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臨床分子栄養医学研究会

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現在の場所:ホーム / アーカイブ宮澤賢史

宮澤賢史

実践講座で習った事をカウンセラーはどのように活用したら良いのでしょうか?

宮澤賢史 · 2020年7月30日 ·

7月末は、多くの方から講座のご質問をいただく時期ですが、その中でも一番多いご質問についてお答えします。




その質問とは、これです。

「カウンセラーは、医師のようにデータを読んで診断したり、治療サプリを処方したりできないとの事ですが、じゃあ何ができるのでしょうか?」


答え

カウンセラーの仕事は、クライアントに解決策を直接提示する事ではありません。

クライアントが自らに向き合い、自分なりの理解に自発的にたどり着き、その結果、自分の問題に対応できるように導いてあげる事です。

で、この導くというのはとても重要な事なんです。なぜなら、栄養療法の成否は、患者さんのモチベーションで決まるからです。




栄養療法、どっちの方が結果が出やすいと思いますか?

A 患者さんを診断して、摂るべきサプリや食事方法を指導する

B 患者さんに自己診断の方法を教えて、自分で摂るサプリや食事を自分で決めてもらう

自分の頭で理解し、腑に落ちた治療法へのモチベーションは、単純にこれ飲んでと言われた場合と比べものになりません。

頭ごなしに「明日からグルテン、カゼイン、カフェイン、アルコール、精製糖質を完全に抜いてください。」と言われてもできる人はほとんどいないでしょう。

その一方で、「グルテンがゾヌリン蛋白を分泌させ、ゾヌリンが腸のタイトジャンクションを開いてしまうため、大量の異物が腸を通り抜けて体内に炎症を引き起こす事」、「自分の症状がそれから起きている可能性がある事」を理解できれば、グルテンを一定期間止めるのはそれほど大変な事ではないでしょう。



はっきり言って、診断治療よりカウンセリングの方が難しいです。

「あなたはB6とCとマグネシウムが足りないので、サプリで補給してください。」というのは簡単。

「足りない栄養と、症状を自覚させ、自らが対処できるように導いてあげる」ていうのは大変。





自分の検査結果を深く理解し、自分の体の声に耳を傾け、様々な食事やサプリを試行錯誤しながら試してみる。

そのようにして分子栄養学を深く理解しないと、カウンセリングはできません。





だからこそ、その場で簡単にできる診断法のような薄っぺらいことは教えていません。

基礎講座で三大栄養素の代謝からきっちり学んで、考え方のフレームワークを作っていただくように、骨太な講義になっているし、ズーム検討会で、他の方の自己分析結果を聞く事で、自らの気づきを促す訓練をしていただいているのです。



自ら「気づき」を得る事が、自分のクライアントにどのように気づきを起こさせるかの重要なヒントになります。

これは栄養療法を行う医師にとっても重要な事で、治療の成果は患者さんの食事や生活習慣のコンプライアンスをいかにあげるかにかかっていますが、それはどのように気づきを与えるかと同じ事を意味しています。

保険診療にどうやって栄養療法を導入すればいいのかわからない

宮澤賢史 · 2020年7月29日 ·

内科の医師の方からご質問いただいたのでお答えします。

Q

「保険診療にどうやって栄養療法を導入すればいいのかわからない。

 普段の診療に使えるのか?

 そもそもエビデンスはあるのか?」


A

「はじめにサプリありき」と考えないことです。

どうやってサプリを処方しようかを考え始めると、失敗します。

体内のメカニズムを把握し、個人差を踏まえて、最適な栄養、ライフスタイルを患者さんに提案することをお勧めします。



例えば、高血圧症。

高血圧の原因の一つは血管平滑筋の収縮による血管抵抗の増大です。血管平滑筋の収縮は、筋細胞内にカルシウムが流入してくることがトリガーとなります。カルシウムは細胞膜のカルシウムイオン・チャンネルを経由して流入しますので、ここのブロックが降圧に有用です。



ここに作用する代表的薬剤がカルシウム・ブロッカー(カルシウム拮抗薬)です。カルシウム・ブロッカーは、正確に言えば、カルシウム・イオンチャンネル・ブロッカーです。

栄養で同様の機序を持つのがマグネシウムです。マグネシウムはカルシウムと体内で拮抗し、細胞内へのカルシウム流入を抑えます。最近のメタアナライシスでもマグネシウムによる降圧効果が報告されています。



