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臨床分子栄養医学研究会

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栄養療法外来のやり方

サプリメントを体験する

宮澤賢史 · 2023年10月24日 ·

それぞれのサプリメントの上手な使い方は、ご存知でしょうか。

例えばビタミンCを使うコツは、量と摂取間隔。
マグネシウムのコツは腸内環境を整えることです。

どんなパッケージでどんな形状で、どのくらいの量が入っているサプリメントを選ぶのが良いのかもとても重要なファクターなので詳しく説明していきます。

1 ビタミンCの選び方と使い方(その①)

1-1.ビタミンCの選び方

ビタミンCを選ぶポイントは3つあります。

  • 容量が最適量のものを選ぶ
  • 遮光日に入っている
  • リポゾームタイプ

一つ目は、容量が最適量のものを選んでください。

必要最低量が日本の場合は100mg、アメリカの場合は90mgと言われていますが、その必要最低量を摂ればいいということではありません。

ビタミンCの最適量は1,000mgです。

二つ目のポイントは遮光瓶に入っているなどパッケージにこだわっているということです。

ビタミンCは強い抗酸化力を持っています。抗酸化力が強いということは、酸化しやすいということです。酸化されやすいビタミンCは光にも弱いので、遮光瓶に入っていたり、アルミのパックで個包装されているなど、遮光性が高く包装がきちんとしているビタミンCが良いでしょう。

そして最後に、油に溶けやすいように作ってあるリポゾームタイプのビタミンCを選んでください。人間の細胞膜は油でできているため、油で作られたビタミンCの方が細胞膜を通り抜けやすく、細胞の中に届きやすいからです。

1-2. 天然と合成のビタミンCの構造は同一

ビタミンCには天然100%と書いてあるものもありますが、大変コストがかかります。こちらはクリニックで購入できるビタミンCですが、左は合成のビタミンCが1カプセルに400mg、右は天然のビタミンCが1カプセル200mg入っています。


原材料名

ビタミンCカルシウム、ビタミンC、プルラン糖転移ヘスペリジン、結晶セルロースショ糖脂肪酸エステル

容量400mg/1カプセル

原材料名

アセロラ粉末(アセロラ、食物繊維)/ HPMCステアリン酸カルシウム、貝カルシウム、トレハロース、微粒酸化ケイ素

容量100mg/1カプセル

左の原材料名にはスラッシュがないので、全て添加物になります。ビタミンCは添加物扱いなので、左側は添加物の合成ビタミンCが400mg入っています。右側はビタミンC入りのアセロラの粉末が食品として入っています。天然の100mgと合成の400mg、私なら迷わず合成のビタミンCを選びます。なぜなら、ビタミンCは容量を多く使うと効果的な栄養素で、天然と合成のビタミンCの構造は同じなので容量が多い方が効果が高いためです。

モジュール1でサプリメントを効かせる4つの法則のご説明をしましたが、4番目の「改善したい場所に元から存在する栄養素を摂る」を解説します。

1-3. モルモットのビタミンC体内分布

50年くらい前の論文から取ってきたモルモットの写真ですが、モルモットは人間と同様に体内でビタミンCを作れない動物なので、人間のビタミンCの代謝を研究する際によく使われます。モルモットにビタミンCを経口摂取させて切断した写真ですが、ビタミンCに色素を付けてあるので体内のどこにビタミンCがいったかというのがわかります。

この写真から経口摂取したビタミンCは体内に均一に分布するわけではなく、脳や副腎、水晶体に分布することがわかります。その臓器でビタミンCの需要が高いため、ビタミンCは偏って存在します。脳や副腎ではビタミンCを沢山使います。

右側の写真は同じモルモットにビタミンCを点滴した写真ですが、脳、甲状腺、副腎だけでなく、腎臓、肝臓、肺、そして腸、皮膚の隅々までビタミンCが行き届いているのがわかります。ビタミンCには運ばれる優先順位があって、少量の場合は副腎と脳と水晶体に行くようにできています。

メラニンの産生抑制効果による美白効果を十分に発揮させるためには、これらの臓器に消費される以上の量のビタミンCを摂らないとあまり効果がないということになります。

1-4. ヒトの体内のビタミンC濃度

この図は2016年の論文から抜粋したものですが、人の体内で一番ビタミンCの濃度が濃い場所はリンパ球で、その次が白血球です。白血球にビタミンCの濃度が高い理由は、ビタミンCは白血球の遊走性を高める機能があるからです。傷ができたり、ばい菌が入ると白血球がその現場に急行しますが、これを遊走と言います。白血球にビタミンCが多いことから、風邪の時にビタミンCが良いということは想像に難くないと思います。

1-5. 体内でビタミンC濃度が高い場所

  • リンパ球  (免疫のため)
  • 目の水晶体 (白内障の防止)
  • 脳の下垂体 (ホルモンを分泌)
  • 副腎    (副腎疲労の防止)

このように体内で栄養濃度が高い場所は、栄養の需要が大きくなります。これはビタミンCだけでなく、他の栄養素にも当てはまることなので是非覚えておいてください。

1-6. ビタミンCは肝臓の解毒に影響する

濃度が一番高いのはリンパ球ですが、臓器レベルで考えるとビタミンCの量が一番多い臓器は、肝臓です。

肝臓は臓器自体が大きく1.5kgぐらいあるので、臓器レベルで考えると人間の体内でビタミンCが一番多く集まるのは肝臓です。肝臓で解毒を促す酵素であるCYPや、胆汁酸合成の維持にビタミンCが必要となります。

例えばラットは人間と異なり体内でビタミンCを作ることができます。ラットに毒を与えると、体内でビタミンCの合成量を増やします。反対にビタミンCが欠乏しているようなラットでは、解毒機能が低下することも分かっています。お酒を飲んだ翌日は、解毒に必要なビタミンCを沢山摂ったほうが良いということがわかります。

栄養素は均一ではなくて偏在していて、輸送には優先順位があります。ビタミンCは優先して副腎、水晶体、下垂体などに輸送されるため、栄養素が体のどこに偏在しているかを知って、効かせたい場所に多く存在している栄養を摂るようにしましょう。

サプリメントを聞かせる4つの法則の中の1つ、ドーズ・レスポンスについてご説明します。ドーズ・レスポンスというのは目的別に最適な量を摂るということです。直訳すれば量と反応の関係で、量によって達成できる目的が違います。

1-7. ビタミンC欠乏症=壊血病 Scurvy

ビタミンC欠乏症とは壊血病のことで、これは壊血病の人のスケッチです。

トーマス・スティーブンズの航海日記(1579年)によると、長い航海の末に食料と水が不足し、様々な病気が発生したそうです。歯茎が蝋のように腫れて、出血し、死亡者もいたとあります。なぜ壊血病になるとこのように内出血(皮下出血)するのかというと、ビタミンCがコラーゲンの生成に必要だからです。血管はコラーゲンでできているため、ビタミンCが欠乏するとコラーゲンが出来なくなって血管がもろくなって出血します。

大航海時代に壊血病で亡くなった人は沢山いましたが、その理由は、船にビタミンCが豊富な野菜を全く積んでいかなかったからです。でもそのことにイギリスの海軍医の人が気づいて、ザワークラフトを乗せるようになってから、壊血病になる人はいなくなりました。そのためビタミンCは壊血病の特効薬的な働きが功を奏して、「壊血病に対抗する酸」と名付けらました。壊血病はScorbicと言うので、ビタミンCの英語名は、Anti Scorbic AcidからAscorbic Acidになりました。壊血病に対抗する酸という元々の名前から、50年後の今でもビタミンCは壊血病の薬とイコールになっています。そのため壊血病を最低限治せばそれほど沢山摂る必要はない、むしろ沢山摂っても尿として流れるだけだから無駄と今でもネットに書かれていますが、真実は違います。

2005年のアメリカの論文によると、ビタミンCのRDA(必要最低量)が19歳以上の大人の場合、男性は90mg、女性は75mgとなっています。これは白血球の生理学的および抗酸化機能を保つ量に設定されており、欠乏からの保護に必要な量よりもはるかに高い量です。つまりRDAは白血球の機能を保ち、壊血病を回避できる量ということになります。

1-8. 副腎疲労には3gが必要

白血球の次に濃度が高いのが下垂体と副腎ですが、下垂体と副腎でビタミンCを消耗するのは、ストレスがかかった時です。ストレスがかかると脳の下垂体から副腎に命令が入って、副腎からは抗ストレスホルモンであるコルチゾールか出るというのが、ストレスに対抗する仕組みです。ストレスが長年続いてくると脳が疲れて、刺激ホルモンが分泌できなくなります。それに伴い抗ストレスホルモンのコルチゾールも出なくなってきて、これを副腎疲労と言います。

副腎疲労を治すためのビタミンCは、必要最低量では全く足りません。ビタミンCを3g摂るとやっとストレス反応が低下して、血圧も下がるということが分かっています。この文献からすると、副腎疲労に対抗するにはビタミンCは100mgでは足りなくて、3gは必要だということがわかります。このようにビタミンCは目的によって必要量が異なります。

1-9. ビタミンCの1回摂取率と吸収量

これはビタミンCの一回摂取量と吸収率です。

つまり一回に60mgのビタミンCを摂ると100%吸収され、100mgだと90%しか吸収されません。1,000mg摂取すると、75%の750mg吸収されます。2,000mgを一度に摂ろうとすると、吸収率は44%まで下がってしまいます。44%ということは、2,000×44%で880mgなので、1,000mg摂るのと2,000mg摂るのとあまり変わらないことになります。つまり一回に摂取できる最適量は1,000mgということになります。

では、ビタミンCはどれくらいの間隔で摂るのが一番効果が出るのでしょうか。

喫煙者や老人だと平均より下がりますが、体内のビタミンCの血中濃度は約0.7mg/dlです。ビタミンCを1,000mg摂ると30分後に血中濃度が1.4mg/dlまで上昇しますが、徐々に低下してきて4時間で元に戻ります。例えば一日3gを3回に分けて摂るとしますよね。4時間ずつ空けて摂取した場合、血中濃度が上下しそれを繰り返すようになります。

ビタミンCの効果は血中濃度に比例するため、上がった血中濃度=効果となります。上の表の場合は最高到達血中濃度が1.4mg/dlですが、ビタミンC1,000mgを1時間おきに摂ると、30分後にピークになって、血中濃度が落ちきる前に新たに摂取するとまた上がり、最高で3.9mg/dlまで上げることができます。同じ1gのビタミンCでも4時間おきと1時間おきでは効果は3倍異なります。つまり、ビタミンCを上手く摂るコツは、1gを1時間おきに摂ることです。

風邪の場合に一番良いビタミンCの摂取方法というのは、普段から1日3回1gずつ摂り、風邪の症状が出た時には、6回分足して1日9回に変更します。朝起きてから寝る前までの間1時間おきにビタミンCを摂るようにします。それだけで症状が85%減少したという論文があります。

壊血病の予防で白血球を働かせるためには90mg、副腎疲労には3g、そして風邪には9gのビタミンCが必要だということになります。

1-10. がん細胞を殺すには点滴で50g以上必要

さらにビタミンCにはがん細胞を殺す働きがあります。これは私の師であるヨルダン先生という方が2000年に発表した論文ですが、ビタミンCの濃度を異常に高めていくと、400mg/dlに到達しています。サプリメントの摂取による血中濃度に比べると100倍になりますが、400mg/dl以上になるとがん細胞が死ぬことが分かっています。

残念なことに400mg/dlというのがどんなに沢山ビタミンCを摂っても到達する血中濃度ではないんですよね。右側の表は、経口のビタミンCと点滴のビタミンCの血中濃度の到達濃度の比較です。サプリメントだけではこの濃度は到達できないので、がん治療にはビタミンCの点滴が使われています。

一般に使われるビタミンCの点滴は50mg以上です。ビタミン C というのは摂る量によって全然効果が違ってきます。

ちなみに高濃度ビタミンCの点滴のボトルには、一本あたり25gのビタミンCが入っていて、それはレモン1,250個分になります。

1-11. ビタミンCの最適量

  • 怪我を治りやすくする。壊血病を予防する 90mg
  • 副腎疲労には3g
  • 風邪には9g(1gを9回に分けて摂取)
  • 癌 ビタミンC点滴

1-12. ビタミンCを作れる動物、作れない動物

体内でビタミンCを作れない動物は人、モルモット、サルです。一般的なサルは作れますが、東南アジアに住んでいるサルは作れません。代わりに木から木へ飛び移って果物も1日ビタミンC7g分摂っています。人は60mg〜100mgとありますが、量的にそれで足りるかどうかというのは疑問です。イヌやネコは200mg、ブタは500mgです。ヤギは、人間の体重に換算して14gものビタミンCを毎日作っています。このためヤギはめったに風邪ひきません。

健康なヤギの産生量は14gですが、病気になると1日に100gのビタミン C を自分で作ります。このようにビタミン C を作れる動物は、ストレスや病気に応じてビタミンC産生量を調整します。だからこそビタミンCを自分で作れない動物というのは状況に応じて、摂取量を調整すべきではないかと考えられます。

ビタミンCは目的に応じて摂取回数と頻度をぜひ使い分けてください。

2  ビタミンBの選び方と使い方

2-1. 疲労回復にビタミンB群

疲労回復にはビタミンB群と言われますが、市販のサプリメントを例にあげるとビタミンB1、B6、B12 、B2が入っています。

三大栄養素をエネルギーに変える

  • ビタミンB1  糖質代謝
  • ビタミンB2  脂質・糖質代謝
  • ビタミンB6  タンパク質代謝
  • なかなか筋肉痛が治らない
  • 疲れが取れない
  • ぐっすり寝た後も疲労感が残って起きるのが辛い。

ビタミンBには、三大栄養素をエネルギーに変える働きがあります。

B1は糖質、B2は脂質と糖質、そしてB6はたんぱく質の代謝に関わっています。この三大栄養素をエネルギーに変えるのにビタミンBが関わっているため、疲れが取れるというわけですね。

こちらはクリニックで購入できるサプリメントの成分表示です。

この商品の良い点は、最適量が入ってるということです。厚生労働省のビタミンB1の必要量は1日1.1mgなので、その30倍近く入ってるということになります。

もうひとつおすすめサプリメントは、iHerbで購入できるビタミンBコンプレックスです。

ビタミンB1、B2、B3、B6など、色々な種類のビタミンBが入っていますが、日本のビタミンBとアメリカ製のビタミンBの違いは、活性型のビタミンが入っていることです。

VitaminB6(as Pyridoxal 5′-Phosphate):活性型B6

Phosphate:活性型葉酸

VitaminB12(as Methylcobalamin):

ビタミンBという物質を活性化することができない人もいるので、そういった場合特別に活性化ビタミンBを使う場合もあります。

2-2. ストレスが多い人のためのBコンプレックス

これは同じメーカーのBコンプレックスですが、ストレスが多い人向けの商品です。

副腎からのコルチゾール産生を刺激してストレスに対抗パントテン酸(ビタミンB5)が250mg入っています。右側のパントテン酸は110mgなので倍くらい入っています。

2-3. 活性型ビタミンB6(P5P)

こちらは活性型ビタミンB6、P5P(Pyridoxal 5′-Phosphate)です。

このビタミンB6を摂ったほうがいい人は、ビタミンB6を体内で活性化できない人です。GABA、ドーパミン、セロトニンの活性化にビタミンB6が必要です。そのためこれらが足りなそうな人にビタミンB6のサプリメントを摂ってもらい、そのビタミンB6のサプリメントでも足りない場合には活性化型のビタミンB6を摂ってもらいます。ただビタミンB6は摂りすぎると、精神的に不安定になる人もいるため、量の調節が必要です。まずはビタミンBコンプレックスを試して、それからさらに足す人は必要に応じて足してみてください。

2-4. ビタミンB6の様々な働き

ビタミンB6はタンパク質の代謝に関わっていますが、アミノ酸が成分であるヒスタミンや神経伝達物質のドーパミン、セロトニンの代謝に深く関わっています。その他肝臓の酵素であるGOT、GPTにもビタミンB6は必要です。ビタミンB6が不足すると、神経伝達物質もエネルギー代謝もうまくいかないので、色々なところにガタが出てきます。ビタミンB6の過不足を見ることは非常に重要です。

2-5. バイロルリアの症状

ビタミンB6と亜鉛が生まれつき足りない体質を持つ人をパイロルリアと言います。

亜鉛とビタミンB6が体から流れ出てしまう体質の人は、慢性亜鉛・B6欠乏です。亜鉛欠乏だと成長障害や思春期の遅れ、ビタミンB6欠乏だと副腎疲労と記憶障害の症状が出ます。夢を見ないという人はいますが、見た夢を全く覚えていないという場合が多いです。その他、ドーパミン、セロトニン、GABAなどが足りなくなってどんどん気分が不安定になる場合はパイロルリアを疑う検査をしています。

2-6. ナイアシン

ナイアシンとは、ビタミンB3のことです。i herbで購入できるナイアシンアミドの効用を見てみましょう。

  • アルコール代謝に重要
  • アンチエイジング(睡眠中に遺伝子を修復)
  • 統合失調症
  • 副作用が多い(ナイアシン・フラッシュ、肝障害)

お腹が腫れて皮膚が腫れるペラグラという病気があって、ナイアシンはその欠乏症をなくすための栄養素ですが、量を沢山摂ることによってアルコール依存症の治療に使うこともあります。今話題のNMMもナイアシンですが、アンチエイジングに使っています。ナイアシンには、寝ている間に遺伝子を修復してくれる働きがあります。分子栄養学では、ナイアシンを統合失調症に使います。統合失調症に使う場合は、ナイアシンを1000mg〜3000mgくらいの大量のナイアシンを使います。それによりドーパミンが多すぎる人の精神症状を抑えてくれることがあります。

ナイアシンのデメリットは副作用で、サプリメントの中で1、2を争う副作用率です。軽症は肌がピリピリして真っ赤になるナイアシンフラッシュです。これはそのうちに慣れが生じます。もう一つの問題は肝機能障害です。ナイアシンを大量に摂ることによって肝臓の数字が上昇する人もいるので、1000mg〜2000mgのナイアシンを摂る方は、きちんとモニターをしながらナイアシンを摂るようにしてください。

2-7. 葉酸

葉酸でおすすめなのはクリニックで購入できるサプリメントです。

葉酸は、人間の体内で細胞分裂やDNAの合成に使われます。厚労省は妊婦さんに葉酸サプリメントの摂取を推奨していますが、その理由は葉酸は二分脊椎を予防するためです。二分脊椎というのは脊柱が飛び出してしまう先天疾患ですが、葉酸が不足していて神経管の成長に問題が出てきているから起こります。この神経管の成長に葉酸が必須となります。

2-8. 葉酸の働きはDNA合成とメチレーション

葉酸はFolic Acidと言って体内で活性型のFolnic Acidになり、DNAの合成に関わって二分脊椎を予防できます。葉酸は活性化が二段階あり、さらに活性化されて、メチル葉酸というものになります。このメチル葉酸がビタミンB12と合わさりメチレーション回路を回します。このメチレーション回路は解毒に関わっています。

