根本原因(が及ぼす体内のシステムの不具合)の治療は、ピラミッドの下層から上にかけて順番に行うのが原則です。ここではなぜこのような順番で治療を行うべきなのか、その理由をお話しします。
脳機能は様々な影響を受ける
脳機能、メチレーションの調整がピラミッドの最上段にあるのは、それだけ脳機能が様々な影響を受けやすいことを表しています。色々なことを全部終ってからでないと、脳の調整を何度もやり直すことになります。
例えば、脳は最もエネルギーを使う臓器の一つです。ですから、脳にアプローチする前に、必ずミトコンドリアをある程度動かしておく必要があります。
副腎も非常に脳機能に関係します。HPA軸といって、コルチゾールが多すぎると海馬という記憶に関する部分が委縮します。また、副腎疲労のせいで活発な性格が隠れていることはよくあります。このような場合、治療が進むにつれてだんだんと性格が変わっていきます。人格が変わったように元気になって、躁病のようになってしまうこともあります。ですから、治療開始時のサプリメントと、副腎が回復されてきた時のサプリメントでは処方を少し変えなければなりません。
炎症も脳機能に大きな影響を与えます。炎症がうつ病の原因だという報告は多いです。特に自閉症、子供の場合は炎症の影響をすごく受けやすいです。自閉症の場合は最初から脳の炎症を止めるようにアプローチするのを意識します。食事指導がすごく厳しくなります。グルテンフリー・カゼインフリーに加えて、グルタミンフリーにもします。グルタミンは、興奮性の脳の神経伝達物質であるグルタミン酸の前駆体です。
重金属などの毒素もかなり影響しています。歯にアマルガムが入っている人は、様々な経路で体内から脳に入ってきます。アマルガムの水銀は、常に蒸発していますから蒸気水銀としても脳に入ります。血行にも乗りますし、三叉神経を逆行して直接脳にも行きます。
低血糖はエネルギー不足を引き起こす
低血糖対策はとても大事です。これは血糖曲線です。これは糖負荷試験といって空腹時にブドウ糖を75g飲んで、血糖値とインスリンの量を測る検査ですが、普通の人は血糖値が緩やかに上って下がります。
しかし、この方は急激に130まで上がって、急激に57まで下がっています。ジェットコースターのようですね。下がった時に、イライラしたり眠くなったりします。これを低血糖症と言います。エネルギーレベルがめちゃくちゃになって、脳にかなり影響します。ですから、エネルギーレベルを平坦化して、落ち着かせてから脳にアプローチしないといけません。
副腎ホルモンケアがミトコンドリアを安定させる
低血糖症はもともとは副腎疲労が原因で起きます。副腎はコルチゾールを出して、血糖値を保ってくれる働きをしています。副腎疲労がある人は、きちんとエネルギーが供給できません。ですから、ミトコンドリア対策をする前に、ホルモンの方を根本的にやるということです。
エネルギーとデトックスの関係
これはミトコンドリアの中でぐるぐる回っているクエン酸回路というものです。ミトコンドリアの中でこの回路がぐるぐる回って、そこからエネルギーが作り出されています。必要な栄養素が黄緑色で示されています。亜鉛、鉄、ビタミンB群などですね。
回路が滞りなくまわるためには、様々な栄養が必要です。一方でこの黒いところは、それを邪魔するものです。クエン酸からシスアコニチン酸になるために使われる酵素がありますが、これはフッ素・水銀・ヒ素・アンチモンによって阻害されます。アルミニウムによって阻害されるところもあります。
クエン酸からαケトグルタル酸に至るまでのこの部分は(山手線でいうと駒込から東京駅くらいまで)は、非常に活性酸素の害を受けやすいです。重金属によって活性酸素がたくさん発生すると、このあたりはすべて止まってしまいます。
この状態をみるのが、先日ご紹介した尿有機酸検査です。まずミトコンドリアをちゃんと動かそうと思ったら、栄養を入れるだけでなくデトックスもしようということです。ですから、デトックスがエネルギーよりもピラミッドの下層になります。
