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臨床分子栄養医学研究会

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個人差と根本原因

分子栄養学で使われる検査

宮澤賢史 · 2021年3月15日 ·

血液検査

一般的な病院でも受けていただける検査ですが、ご相談は栄養療法を扱っているクリニックをお勧めいたします。

推奨項目
WBC RBC 血色素量 ヘマトクリット MCV MCH MCHC 血小板 網赤血球 白血球像
Fe TIBC UIBC フェリチン
HDL-C LDL-C TG FFA
GOT GPT γ-GTP ALP TTT T-BIL D-BIL LDH Ch-E
TP 蛋白分画 BUN Cre
Na K Cl Ca P  Mg CPK UA AMY CRP定量
亜鉛 銅 BS HBA1C インスリン
ヘリコバクタピロリ抗体 IgG
ペプシノーゲンⅠ ペプシノーゲンⅡ ペプシノーゲンⅠ/Ⅱ比
TSH,FT3,FT4(甲状腺ホルモン検査)
ホモシステイン、血中ビタミンD(25OH-D)濃度

有機酸検査

尿中の有機酸(代謝の過程で生成される化合物)を調べる検査です。例えば、腸に住んでいる酵母菌の産生物を見ます。この産生物はサイズが小さいため、正常の消化管でもある程度は吸収され、門脈から肝臓、腎臓を経由して、尿細管から排出されます。これによって、尿の検査をすることで消化管で何が起きているかを間接的に見ることができるのです。

また、多くの精神疾患で脳内のドーパミンレベルが高いことが報告されていますが、ドーパミンが代謝されずに残っていないか?なぜ、代謝が妨げられているのか?(原因は、銅やビタミンC不足、そして腸内のクロストリジウム)など、神経伝達物質の代謝を見ることもできます。他に、細胞の代謝(糖質、タンパク質、脂質の代謝)や、ビタミンの過不足などもわかる総合的な検査です。

通常は栄養療法クリニックのみでの取り扱いです。腸内環境からミトコンドリア機能、ビタミン不足、三大栄養素の代謝など幅広い項目をカバーしている検査です。米国のグレートプレーンズ研究所が提供しています。

毛髪ミネラル検査

毛髪中に含まれるミネラルや重金属を測定する検査です。毛髪は便や尿、汗と同じく人間の大事な排泄経路のひとつです。血液中のミネラルはいつもバランスが自動調整されているため、体内蓄積量を正確には反映しません。その一方で、体内のミネラル類は、血流を通じて毛髪に付着しやすい性質を持っており、毛髪は日々の栄養バランスを継続的に記録しながら伸長するため、体内のミネラルバランスの傾向をみるのに最適な検査といえます。

毛髪の根元から1cmごとに1ヶ月分のミネラル状態を表していると言われています。有害重金属、必須ミネラルの排泄量を測定することで、有害重金属の排泄能力、ミネラルバランス、腸内環境に異常があるかどうかがわかります。有害重金属とは、水銀、アルミニウム、カドミウム、ヒ素、鉛、ニッケル、ベリリウムなどがあります。必須ミネラルとは、人間にとって必要不可欠なミネラルのことで、カルシウムや、マグネシウム、亜鉛、銅などのことです。

有害重金属は食事、水、空気、日用品などから体内に取り込まれ、多彩な症状を引き起こし、老化や体調不良、様々な病気の原因になります。通常は栄養療法クリニックのみでの取り扱いです。毛髪中の必須ミネラルや重金属を検出する検査です。ミネラルバランスを把握し安いドクターズ・データ社の検査を推奨しています。

尿中ミネラル負荷検査

体内に重金属が蓄積している場合、薬剤やサプリメント、点滴を使用して重金属を排泄する治療を行います。これをキレーション治療といいます。

その際、多くの金属は便や尿中に排泄されていきます。キレーション治療を始めるにあたっては、薬剤の治療効果を把握しておく必要があります。そのために行うのが尿中ミネラル負荷検査です。実際にキレート剤を内服もしくは点滴後、一定時間蓄尿していただき、尿中に排泄された有害重金属の量を測定します。ある程度以上金属が含まれていれば、治療効果が見込まれると判断します。この検査は、キレーション治療後の効果判定にも使用します。

オリゴスキャン

手のひらに光をあてて、体内に蓄積している有害重金属と必須ミネラルを測定します。毛髪ミネラル検査や尿中ミネラル検査と一番違う点は、これらの検査が体外への排泄量を測定しているのに対して、オリゴスキャンは、体内の蓄積量を直接測定できる点です。

IgG食物アレルギー検査

ある特定の食べ物に対して、アレルギー反応を起こすかどうかの目安になるのが食物アレルギー検査です。食物アレルギーには、即時型(IgE)と遅延型(IgG)の2種類があります。

即時型は、食物摂取後すぐに典型的な症状が出るため、原因となる食物がわかりやすいのが特徴です。遅延型は、食物摂取後、症状が出るまで場合によっては数日以上かかるため、アレルギーの発症を自覚するのが困難になります。

身体的なものから精神的なものまで多彩な症状が出ます。
遅延型のアレルギー反応が出ている場合、必ずしもその食物にアレルギーがあるとは限りません。IgG反応は腸のバリア機能が低下していることを意味しています。

総合便検査

腸内環境を調べる検査です。便を採取して、腸の良性、悪性細菌、カンジタの有無(カンジタに効く抗生剤の種類もわかります)、炎症、消化酵素、免疫、エネルギー状態などを調べます。

食物アレルギー検査は腸のバリア機能を調べる事ができるよい検査です。多くの項目が陽性であればそれは、バリア機能低下(リーキーガット症候群)を意味します。
しかし、陽性となった食物を制限するだけでは根本解決にはなりません。バリア機能低下の原因を調べ、それに見合った対処をすることが重要なのです。
総合便検査はバリア機能低下の根本原因を見つけるのに欠かせない検査です。

ペプチド(カゼイン・グルテン)検査

尿中のペプチド(カソモルフィン・グリアドルフィン)を調べる検査です。この場合のペプチドとは未消化のタンパク質のことで、乳製品由来、小麦由来のタンパク質です。
尿中に未消化のペプチドが検出されるということは、血液中にも未消化のペプチドがあることを意味します。未消化のペプチドはモルヒネ成分と同じ作用があり、これが血液を介して脳に伝わると麻薬や覚せい剤と同じ症状が出ます。音への過敏性、話すことの障害、知覚機能に影響が及んだり、集中力の低下、多動症状の原因になります。

葉酸代謝遺伝子検査

葉酸の代謝に関係する酵素の遺伝子に変異があるかどうか調べます。遺伝子変異があると、酵素の働きが低下するため葉酸が不足しやすくなります。
葉酸が不足すると解毒にも影響します。また、血中ホモシステインが上昇しやすい傾向になり、動脈硬化、高血圧症、認知症などのリスクが高まります。

メチレーション検査

メチレーションとはすべての細胞の中で行われている体の基本反応の一つです。メチレーション回路は、遺伝子の調節や、化学物質や毒素の解毒、神経伝達物質の合成、ホルモンの代謝、エネルギーの合成、DNA・RNAの合成に関わっています。メチレーション検査では、回路の中の物質の過不足を調べます。

エネルギー不足という観点からの甲状腺機能低下症

臨床分子栄養医学研究会imamura · 2020年9月18日 ·

体温をいかにあげるか

免疫の要とは

免疫の要は腸内環境ですが、リンパ球数はそんなに急には変化しません。地道に育てていくしかないので、普段から気をつけている方はこのコロナ禍においても慌てないと思います。

免疫力を高めるために一番手っ取り早いのは、オーソモレキュラー学会が提唱しているようにビタミンA、ビタミンC、ビタミンDを摂ることです。

トーマス・E・レビー先生が、ビタミンCが色々な類の伝染病に効くということをおっしゃっていますが、特にビタミンC点滴はとても効果的なので、良かったら試してみてください。

サプリメントは、栄養が濃縮した効率の道具なので、こんなときのためにうまく利用することをお勧めします。

今日は、もうひとつの免疫の要である体温をいかにあげるかという話をします。

血液検査でホルモン数値を測ってる人は多いと思いますが、エネルギー代謝の良い指標となります。

エネルギー不足で代謝をいかに上げるかというが課題の方も多いと思いますが、甲状腺はその要になると思います。

通常は、甲状腺ホルモンが少ないと脳から刺激を出してホルモンを出すよう促してくれます。ただし低体温であったり、代謝が止まっていたりすると、なかなかうまくいきません。

下記の図は、下層から順番に治療していくと良いとお伝えしている7つの根本原因ピラミッドですが、甲状腺は真ん中より上のほうにあります。

エネルギーを動かすためには、まず炎症を取って、それからデトックスして、ホルモンをうまく調整するという流れになります。

甲状腺の基礎

甲状腺とは首の根元にある臓器で、蝶の形をしています。

太古の時代、人間は海から陸に上がったため、ヨード(ヨウ素)は人間の体にとって必須なのですが、ヨードを溜めておく臓器を作りました。それが甲状腺です。

この甲状腺はヨードを取り込んで、T3やT4などの甲状腺ホルモンを作っています。

このホルモンを作る刺激になるシグナルの発信元は、脳です。甲状腺刺激ホルモン(thyroid stimulating hormone、TSH)を出すのは下垂体で、その下垂体に甲状腺刺激ホルモン放出ホルモン(thyrotropin-releasing hormone, TRH)を送っているのが視床下部です。

つまり会社でいうと部長・課長・平社員のように、上からの命令があって初めて甲状腺ホルモンが出るようになっています。

甲状性ホルモンが少ないと、上に刺激を与えてもっと刺激を出すように、多過ぎた場合は少なくするようにとフィードバックがかかるようになっています。

甲状性ホルモンは、この狭い範囲の中でフィードバックがかかって上手く調整されています。エネルギーの不足にとても敏感なので、数字が動きやすいため血液データでそれを測ることは、有用です。

甲状性ホルモンはミトコンドリアに働きますが、全身に受容体があるため様々な体の機能に影響しています。そのひとつが心拍数で、甲状腺ホルモンが過剰に出る病の方は、心拍が非常に高く動悸がします。

他にも甲状腺機能低下症で顕著なのは、低体温です。筋肉が減って浮腫むため、体重が増えることもあります。

また、生理周期や、神経系にも影響をきたします。

コレステロールは、甲状性機能低下症の良い指標となります。コレステロール値が高い場合、まず最初に甲状性機能低下症を疑います。

ただ副腎疲労の場合はコレステロールが元々低下しているため、そこがマスク(隠されている)されているので見極めるのに注意が必要です。

中性脂肪もコレステロールも低い人は、甲状性機能低下症と副腎疲労と両方がある場合があります。中性脂肪が低いということは、低エネルギー状態ということです。

低エネルギー状態の場合は、甲状腺機能が低下して通常はコレステロールを代謝できなくなり、コレステロールが上がります。

問題は、甲状性機能が低下していても、6割の人はエネルギー不足でも動けてしまうために自覚症状がありません。

甲状腺機能低下症の症状

症状を細かく見ていきましょう。

・脱毛

全身の脱毛が見られますが、特に女性に多いのは眉毛の外側1/3の脱毛です。

・浮腫

甲状腺の腫脹は、特に橋本病に多いです。甲状腺機能の低下は、水銀や副腎疲労と関連すると言われていますが、世間一般的に甲状腺機能低下症といえば、この橋本病のことです。

橋本病とは、甲状腺に対する自己免疫疾患です。自己免疫で甲状腺が攻撃されるため、甲状腺機能が亢進しても低下しても甲状腺が大きく腫れます。甲状腺ホルモンが低下すると、皮膚が乾燥し、心臓は徐脈になります。心筋のビオシンという細胞に甲状腺機能の受容体があるからです。

・消化管の機能の低下による食欲不振や便秘

・生理不順や不妊症

脳にフィードバックがかかるため、高プロラクチン血症となり生理不順や不妊症も引き起こしやすくなります。

・手根管症候群

手足の冷えや浮腫も感じ、さらには手首の部分にある骨と手根靭帯に囲まれた空間(手根管)が狭くなることで指先が痺れ神経が圧迫されるため、母指球筋(親指の付け根の筋肉)が減る手根管症候群になることもあります。指でOKサインを作ることが難しくなったり、左右の手の甲を合わせて押してみて痛みがあれば、この傾向があるといえます。