2-9. 活性型葉酸と活性型ビタミンB12

活性型からメチル葉酸への活性は、日本人の半分くらいが障害を持っています。障害を持っている人同士が結婚すると、お子さんにその遺伝傾向が強く出て自閉症のお子さんが発症しやすくなります。自閉症家系の人や高学歴の人に多い傾向があります。高学歴同士の夫婦のMTHFRという遺伝子を調べて二人とも遺伝子変異があった場合には、活性型葉酸や活性型ビタミンB12も予防として摂ることがあるということは覚えておいてください。普通の人は特別使う必要はありません。活性型のサプリメントの多くは、そのようにメチレーション回路を回すためにあります。

3 ビタミンAの選び方と使い方

3-1. ビタミンAはミセルタイプを選ぶ

ビタミンAはミセルタイプを選んでください。左は、ミセルタイプのビタミンAです。

ミセルタイプとは、水に溶けやすいということです。

ビタミンA、D、E、Kは脂溶性ビタミンなので、水溶性ビタミンのBやCとは少し違う性質を持っています。脂溶性ビタミンは、油に溶けるものなので吸収が良くありません。吸収を良くするために、肝臓から胆汁というものが出て油が水溶性になることによって初めて吸収されるため、脂溶性ビタミンのA、D、E、Kは食後に摂ることが大事です。ただ年齢を重ねて胆汁の分泌も悪くなると、それに伴って油の吸収や脂溶性ビタミンの吸収も悪くなっていきます。いつも肌が乾燥している人というのは、ビタミンAの吸収が悪くなっているということです。胆汁が分泌されて水溶性にしたものがミセル型です。ミセル型ビタミンAは水溶性で吸収が良いので、ビタミンAが足りない人にお勧めです。

右側はiHerbで買えるもので、ミセラライズドビタミンAです。どちらも一滴1,500mcRAE、5,000IUとありますが、5,000IUに0.3かけると1,500なので同じ量が入っています。

3-2. 用途は目と細胞分裂(皮膚や腸の修復)

ビタミンAのサプリメントはレチノールと言いますが、体内でレチナールに変換されます。

サプリメント

視力に関係→ドライアイ

細胞分裂が盛んな細胞 が影響を受けやすい→乾燥肌→リーキーガット対策

レチナールは視力の維持に関係していて、場合によってレチノイン酸に変わります。このレチノイン酸は細胞分裂をするための膜のようなもので、核に張り付くと細胞が分裂します。ビタミンAは細胞分裂しやすい皮膚と腸のような場所に効きやすいです。ビタミンAは乾燥肌にもいいし、そして腸に穴が空いた状態のリーキーガットの修復にも効果を発揮してくれます。

3-3. 上限に注意(1日2滴まで)

RDA推奨量(男性)

900mcgRAE

UL上限(男性)

3,000mcg

5000IC=1500mcgRAE

ビタミンAで気をつけるべきことは、最低量と上限の間がとても近いことです。これは脂溶性ビタミン全般に言えることですが、油に溶けるので吸収は悪いけれど、一旦体に入ると抜け出るまでに時間がかかるので、摂り過ぎると問題が起きます。

ビタミンAのRDA(推奨量は)900mcgRAEですが、上限は3,000mcgで、3倍くらいしか間がありません。1,500mcg=5,000IUなので、スポイト2滴で上限になってしまいます。ビタミンAの上限が厳しい理由は、ビタミンAを摂りすぎると奇形児が生まれることが動物実験で確かめられているためです。ビタミンAは妊娠にも必要なビタミンですが、妊娠されている方は上限を守って摂取してください。

4 ビタミンDの選び方と使い方

4-1. ビタミンDの効果は血中濃度で決まる

ビタミンDは脂溶性ビタミンですが、ビタミンAと違う点は血中濃度です。ビタミンAは、肝臓に蓄えられているので、肝臓が枯渇してくると血中濃度が下がってきますが、ビタミンDの血中濃度は人によって異なります。そのため血中濃度を見ることが、ビタミンDが効いているかを判定する指標になります。

この表には、ビタミンDの血中濃度によって予防できる病気が記載されています。ビタミンDは、現在は色々な効能を知られるようになりましたが、少量の摂取で骨が曲がってしまう病気であるくる病が予防できるので、以前はくる病の予防薬とされていました。ビタミンDは、日光を浴びることによって体内で作れるので、赤道付近にはくる病の人はいませんが、北欧など緯度が高いところには大勢います。

ただ、ビタミンDが最低量で予防できるのはくる病だけですが、他にも乳がん、大腸がん、ホジキン病、糖尿病もビタミンDで予防できることが分かっています。これらの疾患を予防するためには40〜60ng/mlに血中濃度を保つ必要があります。ビタミンDの血中濃度を測れる人がいたら、是非測ってみてください。ビタミンDのサプリメントを沢山摂っていても低い人もいるし、全くサプリメントを摂っていなくても高い人もいて、かなり個人差があります。

4-2. ビタミンDレベルが高いと免疫上がる

特にビタミンDの働きで最近話題なのは、免疫を上げるということです。

コロナの予防とビタミンDに関する論文が沢山出ています。血中ビタミンDレベルが高い乳がん患者さんは、生存率が高く予後が良好という論文もあります。乳がんと大腸がんに関しては、ビタミンDの効果は決定的です。心配な人は是非ビタミンDを摂ってください。ビタミンD結合タンパク(VitD BP)が変化したマクロファージ活性化因子(MAF)は、単球や好中球の走化性を亢進します。ビタミンDがビタミンD結合タンパクにくっつくと、身体中の免疫の司令塔であるマクロファージが活性化します。

4-3. ビタミンDは日光浴でも作られる

免役を上げるためにもビタミンDを十分摂ることが重要で、そのためには血中濃度が良い指標になります。ビタミンDは日光浴でも作られるため、日光浴でカバーすることもできます。ただし、5.5mcgのビタミンDを産生するために必要な日照曝露時間は、札幌の冬なら2,741分かかります。那覇に住んでる人ならともかく、北国だとビタミンDを十分に産生できるような日光浴は不可能です。

4-4. ビタミンDは容量がポイント

ビタミンDは血中濃度をある程度上げないといけないので、容量をいかに摂るかということが大切です。

左はクリニック専売のビタミンDですが、一粒あたりの容量は1,000IUです。最低1,000IU以上入っているものを選んでください。真ん中は海外製のビタミンD3で、これには1カプセルあたり2,000IU入っています。右は日本製のD3リキッド。これは一滴あたりが1,000IUなので、5滴とれば5,000IUということになります。IUとは、internationaru unitで国際単位です。

4-5. ビタミンD

  • 推奨量:400~800IU最適量:1,000~4,000IU
  • 心臓病リスク1割減少:1,000IU
  • 大腸癌の予防        :2,000IU

心臓病のリスクを1割減少するには1,000IUですが、大腸がんの予防には2,000IUなので、私の場合は2,000IU以上摂ることをおすすめしています。3,000IUでも4,000IUでも良いと思いますが、一日5,000IU以上摂る場合には血中濃度を測定してください。ビタミンDは脂溶性ビタミンなので、中毒になると高脂血症を起こして腎不全を起こすことがあります。ビタミンD中毒を起こして腎不全を起こした症例が多々あるので、注意が必要です。

5 ビタミンEの選び方と使い方

ビタミンEの用途は、抗酸化です。ビタミンCとビタミンEはよく対比されますが、ビタミンCは水溶性画分の抗酸化に、ビタミンEは油溶性画分の抗酸化に使われます。もう一つの用途は、抗炎症効果です。ビタミンEは慢性の炎症を抑えるという働きを持っていて、例えば脂肪肝の抑制にビタミンEは効果を奏します。

これは、i herbで購入できるビタミンEのサプリメントですが、トコトリエノール、トコフェロールと記載されています。

この成分表示で4つのトコトリエノールと4つのトコフェロールがあるところに注目してください。それぞれ、アルファ、ガンマ、デルタ、ベータと4つずつのトコトリエノールとトコフェノール、合わせて8つのビタミンEが入っています。ビタミンEは4つのトコトリエノールと4つのトコフェロールから成っています。

5-1. 天然はd-alpha、人工はdl-alpha

ビタミンEのサプリメントの注目点の1つ目は、d-alphaなのか、dl-alphaなのかです。天然のビタミンEはd-alpha、人工のもの、合成のものはdl-alphaです。ビタミンEに関しては、合成のものと天然のもので活性度が少し違いますので、できれば天然のものをおすすめします。

5-2. ビタミンEは4つのTocopherol,Tocotrienolの総称

左側は天然の8つのトコフェロール、トコトリエノールの合わさったものです。右側のはミックストコフェロールで、アルファ、ベータ、ガンバ、ベータの4つしか入っていません。

もともとビタミンEは不妊の治療薬として認知されました。ビタミンEを摂るとねずみが妊娠しやすくなった実験から、抗不妊効果はビタミンEのアルファトコフェロールが王様と思われてきましたが、実際に抗酸化力が強いのはトコトリエノールです。ビタミンC、E、B5もそうですが、天然物はお互いがお互いを助け合って抗酸化力を発揮するので、できれば8つ揃っているものがお勧めです。

5-3. 他の抗酸化サプリメントと組み合わせて摂る

ビタミンEは抗酸化力が重視されるので、ビタミンCのような他の抗酸化サプリメントと組み合わせるのが良いです。抗酸化力が強いということはそれ自身も酸化されやすいということで、酸化されたものはビタミンCが還元します。ビタミンCが酸化されたら、グルタチオンが還元してくれます。

これらの抗酸化物質は、お互いがお互いを修復してくれるように働く抗酸化ネットワークを持っているので、上記のサプリメントのようにまとめて摂れるものが効果が高いです。

6 亜鉛サプリメントの選び方と使い方

6-1. 亜鉛の用途

亜鉛のサプリメントを摂る理由は、亜鉛不足を補うか銅を排出するかの2つです。亜鉛不足を補う場合は少量でも良いですが、銅を排出するためには多めの栄養が必要です。

亜鉛不足の症状は、味覚異常です。舌の味蕾という味を知覚する場所は、細胞分裂が盛んなため、亜鉛が足りていると細胞分裂が正常に促進します。亜鉛とビタミンAはセットで働きますが、皮膚と腸にとって必要な栄養素です。

目的      亜鉛不足を補う          銅を排出する
対象      味覚異常の改善          ウィルソン病
        細胞分裂の促進          銅過剰タイプのうつ病
        (皮膚、腸、精巣、酵素)
容量      少なめ 〜30mg 多め 50mg〜
亜鉛の推奨量10mg, 上限45mg(男性)

他に細胞分裂が激しいところは、精巣や膵臓などです。膵臓はタンパク分解酵素を作っているので、亜鉛不足が起こると様々な問題が起きます。亜鉛の推奨量は10mgで、日本だと上限が男性の場合45mgとありますが、特別に銅を排出する場合は亜鉛を多く使います。

6-2. グルコン酸亜鉛

これはグルコン酸亜鉛です。

 

成分名      配合量
亜鉛        10mg
銅         0.33mg

亜鉛不足を補うのに最適
銅が欠乏しないように考慮されている

亜鉛10mgに対して銅が少しだけ入っているこのようなサプリメントは、銅が結合しないように考慮されているため、亜鉛不足を補うのに最適です。亜鉛は少量でも銅を排出する効果があり、銅の過剰摂取は問題になりますが、子供の成長や血管を作るのに銅は必要です。そのため亜鉛不足を補うときは、このような銅が少しだけ入ったサプリメントを使うのが良いでしょう。

こちらの商品は30mgの亜鉛が入っています。

亜鉛不足の解消にも使えますが、銅過剰の抑制にも最適です。ただし、銅の欠乏には注意が必要で、不足すると白髪になるといわれています。

体内で亜鉛になって効果を発揮する日本の製薬メーカーの新しい薬剤もあります。摂取した亜鉛が、腸管粘膜上皮細胞でメタロチオネインの生成を誘導し、その増加したメタロチオネインが食事中の銅と結合します。

この薬は、ウィルソン病という銅が体に溜まる病気の治療薬として、副作用が少ない薬として最近発売になったものです。

以前は銅を排出する薬が第一選択でしたが、この亜鉛は副作用が少なく自然に銅を排出してくれます。50mgを1日3回の合計150mg、最大投与量は250mg摂取します。このように大量の亜鉛を入れると、メタロチオネインというタンパク質を作って銅が体から排出されていきます。亜鉛には銅のデトックス効果もあり、過剰な銅を排出する治療には亜鉛が有効です。これもドーズ・レスポンスの一種で、目的によって量を変えます。亜鉛不足を解消したいのなら10mg〜30mg、銅の過剰摂取を治したい場合は100mg〜150mgの亜鉛を使ってください。

6-3. ドーパミンの代謝

同じことが、銅過剰型のうつ病にも当てはまります。ドーパミンは脳の中で考える力を高める、意欲を高めるという神経伝達物質でLドーパから作られます。

ドーパミンが体の中で代謝されて、ノルアドレナリンという集中力を高める神経伝達物質になります。その変換を補うのが、ドーパミンβヒドロキシラーゼ(DβH)という酵素です。この酵素には銅とビタミンCが必要ですが、適切な量の銅がないと変換がうまくいきません。反対に銅が有り余っていると、ドーパミンからノルアドレナリンへの過剰な変換が起きます。その結果、ドーパミンが下がってノルアドレナリンが大量にあふれます。ノルアドレナリンは神経の集中にとても重要ですが、多すぎるとイライラします。そういうタイプのうつ病の人の治療方法は、過剰な銅を亜鉛で排出することです。

7 カルシウム、マグネシウムの選び方と使い方

7-1. CaとMgの摂取量は互いの吸収に影響する

カルシウムとマグネシウムもブラザーイオンで、体内でお互いに助け合っています。こちらの論文は、カルシウムとマグネシウムの摂取量はお互いの吸収に影響するということについて書かれています。

マグネシウムとカルシウムを一緒に摂ると、マグネシウムの吸収があまり良くありません。マグネシウムを摂ろうと思ったらマグネシウムのみで摂ったほうがいいですが、カルシウムを摂ろうと思ったらカルシウムだけで摂ったほうがいいのかというと、そうとも言えないところが少し複雑です。

7-2. カルシウムサプリメントで心臓発作のリスクが増大

カルシウムは体の中で様々な神経伝達やホルモンの分泌、心臓を動かしたりするスイッチとして体の中で使われているため、カルシウムだけを大量に摂ると体の中で誤動作を起こします。カルシウム単独のサプリメントを摂ると心臓発作のリスクが上がったという報告もあります。

このようにカルシウムだけを単独で摂るのは危険なので、カルシウムを摂るときはカルシウムの抑え役のマグネシウムを一緒に摂ることがお勧めです。マグネシウムはカルシウムの吸収も助けてくれます。また、ビタミンDを摂ると、カルシウムを体の中に引っ張り込む作用のあるカルシウムの輸送タンパクを沢山作ってくれます。その結果、ビタミンDを摂ることで、カルシウムが体内に自然に引き込まれていきます。

乳製品にも気をつけてください。牛乳は、カルシウムとマグネシウムの比率が10:1なので、カルシウムが少し多すぎるからです。理想の比率は、カルシウムとマグネシウムを1:1で摂る、これが理想だと思ってください。

7-3. イオン化しているマグネシウムを摂る

マグネシウムは水に溶けるとイオン化する
 (イオンとは、水に溶けると電気を通す物質のこと)
ミネラルは腸の上皮細胞のイオンチャンネルを通って吸収される

ビタミンには水溶性ビタミンのビタミンBとC、そして脂溶性ビタミンのビタミンA、D、E、Kと2種類あります。水溶性ビタミンのビタミンBとCは吸収にほとんど問題がなく、ある程度以上摂ったら下痢になることもありますが、飲めば飲むだけ吸収されます。脂溶性ビタミンのA、D、Eは胆汁がないと吸収できないため食後に摂ります。それに比べてミネラルが体の中に入るためには腸の細胞にあるイオンチャネルというイオンの穴を通って粘膜上皮細胞に一旦入りますが、そのためにイオン化する必要があります。

イオンとは水に溶けると電気を通す物質のことですが、マグネシウムは水溶性の液体タイプのものがイオン化していて吸収が良いです。そうでないものはイオン化するのに胃腸が強くないと吸収が上手くいかないことがあります。

7-4. 塩化Mgはグレートソルトレークから

こちらはi herbで購入できるサプリメントで、マグネシウムが沢山入っています。

アメリカにグレートソルトレイクという大きな湖があって、ここの湖の水を濾過して使っていますが、このままだと塩分が多すぎるので、塩分だけを除去して、他のミネラルを活かす製法です。海水は最近水銀汚染が激しいですが、湖は水銀の影響を受けにくいため重金属が少ない良いミネラルだと言われています。

7-5. キレートしたマグネシウムサプリメントを使おう

もう一つミネラルを吸収させる良い方法は、アミノ酸と結合させることです。アミノ酸と結合させることをキレートと言って、アミノ酸の別の入口から入れることができます。

例えば、これはマグネシウムシトレート、クエン酸とマグネシウムをくっつけたものです。クエン酸マグネシウムは、他のマグネシウム製剤よりも生物学的利用能が高く吸収が良いので使いやすいです。

クエン酸Mgは、他のMg製剤よりも生物学的利用能が高い

7-6. お勧めMgはイオン化かキレート化

ミネラルのサプリメントを選ぶ基準は、生体利用性が高く吸収が良いイオン化してあるものかキレート化してあるものを推奨します。

左側はイオン化されているもので、右側はキレート化されているミネラルです。

ここで注意が必要なのは、キレート加工は日本では認められていない製法なので、キレート化したミネラルが必要なら外国産のものを買う必要があります。

これはクエン酸マグネシウムで、こちらもキレート化したミネラルになります。

8 鉄サプリメントの選び方と使い方

こちらはグリシン酸の鉄です。

タンパク質が小腸から吸収されやすいことを利用して、
無機鉄とアミノ酸を組み合わせて腸から吸収効率を高めたもの(キレート化)。
イオン的に中性で、他のミネラルと反応しない。
他のミネラルの吸収を妨げにくい。
便秘や吐き気などの胃の副作用も少ない。

鉄もマグネシウムも亜鉛もミネラルなので、キレート化されものが吸収されやすいです。タンパク質が小腸から吸収されやすいことを利用して、無機鉄とアミノ酸を組み合わせて吸収率を高めています。鉄は基本的に他のミネラルと拮抗しますが、このサプリメントはイオン的に中性なので、他のミネラルと反応しません。拮抗とはお互いにぶつかり合うことですが、ミネラルは全てそのような働きを持っています。例えば亜鉛と鉄のサプリメントは、どちらの吸収もお互いに妨げるので一緒に摂らないようにしてください。もし両方摂るなら朝に鉄を飲んで、夜に亜鉛を摂るというのが望ましいと思います。亜鉛のサプリメントは、朝一に飲むと気持ち悪くなる人もいるので夕方に飲むのが良いです。このグリシン酸鉄は、他のミネラルの吸収率を妨げにくくなっている上、便秘や吐き気など胃の副作用も少ないです。

