栄養療法にエビデンスがないと言われる件

「栄養療法なんてエビデンスないからダメでしょ。」

と言われて困った事がある人のために書きました。

ビタミンCの論文は6万件

よく「栄養療法にはエビデンスがない」と言われますが、実はけっこうあります。

例えば、医学分野のデータベースMEDLINEで「ビタミンC」を検索すると、61,916件もの論文がヒットします。

但し、その多くを「専門家の意見」や「まとめ」などが占めています。

ビタミンCは免疫レベルを上昇させる
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/29099763

ビタミンCの生理作用のまとめ
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC4959991/

これらの論文はエビデンスレベルでいえば、レベル5に相当します。

エビデンスレベルとは

エビデンスとは、科学的根拠という意味で、その治療の有効性や安全性のデータを指しています。

エビデンスのレベルは、患者さんごとにコインを投げて表裏で治療するかどうかを決めるランダム化比較試験と呼ばれる形式の研究が一番高く(レベル1)、根拠がない専門家の意見は一番低い(レベル5)とされています。

エビデンスレベル
レベル1 ランダム化比較試験
レベル2 ランダム化しない比較試験
レベル3 後ろ向き(過去の事象について調査する)研究
レベル4 症例報告
レベル5 専門家個人の意見

ランダム化試験には膨大な費用がかかります。

製法特許を取得できない天然の栄養成分(ビタミン、ミネラルとか)を使った試験に資金を出したがる人はいませんよね。

だから、栄養療法のエビデンスの半数以上はレベル5なのです。

「エビデンス・レベルが低いものが数多く存在する事」が栄養療法のエビデンスの特徴といっていいでしょう。

治療の推奨グレードはエビデンスレベルで決まる

病院で行われる治療は基本的に「治療ガイドライン」に基づいています。そこに載っている各治療のお勧め度を「推奨グレード」といいます。

「推奨グレード」は、主にエビデンスの質によって決まります。例えば、レベル1のエビデンスがいくつかあれば、グレードAです。

一般的なグレード分類
グレードA かなり推奨できる
グレードB 勧められる
グレードC 根拠はないが考慮してもよい
グレードD 行わない方がいい

グレードを決めるのはエビデンスの「量」よりも「質」だというところがポイントで、レベル5のエビデンスでも数がたくさんあれば、グレードが上がるかというとそうはいきません。グレードAをとるためにはレベル1のエビデンスが最低一つ必要です。

現行の推奨グレードの決定法では、10,000個の「レベル5エビデンス」は1個の「レベル1エビデンス」に勝てないのです。

この「ランダム化比較試験」至上主義の状況において、栄養療法はレベルの高いエビデンスが乏しいため、必然的に推奨グレードも低くなってしまっているのです。

エビデンスの質を追及すると困ること

しかし、エビデンスの質にこだわり過ぎると治療の選択肢は狭まるのも事実です。

例えば、自閉症代替治療の第一人者ダン・ロシニョール医師によると、自閉症に対するグレードA(強く推奨できる)のサプリメントはメラトニンのみです。

このエビデンスは睡眠時間、神経過敏などの症状の改善に関するもので、自閉症の治癒成績を表すものではありません。

それに、米国で自閉症の薬として承認されているのは非定型抗精神病薬のリスペリドンのみです。

これでは根本的解決は期待できません。

そんな理由もあって

多くの子供(74%)が適応外の治療、推奨グレードの低い治療を行っています。

母親に対するアンケート調査では、食事療法を除く自閉症の補完代替医療で効果があった治療の1位はキレーション(74%の改善)でしたが、この治療の推奨グレードはCです。

ちなみに2位はビタミンB12の注射治療で、推奨グレードはDです。

https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/19917212

このように、栄養療法を含む代替治療にはエビデンスレベルが低いものも多いのですが、これは自閉症に限った事ではありません。

医療で行われていることの50%以上が有効性が確認されずに実施されているそうです。
https://bestpractice.bmj.com/

これらの事実は、エビデンスのレベルと治療効果は必ずしも一致しない事を示唆しています。

どんな治療でもよいわけではない

だから、レベルの高いエビデンスや推奨グレードAの治療で効果がない場合は、患者と医師が双方納得したうえで不十分なエビデンスの治療を試す機会が与えられるべきです。

ただし、ここで注意したいことは、証明されていない治療にも2種類あるということです。

つまり、「無害または低リスクである可能性が高いもの」か、「副作用が強く、高リスクである可能性が高いもの」です。後者の治療はなるべく避けなくてはなりません。

サプリメントを使った治療は一般的に前者であることが多いですが、特に高用量を使用する場合は注意が必要です。副作用がほとんどないビタミンCも摂りすぎれば下痢を起こします。

