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宮澤賢史

副腎疲労の正体はHPA軸機能異常

宮澤賢史 · 2021年5月9日 ·

副腎疲労は副腎から放出されるコルチゾールというホルモンが減って具合が悪くなるという疾患の概念です。

僕が2007年に副腎疲労という概念を知ったのは、「Adrenal Fatigue」という本を見たのがきっかけです。この本の著者のジェームズ・ウィルソンという方は自然療法医で、カイロプラクターでもありました。彼がストレス生理学の分野の研究に基づいて、1998年に副腎疲労という用語を作り出しました。21世紀のストレス症候群として副腎疲労がクローズアップされると確信していたんですね。

1. きっかけはビタミンC

1979年、分子栄養学の創始者ライナス・ポーリング博士は、レイベン病院の外科部長のイーワン・キャメロン先生と共著で「Cancer and VitaminC」という本を出版しました。末期ガンの患者にビタミンCを点滴したら、ガンは治らなかったけど、生活の質が上がって、生存期間が伸びたことを記した本です。

同時に論文も発表されましたが、その後すぐにメイヨー・クリニックが反対論文を発表したため、結局ビタミンCの効能は医学会から忘れ去られました。そんな中、たった1人ビタミンC点滴を治療として続けたのが人体機能改善センターのH・リオルダン医師です。彼は変わり者呼ばわりされながらも、30年間研究を重ねて、2000年に高濃度ビタミンCががん細胞を殺傷するという論文を発表しました。(2005年にWHOがこの論文を元に追加試験を行い、その後すぐに世界的なビタミンC点滴ブームがおきました。)

2004年、リオルダン医師の友人だった師匠の紹介で、僕はカンザス州の人体機能改善センター(現リオルダン・クリニック)にビタミンC点滴のやり方を習いにいきました。リオルダン先生は点滴の方法を教えてくれただけでなく、慢性疲労や自閉症の患者さんの診察にも立ち合わせてくれました。

僕はここを訪れるまで、点滴のビタミンCを「効果は強くないが副作用も少ない抗がん剤」だと考えていたので、がんをどの位小さくできるかという事にばかり関心がありました。でも、リオルダン先生は、自宅の裏にある湖(写真左上)のボートの上で「抗がん作用はビタミンCの多くの作用のうちごく一部にすぎない。もっと全身の事を考えなさい。」という話をしてくれました。

帰国してみると、クリニックにはビタミンC点滴の話を聞いた多くのがん患者さんが集まっており、早速治療を始めました。75g以上で抗がん効果があると聞いて、100gのビタミンCを週3回から6回点滴しました。静岡在住の患者さんに毎日新幹線で通ってもらって点滴していたら顔は真っ白になりました。ビタミンCの美白効果はてきめんでしたが、ガンはあまり小さくなりませんでした。多いときは月にビタミンCのバイアルを1000本以上使いました。

結局、4年間で700名のがん患者さんに点滴を行いましたが、がんが完全に消失したのは2人だけでした。でも、がんは消えないけど、みんな元気なんです。よく考えてみたら、末期がんの人が静岡から渋谷のクリニックまで週6回元気に通ってくる事はすごい事です。

ビタミンCには何か体を元気にする、特別な力があるんだと考えるようになりました。

2007年、再びリオルダン・センターに行きました。その時にクリニックの売店で見た本が、この「Adrenal Fatigue」だったのです。こんな病態があるのか!とても衝撃的だったことを覚えています。

2. ビタミンCは副腎に多い

帰国後ビタミンCの点滴を副腎疲労に利用しようと考えました。リオルダン・センターのロン先生の発表に「血管を1とすると、白血球には80倍、副腎の中には150倍の濃度のビタミンCが存在する」とあったので、ビタミンCは副腎に使えると思ったからです。

文献によれば、モルモットにビタミンC点滴をすると体内で脳や副腎、水晶体に偏って分布します(左上の図)。それなら、ヒトの副腎にもビタミンCは移行しやすいと考え、副腎疲労の患者さんに点滴を試してみたら、なんと63%に症状の改善効果が認められました。

ビタミンCは、無駄なコルチゾール分泌を抑え副腎の負担を取り去ってくれます。左上のグラフのパターンを示すのは過緊張の人ですが、このような人にビタミンCを点滴すると、緊張がとけてリラックスできます。ただし、元々コルチゾールが低めの人にビタミンC点滴を入れるとコルチゾールが激減して、立ちくらみを起こしてそのまま倒れてしまう場合があります。初めてのビタミンC点滴は、必ずリクライニング・チェアで受けることをお勧めします。

そんな経験から、副腎疲労とビタミンCの関係に確信を持ち、副腎疲労のホームページを作りました。 以来、グーグル検索で副腎疲労というキーワードで3年間1位を取りました。 おかげで患者さんがすごく増え、「副腎疲労とはなんぞや物語」という漫画を出版したり、2015年には副腎疲労脱出セミナーも開催しました。調子に乗ってたんですが、それは長続きはしませんでした。

3. アドレナル・ファティーグ神話

アドレナル・ファティーグをPubMed(論文検索サイト)で調べてみると一番上に出てくるのは「アドレナル・ファティーグは存在しない」と言う論文です。

例えば、筋肉疲労だったら乳酸が溜まったりしますよね。副腎に乳酸が溜まるわけでもないし、そもそも、副腎が疲れる事ってあるんでしょうか?

実は、ストレスで副腎が疲労する、もしくは機能しなくなるというエビデンスはありません。

4. ハンス・セリエのストレス反応

1952年に出版されたハンス・セリエ著の「適応症候群」。その中で、ラットにストレス負荷を与えて解剖してみると、副腎が腫れ上がり胸腺やリンパ節が小さくなり、免疫が低下した、とあります。彼は、副腎の腫脹と、リンパ節の萎縮、胃の出血を「セリエの三徴」と名付けました。

これがいわゆるストレス反応で、副腎疲労になると、副腎は萎縮するのかなと思いきや逆に腫れ上がります。なぜ腫れ上がるかの論文は見つからなかったのですが、恐らく副腎髄質のせいです。 副腎皮質はステロイドを作っていて、副腎髄質はアドレナリンを作っています。副腎髄質は作ったアドレナリンを貯めておけるのに比べて、副腎皮質はコルチゾールを貯めておくことはできず、ACTHの命令があったときにその場で作るのみです。

副腎疲労になると、足りないコルチゾールの働きを補うために、アドレナリンがいつも出るようになります。このような人は、副腎髄質が働きっぱなしなので副腎が腫脹します。足つぼ治療を受けた方はご存知だと思いますが、副腎の足のツボは真ん中にあります。副腎疲労の人はそこに痛みを感じますが、それはアドレナリンが出続けて副腎に負担がかかっているからです。

5. コルチゾールが減る理由

ではなぜ副腎ホルモンが減ってしまうのでしょうか。コルチゾールを出しているのは副腎の中でも皮質という部分です。副腎皮質が脳から受け取るACTHという信号と、副腎皮質内の酵素の2つがコルチゾールの出力を調整しています。コルチゾールが低下する原因は、外部信号が弱くなるか、酵素の活性が弱くなるかのどちらかなのです。副腎が疲れるからではありません。

下記の図は、脳にストレスがかかるとストレスホルモンが出続けてだんだん疲れてくるという副腎疲労の図ですが、私が独立したときに初めての副腎疲労の患者さんに作ってもらいました。Adrenal Fatigueの本の挿絵に擬人化された副腎が疲れているイラストがあったので、それを参考にしたんです。

でも正確には副腎が疲れることはありません。この図は正確ではないのに色々なところで真似されました。今でもネット上で似た様な図を沢山見かけます。繰り返しますが、疲労しているのは副腎ではなく脳(下垂体)です。この事実を踏まえて、図を書き直してもらいました。

ストレスがかかると脳からACTHというホルモンが放出され、それが副腎を刺激してコルチゾールが出ますが、副腎疲労の人では、ストレスがかかってもACTHが放出できません。つまり、副腎疲労の正体は下垂体疲労なんです。この様にストレスに対する下垂体の反応が悪い状態をHPA軸機能障害と呼びます。ストレスで副腎機能が低下するというエビデンスはありませんが、鬱などの様々な疾患でHPA軸の機能が低下するというエビデンスは沢山あります。

6. HPA軸機能障害

脳の視床下部から副腎皮質刺激ホルモン放出ホルモン(CRH)が出て、下垂体がその命令を受けてACTH(副腎皮質刺激ホルモン)を分泌します。それを受けた副腎がコルチゾールを出し、コルチゾールが出過ぎないように視床下部と下垂体にネガティブフィードバックをかけます。これによってCRHとACTHがバランスを保ちます。

これをHPA軸(hypothalamic-pituitary-adrenal Axis)と言います。

この視床下部、下垂体、副腎の連携が上手く取れないことをHPA軸機能障害と言います。コルチゾールが出過ぎるパターン、出にくいパターンがあります。

6-1. 鬱病ではACTH、コルチゾールが出過ぎる

鬱病の人は、CRHもACTHも放出されて、その結果コルチゾールも沢山分泌されてしまいます。コルチゾールが大量に出たら普通はネガティブフィードバックがかかって、視床下部と下垂体にこれ以上刺激ホルモンを出さないように抑制しますが、鬱ではそこがうまく機能しません。その結果、ACTHとコルチゾールが出続けてしまいます。報告によれば、うつ病患者の50%は、血中グルココルチコイド濃度上昇によるHPA軸の負のフィードバック機能障害が認められています。

6-2. 慢性疲労、PTSDではACTH、コルチゾールが出にくい

それとは反対に、会社の社長(視床下部)が部長(下垂体)に叱咤激励するのにも関わらず、部長がやる気がなくて、その結果部下(副腎)も全く働かないというのがPTSDや慢性疲労のパターンです。論文によると、慢性疲労症候群と線維筋痛症(FM)の女性に基礎コルチゾールの優位な減少が見られたり、概日周期及び朝のACTH分泌レベルが低下しているとかいうことが分かっていて、慢性疲労症候群の人は下垂体レベルから疲労しています。

