-GTP(γグルタミルトランスペプチダーゼ、γグルタミルトランスフェラーゼ)

2-1.γ-GTPとは

γ-GTPは、γグルタミルトランスペプチダーゼ、もしくはγグルタミルトランスフェラーゼの略称で、一般には、お酒を飲んだときに上がる、肝臓が悪いときに上がることで知られているものです。

各臓器の重量

ところが、単位重量当たりでは、腎臓に最も多く入っていて、次に膵臓、肝臓、脾臓の順。だからといって、γ-GTPを腎臓の数値や膵臓の数値として見ずに、肝臓の数値として使われるのは、臓器の重さからです。
腎臓や脾臓が約150グラム、膵臓が100グラムなのに対して、肝臓はその1500gと、10倍も重いから。
もしそれぞれが50%怪我をしたとしても、肝臓のほうが圧倒的な量のγ-GTPを出すことになるからです。

なので、γ-GTPが上がったときにはいろいろな病気を鑑別しますが、ほとんどの場合、肝臓と胆道系の調子悪いらしいと思えば大丈夫です。γ-GTPは、その他、小腸、精巣、前立腺などにもあります。

γ-GTPで鑑別できる病気

  • アルコール性肝障害 
  • 肝内胆汁うっ滞
    (薬剤、ウイルス性肝炎)
  • 肝外胆汁うっ滞
    (閉塞性黄疸)
  • 胆管細胞がん
  • 転移性肝がん
  • 副腎皮質ホルモン
  • 抗てんかん薬
  • 原発性胆汁性肝硬変
  • 肝細胞がん 
  • 慢性肝炎
  • 肝硬変
  • 非アルコール性脂肪肝
  • 肝炎(NASH)
  • 家族性高γGTP血

では、γ-GTPは細胞の中のどこにあるのでしょうか。
それは、細胞の中の小胞体です。図の中でいうと、小胞体の細胞の膜のところに足を突っ込んで、そこからヒョロヒョロっと出ているのが、γ-GTPです。

また、γ-GTPは、酵素なのでたんぱく質なのですが、糖鎖のくっついた糖たんぱく質になっています。

そして、この小胞体には、脂質・ステロイドの合成、たんぱく質の折りたたみや成熟化、カルシウムの貯蔵、解毒といった役割がありましたが、この解毒にγ-GTPが大きな役割を果たしています。

2-2.γ-GTPと解毒

解毒といえばグルタチオンですが、これは、グルタミン酸、システイン、グリシンの3つのアミノ酸がくっついてできたポリペプチドのことになります。そして、この真ん中の黄色いところにはいっている硫黄が、外から入ってきた毒を上手に捕まえます。

このグルタチオン、実は、意外なところでお仕事をしています。食べ物のコクを作っているのです。食べ物にグルタチオンがたくさん入っていると、甘みや酸っぱみなどではなく、しっかりと重たい、おいしいイメージのコクが出てきます。あっさりしたものにはグルタチオンは少ないことが多いです。

このとき、グルタチオンは舌の上にあるカルシウム感知受容体にくっつくことで、旨味として感じれるおいしさをつくっています。なので、大したものが入っていなくても、グルタチオンさえ入れておけば、コクのある風味ができます。
なおかつグルタミン酸が入っているので旨味もあるし、グリシンが入っているので分解されると甘みも出てきます。

さて、このグルタチオンの真ん中の部分、システインをバリンに取り替えてみます。
すると、グルタチオンによく似たポリペプチドが出来上がります。

これは味の素が合成して作ったものです。「グルタミルバリルグリシン」という名前で、グルタチオンに比べて10倍コクがあるらしいです。

これはもともと天然に入っているもので、ホタテやナンプラー、魚醤にたくさん入っていて、いろいろなお出汁に使うなど天然の旨味を出すためのアミノ酸、たんぱく質になるわけです。
なので、これがおいしいと感じるということは、体がグルタチオンを外から取り入れたいということだと思しますし、コクのあるものが好きな方は、もしかしたら体が解毒をしたいと思っているのかもしれません。

このグルタチオンは、何からできているかというと、アミノ酸の基本の4つである酸素、水素、窒素、炭素からできています。
それに加えて、真ん中の黄色いところ、硫黄が入っています。この硫黄がポイントです。

毒というのは水に溶けないものが多いのですが、グルタチオンの真ん中にある硫黄が上手につかまえる、つまり、グルタチオンとくっつくことで水に溶けやすくします。

細胞の中にあるたくさんの毒はグルタチオンとくっつくことで、細胞膜についている「グルタチオン抱合体排出ポンプ」から、血中に排出することができるようになります。

このような毒には、子ども用の痛み止めや熱冷ましに使われるアセトアミノフェンや、カドミウムやメチル水銀、鉛などの重金属、花粉症の原因になるロイコトリエン、生理痛や頭痛のもとになるプロスタグランジンなどがあります。