例えば糖尿病。

インスリン分泌機能低下が大きな原因の一つです。

膵β細胞において、インスリン分泌は、細胞外から内へカルシウムが流入することが引き金になって起こります。とすると、インスリン分泌を増やすためにはカルシウムサプリを摂れば良いように思えますが、それは逆効果です。

通常は細胞外と細胞内のカルシウム濃度は1万:1で、極端に細胞外濃度が高くなっています。だから微量のカルシウムが細胞内に入ることがシグナルとして認識されるのです。

インスリンの分泌の反応性を高めるためには、この濃度さを保つことが重要で、そのためには細胞外のカルシウムを増やすのではなく、細胞内のカルシウムを減らすことです。

マグネシウムは、細胞内外のカルシウムの濃度さを一定に保ち、インスリン分泌の恒常性を保ってくれます。

(マグネシウム摂取量とDM発症率は逆相関する)

というわけで、マグネシウムは高血圧や糖尿病の発症抑制に非常に有用ですが、問題は吸収の悪さです。酸化マグネシウムのように下剤として使用されていることから分かる通り、マグネシウムは吸収があまり良くなりミネラルです。名著「奇跡のマグネシウム」によると、マグネシウム阻害要因として一番大きいのは腸内環境の悪化です。

一番簡単な解決策は、一緒に食物繊維を摂ることです。食物繊維が乳酸発酵してできる短鎖脂肪酸は、腸間膜上皮でのイオン交換を促進します。

安心してください。栄養療法に関するエビデンスはだいぶ出揃ってきています。

メカニズムとエビデンスをバランスよく踏まえて「高血圧、糖尿病にマグネシウムが有用で、食物繊維と一緒に取ると効果が高い」という事を教えてあげれば良いのです。

治療へのモチベーションは情報から成り立っています。情報を得た患者さんは、こちらが勧めなくとも勝手に色々と調ベ始めます。

ついには、上記の情報を教えてくれた、自分の事をよく考えてくれてしかも栄養に詳しいドクターであるあなたに「マグネシウムのいいサプリメントないですか?」と聞いてきますから。

実際には、食事内容のアドバイスから始めます。マグネシウムを含むごま、桜海老、海藻などが摂れているか。ミネラル吸収を阻害するフィチン酸を含む玄米などの食べ過ぎがないか、ゴボウ、舞茸、もずくなど水溶性食物繊維がきちんと摂れているか。

その上で、さらに効果を得るためには、サプリメントで量を摂った方がいいかもしれないと伝えてあげれば良いと思います。必ずしも自費診療を導入する必要はないですし、こういった患者教育ができるスキルは勤務医の方にも今後欠かせないものになるでしょう。

そうです。

栄養療法は、病態の根本にアプローチできて、患者さんの利益に貢献できる、素晴らしい治療方法論です。

医師が導入しないなんて、もったいないですよ。

一つだけネックがあるとすれば、それは生理学と生化学という学問のハードルです。

栄養療法はメカニズムを知らないと、治療の組み立てがうまくいきません。

栄養素の代謝とか、マグネシウムの吸収の機序とか、細胞の働きと仕組みとか。

これを知らないと応用が効かないため、「高血圧にはマグネシウム」という1:1対応の単純な思考回路が出来上がり、あなたのクリニックがサプリの販売代理店と化してしまう恐れがあります。

大丈夫です。

臨床に長けている先生方でも、基礎医学は苦手な事は僕もよくわかっています。

実践講座は、その基礎をいかにわかりやすく、ステップバイステップでお教えするかに重点をおいています。

大学2年の時に、生理学、生化学、ドイツ語の単位を全て取れずに、留年しかかった僕でも分かるような内容になっています。

サプリの売り上げが上がらないドクターのための「サプリ処方に欠かせない3つのポイント」

宮澤賢史 · 2020年6月29日 ·

非常事態宣言下、どうお過ごしですか?
僕は毎日結構忙しく過ごさせてもらっています。


宮澤医院はコロナの診療に直接関わっていません。今日も待合室は閑散としており、今まで不急の患者さんがいかに多かったかを物語っています。

しかし、それでも、今日は一日中診察室を離れる暇がありませんでした。コロナ下で急激に増えた栄養療法の遠隔診療の患者さんに追われていたからです。
​
​


栄養療法は遠隔診療との相性が抜群に良いです。尿検査や毛髪検査など、郵送で済む検査もたくさんあるし。

初診の時に来院して頂き、きっちりと診察すればある程度は遠隔で診療を進めることができます。

​
このような状況ですから、おそらく栄養療法は今後クリニックへの導入が増え続けるでしょう。
​
​

​
栄養療法クリニックの先生方にご質問です。

​
・栄養外来は繁盛していますか?
・サプリや検査は売れていますか?

