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宮澤賢史

ドーパミンとセロトニンの調節法

宮澤賢史 · 2021年6月30日 ·

今回は、毎年アメリカで行われている統合精神医療学会のIMMH(Integrative Medicin for Mental Health Conference)の講演内容をヒントに、精神疾患に対する栄養療法のまとめをお話しします。特に、ドーパミン、セロトニン、ヒスタミン、グルタミンなど代表する脳の神経伝達物質の評価と調整についてスポットを当ててみます。

1.精神疾患の原因、精神神経疾患を診るコツ、問診項目について

1-1. 精神疾患の原因

  • 食物アレルギー
  • 腸内環境
  • ヘキサクロロフェン(消毒薬)
  • 脳の可塑性
  • ライム病
  • 脂質過酸化
  • マイコトキシン(カビの毒素)
  • グリアジン(小麦のグルテンの成分)
  • 不眠
  • トラウマ
  • 薬
  • フェイスブック

これらすべて、精神疾患の原因として考えられるものだそうです。

有機酸検査の開発元であるグレートプレーンズ社長のウィリアム・ショー博士は、ヘキサクロロフェンという消毒薬の害や、日本でも徐々に話題になりつつあるライム病、脳の脂質の過酸化の問題、プロスタグランジンの代謝の問題などを指摘しています。

彼はマイコトキシンについても触れていました。日本は湿気が高い国なのでカビの毒素に暴露している人は多いはずです。クリニックで実際に測ってみるとマイコトキシンが出てこない人はいません。

また、グルテンの中身であるグリアジン抗体が統合失調症の1/3位の人に見られたという報告がありました。幻覚や妄想を見る統合失調症はドーパミンの過剰により起こるという仮説が近年支持されていましたが、陰性症状や無気力について説明できないと言われていました。最近ドーパミンに加えて話題になっているのはグルタミン酸で、グリアジンが関係しています。その他に、不眠やトラウマ、薬、Facebookが精神疾患の原因になっているそうです。

下のグラフは、10歳から14歳のアメリカの子どもの自殺率です。

自動車事故は徐々に減ってきていますが、2007年から自殺が増えていて、2013年に自動車事項を上回っている理由は、2007年1月にiPhoneが発売された事と関係あるのではないかという話も出ていました。

1-2. 精神神経疾患を診るコツ

ショー博士によると、精神神経疾患を診るコツとして、症状だけを診ないことが重要だそうです。セロトニン不足、ドーパミン、グルタミン過剰も、脳内で起きていて表に出ている症状だけだと見分けがつかないこともあるため、脳の中で何が起きているのかを推測せよということをお話しされていました。

特にトラウマや幼少期の経験が重症になればなるほど、精神疾患に深く影響します。統合失調症はその典型ですがHSPも同様で、ハイパーセンシティブな人々は幼少期のトラウマや、母親のお腹の中にいるときの経験が深く関係しているため、問診のときにはそこをよく洗い出す必要があります。

脳は全身と繋がっていて影響を受けやすいため、根本原因のピラミッドの一番上に脳とメチレーションがあります。特に全身の炎症や感染には、免疫状態が深く関与していますが、これに最も関与しているのは腸です。精神疾患を治すためには、全身の状態を調べて、炎症や免疫状態を調整してコントロールしていく必要があるんです。

僕はウィリアム・ウォルシュ博士の鬱病のメソッドも取り入れていますが、その理由の一番はエビデンスです。彼は、セロトニンやドーパミンを、ナイアシンや葉酸など栄養で動かせるという数万人単位のエビデンスを蓄積しています。ショー博士とウォルシュ博士のメソッドを組み合わせて使うと最強です。

さて今日は、ドーパミン、セロトニン、ヒスタミン、グルタミンなど代表する4つの神経伝達物質の評価と調整が、精神疾患の治療に役立つだろうと思い、これらにスポットを当ててみます。

1-3. 問診項目について

  • ドーパミン ↓意欲低下   ↑ 緊張
  • セロトニン ↓疲労、うつ  ↑ 不安、緊張
  • ヒスタミン ↓学習低下   ↑ 神経的興奮
  • グルタミン ↓学習     ↑ 興奮
  • 腸の症状
  • 全身の感染
  • 毒素への暴露

これらの神経伝達物質は元々脳の中にあるのではなく、毎日作られては壊されていきます。うまく作られなかったり代謝や分解がうまくいかなかったりすると、問題がでてきます。ウォルシュ博士のメチレーションで出てくるのはドーパミンとセロトニンですが、特にお子さんの場合はグルタミン酸やヒスタミンも非常に脳に関わってきます。

2. ドーパミンの調整、DBH(ドーパミンβヒドロキラーゼ)

2-1. ドーパミンの調整

ドーパミンはやる気の神経伝達物質なので、ドーパミンが低下しているとやる気が出ない、意欲の欠如という症状が出ることが多いです。反対にドーパミン過剰だと、興奮、幻覚が出るので多すぎても少なすぎてもいけません。ドーパミンは脳にとっての神経毒なので多すぎると調整が必要です。僕がどのようにドーパミンを調整しているかと言うと次の5つです。

  • メチレーション(OMならナイアシン)
  • GF,CF,Sugar,Cafeine free
  • DBH(腸内環境)
  • ビタミンD+チロシン
  • BH4(アンモニア、アルミ、MTHFR1298)

メチレーションが回っているかは症状と好塩基球数で評価しますが、好塩基球数が30以下ならオーバーメチレーション、70以上ならアンダーメチレーションとウォルシュ博士は定義しています。

ドーパミンの調整で誰もが最初に行うべきは腸内環境です。GF(グルテンフリー),CF(カゼインフリー),Sugar(シュガーフリー),Caffeine free(カフェインフリー)で、これらはドーパミンに影響します。

低血糖は、ドーパミン、ノルエピネフリンに関係します。

カフェインはドーパミンの代謝を遅らせるので、興奮作用があります。ウィリアム・ショー博士がいつも強調するのはドーパミンβヒドロキシラーゼ(DBH)です。これは、ドーパミンをノルエピネフリンに変換する酵素で、腸内環境の悪化によるクロストリジウムの存在によってしばしば阻害されます。ドーパミンβヒドロキシラーゼを測る一番良い方法は、有機酸検査でフェニルアラニンとチロシンの代謝物を診ることです。

2-2. DBH(ドーパミンβヒドロキラーゼ)欠乏症

これは5年位前の僕のドーパミン検査です。

この時はあんまり腸が良くなかったからだと思いますが、ドーパミン2.0とノルエピネフリン0.17の値から推測すると、ドーパミンからノルエピネフリンへの変換が阻害されていると考えられます。

https://www.ncbi.nlm.nih.gov/books/NBK1474/
DBH遺伝子の遺伝子多型により、DBHを欠乏させノルエピネフリンの低下を引き起こす。
小児期から交感神経欠如症状、特に起立性低血圧、眼瞼下垂が出現。
有病率4%

ドーパミンの原料はチロシンというアミノ酸ですが、このドーパミンが補酵素の銅とビタミンCによりノルエピネフリンに変換されて、ドーパミンβヒドロキシラーゼになります。活性中心の銅が酸化されないためには、ビタミンCが必要です。銅過剰タイプの場合、ドーパミンからノルエピネフリンに過剰転換され、反対にクロストリジウムが過剰だとドーパミンβヒドロキシラーゼが阻害され、ドーパミンは多くなり、ノルエピネフリンが少なくなります。

ドーパミン代謝の基本はここで、このドーパミンがノルエピネフリンに変わるドーパミンβヒドロキシラーゼ阻害要因は3つあります。一つはクロストリジウムの増殖、一つは元々の遺伝子変異であるドーパミンβヒドロキシラーゼ欠乏症。また、鉛の蓄積もドーパミンβヒドロキシラーゼを阻害します。ご自分の有機酸検査の結果を見て、ドーパミンに対してノルエピネフリンが極端に低くなってる人は何らかの要因によってDBHが阻害されていると考えられます。遺伝子多型によるものの場合の特徴は、交感神経欠如症状、特に起立性低血圧と眼瞼下垂の症状が小児期から出現します。

このDBH欠乏症は 、夏に症状が悪化し、欧米での有病率は4%だそうです。WHOが発表しているうつ病の有病率が大体3〜5%なので、4%というのはうつ病の有病率と同じなので、もしかしたら皆さんの中にもいらっしゃるかもしれません。こういった場合はどう対処すればいいのでしょうか。ノルエピネフリンが低下している場合は、集中力がなくなり、ドーパミンがたまってイライラするかもしれません。

2-3. LowDBHの患者さんをチロシンで治療するな

集中力を増すために、チロシンを追加するのはよく使われる方法です。チロシンはチロシンヒドロキシラーゼという酵素の元で、Lドーパからドーパミンに変換されます。そのドーパミンがノルエピネフリンに変わっていくのでチロシンを摂るとこれら全部が上がっていくので、一見良い方法に見えますが実はそうではありません。

その理由は、ドーパミンとノルエピネフリンのバランスが崩れるからです。ノルエピネフリンはある程度作られると、ネガティブフィードバックをかけて、チロシンからドーパミンへの生成を抑えます。DBHがうまく働かない人というのは、ドーパミンばかりが増えてノルエピネフリンは増えないため、このネガティブフィードバックが働きません。つまりドーパミンβヒドロキシラーゼが働かない人がチロシンを大量に摂ると、ドーパミンとノルエピネフリンのアンバランスがさらに加速してしまいます。

ドーパミンは神経毒で、活性酸素を発生するホモバリニン酸に代謝されます。ドーパミンというのは過剰だと毒となり、この毒物が脳内で増えると活性酸素を発生させて脳内グルタチオンを枯渇させます。ショー博士によると、その状況が長く続くのが一番の問題だそうです。

やる気がない人には、ドーパミンを増やそうとしてついついチロシンとビタミンDを投与しがちですが、その前に必ずDBHを見て、腸内環境が悪ければまずはDBHを働かせるためにクロストリジウム対策をします。有機酸検査でクロストリジウムが上がってるかどうかはわかります。ただしDBHを阻害するのは、クロストリジウムだけではありません。様々な腸内悪性細菌が阻害すると言われていますので、腸内環境はドーパミンの代謝を整える第一歩だ、ということをこの発表を見て改めて思いました。

2-4. Low DBHを疑う症状

LowDBHを疑う症状は、以下の通りです。 

  • 疲労、運動不耐性、低血圧。
  • 自然流産、自閉症の男の子
  • ADHDが増加し、活動性が低下した
  • 7歳を超える年長児の夜尿症(遺尿)
  • アルツハイマー病
  • 統合失調症
  • うつ病
  • アルコール依存症

アルコール依存がある人は、LowDBHの可能性があります。是非、まだ検査していない人は、全ての検査の基本である有機酸検査を受けてみてください。

3. クロストリジウムは手強い、ADHDの68%は銅過剰

3-1. クロストリジウムは手強い

クロストリジウムは、一般的にメトロニダゾールとバンコマイシンという薬を投与するのが標準プロトコールです。芽胞を形成し胞子を作って抗生剤耐性になるので、簡単には除菌できません。メトロニダゾールをストップすると再発してしまいます。HPHPAというのはクロストリジウムの産生物で、抗生剤を何度使っても再発してしまうので、何らかの対策が必要です。

ショー博士のプロトコールも参考にしてみましょう。

  • バンコマイシン10 mg / Kg /日divを3回投与10日
  • フラジル(メトロニダゾール)30 mg / Kg /日を3回に分けて10日
  • 乳酸菌アシドフィルスGG1日あたり1,000億
  • ラクトバチルスラムノサス、Culturell VSL#3、サッカロマいセス
  • セルグルタチオンまたはNアセチルシステイン
  • 脳のグルタチオンを増やし、神経毒性ドーパミン代謝物を減らす
  • 高タンパク質食(フェニルアラニン、チロシン)は、有毒なクロストリジウム代謝物の生産を増加させるかも

バンコマイシンとメトロニダゾールの薬は10日間使いますが、それ以外にも色々な乳酸菌を使っています。

CulturelleのVSR#3はi Herbでも売っていますが、通常は5〜20ビリオンですが、112ビリオン入っていて、8種類のマルチの乳酸菌ということがポイントです。

1種類の乳酸菌だと耐性ができやすいので8種類の乳酸菌を使うということ、冷蔵された生菌を使うと良いとショー博士はおっしゃっていました。

アメリカでは冷蔵庫で売られている乳酸菌ですが、日本では冷蔵便で配送されないこともあり死菌だから大丈夫と謳っていますが、実際効果はありません。EPA、フィッシュオイル、乳酸菌は鮮度が重要なので、サプリメントは購入場所を選ぶべきです。

ミセルグルタチオンまたはNアセチルシステインを使う理由は、ドーパミンの代謝物が溜まってる人が多いため、これを減らして脳のグルタチオンを増やすためです。そしてあまり高タンパク質食はお勧めしないということをおっしゃっていました。

クロストリジウムは難しいですが、善玉クロストリジウムのミアリ酸を使っています。クロストリジアおよびDBH欠乏症には、ドーパミンが増加して症状が悪化するため追加のチロシンを与えないでください。

ドーパミンが上がっていて、ノルエピネフリンが下がっているパターンなら、まず腸内環境を調整しますが、中には両方下がっている人もいます。ドーパミンも低く、ノルエピネフリンも低い場合は、元々のドーパミンの材料が少ないのが原因なので、チロシン、フェニルアラニン、そして不活剤のビタミンDを投与します。

勉強に集中できない、最後まで仕事を終わらせられないなどでADHDと診断を受けた人には、ドーパミンとノルエピネフリンの両方が下がっている場合、チロシンとビタミンDを摂ってもらっています。

3-2. ADHDの68%は銅過剰

ADHDの方は、コンサータ、もしくはストラテラというお薬を飲んでいる方が多いです。コンサータは中枢神経刺激薬(ドーパミン再取り込み阻害薬)なので、一種麻薬と同じです。ストラテラはノルアドレナリンの再取り込み阻害薬です。コンサータだと集中力が高まり、ストラテラだと冷静になると言われていていますが、腸内環境を良くして、特に銅過剰の人は亜鉛を沢山入れてDBHの働きを調整してあげるとこの薬が効くだろうと思います。

僕の場合は、とりあえず食事をみて、腸内環境を治して、その次がビタミンDとチロシンの投与です。それでもうまくいかない場合はBH4(テトラヒドロビオプテリン)の調整をします。ビオプテリンというのはチロシンからLドーパをつくる酵素の補酵素です。このテトラヒドロビオプテリンがうまく働くのを阻害する要因は、アンモニアの蓄積にBH4が使われるからです。他にも、アルミの蓄積、そしてMTHFR1298の遺伝子変異です。この遺伝子変異は仕方ないとしても、アンモニアの解毒とアルミのデトックスをして、アンモニアを貯めないようにすると徐々にドーパミン代謝が良くなっていくと思います。

ストラテラの薬の働きがとても強いので、依存してしまう患者さんが多いですが、これらを総合的にやっていくと、薬の量を将来的に減らすことができると思います。ただその過程には年単位かかるので、全て自然にやろうとすると、やる気が出ないまま1年、2年人生を過ごしてしまうかもしれないので、僕は薬を推奨しています。薬を止めたことによってかえって副作用が出る人がいますが、この原因として考えられるのは、第一に栄養失調です。栄養をきちんと入れてあげると、薬の離脱がスムーズにいきます。

4. セロトニンの調整、グルタミンの調整、症例

4-1. セロトニンの調整

セロトニンも同じくメチレーションです。特にSSRIがこれだけ蔓延しているところを見ると、メチレーションの与える影響は非常に大きいです。完璧主義、儀式的な行動、季節アレルギー、いつも決まったいつも同じ食事、いつも同じ服、いつも同じ道順で家に帰る人は低メチレーションですから、セロトニンが少ないです。