・体重増加

・記憶力の減退

・寒さに弱い

これらが一般に言われている主な症状ですが、栄養療法的には鬱、疲労、低血糖なども引き起こすということも留意しておいてください。

消化機能も落ちて、サプリも効かなくなります。低血糖と甲状腺機能低下症はセットのようなもので、ミトコンドリア機能の低下と非常に症状が似ていると思います。

甲状腺とミトコンドリアの関係

甲状腺機能の主な機能

生理学の教科書である「ガイトンの生理学」の345ページを日本語訳したのが下記の文章です。英語版は無料でダウンロードできるので、是非読んでみてください。

甲状腺ホルモンを動物に投与すると、ミトコンドリアの数と大きさが増える、それだけでなく活動性が上がるに伴い、ミトコンドリアの膜の表面の面積が増えるとあります。

ミトコンドリアでエネルギーを産生している場所は、ミトコンドリアの膜です。ミトコンドリアの膜の表面積が増えるということは、つまりエネルギーが増えるということです。

甲状腺ホルモンの主な機能の1つは、ミトコンドリアの量と活動性を増やし、エネルギーを作ることと考えられる。

上記の写真は筋肉のイメージですが、ミオシン、アクチンという収縮タンパク質が赤の繊維で規則正しく並べられています。横を走っている青色がミトコンドリアです。そこにエネルギーが供給されて、ミトコンドリアが増えます。

甲状腺ホルモンの受容体は、アクチンにあります。エネルギーの需要が増え、それに伴いミトコンドリアの活動性を増します。

甲状性ホルモンの働き

甲状腺ホルモンはステロイドスーパーファミリーのひとつで、性ホルモンやステロイドホルモンと同様に細胞の膜ではなく、核の中に受容体が存在しています。

甲状腺ホルモンは細胞膜を通過して、細胞の核内受容体に結合します。遺伝子のプロモーター領域に存在する受容体です。

プロモーター領域というのは、遺伝子を発現させるスイッチになる場所です。ここに甲状腺ホルモンが結合すると、遺伝子がタンパク質を作り始めます。メッセンジャーRNA(mRNA)が転写され、それが小胞体に到達し、タンパク質を作り始めます。

成長、発達、代謝などの甲状腺ホルモンの働きというのは、受容体を介した標的遺伝子の発現調節によるものです。ホルモンが核の中に結合し、それを利用したタンパク質(酵素)が作られ、反応が進みます。

遺伝子の変異があると、ホルモンが出ていても受容体の感受性が劣ることになります。甲状腺ホルモンの受容体の異常による病気が、いくつか発見されています。

甲状腺ホルモン受容体

甲状腺ホルモン受容体 (TR) は、全身の細胞に存在します。

α1、α2、β1、β2があり、そのうちα1、α2、β1は全身にあります。β2は、視床下部と下垂体にのみ存在します。α1、α2、β1は、受容体にホルモンが結合したら正の働き(ポジティブ・フィードバック)をしますが、β2の場合は、負の働き(ネガティブ・フィードバック)をします。

正の働きとは、例えば骨芽細胞であれば、アルカリフォスタファーゼ(ALP・リン酸化合物を分解する酵素)やオステオカルシン(OC)を活性化する働きのことです。

骨の形成に甲状腺ホルモンは欠かせません。

ALPという数値は、亜鉛とマグネシウムが補酵素になっているので、血液検査で亜鉛・マグネシウムが低下すれば、ALPは下がると理解されていますが、亜鉛・マグネシウムが豊富でも、甲状腺機能が低下しているとALPは下がります。

亜鉛とマグネシウムが沢山あるのにALPの数値が低い人は、甲状腺機能が低下していると考えられます。ALPというのは、アルカリ環境下でフォスタファーゼ(脱リン酸化)する酵素で、リン酸が結合するかしないかでタンパクの構造が変わり活性化します。

リン酸が結合することをキナーゼといい、脱リン酸化はフォスタファーゼといいますが、リン酸がくっついていると骨化がうまく進まないため、それを脱リン酸化することで骨化が進んでいく酵素です。

成長期の子供は、ALPが1,000くらいあります。それが300に減少すると成長はとまります。甲状腺ホルモンがうまく働いていないと成長が止まり、背が伸びなくなります。

ALPは、骨芽細胞・破骨細胞、心筋細胞のミオシン、肝臓のG6PD酵素(グルタチオン還元酵素)にも働いています。コレステロール代謝酵素にも働いていることは、よく知られています。

甲状腺ホルモン機能低下により、コレステロールが上昇します。甲状腺ホルモンは、脂肪組織で脂肪の分解や、脂肪酸の合成にも作用しています。

その他、脳の軸索の伸長や、樹状突起の形成にも働いているので鬱にも関連してきます。甲状腺ホルモンは、脳の発達においてもとても重要です。

甲状腺機能低下症の諸症状は、このように全身に症状が出ますが、視床下部と下垂体にも甲状腺ホルモンの受容体はあります。その受容体に甲状腺ホルモンが結合すると、視床下部も下垂体も刺激ホルモンの放出を弱めます。

これが甲状腺のネガティブ・フィードバックのしくみです。

T3とT4のうち、特にフィードバックに関わっている血中のT3濃度が上がってくると、甲状腺受容体のβ2のに結合して転写が抑制されて両方とも下がります。ここの受容体がうまく働かない場合は、甲状腺ホルモン不応症という病気を引き起こします。

この甲状腺ホルモンの受容体の遺伝子が完全欠損している人がいて、甲状腺ホルモンがいくら出ても受容体がないのでネガティブフィードバックがかからなくなります。そのため甲状腺ホルモンも刺激ホルモンも、出っ放しになり、甲状腺がすごく腫れてきます。

受容体の感受性がものすごく大事だということがわかります。

甲状腺の自己免疫疾患

甲状腺機能低下症の原因

甲状腺機能低下症の原因を見ていきましょう。

①自己免疫

自分の抗体(リンパ球)が自分の臓器を攻撃してしまうことです。炎症や、異常な免疫の撹乱が原因となり間違って自分を攻撃してしまいますが、甲状腺の場合は抗サイロブログリン抗体というのが有名です。

橋本病のことを別名慢性甲状腺炎といいますが、なぜ炎症を起こすかというと自分の免疫が自分の甲状腺の中のサイロブログリンを攻撃するからです。

サイロブログリンというのは、甲状腺ホルモンの材料です。サイロブログリンのチオシンキにヨードがくっついて甲状腺ホルモンになります。

甲状腺ホルモンの材料が攻撃されてしまいます。このため甲状腺は炎症して、甲状腺ホルモン機能低下症を引き起こします。診断は抗サイロブログリン抗体が上昇していることに加えて、甲状腺機能の低下があることです。

抗サイロブログリン抗体が高くても症状が出ない人は多いです。発症していない人は実際に治療する必要はないので経過観察となります。

橋本病の診断に必ず甲状腺の要因とされるのは、この抗サイロブログリン抗体や、甲状腺のペルオキシダーゼ(甲状腺ホルモンを作る酵素)に対する抗体かのどちらかが上昇します。

甲状腺機能低下=橋本病です。

②水銀

ホルモンの中で一番影響を受けるのが甲状腺です。下垂体のTSH(甲状腺刺激ホルモン)の分泌、甲状腺側の受容体、T4からT3への変換も邪魔します。

③低栄養

低栄養、鉄欠乏もあります。T4からT3の変換にぺルオキシターゼ関わっているため鉄欠乏もNGです。セレンやグルタチオンも関わっていて、これらの栄養の欠乏が変換障害を起こすため、甲状腺機能低下症の原因になります。

④肝機能障害

T4から活性型T3への変換が肝臓で行われるため、肝機能障害も原因となります。T3のほうがT4より圧倒的に強いので、肝機能が悪い人は甲状腺機能低下になります。

肝臓は沈黙の臓器と言われていて、数値にも出ません。エコーで見ても異常がない場合も、肝機能が低下しているために筋脈が滞っている人、背中の張りが強い人はとても多いです。

早期に推測する方法がないかと肝臓専門の菊池先生に伺ったところ、肝臓の硬さでわかるということでした。肋骨のところに手をいれてみて、健康な人は2本指入るそうです。

私自身も2週間アルコールを抜いた時は、肝臓がいつもより柔らかいような気がします。

⑤コルチゾール

根本原因ピラミッドを考える上で大事なのは、コルチゾールの問題です。コルチゾールは、副腎と密接に関わっています。コルチゾールが多すぎても少なすぎても、甲状腺機能低下症を引き起こします。

ヒエラルキーの中で一番下に副腎を置いていますが、脳の下垂体に腫瘍ができてACTH(副腎皮質刺激ホルモン)が大量に放出されて副腎も腫れてくるというクッシング病という病気があります。

脳下垂体の腫瘍が原因のものを「クッシング病」、それとは別に副腎に癌ができて、副腎皮質ホルモンが亢進して生じる場合は「クッシング症候群」といいます。

このクッシング症候群の患者を調べたところ、コルチゾールは高いのですが、T4からT3に変換障害が起きるということが分かっています。

これはクッシング症候群だけでなく、ストレスなどによるコルチゾール過多の場合も同様の状態が見られます。コルチゾール過多は甲状腺T4からT3への変換障害を起こします。

⑥エネルギー不足

副腎疲労が進みエネルギー不足になると、軽症の場合はT3が低下してフィードバックでTSHが上がるパターンがよくみられます。

T4、T3、TSHの中で一番敏感に動くのはTSHです。T3は3あったほうがいいと思いますが、それくらいの落ち方でもTSHは跳ね上がるので、一番敏感に動くのはTSHです。

それに比べて重症の場合はT3は下がりますが、脳から問題がきているため、TSHがフィードバックで上がってきません。これは、「LowT3症候群」「下垂体性甲状腺機能低下症」とよばれています。

甲状腺ホルモンの数値を見たときに、一体どのレベルかと判断することが重要となります。

副腎疲労が強くなると変換障害が起きて、TSHが上がりT3が下がります。TSHが上がらない場合は、HPAと脳下垂体の全体がやられ、全身が消耗している状態です。

この状態になると、甲状腺だけを治しても意味がありません。甲状腺ホルモンがミトコンドリアを増やしてくれるので、ミトコンドリア機能が低下したら甲状腺ホルモンを投与すれば良いと思われるかもしれません。

でもそうはいかないのがこの甲状腺の難しいところです。

甲状腺ホルモンの低下というのは、全身の衰弱状態の結果を表しているからです。人間の体はとてもうまくできていて、そこでフィードバックで甲状腺ホルモンをあげたら全身が衰弱して死んでしまうということを知っているので、全体として代謝を抑えるように甲状腺ホルモンがフィードバックかかるようになっているのです。

よって、治療は全身にアプローチしなければなりません。

甲状腺からホルモンが作られ、T4は甲状腺でほぼ100%作られますが、T3はT4から一旦肝臓で変換されたものが8割を占めています。

甲状腺からもT3は出ていますが、全体の20%で、T4の5倍の活性を持つT3は、肝機能がとても重要だということがわかります。

甲状腺のフィードバックは、T3やT4が視床下部などの下垂体の受容体に結合することによって行われるので、当然活性度が高いT3がフィードバックする力も強くなります。

そのためT3とTSHは、反比例の数値となります。その一方で、T4は、フィードバックの影響が少ないためTSHと比例することが多いです。

甲状腺機能低下症 ~診断方法~

診断

甲状腺機能低下症の歴史は、診断の歴史です。

①見た目、症状から判断

最初の甲状腺機能低下症の症例報告は、1875年に英国のロンドン臨床会で行われました。甲状腺機能低下症を診断するためのTSH、FT3(遊離型T3)やFT4(遊離型T4)が計れなかった時代に甲状腺機能低下症をどのように判断したかというと、見た目からです。

甲状腺ホルモンは昔から存在していました。豚の甲状腺をすりつぶした甲状腺ホルモンを投与してみて、症状が改善した場合、甲状腺機能低下症と判断されていました。

下記は2型甲状腺機能低下症の本にある図ですが、顔全体がむくんでいて、手の先にも浮腫があるのが特徴です。

甲状腺の受容体は、細胞の核の中の遺伝子の発現に関与しているので、遺伝子のスニップがあれば受容体の感度も低下するということが十分ありえます。この当時はホルモンを測っていないので、見た目で判断していました。

上腕の外側が一番ムチンが溜まりやすいので、そこを診断すれば良いそうです。

甲状腺機能が低下すると、ムチンの代謝が悪くなり、皮下にムチンが溜まります。

甲状腺機能低下症のことを、粘液水腫(Myxedema)といいますが、ムチン(Myxe)が溜まって浮腫(edema)を起こすというのが名前の由来です。

上記の図はムチンの構造ですが、枝分かれしていて水分を沢山含めるようになっているため、皮下がパンパンになって上腕の皮膚がつまめなくなるのが、一番わかりやすい甲状腺機能低下症のサインです。

日本ではここまで浮腫んでいる人はあまり見ないですが、アメリカの内陸部や、アルプスの山の中に住んでいる人とか極端にヨード不足の人が多いようです。

②基礎代謝とコレステロール

20世紀になり、判断基準はコレステロールと基礎代謝になりました。基礎代謝を測ることができるようになり、1934年にHurxhalがコレステロールと基礎代謝が逆相関することを報告しました。

