最近「栄養外来を見学させてください」とか「実際にどのようにして診察を行っているのか知りたい」とおっしゃる先生が多いので、今回は、僕が宮澤医院の栄養療法外来で行っている流れについてご紹介します。
1 問診の流れ
1-1 自己紹介
最近紹介でいらっしゃる方が多くなりましたが、私のことを知らない患者さんには、私のバックグラウンドと治療方針をお話しています。消化器内科医として大学病院に勤務した後、サプリメントのクリニックに転職して、栄養療法を始めて15年になります、根本原因を探してサプリを減らす治療をしています、といった事をまずお話します。
1-2 ご紹介者について
次にどなたのご紹介かをお聞きしていてます。紹介者がわかると、今までどんな治療を受けていたか大体分かります。紹介でない方にも、今までどういうクリニックに通っていたかを必ず聞きます。栄養療法の治療歴と一般診療の受診歴共に重要で、ごく一般的な病気の原因を否定してあるかどうかは必ず確認します。副腎疲労かと思っていたら下垂体腫瘍だった、なんて笑えない話です。
1-3 栄養療法と保険診療の違いについて
ネット経由の患者さんは栄養療法のことをよく知っている事が多いですが、保険診療の患者さんに対しては栄養療法と保険診療の違いについて説明をします。一般診療は症状にアプローチし、栄養療法は原因にアプローチするということを中心にお話します。どちらも重要ですが、保険診療と栄養療法の違いについてをお伝えしています。
1-4 ラポール(信頼)の形成
問診票を見ながらさらに深く話を掘り下げていきます。ラポール(信頼)の形成と問診が同時進行となり、自動的に信頼関係の構築になるんです。信頼関係をつくる目的は、患者さんと友達になることではありません。患者さんには治療方針に従ってもらわなくてはいけないため、少し上の立場でいる必要があります。
1-5 知識=お金と心得る
プロにお金を払う場合、相手の知識にお金を払うということなので、その人よりも数段レベルが上なのが当然だし、それをわかって頂く必要もあります。知識が対価となるので、5分に1回専門用語を使います。1分に1回だと多過ぎます。「あなたはHPA軸がうまく機能してていないです。つまりそれは、脳と副腎がうまく連絡をとれていないことを意味します」というふうにお話をします。「唾液中コルチゾールが低下しています。副腎から出るストレスを打ち消してくれるホルモンです。これが低いから疲れやすいんです。」など専門用語を言ったあとに要約をつけるなど、専門用語と簡単な用語を混ぜて使うのがコツです。
1-6 言えないことを言ってもらう
受診までにネット上の問診票を全部埋めてから来てもらうようにしています。問診票は7つの根本原因のどこに原因があるかということを分かるように作り込んでいます。そこにチェックを入れてもらいますが、患者さんは本当に重要なことは問診票に書かないことが多いです。なぜならまだ信頼関係がないからです。信頼関係を構築するために、問診をうまくやる必要があります。人には言えないことを最終的に話してもらうのが問診の目的です。
ものすごく女性にモテる男の人がいて、どうしてそんなにモテるんですかと聞いたら、「信頼関係」だそうです。信頼関係とは何かを聞くと、それは他の人には言えないことを話してもらうことだと言うんです。人に話さないことを話してもらえるような関係になれば治療もうまくいきます。
2 問診から根本原因を探る方法
問診が一通り終わったら、次にすることは、問診事項を根本原因に転換することです。問診の中で、これは!と思う事項を絞り込むことから始めます。
2-1 根本原因ピラミッドを理解する
問診で一番重要なことは、根本原因が何かというのを見定めることですが、根本原因ピラミッドの一番下には、腸・炎症があります。その上にデトックスがあって、脳機能がくるのですが、低血糖の海が一番下の層となります。栄養療法的や機能生理学的な問題だと、病気の根本原因は、ストレス、食事、生活習慣のどれかなので、そのあたりを問診で確認します。
2-2 経過について聞く
その症状が急に発症したのか、それとも慢性的に出てきたのかと聞くことはとても重要です。慢性疲労、副腎疲労の場合は積み重なって症状が出てくるのに対して、慢性症候群は、風邪やストレスなどのトリガー(引き金)があって急にガクンと発症し、それを引き金に症状が続いてるというパターンが多々あります。
2-3 発症時に何が起きたのか聞く
発症時にどんな出来事があったのか、どういう状況だったのかを確認することはすごく重要なことです。ただしそれらは問診票には書いてもらえないことがほとんどです。ちょうど離婚したときだったとか、本当のお父さんとお母さんの子ではないと分かった日ですなどと問診票に書く人はいないです。つまりそういうことを掘り起こすための問診なのです。最初は聞けなくても、信頼関係を築くとだんだん判明していきます。
そこが分からないといくら治療をしてもうまくいきません。ストレスが今も継続しているのか、それとも過去の出来事なのかが大きな要素です。ストレスの継続は副腎疲労の回復を遅らせ、それによって起きる低血糖を始めとするホルモンのアンバランスが腸内細菌バランスを乱していたりします。アドレナリンが多い人は腸内細菌に悪玉菌が多いので、炎症が起きて解毒がだんだんできなくなり、肝臓がやられてくるというお決まりの流れとなります。