下記は、セロトニンがどこで作られてるかという図になります。

https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC6047317/

セロトニンの9割は腸で作られます。緑のところは、腸のクロム親和性細胞(Enterochromaffin Cell)です。セロトニンを作る5HTを作る細胞というのは、脳からの命令でも、腸内環境からの影響を受けても作ります。そのため、腸脳相関がとても重要だという話です。

クロストリジウムの芽胞から短鎖脂肪酸(SCFA)が情報伝達物質として働いているというのは有名です。クロム親和性細胞に働いて、セロトニンを分泌します。セロトニンがうまく働いていない人、幸が薄い人というのは、やっぱり脳にストレスがかかっている人で、腸内環境が悪い人ということがよくわかります。

4-2. 炎症はセロトニンを枯渇させる

もう一つセロトニンに大きな影響を与えるのは、炎症です。炎症があるとトリプトファンの10%しかないセロトニンの産生経路がブロックされて、全てキノリン酸経路になってしまいます。そのためセロトニンが少ない人は全身の炎症をいかに抑えるかということが非常に重要になります。

炎症はセロトニンを枯渇させる

この論文は、イラスト入りでわかりやすいので色々なところで見かけますが、チロシンをドーパミンに変換するチロシンヒドロキシラーゼという酵素の補酵素はBH4です。

同じくトリプトファンをセロトニンに変換するトリプトファンヒドロキシラーゼの補酵素もBH4です。BH4がないと、ドーパミンもノルエピネフリンもセロトニンもできません。もしドーパミン、セロトニン代謝がうまくいかなかったらBH4の3本柱であるアルミとアンモニアにも留意してみてください。

  • ドーパミン ↓意欲低下   ↑ 緊張
  • セロトニン ↓疲労、うつ  ↑ 不安、緊張
  • ヒスタミン ↓学習低下   ↑ 神経的興奮
  • グルタミン ↓学習     ↑ 興奮
  • 腸の症状
  • 全身の感染
  • 毒素への暴露

ドーパミンとセロトニンは、メチレーションの影響が大きいです。実際にドーパミンやセロトニンを作る方と、ドーパミンやセロトニンが効く方、受容体に挟まる方と、それと再取り込みされるのと、色々な要素がありますが、再取り込みの要素が大きいです。それ以外にドーパミンの生成経路とかセロトニンの生成経路も関係しますので、そこも併せて見ておくと理解が深まると思います。

4-3.グルタミンの調整

グルタミン酸は学習に不可欠の神経伝達物質です。 計算力や記憶力が高い人というのはグルタミン酸が沢山出ています。グルタミンの調整は、ビタミンB6とグルタミン酸受容体のほどよい刺激と、グリアジンの問題があります。

グルタミン酸神経には色々な種類がありますが、問題があるのは脳の炎症を引き起こすNMDA型のグルタミン酸受容体です。このグルタミン酸受容体が異常興奮してしまうと、グルタミン酸過剰症状が出ます。その過剰症状が起こすのはグルタミン酸そのもの、ビタミンB6によるGABAへの転換不足、そしてマグネシウムなしのカルシウムが、グルタミン酸神経を興奮させます。グリシンと低血糖発作があると、興奮しやすくなり、一旦感情的になると止まらなくなることがあります。

グルテンの構成成分であるグリアジンについて発表がありましたが、統合失調症の1/3の人にグリアジンの抗体の上昇があったということです。このグリアジンとNMDA受容体はタンパク構造が似ています。そのためグリアジンに抗体がある人は、酵素反応をして、グルタミン酸受容体も攻撃されてしまい、その結果グルタミン酸神経系が過敏になるということが十分考えられます。

統合失調症にグルタミン酸神経が関係するのもこれが原因だと思います。確かに統合失調症に関するグルテンフリーの論文は沢山あります。もちろんグルテンフリーは、リーキーガットや、リーキーブレーンを防止する役目もありますが、グルタミン酸神経を抑えるというのもこの食事療法の重要な意味だということを、統合失調症の栄養療法専門医のキャリー先生がおっしゃっていました。統合失調症の方にはグルテンフリーにしてもらってカンジタを除菌することがコツです。

グルタミン酸はGABAに変換されるので、グルタミン酸からGABAへの変換ができない人は、大勢の話し声の中で相手の声だけを聞き取ることができません。そのため、群衆の中で人の声が聞こえなくなったり、理解ができなくなってくるというのは、GABAの不足している人の典型的な症状です。そういう人はグルタミン酸神経の興奮も伴っていることが多いです。対処として一番簡単なのは、ビタミンB6です。ある患者さんはやはり集団の中で話し声が聞き取れないと言うことで、ビタミンB6を400mg摂っていました。それでもうまくいかなかったので、とりあえず活性型ビタミンB6をもう少し摂るようにしてもらいました。ビタミンB6を活性型ビタミンB6に変換できない人というのは、GABA不足の原因になっている人が多いので、GABAそのものを飲んでいただくことで症状は改善することが多いです。

グルタミン酸をGABAに変換するGAD(グルタミン酸脱水素酵素)の補酵素はビタミンB6ですが、他に亜鉛も大きく関与しています。亜鉛はビタミンB6を活性型にするためにも必要です。水銀の蓄積はGADを阻害するので、それでも効果がなければデトックスします。僕はガヤガヤしている居酒屋に行くと人の話が聞こえなくなりますが、ビタミンB6を飲んでから行くと全然違います。

5. 症例、ヒスタミンの調整

5-1. 48歳、鬱病、過敏性腸症候群

48歳女性鬱病の患者の毛髪検査です。

この方はカウンティングルールで言うところの3番に引っかかるので、ミネラルの輸送障害があります。ただこの方の特徴は、カルシウムとマグネシウムが非常に高くてナトリウムとカリウムが低いことです。副腎疲労が結構疲弊期にかかっていると思われますが、カルマグが高いので脱灰が亢進してると読めます。脱灰が亢進してる人は、往々にしてカルシウムが過剰です。カルマグが高く低血糖症があると、グルタミン酸神経が興奮しやすくなります。普段は何ともなくても、興奮するとなかなか興奮が自分で止められない、非常に疲れやすいのも特徴です。

マグネシウムが不足してカルシウムの脱灰を止められず、ミトコンドリアが少ない人には、まず低血糖を確認します。もちろん腸内環境も確認する必要がありますが、低血糖があったらまずそこを治していくと、かなり楽になります。マグネシウムを投与して、カルマグの数字が下がると体調が戻ってきます。毛髪中のカルシウムは、グルタミン酸神経の過剰興奮を測る指標にも使えるということになると思います。

5-2. ヒスタミンの調整

ヒスタミンは学習、認知に非常に重要な働きをしています。ヒスタミンの受容体は、1〜4まであります。風邪薬や抗アレルギーの薬など抗ヒスタミン薬を飲むと頭がぼーっとするのは、脳のヒスタミン神経が抑えられるからです。ヒスタミンは、脳にとって重要な働きをしています。不足も良くないですが、過剰だと興奮して問題になります。脳神経細胞を興奮させることが学習につながるためある程度の興奮は必要ですが、過剰な興奮は神経細胞死を引き起こすので、適切な量の調整が必要です。これは、グルタミン酸やドーパミンも同様です。

「頭の回転の速さ」に脳内ヒスタミンが関与

前頭葉のヒスタミンH3受容体と作業記憶が関係していることを発見。前頭葉のヒスタミンH3受容体密度が低い人ほど、作業記憶に重要な前頭葉の活動が高い。

https://www.qst.go.jp/site/press/1183.html

5-3. 好塩基球数を求める

メチレーションの状態を測るのに好塩基球数を見ると良いのは、好塩基球数がヒスタミンの代謝に関わっているからです。

  • 白血球数4800×好塩基球(BASO)の割合(%)2.5÷100
  • 好塩基球数<30 なら OM
  • 好塩基球数>70 なら  UM

ヒスタミン代謝も推定できる

血中のヒスタミンは98%以上好塩基球に存在しているので、ヒスタミン濃度は、末梢血中の好塩基球数と相関します。好塩基球数が30以下だったらオーバーメチレーション、70以上だったらアンダーメチレーションです。ヒスタミンを代謝するメチル基が余っているか足りないかを見ますが、この好塩基球数はメチレーションを見ると同時にヒスタミンの代謝も見ることができます。好塩基球数が多いということは、ヒスタミンが余っているということです。

上の検査結果の人は、白血球が4,800で好塩基球数が2.5%の人は4,800×2.5÷100なので120です。好塩基球が120は結構多く、アンダーメチレーションで、ヒスタミンが過剰です。ヒスタミンはヒスチジンから出来ますが、少なすぎても多すぎても良くありません。

5-4. ヒスタミン量はSAME、DAOで決まる

メチレーションによってNメチルヒスタミンに代謝されるか、もしくはDAO(ジアミンオキシダーゼ)によって代謝されます。メチレーションがダメでDAOがダメだったらヒスタミンが溜まっていくので、ヒスタミンの過剰が問題になるのは特に低メチレーションの人です。低メチレーションの人は、このDAOが不活性がうまくいっているかでヒスタミン過敏症かどうかが決まります。

もし熟成した魚を食べて、解離が出たりイライラする人はヒスタミン過敏です。そういう方にはメチレーションとSAMeを回してあげる、もしくはヒスタミンブロックという中身がDAOのサプリメントを摂るのがよいでしょう。

DAOをコードしている遺伝子というのは、AOC1という遺伝子です。上記は僕の23andMeという遺伝子検査の結果ですが、AOC1のところがC/Cとあるので遺伝子変異がなかったんですが、ここに遺伝子変異がある人はDAOの活性が悪いので、ヒスタミン過敏の症状が強ければ一度遺伝子検査をしてみるのも良いでしょう。

それぞれの問診と検査について評価して、どドーパミン、セロトニン、ヒスタミン、グルタミンの4つのどれかが過剰か欠乏になっていないかを見ることが、精神疾患の栄養療法に不可欠な要素だと思います。

6. 精神科統合医療の検査項目、免疫亢進のプロセス

6-1. 精神科総合医療の検査項目

我が国の栄養療法では血液検査を診て、その血液検査からいろんな状態を診るというのが普及していますけれども、他の国ではどうなのでしょうか?

ある精神科の統合医療の先生のいつも行っている検査項目は、下記項目でした。

  • 副腎
  • 甲状腺
  • リンパ球サブセット
  • 抗体検査
  • 浸透圧 (2(NA+k)+BS/18+Bun/2.8)=290くらい
  • 有機酸検査

副腎と甲状腺機能、そしてリンパ球のサブセットを測っていきます。リンパ系のサブセットというのは、リンパ球というのはCD4とCD8というT細胞の割合ですが、ヘルパーT細胞と細胞傷害性のT細胞の比率を測ります。その比率がおかしいと、免疫が不活されていることが分かります。免疫反応が動いてるということは、体のどこかに炎症や感染、毒素が入っているので、それが動いているのかどうかを診るために、リンパ球サブセットと抗体検査、IgGとIgAを診るそうです。

精神疾患の先生も、副腎、甲状腺と全身の免疫反応はやはり診ていますが、免疫や炎症が脳にいかに影響しているかということを表しています。他に頻繁に測るのは、浸透圧検査だそうです。浸透圧が上がっていたら、毒素が体に入っていることを意味するそうです。

浸透圧の日本での計り方は、血液検査でわかります。ナトリウムとカリウムを足して2倍にしたのと血糖値を18で割った値とBunの2.8で割った値を全部足すと浸透圧が出ます。290くらいが平均値で、浸透圧は基本的には不変です。普通の人の場合は、血糖値が高くなったり、Bunが高くなった場合、ナトリウムとカリウムが低くなって補正します。

バソプレシンという抗利尿ホルモンを測るともおっしゃっていました。慢性のマイコトキシンが脳に与える影響で、浸透圧じゃなくて利尿に影響します。夜間に利尿が多くなったら、それは脳が慢性炎症を起こしている印です。

6-2. 免疫亢進のプロセス

免疫亢進のプロセスは、下記の通りです。

掌蹠膿疱症患者では、血清免疫グロブリン濃度が上昇している
ヘルパーT細胞の割合が増加している

ばい菌(抗原)が入ると、マクロファージがそれを食べて、その情報をヘルパーT細胞に伝え、ヘルパーT細胞がB細胞、抗体を作ります。 IgGやIgAなど、その抗体値が上がってくるというのが、体の免疫反応です。このヘルパーT細胞の数字の変化や抗体の数字の変化を見て、体の中で免疫反応が起きているかどうかを診ていると先生はおっしゃっていました。

この免疫反応は、自己免疫疾患、アトピー性皮膚炎や掌蹠膿疱症の患者さんで診ています。そのような免疫が関係する病気だと、これらの数字の変化が顕著で分かりやすいからです。例えば掌蹠膿疱症の患者の場合、免疫グロブリン濃度、ヘルパーT細胞の割合が増加しています。

  • 掌蹠膿疱症  50歳女性
  • ビオチン療法2年間でだいぶ良い
  • ロキソニン量も減った
  • 現在も頸椎、鎖骨中心の痛み持続
  • 歯アマルガムあり
  • 抜髄歯あり
  • 根尖病巣はなし
  • 潰瘍性大腸炎既往あり
  • アマルガム除去後発疹あり
  • α2グロブリン、γグロブリン、CRP上昇
  • IgG 2169 mg/dl ↑
  • IgA 399 mg/dl↑
  • IgM 111 mg/dl
  • リンパ球サブセット
  • B細胞 正常
  • T細胞 81%↑
  • そのうちヘルパーT 58%↑

当院でビオチン療法をしていた50歳の女性は、ガンマグロブリン、抗体、IgG、IgA、リンパ球のサブセットのうちのT細胞の割合の全てが上昇していました。炎症は脳に非常に影響するので、炎症を取らないと根本的に治らないということもあるため、精神疾患の患者さんでもここを診ることは大切になります。

6-3. ヘルパーT細胞がTh2優位

( Science. 2011 Jan 21;331(6015):337-41.)

免疫が異常に亢進していたら何を使うかと言うと、大体多くの人はT細胞が分化して1型と2型になるうちの2型が優位になります。

何故2型が優位かというと、アラキドン酸、プロスタグランジンE2がTh2への分化を促進するためです。多くの人がアラキドン酸優位の食事をしているため、T細胞に抗体を作らせて、アレルギー症状を引き起こしているという人が多いです。バランスを整えるために乳酸菌を摂ったり、1と2のバランスを整えるTreg細胞を活性化させるために酪酸を摂ったり、これが免疫に対するアプローチだと思います。

乳酸菌や酪酸のサプリメントで免疫の調整をするのは良いのですが、大事なことは免疫反応が上昇している根本原因を探ることです。この先生は、免疫反応が亢進していたらその時点で免疫反応の原因を考えるそうですが、免疫反応が亢進している原因のひとつは、隠れた感染であるステルス感染とおっしゃっていました。

もう一つは環境毒素です。環境毒素とは、ホルモンやミトコンドリア、免疫にも影響するので、末端的にはホルモン、ミトコンドリア、隠れた感染、重金属やカビ毒を見つけ流必要があります。

僕の場合はだいたい血液検査と有機酸検査で当たりをつけますが、この先生の場合は免疫反応を一回診て、免疫反応が動いていたらそこでこれらの検査を追加するプロセスを踏んでいるそうです。

7. カビと酵母、多症候性患者にナイスタチン、カンジタ除去について

7-1. 真菌にはカビと酵母がある

カンジタは、腹部膨満、慢性疲労、全身症状を起こします。カビは、カビ毒によるアレルギーやミトコンドリア機能障害が問題になります。酵母は、カンジタやサッカロマイセス、カビはアスペルギルスが有名ですが、カビの除菌をしてもカビ毒だけ残るので、カビ毒検査は必要です。カビ毒は脂溶性なので、脳の中に入り込んで集中力、記憶力を低下させます。炎症反応があったらカビ毒を診ておくべきです。有機酸検査の一番最初のところは真菌チェックなので、カビ、酵母、カンジタであがる項目があります。

これはショー博士の論文ですが、自閉症の子どもに対して、ナイスタチンを10日間使ったら、アラビノースなどの有機酸検査関係の項目が20%〜60%下がったというスタディです。

7-2. 多症候性患者にナイスタチンが有効

下記は様々な症状(多症候性)を持っている人にナイスタチンを投与した結果、様々な症状が全て軽減したというショー博士の論文です。

Effectiveness of nystatin in polysymptomatic patients. A randomized, double-blind trial with nystatin versus placebo in general practice

H Santelmann et al. Fam Pract. 2001 Jun.

