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個人差と根本原因

運動と生活習慣

宮澤賢史 · 2022年12月21日 ·

機械化された現代社会では、運動だけでなく運動以外の身体活動までもが少なくなり、身体を動かす機会が激減しています。

かつて、人々は身体を動かさないという選択肢はなく、終始身体活動を行っていました。
ヒトの身体は、動かすことで健康維持・老化防止システムにスイッチが入るようにできています。

運動以外の身体活動が激減している現代は特に、身体を健康に保つメカニズムのスイッチを入れるため、運動の必要性があります。
運動ができない体でない限りは、運動をして健康維持・老化防止システムを稼働させたいものです。

今回は、運動の効能についてご紹介し、皆さんに運動をする気持ちを高めていただければと思います。

定期的な運動は老化を遅らせ、寿命を延ばすための最良の手段

加齢は避けられませんが、それに伴う機能の低下度合いは個人差があります。

それは食習慣や身体活動、放射線など環境要因にも大きく影響されるため、老化の進行を遅らせたり、時には防いだり、部分的に回復させたりすることさえ可能です。

運動は、最初は筋肉を介して炎症を引き起こしますが、その後筋肉は広範な抗炎症作用を起こすようになるため、長期的な効果として患部の筋肉だけでなく他の部位でも炎症が抑えられるようになります。そして、たくさんの抗酸化物質が生成され、酸化ストレスレベルも低下します。

また、運動により細胞に損傷したたんぱく質を除去(小胞体ストレスの低下)させ、細胞老化の時限装置であるテロメアを延長し、DNA修復をするほか多くの恩恵をもたらしてくれます。

このように適度な運動による軽度の生理学的ストレスは修復反応を引き起こして有益な作用をもたらし、老化防止寿命延長に貢献してくれます。

運動すると気分が高まる

運動することにより、気分を変える神経伝達物質を分泌促進させます。 その中で最も重要なのは、ドーパミン、セロトニン、エンドルフィン、エンドカンナビノイドの4種類です。

ドーパミン

  • 脳の報酬系の要となる物質
  • 脳の奥深くにある領域に「もう一度やって」と伝える
  • 意欲を持った時にもドーパミンが出て、それが「楽しい」「快楽感」につながる
  • 意欲・運動・快楽に関与  

ただし、この報酬系を動かすドーパミンの作用には3つの欠点があります。

①ドーパミンのレベルが上がりやすいのは運動している最中
②運動していない人の脳内にあるドーパミン受容体の感度は、普段から活発に動いている健康な人の感度より低い
③肥満の人では活性化するドーパミンの受容体の数が少ない

これらのことから、運動していない人や肥満の人は受容体を正常に活動させるために、より長期間努力することが必要になる

と言われています。

一方、定期的に運動している人は数日間運動しない日が続いた後の感覚として、落ち着きがなくなり、イライラして飢えたドーパミン受容体を満足させるため、身体を動かしたくてたまらなくなります。

セロトニン

  • 幸福感や喜びを感じたり、衝動をコントロールしたりするときに役立つ
  • 記憶や睡眠などの機能にも影響を与える  

運動しない人は、ドーパミンと同様にセロトニン活性が低い恐れがあります。

うつ状態になりやすく、運動を避けたいという衝動に勝てないため更にセロトニンレベルが低下してしまうという悪循環に陥ってしまいます。

エンドルフィン

  • エンドルフィンは天然のオピオイドで体を動かしたときの不快感を和らげる

体内で作られるエンドルフィンはヘロインやコデイン、モルヒネに比べると作用は弱いですが、それでも痛みを和らげ幸福感をもたらしてくれます。

そのため運動中毒の一因ともなります。

・エンドルフィンの効果は数時間持続する可能性があるとはいえ、20分以上集中して激しく動かさないと分泌されないため、そこまで激しい運動ができる人でないとその恩恵が十分受けられません。

エンドカンナビノイド

  • 体内で天然に生成されるマリファナの有効成分
  • ランナーズハイに大きな役割を果たす

真に心地よい高揚感を引き起こしはするものの、通常、数時間にわたる激しい身体活動しないと脳はこれを分泌しないため、それに該当しない人には関係ありません。

ポイント

これらの神経伝達物質は、運動によって分泌促進されて気分が良くなり、またやりたいという気持ちになり、運動を継続促進するのに役立ちます。

ただ、運動に対するこれらの脳の快楽的反応は座りっぱなしの人に働くように進化していません。不健康になればなるほど脳の快楽的反応を自然な形で受けにくくなってしまいます。

運動と病気

運動は脳ばかりでなく、病気に対しても良い影響をたくさん与えてくれます。

若い頃から運動継続することにより、骨を丈夫にし記憶力を向上させる能力が高まります。それにより、高齢になっても健康維持システムの働きを良い状態で保ち続けることができます。

逆に年を重ねるにつれ、座りっぱなしの日々を継続すると、慢性疾患(心臓病、高血圧、様々な頑、骨粗鬆症、変形性関節症、アルツハイマー病など)にかかりやすくなります。

運動は万能ではないかもしれませんが、健康維持システムを良い状態に保つ作用があるという意味でも、行う価値はあります。

肥満と運動

過剰な脂肪細胞は関節に負担をかけたり、呼吸を妨げたりするだけでなくホルモンを過剰に分泌して代謝を悪い方向へ変えてしまいます。

そこで、運動を取り入れることにより、脂肪細胞から出されるアディポサイトカインにより遮断されていたインスリン受容体を回復させ、糖輸送体タンパクを筋肉により多く産生しインスリン抵抗性を改善するのに役立ちます。

肥満に対してはウェイトトレーニングより有酸素運動の方が適しています。

ウェイトトレーニングは肥満による代謝の低下をいくらか抑える効果がありますが、体重増加の予防や回復には有酸素運動の方が効果を発揮します。高強度の運動は長時間継続するのが難しいため、結果的に総エネルギー消費量が少なくなる場合があるためです。

免疫向上と運動

運動習慣により、免疫システムを向上させる効果もあります。

その効果は感冒症状や感染症等にあるといわれています。適度な運動により免疫システムの根幹である白血球が増加します。

継続的な運動習慣によっても免疫システムは変化すると考えられており、1回45分、運動強度は心拍数予備能の60%の運動習慣により感冒症状の発症頻度は減少すると報告されています。

サルコペニア防止

人の筋肉量は40歳を境にして徐々に減少していく傾向があり、60歳を超えるとその減少率は加速します。

サルコペニアは、タンパク質の摂取不足と運動量の減少によって、作られる筋肉よりも分解される筋肉の方が多くなることが原因です。 サルコペニアを予防する上で大切なのは、筋肉を減らさないための適度な「運動」と「栄養バランス」の取れた食生活です。

筋肉量を増やし、筋力や身体能力を改善するためにはレジスタンス運動と低強度の有酸素運動が効果的であることが言われています。

骨粗しょう症防止

運動はすべての年齢で骨の強度と量に影響を与えます。

定期的な運動は、小児期や思春期の骨量増加や骨形状の最適化を促進し、成人期の骨量維持に貢献し、老年期の骨量減少や強度低下を抑え、骨粗鬆症骨粗しょうを防止します。

丈夫な骨作りに、良質な栄養摂取と同じくらい身体活動によって骨に物理的に力をかけ、骨芽細胞を刺激することも重要です。

ただし、骨粗鬆症が進行している人は骨折リスクがある激しい運動は避けましょう。

骨芽細胞を活性化させるには、体の縦軸方向に対して物理的な刺激を加える体重負荷運動が必要です。ランニングやジャンプ、重量挙げなどが当てはまります。水泳やクロストレーナーは骨への体重負荷が少なめなので、骨密度増加効果は前者より低めです。

生殖ホルモンと運動

中強度の運動をしている女性は生殖に必要なホルモンを十分に分泌していますが、座りがちな女性の体では、必然的に生殖に回せるエネルギーが増え、エストロゲンレベルが25%も高くなるとも言われています。

エストロゲンは乳房組織の細胞分裂を誘発するため、運動不足は乳がんリスクを高める一方で、運動は逆にリスクを下げるのに役立ちます。 ただ、乳がんリスクやエストロゲンレベルは運動だけでなく肥満や妊娠回数の少なさなども影響します。

がんと運動

ウォーキングなどの運動が、がん発症リスクを低下させるメカニズムについての研究も進んでいます。 がんの発症リスクが高くなるメカニズムの一つに肥満や運動不足によって引き起こされる「高インスリン血症」があります。

血液中のインスリンが多すぎると、細胞増殖、成長促進など様々な働きをするIGF(インスリン様成長因子)という物質の働きが活発になります。

さらには、細胞から分泌されるサイトカインと呼ばれるたんぱく質が慢性炎症を引き起こし、がんがさらに増殖しやすくなります。

運動を定期的に継続すると、筋肉などでインスリンの効きがよくなります。そのため、体内でインスリンの過剰な分泌防ぎ、それが、がん細胞増殖や成長促進にも作用するIGFの働き刺激を減らし、がん促進因子を減らすことになります。

抗酸化物質と運動

運動は、活性酸素の産生を通して生体に酸化ストレスを与えることが知られています。

一方、活性酸素による障害防止あるいは最小限にするために生体にはいろいろな抗酸化物質や抗酸化酵素が存在します。

運動は抗酸化酵素を誘導し、酸化ストレスの増大に対応することが知られています。適度な運動は抗酸化酵素を誘導するだけでなく、インスリン感受性を増大させ、疾患リスクを減少させる健康増進効果が期待されます。 これは、運動時のミトコンドリアでの一過性の活性酸素の上昇により発揮されるものと考えられ、ミトホルミシス効果という概念が提唱されています。

運動により、活性酸素の生成が飛躍的に増え、組織に酸化ストレス障害が生体に与えられると、生体は活性酸素ストレスに対抗する防御メカニズムを発動します。特に主要な抗酸化酵素であるスーパーオキシドジスムダーゼ(SOD)やグルタチオンペルオキシダーゼ(GPX)、カタラーゼ(CAT)は重要です。活性酸素のほとんどはぺルオキシラジカルでその消去系酵素であるSODは抗酸化酵素の最上流にあります。

適度な運動による低レベルの活性酸素刺激により、抗酸化酵素の発現促進のほかにミトコンドリアの生合成と再構築を活性化させてくれます。

一方、運動の際に抗酸化剤を投与するとこれらの運動の健康増進効果が失われてしまうようです。

https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/19433800/
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC4036400/

運動による抗酸化酵素レベルの上昇は、運動によって産生される活性酸素を効率よく消去し、酸化ストレスを最小限にする適応現象が起きます。

ただし、酸化ストレスが増大する疾患や病態がある場合は、酸化ストレス障害が増大しており、抗酸化防御反応をはるかに上回っているので注意が必要です。運動を再開するタイミングや、強度や量を増やしていくペースなどは医師と相談しましょう。

アルツハイマー病予防と身体活動

中強度の身体活動がアルツハイマー病のリスクを45%低下させると示されています。

特に(長時間かつ激しい運動が)BDNF(脳由来神経因子)と呼ばれる強力な分子の生成を脳内で促進させます。

BDNFは脳の成長促進材のようなもので、脳に栄養を与えて新たな脳細胞の発育を促してくれます。それによる効果は、認知力の向上、記憶力の向上、神経細胞の健康的に維持するといったもので、とりわけ記憶にかかわる領域で顕著です。

また、BDNFの増加によりアルツハイマー病の原因と考えられている星状膠細胞(アストロサイト)による損傷を防ぐ可能性もあるといわれています。

人間はずっと座りがちの生活をするようには進化してこなかったため、身体活動以外に高レベルのBDNFを生成させるメカニズムは進化してきませんでした。そのため、運動しないとBDNFが不足してしまうことになります。 また、BDNF以外の脳への運動の恩恵については、脳への血流労増加、有害な酸化ストレスレベルの低下、炎症抑制効果などにより、アルツハイマー病リスクを低下させられる可能性があるといわれています。

ストレス耐性向上と運動 ~ストレス反応~

ストレスを感じるとき、脳内ではストレスホルモンが放出されています。それが何か月、何年と続いたら、身体は蝕まれ精神も飲み込まれてしまいます。

ストレスが脳内で警告として始まるのは、HPA軸を動かす動力源である”扁桃体”です。

扁桃体が危険を知らせ、それに反応してコルチゾールの血中濃度が上がると、脳も体も厳戒態勢に入ります。それがまた、扁桃体を刺激し更に興奮し、興奮が収まらずHPA軸が制御不能の状態になると、そのうち本格的なパニック発作が起きます。

ストレス刺激による扁桃体の過剰興奮によりHPA軸を制御不能にしないため、体内にはストレス反応を緩和して興奮やパニック発作を防ぐブレーキペダルがいくつか備わっています。その代表が海馬と前頭葉です。

通常、ストレスを生む状況が去ると、扁桃体の興奮が鎮まり、すぐにコルチゾールの分泌量が下がります。(脳と体はもはや脅威は去ったとみなし厳戒態勢を解きます)

ところが、慢性的にコルチゾールが分泌されると、海馬や前頭葉が萎縮し脳機能が低下します。 すると、ストレス反応にブレーキが利かなくなり暴走を始めます。

興奮の扁桃体がやたらと警告を発して前頭葉や海馬がそれを打ち消すことができなければ、ほんの些細なことにも大袈裟に反応するようになってしまいます。

ストレス反応の動力源ともなる脳の興奮に対し、運動は様々な鎮静システムを強化してくれます。

その1:脳内に気分を変える化学物質を充満させる

運動は、ドーパミン、セロトニン、ノルエピネフリンなどに代表される神経伝達物質の分泌を促進します。 これらは、報酬、幸福感、覚醒、記憶力の向上などの感覚をもたらしてくれます。 また、運動すると、うつ病や不安障害を抱える人の間で枯渇しがちなグルタミン酸やGABAなどの神経伝達物質の量も増加します。

その2:脳の各領域の連携を強化する

たとえば、ストレス反応を抑える海馬と前頭葉が強化され、不安の引き金である扁桃体の活動が抑えられ、HPA軸反応も抑制促進されるようになります。

その3:コルチゾールが慢性的に高くならないよう制御する

適度な運動を長期にわたって継続することにより、コルチゾールの分泌量は次第に増えにくくなり、運動以外のことが原因のストレスを抱えているときでも、コルチゾールの分泌量はわずかしか上がらなくなっていきます。

ただし、運動しすぎるとかえってストレス反応を強くしてしまいます。

コルチゾールは、たいていは運動したあとで濃度が低下しますが、その効果を得られる運動量には限界があります。今の時点では運動がストレスとなる限界点がどのあたりかは解明されていませんが個人差はあるようです。

抗ストレス作用や脳機能向上させることが目的であれば、少し長めに歩いたり、30分走ったりするだけで十分なようです。

その4:抗ストレスニューロンの活性化促進

運動すると脳に新しい細胞が生まれます。通常、新しい神経細胞は幼い子供の様に勝手気ままで、周りから指示されなくても他の細胞に信号を送ろうとし、脳を興奮させやすくしてしまいます。

しかし、運動によって生まれた新生ニューロンは、興奮しても制御不能な状態にはなりません。それは、その中にGABAを放出するニューロンがあるためです。このニューロンは、他のニューロンの興奮を鎮めることから、〝ニューロンの乳母″ともいわれています。〝ニューロンの乳母″が新生ニューロンの興奮鎮めると脳全体が落ち着き、そして運動すれば、更に〝ニューロンの乳母″が増えて脳内の興奮を効果的に抑え、ストレスも解消します。

まとめ

運動することによるストレス耐性強化作用については下記4点になります。

  • 気分を良くしてくれる神経伝達物質の分泌促進
  • ストレス反応を抑える海馬や前頭葉の働き強化され、不安の引き金である扁桃体の活動抑制
  • コルチゾールが慢性的に高くならないよう制御
  • 抗ストレスニューロン(ニューロンの乳母)増加、脳の興奮を鎮めるGABAの作用活発により、ストレスの募る状況に対する反応を全体的に低下させる

ストレスがゼロの生活を送ることは困難ですが、それよりもストレスに対する抵抗力を高めるほうが賢明です。

運動したからと言ってストレスを根こそぎ取り除くことはできませんが、うまく制御できるようにはなります。運動が習慣づけば、闘争と逃走モードに入りにくくなり身体も過剰に反応しにくくなります。

以上のことより、適度な運動は素晴らしいたくさんの効能があり、健康維持・老化防止システムを動かすために、栄養療法と同じくらい価値があるといえます。

ただし、運動の効能を引き出すには、体力、体調、炎症、酸化ストレスなど身体へのダメージ度合といったような個人差を考慮しないとかえって害になることもあります。

自分に見合った適度な強度と量の運動を習慣化できると良いですね。

参考文献:

  • 運動脳:アンデシュ・ハンセン:2022年9月10日初版発行 
  • 運動の神話(下):ダニエル・E・リバーマン:2022年9月25日初版発行
  • 糖尿病ネットワーク:ウォーキングが12種類のがんリスクを減少 運動でがん予防             2016年5月14日
  • 運動と酸化ストレス‐活性酸素と酸化防御のバランスの重要性―大石 修司            IRYO Vol69 No7(317-324)2015
  • 昭和学会誌 大81巻 第5号(395-401頁、2021) 特集 酸化ストレス関連疾患への薬学的アプローチ 酸化ストレスとスポーツ 岩井真一
  • 骨粗鬆症とサルコペニアに対する運動と栄養の影響 ―オステオサルコペニアの発症率 ナラティブプレビュー

副腎・甲状腺・性ホルモン

宮澤賢史 · 2021年10月27日 ·

慢性的な疲労から抜け出せない、毎月の生理が重くてつらい、そんな悩みはありませんか?