コレステロールが高ければ、甲状腺機能低下症の疑いがあるということです。下記の写真は最新の機械ですが、代謝を安定させた状態で測らないといけないため、3日前から絶食をしたり準備が大変みたいです。

下記は1977年の論文で、甲状腺ホルモンの数値がいかに当てにならないかという報告です。

TSHとT4の数値が正常な人たちに甲状腺ホルモンを投与したら、実際に基礎代謝が上がり、コレステロールが下がりました。白い丸が反応がなかった人、黒い丸が反応があった人たちで、多くの人に反応がみられています。

甲状腺ホルモンが正常範囲でも、あまり信用できないということが分かります。

③基礎体温から推測する

1,000人の低代謝で甲状腺機能低下症の症状を持つ人は、感染がない限り全員低体温でした。甲状腺治療で例外なく体温が上昇し、ほとんどの患者で症状改善が見られたそうです。

天然型甲状腺ホルモン剤(ナチュラルサイロイド)を2、30人の人に投与しましたが、体温が目に見えて上がる人は半分もいなかったです。低体温とは36.5度以下の方で、36.8度になったらホルモンの薬をやめるように言っていますが、そこまで体温が上がる人はなかなかいないです。

恐らく甲状腺ホルモンだけを投与してもうまくいかないのだろうと思いますが、確かに反応がある人はだんだん基礎体温が上がっていきます。

④ホルモンの値

下記はハルトゲ(Hertoghe)先生の「ホルモンハンドブック」からの抜粋です。

世界標準だと思って良いと思いますが、この本から抜粋した甲状腺ホルモンのレファレンス(基準値)とオプティマルレンジ(最適値)です。真ん中がPossobly Deficient(恐らく不足)値です。

TSHの最適値は1です。2.5以上は明らかに高いです。日本の場合は5まで基準値があり、TSHが4でも基準範囲内なのであまりにも幅が広すぎると思うんですが、TSHは一番敏感な数値でせめて1から2の間に入ると良いと思います。

FT3は2.5から3.4が最適値とあります。2.5以下だと多分足りないので、できれば3が望ましいです。数字が全てではないですが、2.8とか2.9で症状が出ている人もいます。

ただやはりFT3が2.9でもTSHが3や4の人がいますから、その場合は感度が高いTSHを参考にするのが良いと思います。

T4は、1.3から1.8が最適値と出ていますが、1以上はあったほうが良いです。

原発性甲状腺機能低下症の診断基準

上記が日本の原発性甲状腺機能低下症の診断基準ですが、臨床初見はいいとして、T4とTSHを検査初見で入れてています。それで臨床所見と検査所見を満たして初めて「原発性の甲状腺機能低下症」だということが診断されます。

TT4は、甲状腺から100%出るため、T4とTSHは普通比例するのにもかかわらず、逆転する場合は相当フィードバックがかかっているという判断だと思います。。

T3が下がるとTSHが急上昇するため、過剰な診断が心配で恐らくT4を判断基準にしているのではと思います。

ただこれだと見逃されがちなので、甲状腺はエネルギー代謝も含め、少し過剰な診断ぎみのほうがいいと私は思います。

⑤一番確実な診断方法

一番確実なのは、治療的診断です。甲状腺ホルモンを実際に投与してみて症状に変化があるかどうかを見ます。

1977年にSaundersらが行った試験によると、100人の頭痛、頸部痛、顎関節症の患者(すべてTSH、T4正常範囲)に対して、甲状腺ホルモン投与をしたところ、66人の患者の基礎代謝(BMR)が10〜35%上昇し、半数以上でコレステロール値が25〜200低下しました。

数値の変化があった人のほとんどが、臨床症状も改善したということです。もちろん事前にホルモン値を測る必要はありますが、痛みがある人には甲状腺ホルモンを投与しても良いのではと私は思います。全員痛みが消えるわけではないし、その判断基準が明確ではないのですが、試してみる価値はあると思っています。

下記は、宮澤医院で天然の甲状腺ホルモンを処方している患者に渡している紙です。

天然甲状腺ホルモンのチラージンSという薬は、T4です。T4からT3への変換障害がある人にはあまり効果がないので、天然のT4とT3が混ざった薬を処方しています。

飲ませ方としては最初の4週目までは32,5μg、それを超えたら倍にして、効かなかったら3倍にするんですけども、体温が36.8度以上になったら錠数をあげないでくださいとお伝えしていて、このように毎日基礎体温をつけてもらいます。

体温が上がる人と上がらない人がいて、上がらなくても症状だけ消える人もいます。

症例

実際の症例を見ていきましょう。

症例1

36才女性。夜間不眠、肩こり、朝起きられるとありますが、さらに問診を行ったところ、朝は起きられないということが判明しました。実際は肩こりも強いとのことでした。

典型的な副腎疲労のパターンで、低血糖もありました。上記は一部のみの抜粋ですが、エネルギーの代謝が滞っていることがお分かりいただけると思います。

特に象徴的なのは、中性脂肪が低いことです。

上記は去年の3月くらいのデータですが、TSHが6に上がっています。FT3は3を割っています。T4もT3も基準値の範囲内なのでここだけ見ていると見逃しますが、敏感なマーカーであるTSHから判断して、甲状腺機能の低下が見られます。

コレステロールの代謝が悪くなってLDLは上昇しそうなはずですが、実際は低いので低栄養とコレステロールの代謝の両方が重なっているということが想像できます。

治療法として、グルテン・カゼインフリーをしたこと、ほとんどタンパク質を摂っていなかったので、タンパク質を摂るようにさせました。

現在は副腎ケアをさらに強化しています。9ヶ月でTSHが6から3まで下がりました。FT3はほぼ変わりませんが、TSHを見ると治療効果が歴然です。

中性脂肪は30から36で、目指せ70とありますけども、HDLもLDLも少しずつ上がってきたので、もう少し時間はかかると思いますが、改善が見込めるのではないかと思います。

下記はこの方のリブレの結果ですが、夜間の血糖値がかなり低いことが分かります。

夜間低血糖=低エネルギー状態で、続発性に甲状腺機能が低下しています。低中性脂肪と甲状腺機能低下症の人は、ほぼイコールで結べますが、低エネルギー全体のことだと考えていただけるといいと思います。

中性脂肪が分解された不飽和脂肪酸というのは、エネルギー不足状態の一番鋭敏なマーカーです。そもそも低中性脂肪になる理由は、合成が少ないか、消費が多いかのどちらかです。

中性脂肪の大元のひとつは食事です。食事中の油が少ないことが、低中性脂肪の原因だと言われています。

もう1つ大事なのは、何因性のトリグリセリド(TG)、つまり肝臓で作られる中性脂肪が少ないとやはり低中性脂肪になります。ここにも肝機能の影響があると思います。

上記の図は代謝図ですが、ブドウ糖はミトコンドリアを経由して、中性脂肪を作ることができます。この経路は活性化されていて、糖質を摂ると中性脂肪上がります。高中性脂肪の人の原因は、お酒か甘いものかのどちらかです。

アルコールは特別に中性脂肪の合成を促進しますが、糖質は中性脂肪を沢山作るため、脂肪を摂るより糖質を摂った方が中性脂肪は上がります。ただしこれは肝機能に依存していますから、肝機能が悪い人は中性脂肪が低くなりがちです。

もうひとつは消費が多くて、脂肪が分解されやすい人です。リパーゼという脂肪分解酵素がありますが、その中でもホルモン感受性リパーゼ(HSL)の活性が高い人は、どんどん脂肪が分解されます。このホルモンを亢進させるのは、アドレナリンです。

高ストレス状態の人は、脂肪が分解されやすいということです。

ホルモン感受性リパーゼの活性を止めるのは、インスリンです。インスリンはこのホルモン感受性リパーゼの働きを抑えて、脂肪細胞内に脂肪を溜め込む働きがあります。インスリンが沢山出ると、脂肪が蓄積されます。

アドレナリンやコルチゾールは、このリパーゼの働きを抑えるインスリンの働きを抑えるので、結果として働きが亢進するためどんどん脂肪が分解されます。

アドレナリンとコルチゾールが出る原因は、低血糖やミトコンドリア機能の低下、低エネルギーです。

結果として中性脂肪が低くなる原因になります。中性脂肪が70以下だと、やはり低エネルギーと言えます。

中性脂肪はこの3つの総因で形成されるため、食事の影響をすごく受けます。そのため中性脂肪を適切に判断するには、測定は食後12時間は空けてください。12時間空けて朝の採血で中性脂肪を測って、評価をすると良いと思います。

その観点からこの数値を見ると低エネルギー状態があって、そのために甲状腺が働きをストップしているという状態かと思います。

ただTSHは反応して上がっていますので、そう重症ではないと思います。この方は、朝起きられないけど、特別疲れやすいわけではなく、日中は普通に動けるそうです。

下記は、獣医学の資料です。

酪農家にとって、牛のミルクが出なくなることが一番問題です。

ですからこの点に関してすごく研究していて、どういう牛がミルクが出なくなるのかという記事の内容ですが、牛のエネルギー状態とタンパク代謝によるものだそうです。一番重要な長期的な指標はBCS(ボディ・コンディショニング・スコア)で、脂肪のつき具合を見るものだそうです。

エネルギーの代謝とタンパク代謝がうまく回ってていないため痩せている牛はだめで、牛の骨格の背骨と骨盤の角度を測って、それがV字型に見えるかU字型かを見るそうです。それがタンパク質代謝とエネルギー状態の長期的な指標で、短期的な指標は何かというと遊離脂肪酸だそうです。

遊離脂肪酸は、もっとも優れた負のエネルギーバランスの指標ということです。

エネルギーバランスが負に傾いていると、中性脂肪がどんどん遊離脂肪酸に分解されます。ネットで遊離脂肪酸を検索すると一番始めに上がってくるのが牛の記事で、人間よりも栄養状態についてよっぽど研究されています。

ホルモン感受性リパーゼが働くと遊離脂肪酸が沢山できて、大元をたどれば低エネルギー状態というわけです。

遊離脂肪酸の測定は今は当院では項目に入れていませんが、昔インスリン抵抗性のマーカーとして使っていたことはあります。

インスリンの効きが悪ければ、ホルモン感受性リパーゼが働いて、遊離脂肪酸が増えていきます。だから糖尿病とか肥満の人にはそういう見方ができます。FFA: free fatty acid (遊離脂肪酸)が上がってきます。飢餓の状態でも遊離脂肪酸が増えて、結局中性脂肪は下がります。

そういうわけで軽度の甲状腺の異常マーカーというのは、甲状腺だけではなくて体全体のエネルギー不足、つまりミトコンドリア機能低下とか、低血糖ケアのサインを表しているということになります。

決して甲状腺ホルモン補充のサインではないことに気をつけてください。これは根本原因ピラミッドに当てはめた図ですが、腸のリーキーガットがあると肝臓にダメージを与えます。

肝臓にダメージがくると、T4からT3の変換がうまくいかなくて、結局ミトコンドリアがダメになります。炎症や低血糖があると副腎がダメになって、そうなると甲状腺がダメになります。

腸→肝臓ケア→デトックス→副腎のケアの次は甲状腺ケアですが、この甲状腺ケアというのは、甲状腺ホルモン補充という意味ではありません。ミトコンドリアをうまく動かしてエネルギーを充足させてから甲状腺ホルモンの投与をしないと、かえって消耗してしまうことになります。上の図の底辺の下層を整えてから、甲状腺をケアする必要があります。

もうひとつ大切なのは、ミトコンドリア機能が低下しているということは、つまりミトコンドリアが多い臓器の機能が低下しているということです。ミトコンドリアの機能に直結しているのは、脳と筋肉と肝臓です。

脳と肝臓は使いすぎると、疲弊します。筋肉だけは使えば使うほどミトコンドリアが増えますが、ミトコンドリア機能が低下している人は、肝臓疲労を起こしています。

肝臓は、タンパク合成、抱合、糖新生、胆汁分泌を担っているので、肝臓機能が落ちるとこれらが一律にうまく働かず体調が悪化します。潜在性の肝臓機能低下症の人のきっかけはリーキーガットかもしれないし、毒物に沢山晒されているせいかもしれませんが、そのせいで肝臓機能が低下すると、タンパク合成も糖新生もできなくなります。

対策としては、エネルギーの消耗をおさえることです。肝臓に対しては、アルコール、薬、それからサプリはほどほどにすることです。薬剤性肝障害と同等に、サプリ性肝障害を起こしている人が多いです。

添加物が多いし、もともと容量が多いので、サプリの代謝は肝臓に負担がかかります。脂溶性のビタミンはほどほどにすることと、リーキーガットは徹底的に治しましょう。

肝臓が悪い人は、グルタミンを摂ると良いと思います。グルタミンは、1日15g×3回で50gくらい摂っても大丈夫です。

グルタミンを摂ることによって、化学物質過敏症が改善する人も結構います。化学物質過敏症というのは、肝臓で化学物質の処理が容量過多で処理しきれなくなった状態のことを言います。

