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臨床分子栄養医学研究会

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宮澤賢史

サプリメントを体験する

宮澤賢史 · 2023年10月24日 ·

それぞれのサプリメントの上手な使い方は、ご存知でしょうか。

例えばビタミンCを使うコツは、量と摂取間隔。
マグネシウムのコツは腸内環境を整えることです。

どんなパッケージでどんな形状で、どのくらいの量が入っているサプリメントを選ぶのが良いのかもとても重要なファクターなので詳しく説明していきます。

1 ビタミンCの選び方と使い方(その①)

1-1.ビタミンCの選び方

ビタミンCを選ぶポイントは3つあります。

  • 容量が最適量のものを選ぶ
  • 遮光日に入っている
  • リポゾームタイプ

一つ目は、容量が最適量のものを選んでください。

必要最低量が日本の場合は100mg、アメリカの場合は90mgと言われていますが、その必要最低量を摂ればいいということではありません。

ビタミンCの最適量は1,000mgです。

二つ目のポイントは遮光瓶に入っているなどパッケージにこだわっているということです。

ビタミンCは強い抗酸化力を持っています。抗酸化力が強いということは、酸化しやすいということです。酸化されやすいビタミンCは光にも弱いので、遮光瓶に入っていたり、アルミのパックで個包装されているなど、遮光性が高く包装がきちんとしているビタミンCが良いでしょう。

そして最後に、油に溶けやすいように作ってあるリポゾームタイプのビタミンCを選んでください。人間の細胞膜は油でできているため、油で作られたビタミンCの方が細胞膜を通り抜けやすく、細胞の中に届きやすいからです。

1-2. 天然と合成のビタミンCの構造は同一

ビタミンCには天然100%と書いてあるものもありますが、大変コストがかかります。こちらはクリニックで購入できるビタミンCですが、左は合成のビタミンCが1カプセルに400mg、右は天然のビタミンCが1カプセル200mg入っています。


原材料名

ビタミンCカルシウム、ビタミンC、プルラン糖転移ヘスペリジン、結晶セルロースショ糖脂肪酸エステル

容量400mg/1カプセル

原材料名

アセロラ粉末(アセロラ、食物繊維)/ HPMCステアリン酸カルシウム、貝カルシウム、トレハロース、微粒酸化ケイ素

容量100mg/1カプセル

左の原材料名にはスラッシュがないので、全て添加物になります。ビタミンCは添加物扱いなので、左側は添加物の合成ビタミンCが400mg入っています。右側はビタミンC入りのアセロラの粉末が食品として入っています。天然の100mgと合成の400mg、私なら迷わず合成のビタミンCを選びます。なぜなら、ビタミンCは容量を多く使うと効果的な栄養素で、天然と合成のビタミンCの構造は同じなので容量が多い方が効果が高いためです。

モジュール1でサプリメントを効かせる4つの法則のご説明をしましたが、4番目の「改善したい場所に元から存在する栄養素を摂る」を解説します。

1-3. モルモットのビタミンC体内分布

50年くらい前の論文から取ってきたモルモットの写真ですが、モルモットは人間と同様に体内でビタミンCを作れない動物なので、人間のビタミンCの代謝を研究する際によく使われます。モルモットにビタミンCを経口摂取させて切断した写真ですが、ビタミンCに色素を付けてあるので体内のどこにビタミンCがいったかというのがわかります。

この写真から経口摂取したビタミンCは体内に均一に分布するわけではなく、脳や副腎、水晶体に分布することがわかります。その臓器でビタミンCの需要が高いため、ビタミンCは偏って存在します。脳や副腎ではビタミンCを沢山使います。

右側の写真は同じモルモットにビタミンCを点滴した写真ですが、脳、甲状腺、副腎だけでなく、腎臓、肝臓、肺、そして腸、皮膚の隅々までビタミンCが行き届いているのがわかります。ビタミンCには運ばれる優先順位があって、少量の場合は副腎と脳と水晶体に行くようにできています。

メラニンの産生抑制効果による美白効果を十分に発揮させるためには、これらの臓器に消費される以上の量のビタミンCを摂らないとあまり効果がないということになります。

1-4. ヒトの体内のビタミンC濃度

この図は2016年の論文から抜粋したものですが、人の体内で一番ビタミンCの濃度が濃い場所はリンパ球で、その次が白血球です。白血球にビタミンCの濃度が高い理由は、ビタミンCは白血球の遊走性を高める機能があるからです。傷ができたり、ばい菌が入ると白血球がその現場に急行しますが、これを遊走と言います。白血球にビタミンCが多いことから、風邪の時にビタミンCが良いということは想像に難くないと思います。

1-5. 体内でビタミンC濃度が高い場所

  • リンパ球  (免疫のため)
  • 目の水晶体 (白内障の防止)
  • 脳の下垂体 (ホルモンを分泌)
  • 副腎    (副腎疲労の防止)

このように体内で栄養濃度が高い場所は、栄養の需要が大きくなります。これはビタミンCだけでなく、他の栄養素にも当てはまることなので是非覚えておいてください。

1-6. ビタミンCは肝臓の解毒に影響する

濃度が一番高いのはリンパ球ですが、臓器レベルで考えるとビタミンCの量が一番多い臓器は、肝臓です。

肝臓は臓器自体が大きく1.5kgぐらいあるので、臓器レベルで考えると人間の体内でビタミンCが一番多く集まるのは肝臓です。肝臓で解毒を促す酵素であるCYPや、胆汁酸合成の維持にビタミンCが必要となります。

例えばラットは人間と異なり体内でビタミンCを作ることができます。ラットに毒を与えると、体内でビタミンCの合成量を増やします。反対にビタミンCが欠乏しているようなラットでは、解毒機能が低下することも分かっています。お酒を飲んだ翌日は、解毒に必要なビタミンCを沢山摂ったほうが良いということがわかります。

栄養素は均一ではなくて偏在していて、輸送には優先順位があります。ビタミンCは優先して副腎、水晶体、下垂体などに輸送されるため、栄養素が体のどこに偏在しているかを知って、効かせたい場所に多く存在している栄養を摂るようにしましょう。

サプリメントを聞かせる4つの法則の中の1つ、ドーズ・レスポンスについてご説明します。ドーズ・レスポンスというのは目的別に最適な量を摂るということです。直訳すれば量と反応の関係で、量によって達成できる目的が違います。

1-7. ビタミンC欠乏症=壊血病 Scurvy

ビタミンC欠乏症とは壊血病のことで、これは壊血病の人のスケッチです。

トーマス・スティーブンズの航海日記(1579年)によると、長い航海の末に食料と水が不足し、様々な病気が発生したそうです。歯茎が蝋のように腫れて、出血し、死亡者もいたとあります。なぜ壊血病になるとこのように内出血(皮下出血)するのかというと、ビタミンCがコラーゲンの生成に必要だからです。血管はコラーゲンでできているため、ビタミンCが欠乏するとコラーゲンが出来なくなって血管がもろくなって出血します。

大航海時代に壊血病で亡くなった人は沢山いましたが、その理由は、船にビタミンCが豊富な野菜を全く積んでいかなかったからです。でもそのことにイギリスの海軍医の人が気づいて、ザワークラフトを乗せるようになってから、壊血病になる人はいなくなりました。そのためビタミンCは壊血病の特効薬的な働きが功を奏して、「壊血病に対抗する酸」と名付けらました。壊血病はScorbicと言うので、ビタミンCの英語名は、Anti Scorbic AcidからAscorbic Acidになりました。壊血病に対抗する酸という元々の名前から、50年後の今でもビタミンCは壊血病の薬とイコールになっています。そのため壊血病を最低限治せばそれほど沢山摂る必要はない、むしろ沢山摂っても尿として流れるだけだから無駄と今でもネットに書かれていますが、真実は違います。

2005年のアメリカの論文によると、ビタミンCのRDA(必要最低量)が19歳以上の大人の場合、男性は90mg、女性は75mgとなっています。これは白血球の生理学的および抗酸化機能を保つ量に設定されており、欠乏からの保護に必要な量よりもはるかに高い量です。つまりRDAは白血球の機能を保ち、壊血病を回避できる量ということになります。

1-8. 副腎疲労には3gが必要

白血球の次に濃度が高いのが下垂体と副腎ですが、下垂体と副腎でビタミンCを消耗するのは、ストレスがかかった時です。ストレスがかかると脳の下垂体から副腎に命令が入って、副腎からは抗ストレスホルモンであるコルチゾールか出るというのが、ストレスに対抗する仕組みです。ストレスが長年続いてくると脳が疲れて、刺激ホルモンが分泌できなくなります。それに伴い抗ストレスホルモンのコルチゾールも出なくなってきて、これを副腎疲労と言います。

副腎疲労を治すためのビタミンCは、必要最低量では全く足りません。ビタミンCを3g摂るとやっとストレス反応が低下して、血圧も下がるということが分かっています。この文献からすると、副腎疲労に対抗するにはビタミンCは100mgでは足りなくて、3gは必要だということがわかります。このようにビタミンCは目的によって必要量が異なります。

1-9. ビタミンCの1回摂取率と吸収量

これはビタミンCの一回摂取量と吸収率です。

つまり一回に60mgのビタミンCを摂ると100%吸収され、100mgだと90%しか吸収されません。1,000mg摂取すると、75%の750mg吸収されます。2,000mgを一度に摂ろうとすると、吸収率は44%まで下がってしまいます。44%ということは、2,000×44%で880mgなので、1,000mg摂るのと2,000mg摂るのとあまり変わらないことになります。つまり一回に摂取できる最適量は1,000mgということになります。

では、ビタミンCはどれくらいの間隔で摂るのが一番効果が出るのでしょうか。

喫煙者や老人だと平均より下がりますが、体内のビタミンCの血中濃度は約0.7mg/dlです。ビタミンCを1,000mg摂ると30分後に血中濃度が1.4mg/dlまで上昇しますが、徐々に低下してきて4時間で元に戻ります。例えば一日3gを3回に分けて摂るとしますよね。4時間ずつ空けて摂取した場合、血中濃度が上下しそれを繰り返すようになります。

ビタミンCの効果は血中濃度に比例するため、上がった血中濃度=効果となります。上の表の場合は最高到達血中濃度が1.4mg/dlですが、ビタミンC1,000mgを1時間おきに摂ると、30分後にピークになって、血中濃度が落ちきる前に新たに摂取するとまた上がり、最高で3.9mg/dlまで上げることができます。同じ1gのビタミンCでも4時間おきと1時間おきでは効果は3倍異なります。つまり、ビタミンCを上手く摂るコツは、1gを1時間おきに摂ることです。

風邪の場合に一番良いビタミンCの摂取方法というのは、普段から1日3回1gずつ摂り、風邪の症状が出た時には、6回分足して1日9回に変更します。朝起きてから寝る前までの間1時間おきにビタミンCを摂るようにします。それだけで症状が85%減少したという論文があります。

壊血病の予防で白血球を働かせるためには90mg、副腎疲労には3g、そして風邪には9gのビタミンCが必要だということになります。

1-10. がん細胞を殺すには点滴で50g以上必要

さらにビタミンCにはがん細胞を殺す働きがあります。これは私の師であるヨルダン先生という方が2000年に発表した論文ですが、ビタミンCの濃度を異常に高めていくと、400mg/dlに到達しています。サプリメントの摂取による血中濃度に比べると100倍になりますが、400mg/dl以上になるとがん細胞が死ぬことが分かっています。

残念なことに400mg/dlというのがどんなに沢山ビタミンCを摂っても到達する血中濃度ではないんですよね。右側の表は、経口のビタミンCと点滴のビタミンCの血中濃度の到達濃度の比較です。サプリメントだけではこの濃度は到達できないので、がん治療にはビタミンCの点滴が使われています。

