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小池雅美

育てにくい子のからだケア

小池雅美 · 2021年9月21日 ·

  • 子どもの寝つきの悪さや、寝起きの悪さに困ったりしている
  • 夜泣きをしたり、夜中に驚いて起きてしまう子どもに悩んでいる
  • 子どもがキーキー声を出したり、かみついたりダダをこねたりしている
  • 子どもの食欲がない、便秘や下痢をする

など、自分の子どもが育てにくいと感じたことはありませんか?

育てにくい子には、神経過敏やお腹の弱さなど様々な特徴があります。

その1つ1つに対処することも大切ですが、その裏にある生理的な背景を考えること、そして、原因となっている体の状態を探してケアしてあげることが、症状や行動の改善につながります。

今回はその中でも代表的な7つの点から、育てにくい子のケアの仕方をお話しします。

1.育てにくい子の体の特徴

“育てにくい子”というのは、育児書のようにはいかない、心配の多い子どものことです。

例えば、夜泣きをする、寝つきが悪い、寝起きが悪い、夜中に驚いて起きてしまう、キーキー声を出す、かみついたりダダをこねたりする、よく泣く、食欲がない、便秘や下痢をする、熱を出しやすい、引きつけや痙攣を起こす、落ち着きがない、こだわりが強い、こんな子たちがいわゆる育てにくい子です。

こちらのサイトでは画像を不鮮明にしております

では、生後4ヶ月のこの2人の赤ちゃん、どちらの男の子が、夜泣きが激しくて、食が細く、偏食でしょうか。

実は、出生体重は、左の子が3,164g、右の子が2,602gでした。

男の子の場合、3kgで生まれる子が一番多いので、左の子は平均の上のほう、右の子は軽めのほうにいることになります。同じ週数で生まれたのに、2割ほど体重が違います。これは、普通の大人の女性で考えると、体重が10キロくらい違うイメージです。実は、出生体重というのは、かなりダイレクトに消化器系の発達に影響します。

満期産で生まれた子どもたちのうち、体重が軽いほうの10%の子の状態を子宮内発育不全といいます。これは、主に以下のような原因で起こります。

  • 母体因子:若すぎる、もしくは年齢が高い、低栄養、妊娠高血圧症候群、喫煙歴など
  • 胎盤/臍帯因子:サイズや位置の異常、双子の場合
  • 胎児因子:染色体異常、先天性の感染症など

早産の場合も、お腹の中で育つ日数が短い分、体重が軽く生まれてくるリスクがあります。小さく生まれると腸管の成長が未熟なことがあるので、ミルクの飲み方や栄養吸収に影響が出てきますし、結果として赤ちゃんのときに大きく発達する神経系にも影響が出てきます。

こちらのサイトでは画像を不鮮明にしております

これは、この2人の赤ちゃんがそれぞれ3歳になった時の写真です。

どちらの子が定型発達でしょうか。左の子は14kg、右の子が12㎏です。

表情や骨格、頬の肉付きを見てください。

右の虚弱な方の子は、不安げな表情をしています。過緊張でリラックスできていません。笑うという行動は、顔の筋肉のトレーニングになります。骨格の成長にも影響してきます。口をしっかり閉じて鼻呼吸ができれば、上気道感染のリスクも減りますし、下顎の歯並びも変わってきます。

この2人は、肩幅も違います。肩幅や胸の厚さは、肋骨でできたかごのような形の胸郭が作っています。胸板は、肋骨がしっかり開いていれば厚くなります。

これは、呼吸の大きさに関わってきます。しっかりゆっくりと大きな呼吸ができていれば胸郭はしっかり開きますが、浅い呼吸では肋骨と肋骨の隙間が開きません。前かがみになっているとさらに呼吸は浅くなります。

次は、この子たちがそれぞれ6歳、10歳のときの写真です。

実は、先ほどからの写真の2人は兄弟です。この写真では同じサイズのパジャマを着ているので比較しやすいと思いますが、4歳も差があるのに体の大きさがほとんど同じです。しかも、足首がより太い右側の子方が6歳です。この子の足には厚みがあり、幅も広くてしっかりしています。

2人の足の違いは、運動量や疲れやすさ、転びやすさを反映しています。

それならば、左側の10歳の子にどんどん運動させればいいのかというと、そういうものでもありません。

外でしっかり遊ばせなさいという指導の前に、しっかり遊べる体をつくる材料を入れる、材料を吸収するためのお腹を作る必要があります。

さらに、2人が成長した7歳と12歳の時の写真です。右側の12歳の子の方がなで肩で、肩甲骨も目立たないので、猫背で呼吸が浅いということが分かります。

肩が落ちているのは、腕を持ち上げている僧帽筋という筋肉の力が弱いからです。この筋肉は頭をしっかり持ち上げるのにも使うので、この筋肉が弱いと夕方に頭が痛くなることもあります。この筋肉がないことで頭が前に下がり、腕が前方の内側に入り込んで、猫背になります。お腹も力が入らないので、ポッコリしたお腹になります。骨盤も後ろに倒れます。顎が下のほうに引っ張られるために、力を抜くと口が開いてしまいます。油断するとうっすら口を開けているタイプの子は、全身の筋肉量も力も弱いと考えてよいでしょう。なで肩の姿勢の悪い子は、呼吸が浅く筋肉の力が弱いために、緊張しやすく疲れやすいということになります。

また、右の子は左の子に比べて、皮膚が薄くてポチャポチャしていますし、筋肉もありません。クラスでは背が一番小さくて、よくお腹が痛くなります。食べるのも遅くて好き嫌いがあります。2人の身長差は15センチくらいありますが、体重はほぼ同じです。

2.問診から推察する

このように、第一印象の見た目の差や、触れたときの皮膚の違いは、生育歴や胃腸機能を反映しています。その裏付けをしたり、さらに詳しく知ったりするための方法として、問診はとても大切です。問診する内容は、以下の項目になります。

  1. 妊娠期間
    満期産でなく、早く生まれた赤ちゃんの場合、十分に育っていない可能性があります。この原因には母体が特別な病気をもっている、貧血や低栄養がある、ストレスがかかっているなどがあります。
    妊娠は母体に負担が大きくかかるため、トラブルのリスクが上がります。
  2. 出生体重
    満期産でも出生体重が少ないとき、なんらかの病気を持っている、栄養状態や発育が本来の状態より不足している可能性があります。逆に体重が大きすぎる場合、お母さんが高血糖状態であることもあります。
    貧血と高血糖が合わさると、見た目上ちょうどいい体重の赤ちゃんになることもあります。
  3. 母乳か粉ミルクか
    お母さんの栄養状態や体調が悪いときには、母乳が出にくくなることがあります。
    ただこれには個人差があって、貧血や低栄養状態でも量だけは十分に出てくることもあります。この場合は、栄養的に不足している母乳を飲ませ続けてしまうことになります。母乳か粉ミルクかは、どちらがいいというのではなく、そうなった理由を聞いておくことがヒントになります。
  4. ぐっすり眠るか、夜泣きはどうか
    栄養状態が足りていて体もしっかりしている子は、夜もしっかり眠る傾向があります。夜泣きや神経過敏がある場合、低血糖や鉄欠乏があるかもしれません。
    お腹の力の弱い子は、そのような傾向が出やすくなります。
  5. お母さんの既往歴
    お母さんが病気をもっていると、その治療方法や体調によって妊娠時に影響が出ます。きちんと治療ができていたか、安定していたかも大事です。
    妊娠中に貧血を指摘されて、鉄剤を出されることがありますが、栄養療法的にはこれはかなりひどい鉄欠乏になってからです。さらに、気持ち悪くなる、お腹が痛くなるなどで鉄剤が飲めないような状態の場合は、シビアな鉄欠乏と考えてよいです。
  6. 妊娠中の体重
    体重があまり増えなかった場合、妊娠中にダイエットをしていなかったかも確認してみてください。体重だけに目がいって、栄養が不足していることがあります。
    また、急激に体重が増えた場合は血糖コントロールが不安定だったり、たんぱく質不足によるむくみが影響していたりするかもしれません。
  7. うんちの状態
    うんちの状態は、大人でも子どもでも健康状態を知るのにとても重要です。
    この問診で気をつけなければいけないのは、「普通です」と答える方がとても多いということです。本来は、毎日、できるだけ明るい色のものが苦もなくつるんと出るのが普通です。
  8. お腹での便の滞在時間は、大体半日から1日程度なので、お腹の調子が本当にいいと1日に2回の排便が起こります。そして、大人でも腸内菌のバランスがよいと、赤ちゃんのうんちに近いものが出るようになります。

この表の下の方、赤枠で囲まれた部分のようにゆるゆるのうんちが出る場合には、冷えがあるかもしれません。手足が温かくても、深部体温が低いこともあります。
子どもは37度近くが正常です。体温が低い理由としては食が細い、貧血がある、筋肉が少ないなどを考えます。場合によっては甲状腺機能の低下があることもあるので確認が必要です。こういううんちの子は、ぐったりしていて食が細い傾向があります。顔色も悪く神経過敏だったり泣き虫だったり、筋肉もなかなかついてこないことが多いようです。
たまに、もともと便秘傾向の方が冷え性だと、相殺されて毎日排便がある場合があります。この場合は冷えが治ってくると便秘になったり、便秘を治すと下痢傾向になったりします。

便の色は食べ物の色によっても左右されますが、お腹の中に長時間留まっていると色が濃くなります。

便の色は胆汁の色です。腸内に乳酸菌が少なくて正常よりアルカリに傾いたり、便の水分が減って便秘傾向になってくると黒っぽくなります。毎日出ていても、腸の動きが悪ければ、数日前に食べたものがやっと出ているということもあります。
腸内の善玉菌は、酪酸などの脂肪酸を作ります。脂肪酸は大腸のエネルギーになるので、菌のバランスが悪いと腸がエネルギー不足になって動きが悪くなることがあります。真っ黒でコーヒーカスのような色の場合は、胃潰瘍などの出血の可能性もありますから、病院で確認してもらってください。

うんちが非常に細い子もいます。こういう子は、お腹がキリキリ痛むとか、うんちをするとお尻が痛いと言うかもしれません。
これは、自律神経のコントロールがうまくいかず、腸が痙攣することで起こります。朝起きられないなど不登校の子の便秘には、このタイプがかなりあります。うんちをしたいのにお腹が痛くて出せない、トイレから出てこられないというパターンです。この場合も、ベースに冷えや消化不良、貧血、低たんぱくが絡んでいることが多く見られます。

コロコロうんちの子は、まず水分摂取量を確認してください。自覚がなくても冷えがあると、十分量の水分が摂れていないことがあります。
大人では、カフェインの多いものやお酒を飲む方に多くみられます。これらを飲むと、利尿作用のために便の中の水分が減ってしまうからです。繊維の摂取は大切ですが、人によっては繊維を摂りすぎて相対的に水分不足になってしまうことがあります。

3.お腹を整える

3-1.カンジダの所見

これは、第1章に登場した写真の細い方の子が小学生のときの写真です。

左の写真で見られるガーゼと絆創膏は、とびひのためのものです。もともと免疫力が弱くて食も細いので、風邪をひけば長引き、小さな傷でも虫さされはどんどんとびひになります。だんだん耐性菌が出てきて、塗り薬の抗生物質では太刀打ちできなくなり、抗生剤の飲み薬が出ます。薬を飲むと一旦はよくなりますが、また蚊に刺されるととびひになります。

この子の口のあたりをよく見てみると、唇の端が切れているのがわかります。唇もカサカサに荒れています。これは、カンジダやビタミンB不足のためといわれています。実は、ビタミンB群はお腹の中の善玉菌が作ります。一方、抗生物質はカンジダを殺せないので、抗生物質を使えば使うほど善玉菌は減って、カンジダが増えてきます。このような症状があれば、カンジダが増えすぎて、腸に見えない炎症が起こっていると考えていいでしょう。また、唇のカサカサは、口呼吸をしているときにもよく見られます。

右の写真では、口の周りに赤いただれが見られます。これは体調が落ちた時に見られます。これが出ているときには集中力もなくなり、朝起きられなくなります。計算や漢字もできなくなって、イライラしたり情緒不安定になります。

子どもによっては、転びやすい、ぶつかりやすいといったように体のコントロール能力も低下します。これも、カンジダによる症状です。ただれが治ってくると、口の周りに色素沈着が起こります。

