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臨床分子栄養医学研究会

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個人差と根本原因

栄養療法がうまくいっていない人の共通点

宮澤賢史 · 2023年1月4日 ·

こんにちは、宮澤です。栄養療法を始めて21年目の内科医です。

僕は普段慢性疲労やうつ、不妊や発達障害の人を多く診ています。また、クリニックに来院する患者さんの5割は治療がうまくいっていない人たちで、そんな方達にセカンドオピニオンを提供しています。

病気改善と健康増進は全く違う

今日は栄養療法がうまくいっていない人の共通点についてお話します。それは「病気の改善のために健康増進治療を行っていること」です。バカみたいな、ホントの話です。栄養療法を受ける人の目的は大きく分けると健康の増進か病気の改善です。

うつや慢性疲労に対する栄養療法は病気の改善が目的で、

美容、アンチエイジングやアスリートのパフォーマンスの向上は健康増進です。

この両者に対するサプリの使い方は全く異なります。「サプリが効かない」といって私の外来に来る方はここを混同しています。

足りない栄養を摂ることはオリンピックに有効

20年前、僕は大学病院を辞めてサプリメント会社に就職しました。その会社がすごかったのは、会員全員に血液検査を推奨していたことです。

血液検査の結果から足りない栄養素や体のダメージが推定できます。それに対して鉄不足ならヘム鉄サプリ、活性酸素が多ければ抗酸化のビタミンCを摂る。

これが栄養療法の基本です。この方法は元々健康な人をさらに調子良くしたり、アスリートのパフォーマンスをアップするのに長けています。

実際にその会社は多くのスポーツ選手をサポートしており、2004年のアテネオリンピックの時にはサポートチームが金メダルを量産するのを目の当たりにしました。

しかし、その一方で病気にはあまり効果がなかったのも事実です。僕は慢性疲労、うつの人たちにサプリを処方をしたけど、根本的に改善することはほとんどありませんでした。
 

ポイントは身体機能の低下

検査して足りない栄養を摂っているのに、なんでこんなに効果がないのか?

なんでスポーツ選手にはこれほど効果のあるサプリが、慢性疾患の人を治してあげられないのか?

その理由は、病気の人は身体機能低下の結果として栄養が不足するからです。自律神経が緊張して栄養の消耗が激しいとか。腸が悪くて栄養を吸収できないとか。

つまり、病気の人の栄養不足は結果であり、原因ではありません。原因を治療しなければ栄養をいくら補充してもまた足りなくなります。

つまり、「健康の増進」と「病気の改善」でサプリを使い分けるとは、健康増進には足りない栄養素の補充を、病気の改善には栄養素を使って身体の修復を行なうということです。

言い換えれば、それは神経内分泌系や腸内環境、デトックス機能などの機能低下を探し出してそれぞれに対処することです。

病気の改善目的の栄養療法がうまくいっていない時は、自分の治療が「健康増進」治療になっていないかチェックしてみてください。

両者の治療の見分け方

え? 「健康の増進」と「病気の改善」治療、どうやって見分けるのかって?

簡単です。診察の時「サプリを一生続けてください」と言われたら健康増進治療です。

当たり前すぎる? ではもう一つの目安を教えましょう。

それは「血液検査以外の検査を受けているか?」です。

健康増進治療は足りない栄養素の補充とダメージの修復がメインになります。ダメージというのは活性酸素や炎症のことです。これは血液検査で判断できます。

でも、病気の改善には体の機能低下を見つける必要があります。例えば自律神経を見るには唾液検査、腸内環境には便検査、ミトコンドリア機能を知るためには特殊な尿検査が必要です。一般的な血液検査では詳しいことはわかりません。

だから、血液検査しか受けていなければ、今の治療は「健康増進治療」になっている可能性が高いです。ぜひしかるべき検査を受けて「病気の改善治療」にシフトしてください。

ついでに言えばこの方法は「健康増進目的で健康増進治療をしても効果がない人」にも有効です。

検査で足りない栄養を摂ってもダイエットがうまくいかない人、競技のタイムを縮められない人はぜひ体の機能低下チェックを行ったほうが良いでしょう。プロスポーツ選手でも身体機能が低下してる方は多いです。

副腎疲労を正確に診断し治療する必要性

宮澤賢史 · 2022年12月29日 ·

とある医師の専門雑誌があるのですが、そこの記事があまりにも気になったので、書きました。


開業医の先生が書かれた記事で、内容は「他院で副腎疲労治療中の患者さんがコートリル(ステロイド剤)が切れたので処方して欲しいとやってきたが、ステロイドを簡単に処方するわけにもいかず副腎疲労という病気を調べたら、Pubmed で adrenal fatigue doesnt exist. という論文に突き当たり、この病気の存在自体が怪しい。また、副腎機能低下ということで、患者さんに聞いてみたら血中ATCHをフォローしている訳でもないし、こんな怪しい副腎疲労外来と言う看板を掲げてる医者は大丈夫か?」というものです。
​
私が日本で副腎疲労外来を始めて15年になりますが、「副腎疲労外来」はとても増えたと思います。
​
中にはこのように表面上のことだけを理解して、コルチゾールの検査をせずに、ステロイドを処方してしまう先生もいるようですが、これが極端にひどい例であることを祈ります。その雑誌に書かれた先生のツッコミももっともだと思いますので、副腎疲労の概念、診断、治療に最低限守るべきことを書いておきます。
​
​1 副腎は疲労しない(正式にはストレスによるHPA軸の障害である)
2 ちゃんと診断しよう(除外診断も重要)
3 ステロイドは用いない
​
​
1 副腎は疲労しない
​
副腎疲労(Adrenal fatigue)は1990年代にカイロプラクターのJamesWilson博士により提唱された概念です。長年のストレスにより副腎が疲弊しコルチゾール分泌が減弱するというものです。 しかし、実際に副腎が疲弊する事実はありません。Pubmedの論文の記載通りです。
​
長年のストレスや慢性炎症などにより高コルチゾールが継続すると、下垂体から放出されるATCHのネガティブフィードバックのセットポイントが下がってきます。コルチゾールは体蛋白を異化させ、海馬を萎縮させるので、それを防ぐためかと思われます。
​
ついには、ACTH低下のためにコルチゾールも基準範囲を下回るようになります。これが俗に言う副腎疲労のステージ2です。つまり副腎疲労というのは言うなれば下垂体疲労なのです。 HPA軸(視床下部-下垂体-副腎)で言えば、視床下部からのCRHに下垂体からのACTHと副腎のコルチゾールが反応しない状態であり、正式な医学的名称はHPA-axis dysfunctionになります。
​
このHPA軸障害をpubmedで検索すると、うつやPTSDなど慢性ストレスを引き起こす疾患との関連論文が多数ヒットします。
​
(じゃあ、なんで副腎疲労外来と言う名前を残しているかというと、患者さんが理解しやすいからです。HPA軸の説明は難しく説明に時間がかかる。副腎が疲れると言うのは説明がしやすい。increased intestinal permabilityではなくリーキーガットを使うのと同じです。)
​
​2 ちゃんと診断しよう(除外診断も重要)​
​
HPA軸障害は下垂体性の低コルチゾール症で、器質性の下垂体腺腫やアディソン病などとは全く性質の違うものですが、時に重症化するとアディソン病などに類似した症状を呈することもあります。
​
だからと言って、慢性疲労や朝が起きられない、うつや「やる気のなさ」などの症状のみから診断を付ける事は殊に避けなければなりません。
​
HPA軸障害で低下するコルチゾールレベルは僅かなので、血中よりも唾液中レベル測定が適しています。
​
症状によっては内分泌専門科の受診、下垂体や副腎のCT検索などを併せて行うべきであり、そうでなくとも最低限血中のACTH、コルチゾールなどは検査し、基準値以内であることを確認すべきです。
​
​
​3 治療にはステロイドを用いない​
​
副腎疲労(HPA軸機能障害)は、慢性ストレスの結果HPA軸がダウンレギュレーションを起こした状態です。器質的な障害、下垂体の血流低下や副腎の萎縮などはなく、よほどの極期を除いて、ステロイドの使用は避けるべきです。
​
実際の治療は、HPA軸のストレス負荷を軽減した状態で、ステロイドを用いずに滋養強壮の生薬やホルモンの前駆体などを用いてコルチゾールレベルを修正していきます。
​
副腎の疲労を治すのではなく、歪んでしまったHPA軸を元に戻すのです。副腎疲労の治療のポイントは脳へのアプローチにあります。
​
実は、副腎疲労の診断で検査も受けず、ステロイドだけ処方されてる方、時々うちにもいらっしゃいますが、殆ど治ってないです。患者さんに良かれと思って投薬されているのでしょうが、ステロイドの離脱の分だけ余計に時間もお金もかかります。
​
中途半端でない系統的な治療にぜひ切り替えを!

運動と生活習慣

宮澤賢史 · 2022年12月21日 ·

機械化された現代社会では、運動だけでなく運動以外の身体活動までもが少なくなり、身体を動かす機会が激減しています。

かつて、人々は身体を動かさないという選択肢はなく、終始身体活動を行っていました。
ヒトの身体は、動かすことで健康維持・老化防止システムにスイッチが入るようにできています。

運動以外の身体活動が激減している現代は特に、身体を健康に保つメカニズムのスイッチを入れるため、運動の必要性があります。
運動ができない体でない限りは、運動をして健康維持・老化防止システムを稼働させたいものです。

今回は、運動の効能についてご紹介し、皆さんに運動をする気持ちを高めていただければと思います。

定期的な運動は老化を遅らせ、寿命を延ばすための最良の手段

加齢は避けられませんが、それに伴う機能の低下度合いは個人差があります。

それは食習慣や身体活動、放射線など環境要因にも大きく影響されるため、老化の進行を遅らせたり、時には防いだり、部分的に回復させたりすることさえ可能です。

運動は、最初は筋肉を介して炎症を引き起こしますが、その後筋肉は広範な抗炎症作用を起こすようになるため、長期的な効果として患部の筋肉だけでなく他の部位でも炎症が抑えられるようになります。そして、たくさんの抗酸化物質が生成され、酸化ストレスレベルも低下します。

また、運動により細胞に損傷したたんぱく質を除去(小胞体ストレスの低下)させ、細胞老化の時限装置であるテロメアを延長し、DNA修復をするほか多くの恩恵をもたらしてくれます。

このように適度な運動による軽度の生理学的ストレスは修復反応を引き起こして有益な作用をもたらし、老化防止寿命延長に貢献してくれます。

運動すると気分が高まる

運動することにより、気分を変える神経伝達物質を分泌促進させます。 その中で最も重要なのは、ドーパミン、セロトニン、エンドルフィン、エンドカンナビノイドの4種類です。

ドーパミン

  • 脳の報酬系の要となる物質
  • 脳の奥深くにある領域に「もう一度やって」と伝える
  • 意欲を持った時にもドーパミンが出て、それが「楽しい」「快楽感」につながる
  • 意欲・運動・快楽に関与  