一般に使われるビタミンCの点滴は50mg以上です。ビタミン C というのは摂る量によって全然効果が違ってきます。

ちなみに高濃度ビタミンCの点滴のボトルには、一本あたり25gのビタミンCが入っていて、それはレモン1,250個分になります。

1-11. ビタミンCの最適量

  • 怪我を治りやすくする。壊血病を予防する 90mg
  • 副腎疲労には3g
  • 風邪には9g(1gを9回に分けて摂取)
  • 癌 ビタミンC点滴

1-12. ビタミンCを作れる動物、作れない動物

体内でビタミンCを作れない動物は人、モルモット、サルです。一般的なサルは作れますが、東南アジアに住んでいるサルは作れません。代わりに木から木へ飛び移って果物も1日ビタミンC7g分摂っています。人は60mg〜100mgとありますが、量的にそれで足りるかどうかというのは疑問です。イヌやネコは200mg、ブタは500mgです。ヤギは、人間の体重に換算して14gものビタミンCを毎日作っています。このためヤギはめったに風邪ひきません。

健康なヤギの産生量は14gですが、病気になると1日に100gのビタミン C を自分で作ります。このようにビタミン C を作れる動物は、ストレスや病気に応じてビタミンC産生量を調整します。だからこそビタミンCを自分で作れない動物というのは状況に応じて、摂取量を調整すべきではないかと考えられます。

ビタミンCは目的に応じて摂取回数と頻度をぜひ使い分けてください。

2  ビタミンBの選び方と使い方

2-1. 疲労回復にビタミンB群

疲労回復にはビタミンB群と言われますが、市販のサプリメントを例にあげるとビタミンB1、B6、B12 、B2が入っています。

三大栄養素をエネルギーに変える

  • ビタミンB1  糖質代謝
  • ビタミンB2  脂質・糖質代謝
  • ビタミンB6  タンパク質代謝
  • なかなか筋肉痛が治らない
  • 疲れが取れない
  • ぐっすり寝た後も疲労感が残って起きるのが辛い。

ビタミンBには、三大栄養素をエネルギーに変える働きがあります。

B1は糖質、B2は脂質と糖質、そしてB6はたんぱく質の代謝に関わっています。この三大栄養素をエネルギーに変えるのにビタミンBが関わっているため、疲れが取れるというわけですね。

こちらはクリニックで購入できるサプリメントの成分表示です。

この商品の良い点は、最適量が入ってるということです。厚生労働省のビタミンB1の必要量は1日1.1mgなので、その30倍近く入ってるということになります。

もうひとつおすすめサプリメントは、iHerbで購入できるビタミンBコンプレックスです。

ビタミンB1、B2、B3、B6など、色々な種類のビタミンBが入っていますが、日本のビタミンBとアメリカ製のビタミンBの違いは、活性型のビタミンが入っていることです。

VitaminB6(as Pyridoxal 5′-Phosphate):活性型B6

Phosphate:活性型葉酸

VitaminB12(as Methylcobalamin):

ビタミンBという物質を活性化することができない人もいるので、そういった場合特別に活性化ビタミンBを使う場合もあります。

2-2. ストレスが多い人のためのBコンプレックス

これは同じメーカーのBコンプレックスですが、ストレスが多い人向けの商品です。

副腎からのコルチゾール産生を刺激してストレスに対抗パントテン酸(ビタミンB5)が250mg入っています。右側のパントテン酸は110mgなので倍くらい入っています。

2-3. 活性型ビタミンB6(P5P)

こちらは活性型ビタミンB6、P5P(Pyridoxal 5′-Phosphate)です。

このビタミンB6を摂ったほうがいい人は、ビタミンB6を体内で活性化できない人です。GABA、ドーパミン、セロトニンの活性化にビタミンB6が必要です。そのためこれらが足りなそうな人にビタミンB6のサプリメントを摂ってもらい、そのビタミンB6のサプリメントでも足りない場合には活性化型のビタミンB6を摂ってもらいます。ただビタミンB6は摂りすぎると、精神的に不安定になる人もいるため、量の調節が必要です。まずはビタミンBコンプレックスを試して、それからさらに足す人は必要に応じて足してみてください。

2-4. ビタミンB6の様々な働き

ビタミンB6はタンパク質の代謝に関わっていますが、アミノ酸が成分であるヒスタミンや神経伝達物質のドーパミン、セロトニンの代謝に深く関わっています。その他肝臓の酵素であるGOT、GPTにもビタミンB6は必要です。ビタミンB6が不足すると、神経伝達物質もエネルギー代謝もうまくいかないので、色々なところにガタが出てきます。ビタミンB6の過不足を見ることは非常に重要です。

2-5. バイロルリアの症状

ビタミンB6と亜鉛が生まれつき足りない体質を持つ人をパイロルリアと言います。

亜鉛とビタミンB6が体から流れ出てしまう体質の人は、慢性亜鉛・B6欠乏です。亜鉛欠乏だと成長障害や思春期の遅れ、ビタミンB6欠乏だと副腎疲労と記憶障害の症状が出ます。夢を見ないという人はいますが、見た夢を全く覚えていないという場合が多いです。その他、ドーパミン、セロトニン、GABAなどが足りなくなってどんどん気分が不安定になる場合はパイロルリアを疑う検査をしています。

2-6. ナイアシン

ナイアシンとは、ビタミンB3のことです。i herbで購入できるナイアシンアミドの効用を見てみましょう。

  • アルコール代謝に重要
  • アンチエイジング(睡眠中に遺伝子を修復)
  • 統合失調症
  • 副作用が多い(ナイアシン・フラッシュ、肝障害)

お腹が腫れて皮膚が腫れるペラグラという病気があって、ナイアシンはその欠乏症をなくすための栄養素ですが、量を沢山摂ることによってアルコール依存症の治療に使うこともあります。今話題のNMMもナイアシンですが、アンチエイジングに使っています。ナイアシンには、寝ている間に遺伝子を修復してくれる働きがあります。分子栄養学では、ナイアシンを統合失調症に使います。統合失調症に使う場合は、ナイアシンを1000mg〜3000mgくらいの大量のナイアシンを使います。それによりドーパミンが多すぎる人の精神症状を抑えてくれることがあります。

ナイアシンのデメリットは副作用で、サプリメントの中で1、2を争う副作用率です。軽症は肌がピリピリして真っ赤になるナイアシンフラッシュです。これはそのうちに慣れが生じます。もう一つの問題は肝機能障害です。ナイアシンを大量に摂ることによって肝臓の数字が上昇する人もいるので、1000mg〜2000mgのナイアシンを摂る方は、きちんとモニターをしながらナイアシンを摂るようにしてください。

2-7. 葉酸

葉酸でおすすめなのはクリニックで購入できるサプリメントです。

葉酸は、人間の体内で細胞分裂やDNAの合成に使われます。厚労省は妊婦さんに葉酸サプリメントの摂取を推奨していますが、その理由は葉酸は二分脊椎を予防するためです。二分脊椎というのは脊柱が飛び出してしまう先天疾患ですが、葉酸が不足していて神経管の成長に問題が出てきているから起こります。この神経管の成長に葉酸が必須となります。

2-8. 葉酸の働きはDNA合成とメチレーション

葉酸はFolic Acidと言って体内で活性型のFolnic Acidになり、DNAの合成に関わって二分脊椎を予防できます。葉酸は活性化が二段階あり、さらに活性化されて、メチル葉酸というものになります。このメチル葉酸がビタミンB12と合わさりメチレーション回路を回します。このメチレーション回路は解毒に関わっています。

2-9. 活性型葉酸と活性型ビタミンB12

活性型からメチル葉酸への活性は、日本人の半分くらいが障害を持っています。障害を持っている人同士が結婚すると、お子さんにその遺伝傾向が強く出て自閉症のお子さんが発症しやすくなります。自閉症家系の人や高学歴の人に多い傾向があります。高学歴同士の夫婦のMTHFRという遺伝子を調べて二人とも遺伝子変異があった場合には、活性型葉酸や活性型ビタミンB12も予防として摂ることがあるということは覚えておいてください。普通の人は特別使う必要はありません。活性型のサプリメントの多くは、そのようにメチレーション回路を回すためにあります。

3 ビタミンAの選び方と使い方

3-1. ビタミンAはミセルタイプを選ぶ

ビタミンAはミセルタイプを選んでください。左は、ミセルタイプのビタミンAです。

ミセルタイプとは、水に溶けやすいということです。

ビタミンA、D、E、Kは脂溶性ビタミンなので、水溶性ビタミンのBやCとは少し違う性質を持っています。脂溶性ビタミンは、油に溶けるものなので吸収が良くありません。吸収を良くするために、肝臓から胆汁というものが出て油が水溶性になることによって初めて吸収されるため、脂溶性ビタミンのA、D、E、Kは食後に摂ることが大事です。ただ年齢を重ねて胆汁の分泌も悪くなると、それに伴って油の吸収や脂溶性ビタミンの吸収も悪くなっていきます。いつも肌が乾燥している人というのは、ビタミンAの吸収が悪くなっているということです。胆汁が分泌されて水溶性にしたものがミセル型です。ミセル型ビタミンAは水溶性で吸収が良いので、ビタミンAが足りない人にお勧めです。

右側はiHerbで買えるもので、ミセラライズドビタミンAです。どちらも一滴1,500mcRAE、5,000IUとありますが、5,000IUに0.3かけると1,500なので同じ量が入っています。

3-2. 用途は目と細胞分裂(皮膚や腸の修復)

ビタミンAのサプリメントはレチノールと言いますが、体内でレチナールに変換されます。

サプリメント

視力に関係→ドライアイ

細胞分裂が盛んな細胞 が影響を受けやすい→乾燥肌→リーキーガット対策

レチナールは視力の維持に関係していて、場合によってレチノイン酸に変わります。このレチノイン酸は細胞分裂をするための膜のようなもので、核に張り付くと細胞が分裂します。ビタミンAは細胞分裂しやすい皮膚と腸のような場所に効きやすいです。ビタミンAは乾燥肌にもいいし、そして腸に穴が空いた状態のリーキーガットの修復にも効果を発揮してくれます。

3-3. 上限に注意(1日2滴まで)

RDA推奨量(男性)

900mcgRAE

UL上限(男性)

3,000mcg

5000IC=1500mcgRAE

ビタミンAで気をつけるべきことは、最低量と上限の間がとても近いことです。これは脂溶性ビタミン全般に言えることですが、油に溶けるので吸収は悪いけれど、一旦体に入ると抜け出るまでに時間がかかるので、摂り過ぎると問題が起きます。

ビタミンAのRDA(推奨量は)900mcgRAEですが、上限は3,000mcgで、3倍くらいしか間がありません。1,500mcg=5,000IUなので、スポイト2滴で上限になってしまいます。ビタミンAの上限が厳しい理由は、ビタミンAを摂りすぎると奇形児が生まれることが動物実験で確かめられているためです。ビタミンAは妊娠にも必要なビタミンですが、妊娠されている方は上限を守って摂取してください。

4 ビタミンDの選び方と使い方

4-1. ビタミンDの効果は血中濃度で決まる

ビタミンDは脂溶性ビタミンですが、ビタミンAと違う点は血中濃度です。ビタミンAは、肝臓に蓄えられているので、肝臓が枯渇してくると血中濃度が下がってきますが、ビタミンDの血中濃度は人によって異なります。そのため血中濃度を見ることが、ビタミンDが効いているかを判定する指標になります。

この表には、ビタミンDの血中濃度によって予防できる病気が記載されています。ビタミンDは、現在は色々な効能を知られるようになりましたが、少量の摂取で骨が曲がってしまう病気であるくる病が予防できるので、以前はくる病の予防薬とされていました。ビタミンDは、日光を浴びることによって体内で作れるので、赤道付近にはくる病の人はいませんが、北欧など緯度が高いところには大勢います。

ただ、ビタミンDが最低量で予防できるのはくる病だけですが、他にも乳がん、大腸がん、ホジキン病、糖尿病もビタミンDで予防できることが分かっています。これらの疾患を予防するためには40〜60ng/mlに血中濃度を保つ必要があります。ビタミンDの血中濃度を測れる人がいたら、是非測ってみてください。ビタミンDのサプリメントを沢山摂っていても低い人もいるし、全くサプリメントを摂っていなくても高い人もいて、かなり個人差があります。