  • 精神的、腹部および泌尿生殖器の訴えに顕著な効果
  • 生殖器・・・膣の灼熱感、かゆみなど
  • 腹部症状・・・膨満感、げっぷなど
  • 精神症状・・・無気力、集中力低下、不安、アルコール酩酊(不適切な笑いなど)など
  • 低血糖や疲労が強い場合も積極的治療の対象

特にカンジタは脳に影響するので、統合失調症にカンジタ除菌は必須だとおっしゃっていました。日本人も同じく糖質を摂る人にカンジタが増えているので、低血糖、カンジタ、水銀とセットで治療するのが重要です。

カンジタは治療しても免疫が落ちたり、水銀や毒素が溜まっていると再発しやすいです。僕の場合は、除菌した後にデトックスまですることをお勧めしています。

ナイスタチンというのは抗真菌薬で、それほど種類があるものではなく、人間の体でいうコレステロールの合成を阻害します。非吸収性でリーキーガットを治してから使うと効果が高く、副作用なく使えますが、そうでない場合副作用報告が多いです。

7-3. 蜂蜜はクオラムセンシングの減衰に効果的なポリフェノール

下記は、蜂蜜がカンジタのバイオフィルムの破壊に役立つという論文です。

Scaffold of Selenium Nanovectors and Honey Phytochemicals for Inhibition of Pseudomonas aeruginosaQuorum Sensing and Biofilm Formation

Prateeksha et al. Front Cell Infect Microbiol.2017.Free PMC article

バイオフィルムという消化酵素の中の微生物は、同調して同じリズムを保つクオラムセンシングをしています。

インドネシアの蛍10万匹が、お互いの信号を感知して一斉に光って一斉に消えることをクオラムセンシングといいます。そのクオラムセンシングの機能を阻害するのが蜂蜜で、この減衰に効果的です。低血糖の治療に蜂蜜を使っている人は、同時にバイオフィルムの破壊にも役立っているかもしれません。

免疫状態、環境毒素、自律神経、腸内環境、ゲノムの解析をするのが流れだとショー先生はおっしゃっていました。最初に4つの神経伝達物質を調べて、その流れに影響を与えるような要因を調べるというのが、現在の世界的な流れだと思います。

8. 症例解説

8-1. 症例

45歳の女性の問診と、血液検査以外の毛髪、便検査、有機酸検査の結果をみてみましょう。この方がどんな根本原因を持っていて、それに対してどのような対処が有効かを考えてみてください。

症例 45才女性

  • 15歳の頃から疲れやすかった。
  • 集中力がなく、考えることができない。
  • 無理に考えようとするとイライラする。
  • 突然泣きたくなることがある。
  • 不安な気持ちが出始めると自分でコントロールが効かくなる。
  • 慢性鼻炎がある眠りが浅い。朝が起きられない。
  • 食事は、なるべく3食食べられるように頑張っている。
  • グルテン、カゼインフリー食を行なっている。
  • マルチビタミン、EPAを摂っていた。3年前にピロリ菌除菌終了。

15歳の頃から疲れやすかったということなので、子どもの頃からどれくらい症状があったかというのを確認するのも重要なポイントです。子どもの頃のトラウマや幼少期や中学生の頃の様子は、特に摂食障害などの典型的な精神疾患の場合は関係してきます。

この方の場合、精神疾患はありませんでしたが、生まれつきの副腎疲労なのか、成長期に伴って貧血が出てきたのかを確認します。女性の場合は特に、成長のスパートと生理が始まるのが同時期なので、貧血で症状が出る人も中にはいます。

集中力がなくてイライラするのは、ドーパミン、セロトニン、グルタミンが混ざっているような症状で特定できません。突然泣きたくなることがあるというのは、セロトニン症候群かもしれず、不安な気持ちが出始めるとコントロールが効かなくなるというのは、ドーパミン神経の過剰興奮なのかもしれないし、夕方に起きるのなら低血糖が助長されているのかもしれません。ただ確定的なことが言えないので、神経の状態を検査でも評価した方が良いでしょう。

慢性鼻炎があるので、その炎症が精神疾患に影響している可能性も否定できなくはないです。特に首から上の炎症というのは脳に近いため大きく関係します。慢性鼻炎がある人は上咽頭炎かもしれないし、上咽頭炎があれば不眠の原因になるかもしれなません。この人は眠りが浅くて朝起きられないので、いわゆる副腎疲労、低血糖のパターンを伴っているのかもしれません。甲状腺ホルモンや副腎ホルモンを測ることは重要です。

1日3食の食事、グルテン、カゼインフリー食を実践していますが、今のところ改善がないそうです。マルチビタミンとEPAは摂っていました。

この方は、資格の勉強しようと思ったけれど、全然頭に入ってこないことが一番辛かったそうです。脳機能をいかに改善するかという話になりますが、3年前にピロリ菌の除菌は終了しているので、やはり腸内環境が抗生剤を使って荒れてるんじゃないかなということも念頭において診ていきます。

最初にまず腸内環境を診ましょう。

腸内細菌バランスには良性、境界型、悪性とありますが、この方のイーストは0で、悪性菌も0ですが、境界型菌が結構います。バクテロイデスとビフィズス菌は3+で適量ありますが、ラクトバチルスが1+で、決定的に少ないです。乳酸菌は少ないと、境界型が増えていきます。

炎症や消化酵素を見ると、消化酵素は208でかなり少なくて消化不良だと思います。炎症マーカーを見るとラクトフェリンが3.2、カルプロテキシンが10で、炎症が少しありますがそれほど大きくはないと思います。ライソザイムは少し多いです。全部正常値をざっくりいうと、ラクトフェリンから順番に1、10、100くらいです。炎症は軽度ですが、免疫がすごく下がっているように思います。

分泌型のIgAは悪性菌が腸内フローラに寄り付かないように守っていますが、IgAが60しかないため悪性菌と良性菌がうまく区別できなくて、ディスバイオシスを起こす原因になるかもしれません。

短鎖脂肪酸は一応正常範囲ですが、メチル酸もトータルの短鎖脂肪酸も6.7なのでやや低めです。短鎖脂肪酸というのは、基本的には良性菌によって食物繊維が発酵してできるものですから、良性菌の乳酸菌が少なければ生成される短鎖脂肪酸も少ないです。

8-2. 腸内環境悪化のレベル

  • レベル1 良性細菌の減少、短鎖脂肪酸の減少
  • レベル2 消化酵素の低下、炎症、粘膜免疫の低下
  • レベル3 悪性細菌の増殖

カリシュ先生によると、腸内環境の悪化のレベルはレベル1〜3まであります。レベル1に当てはまると、良性細菌が減ってその結果腸内発酵がうまく働かないため、短鎖脂肪酸も減ってしまいます。

レベル2はどうかというと、消化酵素が低下して炎症があって、粘膜免疫が低下している、彼女はこれも当てはまるので、レベル2まで進んでいると考えられます。

レベル3になると悪性細菌が増殖してきます。CSAは培養検査なので、菌の培養が不確定ですが、これで見る限りはレベル1とレベル2に当てはまっています。有機酸検査ではカンジタが出てるから本当は悪性菌が出ていますが、ここまでではレベル2の腸内環境悪化だと分かります。

宮澤医院で行っている腸内環境検査を50例くらい見て、炎症が起きている人は前提として短鎖脂肪酸が減っていたり、良性菌が減っていたりするのか相関係数を取ってみましたが全く一致しませんでした。培養は大変参考にはなりますが正確ではないので、なかなか教科書通りにはいかないですが、これに当てはめてみると腸内環境の悪化はレベル2までいっていため、それぞれに対してアプローチが必要だということがわかります。やるべきことがはっきりするという意味ではこの検査は良い検査だと思います。良性菌、ミアリ酸、消化酵素、グルタミンとビタミンAを足してみました。

ストレスがある人、腸の炎症がある人、それと低血糖がある人には、是非グルタミンを摂ってもらってください。グルタミンは筋肉の崩壊にとても重要です。低血糖を起こしている人がほとんど筋肉が崩壊しています。低たんぱくだからといってプロテインを飲んでもっと失敗している人が多いです。低血糖に伴う低タンパクには低血糖の治療をしましょう。

8-3. 有機酸検査

次に有機酸検査を見てみましょう。

有機酸検査では1ページ目の1から18番までのところが腸内環境ですが、上がっているのが、アラビノース、4ヒドロキシ安息香酸でした。

アラビノースはカンジタのマーカーで、4ヒドロキシ安息香酸はバクテリアのマーカーで、3つくらい上がってます。クロストリジウムはあまり上がっていませんが、一般的な悪性細菌は少し多めかもしれません。カンジタも少し多いです。よく聞いたら腹部膨満の症状もあったので、あとからSIBOの検査も追加で行いました。

クロストリジウムが邪魔するというドーパミン代謝はどうかと言うと、クロストリジウムはあまり出ていなくて、ドーパミンとノルエピネフリンの差はそれほどでもなかったので、様々な症状が出ていたけれど、ドーパミン代謝は悪くないのかもしれません。

では、セロトニン代謝はどうかというと、セロトニンはとても低く、キノリン酸は少し上がっているので、少し炎症があるかもしれません。グルタミン酸代謝、低血糖とグルタミン酸代謝にもしかしたら症状の原因があるのかもしれないと推測できます。

グルタミン酸受容体にキノリン酸がくっつくので、グルタミン酸代謝ではキノリン酸も考えなければいけません。炎症を起こして今後キノリン酸がものすごくはねていたら、そのキノリン酸によってグルタミン酸神経が過剰興奮している可能性もありますが、このデータから見る限りそれもないようです。

その他、カンジタで上がってくる一つはシュウ酸です。この方はカンジダ感染があるので、シュウ酸が若干上がっています。カンジタがあるとシュウ酸結石があり、他に影響しやすいものはコハク酸です。

ミトコンドリアマーカーは24から29番までですが、26番のリンゴ酸が少し上がっていて、それ以外は下がっています。有機酸検査では色々な基質が他の基質に転換される時に、邪魔されていたら邪魔される手前が上がって、邪魔された後が下がるっていう、その高低差を見ています。このリンゴ酸を除いたら、全ての基質が足りないので酵素不足ではなくて基質不足、つまり三大栄養素が足りないということです。

エネルギー不足の原因には多くの場合、低血糖が絡んでいます。低血糖の人のパターンは、ミトコンドリアのマーカーが左にはり付いていることが多いです。タンパク不足、糖質不足、エネルギー不足です。それによってミトコンドリアが動いていないことがわかります。

ドーパミンは見て、メチレーションやケトン体は大丈夫です。アジピン酸、スベリン酸もそれほど上がってないから大丈夫です。栄養素メーカーはB5が上がっていますけど、これはサプリメントを摂っていらっしゃるからで、その他大きな問題はなかったです。

グルタチオンなどの毒性マーカーもそんなに多くはないです。

毒が溜まっているとグルタチオンが不足していて出せないのかもしれませんが、今のところ大きく上がっていません。アミノ酸代謝も大丈夫でしょう。

8-4. SIBOの検査

次に見たいのは、このSIBOの検査です。

SIBOの検査は、小腸で発生している水素とメタンガスの量を見ます。呼気を180分に渡って全部調べますが、左端から120分までは小腸のガスを、そして120分以降は大腸のガスを反映しています。大腸には乳酸菌がいるので、大腸のところでガスが出るのは正常です。大腸に行く前の小腸のところでいっぱいガスが発生していたら異常で、ガスの種類にはメタンと水素があります。

この緑の線がメタン、青い線が水素です。この方の場合は、メタンが引っかかっていますが、そんなに大きく跳ねていません。主に跳ねているのは大腸なので、bacterial overgrowth is not suspected(SIBOではありませんでした)という結果になっています。

SIBOの治療は大変ですが、この方はカンジダの除去をしたら膨満感がなくなりました。SIBOにもメタン型と水素型があり、普通SIBOは抗生剤を使って治療しますが、メタン型のSIBOの場合、低FODMAP食を長めに続けてもらう必要があると思います。

初心者のための栄養療法ロードマップ

宮澤賢史 · 2021年6月19日 ·

栄養療法を勉強したいけど、何から始めればよいかわからない、という方はいらっしゃいませんか?実践講座にはたくさんの動画がアップされているので、どれから見たらよいか迷うと思います。

初心者の方はまず、体の仕組みを知ることから始めてください。これを理解しないことには体の不調に対処できないからです。例えば、エネルギーが生まれる仕組みを知らずに慢性疲労に対処することはできないし、炎症を起こす仕組みと抑える仕組み、両方を知らずして慢性炎症を治すことは難しいでしょう。したがって、最初に学ぶべきは生物学や生化学なのです。

そして、それを理解するために用意した講座がこの『栄養療法成功へのロードマップ』です。ロードマップは5つのステップで構成されており、全てを網羅すると、サプリメントをとっても疲れが取れない理由や、タンパク質をたくさん摂っているのに低タンパク質が治らない理由が理解できると思います。それではさっそくその中身を見ていきましょう。

1. 栄養療法ロードマップの位置付け

「人生を変える80対20の法則」(リチャード・コッチ著)という本があります。80対20の法則はイタリアの経済学者ヴィルフレド・パレート氏が提唱したもので、パレートの法則とも呼ばれています。例えば、売上げの8割は全顧客の2割が生み出していることがわかっています。その2割の顧客はロイヤルカスタマーと呼ばれ、企業にとって最も大切にされる存在になります。また、住民税の8割は全住民の2割の富裕層が担っています。国の経済政策が富裕層向けになる理由がここにあります。物事には全て偏りがあり、その傾向を見つけ出すと人生のあらゆる場面で役立つという話です。これは経済の話ですが、それ以外にも様々なことに当てはまります。

例えば、私のiPhoneに入っているアプリの数は140個です。でも、そのうち頻繁に使うのは30個程度、つまり21%でした。これも80対20の法則に当てはまりますね。140個全てのアプリの使い方を習得するよりも、30個のアプリに精通して使いこなす方が効率的ということです。これは栄養療法にも同じことが言えます。

『栄養療法成功へのロードマップ』の内容は、栄養療法に必要な知識のうちの2割程度ですが、約8割の栄養的問題はこれだけで解決できると思います。メチレーション、ホルモンバランス、デトックスなど、学ぶべきことはたくさんあるのですが、そこに手をつける前にこの2割に集中した方がいいだろうと考えています。逆に言うと、ここを十分把握しないままより高度な栄養療法の知識を求めても、あまり役に立たないでしょう。

2. サプリメントで疲れが取れないワケ

ミトコンドリアサプリを摂っても疲れがとれない、と感じている方もたくさんいらっしゃるのではないでしょうか?宮澤医院に来院される患者さんにはサプリメントに詳しい方が多いのですが、うまくいっていないケースがほとんどです。なぜうまくいかないのか?それは、効いているサプリメントが20%程度で、残り80%が無駄になっているからかもしれません。私の仕事は、代謝が止まっている根本原因を見つけ出し、80%の無駄なサプリメントを取り除くことから始まります。