その不調、ホルモンの代謝異常が原因かもしれません。

この記事を読んで、ホルモン代謝を理解すれば、様々な不調から抜け出す手がかりが見つかるはずです。

例えば、女性ホルモンの代謝が滞ると、乳がんなどの婦人科疾患を引き起こします。治療の際に、ホルモンの働きを薬で無理やり止めようとしても絶対にうまくいきません。重要なのは、ホメオスタシスに逆らわず、ホルモン代謝を正常化するという栄養療法的アプローチです。副腎疲労も甲状腺機能低下症も婦人科疾患も、ホルモン代謝の正常化が回復の鍵となるのです。

1. 治療ピラミッドにおける位置付け

根本治療の基本は、治療ピラミッドの下から順にアプローチすることです。ホルモンは、炎症や毒物の影響を強く受けるため、ピラミッドのちょうど真ん中に位置します。ホルモンに着手する際のポイントは、副腎→甲状腺→性ホルモンの順にアプローチするということです。

2. 副腎ホルモン

2-1. 副腎疲労は結果である

私が副腎疲労症候群(アドレナル・ファティーグ)という病態を知ったのは、2007年頃でした。それからたくさんの患者さんを診てきて、副腎疲労は様々な要因の「結果」として起こることがわかってきました。一番の要因は炎症とストレスです。また、化学物質や重金属の体内蓄積や睡眠不足でも副腎が酷使されます。

副腎の働きは、朝にピークを迎え、夕方にはほとんど働かなくなります。もともとは 1日中働き続けられない臓器なのです。睡眠による休息が不可欠で、24時間酷使されている副腎は、徐々に機能が落ちてきます。

2-2. ステロイドホルモンの代謝

3つの六員環と1つの五員環からなるステロイド骨格を持つホルモンを、ステロイドホルモンと呼びます。

ステロイドホルモンの代謝において、プレグレノロンを起点として3つの系統に分かれます。1つ目がミネラルコルチコイド、2つ目がコルチゾールなどの糖質コルチコイド、3つ目が性ホルモンです。これらが副腎皮質でつくられています。

ここで重要なのは代謝の流れです。ホルモン代謝の流れが滞ると、様々な疾患を引き起こします。例えば、性ホルモンは、アロマターゼの働きにより男性ホルモンから女性ホルモンに変換され、肝臓でメチレーションを受けて最終的に分解されます。しかし、エストロゲンの分解が滞っている人は少なくありません。それによりエストロゲン過多になると、乳がんや子宮内膜症などのリスクが高まってしまいます。つまり、ホルモン代謝をいかにうまく流してあげるかが最重要課題ということです。

2-3. ステロイドホルモンの特徴

ステロイドホルモンと甲状腺ホルモンは、核内受容体に結合し、さまざまな働きを活性化させることがわかっています。核内受容体は遺伝子転写を調節しているため、生体に極めて強力な作用をもたらすのです。

ステロイド剤は、効果が現れるのがとても速いのが特徴です。それは、細胞膜を通過して直接核の中に働きかけるからです。少量で効くので、使い方を間違えないように注意が必要です。常に代謝のフローを意識して使わないと、副作用が出てしまいます。

2-4. 副腎ホルモンの欠落症状

副腎ホルモンの欠落症状として、朝起きられない、起きてもぼーっとしている、イライラが止まらない、立ちくらみがする、塩をいくらかけてもまだ足りない気がする、といった特徴的な症状があります。当てはまる人が結構いらっしゃるのではないでしょうか?

コルチゾールには、血糖値を上昇させ、炎症を抑える働きがあるため、コルチゾール不足は低血糖と炎症を促進します。副腎疲労でアトピーを抱えている人は、なかなか炎症が治りません。また、塩分を渇望したり血圧が低下するのは、アルドステロンの作用が低下することで起こります。さらに、コルチゾール・スティール症候群により、女性ホルモンが低下し、月経不順や性欲減退といった症状も出ます。

  • コルチゾール欠落症状;低血糖、炎症の持続
  • 部分アルドステロン作用↓;塩分渇望、低血圧
  • コルチゾール・スティール;月経不順、性欲減退

宮澤医院に来院された副腎疲労患者さんのコレステロールは、160以下の低コレステロールの人が30%、コレステロールが160以上の高コレステロールの人が70%でした。

コレステロール値

これは、コルチゾールの原料であるコレステロールが少なすぎてつくれない場合と、コレステロールがあっても利用できていないという、両方のパターンがあると考えられます。

2-5. コルチゾール・スティール

コレステロールは、コルチゾールと性ホルモン、2手に分かれていきますが、生命にとって重要なのはコルチゾールです。したがって、コルチゾールが不足している時には、全ての材料がコルチゾールに優先的に回されることになります。その結果、性ホルモンが十分に作られず、結果として不妊等の原因になるわけです。

2-6. 副腎疲労の評価法

腎臓の上にある副腎というピラミッド型の臓器が副腎です。ホルモンを産生する臓器で、ホルモン分泌が低下する病態を副腎疲労と呼びます。症状、血液検査、唾液検査、尿検査から評価します。

2-7. 唾液中コルチゾール検査

私が最もよく用いる検査は、唾液中コルチゾール検査です。コルチゾールは朝にピークを迎え夜に低くなるという特徴があります。この日内変動を評価するには、唾液中コルチゾール検査が最も適しています。

血中コルチゾールの場合、活性がないコルチゾールまで測定してしまうため、正確に評価することができません。また、採血中のちょっとしたストレスで、値が上がることもあります。

唾液中コルチゾール濃度は、血清中の非結合コルチゾール濃度に比例する
Ann Clin Biochem. 1983 Nov;20 (Pt 6):329-35. 
Salivary cortisol: a better measure of adrenal cortical function than serum cortisol
DOI: 10.1177/000456328302000601

90-95%の血清中コルチゾールがアルブミンや赤血球細胞膜に結合しており、非結合のコルチゾールのみが生理活性をもつ
Psychosom Med. 1999 Mar-Apr;61(2):214-24. 
Increased salivary cortisol reliably induced by a protein-rich midday meal
DOI: 10.1097/00006842-199903000-00014

基本は朝、昼、夕方、夜に採取しますが、自分がものすごくストレスかかったと感じた時に採取してもらう方法もあります。大きなストレスかかった時のコルチゾール量を把握して、生活習慣の改善に繋げることができます。このように、採取のタイミングなどを変えて応用的に使えるので、とても便利な検査です。

2-8. 副腎疲労患者は相当疲れている

宮澤医院に来院された患者さんの、実に89%は朝のコルチゾールが低下していました。1日を通して低い人が大多数ですが、稀に夜だけ高い人もいます。そういう人は昼夜逆転しているパターンですね。

2-9. 尿中ホルモン検査

唾液中コルチゾール検査の他に、尿中ホルモン検査があります。この検査は、コルチゾールだけでなく、エストロゲンやDHEAなど、ほとんどの性ホルモンを一度に測ることができます。ホルモンの補充療法を考えている人、または乳がんなどのホルモン系の腫瘍を持っている人は、この検査を受けてホルモン代謝の状態を把握した方が良いでしょう。

尿中ホルモン検査

2-10. ステージと回復期間

上の症例を見ると、男性ホルモン(Androgens)がほとんどLowになっています。これはコルチゾールスティールが起きていることを示します。副腎疲労には4つのステージがあり、ステージ1はコルチゾールの過剰分泌により興奮状態にありますが、ステージ2、3、4…と進むに連れてコルチゾールが低下し、疲弊度がひどくなってきます。コルチゾール代謝物が4000以下であれば、ステージ4と判断します。尿中ホルモン検査では、1日に分泌されるコルチゾール量を把握できるので、正確にステージングすることができます。

副腎疲労がステージ4まで進行している場合は、腸内環境、重金属などの大きな問題がない限り、治療には6ヶ月から1年、完治には2年ほどかかります。ステージ3の場合は 完治まで1年程度です。このように、ステージングにより治療期間の目安を把握することができます。

副腎疲労の場合、コルチゾールスティールがあるため、ほとんどの数値がLowになってしまうことがあります。したがって、回復したタイミングで再度検査する必要があります。コルチゾールが充足してくると、性ホルモンが上がってくるので、乳がんなどのリスクを正確に読み取ることができます。乳がんのリスクは、善玉エストロゲンと悪玉エストロゲンの比率を見て評価しますが、コルチゾールスティールにより女性ホルモン全体が低下している場合は、比較してもあまり意味がありません。

2-11. 血中ホルモン検査

保険診療の範囲内で副腎疲労を見つける場合には、コレステロールやプロゲステロンの値で評価します。男性の場合、エストロゲンの一種であるエストラジオールを副腎から分泌しています。また女性の場合、DHEAとテストステロンを副腎から分泌しています。つまり、男性は女性ホルモンで、女性は男性ホルモンで副腎の働きを確認し、ある程度副腎疲労を評価することができるのです。

  • 総コレステロール
  • プロゲステロン
  • エストラジオール(♂は副腎から分泌)
  • ACTH
  • コルチゾール
  • DHEA-S(♀は副腎から分泌)
  • テストステロン(♀は副腎から分泌)

2-12. サプリメントアプローチ

副腎疲労に対するサプリメントアプローチとして、同位同食という漢方の考え方が有効です。副腎が悪い人は、動物由来の副腎抽出物を摂ると良いということです。または、副腎に1番多い栄養素であるビタミンCやEを摂ると良いでしょう。

生理学者であるハンス・セリエ博士が行ったラットの実験で、ビタミンCが副腎の負担を軽減することを明らかにしました。ストレス負荷により見られる副腎の腫大が、ビタミンC摂取により抑えられたというものです。その効果は血中濃度に比例するため、頻回摂取、または点滴により注入すると、副腎を効果的にリラックスさせることができます。

2-13. ハンス・セリエのストレス反応

ストレスかかると、副腎が腫れ、胸腺は萎縮し、免疫は低下します。リンパ腺も小さくなり、胃の粘膜から出血が見られるようになります。このようなストレスによる徴候はセリエの3徴と呼ばれています。セリエは、出血、体の束縛、過度の運動、どのようなストレス負荷をかけても、副腎の肥大、胸腺の萎縮、胃潰瘍(胃出血)がいつも一緒に起こることを明らかにし、これを警告反応と名付けました。これらは解剖で見た肉眼的な所感ですが、今はもっと様々な反応が起こることがわかっています。

引用:http://www.evolocus.com /Textbooks /Selye1952.pdf

2-14. 副腎疲労のステージ

副腎疲労は、警告反応が起こる警告期を経て抵抗期に向かいます。持続するストレスと釣り合った抵抗力を発揮し、適応している状態です。唾液中コルチゾールは1日中高値を示し、炎症やストレスに対応しているのがわかります。しかし、多くの患者さんを診ていますが、このような人が来院することはほとんどありません。興奮状態にあるので、自分が副腎疲労だという自覚がないからです。来院されるのは、強いストレスや感染症などのトリガーにより、コルチゾールがガクンと減って疲弊期に突入した人たちです。

2-15. ストレス反応には2系統ある

副腎疲労の改善には、サプリメントケアによる対処も必要ですが、ストレスのコントロールが必要不可欠です。ストレス反応には、内分泌系と神経系の2系統があります。内分泌系は、脳下垂体、ACTH、副腎皮質と伝達され、コルチゾールが分泌される流れです。

内分泌系
脳下垂体→ACTH→副腎皮質→コルチゾール→標的細胞

神経系は、自律神経が副腎の髄質(副腎の中身)を直接刺激し、アドレナリンを出すという流れです。副腎髄質は、脳下垂体のホルモンコントロールを受けず、自律神経の電気インパルスによってのみコントロールされているため、自律神経のコントロールも副腎のためには必要なのです。

神経系
自律神経→副腎髄質→アドレナリン→標的細胞

人間の神経には、自律神経と体性神経があります。自律神経は、脈拍や呼吸をコントロールしている神経、体性神経は、運動神経や感覚神経をコントロールしている神経です。通常、これらの2つの神経は交わることはありません。体性神経は自らの意思で制御できますが、自律神経はコントロールすることができません。自分の意思で汗をかいたり、脈拍を速めたり、鳥肌を立たせたりということはできませんよね。これらは自律神経が司っているからです。

しかし、びっくりした時などはこの2つの神経が交差します。このような交差を繰り返し続けていく(ストレスが持続する)と、自律神経中枢と体性神経の間に単路ができてしまいます。この単路が太くなるほど、どんどんストレスに弱くなって、ちょっとしたことで切れやすくなったり、高い所に登ることを考えるだけで息苦しくなったりします。

2-16. 必要なのは鈍感力

できてしまった単路をどう治せばよいのかというと、それは鈍感になることです。鈍感力を養うのに1番おすすめなのは、マインドフルネスです。簡単に言うと、自分の呼吸に集中する訓練です。何事が起きても自分の呼吸に意識を戻す、思考が別のところに行っても、また自分の呼吸に戻る、その繰り返しで鈍感力が養われます。

副腎疲労は副腎の不調によって起こりますが、大元の原因はHPA軸にあります。視床下部、下垂体、副腎の機能が同時に低下してしまうのです。ストレスには精神ストレスと身体ストレスがありますが、どちらも扁桃体を経由します。この扁桃体が自分にとってストレスかどうかを決めるのです。ストレスだと判断すると、コルチゾールの分泌量を上げたり、心拍を上げたりして反応します。つまり、ストレスとして感じるかどうかは扁桃体次第だから、扁桃体を鍛えましょうということです。

Amygdala(扁桃体)の位置

瞑想は扁桃体を鍛える訓練とも言えるわけです。リラックスするには、瞑想、CBDオイルの使用、Bスポット治療、ファスティングなどが効果的です。Bスポット治療は、上咽頭のところに通っている副交感神経を刺激するため、リラックス効果があります。ファスティングも、自律神経の緊張を緩和させる究極の方法です。あらゆる方法を使って脳をリラックスさせることが大切です。

2-17. 脳に有効なサプリメント

脳に対するサプリメントアプローチで有効なのは、脳の材料となるフィッシュオイルです。特にDHAは二重結合が多く、細胞膜の流動性を高める働きがあります。

J Nutr. 2010 Apr;140(4):869-74. 
DHA may prevent age-related dementia
DOI: 10.3945/jn.109.113910

ヘルシーパス社のスマートコリンは、認知機能のサポートに使われています。また、グロービア社のフェルガード(フェルラ酸)は、日本認知症予防学会が推奨している脳の抗酸化サプリメントです。MSS社のuDHAは、抗酸化作用が強化されたDHAです。

2-18. 生まれつきの副腎疲労もある

恐怖麻痺反射(ストレスにさらされ、胎児が身を固めて刺激に耐えようとする反射)が残存している人は、生まれつき副腎疲労を抱えています。ちょっとしたストレスに異常に反応してしまうので、常に疲れてしまう傾向にあります。感覚が過敏なために、副腎や自律神経、背筋がいつも緊張しています。さまざまな行動を無意識のうちに抑制し、極度の引っ込み思案の方は、もしかしたら恐怖麻痺反射が残っているのかもしれません。適切なケアで治すことも可能ですから、詳しくは小池先生の動画をご覧ください。

2-19. エネルギー泥棒を見つける

エビデンスには乏しいですが、副腎疲労の人はエネルギーがどんどん漏れているという説があります。エネルギーは感情でかなり消費されます。人から褒められている時、豪遊して無駄遣いしている時、ノリノリでしゃべって自分に酔っている時、こういう時はエネルギーが漏れている時で、心地よい状態です。しかし、エネルギーがある一定ラインを下回ると、他人からエネルギーを奪おうとする、エネルギーバンパイアの状態になってしまいます。この状態にならないためには、人から認められてエネルギーを補充する必要があります。

余談ですが、副腎疲労重症者の動物占いを見たところ、サルとヒツジが多いという結果が出ました。サルは、じっとしてるのが苦手、活発に動き回り複数のことを同時進行する、褒められるとなんでもやってしまうという特徴があります。マルチタスクは、複数のことを同時にやっているようで、実は人間は1つのことしかできないので、1つ1つのタスクを超高速で切り替えながら行っているだけなのです。だからものすごく疲れます。またヒツジは、和を大切にする性格で、本音を隠しがちです。こうした人たちは副腎疲労になりやすいので気をつけてくださいね。

