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治療方針

根本原因とデトックス

宮澤賢史 · 2020年9月2日 ·

1.デトックス環境を整えよう

免疫を上げるには、睡眠や食事などのライフスタイル、つまり「環境」を改善することが大切といわれています。デトックスも同じで、どの会社のどんなデトックスサプリメントを使うかよりも、どのようにデトックス環境を整えるかが重要となります。下の図のように、デトックスは様々な要因の影響を受けています。

  • 低血糖による自律神経の緊張→デトックス効率の低下
  • 炎症→胆汁分泌やミトコンドリア機能の低下、白血球の活動による過剰な活性酸素による抗酸化力の抑制
  • 有機水銀の80%は、便排泄
  • 解毒にはATPを大量に消費

2.デトックスのターゲット

ここではデトックス(解毒)治療のターゲットについて説明します。

2-1脳に障害を与えるもの

まずデトックスすべきは、脳に蓄積し、障害を引き起こしやすいものです。その筆頭は水銀です。有機水銀は脂溶性であり、脳に直接入り込んで障害を与えます。

・脂溶性である水銀、カビ毒は脳に蓄積しやすい(『アルツハイマー病 真実と終焉』デール・ブレデセン著)
・アマルガムが自閉症、発達障害慢性疲労、繊維筋痛症、化学物質過敏症、精神疾患の原因となる(『Amalgam Illness』 アンドリュー・カトラー著)

2-2. ミトコンドリアを障害するもの

次にデトックスすべきは、ミトコンドリア機能を障害するものです。フッ素、水銀、ヒ素、アンチモン、アルミニウムは、TCAサイクルの働きを止め、ミトコンドリア機能を阻害してしまいます。TCAサイクルだけではなく、右上の図のように電子伝達系にも影響を与えます。特にNADHが関わっている複合体一番の細胞膜にあるSH基とS基の間に水銀が入り込んで、タンパク質の構造を変化させてしまいます。

実際にミトコンドリアにどのくらいの影響が出ているかを調べるには、有機酸検査を受けることをお勧めします。29番のクエン酸と28番のアコニット酸を比べてください。クエン酸がアコニット酸に変わるのには、アコニターゼという酵素が必要ですが、このアコニターゼが水銀やヒ素に阻害されてしまいます。アコニット酸よりイソクエン酸が低くなっている場合には、アコニターゼが阻害されていると考えられ、水銀のデトックスが必要だと推測できます。

水銀は硫黄との親和性が非常に高く、硫黄と硫黄の間にあるSS結合の間に水銀が入りこみ、タンパク質の構造全体を狂わせてしまいます。逆にそれを利用して、硫黄を含んだ食事やサプリメントを使って水銀と結合させて解毒することが可能になります。

3. 水銀中毒の症状

3-1. 本当に怖い歯の詰め物

ハル・ハギンス博士の『本当に怖い歯の詰め物』によれば、水銀中毒の症状にはイライラや、うつ、しびれがありますが、一番顕著な症状は疲労感で、これはミトコンドリア機能の低下からきていると考えられます。その原因は他にもあり、尿中のポルフィリン検査をするとヘムの合成過程が水銀によって妨害されるということがわかります。

85.0% 説明のつかない疲労感
73.3% 説明のつかないいらつき
72.0% 長期間のうつ
67.3% 四肢のしびれ
64.5% 夜間頻尿
62.6% 四肢の冷感(温かい日でも)
60.6% 食後の腹部膨満感
58.0% 記憶障害(物事が思い出せない)
55.5% 突然怒りがこみ上げてくる
54.6% 便秘
54.2% 優柔不断

3-2. 水銀が酸欠を引き起こす

ヘモグロビンが合成される過程で、いくつかのポルフィリン経路を経由します。その経路を水銀や鉛、カドミウムが阻害します。水銀が蓄積すると、途中で反応が止まりコプロポルフィリンやプレコプロポルフィリンが増えてしまいます。水銀はヘムの合成を阻害し、貧血を引き起こします。

また、1つの分子につき酸素を4つ結合する分子構造を持つヘモグロビンは、鉄と酸素の親和性よりも鉄と水銀の親和性の方が強いので、一旦そこに水銀がくっつくとなかなか離れません。酸素は肺でくっついて、末梢の臓器で離れることによって循環しますが、ヘモグロビンに水銀がくっついてしまうと使い物にならなくなってしまいます。赤血球の寿命は120日なので、少なくとも120日間は水銀が結合した赤血球ということになります。

実際にこのような状態であってもヘモグロビン自体が少なくなるわけではないので、見た目上は貧血ではなく、むしろ酸素飽和度が低下するために体はもう少し酸素が必要だと判断して造血を行います。その結果、ヘモグロビンの数値が高くなるというのが水銀中毒の人の一般的なデータとなります。このためヘモグロビンの数値より、注目すべきは酸素飽和度となります。ハル・ハギンス博士のデータによると、アマルガム除去をすると酸素飽和度は上昇します。

3-3. ミトコンドリアがヒ素毒性の重要なターゲット

ミトコンドリアがヒ素毒性の重要なターゲットです。ヒ素もメチル水銀と同じく血液脳関門を通過します。ミトコンドリア豊富な臓器である脳は、ミトコンドリア機能に大きく依存していて、ミトコンドリア異常=脳機能低下ということになります。下記は、ミトコンドリア機能がヒ素の暴露によって低下しているという毛髪検査のレビューです。(PMID: 26510484)

ヒ素暴露後に脳のミトコンドリアが障害される

4.毛髪検査の有用性

ヒ素や水銀が一緒に多く出る場合は、海産物の摂取量が多いと推測できます。脳に蓄積して障害を起こすものは水銀、ヒ素、カビ毒で、ミトコンドリア機能を障害するものは、水銀と重金属ではヒ素です。揮発性毒物のトックス検査をすると、ミトコンドリアのDNAがどれくらい障害されているかを見ることができます。ミトコンドリアDNAの障害の指標となるのは、チグリルグリシンというTOX検査の一番最後の項目です。もしその数値が上がっていたら、積極的なデトックスをしたほうがいいだろうということになります。

日本人の毛髪水銀濃度は、世界中でも飛び抜けて高いですが、その理由は魚が汚染されているからで、世界の水銀の排出量のうち47.4%が東アジアに集中しています。これは火力発電所が沢山あるためで、魚の水銀汚染の主な起源というのは、石炭火力発電所から大気中に排泄された水銀です。

5. 内分泌かく乱物質とホルモンの関係

5-1. 重金属がホルモンをブロックする

次にPMSや乳がんを引き起こす内分泌かく乱物質を取り上げます。内分泌撹乱物質は、一般に環境ホルモンと言われていますが、受容体で結合してホルモンのふりをし、その働きを邪魔して、内分泌の一連の働きを乱す物資のことをいいます。

PCBのようにすでに製造中止になったものもありますが、今話題になってるのはビスフェノールAというプラスチックの原料や、ゴミの焼却の時に排出されるダイオキシン、それと水銀、鉛、カドミウムです。水銀の論文によると、甲状腺、副腎、卵巣、精巣機能など様々な内分泌臓器に影響を及ぼします。

アンドリュー・カトラー先生の『Amalgam Illness』によると、甲状腺も副腎も性ホルモンも様々なところの受容体をブロックしたり、ホルモンの分泌を障害したりしますが、甲状腺の場合は、TSHの分泌も、甲状腺の受容体も、そして T 4から T 3への変換も全て阻害してしまいます。つまり甲状腺機能の低下があったら、水銀の害を考えた方がいいということになります。

5-2.女性ホルモンのアンバランスと対処法

女性ホルモンには悪玉と善玉と言われるものがありますが、善玉が2-ヒドロキシエストロン(2-OHE1)で、悪玉が16-ヒドロキシエストロン(16a-OHE1)です。
外因性の環境ホルモンや、ホルモン補充療法で使われるホルモンの原料は馬の尿ですが、これはバイオアイデンティカル(人体が作るものと全く同じ化学構造を持つもの)ではないので、人間のホルモンと違い代謝がゆっくりです。女性ホルモンは薬の場合はすぐに代謝されないように作られているので、エストロゲンもプロゲストロンも体内に長く留まります。

ピルを飲むと99%の確率で排卵させない分体内に長く留まるので、発がんリスクも高まります。それに比べて天然のホルモンは、半減期が短いバイオアイデンティカルのため代謝しやすいです。天然のホルモンは効きを良くするために、経口ではなく経皮でゆっくり補充します。

善玉のエストロゲンを増やすためには、DIM、インドール-3-酢酸、亜麻仁油、ブロッコリーを摂ると良いです。腸内環境への影響もあり、水銀は消化酵素のDPP-Ⅳを阻害するため、グルテン・カゼインの分解が悪くなり、カンジダの悪性度を増します。d水銀が蓄積しているとカンジダが増殖形態になりやすいので、私はカンジダを除菌した後は、ほぼ全員の人に水銀のデトックスを勧めています。

6.水銀の種類

6-1.金属水銀・有機水銀・無機水銀

水銀の種類には、金属水銀・有機水銀・無機水銀の3つがあります。金属水銀はアマルガムの他に、アフリカなどの採掘所では金属水銀の塊を使って金をろ過することに使われています。これらの金属水銀は蒸発して蒸気水銀になるため、採掘所で働く子供が水銀中毒になる問題を抱えています。

このように金属水銀は簡単な刺激によって蒸発します。蒸気水銀になると吸入して肺から入り、脳で酸化して蓄積し、脳から出られなくなってしまいます。水銀の中で害になるのは、この蒸発する金属水銀と、有機水銀です。メチル水銀はシステインと結合すると腸管から吸収され、 血液脳関門を通過して脳に届きます。

6-2. 歯の詰め物アマルガム

アマルガムは水銀を多く含む歯科材料です。加工が容易で丈夫なので、20世紀を中心に歯の詰め物として使われてきました。殺菌作用が強く長持ちするため、水銀の害を除けば歯科材料としては最適です。『乳歯のアマルガム修復』という50年くらい前の本によると、当時は乳幼児にも積極的にアマルガムが使われていました。

今は保険適用外ですが、2016年までは日本政府公認の歯科材料として使われていました。とても便利なため、いまだに自費診療で使用している歯科医師もいます。日本人の場合は、水銀の源の大半は、魚か歯ではないかと言われています。この二つの暴露源がないかをチェックし、もしあればそれを避けることが大切になります。

6-3. 水銀は体のどこにたまる?

