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栄養療法外来のやり方

精神疾患の栄養療法

宮澤賢史 · 2021年10月12日 ·

うつ病、統合失調症、ADHDなどの精神疾患にどのような栄養療法をしていけば良いのでしょうか。

本日の内容は、神経伝達物質の代謝に栄養が大きく関与しているのでその仕組みを知り、実際にどのようにしてそれらを判別するか、それを基に薬やサプリメントどのように使っていくかということについてお話します。

1.神経伝達物質の代謝とメチレーション

1-1. 本日の内容

・神経伝達物質の代謝
・神経伝達物質再取り込みトランスポーターたんぱくの合成に栄養素が大きく関与している
・神経伝達物質の状態を血液検査や症状などから推測できる
・それを元に薬剤や栄養サプリメントを調整することで症状の安定化を図れる

脳のバランスをとるのに重要なのは神経伝達物質の代謝とメチレーションの2つです。昨今、ゲームが流行っているのは、競争心を煽りご褒美をもらえ、毎日めまぐるしく変わる人間の報酬系に対する仕組みを全部実現しているためです。自分に役に立つことをすると脳からドーパミンが出て嬉しい気持ちになることを報酬系と言いますが、それがどんどん活性化していくと最終的に依存症になります。

Facebookもそのような報酬系の仕組みの尤もたるもので、「いいね」が今日は何個付いたかが気になる場合、完全に報酬系の奴隷となっています。

このように依存症は比較的身近な話ですが、精神疾患を持っていたり、生科学的なインバランスがある人は、まず脳の生化学状態を整えてから食事療法を取り入れた方がスムーズです。

脳細胞は脳の中に1,000億個あり、その細胞のひとつひとつが隣の1,000個の細胞と繋がっています。それをシナプスと言います。人の思考、行動、感情は全て、神経伝達物質と呼ばれる特別な物質が脳細胞から脳細胞に伝えられて起こります。

脳の刺激は電気で伝わり、電気回路がショートしないように少しだけ離れています。神経伝達物質という特殊な物質が伝達されることによって、考えたり行動したり、色々な感情が沸き起こったりします。

神経伝達物質はドーパミン、セロトニン、GABAなど何種類もあり、全て栄養から出来ていてそのまま脳機能に直結しています。ドーパミンはフェニルアラニン、セロトニンはトリプトファン、GABAはグルタミンという必須アミノ酸から代謝されてできています。グルタミンは条件付きの必須アミノ酸です。

分子栄養学とはもともと分子栄養精神医学から始まっていて、ライナス・ポーリング博士は、「脳は身体の他の部位に比べて栄養の影響を受けやすいから、精神医学から始めた方がいい」ということを提唱してます。

1-2. モノアミン仮説

多くのうつ病の薬は、モノアミン仮説に基づいて設計されてます。

・うつ病患者で 脳脊髄液中の5-HIAAの低下が見られる
・セロトニンの前駆物質であるトリプトファンをモノアミン酸化酵素阻害剤に併用すると抗うつ作用が増強する
これらのことから、うつ病患者の脳ではセロトニン神経伝達の機能低下が起きているという仮説が立てられる
                 Br J Psychiatry: 1967, 113(504);1237-64

うつ病患者の脳の脊髄液に5-HIAAというセロトニンの代謝産物が低く、うつ病の薬にトリプトファンを一緒に併用すると改善することから、うつ病患者の脳ではセロトニンがうまく働いていないのではないかという仮説が立てられ、これをモノアミン仮説と言っています。現在ではうつ病だけでなく、統合失調症や気分障害などもこのような仮説をもとに治療されています。

1-3. うつ病患者のすべてが低セロトニンとは限らない

問題は、うつ病の患者さんに実際にセロトニンが低いかどうかを検査していないままセロトニンを増やす薬が処方されるため、セロトニン症候群を起こす人がいるということです。セロトニン症候群とは、セロトニンが増えすぎて起きる副作用のことです。

SSRIとはセロトニンの取り込みを押さえて、シナプスでのセロトニンを増やす薬ですが、効果が見られないだけではなく副作用を起こす人がいることが問題です。セロトニン過剰となり、衝動性や攻撃性、自殺念慮を引き起こしたりします。基本的に栄養療法を含め、全ての治療は各人のセロトニン濃度に応じて量を調節する個別化医療が求められます。

今日の話は、精神疾患に対する栄養療法において、最大のデータベースを持っているウォルシュリサーチ・インスティチュートを基に構成されています。

ウィリアム・ウォルシュ博士
精神疾患患者に対して行った生化学検査数は300万件以上にわたり、過去に執筆した科学論文や記事200本以上

(行動障害 10,000件、ADHD 5,600件、統合失調症 3,500件、うつ 3,200件、自閉症 6,500件)

世界14ヵ国で300名以上、現在まで28ヵ国以上もの国で臨床医向け講演。

ウォルシュ博士の栄養療法を私が採用している1番目の理由は、分子栄養学の創始者のエイブラハム・ホッファー先生の正当な流れを組んでいるためです。ウォルシュ博士は、長年ホッファー先生と一緒に活動されてきた先生です。

2番目の理由として、その考え方をさらに発展させてエピジェネティクスという考え方を取り入れていることです。このエピジェネティクスとは、栄養が遺伝子の発現をコントロールしてるという意味です。この考え方が取り入れられるようになってから、今までよく理解できなかった精神医学の根本原因が判明しました。

3番目にはエビデンスが多いことです。去年亡くなったジャック・チャレムという方にメチレーションに関してアメリカで一番エビデンスが多い人を紹介してくれないかと頼んで紹介して頂きました。2年前、日本で講演をしてもらいましたが、内容がとても良かったのでシカゴに行って彼の研修を受けてきました。

1-4. 栄養素を併用した個別化医療

ウォルシュ博士は、個体差の重要性が大切で、心の病に対しては栄養素の不足よりも過剰摂取がより多くの悪影響を及ぼすとおっしゃっています。

鉄、メチオニン、葉酸、銅などは、過剰に投与するとかえって症状が悪化することがあるので、僕の場合、精神疾患の人は最初にマルチビタミン摂っていた場合は一時的に辞めていただいてます。

低メチレーションの人に葉酸を投与すると悪化します。葉酸はマルチビタミンにも入っているので、ウォルシュ博士によるとマルチビタミンも1度やめたほうがいいそうです。食事中の葉酸に関してはOKですが、栄養素でかえって悪化することがある程、脳はとても不安定です。

これに関しては自閉症の権威エイミー・ヤスコ博士も同じようにおっしゃっています。

下記は、脳のインバランスを的確に把握した個別化医療がどのくらい効果があるかという2010年のウォルシュ博士の論文です。

自閉症スペクトラム、ADHD、アスペルガー症候群、不安、双極性障害、うつ病、統合失調症および強迫性障害(OCD)を持つ患者567名に対して12か月間個別化治療を行い、QOLの改善度インタビューを行った。

110例(23.6%)が脱落、
221例(44.9%)大幅改善、91例(18.5%)が部分的改善

ACNEM Journal Vol 29 No 3 – November 2010

自閉症でほとんど改善しているのが45%、部分的な改善が35%、合わせて8割の人に何らかの改善が見られています。ADHDや躁鬱病など7〜8割の人に改善が見られてるという大規模な論文です。

1-5. 神経伝達物質の代謝とメチレーションに栄養素が大きく関与する

神経伝達物質の代謝

様々な神経伝達物質がある中、今日の主役はドーパミン、ノルエピネフリン、セロトニン、GABA、グルタミン酸です。

ドーパミンはフェニルアラニンからテトラヒドロビオプテリンや、ビタミンB6の影響を受けて代謝されます。ビタミンB6が不足すると、ドーパミンが生成されません。そしてドーパミンからノルエピネフリンへは、ドーパミンβヒドロキシラーゼという酵素によって転換されますが、そこに銅が重要となります。銅過剰になるとドーパミンが減って集中力を高めてくれる神経伝達物質であるノルエピネフリンが増え、過剰になると不安な気持ちが出てその結果意欲がなくなってきます。

ビタミンB6はセロトニンやGABAの合成にも一役買っているので、特にピロール障害があるビタミンB6が少なくなってしまう体質の人が、ドーパミン、セロトニン、GABAは作られにくくなります。

また、グルタミン酸は、グルタミン酸受容体にくっついて効果を発現します。グルタミン酸は学習や記憶にとても大事ですが、多すぎると興奮を引き起こすため、特に自閉症のお子さんには問題となります。過剰なグルタミン酸の働きを強くするのはカルシウムで、働きを抑えてくれるのは亜鉛とマグネシウムです。 

気を付けなければいけないのは銅と亜鉛のバランスです。銅と亜鉛はブラザーイオンで、お互いを抑えるように働いています。銅過剰の場合、亜鉛を沢山投与すれば、自然と銅が下がってきます。

これはNMDA型のグルタミン酸受容体です。

症状
目を合わせない、攻撃的、stims、自傷行為。ぼっーとする(オピオイド受容体も刺激される)

受容体抑制   
マグネシウム
亜鉛
リチウム

グルタミン酸の神経の過剰興奮がカルシウムの流入を引き起こして細胞死を引き起こします。自閉症のお子さんの脳を解剖してみると、多く見られるのは鉄とカルシウムで、カルシウムが異常に流入してるので神経細胞が死んでしまい、グルタミン酸神経の過剰興奮により脳に炎症を起こしています。

上記の症状を抑えるため、自閉症のお子さんはグルタミンを食事から抜かなければいけない時期があります。グルタミン酸からGABAへの転換がうまくいかないため、グルタミン酸が溜まってしまうためです。それはビタミンB6不足なのかもしれないし、水銀の蓄積なのかもしれません。グルタミン酸からGABAへの転換には色々な要素が必要で、ビタミンAやビタミンKの不足もこの転換を阻害してしまいます。

この過剰なグルタミン酸神経の細胞死を防ぐのが、マグネシウムや亜鉛、リチウムなどです。脳の生化学状態をコントロールするのは2つです。一つは神経伝達物質の代謝、もう一つはメチレーションです。

1-6. メチル化について

メチレーションはメチル化とも言い、メチル基が色々な物質に結合し化学構造が変わって、様々な変化が起きたり代謝が進みます。メチル化は分子や、シナプス、ヒストン、DNAなどにも起こります。

例えば、水銀にメチル基がつくとメチル水銀になります。無機水銀に比べてメチル水銀が悪いのは、体が食べ物として認識して腸からそのまま吸収され、脳や脂肪に行ってしまいます。魚の水銀はメチル水銀です。

また、子宮内でDNAに起きるメチル化は、妊娠の2、3週で確立して一生続きます。肝臓も目も皮膚も全ての細胞は同じDNAを持っていますが、なぜ肝臓になったり皮膚になったり目玉になるかというと、DNAの読むところが違うからです。メチル基が結合しているところは読まなくなります。

僕は一夜漬けタイプで、試験前になると教科書で絶対出なさそうな箇所は、山をはって思い切ってバツをつけていました。集中力を高めるためそこが目に入らないようにバツをつけるようなもので、DNAのメチル化とは、DNAの中で読まないところを設定されるということです。

この子宮内で起こるメチル化がうまくいかないと、余計な遺伝子が発現してしまい問題になります。自閉症のお子さんは、98%低メチル化です。遺伝的な要因で、ほとんどの場合両親が低メチル化なら、低メチル化同士の組み合わせで低メチル化になりますが、本当はメチル基がつかなければいけないところに子宮の中で低メチル化が起きて活性酸素に弱い個体ができやすくなります。

妊婦はそれを防止するために、葉酸を摂ることが推奨されてます。葉酸を摂らなければいけないのは妊娠2、3週目なので、妊娠する前から計画的に葉酸を摂らないと間に合いません。妊娠2ヶ月と言われたときには、もう遅いのです。

また、今回一番の話題は神経伝達されるシナプスで起こるメチル化です。メチル化とは、メチル基がくっつくことですが、メチル基はほとんどがメチレーション回路によって作られるSAMeによって供給されます。メチレーション回路で作られるメチル基の最大の供給源がSAMeなので、メチレーション回路が回ってない人はSAMeが少ないです。メチレーション回路は遺伝子変異や環境によって左右されます。

この遺伝子変異を回避するサプリメントが、活性化葉酸です。このシナプスで起こるメチル化は、シナプス間隙の神経伝達物質を減らす効果があります。シナプスにおけるDNAのメチルレーションと、全身におけるメチレーションがあります。

下記はメチレーション回路です。

メチレーション回路でメチオニンというアミノ酸をもとに、それがアデノシル基がついてSアデノシルメチオニンになります。このSAMeがメチル基の供給源なので、メチレーション回路が回ってない人はメチル基が十分供給できません。ここでできたメチル基は、DNAのヒストンに結合します。

1-7. 核と染色体とDNAとヒストン

染色体をバラバラにすると、DNAとヒストンからできています。ヒストンとはこのDNAの長い紐を巻いておく糸巻きのようなものです。DNAは一つの細胞の中で伸ばすと1.8メートルくらいあり、このヒストンという糸巻きでぐるぐる巻かれているために1/1000ミリの核の中に入ることができます。そのため、昔はヒストンはDNAを絡ませないようにするためのものという風に思われていましたが、実はヒストンはDNAの発現に大きく関与しています。

1-8. 転写が起こるしくみ

転写はDNAからタンパク質が作られる過程の一部で、DNAはmRNAにコピーをされて、そのmRNAをもとにタンパク質が作られます。この一連の過程を転写と言います。

エンハンサー領域に転写因子タンパクが結合することがはじまり

タンパク質が作られるためにはまず転写が行わなければなりません。転写は遺伝子のエンハンサー領域に転写因子タンパクが結合することから始まります。そのためエンハンサー領域にタンパクが結合できないと、タンパク質は作られません。

ヒストンは塩基性が強いので、酸性のメチル基が結合すると、ヒストン同士は縮んでエンハンサー領域に転写因子が近づきにくくなります。

ヒストンは強い塩基性のタンパク質であり、酸性のメチル基と親和性が高く、
アルカリ性のアセチル基とは反発しあう

逆にこのヒストンにアルカリ性のアセチル基が結合すると反発しあうため、ヒストンとヒストンの間が離れて、転写因子が近づきやすくなり、タンパクの合成が促進されます。メチル基が付くと、構造が密になり転写因子が近づきにくくなるので転写がストップするという仕組みです。

1-9. シナプルにおけるセロトニン量はメチレーションに比例する

メチル基がメチル化されるとタンパクの合成が止まり、これはすべてのタンパク質に当てはまります。メチル化が進むとヒストン同士が縮み、メチル化が進まないとヒストン同士は離れて、タンパクが作られます。

メチレーションが亢進している人はシナプスの再取込タンパク合成が抑制されており、
シナプス間隙におけるセロトニン、ドーパミン量は増加している
メチレーションが低下している人は、セロトニン、ドーパミン量は減少している

シナプスにおいて問題になるのは、セロトニンの取り込みのタンパクのことを指しています。タンパクが沢山作れるということは、このセロトニン取り込みタンパクが沢山増えます。この場合はタンパクが少ないためセロトニンの取り込み口が少なくなり、シナプスの間隙にセロトニンが沢山余ってしまいます。

逆にセロトニン取り込みタンパクが沢山増えるということは、どんどん取り込まれてしまいシナプス間隙にセロトニンが減ります。メチレーション亢進=神経伝達物質の増加で、メチレーション低下=セロトニン、ドーパミン量低下です。

オーバーメーションやアンダーメチレーションについては後ほど詳しく説明しますが、オーバーメチレーションとはメチレーションが亢進しいてることで、アンダーメチレーションはメチレーションが低下してることを言います。オーバーメチレーションでは、セロトニンもドーパミンも沢山分泌されますが、アンダーメチレーションはどちらも分泌されません。

アンダーメチレーション=回路が回らなくて、メチル基が足りないこと
オーバーメチレーション=メチル基が多くて、余っていること

アンダーメチレーション状態

自閉症スペクトラム  98%
反社会的人格障害    95%
統合失調感情障害   90%
反抗挑戦性障害    85%
神経性食思不振症   82%
うつ病        38% 

オーバーメチレーション状態

パニック障害      64%
妄想型統合失調症  52%
ADHD         28%
行動障害        23%
うつ病        18% 

オーバーメチレーションの人は神経伝達物質が多すぎるので減らし、アンダーメチレーションの人は少なすぎるので増やしてください。メチレーションの状態を診ることがとても大切です。

一般的に、自閉症スペクトラムの人は、98%アンダーメチレーションです。様々な人格障害とか、神経性食思不振症、82%の人がアンダーメチレーションです。反対にドーパミンが多すぎるオーバーメチレーションの人は、パニック障害や、いわゆる典型的な妄想型の統合失調症、幻覚が見える統合失調症も含まれます。

アンダーメチレーション

オーバーメチレーション

  1. メチレーション回路の遺伝子変異
  2. ヒスタミン過剰負荷
  3. たん白不足 
  1. クレアチン合成障害 AGAT GAMTのSNP
  2. アルギニンまたはグリシン不足
  3. メチルトランスフェラーゼSNP

アンダーメチレーションになる原因は、メチレーション回路の遺伝子変異です。メチレーション回路がうまく回らないのは、遺伝子に変異があることが一番の理由です。特に問題になるのは葉酸の活性化の遺伝子のMTHFRです。

反対にオーバーメチレーションになる一番の原因は、クレアチン合成障害で筋肉を作る酵素がうまく働かない人です。メチレーション回路で作られたSAMeは、7割が筋肉を作るために使われます。筋肉をつけられない人は、その酵素の分だけSAMeが余ります。オーバーメチレーションの人は、鍛えても鍛えても筋肉がつきません。

1-10. 第一部まとめ

  • 神経のバランスは、神経伝達物質の合成や分解に必要な補酵素、シナプスにおける再取込トランスポーターなどの影響を強く受ける
  • 神経伝達物質の代謝には銅とビタミンB6が必要
  • ビタミンB6不足で ドーパミン↓、セロトニン↓、GABA↓
  • 銅の過剰で、ドーパミン↓、ノルエピネフリン↑,酸化ストレス↑ ✽ ✽神経伝達物質再取り込みトランスポーターたんぱくの合成(つまりシナプスにおける神経伝達物質の再取込量)にはメチレーションが大きく関与している
  • アンダーメチレーションではシナプス間隙のセロトニン↓、ドーパミン↓
  • オーバーメチレーションではシナプス間隙のセロトニン↑、ドーパミン↑

神経伝達物質の代謝とメチレーションによって脳の全体の生化学状態が決まります。つまり銅と亜鉛のバランス、ビタミンB6の不足、メチレーション状態を見れば良いということです。

