メチレーションのこと、ご存知ですか?栄養療法を学び始めた方の中には、何となく難しいもの…と感じていらっしゃる方が多いかもしれませんね。
そこで今回は、血液検査からメチレーションレベルを推測する方法と、適切に回すための栄養療法的アプローチをわかりやすく解説します。メチレーション回路には様々な栄養素が絡んでいますが、今まで学んできた血液データの読み方を活用すれば、ご自身のメチレーションレベルをある程度推測することが可能です。メチレーションを学んで、栄養療法への理解をさらに深めていきましょう。
1. メチレーションとは
1-1. メチル基供与体と受容体
様々な基質にメチル基(-CH3)が置換または結合することをメチレーション(メチル化)と言います。メチル化することで、物質が活性化したり不活性化したり、様々な化学反応が起きます。メチル基を与えるものをメチル基供与体、受け取るものをメチル基受容体と呼びます。代表的な供与体はSAMe(S-アデノシルメチオニン)、受容体はナイアシンです。SAMeは、ATPに次いで体内でたくさん使われています。
1-2. メチレーション 3つの経路
メチレーション回路は、3つの経路が歯車のように噛み合わさって動いています。メチル化経路はメチル基を作り出す経路、葉酸経路は葉酸を活性化する経路、神経経路はドーパミンを作り出す経路のことです。さらに、メチル化経路のホモシステインからシステインに向かう硫酸経路は、解毒に関係する経路です。
1-3. メチレーションの役割
メチレーション回路は体にとって大変重要な代謝経路で、次のような役割があります。
- 解毒(グルタチオン合成)
- メチル基の供給
- DNA、RNAの産生
- ドーパミン産生
- 動脈硬化の予防(ホモシステイン)
- がんの予防(DNAサイレンシング)
- 免疫調整
メチレーションが正常に行われると、グルタチオンが合成され解毒が促進します。また、ホモシステインが溜まらないので、酸化ストレスが低減し、無駄なタンパク質の発現が抑えられ、がんを防ぐことができます。葉酸経路が活性化し、DNAやRNAの合成が促進されたり、ドーパミンやセロトニンといった神経伝達物質の合成や代謝がスムーズに行われたりします。
1-4. メチレーションを阻害する要素
メチレーションは、基質と酵素の適合性によって回っているので、基質や酵素の不足によりアンバランスが起こります。例えば、動物性タンパク質の摂取が少ないと基質であるメチオニンが不足しますし、酵素を産生する遺伝子にSNPがあると酵素が不足します。また、補酵素の不足、重金属や感染、炎症といったものがメチレーション回路を阻害します。
- 基質の不足(タンパク質摂取不足によるメチオニン↓)
- 遺伝子のSNP(遺伝子多型、MTHFRではC677Tなど)
- 酵素の補酵素不足(MTHFRではビタミンB2)
- 重金属(MTRでは水銀、硫酸経路ではヒ素)
- 感染、炎症(SHMT、CBS、MTR、BH4、CDX)
1-5. 実践ピラミッドにおけるメチレーションの位置づけ
メチレーションは実践ピラミッドの頂上に位置します。メチレーションはとても重要な部分ですが、腸の炎症、デトックス、ホルモンバランス、ミトコンドリア機能のケアをスルーして、メチレーションだけにアプローチしても絶対にうまくいきません。逆に言うと、ピラミッドの下から順にアプローチしていくと、徐々にメチレーションが回るようになっていきます。
2. 自閉症との関連性
2-1. 自閉症治療の難しさ
メチレーションレベルに深い関わりがあるのが自閉症です。自閉症に対するアプローチは様々試みられていますが、なかなか結果に繋がっていないのが現状です。それは、自閉症児の脳は発達段階にあるため、ものすごくナイーブで色々な外的影響を受けやすいためです。普通はメチレーションまで考えなくても症状が改善することが多いのですが、重症患者や子どもの場合は、メチレーションのアプローチが必要になることもあります。
2-2. 自閉症発症の原因
米国自閉症児治療学会であるMAPSの会長で、自閉症治療の第一人者である、ダン・ロシニョール博士は、1971~2010年における自閉症関連の論文を分析し、自閉症には炎症や酸化ストレス、ミトコンドリア機能不全、毒物曝露が関係していることを明らかにしました。
自閉症に関するレビュー
・炎症・免疫不全(416/437, 95%)
・酸化ストレス(115/115, 100%)
・ミトコンドリア機能不全(145/153, 95%)
・毒物曝露(170/190, 89%)
Mol Psychiatry. 2012 Apr;17(4):389-401.