2-1. エネルギーの生産工場はミトコンドリア

ミトコンドリアは細胞の中にある小器官で、エネルギーを生み出す場所です。エネルギーの大部分はこのミトコンドリアで作られています。

エネルギーが作られるには、糖質、タンパク質、脂質の3大栄養素に加え、ビタミンやミネラルなどの補助因子が必要です。これら5つが組み合わさって、ATP(アデノシン三リン酸)というエネルギーが作られます。

2-2. ミトコンドリアサプリの中身

ミトコンドリアサプリは、現代の食事で不足しがちなビタミンやミネラルなどの補助因子をまとめて詰め込んだものです。補助因子というのは、CoQ10やマグネシウム、亜鉛、ビタミンB群などです。

こちらのミトコンドリアサプリを見てみると、ビタミンB群、マグネシウム、CoQ10に加え、脂肪を燃焼するためのカルニチン、活性酸素を抑えるためのビタミンCなどが配合されています。しっかり食事を摂ってサプリメントを補給すれば、栄養的には万全に思えますよね?でも実際はうまくいかない人が本当に多いのです。

2-3. 疲れやすくなる3つの原因

疲れやすくなる原因として、大きく分けて3つのパターンがあります。

  1. ミトコンドリアでうまくエネルギーを作れないパターン
  2. 糖質や脂質が細胞やミトコンドリアの中に入れない、もしくは供給が不安定なパターン
  3. エネルギーは作れているが、無駄に消費されているパターン

これらのパターンを一つずつ詳しく解説していきましょう。

3. その1. ミトコンドリアでうまくエネルギーを作れないパターン

3-1. 人間のエネルギー回路はたったの3つ

人間のエネルギー回路は、解糖系、TCA回路、電子伝達系、これら3つだけです。解糖系はブドウ糖からピルビン酸を作る回路です。TCA回路はミトコンドリアの中にあり、ピルビン酸から水素を作っています。電子伝達系はミトコンドリア膜にあり、TCA回路で作られた水素を使って一気にエネルギーを生み出します。エネルギーの約9割がこの電子伝達系で作られます。

ポイントは、人間の体内でこれ以外にエネルギーを作る回路がないということです。したがって、エネルギー不足の人は、これらの代謝のうち少なくとも1つが滞っているということになります。

3-2. ミトコンドリアに必要な栄養素

ミトコンドリアサプリは、エネルギー産生に必要な栄養素を補うことを目的に設計されています。これらの栄養素をサプリメントで摂っても疲れが取れないということは、栄養素がうまく消化、吸収、利用できていない可能性があるということです。

ミトコンドリアに必要な栄養素
☑️ 解糖系にはビタミンB群
☑️ TCA回路にはビタミンB群、鉄、マグネシウム
☑️ 電子伝達系にはビタミンB2、鉄、CoQ10
☑️ 鉄を錆びさせないためのビタミンC、ポリフェノール

ビタミンB群、鉄、マグネシウム、CoQ10、これらの栄養素をあなたはうまく使えていますか?さっそくチェックしていきましょう。

3-3. 鉄吸収が悪い原因

体内に鉄が十分あるかどうかは、健康診断の貧血の項目からある程度推測できますが、より確実性を求めるならフェリチン値を測定するとよいでしょう。ヘモグロビン値が12以上あっても、フェリチン値が20以下であれば鉄欠乏症状が出ます。食事由来の鉄摂取量が不十分な場合、サプリメントで補給するとフェリチン値はすぐに上昇します。

しかし、鉄剤や鉄サプリを摂っているにも関わらず、フェリチン値が上がらない人もいます。原因は大きく3つ考えられます。1つめは炎症です。炎症が強いと、肝臓でヘプシジンというタンパク質が作られ、フェロポーチンの動きを止めてしまいます。フェロポーチンは、腸上皮細胞の鉄や、マクロファージからリサイクルされる鉄、肝細胞に貯蔵されている鉄などを血液中に排出する役割を担うタンパク質です。すなわち、炎症があるとヘプシジンが鉄の吸収と放出を止めてしまうということです。血液データ上では血清鉄が低い値を示します。この場合、いくら鉄サプリメントを摂ってもうまくいきません。炎症を治すことが最優先です。

Vitamins and Hormones. Volume 110, 2019, Pages 101-129
Chapter Five – Regulators of hepcidin expression
https://doi.org/10.1016/bs.vh.2019.01.005

2つめは乳製品です。鉄吸収を阻害する食品の代表格が乳製品です。乳製品はヘム鉄と非ヘム鉄、両方の吸収を阻害します。貧血が治らない人は、乳製品を摂ってはいけません。他にも、食品添加物やタンニン、フィチン酸などが鉄吸収を阻害します。

3つめは腸カンジダです。カンジダは健常人の腸にも住んでいますが、過剰に増殖すると腸に炎症を起こします。カンジダや腸内病原性微生物は人と鉄を取り合います。鉄は全生物の生存に必要な栄養素だからです。

鉄吸収が悪い原因
☑️ 炎症・・・ヘプシジンが鉄の動きを止める
☑️ 乳製品・・・ヘム鉄と非ヘム鉄の吸収を阻害する
 (他にも、食品添加物、タンニン、フィチン酸など)
☑️ 腸カンジダ・・・人と鉄を取り合う
 (他にも、腸内病原性微生物など)

3-4. 鉄は諸刃の剣

鉄はTCA回路にも使われるし、電子伝達系でエネルギーを生み出す際にも必要です。また、赤血球のへモグロビンのヘムに含まれており、酸素の運搬に関わっています。鉄は生命維持にとって重要なミネラルである一方、活性酸素の発生源になるという側面もあります。また、病原性微生物の栄養になり、増殖を促してしまうこともあります。

私の場合、患者さんに最初から鉄サプリメントを処方することはまずありません。高拍出性心不全(貧血の進行により酸欠状態になり、酸素を補おうとして心臓が頻脈になることで起こる不全)のような緊急時を除いては、最初から鉄を摂ってもあまりいいことがないからです。摂取した鉄が全てカンジダの餌になることで腹部膨満感が強くなったり、便秘がひどくなることもあります。また、炎症がある時に鉄を入れても、活性酸素の害がひどくなるだけです。鉄は体の状態を考慮して使うべき栄養素なのです。

3-5. 鉄の体内分布

体重にもよりますが、体内の鉄は3~4gで、そのうち65%は赤血球内でヘムとして存在し、残りの35%は脾臓やマクロファージ内でフェリチンとして存在します。下図の左がヘム、右がフェリチンですが、鉄が遊離すると活性酸素の発生源になってしまうので、簡単に遊離しないよう厳重に守られた状態で存在しています。

血液中の鉄は血清鉄と呼ばれ、トランスフェリンというタンパク質と結合して運ばれています。ヘムやフェリチンに比べ、鉄とトランスフェリンの結合は非常に弱いため、簡単に外れて活性酸素の発生源になります。そのため、血清鉄量は全体の0.1%と最小限に押さえられています。炎症を起こすと、体を炎症から守る仕組みが働き、血清鉄がさらに減ります。

鉄の体内分布
☑️ 体内の鉄は3~4%
☑️ 65%は赤血球内でヘムとして存在
☑️ 35%は脾臓、マクロファージ内でフェリチンとして存在
☑️ 血清鉄は全体の0.1%

ヘム鉄は吸収効率が良いと言われており、フェリチンを上げるのに有効です。ヘム鉄で上がらない場合は、キレート鉄で上がることもあります。ヘム鉄は非ヘム鉄に比べると安全な鉄ですが、そのヘム鉄でさえもずっと飲み続けると様々な害が出てきます。鉄を摂り過ぎて良いことは何にもありません。私がヘム鉄やキレート鉄を処方する場合は、必要最低限の量に留めています。それでフェリチンが上がってこないとか、貧血が改善しないのであれば、鉄吸収を阻害する要因を調べたほうがいいでしょう。炎症を抑えると、鉄サプリを摂らなくても勝手にフェリチンが上がるケースが多く見られます。また、女性の場合は、エストロゲンとプロゲステロンのバランスを整えると改善するケースもあります。

3-6. マグネシウムの重要性

エネルギーを作る際も使う際もマグネシウムが必要です。ATP(アデノシン3リン酸)は、アデニンとリボースに3つのリンが結合したもので、そこからリンが1つ離れると、その時にエネルギーを放出してADP(アデノシン二リン酸)に戻ります(ATP-ADPサイクル)。このようにリンがくっついたり離れたり、ぐるぐる繰り返しています。

電子伝達系の最後のステップで、ADPにリンが結合してATPになり、このATPがまたADPに戻る時にエネルギーが作られます。このリンを離す際に働くATPアーゼという酵素の補酵素がマグネシウムです。

マグネシウムが吸収されにくい原因はいくつか考えられます。まず1つめに、カルシウムとマグネシウムが配合されたサプリメントを使っている場合です。カルシウムとマグネシウムの吸収は拮抗します。もし、ALP(アルカリホスファターゼ)が上がらない、なかなか疲れが取れないなど、マグネシウムの枯渇が疑われる所見がある場合は、カルシウムを含まないマグネシウムだけのサプリメントにしてみて下さい。

The Journal of Nutrition, Volume 122, Issue 3, March 1992, Pages 580–586.
Interaction of Calcium and Phosphate Decreases Ileal Magnesium Solubility and Apparent Magnesium Absorption in Rats
https://doi.org/10.1093/jn/122.3.580

カルシウムとマグネシウムが一緒になっているサプリメントは比較的多く出回っていますが、その理由として原料的に供給しやすいことが挙げられます。ドロマイトといって、石灰岩の一部がマグネシウムに置き換わった鉱石がよく使われており、カルシウムとマグネシウムが2:1で含まれています。カルシウムとマグネシウムの比率は2:1が良いと言われていましたが、ミトコンドリア機能の改善を目的とするなら、1:1、あるいはマグネシウム単体のサプリメントの方がよいでしょう。余談ですが、カルシウム単独のサプリメントは決して取らないでください。心臓発作を起こすリスクが高まるので注意が必要です。

3-7. マグネシウムサプリの選び方

マグネシウムサプリを選ぶポイントは1つ、イオン化しているものまたはキレート化しているものを選ぶということです。マグネシウムは他のミネラル同様、腸上皮細胞のイオンチャンネルを通って体内に入るので、イオン化されている方が吸収率が上がります。イオンは水に溶けると電気を通す物質で、マグネシウムは水に溶けるとイオン化します。

BBA-Biomembranes. Volume 1828, Issue 11, November 2013, Pages 2778-2792
The structure and regulation of magnesium selective ion channels
https://doi.org/10.1016/j.bbamem.2013.08.002

私が使っているイオン化ミネラルは、Bio Nativus社のものです。アメリカのユタ州にあるグレートソルトレイクから採取した水で、塩分を取り除いて製品化されたものです。海水で一番問題になるのは水銀ですが、この湖は閉鎖系なので水銀汚染の影響を受けにくいと言われています。主成分は塩化マグネシウムです。水溶性の塩化マグネシウムは非常に吸収が良いので、1つの方法としてはこれがいいと思います。

もう1つの方法は経皮吸収させることです。マグネシウムはとても経皮吸収力が高いので、エプソムソルトを多めにお風呂に入れても十分吸収されます。「奇蹟のマグネシウム」(キャロリン・ディーン著)という書籍に詳しく書かれていますが、心臓発作や喘息の改善などに効果があるとされています。

次にキレートされたマグネシウムについてです。キレートとは、吸収されにくいミネラルをアミノ酸やクエン酸などの有機酸でカニバサミのようにはさみ込んで、吸収されやすい形に変えることを言います。イオン化マグネシウムとは異なり、アミノ酸が吸収される入り口から入っていくので、圧倒的に吸収がよくなります。ただし、法制上、キレート加工は日本のサプリメントメーカーはできないことになっているので、海外製のサプリメントを使うことになります。クエン酸マグネシウムやグリシン酸マグネシウムなどを使うのも手だと思います。

Magnes Res. 2003 Sep;16(3):183-91.
Mg citrate found more bioavailable than other Mg preparations in a randomised, double-blind study
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/14596323/

ここまでマグネシウムサプリの紹介をしてきましたが、サプリメントを摂る前にやっておくべきことがあります。それは、腸を整えることです。腸を整え、乳酸菌を摂り、水溶性食物繊維の摂取量を増やすと、短鎖脂肪酸が増えてきます。短鎖脂肪酸はマグネシウムをキレートするので、自然なキレート効果が期待できます。したがって、腸を整えて海藻を摂るというのがマグネシウム吸収をよくするポイントです。

Z Ernahrungswiss. 1990 Sep;29(3):162-8.
Effects of short chain fatty acids and K on absorption of Mg and other cations by the colon and caecum
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/2251858/

3-8. マグネシウム吸収の阻害要因

腸に炎症があるとマグネシウム吸収が落ちることがわかっています。腸の炎症が進行するとクローン病などに繋がってしまいます。宮澤医院を受診した150名のアンケートを集計したところ、マグネシウムを摂っていた人は16%で、そのうちの半分はカルシウムとマグネシウムが一体になったサプリメントを摂取していました。サプリメントを摂取していても、ALPが低いなど、Mgが欠乏している人がほとんどでした。そして、便中のライソザイムで腸の炎症を確認したところ、3分の2に腸の炎症がありました。

マグネシウムを効かせるためには、サプリの種類を選ぶこと、腸内環境を整えることが重要です。塩化マグネシウムはとても良いのですが、欠点は美味しくないことですよね。慣れてくると徐々に摂れるようになりますが、マグネシウムが足りない人ほどまずく感じると言われます。どうしても飲めないという人には、キシリトール入りの子供用マグネシウムパウダーを使うこともあります。エプソムソルトもおすすめではありますが、毎日入浴時に使うと疲れてしまうので、副腎疲労が強い人は頻度を考えて使うと良いと思います。1日の最低必要量は体重1kgあたり6mgです。鉄とは違い、マグネシウムは積極的に摂取したいミネラルです。

3-9. CoQ10の役割

CoQ10は電子伝達系の中心的な役割を担っており、不足するとエネルギーを十分に作ることができなくなります。また、CoQ10は加齢とともに減少します。特に心臓のCoQ10は80歳で半分以下まで減少します。医薬品としてのCoQ10は、1日30mgの用量で承認されていますが、あまり効果は出ていません。効かせるためには100~400mg必要だろうと言われています。

CoQ10はアセチルCoAからコレステロールと共に体内合成されます。血中コレステロールが低い人は、CoQ10もうまく作れていないと予測できますね。CoQ10レベルは、男性の年齢や女性の総コレステロール、セレンに相関関係があるという報告があります。CoQ10を摂るとコレステロール値が下がったり、CoQ10により動脈硬化が改善するとも言われています。

Biofactors. 1999;9(2-4):319-23.
High serum coenzyme Q10, positively correlated with age, selenium and cholesterol, in Inuit of Greenland. A pilot study
https://doi.org/10.1002/biof.5520090230

3-10. 栄養の負の連鎖

ミトコンドリアを正常に動かすためには、十分量のCoQ10が必要です。LDLコレステロールの結果を見直してみてください。LDLコレステロールが100以下の場合、おそらくあなたは十分にCoQ10を作れていないでしょう。低コレステロールは、疲れやすい人に共通する大きな問題です。ではコレステロールを上げればいいかというと、そううまくはいきません。なぜならコレステロールの体内合成にはエネルギー(ATP)をたくさん使うので、ミトコンドリア機能が低下している人にとっては、コレステロールを上げること自体とても難しいことなのです。