2. うつ病のタイプ別分類

2-1. うつ病を脳内の生化学状態で分類

こちらは日本語訳されているウォルシュ博士の本です。

博士は、うつ病の分類を大まかに5つに分けてます。精神疾患を持っている人は2/3がメチレーション異常で、2/3はメチレーション正常です。メチレーション異常の人や、銅亜鉛バランスが狂ってる人は症状が特徴的です。

アンダーメチレーションタイプ(38%)

メチレーションが低下しているタイプの人は、ドーパミンが少ないです。

  • 強迫神経症状
  • 季節性アレルギー
  • 完璧主義
  • 競争心が強い
  • 学校の成績はよい
  • 儀式的な行動
  • SSRIが効果的

強迫神経症状を持つ人は、いつも同じ方から靴下を履き、いつも同じ道を通って学校に行く、いつも同じ食事をとらないと気が済まないなどの行動をとります。ヒスタミンが多くなるため、季節アレルギー出やすいです。そして完璧主義で競争心が強く、負けず嫌いです。

オーバーメチレーションタイプの人はドーパミン過多の人です。

オーバーメチレーションタイプ(20%)

  • 鬱に加えて不安やパニック
  • SSRIや抗ヒスタミン薬に対して不耐性、
  • 化学物質アレルギーを持つ
  • 症状にもかかわらず、気立てのよい優しい人が多い
  • ADHDや学業不良といった症状は
  • アンダーメチレーションタイプの人の3倍

ドーパミンやセロトニンが多すぎて鬱になる人もいますし、不安症状がとても強いという特徴があります。なにかにつけて不安なので、パニックを起こしたりしますが、SSRIやボルザックなどの薬に対してかえって悪化する場合もあります。様々なことが次から次へと頭に浮かんできて、思考がまとまらない人が多いです。ドーパミンが大量に出たら学校の成績が上がりそうですが、意外とそうでもなく、絵が上手だったり音楽的な才能があったり芸術家思考の人が多いです。

2-1. メチレーションと症状

メチレーション状態には低メチル化と高メチル化があり、低メチル化の原因は葉酸の活性化酵素の変異が一番です。

ヒスタミンを代謝している酵素でもあるSAMeの合成が低くなるので、ヒスタミンが多くなって花粉症になります。メチレーション回路が回らないとドーパミンの合成が下がって、依存症体質の人が多いです。クレアチン合成酵素にメチル基が回るため、筋肉量は多くテストステロンが多くなり、性欲も強いです。

反対に、高メチル化の人はクレアチン合成酵素が下がっているため、いくら鍛えても筋肉がつきません。高メチル化の人はSAMeが余るので、ドーパミンがどんどん構成されます。創造性に長けていて喋り始めたら止まりません。検査はヒスタミン量で判定し、好塩基球の実数を測ります。

2-2. 評価法 ヒスタミンと好塩基球

ヒスタミンはSAMeによって代謝されてメチルヒスタミンになるので、低メチレーションの人はSAMeがあまり作られず、ヒスタミンが溜まって色々な症状を引き起こします。

上記のサプリは、ヒスタミンを代謝する酵素であるジアミンオキシダーゼです。消化酵素や高ヒスタミン薬を使うと、ヒスタミン量が狂ってしまいますが、一般的にはヒスタミン量からメチレーション状態が推測できます。血液中のヒスタミンは98%好塩基球の中に入っているため、好塩基球数で測定します。

ウォルシュ博士は全血中のヒスタミン濃度を測ることを推奨していますが、全血中のヒスタミン濃度を測れる検査会社が日本にはないため、血液中の好塩基球数から推測します。

2-3. 好塩基球数を求める

好塩基球数の求め方は、白血球×好塩基球の割合をかけてそれで100で割ってください。

白血球数 × 好塩基球(BASO)の割合(%)÷100

白血球数4800×
好塩基球(BASO)の割合(%)2.5÷100=120

好塩基球数<30 なら OM
好塩基球数>70 なら  UM

好塩基球数が30以下ならオーバーメチレーション、好塩基球数が70以上ならアンダーメチレーションなので、この方の好塩基球数はとても多いとわかります。

さらに詳しく診るためにはSAMeと、SAMeが代謝されたS-アデノシルホモシステインの比率を測るドクターズデータ社のメチレーション検査もあります。

もしこの検査をされるなら治療の前に行なってください。治療の後にやると結果が狂ってくることが多いためです。

2-4. 銅過剰タイプ(17%)

銅は人間の成長に不可欠な因子なので、妊娠中に上がったり、お子さんも上がります。ただ一部の女性では、出産後、正常に戻るべき銅のレベルが下がらない人がいて、これを銅過剰タイプといいます。

  • 強い不安感・パニック傾向がある
  • 産後うつ病を引き起こす可能性がある
  • 活動的である
  • SSRIで不安が増強する
  • 安定剤ではうつが治らない
  • ピル、ホルモン補充療法で悪化する
  • 敏感肌である

銅過剰タイプの95%が女性で、特にエストロゲン値が高くなる思春期、更年期、妊娠期に発症することが多いです。銅過剰になると、ドーパミンからノルエピネフリンへの過剰転換が起き、不安、パニック傾向や、産後うつ病の大きな原因になります。薬が効かないため、SSRIや安定剤でも効果がありません。そしてエストロゲンは銅をさらに悪化させるので、ピルで悪化するというのも特徴です。オーバーメチレーション状態と銅過剰状態の人が混合で合わさっている場合もいます。

2-5. 銅過剰の症状

検査では、銅と亜鉛のバランスを見ます。

セルロプラスミンを測ってる人は、酸化ストレスに直結する遊離銅を測ることも大事です。栄養サプリメントの中で特に鉄と銅は活性酸素の発生源になるので、気を付けてください。

鉄の害が出やすい人は鉄を乗せるタンパクの残りであるUIBCが少ない人です。いわゆる空の台車です。その数字が通常200なので、100ある人は鉄の害が出やすいです。銅に関してはセルロプラスミンというタンパク質が少なくて、遊離銅が多い人が銅の酸化ストレスの影響が出やすくなります。

2-6. 銅過剰の評価

銅過剰の評価方法は下記の通りです。

  1. 血中銅↑(>110)
  2. 血中亜鉛↓(<90)
  3. 遊離銅比率↑(>25%)

銅過剰活性酸素のことを考えなければいけません。血中度が高くて、血中亜鉛が低く、さらに遊離銅比率が高いことです。

遊離銅比率の計算式は下記のとおりです。

( 血中銅 – セルロプラスミン×3 )/血中銅 x100 (%)

遊離銅の比率が高い方はセルロプラスミンを増やすことが大事で、セルロプラスミンを増やすのに有効なのはビタミンAです。

2-7. ピロール障害について

ピロールとはヘモグロビンを作る時の副産物で、多く作られると尿中に排泄される物質です。体の中での重要性はそれほど多くないので、作られた側から排泄されていきますが、問題なのはビタミンB6と亜鉛が非常に結合しやすいので、沢山作られる人はB6と亜鉛が体から抜けていきます。このような体質の人のことを、ピロール障害といいます。

これは体質で、生まれつきB6と亜鉛不足なので、10歳になる前から症状が出ることが多いです。神経伝達物質のセロトニン、ドーパミン、GABAは全てB6に依存しているので、これらが不足してしまうがために不安やうつの症状が出ます。気分の変動が激しく、双極性障害(躁鬱病)と診断されることもあり、躁と鬱を繰り返し、気分が1分単位で変わることもあります。

ピロール障害の人はストレスがあると症状が悪化するため、亜鉛とビタミンB6を増量する必要があります。ビタミンB6が不足し短期記憶障害が出て、夢が思い出せない、本が読めないという症状が出てきます。

このピロールタイプの人は副腎疲労にとても似ていて、朝が弱く夜がとても強いです。ストレスに弱く、朝弱く夜強いという傾向は、副腎疲労にとても似ているので、ピロール障害の人が隠れていることがあります。

2-8. パイロルリアの評価

ピロール障害は、下記の二つの方法で評価します。

①尿中ピロール

尿中のピロールが15を超えたらピロール異常です。ただこの検査もハードルが高いので、亜鉛とビタミンB6が足りていないかどうかということから推測しましょう。

②亜鉛、B6量から推し量る

血中亜鉛↓、GOT>GPT、尿素窒素↓

血中の亜鉛の濃度と、GOTとGPTの差がB6不足を反映します。ピロール障害には尿素窒素の低下も関わってきます。

  • GOTとGPTは、共にビタミンB6を補酵素とするアミノ基転移酵素である
  • ビタミンB6は様々なアミノ基転移酵素の補酵素として働くが、その中でもGOT,GPTの活性が特に高い。
  • GPT ↑ なら肝機能障害 (脂肪肝、ウイルス肝炎)
  • GPT ↓ なら酵素、補酵素の活性が低下
  • GPTのほうがB6の不足の影響を大きく受ける。
  • 両者共に低めで、GPTがより低い場合には、B6不足
  • 両者共に高めで、GPTがより高い場合には、脂肪肝 (B6不足と脂肪肝があると、一見正常範囲に見える)

下記は、アラニン回路という経路です。

筋肉では糖新生ができないため、ピルビン酸がアラニンに代わり肝臓に行って、そこからグルコースが新生されます。その際に尿素ができるので、この回路がうまく回る人は尿素窒素の数字が高めです。

この回路がうまく回るためには、ピルビン酸からアラニンへの転換がされなければいけませんが、このピルビン酸とのアラニンの転換をするのがALT(GPT)です。ビタミンB6が足りない人はピルビン酸、アラニンの転換がうまくいかないため、尿素が下がってきて尿素窒素が一桁という人も中にはいます。

2-9. パイロルリアの症状

ピロール障害の症状は、ビタミンB6と亜鉛欠乏によるところが大きいです。

爪に白い斑点があると分かりやすいですが、亜鉛不足でALPが下がって成長障害が起きます。また、B6不足なので、副腎疲労症状や短期記憶障害が出たり、気分が不安定になります。

オメガ6系の脂肪酸がうまく作れないというのもパイロルリアの特筆すべき症状です。そのため、ウォルシュ博士によるとパイロルリアの人はオメガ3を摂りすぎてはいけないとのことです。

2-10. 重金属蓄積タイプ(5%)

  • 突然鬱が現れる
  • 腹部の痛み、けいれん
  • イライラ
  • 頭痛、筋力低下
  • エネルギー切れ
  • カウンセリング、薬が効かない

どれにも当てはまらない場合は、鉛や水銀、カドミウム、ヒ素などの重金属について考えてみてください。見分け方としては何のきっかけもないのに突然鬱になったりします。腹部症状があり、イライラや怒りが出てくることがあります。それぞれの暴露歴からも判断していかないといけませんが、他の4つの病態と重なってる場合がありますので問診が大事です。

2-10. 第2部まとめ

① 評価すべき事項

  1. メチレーション状態 亢進?低下?正常?(ドーパミン量を左右する)
  2. 銅過剰はないか?(活性酸素の発生量、ノルエピネフリン量に影響)
  3. パイロルリアはないか?(亜鉛↓、B6↓により様々な影響)
  4. 消化管の問題はないか?
  5. 重金属の影響はないか?

メチレーション状態、銅過剰、パイロルリア、の他に、消化管の問題がないかを確認してください。消化管の問題があれば必ず鬱になります。そして重金属の影響も聞いてみてください。複数の異常が合併することがあるので注意してください。特に合併しやすいのはメチレーションの低下とパイロルリア、メチレーション過剰と銅過剰です。

②うつ病の生化学タイプと神経伝達物質のアンバランス

   うつ病の生科学タイプ           神経伝達物質活性
     低メチレーション         低セロトニン、低ドーパミン
     高メチレーション         高セロトニン、高ドーパミン
      銅過剰               高ノルエピネフリン
     ピロール異常            低セロトニン、低GABA
病名でなく、メチレーション、栄養状態で処方を決める

うつ病の生化学タイプと神経伝達物質は、低メチレーションの場合は神経伝達物質は低くなり、高メチレーションの場合は高くなります。銅過剰の場合はドーパミンが低くなってノルエピネフリンが高くなり、ピロール異常の場合はB6が不足するので、セロトニンもGABAもドーパミンも作られにくくなります。

大事なのはうつ病、統合失調症、ADHDとかの病名ではなくて、脳の中の生化学状態で栄養療法を決めていくということです。うつ病でもセロトニンが高い場合と低い場合とあります。

3. タイプ別治療

生化学治療の原則

・神経伝達物質の合成に必要な栄養素の濃度を正常化する事。
→亜鉛、銅、B6の事

・標的栄養療法を使い、神経伝達物質の活動性を
エピジェネティックに制御する事→メチレーションの調節をするという意味

・フリーラジカルの酸化ストレスを軽減する事
→抗酸化治療(一番大事な抗酸化物質は亜鉛)

抗酸化物質も色々ありますが、大事なのは亜鉛、グルタチオン、セレンです。グルタチオンは体の中で作られる物質ですが、これら3つの抗酸化力が強いです。

亜鉛はメタロチオネインという抗酸化物質を作るのにとても重要です。メタロチオネインを積極的に作って解毒を促すというのがウォルシュ博士の考え方で、メタロチオネインを作るためには、血中濃度、亜鉛の血中濃度を100以上に保つと良いと提唱しています。

3-1. 検査すべき項目

亜鉛や銅、その他に検査をしておいた方が良い推奨項目として血中のホモシステインもあります。他にも25OHビタミンDと甲状腺機能は精神疾患に関わってくるところです。

  • 血漿亜鉛
  • 血清銅
  • ヒスタミン
  • 尿中ピロール
  • 血中ホモシステイン
  • 25OHビタミンD
  • 甲状腺機能  
  • GOT/GPT

もしピロール検査をしてみたい方は是非してみてください。尿中ピロール検査を請け負っているのは、アメリカのDHAというラボか、HDRI社です。正確に測ってくれるのは、DHAの方ですが、凍結したものを送らなければいけなくて、凍結保証のDHLで送ると確か送料が9万円します。さすがに高すぎるので、僕の場合はHDRI社のものを使ってます。ただ測定誤差がどうしても出るそうです。

3-2. 治療失敗の最も大きな原因

  • コンプライアンスの低下
  • OMの場合、服薬の量、複雑さ → 単純化
  • UMの場合、説明不足 
  • 子供の場合、明確なメリットを示す
  • 食事内容に介入する前に、主なインバランスを
    改善する方が好結果が得られる。
  • 多くの患者にとって、インバランスを修正する前に
    生活スタイルを大幅に改善するのは無理。
    (自閉症、ADHDを除く)

治療は、亜鉛、銅、ビタミンB6、葉酸などを補充していくことですが、治療失敗の最も大きな原因は、コンプライアンスの低下です。コンプライアンスとは、患者さんが服薬をちゃんとできてるかどうかです。

オーバーメチレーションの人の場合は、服薬の量が多かったり複雑さを嫌う傾向にありので、要望によっては単純化してあげることです。

アンダーメチレーションの人は、完璧主義で理論的な話が好きなので、説明が足りてないとうまくコンプライアンスがいかないですが、きちんと説明してあげたら100%服薬してくれることが多いです。

母親に連れて来られたお子さんの場合は、コンプライアンスはとても悪いです。食事の改善にもやる気がないです。親のメリットのために連れて来られているにしても、お子さんに対して明確なメリットがちゃんと説明できれば、コンプライアンスが上がることが多いです。

食事内容の改善がとても大事ですが、多くの人にとって生化学的なインバランスを修正する前に生活スタイルを改善するのは無理だということもあります。もし食事指導がうまくいかなければ、最初にこのインバランスを調整してあげると良いかもしれません。ただし自閉症の場合は、脳に炎症を起こしていてリーキーブレーンになっているので、食事の介入が必要だと思います。

今年の最初にメドマプスの方が来て自閉症セミナーがありましたが、自閉症に対して今一番有効な栄養療法のエビデンスの話をされていて、1位がメラトニンで、2位がオメガ6とオメガ3とビタミンB6でした。

3-3. 治療の基本

  • High Pyrroles: 亜鉛, B6/P5P
  • Overmethylation: 葉酸、ナイアシン
  • Undermethylation: メチルB12, SAMe
  • Low Zinc: 亜鉛
  • High Copper: 亜鉛、モリブデン
  • Free Cu high: ビタミンA,抗酸化物質

ピロールの場合は亜鉛とB6、B6が効かない場合は、ピロールだと判明した場合は活性型のビタミンB6を併用して使ってきます。ピロールの患者は、例えばB6を200mg、P5Pを50mgみたいな感じで使っていきます。

オーバーメチレーションの場合はメチル化を低下させる働きがある葉酸とナイアシンを使います。アンダーメチレーションの場合はメチル化を亢進させる働きがあるSAMeと場合によってはメチルビタミンB12を使います。

亜鉛が低い場合は亜鉛を、そして銅が高い場合は亜鉛と場合によっては銅と拮抗するモリブデンを使うのも良いでしょう。遊離銅が高い場合は、酸化ストレスが問題になるのでビタミンAと抗酸化物質を使います。

3-4. アンダーメチレーションタイプ

治療:SAMe もしくは メチオニン
・Cal/Mag
・mB12
・治療効果に1か月以上
・就寝前にイノシトール
・葉酸をさけること
治療のコツ
・完全に理解したうえで注文したい完璧主義者が多い
・考え方を受け入れられれば100%摂取する

アンダーメチレーションの人には、SAMeそのものを使うか、その前駆体のメチオニンというアミノ酸を使っていますが、メチオニンの場合はSAMeに変換するのにマグネシウムが沢山必要なので、一緒に摂る必要があります。欠かせないのがマグネシウムで、上にはCal/Magとありますが僕はマグネシウム単独で使っています。時にはメチルビタミンB12を使うといいですが、かえってイライラする人もいるので、腸内環境を治してから使った方が良いです。

タイプ別によって、症状が落ち着くのにかかる時間が違います。アンダーメチレーションの場合は1ヶ月以上、大体2、3ヶ月かかります。メチル化を亢進させるのが目的なので、メチル化を低下させる葉酸は避けた方が良いと思います。

3-5. オーバーメチレーションタイプ

診断:
血中ヒスタミン 40以下
血中Folate ↓ 好塩基球30以下
治療:
・葉酸塩 or フォリン酸なら少量
・B12
・ナイアシン/ビタミン C
・マンガン
・2,3週間悪化の時期を経て1か月後から改善
治療のコツ
あまり多くのサプリを摂りたくない人多い、最初に最大のサプリ個数を決めておく。マルチを使う、最低限必要なものを使う