A review of research trends in physiological abnormalities in autism spectrum disorders: immune dysregulation, inflammation, oxidative stress, mitochondrial dysfunction and environmental toxicant exposures
https://www.nature.com/articles/mp2011165
2-3. 効果的な代替医療
一般的に、自閉症に対する食事以外の代替医療として、エビデンスレベルが高い治療と言えば、メラトニン、ナルトレキソン(オピオイド拮抗薬)、音楽治療くらいしかありません。しかしながら、エビデンスレベルは低くとも、ビタミンB12、B6、B3、亜鉛など、メチレーションに関わる栄養素の摂取により、自閉症改善に効果が現れているため、既に治療に取り入れられています。ロシニョール博士の報告によると、自閉症児の親へのアンケート結果をまとめると、効果があった治療の1位はキレーション、2位はビタミンB12注射、3位はメラトニン摂取でした。
AnnAls of CliniCAl PsyChiAtry 2009;21(4):213-236
Novel and emerging treatments for autism spectrum disorders: A systematic review
https://hyperbaricoxygentreatmentcenter.com/wp-content/uploads/2020/07/Novel-and-emerging-treatments-for-autism.pdf
3. 葉酸経路と遺伝子の関係
3-1. MTHFRの遺伝子変異
葉酸経路で働くMTHFR(5,10-メチレンテトラヒドロ葉酸還元酵素)は、葉酸を活性化するときに使われる酵素で、5,10-メチレンテトラヒドロ葉酸を活性化型のメチル葉酸に変える働きをします。補酵素はビタミンB2とNAD(ビタミンB3)です。ビタミンB2、B3不足や、MTHFRに遺伝子変異があると、葉酸を十分に活性化できなくなります。
MTHFRの遺伝子は、20,373塩基対からなる大きなタンパク質です。遺伝子には冗長性があるので、1個や2個の塩基が置き換わってもタンパク質の機能にはあまり影響ありません。しかし、塩基番号677番、または1298番の塩基が1つ入れ替わると、それだけで機能が大幅に損なわれてしまいます。
- 塩基番号677:本来シトシン(C)のはずが、SNPが生じるとチミン(T)に置き換わり、生成されるアミノ酸がアラニンからバリンに変わる
- 塩基番号1298:本来アデニン(A)のはずが、SNPが生じるとCに置き換わる
遺伝子多型とは、遺伝子上の1つの塩基が別の塩基に置き換わることです。 1%以上の人が持っているものをSNP(スニップ、一塩基多型)、1%以下の人しか持っていないものを突然変異と呼びます。MTHFR遺伝子多型は日本人に多く、C677Tの変異は、日本人の45%に見られます。つまり、MTHFR遺伝子多型は、突然変異ではなくSNPということになります。
人種 | C677T 変異1つ (ヘテロ) | C677T 両方変異 (ホモ) | C282YとA1298C の変異が各1つ (複合ヘテロ) | A1298C 両方変異 (ホモ) |
---|---|---|---|---|
白人 (欧州・北アメリカ) | 25-45% | 8-18% | 15-20% | 4-12% |
ヒスパニック (アメリカ) | 42% | 21% | 不明 | 4-5% |
黒人 (アメリカ) | 14% | 約1% | 不明 | 2-4% |
アジア人 | 35% (日本人) | 11% (日本人) | 不明 | 1-4% |
遺伝子は両親から受け継ぎます。遺伝子変異を1つ受け継いだ場合をへテロ(異型接合体)、2つ受け継いだ場合をホモ(同型接合体)と言います。677CCが正常、677CTがヘテロ、677TTがホモとなります。また、677CTと1298ACといったようにそれぞれに遺伝子変異が1つずつある場合を複合ヘテロ接合体と呼びます。
3-2. 葉酸サプリメントの種類
葉酸サプリメントは大きく分けて、非活性葉酸、10ホルミル葉酸に近いフォリン酸(folinic acid)、5-メチル葉酸の3種類あります。5-メチル葉酸は日本では製造できないため、海外から購入する必要があります。個々のリスクよってどの葉酸サプリを摂ったら良いかが異なります。
葉酸経路は、葉酸を活性化してメチル化経路にメチル基というバトンを渡す役目をしています。非活性型の葉酸が1段階活性化されると10ホルミル葉酸になり、これがDNA合成を促進します。大多数の人は10ホルミル葉酸まで活性化させることができるので、非活性葉酸でも適量摂取すればDNA合成が促されます。
3-3. 妊娠前にはどの葉酸サプリを飲んだらいいのか?