これは口の中にカンジダが増えて、口の中の細菌叢が乱れている証拠でもあります。疳の虫の子の特徴に、口の周りの色素沈着があるといわれています。

3-2.腸を荒らすガンジダと悪玉菌

体力がない、体調が悪い、メンタルの不調がある、このような人の腸内環境は、高確率で乱れています。特に、常在菌であるカンジダが必要以上に増えていることが多いです。

カンジダの特徴は、腸の粘膜に食い込むように繁殖することができるということです。

腸内にいるカビにはカンジダの他、アスペルギルスやサッカロミケスなどがいますが、これらは腸の中に入ったものをエサにして、いろいろな代謝物を出しながら増えていきます。

カンジダの場合は、炭水化物や糖がエサになるので、過剰な摂取は要注意です。アルコールを作る酵母やイーストはカンジダと同じカビの仲間なので、カンジダが多いときには増悪因子になります。カンジダは、腸の細胞と細胞をつなげているヒアルロン酸もエサにするので、腸の壁は傷ついてバリア機能を失っていきます。分解されたヒアルロン酸は、アラビノースという糖の一種と酒石酸に変化します。

丈夫な腸では、細胞と細胞の間にはタイトジャンクションといわれるバリアがあって、たんぱく質がペプチドになって、さらにアミノ酸に分解されるまで吸収されないようになっています。ところが、カビや悪玉菌で腸の粘膜が傷つき、バリアのない部分ができたリーキーガットといわれる状態になると、消化されないままのたんぱく質やペプチドが傷の部分から体に入ってしまいます。つまり、腸粘膜の破綻は、体の中に抗原を入れてしまう窓口になるわけです。

腸には免疫をコントロールする機能もあるので、アレルギーを起こす原因にもなります。自閉症や発達障害の子に、喘息やアトピーが多いのは、これと関係しているといわれています。標準医療では現在否定的ですが、乳製品や小麦たんぱく質が分解されてできるペプチドも、自閉症症状を起こす可能性があるといわれています。実際、小麦や乳製品をお休みすることで体調がよくなる子が多く見られます。

腸を荒らすのは、カンジダだけではありません。

善玉菌が少なくなった腸内には、悪玉菌が増加してきます。悪玉菌の一種が代謝した物質は門脈を通って肝臓に運ばれますが、この中の一部がPHPHAといわれる異常な代謝物に変換されます。これが増えてくると、興奮物質であるドーパミンも上昇します。落ち着きがなかったり、キレたり、叫んだりする子の中には、こういう興奮物質を作ってしまう菌が多い場合があります。ドーパミンが過剰になると活性酸素を大量に発生させて、神経細胞の膜に傷をつけ、神経系の変性を起こしてしまう可能性があります。

クロストリジウムディフィシルという菌も多くの人の腸内に住む細長い菌で、普段は特に問題を起こしませんが、抗生物質をたくさん使ったあとに生き残って増殖します。

そして、その数が極端に増えると2種類の毒素を出し、偽膜性腸炎という強い炎症を起こします。クロストリディアがたくさんいることが分かったら、普通の抗生物質が効かないので、バンコマイシンなどの強力な抗生物質を使います。問題なのは、これらの薬がクロストリジウムを死滅させるときに、細菌からたくさん毒素を出してしまうということ、強い反応が出やすいということです。ダイオフや瞑眩反応といわれるもので、発熱や不快感、倦怠感、動悸などが出て動けなくなることもあります。

なので、クロストリジウムディフィシルが増えていても、偽膜性腸炎など特別にひどい状態でなければ、善玉菌のプロバイオテクスでケアしていくことが一番よいようです。抗生物質を使わなければならないときの再発予防に、腸の修復作用を持つ善玉菌であるラクトバチルス、アシドフィルスGG株を使います。

3-3.2つの症例

【29歳の女性の症例】

  • 満期産だが、胎便吸引症候群だったため、かなり強い抗生物質を長期間投与された。
    胎便吸引症候群とは、赤ちゃんがお腹の中で苦しい思いをしてうんちが出てしまい、羊水が濁った状態で生まれた場合を指す。
  • 生後9カ月頃より、生育の遅れが目立ち始める。中学での成績はほとんどが1。
  • 食が非常に細く、ケーキや甘いものしか受け付けない。

この写真は「真っ直ぐ気をつけの姿勢をしてください」とお願いした時の姿勢です。

猫背になっていて、体の中心線が傾いています。お腹がポッコリ出て、猫背なのに背中が反っています。これは体を支える筋肉がないときの立ち方です。手が前に出ているのは、バランスを取るためと不安があったときに見られるものです。

また、首の後ろ、背中の部分がポッコリと盛り上がっていますが、これはバッファローハンプといわれる所見です。一般にはステロイドの使いすぎで見られる副作用です。ただ、この方はステロイドを使っていないので、常にどこかに炎症があって副腎からコルチゾールというホルモンが出続けていると考えられます。

その間接的な証拠は血液検査の中の、白血球数、特に好中球の増加に見られます。

好中球とリンパ球の比は、通常2対1程度、数値は60と30くらいですが、この人の場合3対1で、好中球の数値も70以上になっています。EOSINOと書いてあるのは好酸球で、アレルギーの時に数値が上がりますが、この人の場合1.1とかなり少なめです。自分で副腎皮質ホルモンをずっと出していて、免疫反応が低下してしまっている可能性があります。

そしてカリウムが4を切っていますが、ここからはコルチゾールによって体のミネラルが尿から捨てられている可能性が考えられます。カリウム以外のミネラルの場合、貯蔵してある分からフォローするので、血液検査では大きくずれてくることはありません。

この方の手は、29歳の女性としてはポチャポチャ、ふっくらしています。皮膚も非常に柔らかく、水っぽい感じがします。そして親指の付け根に当たる部分は、調理の仕事をしているわりに盛り上がりが少なくプニプニしいています。交感神経優位や、低血糖によるエネルギー不足、腸内環境の悪さが影響しています。

爪は、先がひどく割れています。実は、これはかなりよくなった状態の写真で、25歳のときにはもっと薄くて反り返ってボロボロでした。低栄養やミネラル不足と思われる状態です。

そして、とても爪が小さい、つまり指の末端がとても短いです。この傾向は、胎児期や生まれてすぐの栄養状態が悪い場合、炎症疾患があるときに起こります。指先への血流を増やすことで生命維持をしようとしている、その結果として見られます。

この方には、身体所見や既往歴、血液検査などから、さまざまな症状が腸内環境や炎症からきている可能性があったので、遅延性アレルギー(別名:フードアレルギー検査)をしてもらいました。その結果がこの表ですが、乳製品、麦、それ以外も好きな食べ物はほぼ全滅でした。何を食べてもアレルゲンとなってしまう、腸粘膜がかなり破綻した状態です。

さらに、その他の検査からは、腸粘膜炎症の原因として、カンジダ対策が必要だということが分かりました。そこで、まずはアレルギー反応の特に反応の強い食べ物を休んでもらい、食事のコントロール、腸内細菌叢の改善をすることで腸粘膜の改善をして、体調をあげていくことになりました。

【15歳の男子の症例】

  • 幼少期に、川崎病で入院治療をうけた。
  • 小学校の頃から不登校。
  • とても疲れやすい。
  • 診断はついていないが、発達障害の可能性があるといわれている。

この子の背中は、かなり左右差があります。ニキビも目立ちます。ニキビは腸内環境の悪さや消化機能の低下を反映しています。肝臓での解毒にも負担がかかっていることが多いようです。体がかなり緊張していて、手はいつも湿っています。

便を培養した結果が、この表です。

左の緑の部分が善玉菌、真ん中の黄色が日和見菌、右の赤が悪玉菌です。赤い項目の悪玉菌は一般の人であれば検査に何も出てこないところですが、3プラスとなっています。そして、緑の部分の良性善玉菌は一番上の菌だけしかいなくて、他は「NG=No Growth」、培養で育ってきていません。日和見菌は、善玉菌が非常に少ないときには、悪玉菌として働いてしまうので、この子のお腹は常に炎症を起こしているということになります。内視鏡で分かるほどの炎症ではありませんが、食べ物は消化吸収できませんし、体は、炎症を治すために全部のエネルギーを使ってしまいます。また、健康な人であればは、日和見菌の部分にはほとんど菌が出ないことが多いです。

3-4.エネルギー不足と甘いもの依存

カンジダを増やさないためには、過剰な糖質を減らさなければなりません。

子どもは、親の目を盗んででもお菓子を食べることがあります。これを治すには、叱ってもだめで、その理由を知る必要があります。

細胞の中にあるミトコンドリアは、エネルギーを作る器官です。赤黒い色をしているのは、鉄の色です。ミトコンドリアが材料にするのはグルコース。これが細胞の中でピルビン酸に変わる時に、酸素を使わない嫌気性解糖でATPというエネルギーを2個作ります。ここでできたピルビン酸と、酸素がミトコンドリアに入ると、クエン酸サイクル(別名:TCAサイクル)に入り、さらにその先で電子伝達系という反応回路に入ってATPを36個作ります。つまり、全部で38個のATPを作るというわけです。

この時、もし酸素が足りなくないと、グルコースから2個のATPしか作れなくなります。例えば、急激な運動で酸素の需要が増えたとき、ショック状態、血液の流れが悪くなったとき、貧血などです。ミトコンドリアの機能が低下したときも、同じ状態になります。

また、ピルビン酸がミトコンドリアに入るには、補酵素A、リポ酸、ビタミンB1、ビタミンB2が必要です。ビタミンが足りなくなると、エネルギーは作れません。特にビタミンB群は、代謝をするとどんどん使われていきますし、腸内環境が悪くても不足します。もし酸素がない状態で、同じだけのエネルギーを作るとしたら、より多くのグルコースが必要になります。

女性と子どもは甘いものが好きといわれていますが、実はこれは単なる好みの問題ではなく、症状です。酸素が十分でなく、エネルギーを十分につくりだすことができないと、常に充電が足りないような状態になります。そして、ミトコンドリアに入れなかったピルビン酸は乳酸に変化して、体中がだるくなります。いつもだるい、ぐったりしている人の尿を調べると、解糖系代謝で作られる乳酸やピルビン酸などが正常より多く出ていることがあります。根性がない、体力がない、いつも疲れている、その原因にこのようなエネルギーを作る経路がうまく働いていない可能性を考える必要があります。

4.セロトニンやメラトニンの不足

発達障害や抑うつ症状のある人には、不眠や生体リズムのずれがあることがよくあります。これには、生体リズムや神経内分泌、睡眠、体温調節をしているホルモンであるセロトニンとメラトニンが関係しています。セロトニン不足はうつ症状を、メラトニン不足は不眠症を起こします。この症状は、炎症があると悪化するので、気持ちを落ち着かせたりぐっすり眠るためには、まず体に隠れている炎症をなくすことが重要です。自覚症状や他覚症状の少ない炎症の代表は、便秘や下痢、慢性中耳炎、副鼻腔炎、歯の根っこの炎症などです。肌荒れや乾燥肌、アトピーなども炎症の1つですし、内臓脂肪の蓄積も炎症物質を作ります。 うつの改善のためにトリプトファンを使って悪化する人の場合には、炎症を疑ってみてください。

ブログ『おなかとこころ』第2章『睡眠を調整する自律神経とホルモン』に詳しく取り上げていますので、併せて読んでみてください。

5.貧血、鉄不足

5-1.鉄不足の女児の症例

【3歳の女児の症例】

  • 1歳のときにヘモグロビン値が8台で、貧血のために鉄剤を投与。ヘモグロビン値が11台まで回復し、基準に達したため治療を終了。
  • 3歳の検診で、同年齢の子より言葉が遅いことを指摘される。とても人懐っこく、人見知りしない。

この子の足は、下腿の軸に対してかかとがかなり外側に向いています。踵骨の外反といいます。年齢的には生理的なO脚からだんだん真っ直ぐな足になる時期ですが、下腿の骨も外側に弓なりに変形しています。

そして、地面に着いた足の指は上向きに反っています。これはバビンスキー反射といわれるもので、足の裏を刺激したときに足の指を上向きに反るという、生まれてから1歳くらいまでの赤ちゃんに見られる反射です。本来は、神経の発達とともに見られなくなって、歩き始める頃、遅くとも2歳くらいまでにはなくなっているはずですが、この子の場合、歩くたびにこの形になってしまってしまいます。

そのため、地面をつかむことができず、転びやすくなります。このバビンスキー反射は、大人でも脳梗塞や出血など、脳の疾患が起こると出現することがあります。

鉄は、血液中の酸素を運ぶだけでなく、エネルギーを作る、コラーゲンを作る、神経伝達物質を作る、胃酸の分泌、白血球内の殺菌成分を作るなど様々な働きをしています。鉄がないと、神経伝達物質をつくることができません。リラックス成分であるギャバ、交感神経刺激をするドーパミンやノルアドレナリン、セロトニンとメラトニンをつくるにも、鉄が必要です。鉄不足だとこのバランスが崩れるので、イライラ、焦燥感、不眠、元気のなさ、集中力の波が出てきます。