様々なタイプの精神疾患とHPA軸機能障害の関係についてBaumeisterらがこのように報告しています。

https://link.springer.com/article/10.1007%2Fs00127-014-0887-z

7. HPA軸が狂う4つの原因

副腎疲労の正体は、HPA軸機能障害です。HPA軸が狂う原因は、コルチゾールの過剰分泌にあります。コルチゾールの働きは6つあります。

  • 炎症抑制          
  • 血糖上昇
  • 抗ストレス効果
  • 日内変動
  • 免疫抑制
  • タンパク異化

そのため下記の4つの原因がコルチゾールの異常分泌を招きます。

  • 慢性炎症
  • 血糖の乱高下
  • 慢性ストレス
  • 慢性の夜更かし

副腎疲労を治すためには、つまりHPA軸異常を治すためには、この4つに切り込むことが必須であり、HPA軸機能障害の権威であるトーマス・ギリアム博士によればこの4つのストレスは十分修正可能ということです。

7-1. 慢性炎症

炎症性サイトカインがHPA軸を活性化し、コルチゾールを放出します。リウマチ、クローン、MS、喘息、皮膚炎などの炎症性、代謝生の炎症疾患でもHPA軸の低下が見られます。また、糖尿病の人もHPA軸が狂っています。長期の炎症はコルチゾール耐性を引き起こし、炎症を増加するので、炎症を治すことはとても重要です。

7-2 .血糖値の乱高下

炎症性サイトカインが過剰に分泌されると、インスリンの働きが悪くなり内臓脂肪が増えます。内臓脂肪は炎症性物質なので悪循環となります。ストレスに対してコルチゾールが過剰分泌されるHPA障害が、糖尿の原因の一つだと言われています。糖尿病に詳しい方はお分かりだと思いますが、血糖値を薬や食事、運動で一時的にコントロールをしても、気を抜くとすぐ血糖値上がります。このため糖尿病の完治はなかなか難しいですが、一つの可能性としてはHPA軸障害が挙げられます。HPA軸が障害されて、ちょっとしたストレスでコルチゾールが大量分泌されると、高血糖は治りません。

また、血糖値が50などの絶対値だけを問題視するのではなく、200から100に急に下がるといった変化量が大きい場合も、HPA軸に負担をかけます。

7-3. 夜更かし

睡眠障害とサーカディアンリズム(概日リズム)の低下は、強力なストレッサーとして機能し、HPA障害を起こしてとても疲れやすくなります。炎症も食事も気をつけているのに、深夜1時に就寝するという人は沢山います。副腎疲労をきちんと治そうと思ったら、11時までに寝ることが重要です。体を修復する成長ホルモンのピークが夜中の12時だからです。

なかなか概日リズムが治らない人は、とにかく朝起きて1度朝日を目に入れてください。視交叉上核という光を感じ取る脳の中に核があって、そこで概日リズムを調整しています。朝早く起きれば、この視交叉上核が光を感知してメラトニンの産生を止めます。朝メラトニンがダラダラ出てるからいつまでも眠くて、その結果夜にメラトニンが出なくて眠くならないので、その悪循環を止めることが重要です。どうしても眠かったらその後寝てもいいですが、朝に視交叉上核を起こすというのが大事です。

睡眠自体が難しい場合は、根本原因ピラミッド3つを考えてください。ホルモンと消化器と解毒です。ストレスと低血糖、 消化不良によるカルシウム・マグネシウム・亜鉛不足が睡眠不足を起こします。 また、トリプトファンがセロトニンを介してメラトニンになるので、タンパク不足も不眠の原因になります。肝臓の解毒のピークは午前1時から3時のため、解毒が上手くいってない人や毒物が沢山溜まっている人は、肝臓が働き過ぎて夜中に起きてしまう可能性があります。

概日リズムを積極的に整えて、それでも眠れない場合はこの3つを考えてみてください。特に不妊治療の人は、ミトコンドリア機能を上げていかないといけないため、夜10時には寝てください。ミトコンドリア機能を見る目安は基礎体温です。

7-4. ストレス(自分がストレッサーだと感じるものの存在)

ストレスの特徴の一つは、寒さや飢えなどの「本当の脅威」と精神的、感情的、心理社会的ストレスなどの「脅威と感じたもの」を区別出来ないことです。つまり森の中で熊にあったっていうストレスと、会社に行くのが嫌だというストレスの区別がつかずに、脳はどちらのストレスにも同じ反応をするということです。

2つ目のストレスの特徴は、脅威と感じるものは人によって異なるということです。過去のストレス経験やトラウマ、くせ、人格が神経伝達物質に大きく影響を与えます。ストレスは正式にはストレッサーといいます。飲み会は私にとってストレスだというのは、正しくは飲み会は私にとってストレッサーだ、となります。

ストレッサーに対する反応の大きさはストレッサーそのものではなくて、個人の認識に基づいています。そのため飲み会がストレスになる人とならない人がいるのです。同じように、人前で話すことをストレスに感じる人と感じない人がいます。僕はものすごく緊張して手先が冷たくなりストレスに感じます。みのもんたさんは朝の番組の前に必ず生ビールを一杯飲んでから話すと聞いて、みんな同じなんだと思って少し安心しました。

自分にとって何がストレッサーなのか知りたい方は「Percieved Stress Scale」という質問表をチェックしてください。他人にとってはほんの些細なことでも、自分がストレスと感じるものであれば、それはストレスになるのです。

8. コルチゾール分泌が続くと脳が萎縮する

慢性ストレスが続くと、コルチゾールが脳の分解をするため特に脳の海馬を含む組織が萎縮していきます。これを「アロスタティック負荷」と言います。これを防ぐためストレスがかかってもコルチゾールを分泌しないように身体が脳からの命令物質ACTHを出さない様に調整します。これをHPA軸のダウンレギュレーションと言います。副腎疲労は過剰なコルチゾールから身体を守るための、HPA軸のダウンレギュレーションなのです。

9. まとめ

副腎疲労の正体はHPA軸の機能障害です。僕も最近、診断書には「HPA軸機能障害」と書くように改めました。HPA軸機能障害の原因は、HPA軸に長期間にわたり負担がかかることです。

HPA軸障害の病態の鑑別には唾液中コルチゾールを測定して、日中リズムに加えて、コルチゾールアウェイキングレスポンス(CAR)を見ます。

HPA軸機能異常(いわゆる副腎疲労)の検査と治療

コルチゾール・スティールは存在しない

宮澤賢史 · 2021年3月17日 ·

副腎疲労は疾患の進行に伴い、コルチゾール・スティールという現象を引き起こすことが有名です。それに関連して「もともとエストロゲン過剰がある場合、副腎疲労でコルチゾール・スティールが行われたほうが、エストロゲンが減少してちょうどいいのでは?」とご質問がありました。コルチゾール・スティールとは何か?、本当に存在するのか?についてお答えします。

1 エストロゲン過剰について

まずは、エストロゲン過剰の話からです。生理周期に伴う二つの女性ホルモン(エストロゲンとプロゲステロン)は、生理の周期にしたがって、下記の図のように絶妙なバランスの上に成り立っています。生理開始から2週間(卵胞期)はエストロゲンのみが上昇し、排卵後の後半の2週(黄体期)はエストロゲンとプロゲステロンの両方が上昇します。卵胞から排卵し、それが黄体に変化して、黄体からプロゲステロンが分泌されるため、図のような形の大きな山が形成されます。

エストロゲンとプロゲステロンは、身体の中で反対の働きをします。お互いに押さえ込むような働きをするため、この二つのホルモンが両方とも同じように分泌されるのが理想ですが、このバランスが崩れる原因は下記の4通りです。

1 無排卵(排卵後の卵胞である黄体からプロゲステロンが作られる)
2 ダイオキシン、水銀、アルミニウム
3 前更年期(閉経するとEレベルは40-60%、Pレベルは120分の1に低下)
4 高脂肪食

2 エストロゲン過剰の原因

では、これらを一つずつ詳しく見ていきましょう。

2-1. 無排卵

排卵しないと黄体ができないため、プロゲステロンが分泌されません。多嚢胞性卵巣症候群や、インスリン抵抗性が強めの女性に無排卵の人が多いと言われています。
無排卵かどうかの判別は、基礎体温の計測でわかります。基礎体温は排卵の時期だけを知るためのものではありません。プロゲステロンは、甲状腺ホルモンの働きを介して体温を上げるので、健康な女性であれば、卵胞期に比べて黄体期は0.3度以上上がっているのが普通です。黄体期に体温が上がらない場合は、黄体機能不全かミトコンドリア機能不全のことが多いです。血液検査をするよりも、基礎体温を測ることで自律神経の緊張度合いとミトコンドリア機能が分かるので、特に若い女性にとって計測は不可欠です。

2-2.前更年期

35歳-60歳の間の前更年期には、生理的に女性ホルモンが減少します。エストロゲンは40-50%減りますが、プロゲステロンはもっと減り幅が広く、90-95%減ります。プロゲステロンの方が多く減るために、相対的にエストロゲン過剰になります。

2-3.ダイオキシン、水銀、アルミニウム

プラスチックのボトルや魚、ダイオキシンなどの環境ホルモンなどのホルモン撹乱物質は、エストロゲン様の働きを持っているためエストロゲンを優位にします。

2-4.高脂肪食

ホルモンの規制の問題でアメリカの牛肉は日本の牛肉の600倍のエストロゲンが入っているため、エストロゲンの働きを狂わせます。

これらの原因により、女性のみならず男性もエストロゲンの海に浮かんでいると言われていて、この状態を「エストロゲン優勢症候群」と言います。エストロゲン優勢症候群になると、様々な問題が起きます。エストロゲンは女性らしさを保つためにとても重要なホルモンですが、過剰に分泌されると乳がん、子宮がん、子宮内膜症、子宮筋腫など女性特有の問題を引き起こすことになります。

PMSや生理痛が強いのも立派なエストロゲン優勢症候群です。生理痛が強いということは、つまり物理的に子宮を曲げる力が強いということです。子宮を収縮させるのはエストロゲンとプロスタグランジンE2で、これには食生活が影響します。

3 コルチゾール・スティールとは

次は、コルチゾール・スティールの説明です。コレステロールからプレグネノロンを得て、コルチゾールとエストロゲンが生成されます。ストレスなどによってコルチゾールの需要が高まり、ホルモンの材料が全てコルチゾールに奪われてDHEAやエストロゲンが減少することを、一般的に「コルチゾール・スティール」と呼んでいます。

プレグネノロンはすべてのステロイドホルモンの前駆体なので、ストレスによるコルチゾールの過剰分泌は必然的にDHEAと他の下流ホルモンを製造するための前駆体として利用されるプレグネノロンを奪ってしまいます。

