分子栄養学の3原則は、適切な量の栄養を使うこと、根本原因にアプローチすること、検査を行い個人差を把握することの3点です。ここでは、検査と根本原因について総合的な解説を行います。栄養療法の診療では、このような検査結果を元にして必要なサプリメントと食事を細かく選んでいきます。
1. 初心者のための栄養療法ロードマップ
初心者の方はまず、体の仕組みを知ることから始めてください。これを理解しないことには体の不調に対処できないからです。例えば、エネルギーが生まれる仕組みを知らずに慢性疲労に対処することはできないし、炎症を起こす仕組みと抑える仕組み、両方を知らずして慢性炎症を治すことは難しいでしょう。したがって、最初に学ぶべきは生物学や生化学なのです。
2. 分子栄養学の検査を選ぶ
2-1. 様々な検査
まず最初に行うことは、その人の根本原因や根本原因によってダメージを受けている箇所を特定することです。血液検査はミトコンドリア機能や、活性酸素によるダメージやインスリン抵抗性を把握するのに適していますが、腸内環境はわかりません。尿有機酸検査は腸内悪性細菌の過剰増殖やセロトニン・ドーパミンバランスの把握ができますが、ミネラルバランスの把握は苦手です。根本原因を見つけるためには、いくつかの検査を組み合わせる必要があります。まずはどんな検査があるのか見てみてください。
2-2. 有機酸検査の読み方
何か一つ検査をする場合、どれがおすすめですかと聞かれたら、血液検査をお勧めします。簡便でどこの病院でも血液検査は扱っており、しかも情報量も多い。でも、日本における血液検査は健康診断の項目を栄養状態の見方に流用している場合が多く、栄養状態を専門に見る検査はあまりメジャーではありません。
栄養状態だけでなく、ミトコンドリア、腸内環境、神経伝達物質などを総合的に判断できるメジャーな検査といえば、やはり有機酸検査になるでしょう。世界の多くの栄養療法の講習会で様々な有機酸検査の解析講習が行われています。
2-3. 毛髪ミネラル検査について
血液検査と有機酸検査の読み方は最強で、ミトコンドリアや腸内環境など多くの根本原因を見つけることができます。しかし、血液検査はミネラル・バランスを見るのにはあまりお勧めできません。特にナトリウム、マグネシウム、カルシウムなどのキーミネラルは血液中の数値が極めて安定しており、体内の過不足を反映しないからです。
それに対して毛髪ミネラル検査は細胞内のミネラル状態を反映すると言われており、さらに環境毒素の親玉である重金属の蓄積量や排泄力を推定できます。血液検査、有機酸検査、毛髪検査の3つの組み合わせにより、根本原因の多くをカバーすることができます。
2-4.遅延型アレルギーは食べ物を制限するための検査ではない
遅延型アレルギー検査はアレルギー学会が混乱を招く検査だとして妥当でないとい声名を発表していますが、学会も多くの医師も患者さんもこの検査の意義を履き違えています。この検査はもともと精神的な症状を判断するために生まれた検査であり、リーキーガットを判断するためにも有用です。
3. 栄養が足りなくなる原因に対処する
そもそも、食事をきちんと摂っているのになぜ特定の栄養が足りなくなるのでしょうか? その原因を探っていきます。 問診と検査結果から自分にどのような根本原因が潜んでいるかを知り、それをどのような順番で対処するか計画を立てて実行します。
3-1. 個体差と根本原因の両方を考える
コレステロールは細胞膜、胆汁、ステロイドホルモンの材料です。血液検査でコレステロール値が低い場合、細胞膜が弱くなったり、十分なステロイドホルモンが作れなかったりするというのが、栄養療法の考え方です。それに対して、胆汁酸やステロイドを補充しようというのが対症的なケアで、コレステロールが不足する原因を調べて対処しようというのが根本原因アプローチです。どちらも必要な考え方なので両方とも頭に入れておいてください。
3-2. 根本原因ピラミッド
根本原因別に治療内容と治療の順番を整理しましょう。僕は脳機能、ミトコンドリア機能改善、ホルモンバランス調整、腸内環境改善、デトックスの5つに分けました。これらの根本原因アプローチにはケアする順番があって、一つのケアの上にもう一つを積み上げていく感じです。例えば、腸内環境を改善したら、その腸内環境を保ちながらデトックスを行います。下から積み上げていくイメージなので、これをピラミッド型にしました。僕が勝手に根本治療ピラミッドと名付けています。ここでは、実際の疾患をモデルに根本原因ピラミッドを使った治療戦略の立て方を解説します。
3-3. 副腎疲労の正体は下垂体疲労
ピラミッドの要素を一つずつ見ていきます。まずは副腎疲労から。
副腎疲労という概念はとてもわかりやすいですが、実際には副腎が疲労するというエビデンスは存在しません。これが、副腎疲労が一般医療界に受け入れられない最大の理由です。嘘だと思ったら、世界標準の論文検索サイトPUBMEDでadrenal fatigueと検索してみてください。一番上に出てくるのは adrenal fatigue doesn’t exist (副腎疲労は存在しない)、次に出てくるのは We’re tired of adrenal fatigue. (我々は副腎疲労にうんざりしている)です。
