慢性疲労治療のコツの1つは、腸のわずかな炎症をみつけてケアすることです。おなかの自覚症状はあてにならないため、感度の高い検査を使い炎症を見逃さないようにしましょう。
腸の炎症が万病の元
慢性疲労を長く患っている患者さんには炎症を持っている人が多いようです。慢性鼻炎、脂肪肝、歯周病、上咽頭炎などの炎症は副腎に負担をかけ、様々なサプリメントの効果を打ち消してしまいます。中でも特に影響が強いのが腸の炎症です。腸はサプリメントの入り口であり、免疫の調整臓器でもあるので、吸収不良からアトピーまで様々な病気に関わっています。
オーダーメイドでサプリを処方する個別化栄養療法を行うためには、腸内環境を調べて腸の炎症の有無や程度をあらかじめ知っておくことが不可欠です。といっても、大腸の内視鏡検査で異常なしだからといって、炎症がないと決めつけるわけにはいきません。肉眼的にはわからない軽度の炎症でさえも全身への影響は少なくありません。
腫瘍や炎症がないのに腹部症状を伴う過敏性腸炎も、顕微鏡で腸組織をみると炎症が存在することがわかっています。
便中リゾチームは最も感度が高い腸炎の検査
私は腸内環境の把握のためにドクターズ・データ社の総合便検査分析を使用しています。この研究所は代替医療の分野では有名で、世界中のクリニックに臨床検査を提供しています。
この検査では、一般的な病院の検査ではわからない腸内細菌バランスや免疫状態など様々な腸内の状況を知ることができます。
その中でも重宝するのが腸の炎症の指標である便中リゾチームです。リゾチームは、細菌の細胞壁を分解する働きを持っており、炎症の程度に応じて便中のリゾチーム濃度が増えます。おおまかにいうと、病原性細菌が増えると中等度(200~600程度)、炎症性腸疾患があれば高度(2,000以上)増加します。
慢性疲労の患者さんの多くに中等度の炎症が見られますが、この程度では大腸内視鏡検査で異常を認める事は殆どありません。この検査は通常なら見逃されてしまう位の軽度の炎症を見つけることができるのです。これは副腎疲労の治療の成功率を大きく左右します。炎症は例え軽症でもコルチゾールの分泌を促すため副腎に負担をかけ続けるからです。
ところで、一体どのくらいの人がこの軽度の腸の炎症を自覚しているでしょうか。自覚症状がなければ、腸の検査や食事治療に考えが及ぶこともないでしょう。そこで当院を受診中の患者さんの自覚症状と便検査の結果を比較してみました。
腸の炎症を自覚できる人は意外と多くない
最近1ヶ月半に来院され、便検査を行った65名の慢性疲労、副腎疲労、低血糖の患者さん(7~63才、男28名、女37名)に対して腸内環境の問診票と便中リゾチームの上昇度を比較しました。
すると、65名中50名(77%)に便中リゾチーム軽度上昇(>200)が認められました。疲労や低血糖を持つ患者さんの腸がいかに炎症を起こしているかがよくわかります。
次にそのような軽度の腸炎を持つ50名のうち、過敏性腸炎の症状がある方を調べました。
〈過敏性腸炎の診断基準〉
腹痛もしくは腹部不快感が半年前からあり、かつ最近3か月の中で月に3日以上あり、さらに下記の項目のうち2つ以上を満たす。
- 排便により軽快する。
- 症状の有無と排便頻度が関連している。(例:腹痛があるとき排便回数が増える)
- 症状の有無と便の状態が関連している。(例:腹部不快感があるとき下痢状便になる)
その結果、症状を持つ人は26名、ない人は24名でした。
つまり、便中リゾチームが高く腸に炎症がある人でも、腹痛や腹部不快感などのはっきりした過敏性腸炎症状を持つ人は半分に過ぎないのです。
この状況は年齢が上がると顕著になります。先ほどの50名を40歳を区切りに2つに分けてみました。すると、40歳未満では症状ありが67%を占めるのに対して、40歳以上で症状が出ている人は38%に過ぎませんでした。40歳になると自分の腸の炎症に気がつく事が出来るのは3人にひとりなのです。
まとめ
腸の炎症があるのに自覚症状に乏しい人は意外と多く、特に40歳になるとそれが顕著です。慢性疲労、低血糖がなかなか治らない方は、お腹の症状が全くなくても一度腸内環境検査をしてみましょう。
検査は便のサンプルを郵送するだけで体への負担も最低限です。
宮澤医院では炎症の程度や腸内細菌バランス、免疫の低下度などを考慮して治療内容や治療期間の目安を決定しています。多少時間と手間をかけてでも根本原因を把握しておくことが迷いのない治療方針を生み出し、結局は治療期間も短くて済みます。ちょっとお高い検査ですが、40歳超えたら一度やってみて損はないです。