アマルガムは無機水銀で有機水銀ではないため、BBB(血液脳関門)を通過せず、脂肪にも移行しないので安全であるというのがアメリカの歯科学会の主張ですが、実際には無機水銀は口腔内や腸内でメチル化するので、BBBを通過します。

アマルガムは蒸発して肺から吸入し、目や脳、神経、肺、そして血中で酸化したものが口の中から胃腸を通過後にメチル化して胎盤、内分泌、細胞膜にも届きます。

上記はハル・ハギンス先生に頂いたポスターで、どの水銀が体のどこに影響してるかという図です。左から金属水銀、イオン化している無機水銀、メチル水銀ですが、この金属水銀とか無機水銀に比べて、メチル水銀の人は頭がぼやっとしていて、ブレインフォグを起こしてます。手と足に痺れがあることからみても、BBBを通過してCentral nervous system(中枢神経系)、免疫系、生殖器系にも影響を及ぼしていることがわかります。

水銀蒸気は血液脳関門を通過し、無機水銀は通過しないので安全と言われていますが、メチル化して全てのバリアを通過し、胎盤を通過するので、母親が水銀に暴露していると子供の毛髪にも水銀が検出されます。そして内分泌かく乱も引き起こすので、どれだけ排泄できているかということがすごく大事になってきます。

これは歯にアマルガムがある人の体内の水銀分布図です。Tooth alveolar bone(歯槽骨)と、Gum mucosa(歯肉歯槽粘膜)の水銀濃度が高いのは当然ですが、胃の濃度が非常に高いことから、水銀が体内にも影響を与えていることが分かります。そして便中の濃度や、腎臓と肝臓という排泄機関の濃度も高いです。胃腸の濃度が高いことから、腸内細菌に影響を及ぼしていることも想像できます。

6-4.水銀は便から出すのが基本

アマルガムや魚の水銀はもともとメチル水銀です。メチル水銀というのは、システインという必須アミノ酸と結合すると、メチオニンと同じく腸管から100%吸収されます。メチル水銀はデトックスで胆汁排泄されますが、胆汁から排出されたメチル水銀はメチオニンと間違えられて再度吸収されるので腸管循環を繰り返してしまいます。つまりデトックスは腸管循環を少なくして、便中にいかにメチル水銀を排出させるかということがポイントになります。

ハル・ハギンス先生のセミナーでは、アマルガムが開発されてから ALS(筋萎縮性側索硬化症)の発症率が異常に上昇しているというデータや、1832年にアマルガムがフランスで発明されてからしばらくして白血病の発症率も増えてきたというお話しがありました。Multiple sclerosis(多発性硬化症)の発症率は、特に毒性が高いアマルガムが発明された1976年以降に、急に発症率が上がっているという話もありました。水銀は骨髄の中に入り込みやすいため、骨髄の免疫を壊して自己免疫疾患や白血病が発症しやすくなるのだろうとのことでした。

7. 溜まっているものを知る方法

7-1.毛髪水銀レベル測定の根拠

体内に何がどのくらい溜まっているのかを、どのように調べるかということをお話しします。そもそも毛髪で水銀レベルを見るというのは、恐らくイラクで1971年に起こった水銀中毒事故のデータをベースにしていると思います。

メチル水銀を使用している農薬を使って栽培した小麦で作ったパンを食べて、6,500人が水銀中毒になり、500名が死亡するという衝撃的な事故がありました。妊婦も多く罹患し、当時の血液中と毛髪中のデータが多く残っています。血中の水銀レベルは半減期が短く、暴露して3日もすると測定感度以下になってしまいますが、毛髪中の水銀のレベルは、血中レベルの250倍あります。

上記は内閣府の食品安全委員会の資料ですが、例のイラクの事故を分析すると、母親の毛髪中の水銀モードが上がれば上がるほど、子供への発達の影響があるということがわかります。母親の毛髪中の水銀モードが10〜20ppmを超えると胎児に影響があったため、それをもとに国立水俣病の胎児に影響を与える母親の最小値が11ppmとみなされました。このイラクの暴露事故から計算して、耐容摂取量、つまりこれを超えない限り影響はないと考えられる摂取量を5ppmに設定しました。

7-2.水銀の暴露量と排泄力を比較する

副腎疲労と思われる45才女性の毛髪検査をしたところ、1.1 ppmしか水銀が検出されませんでした。厚労省の設定した耐容摂取量5ppmの1/5だから問題はないだろうと考えがちですが、実際には歯の中に9本のアマルガムがあったので、水銀の暴露量は非常に多いと言えます。

水銀にこれだけ暴露しているのにかかわらず、毛髪から1.1ppmしか出ないということは、水銀の排泄の障害があると考えられます。水俣病のように大量の暴露をしたら、さすがに毛髪に出るとは思いますが、中には排出できない人がいるということが問題なのです。

34歳女性 慢性疲労
焦燥感、肩の張り、冷汗、動悸

45歳女性 副腎疲労
慢性疲労が続いている

上記左側の34歳の慢性疲労の人は、アマルガムが歯の中にあって水銀が10ppm出ているので、明らかに水銀中毒です。ただ逆の見方をすれば、この人は水銀の排泄能力が保たれているということです。毛髪中の水銀濃度というのは、有機水銀メチル水銀の排泄能力とイコールだと考えていいと思います。実際、この方はアマルガムを除去だけで元気になりました。それに対して右側の45歳の方は、アマルガムが何本も入っているにもかかわらず、水銀濃度が1.1ppmしかありません。排泄能力が低下しているため、アマルガムを除去しただけでは疲れが取れませんでした。

宮澤医院の150人の副腎疲労の患者さんを、アンドラー・カトラー博士が開発したカウンティングルールに基づいて調べたところ、56%の人はミネラルの輸送障害がありました。副腎疲労の人は水銀を排泄する力が弱いため、ミトコンドリア機能が低下していることが多いです。残り半分の人は水銀レベルがとても高く、水銀の害が全くないと思われる人は1%しかいませんでした。調べてみると皆さんことごとく水銀だったので、疲労感が強い人は水銀レベルを見た方がいいだろうと私は思います。

7-3.自閉症と水銀

自閉症の子供に関しては、水銀のレベルは低ければ低いほど重症です。なぜならば毛髪検査というのは蓄積量ではなくて排泄量をみるものだからです。母親の歯にアマルガムがあったり、高レベルの水銀の暴露歴があるにも関わらず、自閉症の子供からは毛髪中の水銀が出ていませんでした。

子供の場合は母親の暴露歴も聞いてください。メチル水銀は胎盤を通過します。水銀をターゲットに話していますが、そもそもデトックスのために何か特別な治療をやらなければいけないのかというと、必ずしもそういうことではありません。

8 水銀排泄力には個人差がある

人間はもともと水銀を排泄する力があります。水銀の生物学的半減期、つまり体の中にある水銀が半分になるまでの期間は、50〜60日です。そのため正常な排泄する力を持っている人なら、魚を食べなければ150日あれば水銀は体から排泄されます。

水銀の半減期

100日以上かかる人はとても代謝が遅いので、暴露量が微量でも体内に溜まってしまいます。そのような人は、デトックス体質になるかデトックス治療をしないと水銀の有害性が出てくる可能性があります。そこを見極めるために検査します。

9. 解毒の仕組み

解毒の方法の話をする前に、人の解毒の仕組みを解説します。人の解毒は3段階になっています。Phase1・2・3となっていて、Phase1は「活性化」、Phase2は「抱合」、Phase3は「輸送」です。Phase2の「抱合」は、グルタチオン・グルクロン酸・硫酸などと抱き合わせることによって、細胞の外に出る準備をし、MRP1輸送体という受容体を通って細胞の中から外に出て行きます。

その先のPhase3の「輸送」ですが、輸送をする時に無機水銀は水溶性なので腎臓を通って尿へ、そして有機水銀の場合は、脂溶性のため肝臓を通って胆汁から便へ排泄されることになります。

10. 蓄積量と排泄力をみる検査

何がどれぐらい溜まっていて、どれぐらいの排泄能力があるかを見ることが大切です。溜まっている量を見るのはオリゴスキャン、排泄能力を見るのは毛髪検査や尿検査が良いでしょう。

腎臓からの排泄量は尿検査で直接分かりますが、胆汁からの便排泄の量というのは、直接見にくいのでメチル水銀を排泄している毛髪検査で代用します。毛髪はシステインを含んでいるため、メチル水銀がシステインと結合して肝臓の胆汁排泄を代表する代わりになるのが毛髪検査と言われています。

つまりオリゴスキャンでは蓄積量と対処法。そして毛髪ミネラル検査では排泄量と「カウンティングルール」で主に把握することができます。水銀が元々体内にないのか、それとも排泄できずに低いのか、それを見分けるのが「カウンティングルール」です。水銀レベルからではなく、ミネラルのバランスから判断します。

ミネラルバランスが左の表のようではなく、真ん中や右側のように、左側や右側に偏りすぎてる場合、ミネラルの輸送障害が考えられます。ミネラルの輸送障害があるということは、水銀が溜まっているということを示唆します。

このカウンティングルールは、アンドリュー・カトラー先生の著書に詳しく掲載されています。ただ、他のアメリカの代替療法のセミナーでも、このカウンティングルールを使っていて、毛髪検査だけで水銀の蓄積量を完全に推定するのは不確定なので、オリゴスキャンで俯瞰するのが有力な方法ではないかと考えています。

実際に治療をすると、このミネラルバランスが戻ってくる人が多いので、治療経過としても使えます。先ほどの48歳の慢性疲労の女性のように、ミネラルのバランスが崩れている場合、水銀をある程度出すと症状も良くなりミネラルバランスが改善します。

11.どこまでデトックスを続けるか

水銀レベルを0にすることはできないので、どこまでデトックスを続けるかについては、ミネラルのバランスを取り戻すまでを治療期間にして、その後は自然デトックス、例えばサウナや運動に切り替えるようにしてもらっています。できればオリゴスキャンをしてご自分の毛髪検査と比べてみてください。排泄障害がない場合、排泄量と蓄積量は反比例していることが多いです。

この人の場合はミネラルの輸送障害がないので、例えばヒ素が多く出ている場合、ヒ素の溜まりは少ないといえます。オリゴスキャンの良いところは、Phase2とPhase3が働いているかを見る指標にもなってくれることです。酸化ストレスがあるかどうかは、Phase2がうまく働いているかどうかを見る指標となります。Phase2のセンターピンは細胞内グルタチオン濃度です。

細胞内のグルタチオン濃度を保つためには、抗酸化力がとても重要です。有機酸検査のグルタチオン濃度がきちんと働いているかどうかをみるためには58番(ピログルタミン酸)、59番(2-ヒドロキシ酪酸)に注目します。水銀は硫黄と結合することによって、体外に排出されやすくなるので、オリゴスキャンで硫黄との結合性をみてPhase3の輸送の評価もできます。

グルタチオン濃度を知るには有機酸検査

グルタチオンの指標物質の58番ピログルタミン酸は、グルタチオンの欠乏で上昇します。59番の2-ヒドロキシ酪酸は、このメチレーション回路が働いてグルタチオンが出来る時に副産物としてできるので、これが上昇していたら解毒回路が働いているということが分かります。つまり解毒で体内が忙しい時には、59番が上昇するということです。