二分脊椎というDNA合成不良により、神経系に異常をきたした赤ちゃんが産まれるケースが多かったことを受けて、厚生労働省が妊婦に対して葉酸サプリメントの摂取を推奨しています。
結論から言うと、妊娠前の方は普通の非活性葉酸で十分です。葉酸の量自体を増やすことが重要で、非活性葉酸でも十分効果を発揮します。特に積極的に摂取したいのは、オーバーメチレーション型のうつ症状がある方です。ナイアシンと葉酸サプリメントの摂取で、ドーパミンの過剰な生成を抑えてくれるからです。この場合も非活性葉酸を使います。
3-4. 特に注意すべき人とは?
問題は、10ホルミル葉酸からメチル葉酸になる代謝で、ここにはMTHFRが関わっています。MTHFR遺伝子に変異があると機能が半減し、メチル葉酸が低減します。メチル葉酸はドーパミンと解毒に関わっており、言語障害や解毒力低下を引き起こします。また、メチル葉酸はメチル化回路と繋がっており、ビタミンB12と反応して非活性型葉酸になってまた戻ってきますが、MTHFRにSNPがあるとこの循環がうまくいかなくなります。その場合は、活性型のメチル化葉酸をサプリメントで摂取して、この反応をバイパスしてあげる必要があります。
MTHFRの遺伝子検査は、唾液採取で簡単に検査ができるので、リスクがある女性は妊娠前に一度検査をしておくと良いでしょう。その結果を受けて、リスクがありそうだったら、フォリン酸またはメチル葉酸を摂取します。副作用がなく安全性が高いのはフォリン酸ですが、リスクが大きい場合はメチル葉酸を選びます。メチル葉酸は活性型葉酸なので、多少リスクがあります。葉酸はグルタミン酸を内部構造に含んでいるため、メチル葉酸を飲んでイライラが強くなったという事例は少なくありません。そうしたリスクを避けるのであれば、フォリン酸を選ぶと良いでしょう。
自閉症の家系
一卵性双生児において、片方が自閉症を発症した場合、もう片方が発症する確率は60~90%というデータがあり、遺伝の影響はかなり大きいと言えます。家系で自閉症の方がいる場合はMTHFRの遺伝子検査をした方が良いでしょう。
Mol Psychiatry. 2007 Jan;12(1):2-22.
The genetics of autistic disorders and its clinical relevance: a review of the literature
https://www.nature.com/articles/4001896
低メチレーション同士の夫婦
また、自閉症児の親には優秀な人が多いこともわかっています。高い業績を上げている、強迫神経症である、細部までわたる注意力を備えている、こだわりが強いなど、低メチレーション傾向の夫婦(例えば医師同士の夫婦)からは自閉症の子供が産まれる確率が上がると言われています。その場合、食事や解毒や酸化ストレス、炎症などに気をつけながら、必要に応じて葉酸サプリメントを補います。
薬物の影響
また、妊娠から20~24日目にサリドマイドを服用していた場合にのみ、子供に自閉症状が出たという報告もあります。子宮内ブックマークの書き換えが妊娠 1ヶ月目に起こるので、妊娠する前から対策をしていないと間に合わないということです。
Dev Med Child Neurol. 1994 Apr;36(4):351-6.
Autism in thalidomide embryopathy: a population study
https://onlinelibrary.wiley.com/doi/10.1111/j.1469-8749.1994.tb11856.x
出生後の酸化ストレス
妊娠前に限らず、生後のケアも重要です。なぜなら、自閉症は退行型発症が80%、つまり、生まれた時(生後16~24ヶ月)は正常で、その後突然発症するケースが大多数だからです。
Neuropsychol Rev. 2008 Dec;18(4):305-19.
