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臨床分子栄養医学研究会

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栄養療法外来のやり方

栄養療法の値段と医師のレベル

宮澤賢史 · 2019年2月23日 ·

分子栄養学が正しく広まるためには、正しい知識が広まることももちろんですが、「正しい治療が適切な値段で受けられること」が必要だと常々思っています。

原因不明の病に苦しむ患者さんにとって、栄養療法は確かな手ごたえを感じられる数少ない治療の一つです。

しかし、治療が始まってから患者さんは経済的な事で悩むようになります。

「なるべくサプリや検査に頼らない方法を知りたいです」

「患者さんのサプリメント購入については長期にわたってくると負担も大きくなります。なるべく食品から摂取できるものは食品から、最低限必要なものはサプリメントからという風に考えたい」

「手探りで解析結果に従って実行してきました。必要なサプリ量がどう変わるか?いずれは減らせるのか?サプリ代が予算的にあと1年ももつか?が心細い限りです。」

これらは、メール講座を受講している方から頂いた生の意見です。

もちろん、治療にかかわる先生方も、これをよしと思っているわけではなく、

「日常診療では、高額な自費検査や唾液検査などはほぼ不可能。」

「検査には費用がかかり、いいといわれるサプリメントは高額なものも少なくありません。自分自身が患者の立場で言うと、やはり経済的負担から、そこまで高額な検査や治療を望まないと思います。」

といったご意見も頂いています。

この治療が広まるためには、「患者さんが無理なく出せる」かつ「医師が適切な利益を得られる」値段設定が求められます。いくら正しい治療だといっても、この治療が健康保険の適応になるにはまだ時間がかかりますので。

では、どうしたらよいのでしょうか?

正解は「検査とサプリをできるだけ減らすこと」です。

極端な話ですが、問診と診察から患者さんの不調の根本原因が全てわかれば検査はいりません。

また、患者さんの体の状況を正確に把握することができれば、絶対必要なサプリメントは、3種類まで減らせるかもしれません。いわゆる「引き算の栄養学」ってやつです。

しかし、言葉でいうのは簡単ですが、実際にはなかなか難しいです。そもそも、問診と診察から根本原因が完全に絞りきれないから検査をするわけですし、何が効くかはっきりと断定できないので複数のサプリメントが出るのです。

栄養療法の医師にもレベルがあります。

レベル0 サプリメントを完全否定する
レベル1 サプリメントを容認する
レベル2 血液検査で足りないサプリを処方する
レベル3 様々な検査を駆使してサプリを処方する
レベル4 サプリを邪魔する原因を考える
レベル5 必要ないサプリを減らす
レベル6 必要ない検査を減らす

レベル7 会った瞬間に必要な治療がわかる

私自身も、過去15年間でこのような階段を上ってきました。もちろんレベル7には至っていませんが。

サプリメントを摂るのは簡単です。(効果を継続したまま)やめるのが難しいんです。

医師はレベル4以上に到達して、はじめて患者さんの懐状況と治療効果を天秤にかけた治療ができるようになります。

レベル5になると、サプリをどこまで減らすかということに思慮が及ぶようになるので「治療のゴール」を意識できるようになります。そうすることではじめて患者さんに「治療期間の目安」の話ができるようになります。

問診事項と症状から検査結果を予測して、一番効果的なサプリメントをピンポイントで使う。それはレベル6の医師にしかできないことです。

医師、歯科医師の方は「自分はどのレベルの栄養療法医」か、患者さんだったら「自分の主治医はどのレベルなのか?」よく考えてみてください。

このレベルが栄養療法にかかるコストを大きく左右します。

分子栄養学実践講座では、レベル6になるためのカリキュラムを組んであり、それに必要な資料(テキストとビデオ)を提供しています。

「○○地方で副腎疲労をみてもらえるクリニックをご紹介下さい」とお問い合わせを頂いた時、必ず実践講座を受講された先生をご紹介するのはそういった理由からです。

レベル6の「検査とサプリを減らせる医師」には患者さんはレベル3の医師の2倍の診察料でも惜しみなく払ってくれるでしょう。それでもトータルで考えれば、患者さんの負担はだいぶ減るからです。

2010年代の後半、栄養療法は半分当たり前のこととしてますます多くの人に受け入れられていくでしょう。

インターネット上には栄養に対する様々な知識があふれています。栄養療法を専門とする医師(管理栄養士も)であれば、最低レベル4まで達していないと今後は厳しく、淘汰されて行くと思います。

サプリメントの選び方と使用量

宮澤賢史 · 2019年2月21日 ·

はじめに

分子栄養学は、サプリメントを用いて医学的な効果を得るための栄養療法の方法論です。
健康増進のためにサプリメントを摂るのと、栄養療法により病気を治す方法には大きな違いがあります。

それは、サプリメントの選び方と使用量です。

栄養療法は、様々な検査をして足りない栄養を見つけ出し、通常よりもかなり多い量の栄養を用いるのが特徴です。

ここでは、どのようにしてサプリメントの種類や量を決めるのかについて説明します。

栄養療法に必要な4つの考え方

サプリメントの種類と量を決めるためには、4つの考え方「ドーズレスポンス」「個体差」「栄養素の局在」「栄養療法を邪魔する要素」が必要です。

「栄養素の局在」とは、文字通り、体内で栄養素が均一でなく、偏って分布していることを意味しています。体内でビタミンC濃度が一番高いのは副腎です。

「ドーズレスポンス」とは、治療効果を得るためには最適量の栄養を使う必要があるという意味です。

体重70kgのヤギが1日あたり13gのビタミンCを体内で作れることから考えると、人間も体内の状態を最適化するためには数十g単位のビタミンCが必要なのかもしれません。

「個体差」とは、栄養素の必要量が人によって大きく異なるという意味です。

ビタミンC点滴後のビタミンC血中濃度が人によって大きく異なるのは、腫瘍や感染、炎症、ストレスなどによってビタミンCが大きく失われている人がいるからです。

「栄養療法を邪魔する要素」とは、栄養の吸収を邪魔する腸内環境悪化、ミネラルの効果を減弱し、弊害を及ぼす重金属の蓄積などです。

上記の4つの法則を知り、うまく使わなければ疾患を治すことはできません。
それぞれについてもう少し詳しく説明します。

ビタミンの定義

「ビタミン」とは何でしょうか?