8-1. ヘム鉄について

こちらは、ヘム鉄のサプリメントです。

非ヘム鉄と比べて、
吸収がよくむかつきも少ない

基本的に日本ではミネラルのキレート加工は禁止なので合成してキレートのミネラルを作ることはできませんが、元々存在している天然のミネラルを使うことはできます。ヘム鉄は自然界にもともと存在している豚の赤血球から作っています。ヘムは赤血球の中に入っているもので、それを取り出してサプリメントにしたのがヘム鉄です。ヘム鉄というのは特殊な天然のキレート鉄で、ヘムにはヘムの特別の入り口があるので、キレート鉄で鉄がうまく吸収できない人はヘム鉄を摂ってみてください。ヘム鉄でなかなかフェリチン値が上がらない人はキレート鉄を試してみるのがいいと思います。

ただし鉄は諸刃の剣で、摂り過ぎると炎症のもとになるため必ずモニターをしながら鉄は摂ってください。キレート鉄で鉄が上がりすぎてしまう人も中にはいるので、鉄は貧血を確認してから摂ってください。

8-2. 貧血(フェリチン不足)を確認してから摂る

ヘム鉄の摂取量が多いほど
癌のリスクと正の相関がある

これは2014年の論文ですが、要はヘム鉄の摂取が多いほど癌を起こすので、気をつけてください。

9 アミノ酸の選び方と使い方

9-1. グルタミン

アミノ酸は種類が沢山ありますが、ここではグルタミンを取り上げます。体に一番多く存在するアミノ酸がグルタミンで、体の修復に一番使います。体内の全遊離アミノ酸の6割なんですね。アミノ酸には必須アミノ酸と非必須アミノ酸がありますけれども、グルタミンはどちらかと言うと非必須です。ただしストレス時や侵襲時に大量に消費されて不足する条件付き必須アミノ酸なので、サプリメントで補充することが有効になります。

用途

  • ストレス時の補給
  • 低血糖防止
  • 腸管粘膜の修復(小腸のエネルギー源)
  • 筋トレ時の補給(筋肉のグルタミンが分解)

禁忌

  • 強い便秘
  • がん
  • 肝不全、腎不全
  • グルタミンで精神的に不安になる人(特に小児)

グルタミンは、ストレスで消費されるのでストレス時に補給をすることと、低血糖も防止してくれます。そしてなんといっても小腸の一番のエネルギー源ですから、腸管粘膜の修復に、リーキーガットには欠かせない栄養素になります。筋トレの際に補給しても良いでしょう。

そんな便利なグルタミンにも欠点がいくつかあり、腸の中の水分を全部奪ってしまうため、便秘気味の人が摂ると便がさらに固くなってしまうことがあります。それと、癌患者にグルタミンを補給すると、がんの成長が速くなることが一部報告されていますので気をつけてください。構造上窒素を多く含んでいるので、肝不全とか腎不全といった窒素負担が問題になる患者にはグルタミンは禁忌になります。

普段使っていて一番問題になるのは、便秘と、精神的に不安定になるお子さんです。グルタミンが体内でグルタミン酸に変わって最終的にGABAに変換しますが、その変換がうまくいかないお子さんは、グルタミンを摂ったらイライラが高まるケースもあります。そういった場合、摂るのは辞めた方がいいです。

9-2. Lグルタミン

これはクリニックで購入できるLグルタミンです。

1パックにグルタミンが3,500mg、その他カンゾウとかアロエなどが入っています。こうやってグルタミンは1日3gくらいから、多ければ15g〜30g摂ってもいいと思います。腸の修復に欠かせません。

こちらは、i herbで購入できるLグルタミンパウダーで、腸の修復に使えます。

付属の小さいスプーンで一杯が5gになっています。1日3回摂ったら15g摂れます。

10 フィッシュオイルの選び方と使い方

フィッシュオイルとは魚の油のことです。肉の油と比べて魚の油というのは、抗炎症効果と抗血栓効果に優れているため、炎症を抑えて血液をサラサラにしてくれます。

成分名        配合量

EPA        175mg
DHA        74mg
α-リノレン酸    43mg
γ-リノレン酸    54mg

オメガ3の大きな成分として、EPAとDHAというのがあります。EPAは炎症を抑えるのが得意で、DHAは脳に働いて認知症などを予防するのが得意です。神経細胞の樹状突起の形態の維持に役に立っています。この辺は、αリノレン酸とγリノレン酸です。αリノレン酸はフィッシュオイルのもとになるものです。

これはタラ肝油をそのまま加工したオイルで、EPAとDHAがそれなりの量入っています。EPAとDHAはどれくらい摂ったらいいかのおすすめは、炎症を抑える目的なら1日1,500mg以上をおすすめしています。

亜麻仁油を併用する

EPAやDHAは体内では作れませんが、必須脂肪酸のαリノレン酸を摂ると体内で合成される人もいます。そこでお勧めなのが亜麻仁油です。亜麻仁油は不飽和脂肪酸といって非常に酸化されやすい油なので、料理には使わず生のままサラダにかける、もしくは直接スプーンで飲むなどの摂り方をお勧めします。

11 プロバイオティクスの選び方と使い方

乳酸菌は沢山種類があるので何を飲めば良いのか迷いますが、最終的には相性で決めてください。こちらはコンプリート・バイオティックです。

このコンプリート・バイオティックは、色々な種類の乳酸菌が入っています。

主要成分(1カプセルあたり)

  • L. rhamnosus      60億個以上
  • B. Bifidum           50億個以上 
  • L. Acidophilus     30億個以上
  • L. Casei               25億個以上 
  • L. Plantarum        20 億個以上 
  • L. Salivarius         20 億個以上
  • S. Thermophilus  10 億個以上
  • B. Longum          10 億個以上
  • L. Blugaricus       10 億個以上
  • L. Paracasei          5 億個以上 
  • B. Lactis               5 億個以上     
  • B. Breve               5 億個以上

腸内環境を整えるには、コンプリート・バイオティックが良いです。1種類の乳酸菌だけだと腸内細菌が偏ってきます。大事なのは腸内細菌の多様性なので、色々な種類があるものがお勧めです。ウルトラフローラは少ないですが、ビフィズス菌と乳酸菌が腸の炎症を特に抑える働きを持っているので、私の場合は、最初腸の炎症が強い場合はウルトラフローラを使って、腸が落ち着いてきたらコンプリート・バイオテックに移しています。

11-1. 冷蔵便で届くのはこの2つだけ

乳酸菌には生菌と死菌がありますが、生菌は生鮮食品と同じ扱いで海外では冷蔵庫で保管して売っていて、冷蔵便で乳酸菌が届くのはこの2つだけです。冷蔵便で届くだけあって、効果が高いと思います。

11-2. プロバイオティック3

こちらはiHerbで買えるサプリメントで、プロバイオティック3は日本で言うところのビオ3です。

乳酸菌が3種類入っていて、それぞれが補完するように働きます。

11-3.プロバイオは相性がある

最終的にはプロバイオティクスは相性です。

選ぶポイント

  • 自分に合うものを選ぶ
  • わからない場合は、お腹が張らないもの、良い便が出るもの
  • 良い便とは、無臭、黄褐色、バナナ状便が最低1日1回出ること

腸内細菌は人によって異なるので、いくつか試して自分に合うものを見つけてください。自分に合うものとは、お腹が張らないものと良い便が出ることです。乳酸菌を摂ってお腹が張りすぎる人は、SIBOなどの病気の可能性があります、良い便というのは無臭、黄褐色、バナナ状の便が最低一日一回出ることです。形、回数、色、臭い、この4つをチェックしてください。良い便が毎日出るようになったら、体に合っているサプリメントということだとと思います。

11-4. まとめ

今回はモジュール1でも紹介した必須栄養素がやっぱり足りないので、その必須栄養素の中でどういうものも摂るべきか、それぞれのサプリメントについて紹介しました。

  • まずは必須栄養素から摂りましょう。
  • 必要最低量でなく最適量が入っている。
  • 原材料に余計なものが入っていない。
  • 信頼できるメーカーの製品が安心です。
  • 日米間のサプリメントの考え方の違いを理解する。

第1に必須栄養素、第2に最低量でなく最適量が入っているものを、3番目に原材料に余計なものが入っていない、そして信頼できるメーカーの製品が安心だと思います。素人ではサプリメントの良し悪しは根源的なところまでは分からないので、情報を公開するメーカーが安心だと思います。そして5番目に、日米間のサプリメントの考え方の違いを理解してください。日本ではサプリメントは食品、アメリカでは半分治療の道具として使われているので、薬よりの機能を持ったものもあります。活性化ビタミンやキレート化ミネラル、吸収に工夫したものもあります。その場に応じて必要なものを使い分けたら良いでしょう。

11-5. 課題

  • 必須栄養素のサプリメントを一通り購入して試してみましょう。
  • サプリメントはあくまでも一例であり、必ずしもこの通りに購入する必要はありません。
  • サプリメント選びの原則を元に、自分の信頼できるメーカーを見つけてください。
  • 自分に合った個別化サプリメントの方法はモジュール5でお話しします。

必須栄養素のサプリメントを一通り購入して経験してみて、他にどんなものがあるか、ご自分の判断で色々と購入してみるのも楽しいと思います。ここでご紹介したものは、あくまでも一例で必ずしもこの通りに購入しなければいけないわけではありません。大事なのはサプリメントレベルの原則をきちんと知っておくことです。それを元に信頼できるメーカーを見つけてください。色々買ってみたらメーカーに問い合わせしてみるのも良いと思います。

精神疾患の栄養療法

宮澤賢史 · 2021年10月12日 ·

うつ病、統合失調症、ADHDなどの精神疾患にどのような栄養療法をしていけば良いのでしょうか。

本日の内容は、神経伝達物質の代謝に栄養が大きく関与しているのでその仕組みを知り、実際にどのようにしてそれらを判別するか、それを基に薬やサプリメントどのように使っていくかということについてお話します。

1.神経伝達物質の代謝とメチレーション

1-1. 本日の内容

・神経伝達物質の代謝
・神経伝達物質再取り込みトランスポーターたんぱくの合成に栄養素が大きく関与している
・神経伝達物質の状態を血液検査や症状などから推測できる
・それを元に薬剤や栄養サプリメントを調整することで症状の安定化を図れる

脳のバランスをとるのに重要なのは神経伝達物質の代謝とメチレーションの2つです。昨今、ゲームが流行っているのは、競争心を煽りご褒美をもらえ、毎日めまぐるしく変わる人間の報酬系に対する仕組みを全部実現しているためです。自分に役に立つことをすると脳からドーパミンが出て嬉しい気持ちになることを報酬系と言いますが、それがどんどん活性化していくと最終的に依存症になります。

Facebookもそのような報酬系の仕組みの尤もたるもので、「いいね」が今日は何個付いたかが気になる場合、完全に報酬系の奴隷となっています。

このように依存症は比較的身近な話ですが、精神疾患を持っていたり、生科学的なインバランスがある人は、まず脳の生化学状態を整えてから食事療法を取り入れた方がスムーズです。

脳細胞は脳の中に1,000億個あり、その細胞のひとつひとつが隣の1,000個の細胞と繋がっています。それをシナプスと言います。人の思考、行動、感情は全て、神経伝達物質と呼ばれる特別な物質が脳細胞から脳細胞に伝えられて起こります。

脳の刺激は電気で伝わり、電気回路がショートしないように少しだけ離れています。神経伝達物質という特殊な物質が伝達されることによって、考えたり行動したり、色々な感情が沸き起こったりします。

神経伝達物質はドーパミン、セロトニン、GABAなど何種類もあり、全て栄養から出来ていてそのまま脳機能に直結しています。ドーパミンはフェニルアラニン、セロトニンはトリプトファン、GABAはグルタミンという必須アミノ酸から代謝されてできています。グルタミンは条件付きの必須アミノ酸です。

分子栄養学とはもともと分子栄養精神医学から始まっていて、ライナス・ポーリング博士は、「脳は身体の他の部位に比べて栄養の影響を受けやすいから、精神医学から始めた方がいい」ということを提唱してます。

1-2. モノアミン仮説

多くのうつ病の薬は、モノアミン仮説に基づいて設計されてます。

・うつ病患者で 脳脊髄液中の5-HIAAの低下が見られる
・セロトニンの前駆物質であるトリプトファンをモノアミン酸化酵素阻害剤に併用すると抗うつ作用が増強する
これらのことから、うつ病患者の脳ではセロトニン神経伝達の機能低下が起きているという仮説が立てられる
                 Br J Psychiatry: 1967, 113(504);1237-64

うつ病患者の脳の脊髄液に5-HIAAというセロトニンの代謝産物が低く、うつ病の薬にトリプトファンを一緒に併用すると改善することから、うつ病患者の脳ではセロトニンがうまく働いていないのではないかという仮説が立てられ、これをモノアミン仮説と言っています。現在ではうつ病だけでなく、統合失調症や気分障害などもこのような仮説をもとに治療されています。

1-3. うつ病患者のすべてが低セロトニンとは限らない

問題は、うつ病の患者さんに実際にセロトニンが低いかどうかを検査していないままセロトニンを増やす薬が処方されるため、セロトニン症候群を起こす人がいるということです。セロトニン症候群とは、セロトニンが増えすぎて起きる副作用のことです。

SSRIとはセロトニンの取り込みを押さえて、シナプスでのセロトニンを増やす薬ですが、効果が見られないだけではなく副作用を起こす人がいることが問題です。セロトニン過剰となり、衝動性や攻撃性、自殺念慮を引き起こしたりします。基本的に栄養療法を含め、全ての治療は各人のセロトニン濃度に応じて量を調節する個別化医療が求められます。

今日の話は、精神疾患に対する栄養療法において、最大のデータベースを持っているウォルシュリサーチ・インスティチュートを基に構成されています。

ウィリアム・ウォルシュ博士
精神疾患患者に対して行った生化学検査数は300万件以上にわたり、過去に執筆した科学論文や記事200本以上

(行動障害 10,000件、ADHD 5,600件、統合失調症 3,500件、うつ 3,200件、自閉症 6,500件)

世界14ヵ国で300名以上、現在まで28ヵ国以上もの国で臨床医向け講演。

ウォルシュ博士の栄養療法を私が採用している1番目の理由は、分子栄養学の創始者のエイブラハム・ホッファー先生の正当な流れを組んでいるためです。ウォルシュ博士は、長年ホッファー先生と一緒に活動されてきた先生です。

2番目の理由として、その考え方をさらに発展させてエピジェネティクスという考え方を取り入れていることです。このエピジェネティクスとは、栄養が遺伝子の発現をコントロールしてるという意味です。この考え方が取り入れられるようになってから、今までよく理解できなかった精神医学の根本原因が判明しました。

3番目にはエビデンスが多いことです。去年亡くなったジャック・チャレムという方にメチレーションに関してアメリカで一番エビデンスが多い人を紹介してくれないかと頼んで紹介して頂きました。2年前、日本で講演をしてもらいましたが、内容がとても良かったのでシカゴに行って彼の研修を受けてきました。

1-4. 栄養素を併用した個別化医療

ウォルシュ博士は、個体差の重要性が大切で、心の病に対しては栄養素の不足よりも過剰摂取がより多くの悪影響を及ぼすとおっしゃっています。

鉄、メチオニン、葉酸、銅などは、過剰に投与するとかえって症状が悪化することがあるので、僕の場合、精神疾患の人は最初にマルチビタミン摂っていた場合は一時的に辞めていただいてます。

低メチレーションの人に葉酸を投与すると悪化します。葉酸はマルチビタミンにも入っているので、ウォルシュ博士によるとマルチビタミンも1度やめたほうがいいそうです。食事中の葉酸に関してはOKですが、栄養素でかえって悪化することがある程、脳はとても不安定です。

これに関しては自閉症の権威エイミー・ヤスコ博士も同じようにおっしゃっています。

下記は、脳のインバランスを的確に把握した個別化医療がどのくらい効果があるかという2010年のウォルシュ博士の論文です。

自閉症スペクトラム、ADHD、アスペルガー症候群、不安、双極性障害、うつ病、統合失調症および強迫性障害(OCD)を持つ患者567名に対して12か月間個別化治療を行い、QOLの改善度インタビューを行った。

110例(23.6%)が脱落、
221例(44.9%)大幅改善、91例(18.5%)が部分的改善

ACNEM Journal Vol 29 No 3 – November 2010

自閉症でほとんど改善しているのが45%、部分的な改善が35%、合わせて8割の人に何らかの改善が見られています。ADHDや躁鬱病など7〜8割の人に改善が見られてるという大規模な論文です。

1-5. 神経伝達物質の代謝とメチレーションに栄養素が大きく関与する

神経伝達物質の代謝

様々な神経伝達物質がある中、今日の主役はドーパミン、ノルエピネフリン、セロトニン、GABA、グルタミン酸です。

ドーパミンはフェニルアラニンからテトラヒドロビオプテリンや、ビタミンB6の影響を受けて代謝されます。ビタミンB6が不足すると、ドーパミンが生成されません。そしてドーパミンからノルエピネフリンへは、ドーパミンβヒドロキシラーゼという酵素によって転換されますが、そこに銅が重要となります。銅過剰になるとドーパミンが減って集中力を高めてくれる神経伝達物質であるノルエピネフリンが増え、過剰になると不安な気持ちが出てその結果意欲がなくなってきます。

ビタミンB6はセロトニンやGABAの合成にも一役買っているので、特にピロール障害があるビタミンB6が少なくなってしまう体質の人が、ドーパミン、セロトニン、GABAは作られにくくなります。

また、グルタミン酸は、グルタミン酸受容体にくっついて効果を発現します。グルタミン酸は学習や記憶にとても大事ですが、多すぎると興奮を引き起こすため、特に自閉症のお子さんには問題となります。過剰なグルタミン酸の働きを強くするのはカルシウムで、働きを抑えてくれるのは亜鉛とマグネシウムです。 

気を付けなければいけないのは銅と亜鉛のバランスです。銅と亜鉛はブラザーイオンで、お互いを抑えるように働いています。銅過剰の場合、亜鉛を沢山投与すれば、自然と銅が下がってきます。

これはNMDA型のグルタミン酸受容体です。

症状
目を合わせない、攻撃的、stims、自傷行為。ぼっーとする(オピオイド受容体も刺激される)

受容体抑制   
マグネシウム
亜鉛
リチウム

グルタミン酸の神経の過剰興奮がカルシウムの流入を引き起こして細胞死を引き起こします。自閉症のお子さんの脳を解剖してみると、多く見られるのは鉄とカルシウムで、カルシウムが異常に流入してるので神経細胞が死んでしまい、グルタミン酸神経の過剰興奮により脳に炎症を起こしています。