​
クリニックという中小企業の運営の立場から考えると、栄養外来の売り上げが伸びないのは切実な問題ですよね。

​


検査やサプリが売れないということは、患者さんがサプリや検査の重要性を理解していないということです。

​

売り上げは、患者の教育度に比例します。患者教育というのはつまり「なぜこのサプリメントが必要なのか」を患者さんに理解してもらうことです。

​
血液検査結果から必要なサプリの解析を外注した結果の用紙を読み上げるだけでは絶対にうまくいきません。必要なのはコミュニケーションです。
​
​
検査やサプリを患者さんに勧める時、生活習慣を指導する時に特に必要になるのがコミュケーション能力です。

​

栄養療法をうまくいかせるためには、臨床スキルにもましてコミュニケーションスキルが大切です。
​
​
超重要なんだけど、あまり取り上げられることがないので、ここでお話しします。
​

サプリを処方する際に必要な3つのコミュニケーション。
この3つがサプリの売り上げを左右するので心してみてください。
​
​
​
一つ目。メカニズムを説明しましょう。

​
最初に行うのは、症状のメカニズムを説明することです。例えばこのようなかんじ。
「胸焼けは胃酸が多すぎる時だけに起こるわけではありません。検査ではあなたの胃酸量はむしろ低下していました。胃酸が足りないと胃内で食物の消化不良が起こり、それが胸焼けの原因になることもあります。」
説明はなるべく簡潔が良いです。
​
「だからこの症状が起きていたのか!」
このセリフが患者さんから聞かれたら、ここはクリアです。次に、サプリを摂るとそれがどのように改善されるかのメカニズムを説明しましょう。
​
​
​
2つ目。どのようにサプリを摂るかを説明すること。ここを説明しておかないと、患者さんは後から山ほど質問メールを送ってきます。
多くの人の懸念点は共通していますから、前もってまとめたものを用意しておいてください。特にこれらのポイントを欠かさずに。
​
・食前?食後?食間?
・万が一摂り忘れたら後から摂った方がいいのか?
・副作用はあるか?
・どのくらいの期間摂り続ける必要があるか?
それとも一生続ける?
・体感が良くなるのにどのくらいかかる?
​
後から患者さんが「ナイアシン サプリ 副作用」とググって、そこに書いてあることを見て心配して電話をかけてくるのは最悪です。
その内容を前もって説明することで、信頼関係は逆に強くなります。(←ここポイント)
​
​
​
3つ目。サプリメントの質を選ぶ必要性について説明すること。
栄養療法医は、患者さんが、効果の薄い粗悪なサプリを摂っている事を放置すべきではありません。
​
ネットの書き込みなど、中途半端な情報を持っている人は医療機関専用サプリとドラッグストアのサプリはまったく別物だという認識がない傾向があります。そのような人には特に
​
・サプリの製造環境は法律で規制されていない
・市販のサプリの4割は吸収すらされない
​
ことを説明する義務があります。
​
わざわざ先生のところを尋ねる患者さんは、多少高いサプリメントでお金を失うよりも、効果のないサプリを飲み続け、辛い症状に耐えることを心底避けたいと思っています。
​
​
​
僕のいつもする説明は大体こんな感じです。
「分子栄養学におけるサプリの目的は、根本原因に対処することです。サプリメントは栄養が詰まった効率化の道具です。
食事や生活習慣の改善に加えてサプリを使用する事で、改善スピードを飛躍的に高めることが可能です。つまり、治療のブースターの役割です。
根本原因が改善すればサプリを減量、中止することができます。それにかかる期間は大体○○ヶ月です。」
よかったら参考にしてください。
​
​
​
最後に
​
サプリを売るのをすごく苦手に感じている先生もいらっしゃるでしょう。
僕もそうでしたからよくわかります。
​
何が邪魔しているのでしょうか?
自身の欠如と拒否への不安ですよね。
僕も昔は6800円のビタミンBを売るのにすごく躊躇いがありました。
でも、今は55000円のサプリを売るのに一切不安に思う気持ちはありません。
​
患者さんが最短期間でよくなるために必要なものしか売ってきていないと自身を持って言えるからです。ビジネスではなく、患者への貢献という意識の下で自分の専門性を磨き、経験をつめばあなたも必ずそうなります。
​
実践講座の講義後のディスカッションにぜひ参加してください。これは講座の第1回からお話ししている事ですが、3ヶ月間ディスカッションに参加し続ける事で、3年分の臨床経験に匹敵する生の話を聞けます。
​
​
3つのコミュニケーションどうでしたか?
サプリのメカニズムや処方の注意などは実践講座を受講頂ければ、程なく理解できるでしょう。
でも、栄養療法を始めたいドクターは、ぜひディスカッションにご参加いただき、栄養療法をすでに実践している人の生の声を聞いてください。
どんなサプリをどのように工夫して摂っているのか、食事はどうしているのか、どのようなネットワークから情報を得ているのか。
僕はこの講座の真髄は人とのコミュニケーションにあると考えています。