肝臓を治さないと解毒がうまくいかないので、肝臓の疲労を早めに見つけて対処することが大事だと思います。

脳はかなりエネルギーを使っているので、脳の疲労には瞑想と断捨離が良いと思います。

症例2

38才の女性、異臭症、不眠症、疲労感、砂糖の渇望。

この方は、慢性疲労なのですが、副腎疲労や甲状腺機能低下症の方は、大体9割の人がカルシウムとマグネシウムの値が高いです。カルシウム・マグネシウムが高い=脱灰の公式です。なぜ脱灰しているかというと、ひとつにはマグネシウム不足、ミトコンドリア機能低下があると思いますが、もうひとつの原因は、骨化がうまくいかないので、甲状腺機能低下症だろうと思っています。

甲状腺によい食事と悪い食事

上記は、シャッターストップという有料の画像ダウンロードサイトからの抜粋で、アメリカ人用の「良い食事と悪い食事」の例です。

タンパク質、野菜、フルーツがOKで、NGはカフェイン、アルコール、大豆の摂りすぎです。大豆の過剰摂取は、T4からT3の変換を障害します。

気になるのは海藻です。アメリカ人の場合は、海産物を摂った方が良いと思いますけど、摂りすぎは甲状腺機能の低下を招きます。うがい薬のイソジンには、ヨードが入っていますが、これを多要すると、甲状腺機能が低下する人がいます。ヨードは摂りすぎるとフィードバックがかかるので、甲状腺機能低下症の人は摂りすぎないでくださいと病院で言われるはずです。摂らなくてもダメだし、摂りすぎもダメで、何事も適量が良いと思います。

外国産のサプリにも注意してください。時々毛髪検査して、異様にヨードが高い人がいますが、恐らく原因はサプリじゃないかと思います。アメリカはヨードが不足しがちなので、塩やサプリなど色々なところにヨードが添加されているので、必ず表記を見て注意してください。

この方の場合は異臭症が酷かったのですが、リーキーガットを治したら、ご飯と肉野菜が食べれるようになりました。

腸を治して食事が摂れるようになって、TSHが3から1.6に下がり、T3は、3.3から2.81に下がりましたが、症状は改善しました。中性脂肪は48から56に上がり、LDLも105から128に上がっています。全体的に栄養状態が改善しています。つまり食習慣や栄養状態が良くなると、甲状腺機能が改善するということです。

症例3

36才女性。この方は当院で定期検診を受けていますが、2016年は中性脂肪が66で、LDLが96でした。中性脂肪が低く、それなりに疲れはあるけど普通に生活しているという感じでした。

2018年の11月の定期検診の時には、T3が2.73で、TSHが0.41でした。中性脂肪は153、LDLが82。

これは今から考えるとちょっと低いのですが、このときは特別に酷い症状はなかったので、こんなものかなと思っていました。

それがある日インフルエンザに罹った後、手が異常に震えると言われました。声がかすれて、息が切れ、立っているのも辛く、激しく情緒不安定。初めは低血糖かと思ったそうです。しかしご飯を食べても寝ても症状が変わらないということで、甲状腺機能を測ったらTSHが0.01、FT3が19.5でした。

この時のLDLは40まで低下しています。コレステロールの代謝が促進して、LDLがここまで下がってしまいました。これは、バセドウ氏病です。甲状腺機能が亢進すると、このような数字になるという参考例です。

バセドウ氏病は甲状腺機能低下症の反対で、甲状腺機能亢進症です。原因は、これも自己免疫です。

甲状腺のTSHのレセプター抗体というのができて、その結果甲状腺ホルモンがとめどもなくでてきます。症状としては、手の痺れと動悸です。脈は安静時でも100を超えます。

治療に使うのは甲状腺の働きを抑える薬と、βブロッカーという頻脈を抑える交感神経の遮断薬です。それでとりあえず甲状腺が落ち着くまでの間、脈を抑えるために投与します。

上記は2ヶ月後に測った結果ですが、まだFT3が10あります。このときはまだ苦しかったと思います。このNT-proBNPというのは、心臓の負担の検査です。頻脈があると心不全を起こす人がいます。

8月になってFT3が3.66になって大分症状が落ち着いてきます。それでもまだTSHは0.05未満です。ここからもTSHが非常に敏感なマーカーだということはお分かりいただけると思います。

TSHレセプター抗体の数値が上がっています。抗体というのは免疫のことで、自分のTSHの受容体を攻撃しているということです。だからバセドウ氏病でも橋本病でも放置すると炎症が起きるので、甲状腺が腫れてきます。

この方の場合は発見が早かったので、半年少々で症状は消えました。

症例4

36歳女性、慢性疲労の方です。不妊と夜間不眠があり、TSHが7.7でした。FT3は2.57で一応基準値範囲内には入っていますが、例によってTSHが上がっていますから、エネルギーが低下しているだろと思いました。

この方の場合は、カンジダ除菌をして、デトックスをして腸内環境や低血糖の改善もしたんですが、いまいち完治せず、それに合わせてエネルギー状態が戻ってきたため、ナチュラルサイロイドを投与しました。その結果、2ヶ月で妊娠されました。

2ヶ月後のTSHは、上記の数字です。

ホルモン投与をしたので、T3はあまり変化はないですが、TSHが劇的に下がっています。

症状がなくても甲状腺を意識した方がいい場合はいくつかあり、代表的なのは不妊症です。不妊外来では例外なくT3、T4、TSHを測っていると思います。潜在的な甲状腺機能低下症でも不妊の原因になるからです。甲状腺ホルモンが低下すると、フィードバックがTSH、TRH両方かかりますが、このTRHはTSHだけでなく、実はプロラクチンも制御しているのです。

TRHが増えると、プロラクチンが上がりますが、これは基本的には排卵を抑えるホルモンなので、不妊の原因になります。潜在性甲状腺機能低下症でも、ここはアプローチしてケアをしておくと良いと思います。

脱毛の人も甲状腺機能を測ってみると良いと思います。時には、疲労の症状が出ない人もいます。甲状腺機能低下症というと、典型的なむくみや疲れ、鬱がありますが、症状が全部揃ってないので、一部の症状がある場合でも気にした方がいいかもしれません。

体の痛みだけという人もいるので、整形外科的なことも色々やってこれもやれば良いと思います。この方はちょっと体温が上がって、35度台だったのが36.7度まで上がるようになってきました。

体温はばらつきがあるので、平均的に見ていくと良いと思います。体感が先に出る人もいるし、体温が上がる人もいます。大事なのはピラミッドの下から埋めていくことです。ある程度ミトコンドリアが動いているのを確認したうえで、さらにカンフル剤的に短期的に使った方がいいと思います。

症例5

44歳女性で睡眠時無呼吸、慢性疲労と集中力低下がありました。アミラーゼとCPKが低いので、筋肉がなくて酵素活性が落ちていました。

この方は腸内環境ケアや、低血糖の治療をひととおりして、これが3ヶ月後の所見です。症状がほぼ変わらず、冷えも治らないし、無呼吸も睡眠も変わりませんでした。

そのときに甲状腺ホルモンを初めて測ってみたら、やはりTSHが高かったです。

FT3は若干下がっていて基準値範囲内には入っていますが、TSHが上がっていて潜在性の甲状腺機能低下症を示唆する所見です。

最初中性脂肪が128でしたが、測り直したら63に落ちていました。一通り治療はしていたので、それに加えてピラミッドの底辺から治療して、それでも改善しなかったのでチラージンSを追加して治療しました。

合成のチラージンT4を投与してみたのですが、冷えは良くなったけど疲れは変わらない。でも沖縄に行ったら体調が良かったというので、体を温めてもらいました。それでも甲状腺のところは回復しなかったため、ナチュラルサイロイドに変えました。32.5から65μg摂った結果、急に良くなりました。

体温が36.5度以上、基礎体温がキープできるようになりました。記憶力が上がり、落ち込みも痛みもなくなって、唾液が出るようになりました。

数値の変化は以下の通りです。

TSHは大変敏感なマーカーで、治療への反応性も高いです。このように全てのケアをされた方が、甲状腺ホルモンの投与を、追加できっかけとして行うのはすごく良いと思います。色々な治療を試しても、今ひとつ突き抜けないという方の治療に使うようにしています。もちろん最初から出すことはしていませんが、時々このようにすごく良くなる人がいます。

1ヶ月、2ヶ月で効果が出ましたが、ホルモンそのものなので栄養療法より効果が断然早いです。ただ色々な注意点もあります。

エンジンのスタートのボタンでいうセルモーターみたいなものです。車はガソリンで動いていますが、一番最初だけエンジンを動かすときは電気で動かします。でもこのボタンを押し続けていると、クルクルとセルモーターが回しっぱなしになって焼き切れてしまうので、最初の一瞬を動かしてあげるときだけ使うんです。

うまく回り始めれば、体が元の状態に戻るので薬がだんだん必要なくなります。最大半年くらいの投与を考えています。あまりやりすぎると逆に消耗してしまうので、その見極めが大事だろうと思います。

症例6

46歳の女性で、慢性疲労の方です。疲労感と朝起きれない、出産後に体重が10kg増加したといらっしゃいました。

この方は子宮筋腫も貧血もあったので、甲状腺だけの問題ではないんですが、そちらのほうは手術して順調に推移していました。EATというのはDスポット治療のことです。

SIBOに対して抗生剤、捕食もして、低血糖ケア、デトックスして、2年半治療してだいぶん良くなったんですが、いまいち安定しなくて仕事に復帰するのは不安だということでした。

仕事は結構ストレスかかるので、リハビリ出社をお勧めしていますが、職種によっては完治してから出社してくださいというところもあると思います。

そういった場合どこまでいったら、職場復帰できるのか迷われると思います。

この方の場合は、例によってTSHが3.03でした。中性脂肪は135あり、LDLも高かったです。

この方はナチュラルサイロイドを2ヶ月投与したら、TSHが3.03から0.053まで下がって、これだとオーバードーズなのかもしれないと思われる方もいるかもしれませんけど、基本的には私は体温で決めています。

基礎代謝が上がってくれるかどうか、そこを治療の指標にしています。体温が下がりすぎず上がりすぎずっていうところを目指すみたいです。

1ヶ月後には不眠が改善し、2ヶ月後には疲労も肩こりも消えました。仕事復帰を考えたいと気持ちも前向きになってきました。2年半治療してもいまいちだったのが、2ヶ月で急によくなるので、そういう場合は使って良かったなと思えます。

ちょっと気になったのがこの方の毛髪検査で、バーが左側に出ると腸内環境が悪く、ミネラルの吸収が悪いという印なんですが、普通エネルギー不足の人や甲状腺機能低下症の人はカルシウムとマグネシウムが右に出ます。

ところがたまにこうやって右に出ない人がいて、その違いは何なのだろうと考えてみました。

この方は1年半休職していて、別段忙しくもなく、家でほぼじっとしていて、ストレスもないと思われます。

つまりエネルギーをあまり消耗していないんです。いまのところ考えつくのはそれくらいかなと思います。

下記は、ほぼ甲状腺機能低下症の人の毛髪検査の結果です。

みんなカルシウムとマグネシウムが高いです。

ちなみにこの水銀が高い人は4年くらい前の私です(笑)カルシウム・マグネシウムが高くて、ナトリウム・カリウムも高いという状態が鉄板の副腎疲労、慢性疲労パターンなんですけど、この46歳の方はこのパターンに当てはまらないです。

ナトリウムが低いので疲労はあると思うんですけど、カルシウム・マグネシウムが高い場合は大体毛髪の過剰な石灰化なので、脱灰の促進を疑うと言われています。

カルシウムの99.9パーセントは骨にあるので、毛髪中のカルシウムが多い場合は、骨の代謝に問題があるということです。特に再石灰化よりも脱灰が多い場合はカルシウム、マグネシウムが当然多いと考えられますが、その原因の一番は副甲状腺(PTH)で、この値が高ければ当然脱灰を底押しします。

もう1つはマグネシウム不足。

もう1つは酸性食品。

あとはビタミンD不足とかビタミンBの過剰とかでカルシウムが体から出ていってしまう場合です。このような場合が、おそらく脱灰が更新する原因じゃないかと思うんですが、酸性食品の場合は体をアルカリ化させようとして、アルカリのカルシウムが脱灰してきます。

ビタミンDが不足すると、カルシウムのバインディングプロテインが作れないので、カルシウムの吸収が下がります。つまり低カルシウムの人の場合は、カルシウムだけを摂るのじゃなく、ビタミンDとカルシウムとマグネシウム一緒に摂るということがポイントです。