性ホルモンより副腎ホルモンのケア
ホルモンの中にもヒエラルキーがあります。性ホルモンよりも副腎ホルモンを先に治療するのには理由があります。コレステロールからホルモンができるんですが、コルチゾールと性ホルモン、両方ともコレステロールからできます。コルチゾールが少なくなる副腎疲労の段階になると、コレステロールの多くがコルチゾールの生成に回ってしまい、性ホルモンに行かなくなってしまいます。
生命維持に大事なのはコルチゾールですから、生命反応を少なくしてすべてコルチゾールに傾けます。これをコルチゾール・スティール症候群といいます。わかりやすくいうと、コルチゾールが性ホルモンにまわるはずの材料をを盗んでいってしまうのです。(正確には異なりますが、そう理解して頂くのがわかりやすいと思います。)
副腎疲労ではPMSなど、女性ホルモン・男性ホルモン低下の症状が頻発します。これに対して性ホルモンの補充だけしてもだめでしょう。最初にするべきは、副腎へのアプローチです。コルチゾールを正常に戻してあげることです。そうすると、性ホルモンの方も自然と元に戻ってくる人が多いです。
環境毒素がホルモンに与える影響
次は、ホルモンと水銀の関係です。副腎ホルモン・性ホルモンをはじめ、すべてのホルモンはその受容体をことごとく、水銀によってブロックされます。これは、アンドリュー・カトラー先生の書かれた「Amalgam Illness」という本に載っていた図を日本語化したものです。アマルガムの害について書かれた本です。
甲状腺機能がもし低下していたら、天然の甲状腺ホルモンなどで補充してあげることも身体の代謝にとっては必要なのかもしれませんが、デトックスをちゃんとやったら、それが必要なくなる可能性があるということです。重金属はホルモンを支配しています。
デトックスの前に腸内環境を整える
人間の解毒というのは、3段階にわかれています。フェーズ1は活性化で、脂に溶けて安定している毒素を活性化して水に溶けやすくする段階、フェーズ2は抱合といって、水溶性のグルタチオンと抱き合わせてやはり水溶性にする段階、そしてフェーズ3は排泄で腎臓や肝臓から腸を通って体外に出す段階です。
体の中の毒が抜けないのは、脂の中で安定化してしまっているからです。血液中の毒や腸内の毒は、人間は排泄することができます。出せないのは、脂の中の毒です。ですから、脂肪がたくさんある人は毒が溜まりやすいです。
これらの3つのフェーズのすべてに関わるのは腸です。デトックスは腸内環境に大きく左右されます。だから、まず最初に腸内環境を治さないと解毒がうまくいきません。
水銀には有機水銀と無機水銀があります。有機水銀の80%は肝臓から胆汁に乗せて腸から排出されていきますから、腸内環境が悪ければまた腸から吸収されてしまうし、毎日排便がない人はなかなか体外に出ていきません。本格的なデトックスの前に腸内環境を治すことが大切です。
デトックスの前に炎症を抑える
デトックスの前には、炎症を治すことも大事です。体内に炎症があると、抱合に必要なグルタチオンがすべて持っていかれてしまうからです。
グルタチオンは抱合に関わる最も強力な因子ですが、同時に、強力な抗酸化物質でもあるので、体内に酸化ストレスがあるとそちらを還元するためにすべて使われてしまいます。ですから、体内でグルタチオンが十分に使えるように炎症を押さえ込んでからデトックスに入ることが大切です。
具体的には、腸内環境を整えながら、耳鼻科や歯科いってくださいね、とアドバイスします。耳鼻科で上咽頭炎を、歯科で根尖感染を治してきていただきます。特に脳のデトックスをするには、首から上の炎症を完全にとってしまうことです。脳に近い炎症がとても関係してきますから。
リーキーガットとリーキーブレイン
