分子栄養学は、ノーベル賞を2回受賞したライナス・ポーリング博士が1970年ごろに提唱した方法論で、端的に言うと沢山の栄養を摂ることによって病気を治そうという学問です。分子栄養学は50年後の今も、様々な面で進化を伴いながら、栄養療法のドクターを中心に広まりを見せています。
1. 分子栄養学の3原則
まずは、分子栄養学の3つの原則を紹介しましょう。
こちらの本は分子栄養学学会の事務総長であるアンドリュー・ソウル博士が、どのようにして栄養療法でコロナウイルスに対抗するか書いた本で、ビタミンCを点滴で1回につき30,000mgを1日3回打てば良いということが書かれています。この本の中で紹介されている分子栄養学の3原則は次の通りです。
その一つは根本原因を見つけることです。体調が悪いと体内の栄養をすり減らすので、そこをサプリで補うのが栄養療法です。そこで重要なのが栄養が減る原因を見つけること。栄養が減っていく根本原因を見つけないと、サプリを止めることができません。だから、この根本原因を見つけることが3原則のうちの1番目です。
そして2つ目が生化学要素を考慮するということです。何が足りないとか、こっちが邪魔してるとか、そういったことは自分の症状でもある程度分かりますが、検査をして生化学的なデータを見て確かめましょうというのが2番目です。
そしてそれによって適切な量の栄養素を摂るのが3番目です。適切な量というのは栄養素の性質や状況によって異なります。まずは基本的な栄養の性質を抑えてください。するとどのくらいの量を使ったらいいのか、自ずと見えてきます。
1-1 サプリは効率化の道具
最初に説明するのは「適切な量の栄養を摂る」という原則です。栄養素は欠乏症をいやすだけのものではありません。ビタミン類はそもそも、欠乏症を治すための薬として開発され、使われてきました。今でも偏った栄養の教科書には、欠乏症を治すためにごく微量あればじゅうぶん、と書かれているものもあります。
しかし、量を増やすことによって、様々な医学効果が期待できるというのが最近になってわかってきました。ドーズレスポンスをうまく使うと、栄養で思わぬ効果が期待できます。食事中のビタミンCの量では達成できないこの効果こそ、サプリが存在すべき重要な意義です。だから、サプリのラベルを見るときには入っている量にも注目してください。
1-2 栄養の局在について
分子栄養学の3原則には入っていないんですが、僕がとっても重要だと思っている原則があります。それは「栄養素の局在」です。栄養は体内で一定の場所に偏って存在します。例えばビタミンCが体内で一番多い場所はリンパ球です。ビタミンCはリンパ球の働きを高めて、風邪を予防してくれます。ある栄養が疾患に有効かどうかは、その疾患の存在する部位にその栄養が元々どのくらい存在するかによって決まるんです。これとっても大事な法則です。
2 細胞と栄養の関係を知る
分子栄養学では、一人当たり37兆個持っている体の細胞をターゲットに栄養を考えます。だから分子栄養学をマスターするなら、最低限の細胞の仕組みを知っておく必要があります。細胞を作っている細胞膜や細胞の核、そしてエネルギー工場であるミトコンドリアがどのような栄養で動いているかを知ることが、分子栄養学マスターの一つ目のキーポイントです。「細胞膜を柔らかくするにはこの栄養」、「ミトコンドリアを動かすにはこの栄養」、みたいな感じではじめてください。
2-1 ミトコンドリアへのサプリケア
細胞も体のエネルギーの90%はミトコンドリアで作られます。疲れやすいということは、細胞レベルで言えば、ミトコンドリアの働きが悪くなっている事を考えます。食事が乱れていると、ミトコンドリアに必要な栄養は簡単に枯渇してしまいますので、食事を整えながらサプリを使うのが正しい栄養療法です。
2-2 細胞膜の3つの働き
カール・ルイス選手をご存知ですか? 1979年から1996年のオリンピック終了までに、17個の金メダルを獲得した陸上競技選手です。彼がすごいのは、基礎身体能力が鍵となる走り幅跳びという競技でオリンピック4連覇を達成したということです。23歳で出場した1984年のロス・オリンピックから35歳になった1996年のアトランタオリンピックまで世界一でした。彼の長期間にわたる高パフォーマンスの秘密は細胞膜にあります。
彼はキャリアの後半からプライベート・シェフを雇い、ビーガン(ベジタリアン)になりました。体を軽くしてパフォーマンスを上げるためですが、同時に肉に含まれるアラキドン酸を摂らないことが、細胞膜の流動性を上げました。これが神経伝達のスピードを高めるんです。この手法、現在では選手寿命を伸ばす手段としてプロスポーツ界で常識になっています。