貧血については、ブログ「血液データの読み方 ひたすら赤血球」でさらに詳しく触れていますので、ぜひあわせてお読みください。

5-2.鉄欠乏の所見

鉄欠乏の所見は、爪にも現れます。これは先ほどの女児とは別の人のものですが、白っぽく、反ってしまっています。典型的な貧血、鉄欠乏です。ここまでひどくなくても、本来はぷっくり盛り上がっているはずの爪が薄かったり平だったりしたら鉄欠乏を疑ってもいいと思います。

これは、鉄欠乏だけでなく、疳の虫でもよく見られる所見です。白目の色が淡い水色なのが分かるでしょうか。これは白目の強膜が薄いために、中の黒い成分が見えているからです。白目の成分はコラーゲンなので、鉄不足や低たんぱくがあるとこれをうまく作ることができません。赤ちゃんの白目が水色っぽいのはこれから分厚くなっていくからですが、幼児以降、特に大人で白目が水色っぽく、鉄不足や栄養不足がある場合には、お腹の力の弱さも反映していることになります。

6.亜鉛不足

亜鉛は、細胞分裂にたくさん必要なミネラルです。骨をつくりなさいと命令したり、ATPからエネルギーを取り出すときに使われたりする酵素アルカリフォスターゼ(ALP)の材料にも含まれます。

なので、骨がぐっと伸びる時期、2歳頃と思春期には、イライラしたり、気難しくなることが多くなります。もちろん亜鉛だけではなく、潜在的な低栄養にもなっています。食べても食べても、お腹の機能が追いつかない時期です。突然暴れたりぐったりしたり、そんなわがままにしか見えない行動も、実はミネラル不足が潜んでいるかもしれません。

爪にある白い点々は、亜鉛不足の所見です。

7.アドレナリン・ノルアドレナリン

不登校や元気がない人は、副腎疲労の状態であることがほとんどです。それでもなんとかしようと気合を入れすぎてイライラしたり喧嘩腰になったり、カフェインや刺激物で体を動かそうとすることもあります。副腎で作られるコルチゾールは血糖値を維持するホルモンでもあるため、副腎疲労では低血糖症状が出やすくなります。

血糖値を上げるホルモンには、コルチゾールの他にアドレナリン、ノルアドレナリンなどがありますが、これらのホルモンによって体が交感神経優位になると、冷や汗、顔が青白い、手足の震え、動悸、気分が悪い、頭痛などの症状が起きます。また、交感神経が強く働くと手汗や足汗が出ることがあります。手汗や足汗が出ている場合には、体はすでに非常事態が始まっているということになります。

ブログ『自分をもっとすきになる』では、これら血糖値を上げるホルモンと体の反応、症状について取り上げています。

8.感覚入力

出典:https://www.betterpt.com/post/pick-your-posture

体がしっかりできていないと、姿勢が悪くなります。重心が後ろに反っている、腰が反っている、猫背、頭が前に偏っているなどです。正常であれば、一番右のように頭のてっぺんからかかとまで、真っ直ぐ紐で引っ張ったように揃っています。

この写真は、発達障害のある子たちです。どちらも体軸が歪んでいます。1人の子はお腹が前に出ています。もう1人の子は顎がグッと前に出ています。

この小学1年生の男の子は算数が大好きで、算数に集中している状態です。よい姿勢でないのは、集中すればするほど、体に意識が行かなくなるからです。このような子に姿勢をよくさせようとすると、授業に集中できなくなります。

姿勢が悪いというのは、筋肉の量が足りない、質が落ちている、エネルギーがうまく作れないサインです。

位置情報としての筋肉の場所、目で見たもの、耳からの平衡感覚など、人間の身体に入った感覚は、脳に入りって、ここで統合されます。そのため、正常に統合されるときちんと立っていることができますが、ここにアンバランスがある場合には真っ直ぐ立っていることができなくなります。

下半身の筋肉が少なくて感覚があまり入ってこないと、セルフイメージはお化けのような状態になって、つまずきやすくなります。このような子はできるだけ感覚を入れようとするので、狭いところに入ったり、カーテンに包まれたり、不安定な姿勢で寝たりすることが多くあります。子どもはみんな狭いところが大好きですが、これは感覚入力をしているサインです。

感覚入力の弱い子は、書き取りがなかなかうまくできません。それを手助けしてしっかりと書けるようにしてあげるには、下敷きに紙やすりを使います。書くたび紙やすりをこすることによる振動が指に入って感覚入力が増えるので、それを続けるうちにしっかりとした文字が書けるようになります。

手だけでなく、足の感覚が少なくなっている子の場合には、足元に柔らかくて痛くない人工芝を使ってあげる、少し締め付けるタイプの5本指靴下をはかせる、砂や土の上を歩かせるのも効果があります。ただ、感覚過敏の強い子の場合は、このような感覚入力を無理やりせず、その子が喜ぶ感覚から入れていくことがポイントです。

9.こわがりと恐怖麻痺反射

育てにくい子の中には、とてもこわがりな子がいます。この時には、恐怖麻痺反射が残存している可能性があります。恐怖麻痺反射は、赤ちゃんの時にだけある原始反射の1つですが、発達障害があるとこれが統合されずに残ってしまうことがあります。この場合には、背中の筋肉や感覚が育たず、姿勢も悪くなって、大人になってもFreezeによる症状がでます。この恐怖麻痺反射で固まった体を緩めるには、足の指回しが効きますが、こうすることで感覚入力をすることもできます。
恐怖麻痺反射については、ブログ『のうみそとからだをつなげよう』で詳しく説明しています。

10.さいごに

育てにくい子には、いつも神経過敏になっている、お腹の力が弱いなどいろいろな特徴があります。そして、その結果としていろいろな行動や症状が出てきます。

それらの1つ1つに対応することも大切ですが、その裏にある生理的な背景、体の状態を探し出すことが、育てにくい子の体のケアとして大切になります。

血液データの読み方 ひたすら赤血球

小池雅美 · 2021年5月27日 ·

血液データをもっと深読みしていくのに役立つのが、生化学や細胞生物学などの関連知識です。今回は、赤血球に特化して、幅広く、さまざまな角度からの知識と、より深いデータの読み方をお伝えします。

1.赤血球に関するうんちく

1-1.赤血球の大きさと構造

赤血球の大きさは、直径約8㎛(マイクロメートル)、厚み約1.7㎛です。お米の長いほうは約5.2㎜(ミリメートル)なので赤血球はそこに5,200個ほど並べられます。

また、高さ・奥行き・横幅が1㎜の箱、つまり1㎣=1㎕(マイクロリットル)の箱に赤血球を詰め込むと、男性で420万~570万個、女性であれば380万~500万個ほどが入ります。これが、血液検査で基準となる数値です。
もし、赤血球が1円玉だとしたら、500万枚分、約5tなので、この箱の大きさはアジア象くらいになります。
このように、赤血球というのは、とにかく小さく、たくさんある、そして赤いという特徴があります。

では、形はどうでしょうか。まず大きな特徴的は、ぺちゃんこ、真ん中が凹んでいるということです。この凹んでいるところを、central pallor(セントラル・ペイラー)といいます。「pallor」というのは、「青ざめている、顔色が悪い」という意味ですが、これは顕微鏡で見ると、真ん中の薄いところが光をよく通して、色が褪せて見えることに由来します。

赤血球がこのような形をしているのは、細い血管の中でも通ることができるようにするためです。実は、毛細血管の一番細いところは太さ5㎛程しかなく、直径8㎛の赤血球より細いため、ギュッと曲がって通っていく。写真で見ると、クラゲのような形に曲がっているのがわかります(図1)。本来、赤血球は横から見ると、ダンベル型をしていますが、細い血管を通るときには、鉄砲の玉状、パラシュート状、スリッパ状などいろいろな形に変わって、全身に酸素を運んでいます(図2)。

図1
図2

赤血球が曲がって細い血管に入れるのは、その形と曲げやすさに理由があります。プルプルでなければいけません。

まず、赤血球というのは、中身に対して表面積がすごく大きくて、とても変形しやすい形をしています。この形は、ATPがしっかりあって初めて保つことができるもので、これが不足してくると最終的には球に近くなってしまいます。これは、同じ体積を包むのなら、球が一番表面積が少なくてすむからで、こうなると曲がることができません。

そして、赤血球がこの形を保つことができるのは、膜の構造によっています。 赤血球の膜、リン脂質のところには、バンド3とアンキリン、グリコホリンとアクチンというたんぱく質が浮いていて、その根元の丸いところの膜にスペクトリンという紐がついています(図3)。このスペクトリンは、上から見ると三角と三角をつなぎ合わせたようなネット状になっていて(図4)、これで赤血球の表面は囲まれています(図5)。例えると、みかんのネットのようなものと膜たんぱくで、この構造を維持しています。

図3
図4
図5

赤血球には核とミトコンドリアがないので、嫌気性解糖によってATPをつくりだしています。

このATPは、リンを1つはずすことでADPに、さらにもう1つリンをはずすことでAMPに、最終的には全部リンが取れてアデノシンになります。リンをはずすときにエネルギーができるわけですが、この時に必要なのがALP(アルカリフォスファターゼ)という亜鉛を含む酵素です。

つまり、亜鉛がないとATPからエネルギーを取り出すことができないので、赤血球は苦しい思いをすることになります。

亜鉛がないと、ATPからエネルギー取り出せない (出典:京都大学2018年8月28日)

1-2.赤血球がつくられる場所

赤血球は、骨の中、その中にあるスカスカな部分、その隙間の中で作ります。

赤ちゃんのときには、指先や足の先の骨も含めて全身の骨で作っていますが、大人になると、頭蓋骨や肋骨、椎体、腸骨といった体の中心にある骨で作っています。

骨髄は、血をつくらなくなると、その部分が脂に変わります。これは、脂肪が白く映るタイプのMRIで撮った、10代、50代、80代の腰骨です。

人間ドックの評判とホントのところ  https://medical-checkup.biz/achives/7304

10代の腰骨には白さがあまりありませんが、年を取ってくると徐々に白っぽくなっているのは、脂肪が増えているからです。なので、高齢者の骨髄が脂肪になるのは問題はありません。が、ある程度年齢のいった方の腰骨があまり脂肪化していないときには、ガンの転移などで別の細胞に置きかわっていたり、貧血でどんどん血を作らなければならかったりなど、異常が起きている可能性があります。

では、まだ胎児の頃は、どこで血を作っているでしょうか。 妊娠2週目くらいのときには、おへそから出ている黄色い膜の部分である卵黄嚢(Yolk sac、ヨークサック)で、血の素を作ります。しばらくすると、大動脈の周り-大動脈・性腺・中腎領域(緑の部分)で作り始めます。もう少しすると、肝臓(赤い部分)で作り始めます。これらは全て、中胚葉といわれるところ、内臓をつくる部分です。

1-3.赤血球はどのようにつくられるか

赤血球のおおもとは、骨髄の中にあって、まだ何になるかが決まっていない「幹細胞」という細胞です。
この幹細胞は、図のように様々なものに変化していきますが、これを「分化」と呼びます。また、幹細胞が増殖するためには、亜鉛のついた「ジンクフィンガー」という酵素が必要です。

赤血球は、図の中で赤く囲まれた四角の一番左にある「前赤芽球」というものが成熟してできます。前赤芽球は、次に「赤芽球」に変化しますが、この段階ではまだ核とミトコンドリアを持っています。この後、この核を外に出す「脱核」というプロセスを踏んで、「網状赤血球」になり、最終的に「赤血球」へと変化します。

未熟な赤血球ともいえる赤芽球の段階では、脇に必ずマクロファージがいて、以下のようなことをしてくれています。

  • ヘム鉄合成に必要な鉄を補給する
  • どこかに流れていかないよう固定する
  • 分化増殖を助ける
  • 脱核した際に、外に出した核を貪食する

次の段階である「網状赤血球」は、脱核した跡が網目のように見えることからこの名前がついています。このときに内部に残っているミトコンドリアとリボソーム、小胞体はやがて消えていきますが、その消えていくギリギリまでのとても短い間もヘモグロビンを合成します。赤血球の約10~30%は、脱核してから作られるそうです。残った細胞内の小器官はオートファジーで処理されます。