上記の症状を抑えるため、自閉症のお子さんはグルタミンを食事から抜かなければいけない時期があります。グルタミン酸からGABAへの転換がうまくいかないため、グルタミン酸が溜まってしまうためです。それはビタミンB6不足なのかもしれないし、水銀の蓄積なのかもしれません。グルタミン酸からGABAへの転換には色々な要素が必要で、ビタミンAやビタミンKの不足もこの転換を阻害してしまいます。

この過剰なグルタミン酸神経の細胞死を防ぐのが、マグネシウムや亜鉛、リチウムなどです。脳の生化学状態をコントロールするのは2つです。一つは神経伝達物質の代謝、もう一つはメチレーションです。

1-6. メチル化について

メチレーションはメチル化とも言い、メチル基が色々な物質に結合し化学構造が変わって、様々な変化が起きたり代謝が進みます。メチル化は分子や、シナプス、ヒストン、DNAなどにも起こります。

例えば、水銀にメチル基がつくとメチル水銀になります。無機水銀に比べてメチル水銀が悪いのは、体が食べ物として認識して腸からそのまま吸収され、脳や脂肪に行ってしまいます。魚の水銀はメチル水銀です。

また、子宮内でDNAに起きるメチル化は、妊娠の2、3週で確立して一生続きます。肝臓も目も皮膚も全ての細胞は同じDNAを持っていますが、なぜ肝臓になったり皮膚になったり目玉になるかというと、DNAの読むところが違うからです。メチル基が結合しているところは読まなくなります。

僕は一夜漬けタイプで、試験前になると教科書で絶対出なさそうな箇所は、山をはって思い切ってバツをつけていました。集中力を高めるためそこが目に入らないようにバツをつけるようなもので、DNAのメチル化とは、DNAの中で読まないところを設定されるということです。

この子宮内で起こるメチル化がうまくいかないと、余計な遺伝子が発現してしまい問題になります。自閉症のお子さんは、98%低メチル化です。遺伝的な要因で、ほとんどの場合両親が低メチル化なら、低メチル化同士の組み合わせで低メチル化になりますが、本当はメチル基がつかなければいけないところに子宮の中で低メチル化が起きて活性酸素に弱い個体ができやすくなります。

妊婦はそれを防止するために、葉酸を摂ることが推奨されてます。葉酸を摂らなければいけないのは妊娠2、3週目なので、妊娠する前から計画的に葉酸を摂らないと間に合いません。妊娠2ヶ月と言われたときには、もう遅いのです。

また、今回一番の話題は神経伝達されるシナプスで起こるメチル化です。メチル化とは、メチル基がくっつくことですが、メチル基はほとんどがメチレーション回路によって作られるSAMeによって供給されます。メチレーション回路で作られるメチル基の最大の供給源がSAMeなので、メチレーション回路が回ってない人はSAMeが少ないです。メチレーション回路は遺伝子変異や環境によって左右されます。

この遺伝子変異を回避するサプリメントが、活性化葉酸です。このシナプスで起こるメチル化は、シナプス間隙の神経伝達物質を減らす効果があります。シナプスにおけるDNAのメチルレーションと、全身におけるメチレーションがあります。

下記はメチレーション回路です。

メチレーション回路でメチオニンというアミノ酸をもとに、それがアデノシル基がついてSアデノシルメチオニンになります。このSAMeがメチル基の供給源なので、メチレーション回路が回ってない人はメチル基が十分供給できません。ここでできたメチル基は、DNAのヒストンに結合します。

1-7. 核と染色体とDNAとヒストン

染色体をバラバラにすると、DNAとヒストンからできています。ヒストンとはこのDNAの長い紐を巻いておく糸巻きのようなものです。DNAは一つの細胞の中で伸ばすと1.8メートルくらいあり、このヒストンという糸巻きでぐるぐる巻かれているために1/1000ミリの核の中に入ることができます。そのため、昔はヒストンはDNAを絡ませないようにするためのものという風に思われていましたが、実はヒストンはDNAの発現に大きく関与しています。

1-8. 転写が起こるしくみ

転写はDNAからタンパク質が作られる過程の一部で、DNAはmRNAにコピーをされて、そのmRNAをもとにタンパク質が作られます。この一連の過程を転写と言います。

エンハンサー領域に転写因子タンパクが結合することがはじまり

タンパク質が作られるためにはまず転写が行わなければなりません。転写は遺伝子のエンハンサー領域に転写因子タンパクが結合することから始まります。そのためエンハンサー領域にタンパクが結合できないと、タンパク質は作られません。

ヒストンは塩基性が強いので、酸性のメチル基が結合すると、ヒストン同士は縮んでエンハンサー領域に転写因子が近づきにくくなります。

ヒストンは強い塩基性のタンパク質であり、酸性のメチル基と親和性が高く、
アルカリ性のアセチル基とは反発しあう

逆にこのヒストンにアルカリ性のアセチル基が結合すると反発しあうため、ヒストンとヒストンの間が離れて、転写因子が近づきやすくなり、タンパクの合成が促進されます。メチル基が付くと、構造が密になり転写因子が近づきにくくなるので転写がストップするという仕組みです。

1-9. シナプルにおけるセロトニン量はメチレーションに比例する

メチル基がメチル化されるとタンパクの合成が止まり、これはすべてのタンパク質に当てはまります。メチル化が進むとヒストン同士が縮み、メチル化が進まないとヒストン同士は離れて、タンパクが作られます。

メチレーションが亢進している人はシナプスの再取込タンパク合成が抑制されており、
シナプス間隙におけるセロトニン、ドーパミン量は増加している
メチレーションが低下している人は、セロトニン、ドーパミン量は減少している

シナプスにおいて問題になるのは、セロトニンの取り込みのタンパクのことを指しています。タンパクが沢山作れるということは、このセロトニン取り込みタンパクが沢山増えます。この場合はタンパクが少ないためセロトニンの取り込み口が少なくなり、シナプスの間隙にセロトニンが沢山余ってしまいます。

逆にセロトニン取り込みタンパクが沢山増えるということは、どんどん取り込まれてしまいシナプス間隙にセロトニンが減ります。メチレーション亢進=神経伝達物質の増加で、メチレーション低下=セロトニン、ドーパミン量低下です。

オーバーメーションやアンダーメチレーションについては後ほど詳しく説明しますが、オーバーメチレーションとはメチレーションが亢進しいてることで、アンダーメチレーションはメチレーションが低下してることを言います。オーバーメチレーションでは、セロトニンもドーパミンも沢山分泌されますが、アンダーメチレーションはどちらも分泌されません。

アンダーメチレーション=回路が回らなくて、メチル基が足りないこと
オーバーメチレーション=メチル基が多くて、余っていること

アンダーメチレーション状態

自閉症スペクトラム  98%
反社会的人格障害    95%
統合失調感情障害   90%
反抗挑戦性障害    85%
神経性食思不振症   82%
うつ病        38% 

オーバーメチレーション状態

パニック障害      64%
妄想型統合失調症  52%
ADHD         28%
行動障害        23%
うつ病        18% 

オーバーメチレーションの人は神経伝達物質が多すぎるので減らし、アンダーメチレーションの人は少なすぎるので増やしてください。メチレーションの状態を診ることがとても大切です。

一般的に、自閉症スペクトラムの人は、98%アンダーメチレーションです。様々な人格障害とか、神経性食思不振症、82%の人がアンダーメチレーションです。反対にドーパミンが多すぎるオーバーメチレーションの人は、パニック障害や、いわゆる典型的な妄想型の統合失調症、幻覚が見える統合失調症も含まれます。

アンダーメチレーション

オーバーメチレーション

  1. メチレーション回路の遺伝子変異
  2. ヒスタミン過剰負荷
  3. たん白不足 
  1. クレアチン合成障害 AGAT GAMTのSNP
  2. アルギニンまたはグリシン不足
  3. メチルトランスフェラーゼSNP

アンダーメチレーションになる原因は、メチレーション回路の遺伝子変異です。メチレーション回路がうまく回らないのは、遺伝子に変異があることが一番の理由です。特に問題になるのは葉酸の活性化の遺伝子のMTHFRです。

反対にオーバーメチレーションになる一番の原因は、クレアチン合成障害で筋肉を作る酵素がうまく働かない人です。メチレーション回路で作られたSAMeは、7割が筋肉を作るために使われます。筋肉をつけられない人は、その酵素の分だけSAMeが余ります。オーバーメチレーションの人は、鍛えても鍛えても筋肉がつきません。

1-10. 第一部まとめ

  • 神経のバランスは、神経伝達物質の合成や分解に必要な補酵素、シナプスにおける再取込トランスポーターなどの影響を強く受ける
  • 神経伝達物質の代謝には銅とビタミンB6が必要
  • ビタミンB6不足で ドーパミン↓、セロトニン↓、GABA↓
  • 銅の過剰で、ドーパミン↓、ノルエピネフリン↑,酸化ストレス↑ ✽ ✽神経伝達物質再取り込みトランスポーターたんぱくの合成(つまりシナプスにおける神経伝達物質の再取込量)にはメチレーションが大きく関与している
  • アンダーメチレーションではシナプス間隙のセロトニン↓、ドーパミン↓
  • オーバーメチレーションではシナプス間隙のセロトニン↑、ドーパミン↑

神経伝達物質の代謝とメチレーションによって脳の全体の生化学状態が決まります。つまり銅と亜鉛のバランス、ビタミンB6の不足、メチレーション状態を見れば良いということです。

2. うつ病のタイプ別分類

2-1. うつ病を脳内の生化学状態で分類

こちらは日本語訳されているウォルシュ博士の本です。

博士は、うつ病の分類を大まかに5つに分けてます。精神疾患を持っている人は2/3がメチレーション異常で、2/3はメチレーション正常です。メチレーション異常の人や、銅亜鉛バランスが狂ってる人は症状が特徴的です。

アンダーメチレーションタイプ(38%)

メチレーションが低下しているタイプの人は、ドーパミンが少ないです。

  • 強迫神経症状
  • 季節性アレルギー
  • 完璧主義
  • 競争心が強い
  • 学校の成績はよい
  • 儀式的な行動
  • SSRIが効果的

強迫神経症状を持つ人は、いつも同じ方から靴下を履き、いつも同じ道を通って学校に行く、いつも同じ食事をとらないと気が済まないなどの行動をとります。ヒスタミンが多くなるため、季節アレルギー出やすいです。そして完璧主義で競争心が強く、負けず嫌いです。

オーバーメチレーションタイプの人はドーパミン過多の人です。

オーバーメチレーションタイプ(20%)

  • 鬱に加えて不安やパニック
  • SSRIや抗ヒスタミン薬に対して不耐性、
  • 化学物質アレルギーを持つ
  • 症状にもかかわらず、気立てのよい優しい人が多い
  • ADHDや学業不良といった症状は
  • アンダーメチレーションタイプの人の3倍

ドーパミンやセロトニンが多すぎて鬱になる人もいますし、不安症状がとても強いという特徴があります。なにかにつけて不安なので、パニックを起こしたりしますが、SSRIやボルザックなどの薬に対してかえって悪化する場合もあります。様々なことが次から次へと頭に浮かんできて、思考がまとまらない人が多いです。ドーパミンが大量に出たら学校の成績が上がりそうですが、意外とそうでもなく、絵が上手だったり音楽的な才能があったり芸術家思考の人が多いです。

2-1. メチレーションと症状

メチレーション状態には低メチル化と高メチル化があり、低メチル化の原因は葉酸の活性化酵素の変異が一番です。

ヒスタミンを代謝している酵素でもあるSAMeの合成が低くなるので、ヒスタミンが多くなって花粉症になります。メチレーション回路が回らないとドーパミンの合成が下がって、依存症体質の人が多いです。クレアチン合成酵素にメチル基が回るため、筋肉量は多くテストステロンが多くなり、性欲も強いです。

反対に、高メチル化の人はクレアチン合成酵素が下がっているため、いくら鍛えても筋肉がつきません。高メチル化の人はSAMeが余るので、ドーパミンがどんどん構成されます。創造性に長けていて喋り始めたら止まりません。検査はヒスタミン量で判定し、好塩基球の実数を測ります。

2-2. 評価法 ヒスタミンと好塩基球

ヒスタミンはSAMeによって代謝されてメチルヒスタミンになるので、低メチレーションの人はSAMeがあまり作られず、ヒスタミンが溜まって色々な症状を引き起こします。

上記のサプリは、ヒスタミンを代謝する酵素であるジアミンオキシダーゼです。消化酵素や高ヒスタミン薬を使うと、ヒスタミン量が狂ってしまいますが、一般的にはヒスタミン量からメチレーション状態が推測できます。血液中のヒスタミンは98%好塩基球の中に入っているため、好塩基球数で測定します。

ウォルシュ博士は全血中のヒスタミン濃度を測ることを推奨していますが、全血中のヒスタミン濃度を測れる検査会社が日本にはないため、血液中の好塩基球数から推測します。

2-3. 好塩基球数を求める

好塩基球数の求め方は、白血球×好塩基球の割合をかけてそれで100で割ってください。

白血球数 × 好塩基球(BASO)の割合(%)÷100

白血球数4800×
好塩基球(BASO)の割合(%)2.5÷100=120

好塩基球数<30 なら OM
好塩基球数>70 なら  UM

好塩基球数が30以下ならオーバーメチレーション、好塩基球数が70以上ならアンダーメチレーションなので、この方の好塩基球数はとても多いとわかります。

さらに詳しく診るためにはSAMeと、SAMeが代謝されたS-アデノシルホモシステインの比率を測るドクターズデータ社のメチレーション検査もあります。

もしこの検査をされるなら治療の前に行なってください。治療の後にやると結果が狂ってくることが多いためです。

2-4. 銅過剰タイプ(17%)

銅は人間の成長に不可欠な因子なので、妊娠中に上がったり、お子さんも上がります。ただ一部の女性では、出産後、正常に戻るべき銅のレベルが下がらない人がいて、これを銅過剰タイプといいます。

  • 強い不安感・パニック傾向がある
  • 産後うつ病を引き起こす可能性がある
  • 活動的である
  • SSRIで不安が増強する
  • 安定剤ではうつが治らない
  • ピル、ホルモン補充療法で悪化する
  • 敏感肌である

銅過剰タイプの95%が女性で、特にエストロゲン値が高くなる思春期、更年期、妊娠期に発症することが多いです。銅過剰になると、ドーパミンからノルエピネフリンへの過剰転換が起き、不安、パニック傾向や、産後うつ病の大きな原因になります。薬が効かないため、SSRIや安定剤でも効果がありません。そしてエストロゲンは銅をさらに悪化させるので、ピルで悪化するというのも特徴です。オーバーメチレーション状態と銅過剰状態の人が混合で合わさっている場合もいます。

2-5. 銅過剰の症状

検査では、銅と亜鉛のバランスを見ます。

セルロプラスミンを測ってる人は、酸化ストレスに直結する遊離銅を測ることも大事です。栄養サプリメントの中で特に鉄と銅は活性酸素の発生源になるので、気を付けてください。

鉄の害が出やすい人は鉄を乗せるタンパクの残りであるUIBCが少ない人です。いわゆる空の台車です。その数字が通常200なので、100ある人は鉄の害が出やすいです。銅に関してはセルロプラスミンというタンパク質が少なくて、遊離銅が多い人が銅の酸化ストレスの影響が出やすくなります。

2-6. 銅過剰の評価

銅過剰の評価方法は下記の通りです。

  1. 血中銅↑(>110)
  2. 血中亜鉛↓(<90)
  3. 遊離銅比率↑(>25%)

銅過剰活性酸素のことを考えなければいけません。血中度が高くて、血中亜鉛が低く、さらに遊離銅比率が高いことです。

遊離銅比率の計算式は下記のとおりです。

( 血中銅 – セルロプラスミン×3 )/血中銅 x100 (%)

遊離銅の比率が高い方はセルロプラスミンを増やすことが大事で、セルロプラスミンを増やすのに有効なのはビタミンAです。

2-7. ピロール障害について

ピロールとはヘモグロビンを作る時の副産物で、多く作られると尿中に排泄される物質です。体の中での重要性はそれほど多くないので、作られた側から排泄されていきますが、問題なのはビタミンB6と亜鉛が非常に結合しやすいので、沢山作られる人はB6と亜鉛が体から抜けていきます。このような体質の人のことを、ピロール障害といいます。

これは体質で、生まれつきB6と亜鉛不足なので、10歳になる前から症状が出ることが多いです。神経伝達物質のセロトニン、ドーパミン、GABAは全てB6に依存しているので、これらが不足してしまうがために不安やうつの症状が出ます。気分の変動が激しく、双極性障害(躁鬱病)と診断されることもあり、躁と鬱を繰り返し、気分が1分単位で変わることもあります。

ピロール障害の人はストレスがあると症状が悪化するため、亜鉛とビタミンB6を増量する必要があります。ビタミンB6が不足し短期記憶障害が出て、夢が思い出せない、本が読めないという症状が出てきます。

このピロールタイプの人は副腎疲労にとても似ていて、朝が弱く夜がとても強いです。ストレスに弱く、朝弱く夜強いという傾向は、副腎疲労にとても似ているので、ピロール障害の人が隠れていることがあります。

2-8. パイロルリアの評価

ピロール障害は、下記の二つの方法で評価します。

①尿中ピロール

尿中のピロールが15を超えたらピロール異常です。ただこの検査もハードルが高いので、亜鉛とビタミンB6が足りていないかどうかということから推測しましょう。

②亜鉛、B6量から推し量る

血中亜鉛↓、GOT>GPT、尿素窒素↓

血中の亜鉛の濃度と、GOTとGPTの差がB6不足を反映します。ピロール障害には尿素窒素の低下も関わってきます。

  • GOTとGPTは、共にビタミンB6を補酵素とするアミノ基転移酵素である
  • ビタミンB6は様々なアミノ基転移酵素の補酵素として働くが、その中でもGOT,GPTの活性が特に高い。
  • GPT ↑ なら肝機能障害 (脂肪肝、ウイルス肝炎)
  • GPT ↓ なら酵素、補酵素の活性が低下
  • GPTのほうがB6の不足の影響を大きく受ける。
  • 両者共に低めで、GPTがより低い場合には、B6不足
  • 両者共に高めで、GPTがより高い場合には、脂肪肝 (B6不足と脂肪肝があると、一見正常範囲に見える)

下記は、アラニン回路という経路です。

筋肉では糖新生ができないため、ピルビン酸がアラニンに代わり肝臓に行って、そこからグルコースが新生されます。その際に尿素ができるので、この回路がうまく回る人は尿素窒素の数字が高めです。

この回路がうまく回るためには、ピルビン酸からアラニンへの転換がされなければいけませんが、このピルビン酸とのアラニンの転換をするのがALT(GPT)です。ビタミンB6が足りない人はピルビン酸、アラニンの転換がうまくいかないため、尿素が下がってきて尿素窒素が一桁という人も中にはいます。

2-9. パイロルリアの症状

ピロール障害の症状は、ビタミンB6と亜鉛欠乏によるところが大きいです。

爪に白い斑点があると分かりやすいですが、亜鉛不足でALPが下がって成長障害が起きます。また、B6不足なので、副腎疲労症状や短期記憶障害が出たり、気分が不安定になります。

オメガ6系の脂肪酸がうまく作れないというのもパイロルリアの特筆すべき症状です。そのため、ウォルシュ博士によるとパイロルリアの人はオメガ3を摂りすぎてはいけないとのことです。

2-10. 重金属蓄積タイプ(5%)

  • 突然鬱が現れる
  • 腹部の痛み、けいれん
  • イライラ
  • 頭痛、筋力低下
  • エネルギー切れ
  • カウンセリング、薬が効かない

どれにも当てはまらない場合は、鉛や水銀、カドミウム、ヒ素などの重金属について考えてみてください。見分け方としては何のきっかけもないのに突然鬱になったりします。腹部症状があり、イライラや怒りが出てくることがあります。それぞれの暴露歴からも判断していかないといけませんが、他の4つの病態と重なってる場合がありますので問診が大事です。

2-10. 第2部まとめ

① 評価すべき事項

  1. メチレーション状態 亢進?低下?正常?(ドーパミン量を左右する)
  2. 銅過剰はないか?(活性酸素の発生量、ノルエピネフリン量に影響)
  3. パイロルリアはないか?(亜鉛↓、B6↓により様々な影響)
  4. 消化管の問題はないか?
  5. 重金属の影響はないか?