オーバーメチレーションの場合はメチル化が亢進してるので、メチル化を低下させる葉酸を使います。ビタミンB12は使う時と使わない時がありますが、葉酸がうまく効かない場合はナイアシンを使います。ナイアシンは徐々に増やしていきますが、なかにはナイアシンで肝障害が起きる人がいるので、気をつけてください。

ナイアシンの厚生労働省の推奨量は30mgなので、3g使うならモニタリングしながら使った方が良いです。不安症の人はナイアシンを重宝しますが、諸刃の剣なのでモニターが必要です。ナイアシンフラッシュも起こるし、コレステロールが下がる人がいますから、コレステロールが元々低い人はナイアシンの使用は考えたほうがいいかもしれません。コレステロールはとても大事です。僕もナイアシンを毎日飲んでたらコレステロールがかなり下がりました。500mgだったら大丈夫ですが、1,000mgだと下がる人は下がります。

マンガンはアセチルコリンを活性化する働きがあります。アセチルコリンが活性化するということは、ドーパミンを抑えるということです。アセチルコリンとドーパミンというのは反対の働きをして成長障害が問題になるので、大人のみに使うようにします。オーバーメチレーションの人は、場合によっては2、3週間悪化して、その後1ヶ月後から改善することがありますので、1ヶ月未満の始めた時に不安を癒すフォローが必要です。

3-6. 銅過剰タイプ

治療:
銅入りのサプリメントを止める。
水道にフィルターを付ける
亜鉛
モリブデン & ビタミン E
銅の急降下を防ぐため少量からスタート
改善まで2ヵ月

銅過剰タイプの人は、当然ですが銅のサプリメントを使わないでください。アメリカには、銅とか鉄がフリーのサプリメント結構ありますが日本は普通に入っています。銅がいつまでたっても高い人は、水道にフィルターを付けた方がいいかもしれません。

治療には、亜鉛とモリブデンを使います。統計によると、亜鉛の量を倍にすると9ぐらい上がってきます。亜鉛は、普通食事から10mgくらい摂っています。サプリメントで20mgに増やしたら血中レベルが9上がり、40mgに増やしたらさらに9上がります。

血中濃度を100にするためには、逆算してどれくらいの量を摂るかを決めていったら良いと思います。亜鉛は最初から目的量を摂るのではなく、少量から始めた方が良いです。亜鉛とカドミウムと水銀は同族元素なので、カドミウムが体に蓄積されていた場合にカドミウムが一気に動いて腎障害を引き起こすことがあるため、亜鉛は少量から使うと良いでしょう。

3-7. ピロールタイプ

治療:
・Zinc
・B6 and P5P
・ピロール>40ならオメガ3を避ける
・抗酸化物質があるとよい(E,C,biotin)
・1週間程度で改善傾向がみられる
治療のコツ
・ストレスに応じて増量が必要な時がある
・ストレスの持続時間中、亜鉛を25-50mgとB6を100mgもしくは、P5Pを50mg毎日増量。
・ストレスが終わったら、元の投薬に戻す。

ピロールタイプの人は、亜鉛とB6不足なので、亜鉛を25mgから、そしてビタミンB6を100mg+P5Pを50mg使っていきます。様々な治療の中で一番治療反応性が早いのは、亜鉛やビタミンB6の治療です。ビタミンB6は水溶性物質なので、効果が出るのが早いです。ピロールタイプの人はストレスに弱いので、ストレスがある場合は量を増量して、ストレスが終わったら元の投薬に戻すと良いでしょう。

3-8. 遊離銅過剰の場合

セルロプラスミンを測っている方は、遊離銅を計算してみてください。

  • 自閉症の多くの症状は酸化ストレスと関連
  • 脳内酸化ストレス過剰が統合失調症の特徴
  • 抗酸化物質+ビタミンA(CPを増やす効果)
  • βカロテンでなくビタミンAを使う事
  • 高齢者では念のため血中濃度チェックを
  • 亜鉛ももちろん

遊離銅は酸化ストレスと関係していて、特に自閉症や統合失調症の場合は酸化ストレスの調整がとても重要です。セルロプラスミンを増やすために抗酸化物質とビタミンAを使ってください。ビタミンAはベータカロチンではない方が良いです。ベータカロチンはビタミンAの医療体ですが、体の中でうまくビタミンAに分かれてくれないと言われています。

ビタミンAをどれくらい使うかは人により違い、僕は3〜6万IUぐらい使いますが、高齢者の場合、念の為血中濃度をチェックした方がいいです。

3-9. 低ビタミンD

  • 正常範囲は 25-30 ng/mL以上だが、50-100ng/mL を目指す
  • 最低1000IUできれば2000IU以上
  • 半減期は2週間なので週1回まとめての摂取でもOK
  • (脂肪吸収がちゃんとできていれば) 投与開始後3ヶ月で再検査を

ビタミンDは、50ng/mLぐらいあった方がいいです。日焼けを毎日していれば、必ずしもサプリメントで摂る必要はないです。ただし必要な日焼け量には、毎日水着で歩くくらいの日照時間が必要となり難しいし、ビタミンDの産生能力は体質にもよります。血中濃度を上げるには、最低2,000IU以上摂るのが良いです。半減期は15日なので、週一回まとめての摂取でもOKと言われていますが、脂溶性ビタミンなので胆汁が出てるかどうか確認が必要です。コレステロールが低い人は難しいでしょう。

上記はビタミンDの血中レベルを上げると、どれだけの疾患が予防できるかという表です。

癌や1型糖尿病、多発性硬化症のような疾患は、ビタミンDの血中レベルと防御率が密接に関係しています。40〜50のビタミンDレベルあった方が良いと思います。多くの疾患はこれくらいのレベルにしておけば防ぐことができると書いてます。ドーパミンが少なめの人、下痢型の過敏性腸の症状がある人は特にビタミンDを投与した方がいいです。

3-10. 甲状腺機能低下

  • チラージン末(乾燥甲状腺末)は販売中止
  • ARMOUR THYROID 
  • チラージンとチロナミンを使い分ける。
  • チラージンと鉄、セレンを併用する
  • T3過剰は不安、動悸
  • 副腎疲労を治す

甲状腺が低下していたら昔はチラージン末を使っていましたが、震災で工場が閉鎖して、製造中止になってしまいました。このチラージン末は天然のブタの乾燥甲状腺で、T4とT3が自然な形で入っていたのですがもう販売していないので、ARMOUR THYROIDを使うか、もしくはT4とT3の製剤を使い分けるかで調整する場合があります。

僕はよくT4に加えて、鉄やセレンなどT4からT2に変換を促す栄養素も一緒に摂ってもらいます。甲状腺機能低下症は副腎疲労のベースの上に乗っかってくるので、一番大事なのは副腎疲労を治すことです。副腎疲労があったら、副腎疲労を最初に治してください。

3-11. 服用の際の注意

  • ほとんどの物は食後(亜鉛、B6は特に)
  • 甲状腺ホルモンやSAMeは食間に
  • 統合失調症、自閉症、躁うつ病では高用量が必要
  • コンプライアンス低下、成長期、ストレス過多、
  • 吸収不良、頭部外傷、薬物乱用、低血糖症では効果まで時間がかかる
  • UMではホモシステイン上昇に注意
  • (B6,B12,TMG,セリンで治療)
  • 高用量亜鉛による銅症状に注意
  • 亜鉛倍量で9ずつ上昇
  • バルプロ酸、ヒスチジン、サイアザイド利尿薬は
  • 亜鉛濃度を下げる

サプリメントの服用の際の注意点は、ほとんどの場合は食後で良いですが、甲状腺ホルモンやSAMeは食間の方が良いです。

うつ病とADHDと、統合失調症と自閉症はそもそもの根本が違います。うつ病と躁鬱病とは全く違う病態です。これらの疾患では高容量必要になることが多いです。

ホモシステインを事前に調べている方は、アンダーメチレーションではSAMeを使いますが、SAMeを使うと回路がぐるぐる回ってホモシステインが急激に上がり、動脈硬化のリスクになる場合があるので注意をしてください。ホモシステインが元々高い人は、最初にB6、B12を摂ると下がります。

4. 症例

4-1. 症例1 33歳女性、うつ、慢性疲労

症状
■朝起き上がれない
■首、肩、背中、腰のこり、痛み
■倦怠感が続く
■頭がぼんやりとする
■疲れて眠気がくるのに、寝付けない
■アレルギー(幼少より皮膚疾患。良くなったことが一度ない。
  花粉症は高校生の頃より)

■精神的に鬱気味

これらの症状による問診と血液検査などの検査結果の両方とも重要なので、現病歴をいかに詳しく聞くかが、メチレーション状態や生化学インバランスを診るコツです。

僕の場合は、問診票を使って洗い出していますが、それをもとにさらに聞き込みをします。自分からは言いたくないこともあり、聞かれれば答えるというセンシティブな患者さんは、トラウマや依存症のことなどを僕に話さず他のスタッフに話していたりします。聞きにくいことは、スタッフに聞いてもらっても良いと思います。

それをもとに問診をして先ほどの症状別の表を元に、これに当てはまるかとか、これはどうですかとかいうのを質問してください。

問診票

  • 表現が難しい症状もある
  • 症状の重症度の経過を追っていくとよいでしょう。
  • スタッフが問診できるようになってもらいましょう
  • 一緒に見て、項目を解説し、適切に項目を埋めるられるように手伝ってあげましょう
  • 症状表を読み込む
  • それぞれの症状のバランス感覚が大切。
  • 100%の特徴を満たす人はいない
  • 40%ならそれはすごく特徴を満たしている

症状には重要度がありそれらを全て聞くのは大変なので、確定的な症状を中心に聞いていくと良いと思います。アンダーメチレーションだったら完璧主義ですかとか、毎日靴下を同じ方から履かないと気が済まないですかとか。水道の元栓を何度も締めないと気が済まないかなど聞いてみてください。

大事なことはバランス感覚で、100%の特徴を満たす人はいません。どちらかに40%当てはまれば上々です。

これまでの対処
心療内科 使用の薬:リボトリール、レンドルミン
サプリメントビタミンCビタミンB系、ビオチン亜鉛ボスウェルケルセチンミヤリサン
ブルーベリーエキス 他
体調に変化の自覚症状があったのは、ビタミン系サプリ、亜鉛、整腸系
生活習慣
◇喫煙 30歳くらいの頃、あまりの体調の悪さに吸えなくなってしまい、以後1年以上禁煙状態となったが、その後仕事のストレスから喫煙再開。
◇飲酒 もともと好んでいたのにも加え、20代の頃は、仕事や生活のストレス、不眠等の解消の為、ほぼ毎日。休肝日はほぼ無い状態。28歳頃より体調の悪化に比例して、少しずつ飲めなくなり、一時禁酒状態になるも最近は体調が良い時には時々たしなむように。
◇幼少より甘いものが苦手だったが、喫煙をやめた後好む傾向になる。味の濃いものや塩味・タンパク質系は好物。糖質制限をすると調子がいい

これらのことを踏まえてさらに見ていきましょう。

これまではリボトリールやレンドルミンという睡眠薬や、色々なサプリメントを使って、自覚症状が変化あったのはビタミン系、亜鉛、整腸系でした。生活習慣では喫煙と飲酒がやめられないっという依存状態が見られます。

食の嗜好としては、塩味、たんぱく質系が好物とあり、塩味が好きなのは副腎疲労の可能性があります。糖質制限をすると調子が良いというのは要するにタンパク嗜好だということです。タンパクを摂ると調子が良いということは、メチオニンを摂るとSAMeがいっぱいできて、メチレーション回路が回るのかもしれません。

血液データも見てみましょう。

この人の場合は、白血球6,420で、好塩基球パーセンテージが1.1なので、好塩基球数の実数は70ぐらいです。ギリギリでアンダーメチレーションになります。血液データ的に色々問題はありますが、アレルギーや鬱があるのはアンダーメチレーション、寝付けないのは両方の働きがあります。不安が強いのは、オーバーメチレーションの症状でしょう。

リボトリールやレンドルミンなどの睡眠薬系が効くのはオーバーメチレーションの人の特徴なんですけども、必ずしもそうとは限りませんので注意してください。依存症体質はアンダーメチレーション、タンパク質好物もアンダーメチレーションです。この方にはアンダーメチレーションの治療をしました。

4-2. 低メチル化の特徴

  • 治療に抵抗性のあるうつ
  • 表向きは落ち着いているが、内心は神経質
  • 強迫神経症の傾向、もしくは強迫神経症
  • 学生時代は自発的であった
  • 完璧主義者
  • 学校やスポーツ、もしくは他の分野で競争心が強い
  • 内向的:孤立しがち
  • 権力者に対して反抗的
  • 柔軟性がない
  • ヘビースモーカー、ギャンブラー、その他の刺激性の強い物事への依存
  • ベンゾを長く使うほど、悪化する。メチル基を枯渇させるから。

アンダーメチレーションの人でも睡眠薬が効く人は効きます。ただ大事なことは、ベンゾジアゼピン系の抗不安薬や睡眠薬を長期間使ってる人はメチル基が枯渇しているので、アンダーメチレーションを助長してる場合があります。薬を漸減していくことが求められます。薬の離脱症状を最小限に抑えるには、高タンパク食が有効です。

4-3. 症例2 35歳女性

会社業務非常に多忙
朝9時から夜19時まで4年間激務⇒ストレスの調節がうまくいかない
その後、非常に疲れやすくなった。それが3年くらい続いている。
症状
■朝、起きることが出来ない。⇒ 朝弱く、夜に強い
■倦怠感が強い
■月に1回は疲れて寝込んでしまう。
■月経前症候群が強い
■便秘傾向
食事
朝はスムージーのみ、昼、夜の2食⇒朝は食事、サプリが飲めない
甘いもの、コーヒーが大好き 但し、食後に眠くなる

この方は、典型的な副腎疲労タイプのパターンです。

ヘモグロビンが11で、フェリチンが6.5しかないので貧血がひどいですが、他のデータを見てみるとGOTとGPTの差が離れていて、亜鉛とALPが低いですから、一見して亜鉛とB6不足です。メチレーションを表す数字は白血球の8,400と、0.7%かけると、好塩基球の実数は70くらいなのでメチレーションは正常だと思います。

4-4. ピロール障害の特徴

  • 極度な感情の起伏がある
  • 幼少時代から高い頻度で発生する恐怖感。
  • 短期記憶障害
  • 本が読めない
  • ストレスに弱い
  • ヒステリー
  • 夢を覚えていない
  • 朝の吐き気
  • 朝食をとらない
  • 宵っ張り

ストレスの調節が悪い、朝弱い、朝食を抜いてるというところはピロール障害の可能性大です。ご自分では言わないことがあるかもしれないので、夢を見るか、ストレスに弱いか、子どもの頃のことについてを問診で追加して聞いてください。

4-5. 症例3 40歳女性 気分の落ち込み、慢性疲労、妊娠希望

症状
■肺炎と副鼻腔炎を患い、以降疲労が抜けない。
■最近2ヶ月は特に顕著で頭痛と少しめまいがある。
■少し外出しても疲労を感じるようになった。
■気分の落ち込みあり。
■ 空腹時に動悸、めまいすることも2度あった。
■ 不妊治療のため、8ヶ月前から漢方医のもとさまざまな栄養補助食品は摂取している。
■ 少し改善したように思われたが、ここ最近疲労感が強くなった。
■フルタイム勤務で二人目不妊。

右上2本、右下2本、左下1本
アマルガムあり

この方の症状の原因は、重金属の影響です。結構アマルガムが入っているのにもかかわらず、水銀が振り切れるほど出ていないので、恐らく重金属の排泄障害があるのでしょう。身体の中にどこかに炎症を起こしていたり、腸内環境がうまくいってない場合、上咽頭炎がある場合は、炎症のせいでグルタチオンが枯渇していて水銀がうまく排出できなくなってしまいます。

4-6. 重金属タイプの特徴

  • イライラ、しばしば怒り
  • 学業成績と精神状態が比例
  • トリガーもなく突然発症
  • 人格の変化
  • 持続する腹痛(食事によらない)
  • 口腔内金属味
  • 息がくさい デトックス治療で軽快

重金属によるうつの症状は、突然の発症や、腹痛を伴う、口腔内に金属の管があるなどがありますが、治療的診断によればデトックス治療をしたら軽快するということが一番の特徴だと思います。

4-7. 症例4 39歳女性

  • 高校生からレクサプロ、ジアゼパム、トラムセット、マイスリーなど使用
  • ヒスタミン72 銅102 亜鉛102 CP23.2 KP20.78
  • ヒスタミン↑からUM しかし、ジアゼパムに依存性あり
  • UM+KPの処方にて徐々に良くなっていた。 しかしストレスにより最近増悪し、2㎎を1時間おきに使用しても収まらず、OMと考えるようになった。
  • 症状はUM,OMの両者の特徴をもっている
  • 不安とうつと自殺念慮があるが、二人の子供がいるため思いとどまっている様子
  • 彼女にはレクサプロとベンゾの両者が必要に思える。
  • 同様に彼女にはSAMeとナイアシンの両者を投与すべき?

ヒスタミン72はやや高く、銅102、亜鉛102、CPはセルロプラスミン23.2、KPとはクリプトピロールで20.78、ピロールが高いです。

アンダーメチレーション、ピロール、銅が102ですが、亜鉛は低くないですが、セルロプラスミンが23.2で少し低いです。この方の場合はアンダーメチレーションとピロールの処方をして徐々に良くなったそうですが、ストレスによって増悪してうまくいかないということでした。診断が間違ってオーバーメチレーションだったのではないかと考えるようになったそうです。

症状はアンダーメチレーション、オーバーメチレーション両者の特徴があります。オーバーメチレーションの特徴の自殺念慮があって、不安が強いです。二人の子どもがいるためになんとか自殺を思いとどまってる状態です。

アンダーとオーバーの両方があるから、SAMeとナイアシン両方入れた方がいいのではないか。その場合、葉酸をどうすればいいかという問題になります。ウォルシュリサーチ・インスティチュートの掲示板にあった症例ですが、両方あると確かに迷います。

一般にアンダーメチレーションの人はSAMeを使いますが、有機酸検査で葉酸不足と出る人もいます。ただ、アンダーメチレーションの人は、葉酸は摂ってはいけないので、この場合どうしたらいいのでしょうか。多くのアンダーメチレーション患者は葉酸欠乏ですが、うつ病症状にある場合は葉酸は避けるべきというのが、ウォルシュの答えです。

4-8. 葉酸どうすればいい?