こちらのグラフは副腎疲労のステージ表です。非常にストレスがかかった副腎疲労の抵抗期のステージ1では、コルチゾールは上昇しますが、性ホルモンであるDHEAは減っています。このグラフで見るとあたかもプレグネノロンがコルチゾールに奪われてDHEAが下がっているように見えます。

副腎疲労に伴い、女性ホルモンが少なくなることを「コルチゾール・スティール」と言います。それでは、コルチゾール・スティールはエストロゲン過剰と同時に起きればちょうどいいんじゃないでしょうかというのが、冒頭のご質問の意味でした。

4 副腎皮質と主な生成物

下記は、ウィキペディアに掲載されているコレステロールの代謝マップです。

一番左上にある図が、コレステロールです。コレステロールが、各代謝によって様々な物質に変化していきます。右上にあるのは、コレステロールから生成されるアルドステロンです。コルチゾールも同じくコレステロールからできます。右下のピンクの三角形にあるのは女性ホルモンです。エストロゲンは、E1(エストリオール)、E2(エストラジオール)、E3(エストロン)の3つの総称ですが、全てコレステロールから生成されます。DHEAなどの様々なホルモンは、コレステロール骨格を持っています。副腎をウィキペディアで調べてみると、4層構造に分かれています。

副腎皮質と副腎髄質、真ん中にあるのは副腎髄質です。副腎皮質は、さらに球状層、束状層、網状層による三層構造に分かれています。球状層から主にアルドステロン、束状層からコルチゾール、網状層からDHEAというホルモンが生成されます。アドレナリン(エピネフリン)とノルアドレナリン(ノルエピネフリン)を作っている場所が副腎髄質で、その外側に副腎皮質があり、3層構造に分かれています。束状層は6割の大きさがあり、コルチゾールを生成しています。副腎皮質の場所によって主な生成物が違うということがこの図から分かります。

副腎皮質からはアルドステロンが分泌されて腎臓に働きます。2層目の束状層からはコルチゾールが分泌されて肝臓に働きます。内側の網状層は性ホルモンなので、生殖器に働きます。副腎髄質からは、エピネフリンが分泌されて心臓や血管に働きます。

コレステロールの代謝マップは、すべての代謝を一度に記載しているので誤解を招きがちです。実際にこのように全ての臓器で色々なホルモンが均等に生成される臓器や組織はありません。代謝マップの緑の縦の棒が酵素です。臓器や組織によって発現している酵素が違うので、組織によって生成物は異なってきます。

4-1球状層の場合

球状層の主な生成物はアルドステロンですが、その特徴はアンギオテンシンⅡ受容体が発現していることです。つまりアンギオテンシンⅡ受容体が球状層にくっついて、酵素反応が起きます。例えばCYP11B2遺伝子が発現しているところで、CYP17遺伝子は欠損しているため、下層には反応がいかなくなります。アンギオテンシンⅡ受容体が働くと、コレステロールがプレグネノロンに変換されます。プレグネノロンは本来下層にも働くのですが、CYP17遺伝子の酵素が欠損しているため右にしかいけません。青枠で囲まれた酵素が発現してるので、一部コルチゾールもできまが、腎臓でナトリウムの再吸収をするアルドステロンが生成されます。

4-2 束状層の場合

束状層は、副腎皮質刺激ホルモンの受容体があるためACTH(副腎皮質刺激ホルモン)に反応します。球状層とは違って、CYP17遺伝子が発現しているため二段目まではいけますが、17,20 lyaseの発現がないので三段目の性ホルモンには到達できず、コルチゾールが主な生成物になります。

4-3 網状層の場合


網状層の場合は、球状層とか束状層には存在しない17,20 lyaseが発現してるので、一番下層まで到達できます。それとは逆に、CYP21A2とCYP11βの酵素の発現がないため、右にはいけません。そのため網状層ではDHEAが生成されます。右下の四角内の赤がミトコンドリアで、緑が発現小胞体です。コレステロールがプレグネノロンに変換されるのは、細胞のミトコンドリアの中で行われます。小胞体ではタンパク質が生成されます。小胞体でこれらの酵素がつくられるかどうかはエピジェネティクスによって違います。つまり細胞や組織によって小胞体で生成される酵素が違うため反応が異なるということになります。

上の図のようにACTHやアンギオテンシンⅡなどの細胞外からの刺激によりミトコンドリアに指令があると、コレステロールが外膜から内膜に移動し、プレグネノロンに変換されます。プレグネノロンに変換されるとミトコンドリアの外に出て、小胞体の酵素によって形が変わっていきます。このプレグネノロンは小胞体で生産される臓器特異的(組織特異的)な酵素によって各ホルモンに代謝され、最終的に細胞外に分泌されます。それをまとめたのが下の図です。

球状層でコレステロールのプレグネノロンに変換されるのは、それぞれの副腎皮質細胞のミトコンドリアで起こります。そのミトコンドリアの中で、コレステロールがプレグネノロンに変換されて、プレグネノロンが組織特異性のある酵素で、アルドステロンやコルチゾール、DHEAに変換されます。つまり球状層のコレステロールは、アルドステロン専用、束状層のコレステロールは、コルチゾール専用、網状層のコレステロールはDHEA専用ということです。

「コルチゾール・スティール」というのは、コルチゾールが足りなくなるため他のDHEAをつくるための材料のコレステロールが全部奪われるということですが、球状層や束状層でコルチゾールを作るために、網状層のプレグネノロンやエストロゲンが奪われ、細胞壁を超えて移動するというエビデンスは今の所出ていません。

繰り返しますが、Wikipediaのコレステロール代謝マップは、各ステロイド産生組織間で異なる酵素活性度を示していないため、混乱しないようにしてください。

5 コルチゾールスティールは神話である

下記は、1996年出版のブラックウィル先生の「必須内分泌学」第三版に載っている図です。コルチゾール・スティールの説明のために少し修正されていますが、左下の丸から腎臓、肝臓、卵巣、精巣となります。General circulationとあり、全身の流れでこのようなことが起きているということが教科書に書いてあるので誤解を招きます。 PubMedでコルチゾール・スティールを調べてみると、たった10件しか検索結果が出てきません。コルチゾール・スティールがいかに一般医学会からは異端扱いされているかということが分かります。

この図を見ると、いかにも共通のコレステロールプールがプレグネノロンプールがあるように見えますが、タンパク質はローテーションしていても身体にアミノ酸プールがないように、全身のホルモンに共通したプレグネノロンプールは存在しません。

6 ではなぜ、コルチゾール↑DHEA↓が起こるのか?

コルチゾール・スティールが起こらないとしたら、副腎疲労の第一期では、何故下の図のようにコルチゾールが上昇し、DHEAが下降するのでしょうか。現在考えられているのは、ストレスによる刺激応答への低下や、コルチゾール上昇に伴う耐糖能障害です。

高血糖が健常男性のDHEAレベルを急激に低下させます。コルチゾール↑、DHEA↓のコントロール不良2型糖尿病患者では、網状帯でのDHEA形成に必要な酵素(17,20リアーゼ)活性が低下。血糖コントロール改善後に、酵素活性が修正され、コルチゾール、DHEA、およびDHEA-Sレベルも正常化します。また、炎症性ストレス下では、網状帯がDHEA産生をダウンレギュレートします。

コルチゾールは血糖値を上げます。血糖値が上がると、DHEAは下がります。何故DHEAが下がるのかというと、コントロール不良2型糖尿病患者では、網状帯でもDHEA形成に必要な酵素である17,20リアーゼの活性が低下するからです。高血糖が一部の酵素活性を落とすということが明確になってきています。

もう一つDHEAのレベルを落とすのが、炎症です。炎症ストレス下では網状帯がDHEA産生をダウンレギュレーションします。その結果、コルチゾールが上昇して、DHEAが下降します。コルチゾールとDHEAの関係性は非常に大切で、コルチゾールはタンパクを異化するホルモンです。コルチゾール分泌が過多になると身体が分解していきますが、DHEAはその反対の働きをするアナボリック(タンパク同化)ホルモンなのです。コルチゾールが分泌されるとDHEAも同時に上がって、過剰なタンパクの異化を抑えるように身体の仕組みとしては働いているのですが、DHEAが急激に減少するということは、カタボリック(タンパク異化)が亢進するということなので、DHEAはとても大事になります。

7 コルチゾール・スティールがないと言えるもう一つの理由

そもそもコルチゾール・スティールが本当に存在するとしたら、朝コルチゾールが上昇するときに、エストロゲンの分泌が減るはずです。エストロゲンは日内変動はないのでここからもコルチゾール・スティールが当てはまらないと言うことが分かります。

エストラジオールとコルチゾールの血中濃度は、28.8~196.8pg/ml、コルチゾールは4.5万~21.1万pg/mlと、1000倍以上あることが分かりました。つまりコルチゾールは大量なので、エストラジオールが多少コルチゾールを盗んでも足しにはならないということが分かりました。

つまりコルチゾール・スティールは存在しませんが、エストロゲン過剰とコルチゾールの低下はそれぞれに対して個別に対処すべきというのが冒頭の質問の答えになります。

8 エストロゲン過剰への対処法

エストロゲン過剰に対しての対処法を知るのに参考になる本はプロゲステロンクリームを世に広めたジョン・リー先生の「医者も知らないホルモンバランス」という著書です。もうお亡くなりになられましたが、この本はとても有名で、今改訂版が出ているのでご興味ある方はぜひ読んでみてください。

「What your doctor may not tell you about」というシリーズで、「about Menopause」「about Psyroid」「about Oslo」などがあります。

「What your doctor may not tell you about」というシリーズで,日本語に訳されているのは3種類くらいですが、その中でもこれは良書です。この本には、プロゲステロンは大変万能な働きをしていて、その働きの一つには過剰なエストロゲンを抑えるとあります。だからエストロゲン過剰症候群が辛い人に、プロゲステロンクリームを使ったらいいのではないかと勧める本です。 ただなかにはプロゲステロンクリームの効果がない人もいます。そのような場合は、根本原因ピラミッドを遡って調べるのが良いと思います。根本原因ピラミッドの特に下の3つがとても重要です。ホルモン、消化器、デトックスです。