ビタミンDが不足すると二次的にカルシウムも不足してくるので、骨の吸収が起きてくるのだろうと思います。あともう1つは造骨側の問題です。副甲状腺は脱灰に働きますが、甲状腺は骨の形成に寄与します。骨芽細胞に甲状腺ホルモン受容体があるからです。

甲状腺機能が低下すると骨芽細胞の機能は低下して、ALPが下がって骨化のタンパクが下がってくると、こういう感じなんだろうなと思います。

多くの甲状腺機能低下症の人の毛髪中のカルシウム・マグネシウムが高いのはこれが原因だと思います。マグネシウムをそんなに消耗していないのかもしれません。

甲状腺とエネルギー、ミトコンドリアは切っても切れない関係なので、甲状腺ホルモンが間接的にか直接的にかミトコンドリアを増やすという話がありましたが、甲状腺とミトコンドリアをつなぐキーのひとつがビタミンB2です。

甲状腺ホルモンはビタミンB2をFADという活性型ビタミンB2に変換する重要な役割があります。ビタミンB2の活性化には亜鉛、マグネシウム、マンガンなどが必要ですが、それとともに甲状腺機能も必要なんです。

マグネシウム、カルシウムが余っていても甲状腺機能が低下していたら、ビタミンB2は活性化されずにミトコンドリア機能は低下します。ビタミンB2がどこに使われているかというと、ひとつはメチレーションです。

MTHFR、葉酸の活性化酵素は、遺伝子変異があれば活性が落ちますが、ビタミンB2不足でも甲状腺機能低下症でも活性は落ちます。MTHFRの補酵素がビタミンB2だからです。

だから甲状腺機能が低下すれば、低メチレーションということになります。解毒もできなくなり、神経の発達もうまくいかなくなり、MCVなどにも影響します。

それとG6PDが活性化できなくなり、グルタチオン還元ができなくなって解毒もできなくなるでしょう。こういったこともさることながら一番影響するのはミトコンドリアだろうと思うんですね。

ビタミンB2はどこに働いているかというと、電子伝達系のIとIIとβ酸化で使われています。下記は電子伝達系の図ですが、ビタミンB2は水色で示されています。

複合体の1番、複合体の2番、そしてβオキシデーション(β3)が脂肪を利用するところに使われています。

脂肪が不飽和脂肪酸になったらどんどん痩せていくのではというご質問をいただきましたが、このβ酸化のところにビタミンB2が足りていないと、そこが障害されるんのではないかと思います。

もしかしたら痩せる人と痩せない人の違いはここかもしれません。

ミトコンドリア機能が低下して痩せてしまう人もいれば、痩せにくくなる人もいます。脂肪の代謝によるもので、甲状腺機能低下症は代謝を障害します。複合体1番と2番も障害します。

ひとつの仮説ですが、毛髪中のカルシウム・マグネシウムが高い人は、エネルギーの消耗が激しい人です。エネルギーの消耗によりマグネシウムが枯渇して、その結果ミトコンドリアが働かなくなります。

マグネシウムが足りないから脱灰しているので、治療はマグネシウムで行います。

この方は一年半休職していて、活動量も少ない比較的おっとりしている方です。

マグネシウムは余っていますが、恐らく別の理由でミトコンドリアが働いていないと思われます。たとえばビタミンB2です。

先ほどの毛髪検査の方たちはみんな痩せ方なのに比べて、この方は比較的ぽっちゃり型です。ビタミンB2が足りないために脂肪の代謝が止まるのではと推測します。ビタミンB2については、今後もっと詳しく調べていこうと思います。

甲状腺ケアとは

ピラミッドの上階層にあるミトコンドリアを動かすのは結構大変なことなので、下の階層から順番に改善していく必要があるのですが、甲状腺ケアというのは甲状腺ホルモンの投与とイコールではないということにご注意ください。副腎疲労も同様です。ホルモンの補充は、ミトコンドリアケアのあとに行うべきだと思います。

ここでいう甲状腺ケアというのは、デトックスとか肝臓ケアなど自然療法によるケアのことです。

甲状腺とミトコンドリアの関係

甲状腺とミトコンドリアは、相互的な関係です。甲状腺機能が低下すればミトコンドリアも下がって、ミトコンドリア機能が下がれば甲状腺も下がります。そのため負のスパイラルに入って、そこから抜け出せない人が結構います。

その理由とは、太古の昔からの人間の習性として、ミトコンドリア機能が低下したら飢餓状態だと判断するからです。飢餓状態に備えるために甲状腺機能を故意に落として、逃避モードにはいるわけです。

だから体に飢餓と感じさせてしまうと、甲状腺機能がさらに下がって負のスパイラルに入っていきます。

先ほどのビタミンB2の話をいれて考えると、甲状腺機能が低下すると、電子伝達系の1番と2番の補酵素であるビタミンB2の活性化がうまくいかなくなります。

2番のことをコハク酸デヒドロゲナーゼと言います。コハク酸というのは電子伝達系とTCAサイクルにまたがる唯一の酵素です。コハク酸がダメージを受けると、電子伝達系とTCAサイクルの両方が止まります。TCAサイクルの一番下のところにあるのがコハク酸です。

クエン酸から始まってクエン酸がイソクエン酸になって、6時のところにコハク酸があって、それがフマル酸になって、リンゴ酸になる。コハク酸をフマル酸に変える酵素のことをコハク酸デヒドロゲナーゼといいます。

電子伝達系の2番のコンプレックスと同じもので、つまりビタミンB2が欠乏して、甲状腺機能が低下すると、TCAサイクルと電子伝達系機能の両方に影響をきたします。

それによってミトコンドリアが止まると体が飢餓状態だと思って、さらに甲状腺機能が低下するという悪循環が起こります。

どこかで、この悪循環を止めてあげなければなりません。

有機酸検査(OAT)を見るとカンジダ感染している人は、アラビノースも臭酸も上がっています。そういう方は、コハク酸も上がっていて、ビタミンB2が上がってることが多いんです。この4つはセットなのです。

カンジダが全身に影響するのはご存知だと思いますが、カンジダの代謝産物がTCAサイクルを邪魔するので、ミトコンドリア機能を止めてしまいます。TCAサイクルのエネルギー代謝のところで6つ棒があり、一番上にコハク酸があって、このコハク酸だけが上がっている人が時々います。

そのエネルギー代謝の3つの棒がばらばらになっていると、補酵素が足りなくてどこかで代謝が止まっているってことを表しますが、コハク酸だけ上がっている人は、ビタミンB2だけ入れればいいそうです。

琥珀酸のレベルが上がっているということは、コハク酸の代謝が止まっている。つまりコハク酸デヒドロゲナーゼが動いていないということです。

コハク酸デヒドロゲナーゼが動いていないということは、ビタミンB2が活性化されていない=甲状腺機能が低下しているということです。

有機酸検査の結果を見ながら、活性化型ビタミンB2を入れてあげてミトコンドリアを元気にしてあげることが、ポイントかもしれません。

症例7

35才の女性。疲労回復中とありますけど、この方は栄養療法を行い、良くはなったが完全に治り切らず、あと一歩良くしたいと来られた方です。

朝の唾液コルチゾールは保たれていて副腎疲労はそんなになかったです。ただし中性脂肪が32しかなかったんですね。だからエネルギーは負の状態なんですが、甲状腺ホルモンが2.2で少し高かったので、ホルモン投与をしました。

すると中性脂肪が23に下がりました。甲状腺ホルモンはよくなったけど、エネルギー状態は悪くなった例です。症状は一時的に良くなりましたが、これをずっと続けると必ず悪くなります。ガソリンが空なのにアクセルをふかせてはいけないという例です。ミトコンドリアの状態を良くして、低血糖の波をちゃんと整えてから、ホルモン補充をするようにしてください。

症例8

最後の症例は、61才の女性です。意欲低下、不安、憂鬱、電車に乗れないなど色々な症状がありました。

一年半くらい治療して、腸内ケア、カンジダ、デトックス、脳機能にはでDHDを使ったり、色々なアプローチをしてほぼ良くなったのですが、意欲だけが戻らないということでした。

ウインドウショッピングに行って、あれ買って、これ買ってなど言って欲しいというのが、ご主人の希望でした。

中性脂肪は60で、この方の場合は、低エネルギー状態、FT3は2.6で副腎疲労もあるんですけども、TSHが上がってないので、これは脳から来ているパターンです。

ナチュラルサイロイドを投与しましたが、意欲はなかなか戻らなくてちょっと時間がかかります。

下垂体性の甲状腺機能低下症なので、ずっとLowT3が続いていて、脳から抑制がかかっているパターンだからです。

もう少し丁寧に下層のピラミッドもう1、2年かけていかないと、引き続き低血糖とか寒中水泳とかミトコンドリアの機能をあげるようなアプローチをとって行こうと思います。地道なようですけど、下から順番にやっていくのが一番の近道です。

ナチュラルサイロイドはこういう場合はやはり効かないです。脳から抑制がきているパターンだからです。

まとめ

  • 甲状腺マーカーは鋭敏なエネルギーの指標

甲状腺のマーカー特にTSHは鋭敏なエネルギーの指標になります。

  • マーカー値によって重症度が推測できる

マーカーの値によってTSHが上がったり下がったりします。それにより重症度が推測できます。

  • 軽度の異常はピラミッドの下層ケアで対処

橋本病のような甲状腺の病気は治療が必要ですが、いわゆる他の要因によって甲状腺に影響している場合は、ピラミッドの下層から順番にケアすることで対処できます。食事をケアするだけでも敏感なTSHがどんどん推移します。

  • 甲状腺ホルモンはミトコンドリアを動かす

甲状腺ホルモンの補充は有効だと思いますが特別な事情がない限りは、ミトコンドリアを動かす他の要因のケアを行ってさらに補助として一時的に考慮するのが良いです。

  • 体に飢餓を感じさせない

体が飢餓だと感じると、栄養不足と認識して甲状腺機能を抑えにかかります。そのため、いかに自分の体に今は飢餓じゃないんだと思わせるようにしないと、どんどん下がっていくと思います。

低血糖を頻繁に起こしていたら体は飢餓だと認識します。体がいつも冷えていても同じです。

現代社会において食べ物やエネルギー源は沢山あるのに、体が飢餓だと勝手に勘違いして、甲状腺機能を低下させます。そうならないために低血糖を防止して、体を温めたり、冷水浴がお勧めです。

冷水浴は一時的に体に刺激を与えて自律神経を整える上、いつも使っていない毛細血管を開くため、体が温まります。寒中水泳、高地トレーニング、断食などの短期的なストレスは体にとってプラスだと思います。

ただし体に飢餓だと勘違いさせない範囲で行うのが大切です。体を温め続ければ、飢餓状態の冬眠のサインが解けて甲状腺ホルモンが上がってくるので、そうすると自然に正のサイクルに入ってくるはずです。

ゆっくりでもいいから登り坂に入ってくれれば、あとはその治療をつづければいいだけだと私は考えています。

自閉症が増えた本当の原因と葉酸活性化経路の関係

宮澤賢史 · 2020年3月26日 ·

米国では、ここ20年自閉症の発症率の伸びが止まりません。

アメリカ疾病予防管理センターの自閉症監視ネットワークによると、2016年現在、54人の子供に約1人が自閉症スペクトラム障害(ASD)と特定されています。

これは、2000年の調査における150人に1人と比べて3倍の数字です。

監視年有病率それは何人に一人?
20006.7150人にひとり
20048.0125人にひとり
200811.388人にひとり
201214.569人にひとり
201618.554人にひとり
CDCの自閉症と発達障害の監視(ADDM)ネットワークからの推定

1970年には1万人に1人だった自閉症発症率がここまで上昇した原因は一体なんなのでしょう?

  • 認知されたこと?
  • 自閉症の診断基準が変わったこと?
  • 環境が悪化したこと?
  • ワクチン接種?
  • 農薬?

諸説ありますが、私は「妊娠期間中の母体にのみ葉酸サプリメント摂取が奨励されたこと」が大きな要因だと考えています。

葉酸サプリが二分脊椎を激減させた

葉酸はビタミンB群に分類される生理活性物質で、DNAの合成に必要であり、欠乏すると妊娠の継続に深刻な影響を与えます。

例えば「二分脊椎」です。これは生まれつき脊椎の一部が形成されない状態で、運動麻痺、感覚障害、死産などを引き起こします。

葉酸と「二分脊椎」のような神経管閉鎖障害の症例対照研究は1980年代に多く行われ、その結果、英国、米国が1992年に、カナダ、アイルランド、ニュージランド、ノルウェーなどが1993年に強化食品、サプリメントによる1日0.4mgの葉酸摂取を勧告するに至りました。

その後多くの国で二分脊椎の発症率の大幅な低下が報告されましたので、日本の厚労省もその流れに乗り2000年に葉酸サプリメントの摂取を推奨しはじめたのです。

これによると、妊娠を計画している女性は、障害の発症リスクを減らすために、「妊娠1か月以上前から妊娠3か月までの間、葉酸をサプリで摂ること」と勧告されています。

葉酸サプリを開始したら自閉症が増えた?