この2つの上昇でグルタチオン不足だと急いでグルタチオンを補充するのではなく、まずは原因追及をして、なぜグルタチオンが足りないのか、なぜ解毒で忙しくなっているのかを突き止めることが大切です。そうしないといくらサプリがあっても足りなくなります。特に炎症があると、グルタチオンは全部使われてしまいます。Phase1から3は、オリゴスキャン、毛髪ミネラル検査、血液検査などをみて把握してください。自分のどこが詰まっているのかを解明して、そこをターゲットにアプローチしていくのが正しいデトックス法です。

12.デトックスの実際

12-1. 人の本来の解毒の方法を知る

どうやって解毒していくかというと。本来の人間の解毒システムを知って、それを強化してあげる方法がベストだと思います。最初に暴露源を除去することです。毛髪検査をして特にヒ素・カドミウムが高い人は、水と米を変えましょう。カビ毒がある人は、空気清浄機を買いましょう。もしかしたら引っ越しした方が良いかもしれません。マグロをサンマにしましょう。アマルガムを除去しましょう。

胎児に影響を及ぼさない母体中の毛髪水銀濃度は11ppmですが、そこから計算するとどれぐらい水銀を摂取しても大丈夫かという耐容週間摂取量は、2μg/kg/週になります。普通に魚の摂取をしていると週に2μg/kgを優に超えてしまいます。食品安全委員会は、マグロの代わりにサンマを食べるとこれを超えずに済むと提唱しています。恐らくマグロをサンマに変えるのは意味のあることだと思います。

食物連鎖の上にある魚ほど、水銀が沢山溜まっています。Phase1は、シトクロムP450による酸化のことで、つまり活性化のことをいいます。酸化して活性化させて安定化している脂肪の中の毒物を出す準備をすることです。Phase2がグルタチオンによる抱合ですが、まず最初に準備することは、暴露物をなくすことなので、マグロをサンマに変えたり、アマルガムを外すことになります。

12-2.アマルガムは安全に除去する

アマルガムは危険なので外した方がいいですが、防御しないで外すと、脱力、頭痛、めまい、耳鳴りなどの症状が出ることがあります。特に水銀を排泄する力がない人、カウンティングルールでミネラルの輸送障害がある人は、アマルガムを外す時は気をつけたほうが良いです。なぜならアマルガムを削ると大量の水銀が一気に蒸発するため、急性水銀中毒になるからです。刺激なしの時の100倍の水銀の蒸気が脳に行ってしまうため、特にアマルガムが大きい場合はきちんと防御をして除去してくれる歯科医院に相談をしましょう。

研磨によって飛び散る水銀の量
Bio-Probe Newsletter, Vol 9(1):5-6, Jan.1993.

13.キレーション療法

キレーションは「蟹のはさみ」という意味で、多くのクリニックで取り入られている治療法です。金属イオンをはさみこんで結合して、有害物質を体外に排出しやすくします。キレートミネラルというサプリメントが体内に入り込みやすいのは、ミネラルではなくアミノ酸の扱いになるからです。アミノ酸と一緒になると、体の中に入るのも、出すのも容易になります。だからミネラルはキレートとして入れたり出したりするのです。キレートによく使われる薬がEDTAです。

EDTAのサプリメントは、経口摂取しても腸管からの吸収が悪いため、点滴で取り込むのが一番です。その代わりEDTAを飲めば、腸管の金属は除去することができます。慢性の副鼻腔炎の患者に使用している経鼻スプレーにはEDTAが入っていますが、これは金属を除去するのと、バイオフィルムを除去するという働きがあるからです。

経口摂取では体内には吸収されないので鼻腔や腸管啌のデトックスに使い、体内に入れたい場合は点滴をします。カドミウムやアルミニウムはよくデトックスできますが、水銀は吸着できません。水銀をターゲットとして出すためにはSH基を持った薬剤やサプリメントを使います。DMSAはSH基は2つ付いていて、5年ぐらい前までi herbでも買えたましたが、日本では輸入できなくなりました。現在DMSAは薬剤扱いです。

日本で購入できるチオラは鉛中毒の薬で、SH基が1つです。これでも結構水銀も鉛も出ますが、SH基が2つあるDMSAだけを使う先生もいます。どちらにしても重要なのは血中濃度を保つことで、血中濃度が下がると水銀をキャッチしても途中で離してしまうので、体内の他の場所に再分布してしまいます。血中濃度をうまく保てるように、私の場合はチオラを使うなら3時間おきに5回、1日5回摂ってもらうようにしています。私の医院では行っていませんが、カトラー先生は、5時間おきに睡眠中も子供を起こしてチオラを摂取させるプログラムを行なっています。それほど血中濃度を保つことが大切なんです。

こういった薬を組み合わせて、挟み込んでくっつけて外に出す治療をキレーション治療と言いますが、この治療の問題点は、Phase3にしかアプローチできないことです。倦怠感があって、風邪をひきやすく、アマルガムを歯に詰めていた男性にEDTAとDMSAの点滴版を入れたら、水銀が沢山出て、頭が冴えるようになりました。このように細胞の外に水銀を出せる人の場合は良くなります。私の場合マグロを食べているせいか、毛髪中の水銀濃度がものすごく高いです。ミネラル輸送障害はなかったので、点滴治療で良くなりました。

33歳の歯科医師の男性で、疲れやすく、痺れや痒みがある方にはやはり歯にアマルガムがあったのですが、食物アレルギーがあってデトックスしてもあまり上手くいきませんでした。ミネラル輸送障害があって、細胞の中から外に出す力がないためPhase3のキレーション治療だけ行ってもうまくいかなかったと考えられます。毛髪検査や尿検査でうまく排泄できている人は、必要に応じてキレーション治療を行えば良くなると思いますが、暴露量と排泄量が一致していない人は 、Phase1・2・3の評価をして、この機能を上げてあげるほうが良いだろうということです。

13. 解毒のフェーズ1.活性化

上記は私の遺伝子検査の結果ですが、物事を活性化する酵素というのは半分遺伝子によって決まります。私の場合はCYP2D6が++になっているので、ここは少し弱いところです。CYP1A2も+/−になっていますが、これはカフェインの解毒に関係しています。もし遺伝子検査をすぐにやりたいという方は、ジェネシスと検索してみてください。

確か15,000円くらいだったと思いますけども、唾液の採取で検査できます。結果が分かるのに1ヶ月近くかかりますが、非常に結果が分かりやすいです。私の場合は飲酒量が多い、ワインはやや好き、喫煙量は標準と出ています。

この飲酒量の有無は、アセトアルデヒド脱水素酵素から推測しているようです。カフェインの消費量は少ない傾向になっていますが、それは僕の場合はCYP1、CYPA2があまりよくないからだと思います。つまりこの第一相のシトクロムP450対策は何かと言うと、事前に検査をして自分の排泄しづらいものは食べない、入れないということになります。CYPA1Aが排ガス、CYP2D6がSSRIとか抗うつになるので、僕はこの薬は飲まないようにしようという話です。

14. 解毒のフェーズ2.抱合

14.1 グルタチオン濃度が重要

該当するもの暴露を避けるという意味では、第2相も同じです。エストロゲンの代謝はCOMTです。このCOMTの補酵素がビタミンB6です。COMTがある人はエストロゲンの暴露を避けると良いと思います。また、グルタチオンは「抱合」といって、毒物と抱き合わせますが、そのための酵素がグルタチオンSトランスフェラーゼ(GST)です。ここにSNP(スニップ:一塩基多型)があったら解毒しづらいということです。

同じようにグルタチオンは活性酸素があると働かないので、 SODスーパーオキサイドディスムターゼという酸化ストレスを中和してくれるところにSNPがあるかどうかを見ると良いと思います。

上記、ジェノバ社のデトックスプロファイルは値段が高いのであまりお勧めしませんが、一生に一度と思って検査しておいても良いかもしれません。何が溜まりやすいか分かるので、該当するものを下げられます。Phase1を処置したら、次はPhase2(抱合)です。Phase2のポイントは、グルタチオンです。

グルタチオンというのは、アミノ酸(グルタミン酸、システイン、グリシン)からなるトリペプチドで、抗酸化と抱合の二つの役割をしています。どちらの役割が高いかと言うと抗酸化です。細胞内濃度が極めて高く、細胞内の酸化還元環境を維持しているトップはグルタチオンです。グルタチオン濃度をいかに保つかということが、全てと言ってもいいと思います。

細胞中の還元型と酸化型グルタチオンの比率が、細胞毒性の評価の指標です。還元型と酸化型グルタチオンが混在していますが、98%以上が還元型として存在しているので、このバランスが狂っているとまずいということです。酸化されてもすぐにナイアシンによって還元されます。Phase2のセンターピンは細胞内グルタチオン濃度を適切に保つことです。センターピンというのはボーリングの一番前のピンのことで、そこを倒せば全部残りの9本も倒れます。

グルタチオンが活性酸素H2O2を組み合わせると、酸化されて水ができます。上記の下の式が酸化型グルタチオンですが、これはナイアシンによってまた元のグルタチオンに戻してくれます。この抗酸化の働きをするためには、グルタチオンペルオキシダーゼという反応を触媒するものが必要で、ペルオキシダーゼの活性中心が有名なセレンです。

さっきのオリゴスキャンにPhase2の抗酸化力とありましたが、抗酸化力が何故ミネラルの測定で分かるかというと、グルタチオンペルオキシダーゼの活性中心のセレンを測定しているからです。セレン、マンガン、亜鉛などが、高酸化酵素の活性化中心としてとても必要なのです。そう言った意味で、ミネラルは抗酸化力の維持に関わっています。

細胞内グルタチオン濃度を測定するのは難しいので、血漿中のグルタチオン濃度を調べようというのがこのメチレーション検査です。メチレーション回路がうまく回ると、体内で適切にグルタチオンが産生されます。このメチレーション検査では、グルタチオンの中でも酸化型と還元型のグルタチオン濃度を測ることができます。

上記はHDRI社のメチレーション検査です。この方の場合、酸化型(oxisidised)グルタチオンは基準範囲内ですが、還元型(reduced)グルタチオン濃度がちょっと低めなので、抗酸化能力が少し低くなっていて、恐らくメチレーション回路がうまく回ってないからだろうというのが分かります。グルタチオン以外にもグルクロン酸抱合や硫酸抱合などがあり、グルクロン酸はOHが沢山あるため水溶性だということが分かります。

抱合というのは水溶性にして外に出させるようにすることです。ビリルビン、ステロイドホルモンなど一部の薬は、グルクロン酸抱合でPhase2を引き起こします。このグルクロン酸抱合を起こすUDPグルクロノシルトランスフェラーゼ(UGT)を活性化するのが、ブロッコリースプラウトです。スルフォラファンを摂取したら、ビリルビンやモルヒネを活性化して解毒が進むので、スルフォラファンを摂取したら自閉症のお子さんの症状が改善したというデータがあります。