そんな人におすすめの本を2冊紹介します。1冊は『エッセンシャル思考』(グレッグ・マキューン著)です。本当に重要なことだけに取り組み、他は全部断るべし、という内容が書かれています。

もう1冊は「嫌われる勇気」(岸見 一郎/古賀 史健 著)です。ここに書かれているのは、自分と他人のタスクの分離です。この仕事は私の仕事ではないですよ、あなたの仕事ですよって言えない人は、まずこれを読んでみてください。

2-20. コルチゾール補充

副腎疲労の治療には、重金属をデトックスしたり、ストレスを無くしたりすることから始めるのですが、中にはどうしても仕事を休めない、なるべく早く復帰したい、という人もいるので、そういう場合は根本治療と並行してコルチゾール補充療法を行うこともあります。

ホルモン治療の第一人者であるハルトゲ博士の著書、「ホルモンハンドブック」は、ホルモン治療をされる方にはぜひ読んでいただきたい一冊です。コルチゾールやDHEAなど、12種類程のホルモンの補充療法が詳細に書かれています。

例えば、男性でマイルドなコルチゾール欠損の場合は、ヒドロコルチゾンを朝に20mg、昼に10mg使うと書かれています。私もコルチゾールの補充療法をする場合は、ヒドロコルチゾンを使います。ヒドロコルチゾンは最もバイオアイデンティカルなコルチゾールです。人間が代謝しやすいので、副腎の疲弊が起こりにくいというメリットがあります。ただし、ヒドロコルチゾンだけでは解決できません。必ず根本治療をセットで行わないと、薬のテーパリングができなくなってしまうからです。

2-21. DHEAの併用

ヒドロコルチゾンを使う場合は、テストステロンの1つであるDHEAを併用すると良いでしょう。DHEAにはアナボリック(タンパク質の同化)作用があります。コルチゾールはタンパク質分解作用があるため、薬で大量に体内に入れると、筋肉が減少し内臓中心性肥満になります。お腹周りは太るのに、手足の筋肉が衰えて細くなるという身体的特徴が見られます。したがって、DHEAを一緒に摂るとタンパク質の分解を抑えることができます。男性ホルモンなので、男性の方は比較的量を多く使っても大丈夫ですが、女性は少なめに抑えた方が良いでしょう。副作用は、皮膚が脂っぽくなることです。気をつけたいのは、ホルモン系腫瘍の方には禁忌ということです。投与前に尿中ホルモン検査を行うことをお勧めします。

男性
・朝食前後35mgからスタート
・状況(ストレス・風邪など)に応じて+50〜200%
・最適量は20〜55mg/day

女性
・朝食前後20mgからスタート
・状況(ストレス・風邪など)に応じて+50〜100%
・最適量は5〜30mg/day

3. 甲状腺ホルモン

3-1. Ⅱ型甲状腺機能低下症

甲状腺低下症には、大きく分けて、通常の甲状腺機能低下症とⅡ型甲状腺機能低下症があります。Ⅱ型甲状腺機能低下症は、血液検査では異常が認められず、甲状腺ホルモンも十分に出ているのですが、受容体が正常に機能していないため、結果として甲状腺機能低下の症状が出ている病態を指します。

甲状腺機能の検査として、T3、T4、TSHの数値を確認するだけに留まるケースがほとんどです。しかし、これだけでは代謝の状態を把握することはできません。甲状腺ホルモンを動かしているミトコンドリアの異常も、甲状腺ホルモン受容体異常も、この3つの数値から推測することはできません。

3-2. 甲状腺ホルモンの代謝の流れ

視床下部からTRHが分泌されると、脳下垂体から甲状腺の刺激ホルモンであるTSHが分泌されます。すると、T3(活性型)とT4(T3の前駆体)が分泌され、T3は肝臓でT4に変換されて標的細胞に運ばれます。T3やT4が不足すると、フィードバックがかかってTSHが上がります。したがって、Ⅱ型甲状腺機能低下症の場合、T3、T4は低下せず、TSHのみ上がっていることがあります。

一方、標的細胞には、フィードバック機構がありません。ミトコンドリア機能が低下したり、甲状腺ホルモンの受容体の働きが悪くなったりしても、フィードバックはかかりません。そのような状態の人がたくさんいらっしゃいます。

もう一つ多いのが、T4が活性型のT3に変換されにくいパターンの人です。T4→T3の至適温度は37度で、栄養素として鉄やセレン、そしてコルチゾールが使われます。つまり副腎疲労がある場合は、T4からT3への変換がうまくいかないということです。これが甲状腺に着手する前に、副腎を治した方がいい理由の1つです。

下から順に治療する

3-3. 甲状腺ホルモンにはヨードが必要不可欠

人類の祖先が海から陸に進出した時、体には甲状腺濾胞という甲状腺ホルモンをストックしておく器官がつくられました。

陸には、海水のようにヨードが豊富に無いからです。甲状腺に刺激があったり破壊されたりすると、一気に甲状腺ホルモンが出て、亜急性甲状腺炎になり、高熱が出て酷いショック状態に陥ることがあります。日本の場合、ヨード不足になることはほどんどありませんが、フッ素や塩素、臭素の暴露が多すぎて、ヨードの働きが抑えられ、甲状腺機能低下になっている人もいるので、その点は注意が必要です。フッ素は歯みがきジェル、塩素はプール、臭素はパンの添加物などに使われています。

3-4. 水銀の影響

甲状腺ホルモンは水銀の影響を受けやすいという特徴があります。TSHの分泌、受容体の働き、T4からT3への変換などを抑制します。したがって、甲状腺治療の前にデトックスは必須です。

3-5. ホルモンの相互作用

コルチゾールスティールは、甲状腺機能にも大きく影響します。また、甲状腺機能低下は高プロラクチン血症を引き起こします。甲状腺ホルモンが下がると、フィードバックがかかって視床下部と下垂体が活性化します。TRHとTSHが上がります。それと同時にプロラクチンも上がります。プロラクチンは乳汁分泌ホルモンで、授乳中に分泌され、排卵が抑えられます。したがって、プロラクチンが上がっていると、不妊の大きな原因になるので、不妊治療クリニックでは甲状腺機能は必ず確認されます。

先述の『ホルモンハンドブック』によると、TSHのオプティマルレンジは1です。一般的な基準値は0.5~3で、検査会社によっては大きく捉えていますが、少なくとも2以上の場合は、潜在性の甲状腺機能低下を疑うべきでしょう。

3-6. 治療法

甲状腺機能低下症の治療法は、デトックスや腸内環境改善から始めますが、これを補助するために一般的にはチラージンSを使います。「S」は「合成」という意味で、合成のT4のみが含まれています。先述の通り、T4からT3への変換が妨げられている人が多いので、チラージンSが効かない人もたくさんいらっしゃいます。その場合は、私はチラージン末というブタ甲状腺の乾燥物を使っていました。天然物なので生理学的に人に近く、T4とT3が適度に混じっています。T4単独よりもT3とT4を合わせた方が治療効果が高いという報告もあります。

Journal of Nutritional & Environmental Medicine Volume 11, 2001 – Issue3
Thyroid Insufficiency. Is Thyroxine the Only Valuable Drug?
https://doi.org/10.1080/13590840120083376

チラージン末は、東日本震災の影響で製造中止になってしまったため、現在はアーマーサイロイドを海外から購入しています。もしくはチラージンにチュロナミンというT3の薬を合わせて使うこともあります。チラージンS 50μgに相当するチラージン末(乾燥甲状腺末)は、25-30mgです。

4. 性ホルモン

4-1. ホルモン代謝の正常化が重要

婦人科疾患に対して、女性ホルモンをブロックする薬剤の投与が当たり前のように行われています。しかし、それをしてしまうと、人間のホメオスタシスが働いてしまい、過剰にホルモンが分泌されたり、ダウンレギュレーションが起こり、かえって悲惨なことになっているのが現状です。大切なことは、女性ホルモンをブロックすることではなく、代謝を正常化させることです。

4-2. プロゲステロンに対してエストロゲンが優位になる

いわゆる更年期障害や月経不順、月経痛など、様々な女性特有の不定愁訴がありますが、多くの場合、原因としてエストロゲンの過剰分泌が考えられます。年齢に伴ってエストロゲンとプロゲステロンの分泌量が落ちてきますが、エストロゲンよりも、プロゲステロンの方が急激に低下します。特に35~50歳にかけての低下率は、エストロゲン35%に対し、プロゲステロン75%で、エストロゲンとプロゲステロンの差が大きく広がるのです。

4-3. プロジゲステロンクリームの選び方

これを食い止めるのに最も簡単な方法が、プロゲステロンクリームの使用です。エメリタのプロジェストなどは、バイオアイデンティカルなクリームとして有名です。ホルモンを補充するときに必ず気をつけるべきことは、人間が代謝しやすいホルモンを使うことです。例えば、プレマリンという女性ホルモン剤は、馬から抽出したものですが、人間にとってバイオアイデンティカルではないので、代謝に時間がかかってしまいます。長時間効く代わりに、いつまでも体に残留して様々な不調を引き起こすリスクがあります。

一方、バイオアイデンティカルなホルモンクリームであれば、1日で完全に代謝されます。 まめに塗る必要がありますが、副作用が極めて少なくて済むのは大きなメリットです。このクリームは、経皮吸収で腹部などに塗るタイプのもので、プロゲステロンの分泌量が高まる生理周期3週目に親指の先半分ぐらい、 4週目に親指1本分程度を使います。ただし、これは米国向けに作られているため、初めは少ない量から始めます。副作用は、プロゲステロンの鎮静作用により眠くなることです。

4-4. 婦人科疾患の原因は女性ホルモン代謝異常

婦人科疾患の多くは、女性ホルモンの代謝異常によるものですが、代謝異常になる原因の1つに、環境エストロゲンの増加が挙げられます。重金属、ダイオキシン、有機汚染物、フタル酸エステルなどに環境エストロゲンが含まれています。ホルモン剤を投与されたアメリカ産の牛肉や牛乳なども注意が必要です。現代は、バイオアイデンティカルではないエストロゲンが体に入りやすい環境にあります。日常的に環境エストロゲンを避けるように心がける必要があります。

また2つ目の原因として、エストロゲン代謝分解の低下があります。エストロゲンは、肝臓で加水分解され、メチレーションなどを経て解毒されますが、これらの代謝が滞り、エストロゲンが過剰に溜まっている人が大勢います。

4-5. 子宮内膜症の3つの原因

子宮以外で子宮内膜が増殖してしまう病気を異所性子宮内膜症と言います。例えば卵巣で増殖してチョコレート嚢胞を形成すると、炎症を引き起こします。また、月経時に月経血が逆流して卵管の方に流れると、血液に含まれる鉄の作用で活性酸素が発生し、炎症を引き起こします。その炎症をエストロゲンがさらに増大させるので、炎症がいろんなところに飛び火してしまいます。

根本原因は炎症、内分泌撹乱物質(環境エストロゲン)、エストロゲン代謝低下、これら3つです。オメガ3系油をしっかり摂って炎症体質を改善すること、環境エストロゲンをできる限り避けること、エストロゲン値が高ければ、解毒して代謝分解してあげることも重要です。

4-6. 乳がん治療の難しさ

乳がんはステージ4まで進行してしまうと、5年、10年の生存率は極めて低くなります。また、乳がん治療の成功率は、再発によりかなり低下します。乳がんもホルモン依存性のものが多いため、薬のセレクトなどが難しくなってきます。

4-7. 閉経前後のエストロゲン供給源

BMIと乳がんリスクの関連性を示す報告を見ると、BMIが高い(脂肪が多い)方が乳がんリスクが高いことがわかります。閉経後はエストロゲンの分泌が低下しますが、副腎でつくられる男性ホルモンが、アロマターゼの働きにより女性ホルモンに変換されます。したがって、ホルモンの材料となる脂肪が多いほど、乳がんのリスクが高くなります。

Ann Oncol. 2014 Feb;25(2):519-24.
Body mass index and breast cancer risk in Japan: a pooled analysis of eight population-based cohort studies
DOI: 10.1093/annonc/mdt542

一般的な治療としては、アロマターゼ阻害剤を処方します。乳がん細胞に到達したエストロゲンの働きを阻害する抗エストロゲン剤なども使われます。閉経後の人には、アロマターゼ阻害剤と抗エストロゲン剤を処方しますが、閉経前の人は卵巣が働いているので、卵巣のエストロゲンを止めるために、下垂体の働きを止めるLHRHアゴニストという薬が処方されます。

では、アロマターゼを阻害して、エストロゲンの働きをブロックすれば、完全に乳がんを撲滅できるかというと、実際はそう簡単にいきません。それは、受容体が変化するからです。

4-8. 受容体のホメオスタシス

先述のLHRHアゴニストは、合成されたLHRHで、通常のLHRHの100倍の効力を発揮します。下垂体に対する過度な刺激により、ホメオスタシスが働いて受容体が減少し、応答能が低下します。これにより、エストロゲン分泌が抑制されます。これを偽閉経療法と言います。

その一方で、抗エストロゲン剤も併用されています。エストロゲンの受容体をブロックする薬ですが、当然ホメオスタシスが働いてアップレギュレーションが起こってしまいます。つまり、エストロゲンの減少に伴って受容体が増加したり、感受性が亢進した結果、応答能が増大してしまうのです。

乳がんの原因は、エストロゲン受容体のアップレギュレーションであることを示す論文もあります。

Med Mol Morphol. 2010 Dec;43(4):193-6.
Mechanisms of estrogen receptor-α upregulation in breast cancers
DOI: 10.1007/s00795-010-0514-3

タモキシフェンというエストロゲン受容体ブロッカー薬の説明書には、重要な基本的注意として、「本剤の投与により、子宮体がん、子宮肉腫、子宮内膜ポリープ、子宮内膜症が見られることがある」と記載されています。最初は効くかもしれませんが、ホメオスタシスが働きだすと、アップレギュレーションが起きて、子宮関連の疾患リスクが高まると考えられます。

『乳がんと牛乳』(ジェイン・ブラント著)には、著者自身が乳がんを患い、抗癌剤やホルモン療法など、ありとあらゆる治療をやっても何度も再発したのに、乳製品を完全にやめたら全く再発しなくなったという話が書かれています。

これは、乳製品に含まれる環境エストロゲンの作用により、受容体のアップレギュレーションが起こった結果ではないかと思います。薬で無理矢理止めても、完全には抑えられないということです。では、どうすれば良いのでしょうか?