カウンセラーができる範囲について、具体的な話

宮澤賢史 · 2020年6月29日 ·

Q

医師・歯科医師以外の診断行為は違法で、他人の検査データをみてアドバイスする事は、予防、治療ともに医療行為ですので、どのように栄養カウンセラーの活動を行っていけばいいか、現時点手探り状態です。分子栄養学実践講座WEB版では栄養カウンセラーとして活動するにあたり、どの程度までカウンセリング行えるかの範囲は受講内容に含まれておりますでしょうか。

A

はい、カリキュラムの中に弁護士による医師法・薬機法のレクチャーもご用意しております。


医師以外の方の活動範囲ですが、
当会所属の認定カウンセラーさんの例を挙げますと、医行為にならない範囲で

・ブログ、YouTube、セミナー等で分子栄養学についての啓蒙活動
・クリニックに所属し医師の指示の下、説明やカウンセリング
・クリニックに所属せず個人でカウンセリング
・本業(トレーナー・整体鍼灸・ファスティング指導)に栄養療法的な概念をプラスする

などの活動をしていらっしゃる方が多いように思います。

診断や処方をしてしまうと医師法違反となりますが
一般的な食事の提案・サプリメントの紹介・生活習慣への言及・考え方の指導などは医師以外でも行うことができます。
※ただし個人的な活動の中で、血液検査、その他検査を見てサプリメントや食事指導をするのは違法となるおそれがあります。


自身の経験を話すことや、自分で飲んでいるサプリメントの紹介を
することは全く問題ありませんし、食事の指導も資格がなくとも行えます。

分子栄養学というと、サプリメントをたくさん飲む。

というイメージがあるようですが
弊会では多すぎるサプリメントは腸を荒らすだけと考えており
まずは食事の改善に重きを置いております。
何を食べるよりかは、何は避ける。食事のタイミング。等です

サプリメントももちろんご紹介しておりますが、

これは体調の改善のスピードアップや
体質的にサプリメントで補給した方がいいと思われるものに

使っておりますので
医師以外の方にも取り組んで頂きやすいかと存じます。

自閉症が増えた本当の原因と葉酸活性化経路の関係

宮澤賢史 · 2020年3月26日 ·

米国では、ここ20年自閉症の発症率の伸びが止まりません。

アメリカ疾病予防管理センターの自閉症監視ネットワークによると、2016年現在、54人の子供に約1人が自閉症スペクトラム障害(ASD)と特定されています。

これは、2000年の調査における150人に1人と比べて3倍の数字です。

監視年有病率それは何人に一人?
20006.7150人にひとり
20048.0125人にひとり
200811.388人にひとり
201214.569人にひとり
201618.554人にひとり
CDCの自閉症と発達障害の監視(ADDM)ネットワークからの推定

1970年には1万人に1人だった自閉症発症率がここまで上昇した原因は一体なんなのでしょう?

  • 認知されたこと?
  • 自閉症の診断基準が変わったこと?
  • 環境が悪化したこと?
  • ワクチン接種?
  • 農薬?