4-2. ビタミンDレベルが高いと免疫上がる

特にビタミンDの働きで最近話題なのは、免疫を上げるということです。

コロナの予防とビタミンDに関する論文が沢山出ています。血中ビタミンDレベルが高い乳がん患者さんは、生存率が高く予後が良好という論文もあります。乳がんと大腸がんに関しては、ビタミンDの効果は決定的です。心配な人は是非ビタミンDを摂ってください。ビタミンD結合タンパク(VitD BP)が変化したマクロファージ活性化因子(MAF)は、単球や好中球の走化性を亢進します。ビタミンDがビタミンD結合タンパクにくっつくと、身体中の免疫の司令塔であるマクロファージが活性化します。

4-3. ビタミンDは日光浴でも作られる

免役を上げるためにもビタミンDを十分摂ることが重要で、そのためには血中濃度が良い指標になります。ビタミンDは日光浴でも作られるため、日光浴でカバーすることもできます。ただし、5.5mcgのビタミンDを産生するために必要な日照曝露時間は、札幌の冬なら2,741分かかります。那覇に住んでる人ならともかく、北国だとビタミンDを十分に産生できるような日光浴は不可能です。

4-4. ビタミンDは容量がポイント

ビタミンDは血中濃度をある程度上げないといけないので、容量をいかに摂るかということが大切です。

左はクリニック専売のビタミンDですが、一粒あたりの容量は1,000IUです。最低1,000IU以上入っているものを選んでください。真ん中は海外製のビタミンD3で、これには1カプセルあたり2,000IU入っています。右は日本製のD3リキッド。これは一滴あたりが1,000IUなので、5滴とれば5,000IUということになります。IUとは、internationaru unitで国際単位です。

4-5. ビタミンD

  • 推奨量:400~800IU最適量:1,000~4,000IU
  • 心臓病リスク1割減少:1,000IU
  • 大腸癌の予防        :2,000IU

心臓病のリスクを1割減少するには1,000IUですが、大腸がんの予防には2,000IUなので、私の場合は2,000IU以上摂ることをおすすめしています。3,000IUでも4,000IUでも良いと思いますが、一日5,000IU以上摂る場合には血中濃度を測定してください。ビタミンDは脂溶性ビタミンなので、中毒になると高脂血症を起こして腎不全を起こすことがあります。ビタミンD中毒を起こして腎不全を起こした症例が多々あるので、注意が必要です。

5 ビタミンEの選び方と使い方

ビタミンEの用途は、抗酸化です。ビタミンCとビタミンEはよく対比されますが、ビタミンCは水溶性画分の抗酸化に、ビタミンEは油溶性画分の抗酸化に使われます。もう一つの用途は、抗炎症効果です。ビタミンEは慢性の炎症を抑えるという働きを持っていて、例えば脂肪肝の抑制にビタミンEは効果を奏します。

これは、i herbで購入できるビタミンEのサプリメントですが、トコトリエノール、トコフェロールと記載されています。

この成分表示で4つのトコトリエノールと4つのトコフェロールがあるところに注目してください。それぞれ、アルファ、ガンマ、デルタ、ベータと4つずつのトコトリエノールとトコフェノール、合わせて8つのビタミンEが入っています。ビタミンEは4つのトコトリエノールと4つのトコフェロールから成っています。

5-1. 天然はd-alpha、人工はdl-alpha

ビタミンEのサプリメントの注目点の1つ目は、d-alphaなのか、dl-alphaなのかです。天然のビタミンEはd-alpha、人工のもの、合成のものはdl-alphaです。ビタミンEに関しては、合成のものと天然のもので活性度が少し違いますので、できれば天然のものをおすすめします。

5-2. ビタミンEは4つのTocopherol,Tocotrienolの総称

左側は天然の8つのトコフェロール、トコトリエノールの合わさったものです。右側のはミックストコフェロールで、アルファ、ベータ、ガンバ、ベータの4つしか入っていません。

もともとビタミンEは不妊の治療薬として認知されました。ビタミンEを摂るとねずみが妊娠しやすくなった実験から、抗不妊効果はビタミンEのアルファトコフェロールが王様と思われてきましたが、実際に抗酸化力が強いのはトコトリエノールです。ビタミンC、E、B5もそうですが、天然物はお互いがお互いを助け合って抗酸化力を発揮するので、できれば8つ揃っているものがお勧めです。

5-3. 他の抗酸化サプリメントと組み合わせて摂る

ビタミンEは抗酸化力が重視されるので、ビタミンCのような他の抗酸化サプリメントと組み合わせるのが良いです。抗酸化力が強いということはそれ自身も酸化されやすいということで、酸化されたものはビタミンCが還元します。ビタミンCが酸化されたら、グルタチオンが還元してくれます。

これらの抗酸化物質は、お互いがお互いを修復してくれるように働く抗酸化ネットワークを持っているので、上記のサプリメントのようにまとめて摂れるものが効果が高いです。

6 亜鉛サプリメントの選び方と使い方

6-1. 亜鉛の用途

亜鉛のサプリメントを摂る理由は、亜鉛不足を補うか銅を排出するかの2つです。亜鉛不足を補う場合は少量でも良いですが、銅を排出するためには多めの栄養が必要です。

亜鉛不足の症状は、味覚異常です。舌の味蕾という味を知覚する場所は、細胞分裂が盛んなため、亜鉛が足りていると細胞分裂が正常に促進します。亜鉛とビタミンAはセットで働きますが、皮膚と腸にとって必要な栄養素です。

目的      亜鉛不足を補う          銅を排出する
対象      味覚異常の改善          ウィルソン病
        細胞分裂の促進          銅過剰タイプのうつ病
        (皮膚、腸、精巣、酵素)
容量      少なめ 〜30mg 多め 50mg〜
亜鉛の推奨量10mg, 上限45mg(男性)

他に細胞分裂が激しいところは、精巣や膵臓などです。膵臓はタンパク分解酵素を作っているので、亜鉛不足が起こると様々な問題が起きます。亜鉛の推奨量は10mgで、日本だと上限が男性の場合45mgとありますが、特別に銅を排出する場合は亜鉛を多く使います。

6-2. グルコン酸亜鉛

これはグルコン酸亜鉛です。

 

成分名      配合量
亜鉛        10mg
銅         0.33mg

亜鉛不足を補うのに最適
銅が欠乏しないように考慮されている

亜鉛10mgに対して銅が少しだけ入っているこのようなサプリメントは、銅が結合しないように考慮されているため、亜鉛不足を補うのに最適です。亜鉛は少量でも銅を排出する効果があり、銅の過剰摂取は問題になりますが、子供の成長や血管を作るのに銅は必要です。そのため亜鉛不足を補うときは、このような銅が少しだけ入ったサプリメントを使うのが良いでしょう。

こちらの商品は30mgの亜鉛が入っています。

亜鉛不足の解消にも使えますが、銅過剰の抑制にも最適です。ただし、銅の欠乏には注意が必要で、不足すると白髪になるといわれています。

体内で亜鉛になって効果を発揮する日本の製薬メーカーの新しい薬剤もあります。摂取した亜鉛が、腸管粘膜上皮細胞でメタロチオネインの生成を誘導し、その増加したメタロチオネインが食事中の銅と結合します。

この薬は、ウィルソン病という銅が体に溜まる病気の治療薬として、副作用が少ない薬として最近発売になったものです。

以前は銅を排出する薬が第一選択でしたが、この亜鉛は副作用が少なく自然に銅を排出してくれます。50mgを1日3回の合計150mg、最大投与量は250mg摂取します。このように大量の亜鉛を入れると、メタロチオネインというタンパク質を作って銅が体から排出されていきます。亜鉛には銅のデトックス効果もあり、過剰な銅を排出する治療には亜鉛が有効です。これもドーズ・レスポンスの一種で、目的によって量を変えます。亜鉛不足を解消したいのなら10mg〜30mg、銅の過剰摂取を治したい場合は100mg〜150mgの亜鉛を使ってください。

6-3. ドーパミンの代謝

同じことが、銅過剰型のうつ病にも当てはまります。ドーパミンは脳の中で考える力を高める、意欲を高めるという神経伝達物質でLドーパから作られます。

ドーパミンが体の中で代謝されて、ノルアドレナリンという集中力を高める神経伝達物質になります。その変換を補うのが、ドーパミンβヒドロキシラーゼ(DβH)という酵素です。この酵素には銅とビタミンCが必要ですが、適切な量の銅がないと変換がうまくいきません。反対に銅が有り余っていると、ドーパミンからノルアドレナリンへの過剰な変換が起きます。その結果、ドーパミンが下がってノルアドレナリンが大量にあふれます。ノルアドレナリンは神経の集中にとても重要ですが、多すぎるとイライラします。そういうタイプのうつ病の人の治療方法は、過剰な銅を亜鉛で排出することです。

7 カルシウム、マグネシウムの選び方と使い方

7-1. CaとMgの摂取量は互いの吸収に影響する

カルシウムとマグネシウムもブラザーイオンで、体内でお互いに助け合っています。こちらの論文は、カルシウムとマグネシウムの摂取量はお互いの吸収に影響するということについて書かれています。

マグネシウムとカルシウムを一緒に摂ると、マグネシウムの吸収があまり良くありません。マグネシウムを摂ろうと思ったらマグネシウムのみで摂ったほうがいいですが、カルシウムを摂ろうと思ったらカルシウムだけで摂ったほうがいいのかというと、そうとも言えないところが少し複雑です。

7-2. カルシウムサプリメントで心臓発作のリスクが増大

カルシウムは体の中で様々な神経伝達やホルモンの分泌、心臓を動かしたりするスイッチとして体の中で使われているため、カルシウムだけを大量に摂ると体の中で誤動作を起こします。カルシウム単独のサプリメントを摂ると心臓発作のリスクが上がったという報告もあります。

このようにカルシウムだけを単独で摂るのは危険なので、カルシウムを摂るときはカルシウムの抑え役のマグネシウムを一緒に摂ることがお勧めです。マグネシウムはカルシウムの吸収も助けてくれます。また、ビタミンDを摂ると、カルシウムを体の中に引っ張り込む作用のあるカルシウムの輸送タンパクを沢山作ってくれます。その結果、ビタミンDを摂ることで、カルシウムが体内に自然に引き込まれていきます。

乳製品にも気をつけてください。牛乳は、カルシウムとマグネシウムの比率が10:1なので、カルシウムが少し多すぎるからです。理想の比率は、カルシウムとマグネシウムを1:1で摂る、これが理想だと思ってください。

7-3. イオン化しているマグネシウムを摂る

マグネシウムは水に溶けるとイオン化する
 (イオンとは、水に溶けると電気を通す物質のこと)
ミネラルは腸の上皮細胞のイオンチャンネルを通って吸収される

ビタミンには水溶性ビタミンのビタミンBとC、そして脂溶性ビタミンのビタミンA、D、E、Kと2種類あります。水溶性ビタミンのビタミンBとCは吸収にほとんど問題がなく、ある程度以上摂ったら下痢になることもありますが、飲めば飲むだけ吸収されます。脂溶性ビタミンのA、D、Eは胆汁がないと吸収できないため食後に摂ります。それに比べてミネラルが体の中に入るためには腸の細胞にあるイオンチャネルというイオンの穴を通って粘膜上皮細胞に一旦入りますが、そのためにイオン化する必要があります。

イオンとは水に溶けると電気を通す物質のことですが、マグネシウムは水溶性の液体タイプのものがイオン化していて吸収が良いです。そうでないものはイオン化するのに胃腸が強くないと吸収が上手くいかないことがあります。

7-4. 塩化Mgはグレートソルトレークから

こちらはi herbで購入できるサプリメントで、マグネシウムが沢山入っています。

アメリカにグレートソルトレイクという大きな湖があって、ここの湖の水を濾過して使っていますが、このままだと塩分が多すぎるので、塩分だけを除去して、他のミネラルを活かす製法です。海水は最近水銀汚染が激しいですが、湖は水銀の影響を受けにくいため重金属が少ない良いミネラルだと言われています。