ビタミンとは「体内では作れないので、必ずとらなくてはいけない栄養」のことです。

ヒトは体内でビタミンCを作れません。だから、ヒトにとってビタミンCはビタミンです。

ヤギは体内でビタミンCを作れます。だから、ヤギにとってはビタミンCはビタミンではありません。

では、ビタミンCは体内でどのような働きをしているでしょうか?
ビタミンCが足らなくなるとどのような事が起きるでしょうか?

ビタミンの標準摂取量

ビタミンCは体内で様々な働きをしています。

ビタミンCが欠乏するとおきるのが「壊血病」です。うつ状態になり、歯茎をはじめとした色々なところから出血します。

ビタミンCは新鮮な食物にしか含まれません。大航海時代、塩漬けの肉のみを積んだ船員が壊血病のために、数万人亡くなりました。

ビタミンCはコラーゲンをつくるのに欠かせない物質です。壊血病は、ビタミンC不足により血管の材料コラーゲンが作れない病気です。血管が弱くなるので全身から出血します。

この壊血病を予防するために、最低限摂らなくてはいけないビタミンCの量の事を、「標準摂取量」とか「所要量」などといいます。

「標準摂取量」は、国が定めた量で、栄養失調を防ぐ最低の量であり、それに対して「最適量」は、病気を治すための量です。

ビタミンの最適量

ところで、ビタミンCの働きはコラーゲンを作ることだけではありません。
ビタミンCにはざっと考えても以下の様な働きがあります。

  • 風邪などの感染症を予防する
  • ノルアドレナリンを合成する
  • カルニチンを合成する
  • 胆汁酸を合成する
  • 異物を代謝する
  • インターフェロンの合成
  • 鉄代謝に関与する
  • ヒスタミン遊離を抑制
  • がんの予防
  • メラニン産生の抑制(「美白効果」のことです)

これらの効果を得るために必要なビタミンCの量は様々です。

例えば、壊血病を予防する量は1日100mgですが、風邪を予防するためには1日1,000mg(1g)を3回飲まなくてはならないという報告がありますし、がんを治療するには1日100,000mg(100g)のビタミンCを点滴しなくてはなりません。

