あなたは何のために栄養療法を学んでいますか?仕事に役立たせるためでしょうか?それともご自分と家族の健康のためでしょうか?もしくはその両方でしょうか?そんな方のために、今日は栄養療法外来で必要なコミュニケーションについてお話ししようと思います。栄養外来の成否は知識ではなく、コミュニケーション能力にかかっています。
1 まずは自分の健康を考える
栄養療法のプロになるという上で一番大事なことは、まず自分自身が健康になるということです。
一般医療の場合で抗がん剤を自分で試したことのあるガンの専門医や、向精神薬を全部飲んだことのある精神科の先生はあまりいないと思います。それに比べて栄養療法の医療というのは根本原因にアプローチするため、治療方法と健康増進の方法が一緒です。アプローチすればするほど病気は治り、健康の度合い(オプティマルヘルス)も上がっていきます。自分が健康でないと次のステップに行けないので、まず自分自身が健康になることが最重要課題で、全部自分で試してみるということがまず第一なんです。
医療関係者は貢献が求められがちなので、患者さんに貢献するために自分の健康を害している人が多数いらっしゃいます。徹夜で当直をして患者さんを救うことにより、多大なストレスがかかります。栄養療法は結果が出るのに時間がかかります。副腎疲労を完治するのに2年かかる人が多いです。生活習慣や食事を変えて、体が変わって、それに伴い意識が変わって、ストレスや食事、生活習慣が変わらないと駄目なんだと気がついて、そこから最短でも2年くらいかかります。
2年かけて人を治す間に自分が健康を害してしまったら話にならないので、自分の体をまず治して、長く続けられることをまず第一番に考えてください。
2 プロとしてやっていくのに必要な3つの知識
栄養療法の知識も得て、プロとして始める際必要な知識は下記の3つです。
- 栄養療法のスキル
- 経営のスキル
- コミュニケーション能力
2.の経営のスキルについてですが、最初はともかくそれで身を立てるということは、人からお金をもらうことなので副業で続けていても上手くいかないことが多いです。成功している人とそうでない人の違いは、本業か副業かということです。本業にしても数年かかるかもしれませんし、副業から本業に変えるタイミングが難しいですが覚悟を決めて腰を据えるしかないと思います。
そして一番大事なのが、3.のコミュニケーション能力です。普段の生活に於いては、コミュ障でもADHDでも問題はないですが、この職業の根本的なコミュニケーション能力というのは、患者さんの話をきちんと聞けるか、そして治療の需要性を患者さんに説明できるかということです。
3 コミュニケーション能力が売り上げを決める
私の最初のキャリアは、医者として保険診療という国に守られた診療で始まりました。保険診療と自費診療は少し事情が違っていて、栄養療法をするということは自費診療になるので、国の決まった治療ではない自分独自のサービスを提供するということになります。
保険診療とは定められた国の提供する医療の代理店みたいなものなので、国から約7割のお金が支払われます。それに比べ自費診療は全て自分で決めるため、例えるならば一戸建てを自分で買って、全部自分で内装を決めるという感じです。保険診療の中で栄養療法をすることももちろんできますが、賃貸物件の内装を一部変えてリフォームすることはできても、中にアイランドキッチンを作るなど内装を思い切って変えることはNGです。保険診療の中の栄養療法と、自費診療でやる栄養療法は違ってきます。全部自分で組み立てたいのなら、自費診療がいいです。自費診療とは、普通のセールスやオファーのように提供・提案することです。
栄養療法(オーソモラキュラーの三原則)は、次の3つです。
- 個体差をみること
- 生化学的なエビデンス(裏付け)をとること
- 根本原因にアプローチすること
栄養療法の提供とは、検査をオファーし、その検査の結果から患者の根本原因を見つけ、その根本原因に合った食事を提案したり、サプリメントを販売することです。そのためセールスの技術は必要で、それは一般的には「教育」と言われたり、「コミュニケーション」と言われたりします。
クリニックとしての栄養療法の売上が悪いのは、患者さんが検査やサプリメントの重要性をきちんと理解できていないというのと全く同じです。栄養療法の知識がどれだけあっても、コミュニケーション能力が低いとそのことが患者さんにうまく伝わらないので、結果として売上が落ちて患者さんが来なくなって、口コミがなくなって、うまくいかなくなります。そのため、コミュニケーション能力はとても重要です。
4 コミュニケーションとは具体的に何か?