メチレーション状態、銅過剰、パイロルリア、の他に、消化管の問題がないかを確認してください。消化管の問題があれば必ず鬱になります。そして重金属の影響も聞いてみてください。複数の異常が合併することがあるので注意してください。特に合併しやすいのはメチレーションの低下とパイロルリア、メチレーション過剰と銅過剰です。

②うつ病の生化学タイプと神経伝達物質のアンバランス

   うつ病の生科学タイプ           神経伝達物質活性
     低メチレーション         低セロトニン、低ドーパミン
     高メチレーション         高セロトニン、高ドーパミン
      銅過剰               高ノルエピネフリン
     ピロール異常            低セロトニン、低GABA
病名でなく、メチレーション、栄養状態で処方を決める

うつ病の生化学タイプと神経伝達物質は、低メチレーションの場合は神経伝達物質は低くなり、高メチレーションの場合は高くなります。銅過剰の場合はドーパミンが低くなってノルエピネフリンが高くなり、ピロール異常の場合はB6が不足するので、セロトニンもGABAもドーパミンも作られにくくなります。

大事なのはうつ病、統合失調症、ADHDとかの病名ではなくて、脳の中の生化学状態で栄養療法を決めていくということです。うつ病でもセロトニンが高い場合と低い場合とあります。

3. タイプ別治療

生化学治療の原則

・神経伝達物質の合成に必要な栄養素の濃度を正常化する事。
→亜鉛、銅、B6の事

・標的栄養療法を使い、神経伝達物質の活動性を
エピジェネティックに制御する事→メチレーションの調節をするという意味

・フリーラジカルの酸化ストレスを軽減する事
→抗酸化治療(一番大事な抗酸化物質は亜鉛)

抗酸化物質も色々ありますが、大事なのは亜鉛、グルタチオン、セレンです。グルタチオンは体の中で作られる物質ですが、これら3つの抗酸化力が強いです。

亜鉛はメタロチオネインという抗酸化物質を作るのにとても重要です。メタロチオネインを積極的に作って解毒を促すというのがウォルシュ博士の考え方で、メタロチオネインを作るためには、血中濃度、亜鉛の血中濃度を100以上に保つと良いと提唱しています。

3-1. 検査すべき項目

亜鉛や銅、その他に検査をしておいた方が良い推奨項目として血中のホモシステインもあります。他にも25OHビタミンDと甲状腺機能は精神疾患に関わってくるところです。

  • 血漿亜鉛
  • 血清銅
  • ヒスタミン
  • 尿中ピロール
  • 血中ホモシステイン
  • 25OHビタミンD
  • 甲状腺機能  
  • GOT/GPT

もしピロール検査をしてみたい方は是非してみてください。尿中ピロール検査を請け負っているのは、アメリカのDHAというラボか、HDRI社です。正確に測ってくれるのは、DHAの方ですが、凍結したものを送らなければいけなくて、凍結保証のDHLで送ると確か送料が9万円します。さすがに高すぎるので、僕の場合はHDRI社のものを使ってます。ただ測定誤差がどうしても出るそうです。

3-2. 治療失敗の最も大きな原因

  • コンプライアンスの低下
  • OMの場合、服薬の量、複雑さ → 単純化
  • UMの場合、説明不足 
  • 子供の場合、明確なメリットを示す
  • 食事内容に介入する前に、主なインバランスを
    改善する方が好結果が得られる。
  • 多くの患者にとって、インバランスを修正する前に
    生活スタイルを大幅に改善するのは無理。
    (自閉症、ADHDを除く)

治療は、亜鉛、銅、ビタミンB6、葉酸などを補充していくことですが、治療失敗の最も大きな原因は、コンプライアンスの低下です。コンプライアンスとは、患者さんが服薬をちゃんとできてるかどうかです。

オーバーメチレーションの人の場合は、服薬の量が多かったり複雑さを嫌う傾向にありので、要望によっては単純化してあげることです。

アンダーメチレーションの人は、完璧主義で理論的な話が好きなので、説明が足りてないとうまくコンプライアンスがいかないですが、きちんと説明してあげたら100%服薬してくれることが多いです。

母親に連れて来られたお子さんの場合は、コンプライアンスはとても悪いです。食事の改善にもやる気がないです。親のメリットのために連れて来られているにしても、お子さんに対して明確なメリットがちゃんと説明できれば、コンプライアンスが上がることが多いです。

食事内容の改善がとても大事ですが、多くの人にとって生化学的なインバランスを修正する前に生活スタイルを改善するのは無理だということもあります。もし食事指導がうまくいかなければ、最初にこのインバランスを調整してあげると良いかもしれません。ただし自閉症の場合は、脳に炎症を起こしていてリーキーブレーンになっているので、食事の介入が必要だと思います。

今年の最初にメドマプスの方が来て自閉症セミナーがありましたが、自閉症に対して今一番有効な栄養療法のエビデンスの話をされていて、1位がメラトニンで、2位がオメガ6とオメガ3とビタミンB6でした。

3-3. 治療の基本

  • High Pyrroles: 亜鉛, B6/P5P
  • Overmethylation: 葉酸、ナイアシン
  • Undermethylation: メチルB12, SAMe
  • Low Zinc: 亜鉛
  • High Copper: 亜鉛、モリブデン
  • Free Cu high: ビタミンA,抗酸化物質

ピロールの場合は亜鉛とB6、B6が効かない場合は、ピロールだと判明した場合は活性型のビタミンB6を併用して使ってきます。ピロールの患者は、例えばB6を200mg、P5Pを50mgみたいな感じで使っていきます。

オーバーメチレーションの場合はメチル化を低下させる働きがある葉酸とナイアシンを使います。アンダーメチレーションの場合はメチル化を亢進させる働きがあるSAMeと場合によってはメチルビタミンB12を使います。

亜鉛が低い場合は亜鉛を、そして銅が高い場合は亜鉛と場合によっては銅と拮抗するモリブデンを使うのも良いでしょう。遊離銅が高い場合は、酸化ストレスが問題になるのでビタミンAと抗酸化物質を使います。

3-4. アンダーメチレーションタイプ

治療:SAMe もしくは メチオニン
・Cal/Mag
・mB12
・治療効果に1か月以上
・就寝前にイノシトール
・葉酸をさけること
治療のコツ
・完全に理解したうえで注文したい完璧主義者が多い
・考え方を受け入れられれば100%摂取する

アンダーメチレーションの人には、SAMeそのものを使うか、その前駆体のメチオニンというアミノ酸を使っていますが、メチオニンの場合はSAMeに変換するのにマグネシウムが沢山必要なので、一緒に摂る必要があります。欠かせないのがマグネシウムで、上にはCal/Magとありますが僕はマグネシウム単独で使っています。時にはメチルビタミンB12を使うといいですが、かえってイライラする人もいるので、腸内環境を治してから使った方が良いです。

タイプ別によって、症状が落ち着くのにかかる時間が違います。アンダーメチレーションの場合は1ヶ月以上、大体2、3ヶ月かかります。メチル化を亢進させるのが目的なので、メチル化を低下させる葉酸は避けた方が良いと思います。

3-5. オーバーメチレーションタイプ

診断:
血中ヒスタミン 40以下
血中Folate ↓ 好塩基球30以下
治療:
・葉酸塩 or フォリン酸なら少量
・B12
・ナイアシン/ビタミン C
・マンガン
・2,3週間悪化の時期を経て1か月後から改善
治療のコツ
あまり多くのサプリを摂りたくない人多い、最初に最大のサプリ個数を決めておく。マルチを使う、最低限必要なものを使う

オーバーメチレーションの場合はメチル化が亢進してるので、メチル化を低下させる葉酸を使います。ビタミンB12は使う時と使わない時がありますが、葉酸がうまく効かない場合はナイアシンを使います。ナイアシンは徐々に増やしていきますが、なかにはナイアシンで肝障害が起きる人がいるので、気をつけてください。

ナイアシンの厚生労働省の推奨量は30mgなので、3g使うならモニタリングしながら使った方が良いです。不安症の人はナイアシンを重宝しますが、諸刃の剣なのでモニターが必要です。ナイアシンフラッシュも起こるし、コレステロールが下がる人がいますから、コレステロールが元々低い人はナイアシンの使用は考えたほうがいいかもしれません。コレステロールはとても大事です。僕もナイアシンを毎日飲んでたらコレステロールがかなり下がりました。500mgだったら大丈夫ですが、1,000mgだと下がる人は下がります。

マンガンはアセチルコリンを活性化する働きがあります。アセチルコリンが活性化するということは、ドーパミンを抑えるということです。アセチルコリンとドーパミンというのは反対の働きをして成長障害が問題になるので、大人のみに使うようにします。オーバーメチレーションの人は、場合によっては2、3週間悪化して、その後1ヶ月後から改善することがありますので、1ヶ月未満の始めた時に不安を癒すフォローが必要です。

3-6. 銅過剰タイプ

治療:
銅入りのサプリメントを止める。
水道にフィルターを付ける
亜鉛
モリブデン & ビタミン E
銅の急降下を防ぐため少量からスタート
改善まで2ヵ月

銅過剰タイプの人は、当然ですが銅のサプリメントを使わないでください。アメリカには、銅とか鉄がフリーのサプリメント結構ありますが日本は普通に入っています。銅がいつまでたっても高い人は、水道にフィルターを付けた方がいいかもしれません。

治療には、亜鉛とモリブデンを使います。統計によると、亜鉛の量を倍にすると9ぐらい上がってきます。亜鉛は、普通食事から10mgくらい摂っています。サプリメントで20mgに増やしたら血中レベルが9上がり、40mgに増やしたらさらに9上がります。

血中濃度を100にするためには、逆算してどれくらいの量を摂るかを決めていったら良いと思います。亜鉛は最初から目的量を摂るのではなく、少量から始めた方が良いです。亜鉛とカドミウムと水銀は同族元素なので、カドミウムが体に蓄積されていた場合にカドミウムが一気に動いて腎障害を引き起こすことがあるため、亜鉛は少量から使うと良いでしょう。

3-7. ピロールタイプ

治療:
・Zinc
・B6 and P5P
・ピロール>40ならオメガ3を避ける
・抗酸化物質があるとよい(E,C,biotin)
・1週間程度で改善傾向がみられる
治療のコツ
・ストレスに応じて増量が必要な時がある
・ストレスの持続時間中、亜鉛を25-50mgとB6を100mgもしくは、P5Pを50mg毎日増量。
・ストレスが終わったら、元の投薬に戻す。

ピロールタイプの人は、亜鉛とB6不足なので、亜鉛を25mgから、そしてビタミンB6を100mg+P5Pを50mg使っていきます。様々な治療の中で一番治療反応性が早いのは、亜鉛やビタミンB6の治療です。ビタミンB6は水溶性物質なので、効果が出るのが早いです。ピロールタイプの人はストレスに弱いので、ストレスがある場合は量を増量して、ストレスが終わったら元の投薬に戻すと良いでしょう。

3-8. 遊離銅過剰の場合

セルロプラスミンを測っている方は、遊離銅を計算してみてください。

  • 自閉症の多くの症状は酸化ストレスと関連
  • 脳内酸化ストレス過剰が統合失調症の特徴
  • 抗酸化物質+ビタミンA(CPを増やす効果)
  • βカロテンでなくビタミンAを使う事
  • 高齢者では念のため血中濃度チェックを
  • 亜鉛ももちろん

遊離銅は酸化ストレスと関係していて、特に自閉症や統合失調症の場合は酸化ストレスの調整がとても重要です。セルロプラスミンを増やすために抗酸化物質とビタミンAを使ってください。ビタミンAはベータカロチンではない方が良いです。ベータカロチンはビタミンAの医療体ですが、体の中でうまくビタミンAに分かれてくれないと言われています。

ビタミンAをどれくらい使うかは人により違い、僕は3〜6万IUぐらい使いますが、高齢者の場合、念の為血中濃度をチェックした方がいいです。

3-9. 低ビタミンD

  • 正常範囲は 25-30 ng/mL以上だが、50-100ng/mL を目指す
  • 最低1000IUできれば2000IU以上
  • 半減期は2週間なので週1回まとめての摂取でもOK
  • (脂肪吸収がちゃんとできていれば) 投与開始後3ヶ月で再検査を

ビタミンDは、50ng/mLぐらいあった方がいいです。日焼けを毎日していれば、必ずしもサプリメントで摂る必要はないです。ただし必要な日焼け量には、毎日水着で歩くくらいの日照時間が必要となり難しいし、ビタミンDの産生能力は体質にもよります。血中濃度を上げるには、最低2,000IU以上摂るのが良いです。半減期は15日なので、週一回まとめての摂取でもOKと言われていますが、脂溶性ビタミンなので胆汁が出てるかどうか確認が必要です。コレステロールが低い人は難しいでしょう。

上記はビタミンDの血中レベルを上げると、どれだけの疾患が予防できるかという表です。

癌や1型糖尿病、多発性硬化症のような疾患は、ビタミンDの血中レベルと防御率が密接に関係しています。40〜50のビタミンDレベルあった方が良いと思います。多くの疾患はこれくらいのレベルにしておけば防ぐことができると書いてます。ドーパミンが少なめの人、下痢型の過敏性腸の症状がある人は特にビタミンDを投与した方がいいです。

3-10. 甲状腺機能低下

  • チラージン末(乾燥甲状腺末)は販売中止
  • ARMOUR THYROID 
  • チラージンとチロナミンを使い分ける。
  • チラージンと鉄、セレンを併用する
  • T3過剰は不安、動悸
  • 副腎疲労を治す

甲状腺が低下していたら昔はチラージン末を使っていましたが、震災で工場が閉鎖して、製造中止になってしまいました。このチラージン末は天然のブタの乾燥甲状腺で、T4とT3が自然な形で入っていたのですがもう販売していないので、ARMOUR THYROIDを使うか、もしくはT4とT3の製剤を使い分けるかで調整する場合があります。

僕はよくT4に加えて、鉄やセレンなどT4からT2に変換を促す栄養素も一緒に摂ってもらいます。甲状腺機能低下症は副腎疲労のベースの上に乗っかってくるので、一番大事なのは副腎疲労を治すことです。副腎疲労があったら、副腎疲労を最初に治してください。

3-11. 服用の際の注意

  • ほとんどの物は食後(亜鉛、B6は特に)
  • 甲状腺ホルモンやSAMeは食間に
  • 統合失調症、自閉症、躁うつ病では高用量が必要
  • コンプライアンス低下、成長期、ストレス過多、
  • 吸収不良、頭部外傷、薬物乱用、低血糖症では効果まで時間がかかる
  • UMではホモシステイン上昇に注意
  • (B6,B12,TMG,セリンで治療)
  • 高用量亜鉛による銅症状に注意
  • 亜鉛倍量で9ずつ上昇
  • バルプロ酸、ヒスチジン、サイアザイド利尿薬は
  • 亜鉛濃度を下げる

サプリメントの服用の際の注意点は、ほとんどの場合は食後で良いですが、甲状腺ホルモンやSAMeは食間の方が良いです。

うつ病とADHDと、統合失調症と自閉症はそもそもの根本が違います。うつ病と躁鬱病とは全く違う病態です。これらの疾患では高容量必要になることが多いです。

ホモシステインを事前に調べている方は、アンダーメチレーションではSAMeを使いますが、SAMeを使うと回路がぐるぐる回ってホモシステインが急激に上がり、動脈硬化のリスクになる場合があるので注意をしてください。ホモシステインが元々高い人は、最初にB6、B12を摂ると下がります。

4. 症例

4-1. 症例1 33歳女性、うつ、慢性疲労

症状
■朝起き上がれない
■首、肩、背中、腰のこり、痛み
■倦怠感が続く
■頭がぼんやりとする
■疲れて眠気がくるのに、寝付けない
■アレルギー(幼少より皮膚疾患。良くなったことが一度ない。
  花粉症は高校生の頃より)

■精神的に鬱気味

これらの症状による問診と血液検査などの検査結果の両方とも重要なので、現病歴をいかに詳しく聞くかが、メチレーション状態や生化学インバランスを診るコツです。

僕の場合は、問診票を使って洗い出していますが、それをもとにさらに聞き込みをします。自分からは言いたくないこともあり、聞かれれば答えるというセンシティブな患者さんは、トラウマや依存症のことなどを僕に話さず他のスタッフに話していたりします。聞きにくいことは、スタッフに聞いてもらっても良いと思います。

それをもとに問診をして先ほどの症状別の表を元に、これに当てはまるかとか、これはどうですかとかいうのを質問してください。

問診票

  • 表現が難しい症状もある
  • 症状の重症度の経過を追っていくとよいでしょう。
  • スタッフが問診できるようになってもらいましょう
  • 一緒に見て、項目を解説し、適切に項目を埋めるられるように手伝ってあげましょう
  • 症状表を読み込む
  • それぞれの症状のバランス感覚が大切。
  • 100%の特徴を満たす人はいない
  • 40%ならそれはすごく特徴を満たしている

症状には重要度がありそれらを全て聞くのは大変なので、確定的な症状を中心に聞いていくと良いと思います。アンダーメチレーションだったら完璧主義ですかとか、毎日靴下を同じ方から履かないと気が済まないですかとか。水道の元栓を何度も締めないと気が済まないかなど聞いてみてください。

大事なことはバランス感覚で、100%の特徴を満たす人はいません。どちらかに40%当てはまれば上々です。

これまでの対処
心療内科 使用の薬:リボトリール、レンドルミン
サプリメントビタミンCビタミンB系、ビオチン亜鉛ボスウェルケルセチンミヤリサン
ブルーベリーエキス 他
体調に変化の自覚症状があったのは、ビタミン系サプリ、亜鉛、整腸系
生活習慣
◇喫煙 30歳くらいの頃、あまりの体調の悪さに吸えなくなってしまい、以後1年以上禁煙状態となったが、その後仕事のストレスから喫煙再開。
◇飲酒 もともと好んでいたのにも加え、20代の頃は、仕事や生活のストレス、不眠等の解消の為、ほぼ毎日。休肝日はほぼ無い状態。28歳頃より体調の悪化に比例して、少しずつ飲めなくなり、一時禁酒状態になるも最近は体調が良い時には時々たしなむように。
◇幼少より甘いものが苦手だったが、喫煙をやめた後好む傾向になる。味の濃いものや塩味・タンパク質系は好物。糖質制限をすると調子がいい