グルタチオンを増やす方法は、サプリで増やす、メチレーション回路を回すのどちらかですね。また、体内のグルタチオン濃度を保つためには、炎症を取ること、抗酸化サプリを摂ることが重要です。ビタミンCを沢山摂ることで、抗酸化をビタミン C に任せ、グルタチオンを温存することができます。

14.2 ApoE4とアルツハイマー

5年前にハル・ハギンス先生を訪ねた時に聞いたのですが、実は先生がコロラドに行った理由は、コロラド州は比較的医療に関して寛容だからだそうです。6年前にすでにコロラド州とニューヨーク州では医療大麻が解禁されていました。

医療大麻は、小児のてんかんに限って使用が認められたのですが、アマルガムを除去したり、水銀をデトックスするというのは、異端の医療で他で禁止されていて、先生も歯科免許を一回剥奪されたことがあるそうです。そのため一時期はサン・ディエゴに住んで、オフィスはメキシコにおいて、話を聞くのはサンディエゴで、治療はアメリカでなくメキシコでやってたりしたそうです。今はさすがにもう大丈夫だと思いますが、栄養療法の最先端のことをやっている人は、迫害されたりすることはよくあります。

先生によると、アマルガムを取って良くなる人とそうじゃない人の違いは、アポリポ蛋白E のアイソザイムの違いだろうとおっしゃっていました。ApoE4が1つもない人に比べて、ApoE4が1つある人っていうのは、炎症促進してアルツハイマーになりやすいです。

ApoE4がひとつもない人に比べて、ApoE4がひとつだとアルツハイマーの発症率が30%、ApoE4が2つ以上だと50%以上になります。このApoE対策も抗酸化です。グルタチオンを摂るのに先駆けて、ビタミンCやビタミンEを摂ることによって、ApoE4を持っていても発症のリスクを抑えられるので、これは十分調べる価値がある検査だと思いますね。このような人は、脳の抗酸化であるフェルガードとか、リポゾームのビタミンCを摂ることをお勧めします。

抗酸化はデトックス治療の一部です。phase2の細胞内グルタチオン濃度を上げるからですね。細胞内グルタチオン濃度上げる方法をまとめると、まず暴露量を減らすこと。DMSAなどは細胞外液の水溶性分画にしか作用しないのでまず炎症を止めること、抗酸化治療をすること、そしてメチレーション回路を回すことです。自閉症の治療をするアメリカのDAN!という組織が、このプロトコールを推奨していました。

15.解毒のPhase3、輸送

15-1.MRPタンパク

最後は輸送です。Phase3は Phase 2に先駆けてやっておくことです。便秘をしないこと、そして腸管循環を抑制するために水溶性食物繊維を摂ること、キレーションもこのPhase3に入ります。細胞の中から外に出すためのMRP 蛋白を活性化してあげること、あとはメタロチオネインというカドミウムをくっつける蛋白を作るのもPhase3の要素の一つになります。

MRP タンパク質というのは細胞の外から中に変な化合物が入ってきた場合にガバッと口を開けて、また排出させる蛋白のことです。 Multi-drug resistance; MDR蛋白、つまり薬が入ってきてそれを出させるタンパクで、抗がん剤が効かないのはこのMRPたんぱく質が原因なので、現在ものすごく研究されています。デトックスの場合は、MRPたんぱく質を活性化させなければいけないのですが、抗癌剤を効かせるためにはこの MRPタンパク質を阻害しなければならないので、その阻害剤というのが研究されているわけです。

デトックス目的の場合は、このMRPタンパク質を活性化させたほうがいいんですけども、そもそもデトックスをすると疲れる理由は、ATPを消費するからです。ファスティングのメリットは、消化に使うATPを全部デトックスに回せるからです。デトックスすると次の日尿が濃いのは、MRP蛋白質がきちんと働けるからですよね。メチル水銀の排泄経路は90%は胆汁排泄で腸から出ますから、便秘をしないことです。

最後になりますが、メタロチオネインとは、重金属(特に銅、カドミウム、水銀)を結合するタンパク質のことで、これは亜鉛を摂ることで生成されます。だからウィリアム・ウオルシュは、このメタロチオネインをプロモーションする治療を推奨していて、それはアミノ酸と亜鉛を摂ることです。

15-2.亜鉛の血中濃度を上げるためには

それで重要になってくるのが、亜鉛の血中濃度です。メタロチオネインを作るためには、亜鉛の血中濃度を100μgに上げることをウオルシュ博士は推奨しています。じゃあ、どれぐらい亜鉛を摂ったら100μgになるかというと、下記の9パーセントルールを使用してください。

9%ルールというのは、亜鉛を摂る量を2倍にすると、亜鉛の血中濃度が9%上昇するということです。これを計算するとどれくらい亜鉛を摂ったら血中濃度が100になるかが分かります。例えば血中濃度が70の人っていうのは、食事からの亜鉛が10mgとすると、亜鉛を150mg摂らなければいけないことになります。

150mgというのは食事で摂るととてつもない量ですが、普通の薬では150mgなので、このような目的によっては使用するのが良いと思います。ただ亜鉛を100mg以上摂る場合は、特に銅の欠乏が問題になってくると思います。銅は成長に必要なので多すぎても少なすぎても問題です。亜鉛と銅はブラザーイオンなので亜鉛を沢山摂る場合は、血中濃度をモニタリングしながら専門家のもとでやってください。

デトックスというのは、特に脂溶性のものは抱合して、胆汁から排泄させるもの、肝機能を高めるミルクシスルとかリポゾマルグルタチオン、還元型グルタチオン、あとはウルソとか、タチオンとか使うのもいいでしょう。そして出てきた毒素をキャッチして、再吸収による腸管循環を防ぐためには、クロレラとかクレメジンという活性炭の薬を使うのもいいでしょう。これらの2つをうまく組み合わせることで、自然デトックスのPhase2とPhase3をコントロールすることができます。

16.まとめ

全体の中でデトックスを考えるとしたらまず炎症を取ること、そして腸内環境を良くして除菌をすること。その後にデトックスするといいと思いますね。最後にデトックスのセンターピン(物事の本質を見つけること)は何かというと、詳しくは与沢翼さんの『ブチ抜く力』という本を見てください。

根本原因ピラミッドPhase1というのは自分の排泄しにくいものを避けることでした。そしてPhase2は、細胞内グルタチオン濃度を上げること、そして炎症を抑えること。Phase3は腸内環境を改善して腸管循環を抑えること、そしてミトコンドリア機能を改善することでした。

やはり根本原因の色々な物を超えたアプローチをして、炎症とか腸内環境とかエネルギーとかを総合的にみることが、結果としてデトックスになるということが分かります。センターピンについて勉強したい人はこの本を読んで下さい。センターピンを1つに絞ること、そして選択と集中という考え方ですけども、そうやってやり遂げることが重要と書いてあります。理論が分かってもなかなか実行できないので、とにかく1つやることを絞って、最低3週間続けてみることです。3週間続けると習慣化するからです。

ちなみにこの与沢翼さんは、秒速で1億稼ぐと言われながらも破産して、マレーシアで投資に成功して今億万長者になった人です。億万長者になって暇になったので生命保険に入ろうとしたのですが、太り過ぎという理由で生命保険から拒否されたそうです。

お金の事になると急にモチベーションが上がって、2ヶ月で10 kg 減量に成功したという人です。ダイエットのセンターピンは食べないで鬼動くことと書いてありますけども、このダイエットの仕方は間違っているので、ここだけは真似しないようにしてください。他は参考になると思います。

治療の実際

宮澤賢史 · 2019年11月1日 ·

STEP1:治療方針を決める
STEP2:必要な治療と順番を決める
STEP3:検査を行って確認する

自分の治療ピラミッドは出来上がりましたか?

症状や検査などから自分に問題のあるピラミッドの階層が判明したら、それを下層から順番に治療していきます。

治療といっても内容は食事とサプリメントを摂る事、環境を整える事が主ですので、患者さん自身の意思の力が重要です。

くれぐれも 目的と手段を取り違えないように(検査結果をよくするための治療にならないように)してください。血液データが改善傾向なのに具合がちっともよくならない事は珍しくありません。

治療の原則は、根本原因アプローチです。治療には個体差がありますが、大体の治療手段は共通していますのでそれをご紹介します。

これらの自然治療は、一般的な標準治療に取って代わるものではありません。必ず一般的な診療も受けて、器質的な病気がないのかを確認してください。一般的診療もとても大事です。

1)腸内環境改善は4Rが基本

症状と腸内環境検査の結果を元に治療を組み立てます。悪性菌やカンジダが多ければRemove「除去する」、腸の炎症マーカーが高ければRegenerate「再生する」を重点的に行います。

Remove「除去する」

まずは腸にとって悪いものを除去していきましょう。腸に炎症を起しやすいグルテン、カゼイン、加工食品、砂糖、さらにアレルギー反応のある食品も除去します。

膨満感や下痢、グルテン、カゼインへの過敏反応があったり、過敏性腸症候群(IBS)または炎症性腸疾患(IBD)の診断を受けていたりするなら、それは小腸での細菌やカビの過剰増殖があるかもしれません。その場合は、除菌治療を考慮します。

抗菌薬や抗菌ハーブ、バイオフィルムのクレンジングサプリメントなどを使用しますが、抗菌薬は腸内フローラを変えてしまうので慎重な導入が必要です。

腸内環境を悪化させる精神的ストレスも出来る限り除去しましょう。

よく聞かれるのが「一生グルテンが食べられないの?」というご質問ですが、多くの人はリーキーガットの修復が終えてから少しずつ食事を戻しています。

忘れないでください。何でも食べられるような体になる事が治療目標です(セリアック病など一部の人を除く)。

Regenerate「再生する」

消化管粘膜を再生して、バリアを丈夫にします。グルタミンは腸粘膜の修復材料であり、小腸の第一のエネルギー源です。ストレス時は消費が激しくなるため、その分増量します。