ただし、この報酬系を動かすドーパミンの作用には3つの欠点があります。

①ドーパミンのレベルが上がりやすいのは運動している最中
②運動していない人の脳内にあるドーパミン受容体の感度は、普段から活発に動いている健康な人の感度より低い
③肥満の人では活性化するドーパミンの受容体の数が少ない

これらのことから、運動していない人や肥満の人は受容体を正常に活動させるために、より長期間努力することが必要になる

と言われています。

一方、定期的に運動している人は数日間運動しない日が続いた後の感覚として、落ち着きがなくなり、イライラして飢えたドーパミン受容体を満足させるため、身体を動かしたくてたまらなくなります。

セロトニン

  • 幸福感や喜びを感じたり、衝動をコントロールしたりするときに役立つ
  • 記憶や睡眠などの機能にも影響を与える  

運動しない人は、ドーパミンと同様にセロトニン活性が低い恐れがあります。

うつ状態になりやすく、運動を避けたいという衝動に勝てないため更にセロトニンレベルが低下してしまうという悪循環に陥ってしまいます。

エンドルフィン

  • エンドルフィンは天然のオピオイドで体を動かしたときの不快感を和らげる

体内で作られるエンドルフィンはヘロインやコデイン、モルヒネに比べると作用は弱いですが、それでも痛みを和らげ幸福感をもたらしてくれます。

そのため運動中毒の一因ともなります。

・エンドルフィンの効果は数時間持続する可能性があるとはいえ、20分以上集中して激しく動かさないと分泌されないため、そこまで激しい運動ができる人でないとその恩恵が十分受けられません。

エンドカンナビノイド

  • 体内で天然に生成されるマリファナの有効成分
  • ランナーズハイに大きな役割を果たす

真に心地よい高揚感を引き起こしはするものの、通常、数時間にわたる激しい身体活動しないと脳はこれを分泌しないため、それに該当しない人には関係ありません。

ポイント

これらの神経伝達物質は、運動によって分泌促進されて気分が良くなり、またやりたいという気持ちになり、運動を継続促進するのに役立ちます。

ただ、運動に対するこれらの脳の快楽的反応は座りっぱなしの人に働くように進化していません。不健康になればなるほど脳の快楽的反応を自然な形で受けにくくなってしまいます。

運動と病気

運動は脳ばかりでなく、病気に対しても良い影響をたくさん与えてくれます。

若い頃から運動継続することにより、骨を丈夫にし記憶力を向上させる能力が高まります。それにより、高齢になっても健康維持システムの働きを良い状態で保ち続けることができます。

逆に年を重ねるにつれ、座りっぱなしの日々を継続すると、慢性疾患(心臓病、高血圧、様々な頑、骨粗鬆症、変形性関節症、アルツハイマー病など)にかかりやすくなります。

運動は万能ではないかもしれませんが、健康維持システムを良い状態に保つ作用があるという意味でも、行う価値はあります。

肥満と運動

過剰な脂肪細胞は関節に負担をかけたり、呼吸を妨げたりするだけでなくホルモンを過剰に分泌して代謝を悪い方向へ変えてしまいます。

そこで、運動を取り入れることにより、脂肪細胞から出されるアディポサイトカインにより遮断されていたインスリン受容体を回復させ、糖輸送体タンパクを筋肉により多く産生しインスリン抵抗性を改善するのに役立ちます。

肥満に対してはウェイトトレーニングより有酸素運動の方が適しています。

ウェイトトレーニングは肥満による代謝の低下をいくらか抑える効果がありますが、体重増加の予防や回復には有酸素運動の方が効果を発揮します。高強度の運動は長時間継続するのが難しいため、結果的に総エネルギー消費量が少なくなる場合があるためです。

免疫向上と運動

運動習慣により、免疫システムを向上させる効果もあります。

その効果は感冒症状や感染症等にあるといわれています。適度な運動により免疫システムの根幹である白血球が増加します。

継続的な運動習慣によっても免疫システムは変化すると考えられており、1回45分、運動強度は心拍数予備能の60%の運動習慣により感冒症状の発症頻度は減少すると報告されています。

サルコペニア防止

人の筋肉量は40歳を境にして徐々に減少していく傾向があり、60歳を超えるとその減少率は加速します。

サルコペニアは、タンパク質の摂取不足と運動量の減少によって、作られる筋肉よりも分解される筋肉の方が多くなることが原因です。 サルコペニアを予防する上で大切なのは、筋肉を減らさないための適度な「運動」と「栄養バランス」の取れた食生活です。

筋肉量を増やし、筋力や身体能力を改善するためにはレジスタンス運動と低強度の有酸素運動が効果的であることが言われています。

骨粗しょう症防止

運動はすべての年齢で骨の強度と量に影響を与えます。

定期的な運動は、小児期や思春期の骨量増加や骨形状の最適化を促進し、成人期の骨量維持に貢献し、老年期の骨量減少や強度低下を抑え、骨粗鬆症骨粗しょうを防止します。

丈夫な骨作りに、良質な栄養摂取と同じくらい身体活動によって骨に物理的に力をかけ、骨芽細胞を刺激することも重要です。

ただし、骨粗鬆症が進行している人は骨折リスクがある激しい運動は避けましょう。

骨芽細胞を活性化させるには、体の縦軸方向に対して物理的な刺激を加える体重負荷運動が必要です。ランニングやジャンプ、重量挙げなどが当てはまります。水泳やクロストレーナーは骨への体重負荷が少なめなので、骨密度増加効果は前者より低めです。

生殖ホルモンと運動

中強度の運動をしている女性は生殖に必要なホルモンを十分に分泌していますが、座りがちな女性の体では、必然的に生殖に回せるエネルギーが増え、エストロゲンレベルが25%も高くなるとも言われています。

エストロゲンは乳房組織の細胞分裂を誘発するため、運動不足は乳がんリスクを高める一方で、運動は逆にリスクを下げるのに役立ちます。 ただ、乳がんリスクやエストロゲンレベルは運動だけでなく肥満や妊娠回数の少なさなども影響します。

がんと運動

ウォーキングなどの運動が、がん発症リスクを低下させるメカニズムについての研究も進んでいます。 がんの発症リスクが高くなるメカニズムの一つに肥満や運動不足によって引き起こされる「高インスリン血症」があります。

血液中のインスリンが多すぎると、細胞増殖、成長促進など様々な働きをするIGF(インスリン様成長因子)という物質の働きが活発になります。

さらには、細胞から分泌されるサイトカインと呼ばれるたんぱく質が慢性炎症を引き起こし、がんがさらに増殖しやすくなります。

運動を定期的に継続すると、筋肉などでインスリンの効きがよくなります。そのため、体内でインスリンの過剰な分泌防ぎ、それが、がん細胞増殖や成長促進にも作用するIGFの働き刺激を減らし、がん促進因子を減らすことになります。

抗酸化物質と運動

運動は、活性酸素の産生を通して生体に酸化ストレスを与えることが知られています。

一方、活性酸素による障害防止あるいは最小限にするために生体にはいろいろな抗酸化物質や抗酸化酵素が存在します。

運動は抗酸化酵素を誘導し、酸化ストレスの増大に対応することが知られています。適度な運動は抗酸化酵素を誘導するだけでなく、インスリン感受性を増大させ、疾患リスクを減少させる健康増進効果が期待されます。 これは、運動時のミトコンドリアでの一過性の活性酸素の上昇により発揮されるものと考えられ、ミトホルミシス効果という概念が提唱されています。

運動により、活性酸素の生成が飛躍的に増え、組織に酸化ストレス障害が生体に与えられると、生体は活性酸素ストレスに対抗する防御メカニズムを発動します。特に主要な抗酸化酵素であるスーパーオキシドジスムダーゼ(SOD)やグルタチオンペルオキシダーゼ(GPX)、カタラーゼ(CAT)は重要です。活性酸素のほとんどはぺルオキシラジカルでその消去系酵素であるSODは抗酸化酵素の最上流にあります。

適度な運動による低レベルの活性酸素刺激により、抗酸化酵素の発現促進のほかにミトコンドリアの生合成と再構築を活性化させてくれます。

一方、運動の際に抗酸化剤を投与するとこれらの運動の健康増進効果が失われてしまうようです。

https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/19433800/
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC4036400/

運動による抗酸化酵素レベルの上昇は、運動によって産生される活性酸素を効率よく消去し、酸化ストレスを最小限にする適応現象が起きます。

ただし、酸化ストレスが増大する疾患や病態がある場合は、酸化ストレス障害が増大しており、抗酸化防御反応をはるかに上回っているので注意が必要です。運動を再開するタイミングや、強度や量を増やしていくペースなどは医師と相談しましょう。

アルツハイマー病予防と身体活動

中強度の身体活動がアルツハイマー病のリスクを45%低下させると示されています。

特に(長時間かつ激しい運動が)BDNF(脳由来神経因子)と呼ばれる強力な分子の生成を脳内で促進させます。

BDNFは脳の成長促進材のようなもので、脳に栄養を与えて新たな脳細胞の発育を促してくれます。それによる効果は、認知力の向上、記憶力の向上、神経細胞の健康的に維持するといったもので、とりわけ記憶にかかわる領域で顕著です。

また、BDNFの増加によりアルツハイマー病の原因と考えられている星状膠細胞(アストロサイト)による損傷を防ぐ可能性もあるといわれています。

人間はずっと座りがちの生活をするようには進化してこなかったため、身体活動以外に高レベルのBDNFを生成させるメカニズムは進化してきませんでした。そのため、運動しないとBDNFが不足してしまうことになります。 また、BDNF以外の脳への運動の恩恵については、脳への血流労増加、有害な酸化ストレスレベルの低下、炎症抑制効果などにより、アルツハイマー病リスクを低下させられる可能性があるといわれています。

ストレス耐性向上と運動 ~ストレス反応~

ストレスを感じるとき、脳内ではストレスホルモンが放出されています。それが何か月、何年と続いたら、身体は蝕まれ精神も飲み込まれてしまいます。

ストレスが脳内で警告として始まるのは、HPA軸を動かす動力源である”扁桃体”です。

扁桃体が危険を知らせ、それに反応してコルチゾールの血中濃度が上がると、脳も体も厳戒態勢に入ります。それがまた、扁桃体を刺激し更に興奮し、興奮が収まらずHPA軸が制御不能の状態になると、そのうち本格的なパニック発作が起きます。

ストレス刺激による扁桃体の過剰興奮によりHPA軸を制御不能にしないため、体内にはストレス反応を緩和して興奮やパニック発作を防ぐブレーキペダルがいくつか備わっています。その代表が海馬と前頭葉です。

通常、ストレスを生む状況が去ると、扁桃体の興奮が鎮まり、すぐにコルチゾールの分泌量が下がります。(脳と体はもはや脅威は去ったとみなし厳戒態勢を解きます)