患者がUMで、SAMeでうまく反応したが、有機酸検査では葉酸不足と出ている。葉酸を摂るべきでしょうか?

  • 多くのUM患者は葉酸欠乏。しかし うつ病、不安、強迫障害、運動障害が主な症状である場合、葉酸は避けるべき。
  • 多くの場合、メチルフォレートがメチル化を改善するが、全ての形態の葉酸は強力な脱アセチル化酵素阻害剤として働き、セロトニン神経伝達を低下させるため、悪化する。
  • その一方で、低セロトニンが病態に関係しないUM患者(自閉症患者など)は葉酸治療が奏功する。
  • 患者治療プログラムを考えるときにはメチレーションとエピジェネティクス両者を考慮する必要がある。

うつ病や不安など低セロトニンが病態に関係しないアンダーメチレーションの人は葉酸を摂るべきです。自閉症の人は低メチレーションなので、葉酸を摂ったほうがいいです。セロトニンが第一義に関係しないからです。セロトニンが第一義に関係するうつ病の場合は、葉酸を避けた方がいいということです。

シナプスにおけるメチレーションと、全身におけるメチレーションがあり、葉酸はメチレーション回路を回します。ですがシナプスにおいて葉酸を入れると、メチレーションを低下させます。そのためうつ病や低メチレーションの人には葉酸は使わない方が良いですが、自閉症の人の低メチレーションは使った方がいいです。

4-9. 症例5 61歳女性 ベンゾジアゼピンが手放せない

  • 20才の時からずっと心配性、不眠が続いている。
  • 治療方針について週に数回質問の電話がかかってくる。
  • 非常に神経質。
  • hsCRP 1.0
  • Glu 83、インスリン5.6、HOMA-IR 1.1
  • TSH 3.38 、fT4 1.3; fT3 2.6;
  • フェリチン28 Cp 18
  • Cu 69
  • Zn 74
  • FC%21.7
  • FCI 15 WNL Cu:Zn 0.93

甲状腺機能は潜在的に低下していて、低血糖気味です。

4-10. ウィルソン病

  • 常染色体劣性遺伝 胆汁中への銅排泄障害による
  • 先天性銅過剰症。
  • 血清セルロプラスミン低下(20mg/dL未満 )
  • カイザー・フライシャー角膜輪 
  • 精神神経症状 

この方は、遺伝的な銅の蓄積病であるウィルソン病です。角膜に、銅が溜まっていて、カイザー・フライシャー角膜輪ができる有名な病気で、精神症状も出ます。血中銅が下がってくるのが特徴的です。血中銅が低くてもほとんどはウィルソン病ではないですが、精神症状や肝硬変があり、血中銅が下がってたら、このような病気もたまに隠れています。

セルロプラスミンが低く、遊離の銅が低いのが特徴です。

4-11. 効果が出るまでの期間

SSRI       数時間〜         輸送体に結合し、
                      セロトニン活性を上げる
ビタミンB6 1週間〜          血中濃度上昇
亜鉛       2ヶ月以内         MT合成亢進
ナイアシン、  1,2ヶ月          輸送タンパクの遺伝子発現亢進
葉酸など
SAMe 3〜9ヶ月         輸送蛋白の遺伝子発言抑制、
                     タンパクの半減期に関わる

治療の効果が出るまでの期間は、薬に比べて時間がかかることが多いです。時間がかかるということを最初からお伝えしておくと良いです。治療にはモニタリングが必要ですから、亜鉛、銅、セルロプラスミンは3ヶ月後に測ってみたら良いと思います。2ヶ月で変わることは多いですが、亜鉛のレベルは誤差が出ます。朝と晩で測っても異なるし、尿欠してたら亜鉛が高く出ます。亜鉛は摂っている量が倍になると、9〜10くらい血中濃度が上がってくるのが一般的です。そこから大きく外れてたら再検査してみてください。

マーケティング戦略の用語でUnder-promise and over-deliverという言い回しがありますが、約束を控えめにして結果を大きくした方が喜ばれることが多いです。特に治療期間の場合は、1年かかりますと言って3ヶ月で治ったら喜ばれますが、逆だとひどい目に合うので注意してください。

特に自覚症状の改善度については、こちらが改善してると思っていても、患者さんが自分で良くなってることに気が付いてないということは、良くなっていないということなので難しいところです。

4-12. 薬との使い分け

  • 初期の数か月は併用が原則
  • 後に明確な症状改善が得られていれば、精神科医の元での慎重な減薬を相談
  • 減薬の目標は、向精神病薬の中止ではなく「最善の効果が得られ、副作用が少ない投与量を明確にすること」

自閉症、統合失調症、躁鬱病は減薬が難しい病態なので、完全に中止するのではなくて、副作用が少ない投与量まで減薬することを目標にしてください。

4-13. 副作用について

  • 亜鉛、B6は嘔気を起こすことがある(特に初期から大量に入れた場合)
  • 亜鉛が不安を起こす事がある(銅に影響するため)
  • 亜鉛は鉄の吸収を阻害する
  • UMにマンガン投与はパーキンソン症状悪化
  • B6十分な人にB6投与は悪夢
  • OMにメチオニンは不安、自殺企図
  • ピロール以外の治療は時間がかかる 治療初期に悪化する事がある

亜鉛を飲んで吐き気を感じる方は、朝食に摂らずにお昼や夕食後に摂ってください。また、亜鉛と鉄欠乏がある方は、鉄は亜鉛の吸収を阻害するので、鉄欠乏が重度出ない限り同時に摂らないほうが良いでしょう。

アンダーメチレーションの方でマンガン投与する人はあまりいないと思いますが、ドーパミンを抑えるため、パーキンソン症状が悪化することがあります。

B6も過剰摂取をすると悪夢が出ることがあるので、オーバーメチレーションの場合は、菜食主義にした方が良いです。アンダーメチレーションの人は、いっぱい肉を食べてメチオニンを作った方が良いでしょう。このようなことは、事前の説明が大事です。

4-14. 妊娠したらどうするか

SAMe
・依存している場合、出産までは50%減量。200mg以上を服用しない。
そうでない場合、最初の4ヶ月間は中止が推奨
・SAMeが優先的に胎児に行き、潜在的に問題を引き起こす可能性
・赤ちゃんが子宮内の非メチル化環境で発達することは理想的ではない
葉酸 ・毎日800μg以上(特に妊娠第2期まで、二分脊椎、自閉症の予防)
亜鉛 ・ 投与量の半分に減量。
・胎児の血管新生に対する銅の重要な効果を損なう可能性。
・亜鉛レベルが低すぎると胎児の成長が損なわれるので適量は必要
ビタミンB6 ・投与量を半分にする。水溶性ビタミンであるため、速やかに変化。

妊娠した場合、SAMeは出産まで50%減量してください。そうでない場合は、子宮の中のメチル化に影響しないためにも最初の4ヶ月間は中止が推奨されてます。妊娠後期なら非常に安全だといわれているため、産後うつの人にSAMe使う場合がありますが、統合医療の情報発信を見ると、安全性が確立されていないとあるため、慎重に扱われた方が良いと思います。

葉酸を摂ることに異議はないですし、亜鉛も胎児の成長に絶対必要ですが、多すぎると血管新生に役立つ銅が少なくなりすぎるので、投与量の半分に減量するのが推奨されてます。

この治療は根本治療ではありません。亜鉛やビタミンB6、SAMeもサプリをやめたら元に戻るので、そこが一番の問題点です。遺伝的な性質を改善する方法ではないということ、コストを常に考えないと続けられません。そのため症状が安定したらより経済的な方法を探っていく必要があります。

5. うつ以外への疾患への対応

5-1. ADHDの治療

不注意が主症状の場合
半数以上に葉酸、B12,亜鉛、コリンの欠乏が見られる。
これらサプリメンテ―ションで集中力改善が期待できる。
衝動性、多動が主症状の場合
銅亜鉛バランスが大きく崩れていることが多く、これがノルエピネフリン、
アドレナリン過剰症状をもたらす。
両者を合併している場合
さらにメチレーション異常、重金属負荷、ピロール異常などが背景に
あることも多く、検査による正確な診断が必要。

ADHDは、注意欠陥不安障害です。不注意が症状の場合と、多動が症状の場合でサプリメントの使い分けをしたらいいというのがウォルシュ博士の見解です。基本的にはメチレーションや、銅亜鉛バランスを見てください。

ADHDで注意することはタイプ別で治療が違うことです。ADHDの患者さんは不注意になったり過集中になったりしますが、これは注意が欠陥しているのではなくて、注意の調節力が欠陥しています。薬で対処できることとできないことがあるので、この注意力を調整するためには個別化医療による栄養素の投与が良いと思います。

行動障害が合併することがあるので、銅・亜鉛バランスがとても大事です。暴力行為は、銅・亜鉛バランスが狂っている人が多いです。その辺りについて、ウォルシュ博士の本にとても詳しく書いてありますのでぜひ買って読んでみてください。

半年以上の栄養療法で薬を中止できてる人は70%いるので、うつとADHDはどちらかというと軽症です。

5-2. 強迫神経症

比較的軽症な強迫神経症という病気があって、ほとんどの場合が低メチレーションです。このような方には、メチル化の治療をしたら良いと思います。グルタミン酸の障害もあるので、Nアセチルシステインがいいという報告もあります。

  • 重症は殆ど低メチレーション、MTHFRに変異あり
  •  さらに、メチル葉酸にて症状悪化
  • ドーパミン受容体活性の低下が報告されている。
  • SAMeやメチオニンで効果が見られることが多いが事前に
  •  ホモシステインを評価する。心血管リスクがある例では
  •  事前にB6などでホモシステインを下げておく。
  • もう一つはNMDA受容体のSNPによるグルタミン酸
  •  トランスポーター障害。これの正常化にNACがよい。

5-3. 脳に非可逆性変化が生じている栄養療法だけでは×な疾患

可塑性が関係する
•依存症
•過食症
酸化ストレスによるメチル化の恒久的変異(GSH,MTの枯渇)
•自閉症 3歳
•ウィルソン病 15歳
•統合失調症  20歳 双極性障害  25歳

栄養療法だけでうまくいかないのは、脳に非可逆性変化が生じている、例えば依存症や過食症など脳の可塑性が関係している場合です。もしくは、酸化ストレスで脳のメチル化のブックマークが変わってしまっている場合も難しいです。

酸化ストレスが強くなっている人は、グルタチオンやメタロチオネインが完全に枯渇しています。これらの疾患の特徴は、突然の発症で永続的な症状の継続です。普通、急性発症は急性の病気だから治るはずですが、急性に発症したのになかなか治らないのはこれが起きているからです。

自閉症3歳、ウィルソン病15歳、統合失調症20歳、双極性障害25歳など、病態は似ていますが、好発年齢が違います。これらの疾患には、栄養療法プラスαを行っていかなければなりません。

5-4. 統合失調症の治療

統合失調症の治療も同様で、メチレーションに応じて上記のような対処をしていきますが、抗酸化対策も重要です。本来、遺伝形式があると分かった時点での予防が大事です。

5-5. 自閉症

  • エピジェネティクス障害により、異常な低メチル化、酸化過剰、重金属への脆弱性をもつ
  • つまり「低メチル化の人が圧倒的な酸化ストレスを引き起こす
  • 環境障害を経験する事で発症
  • 予防の重要性(遺伝要因)
  • 妊娠20~24日目が重要(サリドマイド児)
  • 活性化葉酸、抗酸化対策
  • 脳の成長時期に不可逆性変化
    →治療の早期介入が重要

自閉症の特徴は、エピジェネティクス障害です。ほとんどの人が低メチレーション、酸化過剰で、重金属への脆弱性を持ってます。いろんな論文を重ね合わせると、低メチルの人が酸化ストレスを引き起こし、環境障害を経験することで発症します。予防が何より大切です。

サリドマイドという免疫抑制剤を使った場合、サリドマイドを妊娠20日〜24日に飲んでた人のみ発症しました。計画的に妊娠をして、遺伝子変異がある場合活性化葉酸を摂っておくことです。

自閉症は他の病気に比べて、発症時期が早いです。脳は4歳までに8割できてしまうので、4歳までの成長時期には不可逆性変化が起こることがとても大事です。そのため、早めに発見して対策をすることが望まれます。1歳と6歳で治療するのとでは、治療期間は3倍〜5倍違います。

統合失調や躁鬱は、なかなかうまくいかないことが多いので、栄養療法以外のことも重ね合わせないと難しいです。

5-6. 栄養療法の限界

  • この治療は、栄養素を使って 神経伝達物質の代謝を促す。
  • メチレーションを調節してシナプス間隙の神経伝達物質量を調整する。
  • 神経細胞、シナプスの物理的変性には効果がない。
  • 海馬、偏桃体の萎縮
  • シナプスの可塑性による変異

栄養療法は、栄養素を使って神経伝達物質代謝を促すものなので、神経細胞やシナプスが物理的に変性してしまっている場合はうまくいきません。

5-7. 自律神経と体性神経

上記は自律神経と体性神経の図ですが、この二つの神経は別々のもので、交わることはありません。自分の意思で汗をかいたり、脈拍を早くしたり、鳥肌を立たせることができないでのは自律神経と体性神経が別々だからです。

でも、時には短路が生じることがあって、例えばびっくりして心臓が止まりそうになるとか、怖い話を聞いたら鳥肌が立つとか、ストレスで胃が痛くなるとか、それは交わりが起こることです。これが毎日びっくりしたり、毎日ストレスで胃が痛くなっているとだんだんこの神経が太くなってきます。

持続的に興奮するシナプスは、より容易に伝達が起こるようにどんどん変化していきます。これをシナプスの可塑性といいます。

解剖学的に、シナプスに達する軸索が枝分かれして、より広い面積でニュートン細胞体と向き合うようになります。

この結果シナプスの有効面積が増大し、より大量の伝達物質がシナプスで放出されるようになるのです。

これと同じことが、依存症にも起きます。依存症というのは、報酬系が過剰活性化された状態です。ドーパミンは嬉しいことがあると分泌されますが、嬉しいことを想像しただけでも分泌されます。

この報酬系の刺激は、常に刺激すると徐々に少しの刺激でも活性化されやすくなります。コカイン中毒の人はコカインを見ただけで興奮します。コカインやアルコールを辞める治療はありますが、単に罰則を厳しくしたり、グループの皆で話し合って終わりなど医学的に基づいていません。

報酬系が活性化されている状態を止めないと医学的には治らないです。それが活性化していくと、ついには潜在的な意識の働きかけでも同様の行動を刺激するようになります。例えば、コカイン中毒の人っていうのは一回辞めても、サブリミナルでテレビ見てるうちに0.01秒のコカインの画像を入れたらそれで反応して、またコカインをやりたくなります。潜在意識まで落ちてしまうとそういうことになります。

5-8. マインドフルネス瞑想法

  • ストレスをコントロールできる
  • 痛みをコントロールできる
  • 集中力を高める
  • ネガティブ思考からポジティブ思考へ
  • 心と体をリラックスさせる

マインドフルネス瞑想法の実践

瞑想は、シナプスの可塑性を逆に戻す試みで、色々な文献を見るとマインドフルネスの実践を勧めています。“今”という瞬間に意識を集中するという方法で、仏教の瞑想法がベースになっています。

ドーパミンは興奮系神経ですが、それとは別に抑制系の神経があります。人間の場合、脳を抑制させてるのは前頭葉です。前頭葉で統合して、抑制させる抑制系の神経が弱っている人が依存症になってしまいます。

5-9. 不可逆性変化を伴う疾患への対策

  • 自閉症、統合失調症、双極性障害  
  • 家族歴があれば、予防的処置。
  • 特に酸化ストレスを抑制する。
  • 自閉症は24~29週の妊娠期間が重要
  • 脳神経再生治療(経頭蓋磁気治療、Edelfo)

経頭蓋磁気治療とは、うつ病の患者さんにも用いられている神経を刺激して抑制されている神経を元に戻す治療です。コカイン中毒の人の7割が改善しています。

Edelfoは、脳由来の神経栄養因子をサプリメントで投与して脳を戻す方法です。これらはコストがかかりますが、脳神経を戻すという意味では根本治療につながる可能性があります。自閉症、統合失調症、双極性障害にはこういった治療も混ぜることが必要かもしれません。

5-10. 双極性障害のメカニズムを解明

  • 2018年5月8日、米国精神医学会での発表
  • エピジェネティックな傷害が多数のイオンチャネル遺伝子の発現を突然、かつ永続的に変化させる。
  • ニューロンの外側にカリウムイオンが過剰に蓄積し、膜電位を形成できなくなるため、局所の脳機能が低下しうつ症状が出る。
  • 障害部位はゆっくりと回復し、細胞膜の外側のカリウムが除去されるにつれ躁病が戻る
  • この発見は同疾患の画期的な治療につながる可能性がある。

上記は双極性障害のメカニズムは解明されたというウォルシュリサーチの最新の発表です。躁鬱病は、アンダーメチレーションとオーバーメチレーションが入れ替わるという不思議性があります。今までの治療は、躁のときは躁用、鬱の時は鬱の薬でした。躁鬱病とは、カリウムイオンが細胞の膜の外から中に入れない状況らしく、細胞が働かなくなるので鬱になり、カリウムが長年かけて入ってくるようになると、元々の躁が顔を出すという病態だということが解明されたので、恐らく新しい治療に繋がっていくのではないかと思います。

5-11. 穏やかに、忍耐強く!