つまり、ビタミンの「標準摂取量」は100mgで、これによりビタミンC欠乏である「壊血病」を予防することができます。

その一方で、抗がん剤としてビタミンCを使う場合の必要量は100gであり、これががんに対するビタミンCの「最適量」となります。

この場合、「最適量」は「標準摂取量」の1000倍となります。

このように、目的によって必要な量が異なる事を量と反応の関係(ドーズレスポンス)と呼んでいます。

ビタミンC100gはレモン5000個分にもなります。この栄養素の量はサプリメントなしには達成できません。

つまりサプリメントは栄養を凝縮した「効率の道具」ということができます。この栄養の効率化によって医学効果を発揮させるのが「分子栄養学」というわけです。

ビタミンの最適量には個人差がある

ビタミンの必要量はヒトによって異なります。

タバコを吸う人、糖尿病の人は血中のビタミンC濃度が低いことがわかっています。このような人は他の人にくらべて、余計にビタミンCを摂る必要があります。

このような個人差は、酵素と基質の親和性で説明できます。
体内の化学反応は基質と酵素が結合して起きますが、両者の結合を助けるのが補酵素です。

問題は酵素の形が人によって多少なりとも異なることです。
酵素はタンパク質の一種であり、設計図であるDNAを元に作られます。

ヒトのDNAは99.9%同じですが、0.1%の違いが個性を生みます。酵素の形が悪いと基質との結合が弱く、余計に補酵素を必要とします。

「酵素の個人差によって必要な補酵素の量が異なること」これを個体差といっています。

サプリメントの最適量が人により異なる理由

タンパク質の働きにはいろいろありますが、一番重要なものは酵素としての働きです。
酵素は、体内で働く化学反応を調整(触媒作用といいます)しています。

人間は食べ物を体内で燃やしてエネルギーを作っています。実際には体温は36.5度で、物が反応するには非常に低い温度です。

しかし、酵素の触媒作用によって、食物は、確実に血や肉になり、エネルギーになります。だから、人は酵素が無ければ、生きられません。

酵素によって化学反応を触媒される物質を「基質」と言います。体内の化学反応は「酵素」と「基質」が組み合わさって進んでいきます。

ビタミン、ミネラルは補酵素として働く

酵素の働きを助けるものを「補酵素」といいます。

アミラーゼ、リパーゼ、リゾチームなどは酵素だけの力で反応を触媒しますが、酸化還元反応やアミノ基転移反応などは、補酵素の力を借りないと反応が進みません。

基質と酵素は鍵と鍵穴の関係に例えられます。形がぴったり合わないと反応が進まないのですが、それを助けるのが補酵素の役目です。

分子栄養学の世界で出てくる「個体差」とは、酵素の設計図である遺伝子の「個体差」なのです。

DNA配列に微妙な違いがあるために、それを設計図として作られる酵素たん白質にも若干の形の違いが生まれます。

基質と酵素と補酵素は、鍵と鍵穴とグリース(潤滑剤)に例えられます。

カギが鍵穴に入りやすい人と入りにくい人がいるわけで、このような人は補酵素(グリース)を余計に使うことで、化学反応の扉を開けることができます。

この補酵素として使われるのがビタミンやミネラルなのです。

補酵素として使われるビタミンの量は時には標準摂取量の100倍に達することもあります。

以上の理由により、栄養素の最適量は人によって異なるため、必要なサプリメントの種類と量を決める際に、その人の酵素活性を検査で測定する事が有用なのです。

脳における補酵素の研究

1950年代末、ライナス・ポーリング博士は、精神疾患の原因の一つに酵素の機能障害があるのではないかと疑い、脳機能における酵素の役割を研究しました。

彼が、ビタミンが欠乏症予防以外に重要な生化学的効果を持つ可能性に気が付いたのは、ポーリング博士が1965年にエーブラム・ホッファー著「精神医学におけるナイアシン療法」を読んだ時のことです。

これにヒントを得て、1968年、ポーリングはサイエンス誌に「分子整合精神医学」
(Orthomolecular psychiatry)と題した簡単な論文を書き、ビタミン大量療法運動の原理を発表しました。

ビタミンには酵素を助ける補酵素としての働きがあります。
ポーリング博士は、そこで、酵素、補酵素の不足が病気を引き起こすので、それを充分量補充することで病態の改善が見込めるのではないかと提案したのです。

栄養素の局在

疾患に対してのサプリメントの選び方は、『栄養素の局在を考えること』 がポイントです。

「ある栄養素がある疾患に対して有効かどうかは、疾患の存在する部位にその栄養素が存在するかどうかを考えればよい」

栄養素が、体のどの部位で濃度が高いかを知ることは、その栄養素がどこの疾患で有用なのかを知ることなのです。

なぜなら、栄養素は体が長年の歴史で必要とされる部位に運ばれるシステムが確立しているからです。

ビタミンCの場合血中濃度を1とすると、脳には20倍、白血球には80倍、副腎には150倍のビタミンCが存在します。

ビタミンCが存在する所には、それだけ需要があると考えられます。

風邪の予防と治療にビタミンCが効果的であるというエビデンスが多く存在しますが、これはビタミンCによる白血球の活性化作用が一因と考えられます。

また、副腎疲労症候群の治療に最優先すべき栄養素がビタミンCであることも、このビタミンCの分布から推測されます。

一般に、栄養素が高濃度に存在するところほど需要量が高く、栄養素を摂取した場合に、優先的に使用されます。

「美白のためには、どの位のビタミンCを摂ればいいのですか」というご質問をよく頂きますが、答えは「人によって大きく異なります」 となるわけです。

副腎や白血球での需要量が多い場合は、そちらでまず使われてしまうからです。

ビタミンCが足りているかを調べるためには、ビタミンC血中濃度を測定すると参考になります。

栄養療法を邪魔する要因

分子栄養学の多くの書籍には上記3つの事に関してはよく書かれています。

ストレス回避の仕方、ドーズレスポンス、個体差を考慮したサプリメント処方などです。

これらをちゃんと行えば、ある程度の病期なら回復してしまいます。

しかし、それだけではうまくいかない人もいます。4番目の邪魔する要因の影響が強い人たちです。

私の外来に来る人で、まったくサプリを摂っていない人は10人に1人もいません。

4番目の要素がひっかかっているために、病期が治らずに来る人が半分以上を占めます。

そういうわけで、私の仕事はだんだんと

「サプリメントの処方」から「疾患を起こしている根本原因をみつけること」

にシフトしてきました。

宮澤医院には、多くの人が副腎疲労の症状でやってきます。

疲れているのは、副腎疲労が原因だと思ってくる人が多いのですが、多くの場合副腎疲労は「原因」でなく「結果」です。

つまり、副腎疲労を起こしている「根本原因」が他にあります。

副腎だけを見ていては、副腎疲労は治らないのです。

足し算よりも引き算

言い換えれば、副腎疲労は全身疾患のバロメーターという事もできると思います。

体内に何か異常があれば、副腎にストレスがかかるのですから、副腎ホルモン値に影響します。

最近は、健康診断の項目として全国民が受けるべきではないかと思っています。

私が習った分子栄養学講座のテキストは、どちらかというと生化学の式が満載でした。

今見るとエッセンスの塊ですが、最初は理解するのに相当時間を要しました。

実践講座を始めた時は、私もそれをならって各ビタミンの構造式、特徴などの話をさせていただく事が多かったのですが、ニーズに合わせてどんどん進化していき、今では4つ目の要「邪魔する要因とその対処」についての話が7割です。

なぜなら、臨床応用しやすく、結果が出やすいからです。

結果が出て患者様に喜んでもらえれば、それが自信につながるし、多くの患者様を呼ぶことになり、それでもっと研修しようと意欲がわいてくるという、好循環が生まれやすいです。

だから、これから分子栄養学を勉強する方には特に、一通り足りない栄養素を見つける方法を身に付けたら、次は邪魔する要因とその対処について考えることをお勧めいたします。