1.ホルモン

もしプロゲステロンクリームが効かない場合、まず最初に考えられるのは副腎疲労です。副腎ホルモンが、PMSや更年期症状などの女性ホルモン症状の主な原因となります。副腎ホルモンはホルモンヒエラルキーの一番下なので、女性ホルモンの問題を解決するためには、まず副腎をケアすることが鉄則です。

2. 消化器系

不安定な血糖値、炭水化物やお菓子の過剰摂取、消化機能の低下、食物過敏症はすべて、女性ホルモン問題の一因です。これらの原因により、血糖値が上下して腸の炎症が起きます。腸内細菌バランスもとても大切で、腸内細菌はエストロゲンを分泌しているので、腸内細菌バランスが崩れるとE1,E2,E3のバランスが崩れます。それがエストロゲン優勢症候群の原因とも言われています。

3. 解毒

副腎疲労も治したし、胃腸のケアもしているのにPMSが強い人は、デトックスをされてみてください。ピルの服用またはホルモン補充療法を受けた女性は、外部ソースからのホルモンを体が排除しようとする肝臓の解毒経路に余分な負担をかけます。エストロゲンは、肝臓でCOMTという酵素で代謝され、ビタミンB6がその補酵素となります。メチレーションが回っていない人や、ビタミンB6が不足している人は、エストロゲン過剰の症状が強く出ます。特にプロゲステロンクリームが効かない人、乳がん、子宮頸種、女性特有の問題を抱えている人が最初に取り組むべき栄養療法は、肝臓へのアプローチで女性ホルモンへの対処に大変重要です。 

プロゲステロンの働き

  • 妊娠の継続
  • 脳機能を保つ(脳細胞中のPレベルは血中の20倍、GABA-R に結合)
  • 体温を上昇させる
  • 過剰なエストロゲンの働きを抑える
  • 他のホルモンの前駆物質

分子栄養学で使われる検査

宮澤賢史 · 2021年3月15日 ·

血液検査

一般的な病院でも受けていただける検査ですが、ご相談は栄養療法を扱っているクリニックをお勧めいたします。

推奨項目
WBC RBC 血色素量 ヘマトクリット MCV MCH MCHC 血小板 網赤血球 白血球像
Fe TIBC UIBC フェリチン
HDL-C LDL-C TG FFA
GOT GPT γ-GTP ALP TTT T-BIL D-BIL LDH Ch-E
TP 蛋白分画 BUN Cre
Na K Cl Ca P  Mg CPK UA AMY CRP定量
亜鉛 銅 BS HBA1C インスリン
ヘリコバクタピロリ抗体 IgG
ペプシノーゲンⅠ ペプシノーゲンⅡ ペプシノーゲンⅠ/Ⅱ比
TSH,FT3,FT4(甲状腺ホルモン検査)
ホモシステイン、血中ビタミンD(25OH-D)濃度

有機酸検査

尿中の有機酸(代謝の過程で生成される化合物)を調べる検査です。例えば、腸に住んでいる酵母菌の産生物を見ます。この産生物はサイズが小さいため、正常の消化管でもある程度は吸収され、門脈から肝臓、腎臓を経由して、尿細管から排出されます。これによって、尿の検査をすることで消化管で何が起きているかを間接的に見ることができるのです。

また、多くの精神疾患で脳内のドーパミンレベルが高いことが報告されていますが、ドーパミンが代謝されずに残っていないか?なぜ、代謝が妨げられているのか?(原因は、銅やビタミンC不足、そして腸内のクロストリジウム)など、神経伝達物質の代謝を見ることもできます。他に、細胞の代謝(糖質、タンパク質、脂質の代謝)や、ビタミンの過不足などもわかる総合的な検査です。

通常は栄養療法クリニックのみでの取り扱いです。腸内環境からミトコンドリア機能、ビタミン不足、三大栄養素の代謝など幅広い項目をカバーしている検査です。米国のグレートプレーンズ研究所が提供しています。

毛髪ミネラル検査

毛髪中に含まれるミネラルや重金属を測定する検査です。毛髪は便や尿、汗と同じく人間の大事な排泄経路のひとつです。血液中のミネラルはいつもバランスが自動調整されているため、体内蓄積量を正確には反映しません。その一方で、体内のミネラル類は、血流を通じて毛髪に付着しやすい性質を持っており、毛髪は日々の栄養バランスを継続的に記録しながら伸長するため、体内のミネラルバランスの傾向をみるのに最適な検査といえます。

毛髪の根元から1cmごとに1ヶ月分のミネラル状態を表していると言われています。有害重金属、必須ミネラルの排泄量を測定することで、有害重金属の排泄能力、ミネラルバランス、腸内環境に異常があるかどうかがわかります。有害重金属とは、水銀、アルミニウム、カドミウム、ヒ素、鉛、ニッケル、ベリリウムなどがあります。必須ミネラルとは、人間にとって必要不可欠なミネラルのことで、カルシウムや、マグネシウム、亜鉛、銅などのことです。

有害重金属は食事、水、空気、日用品などから体内に取り込まれ、多彩な症状を引き起こし、老化や体調不良、様々な病気の原因になります。通常は栄養療法クリニックのみでの取り扱いです。毛髪中の必須ミネラルや重金属を検出する検査です。ミネラルバランスを把握し安いドクターズ・データ社の検査を推奨しています。

尿中ミネラル負荷検査

体内に重金属が蓄積している場合、薬剤やサプリメント、点滴を使用して重金属を排泄する治療を行います。これをキレーション治療といいます。

その際、多くの金属は便や尿中に排泄されていきます。キレーション治療を始めるにあたっては、薬剤の治療効果を把握しておく必要があります。そのために行うのが尿中ミネラル負荷検査です。実際にキレート剤を内服もしくは点滴後、一定時間蓄尿していただき、尿中に排泄された有害重金属の量を測定します。ある程度以上金属が含まれていれば、治療効果が見込まれると判断します。この検査は、キレーション治療後の効果判定にも使用します。

オリゴスキャン

手のひらに光をあてて、体内に蓄積している有害重金属と必須ミネラルを測定します。毛髪ミネラル検査や尿中ミネラル検査と一番違う点は、これらの検査が体外への排泄量を測定しているのに対して、オリゴスキャンは、体内の蓄積量を直接測定できる点です。

IgG食物アレルギー検査

ある特定の食べ物に対して、アレルギー反応を起こすかどうかの目安になるのが食物アレルギー検査です。食物アレルギーには、即時型(IgE)と遅延型(IgG)の2種類があります。

即時型は、食物摂取後すぐに典型的な症状が出るため、原因となる食物がわかりやすいのが特徴です。遅延型は、食物摂取後、症状が出るまで場合によっては数日以上かかるため、アレルギーの発症を自覚するのが困難になります。

身体的なものから精神的なものまで多彩な症状が出ます。
遅延型のアレルギー反応が出ている場合、必ずしもその食物にアレルギーがあるとは限りません。IgG反応は腸のバリア機能が低下していることを意味しています。

総合便検査

腸内環境を調べる検査です。便を採取して、腸の良性、悪性細菌、カンジタの有無(カンジタに効く抗生剤の種類もわかります)、炎症、消化酵素、免疫、エネルギー状態などを調べます。

食物アレルギー検査は腸のバリア機能を調べる事ができるよい検査です。多くの項目が陽性であればそれは、バリア機能低下(リーキーガット症候群)を意味します。
しかし、陽性となった食物を制限するだけでは根本解決にはなりません。バリア機能低下の原因を調べ、それに見合った対処をすることが重要なのです。
総合便検査はバリア機能低下の根本原因を見つけるのに欠かせない検査です。

ペプチド(カゼイン・グルテン)検査

尿中のペプチド(カソモルフィン・グリアドルフィン)を調べる検査です。この場合のペプチドとは未消化のタンパク質のことで、乳製品由来、小麦由来のタンパク質です。
尿中に未消化のペプチドが検出されるということは、血液中にも未消化のペプチドがあることを意味します。未消化のペプチドはモルヒネ成分と同じ作用があり、これが血液を介して脳に伝わると麻薬や覚せい剤と同じ症状が出ます。音への過敏性、話すことの障害、知覚機能に影響が及んだり、集中力の低下、多動症状の原因になります。

葉酸代謝遺伝子検査

葉酸の代謝に関係する酵素の遺伝子に変異があるかどうか調べます。遺伝子変異があると、酵素の働きが低下するため葉酸が不足しやすくなります。
葉酸が不足すると解毒にも影響します。また、血中ホモシステインが上昇しやすい傾向になり、動脈硬化、高血圧症、認知症などのリスクが高まります。

メチレーション検査

メチレーションとはすべての細胞の中で行われている体の基本反応の一つです。メチレーション回路は、遺伝子の調節や、化学物質や毒素の解毒、神経伝達物質の合成、ホルモンの代謝、エネルギーの合成、DNA・RNAの合成に関わっています。メチレーション検査では、回路の中の物質の過不足を調べます。

根本原因とデトックス

宮澤賢史 · 2020年9月2日 ·

1.デトックス環境を整えよう

免疫を上げるには、睡眠や食事などのライフスタイル、つまり「環境」を改善することが大切といわれています。デトックスも同じで、どの会社のどんなデトックスサプリメントを使うかよりも、どのようにデトックス環境を整えるかが重要となります。下の図のように、デトックスは様々な要因の影響を受けています。

  • 低血糖による自律神経の緊張→デトックス効率の低下
  • 炎症→胆汁分泌やミトコンドリア機能の低下、白血球の活動による過剰な活性酸素による抗酸化力の抑制
  • 有機水銀の80%は、便排泄
  • 解毒にはATPを大量に消費

2.デトックスのターゲット

ここではデトックス(解毒)治療のターゲットについて説明します。

2-1脳に障害を与えるもの

まずデトックスすべきは、脳に蓄積し、障害を引き起こしやすいものです。その筆頭は水銀です。有機水銀は脂溶性であり、脳に直接入り込んで障害を与えます。

・脂溶性である水銀、カビ毒は脳に蓄積しやすい(『アルツハイマー病 真実と終焉』デール・ブレデセン著)
・アマルガムが自閉症、発達障害慢性疲労、繊維筋痛症、化学物質過敏症、精神疾患の原因となる(『Amalgam Illness』 アンドリュー・カトラー著)