ミトコンドリア機能が低下しているから、コレステロールが低くなる、CoQ10も低くなる、さらにミトコンドリア機能が低下する、まさに栄養の負の連鎖です。実に多くの人がこの連鎖に陥っています。負の連鎖から脱出するためには、CoQ10サプリメントをうまく効かせることがポイントになります。

3-11. CoQ10の吸収には胆汁が必要

問題はCoQ10がイソプレノイド側鎖を持つ脂溶性の物質だということです。つまり、胆汁が十分に分泌されていないと吸収できないということです。胆汁はCoQ10や脂溶性ビタミンの吸収に欠かせない存在です。油を摂りすぎると下痢をしたり胃がもたれる人は、食後にCoQ10サプリメントを摂るとか、胆汁サプリやタウリンと一緒に摂るなどの工夫が必要です。CoQ10サプリは、還元型やミセルタイプのものがおすすめです。還元型のCoQ10であれば1日50mgで十分とも言われています。

3-12. ビタミンB群が枯渇するケース

ビタミンB群は、ミトコンドリアを動かすために最も重要な栄養素です。ここまで説明してきた鉄やマグネシウムといったミネラル、脂溶性のCoQ10は、吸収が難しい栄養素でした。一方、ビタミンB群は水溶性で、腸でもたくさん作られています。

日本栄養・食糧学会誌 Vol.37 No.2 157-164 1984
ヒト由来Bifidobacteriumによるビタミン産生
https://doi.org/10.4327/jsnfs.37.157

一見、不足することがなさそうな栄養ですが、最近問題となっているのは糖分の摂りすぎによるビタミンB群不足です。

原因不明の心不全、ビタミンB1欠乏かも脚気は過去の病ではない。イオン飲料多飲で肺高血圧症を起こす幼児も。

白米ばかり食べていた江戸時代の大名の多くがかかり、昭和20年代まで国民病といわれた「脚気」。豊かな食生活を送る現代人には無縁と思われているが、偏った食生活を背景にビタミンB1欠乏を来すケースは少なくない。離乳期を中心とした乳幼児がイオン飲料を多飲し、脚気衝心(ビタミンB1欠乏による心不全)などの深刻な障害を招く事例も報告されており、専門医は注意を喚起している。

https://medical.nikkeibp.co.jp/leaf/mem/pub/report/201703/550405.html

この記事のように、スポーツドリンクを日常的に飲んでた乳幼児が、脚気による心不全で病院に運ばれるケースが頻発しています。500mLのスポーツドリンクには、角砂糖に換算して5~8個の糖が入ってます。ブドウ糖がミトコンドリアでエネルギー変換される際には、ビタミンB群をたっぷり使います。したがって、過剰な糖分が体内のビタミンB群を枯渇させてしまい、脚気等の症状を引き起こすのです。特に低血糖症状がある人は、気がつかないうちに糖質を過剰に摂ってしまうので、ビタミンB群がうまく効いていないと感じたら、自分が摂取している糖質の量をチェックしてみてください。

3-13. その他のミトコンドリア機能低下要因

ここまでは、ミトコンドリアに必要な栄養がうまく消化吸収利用できてないパターンについて解説してきました。他にも、水銀などの金属や、農薬などの有機溶剤、電磁波など、ミトコンドリア機能を低下させる要因は様々あります。大切なことは、足りない栄養をサプリで摂るだけではなく、足りなくなる原因を突き止めてそこに対処することなのです。

その他のミトコンドリア機能低下要因
☑️ 水銀などの金属
☑️ 農薬などの有機溶剤
☑️ 電磁波
☑️ 小胞体ストレス
☑️ 廃用性萎縮

4. その2. 糖質や脂質が細胞やミトコンドリアの中に入れない、もしくは供給が不安定なパターン

ここからは、糖質や脂質が細胞やミトコンドリアの中に入れない、もしくは供給が不安定なパターンについて解説していきます。糖質が細胞の中に入れないと言うと、特殊な病気を想像しがちですが、とても身近な病気があります。それは、糖尿病です。

4-1. グルコースが取り込まれる仕組み

血糖値が下がると膵臓からインスリンが出ます。トランスポーターという糖の取込み口になるタンパク質があり、インスリンがこの受容体に結合すると、GLUT4(グルコース輸送タンパク)が細胞の中に引き込まれて細胞膜と一体化し、グルコースを取り込みます。細胞内に入ってきたグルコースはミトコンドリアで使われます。糖尿病の場合、インスリンが受容体に結合してもその後の経路がうまく働かないため、GLUT4が細胞の方にグルコースを引っ張ってくれないのです。

引用:https://commons.wikimedia.org/w/index.php?curid=49360981

「糖尿病=血糖値が上がる病気」というイメージがあるかもしれませんが、糖尿病の本質は細胞内飢餓です。グルコースを取り込めなくて細胞内飢餓になるから、その結果としてグルコースが余って血糖値が上がるのです。もう1つ、栄養療法的に重要な細胞内飢餓状態があります。それは低血糖症です。

4-2. 低血糖症と副腎疲労の関係

低血糖の原因は副腎疲労です。度重なるストレスによって徐々に副腎が疲れてくると、血糖を上げる副腎ホルモンの分泌が滞ります。副腎ホルモンは朝にピークを迎え、夕方に向けて減っていきますが、副腎ホルモンが十分出ないと、特に昼食後から夕食前にかけての血糖値が不安定になります。血糖値が不安定で低血糖を起こすと、細胞内への糖質供給も不安定になり細胞内飢餓を起こします。朝が起きられない、起きてもボーッとする、何もする気力が湧かない、物忘れがひどい、立ちくらみがする、といった症状は低血糖のサインです。

副腎疲労の原因は、慢性的な体内の炎症、慢性的なストレス、そして繰り返す低血糖発作です。これらを一つ一つ丁寧に対処してくことが必要になります。体内の炎症で自覚症状に乏しい部位は腸と喉です。一方で、腸や喉は特に免疫が発達しており、全身への影響が大きいため、よく調べておく必要があります。あとはピロリ菌に代表される胃の炎症、肝臓の炎症、口腔内の炎症も確認しましょう。女性の場合は骨盤内の炎症が、男性の場合は慢性前立腺炎が影響している場合もあります。

副腎疲労や低血糖を抱えている場合、最初に行うべきは食事の見直しです。決して副腎サプリだけが対策ではありません。食事については基礎講座で詳しく解説していますのでそちらをご覧ください。

4-3. 過緊張は筋肉を崩壊させる

低血糖発作を起こすと、アドレナリンやノルアドレナリンが分泌され、体が過緊張状態になりやすいので注意が必要です。過緊張は筋肉を崩壊させます。特に分解されやすいのはグルタミンです。グルタミンは体内合成できる非必須アミノ酸で、低血糖時に最も分解されやすいアミノ酸の一つです。グルタミンはストレスや腸の炎症で消費されやすいので、どんどん分解が進みます。腸が悪い人、ストレスが多い人はグルタミンが枯渇しやすいので、積極的に摂取すべきでしょう。

ポイント
☑️ 過緊張は筋肉を崩壊させる
☑️ 特に分解されやすいのはグルタミン

グルタミンは、宮澤医院に来院する患者さんに最もよく使うサプリメントの1つです。ほぼ全ての人に処方しているといっても過言ではありません。グルタミンはグルタミン酸に変換され、それが最終的にGABAに変わるのですが、グルタミン酸をGABAに変換するグルタミン脱水素酵素がうまく働かないお子さんの場合は、急にグルタミンを摂取すると神経が興奮して落ち着かなくなることがあります。それ以外の人はグルタミンを摂ると逆に気分が安定するはずです。グルタミンは腸の第1の栄養源であり、腸の炎症を取り去り、低血糖を予防してくれ、ストレス対策にもなるというすばらしいアミノ酸です。

慢性的に低血糖を起こしていると、筋肉が分解されて低タンパク質になります。プロテインを摂っても総タンパク質がなかなか上がってこない人は、低血糖発作によってたんぱく異化を起こしている可能性が高いでしょう。睡眠時に低血糖を起こすケースが多いので、寝る前に飲むのも良いでしょう。

4-4. 低血糖を診断する項目

低血糖の指標となるのは中性脂肪です。血糖値やヘモグロビンA1cも血糖状態を示すますが、低血糖症=血糖値が下がる病気ではありません。血糖値が不安定になること自体が低血糖症なので、血糖値が乱高下している場合は平均血糖が落ちず、ヘモグロビンA1cでは判定できないことがあります。判定のポイントは、細胞内が飢餓状態になっているかどうかを見極めることなので、それを診断するためには中性脂肪が鍵になります。なぜなら細胞内飢餓が起こると、脂質をエネルギーとして使うように体がシフトするからです。中性脂肪が分解され遊離脂肪酸になり、ミトコンドリアに取り込まれます。したがって、中性脂肪は細胞内飢餓の指標であり低血糖の指標でもあります。目安として、中性脂肪が70以下の場合は低血糖を起こしている可能性が高いでしょう。

ポイント
☑️ 細胞内飢餓が起こると脂質をエネルギーとして使うようになる
☑️ その際に中性脂肪が分解され脂肪酸になり、ミトコンドリアに取り込まれる

もう1つの指標はALT(アラニンアミノトランスフェラーゼ)です。ALTはアラニンとピルビン酸を媒介している酵素で、肝臓と筋肉に存在しています。筋肉には糖新生の酵素がないので、ピルビン酸をアラニンに変換し、それを肝臓に運んでもう一度ピルビン酸に戻すことで糖新生を行います。これらの反応を仲介しているのがALTです。ALTの数値が1桁だったり、ASTとALTの差が2以上ある場合、筋グリコーゲンがうまく使えず、低血糖を起こしやすくなっていると判断します。

ヘモグロビンA1cが4.5以下であればまず間違いなく低血糖を起こしていますが、そうでなくとも、中性脂肪やALTが低い場合も低血糖を疑ってください。あとは副腎疲労の症状とセットで考えるといいでしょう。私が普段使ってる指標は大体こんなところです。

血液検査
好中球(Neu)>60%
中性脂肪<70
ALT, AST共に20以下かつその差が2以上(AST – ALT >2)、またはALTが1桁
血糖値<90
ヘモグロビンA1c<4.7
1.5AG>15
LDLコレステロール<100

毛髪検査
ナトリウム <16th
クロム<16th

オプションの検査(必ずしも行わなくてもよい)
唾液中コルチゾール検査(副腎疲労)
5時間糖負荷検査(低血糖)

低血糖の人は、過緊張気味なので好中球が上がっていることが多いです。また、低LDLコレステロールは副腎ホルモンを作れないことを意味するので、副腎疲労の指標になります。毛髪検査を受けた方は、ナトリウムとクロムの値も確認してください。ナトリウムは副腎疲労度を反映します。クロムはインスリンの働きに関係しているので、毛髪中のクロムが低い人はインスリンがうまく働いていない可能性があります。インスリンの初期応答が低いので、血糖値が一気に上がってしまうのです。インスリンの初期応答が悪いと、反応性低血糖を起こすことがあります。

副腎疲労が疑わしい方は、唾液中のコルチゾール検査を受けてみるといいと思います。一般的に低血糖症は、5時間糖負荷検査が確定診断と言われていますが、検査自体の負担が大きいので、具合の悪い人が受けるのはお勧めできません。検査中に体調が悪化して途中で止める人もいます。代替案として、唾液コルチゾール検査や、リブレでの血糖値測定をおすすめします。リブレは、血糖値の傾向を見るには大いに参考になりますし、食事内容を修正するのにも役立ちます。

5. その3. エネルギーは作れているが、無駄に消費されているパターン

最後はエネルギー漏れのパターンです。いくらミトコンドリアでエネルギーを作っても、片っ端から無駄づがいしてしまえば、本来の目的にエネルギーを使うことができません。副腎疲労を提唱したジェームズ・ウィルソン博士の言葉を借りると、「自分のエネルギー泥棒を見つけ出せ」です。エネルギー泥棒を見つけ出さない限り、副腎疲労は完治しません。例えば、副腎疲労を抱えるの人の多くは人の頼み事を断れないタイプですよね。

ストレスは脳が受け取って、HPA軸(視床下部、下垂体、副腎)に影響を及ぼします。昔は副腎疲労と言えば副腎の問題とされてきましたが、今はHPA軸全体の問題と捉えられています。脳はミトコンドリアの数がとても多く、無駄な思考や定まらない思考などでエネルギーを著しく消費します。やりたくないことをやるのは、ミトコンドリア的にもマイナスに働くのです。一緒に会話していて、どっと疲れる相手はいませんか?そういう人からはぜひ距離をおいて下さい。慢性疲労から脱出するためには、心理的アプローチが必要になることもあります。栄養療法が長期間に及んでる人がいらっしゃれば、ぜひ検討してみてください。

6. 栄養療法成功への5つのステップ ー実践編

栄養療法を理解するということは、細胞や分子や代謝経路など、目に見えないものを系統的に理解して頭に入れることです。そのためには正しく学んで欲しいと思います。80対20の法則のように、分子栄養学全体の2割ほどを学べば、8割は理解できるかなと思って作ったのが、栄養療法成功へのロードマップです。最初の5ステップはそれぞれ穴埋め式になっていて、全部埋められれば、慢性疲労や慢性炎症に対してある程度対処できるようになると思います。ここからは実際に頭と手を動かしながら読み進めていきましょう。

6-1. ステップ① 分子栄養学の基本的な考え方を理解する

分子栄養学は、栄養学・医学・生物学・生化学で構成されますが、その中で1番最初に越えなければならない山が生化学です。生化学がわからないと、人間の体で何が起こっているのか、どうやって炎症が起こるのかなど、体系的に理解できないからです。ここをスルーしてどのサプリメントがいいかという話になってしまうと、サプリメントの罠に陥ってしまいます。

まずは細胞の仕組みを理解しましょう。細胞の構成要素はたくさんありますが、その中でも重要なのは、核、ミトコンドリア、細胞膜、小胞体です。これらの要素がどんな働きを持っていて、機能を維持するためにどのような栄養素が必要か、この表を全部埋められるようにしましょう。

細胞内の要素 働き 機能を維持するために
必要な栄養
核    
ミトコンドリア    
細胞膜    
小胞体    

<ヒントと補足>

核の役割はDNAの貯蔵庫です。人間が持つ37兆個の細胞は、全て共通のDNAを持っていますが、DNAの読む場所が細胞によって異なるため、ある細胞は目になり、ある細胞は皮膚になり、ある細胞は肝臓になっていきます。DNAという設計図のどこを読むかという命令は、環境や栄養によって左右されます。

ミトコンドリアの重要な役割はエネルギー産生ですが、その他にアポトーシス(プログラムされた細胞死)にも関与します。ミトコンドリア機能低下や小胞体ストレスがあると、正常なアポトーシスが行えず癌の原因になったりします。

細胞膜は一部が切り取られてプロスタグランジンを作るため、炎症に関わります。炎症の抑制や促進は、細胞膜が大きく関わっています。細胞膜を構成するリン脂質の組成が、飽和脂肪酸なのか不飽和脂肪酸なのか、不飽和脂肪酸の種類が、エイコサペンタエン酸なのかアラキドン酸なのかによって、炎症を起こしやすいかどうかが決まります。

小胞体はタンパク質の工場と倉庫の役割を担っています。タンパク質を作る設計図は核にありますが、実際に作るところは小胞体です。小胞体機能が低下(小胞体ストレス)するとミトコンドリアの機能も一緒に落ちるので、ミトコンドリアと小胞体は一心同体です。ミトコンドリアの働きを上げるためには小胞体ストレスをなくすということが重要になってきます。