7-5. キレートしたマグネシウムサプリメントを使おう

もう一つミネラルを吸収させる良い方法は、アミノ酸と結合させることです。アミノ酸と結合させることをキレートと言って、アミノ酸の別の入口から入れることができます。

例えば、これはマグネシウムシトレート、クエン酸とマグネシウムをくっつけたものです。クエン酸マグネシウムは、他のマグネシウム製剤よりも生物学的利用能が高く吸収が良いので使いやすいです。

クエン酸Mgは、他のMg製剤よりも生物学的利用能が高い

7-6. お勧めMgはイオン化かキレート化

ミネラルのサプリメントを選ぶ基準は、生体利用性が高く吸収が良いイオン化してあるものかキレート化してあるものを推奨します。

左側はイオン化されているもので、右側はキレート化されているミネラルです。

ここで注意が必要なのは、キレート加工は日本では認められていない製法なので、キレート化したミネラルが必要なら外国産のものを買う必要があります。

これはクエン酸マグネシウムで、こちらもキレート化したミネラルになります。

8 鉄サプリメントの選び方と使い方

こちらはグリシン酸の鉄です。

タンパク質が小腸から吸収されやすいことを利用して、
無機鉄とアミノ酸を組み合わせて腸から吸収効率を高めたもの(キレート化)。
イオン的に中性で、他のミネラルと反応しない。
他のミネラルの吸収を妨げにくい。
便秘や吐き気などの胃の副作用も少ない。

鉄もマグネシウムも亜鉛もミネラルなので、キレート化されものが吸収されやすいです。タンパク質が小腸から吸収されやすいことを利用して、無機鉄とアミノ酸を組み合わせて吸収率を高めています。鉄は基本的に他のミネラルと拮抗しますが、このサプリメントはイオン的に中性なので、他のミネラルと反応しません。拮抗とはお互いにぶつかり合うことですが、ミネラルは全てそのような働きを持っています。例えば亜鉛と鉄のサプリメントは、どちらの吸収もお互いに妨げるので一緒に摂らないようにしてください。もし両方摂るなら朝に鉄を飲んで、夜に亜鉛を摂るというのが望ましいと思います。亜鉛のサプリメントは、朝一に飲むと気持ち悪くなる人もいるので夕方に飲むのが良いです。このグリシン酸鉄は、他のミネラルの吸収率を妨げにくくなっている上、便秘や吐き気など胃の副作用も少ないです。

8-1. ヘム鉄について

こちらは、ヘム鉄のサプリメントです。

非ヘム鉄と比べて、
吸収がよくむかつきも少ない

基本的に日本ではミネラルのキレート加工は禁止なので合成してキレートのミネラルを作ることはできませんが、元々存在している天然のミネラルを使うことはできます。ヘム鉄は自然界にもともと存在している豚の赤血球から作っています。ヘムは赤血球の中に入っているもので、それを取り出してサプリメントにしたのがヘム鉄です。ヘム鉄というのは特殊な天然のキレート鉄で、ヘムにはヘムの特別の入り口があるので、キレート鉄で鉄がうまく吸収できない人はヘム鉄を摂ってみてください。ヘム鉄でなかなかフェリチン値が上がらない人はキレート鉄を試してみるのがいいと思います。

ただし鉄は諸刃の剣で、摂り過ぎると炎症のもとになるため必ずモニターをしながら鉄は摂ってください。キレート鉄で鉄が上がりすぎてしまう人も中にはいるので、鉄は貧血を確認してから摂ってください。

8-2. 貧血(フェリチン不足)を確認してから摂る

ヘム鉄の摂取量が多いほど
癌のリスクと正の相関がある

これは2014年の論文ですが、要はヘム鉄の摂取が多いほど癌を起こすので、気をつけてください。

9 アミノ酸の選び方と使い方

9-1. グルタミン

アミノ酸は種類が沢山ありますが、ここではグルタミンを取り上げます。体に一番多く存在するアミノ酸がグルタミンで、体の修復に一番使います。体内の全遊離アミノ酸の6割なんですね。アミノ酸には必須アミノ酸と非必須アミノ酸がありますけれども、グルタミンはどちらかと言うと非必須です。ただしストレス時や侵襲時に大量に消費されて不足する条件付き必須アミノ酸なので、サプリメントで補充することが有効になります。

用途

  • ストレス時の補給
  • 低血糖防止
  • 腸管粘膜の修復(小腸のエネルギー源)
  • 筋トレ時の補給(筋肉のグルタミンが分解)

禁忌

  • 強い便秘
  • がん
  • 肝不全、腎不全
  • グルタミンで精神的に不安になる人(特に小児)

グルタミンは、ストレスで消費されるのでストレス時に補給をすることと、低血糖も防止してくれます。そしてなんといっても小腸の一番のエネルギー源ですから、腸管粘膜の修復に、リーキーガットには欠かせない栄養素になります。筋トレの際に補給しても良いでしょう。

そんな便利なグルタミンにも欠点がいくつかあり、腸の中の水分を全部奪ってしまうため、便秘気味の人が摂ると便がさらに固くなってしまうことがあります。それと、癌患者にグルタミンを補給すると、がんの成長が速くなることが一部報告されていますので気をつけてください。構造上窒素を多く含んでいるので、肝不全とか腎不全といった窒素負担が問題になる患者にはグルタミンは禁忌になります。

普段使っていて一番問題になるのは、便秘と、精神的に不安定になるお子さんです。グルタミンが体内でグルタミン酸に変わって最終的にGABAに変換しますが、その変換がうまくいかないお子さんは、グルタミンを摂ったらイライラが高まるケースもあります。そういった場合、摂るのは辞めた方がいいです。

9-2. Lグルタミン

これはクリニックで購入できるLグルタミンです。

1パックにグルタミンが3,500mg、その他カンゾウとかアロエなどが入っています。こうやってグルタミンは1日3gくらいから、多ければ15g〜30g摂ってもいいと思います。腸の修復に欠かせません。

こちらは、i herbで購入できるLグルタミンパウダーで、腸の修復に使えます。

付属の小さいスプーンで一杯が5gになっています。1日3回摂ったら15g摂れます。

10 フィッシュオイルの選び方と使い方

フィッシュオイルとは魚の油のことです。肉の油と比べて魚の油というのは、抗炎症効果と抗血栓効果に優れているため、炎症を抑えて血液をサラサラにしてくれます。

成分名        配合量

EPA        175mg
DHA        74mg
α-リノレン酸    43mg
γ-リノレン酸    54mg

オメガ3の大きな成分として、EPAとDHAというのがあります。EPAは炎症を抑えるのが得意で、DHAは脳に働いて認知症などを予防するのが得意です。神経細胞の樹状突起の形態の維持に役に立っています。この辺は、αリノレン酸とγリノレン酸です。αリノレン酸はフィッシュオイルのもとになるものです。

これはタラ肝油をそのまま加工したオイルで、EPAとDHAがそれなりの量入っています。EPAとDHAはどれくらい摂ったらいいかのおすすめは、炎症を抑える目的なら1日1,500mg以上をおすすめしています。

亜麻仁油を併用する

EPAやDHAは体内では作れませんが、必須脂肪酸のαリノレン酸を摂ると体内で合成される人もいます。そこでお勧めなのが亜麻仁油です。亜麻仁油は不飽和脂肪酸といって非常に酸化されやすい油なので、料理には使わず生のままサラダにかける、もしくは直接スプーンで飲むなどの摂り方をお勧めします。

11 プロバイオティクスの選び方と使い方

乳酸菌は沢山種類があるので何を飲めば良いのか迷いますが、最終的には相性で決めてください。こちらはコンプリート・バイオティックです。

このコンプリート・バイオティックは、色々な種類の乳酸菌が入っています。

主要成分(1カプセルあたり)

  • L. rhamnosus      60億個以上
  • B. Bifidum           50億個以上 
  • L. Acidophilus     30億個以上
  • L. Casei               25億個以上 
  • L. Plantarum        20 億個以上 
  • L. Salivarius         20 億個以上
  • S. Thermophilus  10 億個以上
  • B. Longum          10 億個以上
  • L. Blugaricus       10 億個以上
  • L. Paracasei          5 億個以上 
  • B. Lactis               5 億個以上     
  • B. Breve               5 億個以上

腸内環境を整えるには、コンプリート・バイオティックが良いです。1種類の乳酸菌だけだと腸内細菌が偏ってきます。大事なのは腸内細菌の多様性なので、色々な種類があるものがお勧めです。ウルトラフローラは少ないですが、ビフィズス菌と乳酸菌が腸の炎症を特に抑える働きを持っているので、私の場合は、最初腸の炎症が強い場合はウルトラフローラを使って、腸が落ち着いてきたらコンプリート・バイオテックに移しています。

11-1. 冷蔵便で届くのはこの2つだけ

乳酸菌には生菌と死菌がありますが、生菌は生鮮食品と同じ扱いで海外では冷蔵庫で保管して売っていて、冷蔵便で乳酸菌が届くのはこの2つだけです。冷蔵便で届くだけあって、効果が高いと思います。

11-2. プロバイオティック3

こちらはiHerbで買えるサプリメントで、プロバイオティック3は日本で言うところのビオ3です。

乳酸菌が3種類入っていて、それぞれが補完するように働きます。

11-3.プロバイオは相性がある

最終的にはプロバイオティクスは相性です。

選ぶポイント

  • 自分に合うものを選ぶ
  • わからない場合は、お腹が張らないもの、良い便が出るもの
  • 良い便とは、無臭、黄褐色、バナナ状便が最低1日1回出ること

腸内細菌は人によって異なるので、いくつか試して自分に合うものを見つけてください。自分に合うものとは、お腹が張らないものと良い便が出ることです。乳酸菌を摂ってお腹が張りすぎる人は、SIBOなどの病気の可能性があります、良い便というのは無臭、黄褐色、バナナ状の便が最低一日一回出ることです。形、回数、色、臭い、この4つをチェックしてください。良い便が毎日出るようになったら、体に合っているサプリメントということだとと思います。

11-4. まとめ

今回はモジュール1でも紹介した必須栄養素がやっぱり足りないので、その必須栄養素の中でどういうものも摂るべきか、それぞれのサプリメントについて紹介しました。

  • まずは必須栄養素から摂りましょう。
  • 必要最低量でなく最適量が入っている。
  • 原材料に余計なものが入っていない。
  • 信頼できるメーカーの製品が安心です。
  • 日米間のサプリメントの考え方の違いを理解する。

第1に必須栄養素、第2に最低量でなく最適量が入っているものを、3番目に原材料に余計なものが入っていない、そして信頼できるメーカーの製品が安心だと思います。素人ではサプリメントの良し悪しは根源的なところまでは分からないので、情報を公開するメーカーが安心だと思います。そして5番目に、日米間のサプリメントの考え方の違いを理解してください。日本ではサプリメントは食品、アメリカでは半分治療の道具として使われているので、薬よりの機能を持ったものもあります。活性化ビタミンやキレート化ミネラル、吸収に工夫したものもあります。その場に応じて必要なものを使い分けたら良いでしょう。

11-5. 課題

  • 必須栄養素のサプリメントを一通り購入して試してみましょう。
  • サプリメントはあくまでも一例であり、必ずしもこの通りに購入する必要はありません。
  • サプリメント選びの原則を元に、自分の信頼できるメーカーを見つけてください。
  • 自分に合った個別化サプリメントの方法はモジュール5でお話しします。

必須栄養素のサプリメントを一通り購入して経験してみて、他にどんなものがあるか、ご自分の判断で色々と購入してみるのも楽しいと思います。ここでご紹介したものは、あくまでも一例で必ずしもこの通りに購入しなければいけないわけではありません。大事なのはサプリメントレベルの原則をきちんと知っておくことです。それを元に信頼できるメーカーを見つけてください。色々買ってみたらメーカーに問い合わせしてみるのも良いと思います。

生活習慣と睡眠

宮澤賢史 · 2023年4月23日 ·

「精神」、「感情」、「肉体」のどの動き一つとっても、睡眠の質に影響されないものはありません。

しかし、めまぐるしいスピードで動く世の中となったいま、慢性的な睡眠不足に陥って睡眠の質が低下するという悪影響に苛まれている人が多くいます。睡眠不足は先進国に共通する問題となっています。