網状赤血球

赤血球ができるまでの一連の成熟の過程では、核の成熟、DNAの合成が起こっています。DNAは、ウリジン-リン酸がチミジン-リン酸になり、さらに変化が進むことで作られます。
このウリジン-リン酸とチミジン-リン酸はとても似ているのですが、一ヵ所だけ違う部分があります。それが、CH3の部分です。ちなみに、ウリジン-リン酸の一部はウラシル、チミジン-リン酸の一部はチミンでできています。
ウラシルとチミン、この2つの違いは、メチル基がついているかいないか。なので、尿有機酸検査ではこれを利用して、ウラシルとチミンの量の比較をメチレーションの指標にします。ウラシルが多くチミンが少ないときは、メチル基がうまくつつけられていない、メチレーション経路がうまくいていないということになります。

dUMP:ウリジン-リン酸  →  dTMP:チモジン-リン酸

メチレーション回路で葉酸やB12が足りないと、SAMeにメチル基が渡せないため、DNAやRNAをつくることができません。そうなると、赤芽球は成熟することができないまま、核や細胞そのもの中途半端にが大きくなってから脱核した大球性の赤血球、MCV(平均赤血球容積)の大きな赤血球になります。これは正常な赤血球より大きいため、細い血管を通ることができません。細胞というのは育つと大きくなるように思いますが、赤血球の場合はその逆で、成熟すると小さくコンパクトになっていきます。

メチレーション回路

メチレーション回路の端にあるメチオニン回路には、SAMeを作ってメチル基をいろいろなものに渡す以外に、もう1つの役割があります。それが、ホモシステインを作ることです。ホモシステインからは、解毒の役割を果たす「硫酸塩」「タウリン」「グルタチオン」、そして一部「グリシン」を作っています。この経路のことを、「硫黄移動経路」と呼びます。

赤血球が大球性でMCVが大きいときは、葉酸とビタミンB12が足りないことが多いですから、メチレーション回路をうまく回せず、重金属、薬物、化学物質の解毒もできていないということが間接的にわかります。このような人の場合、どちらかというとお化粧をしていない、香水をつけていない、柔軟剤などの香りの強いものを使っていない、自然派食品が好き、菜食主義だったりするという傾向がありますが、これは解毒ができていない結果としてそうなっているかもしれない…と考えるのもありと思います。

赤血球は、核のある状態の時、ヘモグロビン合成をしています。
そのプロセスは、

  1. グリシンとスクシニルCoAが、ビタミンB6で活性化する合成酵素によって、アミノレブリン酸に変わる
  2. アミノレブリン酸が、次々と形を変えていく
  3. 最終的にはヘムに変化し、真ん中に鉄が入る。
  4. これが4つ重なって、ヘモグロビンになる

というものです。

ヘモグロビン合成のプロセス

つまり、ヘモグロビン合成では、鉄とビタミンB6が必要ということになります。

骨髄から赤血球になる分化では、DNAにあるプロモーターというスイッチが必要になります。このプロモータ―には、レチノイン酸とレチノールのレセプターがついています。この2つはどちらもビタミンAの仲間で、ヤツメウナギやレバー、ニンジン(カロテンが変化する)の中に多く含まれています。

ヤツメウナギの肝の脂の薬は、日本で普通に買えるビタミンAの薬として重宝します。ただし、パラベンが入っているので、解毒ができないタイプにはあまりお勧めできませんし、ミセル化していないため、脂溶性ビタミンの吸収が悪い人には効率が悪いかもしれません。

レチノールはサプリとして使います。ミセル化している便利なものも販売されていますが、普通にカプセルで売られているものはミセル化していないので、胆汁がしっかり出ない場合は効率が落ちます。レチノールは、過剰に摂っても遺伝子に悪さはしません。

レチノイン酸は、活性型のビタミンAです。体の中では、必要な量だけレチノールがレチノイン酸に変わっています。レチノイン酸には「ベサノイド」という急性全骨髄性白血病の薬がありますが、サプリメントはありません。その理由、は遺伝子がどんどん発現してしまうためです。

ミセル化されていないレチノール含有
ミセル化したレチノールのサプリメント
レチノイン酸含有の医薬品

このあたりのことについては、『脂溶性ビタミンをホルモンとして使う』の動画にありますので、ぜひそちらを見ていただけたらと思います。

1-4.いろいろな生き物の赤血球

  • 犬
    図の左下は、犬の赤血球ですが、人間のものと見た目がほとんど同じです。哺乳類の場合、大抵みんなドーナツ型で真ん中が薄くなっています。
  • ニワトリ
    図の右上、ニワトリのものになると、犬や人間と違って、楕円形で、真ん中に核があります。鳥から作ったヘム鉄の効率が悪いといわれる理由は、核によってヘモグロビンの割合が少なくなるためです。
  • カエル
    その下のカエルの赤血球も核があって、鳥に似ています。
  • 恐竜
    恐竜の化石からは、赤芽球のようなものの中に核があることがわかったとそうです。どちらかというとエミューに近い構造だったことから、恐竜はどうやら鳥に近いらしいということがわかっています。
  • 魚
    魚の中には、ヘモグロビンも、赤血球も、赤い血をもっていないコオリウオという種類がいます。そのエラは真っ白で透き通っています。こうなったのは、この魚が住む南極の海にはたくさんの酸素が溶け込んでいること、さらにこの魚の代謝が寒さで低下していて、たくさんの酸素を必要としないことがあるといわれています。
  • 虫
    虫の場合は赤血球はなく、気門から取りこまれた酸素は別のルートで運んでいます。
  • 環形動物
    ゴカイ、イソメといった釣り餌に使う環形動物の場合、血の中に赤血球はなく、ヘモグロビンだけが泳いでいます。赤血球がないということは、その膜についている抗原がないということなので、血液型がないとうことになります。

1-5.溶血

赤血球には、カリウム、LDH(乳酸脱水素酵素)がたくさん入っています。その他、AST、ALT鉄、葉酸なども入っています。

普通の血液、血漿と較べると、

  • カリウム 22.7倍
  • LDH   200倍
  • AST    80倍
  • ALT 15倍
  • 鉄 97倍

ですから、溶血すると、これらの数値が全部が上がります。ASTとALTとの比較では、ASTのほうが上がりやすくなります。

体の中で溶血が起こるケースは、血管の中を赤血球がうまく通ることができずに壊れてしまったときです。ぶつけてアザができたときや、マラソン格闘技などで足裏に力がかかってしまったときでなどは、溶血しやすくなります。

そして、赤血球の膜はリン脂質の二重膜なので、活性酸素がやってくると壊れやすくなります。それに対応できるように、細胞膜の中にはビタミンEが必ずあって、これが先に酸化することで脂質を過酸化物から守っていますが、ビタミンEが不足していると細胞膜はとても弱くなるので、溶血するような人はビタミンEの補給が大事になってきます。

溶血が起こるパターン

その他、採血時やその後の血液保管の状況によっても、溶血が起こることがあります。

  • 皮膚消毒液が乾かないうちに針の穿刺を行って、アルコールなどが入ってしまったとき
  • 赤血球が壊れやすいような細い血管で、無理やり採血をしたとき
  • 細い針(23Gより細いもの)で、採血をしたとき
  • 採血の際に、注射器の内筒を無理やり引っ張ったとき
  • 真空管での採血の際に、規定量の採血ができなったときや、途中で中断したとき
    (スピッツ*の中が陰圧になっているため、赤血球が外側に引っ張られやすく、壊れやすい)
  • 採血済みの血液を別の試験官に分ける際に、強い圧をかけたとき
  • スピッツの中で血液を試薬と混ぜる際に、混ぜ過ぎてしまったとき
  • 採決後の保管で、温度管理に失敗したとき
  • 採決後の保管時間が、長かった時
    (赤血球寿命の120日近くで、壊れやすくなっている状態のものもたくさんある)

ちなみに、保存した赤血球を置いておくと、カリウム値がどんどん上がってくるので、輸血に使うときには、注意が必要です。また、採血後も赤血球はまだ生きていて、周りにあるグルコースをどんどんとりこんでいくので、保存が長すぎる場合は、グルコースや血糖値が低めに出ることがあります。

 *スピッツ:採血した血液を入れる試験管。中には検査のための試薬が入っている。

2.血液データ、こっそり帳の見方~赤血球に関する項目

今までのうんちくをベースに、こっそり帳を見ていきたいと思います。

2-1.赤血球数

白血球 5000免疫
赤血球450 酸素運搬
血小板20止血
炎症で上昇

赤血球数の目安は、450です。

スポーツ選手の場合はこれより多く必要です。
女性の赤血球数目安が少なめに見積もられているのは、月経があるためですが、少なくてよいのではなく、少なくなってしまうから補給しなくてはならないと考えてください。

これがとても多いときには、脱水を一番初めに考える必要があります。水分が少なければ、採血した血液の中の赤血球の割合が多くなるからです。

水分をとっているにも関わらず多い場合は、低酸素状態になっていたり、造血スイッチが入りすぎていることなどがあるので、必ず病院に紹介してください。

多くはの場合は、赤血球が少ないパターンで、鉄欠乏貧血によるものが、女性の場合は出血が多くて鉄欠乏になっているパターンが多いです。こういった場合、医者のほとんどは無条件で鉄を出しますが、鉄を運ぶためには、胃酸がきちんと出ている、ビタミンAが足りている必要があります。
また、腸内の悪玉菌がバイオフィルムを作っていて、そこにどんどん鉄を取られているかもしれないですし、感染症や炎症の影響で鉄を取り入れたくないと体がストッパーをかけていることもあります。なので、赤血球数が少ないからという理由だけで、鉄を入れるのは気をつけてください。

赤血球と血小板は同じものからできているので、両方が増えている、もしくは減っている場合には、骨髄の中の病気の可能性があります。

赤血球数だけでなく、白血球数も、血小板も下がっている場合には、骨髄全体の異形成や線維化などがあって、骨を作ることができないといったような場合もありますが、DNAをつくることができていない、つまりB12、葉酸の不足があるかもしれません。

また、たんぱく質不足のときにも、同じように全部の数値が下がる傾向があります。

2-2.MCV(平均赤血球容積)、MCH(平均背血球Hb量)、MCHC(平均背血球Hb濃度)

MCV
 平均赤血球容積
 MCV=(Ht/RBC)×1000
 90 赤血球の大きさ V=volume
葉酸 B12 ↑
鉄欠乏 ↓
MCH
 平均赤血球Hb量
 MCH=(Hb/RBC)×1000
 31 赤血球内ヘモグロビン量
MCHC
 平均赤血球Hb濃度
 MCHC=(Hb/Ht)×100
 31赤血球内ヘモグロビン率%

特に注目してほしいのはMCV。「V」はボリュームなので、赤血球の大きさになります。
この数値が大きくなるのは、葉酸とB12が不足しているときです。これには、B12の抗体ができて、B12が使えないということもあります。胃酸が出ていないためにB12の吸収がうまくいかないときに起こります。胃酸が出ないのは、ストレスがかかっているとき、粘膜が荒れているとき、ピロリ菌がいるとき、自律神経として交感神経優位になっているときなどです。

B12は基本的に動物性のたんぱく質に含まれているので、食べているものを確認してください。菜食主義に走りすぎるとB12不足になることがあるため、ヴィーガンの方はB12のサプリメントを摂っていることがほとんどです。

このB12は肝臓の中で保存されるので、胃が全部止まっている、もしくは胃を切除した状態であってもすぐにはなくなりませんが、5年くらい経過するとそれががなくなってくるので、徐々に赤血球が大きくなっていきます。

その逆に、鉄欠乏の場合は、MCVが小さくなりますが、これは骨髄が赤血球の大きさを小さくしてなんとか賄おうとするためです。

MCHは、赤血球内のヘモグロビンの量です。これが少ないときには、基本的に鉄不足を考えます。

赤血球合成に必要な栄養素には、以下のようなものがあります。

赤血球に必要な栄養素 (ビタミンアカデミー まごめじゅん)
  • ビタミンB6
    ヘモグロビン合成に必要です。B6が足りているかどうかは、AST、ALTを見ます。ビタミンB群の仲間であるこれが不足している場合には、お腹の中の悪玉菌が多いことがあるので、確認してください。
  • ビタミンA
    造血幹細胞から分化するときに、たくさん必要になります。これが使えるようになるには胆汁が、胆汁を作るためにはコレステロールが必要になります。
    コレステロールは、脂質とたんぱく質でできているので、たんぱく質不足があればこの数値が下がりす。また、コレステロールがとても多い場合には、甲状腺機能の低下があるかもしれません。この低下があるとコレステロールを使うことができないので、見た目の数値はあっても、胆汁が作れていないということがあります。
  • ビタミンB12、葉酸
    DNAの合成に必要です。
  • 鉄
    ヘモグロビン合成に必要です。
  • たんぱく質
    血は細胞で、細胞はたんぱく質でできています。。
  • コレステロール
    細胞膜をつくるために必要です。
  • ビタミンE
    コレステロールとリン脂質の膜を酸化させないために必要です。