ところが、慢性的にコルチゾールが分泌されると、海馬や前頭葉が萎縮し脳機能が低下します。 すると、ストレス反応にブレーキが利かなくなり暴走を始めます。

興奮の扁桃体がやたらと警告を発して前頭葉や海馬がそれを打ち消すことができなければ、ほんの些細なことにも大袈裟に反応するようになってしまいます。

ストレス反応の動力源ともなる脳の興奮に対し、運動は様々な鎮静システムを強化してくれます。

その1:脳内に気分を変える化学物質を充満させる

運動は、ドーパミン、セロトニン、ノルエピネフリンなどに代表される神経伝達物質の分泌を促進します。 これらは、報酬、幸福感、覚醒、記憶力の向上などの感覚をもたらしてくれます。 また、運動すると、うつ病や不安障害を抱える人の間で枯渇しがちなグルタミン酸やGABAなどの神経伝達物質の量も増加します。

その2:脳の各領域の連携を強化する

たとえば、ストレス反応を抑える海馬と前頭葉が強化され、不安の引き金である扁桃体の活動が抑えられ、HPA軸反応も抑制促進されるようになります。

その3:コルチゾールが慢性的に高くならないよう制御する

適度な運動を長期にわたって継続することにより、コルチゾールの分泌量は次第に増えにくくなり、運動以外のことが原因のストレスを抱えているときでも、コルチゾールの分泌量はわずかしか上がらなくなっていきます。

ただし、運動しすぎるとかえってストレス反応を強くしてしまいます。

コルチゾールは、たいていは運動したあとで濃度が低下しますが、その効果を得られる運動量には限界があります。今の時点では運動がストレスとなる限界点がどのあたりかは解明されていませんが個人差はあるようです。

抗ストレス作用や脳機能向上させることが目的であれば、少し長めに歩いたり、30分走ったりするだけで十分なようです。

その4:抗ストレスニューロンの活性化促進

運動すると脳に新しい細胞が生まれます。通常、新しい神経細胞は幼い子供の様に勝手気ままで、周りから指示されなくても他の細胞に信号を送ろうとし、脳を興奮させやすくしてしまいます。

しかし、運動によって生まれた新生ニューロンは、興奮しても制御不能な状態にはなりません。それは、その中にGABAを放出するニューロンがあるためです。このニューロンは、他のニューロンの興奮を鎮めることから、〝ニューロンの乳母″ともいわれています。〝ニューロンの乳母″が新生ニューロンの興奮鎮めると脳全体が落ち着き、そして運動すれば、更に〝ニューロンの乳母″が増えて脳内の興奮を効果的に抑え、ストレスも解消します。

まとめ

運動することによるストレス耐性強化作用については下記4点になります。

  • 気分を良くしてくれる神経伝達物質の分泌促進
  • ストレス反応を抑える海馬や前頭葉の働き強化され、不安の引き金である扁桃体の活動抑制
  • コルチゾールが慢性的に高くならないよう制御
  • 抗ストレスニューロン(ニューロンの乳母)増加、脳の興奮を鎮めるGABAの作用活発により、ストレスの募る状況に対する反応を全体的に低下させる

ストレスがゼロの生活を送ることは困難ですが、それよりもストレスに対する抵抗力を高めるほうが賢明です。

運動したからと言ってストレスを根こそぎ取り除くことはできませんが、うまく制御できるようにはなります。運動が習慣づけば、闘争と逃走モードに入りにくくなり身体も過剰に反応しにくくなります。

以上のことより、適度な運動は素晴らしいたくさんの効能があり、健康維持・老化防止システムを動かすために、栄養療法と同じくらい価値があるといえます。

ただし、運動の効能を引き出すには、体力、体調、炎症、酸化ストレスなど身体へのダメージ度合といったような個人差を考慮しないとかえって害になることもあります。

自分に見合った適度な強度と量の運動を習慣化できると良いですね。

参考文献:

  • 運動脳:アンデシュ・ハンセン:2022年9月10日初版発行 
  • 運動の神話(下):ダニエル・E・リバーマン:2022年9月25日初版発行
  • 糖尿病ネットワーク:ウォーキングが12種類のがんリスクを減少 運動でがん予防             2016年5月14日
  • 運動と酸化ストレス‐活性酸素と酸化防御のバランスの重要性―大石 修司            IRYO Vol69 No7(317-324)2015
  • 昭和学会誌 大81巻 第5号(395-401頁、2021) 特集 酸化ストレス関連疾患への薬学的アプローチ 酸化ストレスとスポーツ 岩井真一
  • 骨粗鬆症とサルコペニアに対する運動と栄養の影響 ―オステオサルコペニアの発症率 ナラティブプレビュー

副腎・甲状腺・性ホルモン

宮澤賢史 · 2021年10月27日 ·

慢性的な疲労から抜け出せない、毎月の生理が重くてつらい、そんな悩みはありませんか?

その不調、ホルモンの代謝異常が原因かもしれません。

この記事を読んで、ホルモン代謝を理解すれば、様々な不調から抜け出す手がかりが見つかるはずです。

例えば、女性ホルモンの代謝が滞ると、乳がんなどの婦人科疾患を引き起こします。治療の際に、ホルモンの働きを薬で無理やり止めようとしても絶対にうまくいきません。重要なのは、ホメオスタシスに逆らわず、ホルモン代謝を正常化するという栄養療法的アプローチです。副腎疲労も甲状腺機能低下症も婦人科疾患も、ホルモン代謝の正常化が回復の鍵となるのです。

1. 治療ピラミッドにおける位置付け

根本治療の基本は、治療ピラミッドの下から順にアプローチすることです。ホルモンは、炎症や毒物の影響を強く受けるため、ピラミッドのちょうど真ん中に位置します。ホルモンに着手する際のポイントは、副腎→甲状腺→性ホルモンの順にアプローチするということです。

2. 副腎ホルモン

2-1. 副腎疲労は結果である

私が副腎疲労症候群(アドレナル・ファティーグ)という病態を知ったのは、2007年頃でした。それからたくさんの患者さんを診てきて、副腎疲労は様々な要因の「結果」として起こることがわかってきました。一番の要因は炎症とストレスです。また、化学物質や重金属の体内蓄積や睡眠不足でも副腎が酷使されます。

副腎の働きは、朝にピークを迎え、夕方にはほとんど働かなくなります。もともとは 1日中働き続けられない臓器なのです。睡眠による休息が不可欠で、24時間酷使されている副腎は、徐々に機能が落ちてきます。

2-2. ステロイドホルモンの代謝

3つの六員環と1つの五員環からなるステロイド骨格を持つホルモンを、ステロイドホルモンと呼びます。

ステロイドホルモンの代謝において、プレグレノロンを起点として3つの系統に分かれます。1つ目がミネラルコルチコイド、2つ目がコルチゾールなどの糖質コルチコイド、3つ目が性ホルモンです。これらが副腎皮質でつくられています。

ここで重要なのは代謝の流れです。ホルモン代謝の流れが滞ると、様々な疾患を引き起こします。例えば、性ホルモンは、アロマターゼの働きにより男性ホルモンから女性ホルモンに変換され、肝臓でメチレーションを受けて最終的に分解されます。しかし、エストロゲンの分解が滞っている人は少なくありません。それによりエストロゲン過多になると、乳がんや子宮内膜症などのリスクが高まってしまいます。つまり、ホルモン代謝をいかにうまく流してあげるかが最重要課題ということです。

2-3. ステロイドホルモンの特徴

ステロイドホルモンと甲状腺ホルモンは、核内受容体に結合し、さまざまな働きを活性化させることがわかっています。核内受容体は遺伝子転写を調節しているため、生体に極めて強力な作用をもたらすのです。

ステロイド剤は、効果が現れるのがとても速いのが特徴です。それは、細胞膜を通過して直接核の中に働きかけるからです。少量で効くので、使い方を間違えないように注意が必要です。常に代謝のフローを意識して使わないと、副作用が出てしまいます。

2-4. 副腎ホルモンの欠落症状

副腎ホルモンの欠落症状として、朝起きられない、起きてもぼーっとしている、イライラが止まらない、立ちくらみがする、塩をいくらかけてもまだ足りない気がする、といった特徴的な症状があります。当てはまる人が結構いらっしゃるのではないでしょうか?

コルチゾールには、血糖値を上昇させ、炎症を抑える働きがあるため、コルチゾール不足は低血糖と炎症を促進します。副腎疲労でアトピーを抱えている人は、なかなか炎症が治りません。また、塩分を渇望したり血圧が低下するのは、アルドステロンの作用が低下することで起こります。さらに、コルチゾール・スティール症候群により、女性ホルモンが低下し、月経不順や性欲減退といった症状も出ます。

  • コルチゾール欠落症状;低血糖、炎症の持続
  • 部分アルドステロン作用↓;塩分渇望、低血圧
  • コルチゾール・スティール;月経不順、性欲減退

宮澤医院に来院された副腎疲労患者さんのコレステロールは、160以下の低コレステロールの人が30%、コレステロールが160以上の高コレステロールの人が70%でした。

コレステロール値

これは、コルチゾールの原料であるコレステロールが少なすぎてつくれない場合と、コレステロールがあっても利用できていないという、両方のパターンがあると考えられます。

2-5. コルチゾール・スティール

コレステロールは、コルチゾールと性ホルモン、2手に分かれていきますが、生命にとって重要なのはコルチゾールです。したがって、コルチゾールが不足している時には、全ての材料がコルチゾールに優先的に回されることになります。その結果、性ホルモンが十分に作られず、結果として不妊等の原因になるわけです。

2-6. 副腎疲労の評価法

腎臓の上にある副腎というピラミッド型の臓器が副腎です。ホルモンを産生する臓器で、ホルモン分泌が低下する病態を副腎疲労と呼びます。症状、血液検査、唾液検査、尿検査から評価します。

2-7. 唾液中コルチゾール検査

私が最もよく用いる検査は、唾液中コルチゾール検査です。コルチゾールは朝にピークを迎え夜に低くなるという特徴があります。この日内変動を評価するには、唾液中コルチゾール検査が最も適しています。

血中コルチゾールの場合、活性がないコルチゾールまで測定してしまうため、正確に評価することができません。また、採血中のちょっとしたストレスで、値が上がることもあります。

唾液中コルチゾール濃度は、血清中の非結合コルチゾール濃度に比例する
Ann Clin Biochem. 1983 Nov;20 (Pt 6):329-35. 
Salivary cortisol: a better measure of adrenal cortical function than serum cortisol
DOI: 10.1177/000456328302000601

90-95%の血清中コルチゾールがアルブミンや赤血球細胞膜に結合しており、非結合のコルチゾールのみが生理活性をもつ
Psychosom Med. 1999 Mar-Apr;61(2):214-24. 
Increased salivary cortisol reliably induced by a protein-rich midday meal
DOI: 10.1097/00006842-199903000-00014

基本は朝、昼、夕方、夜に採取しますが、自分がものすごくストレスかかったと感じた時に採取してもらう方法もあります。大きなストレスかかった時のコルチゾール量を把握して、生活習慣の改善に繋げることができます。このように、採取のタイミングなどを変えて応用的に使えるので、とても便利な検査です。

2-8. 副腎疲労患者は相当疲れている

宮澤医院に来院された患者さんの、実に89%は朝のコルチゾールが低下していました。1日を通して低い人が大多数ですが、稀に夜だけ高い人もいます。そういう人は昼夜逆転しているパターンですね。