薬、栄養素、磁気治療、マインドフルネス、神経再生、様々な治療を使い分けて最善の状態を目指しましょう。

患者さんがあなたに会いに来た理由を理解しましょう。

そのためには治したいリストを書いてもらうといいと思います。旅行に行けるようになりたいとか、そういうのを僕は書いてもらっています。

今回は触れませんでしたが、腸内環境と重金属の影響もとても大事ですので、この2つは常に考えるようにしてください。

栄養療法外来の流れ 初診時

宮澤賢史 · 2021年6月1日 ·

最近「栄養外来を見学させてください」とか「実際にどのようにして診察を行っているのか知りたい」とおっしゃる先生が多いので、今回は、僕が宮澤医院の栄養療法外来で行っている流れについてご紹介します。

1 問診の流れ

1-1 自己紹介

最近紹介でいらっしゃる方が多くなりましたが、私のことを知らない患者さんには、私のバックグラウンドと治療方針をお話しています。消化器内科医として大学病院に勤務した後、サプリメントのクリニックに転職して、栄養療法を始めて15年になります、根本原因を探してサプリを減らす治療をしています、といった事をまずお話します。

1-2 ご紹介者について

次にどなたのご紹介かをお聞きしていてます。紹介者がわかると、今までどんな治療を受けていたか大体分かります。紹介でない方にも、今までどういうクリニックに通っていたかを必ず聞きます。栄養療法の治療歴と一般診療の受診歴共に重要で、ごく一般的な病気の原因を否定してあるかどうかは必ず確認します。副腎疲労かと思っていたら下垂体腫瘍だった、なんて笑えない話です。

1-3 栄養療法と保険診療の違いについて

ネット経由の患者さんは栄養療法のことをよく知っている事が多いですが、保険診療の患者さんに対しては栄養療法と保険診療の違いについて説明をします。一般診療は症状にアプローチし、栄養療法は原因にアプローチするということを中心にお話します。どちらも重要ですが、保険診療と栄養療法の違いについてをお伝えしています。

1-4 ラポール(信頼)の形成

問診票を見ながらさらに深く話を掘り下げていきます。ラポール(信頼)の形成と問診が同時進行となり、自動的に信頼関係の構築になるんです。信頼関係をつくる目的は、患者さんと友達になることではありません。患者さんには治療方針に従ってもらわなくてはいけないため、少し上の立場でいる必要があります。

1-5 知識=お金と心得る

プロにお金を払う場合、相手の知識にお金を払うということなので、その人よりも数段レベルが上なのが当然だし、それをわかって頂く必要もあります。知識が対価となるので、5分に1回専門用語を使います。1分に1回だと多過ぎます。「あなたはHPA軸がうまく機能してていないです。つまりそれは、脳と副腎がうまく連絡をとれていないことを意味します」というふうにお話をします。「唾液中コルチゾールが低下しています。副腎から出るストレスを打ち消してくれるホルモンです。これが低いから疲れやすいんです。」など専門用語を言ったあとに要約をつけるなど、専門用語と簡単な用語を混ぜて使うのがコツです。

1-6 言えないことを言ってもらう

受診までにネット上の問診票を全部埋めてから来てもらうようにしています。問診票は7つの根本原因のどこに原因があるかということを分かるように作り込んでいます。そこにチェックを入れてもらいますが、患者さんは本当に重要なことは問診票に書かないことが多いです。なぜならまだ信頼関係がないからです。信頼関係を構築するために、問診をうまくやる必要があります。人には言えないことを最終的に話してもらうのが問診の目的です。

ものすごく女性にモテる男の人がいて、どうしてそんなにモテるんですかと聞いたら、「信頼関係」だそうです。信頼関係とは何かを聞くと、それは他の人には言えないことを話してもらうことだと言うんです。人に話さないことを話してもらえるような関係になれば治療もうまくいきます。

2 問診から根本原因を探る方法

問診が一通り終わったら、次にすることは、問診事項を根本原因に転換することです。問診の中で、これは!と思う事項を絞り込むことから始めます。

2-1 根本原因ピラミッドを理解する

問診で一番重要なことは、根本原因が何かというのを見定めることですが、根本原因ピラミッドの一番下には、腸・炎症があります。その上にデトックスがあって、脳機能がくるのですが、低血糖の海が一番下の層となります。栄養療法的や機能生理学的な問題だと、病気の根本原因は、ストレス、食事、生活習慣のどれかなので、そのあたりを問診で確認します。

2-2 経過について聞く

その症状が急に発症したのか、それとも慢性的に出てきたのかと聞くことはとても重要です。慢性疲労、副腎疲労の場合は積み重なって症状が出てくるのに対して、慢性症候群は、風邪やストレスなどのトリガー(引き金)があって急にガクンと発症し、それを引き金に症状が続いてるというパターンが多々あります。

2-3 発症時に何が起きたのか聞く

発症時にどんな出来事があったのか、どういう状況だったのかを確認することはすごく重要なことです。ただしそれらは問診票には書いてもらえないことがほとんどです。ちょうど離婚したときだったとか、本当のお父さんとお母さんの子ではないと分かった日ですなどと問診票に書く人はいないです。つまりそういうことを掘り起こすための問診なのです。最初は聞けなくても、信頼関係を築くとだんだん判明していきます。

そこが分からないといくら治療をしてもうまくいきません。ストレスが今も継続しているのか、それとも過去の出来事なのかが大きな要素です。ストレスの継続は副腎疲労の回復を遅らせ、それによって起きる低血糖を始めとするホルモンのアンバランスが腸内細菌バランスを乱していたりします。アドレナリンが多い人は腸内細菌に悪玉菌が多いので、炎症が起きて解毒がだんだんできなくなり、肝臓がやられてくるというお決まりの流れとなります。

根本原因ピラミッドのより下層部のほうが原因になっているため下から治療する必要がありますが、低血糖のさらに下には、生活習慣、食事、ストレスがあります。もちろん便秘気味、下痢気味などの腸内環境については問診票に大体書いてありますので、その源流を問診の時に探ってください。

2-4 感情が行動を決める

人は感情で動く動物です、どういうときに検査をするとか、サプリメントを買うかというと、感情が動いたときです。マーケティングの本に書いてある通り、感情的に物を買って、これは自分に必要だったと後から論理をくっつけるものです。だから感情的にこの人からは買いたくないと思ったら話だけ聞いて、検査は他のところで受けてしまいます。こうなると大体うまくいきません。このような方は長く継続して受診されない傾向にあります。全てを委ねられて信頼されることが必要なのです。

問診の際には、患者さんの話が8割、自分が話すのが2割くらいがちょうど良いです。相手の話を聞いて、それで最後にまとめをします。最後にこれで大丈夫ですか、と確認すると、言い忘れたことがあるんですけど… となります。この言い忘れたという内容に、エッセンスがつまっていることが多いです。

2-5 主訴を3つにしぼり根本原因とつなげる

次にすることは、主訴を整理してしぼるということです。10個くらい主訴をおっしゃる方もいますが、一番辛いことを3つに絞ってもらいます。全てを一度に治療しようとすると治療がバラけるし、解決に繋がるのが難しくなります。10個全部の整合性が見えればそれでもいいですが、最初は上位3つ、一番辛いことはなんですか、と絞った方が良いと思います。

そして次には、それらを根本原因につなげるということをします。患者さんは色々な主訴を言います。大体ネットでも色々調べていますが、それは点と点でつながっていないことがほとんどです。その点と点を線につなげてあげるのがプロの仕事です。

3  症例1 47歳女性 PMS、のぼせ

というわけで、症状から根本原因への転換を実際にやってみましょう。まずは「疲れやすい・PMS・気分障害・のぼせ」を主訴とする47歳女性の方です。症状的にはエストロゲン過剰です。女性ホルモンには、エストロゲンとプロゲステロンという拮抗する二つのホルモンがありますが、47歳といった前更年期では、エストロゲンが過剰になりやすいんです。こういう人にはどのような根源が隠れているのでしょうか。

3-1 環境ホルモンの暴露

アメリカ産の牛肉とか牛乳にも成長ホルモンも沢山入っているし、環境汚染物質・アルミニウム・水銀・環境ホルモンなどが人工のエストロゲンです。その結果、プロゲステロンに対してエストロゲンが過剰になるので、色々な症状が出現するというわけです。対処法は暴露を避ける事ですね。牛乳、乳製品を避けることから始めます。

3-2 副腎疲労

コルチゾール・スティールも原因となります。コルチゾール・スティールというのは副腎疲労でコルチゾールが減ってしまうために、原料のコレステロールが女性ホルモンではなく全部コルチゾールに回ってしまうことを言います。そのため副腎疲労は女性ホルモンの問題につながります。

甲状腺や性ホルモンの問題は、副腎の問題を解決しないと根本的に解決しません。副腎疲労を放置したままで甲状腺ホルモンを足したり、女性ホルモンの補充療法をされている方がいますが、副腎疲労の原因が放置されているので、甲状腺ホルモンの治療も増えていく傾向にあります。このふたつのホルモンアプローチは、副腎疲労のアプローチとともに行うべきです。

3-3 肝臓の解毒不足

3番目の問題は、肝臓です。エストロゲンの代謝は肝臓で行われているため、エストロゲン過多、 PMS 、子宮内膜症、乳がんのようにエストロゲンが原因と言われる疾患に対して、栄養療法で一番最初にアプローチするべきは肝臓です。肝臓にアプローチをして解毒を促し、エストロゲンの代謝を亢進させるというのが非常に重要なアプローチとなります。COMTという酵素がエストロゲンを代謝しますが、補酵素としてビタミンB6が必要です。アドレナリンと代謝が拮抗するため、女性ホルモンがアンバランスになったときにはイライラしたり、PMSになったりします。

3-4 腸内細菌

最後に、腸の問題です。腸内環境とホルモンは切っても切れない関係です。例えばメラトニンとセロトニンは90%腸でつくられます。腸内環境を改善することなしに、睡眠の問題は改善できないです。アドレナリンもノルアドレナリンも腸内環境と密接につながっています。だから腸内環境をきちんと治さないと、ホルモンの問題も改善しないのです。

根本ピラミッド的には、ホルモンは3階層目です。腸を完全に治すことがホルモンを治すことになります。エストロゲンについても同様で、腸内細菌はエストロゲンを産生しています。エストロゲンは卵巣だけでなく、副腎でもつくられます。エストロゲンにはエストロン(E1)、エストリオール(E2)、エストラジオール(E3)と三種類あります。3つのエストロゲンがうまい具合に拮抗して、エストロゲン活性が強くならないように調整してるわけです。腸内細菌が少なくなるとエストロゲン活性が強くなります。

症例1のような患者さんが来たら、女性ホルモンの根本原因は、環境ホルモンへの暴露なのか、副腎を含めたホルモンバランスなのか、肝臓機能が低下している解毒の問題なのか、それとも腸内環境が悪化しているからなのか、この4つが根本原因になりうるから、この4つの状態がわかる検査をしませんか。と私なら提案します。主訴をまとめて、根本原因に転換していくのを初診時に行っていくわけです。もちろん原因は他にもいろいろあり、この4つだけではないですが、このような形で進めていけばいいと思います。

4  症例2 32歳男性 慢性疲労

次は「疲れやすい、痩せられない」を主訴とする32歳の男性です。この方の主訴は、どのような根本原因でに転換できるでしょうか?想像力次第で色々な考え方があると思いますが、自分なりの意見を見つけることが重要だと思います。

4-1 インスリン抵抗性

インスリン抵抗性を改善しないとダイエットは結局成功しません。長期間になればなるほど、食欲を抑制するのが難しくなるからです。長期間のダイエットを成功させるには、根性とかに頼らなくても良い方法を見つける必要があります。

4-2 消化不良

ダイエットに必要なエネルギーの元となるタンパク質とミネラルは、簡単に消化不良を引き起こします。マグネシウムはエネルギーミネラルなので、不足すると痩せられないですし、亜鉛不足は過食症を引き起こします。

4-3 解毒の問題

解毒の問題もあります。水銀やヒ素の蓄積はミトコンドリアを邪魔してエネルギーの消費を抑えてしまいます。また、金属の蓄積を排除しようとして生理的な浮腫が出ますが、その浮腫を肥満をとして主訴として訴える人もいます。

食事制限や糖質制限をしても痩せられないのは、もしかしたらこの辺りに原因があるかもしれません。このようにいくつか仮説を立てて検査を提案します。

5 根本原因を探すことに意味がある

現在、クリニック向けに患者の血液検査の結果の代行をしてくれるところがあるそうです。血液検査のレポートを作って、不足しているサプリを記載して送ってくれるそうです。それを参照しながら患者に説明すればとりあえずサプリは処方できてしまいますが、本質から考えると無意味でです。

患者の主訴を聞いて、根本原因にアプローチすることに一番の栄養療法のポイントがあるので、そこを外注してしまうと信頼関係も形成できず、足りない栄養だけ補充してもうまくいきません。

根本には必ず何かしら原因があるので、そこにアプローチするためには年単位の治療が必要です。つまり年単位で通い続けてもらわないといけないということなので、そこの信頼関係が築けないとうまくはいきません。この点は、私自身も大変苦労している部分ではあります。

すぐに信頼関係が構築できなくても、2回目、3回目の問診の際でも良いと思います。患者さんは最初から心を開いてくれないし、ブレインフォッグが辛くてそれどころじゃないという人もいます。その場合は、根本原因ピラミッドをただ順番に上がっていけば大丈夫です。

例えばグルテンフリーなどを提案してみて、患者さんのデトックスが進み、腸内環境が改善すると、リーキーガットが閉じて肝臓への負担が少なくなります。肝臓が解毒ができなくなる一番の要因はリーキーガット症候群です。腸と肝臓は門脈で直結しているので、腸の毒物は全部肝臓に行きます。そのため腸の炎症を抑えると肝臓が生き返ってきます。肝臓が生き返ってきて解毒が進むとだんだん脳が冴えてきます。脳が冴えてくると、何をすればいいか判ってくるという患者さんも少なくないです。だからそういう状態になってからあらためて同じ話をしてもいいと思います。そうするとより分かり合えるようになってきます。心理的・精神的なアプローチと、栄養的なアプローチの両面で攻めていく必要があり片方だけでは不十分です。

基本的にサプリメントは効率化の道具で、栄養が濃縮されて入っているものなので、不自然といえば不自然なものです。栄養療法の初期で、このピラミッドを上がるスピードをつけるためのブースター的な役割をするのがサプリメントなんです。だからそのブースターが効いて段々根本ピラミッドを上がってきたら、それに伴ってサプリメントは減らせるはずなのです。

栄養療法の説明をする時に必ず患者さんから質問されるのは、いつまでサプリメントを飲み続けなければいけないかということです。自費診療なのでそのあたりは明確に説明しないと信頼関係がうまく築けません。

腸内環境の改善には平均で2ヶ月から半年かかりますが、その結果は検査の結果によるということを初診のときに説明しています。腸の炎症が強くて悪性菌が多かったら回復に時間がかかることが多いです。悪性菌があったり特にカンジタが過剰増殖してる場合は、カンジタを除菌しないとリーキーガットは完全に閉じません。その場合、腸の炎症を止めて、カンジタを除菌するのに少なくとも4ヶ月はかかります。悪性菌があまりなければ1、2ヶ月ですみます。その見極めをするのに検査がどうしても必要で、検査の結果によって治療方針が違ってきます。その治療方針を決めるのにどうしても検査が必要だということをご説明します。

栄養外来に必要なコミュニケーション

宮澤賢史 · 2021年5月9日 ·

あなたは何のために栄養療法を学んでいますか?仕事に役立たせるためでしょうか?それともご自分と家族の健康のためでしょうか?もしくはその両方でしょうか?そんな方のために、今日は栄養療法外来で必要なコミュニケーションについてお話ししようと思います。栄養外来の成否は知識ではなく、コミュニケーション能力にかかっています。

1 まずは自分の健康を考える

栄養療法のプロになるという上で一番大事なことは、まず自分自身が健康になるということです。

一般医療の場合で抗がん剤を自分で試したことのあるガンの専門医や、向精神薬を全部飲んだことのある精神科の先生はあまりいないと思います。それに比べて栄養療法の医療というのは根本原因にアプローチするため、治療方法と健康増進の方法が一緒です。アプローチすればするほど病気は治り、健康の度合い(オプティマルヘルス)も上がっていきます。自分が健康でないと次のステップに行けないので、まず自分自身が健康になることが最重要課題で、全部自分で試してみるということがまず第一なんです。

医療関係者は貢献が求められがちなので、患者さんに貢献するために自分の健康を害している人が多数いらっしゃいます。徹夜で当直をして患者さんを救うことにより、多大なストレスがかかります。栄養療法は結果が出るのに時間がかかります。副腎疲労を完治するのに2年かかる人が多いです。生活習慣や食事を変えて、体が変わって、それに伴い意識が変わって、ストレスや食事、生活習慣が変わらないと駄目なんだと気がついて、そこから最短でも2年くらいかかります。

2年かけて人を治す間に自分が健康を害してしまったら話にならないので、自分の体をまず治して、長く続けられることをまず第一番に考えてください。

2 プロとしてやっていくのに必要な3つの知識

栄養療法の知識も得て、プロとして始める際必要な知識は下記の3つです。

  1. 栄養療法のスキル
  2. 経営のスキル
  3. コミュニケーション能力

2.の経営のスキルについてですが、最初はともかくそれで身を立てるということは、人からお金をもらうことなので副業で続けていても上手くいかないことが多いです。成功している人とそうでない人の違いは、本業か副業かということです。本業にしても数年かかるかもしれませんし、副業から本業に変えるタイミングが難しいですが覚悟を決めて腰を据えるしかないと思います。

そして一番大事なのが、3.のコミュニケーション能力です。普段の生活に於いては、コミュ障でもADHDでも問題はないですが、この職業の根本的なコミュニケーション能力というのは、患者さんの話をきちんと聞けるか、そして治療の需要性を患者さんに説明できるかということです。

3 コミュニケーション能力が売り上げを決める

私の最初のキャリアは、医者として保険診療という国に守られた診療で始まりました。保険診療と自費診療は少し事情が違っていて、栄養療法をするということは自費診療になるので、国の決まった治療ではない自分独自のサービスを提供するということになります。

保険診療とは定められた国の提供する医療の代理店みたいなものなので、国から約7割のお金が支払われます。それに比べ自費診療は全て自分で決めるため、例えるならば一戸建てを自分で買って、全部自分で内装を決めるという感じです。保険診療の中で栄養療法をすることももちろんできますが、賃貸物件の内装を一部変えてリフォームすることはできても、中にアイランドキッチンを作るなど内装を思い切って変えることはNGです。保険診療の中の栄養療法と、自費診療でやる栄養療法は違ってきます。全部自分で組み立てたいのなら、自費診療がいいです。自費診療とは、普通のセールスやオファーのように提供・提案することです。

栄養療法(オーソモラキュラーの三原則)は、次の3つです。

  • 個体差をみること
  • 生化学的なエビデンス(裏付け)をとること
  • 根本原因にアプローチすること

栄養療法の提供とは、検査をオファーし、その検査の結果から患者の根本原因を見つけ、その根本原因に合った食事を提案したり、サプリメントを販売することです。そのためセールスの技術は必要で、それは一般的には「教育」と言われたり、「コミュニケーション」と言われたりします。

クリニックとしての栄養療法の売上が悪いのは、患者さんが検査やサプリメントの重要性をきちんと理解できていないというのと全く同じです。栄養療法の知識がどれだけあっても、コミュニケーション能力が低いとそのことが患者さんにうまく伝わらないので、結果として売上が落ちて患者さんが来なくなって、口コミがなくなって、うまくいかなくなります。そのため、コミュニケーション能力はとても重要です。

4 コミュニケーションとは具体的に何か?