というわけで、1990年代前半から始まった葉酸サプリメント摂取の推奨は、各国の二分脊椎の発症を減少させました。この成果は素晴らしいものですが、その時各国政府はまだ気が付いていなかったのかもしれません。同時期から、自閉症の発症率が増加し始めることに・・・

実際に、様々な国、年代で行われた自閉症の発症率調査をまとめると、1990年ころから劇的な増加を示しているのがわかります。

なぜ、葉酸サプリ摂取が、「二分脊椎発症率の低下」と「自閉症の発症率の上昇」を同時に起こしたのでしょうか? なぜ、神経の発達に必要な葉酸の摂取で自閉症の発症率があがるのでしょうか?

これを理解するには、葉酸回路を理解する必要があります。ここからが本題です。

二分脊椎を予防できる葉酸はフォリン酸のみ

さて、先ほど「葉酸不足が二分脊椎の原因」と言いましたが、葉酸には種類があり、全ての葉酸が二分脊椎を予防できるわけではありません。

葉酸は大きく作用別に3種類の葉酸に分けられます。

一つ目は、Folic Acid(サプリの葉酸)です。ほとんどのサプリや葉酸強化食品に入っている葉酸です。二つ目は、Folinic acid(フォリン酸)で、DNAを合成し、神経を成長させてくれるため二分脊椎を起こさなくなります。3番目はMTHF(メチル葉酸)です。これが自閉症に密接に関わります。

これらは全て別物です。サプリに入っているのがFolic Acid(サプリの葉酸)、二分脊椎を防止するのがFolinic acid(フォリン酸)、自閉症を防止するのがMTHF(メチル葉酸)です。

なぜフォリン酸でなく、サプリ葉酸のFolic Acidで、二分脊椎が予防できるのかというと、Folic Acidは体内でフォリン酸に変化するからです。 これを活性化と呼びます。サプリの葉酸は→Folinic Acid(フォリン酸)→MTH Folate(メチル葉酸)へと活性化されて変化します。

この経路のことを「葉酸経路」とか「葉酸の活性化経路」とか呼んでいます。

葉酸の活性化経路が滞って、Folinic Acidが作られなければ二分脊椎になるし、MTH Folateができなければ自閉症になります。

「活性化の流れが悪い人でも、サプリの葉酸の摂取量を多くすることで、二分脊椎を予防するフォリン酸の量を確保できる」というのが、サプリで二分脊椎が予防できる仕組みです。

葉酸は大きく3種類に分けられます。
・非活性型のFolic acid (日本で作られるサプリはこれ)
・半分活性型 Folinic acid (神経の発達に重要、お母さんのお腹の中で必須)
・完全活性型methyl folate(ドーパミン合成、解毒に重要、生まれてから必須)

注)実は、葉酸には10種類以上のバリエーションがあります。DNA合成に関わるのはプリン体を生合成する10-ホルミルテトラヒドロ葉酸と、ウラシルをチミンに変換する5,10-メチレンテトラヒドロ葉酸ですが、ここでは話を簡略化するために、これらを全てフォリン酸の仲間としています。

自閉症とメチル葉酸の関係

自閉症の原因は様々な説がありますが、葉酸との関わりは特に深いと言えるでしょう。

フォリン酸がもう一段階活性化される時にメチル化という化学反応が起こります。メチル基という化学物質が結合することでMTH Folate(メチル葉酸)になるのです。

さらにメチル葉酸はメチル基を他の物質に渡す事ができます。こうしてメチル基が様々な物質に次々と受け渡される回路はメチル化経路と呼ばれています。

乳幼児が言葉をしゃべり始めるようになるために、メチル化経路は非常に重要な役割を担っています。この経路が回らなければ、神経伝達物質が作られないので、脳の発達が十分進まず、言語の習得に困難が生じます。

他にも様々な物質がメチル化されることで、
・DNAが合成されたり、
・神経伝達物質をつくったり、
・炎症を抑えたり、
・解毒をおこなったり
することができるようになります。

自閉症の予防、治療には葉酸をうまく働かせ、メチル化経路を回すことが大変重要です。神経発達の栄養療法の権威、ウイリアム・ウォルシュ博士によれば自閉症児の98%にメチレーション回路の低下が見られるそうです。

体内でメチル化経路の出発点になるのが、葉酸のメチル化で、フォリン酸がメチル葉酸に変換される反応です。

変換するのはMTHFRという酵素ですが、自閉症児の多くは、この酵素を作る遺伝子に変異を持っています。つまり、この酵素が上手く働かないというのが、自閉症が増えた第一の理由として考えられます。

自閉症が増えた第一の理由

このMTHFR酵素遺伝子変異の強い人はMethyl folate(3番目)への変換がうまくできません。

遺伝子変異があるとどの位酵素の力が弱まるのでしょうか?

片方だけ変異していると30%、両方変異していると70%酵素活性が低下します。つまり、この場所の遺伝子変異を片方の親から貰えば30%、両親からもらえば70%葉酸を活性化できなくなるということです。

MTHFRの677番目の塩基配列が酵素活性に重要です。ここの塩基はシトシン(C)ですが、これがT(チミン)に変異していると226番目のアミノ酸がアラニンからバリンに変換されるため、熱に不安定となります。

こんな人がたくさんいれば、自閉症児がたくさん生まれちゃいますよね。

でも、あなたは疑問に思うはずです。
メチレーション回路が弱い人がそんなにいるの?

いるんです。
アジア人の45%はMTHFR酵素の片方が遺伝子変異していることがわかっています。

さらに問題は、メチレーション回路が低い人同士が結婚すると、メチレーション回路が弱い子供が生まれやすいということです。

メチレーション回路が弱いことを「低メチレーション」と言います。

低メチレーションの人の特徴は「高学歴」「完璧主義」「強迫的行動」です。つまり、毎日同じことをコツコツ続けることを苦にしない努力型タイプで、高学歴、高収入のことが多いです。医師、経営者に多く、そのような人たちは同タイプの人たちと付き合い、結婚することを選ぶことが多いと言われています。

だからそのような低メチレーションタイプの人同士から生まれる子供は注意をすべきだという人もいます。

確かに近年そういった傾向があるかもしれません。
自閉症児が低メチレーションなのも納得です。

でも仮にそうだとしても、それだけの理由で自閉症の発症率が20年で3倍に増えるでしょうか?他にも理由がありそうです。

メチレーション(メチル化)とは?
さまざまな基質にメチル基(CH3)が置換または結合することを意味する化学用語です。メチル化することで物質が活性化したり不活化したりします。
メチル基を与えるものをメチル基供与体、受け取るものをメチル基受容体といいます。代表的なのは、SAMeとナイアシンです。例えば、SAMeはノルエピネフリンにメチル基を与えることでエピネフリンに変換します。
他にもセロトニンをメラトニンに変換したり、グルタチオン、ホスファチジルコリン、ミエリン、クレアチン、COq10、カルニチンの合成に関わったりします。
メチレーションは様々な病態に関わっています。以下はそのほんの一例。
先天性障害、習慣性流産(DNA合成、DNAメチル化)
脳梗塞(ホモシステイン)
精神疾患、やる気、集中力(神経伝達物質の合成、代謝)
統合失調症、発達障害 、うつ、ADHD、副腎疲労
解毒、抗酸化、アレルギー

サプリの葉酸の問題点

葉酸サプリが乳がんの元になるというお話を聞かれた事がありますか?

葉酸と乳がんの関係については以前から賛否両論があって、葉酸が乳がんに対する防御効果を持つが、一方で高用量の場合は逆に乳がんの成長を促進するという報告もあります。

カナダ・トロント大学のキム博士ら研究グループは、2014年2月に「高用量の葉酸サプリメントの摂取が、ラットの乳腺組織にあるがん細胞の成長を促進する」と発表しました。

キム博士は、「このことは非常に重要な意味あいを持っています。なぜなら、北米の乳がん患者は、葉酸強化食品やサプリメントによって大量の葉酸を摂取することが多いからです。彼女らは、ビタミンをはじめとしたサプリメントを使うことが多く、その割合は乳がん患者がもっとも高いのです。」とコメントしています。

さてここで、ひとつ疑問が生じてきます。

葉酸はDNAの合成に関わるビタミンです。だから、葉酸が欠乏したままでは細胞分裂がうまくいかなくなります。理屈で考えれば、葉酸を補充することは正常な細胞分裂を助け、がんを予防するように思えます。

なのになぜ、葉酸サプリメントががんを増やしてしまうのでしょうか?

理由は、「サプリメントの葉酸の多くは未活性型の葉酸だから」です。

前述のように葉酸には活性型と未活性型があります。緑黄色野菜のサラダには、活性型と未活性型の両方の葉酸が含まれています。それに対してサプリメントの葉酸は、すべて未活性型です。

未活性型の葉酸が活性化されるためには、いくつもの過程が必要です。酵素や補酵素が十分でなかったり、うまく働かない場合、活性型葉酸は十分つくられず、未活性の葉酸が体内にたまってしまいます。

また、活性化葉酸が働くのには、葉酸結合蛋白(FBP)が必要ですが、非活性型の葉酸サプリメントを摂った女性の体内の葉酸結合蛋白は激減することがわかっています。

Am J Clin Nutr. 2009 Jan;89(1):216-20.

つまり、葉酸の活性化がうまくいかない人が、葉酸サプリメントを摂取すると、活性化葉酸の働きも邪魔されてしまう恐れがあるのです。

これが葉酸サプリでがんや自閉症が増える理由です。

まとめと対策

近年自閉症が増えている原因の一つに葉酸が関わっていると考えられます。

・遺伝子変異があるとメチレーション回路を回すのに必要なメチル葉酸ができにくい
・人工の葉酸サプリの大量摂取によってメチル葉酸が上手く働かない

自閉症は、1990年以降、妊婦に対して世界各国が葉酸サプリメント摂取を推奨し始めてから劇的に増加しています。皮肉なことに、「通常なら死産になる子供が葉酸のおかげでちゃんと生まれることができるようになったから」というのが理由の一つです。

神経管異常を起こす遺伝子と、自閉症を起こす遺伝子が一部共通していることが近年の研究でわかっています。妊娠中に葉酸を投与する事で神経管異常のリスクは逃れることができるようになりました。

しかし、残念ながら現時点では各国の対応は出生時の神経異常の防止のみにとどまっており、生まれた後のフォロープログラムはありません。

また、神経系に問題を引き起こすMTHFR遺伝子変異はアジア系に多いという事がわかっています。今後もアジア圏における自閉症の発症頻度に注意する必要があります。

ただ「活性化葉酸サプリ」をとればいいという単純なものではありません。サプリメントをとることでかえって問題が複雑になる場合もあります。

今後出産を予定している方(特に高齢出産や流産の既往のある方、遺伝的に心配のある方)、お子さんが自閉症と診断された方に、私がお勧めするのは、MTHFRをはじめとした遺伝子検査を受けてみることです。

そこで遺伝子変異があるなら、まずは、この分野について勉強してみるのがよいと思いますもちろんこの分野に詳しいドクターに相談してみるのもよいでしょう。

この葉酸活性化の問題ですが、解決手段の一つとして、すでに活性化されている葉酸サプリメントを使うという方法があります。すでに活性化されているのでMTHFRの遺伝子変異があっても、その問題を回避することができます。

しかし、使い方を間違って問題を起こしているかたが多数います。

・サプリメントが効かない、サプリメントで症状が悪化する
・爆発的行動、突然怒り出す
ということを経験された方は特に気を付けてください。

この分野に詳しいドクターの間では、活性型葉酸は全体の回路を整えた後に使うのが常識です。

脳機能とメチレーション

宮澤賢史 · 2020年1月10日 ·

1950年代末、ライナス・ポーリング博士は、精神疾患の原因の一つに酵素の機能障害があるのではないかと疑い、脳機能における酵素の役割を研究しました。彼が、ビタミンが欠乏症予防以外に重要な生化学的効果を持つ可能性に気が付いたのは、ポーリングが1965年にエーブラム・ホッファー著「精神医学におけるナイアシン療法」を読んだ時のことです。これにヒントを得て、1968年、ポーリングはサイエンス誌に「分子整合精神医学」と題した簡単な論文を書き、ビタミン大量療法の原理を発表しました。 これが分子栄養学の始まりです。

1 脳は栄養素の影響を受けやすい

ビタミンには酵素を助ける補酵素としての働きがあります。ポーリング博士は、酵素、補酵素の不足が病気を引き起こすので、それを充分量補充することで病態の改善が見込めるのではないかと提案したのです。その中の一節には、こうあります。「他の臓器と比べて脳は 組成している分子化合物やその構造に深い依存傾向がある。」