これらのことを踏まえてさらに見ていきましょう。

これまではリボトリールやレンドルミンという睡眠薬や、色々なサプリメントを使って、自覚症状が変化あったのはビタミン系、亜鉛、整腸系でした。生活習慣では喫煙と飲酒がやめられないっという依存状態が見られます。

食の嗜好としては、塩味、たんぱく質系が好物とあり、塩味が好きなのは副腎疲労の可能性があります。糖質制限をすると調子が良いというのは要するにタンパク嗜好だということです。タンパクを摂ると調子が良いということは、メチオニンを摂るとSAMeがいっぱいできて、メチレーション回路が回るのかもしれません。

血液データも見てみましょう。

この人の場合は、白血球6,420で、好塩基球パーセンテージが1.1なので、好塩基球数の実数は70ぐらいです。ギリギリでアンダーメチレーションになります。血液データ的に色々問題はありますが、アレルギーや鬱があるのはアンダーメチレーション、寝付けないのは両方の働きがあります。不安が強いのは、オーバーメチレーションの症状でしょう。

リボトリールやレンドルミンなどの睡眠薬系が効くのはオーバーメチレーションの人の特徴なんですけども、必ずしもそうとは限りませんので注意してください。依存症体質はアンダーメチレーション、タンパク質好物もアンダーメチレーションです。この方にはアンダーメチレーションの治療をしました。

4-2. 低メチル化の特徴

  • 治療に抵抗性のあるうつ
  • 表向きは落ち着いているが、内心は神経質
  • 強迫神経症の傾向、もしくは強迫神経症
  • 学生時代は自発的であった
  • 完璧主義者
  • 学校やスポーツ、もしくは他の分野で競争心が強い
  • 内向的:孤立しがち
  • 権力者に対して反抗的
  • 柔軟性がない
  • ヘビースモーカー、ギャンブラー、その他の刺激性の強い物事への依存
  • ベンゾを長く使うほど、悪化する。メチル基を枯渇させるから。

アンダーメチレーションの人でも睡眠薬が効く人は効きます。ただ大事なことは、ベンゾジアゼピン系の抗不安薬や睡眠薬を長期間使ってる人はメチル基が枯渇しているので、アンダーメチレーションを助長してる場合があります。薬を漸減していくことが求められます。薬の離脱症状を最小限に抑えるには、高タンパク食が有効です。

4-3. 症例2 35歳女性

会社業務非常に多忙
朝9時から夜19時まで4年間激務⇒ストレスの調節がうまくいかない
その後、非常に疲れやすくなった。それが3年くらい続いている。
症状
■朝、起きることが出来ない。⇒ 朝弱く、夜に強い
■倦怠感が強い
■月に1回は疲れて寝込んでしまう。
■月経前症候群が強い
■便秘傾向
食事
朝はスムージーのみ、昼、夜の2食⇒朝は食事、サプリが飲めない
甘いもの、コーヒーが大好き 但し、食後に眠くなる

この方は、典型的な副腎疲労タイプのパターンです。

ヘモグロビンが11で、フェリチンが6.5しかないので貧血がひどいですが、他のデータを見てみるとGOTとGPTの差が離れていて、亜鉛とALPが低いですから、一見して亜鉛とB6不足です。メチレーションを表す数字は白血球の8,400と、0.7%かけると、好塩基球の実数は70くらいなのでメチレーションは正常だと思います。

4-4. ピロール障害の特徴

  • 極度な感情の起伏がある
  • 幼少時代から高い頻度で発生する恐怖感。
  • 短期記憶障害
  • 本が読めない
  • ストレスに弱い
  • ヒステリー
  • 夢を覚えていない
  • 朝の吐き気
  • 朝食をとらない
  • 宵っ張り

ストレスの調節が悪い、朝弱い、朝食を抜いてるというところはピロール障害の可能性大です。ご自分では言わないことがあるかもしれないので、夢を見るか、ストレスに弱いか、子どもの頃のことについてを問診で追加して聞いてください。

4-5. 症例3 40歳女性 気分の落ち込み、慢性疲労、妊娠希望

症状
■肺炎と副鼻腔炎を患い、以降疲労が抜けない。
■最近2ヶ月は特に顕著で頭痛と少しめまいがある。
■少し外出しても疲労を感じるようになった。
■気分の落ち込みあり。
■ 空腹時に動悸、めまいすることも2度あった。
■ 不妊治療のため、8ヶ月前から漢方医のもとさまざまな栄養補助食品は摂取している。
■ 少し改善したように思われたが、ここ最近疲労感が強くなった。
■フルタイム勤務で二人目不妊。

右上2本、右下2本、左下1本
アマルガムあり

この方の症状の原因は、重金属の影響です。結構アマルガムが入っているのにもかかわらず、水銀が振り切れるほど出ていないので、恐らく重金属の排泄障害があるのでしょう。身体の中にどこかに炎症を起こしていたり、腸内環境がうまくいってない場合、上咽頭炎がある場合は、炎症のせいでグルタチオンが枯渇していて水銀がうまく排出できなくなってしまいます。

4-6. 重金属タイプの特徴

  • イライラ、しばしば怒り
  • 学業成績と精神状態が比例
  • トリガーもなく突然発症
  • 人格の変化
  • 持続する腹痛(食事によらない)
  • 口腔内金属味
  • 息がくさい デトックス治療で軽快

重金属によるうつの症状は、突然の発症や、腹痛を伴う、口腔内に金属の管があるなどがありますが、治療的診断によればデトックス治療をしたら軽快するということが一番の特徴だと思います。

4-7. 症例4 39歳女性

  • 高校生からレクサプロ、ジアゼパム、トラムセット、マイスリーなど使用
  • ヒスタミン72 銅102 亜鉛102 CP23.2 KP20.78
  • ヒスタミン↑からUM しかし、ジアゼパムに依存性あり
  • UM+KPの処方にて徐々に良くなっていた。 しかしストレスにより最近増悪し、2㎎を1時間おきに使用しても収まらず、OMと考えるようになった。
  • 症状はUM,OMの両者の特徴をもっている
  • 不安とうつと自殺念慮があるが、二人の子供がいるため思いとどまっている様子
  • 彼女にはレクサプロとベンゾの両者が必要に思える。
  • 同様に彼女にはSAMeとナイアシンの両者を投与すべき?

ヒスタミン72はやや高く、銅102、亜鉛102、CPはセルロプラスミン23.2、KPとはクリプトピロールで20.78、ピロールが高いです。

アンダーメチレーション、ピロール、銅が102ですが、亜鉛は低くないですが、セルロプラスミンが23.2で少し低いです。この方の場合はアンダーメチレーションとピロールの処方をして徐々に良くなったそうですが、ストレスによって増悪してうまくいかないということでした。診断が間違ってオーバーメチレーションだったのではないかと考えるようになったそうです。

症状はアンダーメチレーション、オーバーメチレーション両者の特徴があります。オーバーメチレーションの特徴の自殺念慮があって、不安が強いです。二人の子どもがいるためになんとか自殺を思いとどまってる状態です。

アンダーとオーバーの両方があるから、SAMeとナイアシン両方入れた方がいいのではないか。その場合、葉酸をどうすればいいかという問題になります。ウォルシュリサーチ・インスティチュートの掲示板にあった症例ですが、両方あると確かに迷います。

一般にアンダーメチレーションの人はSAMeを使いますが、有機酸検査で葉酸不足と出る人もいます。ただ、アンダーメチレーションの人は、葉酸は摂ってはいけないので、この場合どうしたらいいのでしょうか。多くのアンダーメチレーション患者は葉酸欠乏ですが、うつ病症状にある場合は葉酸は避けるべきというのが、ウォルシュの答えです。

4-8. 葉酸どうすればいい?

患者がUMで、SAMeでうまく反応したが、有機酸検査では葉酸不足と出ている。葉酸を摂るべきでしょうか?

  • 多くのUM患者は葉酸欠乏。しかし うつ病、不安、強迫障害、運動障害が主な症状である場合、葉酸は避けるべき。
  • 多くの場合、メチルフォレートがメチル化を改善するが、全ての形態の葉酸は強力な脱アセチル化酵素阻害剤として働き、セロトニン神経伝達を低下させるため、悪化する。
  • その一方で、低セロトニンが病態に関係しないUM患者(自閉症患者など)は葉酸治療が奏功する。
  • 患者治療プログラムを考えるときにはメチレーションとエピジェネティクス両者を考慮する必要がある。

うつ病や不安など低セロトニンが病態に関係しないアンダーメチレーションの人は葉酸を摂るべきです。自閉症の人は低メチレーションなので、葉酸を摂ったほうがいいです。セロトニンが第一義に関係しないからです。セロトニンが第一義に関係するうつ病の場合は、葉酸を避けた方がいいということです。

シナプスにおけるメチレーションと、全身におけるメチレーションがあり、葉酸はメチレーション回路を回します。ですがシナプスにおいて葉酸を入れると、メチレーションを低下させます。そのためうつ病や低メチレーションの人には葉酸は使わない方が良いですが、自閉症の人の低メチレーションは使った方がいいです。

4-9. 症例5 61歳女性 ベンゾジアゼピンが手放せない

  • 20才の時からずっと心配性、不眠が続いている。
  • 治療方針について週に数回質問の電話がかかってくる。
  • 非常に神経質。
  • hsCRP 1.0
  • Glu 83、インスリン5.6、HOMA-IR 1.1
  • TSH 3.38 、fT4 1.3; fT3 2.6;
  • フェリチン28 Cp 18
  • Cu 69
  • Zn 74
  • FC%21.7
  • FCI 15 WNL Cu:Zn 0.93

甲状腺機能は潜在的に低下していて、低血糖気味です。

4-10. ウィルソン病

  • 常染色体劣性遺伝 胆汁中への銅排泄障害による
  • 先天性銅過剰症。
  • 血清セルロプラスミン低下(20mg/dL未満 )
  • カイザー・フライシャー角膜輪 
  • 精神神経症状 

この方は、遺伝的な銅の蓄積病であるウィルソン病です。角膜に、銅が溜まっていて、カイザー・フライシャー角膜輪ができる有名な病気で、精神症状も出ます。血中銅が下がってくるのが特徴的です。血中銅が低くてもほとんどはウィルソン病ではないですが、精神症状や肝硬変があり、血中銅が下がってたら、このような病気もたまに隠れています。

セルロプラスミンが低く、遊離の銅が低いのが特徴です。

4-11. 効果が出るまでの期間

SSRI       数時間〜         輸送体に結合し、
                      セロトニン活性を上げる
ビタミンB6 1週間〜          血中濃度上昇
亜鉛       2ヶ月以内         MT合成亢進
ナイアシン、  1,2ヶ月          輸送タンパクの遺伝子発現亢進
葉酸など
SAMe 3〜9ヶ月         輸送蛋白の遺伝子発言抑制、
                     タンパクの半減期に関わる

治療の効果が出るまでの期間は、薬に比べて時間がかかることが多いです。時間がかかるということを最初からお伝えしておくと良いです。治療にはモニタリングが必要ですから、亜鉛、銅、セルロプラスミンは3ヶ月後に測ってみたら良いと思います。2ヶ月で変わることは多いですが、亜鉛のレベルは誤差が出ます。朝と晩で測っても異なるし、尿欠してたら亜鉛が高く出ます。亜鉛は摂っている量が倍になると、9〜10くらい血中濃度が上がってくるのが一般的です。そこから大きく外れてたら再検査してみてください。

マーケティング戦略の用語でUnder-promise and over-deliverという言い回しがありますが、約束を控えめにして結果を大きくした方が喜ばれることが多いです。特に治療期間の場合は、1年かかりますと言って3ヶ月で治ったら喜ばれますが、逆だとひどい目に合うので注意してください。

特に自覚症状の改善度については、こちらが改善してると思っていても、患者さんが自分で良くなってることに気が付いてないということは、良くなっていないということなので難しいところです。

4-12. 薬との使い分け

  • 初期の数か月は併用が原則
  • 後に明確な症状改善が得られていれば、精神科医の元での慎重な減薬を相談
  • 減薬の目標は、向精神病薬の中止ではなく「最善の効果が得られ、副作用が少ない投与量を明確にすること」

自閉症、統合失調症、躁鬱病は減薬が難しい病態なので、完全に中止するのではなくて、副作用が少ない投与量まで減薬することを目標にしてください。

4-13. 副作用について

  • 亜鉛、B6は嘔気を起こすことがある(特に初期から大量に入れた場合)
  • 亜鉛が不安を起こす事がある(銅に影響するため)
  • 亜鉛は鉄の吸収を阻害する
  • UMにマンガン投与はパーキンソン症状悪化
  • B6十分な人にB6投与は悪夢
  • OMにメチオニンは不安、自殺企図
  • ピロール以外の治療は時間がかかる 治療初期に悪化する事がある

亜鉛を飲んで吐き気を感じる方は、朝食に摂らずにお昼や夕食後に摂ってください。また、亜鉛と鉄欠乏がある方は、鉄は亜鉛の吸収を阻害するので、鉄欠乏が重度出ない限り同時に摂らないほうが良いでしょう。

アンダーメチレーションの方でマンガン投与する人はあまりいないと思いますが、ドーパミンを抑えるため、パーキンソン症状が悪化することがあります。

B6も過剰摂取をすると悪夢が出ることがあるので、オーバーメチレーションの場合は、菜食主義にした方が良いです。アンダーメチレーションの人は、いっぱい肉を食べてメチオニンを作った方が良いでしょう。このようなことは、事前の説明が大事です。

4-14. 妊娠したらどうするか

SAMe
・依存している場合、出産までは50%減量。200mg以上を服用しない。
そうでない場合、最初の4ヶ月間は中止が推奨
・SAMeが優先的に胎児に行き、潜在的に問題を引き起こす可能性
・赤ちゃんが子宮内の非メチル化環境で発達することは理想的ではない
葉酸 ・毎日800μg以上(特に妊娠第2期まで、二分脊椎、自閉症の予防)
亜鉛 ・ 投与量の半分に減量。
・胎児の血管新生に対する銅の重要な効果を損なう可能性。
・亜鉛レベルが低すぎると胎児の成長が損なわれるので適量は必要
ビタミンB6 ・投与量を半分にする。水溶性ビタミンであるため、速やかに変化。

妊娠した場合、SAMeは出産まで50%減量してください。そうでない場合は、子宮の中のメチル化に影響しないためにも最初の4ヶ月間は中止が推奨されてます。妊娠後期なら非常に安全だといわれているため、産後うつの人にSAMe使う場合がありますが、統合医療の情報発信を見ると、安全性が確立されていないとあるため、慎重に扱われた方が良いと思います。

葉酸を摂ることに異議はないですし、亜鉛も胎児の成長に絶対必要ですが、多すぎると血管新生に役立つ銅が少なくなりすぎるので、投与量の半分に減量するのが推奨されてます。

この治療は根本治療ではありません。亜鉛やビタミンB6、SAMeもサプリをやめたら元に戻るので、そこが一番の問題点です。遺伝的な性質を改善する方法ではないということ、コストを常に考えないと続けられません。そのため症状が安定したらより経済的な方法を探っていく必要があります。

5. うつ以外への疾患への対応

5-1. ADHDの治療

不注意が主症状の場合
半数以上に葉酸、B12,亜鉛、コリンの欠乏が見られる。
これらサプリメンテ―ションで集中力改善が期待できる。
衝動性、多動が主症状の場合
銅亜鉛バランスが大きく崩れていることが多く、これがノルエピネフリン、
アドレナリン過剰症状をもたらす。
両者を合併している場合
さらにメチレーション異常、重金属負荷、ピロール異常などが背景に
あることも多く、検査による正確な診断が必要。

ADHDは、注意欠陥不安障害です。不注意が症状の場合と、多動が症状の場合でサプリメントの使い分けをしたらいいというのがウォルシュ博士の見解です。基本的にはメチレーションや、銅亜鉛バランスを見てください。

ADHDで注意することはタイプ別で治療が違うことです。ADHDの患者さんは不注意になったり過集中になったりしますが、これは注意が欠陥しているのではなくて、注意の調節力が欠陥しています。薬で対処できることとできないことがあるので、この注意力を調整するためには個別化医療による栄養素の投与が良いと思います。

行動障害が合併することがあるので、銅・亜鉛バランスがとても大事です。暴力行為は、銅・亜鉛バランスが狂っている人が多いです。その辺りについて、ウォルシュ博士の本にとても詳しく書いてありますのでぜひ買って読んでみてください。

半年以上の栄養療法で薬を中止できてる人は70%いるので、うつとADHDはどちらかというと軽症です。

5-2. 強迫神経症

比較的軽症な強迫神経症という病気があって、ほとんどの場合が低メチレーションです。このような方には、メチル化の治療をしたら良いと思います。グルタミン酸の障害もあるので、Nアセチルシステインがいいという報告もあります。

  • 重症は殆ど低メチレーション、MTHFRに変異あり
  •  さらに、メチル葉酸にて症状悪化
  • ドーパミン受容体活性の低下が報告されている。
  • SAMeやメチオニンで効果が見られることが多いが事前に
  •  ホモシステインを評価する。心血管リスクがある例では
  •  事前にB6などでホモシステインを下げておく。
  • もう一つはNMDA受容体のSNPによるグルタミン酸
  •  トランスポーター障害。これの正常化にNACがよい。

5-3. 脳に非可逆性変化が生じている栄養療法だけでは×な疾患

可塑性が関係する
•依存症
•過食症
酸化ストレスによるメチル化の恒久的変異(GSH,MTの枯渇)
•自閉症 3歳
•ウィルソン病 15歳
•統合失調症  20歳 双極性障害  25歳

栄養療法だけでうまくいかないのは、脳に非可逆性変化が生じている、例えば依存症や過食症など脳の可塑性が関係している場合です。もしくは、酸化ストレスで脳のメチル化のブックマークが変わってしまっている場合も難しいです。

酸化ストレスが強くなっている人は、グルタチオンやメタロチオネインが完全に枯渇しています。これらの疾患の特徴は、突然の発症で永続的な症状の継続です。普通、急性発症は急性の病気だから治るはずですが、急性に発症したのになかなか治らないのはこれが起きているからです。

自閉症3歳、ウィルソン病15歳、統合失調症20歳、双極性障害25歳など、病態は似ていますが、好発年齢が違います。これらの疾患には、栄養療法プラスαを行っていかなければなりません。