「足りない栄養素を足すという方法でうまくいく患者さんは2~3割」です。

まずは腸からアプローチ

邪魔する要因とその対処ですが、具体的には、まず腸内環境改善をして、栄養素が消化吸収されやすい素地を作ることからはじめるとよいです。

悪玉菌やカンジタなどが増殖している場合は、単純に乳酸菌を摂るだけではうまくいかないことも多いです。

腸内環境検査を行い、炎症や免疫、消化酵素の調整なども同時に行っていきます。重金属の蓄積評価と対処法に関して、治療の初期に行うのは難しいです。炎症や感染が存在すれば、体内の解毒機構が低下するため、毛髪分析などに影響が出ます。また、腸内環境が整っていない時にデトックスを行うと非常に副作用が出やすいです。

「副腎疲労は、どのレベルになったら治療の専門家に相談するべきでしょうか?」

というご質問をよく頂きますが、上記3つの対処をしても難しいなら4番目の要素を疑い、ご相談いただいた方がよいと思います。

この領域は思いつきで治療すると、逆効果になることもあるので、早めにプロの治療家に任せる方がよいでしょう。

栄養療法 3つの治療方針と治療手段

宮澤賢史 · 2019年2月20日 ·

分子栄養学の治療を行う場合の考え方について説明します。

1.病態の中心概念をとらえる

臓器で、細胞で、全身で何が起きているのか?

まずは、問診と診察から患者さんの病態の中心を成しているものは何かを考えます。

その時のポイントは、「臓器中心」だけでなく、同時に「体全体」としても考える事、「細胞や分子レベル」で何が起きているかを考える事です。

一般的な医療は、病態を「臓器レベル」で把握しますが、
栄養療法を行うときは、根本の病態を「全身症状」「細胞・分子レベル」で把握します。

例えば、副腎疲労の患者さんの細胞では「ミトコンドリア」機能が低下していることが多いのですが、「疲れやすい」という症状が出ている人は、副腎疲労にかかわらず、「ミコトンドリア」機能が低下しています。

根本になる病名、病態を把握する

私の場合、分子栄養学的アプローチ別に疾患を3群に分けています。
「疲労系」「免疫系」「精神神経系」です。

「疲労系」はその名の通り、疲労を主訴とする疾患。
「免疫系」はリウマチやアトピーなど、通常ステロイドが治療に用いられる疾患。
「精神神経系」は、統合失調症、うつなど神経伝達物質が問題になる疾患です。

最初にすることは、患者さんの病態の主原因が3つのうちのどこにあるのかを見つけることです。

「免疫系」「精神神経系」の疾患は、ほとんどの場合すでに病名が決まっています。原因不明と言われている場合、私の経験では多くが疲労系の疾患です。

疲労系は細胞のミトコンドリア機能の障害であり、臓器を超えて様々な症状が起きてきます。

正確な診断のためには、臓器単位の考え方のみで疾患を絞り込むのは難しく、細胞機能や全身状態を同時に考える、「俯瞰的なものの見方」が必要です。

「疲労系」の疾患を疑ったら、ミトコンドリア機能を評価すると同時に、疲労を起こしうる疾患の鑑別診断をしていくことが重要になります。

病名と病態が違っている場合もあるので注意

また、病名がすでにはっきりしている場合でも、その病名が患者さんの病態をきちんと表しているか確認する必要があります。

例えば、免疫系の疾患でも、免疫細胞のミコトンドリア機能が落ちていることが主原因になっている場合もあります。

2. 治療方針を決める

中心概念が決まれば治療方針が決まります。

疲労系疾患はミトコンドリア機能を改善させる

副腎疲労症候群は、臓器レベルでは副腎の問題ですが、全身症状は「疲れやすい」、細胞の状態は「ミトコンドリア機能低下」です。

甲状腺機能低下症は、臓器レベルでは甲状腺の問題ですが、全身症状は「疲れやすい」、細胞の状態は「ミトコンドリア機能低下」です。

鉄欠乏性貧血は、臓器レベルでは、赤血球の問題ですが、全身症状は「疲れやすい」、細胞の状態は「ミトコンドリア機能低下」です。

病名 臓器レベル 全身症状 細胞の状態
副腎疲労症候群 副腎機能低下 疲れやすい ミトコンドリア機能低下
甲状腺機能低下症 甲状腺機能低下 疲れやすい ミトコンドリア機能低下
鉄欠乏性貧血 赤血球数低下 疲れやすい ミトコンドリア機能低下

つまり、慢性疲労、副腎疲労、起立性調節障害、甲状腺機能低下、貧血は、臓器レベルで考えると一見別々の疾患ですが、全身症状は「疲労」で共通しており、細胞レベルでみると「ミトコンドリア機能低下症」とひとくくりにできます。

病態が「疲労」である疾患は「ミトコンドリア機能改善」が共通の治療方針なのです。

免疫系疾患は免疫の正常化を行う

同じように、治療にステロイドを用いる疾患にも同じ共通点があることに気づきます。

関節リウマチは、臓器レベルでは、関節の問題ですが、根本病態は「免疫異常」です。
アトピー性皮膚炎は、臓器レベルでは、関節の問題ですが、根本病態は「免疫異常」です。
掌蹠膿疱症は、臓器レベルでは、腸の問題ですが、根本病態は「免疫異常」です。

これらの疾患に共通する病態は「免疫異常」であり「免疫の正常化」が共通の治療方針です。

精神疾患は神経伝達物質のバランスを正常化する

同じように、うつ、統合失調症、発達障害、ADHDなどの共通病態は、「神経伝達物質代謝異常」であり、その調整が共通治療方針です。

「同じ疾患群には共通のアプローチ(治療方針)がある」のです。
そして、これらは栄養療法によって目的を達成することができます。

[box class=”box26″ title=”まとめ”]病態の中心概念をとらえ、治療方針を決める

(例) 中心概念は副腎疲労、治療方針は「副腎ケア」と「ミトコンドリア機能改善」[/box]