もし、赤血球がうまくできていないときには、鉄だけを考えるのはもったいないので、ぜひ他のデータも見て検討してみてください。

2-3.AST(アスパラギン酸アミノトランスフェラーゼ)、ALT(アラニンアミノトランスフェラーゼ)

AST
アスパラギン酸アミノトランスフェラーゼ
 20 肝臓 心臓 筋肉の障害 ↑
B6不足 ↓
ALT 
アラニンアミノトランスフェラーゼ
 20 肝臓の障害 ↑
B6不足 ↓

貧血とは関係ないと見過ごしてしまうこともあると思いますが、B6に関係あるので、鉄が足りないときはここもサッと見てください。鉄を補充しても数値が上がってこない場合には、B6不足のことがあります。ただし、肝臓の障害で、数値が上がってきますので要注意です。

2-4.ALP(アルカリフォスファターゼ)、LD(乳酸脱水素酵素)

ALP IFCC
アルカリフォスファターゼ
リン酸の結合を切る酵素
 180 造骨 ↑
Zn Ca Mg
小児は高値(~1000)
ALP1,2 – 肝臓
ALP3 – 骨
ALP4 – 胎盤、悪性腫瘍の一部
ALP5 – 小腸
ALP6 – 肝臓、骨に由来
LD
乳酸デヒドロゲナーゼ
乳酸脱水素酵素
 180 ナイアシン ↓
溶血 ↑
臓器の損傷 ↑

亜鉛でできているALPが足りないときには、エネルギーをうまく作れず、赤血球がドーナツ型にならないので、ちょっとしたことで破れやすくなってくることがあります。そもそもATPを作れずエネルギーが作れないと、細胞分裂もできません。亜鉛不足はATPともリンクしているので、いろいろな症状が出てきます。ALPが低ければ何もできないと思ってください。

LDは、乳酸をエネルギーに変える物質です。嫌気性解糖をしている赤血球にたくさん入っているので溶血した場合に、数値が上がります。

2-5.総コレステロール、LDLコレステロール、HDLコレステロール

総コレステロール220LDL+HDL+TG/5
LDLコレステロール100甲状腺機能、たんぱく質
HDLコレステロール7040以下は動脈硬化リスト
中性脂肪100食事 甲状腺 交感神経

コレステロールは細胞の膜をつくるので、この数値が低いときには細胞膜の脆弱性が出てきます。
胆汁の材料にもなるので、少なすぎる場合には、間接的にビタミンAの吸収ができなくなり、細胞分裂がうまくいかなくなるかもしれません。
その他、コルチゾール、性ホルモン、ビタミンD、コエンザイムQ10の素になります。
コルチゾールがたくさん作られる高ストレス状態では、コルチゾールスティール症候群といってそれ以外のものがつくられにくくなるので、性欲がなくなり、胆汁も出ず、まわりまわって貧血の原因にもなってくることがあります。

2-6.グルコース、HbA1c、グリコアルブミン、1.5-AG、インスリン

グルコース100空腹時血糖
HbA1c5過去1~2ヶ月の血糖の状態
5.6以上で糖尿病状態を疑う
グリコアルブミン14.5過去2~3週間の血糖の平均値
1.5-AG14~低いときは食後高血糖を疑う
インスリン2~3

血糖値の調節に関わる項目です。
これと赤血球は直接は関係ないように感じますが、この数値が非常に悪いのは高血糖のときで、腎臓の細い血管がどんどん障害され、腎臓が壊れていきます。 この腎臓の細い尿細管のそばからは、エリスロポエチンというホルモンが分泌されていて、巨核球・赤血球系前駆細胞を増やす働きがあるので、最終的に赤血球が増えます。こうなると酸素をたくさん運べるので、運動能力がぐんと上がる。つまり、スポーツ選手がとても使いたいものなのですが、打ちすぎると体を壊すため、今はドーピングの対象になっています。腎不全の方は、エリスロポエチンの注射を使います。

2-7.尿素窒素とクレアチン

尿素窒素12~蛋白摂取量 蛋白異化
消化不良 消化管出血
クレアチニン男性 0.5~1.1㎎/dl
女性 0.4~0.8㎎/dl
腎臓機能 筋肉量
メチル化によって作られる

これらの数値がとても高くて、腎臓の調子が悪い、さらに貧血がある場合には、腎性貧血の可能性があります。腎臓が悪いと、鉄やたんぱく質をどれだけ入れてもエリスロポエチンが上がってこないので、別途注射する必要があります。
クレアチンはメチル化によって作られますし、筋肉量によっても変わってきます。
両方とも、たんぱく質量を反映していますから、低すぎる場合は、たんぱく質不足で血が作れなくなります。

2-8.フェリチン

フェリチン20~鉄不足
脂肪肝
炎症
腫瘍性病変

貧血を見る項目です。
鉄が不足しすぎていれば、当然、血は作れません。血の中の鉄が酸素を運びますから、これが一番大事になります。

フェリチンが高いときには、鉄が多いというだけでなく炎症があると考えます。その逆に、低すぎるときというのは鉄がなくなっている状態なのですが、なぜなくなっているのかまでをきちんとチェックしてください。

ただし、低すぎるときには、甲状腺機能もすでに低下していて、酸素もうまく使えない状態なので、鉄を取りに行くエネルギーそのものがないことがあります。そういう場合には、焦らずにじっくり鉄を増やしていってください。そのときは、お腹の中に悪玉菌がいないか、便通があるかといったお腹のメンテナンスと一緒に進めていってもらえるといいと思います。

2-9.ペプシノーゲン1、PG1/PG2比、ナトリウムNa、クロールCl

ペプシノーゲン170胃酸分泌を間接的に反映
少なくとも50 高いときは炎症も考慮
PG1/PG2比<33以下は萎縮性胃炎
ナトリウムNa140Cl(クロール)とのバランス
クロールCl108胃酸の材料

胃の状態はとても大事です。ペプシノーゲン1は胃酸分泌を間接的に反映していますので、これがとても低いときには、たんぱく質が足りない、B12が吸収できない、鉄が吸収できないということになります。亜鉛の吸収もできなくなります。

2-10.間接ビリルビン、尿酸、血清鉄、遊離脂肪酸

関節ビリルビン0.6↑ 細胞膜の脆弱化、機械適刺激
尿酸4~↓ 抗酸化力ダウン・ATP↓
↑ 痛風 活性酸素対策 果糖
血清鉄100↑ で酸化ストレスが発生
遊離脂肪酸0.6脂質・糖代謝を反映
↑ 交感神経亢進
↓ インスリン βブロッカーなど

これらは、酸化ストレスや抗酸化力をみる項目ですが、間接的に赤血球と関係があります。 間接ビリルビンは、血管の中で赤血球が壊れてしまったときに上がります。細胞膜が弱くなっている、物理的な刺激で赤血球が壊れているなどの原因があるかもしれません。

おなかとこころ

小池雅美 · 2021年5月25日 ·

不眠の悩みに、あなたはどう対処しますか?

一般的には、ドクターが処方した睡眠薬を使うという発想になるかもしれません。けれども、その前に考えてほしいことがあります。お腹が弱っていないか?夜間も交感神経優位になっていないか?貧血が隠れていないか?そういったことをチェックせずに、睡眠薬を使う意味はほとんどありません。

ここでは、不眠の原因となる自律神経やホルモンの働きについて。さらに、それにかかわる体の機能と栄養素について、生理学的・生化学的に学ぶことで、お腹を丈夫にし、結果として不眠にならない栄養ケアを学んでいきます。後半では、不眠に使われる漢方薬についてもお伝えします。

1.睡眠障害とその原因

「眠れない」という方が多くいますが、その理由がはっきりと分かっていて、それが「明日が、遠足だから」「明日デートがあるから」といったポジティブなものであれば、ほとんど心配はありません。こういう場合には、温かいものを飲んで、静かな音楽を聞いてもらえればいいと思います。
けれども、眠れない原因が、不安や焦燥感、恐怖感といった場合で、それが長く続く場合には体調に影響が出てきます。
そのような睡眠障害には、大きく3つのパターンがあります。

  1. 入眠困難
    一応眠れるが、布団に入ってから2時間くらい眠れない。
  2. 頻回の覚醒
    一応眠れるが、夜中に2~3回、意識が浅くなったり、トイレに行ったりする。もしくは、なんとなく目が覚めてしまい、そこから眠れなくなる。
  3. 早朝覚醒
    一応眠れるが、早朝の3時半や4時頃など活動するには少し早すぎる時間に起きてしまう。高齢者に多い。特に、昼間に眠気が出る場合は、症状がきつい。

そして、この睡眠障害には、“5つのP”とよばれる原因があるといわれています。

  1. 生理的原因(Physical)
    いわゆる時差ボケ。交代制勤務や短期の入院など生活環境やリズムの変化や、中途半端な昼寝屋夜更かしによって起こる。
  2. 心理的原因(Phychological)
    精神的ショックや引越しや就職など生活状況の大きな変化によって引き起こされる精神的ストレス。
  3. 身体的原因(Physical)
    熱性疾患、血管障害、消化器疾患、喘息・慢性閉塞性肺疾患、中枢神経疾患(パーキンソン病など)、腫瘍、心疾患、内分泌・代謝疾患など
  4. 精神医学的原因(Psychiatric)
    アルコール依存症、不安神経症、恐慌性障害、うつ病、統合失調症、認知症など
  5. 薬理学的原因 Pharmacologic
    アルコール、降圧剤、抗癌剤、H2ブロッカー、カフェイン、中枢神経作用薬、ステロイド剤、気管支拡張薬(テオフィリン)、甲状腺製剤、抗パーキンソン病薬、インターフェロンなど

2.睡眠を調整する自律神経とホルモン

2-1.交感神経と副交感神経

眠りなど体の調整をするのは自律神経ですが、これは交感神経と副交感神経とからなっています。交感神経は戦ったり逃げるときに活発になる神経、副交感神経はリラックスモードのときの神経で、どちらも大切な働きをしていて、そのバランスが重要となります。

人の体のリズムは自律神経が調整


一般的には、交感神経は、日中に高く、夜間は低くなる、副交感神経はこれとは逆に昼間は低く、夜になると高くなるというように日内変動しています。そして、夜に刺激されて高くなる副交感神経は、主に、お腹を動かすために作用しています。
「腹」という言葉は、「腹に据えかねる」「腹が立つ」「腹わたが煮えくり返る」など気持ちの状態を表す慣用句にもよく使われますが、これは消化管が心の動きに敏感で、お腹と心は直結していることによります。

実は、この交感神経や副交感神経と同じリズムを作るホルモンがあります。前者はコルチゾール。コルチゾールがピークになるのは朝の8時頃、昼を過ぎて夜になるとぐっと下がります。コルチゾールと対になって動くのが夜眠るためのホルモンーメラトニン。メラトニンは夜になると高くなり、昼になると下がってきます。

2-2.コルチゾール

では、コルチゾールとはどのようなものなのでしょうか。コルチゾールがつくられるのは、腎臓の上にある副腎、その外側の部分「副腎皮質」です。

コルチゾールには、主に以下のような4つの作用があります。

・抗ストレス作用
コルチゾールがしっかり分泌できていると、どのようなストレスがあってもかなり耐えることができます。また、気温変化や気圧変化が大きいときには、コルチゾールがたくさん分泌されて体を整えています。

・血糖維持
コルチゾールが肝臓に働くと、アミノ酸の一部がエネルギーを作るクエン酸回路に入ります。そして、中性脂肪がグリセロールに変わり、グルコースができます。

このように、もともと糖分ではないものを糖に変えることを「糖新生」といいます。炭水化物を一切食べなくても血糖値を維持できるのは、糖新生がきちんとできているからということになります。

・抗炎症作用
血球を呼び寄せるなど最終的には炎症を抑えることを目的として、細胞膜のリン脂質からはアラキドン酸が、さらにそこからプロスタグランジンとロイコトリエンという炎症を起こす物質がつくられます。これらは作られすぎる慢性の炎症を引き起こすので、ある程度のところで止める必要がありますが、ここで働くのがコルチゾール。コルチゾールには、アラキドン酸がつくられるのを止める働きがあります。