2-9. 尿中ホルモン検査

唾液中コルチゾール検査の他に、尿中ホルモン検査があります。この検査は、コルチゾールだけでなく、エストロゲンやDHEAなど、ほとんどの性ホルモンを一度に測ることができます。ホルモンの補充療法を考えている人、または乳がんなどのホルモン系の腫瘍を持っている人は、この検査を受けてホルモン代謝の状態を把握した方が良いでしょう。

尿中ホルモン検査

2-10. ステージと回復期間

上の症例を見ると、男性ホルモン(Androgens)がほとんどLowになっています。これはコルチゾールスティールが起きていることを示します。副腎疲労には4つのステージがあり、ステージ1はコルチゾールの過剰分泌により興奮状態にありますが、ステージ2、3、4…と進むに連れてコルチゾールが低下し、疲弊度がひどくなってきます。コルチゾール代謝物が4000以下であれば、ステージ4と判断します。尿中ホルモン検査では、1日に分泌されるコルチゾール量を把握できるので、正確にステージングすることができます。

副腎疲労がステージ4まで進行している場合は、腸内環境、重金属などの大きな問題がない限り、治療には6ヶ月から1年、完治には2年ほどかかります。ステージ3の場合は 完治まで1年程度です。このように、ステージングにより治療期間の目安を把握することができます。

副腎疲労の場合、コルチゾールスティールがあるため、ほとんどの数値がLowになってしまうことがあります。したがって、回復したタイミングで再度検査する必要があります。コルチゾールが充足してくると、性ホルモンが上がってくるので、乳がんなどのリスクを正確に読み取ることができます。乳がんのリスクは、善玉エストロゲンと悪玉エストロゲンの比率を見て評価しますが、コルチゾールスティールにより女性ホルモン全体が低下している場合は、比較してもあまり意味がありません。

2-11. 血中ホルモン検査

保険診療の範囲内で副腎疲労を見つける場合には、コレステロールやプロゲステロンの値で評価します。男性の場合、エストロゲンの一種であるエストラジオールを副腎から分泌しています。また女性の場合、DHEAとテストステロンを副腎から分泌しています。つまり、男性は女性ホルモンで、女性は男性ホルモンで副腎の働きを確認し、ある程度副腎疲労を評価することができるのです。

  • 総コレステロール
  • プロゲステロン
  • エストラジオール(♂は副腎から分泌)
  • ACTH
  • コルチゾール
  • DHEA-S(♀は副腎から分泌)
  • テストステロン(♀は副腎から分泌)

2-12. サプリメントアプローチ

副腎疲労に対するサプリメントアプローチとして、同位同食という漢方の考え方が有効です。副腎が悪い人は、動物由来の副腎抽出物を摂ると良いということです。または、副腎に1番多い栄養素であるビタミンCやEを摂ると良いでしょう。

生理学者であるハンス・セリエ博士が行ったラットの実験で、ビタミンCが副腎の負担を軽減することを明らかにしました。ストレス負荷により見られる副腎の腫大が、ビタミンC摂取により抑えられたというものです。その効果は血中濃度に比例するため、頻回摂取、または点滴により注入すると、副腎を効果的にリラックスさせることができます。

2-13. ハンス・セリエのストレス反応

ストレスかかると、副腎が腫れ、胸腺は萎縮し、免疫は低下します。リンパ腺も小さくなり、胃の粘膜から出血が見られるようになります。このようなストレスによる徴候はセリエの3徴と呼ばれています。セリエは、出血、体の束縛、過度の運動、どのようなストレス負荷をかけても、副腎の肥大、胸腺の萎縮、胃潰瘍(胃出血)がいつも一緒に起こることを明らかにし、これを警告反応と名付けました。これらは解剖で見た肉眼的な所感ですが、今はもっと様々な反応が起こることがわかっています。

引用:http://www.evolocus.com /Textbooks /Selye1952.pdf

2-14. 副腎疲労のステージ

副腎疲労は、警告反応が起こる警告期を経て抵抗期に向かいます。持続するストレスと釣り合った抵抗力を発揮し、適応している状態です。唾液中コルチゾールは1日中高値を示し、炎症やストレスに対応しているのがわかります。しかし、多くの患者さんを診ていますが、このような人が来院することはほとんどありません。興奮状態にあるので、自分が副腎疲労だという自覚がないからです。来院されるのは、強いストレスや感染症などのトリガーにより、コルチゾールがガクンと減って疲弊期に突入した人たちです。

2-15. ストレス反応には2系統ある

副腎疲労の改善には、サプリメントケアによる対処も必要ですが、ストレスのコントロールが必要不可欠です。ストレス反応には、内分泌系と神経系の2系統があります。内分泌系は、脳下垂体、ACTH、副腎皮質と伝達され、コルチゾールが分泌される流れです。

内分泌系
脳下垂体→ACTH→副腎皮質→コルチゾール→標的細胞

神経系は、自律神経が副腎の髄質(副腎の中身)を直接刺激し、アドレナリンを出すという流れです。副腎髄質は、脳下垂体のホルモンコントロールを受けず、自律神経の電気インパルスによってのみコントロールされているため、自律神経のコントロールも副腎のためには必要なのです。

神経系
自律神経→副腎髄質→アドレナリン→標的細胞

人間の神経には、自律神経と体性神経があります。自律神経は、脈拍や呼吸をコントロールしている神経、体性神経は、運動神経や感覚神経をコントロールしている神経です。通常、これらの2つの神経は交わることはありません。体性神経は自らの意思で制御できますが、自律神経はコントロールすることができません。自分の意思で汗をかいたり、脈拍を速めたり、鳥肌を立たせたりということはできませんよね。これらは自律神経が司っているからです。

しかし、びっくりした時などはこの2つの神経が交差します。このような交差を繰り返し続けていく(ストレスが持続する)と、自律神経中枢と体性神経の間に単路ができてしまいます。この単路が太くなるほど、どんどんストレスに弱くなって、ちょっとしたことで切れやすくなったり、高い所に登ることを考えるだけで息苦しくなったりします。

2-16. 必要なのは鈍感力

できてしまった単路をどう治せばよいのかというと、それは鈍感になることです。鈍感力を養うのに1番おすすめなのは、マインドフルネスです。簡単に言うと、自分の呼吸に集中する訓練です。何事が起きても自分の呼吸に意識を戻す、思考が別のところに行っても、また自分の呼吸に戻る、その繰り返しで鈍感力が養われます。

副腎疲労は副腎の不調によって起こりますが、大元の原因はHPA軸にあります。視床下部、下垂体、副腎の機能が同時に低下してしまうのです。ストレスには精神ストレスと身体ストレスがありますが、どちらも扁桃体を経由します。この扁桃体が自分にとってストレスかどうかを決めるのです。ストレスだと判断すると、コルチゾールの分泌量を上げたり、心拍を上げたりして反応します。つまり、ストレスとして感じるかどうかは扁桃体次第だから、扁桃体を鍛えましょうということです。

Amygdala(扁桃体)の位置

瞑想は扁桃体を鍛える訓練とも言えるわけです。リラックスするには、瞑想、CBDオイルの使用、Bスポット治療、ファスティングなどが効果的です。Bスポット治療は、上咽頭のところに通っている副交感神経を刺激するため、リラックス効果があります。ファスティングも、自律神経の緊張を緩和させる究極の方法です。あらゆる方法を使って脳をリラックスさせることが大切です。

2-17. 脳に有効なサプリメント

脳に対するサプリメントアプローチで有効なのは、脳の材料となるフィッシュオイルです。特にDHAは二重結合が多く、細胞膜の流動性を高める働きがあります。

J Nutr. 2010 Apr;140(4):869-74. 
DHA may prevent age-related dementia
DOI: 10.3945/jn.109.113910

ヘルシーパス社のスマートコリンは、認知機能のサポートに使われています。また、グロービア社のフェルガード(フェルラ酸)は、日本認知症予防学会が推奨している脳の抗酸化サプリメントです。MSS社のuDHAは、抗酸化作用が強化されたDHAです。

2-18. 生まれつきの副腎疲労もある

恐怖麻痺反射(ストレスにさらされ、胎児が身を固めて刺激に耐えようとする反射)が残存している人は、生まれつき副腎疲労を抱えています。ちょっとしたストレスに異常に反応してしまうので、常に疲れてしまう傾向にあります。感覚が過敏なために、副腎や自律神経、背筋がいつも緊張しています。さまざまな行動を無意識のうちに抑制し、極度の引っ込み思案の方は、もしかしたら恐怖麻痺反射が残っているのかもしれません。適切なケアで治すことも可能ですから、詳しくは小池先生の動画をご覧ください。

2-19. エネルギー泥棒を見つける

エビデンスには乏しいですが、副腎疲労の人はエネルギーがどんどん漏れているという説があります。エネルギーは感情でかなり消費されます。人から褒められている時、豪遊して無駄遣いしている時、ノリノリでしゃべって自分に酔っている時、こういう時はエネルギーが漏れている時で、心地よい状態です。しかし、エネルギーがある一定ラインを下回ると、他人からエネルギーを奪おうとする、エネルギーバンパイアの状態になってしまいます。この状態にならないためには、人から認められてエネルギーを補充する必要があります。

余談ですが、副腎疲労重症者の動物占いを見たところ、サルとヒツジが多いという結果が出ました。サルは、じっとしてるのが苦手、活発に動き回り複数のことを同時進行する、褒められるとなんでもやってしまうという特徴があります。マルチタスクは、複数のことを同時にやっているようで、実は人間は1つのことしかできないので、1つ1つのタスクを超高速で切り替えながら行っているだけなのです。だからものすごく疲れます。またヒツジは、和を大切にする性格で、本音を隠しがちです。こうした人たちは副腎疲労になりやすいので気をつけてくださいね。

そんな人におすすめの本を2冊紹介します。1冊は『エッセンシャル思考』(グレッグ・マキューン著)です。本当に重要なことだけに取り組み、他は全部断るべし、という内容が書かれています。

もう1冊は「嫌われる勇気」(岸見 一郎/古賀 史健 著)です。ここに書かれているのは、自分と他人のタスクの分離です。この仕事は私の仕事ではないですよ、あなたの仕事ですよって言えない人は、まずこれを読んでみてください。

2-20. コルチゾール補充

副腎疲労の治療には、重金属をデトックスしたり、ストレスを無くしたりすることから始めるのですが、中にはどうしても仕事を休めない、なるべく早く復帰したい、という人もいるので、そういう場合は根本治療と並行してコルチゾール補充療法を行うこともあります。

ホルモン治療の第一人者であるハルトゲ博士の著書、「ホルモンハンドブック」は、ホルモン治療をされる方にはぜひ読んでいただきたい一冊です。コルチゾールやDHEAなど、12種類程のホルモンの補充療法が詳細に書かれています。

例えば、男性でマイルドなコルチゾール欠損の場合は、ヒドロコルチゾンを朝に20mg、昼に10mg使うと書かれています。私もコルチゾールの補充療法をする場合は、ヒドロコルチゾンを使います。ヒドロコルチゾンは最もバイオアイデンティカルなコルチゾールです。人間が代謝しやすいので、副腎の疲弊が起こりにくいというメリットがあります。ただし、ヒドロコルチゾンだけでは解決できません。必ず根本治療をセットで行わないと、薬のテーパリングができなくなってしまうからです。