コミュニケーションとは、具体的に次の3つのことだと考えてください。
- 問診
- 教育
- コーチング
1.の問診とは患者さんの話を聞くことで、2.の教育とは患者さんに話をすることです。栄養療法はサプリメントを処方して終わりではなく、患者さん自身がやらなければいけないことが9割以上です。そのためコーチングというのは、ゴールの目標設定をしてそのゴールをよく見させて馬を走らせてあげることです。例えばグルテンフリーにしたら、どんなメリットがあるのかということを最初にきちんと説明すれば、毎日電話しなくても患者自身が努力してくれます。
ゴールというのは情報の塊なので、きちんとした情報・知識を教育をすれば、それ以上何も言わなくても勝手に行動してくれます。それが成功につながるので、そう言った意味でもコミュニケーション能力は非常に大切です。
5 どういう栄養外来にするか決めておく
栄養療法の知識だけでは不足だと思い、先日ドクター向けの栄養療法外来の養成支援講座を立ち上げましたが、これから始められる方向けに、問診に関しても最初に決めておいた方が良いことをいくつかお伝えします。
それは、まず「どういう栄養療法外来にするか」です。具体的には、お金と患者さんと時間の配分を決めるということです。栄養療法に100%の人生を賭けられる人がいたらそれでも良いですが、患者さんの難易度が上がると得られるお金が減って自分の時間も減ります。患者さんの難易度が下がると、経営的に上手くいって自分の時間も増えます。だからここをまずは具体的に、50%・50%にするのか、30%・70%にするのかを決めたほうが良いです。
栄養療法をされる先生方は保険診療と併用だと思うので、保険診療と自費診療との割合を決めなければなりません。どういう患者さんを診てどこまでは受けないのか、アレルギー、自閉症のお子さんはどこまで診るのか、検査はどこまでするのか、サプリメントの在庫はどこまで抱えるかなどです。自分が熱意を持って取り組める分野があれば色々なものを割いて用意したら良いですが、患者さんのニーズは多様なので自分ができる範囲とできない範囲の線引きをきちんとしておきましょう。
次に診察費用を決めましょう。自費診療外来にどのくらい患者さんが来るかは、開業する前までに流している情報量の多さによります。自費診療なので、プロになるとしたら1回の料金をどうするかということを自分で決めます。高すぎても誰も来ないし、安すぎると疲弊します。私は最初、自費診療の初診料を5,000円で始めたんですけど、今は30,000円にしています。
6 知る⇨好きになる⇨信頼する
自費診療とは需要と供給の関係なので、患者さんが増えてきたら当然価格も上げるものですが、その鍵は情報の発信量、つまりコミュニケーション能力です。まずは診療に来てもらうところからコミュニケーションは始まっています。そのあとは知る⇨好きになる⇨信頼するという流れになります。
信頼するというフェーズになって、初めてこの人に診てもらおうかという気になります。まず相手を知り、好きになって、信頼されるというところまで行くには、現状ならネット上でいかに沢山情報を出すかということです。情報を沢山出せば出すほど、価格は上げても大丈夫です。情報を出していない人は最初は無料にしてください。無料の情報をシェアすることで、コミュニケーションのネット上の仕組みができてきて、そこではじめてきちんと診療ができるようになります。
もちろん口コミや、保険診療で診察したことのある患者さんの付き合いが、ネット上よりベストです。保険診療の患者さんとコミュニケーションができていて信頼されているのであれば、自費診療の話をしても良いと思います。物事には順番があるので、どのようなスタイルでやるかを考えてみてください。私の場合は保険診療の患者さんに声をかけることはほとんどしていないため、ネット上で来た人が99%です。この信頼をネット上で得る仕組みを構築しています。
7 なぜ◯◯が必要なのかを伝える
栄養療法の勉強で一番勉強になるのは、他人に教えることです。他人をカウンセリングするというのが究極の形です。
検査をオファーしてサプリメントや治療を提案するときに、「何故この検査は必要なのですか?」「何故このメーカーのサプリメントでないとだめなんですか?」「何故一番最初にデトックスをやってはいけないんですか?」「何故最初に低血糖の治療からやらなければいけないんですか?」などの質問に答えられるでしょうか?自分でもきちんと理解した上で、クライアントに説明しないと当然上手く伝わりません。
例えば、メタジェニックス社の「グルテンダイジェスト」という製品は、消化酵素のサプリメントをお薦めする理由はこんな感じです。
「一般的に消化酵素はタンパク質の端から切っていきます。グルテンを端から切ることによって途中でモルヒネ様物質であるグリアドルフィンができます。そのためグルテンの消化が悪い子供がグルテンを摂ると、中途半端な消化によるモルヒネ様物質を脳内に作り出してしまいます。しかし、グルテンダイジェストにはグルテンタンパクを真ん中から切るという特殊な成分が入っています。真ん中を切ることで消化の効率も良くなりますしグリアドルフィンもできません。その成分を使っているのは、現在メタジェニックス社ともう一社だけです。」
このようにして、なぜこのサプリや検査が必要か、なぜこの順番でやらなくてはならないかなどを順番に説明していきます。