私が行っている診療についてご説明します。
宮澤医院を受診される方の多くは「慢性疲労」など疲労性疾患、
「アトピー」「リウマチ」「掌蹠膿疱症」「脱毛」など免疫疾患、
「うつ」「ADHD」「発達障害」など精神疾患の方です。
これに当てはまらない、高血圧や糖尿病といった疾患にももちろん栄養療法は有効です。ただし、上に挙げた疾患は現在薬で完治が難しく、薬の副作用がでやすいなどの問題が多く、栄養が特に効果を発揮しやすい分野です。
サプリメントを摂る事は目的ではない
栄養療法クリニックを受診したり、いろいろな治療を試しているのにも関わらず上手くいっていない人や、思うような結果が得られていない人が増えています。
よく見るのは、サプリメントを摂る事が目的?と思えるくらい大量のサプリを摂っている人です。しかも、現在進行中でどんどん増えていっています。
サプリを摂る事が楽しみだったり、生き甲斐だったりする人もいるかもしれませんが、通常、健康状態が戻るにつれ必要なサプリは減っていくはずです。
栄養療法をうまくいかせる治療方針は「最終的にサプリが要らなくなる体作り」です。
血液データをよくする事は目的ではない
確かに栄養状態には個人差があるため、血液検査を行って足りない栄養を知ることは重要です。しかし、それはあくまでも手段です。
それなのに、いつの間にか血液データをよくする事が治療方針になっている人がとても多いです。
自覚症状と血液データで見る栄養状態は多くの場合一致しません。
データを見たら、「鉄と亜鉛とビタミンDが足りない」だけでなく、「なぜ鉄や亜鉛やビタミンDが足りないんだろう?」と考えてください。
多くの場合は栄養素の摂取不足が原因ではないのです。
なにも考えずに足していくとサプリは際限なく増えていきます。
足りない栄養の原因を考えよう
「アカパンカビ」というカビを知っていますか?
様々な生物実験で頻繁に使われるカビの一種です。
このカビは自分が生きるために必要な栄養素をすべて自分でまかなえるため 「完全栄養生物」 と呼ばれます。
このカビは進化のたびに、自ら栄養を作り出す機能を捨てていきました。
じつは、栄養を自分で作るのは体にとって大きな負担です。周りの環境に豊富に果物があれば、ビタミンCを作らなくても済むかもしれません。
トヨタが車の部品を一から作るのをやめてから大会社になったように、生物の進化とは、自ら栄養を作るシステムの断捨離と言えます。
結局、カビから数億年を経て進化したヒトは多くの栄養素を作れなくなりました。 このように栄養がないと生きられない動物を「従属栄養生物」といいます。
ヒトの栄養素には必須脂肪酸、必須ミネラル、必須アミノ酸、ビタミンなど、栄養には「必須」と名のつくものが多いです。
これらは全て体内では作れず、食物として外部から取り入れる必要があります。
つまり、ヒトは究極の「従属栄養生物」なのです。
人間という生き物は、生まれながらに食事、環境の変化、ストレス、感染症などで大きく栄養バランスを崩しやすい宿命を持っています。
つまり、何が言いたいかというと「人は従属栄養生物だから、足りない栄養素に着目すると病気の根本原因がわかる」ということです。
根本原因を見ずに足りない栄養をサプリを補うだけでは、治療効果が頭打ちになったり、サプリを減らしたら症状が逆戻りしたりします。
しかし、根本を治療していけば、サプリで過剰な栄養を摂らなくても体内の代謝が回るようになってきます。
栄養療法のゴールは「サプリが要らない体になる事」「何でも食べられる体になる事」です。
これを忘れないでください。
治療方針は病態から決める
じゃあ実際にはどのように方針を立てるのか?
私の方法を説明していきます。
おおまかな治療方針を決めるには自分の病態を知る必要があります。まずは、自分の病態が次の栄養療法が効果的な3つの分野のどれにあたるのかを確認しましょう。
- 「疲労系」その名の通り、疲労を主訴とする疾患(不妊症もここ)
- 「免疫系」 リウマチやアトピーなど、通常ステロイドが用いられる疾患
- 「精神神経系」統合失調症、うつなど神経伝達物質が問題になる疾患
宮澤医院を受診する患者さんの殆どは上の3つの分野のどれかに当てはまります。
大事な事は、病態がわかればセットで治療方針も決まるという事です。
疲労系はミトコンドリア機能障害
慢性疲労の症状は体のエネルギー不足で現れます。では体のエネルギーはどこから作られるのでしょうか?