4-9. ホルモン代謝を正常化する

それはズバリ、代謝を正常化することです。女性ホルモンの代謝を見てみましょう。エストロンはフェーズ1で活性化されると、善玉エストロゲンである2-OHE1や発がん性のある16α-OHE1になります。2と16の比率が重要で、外因性の環境エストロゲンやPCB暴露があると、全て16α-OHE1に流れてしまいます。

他にも、甲状腺機能低下症、殺虫剤、喫煙、カフェイン、薬物の影響でCYP3A4が活性化され、16α-OHE1が増えて発がんリスクが高まります。したがって、デトックスのフェーズを強化し、代謝を促す必要があります。代謝がスムーズになれば、増殖作用がないエストリオールに変換され、がんリスクが低減します。

4-10. エストロゲンデトックスのための食材とサプリメント

エストロゲン代謝を促すには、COMTを活性化するビタミンB6やグルタチオン、メチオニンなどを使うのが効果的です。もう1つの方法として、2-OHE1の方向に流れを向けてあげることも有効です。そのためには、アブラナ科の野菜やI3C(Indole-3-carbinol)、DIM(Diindolylmethane)、亜麻仁油、チロキシンなどを使います。あとはデトックスな生活を心がけること、腸内環境を良くすることです。

4-11. 3型アルツハイマー病と性ホルモンの関係

『アルツハイマー病 真実と終焉』の著者であるデール・ブレデセンが提唱したアルツハイマー病の3つの型のうち、3型は毒物性アルツハイマー病で、マイコトキシンや重金属の暴露が原因で発症するものです。

他のアルツハイマー型よりも発症が早く、40代からと言われています。ストレスなどがトリガーになり、認知機能よりも、うつ症状が先に見られるという特徴があります。この3型アルツハイマー病にもホルモンバランスが関係しています。

3型アルツハイマー病の特徴
・40代で発症(更年期頃に起きやすい)
・うつ病が認知機能低下に先行する
・記憶低下<集中力低下、計算不能
・強いストレスがトリガー
・マイコトキシン、もしくは重金属への暴露
・血中TG低値
・血清亜鉛低値
・HPA軸↓、プレグネノロン↓、DHEA↓

3型アルツハイマー病の症例を見てみましょう。

57歳女性

  • 数年前から腹部のガスが増えた
  • 以前は考えられないようなうっかりミスが増え、記憶力、集中力が落ちた(日常生活には支障なし)
  • 昨年夏頃から睡眠の質が落ちた
  • 便の調子が良くない(いつも軟便、食事の度にもよおす、乳酸菌サプリで多少改善)
  • 年齢のせいかと思っていたが、腸内環境が悪化することでも記憶力、集中力が落ちると知り来院

早期認知症検査(MOCA)をやってみたところ、30点中の29点で全く異常なしでしたが、本人には、計算に時間がかかる、じっくり集中できない、記憶力が低下したという自覚がありました。

血液検査で確認すると、ホルモン値は保たれていましたが、銅亜鉛バランスが崩れていました。

  • 25OH-D 43 ng / ml
  • Cu 118μg / dl
  • Zn 66μg / dl
  • ACTH 21.5 pg / ml
  • コルチゾール 7.3μg / dl
  • DHEA-S 1767 ng/ ml
  • エストラジオール 8.1 pg / ml
  • テストステロン 25.5 ng / dl

炎症に関しては、ピロリ菌陽性でした。その他にも、胃の炎症、中等度の上咽頭炎、感染根菅が3カ所、口腔内カンジダもあり、体中炎症だらけの状態でした。

  • ヘリコバクタピロリ抗体陽性
  • PG1 46.7 ng / ml
  • PG2 10.6 ng / ml
  • PG1/PG2 4.4

マイコトキシンの蓄積も見られました。

マイコトキシンは、アルツハイマー病及びパーキンソン病などの神経変性疾患の発症に寄与していると言われており、暴露源としては、汚染された穀物、ブドウジュース、乳製品、香辛料、ワイン、乾燥ブドウ果実、コーヒーなどが挙げられます。

毛髪ミネラル検査の結果を見ると、ミネラルの輸送障害があり、水銀の蓄積が疑われました。

この症例のように、一見、副腎疲労のように見えますが、マイコトキシンと水銀の蓄積があり、腸内環境が悪化していて、ストレスがトリガーとなって記憶力が低下している場合は、3型アルツハイマー病の疑いがあります。

最後に、治療ピラミッドに当てはめてみましょう。炎症、毒物の蓄積、ホルモン代謝異常、こうしたものが結果として脳に影響を及ぼします。これらの根本原因を下から順番に治療していく必要があります。

5. 最後に

いかがでしたか?ホルモン代謝異常により、様々な疾患が引き起こされることをご理解いただけたかと思います。代謝の正常化は、通常の医療ではリーチできない部分なので、栄養療法的なアプローチがとても重要です。

副腎、甲状腺、性ホルモンはお互い影響し合っているため、副腎→甲状腺→性ホルモンの順番に治療する必要があります。副腎疲労は大きなストレスがトリガーとなり、抵抗期から疲弊期に移行します。自律神経と体性神経は本来は独立した神経系ですが、継続的なストレスで、両者の間に単路がつくられ、弱い刺激でも自律神経が興奮するようになり、慢性的な自律神経失調症につながります。副腎疲労の治療としては、根本治療とセットでホルモン療法を行うケースがあります。コルチゾールはカタボリックを促進するため、DHEAを併用するとアミノ酸分解を抑制することができます。

甲状腺機能低下症に関しては、Ⅱ型と呼ばれる潜在的な甲状腺機能低下を抱えている人が多く見られます。甲状腺ホルモンのT4が活性型のT3に変換できない原因の一つに、コルチゾールスティールの存在があります。したがって、まずは副腎疲労を治すことが先決です。

女性ホルモン代謝異常は、多くの婦人科疾患の原因となっています。代謝異常の原因としては、環境エストロゲンの過剰な暴露や、エストロゲン代謝分解の低下などが挙げられます。乳がん治療には、抗エストロゲン剤などが用いられますが、無理に抑制するとホメオスタシスが働き、かえって症状が悪化することがあります。まずはエストロゲン代謝を正常化するために、生活習慣の改善と、適切なサプリメンテーションを行うべきでしょう。

血液検査から推測するメチレーション

宮澤賢史 · 2021年9月6日 ·

メチレーションのこと、ご存知ですか?栄養療法を学び始めた方の中には、何となく難しいもの…と感じていらっしゃる方が多いかもしれませんね。

そこで今回は、血液検査からメチレーションレベルを推測する方法と、適切に回すための栄養療法的アプローチをわかりやすく解説します。メチレーション回路には様々な栄養素が絡んでいますが、今まで学んできた血液データの読み方を活用すれば、ご自身のメチレーションレベルをある程度推測することが可能です。メチレーションを学んで、栄養療法への理解をさらに深めていきましょう。

1. メチレーションとは

1-1. メチル基供与体と受容体

様々な基質にメチル基(-CH3)が置換または結合することをメチレーション(メチル化)と言います。メチル化することで、物質が活性化したり不活性化したり、様々な化学反応が起きます。メチル基を与えるものをメチル基供与体、受け取るものをメチル基受容体と呼びます。代表的な供与体はSAMe(S-アデノシルメチオニン)、受容体はナイアシンです。SAMeは、ATPに次いで体内でたくさん使われています。

1-2. メチレーション 3つの経路

メチレーション回路は、3つの経路が歯車のように噛み合わさって動いています。メチル化経路はメチル基を作り出す経路、葉酸経路は葉酸を活性化する経路、神経経路はドーパミンを作り出す経路のことです。さらに、メチル化経路のホモシステインからシステインに向かう硫酸経路は、解毒に関係する経路です。

1-3. メチレーションの役割

メチレーション回路は体にとって大変重要な代謝経路で、次のような役割があります。

  • 解毒(グルタチオン合成)
  • メチル基の供給
  • DNA、RNAの産生
  • ドーパミン産生
  • 動脈硬化の予防(ホモシステイン)
  • がんの予防(DNAサイレンシング)
  • 免疫調整

メチレーションが正常に行われると、グルタチオンが合成され解毒が促進します。また、ホモシステインが溜まらないので、酸化ストレスが低減し、無駄なタンパク質の発現が抑えられ、がんを防ぐことができます。葉酸経路が活性化し、DNAやRNAの合成が促進されたり、ドーパミンやセロトニンといった神経伝達物質の合成や代謝がスムーズに行われたりします。

1-4. メチレーションを阻害する要素

メチレーションは、基質と酵素の適合性によって回っているので、基質や酵素の不足によりアンバランスが起こります。例えば、動物性タンパク質の摂取が少ないと基質であるメチオニンが不足しますし、酵素を産生する遺伝子にSNPがあると酵素が不足します。また、補酵素の不足、重金属や感染、炎症といったものがメチレーション回路を阻害します。

  • 基質の不足(タンパク質摂取不足によるメチオニン↓)
  • 遺伝子のSNP(遺伝子多型、MTHFRではC677Tなど)
  • 酵素の補酵素不足(MTHFRではビタミンB2)
  • 重金属(MTRでは水銀、硫酸経路ではヒ素)
  • 感染、炎症(SHMT、CBS、MTR、BH4、CDX)

1-5. 実践ピラミッドにおけるメチレーションの位置づけ

メチレーションは実践ピラミッドの頂上に位置します。メチレーションはとても重要な部分ですが、腸の炎症、デトックス、ホルモンバランス、ミトコンドリア機能のケアをスルーして、メチレーションだけにアプローチしても絶対にうまくいきません。逆に言うと、ピラミッドの下から順にアプローチしていくと、徐々にメチレーションが回るようになっていきます。

2. 自閉症との関連性

2-1. 自閉症治療の難しさ

メチレーションレベルに深い関わりがあるのが自閉症です。自閉症に対するアプローチは様々試みられていますが、なかなか結果に繋がっていないのが現状です。それは、自閉症児の脳は発達段階にあるため、ものすごくナイーブで色々な外的影響を受けやすいためです。普通はメチレーションまで考えなくても症状が改善することが多いのですが、重症患者や子どもの場合は、メチレーションのアプローチが必要になることもあります。

2-2. 自閉症発症の原因

米国自閉症児治療学会であるMAPSの会長で、自閉症治療の第一人者である、ダン・ロシニョール博士は、1971~2010年における自閉症関連の論文を分析し、自閉症には炎症や酸化ストレス、ミトコンドリア機能不全、毒物曝露が関係していることを明らかにしました。

自閉症に関するレビュー
・炎症・免疫不全(416/437, 95%)
・酸化ストレス(115/115, 100%)
・ミトコンドリア機能不全(145/153, 95%)
・毒物曝露(170/190, 89%)
Mol Psychiatry. 2012 Apr;17(4):389-401. 
A review of research trends in physiological abnormalities in autism spectrum disorders: immune dysregulation, inflammation, oxidative stress, mitochondrial dysfunction and environmental toxicant exposures
https://www.nature.com/articles/mp2011165

2-3. 効果的な代替医療

一般的に、自閉症に対する食事以外の代替医療として、エビデンスレベルが高い治療と言えば、メラトニン、ナルトレキソン(オピオイド拮抗薬)、音楽治療くらいしかありません。しかしながら、エビデンスレベルは低くとも、ビタミンB12、B6、B3、亜鉛など、メチレーションに関わる栄養素の摂取により、自閉症改善に効果が現れているため、既に治療に取り入れられています。ロシニョール博士の報告によると、自閉症児の親へのアンケート結果をまとめると、効果があった治療の1位はキレーション、2位はビタミンB12注射、3位はメラトニン摂取でした。

AnnAls of CliniCAl PsyChiAtry 2009;21(4):213-236
Novel and emerging treatments for autism spectrum disorders: A systematic review
https://hyperbaricoxygentreatmentcenter.com/wp-content/uploads/2020/07/Novel-and-emerging-treatments-for-autism.pdf

3. 葉酸経路と遺伝子の関係

3-1. MTHFRの遺伝子変異

葉酸経路で働くMTHFR(5,10-メチレンテトラヒドロ葉酸還元酵素)は、葉酸を活性化するときに使われる酵素で、5,10-メチレンテトラヒドロ葉酸を活性化型のメチル葉酸に変える働きをします。補酵素はビタミンB2とNAD(ビタミンB3)です。ビタミンB2、B3不足や、MTHFRに遺伝子変異があると、葉酸を十分に活性化できなくなります。

MTHFRの遺伝子は、20,373塩基対からなる大きなタンパク質です。遺伝子には冗長性があるので、1個や2個の塩基が置き換わってもタンパク質の機能にはあまり影響ありません。しかし、塩基番号677番、または1298番の塩基が1つ入れ替わると、それだけで機能が大幅に損なわれてしまいます。

  • 塩基番号677:本来シトシン(C)のはずが、SNPが生じるとチミン(T)に置き換わり、生成されるアミノ酸がアラニンからバリンに変わる
  • 塩基番号1298:本来アデニン(A)のはずが、SNPが生じるとCに置き換わる

遺伝子多型とは、遺伝子上の1つの塩基が別の塩基に置き換わることです。 1%以上の人が持っているものをSNP(スニップ、一塩基多型)、1%以下の人しか持っていないものを突然変異と呼びます。MTHFR遺伝子多型は日本人に多く、C677Tの変異は、日本人の45%に見られます。つまり、MTHFR遺伝子多型は、突然変異ではなくSNPということになります。

人種C677T
変異1つ
(ヘテロ)
C677T
両方変異
(ホモ)
C282YとA1298C
の変異が各1つ
(複合ヘテロ)
A1298C
両方変異
(ホモ)
白人
(欧州・北アメリカ)
25-45%8-18%15-20%4-12%
ヒスパニック
(アメリカ)
42%21%不明4-5%
黒人
(アメリカ)
14%約1%不明2-4%
アジア人35%
(日本人)
11%
(日本人)
不明1-4%

遺伝子は両親から受け継ぎます。遺伝子変異を1つ受け継いだ場合をへテロ(異型接合体)、2つ受け継いだ場合をホモ(同型接合体)と言います。677CCが正常、677CTがヘテロ、677TTがホモとなります。また、677CTと1298ACといったようにそれぞれに遺伝子変異が1つずつある場合を複合ヘテロ接合体と呼びます。 

3-2. 葉酸サプリメントの種類

葉酸サプリメントは大きく分けて、非活性葉酸、10ホルミル葉酸に近いフォリン酸(folinic acid)、5-メチル葉酸の3種類あります。5-メチル葉酸は日本では製造できないため、海外から購入する必要があります。個々のリスクよってどの葉酸サプリを摂ったら良いかが異なります。

葉酸経路は、葉酸を活性化してメチル化経路にメチル基というバトンを渡す役目をしています。非活性型の葉酸が1段階活性化されると10ホルミル葉酸になり、これがDNA合成を促進します。大多数の人は10ホルミル葉酸まで活性化させることができるので、非活性葉酸でも適量摂取すればDNA合成が促されます。

3-3. 妊娠前にはどの葉酸サプリを飲んだらいいのか?

二分脊椎というDNA合成不良により、神経系に異常をきたした赤ちゃんが産まれるケースが多かったことを受けて、厚生労働省が妊婦に対して葉酸サプリメントの摂取を推奨しています。

結論から言うと、妊娠前の方は普通の非活性葉酸で十分です。葉酸の量自体を増やすことが重要で、非活性葉酸でも十分効果を発揮します。特に積極的に摂取したいのは、オーバーメチレーション型のうつ症状がある方です。ナイアシンと葉酸サプリメントの摂取で、ドーパミンの過剰な生成を抑えてくれるからです。この場合も非活性葉酸を使います。

3-4. 特に注意すべき人とは?

問題は、10ホルミル葉酸からメチル葉酸になる代謝で、ここにはMTHFRが関わっています。MTHFR遺伝子に変異があると機能が半減し、メチル葉酸が低減します。メチル葉酸はドーパミンと解毒に関わっており、言語障害や解毒力低下を引き起こします。また、メチル葉酸はメチル化回路と繋がっており、ビタミンB12と反応して非活性型葉酸になってまた戻ってきますが、MTHFRにSNPがあるとこの循環がうまくいかなくなります。その場合は、活性型のメチル化葉酸をサプリメントで摂取して、この反応をバイパスしてあげる必要があります。

MTHFRの遺伝子検査は、唾液採取で簡単に検査ができるので、リスクがある女性は妊娠前に一度検査をしておくと良いでしょう。その結果を受けて、リスクがありそうだったら、フォリン酸またはメチル葉酸を摂取します。副作用がなく安全性が高いのはフォリン酸ですが、リスクが大きい場合はメチル葉酸を選びます。メチル葉酸は活性型葉酸なので、多少リスクがあります。葉酸はグルタミン酸を内部構造に含んでいるため、メチル葉酸を飲んでイライラが強くなったという事例は少なくありません。そうしたリスクを避けるのであれば、フォリン酸を選ぶと良いでしょう。

自閉症の家系

一卵性双生児において、片方が自閉症を発症した場合、もう片方が発症する確率は60~90%というデータがあり、遺伝の影響はかなり大きいと言えます。家系で自閉症の方がいる場合はMTHFRの遺伝子検査をした方が良いでしょう。

Mol Psychiatry. 2007 Jan;12(1):2-22.
The genetics of autistic disorders and its clinical relevance: a review of the literature
https://www.nature.com/articles/4001896

低メチレーション同士の夫婦

また、自閉症児の親には優秀な人が多いこともわかっています。高い業績を上げている、強迫神経症である、細部までわたる注意力を備えている、こだわりが強いなど、低メチレーション傾向の夫婦(例えば医師同士の夫婦)からは自閉症の子供が産まれる確率が上がると言われています。その場合、食事や解毒や酸化ストレス、炎症などに気をつけながら、必要に応じて葉酸サプリメントを補います。

薬物の影響

また、妊娠から20~24日目にサリドマイドを服用していた場合にのみ、子供に自閉症状が出たという報告もあります。子宮内ブックマークの書き換えが妊娠 1ヶ月目に起こるので、妊娠する前から対策をしていないと間に合わないということです。

Dev Med Child Neurol. 1994 Apr;36(4):351-6.
Autism in thalidomide embryopathy: a population study
https://onlinelibrary.wiley.com/doi/10.1111/j.1469-8749.1994.tb11856.x

出生後の酸化ストレス

妊娠前に限らず、生後のケアも重要です。なぜなら、自閉症は退行型発症が80%、つまり、生まれた時(生後16~24ヶ月)は正常で、その後突然発症するケースが大多数だからです。

Neuropsychol Rev. 2008 Dec;18(4):305-19. 
Regression in autistic spectrum disorders
https://link.springer.com/article/10.1007%2Fs11065-008-9073-y

自閉症児は、グルタチオン、セレン、システイン、マグネシウム、亜鉛、ビタミンAが不足しており、水銀、鉛、銅が過剰で、酸化ストレスを生みやすい状態にあることがわかっています。

Presented at the APA Annual Meeting, May, 2001
Disordered metal metabolism in a large autism population
http://www.walshinstitute.org/uploads/1/7/9/9/17997321/disordered_metal_metabolism_in_a_large_autism_population.pdf