諸説ありますが、私は「妊娠期間中の母体にのみ葉酸サプリメント摂取が奨励されたこと」が大きな要因だと考えています。

葉酸サプリが二分脊椎を激減させた

葉酸はビタミンB群に分類される生理活性物質で、DNAの合成に必要であり、欠乏すると妊娠の継続に深刻な影響を与えます。

例えば「二分脊椎」です。これは生まれつき脊椎の一部が形成されない状態で、運動麻痺、感覚障害、死産などを引き起こします。

葉酸と「二分脊椎」のような神経管閉鎖障害の症例対照研究は1980年代に多く行われ、その結果、英国、米国が1992年に、カナダ、アイルランド、ニュージランド、ノルウェーなどが1993年に強化食品、サプリメントによる1日0.4mgの葉酸摂取を勧告するに至りました。

その後多くの国で二分脊椎の発症率の大幅な低下が報告されましたので、日本の厚労省もその流れに乗り2000年に葉酸サプリメントの摂取を推奨しはじめたのです。

これによると、妊娠を計画している女性は、障害の発症リスクを減らすために、「妊娠1か月以上前から妊娠3か月までの間、葉酸をサプリで摂ること」と勧告されています。

葉酸サプリを開始したら自閉症が増えた?

というわけで、1990年代前半から始まった葉酸サプリメント摂取の推奨は、各国の二分脊椎の発症を減少させました。この成果は素晴らしいものですが、その時各国政府はまだ気が付いていなかったのかもしれません。同時期から、自閉症の発症率が増加し始めることに・・・

実際に、様々な国、年代で行われた自閉症の発症率調査をまとめると、1990年ころから劇的な増加を示しているのがわかります。

なぜ、葉酸サプリ摂取が、「二分脊椎発症率の低下」と「自閉症の発症率の上昇」を同時に起こしたのでしょうか? なぜ、神経の発達に必要な葉酸の摂取で自閉症の発症率があがるのでしょうか?

これを理解するには、葉酸回路を理解する必要があります。ここからが本題です。

二分脊椎を予防できる葉酸はフォリン酸のみ

さて、先ほど「葉酸不足が二分脊椎の原因」と言いましたが、葉酸には種類があり、全ての葉酸が二分脊椎を予防できるわけではありません。

葉酸は大きく作用別に3種類の葉酸に分けられます。

一つ目は、Folic Acid(サプリの葉酸)です。ほとんどのサプリや葉酸強化食品に入っている葉酸です。二つ目は、Folinic acid(フォリン酸)で、DNAを合成し、神経を成長させてくれるため二分脊椎を起こさなくなります。3番目はMTHF(メチル葉酸)です。これが自閉症に密接に関わります。

これらは全て別物です。サプリに入っているのがFolic Acid(サプリの葉酸)、二分脊椎を防止するのがFolinic acid(フォリン酸)、自閉症を防止するのがMTHF(メチル葉酸)です。

なぜフォリン酸でなく、サプリ葉酸のFolic Acidで、二分脊椎が予防できるのかというと、Folic Acidは体内でフォリン酸に変化するからです。 これを活性化と呼びます。サプリの葉酸は→Folinic Acid(フォリン酸)→MTH Folate(メチル葉酸)へと活性化されて変化します。

この経路のことを「葉酸経路」とか「葉酸の活性化経路」とか呼んでいます。

葉酸の活性化経路が滞って、Folinic Acidが作られなければ二分脊椎になるし、MTH Folateができなければ自閉症になります。

「活性化の流れが悪い人でも、サプリの葉酸の摂取量を多くすることで、二分脊椎を予防するフォリン酸の量を確保できる」というのが、サプリで二分脊椎が予防できる仕組みです。

葉酸は大きく3種類に分けられます。
・非活性型のFolic acid (日本で作られるサプリはこれ)
・半分活性型 Folinic acid (神経の発達に重要、お母さんのお腹の中で必須)
・完全活性型methyl folate(ドーパミン合成、解毒に重要、生まれてから必須)

注)実は、葉酸には10種類以上のバリエーションがあります。DNA合成に関わるのはプリン体を生合成する10-ホルミルテトラヒドロ葉酸と、ウラシルをチミンに変換する5,10-メチレンテトラヒドロ葉酸ですが、ここでは話を簡略化するために、これらを全てフォリン酸の仲間としています。