腸と脳はどちらを先にアプローチすべきかというと、両方です。脳がちゃんとした人でないと食べ物がちゃんとできないですよね。栄養療法は食事療法です。食事療法ができないと、腸が治りません。腸が治らないと、全て上手く行きません。ですから、対症療法的に脳にアプローチしてあげることは重要です。ただし、根源的には下から登っていかないといけません。
リーキーガットとは、腸に穴が開いてしまうという概念です。たんぱく質の中のグリアジンというものがあります。小麦を避けてほしい理由は、グリアジンがゾヌリンタンパク質を作らせて、そのゾヌリンが腸のタイトジャンクションを開いてしまうからです。タイトジャンクションとは、粘膜細胞と粘膜細胞の間に存在するバリアのことです。タイトジャンクションが開くと、余計なものが体内に入ってしまい、様々な免疫反応を引き起こしてしまいます。これがリーキーガットです。
入ったゾヌリンはそのまま脳の方まで行きます。問題なのは腸のタイトジャンクションと脳の血液脳関門(BBB: blood brain barrier )はほぼ同じ構造をしているということです。血液脳関門は脳の中に異物が入らないようにしているバリアですが、腸と同様にゾヌリンで開きます。だから、ゾヌリンが頭の方に行った場合、そのまま脳の中に入ってしまいます。だから、リーキーガットがリーキーブレインも引き起こします。
もちろん小麦アレルギーもあるかもしれませんが、それだけでは説明しきれないグルテンの問題点があります。特に子供は感受性が高いので、グルテンフリーにすると異常行動が治まったりします。
アルツハイマー病の原因と対策
アルツハイマー病に効く薬はありません。アルツハイマー病はβアミロイドの蓄積が原因だと言われて、ベータアミロイドを減らすための薬が全世界でたくさん開発されましたが、ことごとく失敗しました。どこの国の政府も主張していて、フランスは半年前にアルツハイマーの薬を保険外適用にしました。理由は、効かないからです。
アメリカのアルツハイマー病学会も薬は効かないと公式声明を出しています。薬をたくさん使っているのは日本くらいです。なぜ薬が効かないかというと、ベータアミロイドの蓄積は原因ではなくて結果だからです。アルツハイマーの原因には個体差があるからです。原因は人によって様々で、毒物のせい・栄養不足のせい、炎症のせいなどです。だから、アルツハイマーも個体差を見据えた栄養療法で治していかないとうまくいかないんです。
それをうまく説明しているのが、この「アルツハイマー病の真実と終焉」という本です。アルツハイマー病の原因は、この本によると大きく3つに分かれていて、この3つのうちのどれにあたるのかを突き詰めて、それにアプローチしていくといいよ、と書かれています。書かれていることはかなり複雑に見えますが、根本治療のピラミッドを理解していれば、治療の順番に困ることはありません。
治療のステップ
ピラミッドは5段階ありましたが、重症な人ほど4段目(デトックス)と5段目(炎症、腸内環境)、そして低血糖の治療に時間をかけた方がいいです。
栄養療法はサプリメントと食事ですが、栄養の吸収が悪い人は、全然うまくいきません。時間をかけて、吸収できるような素地を作ってあげるのが、結果的には近道です。消化できない栄養は腸を荒らすだけです。代謝が低く、消化酵素が出ていないわけですから。腸が荒れて、お腹が膨れて、まったく治りません。まずは、合わない食べ物をやめることです。
胃腸のケアに集中すること、副腎ケアに集中して低血糖をなくすこと。それだけでだいぶ、人の持っている自然治癒力が働いてきます。
サプリメントとしては副腎サプリと乳酸菌と消化酵素などで様子を見ます。ある程度素地が出てきたら、代謝が高くなってくるので、デトックスを始めようか、ということになります。デトックスは基本的に攻めの治療です。ここからはサウナや運動を混ぜていってもいいと思います。散歩したら疲れて動けなくなっちゃう、という人はまだそこまでやらない方がいいということです。