2-2. ミトコンドリアを障害するもの

次にデトックスすべきは、ミトコンドリア機能を障害するものです。フッ素、水銀、ヒ素、アンチモン、アルミニウムは、TCAサイクルの働きを止め、ミトコンドリア機能を阻害してしまいます。TCAサイクルだけではなく、右上の図のように電子伝達系にも影響を与えます。特にNADHが関わっている複合体一番の細胞膜にあるSH基とS基の間に水銀が入り込んで、タンパク質の構造を変化させてしまいます。

実際にミトコンドリアにどのくらいの影響が出ているかを調べるには、有機酸検査を受けることをお勧めします。29番のクエン酸と28番のアコニット酸を比べてください。クエン酸がアコニット酸に変わるのには、アコニターゼという酵素が必要ですが、このアコニターゼが水銀やヒ素に阻害されてしまいます。アコニット酸よりイソクエン酸が低くなっている場合には、アコニターゼが阻害されていると考えられ、水銀のデトックスが必要だと推測できます。

水銀は硫黄との親和性が非常に高く、硫黄と硫黄の間にあるSS結合の間に水銀が入りこみ、タンパク質の構造全体を狂わせてしまいます。逆にそれを利用して、硫黄を含んだ食事やサプリメントを使って水銀と結合させて解毒することが可能になります。

3. 水銀中毒の症状

3-1. 本当に怖い歯の詰め物

ハル・ハギンス博士の『本当に怖い歯の詰め物』によれば、水銀中毒の症状にはイライラや、うつ、しびれがありますが、一番顕著な症状は疲労感で、これはミトコンドリア機能の低下からきていると考えられます。その原因は他にもあり、尿中のポルフィリン検査をするとヘムの合成過程が水銀によって妨害されるということがわかります。

85.0% 説明のつかない疲労感
73.3% 説明のつかないいらつき
72.0% 長期間のうつ
67.3% 四肢のしびれ
64.5% 夜間頻尿
62.6% 四肢の冷感(温かい日でも)
60.6% 食後の腹部膨満感
58.0% 記憶障害(物事が思い出せない)
55.5% 突然怒りがこみ上げてくる
54.6% 便秘
54.2% 優柔不断

3-2. 水銀が酸欠を引き起こす

ヘモグロビンが合成される過程で、いくつかのポルフィリン経路を経由します。その経路を水銀や鉛、カドミウムが阻害します。水銀が蓄積すると、途中で反応が止まりコプロポルフィリンやプレコプロポルフィリンが増えてしまいます。水銀はヘムの合成を阻害し、貧血を引き起こします。

また、1つの分子につき酸素を4つ結合する分子構造を持つヘモグロビンは、鉄と酸素の親和性よりも鉄と水銀の親和性の方が強いので、一旦そこに水銀がくっつくとなかなか離れません。酸素は肺でくっついて、末梢の臓器で離れることによって循環しますが、ヘモグロビンに水銀がくっついてしまうと使い物にならなくなってしまいます。赤血球の寿命は120日なので、少なくとも120日間は水銀が結合した赤血球ということになります。

実際にこのような状態であってもヘモグロビン自体が少なくなるわけではないので、見た目上は貧血ではなく、むしろ酸素飽和度が低下するために体はもう少し酸素が必要だと判断して造血を行います。その結果、ヘモグロビンの数値が高くなるというのが水銀中毒の人の一般的なデータとなります。このためヘモグロビンの数値より、注目すべきは酸素飽和度となります。ハル・ハギンス博士のデータによると、アマルガム除去をすると酸素飽和度は上昇します。

3-3. ミトコンドリアがヒ素毒性の重要なターゲット

ミトコンドリアがヒ素毒性の重要なターゲットです。ヒ素もメチル水銀と同じく血液脳関門を通過します。ミトコンドリア豊富な臓器である脳は、ミトコンドリア機能に大きく依存していて、ミトコンドリア異常=脳機能低下ということになります。下記は、ミトコンドリア機能がヒ素の暴露によって低下しているという毛髪検査のレビューです。(PMID: 26510484)

ヒ素暴露後に脳のミトコンドリアが障害される

4.毛髪検査の有用性

ヒ素や水銀が一緒に多く出る場合は、海産物の摂取量が多いと推測できます。脳に蓄積して障害を起こすものは水銀、ヒ素、カビ毒で、ミトコンドリア機能を障害するものは、水銀と重金属ではヒ素です。揮発性毒物のトックス検査をすると、ミトコンドリアのDNAがどれくらい障害されているかを見ることができます。ミトコンドリアDNAの障害の指標となるのは、チグリルグリシンというTOX検査の一番最後の項目です。もしその数値が上がっていたら、積極的なデトックスをしたほうがいいだろうということになります。

日本人の毛髪水銀濃度は、世界中でも飛び抜けて高いですが、その理由は魚が汚染されているからで、世界の水銀の排出量のうち47.4%が東アジアに集中しています。これは火力発電所が沢山あるためで、魚の水銀汚染の主な起源というのは、石炭火力発電所から大気中に排泄された水銀です。

5. 内分泌かく乱物質とホルモンの関係

5-1. 重金属がホルモンをブロックする

次にPMSや乳がんを引き起こす内分泌かく乱物質を取り上げます。内分泌撹乱物質は、一般に環境ホルモンと言われていますが、受容体で結合してホルモンのふりをし、その働きを邪魔して、内分泌の一連の働きを乱す物資のことをいいます。

PCBのようにすでに製造中止になったものもありますが、今話題になってるのはビスフェノールAというプラスチックの原料や、ゴミの焼却の時に排出されるダイオキシン、それと水銀、鉛、カドミウムです。水銀の論文によると、甲状腺、副腎、卵巣、精巣機能など様々な内分泌臓器に影響を及ぼします。

アンドリュー・カトラー先生の『Amalgam Illness』によると、甲状腺も副腎も性ホルモンも様々なところの受容体をブロックしたり、ホルモンの分泌を障害したりしますが、甲状腺の場合は、TSHの分泌も、甲状腺の受容体も、そして T 4から T 3への変換も全て阻害してしまいます。つまり甲状腺機能の低下があったら、水銀の害を考えた方がいいということになります。

5-2.女性ホルモンのアンバランスと対処法

女性ホルモンには悪玉と善玉と言われるものがありますが、善玉が2-ヒドロキシエストロン(2-OHE1)で、悪玉が16-ヒドロキシエストロン(16a-OHE1)です。
外因性の環境ホルモンや、ホルモン補充療法で使われるホルモンの原料は馬の尿ですが、これはバイオアイデンティカル(人体が作るものと全く同じ化学構造を持つもの)ではないので、人間のホルモンと違い代謝がゆっくりです。女性ホルモンは薬の場合はすぐに代謝されないように作られているので、エストロゲンもプロゲストロンも体内に長く留まります。

ピルを飲むと99%の確率で排卵させない分体内に長く留まるので、発がんリスクも高まります。それに比べて天然のホルモンは、半減期が短いバイオアイデンティカルのため代謝しやすいです。天然のホルモンは効きを良くするために、経口ではなく経皮でゆっくり補充します。

善玉のエストロゲンを増やすためには、DIM、インドール-3-酢酸、亜麻仁油、ブロッコリーを摂ると良いです。腸内環境への影響もあり、水銀は消化酵素のDPP-Ⅳを阻害するため、グルテン・カゼインの分解が悪くなり、カンジダの悪性度を増します。d水銀が蓄積しているとカンジダが増殖形態になりやすいので、私はカンジダを除菌した後は、ほぼ全員の人に水銀のデトックスを勧めています。

6.水銀の種類

6-1.金属水銀・有機水銀・無機水銀

水銀の種類には、金属水銀・有機水銀・無機水銀の3つがあります。金属水銀はアマルガムの他に、アフリカなどの採掘所では金属水銀の塊を使って金をろ過することに使われています。これらの金属水銀は蒸発して蒸気水銀になるため、採掘所で働く子供が水銀中毒になる問題を抱えています。

このように金属水銀は簡単な刺激によって蒸発します。蒸気水銀になると吸入して肺から入り、脳で酸化して蓄積し、脳から出られなくなってしまいます。水銀の中で害になるのは、この蒸発する金属水銀と、有機水銀です。メチル水銀はシステインと結合すると腸管から吸収され、 血液脳関門を通過して脳に届きます。

6-2. 歯の詰め物アマルガム

アマルガムは水銀を多く含む歯科材料です。加工が容易で丈夫なので、20世紀を中心に歯の詰め物として使われてきました。殺菌作用が強く長持ちするため、水銀の害を除けば歯科材料としては最適です。『乳歯のアマルガム修復』という50年くらい前の本によると、当時は乳幼児にも積極的にアマルガムが使われていました。

今は保険適用外ですが、2016年までは日本政府公認の歯科材料として使われていました。とても便利なため、いまだに自費診療で使用している歯科医師もいます。日本人の場合は、水銀の源の大半は、魚か歯ではないかと言われています。この二つの暴露源がないかをチェックし、もしあればそれを避けることが大切になります。

6-3. 水銀は体のどこにたまる?