根本原因ピラミッドのより下層部のほうが原因になっているため下から治療する必要がありますが、低血糖のさらに下には、生活習慣、食事、ストレスがあります。もちろん便秘気味、下痢気味などの腸内環境については問診票に大体書いてありますので、その源流を問診の時に探ってください。
2-4 感情が行動を決める
人は感情で動く動物です、どういうときに検査をするとか、サプリメントを買うかというと、感情が動いたときです。マーケティングの本に書いてある通り、感情的に物を買って、これは自分に必要だったと後から論理をくっつけるものです。だから感情的にこの人からは買いたくないと思ったら話だけ聞いて、検査は他のところで受けてしまいます。こうなると大体うまくいきません。このような方は長く継続して受診されない傾向にあります。全てを委ねられて信頼されることが必要なのです。
問診の際には、患者さんの話が8割、自分が話すのが2割くらいがちょうど良いです。相手の話を聞いて、それで最後にまとめをします。最後にこれで大丈夫ですか、と確認すると、言い忘れたことがあるんですけど… となります。この言い忘れたという内容に、エッセンスがつまっていることが多いです。
2-5 主訴を3つにしぼり根本原因とつなげる
次にすることは、主訴を整理してしぼるということです。10個くらい主訴をおっしゃる方もいますが、一番辛いことを3つに絞ってもらいます。全てを一度に治療しようとすると治療がバラけるし、解決に繋がるのが難しくなります。10個全部の整合性が見えればそれでもいいですが、最初は上位3つ、一番辛いことはなんですか、と絞った方が良いと思います。
そして次には、それらを根本原因につなげるということをします。患者さんは色々な主訴を言います。大体ネットでも色々調べていますが、それは点と点でつながっていないことがほとんどです。その点と点を線につなげてあげるのがプロの仕事です。
3 症例1 47歳女性 PMS、のぼせ
というわけで、症状から根本原因への転換を実際にやってみましょう。まずは「疲れやすい・PMS・気分障害・のぼせ」を主訴とする47歳女性の方です。症状的にはエストロゲン過剰です。女性ホルモンには、エストロゲンとプロゲステロンという拮抗する二つのホルモンがありますが、47歳といった前更年期では、エストロゲンが過剰になりやすいんです。こういう人にはどのような根源が隠れているのでしょうか。
3-1 環境ホルモンの暴露
アメリカ産の牛肉とか牛乳にも成長ホルモンも沢山入っているし、環境汚染物質・アルミニウム・水銀・環境ホルモンなどが人工のエストロゲンです。その結果、プロゲステロンに対してエストロゲンが過剰になるので、色々な症状が出現するというわけです。対処法は暴露を避ける事ですね。牛乳、乳製品を避けることから始めます。
3-2 副腎疲労
コルチゾール・スティールも原因となります。コルチゾール・スティールというのは副腎疲労でコルチゾールが減ってしまうために、原料のコレステロールが女性ホルモンではなく全部コルチゾールに回ってしまうことを言います。そのため副腎疲労は女性ホルモンの問題につながります。
甲状腺や性ホルモンの問題は、副腎の問題を解決しないと根本的に解決しません。副腎疲労を放置したままで甲状腺ホルモンを足したり、女性ホルモンの補充療法をされている方がいますが、副腎疲労の原因が放置されているので、甲状腺ホルモンの治療も増えていく傾向にあります。このふたつのホルモンアプローチは、副腎疲労のアプローチとともに行うべきです。
3-3 肝臓の解毒不足
3番目の問題は、肝臓です。エストロゲンの代謝は肝臓で行われているため、エストロゲン過多、 PMS 、子宮内膜症、乳がんのようにエストロゲンが原因と言われる疾患に対して、栄養療法で一番最初にアプローチするべきは肝臓です。肝臓にアプローチをして解毒を促し、エストロゲンの代謝を亢進させるというのが非常に重要なアプローチとなります。COMTという酵素がエストロゲンを代謝しますが、補酵素としてビタミンB6が必要です。アドレナリンと代謝が拮抗するため、女性ホルモンがアンバランスになったときにはイライラしたり、PMSになったりします。
3-4 腸内細菌
最後に、腸の問題です。腸内環境とホルモンは切っても切れない関係です。例えばメラトニンとセロトニンは90%腸でつくられます。腸内環境を改善することなしに、睡眠の問題は改善できないです。アドレナリンもノルアドレナリンも腸内環境と密接につながっています。だから腸内環境をきちんと治さないと、ホルモンの問題も改善しないのです。
根本ピラミッド的には、ホルモンは3階層目です。腸を完全に治すことがホルモンを治すことになります。エストロゲンについても同様で、腸内細菌はエストロゲンを産生しています。エストロゲンは卵巣だけでなく、副腎でもつくられます。エストロゲンにはエストロン(E1)、エストリオール(E2)、エストラジオール(E3)と三種類あります。3つのエストロゲンがうまい具合に拮抗して、エストロゲン活性が強くならないように調整してるわけです。腸内細菌が少なくなるとエストロゲン活性が強くなります。