脳は栄養素の影響を非常に受けやすい臓器です。脳には脳血液関門というバリアがあることはよく知られています。多くの化学物質はこのバリアに阻まれるので脳まで届かないと思っている方も多いようですが、そんなことはありません。アルコールや、カフェインが脳に及ぼす影響を考えてみてください。脳の機能は外から栄養されるアミノ酸やビタミンによって、大きく左右されます。ホッファー先生は、その事を知っていたのです。彼はアレルギーフリーの食事指導とナイアシンを中心としたサプリメント治療によって、6000人以上の統合失調症患者を社会復帰させました。

2 メチレーションの状態で脳タイプを分析する

ホッファーは大量のナイアシンを使いましたが、なぜそれが効果的なのか、その機序をメチレーションの観点から明確に見出し、臨床に応用したのがウイリアム・ウォルシュ博士です。彼はミネラルを扱う生化学者でしたが、刑務所で行なったボランティアで囚人の毛髪ミネラル検査をして、銅亜鉛バランスが狂うと凶暴性が出ることを見出しました。それ以来、彼はうつ病の患者2800名の血液データを解析し、うつ病患者の脳の生化学バランスは大きく5つに分かれることを見出したのです。

僕は2016年に博士を日本にお呼びして、講演を行なって頂きました。それがあまりにも素晴らしかったものだから、翌年彼の本拠地であるシカゴに行って実際の患者さんを迎えてのトレーニングにも参加しました。ここでは、うつ病患者の5つのタイプ分類について解説します。問診からもある程度タイプを推測できるため、日常診療に大変役に立っています。

3 「メチレーションプロフィール」問診票

僕がうつ病の人を見たら、最初にこのアンケートをやってもらって、どの傾向が一番強いかを見ることから始めます。大事なのは病名ではなく病態です。病態とは、脳内の神経伝達物質のバランスです。

脳機能の改善には神経伝達物質のバランスが多いのか少ないのかを見極めて、メチル化を調節してあげる必要があります。まずメチレーションが中心です。

うつ病は、脳の神経伝達物質の状態から、5つのタイプに分けることができます。
それぞれのタイプには、特徴的な症状、特徴があります。ウォルシュ博士は20年間にわたり、2800人のうつ病患者に対して検査を行い、それぞれのタイプの特徴を割り出しました。治療方針はタイプによって全く異なるため、治療前にタイプ分類が不可欠です。

うつはセロトニンが足りない病気だ、と一般的に思われているので、セロトニンを増やすための薬が処方されます。しかし、セロトニンが多いこのタイプのうつ病の人に、セロトニンを増やす薬を処方すると、どうなるでしょうか。不安が強くなります。セロトニン症候群といいます。副作用としても記載があります。本当は、うつ病の人にSSRIをだすのではなくて、セロトニンが多いのか少ないかを見極める必要があります。

同様に、統合失調症はドーパミンがたくさん出過ぎて幻聴が起きる疾患として捉えられがちですが、実際にはドーパミンが増加している人と低下している人がいます。ドーパミンが低下している人のドーパミンを下げるのは、やはりよくありません。というわけで、セロトニンやドーパミンの過不足を推定するのに役立つのがこの問診表です。

この問診票で、メチレーションの状態がわかります。メチレーションは、普通なのか、低下しているか、亢進しているかの3通りです。

A:低メチル化タイプ

Aに〇が多くついた方はメチル化がうまくいっていない、低メチル化タイプの人です。メチル化回路が回っていないため、セロトニン、ドーパミン共に少ない傾向にあります。セロトニンが少ないため、SSRIは効果的で、ドーパミンが少ないためドーパミン渇望の依存症状が出てきます。ヒスタミンがメチル化回路の産生物SAMeで処理されないため、アレルギー症状が出現しやすくなります。花粉症、完璧主義、競争心が強く、性欲が強いという特徴があります。

SSRI(選択的セロトニン再取り込み阻害薬)の薬が合うでしょう。セロトニンの再取り込みが阻害されるので、結果的にセロトニンが増えます。同じくらいに、メチル基を増やしてくれるサプリメント、SAMeも相性がいいです。

ドーパミン合成が比較的少なく、強迫的なまでに規則的な生活をする人がいます。また、ドーパミン渇望によるアルコール、たばこ、ギャンブル、砂糖などの依存症が強くあります。また、SAMeがクレアチンの合成に使われるため、鍛えると筋肉が付きやすく、性欲も強い傾向があります。(男性も女性も性欲はテストステロンに依存します)しかし、痛みには弱いほうです。

ドーパミン、セロトニン共に少なく、SSRIや、抗ヒスタミン薬に好反応である反面、ベンゾジアゼピンや葉酸に対する副作用があります。意志が強く、頑固で治療方針に従わない人もいます。また、過去の出来事にこだわりがあります。スポーツにおいて競争意識が強く、学業成績もよく、上流家系であることもしばしばです

A-1 診断

診断は問診に加えて血液と尿検査から行います。
検査:血中ヒスタミン 70ng/ml以上、SAMe/SAH比の低下などが参考になります。

A-2 治療

SAMeやメチオニンなど直接メチレーションを回す栄養素が効果的です。セロトニン合成を助ける栄養(トリプトファン、5HTP,ビタミンB6など)もよいでしょう。
逆に、葉酸、コリン、DMAE(ジメチルアミノエタノール)などは避けたほうがよいでしょう。

B:高メチル化タイプ

Bが多かった方はメチル化が亢進している人です。メチル化回路における重要な産生物SAMeは70%が筋肉の合成に使われます。筋肉の合成酵素に変異があると、SAMeが体内で余り、メチル化経路が過剰に亢進します。その結果、セロトニン、ドーパミン共に多く産生されます。セロトニンが多いため、SSRIでは効果が見られません。鬱に加えて、強い不安、パニックの傾向があります。不眠の方も多いです。ドーパミンが多いため、芸術的、音楽的な才能があります。

ドーパミン過剰のため、やや早口の傾向があります。時には多動になることがあります。SAMeがヒスタミンを処理するので、血中ヒスタミンは低値です。好塩基球数も低値になります。花粉症は少ないですが、食物、化学物質過敏症は多いです。むずむず足症状が出ることがあります。

セロトニンが多いので、SSRIに対してはむしろ副作用がでます。同様にセロトニンを増やすSAMe、メチオニンサプリメントに対しても副作用があります。ベンゾジアゼピンがよく効きます。痛みに強い人が多いです。誇大(大げさ、非常に誇る)癖があります。

B-1診断

診断は問診に加えて血液と尿検査から行います。
検査:血中ヒスタミン 40ng/ml以下、SAMe/SAH比の低下などが見られます。

C:銅が過剰なタイプ

Cが多かった方は、銅が過剰なタイプです。ノルエピネフィリンの上昇、ドーパミンの低下がみられます。このタイプの95%は女性だと言われています。

  • 強い不安感、パニック傾向がある
  • 産後うつを引き起こす可能性がある
  • 活動的である
  • SSRIで不安が増強する
  • 安定剤ではうつ症状が治らない
  • ピル・ホルモン補充療法で悪化する
  • 敏感肌

などの特徴を持っています。

C-1 治療

亜鉛療法、セレン、ビタミンA、B6、C、E徐々に過剰な銅を排除していくことも重要です

D:ピロールタイプ

D が多かった方はピロールタイプです。ピロール障害といいます。ピロールは体内でヘモグロビン(赤血球のタンパク質)が作られる際にできる副産物です。作られるピロールの量がとびぬけて多い人をピロール異常症と呼んでいます。精神科医のエイブラハム・ホッファーらが、精神疾患患者にピロール異常症が多いことを見出しました。

ピロールはビタミンB6や亜鉛との結合の相性がよいという性質を持っています。体内の不要なピロールは尿中に排泄されるため、ピロールの量が多い人はビタミンB6と亜鉛も尿中へ出ていく量も多いのです。また、酸化ストレスが高い場合も尿中ピロールレベルを上昇させる事がわかっています。多くの人が精神ストレスや病気、感染、トラウマ、有害金属などによりピロールが上昇しています。ピロール異常は(B6 不足のため)セロトニン、GABA 低下を引き起こします。 また酸化ストレス負荷がグルタミン受容体のグルタミン神経伝達物質活動性を低 下させます

D-1 症状、特徴

ピロール異常の人は生まれつきB6,亜鉛不足があります。これは脳におけるセロトニン、ドーパミン、GABA不足を招き、うつと不安の材料になります。

D-2 よく見られる特徴

・気分の変動(双極性障害と診断されていることが多い)
・ストレスに対応できない
・怠惰、夢が思い出せない
・肌が弱く日焼けができない
・朝のうちは気分がすぐれない。
・明るい光や騒音に敏感
・女性の場合、生理不順や無月経
・心の内面の緊張、読字障害

D-3 治療

B6,亜鉛投与によりしばしば軽減、消失し、ピロールレベルも正常化します。これにはかなりの量が必要です。またピロール異常は、酸化ストレスが亢進しており、抗酸化物質が多く必要です。ピロール異常のうつ病は他のどのタイプよりも治療への反応が早く、通常は数日で治療効果が出始め、4-6週で完全に効果がでます。朝の吐き気のため、多くの患者は昼までサプリメントを摂れません。

E:重金属タイプ

E が多かった方は重金属タイプです。鉛、水銀、カドミウム、ヒ素の蓄積が原因となります。腹部の痛み、けいれん・イライラ、筋力低下など肉体的な症状を伴うことがあります。特に幼い子供は、脳血液関門が未発達な上、金属が脳神経や受容体の発達を妨げるため、重金属に感受性が高いです。解毒効果のあるキレーション治療や、メタロチオネインタンパクを増やす治療などを選択します。

4 メチレーション状態の検査

メチレーション回路の状態を回るのに適しているのがドクターズデータ社のメチレーション検査です。判定法 ① SAH>50、もしくはSAMe:SAH < 4 なら低メチレーション(UM)  ② SAMe:SAHが high、もしくはSAMeが高値 なら 高メチレーション(OM)、 低値ならUM となります。診断には適するがフォローアップには不適ですので、できれば治療前に行うことがお勧めです。

根本治療ピラミッドの使い方

宮澤賢史 · 2019年12月13日 ·

いろいろな原因を見ていくと、栄養が不足する原因は共通したいくつかのものに収束してくるということにお気づきだと思います。これらの、いくつかの根本原因にアプローチすると、なぜか他のことが芋づる式によくなってきます。

大事なのは、根本原因を考える癖をつけることです。根本原因を考える癖をつけると、症状からデータを推測できるようになってきます。慣れてくると本当にわかるようになってきます。

6つの根本原因治療を積み重ねていく

多くのオーソモレキュラー医が様々な意見を持っていますが、彼らが主張する根本原因で共通しているのは脳機能、エネルギー(ミトコンドリア)、ホルモン、肝臓(デトックス)、腸内環境、炎症の6つです。

これは私が普段の治療に用いている治療ピラミッドです。過去の経験から、治療内容と治療の順序を大きく5つにわけました。下から治療を積み上げていくのでピラミッドと勝手に命名しました。

なぜピラミッド状になっているかというと、下にあるものの方がより深い根本原因になりやすいからです。下から治療を組み上げていくと、私の経験上うまくいくことが多いです。エネルギーはミトコンドリアの改善法です。あとは、ホルモンバランスを鍛えましょう。解毒をしましょう、腸内環境を整えて身体の炎症を取りましょう。だいたいこんなところだと思います。

治療には順番がある

根本原因の治療としては、下から順番に積み上げていきます。宮澤医院の治療は実際にこのようにやっています。大事なのは、腸内環境を整えて炎症を抑えたらこの治療は終わり、というわけではなく、その治療を維持しながら上に積み上げていくことです。自分なりの治療のピラミッドを完成させていただきたいです。

症状と根本原因の関係

まずは腸内環境と炎症からチェックしましょう。問診で腹部膨満や下痢などにチェックがたくさんつく人は、腸内環境が悪いんだとわかりますね。想像がつくのではないかと思います。

次は環境毒素のチェックです。環境毒素が周囲に多く、解毒力が弱まっている場合は、デトックスが必要です。例えば水銀なら魚と歯。歯はアマルガムです。子供の場合は少量のワクチンも関係するかもしれません。鉛なら水道管、ヒ素なら海産物や飲料水です。

あと多いのは、カビ毒と有機溶剤です。カビ毒は築100年以上の家や、洪水などで一度浸水した家、クーラーの掃除を5年以上していない人は注意が必要です。なかなか治らなかった人が、家を掃除してカビを除去したら急に良くなったという話もあります。有機溶剤は排気ガス、ガソリン、クリーニング、農薬などです。