ステロイド剤もこれと同じ働きをして強力な抗炎症作用を発揮しますが、熱や痛みに使われるNSAIDsという痛み止めはアラキドン酸がプロスタグランジンになるのを止める働きしかなく、ロイコトリエンになるのを止めることができないため、コルチゾールよりも抗炎症作用が少し弱いということがきます。

・免疫抑制作用
血管の中の白血球は、外に敵が来ると、血管を通り抜けてその臓器へ走っていきます。これを「遊走」といいます。けれどもコルチゾールには好中球を外に出さない作用があるため、これが増えると、血管内を流れる白血球は血管の壁にピタッとくっついて、遊走できなくなります。

コルチゾールには、急性のストレス時にカテコールアミンと一緒になって骨髄を刺激し、好中球を増やす働きもありますが、慢性炎症になると遊走機能が落ちるため、免疫機能は落ちていきます。

コルチゾールが増えると白血球が遊走できなくなる
コルチゾールは好中球を増やす

わたしたちの身体は、急性期のストレスに対して、コルチゾールをたくさん出すことで活動性を上げて、なんとか対応しようとします。そうすると、相対的に夜間のコルチゾールが上がってしまうので、夜でも元気になり、寝つきが悪くなります。

ところが、これが続くとコルチゾールが出せなくなります。しかも、日中のリズムも崩れてくる。これが、副腎が頑張っても間に合わない状態、副腎疲労です。

そして、コルチゾールのリズムが崩れてくれば、メラトニンのリズムも崩れてきます。
夜でもコルチゾールが相対的に高めになっていれば、ぐったりしているけれど頭が冴えて、眠るモードに入れないさらにはメラトニンも下がってきて、眠ることができないーこれが不眠の原因です。

2-3.メラトニン

メラトニンは、肉や魚に含まれるたんぱく質のうち、トリプトファンというアミノ酸が材料になります。トリプトファンは、体の中で7種類くらいの代謝経路を通りますが、90~95%がはキヌレニン経路、5~10%ほどがセロトニンやメラトニンを作る経路といわれています。

セラトニンやメラトニンを作る経路では、トリプトファンが5-HTP(5-ヒドロキシトリプトファン)になり、そして幸せ感をつくるホルモンであるセロトニンとなって、最終的に眠りの質をつくるホルモンであるメラトニンになります。

トリプトファンが5-HTPに変わるには、鉄、葉酸、ビタミンC、BH-4、メチル基供与体であるSAMeなどが、その次のセロトニンに変わるには、ビタミンB6。最終的にメラトニンに変わるときには、メチル基供与体であるSAMeに加えて、ビタミンB12、マグネシウムが必要となります。

メラトニン生成とビタミンB6

メラトニン生成のプロセスで必要なビタミンB6は、20歳男性の場合、1日に1.4mg必要といわれています。食品に換算すると、にんにく2玉、アミノ酸スコアまで考えると、レバー串6本分に相当します。こうして考えると、食べ物だけに頼るのは意外と大変です。
それもふまえたうえで、もしビタミンB6が不足するならば、以下のような理由が考えられます。

  • 根本的に足りていない、食べていない状態のとき
  • ビタミンB6を必要とする代謝が活性化していて、需要が増えているとき
  • 睡眠を邪魔するものがあるときや、作れないとき

その中で、ビタミンB6が吸収できないときとはどんな時でしょうか。それは、例えば、抗生物質を飲んで、悪玉菌だけでなく善玉菌も死んでしまう時。抗生物質のセフメタゾン、シオマリン、ベストコールなどは、投与してから2~3日で半分くらいの菌がほとんどなくなります。お腹の中の菌のバランスが崩れるのです。そして、ビタミンB6を作るビフィズス菌が縄張り争いに負けてどんどん減少していくと、空いてしまった縄張りに悪玉菌が増えて、ビタミンB6の産生が追いつかなくなります。

各種抗生剤投与 に よる腸内細菌叢 の変動(無 菌動物を用 いた実験)
慶礁義塾大学医学部小児科学教室(主 任:小 佐野 満教授) 秋 田 博 伸
感染症学雑誌 第56巻 第12号


さらにカンジダ菌も増えていくと、腸の粘膜が荒れて、慢性炎症が起こることになります。お腹の状態が悪くてB6が作れない、その結果、セロトニンもメラトニンも作れなくなる…。そうすると幸せな感覚はどんどん少なくなりますし、眠れずに抑うつ症状が出てくることになります。

この状態は、血液データから推測することができます。
例えば、この人の、AST(GOT)、ALT(GPT)を見ると、どちらも20くらいが正常の目安なのに対して、ASTが一桁ととても低い状態になっています。ASTもALTも、これが作られるときには「ピリドキサールリン酸」というものになりますが、これはビタミンB6の活性型で、ビタミンB6にリン酸がついた状態。これが不足するとまずALTが先に減っていきますので、間接的にこの方はB6が不足しているということがわかります。

メラトニン生成と鉄

セロトニンとメラトニンを作るときに必要な鉄が不足するのは、胃酸がしっかりと出ていない時です。わたし達がお肉を食べると、胃の中でペプチノーゲンが胃酸によってペプシンに変化します。ところが、胃酸が少なくなると、ペプシンが減ってしまって、食べたお肉がペプシンによって分解されなくなります。

胃酸が減る原因には、以下のようなものがあります。

  • 萎縮性胃炎
    あまり症状がでないことが多いのですが、実際に胃のバリウム検査をしてみると40代以上の女性にはよく見られます。
  • ピロリ菌感染
    日本人に多く、胃で炎症を起こして粘膜を荒らすこともあります。ピロリ菌が胃の中で生きていられるのは、自分の周りにアンモニアを作り出して、胃酸を中和しているからです。
  • 胃酸抑制剤
    特に逆流性胃炎の方に処方される薬で、今では簡単に薬局で手に入るため、若い人が胃痛や胃もたれにも効くかもしれないと、ずっと飲んでることがあります。
  • 胃切除後
    胃酸は、胃がないと出てきません。
  • たんぱく質不足、エネルギー不足、交感神経優位のとき
    こういった状況のときにはペプシノーゲンがペプシンに変わらないので、たんぱく質の消化が落ちます。

鉄不足の人が病院で一般的に処方される鉄剤には、硫酸第一鉄、フマル酸第一鉄、クエン酸第一鉄、ピロリン酸第二鉄といったものがあります。これらは、大抵の場合、二価の鉄を体内で三価の鉄に変えて体に吸収させるようにできていますが、これは胃の中のpHが下がることで起こるので、胃酸が必要となる。

けれども、この変化が起きるときには必ず活性酸素が発生するので、胃粘膜が荒れたりなどの障害が起こります。もともと胃の粘膜が丈夫であれば、これに対抗する還元酵素を出すことができますから、鉄剤を飲んでも問題はありません。しかし、鉄不足の人はもともと胃粘膜が弱っていることが多いために還元酵素がうまく作れず、胃粘膜の障害はさらに大きくなります。そもそも胃腸機能がものすごく落ちている人は鉄剤を飲めないということがあるということになります。

まとめると、胃酸が出ていないと、結果的に、鉄が不足する→トリプトファンが5-HTPに変えられない→セロトニン、メラトニンが作られない・・・という循環になって、不眠症のリスクがとても高くなるということです。

これを血液データで見ていきます。
この人の場合、例えば、赤血球の数は、「456」と基準値内です。また、ヘモグロビン、ヘマトクリット、MCV、MCHも全て基準値内ですが、一番端の「めやす」と比べてみると、全部はずれています。

このように、基準値の範囲にあっても、元気で動ける状態の本当の理想値に比べると下がっているような時、実は、もう症状が出てくることが多いです。
成人女性におけるヘモグロビン値分布からは、基準値である「11~15」以下にあたる人は約20%、つまり5人に1人くらいの成人女性が貧血ということになります。

体内の鉄の模式図

これは、体の中の鉄の模式図です。貯蔵鉄と結成鉄と血色素からなっています。鉄が少なくなってくると、貯蔵鉄→血清鉄→血色素の順で鉄がなくなっていきますが、「鉄欠乏性貧血」という診断になるのは、最後の段階。この時にはかなりひどい鉄欠乏の状態となっているので、治すのはとても大変になっています。貧血と診断されなくても鉄欠乏の症状が出るのは、貯蔵鉄や血清鉄の部分が少なくなるからです。

この貯蔵鉄の状態は、血液データのフェリチンという項目でみることができます。この値が医師が使う『メルクマニュアル』に従えば12以下で鉄欠乏性貧血となりますが、実際には20を下回ると、かなりシビアな鉄欠乏の症状が出ますし、50以下でも症状の出ている場合が多くなります。
グラフでは、フェリチン値20を切る女性は、生理がある層で35%以上、実際に症状が出ていることの多い50以下となると半数以上なので、女性の半分には不眠症のリスクがあると推察できます。

鉄不足で酸素を運ぶ能力がおちているとき、私たちの身体は、心拍数を増やすことで、末梢の血流を増加させ、トータルの酸素量を保とうとします。
この心拍数を増やすのが交感神経です。
交感神経優位になると、瞳孔拡大、気管支拡張、血管収縮、血圧上昇、心機能亢進といったことが起こります。しかし、これがが働きすぎると、手指のふるえや、動悸、顔面蒼白、頻脈、発汗、不安といった症状になります。
これらは低血糖の症状と同じですが、これは血糖値を上げるためにアドレナリン、ノルアドレナリンなどが交感神経を刺激することによって起こります。

この交感神経を刺激する簡単な方法が、カフェインです。体の中にあるアデノシン受容体にアデノシンがつくと、副交感神経が刺激されたまったり状態になるのですが、ここにはカフェインもつくことができます。そして、いったんカフェインがついてしまうとアデノシンはつくことができなくなり、アデノシン受容体が働けなくなるので、頻脈になり、心臓が収縮する力が強くなり、末梢血管も収縮する。

つまり、カフェインは、ダイレクトに交感神経を刺激するわけではなく、リラックスモードをつくらないことで、結果として交感神経優位の状態をつくりだします。鉄欠乏の女性がカフェインを摂ってしまうと、ますます交感神経優位になり、自律神経の乱れが起こって、不眠につながります。男性よりも女性に不眠の訴えが多いのは、ベースに鉄欠乏があるからです。

メラトニン生成とビタミンB12

セロトニンはできているけれども、メラトニンができないという場合があります。これはB12不足が関係しています。
ビタミンB12は、大抵は肉に含まれています。まず肉が胃に入ると、その中のビタミンB12が胃酸によってハプトコリンと結びつく。そして、胃から出た内因子とビタミンB12 が回腸末端でくっついて吸収される。つまり、ビタミンB12の吸収には、胃酸が必要ということになります。

胃酸をしっかり分泌させるには、以下のようなことが必要です。

  • 丈夫な粘膜
    材料となるたんぱく質、ミネラルが必要。粘膜や粘液を作るためのビタミンAも、たくさん必要
  • リラックス
    消化管はリラックスすることで動くため、十分な睡眠やストレス対策が必要。また、カフェインやニコチンなど交感神経を優位にするものはできるだけ減らす。
  • 酸性に保つ
    胃酸が足りない場合には、酢、クエン酸、レモン、梅干しなどを活用する。胃酸抑制剤や重曹はできるだけ使わない。胃腸薬は中身をよく見ること。

胃酸が少ないと、たんぱく質の分解がうまくできないため、腸にも影響が出てきます。たんぱく質は腸に入ると、すい臓から分泌される消化酵素で、より小さな分子であるペプチドに分解され、さらに腸粘膜の表面にある消化酵素によってさらに小さなアミノ酸に分解されます。

しかし、腸に炎症がある場合や胃酸が分泌されていない場合で、消化酵素が少ない場合は、肉を食べても、すべてをペプチドに分解することができないため、一部がたんぱく質のまま体の中に入ってしまいます。つまり、異種たんぱくが体の中に入って、バリア破壊がおこり、アレルギーが発生。アレルギーは炎症そのものなので消化吸収の悪い状態では悪玉菌が増える、カンジダ菌が増える。そして、ずっと炎症が続くーこれが慢性炎症です。
便秘や下痢、痛みがなくても、胃酸が少ない、何となく胃もたれがするといった状態でも、すでにお腹に炎症があるということになります。

このように体に炎症がある場合、トリプトファンのほとんどはキヌレニン経路に流れます。キヌレニン経路では、下図のように、電子伝達系でエネルギーをつくれるよう、ニコチン酸(ナイアシン)からNAD、NADHという活性型のナイアシンを作ります。
ところが、その途中で作られるキノリン酸とキヌレン酸は、炎症物質です。本来なら、すぐにエネルギーに変換していくのですが、代謝が滞っている場合にはここで止まってしまうことがあります。
また、キノリン酸やキヌレン酸が増えるとグルタミン酸受容体と結びつき、脳内でドーパミン過剰の刺激を起こしてしまいます。特にリーキーガットによってグルタミン酸受容体に入る物質が増えると、神経刺激が多くなります。


