栄養所要量には上限がある
分子栄養医学を実践するときに、必ず絡んでくるのが栄養所要量の問題です。厚生労働省の「第6次改定日本人の栄養所要量」をみると、主な栄養素について、欠乏症を防ぐ必要量(所要量)とともに、過剰摂取による健康障害を防ぐ上限値(許容上限摂取量)の設定がされています。
この第6次・・は平成12年に改定されたものですが、当時のサプリメントブームを反映して、過剰症が万が一にもないように、特に上限値が細かく設定されました。ですから、多くのサプリメントに入っている栄養素は、この過剰症を超えないような量の設定になっています。
分子栄養学では、栄養素を栄養としてではなく、薬理学的効果を得るために投与しますので、当然、処方量は最低所要量を大きく超えてきます。しかし、ここに大きな壁の一つがあります。理論的背景と実績を患者さんに示すことが出来なければ、治療への同意が得られにくいからです。
ビタミンAの場合
ビタミンAの所要量は12歳以上で、1日当たり下記になります。ビタミンAの過剰摂取による副作用として、胎児奇形をはじめとして、頭痛、脳圧亢進、吐き気、嘔吐、皮膚の乾燥、筋肉痛、食欲不振、皮膚色素沈着などが言われています。
ビタミンAの所要量
男性 2000 IU(国際単位)
女性 1800 IU (妊婦は+200 IU、授乳婦は+1000 IU)
許容上限摂取量は5000IU
やきとりのレバーは1本で16,000 IU、うな重は1人前3,000 IUのビタミンAを含んでいます。実は、ビタミンAは、やきとりのレバーを食べることで、1日の許容上限摂取量を簡単に超えてしまうのですが、レバーを食べて奇形になったという話は聞いたことがありません。
私は妊婦さんを含む100人以上にビタミンAを少なくとも1日当たり、30,000 IU~120,000 IUを処方したり、監修したりしてきましたが、重篤な副作用の話は聞いたことがありません。しかし、それでも一般的には、妊婦への大量投与に関しては、贅否両論があり結論は得られてはいません。
ビタミンAにはいくつかの働きがありますが、一番大切なのは「細胞分裂の正常化」です。ビタミンAの一形態であるレチノイン酸は核内の受容体に結合し、特定の遺伝子の発現を制御します。レチノイン酸受容体はステロイドホルモンなどと同じく、細胞の核に存在します。
Naturevolume 330, pages444–450 (1987)
ビタミンAは直接、細胞の核に働きかけ、細胞分裂に関わります。
そういう意味でビタミンAはステロイドと同様に非常に薬理的作用が強いビタミンです。つまり、「ビタミンAが不足すると、細胞分裂がうまくいかない」ということです。
よって、細胞分裂が盛んな胎児を抱えている妊婦には必須とされているし、細胞分裂異常が原因となっているがんに対しての効能が期待されているし(白血病の治療にはすでに応用されている)、細胞分裂が盛んな皮膚や口腔粘膜の正常化に必要なわけです。だから、ビタミンA、冬時の肌の乾燥防止には本当に効きます。
天然と人工ビタミンAは全く違う
ビタミンAサプリメントこのように非常に使えますが、ひとつだけ注意が必要です。天然のサプリメントと人工的なサプリメントやビタミンA製剤は全く別物です。人工のビタミンAは最初から活性型です。摂取したそばから効果を発現しますので、効き過ぎる事があります。
一方で、天然ビタミンAは体内に入ってから、必要に応じて活性化されますのでそのようなことはありません。うなぎと同じです。