十分な睡眠を取らずにいると、何をするのも遅くなり、想像力は衰えストレス増大し、仕事のパフォーマンスが下がります。要するに自分の能力のごく一部しか使えなくなります。

また、睡眠不足は、知らないうちに脳と体へのダメージを与える危険因子を蓄積させ、その先には免疫の衰えや糖尿病、がん、肥満、うつ、物忘れの増加など様々な不利益をもたらします。

それゆえに、身体が必要とする睡眠がとれない元凶に目を向けることが必要となります。睡眠の質を上げるために今夜から何ができて慢性的な睡眠不足に陥らないようにするために何ができるかをご紹介していきます。

睡眠は人生のすべてを左右する

睡眠が脳と体を作り変える

私たちの体内では、目覚めているときに異化作用(外から摂取した物体を体内で分解する過程)が起こり、眠っているときに同化作用(外から摂取した物質を合成する過程)が起こります。

睡眠時は同化作用が活発になるといわれ、免疫力、骨、筋肉の成長や再生が促進されます。つまり、眠ることで身体が再生され、若さが保てるということです。

良質な睡眠を取ると、免疫系が強化され、ホルモンバランスが安定し、新陳代謝が促進されます。体のエネルギーが増加し、脳の働きも改善されます。 

運動の効果を引き出すには睡眠が必要

運動には驚くべき力があり、一番健康な状態でいたいなら、運動は必要不可欠です。

ただ、運動による様々なメリットがもたらされるのは、それを受け入れる準備が整っている(必要な睡眠を取っている)身体だけです。

運動後、眠っている間に体のためになるホルモンが大量に分泌され、以前よりも強い体にするための修復プログラムが発動し、身体を回復させることでトレーニングの効果を身体に吸収させることができます。

睡眠不足がミスを生む科学的な理由

睡眠不足になると、脳に送られるグルコースの量が低下してしまいます。

脳内でのグルコース減少量は均等ではなく、減少量が大きい部位が前頭前皮質と頭頂葉で実質12~14%失われてしまいます。それらの部位は衝動を抑制したり、複数の考えを区別したりするときに必要となる領域です。

 睡眠不足で脳がエネルギー不足になり、脳機能低下し、ちゃんと頭が働いていれば絶対しなかったようなまずい判断をしてしまったり、理性と欲望のせめぎ合いで欲望に負けてしまったりもします。

睡眠は学習の質に影響を与える

睡眠を取ると脳がリフレッシュされ、新しいことを学習する準備ができます。

また、学習してから眠ることで新しい記憶が脳に定着します。

必要な情報を保管するだけでなく、いらない情報を捨てる役割もあります。それにより、脳が必要な情報を探すときに余分なエネルギーを使わずに済みます。

睡眠を削れば作業する時間は増えますが、作業の質や効率性は損なわれてしまいます。

睡眠は脳をきれいにする

脳は多くの働きをする結果、大量の老廃物を産生します。老廃物を除去することで新たな成長や発達の余地が生まれるため、脳が機能するうえで老廃物除去は欠かせません。

脳の老廃物除去システムは、昼もそれなりに働いていますが、活性の本番は睡眠中です。眠っている間、そのシステムは目覚めているときの10倍以上も活発になります。しかも、眠っている間は脳細胞が約60%まで縮小しニューロンの間の隙間が広がり老廃物を流す脳脊髄液が流れやすくなり、老廃物除去率は更に高まります。

睡眠不足になると瞬く間にアミロイドβや他のアルツハイマーに関係する毒素が蓄積します。寝ないことは、軽度の脳の損傷になり、睡眠は脳の掃除になるということです。

若い頃から慢性的に睡眠不足の人はアルツハイマー病リスクが高くなります。

脳細胞から老廃物が排泄される過程が私たちの良質な睡眠がかかせないことと深くかかわっています。

睡眠不足と感情コントロール

怒りや不安などの感性を生む扁桃体の反応が睡眠不足によって増幅し感情が暴走しやすくなります。

また、睡眠不足の人が報酬への期待や快楽を経験すると、ドーパミン分泌に関与する線条体が過活動になります。

睡眠を十分にとった人は、感情のアクセル作用のある扁桃体と、ブレーキ作用のある前頭前皮質の連携のバランスがよく、感情をコントロールしています。

一晩ぐっすり眠ると感情のブレーキを司る前頭前皮質と扁桃体のつながりが強化されて感情コントロールしやすくなります。

一晩起きているタイプの睡眠不足でも短い時間が何日か続くタイプの睡眠不足でも、脳の感情抑制機能は同じように影響受けます。

十分寝ることで理性を確保しないと、感情が暴走してしまいます。

睡眠不足と依存症

睡眠不足は各種の依存治療で失敗の原因ともなります。

アルコールやドラッグを求める気持ちを抑えられず、理性を司る前頭前皮質のコントロールが効かないからです。

睡眠不足と心血管疾患

睡眠不足によって血圧が上がると、血管そのものもダメージを受けます。特に大きく損傷するのが心臓に血液を送り込む冠状動脈です。睡眠不足によって冠状動脈が詰まると、心臓に十分な血液がいきわたらなくなり、冠状動脈性心臓発作のリスクが飛躍的に高まります。

睡眠不足が交感神経を過活動にさせます。身体は「戦うか逃げるか」モードに入りっぱなしになります。

それにより、まず心拍数の加速ブレーキ機能が低下します。また、慢性的にコルチゾール分泌過多になります。

すると、血管に送り出される血液量増加し、血管収縮し、成長ホルモンの分泌が低下して傷ついた血管内壁補修できず内壁がだんだん剥がれていき、血管そのものが弱くなってしまいます。そこに睡眠不足による高血圧が血管を攻撃します。

睡眠不足と生殖機能

睡眠時間が少なかったり睡眠の質が悪すぎる男性は、十分な睡眠を取っている男性と比べると、精子の量が少ない上精子自体の質も悪くなっています。またテストステロンの量も減少しています。テストステロンの少ない男性は一日を通して倦怠感が抜けません。また、テストステロンと脳の集中力の間には大きな関係があるので、仕事中も目の前の作業に集中することができません。また、テストステロンには骨密度を保ち、筋肉の量も増やす働きがあるので、すべての年代の男性にとって睡眠がいかに大切かよくわかります。

睡眠不足で生殖機能が脅かされるのは男性だけでなく女性も同じです。

日常的に睡眠時間が6時間以下の人は、卵胞刺激ホルモンの量が20%減少してしまい受精にも影響を与えます。

睡眠は男女の生殖機能にとって欠かせません。生殖に必要なホルモン、臓器、それに外見的な魅力までも睡眠に大きな影響をうけます。

睡眠不足が食欲を増し、代謝低下させる

睡眠不足でインスリン抵抗性が増加してしまいます。

そして食欲に関与するホルモンのレプチン(食欲抑制作用)が低下し、グレリン(食欲亢進)が増加、神経伝達物質のエンドカンナビノイド(食欲亢進で間食渇望)が増加して、空腹感がコントロールできなくなってしまいます。

さらに睡眠不足のため活力がなくなり、活動量低下して肥満につながってしまいます。

睡眠はダイエットの強い味方

十分な睡眠は脳内の衝動コントロール(衝動を司る扁桃体と理性を司る前頭前皮質の連携バランス)を回復させ、更に食欲に影響するホルモンや、神経伝達物質バランス整い、異常な食欲にブレーキを掛けやすくなります。

眠りとは何か

人は眠りに落ちてから目覚めるまで、ずっと同じように眠っているわけではありません。

眠りにはレム睡眠(脳は起きているが、身体は眠っている)とノンレム睡眠(脳も体も眠っている)の2種類があり、それを繰り返しながら眠っています。

寝付いたあと、すぐに訪れるのはノンレム睡眠です。

とりわけ最初の90分間のノンレム睡眠は睡眠全体の中で最も深い眠りです。

レム睡眠は入眠後およそ90分後に訪れるのがレム睡眠です。ノンレム睡眠とレム睡眠を明け方くらいまでに4、5回繰り返し現れ、明け方になるとレム睡眠の出現時間が長くなります。

睡眠メンテナンスで意識したいのが、最初のノンレム睡眠をいかに深くするかということです。ここで深く眠れれば、その後の睡眠リズムも整い、自律神経やホルモンの働きも良くなり、翌日のパフォーマンスも上がります。

睡眠ホルモンを自ら作り出す

太陽光が睡眠の質を決める

夜ぐっすり眠るための行動は、朝目覚めた瞬間に始まります。

私たちの体には24時間周期の体内時計があります。24時間周期で訪れる睡眠サイクルは日中に浴びる太陽光の量に左右されます。

24時間体内時計の管理は視床下部にある視交叉上核でされています。この時計が概日リズムとコミュニケーションを取りながら、脳のすべての部位と、体内のすべての臓器に信号を出して、決まった時間に決まったホルモンが分泌されるようになっています。このリズムによって、目を覚ましている時間と眠る時間が決まっています。

この体内時計に大きく影響するのが太陽光です。

朝の光は、視床下部や光に反応する臓器や腺に「起きなさい」という警告を送る役割を果たします。

太陽光には、日中に分泌されるべきホルモンや、体内時計を調節する神経伝達物質の生成を促す力があります。太陽光が引き金となって、身体にとって最適な量の生成が始まります。

体内時計の調節にセロトニンは欠かせません。

セロトニンの生成が夜に熟睡する準備を整えることになるためです。

セロトニン生成は何を食べ、どの程度身体を動かし、自然光をどのくらい浴びるかでその生産量が変わってきます。

私たちの目には脳の中心に情報を送る特別な光受容体があり、その働きが引き金となってセロトニンが生成されます。

人間の皮膚にはセロトニンを生成し、それをメラトニンに変える力があります。

これも太陽光の影響を強く受けます。

熟睡に不可欠なメラトニン

熟睡の一番の立役者はメラトニンです。

視交叉上核は「メラトニン」を使って夜と昼の情報を脳と身体に送り続けています。

メラトニンの生成と分泌は光を浴びた量に大きく左右されます。適切な時間に適切な光を浴びなかったら、そのメカニズムは台無しになりかねません。

太陽が発する光のスペクトルは、メラトニンを生成するサイクル調節に役立ちます。

つまり、日中に太陽光を浴びる量を増やし、夜に浴びる光を減らせば熟睡に役立つということです。

日が沈んであたりが暗くなると、視交叉上核は「メラトニンを分泌せよ」という指令を出します。

すると、脳の奥深くにある松果体という部位から血中にメラトニンが分泌されます。

メラトニンは、脳と身体に向かって「暗くなった」という情報を送ることにより、眠りにつく「タイミング」をコントロールしています。ただし、メラトニンは眠りそのものを生み出しているわけではありません。実際に睡眠を発生させる脳の部位をスタートラインに誘導することです。

睡眠が始まると体内のメラトニンは、夜から朝にかけてゆっくり減っていきます。太陽の光が目を通して脳に入ってくると(瞼を閉じていても光を感知できる)松果体にブレーキが掛けられてメラトニン分泌が止まります。血中にメラトニンがなくなると、脳と身体は「睡眠時間終了」というメッセージを受け取ります。

この体内時計と化学物質のバランスによって日中は覚醒し、夜になると眠くなるというリズムが出来上がっています。そして睡眠の質も一部はこのバランスによって決まっています。

睡眠と覚醒

眠りをコントロールする要素は大きく分けて2つあります。

一つは視交叉上核が司る24時間単位の概日リズムで、二つ目はアデノシンから送られる睡眠圧です。

目覚めているあいだ中、脳細胞は活発に動いています。その結果「アデノシン(抑制の働きを持つ)」という副産物が生まれます。脳内にアデノシンが増えると眠りたいという欲求が高まります。この現象が「睡眠圧」です。アデノシンの量がピークに達すると、眠くて眠くてたまらないという状態になります。たいていの人は12~16時間起きているとこの状態になります。

概日リズムの覚醒力活動の低下と大量のアデノシンの組み合わせにより、強い眠気が引き起こされます。睡眠中の脳内では、その日に蓄積されたアデノシンを取り除く作業が行われています。大人の場合、8時間ほどぐっすり眠れば、脳内のアデノシンは一掃されます。