下図は、グルタミン酸受容体の模式図です。グルタミン酸受容体は、神経の末端にある袋の中から放出されたグルタミン酸を、レセプターで受け止めます(図A)。レセプターに結びつかず余ったグルタミン酸は、近くのグリア細胞に吸収されさえすれば、過剰な影響はありません(図B)。けれども、キノリン酸やキヌレン酸のような神経刺激物質がでた場合には、処理が追いつかないほどのグルタミン酸がずっと放出され続けるため、神経が過剰に刺激されて、イライラしたり、興奮したり、場合によっては痙攣が起こるなどということが起こります(図C)。

(図A)
(図B)
(図C)

また、刺激された細胞は、膜の表面の電位が変化するため、カルシウムイオンがたくさん入って過剰刺激が起こります。この状態が続くと、細胞の中にカルシウムが溜って細胞が死んでしまうこともあります。死んでしまった細胞が、カルシウム沈着するのはこれと同じ理由からです。

2-4.交感神経を刺激するホルモン

交感神経を刺激するホルモンの材料として、チロシンがあります。チロシンが、L-DOPA→ドーパミン→ノルアドレナリン→アドレナリンへと変わります。
ドーパミンは適度に分泌されると、集中力、やる気、楽しさになります。ノルアドレナリンは興奮、集中力、意欲になりますが、出すぎると、怒りやイライラ、不安、恐怖感といったメンタルの症状となります。 ただし、ノルアドレナリンが、すぐにアドレナリンに変わってしまえば、メンタル症状は割と軽くなります。
ここで働くのが、PNMT(フェニルエタノールアミン-N-メチルトランスフェラーゼ)という酵素で、副腎髄質にあります。

PNMTは、コルチゾールがあると作られます。つまり、ストレスの急性期にはPNMTが増え、アドレナリンもドンと作られて、血圧が上がる→脈拍が上がる→体温が上がって発汗が起こり、すぐ敵と戦える状態になれる。

ところが、ストレスが溜まってくると、コルチゾールが次第に出なくなって、PNMTも下がり、ノルアドレナリンが余る、アドレナリンが不足するという状態になる。こうなると、 イライラや、不安、恐怖感、そして、泣きたくなったり焦りが出たりと、気持ちの症状だけがでてきて、体がついてこない。これは、副腎疲労の症状です。例えば、学校に行きたくて泣くけれども、玄関から出ることができない子どもが、それにあたります。

亜鉛と銅

ドーパミンがノルアドレナリンに変わるとき、酸素やビタミンC、銅が必要になります。銅がたくさん増えると、ドーパミンはノルアドレナリン、アドレナリンにどんどん変わっていきます。この銅を運ぶためには、セルロプラスミンというたんぱく質が必要です。そして、セルロプラスミンを作るように刺激を送るのが、女性ホルモンの一種であるエストロゲンです。

エストロゲンが増えるのは、例えば妊娠したとき。これは、赤ちゃんの血管をたくさん作るために銅が必要になるからです。けれども、銅が過剰になると、不安症状やイライラ、暴力、こだわりがあらわれます。

本来、赤ちゃんをつくる準備をしてくれるエストロゲンは、使われた後に、COMTという酵素で不活化されます。そして、水に溶けやすくするグルクロン酸抱合をして、胆汁や尿の中に捨てられていきます。

このCOMTは、エストロゲンだけではなく、ノルアドレナリン、アドレナリンの処理もしています。けれども、COMTが十分にない、マグネシウム不足で十分に機能しないところで、エストロゲンが多くなる、ノルアドレナリンやアドレナリンといった神経を刺激する神経伝達物質が増えてしまうと、COMTはキャパオーバーになります。

もともとこういう傾向の人が、貧血があったりカフェインをとったりすると、イライラ、不安、焦燥感といった症状がさらに強く出ます。COMTの遺伝子変異がある場合は、特にそうです。また、体内にエストロゲンやカテコールアミン系が増えるため、生理前のイライラがとても強いということもあります。

月経前症候群(PMS)

月経前症候群についてみていきます。
生理前には黄体ホルモン(プロゲステロン)だけでなく、卵胞ホルモン(エストロゲン)も増えます。すると、エストロゲンの処理が追いつかなくなるため、月経前になると不眠やイライラが起こってきます。

PMS(月経前症候群)

さらに、エストロゲンの処理ができないということは、アドレナリン、ノルアドレナリンも処理できないということに繋がって、相対的にCOMTが不足している症状が出ることになります。こうして、女性ホルモンの影響で浮腫みも出ますし、カテコールアミンの影響でイライラ、不安、不眠が出てくるようになります。

ここに銅過剰があると、コントロールの効かない感情の逸脱が出て、まったく止めることができません。過剰な銅を処理をするには、銅と結びついて処理するたんぱく質「メタロチオネイン」が必要になります。「メタロ」は金属、「チオ」は硫黄という意味で、硫黄のついた分子で金属を処理してくれる天然のキレート剤になります。

このメタロチオネインを増やすようにサインするのが亜鉛なので、亜鉛が十分あれば気持ちが穏やかになりますし、不足していればPMSのリスクが上がるということになります。

また、COMTを作るにはマグネシウムが必要ですし、カテコールアミンを過剰に増やさないためには鉄が必要になります。

そして、亜鉛はミネラルですから、胃酸が必要です。この亜鉛を使った酵素が「アルカリフォスファターゼ」で、血液検査ではALPを見ることで、間接的に亜鉛の量を計ることができます。

3.不眠に使われる漢方

不眠に使われる漢方、不眠にはこの漢方というものはありません。使われるものはたくさんあり、どれも不眠に効きますが、不眠に効くというわけではなく、その人の体質に合わせて使い分けるものです。

<不眠に使われる漢方>

  • 柴胡加竜骨牡蠣湯
  • 柴胡桂枝乾姜湯
  • 抑肝散
  • 抑肝散加陳皮半夏
  • 湯胆湯
  • 酸棗仁湯
  • 帰脾湯
  • 加味帰脾湯
  • 柴甘麦大棗湯
  • 半夏厚朴湯
  • 桃核承気湯
  • 女神散
  • 人参養栄湯
  • 湯清飲
  • 黄連解毒湯
  • 桂皮加竜骨牡蠣湯

今回は、その中の抑肝散と抑肝散加陳皮半夏、人参養栄湯と加味帰脾湯について説明していきます。

3-1.抑肝散

保険で処方することができ、エキス剤もある漢方薬です。抑肝散加陳皮半夏という漢方薬のベースにもなっています。赤ちゃんの熱性痙攣、夜泣き、もう少し大きくなった子どもの疳の虫にも使われます。

<使用例>

  • 夜泣き
  • 寝つきが悪い
  • 寝起きが悪い
  • 夜驚症
  • キーキー声を出す
  • かみつき
  • ダダをこねる
  • 良くなく
  • 食欲がない
  • 便秘
  • 下痢
  • 熱を出しやすい
  • ひきつけを起こす

『保嬰撮要』という本には、この抑肝散は「母子同腹」といって、お母さんと子どもと一緒に飲ませなさいと書かれています。これはお母さんから「警報フェロモン」を出さないようにするためです。
警報フェロモンというのは、緊張したり、不安になったりしたときに出る化学物質で、これを嗅ぐと嗅いだ人の交感神経優位になって、ファイト&フライト、場合によってはフリーズするように働きます。2014年に発表された論文では、ラットが危機を伝えるときにお尻からでるフェロモンは、メチルペンタナールとヘキサナールという2つの脂肪酸で、これがが混ざり合った時に、他のラットの不安を増大するということがわかっています。

赤ちゃんの調子が悪くて夜泣きをすると、お母さんが疲れる…。このような場合は、2人とも警報フェロモンを出しまくります。家の中で警報フェロモンを出し続けているので、家族が家に帰って来るとその影響でイライラしたり暴れたりする。
このような場合は、お母さんが抑肝散を飲みます。 そうすることで、お母さん警報ホルモンが出なくなって、赤ちゃんも落ち着いて、家族にに影響が及ばないようになります。これが「母子同服」の理由です。もちろん、家族がが飲んでも全く構いません。

これは家庭内だけに限らず、保育園や介護の現場、職場、学校など集団生活の場などでも活用することができます。
ちなみに、この警報フェロモンは、床などを水拭きしたり、スチームクリーナーをかけたりすることで、その影響を減らすことができます。ただし、拭きとった後の雑巾はすぐに洗う、片付ける、袋に入れてしまうなどしないといけません。

抑肝散は、以下のような6つの材料から作られています。

●白朮(ビャクジュツ)

健胃、整腸、利尿など、水分調整をする漢方です。お腹の中がちゃぷちゃぷしている、むくみがあるタイプの人に使います。

●川芎(センキュウ)、当帰(トウキ)

セリの仲間で、赤血球を増やす、血を増やす働きがあります。 このトウキとセンキュウにジオウとシャクヤクをプラスした「四物湯」という漢方があります。これを6g、12週間、高齢者の方に飲んでもらい、それ以外は、これまで通りの生活をおくってもらったところ、赤血球の数、ヘモグロビン、ヘマトクリットが増えました。
これはおそらく、「四物湯」に赤血球を作るのに必要な栄養素の吸収をよくしたり、酵素の活性を上げる効果があるからではないかと予想しています。

「四物湯」6gを12週間服用したところ、赤血球数・ヘモグロビン濃度・ヘマトクリット値が改善

●柴胡(サイコ)

セリの仲間で、静岡県三島の「ミシマサイコ」が有名です。サイコサポニンという成分がメインで、抗消化性潰瘍、免疫調整作用、ステロイド様作用、抗ストレス作用があります。呼吸が浅く横隔膜が動かない、肋間筋が動かず深呼吸すると肩が上がるような、慢性的にストレスがあるタイプに使います。肝臓の炎症でそこがガチガチに張っているといった場合にも使います。小柴胡湯が肝炎に使われるのはそういう理由からです。

●甘草(カンゾウ)

豆の仲間で、根そのものや根の皮の部分を使用します。副腎皮質様ホルモン作用、抗炎症・抗アレルギー作用があります。なめると甘いので、栽培された甘草は、その7~8割が甘味料に使われています。リコリスキャンディはこれを使ったお菓子です。
主な成分は、グリチルリチン、強力ネオミノファーゲンという医薬品の成分でもあるものです。
グリチルリチンには長い分子の端にグルクロン酸が2つついていて、これを腸内細菌が食べることで、グリチルリチンがグリチルレチンに変わり、体の中で働けるようになります。グリチルレチンには、コルチゾールを不活性化する11β-HSD2という酵素の働きを止める効果あるため、カンゾウを使うとコルチゾールが体内で増え、結果として抗免疫作用や血糖を作って元気になったり、ストレスに耐えられるようになります。

甘草(カンゾウ)

その昔、ピラミッドを作るときやアレキサンダー大王が世界征服をするときにも、カンゾウは使われていたそうです。なので、コルチゾール不足による副腎疲労のときは、カンゾウが入った生薬をうまく使うことでコルチゾールの手伝いをしてあげます。そうすると、副腎の負担が減り、徐々に副腎疲労が改善してきますし、メラトニンもゆっくり戻ってきて動けるようになっていきます。

●釣藤鈎(チョウトウコウ)

抑肝散のメイン成分で、降圧、鎮静、血管拡張、体をリラックスさせる効果があります。カギカズラという植物を使います。同属のキャッツクロウも同じような作用をもつハーブで、主要成分であるリンコフィリンは両方に入っています。
釣藤鋼は、グルタミン酸が相手側のレセプターにくっつくのを止め、反対側のアストロサイトにギュッと取り込むのを強くしてくれるので、グルタミン酸が反応しすぎるのを穏やかにし、ドーパミンを出にくします。この作用によって、抑肝散は疳の虫に効くわけです。
実験では、亜鉛欠乏食ばかりを与えたイライラマウスに抑肝散を飲ませると、マウスが落ち着いたという結果が出ています。イライラしている人には、抑肝散と亜鉛の両方を飲んでもらうと効果が高いかもしれません。

3-2.抑肝散加陳皮半夏

「抑肝散陳皮半夏」という漢方薬は、抑肝散に、陳皮(チンピ)と半夏(ハンゲ)を加えたものです。

抑肝散加陳皮

●半夏(ハンゲ)