このグルタチオンはアミノ酸が3つくっついたものなので、消化酵素を使ったらうまく切れるはずなのですが、ほとんどのたんぱく質分解酵素で分解できません。

ところが、このグルタミル基、グルタミン酸の部分、ここを切ってくれる酵素が1つだけあります。それが、γ-GTPです。

2-3.γ-GTPが上がるとき

γ-GTPが上がるときには、2つの可能性を考えます。

  1. 解毒が必要なとき
    体の中の毒は肝臓に入って、解毒のためのグルタチオンができます。毒の量が多ければ多いほど、グルタチオンが体の中でたくさんできる。そうすると、それを分解してもう一度使うために、γ-GTPが増えていく。
    なので、γ-GTPが高いときは、肝臓で何か解毒するものがあるのかなというように考えます。
    解毒が必要なものには、お酒、薬、毒物、重金属などがあります。抗てんかん薬や抗生物質を使っても、γ-GTPが上がってくることがありますが、その場合は、肝臓が障害を受けたのかもしれないし、もしかしたら解毒するためにγ-GTPが上がったのかもしれないので、他の酵素と合わせて調べます。
  2. 肝臓が壊れたとき
    細胞の中の小胞体にあるγ-GTPが、壊れた細胞からはみ出てきます。逸脱酵素です。これは、例えば、脂肪肝、肝炎、胆汁を流す胆道が詰まったようなとき、胆石があるときなどです。

2-4.解毒のカギを握るシステイン

ここで、もう一度、グルタチオンについて見てみましょう。
グルタチオンは、グルタミン酸、システイン、グリシンという3つのアミノ酸がくっついたものでトリペプチドになります。

グルタミン酸とシステインの隙間を切るのがγ-GTPです。
そしてシステインとグリシンのくっついた2つのペプチドを切るものが、ジペプチターゼです。2個のペプチドを切るのに使われる酵素だから、ジペプチターゼです。

では、もし、γ-GTPが足りない場合には、何が起こるでしょうか。

当然、グルタチオンのグルタミン酸とシステインの間を切ることができなくなります。そして、再利用できるシステインが不足する。

実は、システインは、グルタミン酸やグリシンと較べて、体内にある量が相対的に少ないですし、食べものに入っている量も意外と少ない。となると、システインはぜひ再利用したいものになるわけですが、ここでγ-GTPが少ないと、システインを再利用することができなくなります。結果、グルタチオンの再生が低下して、解毒能力が落ちていくことになります。

システインが入っているサプリはいろいろありますが、意外と皆さんが身近で見たことがあるのはハイチオールです。ハイチオールの「チオール」というのは硫黄のことで、箱に書いてある分子式自体が実はシステインです。シミやそばかす、全身倦怠感に使うと書いてありますが、ビタミンCだけでなく、システインをしっかり入れることで解毒ができる。そこから倦怠感が抜けるというように考えていいと思います。

γ-GTPが少ない時には、システインが少なくなっている可能性があるので、システインを入れてあげると体中がうまく回る可能性があります。逆に、γ-GTPが増えているときにも、需要が増えているので、システインを入れてあげる必要があります。

このシステインは、非必須アミノ酸なので、体内で必須アミノ酸から作ることができます。

では、肉などメチオニンをたくさん食べればシステインができるのでしょうか。
メチオニンをシステインに変える経路を見てみたいと思います。

メチオニン回路を回って、ホモシステインになって、さらにCBSの酵素がきちんと動いて、システインにならないと困ります。逆に考えると、システインをたくさん作るためにはメチル基をどんどん使ってしまうので、メチレーションが回らなくなります。

つまり、システインが足りないときには、メチレーション回路がうまく回って、メチオニンをシステインにする必要があるわけで、ビタミンB12や葉酸が足りないと回路がうまく回らずに、解毒ができなくなるということになります。

2-5.γ-GTPが下がるとき

γ-GTPがとても減っているときには、材料不足、つまり、たんぱく質不足を疑います。たんぱく質の不足は、たんぱく質をとっていない、とっていても消化できない、消化できても吸収できないといった原因によって起こります。

まず、たんぱく質をとっていないという状況は、例えば夏バテのシーズンに起こります。
あまりに暑くて食欲が落ちる、ぐったりする、外に出ない、寝てばかりになる…こんな時には、どうしてもジュースやアイス、素麺などの炭水化物が多くなります。よほど意識しないと、たんぱく質が増えることはめったにありません。