がんに対する治療方針

がんの原因は様々ですが、活性酸素や感染、慢性炎症以外にも、

1 アポトーシス不全(不完全な細胞を消去できないためにがん化する)
2 免疫低下
3 ストレス

などが挙げられます。

これに対しては、

1 ミトコンドリア機能改善
2 免疫の正常化
3 神経伝達物質のバランス正常化

が有効だと考えられます。

つまり、上記の3つの治療方針を全て組み合わせる必要があるのです。
栄養療法でもがんの治療は一番高度な技術が要求されます。

がん治療にもミトコンドリア機能は大きく関与します。
なぜなら、エネルギー産生と並んでミトコンドリアの大きな働きの一つが、「アポトーシス」の調整だからです。

3. 治療手段を決める

治療手段は診察や検査結果で決める

患者さんの疾患の概念をつかみ、治療方針が決まったら、次に治療方針を達成するための「治療手段」を決めます。
その際に、どの手段を用いるべきかは問診や検査結果をみて決めます。

例えば、ミトコンドリアについて考えてみましょう。
ミトコンドリアのエネルギー産生というのは、酵素反応によります。

だからミトコンドリア機能を高めるためには、酵素の代謝を高めたり、酵素反応の補酵素を補充したり、酵素反応の邪魔をする因子を取り除けばよいのです。

具体的には、ビタミンサプリをとることや、デトックス治療、また運動などもいいでしょう。

実際には、血液や毛髪、唾液検査などを用いて、酵素反応のボトルネックになっている個所を探し出して、そこを重点的にアプローチしていきます。

[box class=”box17″]

ミトコンドリア機能は様々な要因によって邪魔されます
ミトコンドリア機能低下の原因は検査をすることで明らかになります

  • ミトコンドリア内の酵素を動かす補酵素(ビタミン、ミネラル)が足りない
    (血液検査にて知る事が出来ます)
  • 腸内環境が悪くて酵素やミネラルの吸収が悪い
    (腸内環境検査にて知る事が出来ます)
  • 体内に入り込んだ重金属が酵素を邪魔しているのか?
    (毛髪ミネラル検査にて知る事が出来ます)[/box]

ですから、一言にミトコンドリア機能改善と言っても、それを正しく行うには、

  • 血液検査や毛髪検査の正しい読み方
  • 必要なサプリメントの選び方、投与の仕方
  • 細胞やミトコンドリアの構造と働き
  • 酵素反応を促進するビタミンと、邪魔する因子の種類

などの基礎的な知識が必要となります。

これは免疫系疾患でも同じです。
例えば「掌蹠膿疱症」をビオチンで治す人もいれば、口腔内ケアで治す人もいます。
治療のテクニックは違えど、目的は同じ「免疫の正常化」なのです。

ちょっと複雑ですが、ここを抑えておくと大まかな治療の流れがわかるようになります。

4. まとめ

分子栄養学治療の流れは、

1 病態を把握する
2 中心となる治療方針を決める
3 適切な診察と検査で使う治療手段を決める

となります。

このフレームワークを動かすためには、以下の知識が必要です。

①「病態から治療方針を決める方法」

②「治療方針を達成する方法」(ミトコンドリアの動かし方、免疫を正常化させる方法、神経伝達物質のバランスのとり方など)

③「診察の仕方、検査の読み方」

④「治療テクニック」(腸内環境改善法、自然なデトックス法、サプリメントの摂り方など)

ミトコンドリア機能向上と一言にいっても、やり方はざっと10通りもあります。

病院受診が必要なほど重症な人は、ミトコンドリアサプリを摂るだけでは改善しません。
酵素反応を高めるために単純に高たんぱく食にすることで改善する人は限られます。タンパク代謝全体を高めなくてはなりません。

5.これらがうまく機能しないときに考える事

Depressed woman

「血液検査をして足りないサプリメントを摂ったが治らない」
「複雑な尿検査や遺伝子検査をしたり、様々な治療法を試ししても、ゴールが見つからない」

という人は決して少なくありません。

なぜ、うまくいかないのか?
理由は大きく2つに分けられます。

(1)検査の解釈が間違っている

栄養療法における血液検査の解釈は一般の医療的な見方とはだいぶ異なります。
詳しくは血液検査の読み方講座でご紹介しています。

また、こちらの記事(検査をしているのに治療がうまくいっていない人のパターン)も参考にしてください。

(2)治療の「方針」と「手段」がごっちゃになっている

この2つを取り違えている人がすごく多いです。治療家も患者さんもです。

貴方の副腎疲労に対する「治療方針」はなんですか?ちょっと考えてみてください。

もちろん、副腎が疲れているので、副腎を癒すためのビタミンCやハーブも重要なのですが、それだけでは副腎疲労は十分回復しません。

なぜなら、副腎疲労を起こすまでには全身の細胞がかなり疲労しているからです。

副腎の役割はストレスに対応する事ですから、ちょっとやそっとのストレスで根を上げることはありません。

副腎疲労を起こすまでには、通常数年間にわたるストレス期間があります。
その間に、全身の細胞が疲労し、エネルギーを作る能力がすっかり落ちてしまうのです。

細胞の中でエネルギー産生を担っているのは「ミトコンドリア」です。
つまり「副腎疲労」では、細胞のミトコンドリア機能が低下しています。
だから、私の「副腎疲労」の治療戦略は、「副腎のケア」と「ミトコンドリア機能の改善」なのです。

方針と手段の違いを明確に意識する

「そんなの当り前じゃないか」というご意見もあると思いますが、実際には、この目的を明確に意識するかしないかで、治療効果は大きく違います。
意識をしていないと「方針」と「手段」を取り違えてしまうことがあるからです。