里芋の仲間で、悪心、嘔吐、胃の中のお水がちゃぷちゃぷ溜っている胃内停水の状態、服中雷鳴、心痛、咽頭痛、咳などに使います。

●陳皮(チンピ)

ミカンの皮を乾燥させたもので、胃中を温めしゃっくりを止める、胃の動きをよくる働きがあります。これは、胃の中にちゃぷちゃぷお水が溜まっている人、これが原因で吐き気がある人、慢性胃炎の人、二日酔いで胃もたれしているような時など、胃がとても弱っている状態に使います。
お腹を動かす漢方には、「四君子湯」というものもあります。これには、人参や白朮(ビャクジュツ)、茯苓(ブクリョウ)といった、お腹の水をコントロールする生薬が使われています。大棗(タイソウ)や甘草(カンゾウ)、生姜(ショウキョウ)も使われていますが、これはお腹の動きに関係する生薬です。
この四君子湯に、半夏と陳皮を足した漢方が、「六君子湯」です。これは、胃腸機能が落ちてしまって、エネルギーが作れない状態の人に使います。
二陳湯も、四君子湯も、六君子湯もお腹を治すの薬ですが、結果的にメンタルが上がってくることが多くあります。それは、消化管の動きは、心に敏感だから。自律神経の乱れでお腹の調子が悪くなり、メンタルの異常が起こり、不眠が起こる。ですから、不眠に対しては、自律神経とお腹の両方を整えてあげることは、理にかなっています。

3-3.抑肝散と抑肝散加陳皮半夏の使い方

どちらも、イライラするなど神経過敏の人、お腹が弱っている人、長期間のストレスをためている人に使います。
二つの使い分けは、以下のようになります。

抑肝散・胃のあたりがモヤモヤして、胃がギューッと縮まっている
・どちらかというと興奮している
・理由がよくわからないキレ方をする
抑肝散加陳皮・お腹がちゃぷちゃぷで、貧血があったりイライラしていたりする
・おへそや、その少し左側の上のあたりを触るとドキドキしている、大動脈が脈打っている
・我慢強く、誰にも相談せず、本人も気づかないうちに怒りをためている
・口癖は、「どうせ」「だって」「私が悪い」「私が我慢すればいい」

具体的な使い方ですが、基本は朝昼晩の食前に飲みます。食後でも効果はありますが、保険適用の場合は食前になります。

ときどき効きすぎて、昼間に眠くなるという人がいますが、こういうタイプは、カフェインをどんどん入れてバリバリ働いているキャリアな方が多いので、昼は抜いてもらうようにすることも多いです。

また、朝昼晩飲んでも全く眠れない場合には、昼の分を夜にシフトして飲んでもらう、これでもまだダメなときは、朝の分も夕方にシフトするといったように臨機応変に使うことができます。非常に忙しい人は朝晩だけでよいですし、女性は体も小さいので2包でも効いてきます。

突然キレてしまうタイプの場合には、朝晩をベースにして、もう1包は頓用で使うこともできます。財布やバッグに入れておくなど身近に置いておく、家族の見える場所に置いておくなどして、イラッときたときに使うと大体20分くらいで効いてきます。

お母さんの調子が悪いとき、子どもから「お母さん、お薬飲んで」と言えるようになるとトラブルが激減します。

このように使っていくと、いつもイライラして、何か気に入らないという症状は、1週間くらいで、自覚のない怒りや「どうせ私なんて」と溜め込む傾向には、3週間を過ぎてから収まってくることが多いです。この時、飲んで20分で効いているのは、たいてい釣藤鋼(チョウトウコウ)です。そして、3週間以上飲むと効果が変わってくるのは、お腹を整えているからです。

3-4.人参養栄湯

「人参養栄湯」も六君子湯や四物湯と処方が近く、弱ったお腹、減ってしまった血を増やす漢方薬です。
これには、以下のような生薬が入っています。

●人参、黄耆(オウギ)

人参には、抗疲労効果があります。ネズミを使った実験では、高麗人参を飲ませた個体と飲ませなかった個体とでは、おもりをつけて泳げる時間が伸びる、疲労からの回復時間も半部近くに減るという結果が出ています。つまり、人参には、頑張れて、しかも早く回復するという効果があるということになります。

マウスに体重の5%+0.4gの荷重を負荷して水泳を実施し、7秒以上水没するまでの限界水泳時間(LST)を測定した。実験当日は2時間間隔で2回水泳を実施した。高麗人参エキス1,000㎎/㎏または蒸留水(Contorol)は1回目の水泳の1時間後に経口投与した。
Mean±SE n=8 t-検定 *:p<0.05 日本薬学会129年会,200

また、卵巣を取り除いた骨粗しょう症マウスを使った実験でば、人参によって骨密度の減り方が半分くらいで済む、たくさん使うと8割ぐらいと、その進み具合を抑えられるということもわかっています。人参には、女性ホルモンの代わりになる、骨を丈夫にする効果があるということです。

黄耆は、人参とセットで使うととても効果があるもので、2つが入っているものを「参耆剤(ジンギザイ)」といいます。人参の働きは、胃腸を整えること、つまり外から栄養を入れて体を丈夫にする、インプットに効くもの。黄耆のほうは、そのエネルギーを使って体を動かすためのもの、エネルギーのアウトプットに効くものと思ってください。人参とオウギを使うことで、アウトプットとインプットの量を増やすことができます。人参と黄耆が入っていたら元気になる処方だなという目安になります。

●遠志(オンジ)

遠志(オンジ)には、精神安定、去痰、利尿、動悸、健忘、不眠、咳嗽、多痰などの効果があります。
最近は、神経への効果も注目されています。神経の奥のほうでは、アセチルCoAとコリンがくっついてアセチルコリンができるのですが、このときにコリンアセチルトランスフェラーゼという酵素を使います。遠志(オンジ)はこれを活性化するといわれています。アセチルコリンが出るので、副交感神経が刺激されます。

そして、もう一つ注目されているのが、認知症予防への効果です。まだ論文は少ないのですが、効果を狙った遠志単品のサプリメントがドラッグストアで販売されるようになっています。加味帰脾湯を使って記憶がよくなるという症例も出ています。

「人参養栄湯」で元気になった事例をご紹介します。
この女性は圧迫骨折になったと、14種類もの薬を飲んでいました。チェックを入れたのが、降圧剤と睡眠です。まず、緑茶、紅茶、コーヒーなど、血圧を上げて眠れなくするものを生活から抜き、そば茶に変えてもらったところ、血圧が30くらい下がって、睡眠薬がいらなくなりました。
そして、すでに症状がほぼなくなっているにもかかわらず、逆流性食道炎用に服用し続けていた胃酸抑制剤をもやめてもらいました。
さらに、食事が炭水化物ばかりだったので、食事のコントロールをしたところ、血糖値もグッと下がってコントロールできるようになったので、血糖降下薬も抜きました。
最後に、2種類の利尿薬もやめてもらいましたが、たんぱく質を十分に摂れるようになったので、ぱんぱんに浮腫んでいた足が半年後にはスラッとしました。本人が太っていると思っていたのは、実際には筋肉が少ないサルコペニアといって、代謝が落ち、栄養不足、栄養失調になっている状態でした。こうなると、元気そうに見えても体が重いため、転びやすく、転倒の原因にもなっています。
また、毛髪の状態も変化しました。「骨折前」「骨折後1年」「さらに4年後」の髪と地肌の状態はどんどんはよくなって、白髪がほとんどなくなって、髪質もチリチリではなくなり毛艶が出ています。この間、「人参養栄湯」を飲んでもらっていました。また、この方は見た目が変わっただけでなく、食べる量も増えました。

3-5.加味帰脾湯

「人参養栄湯」と似た処方に、「加味帰脾湯」というものがあります。ベースに貧血や食欲不振があって弱っている人に使います。出血があるタイプ、例えばガンで出血がある、子宮からの出血が多い場合に使うこともあります。メンタル症状としては、不安が強くて焦りがある、心臓がドキドキする、不眠や健忘といった神経症状の強い方、本当に弱って収拾がつかないような方に使います。裏技として、白血病とか悪性貧血の方に使うこともありますし、耳の聞こえがおかしくなる耳管開放症に効くこともあります。

「加味帰脾湯」は「六君子湯」に似ていますが、半夏と陳皮がはいっていないので、「四君子湯」が入っているのと同じで、お腹を整える要素がたくさんあります。「四物湯」とは当帰が共通するので、「加味帰脾湯」にはお腹を整えて血を増やす作用があるということになります。 そして、「人参養栄湯」とは6種類が共通しています。特に共通するのが人参と黄耆(オウギ)。この2つが入っているので、「加味帰脾湯」も「参耆剤」です。

●酸棗仁(サンソウニン)

「加味帰脾湯」には、サネブトナツメの種子である酸棗仁(サンソウニン)が入っています。この中のジュジュボシド(サポニン)という成分には、精神安定作用、抗不眠効果、鎮静性・抗痙攣作用があります。
そして、ラットの実験からは、海馬の中にGABA-A受容体サブユニットを発現させ、GABA-A受容体を増やすことがわかっています。これは、ベンゾジアゼピン(抗不安薬などの精神安定剤の成分)がくっつきやすいレセプターができるということなので、安定剤を飲んでいる場合は「加味帰脾湯」を併用してもらうと、薬が少なくて済む可能性があります。
「加味帰脾湯」は、胃腸機能をアップしたい人、エネルギーを作りたい人、そして副交感神経を刺激して気持ちを落ち着ける、認知機能をアップさせたい人に使います。

ジュジュボシド(サポニン)

4.まとめ

「眠れない」と聞いたとき、安易に睡眠薬を出すドクターは多いですし、患者さんのほうも眠れないから睡眠薬という発想になりがちです。
けれどもその前に考えてほしいのは、お腹の力が弱っていないか、副腎が弱り、交感神経優位が進んでさらに胃腸機能が落ちていないか、疲れすぎていないか、貧血が隠れていないか、交感神経の刺激になるカフェインのようなものをとっていないかーといったことです。これらをチェックせずに、睡眠薬を使う意味はほとんどありません。

また、眠れないというときには、寝床がとても寒いことがあります。一戸建てで、1階にお布団を敷いている人の場合、これが原因ということがあります。夏に旦那さんがエアコンをガンガンつけて、寒くて寝られないという奥さんも結構いますが、そういうときには期間限定の家庭内別居もありかなと思います。

その他には、外で音がする、横の人のいびきがうるさいということもあります。

ストレスが溜まっていたり、どこかに炎症があったりするということもあります。炎症の場合は、痛かったり腫れていたりすればわかりやすいのですが、慢性の副鼻腔炎とか歯根嚢胞、お腹の慢性炎症といったわかりにくい炎症のこともあります。

意外に、お腹が空いていて眠れないということもあります。こういった時には、我慢しているとアドレナリンが出て空腹感が消えてしまうので、軽く食べてから眠ってみるのもいいかもしれません。眠る前には絶対に食べないと決めている方の場合は、少し飲み物やスープなどを飲んでみてもいいかもしれません。

血糖コントロールも、重要なポイントです。朝起きられない、夜何度も起きるという方は、夜間低血糖を起こしている場合があります。その原因は、コルチゾールの低下、副腎疲労です。そして、血糖値を維持するためには、肝臓が丈夫であること、筋肉がしっかりついていることが必要なので、ある程度丈夫になったら筋トレも不眠の治療に使えるようになります。

生活の改善も大切です。パートナーや両親との関係がこじれていると不眠につながります。育児とか介護はワンオペでせず、できるだけいろんな人に頼みましょう。

トラウマを持っている方は、ちょっとしたことで過緊張になりやすいので、カウンセリングが必要になります。

運動不足の解消も必要です。筋肉をつけたほうが、不眠には効果があります。

お部屋を暗くするのも大事です。光が入ると、脳がα波にならず、目覚めてしまうタイプの脳波に変わってしまいます。夜のネットやスマホも、控えてください。

最後に。不眠というのは、症状の一つです。不眠という病気ではありません。まず、他の症状を全部洗い出してください。そして基礎疾患の確認をします。

腹をかかえる / 腹をわる / 腹八分目

お腹は心に直結しています。「腹をかかえる」「腹をわる」「腹八分目」といった表現があるように、お腹とメンタルは直結しているのです。まずは、腹八分で食べ過ぎないこと、これが大事になります。

お腹をケアすることで体を丈夫にして、結果的に不眠にならない。そして、不眠を解消するために、生理学的なこと、生化学的なこと、その道具として生薬やハーブをうまく使ってもらえたらいいなと思っています。

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