アマルガムは無機水銀で有機水銀ではないため、BBB(血液脳関門)を通過せず、脂肪にも移行しないので安全であるというのがアメリカの歯科学会の主張ですが、実際には無機水銀は口腔内や腸内でメチル化するので、BBBを通過します。

アマルガムは蒸発して肺から吸入し、目や脳、神経、肺、そして血中で酸化したものが口の中から胃腸を通過後にメチル化して胎盤、内分泌、細胞膜にも届きます。

上記はハル・ハギンス先生に頂いたポスターで、どの水銀が体のどこに影響してるかという図です。左から金属水銀、イオン化している無機水銀、メチル水銀ですが、この金属水銀とか無機水銀に比べて、メチル水銀の人は頭がぼやっとしていて、ブレインフォグを起こしてます。手と足に痺れがあることからみても、BBBを通過してCentral nervous system(中枢神経系)、免疫系、生殖器系にも影響を及ぼしていることがわかります。

水銀蒸気は血液脳関門を通過し、無機水銀は通過しないので安全と言われていますが、メチル化して全てのバリアを通過し、胎盤を通過するので、母親が水銀に暴露していると子供の毛髪にも水銀が検出されます。そして内分泌かく乱も引き起こすので、どれだけ排泄できているかということがすごく大事になってきます。

これは歯にアマルガムがある人の体内の水銀分布図です。Tooth alveolar bone(歯槽骨)と、Gum mucosa(歯肉歯槽粘膜)の水銀濃度が高いのは当然ですが、胃の濃度が非常に高いことから、水銀が体内にも影響を与えていることが分かります。そして便中の濃度や、腎臓と肝臓という排泄機関の濃度も高いです。胃腸の濃度が高いことから、腸内細菌に影響を及ぼしていることも想像できます。

6-4.水銀は便から出すのが基本

アマルガムや魚の水銀はもともとメチル水銀です。メチル水銀というのは、システインという必須アミノ酸と結合すると、メチオニンと同じく腸管から100%吸収されます。メチル水銀はデトックスで胆汁排泄されますが、胆汁から排出されたメチル水銀はメチオニンと間違えられて再度吸収されるので腸管循環を繰り返してしまいます。つまりデトックスは腸管循環を少なくして、便中にいかにメチル水銀を排出させるかということがポイントになります。

ハル・ハギンス先生のセミナーでは、アマルガムが開発されてから ALS(筋萎縮性側索硬化症)の発症率が異常に上昇しているというデータや、1832年にアマルガムがフランスで発明されてからしばらくして白血病の発症率も増えてきたというお話しがありました。Multiple sclerosis(多発性硬化症)の発症率は、特に毒性が高いアマルガムが発明された1976年以降に、急に発症率が上がっているという話もありました。水銀は骨髄の中に入り込みやすいため、骨髄の免疫を壊して自己免疫疾患や白血病が発症しやすくなるのだろうとのことでした。

7. 溜まっているものを知る方法

7-1.毛髪水銀レベル測定の根拠

体内に何がどのくらい溜まっているのかを、どのように調べるかということをお話しします。そもそも毛髪で水銀レベルを見るというのは、恐らくイラクで1971年に起こった水銀中毒事故のデータをベースにしていると思います。

メチル水銀を使用している農薬を使って栽培した小麦で作ったパンを食べて、6,500人が水銀中毒になり、500名が死亡するという衝撃的な事故がありました。妊婦も多く罹患し、当時の血液中と毛髪中のデータが多く残っています。血中の水銀レベルは半減期が短く、暴露して3日もすると測定感度以下になってしまいますが、毛髪中の水銀のレベルは、血中レベルの250倍あります。

上記は内閣府の食品安全委員会の資料ですが、例のイラクの事故を分析すると、母親の毛髪中の水銀モードが上がれば上がるほど、子供への発達の影響があるということがわかります。母親の毛髪中の水銀モードが10〜20ppmを超えると胎児に影響があったため、それをもとに国立水俣病の胎児に影響を与える母親の最小値が11ppmとみなされました。このイラクの暴露事故から計算して、耐容摂取量、つまりこれを超えない限り影響はないと考えられる摂取量を5ppmに設定しました。

7-2.水銀の暴露量と排泄力を比較する

副腎疲労と思われる45才女性の毛髪検査をしたところ、1.1 ppmしか水銀が検出されませんでした。厚労省の設定した耐容摂取量5ppmの1/5だから問題はないだろうと考えがちですが、実際には歯の中に9本のアマルガムがあったので、水銀の暴露量は非常に多いと言えます。

水銀にこれだけ暴露しているのにかかわらず、毛髪から1.1ppmしか出ないということは、水銀の排泄の障害があると考えられます。水俣病のように大量の暴露をしたら、さすがに毛髪に出るとは思いますが、中には排出できない人がいるということが問題なのです。

34歳女性 慢性疲労
焦燥感、肩の張り、冷汗、動悸

45歳女性 副腎疲労
慢性疲労が続いている

上記左側の34歳の慢性疲労の人は、アマルガムが歯の中にあって水銀が10ppm出ているので、明らかに水銀中毒です。ただ逆の見方をすれば、この人は水銀の排泄能力が保たれているということです。毛髪中の水銀濃度というのは、有機水銀メチル水銀の排泄能力とイコールだと考えていいと思います。実際、この方はアマルガムを除去だけで元気になりました。それに対して右側の45歳の方は、アマルガムが何本も入っているにもかかわらず、水銀濃度が1.1ppmしかありません。排泄能力が低下しているため、アマルガムを除去しただけでは疲れが取れませんでした。

宮澤医院の150人の副腎疲労の患者さんを、アンドラー・カトラー博士が開発したカウンティングルールに基づいて調べたところ、56%の人はミネラルの輸送障害がありました。副腎疲労の人は水銀を排泄する力が弱いため、ミトコンドリア機能が低下していることが多いです。残り半分の人は水銀レベルがとても高く、水銀の害が全くないと思われる人は1%しかいませんでした。調べてみると皆さんことごとく水銀だったので、疲労感が強い人は水銀レベルを見た方がいいだろうと私は思います。

7-3.自閉症と水銀

自閉症の子供に関しては、水銀のレベルは低ければ低いほど重症です。なぜならば毛髪検査というのは蓄積量ではなくて排泄量をみるものだからです。母親の歯にアマルガムがあったり、高レベルの水銀の暴露歴があるにも関わらず、自閉症の子供からは毛髪中の水銀が出ていませんでした。

子供の場合は母親の暴露歴も聞いてください。メチル水銀は胎盤を通過します。水銀をターゲットに話していますが、そもそもデトックスのために何か特別な治療をやらなければいけないのかというと、必ずしもそういうことではありません。

8 水銀排泄力には個人差がある

人間はもともと水銀を排泄する力があります。水銀の生物学的半減期、つまり体の中にある水銀が半分になるまでの期間は、50〜60日です。そのため正常な排泄する力を持っている人なら、魚を食べなければ150日あれば水銀は体から排泄されます。

水銀の半減期

100日以上かかる人はとても代謝が遅いので、暴露量が微量でも体内に溜まってしまいます。そのような人は、デトックス体質になるかデトックス治療をしないと水銀の有害性が出てくる可能性があります。そこを見極めるために検査します。

9. 解毒の仕組み

解毒の方法の話をする前に、人の解毒の仕組みを解説します。人の解毒は3段階になっています。Phase1・2・3となっていて、Phase1は「活性化」、Phase2は「抱合」、Phase3は「輸送」です。Phase2の「抱合」は、グルタチオン・グルクロン酸・硫酸などと抱き合わせることによって、細胞の外に出る準備をし、MRP1輸送体という受容体を通って細胞の中から外に出て行きます。

その先のPhase3の「輸送」ですが、輸送をする時に無機水銀は水溶性なので腎臓を通って尿へ、そして有機水銀の場合は、脂溶性のため肝臓を通って胆汁から便へ排泄されることになります。

10. 蓄積量と排泄力をみる検査

何がどれぐらい溜まっていて、どれぐらいの排泄能力があるかを見ることが大切です。溜まっている量を見るのはオリゴスキャン、排泄能力を見るのは毛髪検査や尿検査が良いでしょう。

腎臓からの排泄量は尿検査で直接分かりますが、胆汁からの便排泄の量というのは、直接見にくいのでメチル水銀を排泄している毛髪検査で代用します。毛髪はシステインを含んでいるため、メチル水銀がシステインと結合して肝臓の胆汁排泄を代表する代わりになるのが毛髪検査と言われています。

つまりオリゴスキャンでは蓄積量と対処法。そして毛髪ミネラル検査では排泄量と「カウンティングルール」で主に把握することができます。水銀が元々体内にないのか、それとも排泄できずに低いのか、それを見分けるのが「カウンティングルール」です。水銀レベルからではなく、ミネラルのバランスから判断します。

ミネラルバランスが左の表のようではなく、真ん中や右側のように、左側や右側に偏りすぎてる場合、ミネラルの輸送障害が考えられます。ミネラルの輸送障害があるということは、水銀が溜まっているということを示唆します。

このカウンティングルールは、アンドリュー・カトラー先生の著書に詳しく掲載されています。ただ、他のアメリカの代替療法のセミナーでも、このカウンティングルールを使っていて、毛髪検査だけで水銀の蓄積量を完全に推定するのは不確定なので、オリゴスキャンで俯瞰するのが有力な方法ではないかと考えています。

実際に治療をすると、このミネラルバランスが戻ってくる人が多いので、治療経過としても使えます。先ほどの48歳の慢性疲労の女性のように、ミネラルのバランスが崩れている場合、水銀をある程度出すと症状も良くなりミネラルバランスが改善します。

11.どこまでデトックスを続けるか

水銀レベルを0にすることはできないので、どこまでデトックスを続けるかについては、ミネラルのバランスを取り戻すまでを治療期間にして、その後は自然デトックス、例えばサウナや運動に切り替えるようにしてもらっています。できればオリゴスキャンをしてご自分の毛髪検査と比べてみてください。排泄障害がない場合、排泄量と蓄積量は反比例していることが多いです。

この人の場合はミネラルの輸送障害がないので、例えばヒ素が多く出ている場合、ヒ素の溜まりは少ないといえます。オリゴスキャンの良いところは、Phase2とPhase3が働いているかを見る指標にもなってくれることです。酸化ストレスがあるかどうかは、Phase2がうまく働いているかどうかを見る指標となります。Phase2のセンターピンは細胞内グルタチオン濃度です。

細胞内のグルタチオン濃度を保つためには、抗酸化力がとても重要です。有機酸検査のグルタチオン濃度がきちんと働いているかどうかをみるためには58番(ピログルタミン酸)、59番(2-ヒドロキシ酪酸)に注目します。水銀は硫黄と結合することによって、体外に排出されやすくなるので、オリゴスキャンで硫黄との結合性をみてPhase3の輸送の評価もできます。

グルタチオン濃度を知るには有機酸検査

グルタチオンの指標物質の58番ピログルタミン酸は、グルタチオンの欠乏で上昇します。59番の2-ヒドロキシ酪酸は、このメチレーション回路が働いてグルタチオンが出来る時に副産物としてできるので、これが上昇していたら解毒回路が働いているということが分かります。つまり解毒で体内が忙しい時には、59番が上昇するということです。

この2つの上昇でグルタチオン不足だと急いでグルタチオンを補充するのではなく、まずは原因追及をして、なぜグルタチオンが足りないのか、なぜ解毒で忙しくなっているのかを突き止めることが大切です。そうしないといくらサプリがあっても足りなくなります。特に炎症があると、グルタチオンは全部使われてしまいます。Phase1から3は、オリゴスキャン、毛髪ミネラル検査、血液検査などをみて把握してください。自分のどこが詰まっているのかを解明して、そこをターゲットにアプローチしていくのが正しいデトックス法です。