Regression in autistic spectrum disorders
https://link.springer.com/article/10.1007%2Fs11065-008-9073-y
自閉症児は、グルタチオン、セレン、システイン、マグネシウム、亜鉛、ビタミンAが不足しており、水銀、鉛、銅が過剰で、酸化ストレスを生みやすい状態にあることがわかっています。
Presented at the APA Annual Meeting, May, 2001
Disordered metal metabolism in a large autism population
http://www.walshinstitute.org/uploads/1/7/9/9/17997321/disordered_metal_metabolism_in_a_large_autism_population.pdf
自閉症は、酸化ストレスに酸化防御能力が耐えられなくなると、脳が不可逆的な炎症を起こして発症します。したがって、十分な抗酸化対策、カゼインフリー、グルテンフリーを含めた腸内環境ケアをしっかり行えば確実に予防できるのです。
4. 血液データから推測する
4-1. 指標となる血液データ
初めてメチレーションを学ぶ方は、血液データを見てメチレーションの状態を推測することから始めましょう。
指標となる項目
☑️ MCV
☑️ AST(GOT)、ALT(GPT)
☑️ 尿酸
☑️ 炎症(フェリチン、CRP、血小板)
☑️ 好塩基球
☑️ ミトコンドリア
4-2. MCVからビタミンB12不足を推測する
メチル化経路で働くMTRは、補酵素にビタミンB12を使うため、MCVが高い人はメチレーションがうまく回っていない可能性があります。効果があった自閉症治療の第3位にビタミンB12注射がありましたが、これはMTRの反応をターゲットにした治療です。MCVの値は、細胞内のビタミンB12、葉酸濃度を反映するので良い指標となります。ビタミンB12が細胞内で働く際にリチウムを必要とするので、リチウム不足を把握するために、毛髪ミネラル検査を受けておくのも良いでしょう。
4-3. ビタミンB6の様々な働き
次に、ビタミンB6が不足するとメチレーションにどのような影響があるか見ていきましょう。ビタミンB6は体内の様々な場所で働いてるので、影響が出やすい栄養素ですが、代表的なものでは次の3つが挙げられます。
- COMT↓:ドーパミン、エストロゲン代謝の低下
- CBS↓:ホモシステイン蓄積、解毒力低下
- GAD↓:不安感、会話ができない(言葉とノイズが区別できない)
ビタミンB6は、ドーパミンの代謝に働くCOMT(カテコールO-メチル基転移酵素)を活性化します。他にもリチウムや抑肝散で活性化されるので、イライラが治らない場合は、これらを摂ると改善します。逆に、SAH(Sアデノシルホモシステイン)、コーヒー、ケルセチンはCOMTの働きを弱めるため、特に低メチレーション傾向の人は注意が必要です。
ホモシステインを硫酸経路に流す酵素である、CBS(シスタチオニンβ合成酵素)もビタミンB6で活性化されます。CBSに遺伝子変異があると、活性化しすぎたり、逆にホモシステインが蓄積して解毒力が弱まったりします。後者の場合は、ビタミンB6をサプリメントで補うと良いでしょう。
ビタミンB6は、グルタミン酸をGABAに転換するGAD(グルタミン脱水素酵素)の補酵素でもあります。不安感が常に付きまとっている人は、ビタミンB6を摂取するとGABAへの変換が促されます。また、私自身がそうなのですが、会話とノイズの区別が苦手な体質なので、ノイズキャンセラーヘッドホンが手放せません。そういった人は、ビタミンB6を摂ることで、ヘッドホンを付けた時と同じような効果を得ることができます。
4-4. ASTとALTからビタミンB6不足を推測する
ビタミンB6不足の確認は、AST(GOT)とALT(GPT)の差が指標になります。ALTはグルコース-アラニン回路で働く酵素です。エネルギー源としてブドウ糖と乳酸が両方不足した時に、筋肉のアミノ酸が分解され糖新生によりグルコースが生成します。筋肉にはグルコースを生成するグルコース-6-ホスファターゼが存在しないため、ALTの働きでピルビン酸がアラニンになり、このアラニンが肝臓に運ばれて糖新生が行われます。