グルタミンで興奮する場合や、便秘がひどい場合などは他の抗炎症効果を持つケルセチンやベルベリン(オウバク)などを使用します。

Replace「補てんする」

特に腹部膨満が強い時や、便検査で消化酵素が低下している時は、充分に酵素を補います。未消化たん白による腸内環境の悪化や体のアレルギー反応が軽減されます。

また、胃酸分泌機能が低下している場合も多く、特にタンパク摂取時のベタイン塩酸補給も有効です。

Reinoculate「植菌する」

良い菌を腸に植えていきます。

良質のプロバイオティクスは即効性があり、後の消化管治療を容易にしてくれます。 乳酸菌やビフィズス菌の菌数が多いものを中心に使用します。

抗生剤で腸が荒れている時、検査で酵母の増殖が強い時などはサッカロマイセス、クロストリジウムが多い時は同じクロストリジウム族のミヤリ酸を使用します。

酪酸は腸のエネルギー源としても大変重要で、ミネラル吸収に大きな役割を果たしています。

2)体の炎症を取る

炎症体質の改善としてはフィッシュオイル(EPA)サプリメントが有名ですが、体内に炎症が残っていないかをチェックする事が欠かせません。

炎症がわかりにくいのは、胃や腸、肝臓、上咽頭、歯根部などです。炎症を起しやすい部位をひとつずつ丁寧にチェックし、必要に応じて治療します。

残っている炎症は次に行うデトックス治療を困難にします。

3)デトックス治療を行う

治療に入る前に、まず毒をこれ以上入れないようにするのが先決です。毒の暴露がないか確認しましょう。

何度治療を行ってもカビ毒が除去できなかった患者さんがいましたが、自宅の空気清浄機を取り替えたらその後再発しなくなりました。

解毒できる人はデトックス治療は不要

体は元々解毒能力を持っています。解毒ができる人はわざわざ治療をする必要はありません。解毒力が弱まっている場合には治療が必要となります。

中には腸内環境を整えたり、炎症を取る事で解毒能力が復活する人もいます。その方も治療は必要ないでしょう。

重金属の解毒能力があるかどうかは毛髪ミネラル検査で評価する事ができます。

脳は水銀がたまりやすい

例えば、体内に水銀が入っても、通常の検査では血中水銀濃度は3日間で検出感度以下になってしまいます。つまり、血液中の水銀は排出が比較的容易なのです。

問題は脂肪の中に入り込んで安定化したメチル水銀です。脳は脂肪のかたまりのような臓器ですから、大量の水銀が溜まりやすい場所と言えます。

解毒の3ステップ

体内の解毒は脂溶性で安定化して脂肪に溜まっているものを不安定にして水溶性にする事から始まります。すると血液に乗って流れ出し腎臓や肝臓から排泄する事ができるようになります。

体内の解毒機構は3ステップに分かれています。

ステップ1 活性化する(不安定にして水に溶けやすくする)
ステップ2 抱合する(水溶性の物質と結合させて水に溶けやすくする)
ステップ3 輸送する(血液に乗せて肝臓や腎臓から排泄する)

解毒の治療をするときには、それをさかのぼるように、ステップ3⇨ステップ2⇨ステップ1と進めるのがコツです。

肝臓から排泄する場合は、胆汁として腸に注がれますから、デトックス前に腸内環境を完全にしておく(リーキーガットを治しておく)事は必須です。

次に、ミルクシスル(マリアアザミの種子)などで肝機能を高めてから、ステップ2の縫合を助けるグルタチオン、NAC、ブロッコリースプラウトなどを使用します。

ステップ1,2が上手くいって、水銀が血液や腸管内に流れてきてはじめて、硫黄成分(パクチー、にんにく)など水銀を吸着する食事が役に立ってきます。

サプリや薬を使うだけがデトックス治療ではありません。ファスティング(断食)は、脂肪を分解できるため、優れている自然デトックスです。また、サウナも有効です。

4)ホルモンバランスの調整を行う

サプリメントを用いたホルモンバランス調整が適応となるのは、器質的な疾患がない場合に限ります。明らかな副腎機能低下、甲状腺機能低下、および下垂体機能低下などがある場合、標準的な治療を優先するべきです。

標準的な検査で異常がないと診断されていても、潜在的にホルモンが低下している場合は栄養を用いた自然な治療が功を奏する場合があります。

ホルモンの治療にも順番がある

副腎、甲状腺、性ホルモン(男性、女性ホルモン)のバランスを整えていきます。ホルモンの中にも階層があり、下から副腎、甲状腺、性ホルモンとなっていて、この順番で治療する事が重要です。

例えば、甲状腺はミトコンドリアを刺激するスイッチのようなものですから、副腎が回復しきらないうちに甲状腺ホルモンを足すと、ガス欠の車でアクセルを踏むような状態になり、疲弊が余計に進みます。

また、性ホルモンと副腎ホルモン(コルチゾール)は同じコレステロールを材料に作られます。副腎疲労の際はコレステロールがコルチゾールに優先的に使われてしまいますので、まずは副腎ケアを徹底しないと性ホルモンが安定しません。これをコルチゾール・スティール(コルチゾールが性ホルモンを盗むという意味)と言います。

自律神経の過緊張はコルチゾールを消費するため、結果的に女性ホルモンに影響し、不妊の原因にもなり得ます。

副腎へのアプローチ

まず、第一に「副腎疲労は結果である」という事をお忘れなく。ストレスや炎症がなくなれば副腎の負担はだいぶ軽くなります。腸の炎症を抑えたり、重金属を排泄するのにも副腎は酷使されています。

副腎に対するサプリメントアプローチは大きく分けて3つです。

・同位同食(体が弱っているときに、弱っている部分と同じ部位を食することで症状を軽減したり、機能をサポートしたりすること)に基づき、豚や牛の副腎をすりつぶしたものを摂ります。

・アダプトゲン
ストレスへの抵抗能力を高める天然のハーブです。アシュワガンダ、ロディオラ、エゾウコギ、オタネニンジンとかが有名です。

・副腎に多い栄養素をとる(ビタミンC・Eなど) 
副腎はビタミンCやEをたくさん消費する臓器です。ビタミンCを適量とることは副腎をリラックスさせる良い手段です。

潜在性の甲状腺機能低下症に注意

甲状腺機能に関して気を付ける事は、「甲状腺ホルモンや甲状腺刺激ホルモンの数値が基準範囲でも潜在的に機能低下症になっている事がある」という事です。

例えば、甲状腺刺激ホルモンTSHの基準値は「0.5〜2.5」くらいですが、0.5と2.5ではずいぶんと違います。

ホルモン補充療法の第一人者のThierry Hertoghe先生の『HORMONE HANDBOOK」で、理想値は1前後であり、2以上は潜在性の甲状腺機能低下を疑ったほうがいいとしています。

では、なぜそんなこと起きるかというと、理由の一つは非活性型甲状腺ホルモンのT4から活性型のT3への変換がうまくいっていない事です。変換には 至適温度 と鉄やセレニウムなどのミネラルが必要です。

また、副腎疲労がありコルチゾールが低下すると甲状腺ホルモンの変換は抑制されます。

T4 →T3 変換の最適条件
・至適温度37℃
・鉄が十分にある
・セレニウムが十分にある
・コルチゾールが十分にある

さらに、水銀の蓄積は甲状腺ホルモンの分泌も変換も全て抑制してしまうのです。

Andrew Catler “Amalgam Illness “より 一部改変

このように水銀デトックス、鉄とセレンの補給などにより、間接的に甲状腺機能をケアして、それでも低下傾向であればホルモン補充を行います。

5)エネルギーをもっと得るために

ミトコンドリアは腸内環境や重金属、環境毒素、副腎や甲状腺ホルモンの影響を強く受けます。それらの治療を行うだけでもミトコンドリア機能は大きく改善が期待できます。

しかし、そこまで行っても効果が不十分なら、いよいよミトコンドリアそのものに目を向ける必要があります。

ミトコンドリア内の化学反応を向上させる

慢性疲労を細胞レベルで考えるとミトコンドリアの機能低下に行き当たります。ミトコンドリアは一つの細胞内に多いときは3000個も存在し、体重の1割を占めています。エネルギー産生はミトコンドリアの大きな仕事です。

ミトコンドリアの中ではTCAサイクルと電子伝達系といった化学反応によりエネルギーが作られています。ミトコンドリアの働きが悪いということは、その化学反応がうまくいっていないということです。

その化学反応がスムーズに回るには反応を仲介する酵素と補酵素の存在が不可欠です。補酵素不足を簡単に推測できるのは血液検査です。

個人差が大きいため、一回の測定では絶対的な不足を決めるのが困難であり、何回か続けて測定して数字の増減を見ていくことになります。

血液検査から推測できる栄養状態

GOT,GPTの差が大きいビタミンB6不足
LDHが低いビタミンB3不足
ALPが低い亜鉛、マグネシウム不足
Fe,フェリチンが低い鉄不足
関節ビリルビンが高い酸化ストレスが多い

血液検査の結果は問題ないのに、それでもエネルギーが不十分だと感じたら、有機酸検査のエネルギーの項目を確認してください。

有機酸検査は、エネルギーを生み出すTCAサイクルという化学反応の経路を構成する基質が全て測定できるため、どこで反応が止まっているかがはっきりわかります。

もう一つミトコンドリア機能が落ちる原因として過剰な活性酸素があります。ミトコンドリアは酸素を使って大量のエネルギーを作るため、活性酸素を発生します。

ミトコンドリア自体は活性酸素に弱く、それが継続するとミトコンドリアの老化が進みます。特に40代以降になったら活性酸素対策が必須です。

ミトコンドリアを若返らせる

体内のタンパク質のリサイクルを促進すると、ミトコンドリア機能が向上することがわかっています。これをオートファジーと言います。

オートファジーを活発にするためには、運動を中心に短期的ストレスをかけることが良いとされています。またファスティングも有効ですが、副腎疲労が治りきっていない場合はかえって逆効果なことがあります。

6)脳へのアプローチ

リーキーガットを改善し、水銀を解毒した時点で脳の霧が晴れ、気分の落ち込みが改善する人はかなり多いです。

副腎疲労が改善すると低血糖発作を起こさなくなりイライラも取れますし、甲状腺機能が戻るにつれうつ症状が改善する人もいます。

今までの治療で十分改善すれば、脳への栄養療法は必須ではありませんが、うつやイライラへの対処がまだ不十分な人には必要かもしれません。

脳内のセロトニン、ドーパミンレベルを決めるもの

うつ病などの精神疾患の症状は、脳内の神経伝達物質のアンバランスによって起きています。

うつ病では、神経伝達物質のセロトニンが減少していることを前提としてSSRI(セロトニン再取り込阻害薬)など、脳内でセロトニンを増やす薬が処方されます。

セロトニンが減少している人にはこの薬は効果的なのですが、実はうつ病の方の中にはセロトニンレベルが高い人もいます。

20年間にわたり、2800人のうつ病患者の脳の生化学検査を行ってきたウイリアム・ウォルシュ博士によれば、うつ病患者のうち実際に低セロトニンレベルが問題になる人は38%にとどまりました。

うつ病の5タイプ

セロトニンレベルが高いか低いかを決める一番の要因はメチレーションです。メチレーションが低レベルの場合はセロトニンは足りなくなり、葉酸が欠乏する高レベルのメチレーション状態ならばセロトニンは多くなります。ドーパミンも同様です。

高メチレーション状態ならドーパミンを減らすためにナイアシン、低メチレーションならセロトニンを増やすためにSAMeサプリメントの摂取が推奨されます。

最後に

根本医療を実践したいと思っている患者さんと、医療に取り入れたいと思っている医師のために書きました。

この根本原因を見据えた自然医療は患者さんが自分でやる事が多すぎて、自分自身で戦略を理解する気持ちがないと、正確に治療をトレースできないし、モチベーションが続きません。

「私は何のためにグルテンを制限しなきゃいけないの?」ということになりかねないです。

でも、今までの治療戦略をお読みいただけたら、治療の筋道を頭に描くことはできたのではないでしょうか。

ここに紹介した検査、検査を解説してくれる医療機関をうまく利用、活用するという気持ちで自分が主役の医療を行ってください。

但し、くれぐれもお伝えしておきますが、この治療は一人でやらず医療の専門家と一緒に行ってください。

栄養療法には副作用がないと思っている方もいるようですが、そんなことはありません。大量サプリによる肝障害を起こす人は結構います。病院で定期的に検査を受けてないからわからないだけだと思います。

もし、これ以上の知識を具体的に知りたい場合、ぜひ分子栄養学実践講座に参加してください。いろいろな世界が見えてくるはずです。

検査を行って確認する

宮澤賢史 · 2019年11月1日 ·

STEP1:治療方針を決める
STEP2:必要な治療と順番を決める

ステップ2の続きです。
さて、治療方針と順番が決まりましたか?