2-21. DHEAの併用

ヒドロコルチゾンを使う場合は、テストステロンの1つであるDHEAを併用すると良いでしょう。DHEAにはアナボリック(タンパク質の同化)作用があります。コルチゾールはタンパク質分解作用があるため、薬で大量に体内に入れると、筋肉が減少し内臓中心性肥満になります。お腹周りは太るのに、手足の筋肉が衰えて細くなるという身体的特徴が見られます。したがって、DHEAを一緒に摂るとタンパク質の分解を抑えることができます。男性ホルモンなので、男性の方は比較的量を多く使っても大丈夫ですが、女性は少なめに抑えた方が良いでしょう。副作用は、皮膚が脂っぽくなることです。気をつけたいのは、ホルモン系腫瘍の方には禁忌ということです。投与前に尿中ホルモン検査を行うことをお勧めします。

男性
・朝食前後35mgからスタート
・状況(ストレス・風邪など)に応じて+50〜200%
・最適量は20〜55mg/day

女性
・朝食前後20mgからスタート
・状況(ストレス・風邪など)に応じて+50〜100%
・最適量は5〜30mg/day

3. 甲状腺ホルモン

3-1. Ⅱ型甲状腺機能低下症

甲状腺低下症には、大きく分けて、通常の甲状腺機能低下症とⅡ型甲状腺機能低下症があります。Ⅱ型甲状腺機能低下症は、血液検査では異常が認められず、甲状腺ホルモンも十分に出ているのですが、受容体が正常に機能していないため、結果として甲状腺機能低下の症状が出ている病態を指します。

甲状腺機能の検査として、T3、T4、TSHの数値を確認するだけに留まるケースがほとんどです。しかし、これだけでは代謝の状態を把握することはできません。甲状腺ホルモンを動かしているミトコンドリアの異常も、甲状腺ホルモン受容体異常も、この3つの数値から推測することはできません。

3-2. 甲状腺ホルモンの代謝の流れ

視床下部からTRHが分泌されると、脳下垂体から甲状腺の刺激ホルモンであるTSHが分泌されます。すると、T3(活性型)とT4(T3の前駆体)が分泌され、T3は肝臓でT4に変換されて標的細胞に運ばれます。T3やT4が不足すると、フィードバックがかかってTSHが上がります。したがって、Ⅱ型甲状腺機能低下症の場合、T3、T4は低下せず、TSHのみ上がっていることがあります。

一方、標的細胞には、フィードバック機構がありません。ミトコンドリア機能が低下したり、甲状腺ホルモンの受容体の働きが悪くなったりしても、フィードバックはかかりません。そのような状態の人がたくさんいらっしゃいます。

もう一つ多いのが、T4が活性型のT3に変換されにくいパターンの人です。T4→T3の至適温度は37度で、栄養素として鉄やセレン、そしてコルチゾールが使われます。つまり副腎疲労がある場合は、T4からT3への変換がうまくいかないということです。これが甲状腺に着手する前に、副腎を治した方がいい理由の1つです。

下から順に治療する

3-3. 甲状腺ホルモンにはヨードが必要不可欠

人類の祖先が海から陸に進出した時、体には甲状腺濾胞という甲状腺ホルモンをストックしておく器官がつくられました。

陸には、海水のようにヨードが豊富に無いからです。甲状腺に刺激があったり破壊されたりすると、一気に甲状腺ホルモンが出て、亜急性甲状腺炎になり、高熱が出て酷いショック状態に陥ることがあります。日本の場合、ヨード不足になることはほどんどありませんが、フッ素や塩素、臭素の暴露が多すぎて、ヨードの働きが抑えられ、甲状腺機能低下になっている人もいるので、その点は注意が必要です。フッ素は歯みがきジェル、塩素はプール、臭素はパンの添加物などに使われています。

3-4. 水銀の影響

甲状腺ホルモンは水銀の影響を受けやすいという特徴があります。TSHの分泌、受容体の働き、T4からT3への変換などを抑制します。したがって、甲状腺治療の前にデトックスは必須です。

3-5. ホルモンの相互作用

コルチゾールスティールは、甲状腺機能にも大きく影響します。また、甲状腺機能低下は高プロラクチン血症を引き起こします。甲状腺ホルモンが下がると、フィードバックがかかって視床下部と下垂体が活性化します。TRHとTSHが上がります。それと同時にプロラクチンも上がります。プロラクチンは乳汁分泌ホルモンで、授乳中に分泌され、排卵が抑えられます。したがって、プロラクチンが上がっていると、不妊の大きな原因になるので、不妊治療クリニックでは甲状腺機能は必ず確認されます。

先述の『ホルモンハンドブック』によると、TSHのオプティマルレンジは1です。一般的な基準値は0.5~3で、検査会社によっては大きく捉えていますが、少なくとも2以上の場合は、潜在性の甲状腺機能低下を疑うべきでしょう。

3-6. 治療法

甲状腺機能低下症の治療法は、デトックスや腸内環境改善から始めますが、これを補助するために一般的にはチラージンSを使います。「S」は「合成」という意味で、合成のT4のみが含まれています。先述の通り、T4からT3への変換が妨げられている人が多いので、チラージンSが効かない人もたくさんいらっしゃいます。その場合は、私はチラージン末というブタ甲状腺の乾燥物を使っていました。天然物なので生理学的に人に近く、T4とT3が適度に混じっています。T4単独よりもT3とT4を合わせた方が治療効果が高いという報告もあります。

Journal of Nutritional & Environmental Medicine Volume 11, 2001 – Issue3
Thyroid Insufficiency. Is Thyroxine the Only Valuable Drug?
https://doi.org/10.1080/13590840120083376

チラージン末は、東日本震災の影響で製造中止になってしまったため、現在はアーマーサイロイドを海外から購入しています。もしくはチラージンにチュロナミンというT3の薬を合わせて使うこともあります。チラージンS 50μgに相当するチラージン末(乾燥甲状腺末)は、25-30mgです。

4. 性ホルモン

4-1. ホルモン代謝の正常化が重要

婦人科疾患に対して、女性ホルモンをブロックする薬剤の投与が当たり前のように行われています。しかし、それをしてしまうと、人間のホメオスタシスが働いてしまい、過剰にホルモンが分泌されたり、ダウンレギュレーションが起こり、かえって悲惨なことになっているのが現状です。大切なことは、女性ホルモンをブロックすることではなく、代謝を正常化させることです。

4-2. プロゲステロンに対してエストロゲンが優位になる

いわゆる更年期障害や月経不順、月経痛など、様々な女性特有の不定愁訴がありますが、多くの場合、原因としてエストロゲンの過剰分泌が考えられます。年齢に伴ってエストロゲンとプロゲステロンの分泌量が落ちてきますが、エストロゲンよりも、プロゲステロンの方が急激に低下します。特に35~50歳にかけての低下率は、エストロゲン35%に対し、プロゲステロン75%で、エストロゲンとプロゲステロンの差が大きく広がるのです。

4-3. プロジゲステロンクリームの選び方

これを食い止めるのに最も簡単な方法が、プロゲステロンクリームの使用です。エメリタのプロジェストなどは、バイオアイデンティカルなクリームとして有名です。ホルモンを補充するときに必ず気をつけるべきことは、人間が代謝しやすいホルモンを使うことです。例えば、プレマリンという女性ホルモン剤は、馬から抽出したものですが、人間にとってバイオアイデンティカルではないので、代謝に時間がかかってしまいます。長時間効く代わりに、いつまでも体に残留して様々な不調を引き起こすリスクがあります。

一方、バイオアイデンティカルなホルモンクリームであれば、1日で完全に代謝されます。 まめに塗る必要がありますが、副作用が極めて少なくて済むのは大きなメリットです。このクリームは、経皮吸収で腹部などに塗るタイプのもので、プロゲステロンの分泌量が高まる生理周期3週目に親指の先半分ぐらい、 4週目に親指1本分程度を使います。ただし、これは米国向けに作られているため、初めは少ない量から始めます。副作用は、プロゲステロンの鎮静作用により眠くなることです。

4-4. 婦人科疾患の原因は女性ホルモン代謝異常

婦人科疾患の多くは、女性ホルモンの代謝異常によるものですが、代謝異常になる原因の1つに、環境エストロゲンの増加が挙げられます。重金属、ダイオキシン、有機汚染物、フタル酸エステルなどに環境エストロゲンが含まれています。ホルモン剤を投与されたアメリカ産の牛肉や牛乳なども注意が必要です。現代は、バイオアイデンティカルではないエストロゲンが体に入りやすい環境にあります。日常的に環境エストロゲンを避けるように心がける必要があります。

また2つ目の原因として、エストロゲン代謝分解の低下があります。エストロゲンは、肝臓で加水分解され、メチレーションなどを経て解毒されますが、これらの代謝が滞り、エストロゲンが過剰に溜まっている人が大勢います。

4-5. 子宮内膜症の3つの原因

子宮以外で子宮内膜が増殖してしまう病気を異所性子宮内膜症と言います。例えば卵巣で増殖してチョコレート嚢胞を形成すると、炎症を引き起こします。また、月経時に月経血が逆流して卵管の方に流れると、血液に含まれる鉄の作用で活性酸素が発生し、炎症を引き起こします。その炎症をエストロゲンがさらに増大させるので、炎症がいろんなところに飛び火してしまいます。

根本原因は炎症、内分泌撹乱物質(環境エストロゲン)、エストロゲン代謝低下、これら3つです。オメガ3系油をしっかり摂って炎症体質を改善すること、環境エストロゲンをできる限り避けること、エストロゲン値が高ければ、解毒して代謝分解してあげることも重要です。

4-6. 乳がん治療の難しさ

乳がんはステージ4まで進行してしまうと、5年、10年の生存率は極めて低くなります。また、乳がん治療の成功率は、再発によりかなり低下します。乳がんもホルモン依存性のものが多いため、薬のセレクトなどが難しくなってきます。

4-7. 閉経前後のエストロゲン供給源

BMIと乳がんリスクの関連性を示す報告を見ると、BMIが高い(脂肪が多い)方が乳がんリスクが高いことがわかります。閉経後はエストロゲンの分泌が低下しますが、副腎でつくられる男性ホルモンが、アロマターゼの働きにより女性ホルモンに変換されます。したがって、ホルモンの材料となる脂肪が多いほど、乳がんのリスクが高くなります。

Ann Oncol. 2014 Feb;25(2):519-24.
Body mass index and breast cancer risk in Japan: a pooled analysis of eight population-based cohort studies
DOI: 10.1093/annonc/mdt542

一般的な治療としては、アロマターゼ阻害剤を処方します。乳がん細胞に到達したエストロゲンの働きを阻害する抗エストロゲン剤なども使われます。閉経後の人には、アロマターゼ阻害剤と抗エストロゲン剤を処方しますが、閉経前の人は卵巣が働いているので、卵巣のエストロゲンを止めるために、下垂体の働きを止めるLHRHアゴニストという薬が処方されます。