「血液検査で足りない栄養素みつけ、それを補充する」という治療をしている人があとを絶たない理由は、治療の方針と手段を取り違えているからです。

血液検査の結果が良くなることが、「治療方針」だと勘違いしているのです。

設定が間違っているので、数値に一喜一憂したり、治療効果が頭打ちになったり、サプリメントを減らしたら症状が逆戻りしたりするなど、すぐ限界が来ます。

「サプリメントをとること」は手段であって、方針ではありません。

血液検査は、方針を指し示してくれる道しるべであり、方針そのものではありません。

「フレームワーク」という考え方

「治療方針を決め、それを達成するために必要な手段を探るために、道しるべを用意する」というこのような考え方の枠組みを「フレームワーク」といいます。

実際、私はこのフレームワークを意識して、治療計画書に取り入れるようにしてから、一層の治療効果をあげられるようになりました。

治療目的がぶれないので、必要最低限の検査、治療のみで済むことにも役立っています。

6.フレームワーク作りの実際

フレームワークとは、治療の考え方の基本になる枠組みの事です。

・同じ疾患群(病態)には共通の治療アプローチがある
・それぞれの治療アプローチには、複数のテクニックの組み合わせが必要である
・それぞれのテクニックは、基礎知識の上に成り立っている

という考え方を図にしています。

左から順番に疾患群、治療アプローチ、テクニック、基礎知識です。
左は具体的な病名、治療の話、右は抽象的な概念の話です。

細胞の機能を高めるためには、状況に応じて様々な治療アプローチや、治療手段(テクニック)を必要とします。

使い方は以下の通りです。

① 患者さんの病気の系列を決める
→すると、基本治療方針(アプローチ)が大体きまります。

② 基本アプローチを行うのに必要なテクニックを決める
→問診、診察、検査結果から必要なテクニックを決めます。

③ 治療テクニックを使う順番を決める
→通常は体への侵襲が少ないものから順番に行っていきます。

7.病態の本質は、人間を構成している細胞の機能にある

ですからこの図では、細胞という観点から病態を
「疲労系」「免疫系」「精神系」の3つにわけています。
一人の人が複数の病態を持っている場合もあります。

病態が把握できれば、基本の治療方針がおのずと決まってきます。
なぜなら、細胞レベルで考えると、同じ系列に属する疾患は同じ細胞の部位の働きが低下しているからです。(例えば、疲労系疾患はミトコンドリアの働きが低下しています。)

同じ系には共通の病態があり、それに対する共通の治療アプローチが存在します。

例えば、「疲労系」には、慢性疲労症候群,副腎疲労,甲状腺機能低下症などが含まれますが、これらに対しては、ミトコンドリア機能改善が共通アプローチです。

もちろん、それが治療の全てではありません。
それぞれの病態に応じて個別にやるべきことはあります(例えば慢性疲労症候群なら感染に対する対策)が、いずれにしても、疲労系に対してはミトコンドリアアプローチが必須なのです。

疾患群と治療アプローチは常にセットです。

[box class=”box26″ title=”解説”]

高血圧症や糖尿病などが入っていませんが、これらも厳密に言えば細胞機能低下であり、「疲労系」、「免疫系」に組み入れられます。

ただし、これらの疾患は薬剤での調整が比較的容易であり、生活の質も保たれるので、積極的な栄養療法を受ける患者さんはそれほど多くないようです。

ここでは、標準的な医療での調節がうまくいきにくかったり、薬剤の副作用が強かったり、生活の質が低下しやすいものを中心に構成しています。

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ビタミンとミネラルの違い

宮澤賢史 · 2019年2月20日 ·

Healthy ripe fruits and vegetables containing vitamin C, natural minerals and dietary fiber, healthy lifestyle and nutrition concept

ビタミンとミネラルは全く違う

ビタミンとミネラルはどちらも「体内で代謝を高める補酵素として働く」「現代の食生活で不足しがち」という共通した特徴を持っています。

だから、手軽に摂れる栄養補給としてマルチビタミン・ミネラルというサプリメントが重宝されています。

栄養療法の大きな役割の一つは、細胞内に酵素反応を助ける補酵素を十分供給し、体内の代謝を回してあげることです。
通常ビタミン・ミネラルは単独ではなく、お互いに助け合って働くため、マルチビタミン・ミネラルサプリメントは非常に理にかなっています。

しかし、世の中にはこのサプリがうまく効かない人が大勢います。そのような人たちには、検査に基づく栄養療法が必要です。

なぜなら、ビタミンとミネラルは似ているようで全く違う性質を持っており、ビタミンとミネラルの受け取り方が人によって全く異なるからなのです。

栄養療法を行うためには、ベースサプリメントとしてマルチビタミン・ミネラルを摂る以外に、その人に会った栄養処方が必要です。

ビタミン

「ビタミン」とは何でしょうか?

ビタミンとは「体内では作れないので、必ずとらなくてはいけない栄養」のことです。

ヒトは体内でビタミンCを作れません。だから、ヒトにとってビタミンCはビタミンです。

ネズミは体内でビタミンCを作れます。だから、ネズミにとってはビタミンCはビタミンではありません。

では、ビタミンCは体内でどのような働きをしているでしょうか?

ビタミンCが足らなくなるとどのような事が起きるでしょうか?