症例1のような患者さんが来たら、女性ホルモンの根本原因は、環境ホルモンへの暴露なのか、副腎を含めたホルモンバランスなのか、肝臓機能が低下している解毒の問題なのか、それとも腸内環境が悪化しているからなのか、この4つが根本原因になりうるから、この4つの状態がわかる検査をしませんか。と私なら提案します。主訴をまとめて、根本原因に転換していくのを初診時に行っていくわけです。もちろん原因は他にもいろいろあり、この4つだけではないですが、このような形で進めていけばいいと思います。
4 症例2 32歳男性 慢性疲労
次は「疲れやすい、痩せられない」を主訴とする32歳の男性です。この方の主訴は、どのような根本原因でに転換できるでしょうか?想像力次第で色々な考え方があると思いますが、自分なりの意見を見つけることが重要だと思います。
4-1 インスリン抵抗性
インスリン抵抗性を改善しないとダイエットは結局成功しません。長期間になればなるほど、食欲を抑制するのが難しくなるからです。長期間のダイエットを成功させるには、根性とかに頼らなくても良い方法を見つける必要があります。
4-2 消化不良
ダイエットに必要なエネルギーの元となるタンパク質とミネラルは、簡単に消化不良を引き起こします。マグネシウムはエネルギーミネラルなので、不足すると痩せられないですし、亜鉛不足は過食症を引き起こします。
4-3 解毒の問題
解毒の問題もあります。水銀やヒ素の蓄積はミトコンドリアを邪魔してエネルギーの消費を抑えてしまいます。また、金属の蓄積を排除しようとして生理的な浮腫が出ますが、その浮腫を肥満をとして主訴として訴える人もいます。
食事制限や糖質制限をしても痩せられないのは、もしかしたらこの辺りに原因があるかもしれません。このようにいくつか仮説を立てて検査を提案します。
5 根本原因を探すことに意味がある
現在、クリニック向けに患者の血液検査の結果の代行をしてくれるところがあるそうです。血液検査のレポートを作って、不足しているサプリを記載して送ってくれるそうです。それを参照しながら患者に説明すればとりあえずサプリは処方できてしまいますが、本質から考えると無意味でです。
患者の主訴を聞いて、根本原因にアプローチすることに一番の栄養療法のポイントがあるので、そこを外注してしまうと信頼関係も形成できず、足りない栄養だけ補充してもうまくいきません。
根本には必ず何かしら原因があるので、そこにアプローチするためには年単位の治療が必要です。つまり年単位で通い続けてもらわないといけないということなので、そこの信頼関係が築けないとうまくはいきません。この点は、私自身も大変苦労している部分ではあります。
すぐに信頼関係が構築できなくても、2回目、3回目の問診の際でも良いと思います。患者さんは最初から心を開いてくれないし、ブレインフォッグが辛くてそれどころじゃないという人もいます。その場合は、根本原因ピラミッドをただ順番に上がっていけば大丈夫です。
例えばグルテンフリーなどを提案してみて、患者さんのデトックスが進み、腸内環境が改善すると、リーキーガットが閉じて肝臓への負担が少なくなります。肝臓が解毒ができなくなる一番の要因はリーキーガット症候群です。腸と肝臓は門脈で直結しているので、腸の毒物は全部肝臓に行きます。そのため腸の炎症を抑えると肝臓が生き返ってきます。肝臓が生き返ってきて解毒が進むとだんだん脳が冴えてきます。脳が冴えてくると、何をすればいいか判ってくるという患者さんも少なくないです。だからそういう状態になってからあらためて同じ話をしてもいいと思います。そうするとより分かり合えるようになってきます。心理的・精神的なアプローチと、栄養的なアプローチの両面で攻めていく必要があり片方だけでは不十分です。
基本的にサプリメントは効率化の道具で、栄養が濃縮されて入っているものなので、不自然といえば不自然なものです。栄養療法の初期で、このピラミッドを上がるスピードをつけるためのブースター的な役割をするのがサプリメントなんです。だからそのブースターが効いて段々根本ピラミッドを上がってきたら、それに伴ってサプリメントは減らせるはずなのです。
栄養療法の説明をする時に必ず患者さんから質問されるのは、いつまでサプリメントを飲み続けなければいけないかということです。自費診療なのでそのあたりは明確に説明しないと信頼関係がうまく築けません。
腸内環境の改善には平均で2ヶ月から半年かかりますが、その結果は検査の結果によるということを初診のときに説明しています。腸の炎症が強くて悪性菌が多かったら回復に時間がかかることが多いです。悪性菌があったり特にカンジタが過剰増殖してる場合は、カンジタを除菌しないとリーキーガットは完全に閉じません。その場合、腸の炎症を止めて、カンジタを除菌するのに少なくとも4ヶ月はかかります。悪性菌があまりなければ1、2ヶ月ですみます。その見極めをするのに検査がどうしても必要で、検査の結果によって治療方針が違ってきます。その治療方針を決めるのにどうしても検査が必要だということをご説明します。