朝が起きられない人、疲れが取れない人、ストレスを前より感じやすくなった人は副腎に疲れがあります。

次はホルモンです。甲状腺は身体の代謝を司っていますから、甲状腺機能が低下すると、低体温とむくみ、そしてうつ症状がきます。体の痛みが出る人もいます。早朝の基礎体温が36.5度いっていない人は、何らかの代謝の低下があります。甲状腺機能をチェックしてみてください。

女性ならPMSや生理不順があると性ホルモンへの影響が出ている兆候と言えます。性欲の低下も分かりやすい指標です。あと、エネルギーは疲れやすさの指標ですから比較的わかりやすいでしょう。

検査と根本原因の関係

検査とピラミッドの関係はこのようになっています。問診と自己診断である程度あたりがついたら、そこが本当なのかどうか検査で確かめてみるといいですね。

例えば、腸内環境を調べるのには尿有機酸検査が良いと思います。僕が普段行っているのは、尿有機酸検査と、包括的便検査です。包括的便検査は本当に具合が悪い人はやったほうが良いですが、ちょっと専門的すぎるので、普通は尿有機酸検査で良いと思います。

尿有機酸検査は腸だけではなく、ミトコンドリアも、ビタミン・ミネラルの不足、三大栄養素の代謝、メチレーション、ドーパミン・セロトニン、すべてわかるので、尿有機酸検査はすごくお得な検査です。

重金属に関しては、ぜひ毛髪ミネラル検査を受けてください。毛髪ミネラル検査は髪の毛を300本とるだけなので、比較的簡単です。毛髪ミネラル検査でわかるのは、ミネラルのバランスと重金属の蓄積、排泄力です。腸内環境やストレス状態もわかるので、見方を覚えると非常にわかりやすい検査です。

この表に載っている毛髪ミネラル検査を見ると、ミネラルが左によっています。足りないということです。ミネラルが全般的に足りていないということは、腸内環境が悪くてミネラルの吸収が悪いということです。毛髪ミネラル検査を見るだけで、この方は腸が悪いな、とわかりますね。

脳やホルモンなどは、いろいろな検査があります。参考程度に見ておいてください。尿中ホルモン検査は副腎と性ホルモンが見られて良い検査で、一番正確な検査です。しかし、24時間尿を容器に貯めなければならないとか、女性の場合は生理から3日目にやらないといけないとか、いろいろな制約があってかなり大変です。副腎が元気になってきて、乳がんの予防等に興味がある場合にはすごく良い検査です。

副腎に関しては、唾液中のコルチゾール検査というものがあります。血中のコルチゾールはなかなか下がりませんが、唾液中のコルチゾールは敏感です。副腎疲労を測ることができるので、やれる方はやってもいいかもしれません。比較的手軽にできます。

甲状腺に関しては血液検査でTSH、T3、T4を測れば大体わかります。基準値と正常値は違います。日本の検査会社の基準値はすこし広すぎるので、基準値の範囲内なら安心だと思わないでください。TSHを測っている人は、0.5から2までの間に入っているか確認してください。2以上は明らかに甲状腺機能が低下していると思います。基準値は0.5から5くらいですが、5だと多すぎます。

特に脳機能を改善する指標として、メチレーション遺伝子検査というものがあります。脳に関しては遺伝子の影響が比較的強いので、脳機能を極めたい方は遺伝子の検査をしてもいいかもしれません。

実際の例

根本原因ピラミッドの使い方を実際の症例で見てみましょう。今回はアレルギー体質の改善をゴールとした場合のお話です。目的によって、ピラミッドのどこを重点的に抑えるべきかとが見えてきます。

根本原因ピラミッドの使い方を実際の症例で見てみましょう。今回はアレルギー体質の改善をゴールとした場合のお話です。目的によって、ピラミッドのどこを重点的に抑えるべきかとが見えてきます。

1. アレルギー体質へのアプローチ

1-1.ステロイドの問題は免疫抑制してしまうこと

これはステロイド発売後のアトピーの有病率を調べると意外なことがわかります。1970年代には5歳以下に多く、年齢が上がるとともに減りました。20歳を越えると、ほとんどいませんでした。しかし、1990年代になるとより高い年齢で有病率が上がるようになりました。

ステロイド外用剤が発売されてから、ステロイドが世の中に浸透すればするほど、高年齢のアトピー性皮膚炎の有病率が高くなっているということがわかります。なぜなら、ステロイドはアトピーの根本的な治療薬ではないからです。ステロイドは免疫抑制剤です。アトピー性皮膚炎は炎症なので、炎症は抑えなくてはいけないのですが、ステロイドの問題点は免疫まで抑えてしまうことです。

1-2. アレルギー性疾患の根本的な治療

アレルギー性疾患の根本的な治療は何でしょうか。

答えは免疫の正常化です。そして、免疫を正常化させるためには、免疫を抑制してはいけないのです。アトピー性皮膚炎に限らず、自己免疫疾患・アレルギー疾患・アレルギー体質をより改善させようと思ったら、根本原因として、免疫を正常化させようと考えてください。

免疫は何もなくて、ただ発動するということはありません。何らかの発動原因があります。例えば炎症です。風邪やリウマチのようなわかりやすい炎症だけではなく、身体の中には潜在的な見えない炎症がたくさんあります。炎症は万病の元、と言われるようになってきました。炎症があるから免疫が亢進してしまうんです。身体の炎症を抑えましょう。

これがアレルギー体質の改善に対する根本的なアプローチです。特に免疫疾患に対するアプローチとして有効なのが、上咽頭と腸です。体の末梢神経の大部分が集中しているからです。

特に腸は、末梢神経の70~80%が集中しています。腸は免疫の塊です。食べ物が敵なのか味方なのかを判別しなければならないので、免疫が異常に発達しています。パイエル板が敵と味方を判別しています。

同様の仕組みが上咽頭にもあります。口を開いて見えるのは中咽頭までです。上咽頭は鼻のちょうど奥の方です。上咽頭はアデノイドといって、鼻からくる空気と口からくる空気の交差点になっていて、免疫が完全にむき出しになっているところがあります。上咽頭と腸の炎症は臨床上症状が出にくく、わかりにくいことも問題です。

腸の炎症は、40歳以上だと、半数以上は自覚できません。若い人は過敏性腸炎のような症状が出ることもあります。上咽頭炎も、自分では気が付かない炎症のひとつです。

  • いつも口を開けている
  • 慢性の鼻炎がある
  • 食べるときに音を立てる
  • 口を閉じると梅干しのようなしわができる
  • 鼻咽頭から喉にたんが流れる
  • 口呼吸である
  • 朝起きると喉がひりひりする

特に最後の3つの症状がある場合、99%以上の確率で上咽頭炎があります。耳鼻科で検査を受ける必要があるでしょう。

上咽頭や腸は免疫が集中しているところですから、ここに炎症があると、炎症性物質・反応性の免疫物質が全身をまわります。この仕組みをリンパ球のホーミングと言います。ひとつの炎症が全身に飛び火して、全身が炎症体質・自己免疫体質になってしまうんです。だから、免疫を正常化するためにはまず、炎症を止めることが重要です。

濃くなっているところは、特に重点的にアプローチしなければならないところです。

アレルギーを治したいなら、腸を念入りにやってください。炎症を念入りに止めてください。

1.3 副腎ケアも忘れずに

もうひとつアプローチしないといけないのは、副腎です。副腎はコルチゾールという炎症を止める物質を出しています。薬で言うとプレドニン(ステロイド)があります。

ステロイドを体に投与すると副作用が心配だという人もいると思います。しかし、ステロイドは体内でも作っているんです。体内で作る量だと適切な量だけ出ているので、副作用がありません。コルチゾールは身体に必要な物質なんですが、副腎疲労だと分泌できません。だから、炎症が抑えきれないんです。

アトピーでも慢性の喘息でも、副腎疲労を起こしていますから、炎症を抑えきれていません。だから、副腎アプローチが重要です。

1.4 免疫寛容を起こさせる

もう一つの手段は、免疫寛容を起こさせるということです。免疫寛容とは、わざとアレルギーの物質を与えてあげて、自分の免疫が発動するのを毎日繰り返すうちに、自分の体のほうがその物質に慣れて反応しなくなってくる、という現象です。

免疫寛容を起こさせるためには、一過性に免疫を上げなければなりません。一般的な抗アレルギー薬や、免疫抑制剤であるステロイドを使っていると、免疫が上がらないので、免疫寛容が永久に起こりません。

どうしても治らない場合は、免疫に対する体の準備をちゃんと作っておいてから、一過性に免疫を上げて、免疫寛容を起こさせるという手を使います。宮澤医院では、リウマチの人にこの方法を使っています。

2. 疲労が主訴の場合

疲労改善の場合はどこにアプローチすればいいかというと、ミトコンドリアです。ミトコンドリアは細胞の中でエネルギーを作っているところです。ミトコンドリアの流動的に形は変わるようです。このたくさんあるひだになっているところでエネルギーを作っています。疲れやすいということはすなわち、細胞のミトコンドリアの働きが悪いということです。

2.1 ミトコンドリアが多い場所

臓器別に言うと、ミトコンドリアは脳と筋肉に多いのです。ミトコンドリア病といって、遺伝的にミトコンドリアの働きが落ちてしまいう病気があります。昔はミトコンドリア脳筋症と言いました。脳のうつのような症状と、筋力低下の両方が起きます。

ミトコンドリアは心臓と肝臓にも多いです。シトクロムという赤茶色の鉄の酵素があるので、赤く見えます。焼鳥のレバーやハツを見ると赤いですよね。ミトコンドリアが多いからです。

ミトコンドリアが最も多いのは卵子です。肝細胞には5000個ですが、卵細胞には10万個もあります。不妊の一番の原因は、ミトコンドリア機能の低下症と、自律神経の過緊張です。自律神経の過緊張があると、ホルモンバランスに不具合が生じるからです。

人工授精をしてもうまく行かないのは、卵の元気がないからです。卵がそのものが元気でないと、着床して産まれるだけの力を持っていないと、どれだけくっつけてもだめです。関西の方ではミトコンドリア移植手術をやっているクリニックもありますね。

疲労体質改善の根本はミトコンドリアです。しかし、疲労回復はミトコンドリアサプリだけ飲んでも良くなりません。

なぜならミトコンドリアは、いろいろな影響を受けているからです。全部やっていった方が良いです。

2.2 ミトコンドリアに必要な栄養

ミトコンドリアは栄養で動いています。ビタミンB群、COQ10、鉄、などなど。大事なのはミネラルです。亜鉛、マグネシウム、鉄が重要です。ミネラルは、サプリメントなどで摂ればすぐ効くというものではありません。ミネラルの代謝が追いついていなくてミトコンドリアが動いていない人は多いです。ミネラルは生体利用性とバランスを考えなければなりません。

ビタミンは摂れば摂っただけ結果が出ます。しかし、ミネラルは吸収が悪いので、そのまま下って下痢になったりします。腸が悪いとミネラルは効きません。ミネラルが足りないと思ったら、最初にやることは、ミネラルの補給ではなくて、腸内環境改善です。食物繊維をちゃんと摂って、腸内で発酵させるようにします。すると、短鎖脂肪酸ができます。この短鎖脂肪酸がミネラルをキレート、捕まえて腸の中に引き込んでくれるんです。

ミネラルは、バランスを考える必要があります。ミネラルは拮抗します。例えば、亜鉛と水銀は体内で反発します。だから、水銀が体に溜まっている人は亜鉛の働きが悪いということです。すると、マグネシウムの働きも悪くなります。特に水銀は、いろいろな金属と合金を作りやすいです。いろんなミネラルとくっついて、その働きを止めてしまうのです。ですから、デトックスしてあげたら急にミネラルの働きが良くなって、色々うまく回り始めるということはよくあります。

2.3 副腎と甲状腺ホルモン

そして、ホルモンもすごく大事です。ミトコンドリアに鞭を打っているのは、副腎、特に甲状腺ホルモンです。甲状腺機能が低下していたら、いくらミトコンドリア対策をしていてもうまくいきません。そして、甲状腺機能に影響が出ている人は、重金属などの有害物質に暴露していたりします。

何度も言うように、下から順番にやっていく必要があります。ホルモンにもヒエラルキーがあります。順番が決まっているので、副腎から甲状腺、性ホルモンの順にやるのが一番いいと思います。対症療法的にやってもいいんですが、根本的に変えるには下から積み上げなければなりません。副腎症状が出ている場合は、対症療法として副腎サプリを摂っても良いんです。しかし根本的には下からやっていかないと、ずっと副腎サプリがやめられない、ということになります。

問診票と検査からピラミッドを組み立てて、甲状腺と毒物蓄積の問診や検査に該当しなければ、そこは抜いていけば良いんです。下層のケアを行いながら、上のケアを積み上げていきます。

だいたい見えてきたでしょうか。デトックスのやり方や、腸内環境の整え方は、ネット上にたくさんあります。いい動画もたくさんありますので、参考にしてみてください。

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