その結果、疲労倦怠感、食欲不振、無気力、寝汗が出すぎたりなどしてきます。
ちなみに寝汗はアドレナリンによって出ます。夜中にアドレナリンがドンと出る理由は、夜間低血糖を補正するために体が反応しているサイン。つまり、副腎疲労が起こっているということで、これこそ夏バテです。

とにかく胃もたれがひどい、食欲がない、お腹も張った気がする、吐き気もする、ゲップも出る、こういう状態のことを漢方では「脾虚(ひきょ)」といいます。この場合の脾は脾臓という意味ではなくて、消化管全体を指しているので、「脾虚」とは消化機能の低下を意味しますが、この脾虚は結果的に気力・体力の低下を招きます。

次に、たんぱく質をとっていても消化できない…というのは、どんな時でしょうか。

普通、胃は、食べ物が入ると、ふわっと膨らみます。弛緩して、そのあとにリズミカルな蠕動が起こる。そうして、十二指腸のほうに消化したものを排出する。

けれども、胃が広がらないときには、食べ物がうまく入っていかず、少し食べただけで胃がいっぱいになった気がしてしまいます。胃の蠕動も、本来は消化したものを下のほうに送っていかなければならないのに、上のほうにいったり下のほうにいったりしてしまう。
このうまくいかない感じを、「機能性ディスペプシア」と呼びます。
症状としては、食後の膨満感、少し食べるとすぐにお腹がいっぱいになってしまう状態、みぞおちが痛い、みぞおちが焼けるような感じなどがあります。

これは、消化管なので自律神経の問題です。自律神経には交感神経と副交感神経があって、交感神経は戦ったり逃げたりするような状態、副交感神経はリラックス状態をつくります。ですから、昼間には交感神経優位に、夜には副交感神経が優位に働きます。

これがうまくいっていれば、晩ご飯を食べても、朝にはお腹が空きます。
お腹を動かすためには、副交感神経が優位であること、交感神経はできれば止まっていることが大切です。
交感神経が優位になると、お腹の動きは悪くなり、胃の粘液が減少し、胃壁の再生も胃の運動も低下して、たんぱく質の消化が悪くなります。

たんぱく質は胃に入ると、ペプシノーゲンに胃酸が働いてペプシンに変わった酵素によって、まずペプトンにまで消化されます。
しかし、ペプシノーゲンもペプシンも酵素なので、たんぱく質が素になってできていますし、胃袋もたんぱく質でできています。

たんぱく質不足があると、たんぱく質の消化ができないという悪循環が起こっています。ところが、たんぱく質不足があると、たんぱく質の消化に必要な酵素の産生や胃袋の再生ができなくなるため、さらにたんぱく質不足に陥る…ということになります。

では、胃酸を十分に出すことができない時というのは、どういういときでしょうか。

  • 萎縮性胃炎
    萎縮性胃炎は、内視鏡で見てみると、粘膜が荒れてツルツルになっていて胃酸を十分出すことができません。
  • ピロリ菌感染
    胃の炎症を起こしたり、アンモニアを作ったりするので、胃酸が働くことができなくなります。
  • 胃酸抑制剤
    この薬剤は、痛み止めと一緒に出されたり、胃もたれや逆流性食道炎の時に出されたりします。重曹が入った胃薬をずっと飲んでいても、胃酸がアルカリで中和されて、胃酸としての働きができなくなります。
  • 胃の切除後
    がんや胃潰瘍などの病気で胃を切ったあとも、胃酸が足りなくなります。
  • エネルギー不足
    エネルギー不足で胃酸が出なくなるのは、胃のプロトポンプが働かなくなるためです。
    胃のプロトポンプ:胃の中にH⁺を出し、胃の中にあるK⁺を細胞内に閉じ込めるポンプ。こうすることで、胃の中でH⁺とCl⁻とから胃酸であるHCLをつくれるようにする。これが動くためには、ATPが必要となる。

  • 緊張(交感神経)

そこで、胃をきちんと整えておくためには、以下のことが必要です。

  • 丈夫な粘膜
    たんぱく質やミネラル、ビタミンAが必要になります。
  • リラックス
    睡眠の質が上がっていること、ストレスのコントロールができていることも必要になります。睡眠が不調な方は、副腎疲労がベースにあって夜間低血糖があったりすることがあります。カフェインやニコチンも交感神経を刺激してしまいますので、こういうものを使っていて胃がもたれているときには、まず抜いてもらうことが先決になります。
    また、カフェインやニコチンが必要な状態ということの裏には原因があるので、例えば鉄欠乏がないか、血糖値の乱高下がないか、食べ方が体に合っていないのではないか、家庭とか職場環境が悪いのではないかなどを見て、それを改善するように勧める必要があります。
  • 酸性に保つ
    酸性度が低い方にはクエン酸やレモン、梅干しを足してもらってみたりすることもあります。胃炎がない場合にはベタリン塩酸のサプリメントを使うこともあります。
    また、重曹とか胃酸抑制剤は使わないようにします。もし使うときでも、症状が強いときだけや、使ったほうがメリットのあるときだけに限ってください。