人は37兆個の細胞から成り立っています。その細胞一つ一つの中には、 ミトコンドリアが 数百個〜数千個も含まれていますが、これがエネルギーを作る工場です。このミトコンドリアの働きが低下していたり、ミトコンドリアが働くための栄養が不足していると「疲れやすい」という症状が出てくるのです。
そこで、疲労を主訴とする疾患のことを「疲労系」疾患と呼ぶことにします。「免疫系」「精神神経系」の疾患は通常診断がつきやすいのに対して、「疲労系」疾患は原因不明とされている事が多いです。また、効果的な薬がほとんどない事も疲労系疾患の特徴です。疲労系疾患の治療方針はミトコンドリア機能の改善です。
「疲労系」の疾患を疑ったら、ミトコンドリア機能を評価すると同時に、疲労を起こしうる疾患の鑑別をしていきます。
慢性疲労症候群では重症なほど、ミトコンドリアの性能が落ちていることがわかっていますが、他にも 若い人に多い起立性調節障害、鉄欠乏性貧血など、疲労を症状とする疾患はみんな「疲労系」疾患と考えてよいでしょう。
また、甲状腺と副腎はミトコンドリアに大きな影響を与えています。だから、甲状腺機能低下症や副腎疲労症候群も「疲労系」疾患と考えます。
- 副腎疲労症候群は、臓器レベルでは副腎の問題ですが、全身症状は「疲れやすい」、細胞の状態は「ミトコンドリア機能低下」です。
- 甲状腺機能低下症は、臓器レベルでは甲状腺の問題ですが、全身症状は「疲れやすい」、細胞の状態は「ミトコンドリア機能低下」です。
- 鉄欠乏性貧血は、臓器レベルでは、赤血球の問題ですが、 全身症状は「疲れやすい」、細胞の状態は「ミトコンドリア機能低下」です。
つまり、慢性疲労、副腎疲労、起立性調節障害、甲状腺機能低下、貧血は、臓器レベルで考えると一見別々の疾患ですが、全身症状は「疲労」で共通しており、細胞レベルでみると「ミトコンドリア機能の低下症」とひとくくりにできます。
病態が「疲労」である疾患は「ミトコンドリア機能改善」が共通の治療方針になります。
ミトコンドリア機能の低下と慢性疲労症候群の重症度が比例する
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC2680051/
もちろん、副腎疲労では副腎ケア、甲状腺機能低下症では甲状腺ケア、慢性疲労症候群では感染症のケアが必要ですが、細胞単位で考えた場合にはこれらの疾患にはミトコンドリア機能改善という共通項があるということになります。
線維筋痛症も疲労症状が出ますが、体の痛みを伴うため免疫系疾患としての側面も持っています。このように、2つの病態にまたがっている場合もあります。
上記の表に入れていませんが、不妊症は疲労系疾患です。なぜなら、卵子は体内でミトコンドリアを一番多く含む細胞だからです。つまり、妊娠にはエネルギーが必要です。
不妊症をチャートで見るとこのようになります。
不妊症対策で重要なのはミトコンドリア機能とホルモンバランス、そして自律神経の過緊張をとる事なのです。
「疲労系疾患」
- 慢性疲労症候群
- 起立性調節障害
- 鉄欠乏性貧血
- 甲状腺機能低下症
- 副腎疲労
- 線維筋痛症
- 不妊症
- その他、疲労を伴う疾患
癌、アルツハイマー病、パーキンソン病、統合失調症、糖尿病、非アルコール性脂肪性肝炎など、いくつかの疾患と症状がミトコンドリアの機能不全と関連する事がわかっています。必ずしも疲労症状がなくとも、ミトコンドリアを治療する事はいつでも重要です。
免疫系疾患は免疫を正常化させる
関節リウマチやアトピー性皮膚炎などはステロイドや免疫抑制剤を数年~数十年にわたり継続して使用する事が多く、完治が難しい病気です。このような免疫異常による病気を「免疫系」疾患と呼びます。免疫系疾患の治療方針は免疫の正常化です。