12.デトックスの実際

12-1. 人の本来の解毒の方法を知る

どうやって解毒していくかというと。本来の人間の解毒システムを知って、それを強化してあげる方法がベストだと思います。最初に暴露源を除去することです。毛髪検査をして特にヒ素・カドミウムが高い人は、水と米を変えましょう。カビ毒がある人は、空気清浄機を買いましょう。もしかしたら引っ越しした方が良いかもしれません。マグロをサンマにしましょう。アマルガムを除去しましょう。

胎児に影響を及ぼさない母体中の毛髪水銀濃度は11ppmですが、そこから計算するとどれぐらい水銀を摂取しても大丈夫かという耐容週間摂取量は、2μg/kg/週になります。普通に魚の摂取をしていると週に2μg/kgを優に超えてしまいます。食品安全委員会は、マグロの代わりにサンマを食べるとこれを超えずに済むと提唱しています。恐らくマグロをサンマに変えるのは意味のあることだと思います。

食物連鎖の上にある魚ほど、水銀が沢山溜まっています。Phase1は、シトクロムP450による酸化のことで、つまり活性化のことをいいます。酸化して活性化させて安定化している脂肪の中の毒物を出す準備をすることです。Phase2がグルタチオンによる抱合ですが、まず最初に準備することは、暴露物をなくすことなので、マグロをサンマに変えたり、アマルガムを外すことになります。

12-2.アマルガムは安全に除去する

アマルガムは危険なので外した方がいいですが、防御しないで外すと、脱力、頭痛、めまい、耳鳴りなどの症状が出ることがあります。特に水銀を排泄する力がない人、カウンティングルールでミネラルの輸送障害がある人は、アマルガムを外す時は気をつけたほうが良いです。なぜならアマルガムを削ると大量の水銀が一気に蒸発するため、急性水銀中毒になるからです。刺激なしの時の100倍の水銀の蒸気が脳に行ってしまうため、特にアマルガムが大きい場合はきちんと防御をして除去してくれる歯科医院に相談をしましょう。

研磨によって飛び散る水銀の量
Bio-Probe Newsletter, Vol 9(1):5-6, Jan.1993.

13.キレーション療法

キレーションは「蟹のはさみ」という意味で、多くのクリニックで取り入られている治療法です。金属イオンをはさみこんで結合して、有害物質を体外に排出しやすくします。キレートミネラルというサプリメントが体内に入り込みやすいのは、ミネラルではなくアミノ酸の扱いになるからです。アミノ酸と一緒になると、体の中に入るのも、出すのも容易になります。だからミネラルはキレートとして入れたり出したりするのです。キレートによく使われる薬がEDTAです。

EDTAのサプリメントは、経口摂取しても腸管からの吸収が悪いため、点滴で取り込むのが一番です。その代わりEDTAを飲めば、腸管の金属は除去することができます。慢性の副鼻腔炎の患者に使用している経鼻スプレーにはEDTAが入っていますが、これは金属を除去するのと、バイオフィルムを除去するという働きがあるからです。

経口摂取では体内には吸収されないので鼻腔や腸管啌のデトックスに使い、体内に入れたい場合は点滴をします。カドミウムやアルミニウムはよくデトックスできますが、水銀は吸着できません。水銀をターゲットとして出すためにはSH基を持った薬剤やサプリメントを使います。DMSAはSH基は2つ付いていて、5年ぐらい前までi herbでも買えたましたが、日本では輸入できなくなりました。現在DMSAは薬剤扱いです。

日本で購入できるチオラは鉛中毒の薬で、SH基が1つです。これでも結構水銀も鉛も出ますが、SH基が2つあるDMSAだけを使う先生もいます。どちらにしても重要なのは血中濃度を保つことで、血中濃度が下がると水銀をキャッチしても途中で離してしまうので、体内の他の場所に再分布してしまいます。血中濃度をうまく保てるように、私の場合はチオラを使うなら3時間おきに5回、1日5回摂ってもらうようにしています。私の医院では行っていませんが、カトラー先生は、5時間おきに睡眠中も子供を起こしてチオラを摂取させるプログラムを行なっています。それほど血中濃度を保つことが大切なんです。

こういった薬を組み合わせて、挟み込んでくっつけて外に出す治療をキレーション治療と言いますが、この治療の問題点は、Phase3にしかアプローチできないことです。倦怠感があって、風邪をひきやすく、アマルガムを歯に詰めていた男性にEDTAとDMSAの点滴版を入れたら、水銀が沢山出て、頭が冴えるようになりました。このように細胞の外に水銀を出せる人の場合は良くなります。私の場合マグロを食べているせいか、毛髪中の水銀濃度がものすごく高いです。ミネラル輸送障害はなかったので、点滴治療で良くなりました。

33歳の歯科医師の男性で、疲れやすく、痺れや痒みがある方にはやはり歯にアマルガムがあったのですが、食物アレルギーがあってデトックスしてもあまり上手くいきませんでした。ミネラル輸送障害があって、細胞の中から外に出す力がないためPhase3のキレーション治療だけ行ってもうまくいかなかったと考えられます。毛髪検査や尿検査でうまく排泄できている人は、必要に応じてキレーション治療を行えば良くなると思いますが、暴露量と排泄量が一致していない人は 、Phase1・2・3の評価をして、この機能を上げてあげるほうが良いだろうということです。

13. 解毒のフェーズ1.活性化

上記は私の遺伝子検査の結果ですが、物事を活性化する酵素というのは半分遺伝子によって決まります。私の場合はCYP2D6が++になっているので、ここは少し弱いところです。CYP1A2も+/−になっていますが、これはカフェインの解毒に関係しています。もし遺伝子検査をすぐにやりたいという方は、ジェネシスと検索してみてください。

確か15,000円くらいだったと思いますけども、唾液の採取で検査できます。結果が分かるのに1ヶ月近くかかりますが、非常に結果が分かりやすいです。私の場合は飲酒量が多い、ワインはやや好き、喫煙量は標準と出ています。

この飲酒量の有無は、アセトアルデヒド脱水素酵素から推測しているようです。カフェインの消費量は少ない傾向になっていますが、それは僕の場合はCYP1、CYPA2があまりよくないからだと思います。つまりこの第一相のシトクロムP450対策は何かと言うと、事前に検査をして自分の排泄しづらいものは食べない、入れないということになります。CYPA1Aが排ガス、CYP2D6がSSRIとか抗うつになるので、僕はこの薬は飲まないようにしようという話です。

14. 解毒のフェーズ2.抱合

14.1 グルタチオン濃度が重要

該当するもの暴露を避けるという意味では、第2相も同じです。エストロゲンの代謝はCOMTです。このCOMTの補酵素がビタミンB6です。COMTがある人はエストロゲンの暴露を避けると良いと思います。また、グルタチオンは「抱合」といって、毒物と抱き合わせますが、そのための酵素がグルタチオンSトランスフェラーゼ(GST)です。ここにSNP(スニップ:一塩基多型)があったら解毒しづらいということです。

同じようにグルタチオンは活性酸素があると働かないので、 SODスーパーオキサイドディスムターゼという酸化ストレスを中和してくれるところにSNPがあるかどうかを見ると良いと思います。

上記、ジェノバ社のデトックスプロファイルは値段が高いのであまりお勧めしませんが、一生に一度と思って検査しておいても良いかもしれません。何が溜まりやすいか分かるので、該当するものを下げられます。Phase1を処置したら、次はPhase2(抱合)です。Phase2のポイントは、グルタチオンです。

グルタチオンというのは、アミノ酸(グルタミン酸、システイン、グリシン)からなるトリペプチドで、抗酸化と抱合の二つの役割をしています。どちらの役割が高いかと言うと抗酸化です。細胞内濃度が極めて高く、細胞内の酸化還元環境を維持しているトップはグルタチオンです。グルタチオン濃度をいかに保つかということが、全てと言ってもいいと思います。

細胞中の還元型と酸化型グルタチオンの比率が、細胞毒性の評価の指標です。還元型と酸化型グルタチオンが混在していますが、98%以上が還元型として存在しているので、このバランスが狂っているとまずいということです。酸化されてもすぐにナイアシンによって還元されます。Phase2のセンターピンは細胞内グルタチオン濃度を適切に保つことです。センターピンというのはボーリングの一番前のピンのことで、そこを倒せば全部残りの9本も倒れます。

グルタチオンが活性酸素H2O2を組み合わせると、酸化されて水ができます。上記の下の式が酸化型グルタチオンですが、これはナイアシンによってまた元のグルタチオンに戻してくれます。この抗酸化の働きをするためには、グルタチオンペルオキシダーゼという反応を触媒するものが必要で、ペルオキシダーゼの活性中心が有名なセレンです。

さっきのオリゴスキャンにPhase2の抗酸化力とありましたが、抗酸化力が何故ミネラルの測定で分かるかというと、グルタチオンペルオキシダーゼの活性中心のセレンを測定しているからです。セレン、マンガン、亜鉛などが、高酸化酵素の活性化中心としてとても必要なのです。そう言った意味で、ミネラルは抗酸化力の維持に関わっています。

細胞内グルタチオン濃度を測定するのは難しいので、血漿中のグルタチオン濃度を調べようというのがこのメチレーション検査です。メチレーション回路がうまく回ると、体内で適切にグルタチオンが産生されます。このメチレーション検査では、グルタチオンの中でも酸化型と還元型のグルタチオン濃度を測ることができます。

上記はHDRI社のメチレーション検査です。この方の場合、酸化型(oxisidised)グルタチオンは基準範囲内ですが、還元型(reduced)グルタチオン濃度がちょっと低めなので、抗酸化能力が少し低くなっていて、恐らくメチレーション回路がうまく回ってないからだろうというのが分かります。グルタチオン以外にもグルクロン酸抱合や硫酸抱合などがあり、グルクロン酸はOHが沢山あるため水溶性だということが分かります。

抱合というのは水溶性にして外に出させるようにすることです。ビリルビン、ステロイドホルモンなど一部の薬は、グルクロン酸抱合でPhase2を引き起こします。このグルクロン酸抱合を起こすUDPグルクロノシルトランスフェラーゼ(UGT)を活性化するのが、ブロッコリースプラウトです。スルフォラファンを摂取したら、ビリルビンやモルヒネを活性化して解毒が進むので、スルフォラファンを摂取したら自閉症のお子さんの症状が改善したというデータがあります。