概日リズムは目が覚める数時間前から概日リズムの活動が上昇し、活動が上昇すると脳と身体に目覚めを促す信号が送られます。そして健康な大人の場合、ほとんどの人が午後の早い時間に概日リズムのピークを迎えます。

朝になり、アデノシンがなくなって、代わりに概日リズムの覚醒力が増してくると、自然と目が覚めるようになっています。

概日リズムは実際に眠っているか起きているかに関係なく、独自の24時間リズムで動いています。脳内のアデノシンがどんな状態になっていようとも、決まった時間に睡眠を促し、決まった時間に覚醒を促します。

眠りを妨げるもの

何が睡眠パターンや熟睡する能力を私たちから奪っているのでしょうか。

夜は明るい人工光に晒され、朝は早くから仕事や学校に行かなければならない、自然の温度変化も感じられない環境で暮らしカフェインやアルコールの攻撃も受けています。自然な眠りとは相容れない環境でぐっすり眠れないのも当たり前です。

通勤・通勤時間が長いこと、そしてテレビやインターネットのせいで就寝が先延ばしされていること。まずこの2つのせいで睡眠時間は朝と夜の両方が削られます。それは大人も子どもも同じです。

現代の明かりの深い闇

夜の人工光はたとえ弱い光であっても視交叉上核に「今は昼だ」と信じ込ませることができます。メラトニン分泌は日の入りとともに増加してくるはずですが、人工光が存在する限り、その分泌が抑制され遅れてしまいます。人工光に脳がだまされ、就寝時間となってもまだ昼だと思い込んでいます。

目の中にあって光を感知し、視交叉上核に「今は昼だ」と伝える光受容器は、青い光の中にある短い波長をもっとも敏感に感じ取ります。

この光を強く発するものは、多くの人が何時間も見つめているパソコン、スマートフォン、タブレットなどです。

これらを寝る前に2時間使うと、メラトニン分泌が20%以上抑えられ、分泌の時間も遅くなるといわれます。

アルコール

アルコールは睡眠を断片的にしまい、夜中に何度も目が覚め、寝ても疲れがとれません。

そして、もっとも強力なレム睡眠抑制因子の一つとなります。

カフェイン

カフェインは神経に強い影響を与える刺激物です。

カフェインにより神経が刺激されれば、上質な睡眠はとても得られません。

とはいえ、コーヒーや紅茶、チョコレートなどカフェインが含まれているものは全般的においしい上、人体と親和性が高く身も心も状況が上向きになるため日常的に摂取されています。

カフェインとアデノシンは構造が類似しているため、カフェインがあると、アデノシンの受容体と結合してしまいます。

すると、アデノシンから出る睡眠信号を遮断し、眠気を覚ますことができます。

カフェインの影響は神経系だけでなく、内分泌系にも及びます。副腎に刺激を与え、睡眠を阻害するアドレナリンやコルチゾール分泌促進してしまいます。

体内のカフェインは飲んでからおよそ30分後にピークを迎えます。しかし、カフェインの半減期は平均して5~7時間になります。たった半分体にカフェインが残っている状態とはいえ、カフェインはかなり強力であり、もう半分を分解するという大変な作業もまだ残っています。脳は夜通しカフェインの影響と闘うことになるので、その状態で熟睡はできません。

カフェインの刺激は時間の経過とともに消えていきます。カフェインの分解は、肝臓から分泌される酵素によって行われます。この酵素による分解速度は、人によって異なり、大部分は遺伝で決まっています。特に分解の早い人は、夕食時にエスプレッソを飲んでも午前0時ごろにぐっすり眠ることができます。しかし多くの人はそんなことはできません。体内から完全にカフェインが消えるまでかなり時間がかかるためカフェインの覚醒の影響を受けやすくなります。

カフェインはその効果が切れたことでエネルギーレベルがガクッと低下し、集中力が切れ、頭がうまく働かなくなり、強烈な眠気が襲ってきます。

カフェインが体内にある間は、眠気を誘うアデノシンはカフェインによってブロックされていますが、それでも量は増え続けています。

しかし、カフェインの分解が終わり、受容体のブロックが解除されると、アデノシンの影響が一気に襲ってきます。コーヒーを飲む2~3時間前に感じていた眠気に加え、その間に増えたアデノシンによる眠気も感じることになります。これをカフェインクラッシュといいます。このアデノシンの猛攻に対抗するために、さらにカフェインを摂取するようになり、カフェイン依存を招いてしまいます。

深部体温の低下を阻害する環境

身の回りの温度は寝つきの良さにも、眠りの質にも影響を与えます。部屋の室温、寝るときに着ているもの、布団が温度を決めています。

深部体温の低下が睡眠には欠かせません。入眠前に皮膚温度(手足)が上がって、熱放散し、深部体温が下がるとすると視交叉上核はメラトニン分泌を始めます。

夜に体温が通常より高くなると、強い覚醒状態となり、身体が体内の温度調節器をリセットしようとしてなかなか寝付けません。

メラトニン分泌を促す情報は日が暮れて暗くなることだけでなく、深部体温が下がることも必要です。

工業化された社会に暮らす私たちは自然の気温の変化とは切り離された生活を送っています。夜になっても室温が下がらないので視床下部はメラトニンを放出するタイミングを掴めません。それに体も衣類や室温で常に暖かい状態に保たれているので放熱がうまくいかず、深部体温が下がりにくくなっています。

★夜遅い運動は睡眠のためにはならない

夜遅くに運動すると、深部体温が大幅に上昇するという問題があります。しかも運動によって代謝が上がっているのでますます体温は下がりにくくなります。寝る間際に運動して深部体温をあげてしまうと最高の睡眠を得ることはできません。

寝室の電気を消す2~3時間前には運動を終わらせるようにしましょう。

そのころには運動によって分泌されているコルチゾールは下がり、副交感神経が体内の舵を握っているので、深部体温は眠いと感じるぐらいまで下がっています。

また、負荷がかかりすぎる運動はコルチゾールがなかなか下がらず、交感神経の興奮も収まらず、覚醒作用が続くので、睡眠を阻害しないために適度な量と強度の運動にしましょう。

★悩みや心配事、落ち込みや不安などの精神的要因が間接的に深部体温をあげる

体内の温度調節器は視床下部にあります。それを正常に動かすためには脳の働きをサポートすることが重要です。

視床下部には様々な反応系列がある中でHPA軸(視床下部―下垂体―副腎)と呼ばれるストレスに一番反応する系列があります。

それゆえ、ストレスが交感神経系を過活動にし、脳を緊張状態にして覚醒するとともに、代謝率をあげ、深部体温を上げてしまいます。ストレス社会の今、ストレス対策も絶対に必要となります。

良質な睡眠を求めるなら、精神や感情を落ち着かせて自分自身がクールになることも必要です。

サプリはライフスタイルを見直した後に

ぐっすり眠りたくて薬やサプリに頼ろうとする人は多いですが、それには注意が必要です。サプリより先によく眠れない原因となっている生活習慣に対処するほうが先に来ないといけません。

薬やサプリに飛びついても症状が治まっただけで、長い目で見れば体に良くない何かに依存する可能性が高まります。

まずは自身のライフスタイルを改善し、それでもやはり必要だと感じたら睡眠を助けてくれる天然素材のサプリやハーブを取り入れると良いでしょう。

健やかな眠りのための12か条

1.いつも同じ時間に寝て同じ時間に起きる

人間は習慣の生き物。睡眠パターンがころころ変わると適応するのに苦労します。週末に寝だめしても平日の睡眠不足の埋め合わせにはなりません。

2.夜寝る前に運動してはいけない

運動は確かに健康に良いですが、あまり遅い時間にしてはいけません。最低でも30分の運動を定期的に行うことを推奨しますが、寝る2~3時間前までに終わらせるように。

3.カフェインとニコチンを摂取しない

カフェインの効果が完全に抜けるまで8時間かかることもあります。

*睡眠のためにはカフェインの摂取は控えたほうが良いのですが、どうしてもカフェイン飲料や食品がとりたい場合は、午後2時までを門限としましょう。カフェインに敏感な人はもっと早い時間を門限とするとよいでしょう。

ニコチンも刺激剤であり、喫煙者は眠りが浅いことが多いようです。

それにニコチンの禁断症状のために朝早く目が覚めてしまいます。

4.寝る前にアルコールを摂取しない。

あまり飲みすぎるとレム睡眠が失われ、眠りも浅くなります。また中途覚醒も多くなります。

5.可能なら睡眠を妨げるような薬を飲まない

心臓病、高血圧、ぜんそくの一般的な処方薬、市販の咳止めの漢方薬、風邪薬、アレルギー薬などには睡眠を妨げる成分が入っていることもあります。もし、不眠に悩んでいるなら、医師か薬剤師に相談してみましょう。

6.夜遅い時間に大量の飲食をしない

軽食なら構いませんが、夜遅くに食べ過ぎると消化不良を起こし、それが睡眠の妨げになります。また、寝る前に水分を取りすぎると夜中に何度も起きてトイレに行くことになります。

7.午後3時を過ぎたら昼寝をしない

昼寝は失われた睡眠を取り戻すいい方法ですが、午後の遅い時間に寝てしまうと夜に眠れなくなります。

8.寝る前にリラックスする

寝る直前までスケジュールを詰め込みすぎないように。

本を読む、音楽を聴くなどリラックスできる寝る前の習慣を作りましょう。

呼吸を深めることで副交感神経のスイッチを入れることができます。深呼吸には体の感覚を瞬時に変える力があります。この呼吸が身につけば副交感スイッチを自分の意志で切り替えられるようになるばかりか自分の思念を制御する力も高まります。

9.寝る前にお風呂につかる

お風呂から出たときに深部体温が下がり、自然な眠気が訪れる助けになります。それにお風呂につかること自体にリラックス効果があります。

10.寝室を暗くする、寝室を涼しくする、寝室にデジタル機器を持ち込まない

睡眠の妨げになるもの、音、明るい光、寝心地の悪い寝具、暖かすぎる室温などは寝室から一掃しましょう。

デジタル機器も睡眠の邪魔になります。

・就寝90分前にはブルーライトを遮断

 身体が必要としている深い睡眠を取るには少なくとも寝る90分前にはありとあらゆる画面の電源を切る必要があります。

・スマホの代わりになる楽しいことを見つける

 誰かと会話したり、本を読んだりするなど。

・自動通知機能をoffにする

 電子機器を取りたくなる合図をなくしましょう。設定を変えて自動通知を受け取らないようにしましょう。

・ツールの力を借りる

ブルーライトを遮断するツールやグッズを活用しましょう。

ブルーライトを抑えてくれる眼鏡や時間帯に応じて画面から出る有害なブルーライトを抑えてくれるソフトなど使うのもお勧めです。

11.日中に太陽の光を浴びる

太陽の光は体内時計を整えるカギとなる要素です。

毎日最低でも30分は外に出て日光を浴びるように。可能であれば、太陽の光で目覚めるようにしましょう。

12.眠れないままずっと布団の中にいない

20分以上寝付けなかったら、または寝付けなくてイライラしてきたら、布団から出て眠くなるまで何かリラックスできる活動をしましょう。眠れないという不安のせいでますます眠れなくなるためです。

まとめ

自分に必要な睡眠をしっかりとると、ホルモン機能が高まり、筋肉、細胞組織臓器を修復し、病気から身体を守り、思考を最高の状態で働かせることができ、これまで以上に能力を発揮しやすくなります。

睡眠が人生の成功への近道の手助けにもなるので、良い睡眠のための生活を習慣化するようにしましょう。

参考資料

最高の脳と身体を作る睡眠の技術 ショーン・スティーブンソン

睡眠こそ最強の解決策である マシュー・ウォーカー

スタンフォード式 最高の睡眠 西野精治

生活習慣と女性ホルモンバランス

宮澤賢史 · 2023年4月23日 ·

女性が健康的なライフスタイルを維持するために重要な女性ホルモン。

女性ホルモンには、排卵や月経のコントロール、妊娠・出産のサポートのほか、女性の美しさと健康を守るための様々な働きがあり、一定の周期でそれぞれの分泌量を調整しながら、女性の心と体を健康な状態に保っています。