次に栄養素の持つ性質を理解しましょう。水溶性ビタミンと脂溶性ビタミンとミネラルの性質を理解するということです。ビタミンは有機物で比較的吸収はいいのですが、脂溶性ビタミンの吸収には胆汁が必要です。ミネラルは難吸収性で、腸内環境を整えることが絶対条件です。それぞれの性質を理解すると、効果的な摂り方がわかります。

栄養素 性質 効果的な摂り方
水溶性ビタミン    
脂溶性ビタミン    
ミネラル    

6-2. ステップ② 3大栄養素と細胞の働きを関連づける

糖・脂質・タンパク質の順番に穴埋めしていきましょう。ミトコンドリアでのエネルギー産生に関わるのは糖質です。疲れやすくなる原因は、ミトコンドリアの機能低下によるエネルギー不足でしたね。慢性的なエネルギー不足に陥ると、糖分やカフェインを過剰に欲するので、ますます低血糖や副腎疲労が悪化してしまいます。

ミトコンドリアを
動かす栄養素
どのような時に足りなくなるか?
ビタミンB群  
鉄  
マグネシウム  
CoQ10  

ミトコンドリア機能低下と副腎疲労と低血糖はセットで起きていることがほとんどです。さらに、たんぱく異化も亢進するので、低タンパク質も併発します。その場合、むやみにサプリメントやプロテインを摂ってもうまくいきません。疲れを取るためには、エネルギー代謝のどこが滞っているのかを知り、そこを狙って修復する必要があります。そのためには、食べ物がどのようにエネルギーに転換されるか、細胞分子レベルで理解しましょう。解糖系、TCA、電子伝達系の大枠をおさえたら、どんな栄養素、どんな酵素が働いているかなど、もう少し深く見ていきましょう。

次は、脂質と細胞膜の関係です。栄養療法に必要な脂質の知識は、中性脂肪・コレステロール・細胞膜を構成するリン脂質、この3つです。

脂質の種類 働きは? 症状との関わりは?
中性脂肪    
コレステロール    
細胞膜(リン脂質)    

<ヒントと補足>

中性脂肪はエネルギー状態を反映します。脂肪と名前が付いていますが、どちらかというと糖質との関わりが強い物質です。糖質が欠乏すると中性脂肪が下がるので、細胞内飢餓状態の指標になります。糖質を摂りすぎたり、お酒を飲みすぎたりすれば上がり、低血糖が続いたり食事をあまり摂らなければ下がります。

コレステロールは細胞膜、ホルモン、胆汁酸の原料になります。約80%は胆汁酸として使われるので、コレステロールが低いと胆汁の分泌が低下し、脂溶性ビタミンの吸収が滞ります。細胞膜は、脳の炎症、炎症の調整、脳の機能に関わっています。特に炎症に関わるのはEPA(エイコサペタエン酸)、脳機能に関わるのはDHA(ドコサヘキサエン酸)です。ここを理解することで、炎症体質を緩和する方法や副腎疲労を治す方法、エネルギーを無駄遣いしない方法が見えてくると思います。

3つめはタンパク質です。タンパク質で重要なのはINOUTバランスです。タンパク質代謝を学んで、低タンパク質状態から脱出する方法を理解しましょう。タンパク質はどこから来て(IN)、どこに行くのか(OUT)、自分の普段の食事のタンパク質量がどれぐらいなのか、そしてタンパク質を消耗する原因、これらを列挙してみましょう。

タンパク質INはどこから来る?  
タンパク質OUTはどこへ行く?  
自分の普段の食事のタンパク質量は
どのくらい?
 
タンパク質を消耗する原因
(体タンパクの異化が亢進する原因)
をあげてください
 

<ヒントと補足>

タンパク質は食事由来よりも体内でのリサイクルによる供給が多いので、リサイクル率を上げるという視点は重要です。タンパク質のOUTが多すぎる原因に、低血糖によるたんぱく異化亢進が挙げられます。低タンパク質は、多くの場合ストレスが原因で起こります。そんな人はグルタミンを足してくださいね。また低血糖の場合、糖原性アミノ酸であるBCAAを摂ると改善する人もいます。個人差があるので、リブレなどでモニタリングしながら、効果を確かめると良いでしょう。

6-3. ステップ③ 栄養学的な血液検査の読み方

ステップ2の次は、血液検査の読み方を学びましょう。人によって必要な栄養素やその量は全く異なり、このことを個体差と呼びます。個体差を見るのが栄養療法の基本です。約50項目の血液検査からわかることはたくさんあります。例えば、胃腸の状態、炎症、溶血、タンパク代謝、糖質代謝、脂質代謝、貧血、ミネラル代謝、血糖調節障害、自律神経の緊張度、酸化ストレス、抗酸化力、ミトコンドリア活性などです。慣れている方は全部読み込めるようになりましょう。初めての方は、まずはご自身の健康診断結果をもとに、
☑️ ミトコンドリアに必要な栄養素の過不足がないか
☑️ 自律神経の過緊張はないか
これら2つを読み取ることからスタートしましょう。その次に活性酸素や抗酸化力なども評価します。

胃酸分泌を見る項目  
炎症を見る項目  
溶血を見る項目  
タンパク代謝を見る項目  
ミトコンドリア機能を見る項目  
抗酸化力を見る項目  

<ヒントと補足>

ミトコンドリア機能は、酵素活性を示す数値を見ればわかります。GOT(AST)やGPT(ALT)、アミラーゼ、LDHといった酵素活性の高低が指標になります。GOTやGPTはビタミンB6依存性なので、ビタミンB群を摂取すると割と早く上がってくる数値です。逆に上げるのが難しい項目は、コレステロールや尿酸値です。尿酸値はあまり上がりすぎると、尿酸結石や痛風発作が起きてしまいますが、低すぎるのも問題です。尿酸は人間が体内合成できる優れた抗酸化物質なので、抗酸化力を見ることができます。

また、ATP-ADPサイクルの過程で一部が分解され、そこに含まれるプリン体の代謝産物として尿酸ができます。ですから、細胞の新陳代謝が悪い人は尿酸値が低めです。尿酸値は少なくとも4、できれば5ぐらいほしいところです。このサイクルが回り、エネルギーを作れるようになると、尿酸値も上がってきます。コレステロールと尿酸が上がればだいぶ改善したとみて良いでしょう。

6-4. ステップ④ 腸内環境

血液検査が読めるようになったら、次は腸内環境について学びましょう。具体的には、消化不良、ディスバイオーシス、リーキーガット、この3つの言葉を覚えて、これらがどういう意味を持つのかを理解してください。

  原因 どんな検査で
わかる?
対策
(食事とサプリ)
消化不良      
ディスバイオーシス      
リーキーガット      

<ヒントと補足>

消化不良は、消化酵素と胃酸の分泌が不十分な場合に起こります。タンパク質分解酵素であるペプシノーゲンは胃酸によって活性化し、ペプシンになることでタンパク質を分解します。したがって、胃酸が正常に分泌されないと、タンパク質消化の大きな障害になります。副腎疲労などで自律神経の過緊張があり胃酸が出にくい人は、プロテインを摂らない方がいいということになります。最初に取るべきは消化酵素です。胃の炎症が治ったら胃酸の成分を摂るのも良いと思います。朝1番にレモンを丸ごと食べるとか、梅干しを食べるとか、食事面でも胃酸のサポートを考えた方が良いでしょう。胃酸の分泌にはATPをたくさん使います。したがって、ミトコンドリアが働いていない人は胃酸が出ないので、負のループに陥ります。その場合はミトコンドリア機能に立ち戻って考えてみてください。

ディスバイオーシスは、腸内細菌の多様性が失われることを意味します。当然、日和見菌のカンジダや悪性細菌が増えてきてしまいます。食品添加物の多い食事、抗生剤、ステロイド、ストレス、甘いものなどで腸内環境が悪化している人が非常に多いという現状があります。心当たりがある方は、ぜひ一度サイキンソー社の腸内細菌検査などをやってみてください。腸内細菌の多様性がひと目でわかります。

リーキーガットはいわゆる腸漏れ症候群のことです。腸に穴が開くと、未消化物、ウイルス、異物などが腸管から体内に侵入し、体のあらゆるところで炎症やアレルギー反応を起こします。これをずっと放置しておくと自己免疫疾患にも繋がります。また、リーキーガットを起こすと、リーキーブレインにも繋がります。異物が脳に入って、脳に炎症を起こしてしまうのです。

6-5. ステップ⑤ 副腎疲労と低血糖

3大ホルモンである、副腎、甲状腺、性ホルモンの中でも、特におさえておく必要があるのは副腎です。体にとって最も影響が大きいからです。多くの人が抱えている低血糖症は、エネルギー供給を不安定にする最大の要因です。この低血糖症を引き起こす根源が副腎疲労です。では副腎疲労の原因は何かと言うと、ミトコンドリア機能の低下、ストレス、炎症、低血糖発作です。ミトコンドリア機能が低下すると副腎疲労になり、副腎疲労になるとミトコンドリア機能が低下して低血糖を起こす、こんな悪循環を繰り返すことで全身の機能を低下させている人がほとんどです。ですから、単純に副腎サプリやミトコンドリアサプリを飲むだけでは良くなりません。一度この表を使って整理してみましょう。

あなたに当てはまる
副腎疲労の症状は?
 
あなたが抱えている
ストレスは?
 
その解消法は?  
あなたの抱えている
体内の炎症は?
 
その対策は?  
あなたが行うべき
低血糖対策の食事法は?
 

ここまでが1~5のステップです。表の穴埋めをするだけでも結構勉強になると思います。ステップ5までが終わったら、ここで改めて根本原因に目を向けましょう。

6-6. ステップ⑥ 根本原因ピラミッド

根本原因ピラミッドの頂点は脳機能ですが、実際は脳に対するアプローチを行う前に体調が良くなる人がほとんどで、それは80対20の法則で説明した通りです。しかし、重金属や農薬などの重篤な暴露を受けていたり、メチレーションのバランスが狂っていたり、甲状腺機能が大幅に低下しているなど、特定の原因によってうまくいかない人もいらっしゃいます。このような人たちに対して、根本原因アプローチは絶大な力を発揮します。自分に当てはまる根本原因のチェックリストをもとに、ご自身の体を振り返ってみてください。

炎症 炎症の部位は?
炎症体質の有無は?
ディスバイオーシス?
腸内環境 消化不良?
リーキーガット?
カンジダ感染?
毒素 重金属蓄積?
非金属(農薬、トルエン、排ガスなど)
カビ毒蓄積?
ホルモン 副腎疲労と低血糖の有無?
甲状腺機能低下?
ミトコンドリア 必要な栄養素の過不足?
脳機能 メチレーション? 銅亜鉛バランス?

<ヒントと補足>

炎症体質の有無は食べ物で決まります。外食に偏りがちでリノール酸過多になると炎症を起こしやすくなります。血中のオメガ3とオメガ6の比率を計ることもできますし、トランス脂肪酸の量を計ることもできます。様々な検査がありますので、興味がある人はぜひやってみてください。

消化不良はペプシノーゲン検査でわかります。血中アミラーゼも、消化酵素の分泌が低下していると低い数値になります。ディスバイオーシスが疑われる場合は、便検査で腸内環境を調べてみるとよいでしょう。リーキーガットの検査は様々ありますが、便中カルプロテクチン検査は比較的多くのところで取り扱っています。リーキーガットにより分泌されるゾヌリンを検出する検査もあります。

カンジダ感染の有無も必ずチェックしましょう。ミトコンドリア機能が低下して低血糖を起こしていると、糖質をたくさん摂ってしまうので、カンジダが増殖しやすくなります。いくら糖質をとってもカンジダに奪われて体のエネルギーにならないので、午後に猛烈に眠くなる、疲れが取れない、ブレインフォグがある、腹部膨満感がある、甘いものがやめられない、そういった症状があればカンジダを疑います。

毒素には、重金属と非金属、カビ毒があります。農薬やトルエン、排気ガスの暴露を日常的に受けている人は1度調べてみるといいと思います。重金属と非金属、どちらもイライラや疲れやすさといった症状が出ます。カビ毒に関しては、湿気が多い家に住んでいる人、ブレインフォグがなかなか取れない人は、検査を受けてみる価値があると思います。

ホルモンは、副腎疲労と甲状腺機能で判断します。甲状腺はエネルギーに関与するので、冷えが強い人やむくみが強い人は甲状腺機能を確認すると良いでしょう。

これらのことが大体わかってきたら、メチレーションの状態を見てみるのもいいと思います。メチレーションはとても複雑で、本によっては書いてあることが反対だったりする場合がありますが、実践講座の動画を使いながらじっくり学んでください。

6-7. ステップ⑦ それでもうまくいかない人へ

① 自分がどの根本原因に当てはまるかわからない人

7つの根本原因(ディスバイオーシス、脳、ミトコンドリア、ホルモン、毒素、炎症、消化不良)のうち、自分がどれに当てはまるかはっきりわからない人も中にはいらっしゃると思います。そんな人はぜひ『セルフケアコース』に参加してみてください。これは宮澤医院での7つの根本原因に対する診断治療のチェックリストと、その1つずつの項目に動画解説を加えたものです。ミトコンドリア機能低下があるのか、脳機能低下があるのか、カンジダ感染しているのか、はっきりわからない人のためにチェックリストも用意しています。ステップ5までのことを理解した上で、さらに学びたい方におすすめのコースです。

② 自律神経の過緊張が何をやっても取れない人

これは、家庭環境に起因する偏った考え方、原始反射の残存、幼少期のトラウマなどが原因になることがあります。精神的な要因も考えておくべきなので、心当たりのある人は小池雅美先生のセルフアップデートコースを受講してください。自律神経を乱す思考に気づきを与えて、自分とのコミュニケーションによって現状を抜け出すセルフアップデートを目的としたコースです。

最後に、1番効率がいい勉強方法はアウトプットです。ブログでも動画でも何でもいいので、アウトプットしていろんな人の意見を聞くといいと思います。ご自身の表現でどんどん発信してください。でもちょっと自信がないという方は、まずこのロードマップの表の穴埋めをして、栄養療法の基礎を習得してくださいね。

栄養療法外来の流れ 初診時

宮澤賢史 · 2021年6月1日 ·

最近「栄養外来を見学させてください」とか「実際にどのようにして診察を行っているのか知りたい」とおっしゃる先生が多いので、今回は、僕が宮澤医院の栄養療法外来で行っている流れについてご紹介します。

1 問診の流れ

1-1 自己紹介

最近紹介でいらっしゃる方が多くなりましたが、私のことを知らない患者さんには、私のバックグラウンドと治療方針をお話しています。消化器内科医として大学病院に勤務した後、サプリメントのクリニックに転職して、栄養療法を始めて15年になります、根本原因を探してサプリを減らす治療をしています、といった事をまずお話します。

1-2 ご紹介者について

次にどなたのご紹介かをお聞きしていてます。紹介者がわかると、今までどんな治療を受けていたか大体分かります。紹介でない方にも、今までどういうクリニックに通っていたかを必ず聞きます。栄養療法の治療歴と一般診療の受診歴共に重要で、ごく一般的な病気の原因を否定してあるかどうかは必ず確認します。副腎疲労かと思っていたら下垂体腫瘍だった、なんて笑えない話です。

1-3 栄養療法と保険診療の違いについて

ネット経由の患者さんは栄養療法のことをよく知っている事が多いですが、保険診療の患者さんに対しては栄養療法と保険診療の違いについて説明をします。一般診療は症状にアプローチし、栄養療法は原因にアプローチするということを中心にお話します。どちらも重要ですが、保険診療と栄養療法の違いについてをお伝えしています。

1-4 ラポール(信頼)の形成

問診票を見ながらさらに深く話を掘り下げていきます。ラポール(信頼)の形成と問診が同時進行となり、自動的に信頼関係の構築になるんです。信頼関係をつくる目的は、患者さんと友達になることではありません。患者さんには治療方針に従ってもらわなくてはいけないため、少し上の立場でいる必要があります。