グルタチオンを増やす方法は、サプリで増やす、メチレーション回路を回すのどちらかですね。また、体内のグルタチオン濃度を保つためには、炎症を取ること、抗酸化サプリを摂ることが重要です。ビタミンCを沢山摂ることで、抗酸化をビタミン C に任せ、グルタチオンを温存することができます。

14.2 ApoE4とアルツハイマー

5年前にハル・ハギンス先生を訪ねた時に聞いたのですが、実は先生がコロラドに行った理由は、コロラド州は比較的医療に関して寛容だからだそうです。6年前にすでにコロラド州とニューヨーク州では医療大麻が解禁されていました。

医療大麻は、小児のてんかんに限って使用が認められたのですが、アマルガムを除去したり、水銀をデトックスするというのは、異端の医療で他で禁止されていて、先生も歯科免許を一回剥奪されたことがあるそうです。そのため一時期はサン・ディエゴに住んで、オフィスはメキシコにおいて、話を聞くのはサンディエゴで、治療はアメリカでなくメキシコでやってたりしたそうです。今はさすがにもう大丈夫だと思いますが、栄養療法の最先端のことをやっている人は、迫害されたりすることはよくあります。

先生によると、アマルガムを取って良くなる人とそうじゃない人の違いは、アポリポ蛋白E のアイソザイムの違いだろうとおっしゃっていました。ApoE4が1つもない人に比べて、ApoE4が1つある人っていうのは、炎症促進してアルツハイマーになりやすいです。

ApoE4がひとつもない人に比べて、ApoE4がひとつだとアルツハイマーの発症率が30%、ApoE4が2つ以上だと50%以上になります。このApoE対策も抗酸化です。グルタチオンを摂るのに先駆けて、ビタミンCやビタミンEを摂ることによって、ApoE4を持っていても発症のリスクを抑えられるので、これは十分調べる価値がある検査だと思いますね。このような人は、脳の抗酸化であるフェルガードとか、リポゾームのビタミンCを摂ることをお勧めします。

抗酸化はデトックス治療の一部です。phase2の細胞内グルタチオン濃度を上げるからですね。細胞内グルタチオン濃度上げる方法をまとめると、まず暴露量を減らすこと。DMSAなどは細胞外液の水溶性分画にしか作用しないのでまず炎症を止めること、抗酸化治療をすること、そしてメチレーション回路を回すことです。自閉症の治療をするアメリカのDAN!という組織が、このプロトコールを推奨していました。

15.解毒のPhase3、輸送

15-1.MRPタンパク

最後は輸送です。Phase3は Phase 2に先駆けてやっておくことです。便秘をしないこと、そして腸管循環を抑制するために水溶性食物繊維を摂ること、キレーションもこのPhase3に入ります。細胞の中から外に出すためのMRP 蛋白を活性化してあげること、あとはメタロチオネインというカドミウムをくっつける蛋白を作るのもPhase3の要素の一つになります。

MRP タンパク質というのは細胞の外から中に変な化合物が入ってきた場合にガバッと口を開けて、また排出させる蛋白のことです。 Multi-drug resistance; MDR蛋白、つまり薬が入ってきてそれを出させるタンパクで、抗がん剤が効かないのはこのMRPたんぱく質が原因なので、現在ものすごく研究されています。デトックスの場合は、MRPたんぱく質を活性化させなければいけないのですが、抗癌剤を効かせるためにはこの MRPタンパク質を阻害しなければならないので、その阻害剤というのが研究されているわけです。

デトックス目的の場合は、このMRPタンパク質を活性化させたほうがいいんですけども、そもそもデトックスをすると疲れる理由は、ATPを消費するからです。ファスティングのメリットは、消化に使うATPを全部デトックスに回せるからです。デトックスすると次の日尿が濃いのは、MRP蛋白質がきちんと働けるからですよね。メチル水銀の排泄経路は90%は胆汁排泄で腸から出ますから、便秘をしないことです。

最後になりますが、メタロチオネインとは、重金属(特に銅、カドミウム、水銀)を結合するタンパク質のことで、これは亜鉛を摂ることで生成されます。だからウィリアム・ウオルシュは、このメタロチオネインをプロモーションする治療を推奨していて、それはアミノ酸と亜鉛を摂ることです。

15-2.亜鉛の血中濃度を上げるためには

それで重要になってくるのが、亜鉛の血中濃度です。メタロチオネインを作るためには、亜鉛の血中濃度を100μgに上げることをウオルシュ博士は推奨しています。じゃあ、どれぐらい亜鉛を摂ったら100μgになるかというと、下記の9パーセントルールを使用してください。

9%ルールというのは、亜鉛を摂る量を2倍にすると、亜鉛の血中濃度が9%上昇するということです。これを計算するとどれくらい亜鉛を摂ったら血中濃度が100になるかが分かります。例えば血中濃度が70の人っていうのは、食事からの亜鉛が10mgとすると、亜鉛を150mg摂らなければいけないことになります。

150mgというのは食事で摂るととてつもない量ですが、普通の薬では150mgなので、このような目的によっては使用するのが良いと思います。ただ亜鉛を100mg以上摂る場合は、特に銅の欠乏が問題になってくると思います。銅は成長に必要なので多すぎても少なすぎても問題です。亜鉛と銅はブラザーイオンなので亜鉛を沢山摂る場合は、血中濃度をモニタリングしながら専門家のもとでやってください。

デトックスというのは、特に脂溶性のものは抱合して、胆汁から排泄させるもの、肝機能を高めるミルクシスルとかリポゾマルグルタチオン、還元型グルタチオン、あとはウルソとか、タチオンとか使うのもいいでしょう。そして出てきた毒素をキャッチして、再吸収による腸管循環を防ぐためには、クロレラとかクレメジンという活性炭の薬を使うのもいいでしょう。これらの2つをうまく組み合わせることで、自然デトックスのPhase2とPhase3をコントロールすることができます。

16.まとめ

全体の中でデトックスを考えるとしたらまず炎症を取ること、そして腸内環境を良くして除菌をすること。その後にデトックスするといいと思いますね。最後にデトックスのセンターピン(物事の本質を見つけること)は何かというと、詳しくは与沢翼さんの『ブチ抜く力』という本を見てください。

根本原因ピラミッドPhase1というのは自分の排泄しにくいものを避けることでした。そしてPhase2は、細胞内グルタチオン濃度を上げること、そして炎症を抑えること。Phase3は腸内環境を改善して腸管循環を抑えること、そしてミトコンドリア機能を改善することでした。

やはり根本原因の色々な物を超えたアプローチをして、炎症とか腸内環境とかエネルギーとかを総合的にみることが、結果としてデトックスになるということが分かります。センターピンについて勉強したい人はこの本を読んで下さい。センターピンを1つに絞ること、そして選択と集中という考え方ですけども、そうやってやり遂げることが重要と書いてあります。理論が分かってもなかなか実行できないので、とにかく1つやることを絞って、最低3週間続けてみることです。3週間続けると習慣化するからです。

ちなみにこの与沢翼さんは、秒速で1億稼ぐと言われながらも破産して、マレーシアで投資に成功して今億万長者になった人です。億万長者になって暇になったので生命保険に入ろうとしたのですが、太り過ぎという理由で生命保険から拒否されたそうです。

お金の事になると急にモチベーションが上がって、2ヶ月で10 kg 減量に成功したという人です。ダイエットのセンターピンは食べないで鬼動くことと書いてありますけども、このダイエットの仕方は間違っているので、ここだけは真似しないようにしてください。他は参考になると思います。

実践講座で習った事をカウンセラーはどのように活用したら良いのでしょうか?

宮澤賢史 · 2020年7月30日 ·

7月末は、多くの方から講座のご質問をいただく時期ですが、その中でも一番多いご質問についてお答えします。




その質問とは、これです。

「カウンセラーは、医師のようにデータを読んで診断したり、治療サプリを処方したりできないとの事ですが、じゃあ何ができるのでしょうか?」


答え

カウンセラーの仕事は、クライアントに解決策を直接提示する事ではありません。

クライアントが自らに向き合い、自分なりの理解に自発的にたどり着き、その結果、自分の問題に対応できるように導いてあげる事です。

で、この導くというのはとても重要な事なんです。なぜなら、栄養療法の成否は、患者さんのモチベーションで決まるからです。




栄養療法、どっちの方が結果が出やすいと思いますか?

A 患者さんを診断して、摂るべきサプリや食事方法を指導する

B 患者さんに自己診断の方法を教えて、自分で摂るサプリや食事を自分で決めてもらう

自分の頭で理解し、腑に落ちた治療法へのモチベーションは、単純にこれ飲んでと言われた場合と比べものになりません。

頭ごなしに「明日からグルテン、カゼイン、カフェイン、アルコール、精製糖質を完全に抜いてください。」と言われてもできる人はほとんどいないでしょう。

その一方で、「グルテンがゾヌリン蛋白を分泌させ、ゾヌリンが腸のタイトジャンクションを開いてしまうため、大量の異物が腸を通り抜けて体内に炎症を引き起こす事」、「自分の症状がそれから起きている可能性がある事」を理解できれば、グルテンを一定期間止めるのはそれほど大変な事ではないでしょう。



はっきり言って、診断治療よりカウンセリングの方が難しいです。

「あなたはB6とCとマグネシウムが足りないので、サプリで補給してください。」というのは簡単。

「足りない栄養と、症状を自覚させ、自らが対処できるように導いてあげる」ていうのは大変。





自分の検査結果を深く理解し、自分の体の声に耳を傾け、様々な食事やサプリを試行錯誤しながら試してみる。

そのようにして分子栄養学を深く理解しないと、カウンセリングはできません。





だからこそ、その場で簡単にできる診断法のような薄っぺらいことは教えていません。

基礎講座で三大栄養素の代謝からきっちり学んで、考え方のフレームワークを作っていただくように、骨太な講義になっているし、ズーム検討会で、他の方の自己分析結果を聞く事で、自らの気づきを促す訓練をしていただいているのです。



自ら「気づき」を得る事が、自分のクライアントにどのように気づきを起こさせるかの重要なヒントになります。

これは栄養療法を行う医師にとっても重要な事で、治療の成果は患者さんの食事や生活習慣のコンプライアンスをいかにあげるかにかかっていますが、それはどのように気づきを与えるかと同じ事を意味しています。

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