エビデンスが少ないもう一つの理由

それは、エビデンスのデザインが栄養素の効き方にあっていないからです。

これら2つの論文は個別化治療の結果、多くの改善が認められたという症例報告です(エビデンスレベルは4)。

栄養素は競合して働き、人によって必要な栄養が異なります。だから個別化治療が必須です。

アルツハイマーの薬剤開発に関わっていたデール・プレデセン博士は、あらゆる原因を一つの薬で治療するのは不適当と判断し、運動、サプリメントなどを含めた包括的な試験を提案したのですがことごとく却下されました。

個別化治療は「一つの薬剤に開発予算を絞る」という製薬メーカーの利益構造とはマッチしないのです。

個別化医療のエビデンスを作る方法

しかし彼はめげずに、その治療をプロトコル化した結果、多くの医師が追随し、前述の素晴らしい成果を得ました。(アルツハイマー治療の詳細はこちら

彼らのように症例報告を多く積み上げる事で、今後、エビデンスレベルの判断基準が個別化医療に対応していくことは十分に考えられます。

多変量解析がコンピュータの発展により容易になった現在、それは非現実的な事ではありません。

栄養療法のエビデンスの行方は、日々の改善例の積み上げにかかっています。

治療ガイドラインはあくまで仮説

医学というものは、仮説の集まりだという事を知っておいてください。ネット上の健康論だけでなく、厚労省の推奨している治療も含めて全て仮説です。

最近の例を見ても、厚生労働省は2015年、日本人の食事摂取基準からコレステロールの上限値を撤廃しましたし、米国医学研究所は2010年、1日のビタミンD消費量を3倍の600国際単位に引き上げました。

70年前には精神疾患に対して脳の手術をすることが標準治療でした(治療の開発者は1949年にノーベル賞を受賞しています)。

治療ガイドラインなんてどんどん変わっていくもので、決して絶対的な基準ではありません。仮説だからこそ根本原因を考えることが重要です。

惑わされないためにメカニズム、機序を学んでください。

栄養が足りないと言われたら、サプリで補う前に、なぜ足りなくなるのかを考えましょう。

人は栄養がないと生きられない従属栄養生物だからこそ、足りない栄養に着目すると体調不良の原因を見つけやすいのです。

まとめ

今のエビデンスの基準は栄養療法には合っていないので、「エビデンスがない=治療効果がない」とは言い切れません。

エビデンスレベルが低くとも、患者と治療家が相談を重ねる事でリスクの低い治療を選択することができます。

全ての医学は仮説だからこそ、治療ガイドラインを過信せずに自分の治療は自分で決める勇気を持ちましょう。

 

1 Comment

ビオチン

ビタミン学会の医学文献は栄養療法のエピデンスだらけですよね。
ビタミンB1欠乏の脚気は食事の改善という栄養療法で治る。
脚気は昔、江戸患いと呼ばれた難病。
ビタミンB1不足で脚気になり、欠乏が進行して心不全で死亡。
江戸で白米ばかり食べるから脚気になり、古里に戻り玄米や雑穀を食べる為に治る。
江戸に戻ると再発するから江戸患い。
脚気とビタミンB1の関連が解明されて本当に良かった。
解明されてなければ今も難病扱いですね。
単なるビタミン欠乏で恐ろしい病気になる見本。
脚気の話しは立派な栄養療法のエピデンス。
掌跡膿胞症候という皮膚病の難病もビタミンB7のビオチン欠乏でした。
最初は掌、足の裏に湿疹が出来て次第に皮膚や爪、骨も作られず掌跡膿胞症性の骨関節炎で寝たきりになり死亡する。
ビオチンが欠乏していると判らない医師が多くて難病扱い。
ビオチンはビタミンB5のパントテン酸と生卵白のアビヂンが吸収阻害物質。
これも把握して栄養療法やビタミン補充療法をして欲しいですね。
日照不足でビタミンD欠乏も怖い。
日焼けを嫌い美白ブームでビタミンD欠乏でカルシウムまで作られなくなる。
ビタミン欠乏が原因の病気は多い。
だから医学文献に栄養療法のエピデンスは多いですね。

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