コミュニケーションとは、具体的に次の3つのことだと考えてください。

  1. 問診
  2. 教育
  3. コーチング

1.の問診とは患者さんの話を聞くことで、2.の教育とは患者さんに話をすることです。栄養療法はサプリメントを処方して終わりではなく、患者さん自身がやらなければいけないことが9割以上です。そのためコーチングというのは、ゴールの目標設定をしてそのゴールをよく見させて馬を走らせてあげることです。例えばグルテンフリーにしたら、どんなメリットがあるのかということを最初にきちんと説明すれば、毎日電話しなくても患者自身が努力してくれます。

ゴールというのは情報の塊なので、きちんとした情報・知識を教育をすれば、それ以上何も言わなくても勝手に行動してくれます。それが成功につながるので、そう言った意味でもコミュニケーション能力は非常に大切です。

5 どういう栄養外来にするか決めておく

栄養療法の知識だけでは不足だと思い、先日ドクター向けの栄養療法外来の養成支援講座を立ち上げましたが、これから始められる方向けに、問診に関しても最初に決めておいた方が良いことをいくつかお伝えします。

それは、まず「どういう栄養療法外来にするか」です。具体的には、お金と患者さんと時間の配分を決めるということです。栄養療法に100%の人生を賭けられる人がいたらそれでも良いですが、患者さんの難易度が上がると得られるお金が減って自分の時間も減ります。患者さんの難易度が下がると、経営的に上手くいって自分の時間も増えます。だからここをまずは具体的に、50%・50%にするのか、30%・70%にするのかを決めたほうが良いです。

栄養療法をされる先生方は保険診療と併用だと思うので、保険診療と自費診療との割合を決めなければなりません。どういう患者さんを診てどこまでは受けないのか、アレルギー、自閉症のお子さんはどこまで診るのか、検査はどこまでするのか、サプリメントの在庫はどこまで抱えるかなどです。自分が熱意を持って取り組める分野があれば色々なものを割いて用意したら良いですが、患者さんのニーズは多様なので自分ができる範囲とできない範囲の線引きをきちんとしておきましょう。

次に診察費用を決めましょう。自費診療外来にどのくらい患者さんが来るかは、開業する前までに流している情報量の多さによります。自費診療なので、プロになるとしたら1回の料金をどうするかということを自分で決めます。高すぎても誰も来ないし、安すぎると疲弊します。私は最初、自費診療の初診料を5,000円で始めたんですけど、今は30,000円にしています。

6 知る⇨好きになる⇨信頼する

自費診療とは需要と供給の関係なので、患者さんが増えてきたら当然価格も上げるものですが、その鍵は情報の発信量、つまりコミュニケーション能力です。まずは診療に来てもらうところからコミュニケーションは始まっています。そのあとは知る⇨好きになる⇨信頼するという流れになります。

信頼するというフェーズになって、初めてこの人に診てもらおうかという気になります。まず相手を知り、好きになって、信頼されるというところまで行くには、現状ならネット上でいかに沢山情報を出すかということです。情報を沢山出せば出すほど、価格は上げても大丈夫です。情報を出していない人は最初は無料にしてください。無料の情報をシェアすることで、コミュニケーションのネット上の仕組みができてきて、そこではじめてきちんと診療ができるようになります。

もちろん口コミや、保険診療で診察したことのある患者さんの付き合いが、ネット上よりベストです。保険診療の患者さんとコミュニケーションができていて信頼されているのであれば、自費診療の話をしても良いと思います。物事には順番があるので、どのようなスタイルでやるかを考えてみてください。私の場合は保険診療の患者さんに声をかけることはほとんどしていないため、ネット上で来た人が99%です。この信頼をネット上で得る仕組みを構築しています。

7 なぜ◯◯が必要なのかを伝える

栄養療法の勉強で一番勉強になるのは、他人に教えることです。他人をカウンセリングするというのが究極の形です。

検査をオファーしてサプリメントや治療を提案するときに、「何故この検査は必要なのですか?」「何故このメーカーのサプリメントでないとだめなんですか?」「何故一番最初にデトックスをやってはいけないんですか?」「何故最初に低血糖の治療からやらなければいけないんですか?」などの質問に答えられるでしょうか?自分でもきちんと理解した上で、クライアントに説明しないと当然上手く伝わりません。

例えば、メタジェニックス社の「グルテンダイジェスト」という製品は、消化酵素のサプリメントをお薦めする理由はこんな感じです。

「一般的に消化酵素はタンパク質の端から切っていきます。グルテンを端から切ることによって途中でモルヒネ様物質であるグリアドルフィンができます。そのためグルテンの消化が悪い子供がグルテンを摂ると、中途半端な消化によるモルヒネ様物質を脳内に作り出してしまいます。しかし、グルテンダイジェストにはグルテンタンパクを真ん中から切るという特殊な成分が入っています。真ん中を切ることで消化の効率も良くなりますしグリアドルフィンもできません。その成分を使っているのは、現在メタジェニックス社ともう一社だけです。」

このようにして、なぜこのサプリや検査が必要か、なぜこの順番でやらなくてはならないかなどを順番に説明していきます。

ドーズ・レスポンスの本当の意味

宮澤賢史 · 2019年4月25日 ·

分子栄養学を学んだことのある方なら、だれでも「ドーズ・レスポンス」という言葉を聞いたことがあると思います。

これは直訳すれば「栄養の投与量と反応の関係」です。

分子栄養学において、その反応は正比例の一直線のグラフにはならず、S時のカーブを描がきます(ドーズ・レスポンスカーブと言われています)。

15年前、分子栄養学を習い始めの事に、

「枯れかけている鼻に、スポイトで水をかけてもなかなか生き返らないので、じょうろでたっぷり水をあげましょう。」

「荷車を押すとき、動きはじめにはたくさんの力が要る」

などと説明を受けたことがあります。

個体差とドーズレスポンス

ビタミンは欠乏症を補う最低限の量と、補酵素として働く量があります。
一般に、補酵素としての必要量は欠乏症を補う量の数倍~数十倍になります。

分子栄養学では、補酵素として栄養を使うために、「メガドーズ」と言われるような量を使用することが特徴です。
特に水溶性ビタミンは、個体差によって、また使用目的によって、通常の数百倍の量が必要になることがあります。

特に顕著なのはビタミンCです。

ビタミンCは時に、点滴でしか達成しえない量を投与することがメリットになります。

脳は栄養の影響を受けやすい

ところで、この「個体差とドーズレスポンス」の特徴が一番顕著な臓器をご存知ですか?
答えは

「脳」

です。
脳の特徴について、認知症治療のエキスパート長尾和宏先生が医事新報に記事を書いていらっしゃいますので、一部引用します。

脳はネットワーク臓器なので、細分化手法だけでは当然限界がある。従って、臓器別縦割りに拘らない総合診療的な思考が必須。

私は脳の病気こそが個別化医療の対象だと思う。

がん治療や高血圧治療における使用薬剤の個体差は、せいぜい2~3倍で多くも数倍程度であろう。
一方、がん性疼痛に使用されるオピオイドの至適容量の個体差は、10倍、いや数百倍にも及ぶ。

たとえば繊維筋痛症という病気の疼痛閾値の個体差も百倍単位に及ぶはずだ。

脳というネットワーク臓器の薬剤感受性には想像以上の個体差があるはずだ。

しかもその差は、同一個体であっても病気や日にちや日内でも大きく変動することは容易に想像できる。

しかしそうした個別性を無視した認知症医療には疑問を感じる。

脳の治療こそ、「個体差とドーズレスポンス」が大切なのです。
これは、認知症に限らず、うつや統合失調症など全ての脳疾患に言えます。
さらに、薬を用いた治療でも、栄養療法でも同じことです。

脳だけは特別に扱った方がいい

ところで、すでにお気づきかもしれませんが、脳に対するドーズレスポンスは、最初に述べたドーズレスポンスと違う点が2つあります。
ひとつは、「脳への治療の場合、ドーズレスポンスカーブの閾値のラインが、かなり手前にくる事」もう一つは、「適正量を超えると比較的早期に副作用が出る事」です。

抗うつ薬の副作用の問題がこれだけ騒がれていますので、副作用についてはご理解いただけると思いますが、

「ドーズレスポンスカーブの閾値が、手前にくる」とはどういう意味でしょうか?

実は、先ほど引用させて頂いた長尾和宏先生のお話しは、

「コウノ・メソッド」という認知症の周辺症状を抑える薬物治療法を評価する記事にて書かれたものです。

このメソッドは、開発者の河野先生自らの経験をもとに、新しい診断基準を提唱し、認知症を細かく分類していること、そして、周辺症状を抑えるために、認知症治療薬をガイドラインよりも少量使用することなどが特徴です。

例えば、アリセプトなどは、量を多くしても中核症状をほとんど改善しないのに、周辺症状が悪化するそうです。
ですから、最低限の量をだして、反応を見ながら徐々に増やしていくという考えです。

まさに、個体差とドーズレスポンスを踏まえた方法論であり、その点は非常に素晴らしいと思います。
マニュアルが公開されていますので、ご参考にして下さい。

コウノメソッド2014
名古屋フォレストクリニック
http://www.forest-cl.jp/method_2014/kono_metod_2014.pdf


つまり、脳に対する薬は、「効きすぎに注意しながら、おっかなびっくり増やしていった方がいい」のです。

実際の例

例えば、自閉症の例をみてみましょう。

アメリカ自閉症研究協会が行った患者の両親による治療評価アンケートによると、

自閉症に効果が見られたと両親が評価したサプリメント第1位はSAMe(66%が効果が見られたと評価)ですが、
悪化した(と両親が評価した)サプリメント第1位もSAMe(15%)でした。SAMeは神経伝達物質の代謝を促し、解毒を促進する強力なメチル供与体です。

自閉症児の多くはメチル基が不足していますので、投与により劇的な効果が見られる場合もあります。しかし、外来でSAMeを処方されたお子さんが翌日に、家の車をボコボコにしてしまったという話もあります。SAMeにより興奮性神経伝達物質が増えすぎたために起きた現象です。

これは、「認知症にアリセプトを多く出したら、徘徊がひどくなった」というのと全く一緒の話です。
他にビタミンB12(63%)や、葉酸(42%)も同様に効果が見られる栄養素ですが、これらは全てメチレーション回路を回し、メチル基を作り出します。
ですからこれらの栄養素は、1種類ずつ足しながら、少しずつ増量しなくてはなりません。

デパケンや、テオフィリン等の薬を投与するときは、血中濃度を測定することがあります。
これらの薬は、有効量と中毒量が接近しているため、血中濃度をモニタリングしながらでないと危険なのです。
同様に、脳に対するサプリメントは、効果をモニタリングしながら使うのが安全です。自閉症などの精神疾患に対するメチレーション治療こそ、検査結果をもとに治療サプリや量を決めるべきだと思います。

例えば、HDRI社のメチレーション検査は、葉酸、SAMe、グルタチオン等を測定することにより、体内の回路がどこで滞っていて、それを解消するためにはどの栄養素を使うべきかを教えてくれます。

The Methylation PathwayHealth
Diagnostics and Research Institute
http://www.hdri-usa.com/tests/methylation/

分子栄養学の始まりは、1968年、ポーリングがサイエンス誌に発表した「分子整合精神医学」という論文です。

その中の一節には、こうあります。

他の臓器と比べて脳は 組成している分子化合物や その構造に深い依存傾向がある。

つまり、脳は栄養素が効きやすい臓器だという意味ですが、その気になってみると、「脳に対して多すぎる栄養素は害を及ぼす可能性があるので、気を付けるべき」という注意も含まれているように感じられるから不思議です。

「充分な量を摂って、生体の利用に任せる」
「なるべく少ない量から徐々に使い、モニタリングしながらバランスをとる」

全く異なる治療方針ですが、どちらもドーズ・レスポンスと言えるでしょう。

栄養療法の値段と医師のレベル

宮澤賢史 · 2019年2月23日 ·

分子栄養学が正しく広まるためには、正しい知識が広まることももちろんですが、「正しい治療が適切な値段で受けられること」が必要だと常々思っています。

原因不明の病に苦しむ患者さんにとって、栄養療法は確かな手ごたえを感じられる数少ない治療の一つです。

しかし、治療が始まってから患者さんは経済的な事で悩むようになります。

「なるべくサプリや検査に頼らない方法を知りたいです」

「患者さんのサプリメント購入については長期にわたってくると負担も大きくなります。なるべく食品から摂取できるものは食品から、最低限必要なものはサプリメントからという風に考えたい」

「手探りで解析結果に従って実行してきました。必要なサプリ量がどう変わるか?いずれは減らせるのか?サプリ代が予算的にあと1年ももつか?が心細い限りです。」

これらは、メール講座を受講している方から頂いた生の意見です。

もちろん、治療にかかわる先生方も、これをよしと思っているわけではなく、

「日常診療では、高額な自費検査や唾液検査などはほぼ不可能。」

「検査には費用がかかり、いいといわれるサプリメントは高額なものも少なくありません。自分自身が患者の立場で言うと、やはり経済的負担から、そこまで高額な検査や治療を望まないと思います。」

といったご意見も頂いています。

この治療が広まるためには、「患者さんが無理なく出せる」かつ「医師が適切な利益を得られる」値段設定が求められます。いくら正しい治療だといっても、この治療が健康保険の適応になるにはまだ時間がかかりますので。

では、どうしたらよいのでしょうか?

正解は「検査とサプリをできるだけ減らすこと」です。

極端な話ですが、問診と診察から患者さんの不調の根本原因が全てわかれば検査はいりません。

また、患者さんの体の状況を正確に把握することができれば、絶対必要なサプリメントは、3種類まで減らせるかもしれません。いわゆる「引き算の栄養学」ってやつです。

しかし、言葉でいうのは簡単ですが、実際にはなかなか難しいです。そもそも、問診と診察から根本原因が完全に絞りきれないから検査をするわけですし、何が効くかはっきりと断定できないので複数のサプリメントが出るのです。

栄養療法の医師にもレベルがあります。

レベル0 サプリメントを完全否定する
レベル1 サプリメントを容認する
レベル2 血液検査で足りないサプリを処方する
レベル3 様々な検査を駆使してサプリを処方する
レベル4 サプリを邪魔する原因を考える
レベル5 必要ないサプリを減らす
レベル6 必要ない検査を減らす

レベル7 会った瞬間に必要な治療がわかる

私自身も、過去15年間でこのような階段を上ってきました。もちろんレベル7には至っていませんが。

サプリメントを摂るのは簡単です。(効果を継続したまま)やめるのが難しいんです。

医師はレベル4以上に到達して、はじめて患者さんの懐状況と治療効果を天秤にかけた治療ができるようになります。

レベル5になると、サプリをどこまで減らすかということに思慮が及ぶようになるので「治療のゴール」を意識できるようになります。そうすることではじめて患者さんに「治療期間の目安」の話ができるようになります。

問診事項と症状から検査結果を予測して、一番効果的なサプリメントをピンポイントで使う。それはレベル6の医師にしかできないことです。

医師、歯科医師の方は「自分はどのレベルの栄養療法医」か、患者さんだったら「自分の主治医はどのレベルなのか?」よく考えてみてください。

このレベルが栄養療法にかかるコストを大きく左右します。

分子栄養学実践講座では、レベル6になるためのカリキュラムを組んであり、それに必要な資料(テキストとビデオ)を提供しています。

「○○地方で副腎疲労をみてもらえるクリニックをご紹介下さい」とお問い合わせを頂いた時、必ず実践講座を受講された先生をご紹介するのはそういった理由からです。

レベル6の「検査とサプリを減らせる医師」には患者さんはレベル3の医師の2倍の診察料でも惜しみなく払ってくれるでしょう。それでもトータルで考えれば、患者さんの負担はだいぶ減るからです。

2010年代の後半、栄養療法は半分当たり前のこととしてますます多くの人に受け入れられていくでしょう。

インターネット上には栄養に対する様々な知識があふれています。栄養療法を専門とする医師(管理栄養士も)であれば、最低レベル4まで達していないと今後は厳しく、淘汰されて行くと思います。

サプリメントの選び方と使用量

宮澤賢史 · 2019年2月21日 ·

はじめに

分子栄養学は、サプリメントを用いて医学的な効果を得るための栄養療法の方法論です。
健康増進のためにサプリメントを摂るのと、栄養療法により病気を治す方法には大きな違いがあります。

それは、サプリメントの選び方と使用量です。

栄養療法は、様々な検査をして足りない栄養を見つけ出し、通常よりもかなり多い量の栄養を用いるのが特徴です。

ここでは、どのようにしてサプリメントの種類や量を決めるのかについて説明します。

栄養療法に必要な4つの考え方

サプリメントの種類と量を決めるためには、4つの考え方「ドーズレスポンス」「個体差」「栄養素の局在」「栄養療法を邪魔する要素」が必要です。

「栄養素の局在」とは、文字通り、体内で栄養素が均一でなく、偏って分布していることを意味しています。体内でビタミンC濃度が一番高いのは副腎です。

「ドーズレスポンス」とは、治療効果を得るためには最適量の栄養を使う必要があるという意味です。

体重70kgのヤギが1日あたり13gのビタミンCを体内で作れることから考えると、人間も体内の状態を最適化するためには数十g単位のビタミンCが必要なのかもしれません。

「個体差」とは、栄養素の必要量が人によって大きく異なるという意味です。

ビタミンC点滴後のビタミンC血中濃度が人によって大きく異なるのは、腫瘍や感染、炎症、ストレスなどによってビタミンCが大きく失われている人がいるからです。

「栄養療法を邪魔する要素」とは、栄養の吸収を邪魔する腸内環境悪化、ミネラルの効果を減弱し、弊害を及ぼす重金属の蓄積などです。

上記の4つの法則を知り、うまく使わなければ疾患を治すことはできません。
それぞれについてもう少し詳しく説明します。

ビタミンの定義

「ビタミン」とは何でしょうか?

ビタミンとは「体内では作れないので、必ずとらなくてはいけない栄養」のことです。

ヒトは体内でビタミンCを作れません。だから、ヒトにとってビタミンCはビタミンです。

ヤギは体内でビタミンCを作れます。だから、ヤギにとってはビタミンCはビタミンではありません。

では、ビタミンCは体内でどのような働きをしているでしょうか?
ビタミンCが足らなくなるとどのような事が起きるでしょうか?