ではなぜ、コルチゾールが低下するのでしょうか?その答えは、下垂体疲労です。副腎疲労の根本原因が脳にあるということがわかれば、改めて改善法が見えてきます。
3-4. HPA軸機能異常の検査と治療
血中のコルチゾールはタンパク質に結合しているものとそうでないものが共存しています。 活性があるのはタンパク質に結合していないフリーのコルチゾールなのですが、血中コルチゾールはそれらを分けて測定することはできません。
唾液中コルチゾールの量は、血中のタンパク質に結合していないコルチゾールに比例して動くため、副腎機能を正確に反映します。唾液中コルチゾールを1日6回測定することによって、日中のコルチゾール変動とPTSDなどトラウマが副腎疲労の与える影響などを詳細に知ることができます。
3-5. コルチゾール・スティール
副腎ホルモンと一緒に考えなくてはいけないのが女性ホルモンの問題です。コルチゾール、エストロゲン、DHEAなどはどれもコレステロールから生成されるホルモンです。副腎疲労の初期にはコルチゾールが大量に生産されます。その時にDHEAに使われるはずのコレステロールまで、コルチゾールの材料に回ってしまう現象をコルチゾール・スティール症候群と呼びます。副腎疲労に伴ってPMSや生理不順が起きるのは、コルチゾール・スティールが原因だと言われていますが、そこをもう少し切り込んでお話ししましょう。
3-6. 甲状腺
副腎ホルモン、性ホルモンと並んで必ず見ておくべきなのは甲状腺ホルモンです。甲状腺ホルモンは副腎の影響を強く受けるので、単体でケアをすることはありません。また、甲状腺ホルモンはミトコンドリアともお互いを刺激し合う関係にあります。疲れを取るためには、副腎、甲状腺、ミトコンドリアの3つを並行してみていく必要があります。
3-7. 副腎疲労と腸内環境
副腎疲労の人は腸が悪いです。宮澤医院の患者さんの主訴のトップは「疲れやすい」ですが、2番目は「お腹が張る」なんです。患者さん150名に対するアンケートと検査結果をまとめました。これを見ると、副腎疲労の人がどのような腸内環境を持っているのか、どのように対処したらいいかがわかります。
2-8. 40歳になったら自分のお腹の症状は当てにしない
副腎疲労の人は腸が悪いですよ、僕が何度言っても、自分は全く症状がないから大丈夫と考えている人が一定数いますが、あまり信用しない方がいいです、宮澤医院で統計を取ってみたら、ディスバイオーシス(正常な腸内細菌の量と種類が減っていること)を起こしている人は副腎疲労全体の3分の2、リーキーガットを引き起こしている人も3分2いました。
3-9. 重金属デトックス
化学物質があふれる現在、環境毒素への暴露は慢性疲労などをはじめとした原因がわかりにくい疾患の原因のトップを占めつつあります。みんな生まれた時から毒素に晒されているので、段々と肝臓の解毒キャパシティが減ってくるんですね。農薬や有機溶剤などもさることながら人類にとって一番脅威になっている毒素は間違いなく重金属で、その中でも筆頭に挙げられるのが水銀です。水銀はWHOがマークしている最悪の毒素なのにも関わらず、アジアの水銀汚染は深刻です。日本に住むならば、自分の水銀蓄積量と水銀排泄能力のチェックは必須です。
3-10. カビ毒対策
重金属と並んでチェックすべきは、カビの放出する毒素です。日本は湿気が多いため、カビ毒の存在は無視できない存在で、実際に検査をしてみて毒が全く検出されない人はまずいません。カビ毒は脂溶性で脂肪に蓄積するので、脂肪の塊である脳に大きく影響します。デール・プレデセン博士は、重金属もしくはカビ毒の蓄積がアルツハイマー病の大きな原因だと述べています。
3-11. 結果を出すダイエット
有機水銀やカビ毒は脂肪に溶け込んで安定していますから、脂肪を燃焼させるダイエットは究極のデトックスと言えます。ダイエットにも色々な方法がありますが、正しいダイエットというのは、根性でやり遂げるものでなく、体に負担をかけずに行うべきものです。おすすめは間欠的なファスティングです。ファスティングは適切に行えば減量に役に立つし、胃腸や肝臓を休息させ回復を促し、オートファジーを活性化します。
3-12.脳機能とメチレーションプロフィール
脳はホルモン、腸内環境、デトックス、炎症とさまざまな影響を受けやすい臓器です。うつ症状がある場合、メラトニンやセントジョーンズワートなどの一時的な対処もさることながら、最終的には脳のタイプ別に、神経伝達物質を調整していきます。脳の神経伝達物質の状態は、いくつかの問診と血液検査から比較的簡単に推測することができます
3.13 自閉症の本当の原因
近年、増えている自閉症。単に「認知が進んで診断される機会が増えた」だけでは説明できないペースで急増しています。原因に関して、様々な先生が色々な説を唱えています。ウイリアム・ショー博士は腸内環境、ウイリアム・ウォルシュ博士は生後のある時点で酸化ストレスに耐えられなくなること、そしてここに紹介するベン・リンチ博士は、流産を予防する葉酸サプリメントが自閉症発症の原因だと述べています。