自閉症は、酸化ストレスに酸化防御能力が耐えられなくなると、脳が不可逆的な炎症を起こして発症します。したがって、十分な抗酸化対策、カゼインフリー、グルテンフリーを含めた腸内環境ケアをしっかり行えば確実に予防できるのです。

4. 血液データから推測する

4-1. 指標となる血液データ

初めてメチレーションを学ぶ方は、血液データを見てメチレーションの状態を推測することから始めましょう。

指標となる項目
☑️ MCV
☑️ AST(GOT)、ALT(GPT)
☑️ 尿酸
☑️ 炎症(フェリチン、CRP、血小板)
☑️ 好塩基球
☑️ ミトコンドリア

4-2. MCVからビタミンB12不足を推測する

メチル化経路で働くMTRは、補酵素にビタミンB12を使うため、MCVが高い人はメチレーションがうまく回っていない可能性があります。効果があった自閉症治療の第3位にビタミンB12注射がありましたが、これはMTRの反応をターゲットにした治療です。MCVの値は、細胞内のビタミンB12、葉酸濃度を反映するので良い指標となります。ビタミンB12が細胞内で働く際にリチウムを必要とするので、リチウム不足を把握するために、毛髪ミネラル検査を受けておくのも良いでしょう。

4-3. ビタミンB6の様々な働き

次に、ビタミンB6が不足するとメチレーションにどのような影響があるか見ていきましょう。ビタミンB6は体内の様々な場所で働いてるので、影響が出やすい栄養素ですが、代表的なものでは次の3つが挙げられます。

  • COMT↓:ドーパミン、エストロゲン代謝の低下
  • CBS↓:ホモシステイン蓄積、解毒力低下
  • GAD↓:不安感、会話ができない(言葉とノイズが区別できない)

ビタミンB6は、ドーパミンの代謝に働くCOMT(カテコールO-メチル基転移酵素)を活性化します。他にもリチウムや抑肝散で活性化されるので、イライラが治らない場合は、これらを摂ると改善します。逆に、SAH(Sアデノシルホモシステイン)、コーヒー、ケルセチンはCOMTの働きを弱めるため、特に低メチレーション傾向の人は注意が必要です。

ホモシステインを硫酸経路に流す酵素である、CBS(シスタチオニンβ合成酵素)もビタミンB6で活性化されます。CBSに遺伝子変異があると、活性化しすぎたり、逆にホモシステインが蓄積して解毒力が弱まったりします。後者の場合は、ビタミンB6をサプリメントで補うと良いでしょう。

ビタミンB6は、グルタミン酸をGABAに転換するGAD(グルタミン脱水素酵素)の補酵素でもあります。不安感が常に付きまとっている人は、ビタミンB6を摂取するとGABAへの変換が促されます。また、私自身がそうなのですが、会話とノイズの区別が苦手な体質なので、ノイズキャンセラーヘッドホンが手放せません。そういった人は、ビタミンB6を摂ることで、ヘッドホンを付けた時と同じような効果を得ることができます。

4-4. ASTとALTからビタミンB6不足を推測する

ビタミンB6不足の確認は、AST(GOT)とALT(GPT)の差が指標になります。ALTはグルコース-アラニン回路で働く酵素です。エネルギー源としてブドウ糖と乳酸が両方不足した時に、筋肉のアミノ酸が分解され糖新生によりグルコースが生成します。筋肉にはグルコースを生成するグルコース-6-ホスファターゼが存在しないため、ALTの働きでピルビン酸がアラニンになり、このアラニンが肝臓に運ばれて糖新生が行われます。

引用:ポケットアトラス栄養学

ASTとALTはともにビタミンB6を補酵素としますが、ALTの方がよりビタミンB6の影響を受けやすいため、ビタミンB6不足の場合、AST>ALTとなります。

4-5. 尿素窒素とビタミンB6

尿素窒素値からもビタミンB6不足を推測できます。アラニンからピルビン酸に戻る反応で尿素が生成されるため、尿素窒素値が低い人もビタミンB6が不足していると考えられます。

4-6. COMTの働きを促進するもの

COMTの働きを良くする栄養素は、SAMe、リチウム、B6、抑肝散です。逆にCOMTの働きを止めるのは、ケルセチン、カテキン、コーヒー、チョコレート、SAHです。

このように、ドーパミン、GABA、セロトニンの生成、COMTの活性化など、神経伝達物質の様々な反応に、ビタミンB6が関与していることがわかります。しかし、ビタミンB6はたくさん飲めば良いというものではありません。摂り過ぎると、トリプトファンからキノリン酸への過剰転換が起きて、キノリン酸が神経毒として働いてしまいます。ビタミンB6の効きが悪い人は、活性型のビタミンB6(P-5-P;ピリドキサール-5-リン酸)を使うと良いでしょう。海外製のサプリメントには、ビタミンB6とP-5-Pが適量ずつ入っているものもあります。ビタミンB6:P5P=2:1くらいがベストです。

4-7. ホモシステイン値を下げる方法

メチル化回路の中心にあるのがホモシステインです。ホモシステイン値は血液検査でわかるので、ぜひ一度測ってみてください。ホモシステインは酸化ストレスの素になるので、値が高い人は下げる必要があります。ホモシステインを下げる方法は3通りあります。

MTRを活性化する

正攻法は、MTRを介してDNA合成に向かう経路を回す方法で、ビタミンB12、葉酸、亜鉛を使います。ただし、MTRは炎症と重金属、カンジダにとても弱いという性質があります。お子さんの場合はビタミンB12の吸収も悪いので、注射を打つこともあります。

BHMTを活性化する

正攻法でうまくいかない場合は、亜鉛とトリメチルグリシンというベタインを使い、BHMTの酵素を活性化させてメチオニンに行く経路を流してあげます。これを近道の経路と呼びます。近道ばかり回していると、神経伝達物質やDNAの合成が滞りますが、とりあえずホモシステインを下げてメチル基を作ることを優先させます。これは、エイミー・ヤスコプロトコルの方法です。ある程度SAMeをたくさん供給できる状態にもっていったところで近道を止めると、MTRの経路が回り出して言語障害などが改善します。

ポイントは、近道の経路がコルチゾールで活性化するということです。つまり、ストレスはメチレーションに影響するということです。BHMT酵素はストレスがあると活性化し、SAMeがたくさん生成されるので、高ストレス状態の時には高メチル化状態になります。副腎疲労の疲弊期になるとコルチゾールが枯渇しているので、低メチレーションのように見えます。でもだんだん治ってくると、実は高メチレーションだったということはよくあることです。好中球分画や唾液中コルチゾール値を見て、ストレス状態を把握すると、メチレーションの状態が推測できます。

CBSを活性化する

3つ目の方法は、ビタミンB6などを使ってCBSを回すことです。CBSの働きが弱まっていると、ホモシステインが高くなり、若年性心筋梗塞などのリスクが高まります。逆に、ホモシステインが低すぎる場合は、解毒やDNA合成などに使う材料が足りないことを意味するので、その場合は動物性タンパク質をしっかり摂ってメチオニンを補給しましょう。

4-8. 炎症とメチレーション

メチレーションに影響するのは、ビタミンB12、B6、ストレス、そして炎症です。炎症はメチレーションにものすごく影響するので、フェリチンやCRP、血小板といった炎症マーカーが上がっていれば、まずは炎症の部位を突き止めて対処する必要があります。

メチレーションの反応で炎症に 1番弱い部分がMTRです。炎症の他に、カンジダ、水銀、活性酸素でもこの経路は阻害されてしまいます。炎症性サイトカインであるTNFαや、カンジダにより分泌されたアセトアルデヒドがMTRの働きを止めます。メチレーションを改善するためには、MTRの働きを阻害する要因をまず最初に除く必要があります。

2番目に弱いのは、メチレーションと他の代謝経路が交わっている部分です。トリプトファンは、セロトニン経路とキヌレニン経路の二手に別れます。セロトニンには10%、残りの90%はキヌリン酸にいきます。炎症があるとセロトニン経路が止まり、キヌリン酸経路に流れるため、セロトニン不足が起こります。また、炎症があると、キヌレニン経路が活性化して免疫を上げるナイアシンをたくさん作るようになります。しかし、炎症が強すぎると、ナイアシンの手前で代謝が止まってキノリン酸が溜まり、神経毒として働いてしまいます。

ナイアシンはBH4を作る経路で働きます。BH4はセロトニンやドーパミンの生合成に必要な物質で、ナイアシンから作られる経路と、BH2のリサイクルで作られる経路があります。両方の経路が活性化されないと、セロトニンとドーパミンのバランスがうまく取れません。炎症を起こすと、セロトニン経路からもBH4からもセロトニンが作られず、相対的にドーパミンが過剰になって、イライラが強まります。BH2からのリサイクル経路は、特にアルミやアンモニアで阻害されると言われています。

4-9. 神経伝達物質の産生

メチレーションの一番左に位置するのが神経経路です。BH4は、チロシン、Lドーパ、5HTPといった様々な神経伝達物質の産生に関わっている補酵素です。

BH4の阻害要因は、アルミニウムとアンモニアです。また、MTHFR1298の遺伝子変異によっても阻害されます。

4-10. 尿酸不足は低メチレーション

メチル化回路で働くAHCYという酵素があります。メチオニン→SAMe→SAH(S-アデノシル-L-ホモシステイン)→ホモシステインという一連の代謝において、SAHからホモシステインに変換されるところで働きます。AHCYによってホモシステインとアデノシンが生成し、アデノシンは、イノシン→ヒポキサンチン→尿酸と代謝されていきます。

このことから、尿酸値はメチル化回路の状態を見る指標の 1つになります。尿酸が低ければ、AHCYの働きが悪くSAHが上がり、低メチレーション状態になっていると推測できます。 ご存知の通り、尿酸は体内で作られる1番の抗酸化物質なので、尿酸が低い人は抗酸化対策が必要です。抗酸化対策として最初にアドバイスするのは、ヒポキサンチンの補酵素であるモリブデンを摂取することですが、根本的には炎症を治してメチレーション回路を回してあげることが重要です。

 SAHが上がると、COMTの働きが弱まるため、ドーパミン、アドレナリン、エストロゲンの分解ができなくなります。エストロゲンとドーパミンの分解には、同じ酵素が使われるため、生理周期後半にイライラしやすいのは、エストロゲンが過多になってドーパミンの分解が追いつかなくなるためです。人によってはビタミンB6を摂取しCOMTの働きを補完してあげると、生理周期に伴うイライラを和らげることができます。

4-11. ミトコンドリア機能とメチレーション

メチオニンをSAMeに変換するMATという酵素は、補酵素としてマグネシウムをたくさん必要とします。エネルギーも多く使うので、ミトコンドリア機能障害がある場合もメチレーションが低下してしまいます。また、硫酸経路にもエネルギーを多く要します。人間は、エネルギーの3割を解毒に使っているので、ミトコンドリア機能の低下により硫酸経路が止まってしまい、解毒ができなくなってしまいます。血液データから、ミトコンドリア機能低下が疑われる人は、そこへのアプローチも必要です。

4-12. まとめ

ASTとALTが低ければ、COMTとCBSの低下を疑います。尿酸値が低ければ、低メチレーションでCOMTにも影響しているかもしれません。クレアチニンが低ければ一般的には低メチレーションですが、例外的に高メチレーションの場合もあります。ミトコンドリアが低下している時は、低メチレーション、SAMe不足になります。炎症があれば、まず炎症を抑えることから始めましょう。

  • GOT, GPT↓:COMT↓(イライラ)、CBS↓(解毒できない、HCT↑)
  • 尿酸↓:低メチレーション、COMT↓
  • クレアチニン↓:低メチレーションor高メチレーション
  • ミトコンドリア↓:低メチレーション、SAMe不足
  • 炎症:MTR↓、CTX↓(解毒できない)
  • ストレス:BHMT↑(言語の問題など)

糖質制限してよい人いけない人

宮澤賢史 · 2021年8月28日 ·

15年前に低血糖症と診断した患者さんに糖質制限を指導して、症状が悪化してしまった時の事を今でも昨日のように覚えています。糖質制限は自律神経を整え、ケトン体生成を可能にしてくれる素晴らしい治療ですが、適応になる人とならない人が存在します。糖質制限今日は分子栄養学とは何なのか、また分子栄養学実践講座はどのような内容なのかを、糖質制限の観点からご説明します。まずは一番良く聞かれるご質問「普通の栄養学」と「分子栄養学」は何が違うのかから説明していきましょう。

1.普通の栄養学と「分子栄養学」は何が違うのか

分子栄養学という言葉をご存知ない方はいらっしゃらないと思いますが、分子栄養学とは何かと改めて聞かれるとなかなか説明しづらいですよね。

僕もいつもどのように説明しようか考えていますが、分子生物学を知らないと説明が難しいと思います。分子生物学と分子栄養学は一体どのような違いがあるのでしょうか。

1-1.親子の見た目が似ている理由

  • 黄色と緑のエンドウマメをかけ合わせると全て緑のエンドウマメになる
  • 黄色のエンドウマメ同士をかけ合わせると75%が黄色、25%が緑のエンドウマメになる

これをメンデルの法則と言います。このように、実際の現象から何らかの法則を発見して、そこから法則性を探っていくのが従来の生物学です。

この生物学の考え方を根底から覆したのがジェームズ・ワトソンとフランシス・クリックです。1953年、彼らはDNAの二重らせん構造を発見しました。人間は細胞からできていて、細胞の中には核があり、核の中にはDNAがあり、DNAはタンパク質の設計図になっています。そしてDNAは両親から片方ずつ受け継いでいきます。DNAを受け継いで、そのDNAからタンパク質ができていて、そのタンパク質から人間ができているから親子は似ているのです。

生物学
子は親に似る(経験から法則性を探っていく)
⇒ DNAの二重らせん構造の発見 ⇒
分子生物学
遺伝子が受け継がれるため、そこから作られるたんぱく質の立体構造が似る
(法則を分子レベルで科学的に説明できる)

1-2. 壊血病と脚気は経験則から治療が発見された

航海中の船は食物の供給がままならないため、栄養不足になりやすい場所です。

1600年代の大航海時代には、長期間航海を行う船員の半分の人が壊血病で亡くなりました。ジェームス・リンド医師が船にビタミンCを含むライムを積んだことでこの問題は解消しました。

1920年ごろの日本の海軍は脚気に悩まされていました。発症率は20%以上、5人に1人がかかっていました。当時は原因がはっきり分からず、軍医の高木先生が食事に問題があると言って、欧米にならい麦飯と肉などタンパク質を導入したら、2年で発症率が23%から1%以下に激減しました。当時ははっきり原因は分かりませんでしたが、経験的に良いだろうと積み重ねたのが従来の生物学です。それからビタミンB1が発見されて、ミトコンドリアの機能が生科学的に説明できるようになりました。

経験から法則を探るのが従来の栄養学、生化学的な理論で突き詰めるのが分子栄養学です。これで説明になっているでしょうか?