5-4. 統合失調症の治療

統合失調症の治療も同様で、メチレーションに応じて上記のような対処をしていきますが、抗酸化対策も重要です。本来、遺伝形式があると分かった時点での予防が大事です。

5-5. 自閉症

  • エピジェネティクス障害により、異常な低メチル化、酸化過剰、重金属への脆弱性をもつ
  • つまり「低メチル化の人が圧倒的な酸化ストレスを引き起こす
  • 環境障害を経験する事で発症
  • 予防の重要性(遺伝要因)
  • 妊娠20~24日目が重要(サリドマイド児)
  • 活性化葉酸、抗酸化対策
  • 脳の成長時期に不可逆性変化
    →治療の早期介入が重要

自閉症の特徴は、エピジェネティクス障害です。ほとんどの人が低メチレーション、酸化過剰で、重金属への脆弱性を持ってます。いろんな論文を重ね合わせると、低メチルの人が酸化ストレスを引き起こし、環境障害を経験することで発症します。予防が何より大切です。

サリドマイドという免疫抑制剤を使った場合、サリドマイドを妊娠20日〜24日に飲んでた人のみ発症しました。計画的に妊娠をして、遺伝子変異がある場合活性化葉酸を摂っておくことです。

自閉症は他の病気に比べて、発症時期が早いです。脳は4歳までに8割できてしまうので、4歳までの成長時期には不可逆性変化が起こることがとても大事です。そのため、早めに発見して対策をすることが望まれます。1歳と6歳で治療するのとでは、治療期間は3倍〜5倍違います。

統合失調や躁鬱は、なかなかうまくいかないことが多いので、栄養療法以外のことも重ね合わせないと難しいです。

5-6. 栄養療法の限界

  • この治療は、栄養素を使って 神経伝達物質の代謝を促す。
  • メチレーションを調節してシナプス間隙の神経伝達物質量を調整する。
  • 神経細胞、シナプスの物理的変性には効果がない。
  • 海馬、偏桃体の萎縮
  • シナプスの可塑性による変異

栄養療法は、栄養素を使って神経伝達物質代謝を促すものなので、神経細胞やシナプスが物理的に変性してしまっている場合はうまくいきません。

5-7. 自律神経と体性神経

上記は自律神経と体性神経の図ですが、この二つの神経は別々のもので、交わることはありません。自分の意思で汗をかいたり、脈拍を早くしたり、鳥肌を立たせることができないでのは自律神経と体性神経が別々だからです。

でも、時には短路が生じることがあって、例えばびっくりして心臓が止まりそうになるとか、怖い話を聞いたら鳥肌が立つとか、ストレスで胃が痛くなるとか、それは交わりが起こることです。これが毎日びっくりしたり、毎日ストレスで胃が痛くなっているとだんだんこの神経が太くなってきます。

持続的に興奮するシナプスは、より容易に伝達が起こるようにどんどん変化していきます。これをシナプスの可塑性といいます。

解剖学的に、シナプスに達する軸索が枝分かれして、より広い面積でニュートン細胞体と向き合うようになります。

この結果シナプスの有効面積が増大し、より大量の伝達物質がシナプスで放出されるようになるのです。

これと同じことが、依存症にも起きます。依存症というのは、報酬系が過剰活性化された状態です。ドーパミンは嬉しいことがあると分泌されますが、嬉しいことを想像しただけでも分泌されます。

この報酬系の刺激は、常に刺激すると徐々に少しの刺激でも活性化されやすくなります。コカイン中毒の人はコカインを見ただけで興奮します。コカインやアルコールを辞める治療はありますが、単に罰則を厳しくしたり、グループの皆で話し合って終わりなど医学的に基づいていません。

報酬系が活性化されている状態を止めないと医学的には治らないです。それが活性化していくと、ついには潜在的な意識の働きかけでも同様の行動を刺激するようになります。例えば、コカイン中毒の人っていうのは一回辞めても、サブリミナルでテレビ見てるうちに0.01秒のコカインの画像を入れたらそれで反応して、またコカインをやりたくなります。潜在意識まで落ちてしまうとそういうことになります。

5-8. マインドフルネス瞑想法

  • ストレスをコントロールできる
  • 痛みをコントロールできる
  • 集中力を高める
  • ネガティブ思考からポジティブ思考へ
  • 心と体をリラックスさせる

マインドフルネス瞑想法の実践

瞑想は、シナプスの可塑性を逆に戻す試みで、色々な文献を見るとマインドフルネスの実践を勧めています。“今”という瞬間に意識を集中するという方法で、仏教の瞑想法がベースになっています。

ドーパミンは興奮系神経ですが、それとは別に抑制系の神経があります。人間の場合、脳を抑制させてるのは前頭葉です。前頭葉で統合して、抑制させる抑制系の神経が弱っている人が依存症になってしまいます。

5-9. 不可逆性変化を伴う疾患への対策

  • 自閉症、統合失調症、双極性障害  
  • 家族歴があれば、予防的処置。
  • 特に酸化ストレスを抑制する。
  • 自閉症は24~29週の妊娠期間が重要
  • 脳神経再生治療(経頭蓋磁気治療、Edelfo)

経頭蓋磁気治療とは、うつ病の患者さんにも用いられている神経を刺激して抑制されている神経を元に戻す治療です。コカイン中毒の人の7割が改善しています。

Edelfoは、脳由来の神経栄養因子をサプリメントで投与して脳を戻す方法です。これらはコストがかかりますが、脳神経を戻すという意味では根本治療につながる可能性があります。自閉症、統合失調症、双極性障害にはこういった治療も混ぜることが必要かもしれません。

5-10. 双極性障害のメカニズムを解明

  • 2018年5月8日、米国精神医学会での発表
  • エピジェネティックな傷害が多数のイオンチャネル遺伝子の発現を突然、かつ永続的に変化させる。
  • ニューロンの外側にカリウムイオンが過剰に蓄積し、膜電位を形成できなくなるため、局所の脳機能が低下しうつ症状が出る。
  • 障害部位はゆっくりと回復し、細胞膜の外側のカリウムが除去されるにつれ躁病が戻る
  • この発見は同疾患の画期的な治療につながる可能性がある。

上記は双極性障害のメカニズムは解明されたというウォルシュリサーチの最新の発表です。躁鬱病は、アンダーメチレーションとオーバーメチレーションが入れ替わるという不思議性があります。今までの治療は、躁のときは躁用、鬱の時は鬱の薬でした。躁鬱病とは、カリウムイオンが細胞の膜の外から中に入れない状況らしく、細胞が働かなくなるので鬱になり、カリウムが長年かけて入ってくるようになると、元々の躁が顔を出すという病態だということが解明されたので、恐らく新しい治療に繋がっていくのではないかと思います。

5-11. 穏やかに、忍耐強く!

薬、栄養素、磁気治療、マインドフルネス、神経再生、様々な治療を使い分けて最善の状態を目指しましょう。

患者さんがあなたに会いに来た理由を理解しましょう。

そのためには治したいリストを書いてもらうといいと思います。旅行に行けるようになりたいとか、そういうのを僕は書いてもらっています。

今回は触れませんでしたが、腸内環境と重金属の影響もとても大事ですので、この2つは常に考えるようにしてください。

栄養療法外来の流れ 初診時

宮澤賢史 · 2021年6月1日 ·

最近「栄養外来を見学させてください」とか「実際にどのようにして診察を行っているのか知りたい」とおっしゃる先生が多いので、今回は、僕が宮澤医院の栄養療法外来で行っている流れについてご紹介します。

1 問診の流れ

1-1 自己紹介

最近紹介でいらっしゃる方が多くなりましたが、私のことを知らない患者さんには、私のバックグラウンドと治療方針をお話しています。消化器内科医として大学病院に勤務した後、サプリメントのクリニックに転職して、栄養療法を始めて15年になります、根本原因を探してサプリを減らす治療をしています、といった事をまずお話します。

1-2 ご紹介者について

次にどなたのご紹介かをお聞きしていてます。紹介者がわかると、今までどんな治療を受けていたか大体分かります。紹介でない方にも、今までどういうクリニックに通っていたかを必ず聞きます。栄養療法の治療歴と一般診療の受診歴共に重要で、ごく一般的な病気の原因を否定してあるかどうかは必ず確認します。副腎疲労かと思っていたら下垂体腫瘍だった、なんて笑えない話です。

1-3 栄養療法と保険診療の違いについて

ネット経由の患者さんは栄養療法のことをよく知っている事が多いですが、保険診療の患者さんに対しては栄養療法と保険診療の違いについて説明をします。一般診療は症状にアプローチし、栄養療法は原因にアプローチするということを中心にお話します。どちらも重要ですが、保険診療と栄養療法の違いについてをお伝えしています。

1-4 ラポール(信頼)の形成

問診票を見ながらさらに深く話を掘り下げていきます。ラポール(信頼)の形成と問診が同時進行となり、自動的に信頼関係の構築になるんです。信頼関係をつくる目的は、患者さんと友達になることではありません。患者さんには治療方針に従ってもらわなくてはいけないため、少し上の立場でいる必要があります。

1-5 知識=お金と心得る

プロにお金を払う場合、相手の知識にお金を払うということなので、その人よりも数段レベルが上なのが当然だし、それをわかって頂く必要もあります。知識が対価となるので、5分に1回専門用語を使います。1分に1回だと多過ぎます。「あなたはHPA軸がうまく機能してていないです。つまりそれは、脳と副腎がうまく連絡をとれていないことを意味します」というふうにお話をします。「唾液中コルチゾールが低下しています。副腎から出るストレスを打ち消してくれるホルモンです。これが低いから疲れやすいんです。」など専門用語を言ったあとに要約をつけるなど、専門用語と簡単な用語を混ぜて使うのがコツです。

1-6 言えないことを言ってもらう

受診までにネット上の問診票を全部埋めてから来てもらうようにしています。問診票は7つの根本原因のどこに原因があるかということを分かるように作り込んでいます。そこにチェックを入れてもらいますが、患者さんは本当に重要なことは問診票に書かないことが多いです。なぜならまだ信頼関係がないからです。信頼関係を構築するために、問診をうまくやる必要があります。人には言えないことを最終的に話してもらうのが問診の目的です。

ものすごく女性にモテる男の人がいて、どうしてそんなにモテるんですかと聞いたら、「信頼関係」だそうです。信頼関係とは何かを聞くと、それは他の人には言えないことを話してもらうことだと言うんです。人に話さないことを話してもらえるような関係になれば治療もうまくいきます。

2 問診から根本原因を探る方法

問診が一通り終わったら、次にすることは、問診事項を根本原因に転換することです。問診の中で、これは!と思う事項を絞り込むことから始めます。

2-1 根本原因ピラミッドを理解する

問診で一番重要なことは、根本原因が何かというのを見定めることですが、根本原因ピラミッドの一番下には、腸・炎症があります。その上にデトックスがあって、脳機能がくるのですが、低血糖の海が一番下の層となります。栄養療法的や機能生理学的な問題だと、病気の根本原因は、ストレス、食事、生活習慣のどれかなので、そのあたりを問診で確認します。

2-2 経過について聞く

その症状が急に発症したのか、それとも慢性的に出てきたのかと聞くことはとても重要です。慢性疲労、副腎疲労の場合は積み重なって症状が出てくるのに対して、慢性症候群は、風邪やストレスなどのトリガー(引き金)があって急にガクンと発症し、それを引き金に症状が続いてるというパターンが多々あります。

2-3 発症時に何が起きたのか聞く

発症時にどんな出来事があったのか、どういう状況だったのかを確認することはすごく重要なことです。ただしそれらは問診票には書いてもらえないことがほとんどです。ちょうど離婚したときだったとか、本当のお父さんとお母さんの子ではないと分かった日ですなどと問診票に書く人はいないです。つまりそういうことを掘り起こすための問診なのです。最初は聞けなくても、信頼関係を築くとだんだん判明していきます。

そこが分からないといくら治療をしてもうまくいきません。ストレスが今も継続しているのか、それとも過去の出来事なのかが大きな要素です。ストレスの継続は副腎疲労の回復を遅らせ、それによって起きる低血糖を始めとするホルモンのアンバランスが腸内細菌バランスを乱していたりします。アドレナリンが多い人は腸内細菌に悪玉菌が多いので、炎症が起きて解毒がだんだんできなくなり、肝臓がやられてくるというお決まりの流れとなります。

根本原因ピラミッドのより下層部のほうが原因になっているため下から治療する必要がありますが、低血糖のさらに下には、生活習慣、食事、ストレスがあります。もちろん便秘気味、下痢気味などの腸内環境については問診票に大体書いてありますので、その源流を問診の時に探ってください。

2-4 感情が行動を決める

人は感情で動く動物です、どういうときに検査をするとか、サプリメントを買うかというと、感情が動いたときです。マーケティングの本に書いてある通り、感情的に物を買って、これは自分に必要だったと後から論理をくっつけるものです。だから感情的にこの人からは買いたくないと思ったら話だけ聞いて、検査は他のところで受けてしまいます。こうなると大体うまくいきません。このような方は長く継続して受診されない傾向にあります。全てを委ねられて信頼されることが必要なのです。

問診の際には、患者さんの話が8割、自分が話すのが2割くらいがちょうど良いです。相手の話を聞いて、それで最後にまとめをします。最後にこれで大丈夫ですか、と確認すると、言い忘れたことがあるんですけど… となります。この言い忘れたという内容に、エッセンスがつまっていることが多いです。

2-5 主訴を3つにしぼり根本原因とつなげる

次にすることは、主訴を整理してしぼるということです。10個くらい主訴をおっしゃる方もいますが、一番辛いことを3つに絞ってもらいます。全てを一度に治療しようとすると治療がバラけるし、解決に繋がるのが難しくなります。10個全部の整合性が見えればそれでもいいですが、最初は上位3つ、一番辛いことはなんですか、と絞った方が良いと思います。

そして次には、それらを根本原因につなげるということをします。患者さんは色々な主訴を言います。大体ネットでも色々調べていますが、それは点と点でつながっていないことがほとんどです。その点と点を線につなげてあげるのがプロの仕事です。

3  症例1 47歳女性 PMS、のぼせ

というわけで、症状から根本原因への転換を実際にやってみましょう。まずは「疲れやすい・PMS・気分障害・のぼせ」を主訴とする47歳女性の方です。症状的にはエストロゲン過剰です。女性ホルモンには、エストロゲンとプロゲステロンという拮抗する二つのホルモンがありますが、47歳といった前更年期では、エストロゲンが過剰になりやすいんです。こういう人にはどのような根源が隠れているのでしょうか。

3-1 環境ホルモンの暴露

アメリカ産の牛肉とか牛乳にも成長ホルモンも沢山入っているし、環境汚染物質・アルミニウム・水銀・環境ホルモンなどが人工のエストロゲンです。その結果、プロゲステロンに対してエストロゲンが過剰になるので、色々な症状が出現するというわけです。対処法は暴露を避ける事ですね。牛乳、乳製品を避けることから始めます。

3-2 副腎疲労

コルチゾール・スティールも原因となります。コルチゾール・スティールというのは副腎疲労でコルチゾールが減ってしまうために、原料のコレステロールが女性ホルモンではなく全部コルチゾールに回ってしまうことを言います。そのため副腎疲労は女性ホルモンの問題につながります。

甲状腺や性ホルモンの問題は、副腎の問題を解決しないと根本的に解決しません。副腎疲労を放置したままで甲状腺ホルモンを足したり、女性ホルモンの補充療法をされている方がいますが、副腎疲労の原因が放置されているので、甲状腺ホルモンの治療も増えていく傾向にあります。このふたつのホルモンアプローチは、副腎疲労のアプローチとともに行うべきです。

3-3 肝臓の解毒不足

3番目の問題は、肝臓です。エストロゲンの代謝は肝臓で行われているため、エストロゲン過多、 PMS 、子宮内膜症、乳がんのようにエストロゲンが原因と言われる疾患に対して、栄養療法で一番最初にアプローチするべきは肝臓です。肝臓にアプローチをして解毒を促し、エストロゲンの代謝を亢進させるというのが非常に重要なアプローチとなります。COMTという酵素がエストロゲンを代謝しますが、補酵素としてビタミンB6が必要です。アドレナリンと代謝が拮抗するため、女性ホルモンがアンバランスになったときにはイライラしたり、PMSになったりします。

3-4 腸内細菌

最後に、腸の問題です。腸内環境とホルモンは切っても切れない関係です。例えばメラトニンとセロトニンは90%腸でつくられます。腸内環境を改善することなしに、睡眠の問題は改善できないです。アドレナリンもノルアドレナリンも腸内環境と密接につながっています。だから腸内環境をきちんと治さないと、ホルモンの問題も改善しないのです。

根本ピラミッド的には、ホルモンは3階層目です。腸を完全に治すことがホルモンを治すことになります。エストロゲンについても同様で、腸内細菌はエストロゲンを産生しています。エストロゲンは卵巣だけでなく、副腎でもつくられます。エストロゲンにはエストロン(E1)、エストリオール(E2)、エストラジオール(E3)と三種類あります。3つのエストロゲンがうまい具合に拮抗して、エストロゲン活性が強くならないように調整してるわけです。腸内細菌が少なくなるとエストロゲン活性が強くなります。

症例1のような患者さんが来たら、女性ホルモンの根本原因は、環境ホルモンへの暴露なのか、副腎を含めたホルモンバランスなのか、肝臓機能が低下している解毒の問題なのか、それとも腸内環境が悪化しているからなのか、この4つが根本原因になりうるから、この4つの状態がわかる検査をしませんか。と私なら提案します。主訴をまとめて、根本原因に転換していくのを初診時に行っていくわけです。もちろん原因は他にもいろいろあり、この4つだけではないですが、このような形で進めていけばいいと思います。

4  症例2 32歳男性 慢性疲労

次は「疲れやすい、痩せられない」を主訴とする32歳の男性です。この方の主訴は、どのような根本原因でに転換できるでしょうか?想像力次第で色々な考え方があると思いますが、自分なりの意見を見つけることが重要だと思います。

4-1 インスリン抵抗性

インスリン抵抗性を改善しないとダイエットは結局成功しません。長期間になればなるほど、食欲を抑制するのが難しくなるからです。長期間のダイエットを成功させるには、根性とかに頼らなくても良い方法を見つける必要があります。

4-2 消化不良

ダイエットに必要なエネルギーの元となるタンパク質とミネラルは、簡単に消化不良を引き起こします。マグネシウムはエネルギーミネラルなので、不足すると痩せられないですし、亜鉛不足は過食症を引き起こします。

4-3 解毒の問題

解毒の問題もあります。水銀やヒ素の蓄積はミトコンドリアを邪魔してエネルギーの消費を抑えてしまいます。また、金属の蓄積を排除しようとして生理的な浮腫が出ますが、その浮腫を肥満をとして主訴として訴える人もいます。

食事制限や糖質制限をしても痩せられないのは、もしかしたらこの辺りに原因があるかもしれません。このようにいくつか仮説を立てて検査を提案します。

5 根本原因を探すことに意味がある

現在、クリニック向けに患者の血液検査の結果の代行をしてくれるところがあるそうです。血液検査のレポートを作って、不足しているサプリを記載して送ってくれるそうです。それを参照しながら患者に説明すればとりあえずサプリは処方できてしまいますが、本質から考えると無意味でです。