1-5 知識=お金と心得る

プロにお金を払う場合、相手の知識にお金を払うということなので、その人よりも数段レベルが上なのが当然だし、それをわかって頂く必要もあります。知識が対価となるので、5分に1回専門用語を使います。1分に1回だと多過ぎます。「あなたはHPA軸がうまく機能してていないです。つまりそれは、脳と副腎がうまく連絡をとれていないことを意味します」というふうにお話をします。「唾液中コルチゾールが低下しています。副腎から出るストレスを打ち消してくれるホルモンです。これが低いから疲れやすいんです。」など専門用語を言ったあとに要約をつけるなど、専門用語と簡単な用語を混ぜて使うのがコツです。

1-6 言えないことを言ってもらう

受診までにネット上の問診票を全部埋めてから来てもらうようにしています。問診票は7つの根本原因のどこに原因があるかということを分かるように作り込んでいます。そこにチェックを入れてもらいますが、患者さんは本当に重要なことは問診票に書かないことが多いです。なぜならまだ信頼関係がないからです。信頼関係を構築するために、問診をうまくやる必要があります。人には言えないことを最終的に話してもらうのが問診の目的です。

ものすごく女性にモテる男の人がいて、どうしてそんなにモテるんですかと聞いたら、「信頼関係」だそうです。信頼関係とは何かを聞くと、それは他の人には言えないことを話してもらうことだと言うんです。人に話さないことを話してもらえるような関係になれば治療もうまくいきます。

2 問診から根本原因を探る方法

問診が一通り終わったら、次にすることは、問診事項を根本原因に転換することです。問診の中で、これは!と思う事項を絞り込むことから始めます。

2-1 根本原因ピラミッドを理解する

問診で一番重要なことは、根本原因が何かというのを見定めることですが、根本原因ピラミッドの一番下には、腸・炎症があります。その上にデトックスがあって、脳機能がくるのですが、低血糖の海が一番下の層となります。栄養療法的や機能生理学的な問題だと、病気の根本原因は、ストレス、食事、生活習慣のどれかなので、そのあたりを問診で確認します。

2-2 経過について聞く

その症状が急に発症したのか、それとも慢性的に出てきたのかと聞くことはとても重要です。慢性疲労、副腎疲労の場合は積み重なって症状が出てくるのに対して、慢性症候群は、風邪やストレスなどのトリガー(引き金)があって急にガクンと発症し、それを引き金に症状が続いてるというパターンが多々あります。

2-3 発症時に何が起きたのか聞く

発症時にどんな出来事があったのか、どういう状況だったのかを確認することはすごく重要なことです。ただしそれらは問診票には書いてもらえないことがほとんどです。ちょうど離婚したときだったとか、本当のお父さんとお母さんの子ではないと分かった日ですなどと問診票に書く人はいないです。つまりそういうことを掘り起こすための問診なのです。最初は聞けなくても、信頼関係を築くとだんだん判明していきます。

そこが分からないといくら治療をしてもうまくいきません。ストレスが今も継続しているのか、それとも過去の出来事なのかが大きな要素です。ストレスの継続は副腎疲労の回復を遅らせ、それによって起きる低血糖を始めとするホルモンのアンバランスが腸内細菌バランスを乱していたりします。アドレナリンが多い人は腸内細菌に悪玉菌が多いので、炎症が起きて解毒がだんだんできなくなり、肝臓がやられてくるというお決まりの流れとなります。

根本原因ピラミッドのより下層部のほうが原因になっているため下から治療する必要がありますが、低血糖のさらに下には、生活習慣、食事、ストレスがあります。もちろん便秘気味、下痢気味などの腸内環境については問診票に大体書いてありますので、その源流を問診の時に探ってください。

2-4 感情が行動を決める

人は感情で動く動物です、どういうときに検査をするとか、サプリメントを買うかというと、感情が動いたときです。マーケティングの本に書いてある通り、感情的に物を買って、これは自分に必要だったと後から論理をくっつけるものです。だから感情的にこの人からは買いたくないと思ったら話だけ聞いて、検査は他のところで受けてしまいます。こうなると大体うまくいきません。このような方は長く継続して受診されない傾向にあります。全てを委ねられて信頼されることが必要なのです。

問診の際には、患者さんの話が8割、自分が話すのが2割くらいがちょうど良いです。相手の話を聞いて、それで最後にまとめをします。最後にこれで大丈夫ですか、と確認すると、言い忘れたことがあるんですけど… となります。この言い忘れたという内容に、エッセンスがつまっていることが多いです。

2-5 主訴を3つにしぼり根本原因とつなげる

次にすることは、主訴を整理してしぼるということです。10個くらい主訴をおっしゃる方もいますが、一番辛いことを3つに絞ってもらいます。全てを一度に治療しようとすると治療がバラけるし、解決に繋がるのが難しくなります。10個全部の整合性が見えればそれでもいいですが、最初は上位3つ、一番辛いことはなんですか、と絞った方が良いと思います。

そして次には、それらを根本原因につなげるということをします。患者さんは色々な主訴を言います。大体ネットでも色々調べていますが、それは点と点でつながっていないことがほとんどです。その点と点を線につなげてあげるのがプロの仕事です。

3  症例1 47歳女性 PMS、のぼせ

というわけで、症状から根本原因への転換を実際にやってみましょう。まずは「疲れやすい・PMS・気分障害・のぼせ」を主訴とする47歳女性の方です。症状的にはエストロゲン過剰です。女性ホルモンには、エストロゲンとプロゲステロンという拮抗する二つのホルモンがありますが、47歳といった前更年期では、エストロゲンが過剰になりやすいんです。こういう人にはどのような根源が隠れているのでしょうか。

3-1 環境ホルモンの暴露

アメリカ産の牛肉とか牛乳にも成長ホルモンも沢山入っているし、環境汚染物質・アルミニウム・水銀・環境ホルモンなどが人工のエストロゲンです。その結果、プロゲステロンに対してエストロゲンが過剰になるので、色々な症状が出現するというわけです。対処法は暴露を避ける事ですね。牛乳、乳製品を避けることから始めます。

3-2 副腎疲労

コルチゾール・スティールも原因となります。コルチゾール・スティールというのは副腎疲労でコルチゾールが減ってしまうために、原料のコレステロールが女性ホルモンではなく全部コルチゾールに回ってしまうことを言います。そのため副腎疲労は女性ホルモンの問題につながります。

甲状腺や性ホルモンの問題は、副腎の問題を解決しないと根本的に解決しません。副腎疲労を放置したままで甲状腺ホルモンを足したり、女性ホルモンの補充療法をされている方がいますが、副腎疲労の原因が放置されているので、甲状腺ホルモンの治療も増えていく傾向にあります。このふたつのホルモンアプローチは、副腎疲労のアプローチとともに行うべきです。

3-3 肝臓の解毒不足

3番目の問題は、肝臓です。エストロゲンの代謝は肝臓で行われているため、エストロゲン過多、 PMS 、子宮内膜症、乳がんのようにエストロゲンが原因と言われる疾患に対して、栄養療法で一番最初にアプローチするべきは肝臓です。肝臓にアプローチをして解毒を促し、エストロゲンの代謝を亢進させるというのが非常に重要なアプローチとなります。COMTという酵素がエストロゲンを代謝しますが、補酵素としてビタミンB6が必要です。アドレナリンと代謝が拮抗するため、女性ホルモンがアンバランスになったときにはイライラしたり、PMSになったりします。

3-4 腸内細菌

最後に、腸の問題です。腸内環境とホルモンは切っても切れない関係です。例えばメラトニンとセロトニンは90%腸でつくられます。腸内環境を改善することなしに、睡眠の問題は改善できないです。アドレナリンもノルアドレナリンも腸内環境と密接につながっています。だから腸内環境をきちんと治さないと、ホルモンの問題も改善しないのです。

根本ピラミッド的には、ホルモンは3階層目です。腸を完全に治すことがホルモンを治すことになります。エストロゲンについても同様で、腸内細菌はエストロゲンを産生しています。エストロゲンは卵巣だけでなく、副腎でもつくられます。エストロゲンにはエストロン(E1)、エストリオール(E2)、エストラジオール(E3)と三種類あります。3つのエストロゲンがうまい具合に拮抗して、エストロゲン活性が強くならないように調整してるわけです。腸内細菌が少なくなるとエストロゲン活性が強くなります。

症例1のような患者さんが来たら、女性ホルモンの根本原因は、環境ホルモンへの暴露なのか、副腎を含めたホルモンバランスなのか、肝臓機能が低下している解毒の問題なのか、それとも腸内環境が悪化しているからなのか、この4つが根本原因になりうるから、この4つの状態がわかる検査をしませんか。と私なら提案します。主訴をまとめて、根本原因に転換していくのを初診時に行っていくわけです。もちろん原因は他にもいろいろあり、この4つだけではないですが、このような形で進めていけばいいと思います。

4  症例2 32歳男性 慢性疲労

次は「疲れやすい、痩せられない」を主訴とする32歳の男性です。この方の主訴は、どのような根本原因でに転換できるでしょうか?想像力次第で色々な考え方があると思いますが、自分なりの意見を見つけることが重要だと思います。

4-1 インスリン抵抗性

インスリン抵抗性を改善しないとダイエットは結局成功しません。長期間になればなるほど、食欲を抑制するのが難しくなるからです。長期間のダイエットを成功させるには、根性とかに頼らなくても良い方法を見つける必要があります。

4-2 消化不良

ダイエットに必要なエネルギーの元となるタンパク質とミネラルは、簡単に消化不良を引き起こします。マグネシウムはエネルギーミネラルなので、不足すると痩せられないですし、亜鉛不足は過食症を引き起こします。

4-3 解毒の問題

解毒の問題もあります。水銀やヒ素の蓄積はミトコンドリアを邪魔してエネルギーの消費を抑えてしまいます。また、金属の蓄積を排除しようとして生理的な浮腫が出ますが、その浮腫を肥満をとして主訴として訴える人もいます。

食事制限や糖質制限をしても痩せられないのは、もしかしたらこの辺りに原因があるかもしれません。このようにいくつか仮説を立てて検査を提案します。

5 根本原因を探すことに意味がある

現在、クリニック向けに患者の血液検査の結果の代行をしてくれるところがあるそうです。血液検査のレポートを作って、不足しているサプリを記載して送ってくれるそうです。それを参照しながら患者に説明すればとりあえずサプリは処方できてしまいますが、本質から考えると無意味でです。

患者の主訴を聞いて、根本原因にアプローチすることに一番の栄養療法のポイントがあるので、そこを外注してしまうと信頼関係も形成できず、足りない栄養だけ補充してもうまくいきません。

根本には必ず何かしら原因があるので、そこにアプローチするためには年単位の治療が必要です。つまり年単位で通い続けてもらわないといけないということなので、そこの信頼関係が築けないとうまくはいきません。この点は、私自身も大変苦労している部分ではあります。

すぐに信頼関係が構築できなくても、2回目、3回目の問診の際でも良いと思います。患者さんは最初から心を開いてくれないし、ブレインフォッグが辛くてそれどころじゃないという人もいます。その場合は、根本原因ピラミッドをただ順番に上がっていけば大丈夫です。

例えばグルテンフリーなどを提案してみて、患者さんのデトックスが進み、腸内環境が改善すると、リーキーガットが閉じて肝臓への負担が少なくなります。肝臓が解毒ができなくなる一番の要因はリーキーガット症候群です。腸と肝臓は門脈で直結しているので、腸の毒物は全部肝臓に行きます。そのため腸の炎症を抑えると肝臓が生き返ってきます。肝臓が生き返ってきて解毒が進むとだんだん脳が冴えてきます。脳が冴えてくると、何をすればいいか判ってくるという患者さんも少なくないです。だからそういう状態になってからあらためて同じ話をしてもいいと思います。そうするとより分かり合えるようになってきます。心理的・精神的なアプローチと、栄養的なアプローチの両面で攻めていく必要があり片方だけでは不十分です。

基本的にサプリメントは効率化の道具で、栄養が濃縮されて入っているものなので、不自然といえば不自然なものです。栄養療法の初期で、このピラミッドを上がるスピードをつけるためのブースター的な役割をするのがサプリメントなんです。だからそのブースターが効いて段々根本ピラミッドを上がってきたら、それに伴ってサプリメントは減らせるはずなのです。

栄養療法の説明をする時に必ず患者さんから質問されるのは、いつまでサプリメントを飲み続けなければいけないかということです。自費診療なのでそのあたりは明確に説明しないと信頼関係がうまく築けません。

腸内環境の改善には平均で2ヶ月から半年かかりますが、その結果は検査の結果によるということを初診のときに説明しています。腸の炎症が強くて悪性菌が多かったら回復に時間がかかることが多いです。悪性菌があったり特にカンジタが過剰増殖してる場合は、カンジタを除菌しないとリーキーガットは完全に閉じません。その場合、腸の炎症を止めて、カンジタを除菌するのに少なくとも4ヶ月はかかります。悪性菌があまりなければ1、2ヶ月ですみます。その見極めをするのに検査がどうしても必要で、検査の結果によって治療方針が違ってきます。その治療方針を決めるのにどうしても検査が必要だということをご説明します。

HPA軸機能異常(いわゆる副腎疲労)の検査と治療

宮澤賢史 · 2021年5月9日 ·

1 HPA軸機能障害の検査方法

1-1 血中コルチゾール

血中のコルチゾールの分泌量は、5~15mg/日ですが、生物学的に同じ一錠10gのコートリルという薬があります。これを飲むと一日のコルチゾールと同じくらいの量になります。コートリルを使う副腎疲労の治療もありますが、やはり副腎に負担をかけるので私はあまり使用していません。

1-2 唾液中コルチゾール

検査として一番優れていると思うのは、下記の理由により唾液中コルチゾールです。

  • ストレス研究と臨床で最もメジャーな存在
  • 活性化コルチゾールを測定できる
  • 侵襲がなく、特定の時間帯で測定できる
  • 血中濃度と密接な相関検査は唾液の流量、酵素による分解、凍結や解答による影響を受けない
  • 真夜中の唾液コルチゾールはクッシング症候群において信頼できる検査

その中でも、6回のコルチゾール検査をおすすめする理由は、CAR(Cortisol Awakening Response)を検出できるからです。健常人の唾液コルチゾールレベルは、起床時から30-45分後は35~60%上昇し、60分後までに低下します。このピークをコルチゾール覚醒反応と言います。CARはストレス関連HAP軸機能異常の臨床研究で最も多く用いられています。

コルチゾールはACTHに伴って朝上昇しますが、目覚めるまでは上昇がゆっくりしています。朝光が入って視交叉上核の刺激で、HPA軸が一気に活性化して上昇します。

皆さんも明日重大なイベントがあると考えて寝ると、パッと起きることがあると思います。何故かというと、人はストレスを予期する力があるため、そのイベントが過去の記憶と相まってコルチゾールアウェイクニングレスポンス(CAR)を高めるからです。朝のCARは平日と休日では違うため、この検査をするのは平日がお勧めです。潜在意識で明日は平日だから起きなくてはいけないと思っているとCARは上昇します。

このCARは非常に敏感なマーカーで、心理社会的燃え尽き、慢性疲労、PTSD、冬に下がったり、大きなストレスがあったり、鬱、排卵期、鬱で上がるなど微妙に変化します。女性の場合は排卵期の前後一日を避けて検査してください。

2 唾液中コルチゾール検査の読み方

2-1 CAR、日中リズムともに上昇しているパターン

青い線が正常として、正常よりもCARも高く日内変動も高いのは、高ストレス状態の人のパターンです。ストレス過多の人か、メランコリー型うつ病か、HPA軸機能異常でいえばステージ1です。予期ストレスでも上昇するというのが大きなポイントで、測定値は平日と休日では違います。