ビタミンの標準摂取量

ビタミンCは体内で様々な働きをしています。ビタミンCが欠乏すると起きるのが「壊血病」です。

うつ状態になり、歯茎をはじめとしたいろいろなところから出血します。

ビタミンCは新鮮な食物にしか含まれません。
大航海時代、塩漬けの肉のみを積んだ船員がこの壊血病のために、数万人亡くなったのは有名な話です。

ビタミンCはコラーゲンをつくるのに欠かせない物質です。
壊血病は、ビタミンC不足のために、血管をつくるコラーゲンが作れなくなってしまう病気なんですね。

それで、血管が弱くなるために、全身から出血するわけです。

この壊血病を予防するために、最低限摂らなくてはいけないビタミンCの量の事を、
「標準摂取量」とか「所要量」などといいます。

厚生労働省が基準を出している、「第6次改定日本人の栄養所要量」によると、
ビタミンCの所要量は1日100mgとなっています。

つまり壊血病を防ぐためには、ビタミンCを毎日100mgとりましょう、ということです。

ビタミンの最適量

ところで、ビタミンCの働きはコラーゲンをつくることだけではありません。
ビタミンCにはざっと考えても以下の様な働きがあります。

・風邪などの感染症を予防する
・ノルアドレナリンを合成する
・カルニチンを合成する
・胆汁酸を合成する
・異物を代謝する
・インターフェロンの合成
・鉄代謝に関与する
・ヒスタミン遊離を抑制
・がんの予防
・メラニン産生の抑制(「美白効果」のことです)

これらの効果を得るために必要なビタミンCの量は様々です。

例えば、

壊血病を予防する量は1日100mgですが、風邪を予防するためには1日1,000mgを3回飲まなくてはならないという報告がありますし、がんを治療するには1日100,000mgのビタミンCを点滴しなくてはなりません。

ビタミンの必要量には個人差がある

ビタミンの必要量はヒトによって異なります。

タバコを吸う人、糖尿病の人は血中のビタミンC濃度が低いことがわかっています。
このような人は他の人にくらべて、余計にビタミンCを摂る必要があります。

このような個人差は、酵素と基質の親和性で説明できます。
体内の化学反応は基質と酵素が結合して起きますが、両者の結合を助けるのが補酵素です。

問題は酵素の形が人によって多少なりとも異なることです。
酵素はタンパク質の一種であり、設計図であるDNAを元に作られます。

ヒトのDNAは99.9%同じですが、0.1%の違いが個性を生みます。
酵素の形が悪いと基質との結合が弱く、余計に補酵素を必要とします。

「酵素の個人差によって必要な補酵素の量が異なること」

これを個体差といっています。

ビタミンは使う目的と個人差によって必要量が異なる

ミネラル

ビタミンの性質が「個体差」と「ドーズレスポンス(目的によって必要量が異なること)」だとすると、ミネラルの性質は「生体利用性」と「バランス」になります。

まずは吸収を考える

ミネラルは、生体利用性を高める工夫をしないと有効に使われません。

また、ミネラルはバランスが大切で、特定のミネラルだけが多いとほかのミネラルの働きを抑えてしまうことがあります。

特にミネラルをうまく使うのに必要とされるのは腸内環境です。
ミネラルはビタミンと違って、非常に難吸収性であるため、胃腸の不良がミネラルバランスを簡単に崩します。

ミネラルをうまく使うためにはまず腸内環境改善から始める必要があります。

ミネラルはバランスが大切

もう一つ重要なのは、ミネラルバランスです。

ナトリウムとカリウム、カルシウムとマグネシウム、亜鉛と銅はそれぞれ体内で反発しあう性質を持っています。

カリウムをたくさん取れば、ナトリウム(塩分)が体から抜けていき、血圧が下がるのが良い例です。
これらのミネラルは両者のバランスをうまく保つことが大切で、片方が多すぎるとあまり良いことがありません。

そういう意味で、マルチミネラルサプリメントは重宝します。

栄養療法にエビデンスがないと言われる件

宮澤賢史 · 2019年1月9日 ·

「栄養療法なんてエビデンスないからダメでしょ。」と言われて困った事がある人のために書きました。

1. ビタミンCの論文は6万件

エビデンスとは科学的な根拠、裏付けの事で、医学の世界では臨床結果などを報告した論文がエビデンスとほぼイコールの意味で使われます。よく「栄養療法にはエビデンスがない」と言われますが、実はけっこうあります。例えば、医学分野のデータベースMEDLINEで「ビタミンC」を検索すると、61,916件もの論文がヒットします。但し、その多くを「専門家の意見」や「まとめ」などが占めています。

ビタミンCは免疫レベルを上昇させる
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/29099763
ビタミンCの生理作用のまとめ
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC4959991/

これらの論文はエビデンスレベルでいえば、レベル5に相当します。

2. エビデンスレベルとは

エビデンスのレベルは、患者さんごとにコインを投げて表裏で治療するかどうかを決めるランダム化比較試験と呼ばれる形式の研究が一番高く(レベル1)、根拠がない専門家の意見は一番低い(レベル5)とされています。

エビデンスレベル
レベル1 ランダム化比較試験
レベル2 ランダム化しない比較試験
レベル3 後ろ向き(過去の事象について調査する)研究
レベル4 症例報告
レベル5 専門家個人の意見

ランダム化試験には膨大な費用がかかります。製法特許を取得できない天然の栄養成分(ビタミン、ミネラルとか)を使った試験に資金を出したがる人はいませんよね。

だから、栄養療法のエビデンスの半数以上はレベル5なのです。「エビデンス・レベルが低いものが数多く存在する事」が栄養療法のエビデンスの特徴といっていいでしょう。

3. 治療の推奨グレードはエビデンスレベルで決まる

病院で行われる治療は基本的に「治療ガイドライン」に基づいています。そこに載っている各治療のお勧め度を「推奨グレード」といいます。「推奨グレード」は、主にエビデンスの質によって決まります。例えば、レベル1のエビデンスがいくつかあれば、グレードAです。