では、アロマターゼを阻害して、エストロゲンの働きをブロックすれば、完全に乳がんを撲滅できるかというと、実際はそう簡単にいきません。それは、受容体が変化するからです。

4-8. 受容体のホメオスタシス

先述のLHRHアゴニストは、合成されたLHRHで、通常のLHRHの100倍の効力を発揮します。下垂体に対する過度な刺激により、ホメオスタシスが働いて受容体が減少し、応答能が低下します。これにより、エストロゲン分泌が抑制されます。これを偽閉経療法と言います。

その一方で、抗エストロゲン剤も併用されています。エストロゲンの受容体をブロックする薬ですが、当然ホメオスタシスが働いてアップレギュレーションが起こってしまいます。つまり、エストロゲンの減少に伴って受容体が増加したり、感受性が亢進した結果、応答能が増大してしまうのです。

乳がんの原因は、エストロゲン受容体のアップレギュレーションであることを示す論文もあります。

Med Mol Morphol. 2010 Dec;43(4):193-6.
Mechanisms of estrogen receptor-α upregulation in breast cancers
DOI: 10.1007/s00795-010-0514-3

タモキシフェンというエストロゲン受容体ブロッカー薬の説明書には、重要な基本的注意として、「本剤の投与により、子宮体がん、子宮肉腫、子宮内膜ポリープ、子宮内膜症が見られることがある」と記載されています。最初は効くかもしれませんが、ホメオスタシスが働きだすと、アップレギュレーションが起きて、子宮関連の疾患リスクが高まると考えられます。

『乳がんと牛乳』(ジェイン・ブラント著)には、著者自身が乳がんを患い、抗癌剤やホルモン療法など、ありとあらゆる治療をやっても何度も再発したのに、乳製品を完全にやめたら全く再発しなくなったという話が書かれています。

これは、乳製品に含まれる環境エストロゲンの作用により、受容体のアップレギュレーションが起こった結果ではないかと思います。薬で無理矢理止めても、完全には抑えられないということです。では、どうすれば良いのでしょうか?

4-9. ホルモン代謝を正常化する

それはズバリ、代謝を正常化することです。女性ホルモンの代謝を見てみましょう。エストロンはフェーズ1で活性化されると、善玉エストロゲンである2-OHE1や発がん性のある16α-OHE1になります。2と16の比率が重要で、外因性の環境エストロゲンやPCB暴露があると、全て16α-OHE1に流れてしまいます。

他にも、甲状腺機能低下症、殺虫剤、喫煙、カフェイン、薬物の影響でCYP3A4が活性化され、16α-OHE1が増えて発がんリスクが高まります。したがって、デトックスのフェーズを強化し、代謝を促す必要があります。代謝がスムーズになれば、増殖作用がないエストリオールに変換され、がんリスクが低減します。

4-10. エストロゲンデトックスのための食材とサプリメント

エストロゲン代謝を促すには、COMTを活性化するビタミンB6やグルタチオン、メチオニンなどを使うのが効果的です。もう1つの方法として、2-OHE1の方向に流れを向けてあげることも有効です。そのためには、アブラナ科の野菜やI3C(Indole-3-carbinol)、DIM(Diindolylmethane)、亜麻仁油、チロキシンなどを使います。あとはデトックスな生活を心がけること、腸内環境を良くすることです。

4-11. 3型アルツハイマー病と性ホルモンの関係

『アルツハイマー病 真実と終焉』の著者であるデール・ブレデセンが提唱したアルツハイマー病の3つの型のうち、3型は毒物性アルツハイマー病で、マイコトキシンや重金属の暴露が原因で発症するものです。

他のアルツハイマー型よりも発症が早く、40代からと言われています。ストレスなどがトリガーになり、認知機能よりも、うつ症状が先に見られるという特徴があります。この3型アルツハイマー病にもホルモンバランスが関係しています。

3型アルツハイマー病の特徴
・40代で発症(更年期頃に起きやすい)
・うつ病が認知機能低下に先行する
・記憶低下<集中力低下、計算不能
・強いストレスがトリガー
・マイコトキシン、もしくは重金属への暴露
・血中TG低値
・血清亜鉛低値
・HPA軸↓、プレグネノロン↓、DHEA↓

3型アルツハイマー病の症例を見てみましょう。

57歳女性

  • 数年前から腹部のガスが増えた
  • 以前は考えられないようなうっかりミスが増え、記憶力、集中力が落ちた(日常生活には支障なし)
  • 昨年夏頃から睡眠の質が落ちた
  • 便の調子が良くない(いつも軟便、食事の度にもよおす、乳酸菌サプリで多少改善)
  • 年齢のせいかと思っていたが、腸内環境が悪化することでも記憶力、集中力が落ちると知り来院

早期認知症検査(MOCA)をやってみたところ、30点中の29点で全く異常なしでしたが、本人には、計算に時間がかかる、じっくり集中できない、記憶力が低下したという自覚がありました。

血液検査で確認すると、ホルモン値は保たれていましたが、銅亜鉛バランスが崩れていました。

  • 25OH-D 43 ng / ml
  • Cu 118μg / dl
  • Zn 66μg / dl
  • ACTH 21.5 pg / ml
  • コルチゾール 7.3μg / dl
  • DHEA-S 1767 ng/ ml
  • エストラジオール 8.1 pg / ml
  • テストステロン 25.5 ng / dl

炎症に関しては、ピロリ菌陽性でした。その他にも、胃の炎症、中等度の上咽頭炎、感染根菅が3カ所、口腔内カンジダもあり、体中炎症だらけの状態でした。

  • ヘリコバクタピロリ抗体陽性
  • PG1 46.7 ng / ml
  • PG2 10.6 ng / ml
  • PG1/PG2 4.4

マイコトキシンの蓄積も見られました。

マイコトキシンは、アルツハイマー病及びパーキンソン病などの神経変性疾患の発症に寄与していると言われており、暴露源としては、汚染された穀物、ブドウジュース、乳製品、香辛料、ワイン、乾燥ブドウ果実、コーヒーなどが挙げられます。

毛髪ミネラル検査の結果を見ると、ミネラルの輸送障害があり、水銀の蓄積が疑われました。

この症例のように、一見、副腎疲労のように見えますが、マイコトキシンと水銀の蓄積があり、腸内環境が悪化していて、ストレスがトリガーとなって記憶力が低下している場合は、3型アルツハイマー病の疑いがあります。

最後に、治療ピラミッドに当てはめてみましょう。炎症、毒物の蓄積、ホルモン代謝異常、こうしたものが結果として脳に影響を及ぼします。これらの根本原因を下から順番に治療していく必要があります。

5. 最後に

いかがでしたか?ホルモン代謝異常により、様々な疾患が引き起こされることをご理解いただけたかと思います。代謝の正常化は、通常の医療ではリーチできない部分なので、栄養療法的なアプローチがとても重要です。

副腎、甲状腺、性ホルモンはお互い影響し合っているため、副腎→甲状腺→性ホルモンの順番に治療する必要があります。副腎疲労は大きなストレスがトリガーとなり、抵抗期から疲弊期に移行します。自律神経と体性神経は本来は独立した神経系ですが、継続的なストレスで、両者の間に単路がつくられ、弱い刺激でも自律神経が興奮するようになり、慢性的な自律神経失調症につながります。副腎疲労の治療としては、根本治療とセットでホルモン療法を行うケースがあります。コルチゾールはカタボリックを促進するため、DHEAを併用するとアミノ酸分解を抑制することができます。

甲状腺機能低下症に関しては、Ⅱ型と呼ばれる潜在的な甲状腺機能低下を抱えている人が多く見られます。甲状腺ホルモンのT4が活性型のT3に変換できない原因の一つに、コルチゾールスティールの存在があります。したがって、まずは副腎疲労を治すことが先決です。

女性ホルモン代謝異常は、多くの婦人科疾患の原因となっています。代謝異常の原因としては、環境エストロゲンの過剰な暴露や、エストロゲン代謝分解の低下などが挙げられます。乳がん治療には、抗エストロゲン剤などが用いられますが、無理に抑制するとホメオスタシスが働き、かえって症状が悪化することがあります。まずはエストロゲン代謝を正常化するために、生活習慣の改善と、適切なサプリメンテーションを行うべきでしょう。

血液検査から推測するメチレーション

宮澤賢史 · 2021年9月6日 ·

メチレーションのこと、ご存知ですか?栄養療法を学び始めた方の中には、何となく難しいもの…と感じていらっしゃる方が多いかもしれませんね。

そこで今回は、血液検査からメチレーションレベルを推測する方法と、適切に回すための栄養療法的アプローチをわかりやすく解説します。メチレーション回路には様々な栄養素が絡んでいますが、今まで学んできた血液データの読み方を活用すれば、ご自身のメチレーションレベルをある程度推測することが可能です。メチレーションを学んで、栄養療法への理解をさらに深めていきましょう。

1. メチレーションとは

1-1. メチル基供与体と受容体

様々な基質にメチル基(-CH3)が置換または結合することをメチレーション(メチル化)と言います。メチル化することで、物質が活性化したり不活性化したり、様々な化学反応が起きます。メチル基を与えるものをメチル基供与体、受け取るものをメチル基受容体と呼びます。代表的な供与体はSAMe(S-アデノシルメチオニン)、受容体はナイアシンです。SAMeは、ATPに次いで体内でたくさん使われています。

1-2. メチレーション 3つの経路

メチレーション回路は、3つの経路が歯車のように噛み合わさって動いています。メチル化経路はメチル基を作り出す経路、葉酸経路は葉酸を活性化する経路、神経経路はドーパミンを作り出す経路のことです。さらに、メチル化経路のホモシステインからシステインに向かう硫酸経路は、解毒に関係する経路です。

1-3. メチレーションの役割

メチレーション回路は体にとって大変重要な代謝経路で、次のような役割があります。

  • 解毒(グルタチオン合成)
  • メチル基の供給
  • DNA、RNAの産生
  • ドーパミン産生
  • 動脈硬化の予防(ホモシステイン)
  • がんの予防(DNAサイレンシング)
  • 免疫調整

メチレーションが正常に行われると、グルタチオンが合成され解毒が促進します。また、ホモシステインが溜まらないので、酸化ストレスが低減し、無駄なタンパク質の発現が抑えられ、がんを防ぐことができます。葉酸経路が活性化し、DNAやRNAの合成が促進されたり、ドーパミンやセロトニンといった神経伝達物質の合成や代謝がスムーズに行われたりします。

1-4. メチレーションを阻害する要素

メチレーションは、基質と酵素の適合性によって回っているので、基質や酵素の不足によりアンバランスが起こります。例えば、動物性タンパク質の摂取が少ないと基質であるメチオニンが不足しますし、酵素を産生する遺伝子にSNPがあると酵素が不足します。また、補酵素の不足、重金属や感染、炎症といったものがメチレーション回路を阻害します。