しかし、その方針は病態から推測したものであり、仮説にすぎません。本当にその方針があっているか、様々な検査を使って確認していきます。

日本の病院で行われる検査は5mmのがんや、2mmのポリープなど「目に見えるもの」を見つけるのは得意ですが、「目に見えないもの」(ホルモンの微妙な変化や体内に貯まっている水銀の量など)に関しては感度がとても悪い、もしくは検査そのものがないのが実情です。

だから、脳の神経伝達物質やミトコンドリアの状態、ホルモンバランスや重金属、非金属の体内蓄積など特殊な検査に関しては海外の会社を頼ることになります。

重要:サプリメントを用いた自然治療が適応となるのは、器質的な疾患がない場合に限ります。必ず、一般的な治療を行っている病院でも診察を受けて、器質的な疾患がない事を確認してください。

まずは基本の血液検査

最初に欠かせないのは基本の血液検査です。

これは、栄養状態の過不足、酵素活性、ストレス度合いなどを血液検査から推定し、栄養処方の一助とするものです。この方法は実際に、日本国内の多くの分子栄養学医に活用されているものであり、私もこの方法を用いて、15年間で12,000人以上のデータを解析してきました。

栄養状態を知るなら一般的な健診項目だけではなく、以下のような項目も測っておくと便利です。

  • フェリチン・・・貯蔵鉄を評価するのに最適な指標。ミトコンドリア機能も反映します。
  • 亜鉛、銅・・・脳の栄養という観点から言えば、亜鉛と銅の数値が同じ位の数値が理想的です。銅の過剰は不安な気持ちを強くします。
  • ペプシノーゲン1・・・胃酸の分泌量を反映します。胃酸や消化酵素が十分出ているかどうかは栄養状態に大きく影響します。
  • ホモシステイン・・・動脈硬化の因子としても、メチレーション回路が回っているかを知る手がかりとしても有益です。
  • ビタミンD・・・ビタミンDの効果は血中濃度に比例します。免疫増強を求めるなら40 ng/mL 以上を目指しましょう。

この血液検査から栄養状態を読み取る方法論は一般の医療界には認められていないものであり、勿論、大規模試験に基づくエビデンスなどはありません。あくまでも、生化学的な理論および、経験から推察されるものです。栄養状態を読み解く大きな手がかりを得られる反面、生体における病態の根本原因を探る手段としては、不十分な点もあります。

スクリーニングに最適な有機酸検査

朝一番の尿を取るだけで、腸内環境、ミトコンドリア機能、脳神経伝達物質のバランス、炎症の程度など、広い範囲で体を知ることができるのが米国のグレートプレーンズ研究所が提供している有機酸検査です。

スクリーニングというのは最初のふるい分けを意味する言葉で、とにかく検査でわかる範囲が広いので、「詳しい状況はよくわからないけど、とにかく調子が悪いので検査をやってみたい」という方にもオススメです。

ビタミンやミネラルの欠乏、イーストやクロストリジウム菌の過剰増殖、糖質、脂質、たん白代謝。毒性物質の解毒状況なんかもわかります。

どのようにして尿検査で腸内環境がわかるのでしょうか?

腸に住んでいる酵母菌の産生物は分子量が小さいため、正常の腸からもある程度は吸収され、肝臓、腎臓を経由して、尿として排出されます。その排泄物を分析しているのです。

また例えば、多くの精神疾患で脳内のドーパミンレベルが高いことが報告されています。過剰のドーパミンは神経細胞を傷つけるので、順次ノルエピネフリンに転換されるのが普通です。有機酸検査では、尿中のドーパミン、ノルエピネフリン代謝物を測る事で、これらの量を推測することができます。

それだけではありません。ミトコンドリア機能障害の評価もできますし、解毒に重要なグルタチオンのレベルもわかります。新生児スクリーニングでも行われるアミノ酸代謝異常もカバーしています。

迷ったら有機酸検査です。

腸内環境を評価する

腸内細菌はビタミンB群やビタミンKを作り出し、栄養の吸収を助け、食物繊維を発酵させてエネルギーに変えたりとさまざまな働きを行っていますが、中でも最重要なのは腸のバリア機能を保つことです。

腸管は自分に必要な栄養は十分に吸収し、細菌や毒物、未消化のタンパク質などは取り込まないように選択的なバリアを作っています。この見事な機能は「神の手」と称されてきました。

現代の食生活や環境のせいで、このバリア機能が破綻してしまっている人が増えており、これをリーキーガット症候群と呼びます。これがおきてしまうと、腸に空いた穴から有害物質が血管に侵入し、いたるところで免疫反応が起き、慢性炎症を引き起こししてしまいます。

リーキーガットの模式図

ここで、腸のバリアを構成する因子を再確認しましょう。バリアは大きく細菌学的バリア(乳酸菌とかビフィズス菌)、免疫学的バリア(粘膜免疫のIgA)、物理的バリア(細胞と細胞の間を結合しているタンパク)の3つに分けられます。これらのバリアが壊れて腸に炎症を起こしていないか、タンパク質を分解する消化酵素は十分か。

これを調べるのに最適なのが Doctors Data(ドクターズ・データ)社の(包括的便分析検査(Comprehensive Stool Analysis)です。

Comprehensive(包括的)というだけあって、カンジダなどイーストの有無、消化酵素の分泌、炎症の程度、腸管免疫、短鎖脂肪酸の生成など様々な情報を与えてくれます。

検査結果に応じて、乳酸菌が足りなければ乳酸菌、消化酵素が足りなければ消化酵素を足し、カンジダ菌がいれば除菌治療、炎症が強ければグルタミンやケルセチンを足していく事でかなりの確率で腸内環境がよくなっていくのを実感されるでしょう。

腸内フローラは人や地域によって大きく異なり、どの菌が良くてどれが悪いとは簡単に決め付けられない現状ですが、ビフィズス菌と乳酸菌は多くの研究から良い事が示唆されており、その量が推測できるのは大きなアドバンテージです。

但し問題点もあります。腸内細菌は嫌気性が多く、空気に触れると死んでしまいます。ですから培養検査が難しいのです。実際に培養検査で検出できる菌は全体の30%以下です。

それを解決するのが腸内細菌のDNA検査です。名の通り、腸内細菌のDNA解析を行うため細菌が生きてるかどうかに関係なく検査可能です。最近は日本でも腸内細菌DNA分析をすることができるようになりました。

自覚症状はあてにならない

「自覚症状があれば、 検査なんて必要ない」と思う方もいるかもしれません。しかし、腸の炎症を自覚できる人は少ないことを覚えておいてください。

宮澤医院で上記の便検査を行った50名の患者さんに繰り返す便秘や下痢、腹痛などの自覚症状があるか聞いたところ、40歳未満では3分の1、40歳以上になると3分の2の方は症状がないと答えました。

毛髪で重金属の排泄力を評価する

アジア地域の工業における水銀排泄量は世界的に見てもかなり多く、火力発電所で使用される石炭中の水銀が大気中に放出、海に落ちて生物濃縮され、魚に蓄積しています。

体が大きく寿命が長い魚ほど濃縮は大きくなります。現在、マグロやクジラに含まれる水銀量は無視できないほど多くなっているのが現状です。

いくら避けようとしても、現代に生きている限り、体内に入ってくる金属の量をゼロにする事はできません。重要なのは、入ってきた金属を排泄する能力です。

自閉症児は健常な子供に比べて、水銀を排泄する力が弱い事がわかっています。毛髪検査は水銀の排泄能力が保たれているかどうかを簡単に調べられる優れた検査です。

検査で重金属を排泄する力が弱い場合、解毒治療が必要になります。逆に多少金属の蓄積があっても、排泄する力が保たれていれば積極的な解毒治療は必要ありません。

また、この検査からは、有害金属だけでなく必須ミネラルのバランスや体のストレス具合など多彩な情報を読み取る事ができます。

副腎疲労を評価する唾液検査

副腎疲労は、ストレスにより副腎機能が低下してホルモン分泌量が低下する病態ですが、その低下量は難病として知られるアディゾン病と比べれば僅かです。

だから、血中のコルチゾールを測定してもほぼ正常範囲と出てしまいます。検査が正常なのに症状があるので問題なわけで、それを解決するためにはより感度の高い検査を行い、コルチゾールが低下している事を確かめる必要があります。

一番簡単なのは、唾液中コルチゾール検査です。唾液のスピッツを持っていればどこでも検査ができます。

血中のコルチゾールは実際には働いていない非活性のコルチゾールもまとめて測れてしまいますが、唾液中コルチゾール検査では活性型のコルチゾールだけを測る事ができるため、非常に鋭敏です。

唾液中コルチゾール濃度は血清中の非結合コルチゾール濃度に比例する
Ann Clin Biochem. 1983 Nov;20 (Pt 6):329-35.