ASTとALTはともにビタミンB6を補酵素としますが、ALTの方がよりビタミンB6の影響を受けやすいため、ビタミンB6不足の場合、AST>ALTとなります。
4-5. 尿素窒素とビタミンB6
尿素窒素値からもビタミンB6不足を推測できます。アラニンからピルビン酸に戻る反応で尿素が生成されるため、尿素窒素値が低い人もビタミンB6が不足していると考えられます。
4-6. COMTの働きを促進するもの
COMTの働きを良くする栄養素は、SAMe、リチウム、B6、抑肝散です。逆にCOMTの働きを止めるのは、ケルセチン、カテキン、コーヒー、チョコレート、SAHです。
このように、ドーパミン、GABA、セロトニンの生成、COMTの活性化など、神経伝達物質の様々な反応に、ビタミンB6が関与していることがわかります。しかし、ビタミンB6はたくさん飲めば良いというものではありません。摂り過ぎると、トリプトファンからキノリン酸への過剰転換が起きて、キノリン酸が神経毒として働いてしまいます。ビタミンB6の効きが悪い人は、活性型のビタミンB6(P-5-P;ピリドキサール-5-リン酸)を使うと良いでしょう。海外製のサプリメントには、ビタミンB6とP-5-Pが適量ずつ入っているものもあります。ビタミンB6:P5P=2:1くらいがベストです。
4-7. ホモシステイン値を下げる方法
メチル化回路の中心にあるのがホモシステインです。ホモシステイン値は血液検査でわかるので、ぜひ一度測ってみてください。ホモシステインは酸化ストレスの素になるので、値が高い人は下げる必要があります。ホモシステインを下げる方法は3通りあります。
MTRを活性化する
正攻法は、MTRを介してDNA合成に向かう経路を回す方法で、ビタミンB12、葉酸、亜鉛を使います。ただし、MTRは炎症と重金属、カンジダにとても弱いという性質があります。お子さんの場合はビタミンB12の吸収も悪いので、注射を打つこともあります。
BHMTを活性化する
正攻法でうまくいかない場合は、亜鉛とトリメチルグリシンというベタインを使い、BHMTの酵素を活性化させてメチオニンに行く経路を流してあげます。これを近道の経路と呼びます。近道ばかり回していると、神経伝達物質やDNAの合成が滞りますが、とりあえずホモシステインを下げてメチル基を作ることを優先させます。これは、エイミー・ヤスコプロトコルの方法です。ある程度SAMeをたくさん供給できる状態にもっていったところで近道を止めると、MTRの経路が回り出して言語障害などが改善します。
ポイントは、近道の経路がコルチゾールで活性化するということです。つまり、ストレスはメチレーションに影響するということです。BHMT酵素はストレスがあると活性化し、SAMeがたくさん生成されるので、高ストレス状態の時には高メチル化状態になります。副腎疲労の疲弊期になるとコルチゾールが枯渇しているので、低メチレーションのように見えます。でもだんだん治ってくると、実は高メチレーションだったということはよくあることです。好中球分画や唾液中コルチゾール値を見て、ストレス状態を把握すると、メチレーションの状態が推測できます。
CBSを活性化する
3つ目の方法は、ビタミンB6などを使ってCBSを回すことです。CBSの働きが弱まっていると、ホモシステインが高くなり、若年性心筋梗塞などのリスクが高まります。逆に、ホモシステインが低すぎる場合は、解毒やDNA合成などに使う材料が足りないことを意味するので、その場合は動物性タンパク質をしっかり摂ってメチオニンを補給しましょう。
4-8. 炎症とメチレーション
メチレーションに影響するのは、ビタミンB12、B6、ストレス、そして炎症です。炎症はメチレーションにものすごく影響するので、フェリチンやCRP、血小板といった炎症マーカーが上がっていれば、まずは炎症の部位を突き止めて対処する必要があります。
メチレーションの反応で炎症に 1番弱い部分がMTRです。炎症の他に、カンジダ、水銀、活性酸素でもこの経路は阻害されてしまいます。炎症性サイトカインであるTNFαや、カンジダにより分泌されたアセトアルデヒドがMTRの働きを止めます。メチレーションを改善するためには、MTRの働きを阻害する要因をまず最初に除く必要があります。