2-2 日中リズムが夕方に上昇しているパターン

このパターンの人は、コルチゾールが出続けているため、隠れた炎症が考えられます。この炎症が、睡眠障害を引き起こす可能性があるので注意が必要です

2-3 一見正常だが、症状がある場合

一見正常でCARも正常範囲に収まっていますが、疲れやすくて朝起きられないと言う人のパターンです。その場合、ステージ2の可能性があるのでDHEAを測ることをお勧めします。

DHEA/コルチゾール比率の重要性

DHEA /コルチゾール比率はHPA軸の機能を見る大切な要素で、多くの場合、コルチゾールレベルだけで判別するのは困難です。ステージ1の場合は、コルチゾールは上昇しますが、ステージ2では下降するので、一見コルチゾールレベルが正常と同じように見えますが、DHEAレベルは正常とは違います。もし症状と唾液中コルチゾール濃度が乖離するようだったらDHEAレベルも測ってみてください。

2-4 CARの低下、日中リズムは正常のパターン

日中は正常ですがアウェイキングレスポンスがない場合のパターンです。それを検出したくて新たに次の検査項目を増やしました。CARが低下している人は、下記のどれかに当てはまりますが、これらは通常の4回の唾液中コルチゾールでは検出できないポイントです。

  • PTSD
  • 慢性疲労症候群
  • 燃え尽き症候群
  • 季節性うつの冬季
  • 寝不足

2-5 全日で低下しているパターン

このパターンは、短期の強いストレスか長期の簡潔持続的ストレスにより起こります。短期のストレスの場合、PTSD、過剰フィードバックシステムによるコルチゾール低下なのでDHEAは低下しませんが、長期ストレス場合、多少のストレス増強があっても変化しません。まだコルチゾール検査をしたことがない人は、ぜひこの機会に一回計測してみてください。

3 HPA軸機能回復計画

HPA軸機能の回復方法ですが、副腎に関してはすでにケアされている方も多いと思います。今回強調したいのは、視床下部のストレス反応の正常化です。この4つを4つともケアするということが最終的に治療効果に影響しています。4つのうち1つでも欠けると、副腎疲労外来に長く通うことになるので是非この4つをケア率先してほしいというのが私からの提言です。

中枢神経副腎
視床下部のストレス反応の正常化
・低血糖対策
・知覚ストレスを減らす
・炎症対策
・概日リズム
副腎保護
・抗酸化
・アダプトゲン
フィードバック正常化
・PC(フォスファチジルセリン)
・アダプトゲン
ステロイドの原料補給
・ビタミンC
・ビタミンD
神経伝達物質のバランス
・神経伝達物質の前駆体、補酵素のサプリ補給
・DHEAやプレグネノロン
ステロイドの原料補給
・ビタミンC
・ビタミンB(B5,B3)
・ミネラル(Mg,Zn)
・副腎抽出物
副腎と脳を両方ケアすること

3-1 HPAとフィッシュオイル

副腎疲労が脳の問題だと分かると、フィッシュオイルの使用を試したくなると思います。実際、HPA軸にフィッシュオイル効果は、10年以上前から言われています。アダプトゲンやグネシウムも良いですが、検査でHPA軸障害を判別できたら、是非フィッシュオイルを使うことをお勧めします。ただ使用すべきフィッシュオイルの量は少し多めで、外人だと10gほどになります。あまり多いと辛いので、その場合は3gでも効果があると思います。

高城さんのメールマガジンで、C8だけの中鎖脂肪酸を使って一度他の食事を全部やめて油を使えるようにしてから、フィッシュオイルを使うと脳が入れ替わるということが書いてありましたが、副腎疲労の人には辛そうな治療だと思いました。ただ、脳機能を上げるためには重要だと思います。

3-2 運動でコルチゾールレベルが上がる

運動はコルチゾールレベルを上げるために大変重要で、ヨガ、太極拳、気功などで睡眠障害、フラッシュバック、怒りの爆発の大幅な減少など、PTSD症状の軽減ができます。マインドフルネスベースのストレッチと深呼吸運動8週間で、PTSD重症度が大幅に低下したり、認知行動療法・段階的な運動がコルチゾールを高めるとの報告が上がっています。

3-3 トラウマとHPA軸

HPA軸の調節不全は心理社会的ストレス、特に外傷性のライフイベントの結果として現れ、ストレッサーのHPA軸変化に対する適応反応は、CFSの素因となるアロスタティック負荷を与える可能性があります。

慢性疲労症候群の50%が子供の頃のトラウマ体験があり、そのトラウマにより、慢性疲労症候群の6倍のリスク増加というエビデンスがあります。ストレスにより母体の海馬のコルチゾール受容体のメチル化、その結果コルチゾールが上昇します。いろんな論文で散見されるのは、特に幼少期のストレスが、副腎疲労、HPA軸障害の発症に大きく影響しているということです。まだエビデンスは不足していますが、幼少期・若年期の経験や家族関係に取り組むセラピストが、とても重要な部分になる可能性があります。

この論文によると「脳はストレスへの反応の鍵となる器官である。何に脅威やストレスを感じるかだけでなく、適応できるのか損傷を与えるかといった生理学的、行動的反応まで決めてしまう」とありますが、生来の資質も非常に影響し、遺伝的素因、性格特性、内向性と低い自尊心、そして出生前と幼児期の経験はストレス反応を増幅します。この部分は、アプローチすべき必須の点だと思います。

4 まとめ

  1. HPA軸機能障害の病態鑑別に日中リズムとCARが有用
  2. 対策はコルチゾールの不適切な分泌をさせない事
  3. 心理学的アプローチ、トラウマ対策の重要性

病態の鑑別には日中リズムに加えて、コルチゾールアウェイキングレスポンス(CAR)を見ることで、PTSDやトラウマを発見でき、その場合は心理的アプローチが必要です。HPA軸が狂うのはコルチゾールの不適切な分泌があった場合に置きるため、それを予防することです。

心理的アプローチやトラウマ対策は重要だと思います。まず自分でできることは、自己肯定感を上げることです。色々な悩みは人が解決してくれるものではないので、自分自身が解決していくしかありません。何故解決しないかというと、勇気がないからかもしれないので、それを勇気づけてあげることはカウンセラーの仕事としてとても重要だと思います。

栄養外来に必要なコミュニケーション

宮澤賢史 · 2021年5月9日 ·

あなたは何のために栄養療法を学んでいますか?仕事に役立たせるためでしょうか?それともご自分と家族の健康のためでしょうか?もしくはその両方でしょうか?そんな方のために、今日は栄養療法外来で必要なコミュニケーションについてお話ししようと思います。栄養外来の成否は知識ではなく、コミュニケーション能力にかかっています。

1 まずは自分の健康を考える

栄養療法のプロになるという上で一番大事なことは、まず自分自身が健康になるということです。

一般医療の場合で抗がん剤を自分で試したことのあるガンの専門医や、向精神薬を全部飲んだことのある精神科の先生はあまりいないと思います。それに比べて栄養療法の医療というのは根本原因にアプローチするため、治療方法と健康増進の方法が一緒です。アプローチすればするほど病気は治り、健康の度合い(オプティマルヘルス)も上がっていきます。自分が健康でないと次のステップに行けないので、まず自分自身が健康になることが最重要課題で、全部自分で試してみるということがまず第一なんです。

医療関係者は貢献が求められがちなので、患者さんに貢献するために自分の健康を害している人が多数いらっしゃいます。徹夜で当直をして患者さんを救うことにより、多大なストレスがかかります。栄養療法は結果が出るのに時間がかかります。副腎疲労を完治するのに2年かかる人が多いです。生活習慣や食事を変えて、体が変わって、それに伴い意識が変わって、ストレスや食事、生活習慣が変わらないと駄目なんだと気がついて、そこから最短でも2年くらいかかります。

2年かけて人を治す間に自分が健康を害してしまったら話にならないので、自分の体をまず治して、長く続けられることをまず第一番に考えてください。

2 プロとしてやっていくのに必要な3つの知識

栄養療法の知識も得て、プロとして始める際必要な知識は下記の3つです。

  1. 栄養療法のスキル
  2. 経営のスキル
  3. コミュニケーション能力

2.の経営のスキルについてですが、最初はともかくそれで身を立てるということは、人からお金をもらうことなので副業で続けていても上手くいかないことが多いです。成功している人とそうでない人の違いは、本業か副業かということです。本業にしても数年かかるかもしれませんし、副業から本業に変えるタイミングが難しいですが覚悟を決めて腰を据えるしかないと思います。

そして一番大事なのが、3.のコミュニケーション能力です。普段の生活に於いては、コミュ障でもADHDでも問題はないですが、この職業の根本的なコミュニケーション能力というのは、患者さんの話をきちんと聞けるか、そして治療の需要性を患者さんに説明できるかということです。

3 コミュニケーション能力が売り上げを決める

私の最初のキャリアは、医者として保険診療という国に守られた診療で始まりました。保険診療と自費診療は少し事情が違っていて、栄養療法をするということは自費診療になるので、国の決まった治療ではない自分独自のサービスを提供するということになります。

保険診療とは定められた国の提供する医療の代理店みたいなものなので、国から約7割のお金が支払われます。それに比べ自費診療は全て自分で決めるため、例えるならば一戸建てを自分で買って、全部自分で内装を決めるという感じです。保険診療の中で栄養療法をすることももちろんできますが、賃貸物件の内装を一部変えてリフォームすることはできても、中にアイランドキッチンを作るなど内装を思い切って変えることはNGです。保険診療の中の栄養療法と、自費診療でやる栄養療法は違ってきます。全部自分で組み立てたいのなら、自費診療がいいです。自費診療とは、普通のセールスやオファーのように提供・提案することです。

栄養療法(オーソモラキュラーの三原則)は、次の3つです。

  • 個体差をみること
  • 生化学的なエビデンス(裏付け)をとること
  • 根本原因にアプローチすること

栄養療法の提供とは、検査をオファーし、その検査の結果から患者の根本原因を見つけ、その根本原因に合った食事を提案したり、サプリメントを販売することです。そのためセールスの技術は必要で、それは一般的には「教育」と言われたり、「コミュニケーション」と言われたりします。

クリニックとしての栄養療法の売上が悪いのは、患者さんが検査やサプリメントの重要性をきちんと理解できていないというのと全く同じです。栄養療法の知識がどれだけあっても、コミュニケーション能力が低いとそのことが患者さんにうまく伝わらないので、結果として売上が落ちて患者さんが来なくなって、口コミがなくなって、うまくいかなくなります。そのため、コミュニケーション能力はとても重要です。

4 コミュニケーションとは具体的に何か?

コミュニケーションとは、具体的に次の3つのことだと考えてください。

  1. 問診
  2. 教育
  3. コーチング

1.の問診とは患者さんの話を聞くことで、2.の教育とは患者さんに話をすることです。栄養療法はサプリメントを処方して終わりではなく、患者さん自身がやらなければいけないことが9割以上です。そのためコーチングというのは、ゴールの目標設定をしてそのゴールをよく見させて馬を走らせてあげることです。例えばグルテンフリーにしたら、どんなメリットがあるのかということを最初にきちんと説明すれば、毎日電話しなくても患者自身が努力してくれます。

ゴールというのは情報の塊なので、きちんとした情報・知識を教育をすれば、それ以上何も言わなくても勝手に行動してくれます。それが成功につながるので、そう言った意味でもコミュニケーション能力は非常に大切です。

5 どういう栄養外来にするか決めておく

栄養療法の知識だけでは不足だと思い、先日ドクター向けの栄養療法外来の養成支援講座を立ち上げましたが、これから始められる方向けに、問診に関しても最初に決めておいた方が良いことをいくつかお伝えします。

それは、まず「どういう栄養療法外来にするか」です。具体的には、お金と患者さんと時間の配分を決めるということです。栄養療法に100%の人生を賭けられる人がいたらそれでも良いですが、患者さんの難易度が上がると得られるお金が減って自分の時間も減ります。患者さんの難易度が下がると、経営的に上手くいって自分の時間も増えます。だからここをまずは具体的に、50%・50%にするのか、30%・70%にするのかを決めたほうが良いです。

栄養療法をされる先生方は保険診療と併用だと思うので、保険診療と自費診療との割合を決めなければなりません。どういう患者さんを診てどこまでは受けないのか、アレルギー、自閉症のお子さんはどこまで診るのか、検査はどこまでするのか、サプリメントの在庫はどこまで抱えるかなどです。自分が熱意を持って取り組める分野があれば色々なものを割いて用意したら良いですが、患者さんのニーズは多様なので自分ができる範囲とできない範囲の線引きをきちんとしておきましょう。

次に診察費用を決めましょう。自費診療外来にどのくらい患者さんが来るかは、開業する前までに流している情報量の多さによります。自費診療なので、プロになるとしたら1回の料金をどうするかということを自分で決めます。高すぎても誰も来ないし、安すぎると疲弊します。私は最初、自費診療の初診料を5,000円で始めたんですけど、今は30,000円にしています。

6 知る⇨好きになる⇨信頼する

自費診療とは需要と供給の関係なので、患者さんが増えてきたら当然価格も上げるものですが、その鍵は情報の発信量、つまりコミュニケーション能力です。まずは診療に来てもらうところからコミュニケーションは始まっています。そのあとは知る⇨好きになる⇨信頼するという流れになります。

信頼するというフェーズになって、初めてこの人に診てもらおうかという気になります。まず相手を知り、好きになって、信頼されるというところまで行くには、現状ならネット上でいかに沢山情報を出すかということです。情報を沢山出せば出すほど、価格は上げても大丈夫です。情報を出していない人は最初は無料にしてください。無料の情報をシェアすることで、コミュニケーションのネット上の仕組みができてきて、そこではじめてきちんと診療ができるようになります。

もちろん口コミや、保険診療で診察したことのある患者さんの付き合いが、ネット上よりベストです。保険診療の患者さんとコミュニケーションができていて信頼されているのであれば、自費診療の話をしても良いと思います。物事には順番があるので、どのようなスタイルでやるかを考えてみてください。私の場合は保険診療の患者さんに声をかけることはほとんどしていないため、ネット上で来た人が99%です。この信頼をネット上で得る仕組みを構築しています。

7 なぜ◯◯が必要なのかを伝える

栄養療法の勉強で一番勉強になるのは、他人に教えることです。他人をカウンセリングするというのが究極の形です。

検査をオファーしてサプリメントや治療を提案するときに、「何故この検査は必要なのですか?」「何故このメーカーのサプリメントでないとだめなんですか?」「何故一番最初にデトックスをやってはいけないんですか?」「何故最初に低血糖の治療からやらなければいけないんですか?」などの質問に答えられるでしょうか?自分でもきちんと理解した上で、クライアントに説明しないと当然上手く伝わりません。

例えば、メタジェニックス社の「グルテンダイジェスト」という製品は、消化酵素のサプリメントをお薦めする理由はこんな感じです。

「一般的に消化酵素はタンパク質の端から切っていきます。グルテンを端から切ることによって途中でモルヒネ様物質であるグリアドルフィンができます。そのためグルテンの消化が悪い子供がグルテンを摂ると、中途半端な消化によるモルヒネ様物質を脳内に作り出してしまいます。しかし、グルテンダイジェストにはグルテンタンパクを真ん中から切るという特殊な成分が入っています。真ん中を切ることで消化の効率も良くなりますしグリアドルフィンもできません。その成分を使っているのは、現在メタジェニックス社ともう一社だけです。」

このようにして、なぜこのサプリや検査が必要か、なぜこの順番でやらなくてはならないかなどを順番に説明していきます。

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