唾液中コルチゾール検査

人のコルチゾールは1日の中でも分泌量がだいぶ異なり、朝には多く出ますが、夕方から夜にかけてはほとんど出なくなります。それに合わせて、8時、12時、16時、24時と1日4回唾液を取って検査を行います。

婦人科系疾患の人がまず治療すべき臓器

乳がんや子宮筋腫、子宮内膜症、PMSなど、エストロゲンという女性ホルモンの過剰が原因になっている病気を持つ人が優先的に治療する場所は肝臓です。

なぜなら、余ったエストロゲンは肝臓で分解、解毒されるからです。特に悪玉と呼ばれる16OHエストロゲンの過剰が婦人科疾患に大きく影響しています。

Rhein consulting laboratories社が提供している尿中ホルモン検査はコルチゾールだけでなく、テストステロンやエストロゲン、DHEAなど女性ホルモンや男性ホルモンのすべての項目を一度に測ることができます。

24時間尿をためて行う検査ですので、やや面倒に感じるかもしれませんが、測定の正確さ、情報の多さはピカイチです。これからホルモン補充療法を行う計画がある人も必ずやっておきたい検査です。

脳機能の評価に使える遺伝子検査

うつや統合失調症、ADHDなどの疾患では脳内の神経伝達物質のバランスが問題になる事が多いです。ドーパミンやノルエピネフリン、セロトニンの量に関しては有機酸検査や血液検査で推定する事が可能です。

しかし、発達障害の子供の場合は、それ以外に遺伝子検査をすることが有用かもしれません。言語の習得に必要なドーパミンや解毒が十分に行われるためには体内のメチレーション回路がうまく回る必要があります。ほとんどの自閉症児はこれがうまく働いていませんが、その原因の多くは遺伝子変異にあります。

これは、ドクターズ・データ社のDNAメチレーション検査。メチレーションに関わる遺伝子の変異の殆どをカバーしています。

子供の脳神経は4歳までに80%完成してしまいますから、時間との勝負です。気が付いたら早めに始めることです。

まとめ

これでようやく、治療ピラミッドを構成する要素が固まりました!
あとは、原則下の段から治療を行っていきます。

宮澤医院ではご紹介した検査を全て取り扱っています。ご希望の方は検査キットをお送りする事も出来ます。(一部できないものがあります)

ここまでできたらいよいよ治療にとりかかります。

STEP4:実際の治療

必要な治療と順番を決める

宮澤賢史 · 2019年11月1日 ·

前回は「ステップ1_治療方針を決める」ということをお話ししました。

さて、大まかな治療方針が決まったら、次はそれを達成するために必要な治療とその順番を決めていきます。

私は栄養療法や分子生物学、栄養学のテキストを30冊以上持っていますが、そのうちほとんどは「病気を診ずに人を診よ」などの信念的な事と、95%の人が読み飛ばすビタミン代謝の化学式などに多くのページを割いています。

これらは本当はすごく重要なのかもしれませんが、ここを読んでいるあなたはそれを求めていないでしょう。求めているのはもっと実用的ですぐつかえる知識に違いありません。私も「まずは自分に向き合う」といった抽象論は好きではありません。

ですから、図やチャートを用いて、理論に沿って治療方針の決定をする方法をご紹介することにしました。この方法のよいところは再現性です。理論通りに進めれば、だれがやっても同じ治療法にたどり着けるはずです。

これは私が普段の治療に用いている治療ピラミッドです。過去の経験から、治療内容と治療の順序を大きく5つにわけました。

一番上は脳機能の治療。神経伝達物質の調整や、脳の細胞膜の抗酸化治療が含まれます。2番目のエネルギーというのはミトコンドリア機能改善です。3番目はホルモンバランス調整です。同じホルモンの中でも優先順位があり、下の副腎からアプローチしていきます。4番目は解毒(デトックス)治療で、臓器としては特に肝臓をケアしていきます。一番下は腸内環境および体内の炎症を抑える治療になります。

ポイントは、上の段の要素は下の段の要素の影響を受けやすい事です。だから、原則的にこれら5つの治療は下の段から行っていきます。

ピラミッドのように下から積み上げていく感じです。下の段の治療がうまくいっていないのに上の段の治療だけをやると、崩れてしまいます。

疲労疾患に必要な治療とその順番

例えば、疲労疾患の治療方針は、ミトコンドリア機能改善でした。しかし、ミトコンドリア機能だけに目を向けると失敗します。上から2段目のエネルギー(ミトコンドリア機能)には、3段目の副腎や甲状腺ホルモンが影響しています。

また、エネルギーを生み出す体内の回路は、4段目の要素「重金属」(特に水銀やヒ素、鉛)などによって容易に機能低下を起こします。だからもし重金属が貯まっているなら、ミトコンドリア機能を改善するために重金属のデトックス(解毒)治療が必要になります。

ミトコンドリア内でエネルギーを生み出すクエン酸回路は、ヒ素、水銀、アルミニウムが体内に貯まると簡単に止まってしまいます。

さらに、5段目の要素「腸内環境」が悪いとミトコンドリアを動かすのに必要なミネラル類の消化吸収がうまくいきません。

このように、2段目のミトコンドリア改善のためには、2,3,4,5段目の全てにアプローチしなくてはならない可能性があります。

免疫系疾患に必要な治療とその順番

免疫系疾患に必要な治療は、免疫の正常化と副腎疲労の改善です。

これだけ多くの人が花粉症になっている事実は多くの日本人の免疫機構が大変なことになっている、と言うことを示しています。特に問題なのは腸内環境です。

腸には抹消の免疫の60%が集中していますので、食生活が悪かったり、腸が炎症を起していれば当然のように免疫異常を起こします。腸内環境改善は免疫を正常化させるのに絶対必要な治療です。

ちなみに、2番目に免疫が集中している場所はどこでしょうか?

それは、咽頭です。扁桃腺は巨大な組織ですが、それは鼻と口、両方から入ってくる異物を見分け、せき止める関所の役割を担っているからです。

咽頭部の炎症を抑えるのは免疫系疾患の治療に欠かせないファクターです。

このように、体内の隠れた炎症を見つけ出し治療するのは治療計画の中でも優先的に行われるべきで、治療ピラミッドの第5段目にあたります。

次に免疫系疾患治療に必要なのは副腎アプローチです。

治療ピラミッドの法則にしたがうと、3段目の副腎疲労改善のためには、4段目、5段目の治療が必要になります。重金属解毒にはかなりの副腎に負担がかかるし、体内に隠れた炎症がある場合、これも副腎からコルチゾールが24時間出っ放しになります。

精神系疾患に必要な治療とその順番

精神系疾患の治療方針は脳神経伝達物質のバランス調整です。

ウイリアム・ウォルシュ博士は20年、2800人のうつ病患者の分析から、うつ病患者の脳内の状態を大きく5種類に分けました。

彼は脳内の生化学状態を調べる事で、5つの分類のどこに当てはまるのか、そしてどのような治療をするのかを明確にしました。

これは大変重要な事ですが、その前にやらなくてはならないことがあります。

ここまで読み進めていたら、もうお分かりだと思いますが脳の治療ピラミッドは最上部の第1段目にあります。つまり、脳はミトコンドリア、副腎、甲状腺、デトックス、腸内環境など全ての影響を強く受けます。

ミトコンドリアの働きが低下することが原因でおこる病気をミトコンドリア病と呼んでいて、 多くは生まれながらにしてミトコンドリアの働きを低下させるような遺伝子の変化を持っている方が発症します。

物事を見聞きしたり、理解する能力など「脳」の機能と、心不全、運動障害など「筋肉」の機能が主に障害を受けます。ミトコンドリアは特に脳と筋肉に多いため、ミトコンドリア機能の低下は脳と筋肉に症状が出やすいです。(昔ミトコンドリア病は「ミトコンドリア脳筋症」と呼ばれていました)

また、ホルモンとの関係も大きいです。脳は視床下部-下垂体-副腎軸によって副腎と強く結びついていますし、甲状腺機能低下症でうつ症状が出るのは有名です。

そして重金属やその他の毒素に脳はとても弱いです。マグロに多く含まれるメチル水銀は、体が必要なアミノ酸メチオニンと勘違いして、腸から容易に取り込まれ、脳神経や脂肪細胞に貯まっていきます。

さらに、腸内環境と脳機能が相関している事はもう半ば常識的に語られるようになりました。腸内細菌は迷走神経を通して脳に信号を送っています。また、グルテンが腸粘膜に働きかける事で起こるリーキーガット症候群は、同時にリーキーブレイン(脳血液関門の破たんのこと)をも引き起こすことが明らかになってきました。

つまり、精神系疾患の治療をするためには、神経伝達物質の調整治療(第1段目)の他に、炎症を抑え、腸を治して(第5段目)、デトックスをして(第4段目)、副腎ケアを行い(第3段目)、ミトコンドリア機能を改善させる (第2段目) ことが必要なのです。

アルツハイマー病の栄養による根本治療で一躍脚光を浴びたデール・プレデセン博士の治療法を記した「アルツハイマー病真実と終焉」は脳機能改善を栄養で行うすべての人にとっての必読書です。

プレデセン博士はアルツハイマー病を3種類に分類しました。炎症による1型タイプ、栄養、ホルモン不足による2型タイプ、水銀やカビ毒が脳に蓄積して起こる3型タイプです。

アルツハイマー病やその前段階の初期認知症が疑われる場合、まず最初にすることは3型のうちどのタイプなのかを見抜く事です。タイプがわかれば、治療法と順番が見えてきます。

アルツハイマー病の場合は、ピラミッドの2段目~5段目を順序良く治療する事で、第1段目に効果があらわれてくるのです。

ちなみに、この治療法はアルツハイマーだけでなく、全ての脳疾患の人に応用できます。脳機能をあげるため、受験生にも推奨できる治療です。

このようにして、治療方針が決まり、治療の順番のめどがついたら、実際にその治療を行うべき原因が本当に存在するのか、検査をして確かめていきます。

次のステップ3は実際の検査についてです。

STEP3:検査を行って確認する

治療方針を決める

宮澤賢史 · 2019年11月1日 ·

私が行っている診療についてご説明します。

宮澤医院を受診される方の多くは「慢性疲労」など疲労性疾患、
「アトピー」「リウマチ」「掌蹠膿疱症」「脱毛」など免疫疾患、
「うつ」「ADHD」「発達障害」など精神疾患の方です。

これに当てはまらない、高血圧や糖尿病といった疾患にももちろん栄養療法は有効です。ただし、上に挙げた疾患は現在薬で完治が難しく、薬の副作用がでやすいなどの問題が多く、栄養が特に効果を発揮しやすい分野です。