2番目に弱いのは、メチレーションと他の代謝経路が交わっている部分です。トリプトファンは、セロトニン経路とキヌレニン経路の二手に別れます。セロトニンには10%、残りの90%はキヌリン酸にいきます。炎症があるとセロトニン経路が止まり、キヌリン酸経路に流れるため、セロトニン不足が起こります。また、炎症があると、キヌレニン経路が活性化して免疫を上げるナイアシンをたくさん作るようになります。しかし、炎症が強すぎると、ナイアシンの手前で代謝が止まってキノリン酸が溜まり、神経毒として働いてしまいます。
ナイアシンはBH4を作る経路で働きます。BH4はセロトニンやドーパミンの生合成に必要な物質で、ナイアシンから作られる経路と、BH2のリサイクルで作られる経路があります。両方の経路が活性化されないと、セロトニンとドーパミンのバランスがうまく取れません。炎症を起こすと、セロトニン経路からもBH4からもセロトニンが作られず、相対的にドーパミンが過剰になって、イライラが強まります。BH2からのリサイクル経路は、特にアルミやアンモニアで阻害されると言われています。
4-9. 神経伝達物質の産生
メチレーションの一番左に位置するのが神経経路です。BH4は、チロシン、Lドーパ、5HTPといった様々な神経伝達物質の産生に関わっている補酵素です。
BH4の阻害要因は、アルミニウムとアンモニアです。また、MTHFR1298の遺伝子変異によっても阻害されます。
4-10. 尿酸不足は低メチレーション
メチル化回路で働くAHCYという酵素があります。メチオニン→SAMe→SAH(S-アデノシル-L-ホモシステイン)→ホモシステインという一連の代謝において、SAHからホモシステインに変換されるところで働きます。AHCYによってホモシステインとアデノシンが生成し、アデノシンは、イノシン→ヒポキサンチン→尿酸と代謝されていきます。
このことから、尿酸値はメチル化回路の状態を見る指標の 1つになります。尿酸が低ければ、AHCYの働きが悪くSAHが上がり、低メチレーション状態になっていると推測できます。 ご存知の通り、尿酸は体内で作られる1番の抗酸化物質なので、尿酸が低い人は抗酸化対策が必要です。抗酸化対策として最初にアドバイスするのは、ヒポキサンチンの補酵素であるモリブデンを摂取することですが、根本的には炎症を治してメチレーション回路を回してあげることが重要です。
SAHが上がると、COMTの働きが弱まるため、ドーパミン、アドレナリン、エストロゲンの分解ができなくなります。エストロゲンとドーパミンの分解には、同じ酵素が使われるため、生理周期後半にイライラしやすいのは、エストロゲンが過多になってドーパミンの分解が追いつかなくなるためです。人によってはビタミンB6を摂取しCOMTの働きを補完してあげると、生理周期に伴うイライラを和らげることができます。
4-11. ミトコンドリア機能とメチレーション
メチオニンをSAMeに変換するMATという酵素は、補酵素としてマグネシウムをたくさん必要とします。エネルギーも多く使うので、ミトコンドリア機能障害がある場合もメチレーションが低下してしまいます。また、硫酸経路にもエネルギーを多く要します。人間は、エネルギーの3割を解毒に使っているので、ミトコンドリア機能の低下により硫酸経路が止まってしまい、解毒ができなくなってしまいます。血液データから、ミトコンドリア機能低下が疑われる人は、そこへのアプローチも必要です。
4-12. まとめ
ASTとALTが低ければ、COMTとCBSの低下を疑います。尿酸値が低ければ、低メチレーションでCOMTにも影響しているかもしれません。クレアチニンが低ければ一般的には低メチレーションですが、例外的に高メチレーションの場合もあります。ミトコンドリアが低下している時は、低メチレーション、SAMe不足になります。炎症があれば、まず炎症を抑えることから始めましょう。
- GOT, GPT↓:COMT↓(イライラ)、CBS↓(解毒できない、HCT↑)
- 尿酸↓:低メチレーション、COMT↓
- クレアチニン↓:低メチレーションor高メチレーション
- ミトコンドリア↓:低メチレーション、SAMe不足
- 炎症:MTR↓、CTX↓(解毒できない)
- ストレス:BHMT↑(言語の問題など)