2-3 栄養素がDNAに及ぼす影響
DNAは一生変わらなくても、DNAがタンパク質を作るかどうかは栄養状態で全く変わります。糖質、脂質、タンパク質がエネルギー化するときに、アセチルCOAに変換されますが、これがDNAに働くとタンパクの合成が亢進します。メチオニンなどのタンパク質が多くなると、メチル基が作られ、これはDNAでのタンパク合成を抑制します。この様に人の細胞では栄養状態がタンパク質を作るかどうかを決めています。
2-4 小胞体ストレスをなくす
小胞体はタンパクの製造工場であり、倉庫でもあります。DNAの設計図通りにアミノ酸を紡ぐ場所は核内ではなく、小胞体です。この小胞体はミトコンドリアとのつながりが強く、お互いに影響しあいます。つまり、ミトコンドリア機能が落ちれば小胞体でのタンパク合成も低下するということです。また、出来損ないのタンパクがたくさんできて、小胞体からタンパク質を出荷できなくなり、不良在庫が貯まることを小胞体ストレスといいますが、これがミトコンドリア機能低下を引き起こす大きな要因となっています。
3 栄養素の性質を知って使い分ける
ここの栄養素の働きと使い方について学びます。水溶性ビタミンは量を多めに使うことで特別な効果を得ましょう。脂溶性ビタミンはホルモンの様な性質を持っているので少量でも効果的です。食後にいい油と一緒に摂りましょう。ミネラルはお互いに反発し合うし、吸収利用率は悪いし扱いづらい栄養です。そこを理解して生体利用性をいかに上げるかがポイントとなります。
3-1 ビタミンC
ビタミンCはサプリメントのような濃縮形態で摂ることで特殊な効果を得ることができる栄養素であり、副腎や水晶体など体内に偏って存在する栄養素であり、ストレスを受けることで非常に失われる栄養素でもあります。ビタミンCを知れば知るほどあなたも分子栄養学の世界に引き込まれていくこと必至です。
3-2 ナイアシン
ナイアシンには、2つのタイプ(ニコチン酸とニコチンアミド)があり、共酵素型のNADとNADPを生成します。これらはエネルギー産生に必要な補酵素であり、多くのミトコンドリアサプリに含まれています。また遺伝子発現、細胞周期の進行、DNA修復、細胞死などの生物学的機能を調節する酵素の基質でもあり、メチレーションを調整して統合失調症を調整したり、近年はアンチエイジング目的で使用されたりする場面が増えました。ここでは高用量を使った場合のメチレーション効果について押さえておきましょう。
3-3 ビタミンAの使い方と推奨量
40歳を過ぎて初めてサプリメントの効果を実感しました。最初に良いと感じたのはビタミンAの保湿効果です。冬になると毎年足が痒く、無意識に掻いていたのがビタミンAを1日6万IU摂るようにしたらピタッと止まりました。患者さんはドライアイ防止効果を実感する方が多いようです。ビタミンAは強力な効果を持つステロイドホルモンと体内動態はほぼ同じで強力です。しかし、その反面、効果的な量と中毒量の差が少ないため、気をつけて使うべきビタミンではあります。
3-4 ミネラルのバランスを整え生体利用性を上げる方法
ビタミンは有機物です。化学的には有機物は炭素を含む化合物ですが、ここでは「体内で作り出せる」という意味です。実際、ビタミンBやKは腸内環境で、ビタミンDは日光を浴びることでコレステロールから作られます。それに対してミネラルは無機物です。つまり元素そのものですから、体内で作り出すことはできません。水溶性ビタミンは吸収がよく、量を増やせば濃度に応じて腸から吸収されますが、ミネラルはそうはいきません。吸収して体内で使いこなすのは、ビタミンよりミネラルの方が難しいので工夫が必要です。
3-5 鉄の上手い使い方
鉄は体に必須のミネラルですが、多すぎる鉄は体にサビをもたらします。つまり、鉄は人によって必要、不要の差が激しく分かれるミネラルなんです。また、人によっては鉄を体内に吸収させるのも一苦労です。体に炎症があるとき、乳製品を取りすぎているとき鉄の吸収は大きく損なわれます。そんなわけで、僕は初めての患者さんにデータを見ないまま鉄サプリを処方することはありません。ここでは鉄の上手い摂り方、使い方を考えます。
4 食事を極める
次に目指すのはフードマスターです。ビタミンやミネラルは三大栄養素の調整を行っていますが、食事の量や質が悪ければ、効果は期待できません。血糖値が乱高下しない食べ方や、脳のパフォーマンスを最大限にあげるための脂質の種類の選び方と調理方法、腸の炎症をとり疲れ知らずになる食事メニューなど、誰もが目指すべき食事内容について学んでください。目標は自宅で調理する場合でも、外食でメニューを見る時にも自分に最適な食事を選べるようになることです。