しかし、女性ホルモンがアンバランスになると、PMSや生理痛、片頭痛、性欲低下、不妊、更年期症状などが強く出てくるようになります。

ホルモンがアンバランスになる原因の大本は、貧弱な食事、ストレス、運動、睡眠などの生活習慣や内部かく乱物質暴露などの影響です。

原因の大本になっていることを改善していくとホルモンバランスも整ってきて、症状も軽快していくことが多いようです。

もちろん、それだけでは上手くいかない場合もあり、その場合は医療機関の力を借りる必要がありますが、それでも、生活習慣の改善もプラスして取り組む必要があります。

今回は、ホルモンバランスを整えるため、自身でできる健康的な生活習慣とからだづくりについてご紹介します。

女性ホルモンの働き

女性ホルモンには「エストロゲン(卵胞ホルモン)」と「プロゲステロン(黄体ホルモン)」の2種類があります。エストロゲンは妊娠の準備、女性らしいカラダづくり、プロゲステロンは妊娠の維持、体温を上昇させる、過剰なエストロゲンの働きを抑えるといったような働きがあります。

ホルモンバランスとは

思春期から閉経までの間、エストロゲンとプロゲステロンの2つのホルモンが正常に働くと、女性の身体を妊娠可能な環境にし、一定の周期で月経が起こります。月経後にエストロゲンが増加し、ピークを迎えるとそれをきっかけに排卵が起こります。

一方、プロゲステロンは排卵後から月経前まで増えていき、妊娠に備えて受精卵が着床しやすい状態に子宮内膜を整えたりしています。そして、月経前には両ホルモンが減少していきます。

この周期はおよそ28日間で繰り返されますが、これらのホルモンの分泌量バランスが女性の心と身体の変化に影響します。

妊娠があった場合はプロゲステロン量が増え、子宮内膜は排泄されず、受精卵を維持します。妊娠期間が進行するとプロゲステロンの生産現場は胎盤に移行し生産量増加します。

ホルモンの量の増減

エストロゲンとプロゲステロンの量の増減が毎月の月経周期を形成しています。

また、それら以外にも性腺刺激ホルモン放出ホルモン(GnRH)や卵胞刺激ホルモン(FSH)、黄体形成ホルモン(LH)なども女性ならではの体の働きと深い関わりを持つホルモンがいくつかあります。

女性ホルモンは、脳からの指令によって卵巣から分泌されます。

女性の体は、脳(視床下部と下垂体)と卵巣、子宮がうまく協調して働くことにより正常な月経周期が成立します。

まず、脳の視床下部はホルモンの司令塔として性腺刺激ホルモン放出ホルモン(GnRH)を分泌し、その刺激で脳下垂体から、卵胞刺激ホルモン(FSH)と黄体形成ホルモン(LH)が分泌されます。それらのホルモンに刺激されて、卵巣からエストロゲンとプロゲステロンが分泌される仕組みになっています。

卵巣にある卵胞はFSHの刺激によりエストロゲンを分泌し、卵胞の成熟や子宮内膜の細胞の増殖を促します。卵胞が成熟しエストロゲンのレベルがピークを迎えると、下垂体から排卵を促すホルモンLHが急激に分泌されます。排卵を促すために放出されるLHは、排卵前に急激に上昇してすぐに下がることからこの現象をLHサージと呼びます。

LHサージに反応して成長した卵胞が破れ、中から卵子が排出されます。これが排卵です。

卵子が出ていくと、排卵後の卵胞は黄体に変化して、黄体ホルモン(プロゲステロン)を分泌します。プロゲステロンはエストロゲンによって厚くなった子宮内膜に作用し、さらに受精卵が着床しやすいように妊娠の準備を整えます。

卵巣にはこれら女性ホルモンの分泌量を脳にフィードバックする働きがあります。脳は女性ホルモンが多いときは分泌量を控え、少ないときは多く分泌させるなど、必要に応じて視床下部に指令を出させます。

妊娠しなかった場合は黄体が消え、エストロゲンとプロゲステロンの生成は低下し、子宮内膜を体外に排出する引き金になります。

血液中のエストロゲンとプロゲステロンのレベルは代謝されたり、肝臓(胆汁)や尿を通じて体外に排出されることによって低下します。

女性ホルモンの乱れる原因

1)ストレス

ホルモンバランスが乱れるのは、ストレスが最も大きな原因と考えられています。2つの女性ホルモンの分泌を指令するのが脳の視床下部です。ここからホルモン分泌を促す指令が正しいタイミングで出される必要があります。

この司令塔である視床下部はストレスの影響を受けやすいといわれています。

視床下部がストレスの影響を受けて混乱すると、女性ホルモンのバランスが崩れてきます。

脳はホルモンレベルと管理する一番大切なスイッチです。

その調節をするのは視床下部と下垂体

①ストレス②環境化学物質の両方が脳を混乱させる

 ⇩

ホルモンレベルに影響

性腺が頭脳からのメッセージ受け取ってない

⇩

ホルモンバランス崩れる

性ホルモンのバランスは、副腎の健全さと複雑に結びついています。

なぜなら、ストレスで副腎が疲労することで性ホルモン産生低下、性ホルモンのアンバランスに影響するためです。

多くの女性が仕事、子育て、妻などといった多くの役割を掛け持つ必要性に迫られ、過剰なストレス晒されています。すると、「生存確保」のためにプロゲステロンを使って、副腎ホルモンが最優先で作られ、他のあらゆるホルモンを作る材料としてプロゲステロンは足りなくなり、エストロゲンとのバランスもとれなくなってしまいます。

エストロゲンやプロゲステロンといった女性ホルモン産生のメインは卵巣で、若い時期には副腎で補助的にそれ等を作りますが、更年期になり閉経に向けて卵巣の働きが低下してくると副腎メインでそれらを作るようになります。

副腎が疲弊していると、女性ホルモンを作る役割が果たせなくなり、ただでさえ減少している女性ホルモンが余計に減少してしまいます。

ストレスによるコルチゾール分泌異常がで甲状腺機能に影響し、甲状腺刺激ホルモン放出ホルモン(TRH)上昇させ、それに連動して母乳産生に関与するプロラクチンレベルを上げ、間接的にプロゲステロン産生を減少させてしまいます。

つまり、ストレスが副腎、甲状腺に影響し、更にそれらが、性ホルモン分泌システムに干渉して性ホルモンの分泌バランスを崩し、エストロゲン優勢の状態を招いてしまうということです。

2)質の悪い食事

①カロリー過剰

脂肪細胞増加でエストロゲン産生増加します。

②アルコール過剰

余分なエストロゲンの処理をしてくれる肝臓の機能能低下を起こすようなアルコール過剰などがあると、それができなくなるため、エストロゲン優勢になる可能性が高まります。

③悪い脂肪摂取割合過剰

 プロスタグランディンの生産は、私たちが食べる脂肪や油で決まります。そのため、プロスタグランディンのバランスの良いままを保ってくれる脂肪を食べることが大切です。

赤肉をたくさん食べると増える、プロスタグランディンE2は乳細胞のステロイドをエストロゲンに変換するアロマターゼ酵素の活性を増やしてしまいます。

オメガ6系脂肪酸を含むコーン油やサフラワー油は炎症促進プロスタグランディン増やし、活性酸素でDNAが傷つく量を増やしてしまいます。また細胞増殖や遊離エストロゲン量も同時に増やします。

逆にオメガ3系脂肪酸は、抗炎症として働き、細胞の増殖を抑制させます。

キャノーラ油もオリーブオイルのような一価不飽和脂肪酸で安定した油ですが、高度に精製されてしまっているので、トランス脂肪酸を含んでいます。使うにしても時々にするのが無難です。

3)植物性食品の不足

植物性食品には、エストロゲン作用を緩和してくれる植物エストロゲンや、エストロゲン排泄を促進してくれる食物繊維が含まれています。

逆をいえば、植物性食品が不足すると、エストロゲン優勢リスク増加させます。

4)環境エストロゲンへの暴露

現代では石油化学製品が広く使われているため、人間のエストロゲンより毒性の強い環境エストロゲンや合成エストロゲンなどの体外ホルモンが身の回りにあふれています。

これらは、エストロゲン的な影響持ち、エストロゲン過剰症状作り出します。人間の体で分解しにくいため、エストロゲンの悪い作用が強く出てしまいます。そのため、完全に使用を避けるのは不可能ですが、できるだけ暴露量を少なくすることが大切です。

エストロゲン優勢原因のプロゲステロン欠乏

エストロゲンとのバランスをとるためにプロゲステロンは重要ですが、なぜ、不足してくるのでしょうか?

多くのプロゲステロンは排卵時にできる黄体で作られます。排卵がなければプロゲステロンは低下します。プロゲステロン欠乏になると、体はエストロゲン優勢になります。

更年期以降も女性は少量のエストロゲン作りますが、プロゲステロンはほとんど全く作りません。このため、更年期に起きるプロゲステロンレベルの低下は、エストロゲンレベルの下がり方に比べはるかに大きくなります。そのため、ホルモンバランスはエストロゲン優勢に傾きます。

プロゲステロン欠乏原因の無排卵月経はなぜ起こる?

無排卵月経とは、排卵しない女性に起こる現象です。子宮に送るべき卵子が卵管に放出されないのが無排卵で、これだとプロゲステロンが作れません。無排卵でもエストロゲンはちゃんとあるので、月経は続きます。しかし、プロゲステロンを作る黄体ができないのでその量は減ります。

(無排卵月経は卵子の残りが1000個くらいになる更年期になると、月経を起こすエストロゲンは作られますが、排卵はめったに起こらなくなってきます。)

30代半ばの女性によく起こり、更年期のずっと前に始まっていることが多いようです。

無排卵月経を起こす原因としては、前述した女性ホルモンバランス乱れる原因と同じで、栄養、過度なストレス、運動過剰、不規則な生活、環境エストロゲンです。

これらのような日常生活の継続により、脳と卵巣と子宮の協調がうまく取れなくなってしまうことで排卵しなくなってしまいます。

排卵がなければ、黄体はできないのでプロゲステロンも作れません。すると、以下のようなことが体に起こってきます。

  • エストロゲン優勢
  • プロゲステロンの骨形成促進作用の効能受けられず骨粗鬆症に影響
  • 無排卵でプロゲステロン生産されないと、副腎ホルモンの生産に悪影響

*コルチゾールが産生できないとストレスダメージ増加で、また無排卵にといった負のスパイラルに陥る

無排卵月経対策

脳と卵巣と子宮の連携をよくするため、日常の生活では、以下のようなことを心がけましょう。

毒性の強い環境エストロゲンや合成エストロゲン暴露を減らす

暴露量を少なくするために、以下のことを気にかけましょう。

  • 動物性脂肪、特に脂肪の多い肉・乳製品の消費控える

これらの動物は早く太らせて市場に出す目的にエストロゲン作用のある飼料を与えられていることが多く環境エストロゲンは動物性食品の脂肪に蓄積されています。

このような可能性のある食品の消費を少なくするか、無しにしましょう。もしも、赤身の肉、鶏肉、卵、魚など食べるのであれば、有機飼料で育ったホルモンや抗生物質を使っていないものにしましょう。

  • 石油化学製品の殺虫剤、除草剤、殺カビ剤、熱を加えると環境エストロゲンを発散するプラスチックなどの使用を大幅に少なくしましょう。
  • カーペットより木か石のなど自然の素材のものにしましょう。カーペットの裏に使う接着剤や溶剤が長い間には有害な分子を放出します。
  • ホルモン補充療法は慎重に

これらのことから、プラスチックを使うもの少なくし、ホルモン剤の入らない肉や有機農法の作物を買い、洗剤なども安全な物を使う。石油化学製品よりも自然な物を使うようにすることが未来の世代の生殖器官やその機能の健康を保証することになります。