サプリメントを摂る事は目的ではない

栄養療法クリニックを受診したり、いろいろな治療を試しているのにも関わらず上手くいっていない人や、思うような結果が得られていない人が増えています。

よく見るのは、サプリメントを摂る事が目的?と思えるくらい大量のサプリを摂っている人です。しかも、現在進行中でどんどん増えていっています。

サプリを摂る事が楽しみだったり、生き甲斐だったりする人もいるかもしれませんが、通常、健康状態が戻るにつれ必要なサプリは減っていくはずです。

栄養療法をうまくいかせる治療方針は「最終的にサプリが要らなくなる体作り」です。

血液データをよくする事は目的ではない

確かに栄養状態には個人差があるため、血液検査を行って足りない栄養を知ることは重要です。しかし、それはあくまでも手段です。

それなのに、いつの間にか血液データをよくする事が治療方針になっている人がとても多いです。

自覚症状と血液データで見る栄養状態は多くの場合一致しません。

データを見たら、「鉄と亜鉛とビタミンDが足りない」だけでなく、「なぜ鉄や亜鉛やビタミンDが足りないんだろう?」と考えてください。

多くの場合は栄養素の摂取不足が原因ではないのです。

なにも考えずに足していくとサプリは際限なく増えていきます。

足りない栄養の原因を考えよう

「アカパンカビ」というカビを知っていますか?
様々な生物実験で頻繁に使われるカビの一種です。

このカビは自分が生きるために必要な栄養素をすべて自分でまかなえるため 「完全栄養生物」 と呼ばれます。

このカビは進化のたびに、自ら栄養を作り出す機能を捨てていきました。

じつは、栄養を自分で作るのは体にとって大きな負担です。周りの環境に豊富に果物があれば、ビタミンCを作らなくても済むかもしれません。

トヨタが車の部品を一から作るのをやめてから大会社になったように、生物の進化とは、自ら栄養を作るシステムの断捨離と言えます。

結局、カビから数億年を経て進化したヒトは多くの栄養素を作れなくなりました。 このように栄養がないと生きられない動物を「従属栄養生物」といいます。

ヒトの栄養素には必須脂肪酸、必須ミネラル、必須アミノ酸、ビタミンなど、栄養には「必須」と名のつくものが多いです。

これらは全て体内では作れず、食物として外部から取り入れる必要があります。

つまり、ヒトは究極の「従属栄養生物」なのです。

です人間という生き物は、生まれながらに食事、環境の変化、ストレス、感染症などで大きく栄養バランスを崩しやすい宿命を持っています。

つまり、何が言いたいかというと「人は従属栄養生物だから、足りない栄養素に着目すると病気の根本原因がわかる」ということです。

根本原因を見ずに足りない栄養をサプリを補うだけでは、治療効果が頭打ちになったり、サプリを減らしたら症状が逆戻りしたりします。

しかし、根本を治療していけば、サプリで過剰な栄養を摂らなくても体内の代謝が回るようになってきます。

栄養療法のゴールは「サプリが要らない体になる事」「何でも食べられる体になる事」です。

これを忘れないでください。

治療方針は病態から決める

じゃあ実際にはどのように方針を立てるのか?
私の方法を説明していきます。

おおまかな治療方針を決めるには自分の病態を知る必要があります。まずは、自分の病態が次の栄養療法が効果的な3つの分野のどれにあたるのかを確認しましょう。


  • 「疲労系」その名の通り、疲労を主訴とする疾患
  • 「免疫系」 リウマチやアトピーなど、通常ステロイドが用いられる疾患
  • 「精神神経系」統合失調症、うつなど神経伝達物質が問題になる疾患

後述しますが、不妊症は疲労系疾患と考えてください。

栄養療法を行うときの考え方の枠組み

宮澤医院を受診する患者さんの殆どは上の3つの分野のどれかに当てはまります。

大事な事は、病態がわかればセットで治療方針も決まるという事です。

疲労系はミトコンドリア機能障害

慢性疲労の症状は体のエネルギー不足で現れます。では体のエネルギーはどこから作られるのでしょうか?

人は37兆個の細胞から成り立っています。その細胞一つ一つの中には、 ミトコンドリアが 数百個〜数千個も含まれていますが、これがエネルギーを作る工場です。このミトコンドリアの働きが低下していたり、ミトコンドリアが働くための栄養が不足していると「疲れやすい」という症状が出てくるのです。

そこで、疲労を主訴とする疾患のことを「疲労系」疾患と呼ぶことにします。「免疫系」「精神神経系」の疾患は通常診断がつきやすいのに対して、「疲労系」疾患は原因不明とされている事が多いです。また、効果的な薬がほとんどない事も疲労系疾患の特徴です。疲労系疾患の治療方針はミトコンドリア機能の改善です。

「疲労系」の疾患を疑ったら、ミトコンドリア機能を評価すると同時に、疲労を起こしうる疾患の鑑別をしていきます。

慢性疲労症候群では重症なほど、ミトコンドリアの性能が落ちていることがわかっていますが、他にも 若い人に多い起立性調節障害、鉄欠乏性貧血など、疲労を症状とする疾患はみんな「疲労系」疾患と考えてよいでしょう。

また、甲状腺と副腎はミトコンドリアに大きな影響を与えています。だから、甲状腺機能低下症や副腎疲労症候群も「疲労系」疾患と考えます。


  • 副腎疲労症候群は、臓器レベルでは副腎の問題ですが、全身症状は「疲れやすい」、細胞の状態は「ミトコンドリア機能低下」です。
  • 甲状腺機能低下症は、臓器レベルでは甲状腺の問題ですが、全身症状は「疲れやすい」、細胞の状態は「ミトコンドリア機能低下」です。
  • 鉄欠乏性貧血は、臓器レベルでは、赤血球の問題ですが、 全身症状は「疲れやすい」、細胞の状態は「ミトコンドリア機能低下」です。

つまり、慢性疲労、副腎疲労、起立性調節障害、甲状腺機能低下、貧血は、臓器レベルで考えると一見別々の疾患ですが、全身症状は「疲労」で共通しており、細胞レベルでみると「ミトコンドリア機能の低下症」とひとくくりにできます。

病態が「疲労」である疾患は「ミトコンドリア機能改善」が共通の治療方針になります。

ミトコンドリア機能の低下と慢性疲労症候群の重症度が比例する

https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC2680051/

もちろん、副腎疲労では副腎ケア、甲状腺機能低下症では甲状腺ケア、慢性疲労症候群では感染症のケアが必要ですが、細胞単位で考えた場合にはこれらの疾患にはミトコンドリア機能改善という共通項があるということになります。

線維筋痛症も疲労症状が出ますが、体の痛みを伴うため免疫系疾患としての側面も持っています。このように、2つの病態にまたがっている場合もあります。

上記の表に入れていませんが、不妊症は疲労系疾患です。なぜなら、卵子は体内でミトコンドリアを一番多く含む細胞だからです。つまり、妊娠にはエネルギーが必要です。

不妊症をチャートで見るとこのようになります。

不妊症対策で重要なのはミトコンドリア機能とホルモンバランス、そして自律神経の過緊張をとる事なのです。

「疲労系疾患」

  • 慢性疲労症候群
  • 起立性調節障害
  • 鉄欠乏性貧血
  • 甲状腺機能低下症
  • 副腎疲労
  • 線維筋痛症
  • 不妊症
  • その他、疲労を伴う疾患

癌、アルツハイマー病、パーキンソン病、統合失調症、糖尿病、非アルコール性脂肪性肝炎など、いくつかの疾患と症状がミトコンドリアの機能不全と関連する事がわかっています。必ずしも疲労症状がなくとも、ミトコンドリアを治療する事はいつでも重要です。

免疫系疾患は免疫を正常化させる

関節リウマチやアトピー性皮膚炎などはステロイドや免疫抑制剤を数年~数十年にわたり継続して使用する事が多く、完治が難しい病気です。このような免疫異常による病気を「免疫系」疾患と呼びます。免疫系疾患の治療方針は免疫の正常化です。

関節リウマチは、臓器レベルでは関節の問題ですが、根本病態は「免疫異常」です。アトピー性皮膚炎は、臓器レベルでは皮膚の問題ですが、根本病態は「免疫異常」です。自己免疫疾患の根本病態は「免疫異常」です。

免疫系疾患の特徴は、治療にステロイドや免疫抑制剤が用いられる事です。ステロイドは強い抗炎症効果、および免疫抑制効果を持っています。

免疫疾患は免疫の正常化が根本治療です。そのためには、免疫を抑制せず、むしろ向上させることで一時的に体内で戦いが起き、その結果免疫が学習し、最終的に免疫寛容をおこさせる必要があります。

関節リウマチに対して、軟骨成分である非変性Ⅱ型コラーゲンサプリメントを投与する治療はその典型例です。

免疫寛容と免疫抑制は全く異なるものです。ステロイドを使用して免疫を抑制している間は免疫寛容は起きません。

免疫系疾患を起こす人は長年炎症が続いていることが多く、副腎が疲労しています。だから体内で十分なステロイドを作れないため、アトピーなどでは特によくみられるのですが、つまり炎症が長引くのです。

そういうこともあり、免疫系疾患の治療方針は免疫の正常化と副腎機能の回復になります。

免疫系疾患

  • アトピー性皮膚炎(免疫低下で炎症がいつまでもおさまらない)
  • 関節リウマチ(関節に対する自己免疫)
  • その他の膠原病
  • セリアック病(腸の粘膜に対する自己免疫)
  • グルテン運動失調症(小脳に対する自己免疫)
  • 掌蹠膿疱症
  • 女性の脱毛(毛根に対する自己免疫)

注意:リウマチやアトピーなど、免疫疾患には炎症性疾患という側面も存在します。医学的に炎症を抑制しなければならない状態というのは常に存在します。(例えばリウマチの炎症を止めなけば関節の破壊は進行します。)実際の治療は臨床的な判断が優先されます。

精神系疾患は神経伝達物質調整

うつ病やパニック障害など脳に関わる病気は非常に食事や栄養の影響を受けやすいため、栄養療法の良い適応になります。また、アルツハイマー病は、効果的な治療薬がない典型的疾患であり、やはり栄養療法の有効性が多く報告されています。これらの病気を「精神系」疾患と呼びます。

「精神系」の疾患は栄養療法での改善報告が一番多い分野です。精神系疾患の治療方針は神経伝達物質のバランスをとることです。

脳は、神経細胞間の神経伝達物質によって情報を伝えています。

うつ病の原因仮説はいろいろありますが、ドーパミンやセロトニンなどの神経伝達物質が少なくなってしまうモノアミン仮説が有力なものの一つです。

今使われている多くの抗うつ薬は、この神経伝達物質の不足を補う仕組みです。
例えば、うつ病ではセロトニンが不足しているのが一因なので、セロトニン再取り込み阻害薬というものを使います。

ちなみに栄養療法では、薬の代わりに、セロトニンそのものを増やそうと考えます。脳の中でセロトニンを増やすために、材料と補因子をすべて補うのです。

例えば、「セロトニン」は「トリプトファン」から「5HTP」を経由して脳内で合成されますが、「トリプトファン」から「5HTP」の変換には、補酵素として「鉄」、「ナイアシン」、「葉酸」そして「5HTP」から「セロトニン」の変換には「ビタミンB6」が必要です。

セロトニン不足が疑われる患者さんに対しては、主原料になるたんぱく質に加えてこれらの栄養をサプリメントで摂るというのが、モノアミン仮説に基づいた栄養療法の基本です。

基本の方針が1つだけではなく、2つや3つにまたがる事もあります。

もちろん、実際の病態はもっともっと複雑なのかもしれません。でも病態が複雑になっているほど、単純化して治療の骨子を決める必要があるんです。

いろいろな事をいっぺんにやろうとして失敗したり、自分が今どこにいるかわからなくなったりする方がとても多いです。単純化して一つずつみていくことです。

方針の目途がついたら、次のステップ2に行きましょう。

STEP2:必要な治療と順番を決める

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