自閉症とメチル葉酸の関係

自閉症の原因は様々な説がありますが、葉酸との関わりは特に深いと言えるでしょう。

フォリン酸がもう一段階活性化される時にメチル化という化学反応が起こります。メチル基という化学物質が結合することでMTH Folate(メチル葉酸)になるのです。

さらにメチル葉酸はメチル基を他の物質に渡す事ができます。こうしてメチル基が様々な物質に次々と受け渡される回路はメチル化経路と呼ばれています。

乳幼児が言葉をしゃべり始めるようになるために、メチル化経路は非常に重要な役割を担っています。この経路が回らなければ、神経伝達物質が作られないので、脳の発達が十分進まず、言語の習得に困難が生じます。

他にも様々な物質がメチル化されることで、
・DNAが合成されたり、
・神経伝達物質をつくったり、
・炎症を抑えたり、
・解毒をおこなったり
することができるようになります。

自閉症の予防、治療には葉酸をうまく働かせ、メチル化経路を回すことが大変重要です。神経発達の栄養療法の権威、ウイリアム・ウォルシュ博士によれば自閉症児の98%にメチレーション回路の低下が見られるそうです。

体内でメチル化経路の出発点になるのが、葉酸のメチル化で、フォリン酸がメチル葉酸に変換される反応です。

変換するのはMTHFRという酵素ですが、自閉症児の多くは、この酵素を作る遺伝子に変異を持っています。つまり、この酵素が上手く働かないというのが、自閉症が増えた第一の理由として考えられます。

自閉症が増えた第一の理由

このMTHFR酵素遺伝子変異の強い人はMethyl folate(3番目)への変換がうまくできません。

遺伝子変異があるとどの位酵素の力が弱まるのでしょうか?

片方だけ変異していると30%、両方変異していると70%酵素活性が低下します。つまり、この場所の遺伝子変異を片方の親から貰えば30%、両親からもらえば70%葉酸を活性化できなくなるということです。

MTHFRの677番目の塩基配列が酵素活性に重要です。ここの塩基はシトシン(C)ですが、これがT(チミン)に変異していると226番目のアミノ酸がアラニンからバリンに変換されるため、熱に不安定となります。

こんな人がたくさんいれば、自閉症児がたくさん生まれちゃいますよね。

でも、あなたは疑問に思うはずです。
メチレーション回路が弱い人がそんなにいるの?

いるんです。
アジア人の45%はMTHFR酵素の片方が遺伝子変異していることがわかっています。

さらに問題は、メチレーション回路が低い人同士が結婚すると、メチレーション回路が弱い子供が生まれやすいということです。

メチレーション回路が弱いことを「低メチレーション」と言います。

低メチレーションの人の特徴は「高学歴」「完璧主義」「強迫的行動」です。つまり、毎日同じことをコツコツ続けることを苦にしない努力型タイプで、高学歴、高収入のことが多いです。医師、経営者に多く、そのような人たちは同タイプの人たちと付き合い、結婚することを選ぶことが多いと言われています。

だからそのような低メチレーションタイプの人同士から生まれる子供は注意をすべきだという人もいます。

確かに近年そういった傾向があるかもしれません。
自閉症児が低メチレーションなのも納得です。

でも仮にそうだとしても、それだけの理由で自閉症の発症率が20年で3倍に増えるでしょうか?他にも理由がありそうです。

メチレーション(メチル化)とは?
さまざまな基質にメチル基(CH3)が置換または結合することを意味する化学用語です。メチル化することで物質が活性化したり不活化したりします。
メチル基を与えるものをメチル基供与体、受け取るものをメチル基受容体といいます。代表的なのは、SAMeとナイアシンです。例えば、SAMeはノルエピネフリンにメチル基を与えることでエピネフリンに変換します。
他にもセロトニンをメラトニンに変換したり、グルタチオン、ホスファチジルコリン、ミエリン、クレアチン、COq10、カルニチンの合成に関わったりします。
メチレーションは様々な病態に関わっています。以下はそのほんの一例。
先天性障害、習慣性流産(DNA合成、DNAメチル化)
脳梗塞(ホモシステイン)
精神疾患、やる気、集中力(神経伝達物質の合成、代謝)
統合失調症、発達障害 、うつ、ADHD、副腎疲労
解毒、抗酸化、アレルギー

サプリの葉酸の問題点

葉酸サプリが乳がんの元になるというお話を聞かれた事がありますか?