栄養学
大日本帝国海軍で軍医の高木兼寛が麦飯を導入したところ、脚気の発症率が2年で23.1%から 1%未満に激減した(経験則による)
分子栄養学
脚気はビタミンB1を補酵素とするPDHの機能低下による
ミトコンドリア病(疾患を分子レベルで科学的に説明できる)

1-3. 脚気の生化学的原因

脚気とは、ビタミンB1を補酵素とするピルビン酸デヒドロゲナーゼの機能低下だと説明することができます。このように、分子栄養学は分子レベルの科学的な説明ができることが大きな違いです。

根本原因が分かるので疾患の原因をピンポイントで特定できます。つまり、細胞やミトコンドリア、分子などに着目すると、目に見えない病気の原因を突き止めることができるようになります。

これはジェノバダイアグノスティックス社の検査です。

炭水化物、脂肪、タンパク質などそれぞれの栄養素がTCA回路というエネルギー回路のミトコンドリアの中に入って燃えていく図を表しています。

炭水化物が分解されてブドウ糖から出来るのがピルビン酸です。ピルビン酸はアセチルCoAになってミトコンドリアの中に入っていきます。もし検査データで、ピルビン酸や乳酸が多くてクエン酸が少なく出れば、ピルビン酸をアセチルCoAやクエン酸に変換する経路が働いていないということが分かります。重要な段階である律速段階でピルビン酸デヒドロゲナーゼが働くためにビタミンB1が重要なので、これが不足しているということがピンポイントで推測できます。

分子栄養学的に見れば、脚気とはミトコンドリア機能障害です。ミトコンドリアが障害されるので、ミトコンドリアをたくさん含む心臓の働きが低下して心不全を起こしたりします。脚気を症状から診断するのは難しいですが、生体内物質の量や、変換に必要な酵素の活性を測定できれば、原因の特定は難しくありません。

1-4. 必要な栄養は人によって異なる

クエン酸回路の図は、首都高の渋滞マップのようです。新宿からディズニーランドに行く時に箱崎を通って行くこともできるし、箱崎が渋滞していたらレインボーブリッジを渡って行くこともできます。レインボーブリッジが封鎖されていたら箱崎は少し混んでいたとしてもそこを通らざるを得ません。中にはどちらも渋滞している人もいます。このように、体内の代謝状態は人によって大きく異なり、これを個体差と呼んでいます。

言い換えれば、個体差とは体内における酵素と基質の反応力です。これは鍵と鍵穴の関係に例えられます。鍵穴の形をした酵素の設計図はDNAです。DNAは一人一人違うために鍵穴の形も人によって異なります。鍵穴の形が変形してる人は、潤滑油の補酵素を使わないと鍵がスムーズに入りません。

このように人によって必要な栄養素が異なることを知り、実際の個人データを測り、分子栄養学をベースにした個別化栄養療法の勉強会を行っているのが分子栄養学実践講座です。

2. 糖質制限を考慮してもよい人

今日はこの見解をベースに、糖質制限について考えてみたいと思います。「先生は糖質制限推進派ですか?そうではない派ですか?」とよく聞かれますが、そのどちらでもなく、「人によって変える派」です。

一般的に糖質制限を考慮しても良い人とは、食事療法の選択肢として考える糖尿病の患者です。アメリカの糖尿病学会は、2013年に糖質制限を食事療法の選択肢の一つとして認めるとアナウンスをしました。もっとも100%糖質制限だけが良いというわけではなく、カロリー制限も地中海食も選択肢として良いのですが、人によっては糖質制限も合うだろうというコメントをしています。

特に糖質制限に適しているのは、インスリンが効きにくい人です。インスリンが効きにくいためにインスリンが沢山出て、脂肪細胞がどんどん大きくなってしまうことを「インスリン抵抗性がある」といいます。糖質制限はインスリン抵抗性を下げるのに有効だという報告も多々あり、特に減量時に有効です。

薬がなかなか効かない難治性のてんかんの選択肢として、ケトン体が出る糖質制限も良いでしょう。

また、がんは種類によってエネルギーが糖質依存になります。そのためがんの成長期に糖質制限をするのは人によったら良いかもしれません。

糖質制限して良い人
・糖尿病の食事指導の選択肢の一つ
・インスリン抵抗性の患者が減量する場合
・難治性てんかん
・がん患者

2-1. ケトン食療法の適応となるてんかん

  • 2剤以上の抗てんかん薬を十分な量、十分な期間使用しても効果が不十分な難治性てんかん患者
  • ただし、West症候群などのてんかん性脳症などでは早めに検討して良い
  • てんかん外科の適応のある患者さんでは外科手術が優先される

2剤以上の抗てんかん薬を入れても効果がない人は、てんかん食を試したら良いでしょう。日本ではまだ完全に認知されてませんが、アメリカや韓国では標準の治療の中に組み込まれています。

ケトン体は脂肪酸と比べて分子量が小さいため、脳血液関門(B.B.B)を通過して脳のエネルギー源となり得ます。また、ケトン体には抗酸化作用もあります。

2-2. 糖尿病の食事療法についての議論

・2008年 DIRECT 研究(2+4年)
低脂肪食に比較して地中海食と低炭水化物食では減量効果が優っており、
両群では血中脂質やインスリン抵抗性が改善。
・2013年 米国糖尿病学会のstatement
肥満者の減量を図るためには、低炭水化物食、低脂肪食あるいは地中海食は、短期間(2年間まで)では有効であるかもしれない(ガイドラインの変更)
・日本糖尿病学会の提言 2013年
「総エネルギー摂取量は過剰でも、炭水化物さえ制限すれば減量効果がある」という解釈は短絡的。炭水化物を制限することによって起きる、たんぱく質あるいは脂質摂取増加の影響が調整されていない。

糖質制限が糖尿病の治療として認められるようになったのは、2008年のDIRECT研究がきっかけです。それまでも糖質制限が良いとは言われていましたが、第一級のエビデンスレベルのある論文がありませんでした。医学の世界では、このように論文が出ると急に見方が変わることがよくあります。低炭水化物食と地中海食では減量効果が勝っており、脂質やインスリン抵抗性が改善したので、選択肢の一つになりました。ただこれには個体差があります。

2-3. 脳腫瘍に対する糖質制限

癌に関しては、多くの悪性細胞はミトコンドリア機能が障害されてしまうため、糖質を代謝するようになります。ブドウ糖はインスリンレベルを高くしますが、このインスリン様成長因子も高くします。インスリンには細胞増殖作用があるため、ガンが進行するという理屈です。癌患者はみんな糖質制限した方が良いだろうと思いきや、効かない人もいます。

神経膠芽腫に対するケトジェニックダイエットを用いた治験
Pilot Feasibility Stud. 2017 Nov 28;3:67.
Ketogenic diets as an adjuvant therapy in glioblastoma (the KEATING trial): study protocol for a randomised pilot study.

神経膠腫にケトジェニックダイエットが有効
Cancer Metab. 2015; 3: 3.
Published online 2015 Mar 25. doi:  10.1186/s40170-015-0129-1

神経膠芽腫は脳の悪性腫瘍の中で一番悪性で、平均寿命が1年ぐらいです。放射線治療にも手術にもなかなか反応しないので難渋しますが、この神経膠芽腫には特別に糖質制限が効くという報告が出始めていて、二重盲検試験のトライアルがされている最中です。こういう極端な場合は糖質制限していいかどうかわかりやすいのですが、神経膠芽腫じゃない場合、髄膜腫の場合、膵臓癌、白血病の場合は糖質制限が良いのか悪いのかは分かりません。実際に糖質制限をしてみても良いですが、がん幹細胞検査がお勧めです。

2-4. がん幹細胞検査

インスリン様成長因子受容体

加齢、腫瘍成長に関わる この数値が高ければ、
*放射線治療と化学療法への抵抗性
*強い炎症ががんのベースにある
*成長にエネルギーが必要、特に砂糖で成長

がん幹細胞検査とは、採血するだけでがんの性質が分かる検査です。がんは直径2mmになると血中に一部分出ているため、その一部分を採血で末梢から取ることによって、そのがんを様々な物質にさらして感受性を見たり、遺伝子レベルを検索したりして見ます。この検査をして、インスリン様成長因子の受容体であるIGFR1の数字が30%あると陽性です。この数値が陽性の人は放射線や化学療法が効きにくいので、この数値が上がっていたらがんのベースにある炎症を抑えるような治療した方が良いでしょう。

そして、成長にエネルギーを使う、特に砂糖で成長するという特徴があるので、僕ならがんになったらこれを調べて、この数字が高ければ糖質制限をします。個体差があるので、抗がん作用があると言われているビタミンCの点滴が効くかどうかもこの検査でわかります。

3. 糖質制限をしてはダメな人

糖質制限の最初の提唱者である江部先生によると、糖質制限をしてはいけない人とは、腎不全、膵炎、肝硬変、長鎖脂肪酸の代謝異常がある人です。この人たちは、糖質以外の栄養の摂取、吸収、代謝に問題があります。糖質制限では、主に脂質をエネルギーとして使わなければいけないため、その経路に問題があったらできません。

このリスト以外にも糖質制限をしてはいけない代表的な疾患があります。それは副腎疲労です。副腎疲労も立派な糖代謝異常です。僕が糖質制限を勧めて悪化した患者さんは、ステージ3の副腎疲労だったのです。

糖質制限してはダメな人
・腎不全
・活動性膵炎
・非代償期の肝硬変
・長鎖脂肪酸代謝異常
・副腎疲労

3-1. 35歳男性 副腎疲労

  • うつ病にて投薬治療中。再発を何度も繰り返す。
  • 倦怠感、疲れやすい、頭重感、夜中に数回目が覚める、不安感。
  • 低血糖症という言葉を知り、糖質制限を始めました。
  • 起床時に憂うつ、不安、恐怖感があり、なかなか起きられない。睡眠が浅い、頭がぼーっとして、頭と体が重たい、疲労感、イライラ

上記は35歳の男性の問診ですが、夜中に数回目が覚めているという症状から、低血糖を起こしていることが分かります。血糖値を保てなくなり、自律神経が緊張しています。糖質制限を始めたところ、症状は悪化したそうです。

副腎疲労の原因は、長年のストレスです。長年のストレスが脳に効き、脳から出る副腎刺激ホルモンが出て抗ストレスホルモンが出ていますが、副腎が疲れてくると、この抗ストレスホルモンであるコルチゾールが5年、10年単位で出なくなってきます。

3-1. 人は糖新生で血糖値を保っている

人は糖新生で血糖値を保っているため、食事をしたら血糖値は上がりますが、せいぜい保つのは2時間です。残りは貯蔵型の糖であるグリコーゲンで、血糖値を保っています。肝臓に12時間ぐらい蓄えていますが、そもそも糖質を食べなければグリコーゲンの蓄積がありません。ではどのように糖質を保つかというと、糖新生です。

肝硬変は、肝臓の機能が落ちているため、糖新生の力が弱いということで問題があります。肝硬変になったらもちろんグリコーゲン貯蔵量も減ります。肝臓の機能が働いていない人に糖質制限は合いません。糖新生を促すためのコルチゾールが出ない疾患である副腎疲労の人にも糖質制限は、難しいです。

食事中のブドウ糖 2時間
グリコーゲン  12時間
両者を使い果たしたら、糖新生(体のアミノ酸を分解してブドウ糖を作る)
①肝硬変  ②副腎疲労

糖新生というのは身体のアミノ酸を分解してブドウ糖を作ることです。この糖新生ができない人は糖質制限NGとなります。

副腎疲労は肝臓に働いて糖新生をうながす

3-3. アラニン回路が働かない人は糖質制限をしてはいけない

これはリブレという簡易血糖測定器です。いつでも血糖値を測れて便利なので、副腎疲労の患者さんにトライアルをしています。

今の僕の血糖値は112ですが、食事をすると上がったり下がったり、リアルタイムで見れるので便利です。正確には血糖値とは違いますが、血糖値のトレンドを追うのにはとても適してます。

これは僕の2月3日の土曜日の0時から24時までの血糖値です。

金曜日に多少お酒をたしなむ機会があり、あまり食事をしませんでした。食事をしないとグリコーゲンの蓄積がないため、低血糖になりやすくなります。しかも、お酒が入ると糖新生の仕組みがうまく働かないため、夜中に低血糖を起こします。糖尿病患者にもよくあることですが、副腎疲労の人はお酒を飲むのはよくないということわかります。

副腎疲労は、唾液中のコルチゾールで測れます。

朝、昼、夕方、夜に唾液中のコルチゾールを測りますが、この方の場合は完全にコルチゾール分泌が枯渇していました。夜中も血糖値がなかなか保ちにくい状態です。

血液検査を見ると、好中球が63.5%で自律神経の過緊張をあらわしています。夜中に低血糖を起こし、副腎がアドレナリンを分泌して血糖を保つので、副腎がアドレナリンを常に分泌させらて、副腎に24時間負担がかかります。

筋肉にはアラニンというアミノ酸があり、アラニン経路でグルコースを作ってくれる経路があるため、筋肉が沢山あれば肝臓のカバーはしてくれます。

この経路はとても重要な経路ですが、アラニンとピルビン酸の切り替えがうまくいかないときちんと働きません。アラニンとピルビン酸の切り替えをうまくしている酵素とは、みなさんご存知のALTという酵素です。

ピルビン酸がアラニンになる時に、このアミノ基が転移します。

グルタミン酸のアミノ基が転移するため、アミノ基転移酵素といいます。このアミノ基転移酵素の補酵素はビタミンB6です。ビタミンB6が不足していると、GOTとGPTの差が激しくなりますが、そういった人は糖質制限をしてもうまくいかないでしょう。

3-4. 長鎖脂肪酸代謝異常症

「このカルニチンサプリを摂ってから身体が軽くなった気がする」「そうなの、じゃあ私もやってみようかな。」これが従来の経験に基づく栄養学です。

それに比べて「このカルニチン摂ってから身体が軽くなったような気がする。有機酸検査でアジピン酸とスベリン酸が低下したし基礎代謝も5%上がったし。」

「え、そうなの?じゃあ私も有機酸検査と基礎代謝測って脂肪酸代謝経路に異常がないか見てみようかな。」これが分子栄養学です。

長鎖脂肪酸代謝異常症は、平成22年度に厚労省の指定難治性疾患に指定されています。

一般検査の異常所見
1)代謝性アシドーシス、2)高アンモニア血症、3)CPK、AST、ALTの高値

日本において毎年10人〜50人の新患が発生と言われていますが、脂肪酸代謝異常の人を何人も見ているのでそんなに少ないわけはないと思います。

この長鎖脂肪酸代謝異常症の人は、本当に極端な異常症です。脂肪をエネルギーに変えることができないので最終的にアシドーシスを起こしたり、横紋筋融解症を起こしますが、こう言った人はごく少数です。ただし長鎖脂肪酸の代謝が止まっている人は多数います。脂肪酸は、ミトコンドリアの中に入るときにカルニチンが必要なため、リジンやメチオニンなどの栄養素が一つでも欠けているとカルニチンがうまく作られません。

カルニチンは75%食事から摂りますが、25%は身体の中で作られています。低カルニチン食の人で栄養欠損があると、長鎖脂肪酸の代謝不全があるかもしれません。

これに関しては、有機酸検査で分かります。アジピン酸、スベリン酸、エチルマオンが上がっている人は脂肪酸の代謝が障害されています。そういう人は、糖質制限をしてはいけません。

もう一つ考えなければいけないことは、糖質制限をしたら脂質とタンパク質でエネルギーをまかなうために何を食べるのかということです。

タイム誌の1984年と2010年の表紙を比べてみると、30年前はコレステロールを悪者にしていますが、最近では考え方が全く変わって”Eat butter”とあります。脂質を制限するのが問題だと言っていますが、何を食べるかも重要です。

厚労省は2015年に高コレステロール血症の上限を撤廃しました。コレステロールが高いのは良いことですが、どういう脂肪を摂るかを細胞に立ち返って考えてみてください。食べる前に細胞の細胞膜のリン脂質の組成はどのくらいかなと考えてください。肉の油を沢山食べて飽和脂肪酸が増えてくると、細胞膜が硬くなって、細胞膜の経路が低下してくるかもしれません。神経の伝達に支障をきたすかもしれないし、オートファゴーゾーム(細胞内で二重膜に囲まれた球状の構造)が正常に働かなくなるかもしれません。

細胞膜のリン脂質組成を測ることもできます。タンパク質を多く摂ろうとすることの問題は、消化吸収の手間です。タンパク質は三大栄養素の中で一番消化と吸収に手間がかかります。

日本人はもともと胃酸が少なく、消化酵素が少なく腸が長いため、ペプシノゲンが70以上ある人はあまりいません。大量のタンパクの消化には向いてない人が多いです。

3-5. 45歳女性コレステロール高値

  • 半年前、食事方法をマクロビから糖質制限に変更
  • 3ヶ月前の血液検査ではいきなりコレステロールが200から350へ上昇
  • 理由がわからないために来院

この方は45歳の女性ですが、コレステロールが異常に高くなったということでご相談にみえました。半年前に食事方法をマクロビオティックスから糖質制限に変更したそうです。それ以来、とても調子良くなりましたが、3ヶ月前の血液検査で1年前200だったコレステロール値が350まで急に上がてしまいました。何か体に異変が起きているのではないかといらっしゃいました。

3-6. 急激な糖質制限は甲状腺トラブルとホルモンバランスの乱れを招く

この理由は代謝の低下で、 LOWT3症候群といいます。人間は飢餓状態になると自らの代謝を落とすように働きます。身体の代謝をコントロールするものはいくつかありますが、そのうちの一つが甲状腺ホルモンです。甲状腺ホルモンというのは、ヨードが4つついているT4と、3つついているT3があります。そのT4がT3に変わる時に、不活性型のreverseT3に変わってしまうのがLOWT3症候群です。

実際の血液検査ではこのreverseT3もT3として勘定されるので、はっきりと甲状腺機能低下と出ません。普通コレステロールが高ければコレステロールが高く上がり、CPKが高く上がれば誰でも甲状腺機能低下症と考えると思いますが、血液検査を見ると甲状腺ホルモンが正常範囲内にあるので、問題ないですと言われる人も結構多いです。最近になってこのreverseT3も測れるようになりました。

このように現在では、疾患の原因が明確に分かるようになってきています。潜在性の甲状腺機能低下症になると、このreverseT3を測らなくてもこれらの甲状腺を刺激する甲状腺刺激ホルモンのTSHという数字が上がってくる人は多くいます。通常の血液検査からも、潜在性の機能低下症を検出することができますが、甲状腺の問題は大変奥が深いです。

このような飢餓状態になってる人は糖質制限はしてはいけません。タンパク質や脂肪も摂って、エネルギーをきちんと摂ってるのに糖質制限したらどうして飢餓状態になるのか。脂肪からのエネルギーはパイプが細いですが、炭水化物は非常に効率の良いエネルギー源になっていてパイプが太いから、糖はいくらでもエネルギー化できます。普通の人の安静時だと脂肪と糖のエネルギーの比率は大体2:1です。安静にしているときは脂肪のエネルギーを主に使っていますが、運動負荷がかかってくると、糖質の比率が高くなってきて逆転します。