健全なホルモンバランスのために

食事や生活を変えるだけでも、ホルモンバランスを整えるのに役立ちます。環境を最適にすれば、体は自分でホルモンのアンバランスを改善する能力を持っているためです。

ただ、長期間、精白、精製された加工食品を食べ、運動をせず、環境エストロゲン、過剰なストレスにも晒されてきたなら、ホルモンバランスの回復は時間がかかるかもしれません。

その場合は、ストレスで疲弊した副腎や甲状腺機能を改善し、性ホルモン分泌システムへの干渉を軽減させるため、生活改善や食事改善とともに医療機関の力も借りて治療しましょう。

1)理想の食事

  • 精製炭水化物を控える

高精製炭水化物食は、高血糖の原因になり性ホルモンの素のDHEA産生を低下させてしまいます。

  • アルコールを控える

肝臓の負担を減らしてエストロゲンデトックスを促進

  • カロリー過剰摂取に注意

必要以上に食べたカロリーは脂肪として蓄積され、それはエストロゲンも増やします。

  • 良い脂肪摂取割合増やし悪い脂肪控える

マーガリンやショートニングなど使ったトランス脂肪酸たっぷりの合成油ではなく、新鮮で加工されていない自然な脂肪を食べるようにしましょう。

脂肪の摂取については、抗炎症作用のあるω3系不飽和脂肪酸含有の亜麻仁油やエゴマ油、クルミ、魚油などの割合増やしω6系不飽和脂肪酸含むサラダ油、コーン油、サフラワー油、トランス脂肪酸含むマーガリンやショートニングなどを使った食品は避けるように。特にトランス脂肪酸は、良い脂肪の働きを抑制してホルモンバランスを狂わせます。オリーブオイルや控えめな量のバターを加熱料理や焼き料理に使うことは健康的です。遮光ガラスボトルに入ったエキストラ・バージンオリーブオイルを探すと良いです。

  • 可能な限り有機農法の食材

有機植物は汚染されていない土壌で、殺虫剤と名の付くもの(除草剤、カビ取り剤、害虫駆除剤を含む)は一切使わず、化学肥料、化学添加物も使わず、栽培されたものです。そして遺伝子操作もされていません。

普通の栽培法で育った果物や野菜は体外エストロゲン的な殺虫剤や化学肥料を使用されています。

また、卵や乳製品、肉類も可能な限り成長ホルモンや抗生物質の与えられていない有機農法のやり方で生産されたものを選ぶようにしましょう。

  • 植物性食品を積極的にとる

私たちが食べている植物には人間の健康を支える作用を持つ様々な成分が含まれています。

一つ目は植物エストロゲンです。これは人間のエストロゲンよりも作用が弱いので人体内に入ると、エストロゲンレセプターを体内のエストロゲンと競って奪い合います。植物エストロゲンが受容体に結合してしまえば、環境エストロゲンや人間のエストロゲンは作用できなくなり、エストロゲン優勢の害を減らすことが出来ます。

この特性を生かすためエストロゲン過剰が原因と考えられる症状の軽快を目的として使用されることあります。

大豆は植物エストロゲンの最も称賛されている供給源です。新鮮な野菜を種類多く食べ、週に数回、大豆製品を食べると、前述のような作用の恩恵を受けることができます。

ただ、大豆は要注意する点もあります。

亜鉛の吸収阻害成分のフィチン酸や甲状腺機能阻害するゴイトロゲンも含んでいるためです。

フィチン酸の害については、納豆、テンペ、味噌などの大豆発酵食品はこれらのフィチン酸の多くが分解されており、貴重なファイトケミカルを身体がより使いやすいものにしてくれています。そのためフィチン酸の害については大豆発酵食品についてはそれほど心配する必要はないようです。

大豆製品のゴイトロゲンと甲状腺機能に関しては賛否両論があるようですが、甲状腺ホルモン剤の吸収を抑制する報告があるので、その薬服用している方は大豆製品を摂取するタイミングを医師と相談したほうが良いようです。そうでない方は、通常の摂取量であれば神経質にならなくてもよいようです。

二つ目は、食物繊維です。植物性食品に含まれている食物繊維もしっかりとりましょう。植物繊維は過剰なエストロゲンを体外へ排泄してくれます。仕組みとしては、肝臓で代謝されたエストロゲンが胆汁に混ざって腸管に送られたものが、微生物によって活性エストロゲンに変換されて血流に再吸収されるのを阻害します。

2)運動

精神の安定、ストレス耐性をつけ、過剰な体脂肪から産生されるエストロゲンを運動により体脂肪削減でエストロゲンも減量させることができます。

3)副腎の働きを改善

健康な副腎がホルモンの適切なバランスのためにとても大切です。副腎の健康のためには、生活からストレスを減らし、十分な睡眠を取り、健康的でバランスの取れた食事をすることです。

ストレスが主に精神的なものであるなら、リラックスさせてくれる瞑想や適度な運動もお勧めです。

砂糖やカフェインは副腎を刺激するので控えるようにしましょう。

進行した副腎疲労がある場合は医療機関の力も借りましょう。

まとめ

女性が健康的なライフスタイルを送るために大きなカギを握る女性ホルモンバランス。そのバランスに影響を及ぼす、食事や睡眠、運動、ストレス、環境エストロゲン暴露なを最小限にするなど日常生活を整えるようにしましょう。それにより、脳、卵巣、子宮の連携をスムーズにして、ホルモンバランスを健全な状態に保てるようにしましょう。

参考書籍

医者も知らないホルモン・バランス ジョン・R・リー著 2020年10月31日 第6版発行

続・医者も知らないホルモンバランス ジョン・R・リー著 2000年11月10日 初版刷発行

「大豆で甲状腺機能低下症になるのか?(大豆と甲状腺)」長崎甲状腺クリニックホームページ 2019年3月30日

日本醸造協会誌 106巻12号 味噌など大豆発酵食品による亜鉛栄養改善の可能性 橋本彩子、神戸大朋

日本醸造協会誌 106巻12号 味噌など大豆発酵食品による亜鉛栄養改善の可能性 橋本彩子、神戸大朋

HERS 「HERS世代は要注意!宇久人疲労で更年期障害が重くなることも」2016年9月号

副腎疲労度と甲状腺の関係 宮澤医院ホームページ

ヘム鉄を1年以上続けてる方は治っていません

宮澤賢史 · 2023年1月7日 ·

前回、血液検査だけでは病気の原因はわからないと書きましたら(記事はこちら)、「私は血液検査で鉄欠乏が判明して、ヘム鉄で改善しました。それからヘム鉄を3年続けており、今は貧血症状は全くありません。」とご意見を頂きました。
それ、治ってないです。

​ヘム鉄を摂り続けている人は意外と多い

栄養療法に詳しい方は、フェリチンが鉄欠乏の良い指標であることはご存知ですよね。
​
残念ながら日本では検診でフェリチン測定が行われないため、鉄欠乏が見逃されている事がよくあります。でもその場合鉄剤、もしくはヘム鉄を1,2ヶ月も摂ればフェリチンも上昇して解決です。
​
しかし、うちに来る患者さんはしばしばヘム鉄を摂り続けています。続けないとまたフェリチン値が下がってしまうからだそうです。
​
鉄を摂り続けなければ維持できない状態って、病気か身体機能の低下が隠れていることが多いです。

鉄が不足し続ける原因を突き止めよう

確かに日本人の鉄の摂取量は推奨量を下回ってはいるのですが、鉄代謝には恒常性維持機構が強く働いており、体内鉄が減少すると、吸収率は高く、同時に排泄量は少なくなる仕組みがあります。
​
貧血になる人は、何らかの原因でこのシステムがうまく働いていないのです。具体的には腫瘍や子宮筋腫などの他に、体内の炎症や腸内環境の悪化なども原因になります。
​
僕の経験上はピロリ菌やカンジダ感染の方は特に鉄欠乏を起こしやすいです。ピロリ菌は胃酸分泌を低下させて鉄吸収を邪魔するし、カンジダは成長のために鉄を人から奪うためです。ぜひ、まだ原因がわかっていないなら詳しい検査をお勧めします。
​
フェリチンが上がらないからといって、ヘム鉄サプリをただ増やすのだけはお勧めしません。ヘム鉄を摂れば摂るほどがんのリスクが高くなるからです。

栄養療法がうまくいっていない人の共通点

宮澤賢史 · 2023年1月4日 ·

こんにちは、宮澤です。栄養療法を始めて21年目の内科医です。

僕は普段慢性疲労やうつ、不妊や発達障害の人を多く診ています。また、クリニックに来院する患者さんの5割は治療がうまくいっていない人たちで、そんな方達にセカンドオピニオンを提供しています。

病気改善と健康増進は全く違う

今日は栄養療法がうまくいっていない人の共通点についてお話します。それは「病気の改善のために健康増進治療を行っていること」です。バカみたいな、ホントの話です。栄養療法を受ける人の目的は大きく分けると健康の増進か病気の改善です。

うつや慢性疲労に対する栄養療法は病気の改善が目的で、

美容、アンチエイジングやアスリートのパフォーマンスの向上は健康増進です。

この両者に対するサプリの使い方は全く異なります。「サプリが効かない」といって私の外来に来る方はここを混同しています。

足りない栄養を摂ることはオリンピックに有効

20年前、僕は大学病院を辞めてサプリメント会社に就職しました。その会社がすごかったのは、会員全員に血液検査を推奨していたことです。

血液検査の結果から足りない栄養素や体のダメージが推定できます。それに対して鉄不足ならヘム鉄サプリ、活性酸素が多ければ抗酸化のビタミンCを摂る。

これが栄養療法の基本です。この方法は元々健康な人をさらに調子良くしたり、アスリートのパフォーマンスをアップするのに長けています。

実際にその会社は多くのスポーツ選手をサポートしており、2004年のアテネオリンピックの時にはサポートチームが金メダルを量産するのを目の当たりにしました。

しかし、その一方で病気にはあまり効果がなかったのも事実です。僕は慢性疲労、うつの人たちにサプリを処方をしたけど、根本的に改善することはほとんどありませんでした。
 

ポイントは身体機能の低下

検査して足りない栄養を摂っているのに、なんでこんなに効果がないのか?

なんでスポーツ選手にはこれほど効果のあるサプリが、慢性疾患の人を治してあげられないのか?

その理由は、病気の人は身体機能低下の結果として栄養が不足するからです。自律神経が緊張して栄養の消耗が激しいとか。腸が悪くて栄養を吸収できないとか。

つまり、病気の人の栄養不足は結果であり、原因ではありません。原因を治療しなければ栄養をいくら補充してもまた足りなくなります。

つまり、「健康の増進」と「病気の改善」でサプリを使い分けるとは、健康増進には足りない栄養素の補充を、病気の改善には栄養素を使って身体の修復を行なうということです。

言い換えれば、それは神経内分泌系や腸内環境、デトックス機能などの機能低下を探し出してそれぞれに対処することです。

病気の改善目的の栄養療法がうまくいっていない時は、自分の治療が「健康増進」治療になっていないかチェックしてみてください。

両者の治療の見分け方

え? 「健康の増進」と「病気の改善」治療、どうやって見分けるのかって?

簡単です。診察の時「サプリを一生続けてください」と言われたら健康増進治療です。

当たり前すぎる? ではもう一つの目安を教えましょう。

それは「血液検査以外の検査を受けているか?」です。

健康増進治療は足りない栄養素の補充とダメージの修復がメインになります。ダメージというのは活性酸素や炎症のことです。これは血液検査で判断できます。

でも、病気の改善には体の機能低下を見つける必要があります。例えば自律神経を見るには唾液検査、腸内環境には便検査、ミトコンドリア機能を知るためには特殊な尿検査が必要です。一般的な血液検査では詳しいことはわかりません。

だから、血液検査しか受けていなければ、今の治療は「健康増進治療」になっている可能性が高いです。ぜひしかるべき検査を受けて「病気の改善治療」にシフトしてください。

ついでに言えばこの方法は「健康増進目的で健康増進治療をしても効果がない人」にも有効です。

検査で足りない栄養を摂ってもダイエットがうまくいかない人、競技のタイムを縮められない人はぜひ体の機能低下チェックを行ったほうが良いでしょう。プロスポーツ選手でも身体機能が低下してる方は多いです。

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