患者の主訴を聞いて、根本原因にアプローチすることに一番の栄養療法のポイントがあるので、そこを外注してしまうと信頼関係も形成できず、足りない栄養だけ補充してもうまくいきません。

根本には必ず何かしら原因があるので、そこにアプローチするためには年単位の治療が必要です。つまり年単位で通い続けてもらわないといけないということなので、そこの信頼関係が築けないとうまくはいきません。この点は、私自身も大変苦労している部分ではあります。

すぐに信頼関係が構築できなくても、2回目、3回目の問診の際でも良いと思います。患者さんは最初から心を開いてくれないし、ブレインフォッグが辛くてそれどころじゃないという人もいます。その場合は、根本原因ピラミッドをただ順番に上がっていけば大丈夫です。

例えばグルテンフリーなどを提案してみて、患者さんのデトックスが進み、腸内環境が改善すると、リーキーガットが閉じて肝臓への負担が少なくなります。肝臓が解毒ができなくなる一番の要因はリーキーガット症候群です。腸と肝臓は門脈で直結しているので、腸の毒物は全部肝臓に行きます。そのため腸の炎症を抑えると肝臓が生き返ってきます。肝臓が生き返ってきて解毒が進むとだんだん脳が冴えてきます。脳が冴えてくると、何をすればいいか判ってくるという患者さんも少なくないです。だからそういう状態になってからあらためて同じ話をしてもいいと思います。そうするとより分かり合えるようになってきます。心理的・精神的なアプローチと、栄養的なアプローチの両面で攻めていく必要があり片方だけでは不十分です。

基本的にサプリメントは効率化の道具で、栄養が濃縮されて入っているものなので、不自然といえば不自然なものです。栄養療法の初期で、このピラミッドを上がるスピードをつけるためのブースター的な役割をするのがサプリメントなんです。だからそのブースターが効いて段々根本ピラミッドを上がってきたら、それに伴ってサプリメントは減らせるはずなのです。

栄養療法の説明をする時に必ず患者さんから質問されるのは、いつまでサプリメントを飲み続けなければいけないかということです。自費診療なのでそのあたりは明確に説明しないと信頼関係がうまく築けません。

腸内環境の改善には平均で2ヶ月から半年かかりますが、その結果は検査の結果によるということを初診のときに説明しています。腸の炎症が強くて悪性菌が多かったら回復に時間がかかることが多いです。悪性菌があったり特にカンジタが過剰増殖してる場合は、カンジタを除菌しないとリーキーガットは完全に閉じません。その場合、腸の炎症を止めて、カンジタを除菌するのに少なくとも4ヶ月はかかります。悪性菌があまりなければ1、2ヶ月ですみます。その見極めをするのに検査がどうしても必要で、検査の結果によって治療方針が違ってきます。その治療方針を決めるのにどうしても検査が必要だということをご説明します。

栄養外来に必要なコミュニケーション

宮澤賢史 · 2021年5月9日 ·

あなたは何のために栄養療法を学んでいますか?仕事に役立たせるためでしょうか?それともご自分と家族の健康のためでしょうか?もしくはその両方でしょうか?そんな方のために、今日は栄養療法外来で必要なコミュニケーションについてお話ししようと思います。栄養外来の成否は知識ではなく、コミュニケーション能力にかかっています。

1 まずは自分の健康を考える

栄養療法のプロになるという上で一番大事なことは、まず自分自身が健康になるということです。

一般医療の場合で抗がん剤を自分で試したことのあるガンの専門医や、向精神薬を全部飲んだことのある精神科の先生はあまりいないと思います。それに比べて栄養療法の医療というのは根本原因にアプローチするため、治療方法と健康増進の方法が一緒です。アプローチすればするほど病気は治り、健康の度合い(オプティマルヘルス)も上がっていきます。自分が健康でないと次のステップに行けないので、まず自分自身が健康になることが最重要課題で、全部自分で試してみるということがまず第一なんです。

医療関係者は貢献が求められがちなので、患者さんに貢献するために自分の健康を害している人が多数いらっしゃいます。徹夜で当直をして患者さんを救うことにより、多大なストレスがかかります。栄養療法は結果が出るのに時間がかかります。副腎疲労を完治するのに2年かかる人が多いです。生活習慣や食事を変えて、体が変わって、それに伴い意識が変わって、ストレスや食事、生活習慣が変わらないと駄目なんだと気がついて、そこから最短でも2年くらいかかります。

2年かけて人を治す間に自分が健康を害してしまったら話にならないので、自分の体をまず治して、長く続けられることをまず第一番に考えてください。

2 プロとしてやっていくのに必要な3つの知識

栄養療法の知識も得て、プロとして始める際必要な知識は下記の3つです。

  1. 栄養療法のスキル
  2. 経営のスキル
  3. コミュニケーション能力

2.の経営のスキルについてですが、最初はともかくそれで身を立てるということは、人からお金をもらうことなので副業で続けていても上手くいかないことが多いです。成功している人とそうでない人の違いは、本業か副業かということです。本業にしても数年かかるかもしれませんし、副業から本業に変えるタイミングが難しいですが覚悟を決めて腰を据えるしかないと思います。

そして一番大事なのが、3.のコミュニケーション能力です。普段の生活に於いては、コミュ障でもADHDでも問題はないですが、この職業の根本的なコミュニケーション能力というのは、患者さんの話をきちんと聞けるか、そして治療の需要性を患者さんに説明できるかということです。

3 コミュニケーション能力が売り上げを決める

私の最初のキャリアは、医者として保険診療という国に守られた診療で始まりました。保険診療と自費診療は少し事情が違っていて、栄養療法をするということは自費診療になるので、国の決まった治療ではない自分独自のサービスを提供するということになります。

保険診療とは定められた国の提供する医療の代理店みたいなものなので、国から約7割のお金が支払われます。それに比べ自費診療は全て自分で決めるため、例えるならば一戸建てを自分で買って、全部自分で内装を決めるという感じです。保険診療の中で栄養療法をすることももちろんできますが、賃貸物件の内装を一部変えてリフォームすることはできても、中にアイランドキッチンを作るなど内装を思い切って変えることはNGです。保険診療の中の栄養療法と、自費診療でやる栄養療法は違ってきます。全部自分で組み立てたいのなら、自費診療がいいです。自費診療とは、普通のセールスやオファーのように提供・提案することです。

栄養療法(オーソモラキュラーの三原則)は、次の3つです。

  • 個体差をみること
  • 生化学的なエビデンス(裏付け)をとること
  • 根本原因にアプローチすること

栄養療法の提供とは、検査をオファーし、その検査の結果から患者の根本原因を見つけ、その根本原因に合った食事を提案したり、サプリメントを販売することです。そのためセールスの技術は必要で、それは一般的には「教育」と言われたり、「コミュニケーション」と言われたりします。

クリニックとしての栄養療法の売上が悪いのは、患者さんが検査やサプリメントの重要性をきちんと理解できていないというのと全く同じです。栄養療法の知識がどれだけあっても、コミュニケーション能力が低いとそのことが患者さんにうまく伝わらないので、結果として売上が落ちて患者さんが来なくなって、口コミがなくなって、うまくいかなくなります。そのため、コミュニケーション能力はとても重要です。

4 コミュニケーションとは具体的に何か?

コミュニケーションとは、具体的に次の3つのことだと考えてください。

  1. 問診
  2. 教育
  3. コーチング

1.の問診とは患者さんの話を聞くことで、2.の教育とは患者さんに話をすることです。栄養療法はサプリメントを処方して終わりではなく、患者さん自身がやらなければいけないことが9割以上です。そのためコーチングというのは、ゴールの目標設定をしてそのゴールをよく見させて馬を走らせてあげることです。例えばグルテンフリーにしたら、どんなメリットがあるのかということを最初にきちんと説明すれば、毎日電話しなくても患者自身が努力してくれます。

ゴールというのは情報の塊なので、きちんとした情報・知識を教育をすれば、それ以上何も言わなくても勝手に行動してくれます。それが成功につながるので、そう言った意味でもコミュニケーション能力は非常に大切です。

5 どういう栄養外来にするか決めておく

栄養療法の知識だけでは不足だと思い、先日ドクター向けの栄養療法外来の養成支援講座を立ち上げましたが、これから始められる方向けに、問診に関しても最初に決めておいた方が良いことをいくつかお伝えします。

それは、まず「どういう栄養療法外来にするか」です。具体的には、お金と患者さんと時間の配分を決めるということです。栄養療法に100%の人生を賭けられる人がいたらそれでも良いですが、患者さんの難易度が上がると得られるお金が減って自分の時間も減ります。患者さんの難易度が下がると、経営的に上手くいって自分の時間も増えます。だからここをまずは具体的に、50%・50%にするのか、30%・70%にするのかを決めたほうが良いです。

栄養療法をされる先生方は保険診療と併用だと思うので、保険診療と自費診療との割合を決めなければなりません。どういう患者さんを診てどこまでは受けないのか、アレルギー、自閉症のお子さんはどこまで診るのか、検査はどこまでするのか、サプリメントの在庫はどこまで抱えるかなどです。自分が熱意を持って取り組める分野があれば色々なものを割いて用意したら良いですが、患者さんのニーズは多様なので自分ができる範囲とできない範囲の線引きをきちんとしておきましょう。

次に診察費用を決めましょう。自費診療外来にどのくらい患者さんが来るかは、開業する前までに流している情報量の多さによります。自費診療なので、プロになるとしたら1回の料金をどうするかということを自分で決めます。高すぎても誰も来ないし、安すぎると疲弊します。私は最初、自費診療の初診料を5,000円で始めたんですけど、今は30,000円にしています。

6 知る⇨好きになる⇨信頼する

自費診療とは需要と供給の関係なので、患者さんが増えてきたら当然価格も上げるものですが、その鍵は情報の発信量、つまりコミュニケーション能力です。まずは診療に来てもらうところからコミュニケーションは始まっています。そのあとは知る⇨好きになる⇨信頼するという流れになります。

信頼するというフェーズになって、初めてこの人に診てもらおうかという気になります。まず相手を知り、好きになって、信頼されるというところまで行くには、現状ならネット上でいかに沢山情報を出すかということです。情報を沢山出せば出すほど、価格は上げても大丈夫です。情報を出していない人は最初は無料にしてください。無料の情報をシェアすることで、コミュニケーションのネット上の仕組みができてきて、そこではじめてきちんと診療ができるようになります。

もちろん口コミや、保険診療で診察したことのある患者さんの付き合いが、ネット上よりベストです。保険診療の患者さんとコミュニケーションができていて信頼されているのであれば、自費診療の話をしても良いと思います。物事には順番があるので、どのようなスタイルでやるかを考えてみてください。私の場合は保険診療の患者さんに声をかけることはほとんどしていないため、ネット上で来た人が99%です。この信頼をネット上で得る仕組みを構築しています。

7 なぜ◯◯が必要なのかを伝える

栄養療法の勉強で一番勉強になるのは、他人に教えることです。他人をカウンセリングするというのが究極の形です。

検査をオファーしてサプリメントや治療を提案するときに、「何故この検査は必要なのですか?」「何故このメーカーのサプリメントでないとだめなんですか?」「何故一番最初にデトックスをやってはいけないんですか?」「何故最初に低血糖の治療からやらなければいけないんですか?」などの質問に答えられるでしょうか?自分でもきちんと理解した上で、クライアントに説明しないと当然上手く伝わりません。

例えば、メタジェニックス社の「グルテンダイジェスト」という製品は、消化酵素のサプリメントをお薦めする理由はこんな感じです。

「一般的に消化酵素はタンパク質の端から切っていきます。グルテンを端から切ることによって途中でモルヒネ様物質であるグリアドルフィンができます。そのためグルテンの消化が悪い子供がグルテンを摂ると、中途半端な消化によるモルヒネ様物質を脳内に作り出してしまいます。しかし、グルテンダイジェストにはグルテンタンパクを真ん中から切るという特殊な成分が入っています。真ん中を切ることで消化の効率も良くなりますしグリアドルフィンもできません。その成分を使っているのは、現在メタジェニックス社ともう一社だけです。」

このようにして、なぜこのサプリや検査が必要か、なぜこの順番でやらなくてはならないかなどを順番に説明していきます。

ドーズ・レスポンスの本当の意味

宮澤賢史 · 2019年4月25日 ·

分子栄養学を学んだことのある方なら、だれでも「ドーズ・レスポンス」という言葉を聞いたことがあると思います。

これは直訳すれば「栄養の投与量と反応の関係」です。

分子栄養学において、その反応は正比例の一直線のグラフにはならず、S時のカーブを描がきます(ドーズ・レスポンスカーブと言われています)。

15年前、分子栄養学を習い始めの事に、

「枯れかけている鼻に、スポイトで水をかけてもなかなか生き返らないので、じょうろでたっぷり水をあげましょう。」

「荷車を押すとき、動きはじめにはたくさんの力が要る」

などと説明を受けたことがあります。

個体差とドーズレスポンス

ビタミンは欠乏症を補う最低限の量と、補酵素として働く量があります。
一般に、補酵素としての必要量は欠乏症を補う量の数倍~数十倍になります。

分子栄養学では、補酵素として栄養を使うために、「メガドーズ」と言われるような量を使用することが特徴です。
特に水溶性ビタミンは、個体差によって、また使用目的によって、通常の数百倍の量が必要になることがあります。

特に顕著なのはビタミンCです。

ビタミンCは時に、点滴でしか達成しえない量を投与することがメリットになります。

脳は栄養の影響を受けやすい

ところで、この「個体差とドーズレスポンス」の特徴が一番顕著な臓器をご存知ですか?
答えは

「脳」

です。
脳の特徴について、認知症治療のエキスパート長尾和宏先生が医事新報に記事を書いていらっしゃいますので、一部引用します。

脳はネットワーク臓器なので、細分化手法だけでは当然限界がある。従って、臓器別縦割りに拘らない総合診療的な思考が必須。

私は脳の病気こそが個別化医療の対象だと思う。

がん治療や高血圧治療における使用薬剤の個体差は、せいぜい2~3倍で多くも数倍程度であろう。
一方、がん性疼痛に使用されるオピオイドの至適容量の個体差は、10倍、いや数百倍にも及ぶ。

たとえば繊維筋痛症という病気の疼痛閾値の個体差も百倍単位に及ぶはずだ。

脳というネットワーク臓器の薬剤感受性には想像以上の個体差があるはずだ。

しかもその差は、同一個体であっても病気や日にちや日内でも大きく変動することは容易に想像できる。

しかしそうした個別性を無視した認知症医療には疑問を感じる。

脳の治療こそ、「個体差とドーズレスポンス」が大切なのです。
これは、認知症に限らず、うつや統合失調症など全ての脳疾患に言えます。
さらに、薬を用いた治療でも、栄養療法でも同じことです。

脳だけは特別に扱った方がいい

ところで、すでにお気づきかもしれませんが、脳に対するドーズレスポンスは、最初に述べたドーズレスポンスと違う点が2つあります。
ひとつは、「脳への治療の場合、ドーズレスポンスカーブの閾値のラインが、かなり手前にくる事」もう一つは、「適正量を超えると比較的早期に副作用が出る事」です。

抗うつ薬の副作用の問題がこれだけ騒がれていますので、副作用についてはご理解いただけると思いますが、

「ドーズレスポンスカーブの閾値が、手前にくる」とはどういう意味でしょうか?

実は、先ほど引用させて頂いた長尾和宏先生のお話しは、

「コウノ・メソッド」という認知症の周辺症状を抑える薬物治療法を評価する記事にて書かれたものです。

このメソッドは、開発者の河野先生自らの経験をもとに、新しい診断基準を提唱し、認知症を細かく分類していること、そして、周辺症状を抑えるために、認知症治療薬をガイドラインよりも少量使用することなどが特徴です。

例えば、アリセプトなどは、量を多くしても中核症状をほとんど改善しないのに、周辺症状が悪化するそうです。
ですから、最低限の量をだして、反応を見ながら徐々に増やしていくという考えです。

まさに、個体差とドーズレスポンスを踏まえた方法論であり、その点は非常に素晴らしいと思います。
マニュアルが公開されていますので、ご参考にして下さい。

コウノメソッド2014
名古屋フォレストクリニック
http://www.forest-cl.jp/method_2014/kono_metod_2014.pdf


つまり、脳に対する薬は、「効きすぎに注意しながら、おっかなびっくり増やしていった方がいい」のです。

実際の例

例えば、自閉症の例をみてみましょう。

アメリカ自閉症研究協会が行った患者の両親による治療評価アンケートによると、

自閉症に効果が見られたと両親が評価したサプリメント第1位はSAMe(66%が効果が見られたと評価)ですが、
悪化した(と両親が評価した)サプリメント第1位もSAMe(15%)でした。SAMeは神経伝達物質の代謝を促し、解毒を促進する強力なメチル供与体です。

自閉症児の多くはメチル基が不足していますので、投与により劇的な効果が見られる場合もあります。しかし、外来でSAMeを処方されたお子さんが翌日に、家の車をボコボコにしてしまったという話もあります。SAMeにより興奮性神経伝達物質が増えすぎたために起きた現象です。

これは、「認知症にアリセプトを多く出したら、徘徊がひどくなった」というのと全く一緒の話です。
他にビタミンB12(63%)や、葉酸(42%)も同様に効果が見られる栄養素ですが、これらは全てメチレーション回路を回し、メチル基を作り出します。
ですからこれらの栄養素は、1種類ずつ足しながら、少しずつ増量しなくてはなりません。

デパケンや、テオフィリン等の薬を投与するときは、血中濃度を測定することがあります。
これらの薬は、有効量と中毒量が接近しているため、血中濃度をモニタリングしながらでないと危険なのです。
同様に、脳に対するサプリメントは、効果をモニタリングしながら使うのが安全です。自閉症などの精神疾患に対するメチレーション治療こそ、検査結果をもとに治療サプリや量を決めるべきだと思います。

例えば、HDRI社のメチレーション検査は、葉酸、SAMe、グルタチオン等を測定することにより、体内の回路がどこで滞っていて、それを解消するためにはどの栄養素を使うべきかを教えてくれます。

The Methylation PathwayHealth
Diagnostics and Research Institute
http://www.hdri-usa.com/tests/methylation/

分子栄養学の始まりは、1968年、ポーリングがサイエンス誌に発表した「分子整合精神医学」という論文です。

その中の一節には、こうあります。

他の臓器と比べて脳は 組成している分子化合物や その構造に深い依存傾向がある。

つまり、脳は栄養素が効きやすい臓器だという意味ですが、その気になってみると、「脳に対して多すぎる栄養素は害を及ぼす可能性があるので、気を付けるべき」という注意も含まれているように感じられるから不思議です。

「充分な量を摂って、生体の利用に任せる」
「なるべく少ない量から徐々に使い、モニタリングしながらバランスをとる」

全く異なる治療方針ですが、どちらもドーズ・レスポンスと言えるでしょう。

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