関節リウマチは、臓器レベルでは関節の問題ですが、根本病態は「免疫異常」です。アトピー性皮膚炎は、臓器レベルでは皮膚の問題ですが、根本病態は「免疫異常」です。自己免疫疾患の根本病態は「免疫異常」です。
免疫系疾患の特徴は、治療にステロイドや免疫抑制剤が用いられる事です。ステロイドは強い抗炎症効果、および免疫抑制効果を持っています。
免疫疾患は免疫の正常化が根本治療です。そのためには、免疫を抑制せず、むしろ向上させることで一時的に体内で戦いが起き、その結果免疫が学習し、最終的に免疫寛容をおこさせる必要があります。
関節リウマチに対して、軟骨成分である非変性Ⅱ型コラーゲンサプリメントを投与する治療はその典型例です。
免疫寛容と免疫抑制は全く異なるものです。ステロイドを使用して免疫を抑制している間は免疫寛容は起きません。
免疫系疾患を起こす人は長年炎症が続いていることが多く、副腎が疲労しています。だから体内で十分なステロイドを作れないため、アトピーなどでは特によくみられるのですが、つまり炎症が長引くのです。
そういうこともあり、免疫系疾患の治療方針は免疫の正常化と副腎機能の回復になります。
免疫系疾患
- アトピー性皮膚炎(免疫低下で炎症がいつまでもおさまらない)
- 関節リウマチ(関節に対する自己免疫)
- その他の膠原病
- セリアック病(腸の粘膜に対する自己免疫)
- グルテン運動失調症(小脳に対する自己免疫)
- 掌蹠膿疱症
- 女性の脱毛(毛根に対する自己免疫)
注意:リウマチやアトピーなど、免疫疾患には炎症性疾患という側面も存在します。医学的に炎症を抑制しなければならない状態というのは常に存在します。(例えばリウマチの炎症を止めなけば関節の破壊は進行します。)実際の治療は臨床的な判断が優先されます。
精神系疾患は神経伝達物質調整
うつ病やパニック障害など脳に関わる病気は非常に食事や栄養の影響を受けやすいため、栄養療法の良い適応になります。また、アルツハイマー病は、効果的な治療薬がない典型的疾患であり、やはり栄養療法の有効性が多く報告されています。これらの病気を「精神系」疾患と呼びます。
「精神系」の疾患は栄養療法での改善報告が一番多い分野です。精神系疾患の治療方針は神経伝達物質のバランスをとることです。
脳は、神経細胞間の神経伝達物質によって情報を伝えています。
うつ病の原因仮説はいろいろありますが、ドーパミンやセロトニンなどの神経伝達物質が少なくなってしまうモノアミン仮説が有力なものの一つです。
今使われている多くの抗うつ薬は、この神経伝達物質の不足を補う仕組みです。
例えば、うつ病ではセロトニンが不足しているのが一因なので、セロトニン再取り込み阻害薬というものを使います。
ちなみに栄養療法では、薬の代わりに、セロトニンそのものを増やそうと考えます。脳の中でセロトニンを増やすために、材料と補因子をすべて補うのです。
例えば、「セロトニン」は「トリプトファン」から「5HTP」を経由して脳内で合成されますが、「トリプトファン」から「5HTP」の変換には、補酵素として「鉄」、「ナイアシン」、「葉酸」そして「5HTP」から「セロトニン」の変換には「ビタミンB6」が必要です。
セロトニン不足が疑われる患者さんに対しては、主原料になるたんぱく質に加えてこれらの栄養をサプリメントで摂るというのが、モノアミン仮説に基づいた栄養療法の基本です。
基本の方針が1つだけではなく、2つや3つにまたがる事もあります。
もちろん、実際の病態はもっともっと複雑なのかもしれません。でも病態が複雑になっているほど、単純化して治療の骨子を決める必要があるんです。
いろいろな事をいっぺんにやろうとして失敗したり、自分が今どこにいるかわからなくなったりする方がとても多いです。単純化して一つずつみていくことです。
方針の目途がついたら、次のステップ2に行きましょう。