糖質はグリコーゲンなので、肝臓で500、筋肉で1,500、あわせて2,000~2,500キロカロリーしか貯められませんが、エネルギーの蓄積量として大体10万キロカロリーぐらいは体の中の脂肪にあります。備蓄はあっても供給のパイプは細く、脂肪をエネルギーに使うためにはまず脂肪細胞から取ってきます。脂肪は水に溶けないため、アルブミンに乗せて血液中を運搬しなくてはいけません。ミトコンドリアの中に入る前にカルニチンが必要で、何段階もあって使いにくい供給源です。だから特別にそこの供給源が細い人は、糖質制限してはいけません。

4. まとめ

糖尿病の食事の選択肢としては、HOMA-Rを測ると良いでしょう。インスリン抵抗性が大きい人は5時間糖負荷試験をしてみて、インスリンが出すぎてる人は糖質制限が有効でしょう。逆にインスリンがあまり出ない無反応型の低血糖症の人は、糖質制限はしない方がいいです。

癌の人は幹細胞検査をしてみてください。

糖質制限をしてはいけない人で腎不全、肝不全というのは、血液、肝機能、膵機能を見れば大体分かりますし、アミノ基転移反応を見るのはGOTとGPTです。その他に、長鎖脂肪酸代謝異常というのはカルニチンの代謝検査、有機酸検査をすれば良いです。タンパク質の消化悪い人は、便検査をして消化酵素の量とか食物残渣による悪性菌の増加などもチェックした方がいいかもしれません。

5. 勘に頼るサプリ処方からデータに基づく栄養療法へ

便検査、有機酸検査、毛髪検査、血液検査など実践講座で推奨されている検査を一通りやるとこれらのことが全て分かるようになっています。これらは、個体差を見るための検査です。勉強していくと糖質制限して良いのか悪いのかということが、一目で分かるようになると思います。

栄養療法はただの大量のサプリメントを処方するものだけでは決してありません。体内の代謝を司ってるのは栄養ですが、全ての疾患がサプリメントの投与で治るほど甘くありません。慢性疾患を持つ人はどこかで代謝が止まっています。その場所を様々な問診と検査で突き止め、適切な対処をすることで初めて身体が栄養をうまく使えるようになってくるのです。

アルツハイマーの原因と治療法

宮澤賢史 · 2021年8月10日 ·

アルツハイマー病の本当の原因をご存知ですか?身近な病気である一方、未だ完璧な治療法が見つからないため、得体の知れない不安感をお持ちの方もいらっしゃるでしょう。

アルツハイマー型認知症は、認知症の中でも最も多く、脳の一部が萎縮していく過程で起こります。アミロイドβの蓄積が原因とされてきましたが、それはあくまでも結果であり、真の原因は、「炎症」「栄養の欠乏」「毒物」これら3つにあることがわかってきました。

1. アルツハイマー病の本当の原因

1-1. アルツハイマー型認知症とは?

アルツハイマー型認知症(以下、アルツハイマー)は、認知機能の低下と人格の変化を症状とする認知症の一種であり、脳の萎縮を伴います。認知症の中でも最も多く、今後もますます増えると予測されています。

脳血管認知症は、脳梗塞などに伴って起こる認知症で、脳の血管が詰まるとその部分が壊死するので一気に発症します。一方、アルツハイマーは脳の変性が徐々に進行するため、症状も徐々に進行するというのが特徴です。アルツハイマーで問題なのは、最終的には寝たきりになって、死に至るということです。症状経過の途中で、被害妄想や幻覚、暴力、徘徊などを伴うケースが多く、患者本人だけではなく、周囲の人のメンタルにも大きな影響を及ぼすことも問題になっています。

1-2. アルツハイマー治療の問題点

認知症そのものを抑える薬はなく、今のところは周辺症状を止める治療薬に主眼が置かれているような状況です。つまり、問題は進行を止めたり回復する治療法が存在していないということです。大部分は65歳以上で発病しますが、5%は若年性アルツハイマーとしてそれ以前に発病することがあります。早期認知症の検査は、ネットでもダウンロードが可能です。

そんなアルツハイマーですが、2050年までに1億6千万人が発症すると予測されています。それにもかかわらず、薬物治療がことごとく失敗しています。アリセプトやエミニール、メモリー、リバスタッチなど、アルツハイマー型認知症薬として現在5種類の治療薬が日本で認可されていますが、いずれも治すための薬ではなく、症状を遅らせるための薬です。米国アルツハイマー協会も、アルツハイマーを治す薬はないと発表してます。フランスでは効果が認められないということで、全ての治療薬が保険適用外になりました。

フランスの保健省は2018年6月1日、アルツハイマー型認知症治療薬の保険償還を8月1日から停止すると発表した。同国高等保健機構(HAS)が公表した「勧告」を受け、アルツハイマー型認知症治療薬4剤について「公的医療保険の適用を正当化するための医療上の利益が不十分」だと結論づけた。

アリセプトはアセチルコリンを増やす薬です。アルツハイマー患者には、脳内のアセチルコリンと呼ばれる神経伝達物質が減少していることがわかっています。また、メマリーという治療薬はNMDA受容体拮抗薬です。アルツハイマー患者はNMDA受容体(グルタミン酸受容体の一種)が亢進するという特徴があり、そこを抑えることで興奮が抑えられます。しかし、アリセプトもメマリーも、根本治療とは程遠いものです。

1-3. アミロイドベータは原因ではなく結果だった

アルツハイマー病患者の脳には、アミロイドβという老人斑が見られます。このアミロイドβの蓄積がアルツハイマーの原因とされ、これを除去する薬の開発競争がずっと続いてきました。しかし、アミロイドβを除去してもアルツハイマーが治らず、治験はことごとく失敗に終わっています。実は、アミロイドβが本当の原因ではなく、様々な病因による結果として出てくるものだということが最近明らかになってきました。

アミロイドβの塊

その病因が、「炎症」と「栄養・ホルモン不足」と「毒物」です。脳がこれらの脅威に晒されると、そこから身を守るためにアミロイドβを増やすのです。確かにアミロイドβは神経ネットワークを破壊するのですが、見方を変えれば、重要な脳の神経の部分を守るためのダウンサイジングとも捉えることができます。様々な病因の影響で、脳機能を維持できないと脳自身が判断すると、優先順位の低い脳細胞をリストラして、必要最低限のところまでサイズを小さくするのです。アルツハイマー患者の脳が萎縮するのは、こうした理由からです。

アルツハイマーは、炎症、栄養・ホルモン不足、毒物に対する防御反応である。

リストラには「最後に雇われたものが最初に解雇される法則」というのがありますが、脳も同じで、新しく覚えたことは生命維持に重要ではないので、新しい記憶からなくなっていきます。昔のことはよく覚えているのに最近のことは思い出せない、という症状は、脳のリストラが行われている結果なのです。

1-4. アルツハイマーを改善するリコード法

「アルツハイマー病の真実と終焉」(デール・プレデセン著)には、アルツハイマー病患者100人の改善報告がまとめられています。プレデセン博士は、アミロイドβが増える理由を様々な角度から研究し、36個の因子を突き止めました。そして、患者1人1人に対して、その因子に該当するかを1つずつ調べていき、当てはまる要素を取り除いていくというアプローチを取りました。この本に書いてあるのは、個体差を見つけてそこに応じて治療するという分子栄養学の考え方そのものです。

ここからは、この本に書かれているリコード法に基づいて、脳機能を改善する方法を見ていきましょう。アルツハイマーには、脳血管性の4型や5型もありますが、今回は栄養や炎症に関わる1~3型について詳しく解説します。リコード法の手順としては、まずはじめに、1型(炎症性)、2型(栄養性)、3型(毒性)のどれに該当するかを探ります。次に、36個の因子のどれに当てはまるかを特定し、それに応じた食事、睡眠、運動、ストレス対策などの治療計画を練ります。

  • リコード法は、アルツハイマーでなくともブレインフォグの治療にも応用できる
  • アルツハイマーと診断されていなくても、リコード法を行う価値がある
  • リーキーブレインを起こすもの(グルテン、カゼイン、高血圧、リーキーガット)は、全て1型アルツハイマーの原因と考える
  • チェックリストを作って、全てに対処する

2. 1型(炎症性)アルツハイマー

2-1. 特徴

1型アルツハイマーが疑われる症状は、ダニや感染症、関節炎、糖尿病、メタボリックシンドローム、副鼻腔炎、ピロリ、根尖病巣などです。これらは全て炎症です。炎症があって、炎症マーカーも上がっていたら、1型アルツハイマー、もしくは脳機能の変性があるかもしれません。

1型アルツハイマーが疑われる症状
☑️ ダニに噛まれたことがある
☑️ 関節炎がある
☑️ 糖尿病にかかっている
☑️ メタボリックシンドローム
☑️ 副鼻腔炎、慢性の鼻づまりがある
☑️ ピロリ菌感染がある
☑️ 歯の根幹治療を行なっている

炎症マーカーの挙動

1型は炎症性のため、血液データの炎症マーカーが高くなります。CRP、ホモシステインが上がり、A/G比は下がります。IL-6やTNFといった炎症性サイトカインの数値も上がります。炎症があるとメチレーション回路が回らなくなるため、ホモシステインは高くなります。本には書かれていませんが、おそらくフェリチンも高くなると考えられます。

炎症の原因物質

最も気をつけるべきは腸の炎症です。他にも、口腔や喉、胃、肝臓の炎症も関連します。腸に炎症を起こすものは、あらゆる病原菌と、砂糖、グルテン、カゼイン、トランス脂肪酸といったリーキーガットを誘発する食材です。また、内臓脂肪にも注意が必要です。脂肪細胞は、サイズが小さいときには、アディポネクチンやレプチンといった痩せる物質が分泌されますが、サイズが大きくなると炎症性物質であるTNFαが分泌されます。これは、インスリン抵抗性を惹起する物質でもあります。インスリンを排泄する物質とアミロイドβを排泄する物質が同じなので、その結果として脳にアミロイドβの蓄積が促進されてしまいます。

ApoE4の存在

ApoE4遺伝子を持っているとアルツハイマーの発症リスクが高まります。ApoE4遺伝子は炎症を促進させ、炎症抑制の遺伝子を抑制する働きがあります。抗炎症のサプリを飲むだけでは対策としては不十分で、炎症場所を特定し局所の対策を講じる必要があります。

海馬の萎縮

炎症があると慢性的にコルチゾールが分泌されるため、海馬が萎縮すると言われています。

2-2. アマルガムとアルツハイマーの関係

「本当に怖い歯の詰め物」の著者である歯科医のハル・ハギンス博士は、アマルガム(水銀と他の金属との合金)の毒性を世に知らしめました。本には、慢性疲労や白血病など、水銀がもたらす様々な疾患がまとめられています。

同じくハギンス博士の著書に「歯科治療に潜む致命的な危険性」という本があります。これは根尖病巣について書かれており、博士に会ったときに、根尖病巣とアマルガムどちらが悪いかと聞いたら、根尖病巣が圧倒的に悪いという答えが返ってきました。

アマルガムからは、有機水銀、無機水銀、水銀蒸気、3つの形態で水銀が流出します。蒸気になると、脳や肺に入って影響を及ぼします。また、有機水銀は細胞膜を通過できるため、脂肪細胞や脳に直接影響します。日本歯科医学会では、無機水銀は安全だとしていますが、ハギンス博士は、口腔内や腸管で容易にメチル化されてメチル水銀になるので非常に危険だと訴えています。

もう一つ、アマルガムを外しただけでよくなる人とよくならない人の違いなんですか?という質問をしてみました。すると、アポリポ蛋白E(ApoE)のアイソフォームの違いだろうという答えが返ってきました。現在ほど遺伝子解析が進んでいなかった当時から、博士はApoEのアイソフォームに言及していたのです。ApoEによるアルツハイマーは1型です。アマルガムは毒物なので3型に該当します。ハギンス博士は、3型は40代で発症するのが一般的だけど、1型と3型が合併している人は30代で発症するよとおっしゃっていました。

2-3. ApoEとアルツハイマーの発症リスク

ApoEは、VLDL、IDL、HDLなどのリポ蛋白を構成している主要なアポリポ蛋白の1つで、コレステロールや脂肪酸の運搬に関与しています。アポリポ蛋白とは、コレステロールを運んでいるタンパク質のことで、コレステロールと輸送体タンパク質を合わせたものをリポ蛋白と呼びます。ApoEにはε2、ε3、ε4という3つの遺伝子変異があり、それに対応してタンパク質にもE2、E3、E4というアイソフォームが存在します。ApoE4はSirt1(サーチュイン)を抑制し、炎症促進物質であるNFκBを増やします。ApoE4がいくつあるかによってアルツハイマーの生涯発症リスクが決まり、1つもない場合は9%、1つで30%、2つで50~90%と言われています。発症年齢にも影響を与え、一般的には65歳以上ですが、ApoE4が1つあると50代後半で発症する確率が高くなります。

遺伝子検査でApoEの変異を調べることは決して無駄ではありません。自分のアルツハイマー発症リスクがわかるだけでなく、炎症を起こしやすいかどうかという体質チェックにもなります。ApoE4の変異があった場合の対処法は、炎症を起こしている部位を特定し除去すること、そしてもう一つは抗酸化対策です。

2-4. 抗酸化対策

ApoE4を有する高齢女性において、血中ビタミンC濃度を高めると将来の認知機能低下リスクが減少することが金沢大学の研究で明らかになりました。

J Alzheimers Dis. 2018;63(4):1289-1297.
Higher Blood Vitamin C Levels are Associated with Reduction of Apolipoprotein E E4-related Risks of Cognitive Decline in Women: The Nakajima Study
https://doi.org/10.3233/JAD-170971.

日本人の場合、E3/E3に比べ、E3/E4ではアルツハイマー発症リスクが約4倍になります。しかし、ビタミンCの血中濃度を高めておくと、認知症発症リスクが低下し、認知機能低下発症リスクも有意に下がります。

ビタミンEでも同様の結果が得られています。抗酸化ネットワークの相互作用により、ラジカルになったビタミンEをビタミンCが戻すので、抗酸化にはビタミンCとE、両方とも大切な栄養素です。これら2つの栄養素が特に優れているのは、ラジカルが安定していることです。通常、電子を失った物質は不安定になってラジカル連鎖反応を起こしますが、ビタミンCとEは電子共鳴によって安定化しているので、連鎖反応を起こしません。

2-5. 抗酸化サプリメント

抗酸化サプリメントとしては、リポソーマルビタミンCやフェルラ酸が良いでしょう。フェルラ酸は、脳の抗酸化物質としての働きを持ち、日本認知症予防学会などで推奨されています。通常のフェルラ酸はiHerbなどで購入できますが、12時間体内で効果を維持できるように加工されたフェルガードというサプリメントもあります。

余談ですが、とある先生が、フェルラ酸を受験生のお子さんに使うとおっしゃっていました。脳の抗酸化対策は脳機能の向上に直結するので、アルツハイマーだけではなく、様々なことに応用できます。

2-6. 鼻腔の炎症

鼻腔は炎症を起こしやすい場所の一つです。鼻は直接脳と繋がっているため、慢性副鼻腔炎や慢性鼻炎を抱えていると、脳へのダメージもかなり大きくなります。また、長期間にわたって抗生物質を使うと、鼻腔の悪性細菌が作るバイオフィルムにより耐性ができるため、通常の抗生物質では効きが悪くなってしまいます。

プレデセン博士は、バイオフィルムクレンジングの成分が配合されたスプレーを使って鼻炎を治療しています。バイオフィルムクレンジングのEDTAと3種類の抗生剤を入れたBEG1スプレーというものです。残念ながら日本では取り扱いがないため、京都市にあるうさぎ堂薬局さんで調合してもらえるようにしました。処方箋があれば購入することができます。鼻炎があるとデトックスにも影響するため、ここは早めに治しておきたいところです。

3. 2型(栄養性)アルツハイマー

3-1. 特徴

2型を疑う症状として、以下の項目が挙げられます。栄養・ホルモンの欠乏が原因のため、当然のことながら、それに関連した症状が強く出ます。

2型アルツハイマーが疑われる症状
☑️ 更年期障害が強い
☑️ 子宮、卵巣を切除している
☑️ 甲状腺機能低下症状
☑️ ビタミンD不足

BDNFの減少

脳シナプスを保つためのBDNF(脳由来神経栄養因子)は、アルツハイマー病に最も重要な脳の部位前脳基底部の受容体と結合し、アポトーシス(細胞死)を抑制します。したがって、BDNFが減少するとアポトーシスが亢進し、2型アルツハイマーが発症します。またアミロイドβは、BDNFが受容体に結合するのを邪魔する抗栄養因子として働くため、さらに悪化します。