  • 基質の不足(タンパク質摂取不足によるメチオニン↓)
  • 遺伝子のSNP(遺伝子多型、MTHFRではC677Tなど)
  • 酵素の補酵素不足(MTHFRではビタミンB2)
  • 重金属(MTRでは水銀、硫酸経路ではヒ素)
  • 感染、炎症(SHMT、CBS、MTR、BH4、CDX)

1-5. 実践ピラミッドにおけるメチレーションの位置づけ

メチレーションは実践ピラミッドの頂上に位置します。メチレーションはとても重要な部分ですが、腸の炎症、デトックス、ホルモンバランス、ミトコンドリア機能のケアをスルーして、メチレーションだけにアプローチしても絶対にうまくいきません。逆に言うと、ピラミッドの下から順にアプローチしていくと、徐々にメチレーションが回るようになっていきます。

2. 自閉症との関連性

2-1. 自閉症治療の難しさ

メチレーションレベルに深い関わりがあるのが自閉症です。自閉症に対するアプローチは様々試みられていますが、なかなか結果に繋がっていないのが現状です。それは、自閉症児の脳は発達段階にあるため、ものすごくナイーブで色々な外的影響を受けやすいためです。普通はメチレーションまで考えなくても症状が改善することが多いのですが、重症患者や子どもの場合は、メチレーションのアプローチが必要になることもあります。

2-2. 自閉症発症の原因

米国自閉症児治療学会であるMAPSの会長で、自閉症治療の第一人者である、ダン・ロシニョール博士は、1971~2010年における自閉症関連の論文を分析し、自閉症には炎症や酸化ストレス、ミトコンドリア機能不全、毒物曝露が関係していることを明らかにしました。

自閉症に関するレビュー
・炎症・免疫不全(416/437, 95%)
・酸化ストレス(115/115, 100%)
・ミトコンドリア機能不全(145/153, 95%)
・毒物曝露(170/190, 89%)
Mol Psychiatry. 2012 Apr;17(4):389-401. 
A review of research trends in physiological abnormalities in autism spectrum disorders: immune dysregulation, inflammation, oxidative stress, mitochondrial dysfunction and environmental toxicant exposures
https://www.nature.com/articles/mp2011165

2-3. 効果的な代替医療

一般的に、自閉症に対する食事以外の代替医療として、エビデンスレベルが高い治療と言えば、メラトニン、ナルトレキソン(オピオイド拮抗薬)、音楽治療くらいしかありません。しかしながら、エビデンスレベルは低くとも、ビタミンB12、B6、B3、亜鉛など、メチレーションに関わる栄養素の摂取により、自閉症改善に効果が現れているため、既に治療に取り入れられています。ロシニョール博士の報告によると、自閉症児の親へのアンケート結果をまとめると、効果があった治療の1位はキレーション、2位はビタミンB12注射、3位はメラトニン摂取でした。

AnnAls of CliniCAl PsyChiAtry 2009;21(4):213-236
Novel and emerging treatments for autism spectrum disorders: A systematic review
https://hyperbaricoxygentreatmentcenter.com/wp-content/uploads/2020/07/Novel-and-emerging-treatments-for-autism.pdf

3. 葉酸経路と遺伝子の関係

3-1. MTHFRの遺伝子変異

葉酸経路で働くMTHFR(5,10-メチレンテトラヒドロ葉酸還元酵素)は、葉酸を活性化するときに使われる酵素で、5,10-メチレンテトラヒドロ葉酸を活性化型のメチル葉酸に変える働きをします。補酵素はビタミンB2とNAD(ビタミンB3)です。ビタミンB2、B3不足や、MTHFRに遺伝子変異があると、葉酸を十分に活性化できなくなります。

MTHFRの遺伝子は、20,373塩基対からなる大きなタンパク質です。遺伝子には冗長性があるので、1個や2個の塩基が置き換わってもタンパク質の機能にはあまり影響ありません。しかし、塩基番号677番、または1298番の塩基が1つ入れ替わると、それだけで機能が大幅に損なわれてしまいます。

  • 塩基番号677:本来シトシン(C)のはずが、SNPが生じるとチミン(T)に置き換わり、生成されるアミノ酸がアラニンからバリンに変わる
  • 塩基番号1298:本来アデニン(A)のはずが、SNPが生じるとCに置き換わる

遺伝子多型とは、遺伝子上の1つの塩基が別の塩基に置き換わることです。 1%以上の人が持っているものをSNP(スニップ、一塩基多型)、1%以下の人しか持っていないものを突然変異と呼びます。MTHFR遺伝子多型は日本人に多く、C677Tの変異は、日本人の45%に見られます。つまり、MTHFR遺伝子多型は、突然変異ではなくSNPということになります。

人種C677T
変異1つ
(ヘテロ)
C677T
両方変異
(ホモ)
C282YとA1298C
の変異が各1つ
(複合ヘテロ)
A1298C
両方変異
(ホモ)
白人
(欧州・北アメリカ)
25-45%8-18%15-20%4-12%
ヒスパニック
(アメリカ)
42%21%不明4-5%
黒人
(アメリカ)
14%約1%不明2-4%
アジア人35%
(日本人)
11%
(日本人)
不明1-4%

遺伝子は両親から受け継ぎます。遺伝子変異を1つ受け継いだ場合をへテロ(異型接合体)、2つ受け継いだ場合をホモ(同型接合体)と言います。677CCが正常、677CTがヘテロ、677TTがホモとなります。また、677CTと1298ACといったようにそれぞれに遺伝子変異が1つずつある場合を複合ヘテロ接合体と呼びます。 

3-2. 葉酸サプリメントの種類

葉酸サプリメントは大きく分けて、非活性葉酸、10ホルミル葉酸に近いフォリン酸(folinic acid)、5-メチル葉酸の3種類あります。5-メチル葉酸は日本では製造できないため、海外から購入する必要があります。個々のリスクよってどの葉酸サプリを摂ったら良いかが異なります。

葉酸経路は、葉酸を活性化してメチル化経路にメチル基というバトンを渡す役目をしています。非活性型の葉酸が1段階活性化されると10ホルミル葉酸になり、これがDNA合成を促進します。大多数の人は10ホルミル葉酸まで活性化させることができるので、非活性葉酸でも適量摂取すればDNA合成が促されます。

3-3. 妊娠前にはどの葉酸サプリを飲んだらいいのか?

二分脊椎というDNA合成不良により、神経系に異常をきたした赤ちゃんが産まれるケースが多かったことを受けて、厚生労働省が妊婦に対して葉酸サプリメントの摂取を推奨しています。

結論から言うと、妊娠前の方は普通の非活性葉酸で十分です。葉酸の量自体を増やすことが重要で、非活性葉酸でも十分効果を発揮します。特に積極的に摂取したいのは、オーバーメチレーション型のうつ症状がある方です。ナイアシンと葉酸サプリメントの摂取で、ドーパミンの過剰な生成を抑えてくれるからです。この場合も非活性葉酸を使います。

3-4. 特に注意すべき人とは?

問題は、10ホルミル葉酸からメチル葉酸になる代謝で、ここにはMTHFRが関わっています。MTHFR遺伝子に変異があると機能が半減し、メチル葉酸が低減します。メチル葉酸はドーパミンと解毒に関わっており、言語障害や解毒力低下を引き起こします。また、メチル葉酸はメチル化回路と繋がっており、ビタミンB12と反応して非活性型葉酸になってまた戻ってきますが、MTHFRにSNPがあるとこの循環がうまくいかなくなります。その場合は、活性型のメチル化葉酸をサプリメントで摂取して、この反応をバイパスしてあげる必要があります。

MTHFRの遺伝子検査は、唾液採取で簡単に検査ができるので、リスクがある女性は妊娠前に一度検査をしておくと良いでしょう。その結果を受けて、リスクがありそうだったら、フォリン酸またはメチル葉酸を摂取します。副作用がなく安全性が高いのはフォリン酸ですが、リスクが大きい場合はメチル葉酸を選びます。メチル葉酸は活性型葉酸なので、多少リスクがあります。葉酸はグルタミン酸を内部構造に含んでいるため、メチル葉酸を飲んでイライラが強くなったという事例は少なくありません。そうしたリスクを避けるのであれば、フォリン酸を選ぶと良いでしょう。

自閉症の家系

一卵性双生児において、片方が自閉症を発症した場合、もう片方が発症する確率は60~90%というデータがあり、遺伝の影響はかなり大きいと言えます。家系で自閉症の方がいる場合はMTHFRの遺伝子検査をした方が良いでしょう。

Mol Psychiatry. 2007 Jan;12(1):2-22.
The genetics of autistic disorders and its clinical relevance: a review of the literature
https://www.nature.com/articles/4001896

低メチレーション同士の夫婦

また、自閉症児の親には優秀な人が多いこともわかっています。高い業績を上げている、強迫神経症である、細部までわたる注意力を備えている、こだわりが強いなど、低メチレーション傾向の夫婦(例えば医師同士の夫婦)からは自閉症の子供が産まれる確率が上がると言われています。その場合、食事や解毒や酸化ストレス、炎症などに気をつけながら、必要に応じて葉酸サプリメントを補います。

薬物の影響

また、妊娠から20~24日目にサリドマイドを服用していた場合にのみ、子供に自閉症状が出たという報告もあります。子宮内ブックマークの書き換えが妊娠 1ヶ月目に起こるので、妊娠する前から対策をしていないと間に合わないということです。

Dev Med Child Neurol. 1994 Apr;36(4):351-6.
Autism in thalidomide embryopathy: a population study
https://onlinelibrary.wiley.com/doi/10.1111/j.1469-8749.1994.tb11856.x

出生後の酸化ストレス

妊娠前に限らず、生後のケアも重要です。なぜなら、自閉症は退行型発症が80%、つまり、生まれた時(生後16~24ヶ月)は正常で、その後突然発症するケースが大多数だからです。

Neuropsychol Rev. 2008 Dec;18(4):305-19. 
Regression in autistic spectrum disorders
https://link.springer.com/article/10.1007%2Fs11065-008-9073-y

自閉症児は、グルタチオン、セレン、システイン、マグネシウム、亜鉛、ビタミンAが不足しており、水銀、鉛、銅が過剰で、酸化ストレスを生みやすい状態にあることがわかっています。

Presented at the APA Annual Meeting, May, 2001
Disordered metal metabolism in a large autism population
http://www.walshinstitute.org/uploads/1/7/9/9/17997321/disordered_metal_metabolism_in_a_large_autism_population.pdf

自閉症は、酸化ストレスに酸化防御能力が耐えられなくなると、脳が不可逆的な炎症を起こして発症します。したがって、十分な抗酸化対策、カゼインフリー、グルテンフリーを含めた腸内環境ケアをしっかり行えば確実に予防できるのです。

4. 血液データから推測する

4-1. 指標となる血液データ

初めてメチレーションを学ぶ方は、血液データを見てメチレーションの状態を推測することから始めましょう。

指標となる項目
☑️ MCV
☑️ AST(GOT)、ALT(GPT)
☑️ 尿酸
☑️ 炎症(フェリチン、CRP、血小板)
☑️ 好塩基球
☑️ ミトコンドリア