ビタミンの標準摂取量

ビタミンCは体内で様々な働きをしています。

ビタミンCが欠乏するとおきるのが「壊血病」です。うつ状態になり、歯茎をはじめとした色々なところから出血します。

ビタミンCは新鮮な食物にしか含まれません。大航海時代、塩漬けの肉のみを積んだ船員が壊血病のために、数万人亡くなりました。

ビタミンCはコラーゲンをつくるのに欠かせない物質です。壊血病は、ビタミンC不足により血管の材料コラーゲンが作れない病気です。血管が弱くなるので全身から出血します。

この壊血病を予防するために、最低限摂らなくてはいけないビタミンCの量の事を、「標準摂取量」とか「所要量」などといいます。

「標準摂取量」は、国が定めた量で、栄養失調を防ぐ最低の量であり、それに対して「最適量」は、病気を治すための量です。

ビタミンの最適量

ところで、ビタミンCの働きはコラーゲンを作ることだけではありません。
ビタミンCにはざっと考えても以下の様な働きがあります。

  • 風邪などの感染症を予防する
  • ノルアドレナリンを合成する
  • カルニチンを合成する
  • 胆汁酸を合成する
  • 異物を代謝する
  • インターフェロンの合成
  • 鉄代謝に関与する
  • ヒスタミン遊離を抑制
  • がんの予防
  • メラニン産生の抑制(「美白効果」のことです)

これらの効果を得るために必要なビタミンCの量は様々です。

例えば、壊血病を予防する量は1日100mgですが、風邪を予防するためには1日1,000mg(1g)を3回飲まなくてはならないという報告がありますし、がんを治療するには1日100,000mg(100g)のビタミンCを点滴しなくてはなりません。

つまり、ビタミンの「標準摂取量」は100mgで、これによりビタミンC欠乏である「壊血病」を予防することができます。

その一方で、抗がん剤としてビタミンCを使う場合の必要量は100gであり、これががんに対するビタミンCの「最適量」となります。

この場合、「最適量」は「標準摂取量」の1000倍となります。

このように、目的によって必要な量が異なる事を量と反応の関係(ドーズレスポンス)と呼んでいます。

ビタミンC100gはレモン5000個分にもなります。この栄養素の量はサプリメントなしには達成できません。

つまりサプリメントは栄養を凝縮した「効率の道具」ということができます。この栄養の効率化によって医学効果を発揮させるのが「分子栄養学」というわけです。

ビタミンの最適量には個人差がある

ビタミンの必要量はヒトによって異なります。

タバコを吸う人、糖尿病の人は血中のビタミンC濃度が低いことがわかっています。このような人は他の人にくらべて、余計にビタミンCを摂る必要があります。

このような個人差は、酵素と基質の親和性で説明できます。
体内の化学反応は基質と酵素が結合して起きますが、両者の結合を助けるのが補酵素です。

問題は酵素の形が人によって多少なりとも異なることです。
酵素はタンパク質の一種であり、設計図であるDNAを元に作られます。

ヒトのDNAは99.9%同じですが、0.1%の違いが個性を生みます。酵素の形が悪いと基質との結合が弱く、余計に補酵素を必要とします。

「酵素の個人差によって必要な補酵素の量が異なること」これを個体差といっています。

サプリメントの最適量が人により異なる理由

タンパク質の働きにはいろいろありますが、一番重要なものは酵素としての働きです。
酵素は、体内で働く化学反応を調整(触媒作用といいます)しています。

人間は食べ物を体内で燃やしてエネルギーを作っています。実際には体温は36.5度で、物が反応するには非常に低い温度です。

しかし、酵素の触媒作用によって、食物は、確実に血や肉になり、エネルギーになります。だから、人は酵素が無ければ、生きられません。

酵素によって化学反応を触媒される物質を「基質」と言います。体内の化学反応は「酵素」と「基質」が組み合わさって進んでいきます。

ビタミン、ミネラルは補酵素として働く

酵素の働きを助けるものを「補酵素」といいます。

アミラーゼ、リパーゼ、リゾチームなどは酵素だけの力で反応を触媒しますが、酸化還元反応やアミノ基転移反応などは、補酵素の力を借りないと反応が進みません。

基質と酵素は鍵と鍵穴の関係に例えられます。形がぴったり合わないと反応が進まないのですが、それを助けるのが補酵素の役目です。

分子栄養学の世界で出てくる「個体差」とは、酵素の設計図である遺伝子の「個体差」なのです。

DNA配列に微妙な違いがあるために、それを設計図として作られる酵素たん白質にも若干の形の違いが生まれます。

基質と酵素と補酵素は、鍵と鍵穴とグリース(潤滑剤)に例えられます。

カギが鍵穴に入りやすい人と入りにくい人がいるわけで、このような人は補酵素(グリース)を余計に使うことで、化学反応の扉を開けることができます。

この補酵素として使われるのがビタミンやミネラルなのです。

補酵素として使われるビタミンの量は時には標準摂取量の100倍に達することもあります。

以上の理由により、栄養素の最適量は人によって異なるため、必要なサプリメントの種類と量を決める際に、その人の酵素活性を検査で測定する事が有用なのです。

脳における補酵素の研究

1950年代末、ライナス・ポーリング博士は、精神疾患の原因の一つに酵素の機能障害があるのではないかと疑い、脳機能における酵素の役割を研究しました。

彼が、ビタミンが欠乏症予防以外に重要な生化学的効果を持つ可能性に気が付いたのは、ポーリング博士が1965年にエーブラム・ホッファー著「精神医学におけるナイアシン療法」を読んだ時のことです。

これにヒントを得て、1968年、ポーリングはサイエンス誌に「分子整合精神医学」
(Orthomolecular psychiatry)と題した簡単な論文を書き、ビタミン大量療法運動の原理を発表しました。

ビタミンには酵素を助ける補酵素としての働きがあります。
ポーリング博士は、そこで、酵素、補酵素の不足が病気を引き起こすので、それを充分量補充することで病態の改善が見込めるのではないかと提案したのです。

栄養素の局在

疾患に対してのサプリメントの選び方は、『栄養素の局在を考えること』 がポイントです。

「ある栄養素がある疾患に対して有効かどうかは、疾患の存在する部位にその栄養素が存在するかどうかを考えればよい」

栄養素が、体のどの部位で濃度が高いかを知ることは、その栄養素がどこの疾患で有用なのかを知ることなのです。

なぜなら、栄養素は体が長年の歴史で必要とされる部位に運ばれるシステムが確立しているからです。

ビタミンCの場合血中濃度を1とすると、脳には20倍、白血球には80倍、副腎には150倍のビタミンCが存在します。

ビタミンCが存在する所には、それだけ需要があると考えられます。

風邪の予防と治療にビタミンCが効果的であるというエビデンスが多く存在しますが、これはビタミンCによる白血球の活性化作用が一因と考えられます。

また、副腎疲労症候群の治療に最優先すべき栄養素がビタミンCであることも、このビタミンCの分布から推測されます。

一般に、栄養素が高濃度に存在するところほど需要量が高く、栄養素を摂取した場合に、優先的に使用されます。

「美白のためには、どの位のビタミンCを摂ればいいのですか」というご質問をよく頂きますが、答えは「人によって大きく異なります」 となるわけです。

副腎や白血球での需要量が多い場合は、そちらでまず使われてしまうからです。

ビタミンCが足りているかを調べるためには、ビタミンC血中濃度を測定すると参考になります。

栄養療法を邪魔する要因

分子栄養学の多くの書籍には上記3つの事に関してはよく書かれています。

ストレス回避の仕方、ドーズレスポンス、個体差を考慮したサプリメント処方などです。

これらをちゃんと行えば、ある程度の病期なら回復してしまいます。

しかし、それだけではうまくいかない人もいます。4番目の邪魔する要因の影響が強い人たちです。

私の外来に来る人で、まったくサプリを摂っていない人は10人に1人もいません。

4番目の要素がひっかかっているために、病期が治らずに来る人が半分以上を占めます。

そういうわけで、私の仕事はだんだんと

「サプリメントの処方」から「疾患を起こしている根本原因をみつけること」

にシフトしてきました。

宮澤医院には、多くの人が副腎疲労の症状でやってきます。

疲れているのは、副腎疲労が原因だと思ってくる人が多いのですが、多くの場合副腎疲労は「原因」でなく「結果」です。

つまり、副腎疲労を起こしている「根本原因」が他にあります。

副腎だけを見ていては、副腎疲労は治らないのです。

足し算よりも引き算

言い換えれば、副腎疲労は全身疾患のバロメーターという事もできると思います。

体内に何か異常があれば、副腎にストレスがかかるのですから、副腎ホルモン値に影響します。

最近は、健康診断の項目として全国民が受けるべきではないかと思っています。

私が習った分子栄養学講座のテキストは、どちらかというと生化学の式が満載でした。

今見るとエッセンスの塊ですが、最初は理解するのに相当時間を要しました。

実践講座を始めた時は、私もそれをならって各ビタミンの構造式、特徴などの話をさせていただく事が多かったのですが、ニーズに合わせてどんどん進化していき、今では4つ目の要「邪魔する要因とその対処」についての話が7割です。

なぜなら、臨床応用しやすく、結果が出やすいからです。

結果が出て患者様に喜んでもらえれば、それが自信につながるし、多くの患者様を呼ぶことになり、それでもっと研修しようと意欲がわいてくるという、好循環が生まれやすいです。

だから、これから分子栄養学を勉強する方には特に、一通り足りない栄養素を見つける方法を身に付けたら、次は邪魔する要因とその対処について考えることをお勧めいたします。

「足りない栄養素を足すという方法でうまくいく患者さんは2~3割」です。

まずは腸からアプローチ

邪魔する要因とその対処ですが、具体的には、まず腸内環境改善をして、栄養素が消化吸収されやすい素地を作ることからはじめるとよいです。

悪玉菌やカンジタなどが増殖している場合は、単純に乳酸菌を摂るだけではうまくいかないことも多いです。

腸内環境検査を行い、炎症や免疫、消化酵素の調整なども同時に行っていきます。重金属の蓄積評価と対処法に関して、治療の初期に行うのは難しいです。炎症や感染が存在すれば、体内の解毒機構が低下するため、毛髪分析などに影響が出ます。また、腸内環境が整っていない時にデトックスを行うと非常に副作用が出やすいです。

「副腎疲労は、どのレベルになったら治療の専門家に相談するべきでしょうか?」

というご質問をよく頂きますが、上記3つの対処をしても難しいなら4番目の要素を疑い、ご相談いただいた方がよいと思います。

この領域は思いつきで治療すると、逆効果になることもあるので、早めにプロの治療家に任せる方がよいでしょう。

栄養療法 3つの治療方針と治療手段

宮澤賢史 · 2019年2月20日 ·

分子栄養学の治療を行う場合の考え方について説明します。

1.病態の中心概念をとらえる

臓器で、細胞で、全身で何が起きているのか?

まずは、問診と診察から患者さんの病態の中心を成しているものは何かを考えます。

その時のポイントは、「臓器中心」だけでなく、同時に「体全体」としても考える事、「細胞や分子レベル」で何が起きているかを考える事です。

一般的な医療は、病態を「臓器レベル」で把握しますが、
栄養療法を行うときは、根本の病態を「全身症状」「細胞・分子レベル」で把握します。

例えば、副腎疲労の患者さんの細胞では「ミトコンドリア」機能が低下していることが多いのですが、「疲れやすい」という症状が出ている人は、副腎疲労にかかわらず、「ミコトンドリア」機能が低下しています。

根本になる病名、病態を把握する

私の場合、分子栄養学的アプローチ別に疾患を3群に分けています。
「疲労系」「免疫系」「精神神経系」です。

「疲労系」はその名の通り、疲労を主訴とする疾患。
「免疫系」はリウマチやアトピーなど、通常ステロイドが治療に用いられる疾患。
「精神神経系」は、統合失調症、うつなど神経伝達物質が問題になる疾患です。

最初にすることは、患者さんの病態の主原因が3つのうちのどこにあるのかを見つけることです。

「免疫系」「精神神経系」の疾患は、ほとんどの場合すでに病名が決まっています。原因不明と言われている場合、私の経験では多くが疲労系の疾患です。

疲労系は細胞のミトコンドリア機能の障害であり、臓器を超えて様々な症状が起きてきます。

正確な診断のためには、臓器単位の考え方のみで疾患を絞り込むのは難しく、細胞機能や全身状態を同時に考える、「俯瞰的なものの見方」が必要です。

「疲労系」の疾患を疑ったら、ミトコンドリア機能を評価すると同時に、疲労を起こしうる疾患の鑑別診断をしていくことが重要になります。

病名と病態が違っている場合もあるので注意

また、病名がすでにはっきりしている場合でも、その病名が患者さんの病態をきちんと表しているか確認する必要があります。

例えば、免疫系の疾患でも、免疫細胞のミコトンドリア機能が落ちていることが主原因になっている場合もあります。

2. 治療方針を決める

中心概念が決まれば治療方針が決まります。

疲労系疾患はミトコンドリア機能を改善させる

副腎疲労症候群は、臓器レベルでは副腎の問題ですが、全身症状は「疲れやすい」、細胞の状態は「ミトコンドリア機能低下」です。

甲状腺機能低下症は、臓器レベルでは甲状腺の問題ですが、全身症状は「疲れやすい」、細胞の状態は「ミトコンドリア機能低下」です。

鉄欠乏性貧血は、臓器レベルでは、赤血球の問題ですが、全身症状は「疲れやすい」、細胞の状態は「ミトコンドリア機能低下」です。

病名 臓器レベル 全身症状 細胞の状態
副腎疲労症候群 副腎機能低下 疲れやすい ミトコンドリア機能低下
甲状腺機能低下症 甲状腺機能低下 疲れやすい ミトコンドリア機能低下
鉄欠乏性貧血 赤血球数低下 疲れやすい ミトコンドリア機能低下

つまり、慢性疲労、副腎疲労、起立性調節障害、甲状腺機能低下、貧血は、臓器レベルで考えると一見別々の疾患ですが、全身症状は「疲労」で共通しており、細胞レベルでみると「ミトコンドリア機能低下症」とひとくくりにできます。

病態が「疲労」である疾患は「ミトコンドリア機能改善」が共通の治療方針なのです。

免疫系疾患は免疫の正常化を行う

同じように、治療にステロイドを用いる疾患にも同じ共通点があることに気づきます。

関節リウマチは、臓器レベルでは、関節の問題ですが、根本病態は「免疫異常」です。
アトピー性皮膚炎は、臓器レベルでは、関節の問題ですが、根本病態は「免疫異常」です。
掌蹠膿疱症は、臓器レベルでは、腸の問題ですが、根本病態は「免疫異常」です。

これらの疾患に共通する病態は「免疫異常」であり「免疫の正常化」が共通の治療方針です。

精神疾患は神経伝達物質のバランスを正常化する

同じように、うつ、統合失調症、発達障害、ADHDなどの共通病態は、「神経伝達物質代謝異常」であり、その調整が共通治療方針です。

「同じ疾患群には共通のアプローチ(治療方針)がある」のです。
そして、これらは栄養療法によって目的を達成することができます。

[box class=”box26″ title=”まとめ”]病態の中心概念をとらえ、治療方針を決める

(例) 中心概念は副腎疲労、治療方針は「副腎ケア」と「ミトコンドリア機能改善」[/box]

がんに対する治療方針

がんの原因は様々ですが、活性酸素や感染、慢性炎症以外にも、

1 アポトーシス不全(不完全な細胞を消去できないためにがん化する)
2 免疫低下
3 ストレス

などが挙げられます。

これに対しては、

1 ミトコンドリア機能改善
2 免疫の正常化
3 神経伝達物質のバランス正常化

が有効だと考えられます。

つまり、上記の3つの治療方針を全て組み合わせる必要があるのです。
栄養療法でもがんの治療は一番高度な技術が要求されます。

がん治療にもミトコンドリア機能は大きく関与します。
なぜなら、エネルギー産生と並んでミトコンドリアの大きな働きの一つが、「アポトーシス」の調整だからです。

3. 治療手段を決める

治療手段は診察や検査結果で決める

患者さんの疾患の概念をつかみ、治療方針が決まったら、次に治療方針を達成するための「治療手段」を決めます。
その際に、どの手段を用いるべきかは問診や検査結果をみて決めます。

例えば、ミトコンドリアについて考えてみましょう。
ミトコンドリアのエネルギー産生というのは、酵素反応によります。

だからミトコンドリア機能を高めるためには、酵素の代謝を高めたり、酵素反応の補酵素を補充したり、酵素反応の邪魔をする因子を取り除けばよいのです。

具体的には、ビタミンサプリをとることや、デトックス治療、また運動などもいいでしょう。

実際には、血液や毛髪、唾液検査などを用いて、酵素反応のボトルネックになっている個所を探し出して、そこを重点的にアプローチしていきます。

[box class=”box17″]

ミトコンドリア機能は様々な要因によって邪魔されます
ミトコンドリア機能低下の原因は検査をすることで明らかになります

  • ミトコンドリア内の酵素を動かす補酵素(ビタミン、ミネラル)が足りない
    (血液検査にて知る事が出来ます)
  • 腸内環境が悪くて酵素やミネラルの吸収が悪い
    (腸内環境検査にて知る事が出来ます)
  • 体内に入り込んだ重金属が酵素を邪魔しているのか?
    (毛髪ミネラル検査にて知る事が出来ます)[/box]

ですから、一言にミトコンドリア機能改善と言っても、それを正しく行うには、

  • 血液検査や毛髪検査の正しい読み方
  • 必要なサプリメントの選び方、投与の仕方
  • 細胞やミトコンドリアの構造と働き
  • 酵素反応を促進するビタミンと、邪魔する因子の種類

などの基礎的な知識が必要となります。

これは免疫系疾患でも同じです。
例えば「掌蹠膿疱症」をビオチンで治す人もいれば、口腔内ケアで治す人もいます。
治療のテクニックは違えど、目的は同じ「免疫の正常化」なのです。

ちょっと複雑ですが、ここを抑えておくと大まかな治療の流れがわかるようになります。

4. まとめ

分子栄養学治療の流れは、

1 病態を把握する
2 中心となる治療方針を決める
3 適切な診察と検査で使う治療手段を決める

となります。

このフレームワークを動かすためには、以下の知識が必要です。

①「病態から治療方針を決める方法」

②「治療方針を達成する方法」(ミトコンドリアの動かし方、免疫を正常化させる方法、神経伝達物質のバランスのとり方など)

③「診察の仕方、検査の読み方」

④「治療テクニック」(腸内環境改善法、自然なデトックス法、サプリメントの摂り方など)