BDNFを保つための栄養素

BDNFを保つためには、ビタミンD、ホルモン、葉酸といった栄養素と運動が欠かせません。また、BDNFはコレステロールからできているので、低コレステロールの人は特に注意が必要です。

ホモシステイン高値

2型は葉酸が不足するのでホモシステインが高くなりがちです。

2型の診断

これらのチェックは、血中のホルモン濃度やビタミン濃度を測ることで把握することができます。

3-2. ホモシステインを減らすためには

ホモシステインはそれ自身が酸化物質であるため、過剰に蓄積すると体内で活性酸素を発生させたり、動脈硬化を引き起こします。メチレーション回路の中で、ホモシステインが代謝される経路は3つあります。これら3つの経路を適度に回す必要があります。高い場合にはまず、ビタミンB6、ビタミンB12、葉酸を摂ることから始めてください。

ホモシステインからメチオニンに代謝される際に働くMTRは、炎症に対して影響を受けやすい酵素です。炎症でこの代謝が止まっている人は、メチルビタミンB12のサプリメントを使って、この代謝を強制的に動かすこともあります。もしくは、ベタインを使うとBHMTを介してメチオニンに行く経路が回るため、ホモシステインが下がりやすくなります。

4. 3型(毒性)アルツハイマー

4-1. 特徴

この3型は宮澤医院の患者さんに多いタイプで、症状が副腎疲労とものすごくオーバーラップします。40代の患者さんで、「注意力が低下していて、頭が全く働かないんです」という方は結構いらっしゃいます。そのようなケースでは、単なる副腎疲労と診断せずに、3型アルツハイマーの合併がないかもチェックが必要です。

☑️ 40代から発症(更年期頃に起きやすい)
☑️ うつ病が認知機能的かに先行する
☑️ 記憶低下<集中力低下、計算不能
☑️ 強いストレスがトリガー
☑️ マイコトキシン、もしくは重金属への曝露
☑️ 副腎疲労あり
☑️ 血中TG低値
☑️ 血清亜鉛低値
☑️ HPA軸↓、プレグネロノロン↓、DHEA↓

4-2. 解毒のしくみ

解毒には、3つのフェーズがあります。フェーズ1が活性化、フェーズ2が抱合、フェーズ3が輸送です。フェーズ1の「活性化」は、反応としては「酸化」することです。活性化したままでは酸化物質が溜まっていく一方なので、フェーズ2で水溶性にして細胞外に排出できる状態にします。そしてフェーズ3では、MRP輸送体を通して細胞外に送り出し、肝臓または腎臓経由で体外に排出します。

4-3. デトックスの順番

デトックスにおいて重要なことは、フェーズ1, 2, 3を逆から攻めるということです。例えば、フェーズ2の準備ができてないのにフェーズ1が進行してしまうと、酸化物質が体に溜まって逆効果になってしまいます。また、フェーズ3の前にフェーズ2を行うと、毒物を体外に排出できず溜め込むことになります。最初にやるべきは、フェーズ3、すなわち腸内環境を改善して便秘を解消するということです。その次は肝臓のケアです。肝臓は、フェーズ1とフェーズ2を大部分を行っている場所なので、肝機能を向上させると毒物がスムーズに排出されます。

4-4. グルクロン酸抱合

フェーズ2(抱合)は、難水溶性物質を水溶性に変えるプロセスです。薬物、ビリルビン、ステロイドなどは、体内に滞留するとがん、神経障害、内分泌障害など重篤な疾病を引き起こします。これらの物質は肝臓にあるUDP-グルクロン酸転移酵素(UGT; UDP-glucuronosyl transferase)によって、グルクロン酸が付加されて水溶性のグルクロナイドに変換されます。

グルクロン酸にはOH基がたくさん付いているので、抱合により難水溶性物質が水溶性になります。水溶性になった薬物は、血流にのって腎臓で濾過され、尿中に排出されます。グルタチオンもグルクロン酸と同様の働きをします。グルクロン酸と結合するとグルクロン酸抱合、グルタチオンと結合するとグルタチオン抱合と呼ばれます。

4-5. グルクロン酸抱合に欠かせないUGTs

グルクロン酸抱合の際に働くUGTsには、1A1、1A6、2B1など、いくつかの分子種が存在します。分子種によって抱合する難水溶性物質の種類が決まっており、UGT1A1はビリルリンやモルヒネを代謝することがわかっています。ギルバート症候群やクリグラー・ナジャー症候群といった疾患では、UGT1A1のSNPによりグルクロン酸抱合が障害され、ビリルビンが高値を示します。血液検査の項目にある直接ビリルビンは抱合後、間接ビリルビンは抱合される前の状態を表しています。

4-6. スルフォラファンの効果

UGT1A1の酵素を活性化するのがスルフォラファンです。スルフォラファンはブロッコリーから抽出される物質で、ASDの行動改善にも効果があるという報告があります。

Proc Natl Acad Sci U S A. 2014 Oct 28;111(43):15550-5.
Sulforaphane treatment of autism spectrum disorder (ASD)
https://doi.org/10.1073/pnas.1416940111
18週間毎日スルフォラファンを摂取したグループで、異常行動と対人応答性のスコアが、プラセボに比べて大幅に低下し改善がみられた。摂取をやめるとスコアが上昇した。

スルフォラファンがUGT1A1、GSTA1のmRNAレベルを増加させ、UGT1A1タンパク合成、およびビリルビングルクロン酸抱合を2~8倍増加させたという報告もあります。

Carcinogenesis. 2002 Aug;23(8):1399-404
Sulforaphane and its glutathione conjugate but not sulforaphane nitrile induce UDP-glucuronosyl transferase (UGT1A1) and glutathione transferase (GSTA1) in cultured cells
https://doi.org/10.1093/carcin/23.8.1399.

スルフォラファンは、UGT1A1の酵素を活性化する以外にも、MRP輸送体自体をも活性化すると言われています。

4-7. 重金属の蓄積量と排泄力を評価する

解毒力の評価は、毛髪ミネラル検査で蓄積量と排泄量を把握し、両者を比較することで行います。マグロをたくさん食べていたり、アマルガムが歯に入っていたりするのに、毛髪からの水銀検出量が少なければ、排泄力が弱く体内に水銀を溜め込んでいるということになります。逆に、毛髪からの水銀が振り切れるほど出ていれば、それは排泄力があることを意味します。後者は比較的軽症ですが、問題となるのは水銀を溜め込んでいる前者のケースです。

4-8. デトックスの検査

毛髪ミネラル検査以外にも、デトックスに関連した検査はたくさんあります。例えば、フェーズ2のグルタチオン抱合を評価する検査として、オリゴスキャンが有効です。

また、ジェノバ社のキレーション・プロファイルは、フェーズ 1とフェーズ2における酵素のSNPを調べる検査です。フェーズ1は、シトクロームP450による酸化の工程ですが、CYP 1A1は排ガス、 1B1はエストロゲン…と対応する毒物が決まっているので、自分が排泄しにくいものがよくわかります。

キレーション プロファイル
  • CYP1A1;排ガス
  • CYP1B1;エストロゲン水酸化
  • CYP2C19;PPI、抗痙攣薬
  • CYP2D6;SSRI、抗うつ薬
  • CYP3A4;処方薬の50%、ステロイド

フェーズ2においては、COMTにSNPがあればエストロゲンやドーパミンが代謝しにくくなります。その他に、Nアセチルトランスフェラーゼ、GST、グルタチオントランスフェラーゼ(グルタチオンの抱合を助ける酵素)、SOD(酸化ストレスの起こりやすさの指標)などのSNPを調べることで、自分が避けるべき毒物を特定することができるのです。該当する毒物の曝露を避けた上で、ブロッコリーやキャベツ、玉ねぎ、ニンニク、ウコン、ローズマリー、クミンといった食材を使いながら肝臓のクレンジングを行うと良いでしょう。

キレーション プロファイル

4-9. デトックスサプリメント

フェーズ2で重要なポイントは、抱合して胆汁から排泄するというステップです。私がよく使うのは、ミルクシスルとNアセチルシステインが配合されたSeeking Health社のLiver Nutrientsです。肝臓の滋養強壮に良いサプリメントです。それともう 1つ、Optimal Liposomal Glutathioneです。抱合に関してはグルタチオンが欠かせないため、グルタチオンの前駆体であるNアセチルシステイン、もしくはリポソーマルタイプのグルタチオンやクリームタイプのグルタチオンを使って、消化酵素で分解されないように摂取すると良いでしょう。医薬品としては、ウルソ(ウルソデオキシコール酸)やタチオン(グルタチオン)などがあります。ウルソは、脂肪吸収促進とデトックス、両方の効果が期待できます。

フェーズ3で重要なポイントは、胆汁から排泄された毒素をキャッチしてあげることです。メチル水銀は胆汁から排泄されますが、メチオニンと形が似ているので、再吸収されてしまうリスクがあります。私が使っているのは、クロレラ、ケイ素、チャコール、そして医薬品のクレメジンです。

このように、フェーズ 1、2、3を理解し、うまくデトックスが進むように自分でプロトコルを組み立ててみてください。

4-10. 脳機能改善にはDHA

脳機能改善には、アセチルコリンやDHAを補充することも効果的です。この論文では、DHAを補うことで認知症を抑制することを示しています。

J Nutr. 2010 Apr;140(4):869-74. 
DHA may prevent age-related dementia
https://doi.org/10.3945/jn.109.113910. 

脳神経の樹状突起がDHAによって維持されているため、脳の細胞膜機能の改善には、やはりDHAが良いでしょう。細胞膜からのデトックスの作用も強まると考えられます。MSS社のuDHAは酵素処理により抗酸化力を高めたDHAが配合されています。また、ヘルシーパス社のスマートコリンも脳の認知機能向上に効果が示されています。

5. アルツハイマーの治療方針

炎症、栄養・ホルモン、毒物を根本原因ピラミッドに照らし合わせてみましょう。1型は一番下の腸・炎症、2型はエネルギーとホルモン、3型はデトックスに該当します。これらを順番に治療していくと、結果として脳機能が改善します。基本的には下から順番に進めていくのが良いでしょう。

6. 実際の症例と治療方法

6-1. 症状

ここからは実際の症例に基づいて、治療のアプローチを解説します。ピラミッドの下から順にアプローチしていき、認知機能の改善に結びつけた事例です。

年齢・性別
38歳、女性

主訴
・10年来の慢性疲労
・めまい、立ちくらみ、朝が起きられない
・時々胃を掴まれるような痛み
・手の湿疹、頻尿、関節痛
・集中力が続かない、物忘れがひどい

所見
・他院でのカンジダハーブ治療で胃痛と下痢が出現
・子宮筋腫あり
・不眠気味、入眠障害あり
・唇がよく乾く、話し声のかすれがある、無性に甘いものが食べたくなる
・お菓子、コーヒー時々
・虫歯既往あり、抜髄歯あり
・腹部膨満、ガス多量
・頸部リンパ節腫脹なし
・眼球結膜貧血なし

活力レベル
朝:2、昼:5、15~17時:3、23時:8

飲んでいるサプリメント
DHEA、ビタミンD、ヘム鉄、ビタミンB、亜鉛

現在の食事
糖質制限、グルテンフリー、カゼインフリー

活力レベルを見ると、朝は低く、夜に向けて徐々に元気になるという典型的な副腎疲労の症状を示しています。ビタミンD、ヘム鉄、亜鉛のサプリメントを飲んでいるので、血液濃度は高めですが、感覚的には効いていないとおっしゃっていました。糖質制限とグルテン・カゼインフリーをやっているとのことですが、お菓子を食べていることから、完全ではないことが見受けられます。腹部膨満があり、お腹が張ってパンパンでした。

6-2. メチレーションの状態

こちらはウォルシュ博士によるうつ病の生化学的分類に基づいた問診票です。Aは低メチレーション、Bは高メチレーション、Dはピロール障害のチェックです。Dにたくさん◯がついていますね。ピロール障害は慢性的な亜鉛とビタミンB6欠乏により起こりますが、症状としては副腎疲労に酷似してます。

6-3. 血液データ

血液データでは、特にタンパク質と中性脂肪の低さが目立ちます。これは低血糖のパターンです。血清銅に対して亜鉛がかなり高い値を示しているのは、サプリメントを飲んでいることが原因と考えられます。

6-4. 栄養療法ピラミッドは低血糖の海に浮いている

2005年に、「脳に効く栄養」という本の出版記念講演で、マイケル・レッサー博士の講演を聴く機会がありました。その講演の中で博士は、統合失調症の要因として、ホルモンバランス、ピロール障害、アレルギー、毒物などを挙げていました。毒物の影響、次いでビタミン欠乏が大きな要因になっています。ここで博士が強調していたのは、要因は様々だが、全ての要因は低血糖の海の上に浮いている(Schizophrenias float in the ocean of hypoglycemia )ということです。だからまずは低血糖をなんとかしないと次に進めない、というお話をされていました。

同じように、栄養療法ピラミッドも低血糖の海に浮いているのです。腸内環境改善も副腎疲労も、低血糖をなんとかしないと治療に入れません。低血糖がある程度落ち着いてから、ピラミッドを下から戦略していくというアプローチになります。症例の女性の治療もそんな感じで始まりました。

6-5. 毛髪ミネラル検査

毛髪ミネラル検査を見ると、カウンティングルールに当てはめるとミネラル輸送障害はありませんでした。水銀の曝露も少なく、水銀は十分に出ていて、ミネラルのバランスも整っています。

6-6. 総合便検査(CSA)

腸内環境検査では、良性細菌である乳酸菌、ビフィズス菌は十分ありましたが、境界型菌も多く存在しました。カンジダは他の検査では検出されましたが、便検査では検出されませんでした。便検査では実際の3割程度しか検出しないので、現在はDNA検査に移行しています。

ただ、この検査の良いところは、消化酵素、短鎖脂肪酸の産生、炎症、免疫の状態が複合的に把握できる点です。症例の女性の場合、炎症がとても強く出ました。炎症マーカーのラクトフェリンが高く、ライソザイムのマーカーも527とかなり上昇していました。免疫も亢進していることがわかります。

6-7. SIBO検査

腹部膨満感も強かったため、SIBOの検査も一緒に行いました。SIBO検査では、呼気中の水素とメタンガスを経時的に調べます。最初の方は小腸に溜まっているガスが出て、ある時から大腸のガスが出るようになります。この女性の場合は初期段階から水素ガスが出ているので、小腸にも細菌が増殖していることがわかります。治療方針としては、まずは低血糖を治して、それから腸内環境改善としてSIBO治療に着手することにしました。

6-8. 治療に使用したサプリメント

腸内環境改善には、これらのサプリメントを使用しました。

  • ウルトラフローラ(乳酸菌)
  • ビタミンA
  • トレースミネラル
  • グルタミン

腸のバリアは、乳酸菌、免疫、機械的バリアの三重層になっています。タイトジャンクションを繋げて炎症を抑制するのはグルタミン、免疫グロブリンA(IgA)の材料になり免疫を上げるのはグルタミンとビタミンAです。そして腸内細菌叢のバランスを整えるために乳酸菌を使います。炎症が治まったタイミングで、以下のサプリメントを使いました。

  • DaVinciリポソーマルC
  • カンジダアウェイ
  • リフキシマ
  • インターフェーズ

腸内環境を少し酸性にした方がカンジダ治療には効果的なので、抗真菌ハーブと胃酸が配合されているカンジダアウェイを使用しました。SIBO治療に使われるリフキシマを 1日3錠、1ヶ月使いました。それと一緒に、インターフェーズというバイオフィルムをクレンジングする消化酵素も処方しました。消化酵素は、食物の消化をサポートする以外に、腸にこびりついているバイオフィルムを削る作用もあります。バイオフィルムクレンジングには食物繊維の消化酵素が効果的です。これを2ヶ月飲んでもらったところ、4ヶ月後には湿疹、頻尿、腹部膨満はすっかり良くなったので、次にデトックスを行いました。

  • ミヤリ酸
  • Liver Nutrients
  • グルタチオン
  • ビタミンB12(ヒドロキシコバラミン)
  • 葉酸(フォリン酸)
  • クロレラ
  • ケイ素

これらを3ヶ月間続けてもらったところ、8ヶ月後には関節痛、手湿疹がほぼ消失しました。また、認知機能も改善しました。

7. 最後に

日々患者さんを診てきて感じることは、考える力が湧いてくると自分の治療に対する姿勢が変わってくるということです。そうすると、治療の効果が一気に加速していくような感じがあります。患者さんご本人が自分でやらなければいけないことが結構多いからですね。

今回は、アルツハイマーの治療法をテーマにしましたが、アルツハイマーに使えるということは、脳機能全体の治療に使えるということなので、非常に応用性が広いと思います。脳機能の改善に至るまでには、低血糖の改善から炎症、腸、デトックス…と一つずつ積み上げていく必要がありますが、ご自分でプロトコルを組み立てて、サプリメントをうまく活用しながら取り組んでみてください。

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