一般的なグレード分類
グレードA かなり推奨できる
グレードB 勧められる
グレードC 根拠はないが考慮してもよい
グレードD 行わない方がいい

グレードを決めるのはエビデンスの「量」よりも「質」だというところがポイントで、レベル5のエビデンスでも数がたくさんあれば、グレードが上がるかというとそうはいきません。グレードAをとるためにはレベル1のエビデンスが最低一つ必要です。

現行の推奨グレードの決定法では、10,000個の「レベル5エビデンス」は1個の「レベル1エビデンス」に勝てないのです。

この「ランダム化比較試験」至上主義の状況において、栄養療法はレベルの高いエビデンスが乏しいため、必然的に推奨グレードも低くなってしまっているのです。

4. エビデンスの質を追及すると困ること

しかし、エビデンスの質にこだわり過ぎると治療の選択肢は狭まるのも事実です。例えば、自閉症代替治療の第一人者ダン・ロシニョール医師によると、自閉症に対するグレードA(強く推奨できる)のサプリメントはメラトニンのみです。このエビデンスは睡眠時間、神経過敏などの症状の改善に関するもので、自閉症の治癒成績を表すものではありません。それに、米国で自閉症の薬として承認されているのは非定型抗精神病薬のリスペリドンのみです。これでは根本的解決は期待できません。

5. そんな理由もあって

多くの子供(74%)が適応外の治療、推奨グレードの低い治療を行っています。母親に対するアンケート調査では、食事療法を除く自閉症の補完代替医療で効果があった治療の1位はキレーション(74%の改善)でしたが、この治療の推奨グレードはCです。ちなみに2位はビタミンB12の注射治療で、推奨グレードはDです。

https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/19917212

このように、栄養療法を含む代替治療にはエビデンスレベルが低いものも多いのですが、これは自閉症に限った事ではありません。医療で行われていることの50%以上が有効性が確認されずに実施されているそうです。
https://bestpractice.bmj.com/

これらの事実は、エビデンスのレベルと治療効果は必ずしも一致しない事を示唆しています。

6. どんな治療でもよいわけではない

だから、レベルの高いエビデンスや推奨グレードAの治療で効果がない場合は、患者と医師が双方納得したうえで不十分なエビデンスの治療を試す機会が与えられるべきです。ただし、ここで注意したいことは、証明されていない治療にも2種類あるということです。つまり、「無害または低リスクである可能性が高いもの」か、「副作用が強く、高リスクである可能性が高いもの」です。後者の治療はなるべく避けなくてはなりません。

サプリメントを使った治療は一般的に前者であることが多いですが、特に高用量を使用する場合は注意が必要です。副作用がほとんどないビタミンCも摂りすぎれば下痢を起こします。

7. エビデンスが少ないもう一つの理由

それは、エビデンスのデザインが栄養素の効き方にあっていないからです。

・精神疾患患者567名の個別化治療で半数以上が著明改善

・アルツハイマー病100名の個別化医療改善報告

これら2つの論文は個別化治療の結果、多くの改善が認められたという症例報告です(エビデンスレベルは4)。栄養素は競合して働き、人によって必要な栄養が異なります。だから個別化治療が必須です。アルツハイマーの薬剤開発に関わっていたデール・プレデセン博士は、あらゆる原因を一つの薬で治療するのは不適当と判断し、運動、サプリメントなどを含めた包括的な試験を提案したのですがことごとく却下されました。個別化治療は「一つの薬剤に開発予算を絞る」という製薬メーカーの利益構造とはマッチしないのです。

8. 個別化医療のエビデンスを作る方法

しかし彼はめげずに、その治療をプロトコル化した結果、多くの医師が追随し、前述の素晴らしい成果を得ました。(アルツハイマー治療の詳細はこちら)彼らのように症例報告を多く積み上げる事で、今後、エビデンスレベルの判断基準が個別化医療に対応していくことは十分に考えられます。多変量解析がコンピュータの発展により容易になった現在、それは非現実的な事ではありません。栄養療法のエビデンスの行方は、日々の改善例の積み上げにかかっています。

9. 治療ガイドラインはあくまで仮説

医学というものは、仮説の集まりだという事を知っておいてください。ネット上の健康論だけでなく、厚労省の推奨している治療も含めて全て仮説です。最近の例を見ても、厚生労働省は2015年、日本人の食事摂取基準からコレステロールの上限値を撤廃しましたし、米国医学研究所は2010年、1日のビタミンD消費量を3倍の600国際単位に引き上げました。

70年前には精神疾患に対して脳の手術をすることが標準治療でした(治療の開発者は1949年にノーベル賞を受賞しています)。治療ガイドラインなんてどんどん変わっていくもので、決して絶対的な基準ではありません。仮説だからこそ根本原因を考えることが重要です。惑わされないためにメカニズム、機序を学んでください。

栄養が足りないと言われたら、サプリで補う前に、なぜ足りなくなるのかを考えましょう。人は栄養がないと生きられない従属栄養生物だからこそ、足りない栄養に着目すると体調不良の原因を見つけやすいのです。

10. まとめ

今のエビデンスの基準は栄養療法には合っていないので、「エビデンスがない=治療効果がない」とは言い切れません。エビデンスレベルが低くとも、患者と治療家が相談を重ねる事でリスクの低い治療を選択することができます。全ての医学は仮説だからこそ、治療ガイドラインを過信せずに自分の治療は自分で決める勇気を持ちましょう。

 

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