ミトコンドリア機能向上と一言にいっても、やり方はざっと10通りもあります。

病院受診が必要なほど重症な人は、ミトコンドリアサプリを摂るだけでは改善しません。
酵素反応を高めるために単純に高たんぱく食にすることで改善する人は限られます。タンパク代謝全体を高めなくてはなりません。

5.これらがうまく機能しないときに考える事

Depressed woman

「血液検査をして足りないサプリメントを摂ったが治らない」
「複雑な尿検査や遺伝子検査をしたり、様々な治療法を試ししても、ゴールが見つからない」

という人は決して少なくありません。

なぜ、うまくいかないのか?
理由は大きく2つに分けられます。

(1)検査の解釈が間違っている

栄養療法における血液検査の解釈は一般の医療的な見方とはだいぶ異なります。
詳しくは血液検査の読み方講座でご紹介しています。

また、こちらの記事(検査をしているのに治療がうまくいっていない人のパターン)も参考にしてください。

(2)治療の「方針」と「手段」がごっちゃになっている

この2つを取り違えている人がすごく多いです。治療家も患者さんもです。

貴方の副腎疲労に対する「治療方針」はなんですか?ちょっと考えてみてください。

もちろん、副腎が疲れているので、副腎を癒すためのビタミンCやハーブも重要なのですが、それだけでは副腎疲労は十分回復しません。

なぜなら、副腎疲労を起こすまでには全身の細胞がかなり疲労しているからです。

副腎の役割はストレスに対応する事ですから、ちょっとやそっとのストレスで根を上げることはありません。

副腎疲労を起こすまでには、通常数年間にわたるストレス期間があります。
その間に、全身の細胞が疲労し、エネルギーを作る能力がすっかり落ちてしまうのです。

細胞の中でエネルギー産生を担っているのは「ミトコンドリア」です。
つまり「副腎疲労」では、細胞のミトコンドリア機能が低下しています。
だから、私の「副腎疲労」の治療戦略は、「副腎のケア」と「ミトコンドリア機能の改善」なのです。

方針と手段の違いを明確に意識する

「そんなの当り前じゃないか」というご意見もあると思いますが、実際には、この目的を明確に意識するかしないかで、治療効果は大きく違います。
意識をしていないと「方針」と「手段」を取り違えてしまうことがあるからです。

「血液検査で足りない栄養素みつけ、それを補充する」という治療をしている人があとを絶たない理由は、治療の方針と手段を取り違えているからです。

血液検査の結果が良くなることが、「治療方針」だと勘違いしているのです。

設定が間違っているので、数値に一喜一憂したり、治療効果が頭打ちになったり、サプリメントを減らしたら症状が逆戻りしたりするなど、すぐ限界が来ます。

「サプリメントをとること」は手段であって、方針ではありません。

血液検査は、方針を指し示してくれる道しるべであり、方針そのものではありません。

「フレームワーク」という考え方

「治療方針を決め、それを達成するために必要な手段を探るために、道しるべを用意する」というこのような考え方の枠組みを「フレームワーク」といいます。

実際、私はこのフレームワークを意識して、治療計画書に取り入れるようにしてから、一層の治療効果をあげられるようになりました。

治療目的がぶれないので、必要最低限の検査、治療のみで済むことにも役立っています。

6.フレームワーク作りの実際

フレームワークとは、治療の考え方の基本になる枠組みの事です。

・同じ疾患群(病態)には共通の治療アプローチがある
・それぞれの治療アプローチには、複数のテクニックの組み合わせが必要である
・それぞれのテクニックは、基礎知識の上に成り立っている

という考え方を図にしています。

左から順番に疾患群、治療アプローチ、テクニック、基礎知識です。
左は具体的な病名、治療の話、右は抽象的な概念の話です。

細胞の機能を高めるためには、状況に応じて様々な治療アプローチや、治療手段(テクニック)を必要とします。

使い方は以下の通りです。

① 患者さんの病気の系列を決める
→すると、基本治療方針(アプローチ)が大体きまります。

② 基本アプローチを行うのに必要なテクニックを決める
→問診、診察、検査結果から必要なテクニックを決めます。

③ 治療テクニックを使う順番を決める
→通常は体への侵襲が少ないものから順番に行っていきます。

7.病態の本質は、人間を構成している細胞の機能にある

ですからこの図では、細胞という観点から病態を
「疲労系」「免疫系」「精神系」の3つにわけています。
一人の人が複数の病態を持っている場合もあります。

病態が把握できれば、基本の治療方針がおのずと決まってきます。
なぜなら、細胞レベルで考えると、同じ系列に属する疾患は同じ細胞の部位の働きが低下しているからです。(例えば、疲労系疾患はミトコンドリアの働きが低下しています。)

同じ系には共通の病態があり、それに対する共通の治療アプローチが存在します。

例えば、「疲労系」には、慢性疲労症候群,副腎疲労,甲状腺機能低下症などが含まれますが、これらに対しては、ミトコンドリア機能改善が共通アプローチです。

もちろん、それが治療の全てではありません。
それぞれの病態に応じて個別にやるべきことはあります(例えば慢性疲労症候群なら感染に対する対策)が、いずれにしても、疲労系に対してはミトコンドリアアプローチが必須なのです。

疾患群と治療アプローチは常にセットです。

[box class=”box26″ title=”解説”]

高血圧症や糖尿病などが入っていませんが、これらも厳密に言えば細胞機能低下であり、「疲労系」、「免疫系」に組み入れられます。

ただし、これらの疾患は薬剤での調整が比較的容易であり、生活の質も保たれるので、積極的な栄養療法を受ける患者さんはそれほど多くないようです。

ここでは、標準的な医療での調節がうまくいきにくかったり、薬剤の副作用が強かったり、生活の質が低下しやすいものを中心に構成しています。

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ビタミンとミネラルの違い

宮澤賢史 · 2019年2月20日 ·

Healthy ripe fruits and vegetables containing vitamin C, natural minerals and dietary fiber, healthy lifestyle and nutrition concept

ビタミンとミネラルは全く違う

ビタミンとミネラルはどちらも「体内で代謝を高める補酵素として働く」「現代の食生活で不足しがち」という共通した特徴を持っています。

だから、手軽に摂れる栄養補給としてマルチビタミン・ミネラルというサプリメントが重宝されています。

栄養療法の大きな役割の一つは、細胞内に酵素反応を助ける補酵素を十分供給し、体内の代謝を回してあげることです。
通常ビタミン・ミネラルは単独ではなく、お互いに助け合って働くため、マルチビタミン・ミネラルサプリメントは非常に理にかなっています。

しかし、世の中にはこのサプリがうまく効かない人が大勢います。そのような人たちには、検査に基づく栄養療法が必要です。

なぜなら、ビタミンとミネラルは似ているようで全く違う性質を持っており、ビタミンとミネラルの受け取り方が人によって全く異なるからなのです。

栄養療法を行うためには、ベースサプリメントとしてマルチビタミン・ミネラルを摂る以外に、その人に会った栄養処方が必要です。

ビタミン

「ビタミン」とは何でしょうか?

ビタミンとは「体内では作れないので、必ずとらなくてはいけない栄養」のことです。

ヒトは体内でビタミンCを作れません。だから、ヒトにとってビタミンCはビタミンです。

ネズミは体内でビタミンCを作れます。だから、ネズミにとってはビタミンCはビタミンではありません。

では、ビタミンCは体内でどのような働きをしているでしょうか?

ビタミンCが足らなくなるとどのような事が起きるでしょうか?

ビタミンの標準摂取量

ビタミンCは体内で様々な働きをしています。ビタミンCが欠乏すると起きるのが「壊血病」です。

うつ状態になり、歯茎をはじめとしたいろいろなところから出血します。

ビタミンCは新鮮な食物にしか含まれません。
大航海時代、塩漬けの肉のみを積んだ船員がこの壊血病のために、数万人亡くなったのは有名な話です。

ビタミンCはコラーゲンをつくるのに欠かせない物質です。
壊血病は、ビタミンC不足のために、血管をつくるコラーゲンが作れなくなってしまう病気なんですね。

それで、血管が弱くなるために、全身から出血するわけです。

この壊血病を予防するために、最低限摂らなくてはいけないビタミンCの量の事を、
「標準摂取量」とか「所要量」などといいます。

厚生労働省が基準を出している、「第6次改定日本人の栄養所要量」によると、
ビタミンCの所要量は1日100mgとなっています。

つまり壊血病を防ぐためには、ビタミンCを毎日100mgとりましょう、ということです。

ビタミンの最適量

ところで、ビタミンCの働きはコラーゲンをつくることだけではありません。
ビタミンCにはざっと考えても以下の様な働きがあります。

・風邪などの感染症を予防する
・ノルアドレナリンを合成する
・カルニチンを合成する
・胆汁酸を合成する
・異物を代謝する
・インターフェロンの合成
・鉄代謝に関与する
・ヒスタミン遊離を抑制
・がんの予防
・メラニン産生の抑制(「美白効果」のことです)

これらの効果を得るために必要なビタミンCの量は様々です。

例えば、

壊血病を予防する量は1日100mgですが、風邪を予防するためには1日1,000mgを3回飲まなくてはならないという報告がありますし、がんを治療するには1日100,000mgのビタミンCを点滴しなくてはなりません。

ビタミンの必要量には個人差がある

ビタミンの必要量はヒトによって異なります。

タバコを吸う人、糖尿病の人は血中のビタミンC濃度が低いことがわかっています。
このような人は他の人にくらべて、余計にビタミンCを摂る必要があります。

このような個人差は、酵素と基質の親和性で説明できます。
体内の化学反応は基質と酵素が結合して起きますが、両者の結合を助けるのが補酵素です。

問題は酵素の形が人によって多少なりとも異なることです。
酵素はタンパク質の一種であり、設計図であるDNAを元に作られます。

ヒトのDNAは99.9%同じですが、0.1%の違いが個性を生みます。
酵素の形が悪いと基質との結合が弱く、余計に補酵素を必要とします。

「酵素の個人差によって必要な補酵素の量が異なること」

これを個体差といっています。

ビタミンは使う目的と個人差によって必要量が異なる

ミネラル

ビタミンの性質が「個体差」と「ドーズレスポンス(目的によって必要量が異なること)」だとすると、ミネラルの性質は「生体利用性」と「バランス」になります。

まずは吸収を考える

ミネラルは、生体利用性を高める工夫をしないと有効に使われません。

また、ミネラルはバランスが大切で、特定のミネラルだけが多いとほかのミネラルの働きを抑えてしまうことがあります。

特にミネラルをうまく使うのに必要とされるのは腸内環境です。
ミネラルはビタミンと違って、非常に難吸収性であるため、胃腸の不良がミネラルバランスを簡単に崩します。

ミネラルをうまく使うためにはまず腸内環境改善から始める必要があります。

ミネラルはバランスが大切

もう一つ重要なのは、ミネラルバランスです。

ナトリウムとカリウム、カルシウムとマグネシウム、亜鉛と銅はそれぞれ体内で反発しあう性質を持っています。

カリウムをたくさん取れば、ナトリウム(塩分)が体から抜けていき、血圧が下がるのが良い例です。
これらのミネラルは両者のバランスをうまく保つことが大切で、片方が多すぎるとあまり良いことがありません。

そういう意味で、マルチミネラルサプリメントは重宝します。

栄養療法にエビデンスがないと言われる件

宮澤賢史 · 2019年1月9日 ·

「栄養療法なんてエビデンスないからダメでしょ。」と言われて困った事がある人のために書きました。

1. ビタミンCの論文は6万件

エビデンスとは科学的な根拠、裏付けの事で、医学の世界では臨床結果などを報告した論文がエビデンスとほぼイコールの意味で使われます。よく「栄養療法にはエビデンスがない」と言われますが、実はけっこうあります。例えば、医学分野のデータベースMEDLINEで「ビタミンC」を検索すると、61,916件もの論文がヒットします。但し、その多くを「専門家の意見」や「まとめ」などが占めています。

ビタミンCは免疫レベルを上昇させる
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/29099763
ビタミンCの生理作用のまとめ
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC4959991/

これらの論文はエビデンスレベルでいえば、レベル5に相当します。

2. エビデンスレベルとは

エビデンスのレベルは、患者さんごとにコインを投げて表裏で治療するかどうかを決めるランダム化比較試験と呼ばれる形式の研究が一番高く(レベル1)、根拠がない専門家の意見は一番低い(レベル5)とされています。

エビデンスレベル
レベル1 ランダム化比較試験
レベル2 ランダム化しない比較試験
レベル3 後ろ向き(過去の事象について調査する)研究
レベル4 症例報告
レベル5 専門家個人の意見

ランダム化試験には膨大な費用がかかります。製法特許を取得できない天然の栄養成分(ビタミン、ミネラルとか)を使った試験に資金を出したがる人はいませんよね。

だから、栄養療法のエビデンスの半数以上はレベル5なのです。「エビデンス・レベルが低いものが数多く存在する事」が栄養療法のエビデンスの特徴といっていいでしょう。

3. 治療の推奨グレードはエビデンスレベルで決まる

病院で行われる治療は基本的に「治療ガイドライン」に基づいています。そこに載っている各治療のお勧め度を「推奨グレード」といいます。「推奨グレード」は、主にエビデンスの質によって決まります。例えば、レベル1のエビデンスがいくつかあれば、グレードAです。

一般的なグレード分類
グレードA かなり推奨できる
グレードB 勧められる
グレードC 根拠はないが考慮してもよい
グレードD 行わない方がいい

グレードを決めるのはエビデンスの「量」よりも「質」だというところがポイントで、レベル5のエビデンスでも数がたくさんあれば、グレードが上がるかというとそうはいきません。グレードAをとるためにはレベル1のエビデンスが最低一つ必要です。

現行の推奨グレードの決定法では、10,000個の「レベル5エビデンス」は1個の「レベル1エビデンス」に勝てないのです。

この「ランダム化比較試験」至上主義の状況において、栄養療法はレベルの高いエビデンスが乏しいため、必然的に推奨グレードも低くなってしまっているのです。

4. エビデンスの質を追及すると困ること

しかし、エビデンスの質にこだわり過ぎると治療の選択肢は狭まるのも事実です。例えば、自閉症代替治療の第一人者ダン・ロシニョール医師によると、自閉症に対するグレードA(強く推奨できる)のサプリメントはメラトニンのみです。このエビデンスは睡眠時間、神経過敏などの症状の改善に関するもので、自閉症の治癒成績を表すものではありません。それに、米国で自閉症の薬として承認されているのは非定型抗精神病薬のリスペリドンのみです。これでは根本的解決は期待できません。

5. そんな理由もあって

多くの子供(74%)が適応外の治療、推奨グレードの低い治療を行っています。母親に対するアンケート調査では、食事療法を除く自閉症の補完代替医療で効果があった治療の1位はキレーション(74%の改善)でしたが、この治療の推奨グレードはCです。ちなみに2位はビタミンB12の注射治療で、推奨グレードはDです。

https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/19917212

このように、栄養療法を含む代替治療にはエビデンスレベルが低いものも多いのですが、これは自閉症に限った事ではありません。医療で行われていることの50%以上が有効性が確認されずに実施されているそうです。
https://bestpractice.bmj.com/

これらの事実は、エビデンスのレベルと治療効果は必ずしも一致しない事を示唆しています。

6. どんな治療でもよいわけではない

だから、レベルの高いエビデンスや推奨グレードAの治療で効果がない場合は、患者と医師が双方納得したうえで不十分なエビデンスの治療を試す機会が与えられるべきです。ただし、ここで注意したいことは、証明されていない治療にも2種類あるということです。つまり、「無害または低リスクである可能性が高いもの」か、「副作用が強く、高リスクである可能性が高いもの」です。後者の治療はなるべく避けなくてはなりません。

サプリメントを使った治療は一般的に前者であることが多いですが、特に高用量を使用する場合は注意が必要です。副作用がほとんどないビタミンCも摂りすぎれば下痢を起こします。

7. エビデンスが少ないもう一つの理由

それは、エビデンスのデザインが栄養素の効き方にあっていないからです。

・精神疾患患者567名の個別化治療で半数以上が著明改善

・アルツハイマー病100名の個別化医療改善報告

これら2つの論文は個別化治療の結果、多くの改善が認められたという症例報告です(エビデンスレベルは4)。栄養素は競合して働き、人によって必要な栄養が異なります。だから個別化治療が必須です。アルツハイマーの薬剤開発に関わっていたデール・プレデセン博士は、あらゆる原因を一つの薬で治療するのは不適当と判断し、運動、サプリメントなどを含めた包括的な試験を提案したのですがことごとく却下されました。個別化治療は「一つの薬剤に開発予算を絞る」という製薬メーカーの利益構造とはマッチしないのです。

8. 個別化医療のエビデンスを作る方法

しかし彼はめげずに、その治療をプロトコル化した結果、多くの医師が追随し、前述の素晴らしい成果を得ました。(アルツハイマー治療の詳細はこちら)彼らのように症例報告を多く積み上げる事で、今後、エビデンスレベルの判断基準が個別化医療に対応していくことは十分に考えられます。多変量解析がコンピュータの発展により容易になった現在、それは非現実的な事ではありません。栄養療法のエビデンスの行方は、日々の改善例の積み上げにかかっています。

9. 治療ガイドラインはあくまで仮説

医学というものは、仮説の集まりだという事を知っておいてください。ネット上の健康論だけでなく、厚労省の推奨している治療も含めて全て仮説です。最近の例を見ても、厚生労働省は2015年、日本人の食事摂取基準からコレステロールの上限値を撤廃しましたし、米国医学研究所は2010年、1日のビタミンD消費量を3倍の600国際単位に引き上げました。

70年前には精神疾患に対して脳の手術をすることが標準治療でした(治療の開発者は1949年にノーベル賞を受賞しています)。治療ガイドラインなんてどんどん変わっていくもので、決して絶対的な基準ではありません。仮説だからこそ根本原因を考えることが重要です。惑わされないためにメカニズム、機序を学んでください。

栄養が足りないと言われたら、サプリで補う前に、なぜ足りなくなるのかを考えましょう。人は栄養がないと生きられない従属栄養生物だからこそ、足りない栄養に着目すると体調不良の原因を見つけやすいのです。

10. まとめ

今のエビデンスの基準は栄養療法には合っていないので、「エビデンスがない=治療効果がない」とは言い切れません。エビデンスレベルが低くとも、患者と治療家が相談を重ねる事でリスクの低い治療を選択することができます。全ての医学は仮説だからこそ、治療ガイドラインを過信せずに自分の治療は自分で決める勇気を持ちましょう。

 

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