4-2. MCVからビタミンB12不足を推測する

メチル化経路で働くMTRは、補酵素にビタミンB12を使うため、MCVが高い人はメチレーションがうまく回っていない可能性があります。効果があった自閉症治療の第3位にビタミンB12注射がありましたが、これはMTRの反応をターゲットにした治療です。MCVの値は、細胞内のビタミンB12、葉酸濃度を反映するので良い指標となります。ビタミンB12が細胞内で働く際にリチウムを必要とするので、リチウム不足を把握するために、毛髪ミネラル検査を受けておくのも良いでしょう。

4-3. ビタミンB6の様々な働き

次に、ビタミンB6が不足するとメチレーションにどのような影響があるか見ていきましょう。ビタミンB6は体内の様々な場所で働いてるので、影響が出やすい栄養素ですが、代表的なものでは次の3つが挙げられます。

  • COMT↓:ドーパミン、エストロゲン代謝の低下
  • CBS↓:ホモシステイン蓄積、解毒力低下
  • GAD↓:不安感、会話ができない(言葉とノイズが区別できない)

ビタミンB6は、ドーパミンの代謝に働くCOMT(カテコールO-メチル基転移酵素)を活性化します。他にもリチウムや抑肝散で活性化されるので、イライラが治らない場合は、これらを摂ると改善します。逆に、SAH(Sアデノシルホモシステイン)、コーヒー、ケルセチンはCOMTの働きを弱めるため、特に低メチレーション傾向の人は注意が必要です。

ホモシステインを硫酸経路に流す酵素である、CBS(シスタチオニンβ合成酵素)もビタミンB6で活性化されます。CBSに遺伝子変異があると、活性化しすぎたり、逆にホモシステインが蓄積して解毒力が弱まったりします。後者の場合は、ビタミンB6をサプリメントで補うと良いでしょう。

ビタミンB6は、グルタミン酸をGABAに転換するGAD(グルタミン脱水素酵素)の補酵素でもあります。不安感が常に付きまとっている人は、ビタミンB6を摂取するとGABAへの変換が促されます。また、私自身がそうなのですが、会話とノイズの区別が苦手な体質なので、ノイズキャンセラーヘッドホンが手放せません。そういった人は、ビタミンB6を摂ることで、ヘッドホンを付けた時と同じような効果を得ることができます。

4-4. ASTとALTからビタミンB6不足を推測する

ビタミンB6不足の確認は、AST(GOT)とALT(GPT)の差が指標になります。ALTはグルコース-アラニン回路で働く酵素です。エネルギー源としてブドウ糖と乳酸が両方不足した時に、筋肉のアミノ酸が分解され糖新生によりグルコースが生成します。筋肉にはグルコースを生成するグルコース-6-ホスファターゼが存在しないため、ALTの働きでピルビン酸がアラニンになり、このアラニンが肝臓に運ばれて糖新生が行われます。

引用:ポケットアトラス栄養学

ASTとALTはともにビタミンB6を補酵素としますが、ALTの方がよりビタミンB6の影響を受けやすいため、ビタミンB6不足の場合、AST>ALTとなります。

4-5. 尿素窒素とビタミンB6

尿素窒素値からもビタミンB6不足を推測できます。アラニンからピルビン酸に戻る反応で尿素が生成されるため、尿素窒素値が低い人もビタミンB6が不足していると考えられます。

4-6. COMTの働きを促進するもの

COMTの働きを良くする栄養素は、SAMe、リチウム、B6、抑肝散です。逆にCOMTの働きを止めるのは、ケルセチン、カテキン、コーヒー、チョコレート、SAHです。

このように、ドーパミン、GABA、セロトニンの生成、COMTの活性化など、神経伝達物質の様々な反応に、ビタミンB6が関与していることがわかります。しかし、ビタミンB6はたくさん飲めば良いというものではありません。摂り過ぎると、トリプトファンからキノリン酸への過剰転換が起きて、キノリン酸が神経毒として働いてしまいます。ビタミンB6の効きが悪い人は、活性型のビタミンB6(P-5-P;ピリドキサール-5-リン酸)を使うと良いでしょう。海外製のサプリメントには、ビタミンB6とP-5-Pが適量ずつ入っているものもあります。ビタミンB6:P5P=2:1くらいがベストです。

4-7. ホモシステイン値を下げる方法

メチル化回路の中心にあるのがホモシステインです。ホモシステイン値は血液検査でわかるので、ぜひ一度測ってみてください。ホモシステインは酸化ストレスの素になるので、値が高い人は下げる必要があります。ホモシステインを下げる方法は3通りあります。

MTRを活性化する

正攻法は、MTRを介してDNA合成に向かう経路を回す方法で、ビタミンB12、葉酸、亜鉛を使います。ただし、MTRは炎症と重金属、カンジダにとても弱いという性質があります。お子さんの場合はビタミンB12の吸収も悪いので、注射を打つこともあります。

BHMTを活性化する

正攻法でうまくいかない場合は、亜鉛とトリメチルグリシンというベタインを使い、BHMTの酵素を活性化させてメチオニンに行く経路を流してあげます。これを近道の経路と呼びます。近道ばかり回していると、神経伝達物質やDNAの合成が滞りますが、とりあえずホモシステインを下げてメチル基を作ることを優先させます。これは、エイミー・ヤスコプロトコルの方法です。ある程度SAMeをたくさん供給できる状態にもっていったところで近道を止めると、MTRの経路が回り出して言語障害などが改善します。

ポイントは、近道の経路がコルチゾールで活性化するということです。つまり、ストレスはメチレーションに影響するということです。BHMT酵素はストレスがあると活性化し、SAMeがたくさん生成されるので、高ストレス状態の時には高メチル化状態になります。副腎疲労の疲弊期になるとコルチゾールが枯渇しているので、低メチレーションのように見えます。でもだんだん治ってくると、実は高メチレーションだったということはよくあることです。好中球分画や唾液中コルチゾール値を見て、ストレス状態を把握すると、メチレーションの状態が推測できます。

CBSを活性化する

3つ目の方法は、ビタミンB6などを使ってCBSを回すことです。CBSの働きが弱まっていると、ホモシステインが高くなり、若年性心筋梗塞などのリスクが高まります。逆に、ホモシステインが低すぎる場合は、解毒やDNA合成などに使う材料が足りないことを意味するので、その場合は動物性タンパク質をしっかり摂ってメチオニンを補給しましょう。

4-8. 炎症とメチレーション

メチレーションに影響するのは、ビタミンB12、B6、ストレス、そして炎症です。炎症はメチレーションにものすごく影響するので、フェリチンやCRP、血小板といった炎症マーカーが上がっていれば、まずは炎症の部位を突き止めて対処する必要があります。

メチレーションの反応で炎症に 1番弱い部分がMTRです。炎症の他に、カンジダ、水銀、活性酸素でもこの経路は阻害されてしまいます。炎症性サイトカインであるTNFαや、カンジダにより分泌されたアセトアルデヒドがMTRの働きを止めます。メチレーションを改善するためには、MTRの働きを阻害する要因をまず最初に除く必要があります。

2番目に弱いのは、メチレーションと他の代謝経路が交わっている部分です。トリプトファンは、セロトニン経路とキヌレニン経路の二手に別れます。セロトニンには10%、残りの90%はキヌリン酸にいきます。炎症があるとセロトニン経路が止まり、キヌリン酸経路に流れるため、セロトニン不足が起こります。また、炎症があると、キヌレニン経路が活性化して免疫を上げるナイアシンをたくさん作るようになります。しかし、炎症が強すぎると、ナイアシンの手前で代謝が止まってキノリン酸が溜まり、神経毒として働いてしまいます。

ナイアシンはBH4を作る経路で働きます。BH4はセロトニンやドーパミンの生合成に必要な物質で、ナイアシンから作られる経路と、BH2のリサイクルで作られる経路があります。両方の経路が活性化されないと、セロトニンとドーパミンのバランスがうまく取れません。炎症を起こすと、セロトニン経路からもBH4からもセロトニンが作られず、相対的にドーパミンが過剰になって、イライラが強まります。BH2からのリサイクル経路は、特にアルミやアンモニアで阻害されると言われています。

4-9. 神経伝達物質の産生

メチレーションの一番左に位置するのが神経経路です。BH4は、チロシン、Lドーパ、5HTPといった様々な神経伝達物質の産生に関わっている補酵素です。

BH4の阻害要因は、アルミニウムとアンモニアです。また、MTHFR1298の遺伝子変異によっても阻害されます。

4-10. 尿酸不足は低メチレーション

メチル化回路で働くAHCYという酵素があります。メチオニン→SAMe→SAH(S-アデノシル-L-ホモシステイン)→ホモシステインという一連の代謝において、SAHからホモシステインに変換されるところで働きます。AHCYによってホモシステインとアデノシンが生成し、アデノシンは、イノシン→ヒポキサンチン→尿酸と代謝されていきます。

このことから、尿酸値はメチル化回路の状態を見る指標の 1つになります。尿酸が低ければ、AHCYの働きが悪くSAHが上がり、低メチレーション状態になっていると推測できます。 ご存知の通り、尿酸は体内で作られる1番の抗酸化物質なので、尿酸が低い人は抗酸化対策が必要です。抗酸化対策として最初にアドバイスするのは、ヒポキサンチンの補酵素であるモリブデンを摂取することですが、根本的には炎症を治してメチレーション回路を回してあげることが重要です。

 SAHが上がると、COMTの働きが弱まるため、ドーパミン、アドレナリン、エストロゲンの分解ができなくなります。エストロゲンとドーパミンの分解には、同じ酵素が使われるため、生理周期後半にイライラしやすいのは、エストロゲンが過多になってドーパミンの分解が追いつかなくなるためです。人によってはビタミンB6を摂取しCOMTの働きを補完してあげると、生理周期に伴うイライラを和らげることができます。

4-11. ミトコンドリア機能とメチレーション

メチオニンをSAMeに変換するMATという酵素は、補酵素としてマグネシウムをたくさん必要とします。エネルギーも多く使うので、ミトコンドリア機能障害がある場合もメチレーションが低下してしまいます。また、硫酸経路にもエネルギーを多く要します。人間は、エネルギーの3割を解毒に使っているので、ミトコンドリア機能の低下により硫酸経路が止まってしまい、解毒ができなくなってしまいます。血液データから、ミトコンドリア機能低下が疑われる人は、そこへのアプローチも必要です。

4-12. まとめ

ASTとALTが低ければ、COMTとCBSの低下を疑います。尿酸値が低ければ、低メチレーションでCOMTにも影響しているかもしれません。クレアチニンが低ければ一般的には低メチレーションですが、例外的に高メチレーションの場合もあります。ミトコンドリアが低下している時は、低メチレーション、SAMe不足になります。炎症があれば、まず炎症を抑えることから始めましょう。

  • GOT, GPT↓:COMT↓(イライラ)、CBS↓(解毒できない、HCT↑)
  • 尿酸↓:低メチレーション、COMT↓
  • クレアチニン↓:低メチレーションor高メチレーション
  • ミトコンドリア↓:低メチレーション、SAMe不足
  • 炎症:MTR↓、CTX↓(解毒できない)
  • ストレス:BHMT↑(言語の問題など)
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