葉酸と乳がんの関係については以前から賛否両論があって、葉酸が乳がんに対する防御効果を持つが、一方で高用量の場合は逆に乳がんの成長を促進するという報告もあります。

カナダ・トロント大学のキム博士ら研究グループは、2014年2月に「高用量の葉酸サプリメントの摂取が、ラットの乳腺組織にあるがん細胞の成長を促進する」と発表しました。

キム博士は、「このことは非常に重要な意味あいを持っています。なぜなら、北米の乳がん患者は、葉酸強化食品やサプリメントによって大量の葉酸を摂取することが多いからです。彼女らは、ビタミンをはじめとしたサプリメントを使うことが多く、その割合は乳がん患者がもっとも高いのです。」とコメントしています。

さてここで、ひとつ疑問が生じてきます。

葉酸はDNAの合成に関わるビタミンです。だから、葉酸が欠乏したままでは細胞分裂がうまくいかなくなります。理屈で考えれば、葉酸を補充することは正常な細胞分裂を助け、がんを予防するように思えます。

なのになぜ、葉酸サプリメントががんを増やしてしまうのでしょうか?

理由は、「サプリメントの葉酸の多くは未活性型の葉酸だから」です。

前述のように葉酸には活性型と未活性型があります。緑黄色野菜のサラダには、活性型と未活性型の両方の葉酸が含まれています。それに対してサプリメントの葉酸は、すべて未活性型です。

未活性型の葉酸が活性化されるためには、いくつもの過程が必要です。酵素や補酵素が十分でなかったり、うまく働かない場合、活性型葉酸は十分つくられず、未活性の葉酸が体内にたまってしまいます。

また、活性化葉酸が働くのには、葉酸結合蛋白(FBP)が必要ですが、非活性型の葉酸サプリメントを摂った女性の体内の葉酸結合蛋白は激減することがわかっています。

Am J Clin Nutr. 2009 Jan;89(1):216-20.

つまり、葉酸の活性化がうまくいかない人が、葉酸サプリメントを摂取すると、活性化葉酸の働きも邪魔されてしまう恐れがあるのです。

これが葉酸サプリでがんや自閉症が増える理由です。

まとめと対策

近年自閉症が増えている原因の一つに葉酸が関わっていると考えられます。

・遺伝子変異があるとメチレーション回路を回すのに必要なメチル葉酸ができにくい
・人工の葉酸サプリの大量摂取によってメチル葉酸が上手く働かない

自閉症は、1990年以降、妊婦に対して世界各国が葉酸サプリメント摂取を推奨し始めてから劇的に増加しています。皮肉なことに、「通常なら死産になる子供が葉酸のおかげでちゃんと生まれることができるようになったから」というのが理由の一つです。

神経管異常を起こす遺伝子と、自閉症を起こす遺伝子が一部共通していることが近年の研究でわかっています。妊娠中に葉酸を投与する事で神経管異常のリスクは逃れることができるようになりました。

しかし、残念ながら現時点では各国の対応は出生時の神経異常の防止のみにとどまっており、生まれた後のフォロープログラムはありません。

また、神経系に問題を引き起こすMTHFR遺伝子変異はアジア系に多いという事がわかっています。今後もアジア圏における自閉症の発症頻度に注意する必要があります。

ただ「活性化葉酸サプリ」をとればいいという単純なものではありません。サプリメントをとることでかえって問題が複雑になる場合もあります。

今後出産を予定している方(特に高齢出産や流産の既往のある方、遺伝的に心配のある方)、お子さんが自閉症と診断された方に、私がお勧めするのは、MTHFRをはじめとした遺伝子検査を受けてみることです。

そこで遺伝子変異があるなら、まずは、この分野について勉強してみるのがよいと思いますもちろんこの分野に詳しいドクターに相談してみるのもよいでしょう。

この葉酸活性化の問題ですが、解決手段の一つとして、すでに活性化されている葉酸サプリメントを使うという方法があります。すでに活性化されているのでMTHFRの遺伝子変異があっても、その問題を回避することができます。

しかし、使い方を間違って問題を起こしているかたが多数います。

・サプリメントが効かない、サプリメントで症状が悪化する
・爆発的行動、突然怒り出す
ということを経験された方は特に気を付けてください。

この分野に詳しいドクターの間では、活性型葉酸は全体の回路を整えた後に使うのが常識です。

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