2-6.γ-GTPと尿素窒素

実は、血液データ読みこっそり帳の同じページにあるγ-GTPと尿素窒素は、どちらもたんぱく質量を反映しています。そして、以下のことを見ることができます。

  • たんぱく質をしっかり食べているか
  • きちんと消化できているか
  • 吸収ができているか
  • 自律神経が整っているかどうか
  • エネルギー産生できているか

たくさん食べても消化できない場合、データとしては尿素窒素がたくさん上がりますが、γ-GTPはあまり上がりません。ただ、脂肪肝でγ-GTPが上がってくることもあります。数字がよくなったからといってたんぱく質が足りているとは限らないので、このあたりは問診をかけてみましょう。手が冷たいとき、手汗をかいているとき、眠りが浅いとき、こういう場合にはあまり消化できてないのかなと疑ってみてもいいです。
吸収もできないとうまくいかないので、腸の炎症があるかどうかも確認してください。

この2つの項目がすごく低い場合、大抵エネルギー切れを起こしています。いつもだるくて疲れています。

両方ともそこそこ数字があるのにだるい場合は、何かマスクがかかっている場合がありますから、必ず確認してください。

γ-GTPが低い場合は、化学物質の解毒ができなくなります。

こういう人の中には、臭いが強いものが苦手な方が多いですし、柔軟剤や虫除けでだるくなる子もいます。最近の虫よけは臭いがないので、これを使われているかどうか気がつかないことが多いのですが、特定の部屋に入るとだるかったり辛かったりするような症状がある場合には、虫除けを使っていないか問診してみてもいいかもしれません。

家をつくるときに使う接着剤や木についている防腐剤などの解毒ができずに、シックハウス症候群になっていることもあります。
γ-GTPが低い方には、たんぱく質を摂りなさいだけではなくて、解毒能力がない可能性を推測してあげるとよいと思います。

2-7.おさらい

γ-GTPは、低い場合と高い場合の両方があります。両方の要因が重なって、数字だけがちょうど15くらいになって、あまり問題がないと思うときがあります。例えば、胃腸が悪くて、低たんぱく質になっている場合。本来、γ-GTPは下がるはずなのですが、ジュースやアイスクリームなど炭水化物をとっていて脂肪肝になっていると、γ-GTPがいい数字になったりします。さらに、便秘をしていれば、本当は低いはずの尿素窒素も上がってきて、同じくらいのいい数字になったりもします。いい数字でたんぱく質が足りているように見えるけれど、患者さんは辛そうにしている。そして、話を聞いてみると、まともにたんぱく質を摂っていない。この矛盾を見つけたら、マスクがかかっているかもしれないと疑ってみてください。

γ-GTPが低い時、特に1桁のときには、かなり疲れている状態、体調が悪いんだなと考えます。そして、γ-GTPがそもそも下がってしまう状態なので、お腹が弱いかもしれないと考えます。カウンセラーや病院に来るときには、体調がそこそこ上がっていることが多いですし、外の人には元気に見せている場合もありますので、「お家では本当はどうですか?」「土日、だるくて眠っていませんか?」「帰ったらすぐに、シャワーも浴びずに寝てしまうことはないですか?」と、普段の生活がどうかを聞くのも大事です。

このような人は、香料やお化粧品が苦手で、すっぴんだったり、無香料などに極端にこだわることも多いです。食では、炭水化物とか野菜が好き、マクロビをしている、自然派に異常なほど強いこだわりがある、そういう方もそもともと消化吸収力が落ちている、体調が悪いことを疑ったほうがいいと思います。

ときどき、とてもγ-GTPが低いのに元気な方がいます。そういうときには、カフェインを摂ってないか、緑茶を飲んでいないかなどを聞いてください。カフェインを入れると、元気がないという自覚がなくなって意外と動けてしまうので、「私は元気」と言います。「私は元気」と言うけど、早口で声が甲高かったり、話を聞かない人が多いです。

このように、数字の見た目と、体で起こっていることに違いがあることがあるので、そのあたりを観察してみてください。

3.さいごに

今日は、LDHとγ-GTPの話をしました。どちらも酵素なのでたんぱく質です。この2つを増やすためには、たんぱく質をしっかり摂ること、そのためには胃腸が丈夫であることが必要です。で、どちらも細胞が壊れると出てきます。どの細胞に入っているかが分かると、どこの病気か当たりがついてきます。このあたりを踏まえてこっそり帳をうまく使ってもらえたらいいなと思います。

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